Olafur Alnorlds(オーラヴル・アルナルズ) アイスランド出身のグラミー賞アーティストによるピアノ作品の再構成 ”some kind of peace - piano reworks”  複数のミュージシャンが参加

 Olafur Alnorlds 『some kind of peace - piano reworks』

 


 

 Label:  Mercury xx/Universal Music

 Release:  2022年10月28日

 




Review   


 

 今週、皆様にご紹介するMercury xxから今週金曜日に発売された『some kind of peace - piano reworks』は、2020年にオーラブル・アルナルズが発表したオリジナルアルバムのピアノのリワーク作品/再構築である。このオリジナル作品は、2020年以前にレイキャビクのハーバースタジオで制作されたが、今作はパンデミックの最初期にリリースされた。発表当時は世界中でロックダウンが敷かれ、およそアイスランドも同じような状況にあったものと思われる。

 

オーラブル・アルナルズは、タイトルに表されている通り、アルバムのコンセプトに「ある種の平和を見出す」という主題を置いている。

 

2020年のリリース時、オーラブル・アルナルズは、Apple Musicのインタビューで、「パンデミックは、私達にコミュニティの重要性を思い出させます、そして、それは私たちの毎日の伝統的かつ宗教的な儀式と、私達の相互の重要性を思い出させる、それが私がここで探求していることです」とコメントしている。2020年代の世界的な状況を鑑み、結束力を取り戻すことの大切さについて述べている。ロックダウンや隔離は、世界の人々の間に一種の分離状態を惹起させた。しかし、当時、オーラヴル・アルナルズは、その状況に反し、今一度、人々がコミュニティの重要性に気が付き、そして、今一度、結束力を取り戻すことを呼びかけていたのだ。

 

2020年発表のオリジナル盤『some kind of peace」は、Bonobo(サイモン・グリーン)を始め、秀逸なエレクトロニックプロデューサーがコラボレーターとして参加し、ポスト・クラシカル寄りの作品でありながら、モダンなエレクトロの雰囲気も併せ持つ快作であったが、今回、発表されたリワーク作品は、全く同じ楽曲構成であるものの、全曲がピアノのみで構成され、原曲の持つ抽象的な情感が前作よりも引き出されている。今回の再構築時に曲の順序が入れ替わったことも、音楽を聴くに際してオリジナルとは異なる印象をおぼえることになるだろう。

 

リワークに参加したコラボレーターも豪華である。同じくアイスランド、レイキャビクのポスト・クラシカルシーンの旗手で、音楽家になる以前、NYでファッションモデルを務めていたEydis Evensen、ポーランドのピアニスト、Hania Rani、アイスランドのシンガーソングライター、JFDR(ヨフリヅル・アウカドゥッティル,オーストラリアのシンガーソングライター、Sophie Hutchingsと、アイスランド国内のアーティストを中心に、世界の個性的なアーティストがこの作品に参加しており、オーラブル・アルナルズのピアノ演奏に深い情感を付け加えている。

 

原曲はBonoboとのコラボレーションでエレクトロの雰囲気を擁する「Loom」を始め、アルバムにゲスト参加したアーティストを中心に、ピアノのみで原曲の意外なリワークがなされている。これらは、アルナルズのピアノ演奏を始め、他のコラボレーターのアレンジや演奏によって、その魅力がわかりやすく示されており、繊細なメロディーの運びにより、豊かな詩情が丹念に引き出されている。それは、やはり、彼の故郷であるアイスランド・レイキャビクの海沿いの風景や、豊かな自然をありありと想起させるものがある。

 

本作の中で、ボーカル・トラックは、ピアニストとしてポーランド国内で活躍するハニヤ・ラニのハミングを収録した「Woven Song」、同郷アイスランドのシンガーソングライター、JFDRの伸びやかで清涼感に満ちたボーカルが収録された「The Bottom Line」の二曲となる。ポスト・クラシカルとして王道ーー静謐であり内省的な質感を持った美麗な楽曲ーーの中にあって、これらの二曲は、アルバム全体の印象に変化と抑揚をつけるものであるとともに、よりドラマティックな雰囲気を擁する。全体的に、エレクトロニックなエフェクトが施された楽曲群の中で、これらのボーカルトラックは、聞き手に癒やしをもたらしてくれるものと思われる。

 

 「Woven Song-piano reworks」 

 

 

 

そのほかにも、抽象主義の近代フランスの作曲家、クロード・ドビュシーの晩年の作品を思わせる「Undone」も、静謐かつ色彩的な音の運びがあり、澄明な響きが感じられる秀逸な一曲であるが、やはり、このアルバムで傑出しているのは、#9「We Contain Multitudes」とになるだろう。

 

今回の再構築では、原曲の印象的な部分を形成していたイントロの朗らかな対話のサンプリングを排していることに注目したい。オーラヴル・アルナルズは、楽曲の構成自体を完全に組み替えただけでなく、この静謐で繊細な性質を擁するピアノ曲に、以前のバージョンに比べ、よりゆったりとしたテンポを与え、さらに調性まで変え、この曲の持つ自然味と純粋かつ豊かな情感を引き出そうと努める。さながら、ひとつひとつ心の中で音をじっくり噛みしめるかのようなオーラブル・アルナルズの演奏は、同年代のポスト・クラシカルシーンのアーティストをはるかに凌駕している。

 

ここで、オーラヴル・アルナルズは、コラボレーターである韓国のミュージシャン、Yirumaの助力を得ることにより、アイスランド/レイキャビクの海岸近くのコンサートホールで録音された「Sunrise Session」の時と同様、ピアノの蓋を外し、ハンマーの軋む音を活かしたプロダクションを志向しているものと思われるが、しかし、ほとんど信じがたいことに、アルナルズは、時にはこのジャンルの欠点となる窮屈な表現、萎縮した感覚をここで軽やかに乗り越え、この原曲を伸びやかさのある藝術の領域に引き上げている点が見事というよりほかない。


全般的に、この作品はただ美しい旋律を紡ごうという意図が込められているだけにとどまらず、オーケストラの再構築のように、曲の持ち味をより繊細な形で表現しようとしている。そして、これらの曲の雰囲気は細やかなものであるからこそ心にじんわり響くのである。そのため、何度も聴く返したくなるような深みを持つ。そして、今回、クラシック音楽のcodaのように、このリワーク作品になんらかの言い残したメッセージを付け加えたかったようにも思える。

 

総じて、Olafur Alnorlds(オーラヴル・アルナルズ)は、このピアノによるリワーク・アルバムを通じ、オリジナルアルバムとは異なる鮮やかな命を吹き込んでみせた。さらに、2020年のパンデミック期と同様、戦争やエネルギー供給、物価高騰問題により真っ二つに離反するにとどまらず、俄に剣呑な雰囲気になりつつある現今の世界情勢に蔓延する憂いに際し、それとは対極にある価値観、「人間として結束すること」の大切さと「ある種の平和の見出すこと」の尊さをより大衆に理解しやすいかたちで再提示したかったのかもしれない。仮に、もし、そうであるとするなら、今作は、現代のミュージックシーンの中においてきわめて重要な意義を持つと言える。

 

 

97/100

 

 

Weekend Featured Track 「We Contain Multitudes - piano reworks」

 



 
*現在、本作は、日本国内で、Tower Recordsにて海外盤がお買い求めいただくことが出来ます。