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ロサンゼルスを拠点とするハープ奏者、メアリー・ラティモアはニューシングル「The Last Roses」をBandcamp限定で発表しました。「予測できるツアー後のカムダウン感と戦うために新しいものを作った」とInstagramに書いている。16分のトラックを以下で聴くことができます。


ラティモアは今年初め、ポール・スキーナとのコラボレーション・アルバム『West Kensington』をリリースしている。彼女はヨーロッパと北米でのツアーを終えたばかりです。



 

Nils Frahmが、アルバム『Music For Animals』のプレビュー第3弾として、27分に及ぶニューシングル 「Briefly」を配信で公開しました。


『Music For Animals』は、2019年の『All Encores』と2018年の『All Melody』以来となるフラームの全新曲によるレコードとなり、ベルリンの複合施設Funkhausにある彼のスタジオで過去2年間にわたりレコーディングされたものである。


フラームは今度のアルバムについて、「私の不変のインスピレーションは、素晴らしい滝や嵐の中の木の葉を見るような魅惑的なものだった。シンフォニーや音楽に展開があるのは良いことだが、滝には第1幕、第2幕、第3幕、そして結末は必要ないし、嵐の中の木の葉にも必要ない。葉っぱが揺れたり、枝が動いたりするのを見るのが好きな人たちもいる。このレコードはそんな人たちのためのものだ」


「私の考えでは、最近の多くの音楽はクリスマスツリーの飾りのように装飾されすぎている」とフラームは続けた。


「僕はただツリーが欲しい。なぜ、毎年ツリーの飾りが増えるのか、なぜ、曲がもう少しコンパクトで濃く、消化されないのかがよくわからない。これが、私には、ますます不自然に感じられる点です。私は、リスナーが自分の頭の中で作曲を始めるように、そこにあるはずのものがないことを示す方が良いと思う。リスナーが音楽の中に自分自身を見出すこと、それが私の音楽の核心的な要素です。このアルバムでは、特に大きな空間が残されていて、そこはきつすぎず、圧迫されていないんだ」


 


 

アイルランドの作曲家Paddy Mulcahy(パディー・マルケイ)が、新曲「Angel's Share」を公開しました。

 

この曲は、8月12日発売予定のアルバム『Angel's Share』のタイトルトラックとして公開された。モダンクラシックとエレクトロニックミュージックの境界線をさらに曖昧にするプロジェクトです。Nils Paddyの音楽には,、生来のアイルランドらしさがあり、個人的なメッセージも含まれています。

 

Paddy Mulcahyが最近父親を亡くした悲しみから生まれたこのアルバムは、「世界的な大流行の中でキャリアを積みながら、失った後の18ヶ月に対処し、正常な段階に戻ろうとする私の方法」を表しています。「Angel's Share」は、ケルトの華やかさ、(ドローン、ブリキの笛を思わせるメロディー)で縁取られ、Myles O'Callaghanのパーカッションで特徴づけられています。

 

この曲について、Paddy Mulcahyは次のようにコメントを添えています。「このフレーズはとても印象的です。私の文化や歴史、そして、父が持っていたレッドブレストウィスキーのボトルにちなんでいるんだ」

 




Paddy Mulcahy 『Angel’s Share』

 


Label :XXIM Records

Release :  2022年8月12日



Pre-save  Official:   

 

https://paddymulcahy.lnk.to/angelsshare 





 


 

ドイツのピアニスト、モダンクラシカルシーンで活躍するNils Frahmは、先月下旬ニューアルバム『Music For Animals』を9月23日に自身が主催するLeiter-Verlagからリリースすると発表しました。

 

今週終わりに、フラームは先だって公開されたシングル「Right Right Right」に続く2ndシングル「Lemon Day」を発表しています。このニューシングルはエレクトロニック寄りのアプローチが図られている。 

 

 

 

9月下旬に発売が予定されているオリジナル・アルバム『Music For Animals』は、エリック・サティが「家具の音楽」と呼んだように、リスナーが音の空間に自由に出入りできるように設計されています。ニルス・フラームはこの新作アルバムについて以下のように説明する。

 

「私が常にインスピレーションを受けていたのは、大きな滝や嵐の中の木の葉を見るような魅惑的なものだった。葉のざわめきや枝の動きをじっと見るのが好きな人もいる。このレコードは、そんな人たちのためのものなんだ」

 

 

 

Nils Frahm 「Music For Animals」



 

Label: Leiter-Verlag

Release: 2022年9月23日



Tracklist:

1. The Dog With 1000 Faces
2. Mussel Memory
3. Seagull Scene
4. Sheep In Black And White
5. Stepping Stone
6. Briefly
7. Right Right Right
8. World Of Squares
9. Lemon Day
10. Do Dream

 

 

Pre-order official:   

 

https://leiter.lnk.to/MusicForAnimals

 

 

 

Akira Kosemura

日本のポスト・クラシカルシーンの担い手である小瀬村は、近年、オリジナル・サウンドトラック「やがて海へと届く」、EP「Pause」といった秀作をリリースしている。 小瀬村は最近、英・DECCAと新しい契約を結んだ。今後、ヨーロッパにも活躍の幅を広げていく可能性が高い。

 

今回、7月1日、小瀬村晶は、前作のEP「Pause」に続いてニューシングル「Hope 22」を発表した。このシングルは、スウェーデンのレーベル、1631Recordingsが同日リリースしたコンピレーション・アルバム『Piano Cloud Series Volume Seven V/A』にも収録されている。 

 

このコンピレーション・アルバムには、Akira Kosemuraの他にも、Library Tapes、Sophie Hutchings,Hiroco.Mといったポスト・クラシカルシーンの代表的なミュージシャンが楽曲を提供している。また、このシングル「Hope 22」のオリジナル制作は、東日本大震災が起きた年に作曲が行われている。このニューシングルについて、小瀬村晶は次のように英語で説明している。

 

  This song was originally composed in 2011 after Japan earthquake, a decade later I recomposed it again for the modern age...

 

 今回の曲「Hope 22」は、2011年、日本で大きな地震が発生した後に書かれました。それを今回、現代の時代にふさわしいように再作曲したものです。

 

 

 




Listen/Download Official: 


https://linktr.ee/akirakosemura



 

Ólafur Arnalds


アイスランド、レイキャビクのモダンクラシカル/ポスト・クラシカルシーンを象徴する音楽家、Ólafur Arnalds(オーラヴル・アーナルズ)が2020年に発表したアルバム『Some Kind Of Peace』のピアノリワークバージョンをリリースすることが分かった。このリワーク『some kind of peace - piano reworks』には、同郷アイスランドのミュージシャン、JFDR、Eydís Evensen等が参加している。他にも、今回のピアノ・リワーク作品には、Alfa Mist、tstewart(Machinedrum)、Sophie Hutchingsといったミュージシャンが参加している。


さらに、ニューアルバム『some kind of peace - piano reworks』の制作発表と同時に、ポーランドのピアニスト、Hania Rani(ハニャ・ラニ)による「Woven Song」のリワークが最初のシングルとして発表。 Mateusz Miszczyński監督によるミュージックビデオも合わせて公開された。

 



今回のリワーク作品への参加について、ハニャ・ラニは、「自分が何をもたらしたいのか、どんな感じ、どんな雰囲気、どんな状態でリスナーに何かを残したいのかを明確に決める必要があると思いました。私は、ただ、一人でいるときにそうするように、メロディーをただ鼻歌で口ずさんだけでした。しかし、なぜか、これは癒しとなり、儚いように感じられた」と話している。


「作品として発表された曲は、常に完成されたものではない」とオーラヴル・アーナルズは今回のリワークアルバムについて説明している。「音楽は捉え方次第で、どのような形にもなり、演奏する人と共に進化することによって初めて、本当の意味で呼吸することが出来るようになるんだ」

 

 



オーラヴル・アーナルズのアルバム『some kind of peace - piano reworks』は、10月28日にMercury KXより発売されます(現在予約受付中)。さらに、9月16日、17日にはロンドンの”Hammersmith Apollo”で公演が予定されている。チケットはolafurarnalds.comでお求めください。

 

 


Ólafur Arnalds 『some kind of peace - piano reworks』



Label: Mercury KX

Release: 2022年10月28日



Tracklist:


  1. Eydís Evensen: Loom (Piano, Violin, Viola, Cello, Double Bass)
  2. Hania Rani: Woven Song (Piano, Vocals)
  3. Dustin O’Halloran: Spiral (Piano)
  4. Sophie Hutchings: Still / Sound (Piano) 
  5. Lambert: Back To The Sky (Piano, Guitar, Drums)
  6. Alfa Mist: Zero (Piano)
  7. tstewart: New Grass (Piano, Guitar, Electronics)
  8. JFDR: The Bottom Line (Piano, Vocals)
  9. Yiruma: We Contain Multitudes (Piano)
  10. Magnús Jóhann: Undone (Piano)


Pre-order offcial:



 

photo: Kiki Vassilakis


アメリカのナンディ・ローズによるプロジェクト・バンド、Half Waifは、先日、『Portraits』というEPをサプライズ・リリースし、基本に立ち返った。この4曲入りプロジェクトでは、ナンディ・ローズが、本来のオルタナティヴの方向性から離れ、モダン・クラシカルとポピュラー・ミュージックへと舵取りを果たす。

 

2020年の『The Caretaker』、昨年の『Mythopoetics』という2枚のフルアルバム収録曲を取り上げ、素晴らしいピアノ作品に組み直している。


Half Waif名義でのディスコグラフィーを通し、ナンディ・ローズは、クラシック、ポップ、インディー・ロックの要素を融合を図っている。『Portraits』はある意味、彼女にとって原点回帰とも言える作品で、『Swimmer』、『My Best Self』、『Fortress』、『Ordinary Talk』を新しいレンズを通して再確認することが出来る。ナンディー・ローズはこの作品について説明する。


