New Album Review Leland Witty 『Anyhow』

 Leland Witty  『Anyhow』


 

 

Label:  Innovative Leisure

Release: 2022年12月9日



Review

 


近年のジャズシーンに、飛びきり風変わりなサックス奏者が出てきた。カナダ・トロントを拠点に活動するレランド・ウィッティだ。これまでのジャズ・シーンでは、1つの楽器をとことん一生涯を通じて追究するタイプの演奏家が一般的な支持されてきたように思えるが、その流れは今後少しずつではあるが変わっていくかもしれない。少なくとも、ウィッティは自由性の高いプレイヤーである。この四作目のアルバム『Anyhow』において、基本的な演奏楽器はテナー・サクスフォンではあるが、バイオリン、シンセ、ギター、木管楽器と複数の楽器をレコーディングで演奏しており、マルチ・インストゥルメンタリストとしての才覚が伺える。彼は、Abletonにギターの短い録音を送り込み、多角的なジャズ・サウンドを探究している。


2020年、映画音楽のスコアを手掛けた後、レランド・ウィッティはこの四作目の制作に着手したという。そして、即興演奏をどのように洗練されたプロダクトとして仕上げるのか、プロデューサーとして思考を凝らした痕跡も見受けられる。そして、プレスリリースによれば、それらの即興演奏の中にある物語性をどのようにして引き出すのかに重点が置かれている。いまや時代遅れの言葉となりつつあるジャズ・フュージョンの名は今作の音楽を端的に表する上で最もふさわしい形容詞となる。しかし、本作のジャズは新鮮味を感じさせるもので、エレクトロとジャズ、映画音楽のように叙事的な音楽を独自の視点から解釈するという面において、ノルウェーのエレクトロ・ジャズバンド、Jaga Jaggistのように、ジャズの近未来を予感させる内容になっている。サウンドは徹底して磨き上げられ、逆再生のループなど細部に至るまで緻密に作り込まれているが、それらの緊張感のあるサウンドは、ウィッティのサクスフォンの独特な奏法によって精細感を失うことはほとんどない。

 

作品の全編には、電子音楽とジャズ、その他にも、プレグレッシヴ・ロックやポップスを内包したサウンドが展開されている。それらの楽曲に説得力をもたらしているのが、レランド・ウィッティ自身のサックスの卓越した演奏力である。自身のサックスの演奏をある種のサンプリングのように見なし、音形を細かく刻んで繋ぎ合わせ、リバーブ/ディレイなどを施してダブ的な効果をもたらすという面では、ブライアン・イーノとの共同制作でお馴染みのトランペット奏者、Jon Hassel(ジョン・ハッセル)の手法に通じるものがある。今作の音楽の核にあるものをアンビエントやニューエイジと決めつけることはできないが、ジョン・ハッセルがかつてそうであったように、その楽器の音響における未知の可能性を、レランド・ウィッティも今作において見出そうとしているように感じられる。しかし、それはもちろん、この奏者がサクスフォンという楽器の音響の特性を把握しているから出来ることであり、演奏自体をごまかしたりするような形で過度な演出が加えられているわけではない。レランド・ウィッティの演奏は伸びやかであり、目の覚めるような意外性に富んでいる。とにかく、聴いていて心地よいだけでなく、トーンの繊細な揺らぎによって意外性を感じさせるのが彼の演奏の特性と言えるかもしれない。

 

アルバム全体には確かにプレスリリースに書かれている通り、何らかのドラマ性や物語性が内包されているように思える。しかしそれは非常に抽象的であり、一度聴いただけでその正体が何なのか把握することは難しい。そして、作品全体に満ち渡る叙情性と神秘性も最大の魅力に挙げられる。作曲の技術の高さ(細かな移調を連続させたり、ループなどを駆使している)については群を抜いており、ハンバー・カレッジで学んだ体系的な音楽の知識にとどまらず、実際のセッションにおける生きた音楽の経験、映画音楽の制作経験の蓄積が生かされているように見受けられる。

 

それらは、流動的なセッションの音の流れやグルーヴを綿密に形成し、ハイセンスな電子音楽のバック・トラックと相まって前衛的な音楽性として昇華されている。かといって、技法に凝るというわけでもなく、各楽曲にはLars Horntveth(ラーシュ・ホーントヴェット)の書く曲のようにユニークさが滲み出ている。これらをこのミュージシャンの人物的な面白さと決めつけるのは暴論といえるが、少なくとも、古典的なジャズ、クラシックを踏まえた上で、それを新しい音楽としてどのように組み上げていくのかに焦点が絞られている。そして、この点がアルバムそのものに多様性を与え、さらに聴き応えあるものとしている。これまでニューエイジ、エキゾチック、ニュー・ジャズ、様々な開拓者がシーンには登場してきたが、カナダ・トロントのサックス奏者、レランド・ウィッティも同様にジャズのまだ見ぬ魅力を伝えようとしている。

 


94/100

 

 

  

 

 

 Leland Witty

 

レランド・ウィッティは、Badbadnotgoodのメンバーとして最も有名なサックス奏者、マルチインストゥルメンタリスト。

 

コーチェラ、グラストンベリー、ケープタウン・ジャズ・フェスティバル、ロスキレ・フェスティバル、ジャカルタ国際ジャワ・ジャズ・フェスティバルなど、世界各地のフェスティバルで演奏している。

 

パフォーマンスやプロダクションを通じて、Kendrick Lamar、Tyler the Creator、Ghostface Killah、Snoop Dogg、Colin Stetson、Mary J. Blige、Camila Cabelo、Earl Sweatshirt、Frank Dukes、Kaytranadaらと仕事をしてきた。現在、ツアーと制作・作曲の仕事を分担している。

 

レランド・ウィティは、トロントを拠点とするバンドBADBADNOTGOODに7年間所属している。彼は2015年にBBNGに加入したが、全員がハンバー・カレッジのジャズ・プログラムで学んでいた2010年にこのグループと出会っていた。

 

バンドが3枚目のアルバムを出した後にラインナップの再編成を決めた際、アレクサンダー・ソウィンスキー(ドラムス)、チェスター・ハンセン(ベース)、マシュー・タヴァレス(キーボード)がサックスとギターでカルテットを完成させるためにWhittyにアプローチしてきた。Whittyは、Charlotte Day Wilson, Kali Uchis, Kendrick Lamar, Ghostface Killah, Snoop Dogg, Mary J. Blige, Earl Sweatshirt, Kaytranadaなどのアーティストとも仕事をしている。

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