Osees  『Intercepted Message』/ Review

Osees  『Intercepted Message』

 

 

 

Label: In The Red Recording

Release: 2023/8/18


Review


ジャケットを見れば、人好きのしない音楽であることは一目瞭然だ。面白いと思うのは、イギリスからは、こういった突然変異体が登場するケースが稀にあること。現実に対するシュールな視点を交えたロック、もっと言えば、ポスト・パンクの原義である皮肉な視点を交えたサウンドがOseesの志すところなのではないか。最先端を行くのか、時代から背を向けているのか、それすら定かではないが、それはサンフランシスコのThe Residentsのようでもあり、またオハイオのDEVOのようでもある。前作『A Foul Form」ではノイズにまみれたパンクサウンドを提示し、一部の愛好家から称賛を受けた。一部というのが重要であり、決して万人受けを狙ったサウンドではない。


 

それは続く『Intercepted Message』でも同様で、やはりどこからどう見ても人好きのする音楽性ではない。しかし、このサウンドにある種の信頼感や安心感すら感じてしまうのは、なぜだろう。それは、ある見方をすれば、現実のシリアスすぎる一面にOSSESは風穴を開けてくれるのだ。一貫した現実主義者であることは、徹底した理想主義であるのと同じくらいにきわめて重要なことだが、少なくとも、一方のどちら側に傾きすぎても破綻を来す。そこで、Oseesのように、現実主義と非現実主義のバランスを取ることは非常に大切なことでもある。

 

実際のサウンドはどうか。前作はノイズとパンクを融合させたシュールなサウンドに挑んだが、今作では音楽性を変更し、BraniacのようなSFとパンクの融合に挑戦している。 そしてそこにブライトンのKEGのようなユニーク性を交えたという点では、イングリッシュ・ジョークが少なからず含まれている。


ただ、これらの反商業主義的な音楽は、ロンドンというより、かつてのサンフランシスコのサイケデリックバンドや、 The Residentsのようなあほらしさがある。アホらしさというのは語弊があるかもしれないが、少なくとも現実に真っ向から挑んだら、ひとたまりもない。時に愚かである(愚かなふりをする)ことは、現実と折り合いをつけるために必要でもある。もし、シリアスな世の中を生きていく上で、愚かさという側面をなくせば、どこかで破綻をきたす。そういった考え方をすると、全く上を目指さず、下も目指さず、ましてや、どこも目指すことがなく、一般的な価値観とは全く別次元の考えを示してくれているのが、Oseesの素晴らしさなのだろう。


  

Oseesがスチーム・パンクから何かしらのヒントを得てたとしても驚きはない。1970年代のニューウェイブのパンクバンドはX Ray Specsを筆頭に、カートゥーン・パンクだとか、スチーム・パンクといったサブカルチャーの側面に脚光を当てていたのだったが、Oseesのサウンドも同様ではないか。それは、例えば、ニューヨークのNo WaveやProto Punkを形成するコアなパンクサウンドと密接に結びついている。それでも、例えば、D.N.Aほどにはアヴァンギャルドではないだろう。どちらかというなら、聴きやすさのあるチープなシンセ・パンク・サウンドが最新作の核心を形成している。

 

個々のトラックについて言及するのは控えたい。#2「Black Chems」では、SF風の世界観を構築し、ユニークなニューウェイブ・サウンドに昇華している。アルバムのタイトル曲「Intercepted Massage」では、DEVOをよりサイケにし、カオスにしたようなナンセンスなパンク・サウンドが轟き渡る。センスの悪さという面では、メーターが振り切れている。ところが、これらのサウンドの中には奇妙な共感を誘う場合がある。本作の音のチープな側面には、良い悪いという音楽の二元論という、狭小な思考を開放させる力を持っているのは自明だろう。


 

ただし、ノイズという観点から見ると、Talking Headsを参考にした#4「Die Laughing」において、センス抜群のノイズ/ニューウェイブサウンドを確立させている。そこにブラントンのKEGのようなポスト・サウンドが掛け合わされると来たら、このバンドを応援せずにはいられなくなる。電波系を軽々と飛び越えて、宇宙と直接交信するかのようなワイアードなサウンドに魅了されるニッチな音楽ファンは、きっと私やあなただけではない(はずだ)。

 

他にも、反商業主義的なポスト・パンクの快楽の真骨頂は、「The Fish Needs a Bike」にも見られ、ここではダンサンブルなコーラスを通じてカオティックな展開力を見せる。The Piratesのようなパブ・ロックに比する渋さ、そして、実際のパブでの馬鹿騒ぎを余さずロックサウンドの中に織り交ぜて、フットボール・チームのアンセムのような一体感を部分的に生み出している。


 

終盤になると、サイコビリー/ロカビリーの影響を交えた#7「Goon」でヤワなリスナーをノックアウトさせる。#10「Sleazoid Psycho」では、80年代のLAのパンクバンドのようにロカビリーを下地にした大胆不敵なポスト・パンク・サウンドを確立している。本作の冷笑的で皮肉に満ちた音楽性は、一見、チープに聴こえるかもしれないが、実際はそうとばかりも言い難い。ポストパンク・サウンドとして見ると、手強い曲がいくつか収録されている。しかし、先にも述べた通り、アルバム全編に漂うキワモノ感を楽しむためのもので、万人に勧められる作品ではあるまい。とすれば、この作品に対して愉楽を覚えることは選ばれし者だけに許された特権でもある。



48/100