 私は、子供の頃、ピアノで歌っていた時に音楽と作曲に目覚めました。長年にわたって、私は歌の周りに層状のアレンジを構築することを学び、それは時に一種の鎧のように感じられました。これらの声とピアノのアレンジに戻ることは、私にとって特に脆弱な感じがします。

 後ろに隠れるものは何もない。でも、故郷に帰ってきたような、自分がどこから来たのかを知ることができたという気がします。このような形で、私は新しい角度から曲を見ることができました。

 それは、私たち双方が成長した後に再会したようなものでした。時には、より少ないもので、より多く物事を語ることができるはずです。


Half Waifの『Portraits EP』は、先週の6月23日からApple Music、Spotifyでストリーミング配信が開始されている。

 

 


ドイツのモダンクラシカルシーンを象徴する存在であるNils Frahmは、今年9月に自身の主催するLeiter-Verlagから、ニューアルバム『Music For Animals』をリリースすることを発表しました。


エリック・サティが「家具の音楽」と呼んだように、Music For Animalsは「リスナーが自由に出たり入ったりできる」ように設計されています。フラームはこのアルバムに付いて以下のように説明しています。

 

「私が常にインスピレーションを受けていたのは、大きな滝や嵐の中の木の葉を見るような魅惑的なものだった。

葉のざわめきや枝の動きをじっと見るのが好きな人もいる。このレコードは、そんな人たちのためのものなんだ」


『Music For Animals』は、2018年の『All Melody』以来となるフラームの新しいスタジオ・アルバムとなる。またこの告知に合わせて、ニューシングル「Right Right Right」がリリースされています。


9月23日のリリースに先駆けて、Rough Tradeから『Music For Animals』の予約注文が開始されております。アルバムのアートワークとトラックリストは、下記にて御確認下さい。

 

 

 

Preview Single 「Right Right Right」 

 



 

 

Nils Frahm 「Music For Animals」



 

Label: Leiter-Verlag

Release: 2022年9月23日



Tracklist:

1. The Dog With 1000 Faces
2. Mussel Memory
3. Seagull Scene
4. Sheep In Black And White
5. Stepping Stone
6. Briefly
7. Right Right Right
8. World Of Squares
9. Lemon Day
10. Do Dream


 



Iceland Music は、アイスランド人アーティストの全コンサートリストを自動生成し、ユーザーがアイスランドから新しい音楽を発見できる発見ハブ、Iceland Music LIVE を開始しました。


Iceland Music LIVEは、Iceland Musicのサイト上でホストされ、アイスランド人アーティストのすべてのツアー日程(海外を含む)を自動的に生成するリストを特徴とし、コンテンポラリークラシック、インディー、ポップ、ジャズなどのジャンルをカバーする20のプレイリストを通じて、アイスランドの音楽シーンから新しい才能を発見できるようユーザーを後押しします。


コンサートフィードは、Mobilitusが運営するデータベースをもとに自動生成され、現在36カ国で開催される48アーティストによる700以上の公演を掲載しています。コンサートリストは、アーティスト別、日付別、場所別にソートすることができ、ユーザーはワンクリックで公演のチケットにアクセスすることができます。


Ólafur Arnalds sunrise session


アイスランド・ミュージックのマネージング・ディレクターであるシグトリグル・バルドゥルソン氏は、「国際社会がどれだけアイスランドの音楽を愛しているかを知っているからこそ、私たちのアーティストが世界中で開催している公演を、誰もが簡単に知ることができるようにしたいのです。今のところ、アイスランドのアーティストが国際的に公演しているショーを一晩に3つほど紹介しています」


Ólafur ArnaldsはIceland Music LIVEについて、さらに説明しています。「Iceland Musicの機知に富んだ人々が、アイスランド音楽についての言葉を増幅させ広めるために見つけたもう一つの方法であり、ミュージシャンがツアーの実現に苦労している時代にはとても必要でありがたい努力です。またツアーで会いましょう!」


Sigur RósのKjartan Sveinssonは、「これらのアーティストがついに世界中の人々のために音楽を演奏するのを見るのは素晴らしいことです」と付け加えました。


さらに、MobilitusのCEOであるToti Stefanssonは、「私たちは、アイスランドのアーティストのチケット販売を効率化できることを誇りに思っています。チケット販売業界で10年間働いてきた経験から、多くのアーティストにとってライブ音楽が収益源としていかに重要であるかを理解しています。この2年間は、私たちの業界にとって最も厳しい状況でしたので、最高のアーティストがツアーに復帰できたことは素晴らしいことです」と説明しています。


アイスランド・ミュージック・ライブは、icelandmusic.is/liveで現在開催中です。

 

Nils Frahm

 「Tripping With Nils Frahm」は、元々、ブラッド・ピットのPlan Bとニルス・フラームによって映像化した2018年の伝説的ライブで、映像に収録された音源がErased TapesよりCD/LP化されて2020年に発売されました。今回、ドイツのLeiterは、 「Tripping With Nils Frahm」を鮮明な映像によって提供するべく、Blu-ray盤として再発すると発表しています。

 

「Tripping With Nils Frahm」は、2018年から2019年のニルス・フラームのワールド・ツアー「All Melody」ツアーの瞬間を映像として捉えた作品で、ファンクハウスベルリンの伝説的なSeal1でのパフォーマンスを映像記録として収めています。 コンサートフィルムは、Plan B Entertainmentと共同で、ニルス・フラームが主宰するLEITERによって制作が行われた。また、この映画は、2020年に初公開され、視聴者投票により、MUBIで最も視聴された映画のトップ25にランクインし、さらに最も高い映画としてランク付けが行われています。 

 

 

 


また、複数のメディアは以下のように「Tripping With Nils Frahm」について説明しています。


「この映画は、親しみやすいものであり、なおかつ、壮大でもある。カメラの躍動するクローズアップが、ニルス・フラームのパフォーマンスの繊細な瞬間を捉えているのが見事だ」 

 

ーDJ Mag


「ニルス・フラームが素晴らしいライブパフォーマンスをしている瞬間、さらに、観客がそれに反応を示すのを映像を通して鑑賞すること、それはまさに世界的なトップアスリートの人並み外れた競技を見るのと変わりないことだ」

 

ーLA TIMES

 

 

ニルス・フラームは、現在、ライブツアーを開催している。今後、シドニーのオペラハウスに出演し、「Music Four」という名の新たなツアーのワールドパフォーマンスを行う。また、9月から、彼はヨーロッパツアーを予定しており、実験的、アンビエント、エレクトロニカを行き来する新たな音楽を観客の目の前で披露する。「Tripping With Nils Frahm」のBlu−Rayバージョンの予約、ライブの日程、チケット等につきましては、Leiterの公式サイトにてご確認下さい。

 

Liter-Verlag:  https://store.leiter-verlag.com/products/tripping-with-nils-frahm



 Eydis Evensen 「Frost」

 




 

Label:XXIM Recordings,a label of Sony Music Entertainment 

 

Release:4/8 2022


 Listen/Stream



アイスランドの女性作曲家、アイディス・アイヴェンセンは、元々、ニューヨークでファッションモデルを務めていた人物で、故郷アイスランドに戻り、作曲家として活動を続けています。アイヴェンセンは、ピアノの演奏、オーケストラのストリングスを交えたヨハン・ヨハンソンの系譜にある優れたモダンクラシカル/ポストクラシカルの楽曲をこれまでいくつか書いてきています。

 

アイディス・アイヴェンセンにとって、ソロキャリアとしての最初の音楽性が確立されたのが、2021年にリリースされた自身初となるフルアルバム「Bylur」でした。この作品では、アイヴェス・アイヴェンセンは、故郷の風景を見事にピアノ音楽として捉えています。夏の間は美しく晴れやかな風景であるアイスランドの小さな街、しかし、冬の間、外に出ることもかなわぬほどの大雪によって、この北欧の街は覆われ、アイスランドの街は白銀の世界一色となる。アイヴェンセンは、子供の頃のアイスランドの小さな村での記憶を頼りに、それを抒情性あふれるピアノ曲、そしてオーケストラアレンジを交えた映画音楽に近い雰囲気を持つ作品を生み出しました。

 

アイスランドの新進気鋭のアーティスト、アイディス・アイヴェンセンの最新作「Frost」もまた前作に続く連作のような意味合いを持ち、前作で提示されたアイスランドの風景、それに呼応する内面の心象世界を見事にピアノ音楽として描き出してみせています。「霜」という表題に象徴されるように、今回のミニアルバムは、何かしら寒々しい風景を思い起こさせる5つのピアノのささやかな小品で構成されています。

 

アイヴェンセンは、フレーズひとつひとつを丹念かつ繊細に紡ぎ出す優れたピアノの演奏家です。繊細なタッチにより、音楽の本質ーー内面の感情を言葉ではなく音によって聞き手に伝えるーーを見事に捉えるアーティストでもあります。さらに、「霜」は、この演奏家のきわめて内省的な気質を反映させた作品とも言え、「霜」の全体には、寒々しく暗鬱な雰囲気を漂わせながらも、その音に耳を静かにじっと澄ましていると、その向こうに何かしら凛とした強い精神性のようなものが滲出しているのです。

 

また、今作において、アイヴェンセンは、前作のフルアルバム「Bylur」で伝え残したことをもう一度音楽として表現しておきたかったというような印象も見受けられます。幾つかの楽曲については、前作のコーダのような役割を果たし、アイスランドの最初期のモダンクラシカルシーンの体現者、ヨハン・ヨハンソンの確立したモダンクラシカル/ポスト・クラシカルの系譜を受け継いだ映画音楽の性質を擁しています。しかしながら、アイヴェンセンは、そのヨハン・ヨハンソンの系譜を辿る中で、ピアノのフレーズを真摯に紡ぎながら、また、その音に耳を澄ましながら、自分なりの芸術表現を追い求めているように思えます。そのことが、作品自体に深みとスタイリッシュなデザイン性のようなものをもたらしています。

 

