malegoat 『plan infiltration』(Reissue)
Label : Waterslide Records
Release: 2023/4/14
Review
東京/八王子出身のエモーショナルハードコアバンド、Malegoat(メールゴート)は、2000年代より、西東京のパンクロックシーンにおいて力強い存在感を示して来た。八王子のライブハウス、Matchvoxと関わりが深く、The Well Wellsとともに、新宿周辺のパンクシーンとは一風異なる魅力的なミュージックシーンを作り上げてきた。
例えば、東東京のパンクシーンが都会的に洗練された雰囲気を持つメロディックパンクやポスト・ハードコアの音が優勢なのに対して、他方、西東京のパンクシーンは、ミッドウェストエモや、往年のパワーポップに触発された個性的で親しみやすいメロディックパンクバンドが数多く活動を行っている。
四人組エモ/ハードコアバンド、Malegoatの楽曲はそのすべてが英語で歌われ、そして疾走感のあるスピードチューン、ポストロック/マスロックに触発された変拍子の多い曲展開、プロミス・リングのようにヘタウマ(下手だけど上手い)のボーカルを特徴とする。
Malegoatは、以前から、米国のエモシーンとも関わりがあり、Algernon Cadawallderのライブツアーにも参加しているほか、Empire! Emprire!とのスプリットも発売している。もしかすると、米国のエモ/ハードコアのファンで、Malegoatを知っている人も少なくないのではないか。実際、Malegoatの音楽性は米国中西部のミッドウェスト・エモ/トゥインクル・エモの範疇にある。テクニカルで色彩的なギターのフレーズ、ラウドなスクリーモのボーカルの掛け合いは、まさしくAlgernon Cadwallderの兄弟分といえるかもしれない。
先週末、アートワークを一新し、バンド初のヴァイナル盤としてWaterslideから発売された『Plan Infiltration』は、デビューEPの再発とともに、複数の未発表曲が新たに収録されている。十年前、私はディスクユニオンで初盤のオリジナル盤を購入していますが、音質自体はそれほど初盤と変わらない印象である。とはいえ、この再発は単なる思い出づくりのために行われたわけではないだろう。現行のどのバンドとも似て非なるMalegoatの音楽性の印象は、より強められ、鮮明になったと言えるかもしれない。
リイシューアルバムでは、デビューEPにも収録された「Transparency」、そして、The Get Up Kids/Promise Ring/Algernon Cadawallderを合体させたドライブ感のあるエモ・ソング「Resistance Activity of Brain」、ポスト・ロックのような変拍子に近いテクニカルな構成力とひねりが効いたコード進行、そして、分厚いベースラインが特徴である「Entire」、さらに、近年のリバイバル・エモバンドとも近似性を見出せる「Cogwheel」を中心として、疾走感のあるポストハードコアサウンドが際立っている。また、その一方で、Don Caballero/American Footballに近いミニマルなギターロックサウンドの真骨頂を「Osmosis」に見出すことも出来るはずである。
この度、デビューEPに未発表トラックを加えて再発された『plain Infiltration』は、現代の米国のエモバンドのサウンドに比べても遜色ないどころか、音の完成度と勢いに関しては現地のバンドよりも上回る部分もあるかもしれない。ライブ・バンドとして、着実に東京のベースメントシーンでファンベースを広げ、その知名度を上げてきたMalegoatの真骨頂を味わうにはこれ以上はない一枚。また、”日本のパンクロック/ハードコアの決定盤”としても是非おすすめしておきたい。現在、Waterslide Recordsの公式ショップのほか、ディスクユニオンでも購入可能。
82/100