Daughter 『Stereo Mind Game』/ Review

 Daughter 『Stereo Mind Game』

 



Label: 4AD

Release: 2023年4月7日



 

Review

 


最近、4ADはErased Tapesと同様に、SNSで4AD Japanのアカウントをローンチし、遂に日本で本格的なマーケティングを開始するようである。その先駆けとして、イギリスのインディーロックバンド、Daughterがいる。4ADは早速、このアルバムのリリースパーティーを企画し、6日に渋谷のコスモプラネタリウムで世界最速のリスニングパーティーが開催されている。

 

エレナ・トンラ(ボーカル)、イゴール・ヘフェリ(ギター)、レミ・アギレラ(ドラム)のトリオは、元々、イギリス、スイス、フランスとそれぞれ異なる国籍を持つロック・バンドではあるが、そのワールドワイドなメンバー構成は実際のレコーディング時にも反映されている。この4thアルバムは、 イギリスのデヴォン、ロンドン、ブリストル、カルフォルニア、ワシントン、バンクーバーと複数の別のスタジオでレコーディングされた作品となっている。


Daughterの7年ぶりの新作は、今流行りの4ADサウンドを象徴づけるようなアルバムと言えるだろうか。ただ、絶対的なものの中で仕事をしないということなんだ」とHaefeliは言うように、アルバムは暗鬱なロマンチックさに根ざしながらも、流動的にその曲の雰囲気を変化させていく。トラックメイク自体は、The Golden Gregsや、Bon Iverに近いものでありながら、エレナ・トンラのアンニュイなボーカルや、センス十分のへフェリのギターサウンドの兼ね合いはときに同レーベル所属のBig Thiefのようなマイルドなオルトロックの雰囲気に包まれる場合もある。例えば、ビックシーフファンは収録曲の「Party」に親近感を覚え、琴線に触れるものがあるに違いない。

 

そして、なんといっても先週、青葉市子のレビューでも紹介したとおり、このアルバムにはロンドンの名アンサンブル、12 Emsembleと聖歌隊が参加し、ストリングスやコーラスの面で貢献している。ただ、それは大掛かりな映画の音楽をイメージするかもしれないが、どちらかといえば、バンドのオルトロックの中に組み込まれるようにして、これらのオーケストラレーションやクワイアはあくまでバンドの叙情性を引き出すためのサポート役に徹しているのである。

 

パンデミック時には、物理的な距離をとっていたトリオではあるが、その後に再会を果たし、ソングライティングを行っている。それは言い換えれば、このアルバム自体が鬱屈とした瞬間からより建設的な瞬間への移り変わりの時期を捉えているように思える。例えば、今、その時点にいることにためらいを覚えながらも、その場から立ち上がり、次のステップとなる明るい方向へむけて走り出していく期間を捉えたようなロックサウンドとも言いかえられる。そのあたりは、「Dandelion」の曲にわかりやすい形で現れている。それほど明るいサウンドではないけれども、実際に癒やされるような感覚がこの曲には潜んでいるような気がするのである。

 

上記の二曲に加えて、Daughterの象徴的なサウンドとしてアンビエントとポップスをかけ合わせたようなスタイルがある。例えば、「Neptune」での天文学的な興味に支えられるようにして、これらの宇宙的なロマンスを反映したサウンドは、Big Thiefを思わせるインディーロックサウンドのさなかにあって、アルバムの曲の流れの中に緩急とアクセントをもたらしているように思える。また、現在、ストリーミング回数が好調である「Swim Back」もまたダンサンブルなシンセ・ポップに宇宙的な雰囲気を加味したシングルとなっている。また、「Junkmail」もノイジーなポップであるが、ノリの良いグルーブが体感出来る一曲となっている。

 

そして、全体的に見れば、エレナ・トンラの歌い上げるボーカルは、淡い切なさを漂わせている。それは理論的に見れば、彼女がソフトに歌い上げるメロディーラインからそういったエモーションが引き出される思えるけれど、しかし、そうとばかりも決めつけがたい。おそらく、このボーカリストの外向性と内向性という双方の性質が曲の中で感覚的なものとして複雑にせめぎ合っているからこそ、それらのエモーションが他には求めがたいようなミステリアスな雰囲気として表側に期せずして現れる場合があるのだろう。Daughterの感覚的な音楽は、愛や孤立といった両端にある生と負の感情の間で揺れ動いていくが、もしかすると、 論理的に説明しがたい人間の機微のようなものを、トリオはこのアルバムの中で追い求めようとしたのかもしれない。もちろん、心地よさや感覚的な美しさを感じさせるアルバムとして十分楽しむことが出来ると思われるが、より深く聴き込むと、何かしら新しい発見がありそうな作品でもある。

 

 

84/100

 


 Featured Track 「Swim Back」

0 comments:

コメントを投稿