また、このミニアルバム「Frost」の中で、ひときわ強い存在感を放っているのが、EPの最後に収録されている「The Light I」です。ここでは、たしかに、2つの間にリリースされたリミックス作品での経験を踏まえて、電子音楽の要素を交えた美麗な音楽が展開されています。この曲では、それ以前の4曲とは異なり、喩えるなら、作品全体に覆っていた薄い灰色の雲がみるみるうちに晴れていき、さらに、その暗澹たる雲間から、ほのかに爽やかですがすがしい晴れ間がスッと覗いてくる、というような、暗鬱さと清涼さを兼ね備えた秀逸な楽曲が、アルバムの最後に組み込まれていることにより、作品全体として明度と暗度という映画の技法における対比的な光の構造が緻密に生み出され、この一曲が作品全体に暗闇を美麗に照らしだし、作品として美麗なクライマックスを見事に演出しています。


「Frost」は、もちろん、物語性に溢れているのと同時に、スタイリッシュな魅力を漂わせており、また、冗長さのないタイトな構成によって強固に支えられています。これらのささやかでありながら、うるわしくもある5つのトラックを聴き終えた時、清涼感のような奇妙な感慨がもたらされることでしょう。

 

特に、静謐でありながら、思索的な強さも兼ねそなえたクライマックス「The Light I」において、アイスランドの演奏家、アイディス・アイヴェンセンは、前作「Bylur」における芸術表現の成功に踏みとどまることなく、この演奏家にしか生み出せない独自の極めて繊細な芸術表現へ歩みを進めたと言えるでしょう。

 

 

(Score:71/100)

leiterを主宰するNils Frahm


ドイツ・ベルリンを拠点に活動する Nils Frahmが自身のマネージャーとBMG傘下に設立したレーベル"Leiter"は、2022年の「Piano Day」を祝うため、世界のポスト・クラシカルシーンを中心に活躍する総勢32名のアーティストの楽曲を収録したコンピレーションを3月29日にリリースしました。この作品は、二枚組のLP盤で、今年のピアノ・デーにあわせて選りすぐりの楽曲が収録されています。

 

 



・bandcamp


Lister/Stream


志を同じくする人々のグループによって設立された、毎年恒例の世界的なイベント「Piano Day」は、楽器の鍵盤の数を記念して、その年の88日目(2022年は3月29日)に開催されます。この日の目的は、ピアノ関連のプロジェクトのためのプラットフォームを作成し、世界中のピアノ奏者を集めるというものです。

 

今回のコンピレーション「Piano Day Vo.1」には、オーラヴル・アルナルズ、チリー・ゴンザレス、ニルス・フラーム、ブシュラ・カイクチ、アレクサンドラ・ハミルトン・エアーズをはじめとするアーティストが参加しています。3月29日時点において、LP盤、及びデジタル形式で視聴可能となっております。クラシックピアノ/ポスト・クラシカル好きにとっては見逃せない豪華コンピレーション作品となります!!


・Apple Music Link


Album of the year 2021 

 

ーPost Classicalー





  

 

・Lucinda Chua 

 

 「Antidotes Ⅱ」 4AD


 

 Lucinda Chua  「Antidotes Ⅱ」 


 Antidotes 2

 

 

ルシンダ・チュアは英国、マレーシア、中国、と3つの国のルーツを持つチェロ奏者、ヴォーカリストである。

 

3歳の頃からSuzuki Methodを介してピアノ、チェロの学習をはじめ、その後、ノッティンガム大学で写真を学び、写真家として活動を行った後、音楽家としての道を歩みはじめた。Stars Of the Lidsといったアンビエントミュージシャン、FKA Twingsといったポピュラー音楽のアーティストのライブで共演を果たしたことが、 ソロアーティストとして活躍する布石となった。英国の名門インディーレーベル”4AD”からの「Antidotes」を引っさげてのデビューは、写真家として、チェリストとしての下積みの後に訪れた、満を持してのシーンへの台頭と言えるだろうか。


そして同じく、4ADから今年の夏にリリースされた二作目のミニ・アルバム「Antidotes Ⅱ」はアンビエントという枠組みでも語られるべき作品で、次いで、モダンポップス、ポスト・クラシカルとしても良質な名盤のひとつには違いあるまい。


この作品は、ピアノ、チェロ、そして、ルシンダ・チュアのヴォーカルをフーチャーし、クラシック、ポップス、ジャズ、アンビエントといった様々なジャンル要素が渾然一体となった作品である。


そのように言うと、いくらか堅苦しい印象を覚えるかもしれない。それでも、実際の楽曲を聴いてみれば、この作品はそれほど難解ではなく、ゆったりくつろいで聞けるアルバムであることが理解していただけるはずである。


この作品で繰り広げられるエキゾチックな雰囲気の漂うクラシカルやR&Bを基調にしたポピュラーミュージック(この作品にどことなく西洋ではない東洋の雰囲気がほのかに漂っているのは、取りも直さず、ルシンダ・チュア自身が中国というルーツを、ことのほか気に入っているからでもある)は、現代のモダンクラシカル、ポスト・クラシカルという2つのジャンルに新鮮な息吹をもたらしている。


依然として、それほどまでには大きな注目を受けていない作品ではあるものの、あらためて、今年のポスト・クラシカルの名盤として、ここで紹介しておきたい傑作のひとつ。

 

 

  

 


 

 

 

 

Nils Frahm 

 

「Old Friends,New Friends」 Leiter


  

Nils Frahm 「Old Friends,New Friends」 


 OLD FRIENDS NEW FRIENDS [2CD]  

 

 

「Old Friends,New Friends」について何度も書いてきているが、再度この作品を取り上げるのは、ニルス・フラームはポスト・クラシカルというジャンルを2000年代の黎明期から開拓してきた立役者の一人であるとともに、今作品がポスト・クラシカルというジャンル自体のクロニクル、このそれほど一般的には浸透していないジャンルをよく知る手がかりともなっているからである。


「Old Friends,New Friends」はフラームが自身のマネージャーと設立した”ライター”から12月3日にリリースされた作品で、ニルス・フラームがこの約十年間未発表曲として温めていた楽曲を収録したレコード。


これまで古典音楽、電子音楽、そして、F.S,Blummとのダブ作品を始めとするクラブ・ミュージックの作風というように実に多彩なジャンルのレコードを発表しているので、その内のどの性格がこのアーティストの実像であるのかについて、多くのリスナーは不可解に思っているかもしれないが、実際、くるくると変化する表情、あるいは、作風、まるで掴みどころのないような変身。そのうちのどれもが、ニルス・フラームという人物の本質ともいえるかもしれない。そして、今作「Old Friends,New Friends」は、彼の最初のキャリアを形作ったクラシカル、つまり、ドイツロマン派に近い雰囲気を持った、このアーティストの姿が見いだせる作品でもある。

 

2021年現在、アメリカのJoep Beving、アイスランドのOlfur Arnoldsをはじめ、世界を股にかけて活躍をするアーティストが増えてきた。


その中でも、ニルス・フラームは、やはり、ドイツのロマン派の音楽の継承者として、過ぎ去った時代の東欧の音楽の伝統性を次世代に引き継ぐ役割を担っているように思える。それが、最も、わかりやすい形で体現されたのが、このニルス・フラームのクロニクル的な作品だ。

 

ーーロマンチシズム、エモーション、ノスタルジアーーといった、シューベルト、リストの時代に最も繁栄したロマン派の音楽の可能性を、現代において新たにスタイリッシュに組み直した作品である。

しかし、この作品は決してアナクロニズムと喩えるべきではない。これはまた、新時代のモダン・クラシック音楽の形の一つで、2020年代の新しい音楽として解釈されてしかるべきなのだろう。 

 

 

Listen on 「All Numbers End」:

 

 https://www.youtube.com/watch?v=SgKjNXxNaSQ

 

 



 

 

 

The Floating Points・Pharoah Sanders ・London Sympony Orchestra 

 

「Promises」 Luaka Bop



The Floating Points・Pharoah Sanders ・London Sympony Orchestra 「Promises」 


 Promises  

 


どちらかといえば、厳密には「Promises」はモダン・クラシカルの枠組みで紹介されるべき作品ではあるものの、2021のポスト・クラシカルとしての最高傑作に挙げることをお許し願いたい。


フローティング・ポイントとして活動するサム・シェパード、モダンジャズのサックス奏者として長年活躍するファラオ・サンダース。そして、ロンドン交響楽団。見るからに豪華な三種三様のアーティストが制作、録音にたずさわり、電子音楽、ジャズ、クラシック、3つのジャンルをクロスオーバーして生み出された新時代の音楽である。この「Promises」は、2020年、パンデミックが到来し、最もロックダウンが厳格だった時代に録音された作品ということもあって、後世の歴史から見たときにとても重要な意味を持つレコード、「音楽による記録」のひとつである。

 

「Promises」という連作形式の作品のプロジェクトを最初に働きかけたのは、モダン・ジャズの巨匠ファラオ・サンダースだった。彼が、フローティング・ポインツの作品を聴き、それに感銘を受け、食事を実際にともにすることで、2020年代を代表する大掛かりな音楽プロジェクトは始まった。

 

その後、ファラオ・サンダースがロンドン交響楽団に依頼し、ヴァイオリン、チェロ、ビオラ、コントラバスのスペシャリストがこの録音に加わることになった。


フローティング・ポインツとして活動するサム・シェパードは、チェレスタの音色を使用したシンセサイザー演奏者として、ファラオ・サンダースは、即興演奏、インプロヴァイぜーションのサックス奏者として、ロンドン交響楽団は、由緒ある楽団の弦楽器奏者として、この作品の完成を異なる方向性から支えている。


「Promises」は、未来、現代、過去、3つの並行する時間軸を、サム・チェパードのチェレスタの演奏を中心点として、その周囲を無限に彷徨うかのような作品である。そして2020年の世界の奇異な閉塞感を、音楽芸術という形でリアルに表現している。 また、この作品は、米、ロサンゼルスの「サージェント・レコーダー」、英、ロンドンの「AIRスタジオ」という遠く離れた国を横断して制作されたことについても、前代未聞といえる。これまで歴代の音楽史では見られなかった稀有な事例「リモートレコーディング」に近い意味を持つ、前衛的な作品と呼べるのである。


