Elephant Gym 『World』- New Album Review

Elephant Gym 『World』

 


 

Label: World Recording

Release: 2023/12/14 


Review


台湾/高雄のポストロックバンド、Elephant Gym(大象体操)は、KT Chang/Tell Changの兄妹を中心にテクニカルなアンサンブルを強みとして、同地のミュージック・シーンに名乗りを挙げた。大象体操は台湾の大型フェスティバルに多数出演を果たし、同国の象徴的なロックバンドといっても過言ではない。


大象体操の最大の特性は、KT Changのスラップ奏法、そして彼女の涼しげなボーカルラインにある。これが変拍子の多い目眩くような曲構成の中でファンクやジャズ、フュージョン、ラウンジの要素と合致を果たすことで、しなやかなサウンドが生み出される。シカゴやルイヴィルのポスト・ロック/マス・ロックのサウンドとは異なり、日本のLITE、Mouse On The Keysに近いポピュラーミュージックの影響を交えたアーバンなスタイルが大象体操の醍醐味となっている。

 

前作『Dreams』は、リリース情報がイギリスのNMEでも取り上げられていたが、バンドにとって分岐点となるようなアルバムであったことは確かだ。従来のポストロックサウンドと併行し、近未来的な音楽性を付け加え、ポップ音楽の要素に加えてプログレッシヴ・ロックの最前線の音楽を示唆していた。『World』では、デビュー当時の音楽性ーー台湾のポップス、日本のポップス、 フュージョン、ラウンジ、ポストロック/マスロック・サウンドーーを織り交ぜている。ここに、アジア、そして世界の文化を一つに繋げようという、バンドのイデアを見てとってもそれはあながち思い違いとは言えない。これまでエレファント・ジムがクロスオーバーをしなかったことは一度もないが、旧来のアルバムの中でも最も多彩なジャンルが織り交ぜられている。

 

アルバムのオープナー「Feather」は、エレクトロニックの要素を前面に押し出したイントロの後、お馴染みのエレファント・ジムのサウンドが始まる。ラウンジとフュージョンの要素を交えたオシャレな雰囲気のあるサウンドは、東京の都心部の夜の情景を思わせ、Band Apart、Riddim Saunterのアーバンロックサウンドをはっきりと思い起こさせる。しかし、その後に続くサウンドは、紛れもなく大象体操のオリジナル・サウンド。ジャズの影響を絡めたフュージョンに近い展開が続く。演奏の自由度が高く、大きな枠組みを決定しておいてから、そのセクションの中で即興演奏を行っている。 ただし、アンサンブルの演奏が重視されたからと言っても、大象体操のサウンドに精細感やポピュラー性が失われることはほとんどない。新たに加わったブラス・アンサンブルも曲のジャジーな雰囲気を引き立てている。

 

他にも、今作には新たなバンドの試みをいくつも見出すことが出来る。「Adventure」では、AOR/ソフト・ロックの音楽的な性質に、細かなマスロックの数学的なギターロックの要素を付与している。その中にフュージョン・ジャズの影響を交え、ベースの対旋律的なフレーズを散りばめて、涼やかなギターサウンドを披露している。その中にはわずかに、アフリカのジャズであるアフロビートの影響も見受けられ、そして、これが旧来にはなかったようなエキゾチックなロックの印象性を生み出している。全体的な楽曲構造の枠組みで見るかぎり、明らかにマス・ロックの系譜にあるトラックだが、その中にジャズの影響を反映させることにより、清新な音楽を生み出そうとしている。着目したいのは、イントロから中盤にかけての静謐な展開から、ギターのフレーズとドラムの微細なテンションの一瞬の跳ね上がりにより、ダイナミックなウェイブをもたらし、アグレッシヴな展開へ引き継がれていくポイントにある。続いて、曲の後半部では、トリオのバンドのセッション的な意味合いが一層強まり、裏拍を埋めるようなドラムにより、このバンドの象徴的なダイナミックなポストロック・サウンドへと直結していく。

 

「Flowers」は、平成時代のFlippers Guitarの渋谷系を彷彿とさせる小野リサのボサノヴァ、フレンチ・ポップ、ジャズ、日本のポップスを掛け合わせたトラックを背に、KT Changの涼し気なボーカルで始まる。しかし、その後に続くのは実験的な音楽で、主旋律的なベースラインとパーカッションである。この曲は、ベースがメインのメロディーを形成し、ビートを意識した器楽的なチャンのボーカルとパーカッションが装飾的な役割を果たしている。さらに、その後に続く「Name」では、Mouse On The Keysのシンセサイザーの演奏を交えたポスト・ロックの影響下にあるサウンドを繰り広げる。東アジアの都会の夜景を思わせるアーバンな空気感を持つサウンドという側面では、Mouse On The Keysとほとんど同じであるが、この曲における大象体操のサウンドは、さらにラウンジとフュージョン、ファンク寄りである。そして、以前よりも静と動に重点を起き、楽曲の中盤では静謐なピアノのシンプルなフレーズが夜空に輝くかのようだ。

 

今回、もう一つ、大象体操はより高度な試みを行っている。それがオーケストレーションとロックの融合である。この手法は、すでにオーストラリアのDirty Three、カナダのGod Speed You Emperror!、それからアイスランドの Sigur Ros、スコットランドのMOGWAIが示してきたものだが、大象体操が志すのは、キャッチーで掴みやすいサウンドだ。木管楽器のミリマリズムの範疇にある演奏を配し、ボサノヴァのようなスタイリッシュな空気感を生み出し、それらを旧来のバンドのポストロック/マスロックの技法と結びつけようとしている。しかし、時折、カラオケに近いサウンドになるのが欠点であり、これはおそらく別録りをしているらしいという点に問題がある。もしかすると、オーケストラと同時に演奏すれば、さらにリアルなサウンドになったかもしれない。続く「Light」も同じように、ジョン・アダムスやライヒのミニマル・ミュージックの要素を継承し、それをポピュラリティの範疇にあるポスト・ロックサウンドに仕上げている。特に、中盤のボーカルのコーラスの部分に、バンドとしてのユニークさ、演奏における楽しみを感じることが出来る。こういった温和な雰囲気に充ちたサウンドは前作には見られなかったものである。あらためてバンドが良い方向に向けて歩みを進めていることが分かる。

 

アルバムの収録曲のなかで、最も心を惹かれるのが、洪申豪がゲスト参加した「Ocean In The Night」のオーケストラバージョンだ。この曲は再録により旧来の楽曲が新しく生まれ変わっている。エモに近いギターラインにマリンバの音を掛け合せて、そこにモダンジャズの雰囲気を添え、精妙なサウンドを生み出している。中国語のボーカルも良い雰囲気を生み出し、曲の途中では、このアルバムで最も白熱した瞬間が到来する。このバンドの最大の長所である素朴さと情熱を活かしつつ、最終的にローファイな感じのあるロックサウンドという形に昇華される。

 

アルバムのクローズ曲については割愛するが、「Happy Prince」でも新しいサウンドに挑戦しており、KT Changの歌手としての弛まぬ前進が示される。Don Cabarelloのサウンドに比する分厚いベースラインとチャンの涼やかでポップなボーカルが絶妙な合致を果たしている。バンドが今後どのようなサウンドを理想としているのかまでは分からない。けれども、大象体操はいつも新しいことに挑戦するバンドでもある。無論、そのチャレンジを今後も続けてほしいと思います。

 

 

80/100 

 

 

Best Track 「Ocean In The Night」(feat. 洪申豪) -Orchestra Version

 

 

 

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