Anna Wise『Subtle Body Dawn』 Review

 Anna Wise 『Subtle Body Down』

 

 


Label: Sweet Soul Records

Release Date: 2023年2月17日



Review

 

アンナ・ワイズは既存の音楽の枠組みにとらわれない独創的なポピュラー・ミュージックをこのセカンド・アルバムで生み出しています。この作品は特に既存のポピュラー音楽に飽きてしまった人に強くおすすめします。

 

アンナ・ワイズは、ケンドリック・ラマーのファンであれば、その名を耳にしたことがあるはず。 彼女は『To Pimp A Buttefly』の「These Walls」でゲストボーカルとして参加しています。アンナ・ワイズ名義のソロ・プロジェクトに関し、アンナ・ワイズは、彼女自身が属するオルタナティヴ・ソウル・グループ、Sonnymoonの延長線上に位置すると考えているようで、ネオソウル、R&Bを通じて、女性であることの試練と高揚、愛、人間関係と様々なテーマを掘り下げています。


アルバムには、全七曲が収録されており、フルアルバムではありながら、ほとんど捨て曲がなく、高い密度を誇る作品です。実際、全体的な音楽性の密度だけでなく、一曲ごとの密度も極めて高く、聴き応えたっぷり。アンナ・ワイズは、バークリー音楽院で学んだ経歴を持ちますが、ジャズ、クラシック、さらにアーティストのライフワークのような意味を持つネオ・ソウルという多様な音楽性を、目眩く様に展開させていく。変拍子が多く、ブレイク・ビーツのような手法を用いながら独創的な音楽を作り出していきますが、それは、例えばノルウェーのニュージャズのグループ、Jaga Jazzistの2010年代の作風に近い要素がある。『Subtle Body Dawn』の収録曲は、一つの展開に収まることを避け、目まぐるしくその曲調や曲風が変化していく。アルバムの中で、空想の舞台が繰り広げられるようにも思え、曲の中に幅広い要素を込めようとするアーティストの試行錯誤が上手く昇華されたというべきなのかもしれません。


また、アンナ・ワイズの歌についても面白く、曲ごとにそのボーカル・スタイルを様変わりさせ、まるでこれは演劇の舞台でその役どころを変化させるかのよう。ある曲では、米国の古き良き時代のシンガー、エタ・ジェイムスのようなソウルフル/ジャジーな懐深さがあったかと思えば、他の曲では、ビョークの最初期の先鋭的でありながらポピュラー音楽の未知なる可能性を示すボーカルスタイルに変化する。曲をよく聴き込めば聴き込むほど、アンナ・ワイズという歌手の実像は謎めいて来て、その正体がより不可思議な存在として感じられるようになるのです。

 

アルバム全体としては、オープニングを飾る「Time」から「The Now」の流れを聞くと、コンセプト・アルバムとして捉えることも出来る。弦楽器のピチカートやビンデージピアノの音色を部分的にコラージュのように交えながら、ジャズ風のバックビートに下支えされたポピュラー・ミュージックの展開力は、きっとこのアーティストの作品に初めて触れる際に強烈な印象をもたらすことでしょう。その後も、ダンサンブルなエレクトロニカの作風を反映させながら、ネオ・ソウルやジャズの性質をセンスよく散りばめた「Green」、さらに、このアーティストのファンシーな性質を帯びた「Jelousy Blocks Your Blessings Every Time」は幻想的な雰囲気が漂う。その後、Sonnymoonの音楽性の延長線上にある囁くように歌われるネオ・ソウル「Several Dimensions」もまたワイズの持つ神秘性や不思議な魅力を味わうことが出来るでしょう。

 

これら中盤のバリエーション豊かな楽曲を引き継いだ後、アルバムのハイライトが立ち現れる。フィドルとオルガンの音色、その後の休符を埋めるタイプライターのサンプリングに導かれながら、タイトル曲のような意味を持つ「Subtle Body」に来て、いよいよアンナ・ワイズの独創的なポピュラー・ミュージック・ワールドが大きく花開くことになる。特に、サビにおける往年のソウルシンガーの歌唱力に比べて何ら遜色のないダイナミックなボーカルに注目しておきたい。ポップバンガーとしての展開が訪れた後、唐突に、エタ・ジェイムズを彷彿とさせる深みのあるジャズ/ソウル・ミュージックの最深部へと引き継がれる。これらの落ち着きがありながら甘美な雰囲気に彩られた展開は、最終曲の「Mother Of Mothers」に神妙な形で続いていき、本作をクライマックスに誘導していく。トイピアノの可愛らしい音色とロック寄りのグルーブ感を押し出したベースライン、続く、賛美歌やゴスペルを通じて繰り広げられる摩訶不思議な世界は、聞き手を幻惑へと誘う。


このアルバムは既に何度か聴き通していますが、聴くたびに何かそれまで気づかなかった新しい発見があって面白い。そして作品が終わっても、何度も聴き直したいと思えるような安定感に満ちています。これは、製作者の提示する世界観がこれまでありそうでなかったものであること、そして、個々の楽曲と複雑なバックビートが緻密に作り込まれているからなのかもしれません。ケンドリック・ラマーのコラボレーターという言い方は、もはやアーティストにとって不要となったかもしれない。すでにアンナ・ワイズは『Subtle Body Dawn』で才能あふれるソロミュージシャンとしての道を確立しはじめているように感じられます。

 

90/100

 


Featured Track 「Subtle Body」

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