もちろん、これはうがった見方なのかもしれないが、作品中に漂っている異様な緊迫感というのは、Covid19のパンデミックが始まった最初期の社会情勢を暗示しているといえる。英国と米国、2つの国を跨いで録音された楽曲「Moviment1−9」は、連作形式の交響曲であり、ミニマル・ミュージックとしての構造を持ち、サム・シェパードの演奏する短いモチーフを限りなく繰り返すことにより展開され、それが様々な形で変奏され、9つのセクションを構成している。


これは単なる楽しむための音楽というふうに捉えるべき作品ではないのかもしれない。言ってみれば、異なる音楽ジャンルの行き詰まった先にある究極のアート形態の完成系、アメリカとイギリス、2つの国を通じての「コールアンドレスポンス」が、前衛的にこれまでにない迫力をもって繰り広げられている。これは音楽や楽器の演奏を通しての音楽家のメッセージ交換といえる。また、「Promises」という傑作は、今後、如何に移ろっていくかきわめて不透明な時、我々が未来に向けて歩いていく上での重要な指針ともなり、啓示的な教訓を授けてくれるかもしれない。

 

 

 

 


 


ポスト・クラシカルシーンの動向

 

 

ポスト・クラシカル、ネオ・クラシカル、クラシカル・クロスオーバーとこのジャンルには様々な呼称が与えられているが、とにかく、このピアノ音楽をよりポピュラー音楽寄りに解釈した音楽は、ドイツのマックス・リヒテル、アイスランドのヨハン・ヨハンソンと、体系的に音楽を大学で学んだ音楽家、そして、全くそういった専門機関で学習を受けていない音楽家に大別される。

 

 

そして、ときに、後者の方は、元々は、電子音楽の延長線上にこの古典音楽の雰囲気を生かしたポピュラー音楽に活路を見出すアーティストの事例が多く見受けられる。しかも、オーラヴル・アルノルズの例を取ると理解できるように、パンク・ロック、ヘヴィ・メタルといったクラシック音楽とは畑違いの分野からの鞍替えをし、このポスト・クラシカルアーティストとして大成する場合もあるのが興味深い特徴。

 

これは、実際の体験談として、ノイジーな音楽を演奏していると、ある時、ふっとそういった音楽がお腹いっぱいとなり、それとはまったく正反対のクラシック音楽のような雰囲気を持つ方面に惹かれる場合があるのである。

 

その中の興味には、勿論、アンビエントのような電子音楽、環境音楽のような機能的音楽もその一つに挙げられるだろうか。これは、音楽を深く愛するものだからこそ、アーティストもまた一つのジャンルにこだわらないで、様々な音楽というフィールドで小旅行を企てようとするような気配が感じられる。

 

 

特に、このポスト・クラシカル、ネオ・クラシカルという古典音楽をよりキャッチーにし、ときにヒーリング音楽のようなアプローチ法で生み出す21世紀の音楽は、ロック音楽や電子音楽のノイジー性に嫌気が差したアーティストがより温和で穏やかな音楽を始めようと試みたジャンルなのである。

 

それはひとつ、1990年代までに、大きな音量の追求だとか、ノイズ性の飽くなき探求というのはすでに限界に来ており、ロック音楽にせよ電子音楽にせよ、エクストリームまで極まったからこそ、その対極にある数多くのミュージシャンたちの「サイレンスへの探求」が21世紀になってから実験的にではあるが率先的に行われていくようになったのである。

 

 

もちろん、このポスト・クラシカルの最も盛んな地域はヨーロッパで、ドイツ、イギリス、アイスランド、また東欧圏で盛んな印象を受ける。

 

これはアイスランドをのぞいては、かつて中世において古典音楽作曲家を多く輩出してきた地域であると気づく。確かに、ロシア、ハンガリーといった地域ではそれほどまだポスト・クラシカルシーンというのは寡聞にして知らないものの、このジャンルは、ヨーロッパ人のDNAに刻まれた音楽的なルーツを無意識下において探求しようという欲求のようなものも見えなくはない。

 

 

もちろん、アメリカにも日本にも、Goldmund、petete Broderickをはじめ、このジャンル、シーンを牽引する存在はいるものの、古典音楽とポピュラー音楽、そして映画音楽というこれまで分離していたようなジャンルを、一つにつなげようというのがこのポスト・クラシカル、ネオクラシカルの試みであるように個人的には思えてならない。


ポストクラシカルの今後の展望

 

 

現在のヨーロッパのポスト・クラシカルシーンにおいては、アイスランドのアーティスト、オーラヴル・アルノルズが一歩先んじているように思える。ロックダウン下において、リリースされた「Sunrise Session」は、このポスト・クラシカルというジャンルの2020年代、ひいては現代ヨーロッパの音楽を象徴するような偉大な楽曲である。これからオーラヴル・アーノルズはレイキャビク交響楽団をはじめ、古典音楽をメインとして活躍する音楽家と共演するかもしれない。

 

 

一方、このポスト・クラシカルシーンを2000年代始めから率いてきたドイツのニルス・フラームについては、最新作「2×1=4」でF.S.Blummとの共作で、これまでとは異なるダブ作品に花冠にチャレンジしているため、これからポスト・クラシカルの方向性からは少し遠ざかっていく可能性がある。

 

 

また、面白いのが、ワープレコードの代名詞的存在、Clarkはこれまでのコア(ゴア)なクラブミュージック路線を手放し、ドイツ・グラムフォンと契約を交わし、最新スタジオ・アルバム「Playground In A Lake」で明らかにポスト・クラシカルを意識した作品に取り汲んでいる。電子音楽界の大御所として、このシーンに堂々たる足取りで踏み入れたというように言えるかもしれない。

 

 

もちろん、現在、2020年代の初頭、数多くのポスト・クラシカルに属するアーティストがヨーロッパを中心として新しく出てきている。

 

 

その中にはアキラ・コセムラをはじめ日本勢も数多く秀逸なアーティストが活躍しており、イギリスで注目が高まっている気配もある。新たに、日本から面白いポスト・クラシカル系の音楽家が台頭してこないとも言えない。

 

このジャンルの主要なスタイルは現在でも、ハンマーの音を生かした静謐な印象を与えるピアノ曲が現時点でのトレンド。しかし、アプローチが画一的になりすぎると、そのジャンル自体が衰微していく可能性もあるため、このあたりで劇的なアプローチ、これまでに存在しなかった斬新なスタイルを生み出すアーティストが出てくるかどうか今後注目だ。

 

このピアノ曲、弦楽重奏曲、交響曲を新たにポップスとして解釈した雰囲気のあるジャンルのシーンは、2020年代を軸にどのように推移していくのかに注目したい。

 

 


Fredrik Lundberg

 

 

フレドリク・ルンドベルグは、スウェーデン、ストックホルムの作曲家、ピアニスト。早い時代からクラシック、ジャズピアノの双方において教育を受けているアーティスト。ルンドベルグはこれまでのキャリアで、古典音楽、ポップ、エレクトロニカをクロスオーバーする作品を生み出しています。

 


Quote:Spotify.com



2012年から、自主スタジオとレコード会社”Drema Probe Music"を立ち上げ、ミュージシャンとして活動をはじめる。

 

2017年には、Aphex Twinの代表的な楽曲をピアノ曲のアレンジカバーを収録したスタジオ・アルバム「Lundberg Plays Aphex Twin」でデビューを飾る。これまで六作のシングル、一作のアルバムをリリースしています。

 

現在、フレドリク・ルンドベルグは、このピアニストとしての活動の他にも二つの音楽プロジェクトを同時に展開。一つは、Blue Frames and Kalle Klingstromというバンドに在籍、2020年には1stシングルをリリースしています。

 

フレドリク・ルンドベルグの主な音楽性は、ポスト・クラシカルの王道を行くもので、ピアノの小曲を得意とし、ロマン派に代表されるような穏やかで叙情性溢れる楽曲をこれまでに残しています。




Fredrik Lundbergの主要作品

 


1.Albums

 

 

「Fredrik Lundberg Plays Apex Twin」2017 

 

 




Tracklist


1.Icct Hedral(Piano Version)

2.larichheard(Piano Version)

3.Petiatil Cx Htdui(Piano Version)

4.Yellow Calx(Piano Version)

5.Schottkey 7th Path(Piano Version)

6.Xtal(Piano Version)

7.Parallel Stripes(Piano Version)

8.Icct Hedral(Piano Version)[Psychedelia Dream Remix]


 

近年、カナダのクラシックギター奏者のサイモン・ファートリッシュのカバーにも見受けられるように、電子音楽家Aphex Twinの生み出す旋律の秀逸さに光を当て、その音楽性の良さを引き出そうと試みるアーティストが多いように思えます。

 

そして、スウェーデン、ストックホルムのピアニスト、フレドリク・ルンドベルグも同じく、今作のデビュー作において、ピアノ音楽として、エイフェックス・ツインの音楽性の再解釈を試みている作品です。

 

リチャード・D ・ジェイムスは、ドリルンベースとしてのコアなテクノアーティストとして知られているだけではなく、ジョン・ケージを始めとする実験音楽から影響を受けているミュージシャン。近年では、リチャード・D ・ジェイムスの音楽性、叙情性を再評価するような動向がクラシック界隈において見られるようです。

 

もちろん、ルンドベルグが本作で挑んだピアノ音楽としてのアレンジは、その曲を忠実に再現することではなく、その曲に隠れていた魅力を引き出し、新たにピアノ音楽としてリメイクするというチャレンジにほかなりません。

 

それはクラシック、ジャズに深い理解を持つルンドベルグだからこそ原曲の旋律のどこを押さえればよいのか、十二分に把握しているからこそ、このような秀逸なアレンジメントが生み出される。

 

ここで聴く事のできる静謐なピアノ曲は、平安を聞き手に与え、穏やかな気持ちにさせ、さらに、風景を思いうかばせるかのようなサウンドスケープの概念によって彩られてます。特に、Aphexの代表的な楽曲「Xtal」のピアノアレンジは白眉の出来、カナダのサイモン・ファートリッシュと同じように、旋律という側面からエイフェックス・ツインの楽曲の再解釈を試みています。

 

これらのピアノカバーアレンジは、ジャズとしても聴くことが出来るでしょうし、あるいはまたクラシックとして聴くことも出来る。聞き手に、多くの選択肢を与え、これまでになかった音楽の視点を与えてくれるような演奏であり、奥深い芸術性を漂わせつつ、穏やかなくつろぐような情感に満ちあふれる。

 

フォーレ、サティ、ラヴェル、メシアンといった近代フランス和声への歩み寄りも感じられる涼し気な印象を受けるピアノ作品。聴いていると、サラリとした質感の感じられ、異質な和音性によって新たに組み直されたポスト・クラシカルの傑作。




2.Singles


Memories of Red  2020

 

 




Tracklist

 

1.Memories In Red


そして、フレドリク・ルンドベルグのオリジナル曲の傑作の一つがシングル作品「Memories of Red 」です。ここでは、穏やかな情感に満ち溢れ、非常に繊細なタッチにより紡がれるピアノの小曲を聴くことが出来ます。

 

例を挙げるのなら、リストやショパン、ヨハネス・ブラームスの往年のワルツ曲のように、シンプルでありながら情感に訴えかける素敵な楽曲。クラシック音楽をポップとしてどのように解釈しなおすかに焦点が絞られた作品。

ピアノハンマーの木の音をアンビエンスとして活かすという側面では、本日のポスト・クラシカル派の王道を行くといえるでしょうが、確かなピアノの演奏に裏打ちされた安心感のあるピアノ曲であり、短い曲なんですけれどもなにか旋律のツボを抑えた曲。中世ヨーロッパのロマン派が隆盛した時代に小さな旅を試みたかのような素敵なロマンスを感じせてくれるでしょう。オルゴールのようにノスタルジーさを思い起こさせてくれる、あたたかなロマンスに彩られた秀逸な作品です。




Christmas Indie 2021

 




Tracklist

1.O Come,O Come Emmanuel

2.To Us Is Given

3.Who Child Is This  


 

そして、2021年の10月1日に発表されたばかりの「Chrismas Indie」は三曲収録のシングル作でありながら、フレドリク・ルンドベルグの現時点での最高傑作といっても差し支えないでしょう。

 

「O Come,O Come Emmanuel」はのゴルドムントのサウンド面でのアプローチとしては近いものがある楽曲です。また、二曲目の「To Us Is Given」は、現代の抽象派としての音楽の再構築と言い得るかも知れない傑作です。

 

バッハのフーガ的手法を用いているのが最大の聞き所といえるでしょう。上下の和音の組み立ての中には、ジャズ的な雰囲気も滲んでおり、どことなくドビュッシーのピアノ曲を思わせる作風。

 

色彩的な和音を積極的に用いると言う面でドビュッシーの名曲に匹敵する完成度。さらに、三曲目の「Who Child Is This」は、名曲「グリーンスリーブス」のアレンジメントか、独特なジャズのアンビエンスに彩られたクールな質感が漂う。



 Olafur Arnolds


 

オーラヴル・アルナルズは、アイスランド、レイキャビク出身のアーティスト。盟友ニルス・フラームと共にヨーロッパのポスト・クラシカルシーンの代表的なアーティストです。

 

昨年にはコロナパンデミック禍において、傑作「Some Kind Of Pierce」をリリースし、名実共にアイスランドを代表するミュージシャン。これまで、オーラブル・アルナルズは、ピアノの小曲を中心とした古典音楽の雰囲気のある楽曲に真摯に取りくんできたという印象を受けます。

 

2007年、10月に「Eulogy for Evolution」をErased Tapesから発表し、デビューを飾っています。

 

翌年、同レーベルからEP「Valiation of Static」を発表した後、ポストロックの大御所シガー・ロスのツアーに同行。

 

最初期は、エレクトロニカの寄りのサウンドでしたが、繊細で美麗なピアノ曲へとシフトチェンジを図るようになっている印象。

 

コラボ作品も多くリリースしており、ドイツのポスト・クラシカルアーティスト、ニルス・フラームとの共作「Trance Friendz」を始め、舞踏家ウェイン・マクレガーに楽曲を提供し、それらの楽曲は「Dyad 1909」として発売されています。

 

オーラヴル・アルナルズは、ヨーロッパのポスト・クラシカルシーンでの活躍の傍ら、サイドプロジェクトとしてアイスランドの電子音楽ユニット、Kiasmosとしての活動も有名で、「Blurred」「Kiasmos」といったクールなスタジオ・アルバムをリリースし、幅広い音楽のジャンルで活躍しているアーティスト。今後のヨーロッパの音楽シーンのおいて、ニルス・フラームと共に再注目するべきセンス抜群のミュージシャンです。

 


「Partisans」 2021

 



 

 TrackListing 


1.Patisans
2.Epilogue


 

Bonoboをゲストとして迎え入れたことでも大きな話題を呼んだ前作のスタジオアルバム「Some Kind of Piece」2020の「We Contain Remains」は、個人的にもとても好きな楽曲で、オーラブル・アルナルズの最良の作品と言っても差し支えない作品でしょう。この作品を聴いてとても感動したのは、この薄暗いコロナ禍の時代において、このような美麗な明るさを持った楽曲を生み出してくれる素晴らしいアーティストが世界にひとりでもいたという事実に対する感謝、この感情に尽きるように思えます。 

 

 

そして、この素晴らしい流れを引き継いでのシングル「Partisans」は、十年前に録音しておいた未発表の作品を収録した来月発売のEP「The Invisible」からのシングルカットで、先行リリースという形となります。

 

前作「We Contain Remains」と同じく、英、ロンドンの電子音楽を専門に扱うインディーレーベル”Mercury KX"から10月1日にリリースされたばかりのシングル盤です。

 

なぜ、今までこれらの楽曲がリリースされなかったのかと思うほどクオリティの高いポスト・クラシカルの王道を行く二曲が収録。二曲ともに映画音楽のようなピクチャレスクな叙情性に彩られ、音楽に耳を傾けているだけで、美しい風景を瞼の裏に呼び起こすかのような雰囲気をもった楽曲です。 

 

特に、弦楽のハーモニクスが上質な響きを演出する一曲目の「Patisans」は沈思的なトラックで、内省的な色彩感のあるハーモニクスにより華麗に彩られています。また、二曲目の「Epilogue」は、「Some Kind of Piece」の流れを汲んだ美麗なピアノの小曲。終盤部の弦楽器のハーモニクスの盛り上がりは聞き逃せません。

 

これまで発表されなかったという事実が本当に信じられないほどの完成度の高い傑作です。

 

清冽な水のような澄明な輝きをもった素晴らしい楽曲で、オーラブル・アルナルズの十四年というキャリアの中で最良のトラックに数えられ、ポスト・クラシカルの代表的作品として、十二曲入りのアルバムのようなボリューム感のある傑作。

 

今作を聴いていると、来月リリース予定のEP「The Invisible」(Mercury kx)の発売が待ち遠しくなり、その出来栄えに大きな期待を抱かずにはいられません。

 

 

 

楽曲のご視聴は以下MERCURY KX 公式HPにて

https://www.mercurykx.com/ 



References 

Wikipedia -Olafur Arnolds

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%B4%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%82%BA 



Valgeir Sigurdsson



 

アイスランド、レイキャビクという土地に、映画音楽畑を中心に活躍している極めて重要な現代作曲家が存在する。それが今回御紹介するヴァルゲイル・シグルソンという音楽家である。

 

このヴァルゲイル・シグルソンという作曲家は、元々、ビョーク主演の映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のサウンドプログラミング担当として、ビョークから直に抜擢を受け、この名画の音楽面での重要な演出に多大な貢献をはたした人物として知られている。すでに、音楽家としてのキャリアは長く、特に、映画音楽方面での活躍が目覚ましい作曲家として挙げられる。 

 

 

 

Valgeir Sigurðsson performing at PopTech in Reykjavík, Iceland in 2012
By Emily Qualey - <a rel="nofollow" class="external free" href="https://www.flickr.com/photos/poptech/7455184140/">https://www.flickr.com/photos/poptech/7455184140/</a>, CC BY-SA 2.0, Link

 

 

シグルソンは、元々、クラシックギターを学んだ作曲者ではあるものの、音楽大学で専門的に管弦楽を学んだ音楽家に引けを取らない重厚なオーケストラレーションを生み出す。その技法の巧みさは、往年のリムスキー・コルサコフやラヴェルにも比するオーケストラの魔術師ともいえるかもしれない。

 

これまでヴァルゲイル・シグルソンとしての名義のリリースは、それほど数は多くないものの、「Little Moscow」2018、「The Country」2020という映画作品のサウンドトラックをコンスタントに手掛けて来ている。彼の同郷レイキャビクには、もうひとり、”ヨハン・ヨハンソン”という既に今は亡き世界的な映画音楽の盟友ともいえる作曲者と同じように、世界的に見て重要な映画音楽、もしくは、ポスト・クラシカルの音楽家の一人として認知されるべきアーティストである。

 

ヨハン・ヨハンソンが生涯にわたり、クラシック音楽をどのようにして映画音楽として取り入れるのか、また、それを単体としての音楽として説得力あふれるものとするために苦心惨憺していたように、このシグルソンという作曲家も、ヨハンソンの遺志を引き継いで、前衛的アプローチをこれまで選んでいる。そして、このシグルソンという映画音楽家が、他の国の映画音楽作曲家と異なる特長があるなら、レイキャビクの名物的な音楽、エレクトロニカ、とりわけ、電子音楽、実験音楽の要素を、自身の音楽性の中に果敢に取り入れていることだろうか?

 

つまり、それこそがヨハン・ヨハンソンと同じように、このシグルソンという作曲家の音楽を、映画音楽から離れた個体の音楽、もしくは、独立した音楽として聴いた際、非常に崇高な味わいをもたらし、古典、近代、現代音楽と同じく、カジュアルではなく、フォーマルな音楽の聴き方ができる要因といえるだろう。もっといえば、このシグルソンの音楽は、音楽の教科書に列挙される古典音楽家と同じく、芸術的な背骨を持つ音楽者というふうに言えるのかもしれない。

 

これまで、ヴァルゲイル・シグルソンは、映画音楽のオリジナル・サウンドトラックの他に、それほど目立たない形で自身の音楽のリリースを行ってきた。

 

それは、2007年のアルバム「Ekvilibrium」に始まり、この作品では、映画音楽からは少し離れた電子音楽家し、エレクトロニカサウンドの最新鋭をいくアーティストとしての意外な表情を見せている。このあたりの映画音楽家らしからぬクラブ・ミュージックテイストも少なからず持ち合わせ、近年まで電子音楽の要素を上手く駆使して、独特な音楽を作り上げてきているのが、このシグルソンという作曲家という人物像に親しみやすくさせているような気もする。

 

そして、近年になって、シグルソンは自身の作品リリースで、電子音楽と映画音楽の要素をかけ合わせた現代音楽寄りのアプローチを図っている。レイキャビク交響楽団との共同作業を収録した「Dissonance」2017という作品を契機として顕著になって来ている。

 

この年代から、重厚な管弦楽法を駆使し、そして、映像を目に浮かばせるようなピクチャレスクな現代音楽、映画音楽に取り組む様になってきている。これはとくに、彼は五十という年齢でありながら、血気盛んにこの作風に真摯に取り組んできている気配が伺える。作品自体のクオリティー自体は年を経るごとに、管弦楽の技法の高い洗練度により近年凄みを増してきているように思える。

 

特に、シグルソンという単体の作曲家として見るなら、ここ二、三年で、この音楽家の本領が発揮された感もある。同郷レイキャビクのヨハンソンという偉大な作曲家の死去の影響があってのことかまでは定かでないものの、自身を彼の正当な継承者と自負するかのような麗しい管弦楽法を作品に取り入れている。それはよく使われるような「壮大なオーケストラレーション」という陳腐な表現は、シグルソンの崇高な音楽には相応しいとはいえない。そのような簡易な言葉で彼の音楽を形容するのは無粋であると断言できる。それほど深い味わいのある現代音楽、ポスト・クラシカルの重要なアーティストで、これからより素晴らしい作品が生まれ出てくるような気配がある。

 

今回は、彼のオススメのアルバム作品について取り上げて、シグルソンの素晴らしい魅力を伝えられたら喜ばしいと思っています。

 

 

 

 

「Drumaladid」2010

 

 

 

このアルバムは、映画音楽の作曲者としての下地を受け継いだ上で、シグルソンが親しみやすいポップス/ロック、あるいはフォークも作曲できることを見事に証明してみせた作品といえる。

 

アルバム全体としては彼の主要な音楽性、弦楽器のハーモニクスの美しさを踏襲した上で、さまざまなバリエーションに富んだ楽曲が多く収録されている。ヴァルゲイル・シグルソンの作品としてはエレクトロニカ、ポスト・クラシカル寄りの手法が選ばれた作品。アイスランドの自然あふれる美しい情景、町並みを、ありありと思い浮かばせるような清涼感のある穏やかな雰囲気の楽曲が多く、彼の作品の中では、最も親しみやすいアルバムといえるかもしれない。

 

全体的には、ピアノ、もしくは弦楽器をフューチャーした美しいハーモニーが随所に展開されている。このシグルソンにしか紡ぎ得ない独特で穏やかなポスト・クラシカルの雰囲気が心ゆくまで味わうことができる。そして、音楽家としてのキャリアがサウンドプログラミングから始まったように、ここでは、アルバム全体のトラックにディレイエフェクトを施したり、といった音のデザイナーとしてのシグルソンのセンスの素晴らしさが存分に味わえることだろう。このエフェクトにより、この作品は全体的に涼やかな印象に彩られている。この独特な涼味というべき雰囲気は、アルバムの最初から最後まで一貫して通じているように感じられる。 

        

 

驚くべきことに、一曲目「Grylukvaedi」では、デビュー作で見せたようなソングトラックを展開している。

 

ここで聴くことのできるアイスランド語の美しい質感というのは、他言語では味わえないニュアンスと言えるだろう。不思議なくらい清涼感のあるアイスランド語の雰囲気、エレクトロニカとフォークを融合したフォークトロニカに挑戦している。グリッチノイズ、そして、弦楽器のエフェクティヴなサウンド処理というのがこの楽曲の肝といえる。もちろん、ボーカル曲として聴いても十分に楽しめるはず。この言語の特有の美しさというのは、シガー・ロスというアーティストが世界に向けて証明してみせているが、この楽曲もシガー・ロスの音楽性に近い。北欧言語の語感から醸し出されるニュアンスの中に、奇妙なほどの清廉さが感じられるはず。

 

四曲目「I Offer Prosperity and Eternal Life」七曲目の表題曲「Draumaland」においてはピアノを全面に押し出した美しい印象のある楽曲である。時に、それはグロッケンシュピールやアコーディオンの付属的なフレージングによって、より神秘的な雰囲気も醸し出されているあたり、映画音楽家としての自負を表現しているような印象を受ける。そして、このあたりの繊細さのある楽曲は聞く人を選ばないポスト・クラシカルの名曲として挙げても差し支えないかもしれない。


六曲目「Hot Ground,Cold」、そしてまた、この楽曲のCoda.のような役割を持つ九曲目「Cold Ground,Hot」では、電子音楽、弦楽器としてのアンビエントに対する傾倒が感じられる楽曲である。 

 

前者は、抒情性により、全体的なアンビエンスが形作られている。それとは対象的に、後者では、電子音楽のクールさという側面が強調されているが、両者の釣り合いを図るように金管楽器、フレンチホルンが楽曲の中間部に導入されている。分けても、「Cold Ground,Hot」では、北欧のニュージャズへの傾倒を見せているのも聴き逃がせない。

 

また、ヴァルゲイル・シグルソンという人物の映画音楽作曲者としての深い矜持が伺えるのが、十一曲目の「Nowhere Land」である。ここでは、弦楽器のトレモロ奏法の醍醐味が心ゆくまで味わえる。ヴァイオリン、ビオラのパッセージの背後で金管楽器が曲の骨格を支えており、これが重厚感をもたらす。もちろん、その上にハープの麗しい付属旋律の飾りがなされているあたりも素敵である。楽曲の途中から不意にあらわれる弦楽器の主旋律というのも意外性に富んでいる。

 

コントロールが効いていながらも、徐々に、感情が盛り上げられていくダイナミック性。つまり、この点に、このヴェルゲイル・シグルソンという作曲家の卓越した管弦楽法の技術が、顕著に表れ出ているように思える。前曲「Nowhere Land」の雰囲気を受け継いだ続曲の意味を持つ「Helter Smelter」も面白い。楽曲名も、ビートルズのナンバー「Helter Skelter」に因んだものだろうか、重厚な弦楽器の妙味がじっくり味わいつくせるはず。正しく、終曲を彩るにふさわしいダイナミック性といえる。

  


「Kvika」 2021



そして、2021年リリースのスタジオ・アルバム「Kvika」は、ヴァルゲイル・シグルソンの集大成ともいえる作品である。

 

ここで、シグルソンは、これまでの作曲家、サウンドエンジニア、あるいはプログラマーとしてのキャリアからくる経験の蓄積を惜しみなく込めている。全体のトラックは39分とそれほど長くはなく、かなり簡潔な印象を受ける。アルバム全体が交響曲、あるいは、組曲のような性格を持ち、個々のトラック自体が重なることにより、一つのサウンドスケープとしてのストーリを形作っている。

 

「Kvika」において、シグルソンは映画音楽としてこれまで挑戦してきた作風をついに一つの高みにまで引き上げたという表現がふさわしいかもしれない。ここで見うけられる重厚なハーモニクスは、およそ体系的に管弦楽を学んだ作曲家としてでなく、現場のサウンドエンジニア、プログラマーとして肌でじかに学び取った生きた技法がここで大きく花開いたというように思える。

 

 

もちろん、映画音楽、サウンドトラックとして傾聴しても上質な味わいがあるが、この作品が素晴らしい由縁は、管弦楽の重厚な音の立体構造を、シグルソンがこれまで初期の作風から受けついできた電子音楽と絶妙に融合してみせたことだろう。全体的なオーケストラレーションとして聴くと映画音楽にも聴こえるはずだが、トラックの中には、そのハーモニーの美しさを損なわない程度に、シンセサイザーのシークエンス、また、時には苛烈なドローン・アンビエントのようなノイズを慎重に取り入れている。

 

しかし、今作を聴くかぎりでは、アイスランドで今流行のものに迎合するために、電子音楽のニュアンスが取り入れられたわけではないように思える。

 

それは、この重厚なオーケストラレーションをまるで脅かすように苛烈な電子音楽のシークエンス、あるいは、グリッチノイズが挿入されることにより、本来相容れないとも思われるオーケストラレーション、そして電子音楽の完全な融合を図って見せている。これが、この作品をきわめて上質あふれるものとし、スタンダードな映画音楽とは異なる響きをもたらしている。それは、シグルソンの最初の仕事として始まった「ダンサー・イン・ザ・ダーク」の2000年からおよそ17年という長い歳月を経てようやく結実した、一つのライフワーク的な意味合いを持つ傑作ということもできるだろう。 

  


このスタジオ・アルバムは、全体が非常に繊細に、そして、綿密に組み合わされた一つの交響曲のように静かに落ち着いて耳を傾けるべきなのだろうと思う。幾つかの曲について論じさせていただく赦しを乞うなら、このアルバムの中「Trantiosn」「Eva's Lamant」という楽曲を、このアルバムの中の最も秀でた楽曲として挙げておきたい。

 

この弦楽器と金管楽器が中心の楽曲が湿られる中で、まるで草原の彼方に見える蜃気楼のような趣で、このピアノの美しい旋律によって組み立てられる楽曲はすっとごく自然に浮かび上がってくる。

 

他にも、十五曲目の「Back In The Woods」では、弦楽器のパッセージ、そして複雑なサウンドエフェクトにより、現代音楽に対するしたたかな歩み寄りも感じられる。アルバムの中で、クワイアとして異彩を放っている楽曲「Elegy」も美しく、おそらく初めてシグルソンは、清涼感に富んだ大自然を思い浮かべさせるような興趣のある歌曲に取り組んでいる。

 

ここからアルバムは、オーケストラレーションとしてのドローンアンビエントの領域に入り、それが最終曲のピアノの彩りにより最初のトラック「Foot Soldier」の重厚なモチーフに一つの循環を形って戻っていく。最後の楽曲「A Point,Ahead」を聴いた後に、最初のトラックを聴きかえすとその事が十全に理解できる。

 

今作「Kvika」は、全体を組曲として聴いても全く文句の付け所のない名作。今年度の映画音楽の最高傑作の一つに挙げられると思う。 

Max Richter

 

マックス・リヒターは、ベルリンの壁崩壊以前の西ドイツ生まれの世界的に著名な作曲家である。東西のドイツが一つの壁によって分断されていた時代に生まれたことによるものか、時代に先んじた思想を持った非常に頼もしい現代音楽家として挙げられます。

もちろん、どちらかといえば、現代音楽家というよりは、映画音楽のサウンドトラックをこれまで数多く手掛けてきた劇伴音楽がマックス・リヒターの主な仕事です。


最新スタジオ・アルバムでは、人間の持つ多様性の素晴らしさを”声”によって表現した「 Voices 1.2」によって音楽上での新たな思想的な側面を提示しています。


音楽としては、基本的に、ヨハン・ヨハンソンやニルス・フラームのようなポスト・クラシカルに分類されるはずですが、クラシック音楽を英国で体系的に習得し、本格派のピアノ音楽、そして、弦楽重奏曲を主要な作風としている。殊に、現代作曲家としては、アルヴォ・ペルトをはじめとするミニマリスト学派に分類されるものと思われます。


今回、紹介するマックス・リヒターのアルバム「The Blue Notebooks」は元々、2千年代初頭に約一週間を掛けて録音された音源を二枚組にリイシューした作品です。ポスト・クラシカルの楽曲として聞きやすさがあるにも関わらず、その音楽には、リヒター氏自身の政治的なメッセージが強固に込められていて、その表向きな理解しやすさとは別に、現在、あらためて再評価すべき作品といえます。 


そもそも、ブッシュJr大統領時代から始まった中東戦争は、ほとんど泥沼化しつつあったように思えていましたが、その戦争の火種を受け継いだオバマ政権がこれを強引に幕引きへ導いていった印象を受けます。今でも記憶に新しいのは、当時のオバマ大統領は、「Justice has been done」というかなり強いメッセージで、中東戦争、多くの民間人を犠牲者にした長い長い戦争を締めくくりました。

 

 


「The Blue Notebooks (15 Years)」  2018


 

 

そして、このマックス・リヒターの「The Blue Notebooks」は、長い長い中東戦争のうちの、イラクに対する空爆に題材を採っています。

 

この作品中の「Horizon Variation」は、ニルス・フラームと共に、私に、ポスト・クラシカルというジャンルに親しむ契機をもたらしてくれた意義深い作品です。十年前に、この静かなピアノ曲を中心とするアルバムを聴いた際は、聞きやすく親しみやすい、ヒーリング音楽の作品のように思っていたんですが、この作品がイラク戦争に対する深い瞑想をモチーフに作曲されたことを最近になって遅まきながら知りました。つまり、自分はこの作品に対して誤ったイメージを抱いていたのを痛切に反省しなければならなかった。同時に、この作品に対する印象も全く過小評価していたと気が付かされたのです。


特に、作曲の際のエピソードを知った上で、あらためて、この作品の音楽に触れてみると、作品に対する印象も一変しました。中でも、「On the Nature Of Daylight」という楽曲の印象が以前とはガラリと変わってしまった。イラクの戦争に対する「黙想」という強固なモチーフが、この楽曲中の弦楽のハーモニーには力強く込められているように思えます。ここには、鎮魂のための弦楽重奏が重みを持って胸にグッと迫ってくる。それは、まさしく、東西分裂時代のドイツに生を受けた作曲家マックス・リヒターが、曲の中に込めた痛切な和平に対する痛切な、願い、祈りなのかもしれません。


もちろん、そうした難しく解決のつかない政治的な背景を抜きにしても、美麗なクラシック、ポスト・クラシカルの名曲がこのアルバムには数多く収録されていることは相違ありません。


「Horizon Variations」の黄昏を思い浮かばせるようなピクチャレスクな美しさというのも問答無用に素晴らしい。「A Catalogue of Afternoon」も惜しいくらい短い曲ではありますけれども、美麗な親しみやすいピアノ曲です。また「Vladimir's Blues」は、リヒターの映画音楽作曲者としての深い矜持が伺える名作です。そして、アルバム全体を通して、彼の映画音楽作曲者としての強み、サウンドスケープを目に浮かばせるかのような叙情性をたっぷり堪能できるはずです。


総じて、十五周年を記念して発売されたアルバム「The Blue Notebooks」は、全編がきわめて敬虔な内面的な静けさに満ちています。


リヒターの紡ぎ出す繊細な音の背後にある深甚な思想がこのスタジオ・アルバムの美を強固なものとしています。そして、彼の込める痛切な黙想は、十五年を経てもいまだ強い輝きを放ち続けています。


個人的には、世界が日々めくるめくような早さで移ろいゆく現代社会において、こういった静かで穏やかな落ち着きをもたらしてくれる音楽は重宝したい。オリジナル作品発売から、すでに二十年近くが経っているものの、あらためて光を当てておきたいポスト・クラシカルの名盤です。

 

 


参考サイト

 

Max Richter The Blue Notebooks Wikipedia

https://en.wikipedia.org/wiki/The_Blue_Notebooks

 

Peter Broderick

 

 

Peter Borderickは、アメリカのオレゴン州出身のミュージシャンで、現在はアイルランドに移住しているポスト・クラシカルのシーンで活躍目覚ましい音楽家です。

 

彼のピアノ・アンビエントの傑作スタジオアルバム「Grunewald」については、既に、アルバムレビューコーナーで取り上げておいたので、参照していただきたいと思います。

 

Peter Bloderick 「Grunewald」Album Review

 

さて、”今週のオススメの1枚”として取り上げておきたいと思うのが、ピーター・ブロデリックの最新アルバム「Blackberry」です。

 

これまで、ピーター・ブロデリックは主にアンビエント・ピアノの繊細で叙情性のあるアプローチを見せているが、本作では、ボーカル入りの楽曲に再挑戦している。歌物としては、実に2015年リリースのスタジオ・アルバム「Colours of The Night」以来となります。

 

本作「Blackberry」は、”家族”をモチーフにした作品であるらしく、彼自身のボーカルをフーチャーした穏やかで温かみのある作品となっています。

 

 

 

「Blackberry」2020

 

 

 

 

 

 

 

 

 TrackLisiting

 

1.Stop and Listen

2.But

3. What Happened Your Heart

4.The Niece

5.Ode to Blackberry

6.Let It Go

7.What's Wrong With a Straight Up Love Songs

8. Wild Food

 

 

 

本作は、2019年、ピーター・ブロデリックが過ごしていた英国の自宅でレコーディングされたという宅録アルバム。

 

彼自身の言葉に拠れば、"エクスペリメンタル・ベッドルーム・インディー・ポップ”というジャンルを想定したようです。つまり、ブロデリックの新たな挑戦を刻印したみずみずしい作品といえます。

 

このアルバムには良質な楽曲が散りばめられており、掴みやすい音楽性で、聞き手を引き込む力が十分に込められている。もちろん、ブロデリックの音楽を聴いたことがないという方、また、ポストクラシカルに馴染みがない方も十二分に楽しめる内容となっているはず。

 

それまでのインスト曲を中心としたアプローチから転換を図ったスタジオ・アルバム「Colours of the Night」においては、どちらかというと、ブロデリックは内省的なアプローチを試みていた。五年振りにボーカルトラックに挑戦した本作では、楽曲の方向性が外向きになったというべきか、聞き手に歩み寄るような形の聞きやすい印象のある音楽性に挑戦しています。

 

そして、本作「Blackberry」では、ピーター・ブロデリックのこれまでの音楽的な経験の蓄積というのがこの上なく発揮されています。

 

今作のテーマ、”家族”という概念のあたたかみ、いつくしみを表現することに成功している。彼の提示する今回のモチーフは、このアルバム全体に通じている雰囲気があり、聞き応えのあるコンセプト・アルバムのような物語性も感じることが出来るはず。

 

全体的には、フォーク音楽を下地にし、そこに、往年の英国の古典的なポップ/ロックミュージックのニュアンス、彼本来のポスト・クラシカルの風味を付加したような印象。彼のボーカルというのは堅苦しくなく、ブロデリックのアルバムの中では最も親しみやすい部類に入る。

 

 

一曲目「Stop and Listen」は、ユニークなホーンをフーチャーした楽曲である。柔らかなマンドリンのアルペジオも聴くことが出来る。そして、ピーター・ブロデリックのボーカルというのも懐深さを感じさせます。

 

四曲目「The Niece」では、珍しくトラディショナルフォーク寄りのアプローチを取っており、弦楽器のアレンジメントの効果により、清涼感のある雰囲気も感じられる。

 

五曲目「Ode to blackberry」はボーカルだけでなく、ブロデリック自身の弦楽器の演奏が味わい深い。

 

六曲目「Let It Go」は、2021年の最新EP「LET IT GO BLACKBERRY SUNRISE REMIX」において、クラブ・ミュージック風のアレンジとしてのリミックス。本作では、原曲の穏やかでくつろいだ良質なフォーク、インディー・ポップの旨みを心ゆくまで味わいつくすことが出来るはず。

 

 

また、スタジオアルバム「Blackberry」で聞き逃す事ができないのが、アルバムの最後に収録されている「Wild Flower」。音楽の方向性として、オアシスのモーニング・グローリー、つまり、ブリット・ポップ全盛期の雰囲気を引き継いだ素晴らしい楽曲。

 

「Blackberry」2020は、これまでのピーター・ブロデリックのクラシカルの音の方向性とは一味違った英国のロック/ポップ音楽への敬意が感じられる傑作となっています。

 

また、本作には、聞き手の心に、爽やかな活力を呼び覚ます力が込められているように思えます。それはきっと、ピーター・ブロデリックの提示する”家族”という概念が、非常に穏やかで、温かみあるものだからなのでしょう。

Goldmund 「sometimes」


キース・ケニフは非常に多彩なミュージシャンで、Heliosというエレクトロニカのソロプロジェクトとして活動しているアーティストとして有名。一般的にはこちらのほうが知っている人が多いかなと思います。現在は、妻のHollieとともにシューゲイザーユニット、Mint Julepとしても活動しており、このユニットのリリースにも注目したい。

 

ケニフは元々、電子音楽を主体としたプロジェクトHeliosにおいて、「Eingya 」というアルバムで成功を収め、世界的にも有名なエレクトロニカアーティストの仲間入りを果たしました。メインでエレクトリックギターを使用し、民族音楽のエキゾチックなエッセンス、それとどことなく自然のおおらかさを感じさせるようなナチュラルな感じの美しいエレクトロニカを奏でています。

このGoldmundはキース・ケニフのサイドプロジェクトとして始動。Heliosのからりとした質感とはまったく対照的と言っていい、ケニフのヘリオスとは異なる仄暗い叙情性が垣間見れるプロジェクトです。

音楽性の方は、いわゆる、ピアノ・アンビエント、あるいは、ポスト・クラシカルの王道ド直球を放り込んでくるジャンルに属し、ニルス・フラームや、オラブルアーノルズが好きな人ならどストライクでしょう。

彼等二人と同じような音のニュアンスで、ピアノのハンマーをディレイやリバーヴで強調したサウンド面が彼の特色でしょう。

上記の二アーティストのようにケニフのピアノの演奏は静かな落ち着きと、そして叙情性を内面にはっきりとはらんでいます。

只、ニルス・フラームやオラブルアーノルズと異なるのは、このGoldmundのピアノ曲には危ういほどの陰鬱というか、甘美な雰囲気があたりに霧のように立ち込めていることでしょう。それは上記に引用したジャケットのミステリアスな雰囲気がそのままピアノ音楽として絶妙に表現されています。

「Sometimes」でひときわ目を引く点は、坂本龍一さんがゲスト参加している「A Word I Give」でしょう。

ここでは、坂本龍一らしい哀感のあるフレーズがリバーブによって音の奥行きが引き出されている。例えば、ギタリストのフェネスなどとのコラボレーションを見てもわかりますが、坂本さんは若手アーティストと共に演奏する時は、相手側の音楽性を尊重しつつ自分の個性を出していて、それが興味深い。

 

このアルバムには、まさしくGoldmund節ともいえる陰鬱でありながら甘美なピアノ曲が多く見られます、そっれはアルバムのジャケットを見ても分かる通り、ゴシック風の趣味を引き出したかったのかもしれません。

とくに、「Cascade」はゴシック風のピアノ曲といえ、独特な光輝を放っているように思えます。なんとなく暗い森のなかにピアノの旋律によって導かれていくような気分になることでしょう。

また、「The hidden Observer」もエキゾチックな音階を使った興味深い楽曲。ピアノの演奏の裏側に広がる妖しげなシンセサイザーのパッドが良い味を出しており、ピアノ・アンビエント、アンビエント・ドローンの代名詞的な楽曲と言えそうです。

只、もちろん、アルバム全体を見渡すと、暗い曲ばかりではなくて、一曲目の「As Old Roads」、「Sometimes 」、このあたりは少し明るめの曲目となっています。

そして、最終トラックの「Windmills」は、嬰児に聽かせるオルゴールのようなやさしさがあり、またどことなくノスタルジックな雰囲気がある秀作で、聴くとホッと一息落ち着けるように思えます。

「Sometimes」は、アルバム全体を通して非常に落ち着いていて、 ジャケットに提示されているイメージをそのままピアノ曲として表現したかのようなミステリアスな雰囲気が充溢している絵画的な作品といえ、また少しくストーリ性の感じられる楽曲群となっています。

もう一作のアルバム「The malady of Elegance」とともに Goldmundの入門編としてもおすすめしておきます。


Peter Broderick 「Grunewald」



ピーター・ブロデリックは、かのニルス・フラームとも以前から深交があり、ポスト・クラシカル界隈では有名な音楽家といえます。只、この人は多趣味なアーティストであって、アンビエント、クラシカルという狭いジャンルにとどまらず、歌物みたいな楽曲も積極的にチャレンジしており、広範な音楽的背景を伺わせるミュージシャンです。

「Grunewald」は、2016年、Erased Tape Recordからのリリースとなります。古風な尖塔屋根を写した森の中の教会のモノクロ写真ジャケットがとても良い味を出しています。 

 

 

 

ピーター・ブロデリックは、デビュー当時から一貫して、他のポスト・クラシカル、あるいはアンビエント界隈のアーティストに比べると、清涼感のある爽やかな音を奏でています。それほど技巧的に凝ったことをやっているわけでもないのに、彼の音楽には異様な説得力が込められています。

このEPから、いよいよピーター・ブロデリックは超一流アーティストとして円熟味のある風格を見せ始めたといえるでしょう。

サウンドプロダクション面でも、音の余韻を極限まで引き伸ばして、まるで教会の石壁のなかで響くような高く広い音響、アンビエンスを感じさせます。また、歌声というのも、まるで、そういった広く大きなスペースで響いているように聞こえ、これが作品全体に爽快味のある雰囲気を形作っています。 おそらく、再生力の高いオーディオなどを介して聴くと、石壁に囲まれた高い天井の下で、彼の麗しいピアノの演奏や歌声を聴くかのような不思議な印象をうけるでしょう。

ティム・ヘッカーが「Ravedeath1972」という作品において打ち出した、ピアノの弦のメタリックな音を最大限に生かした革新的で前衛的なサウンドプロダクションは、耳の肥えたリスナーたちに大きな驚愕を以って迎え入れられ、後のアンビエント・ミュージックにもかなりの影響を与えたでしょうが、たしかに、このピーター・ブロデリックも同じような音の指向性を持ちながら、一方では、またティム・ヘッカーとは異なるアプローチを選んで独自の音を追求してきたアーティストです。

彼の紡ぎ出す音というのは、シンプルで洗練されており、また、非常に性質が落ち着いていて、刺激性に乏しいように聞こえますが、しかし、それでも何か雲ひとつない青空を見上げたときにおぼえざるをえないような興趣にとんでいます。

およそ、都会の喧騒と対極にある大自然の中で、美しい天蓋を眺め、清々しい大気を胸いっぱいに吸い込んでみたときの清涼感のようなものが彼の音楽には感じられます。

こういった安らぐ音楽というのは、ヒーリングミュージックにも似た面がありますが、ピーター・ブロデリックの音楽というのは、構成の単純さの内側に巧緻な作曲技法が滲み出ているので、その中にも何かふと考えさせられるような深みも含まれています。

 

 

  • 「Goodnight」

穏やかな伴奏が繰り返され、その上に美しいボーカルが乗ってくるというアンビエントにしては、少し珍しいとも言える形式によって構成されています。そこには、夾雑物は何もなくて、ただひたすら単純でいながら、清々しい音に満ちています。まるで清冽な水のようにそれらの旋律が流れていき、聞き手は音のむこうがわにひろがる心安まるような美しい情景に身を委ねさえすれば、どのような喧騒も次第に遠ざかり、自分の中にある静寂を取り戻すことができます。

 「Low Light」

一転して、ベートーヴェンもしくは、シューベルトをおもわせる古典ロマン派風の短調の楽曲。また、どことなくではありますが、Ketil Bjornstadの名作「River」を彷彿とさせるような哀愁のある楽曲で、途中の長調への移調という手法も、非常に洗練されていて、少なからず、こういった古典音楽にも親和性があるのが感じられます。

  • 「Violin Solo No.1」

弦楽器の技法トリルを前面に押し出した楽曲、 また、Paul Gigerのようなエキゾチックな風味も感じられます。途中の現代音楽的なアプローチ、バイオリンの早いパッセージがこのEPの中で間奏曲のような役割を果たしていて、全体の雰囲気の中に良い緩急をもたらしています。

  • 「It's  a Storm When I Sleep」

連続的な分散和音のトリルを、堅固な土台の建築のように反復して積み上げていくことによって、奥行きの感じられる音の独特な響きを作り上げています。それは、ただの無機質な音の塊でなく、音の全体がみずみずしく生きているかのような印象があります。サウンド処理によって、しっかりと音のゆらめきというか、空気を振動させて音が発生するという原理が魅力的に表現されています。

  •  「Eye Closed And  Traveling]」

 この曲は、音楽史に残ってもおかしくない、アンビエントのひとつの到達点といっても差し支えない名曲。それというのは、旋律がどうとか、技巧がどうとか、分析的なところから離れたところに、この曲の魅力があるからです。何もむつかしい説明はいらなくて、ただ、静かに目を閉じ、その音の中のある世界を見ると、そこには最も美しい情景が映るはず。そして、その情景こそ唯一の嘘偽りのないものであるということを、この素晴らしい楽曲は教えてくれるでしょう。