Weekly Recommendation /Move D & Dman 『All You Can Tweak』 /南ドイツのダンス・ムーブメントの30年の集大成

Weekly Recommendation 
 
 
 
Move D& D man 「All You Can Tweak」
 
 


Label : Smallville Records   

Genre: Techno/House
 
Release: 2022年12月2日 
 
 



Featured Review    
 
 
ードイツ/ライン地方のダンス・ムーブメントの30年の集大成ー



1990年頃、ドイツ・ハイデルベルクは、アンダーグラウンド・レベルでダンスシーンがこれまでになく盛り上がりをみせていた。ゲーテ、ヘンダーリン、アイヒェンドルフで有名なネッカー川にほど近いフィロゾーフェン通り(哲学者の道)や、ドイツで最も美しい古城を始めとする由緒ある旧市街地、また学生街でもある--ハイデルベルクのベルクハイマー通りにある「Blaues Zimmer」(ブルールーム)というライブ・スペースには、当時、定期的に優秀なプロデューサがここぞとばかりに集っていた。
 
 
このドイツのアンダーグラウンド・シーンの一端を担った「Blaues Zimmer(ブルー・ルーム)は、Dirk Mantei(Dman)が所有するスタジオであり、David Moufang(Move D)は、この場所を、その後の10年間にライン・マイン地域で起こったエレクトロニック・ミュージック・ムーブメントの「種(Keimzellenーカイムツェーレン)」と呼びならわしている。ハイデルベルクは、マンハイム、ルートヴィヒスハーフェン、ダルムシュタット、といった中堅都市が比較的近くに位置し、フランクフルトにも簡単に行くことが出来たためか、この町の90年代のダンスフロアは活況をきわめ、その頃、多くのクラブやパーティーが開催されたが、プロデューサー、Dirk Mantei(ディルク・マンテイ)とDavid Moufang(ダビデ・モウファン)は、当地のクラブシーンの一翼を担う存在だったという。


Dirk Mantei & David Moufang,、Eric D Clark、Robert Gordon、Nils "Puppetmaster" Hess、DJ Cle-、などなど、ハイデルベルクに住んでいた秀逸なプロデューサーたちが、この時期にダークなフロアに集まっていた。このことに関して、Discogsは、Dirk Mantei(ディルク・マンテイ)を「南ドイツの1990年代のテクノ・シーンの中心的人物」と呼んでいるが、これにはそれなりの理由があるのだという。他でもない、Dirk Mantei(ディルク・マンテイ)は、地元のミュージック・シーンを盛り上げてきた人物であり、南ドイツのクラブ・ミュージックの地盤を築き上げた人物でもあるのだ。
 
 
Dirk Manteiは、個人経営のレコード店(Dubtools)を経営しながら、Planet Bass(1988年頃、ハイデルベルクのNormalで行われた日曜日のパーティ)、Hot Lemonade(1990年頃、マンハイムでの日曜日のパーティ)といった、伝説的なパーティを開催しながら、地元ハイデルベルクのダンスシーンを活性化させようとしていた。その後、ハイデルベルクからマンハイムに拠点を映すやいなや、Dirk Mantei(ディルク・マンテイ)は、伝説的なクラブ”Milk!”(1990年~)をオープンし、その後、HD800(MS Connexion内)というクラブを経営するに至った。この2つのクラブには、彼自身が購入し、調整した、巨大なサウンドシステムが導入された。David Moufangは、クラブ”Milk!”について、自分のソロ名義/Move Dとレーベル名Source Recordsの発祥の地と呼びならわしているようだ。


Dirk Mantei & David Moufangの実質的なデビュー・レコードは、Davids Sourceからリリースされた「Homeworks 1」という12インチだ。また、その1年前には、Source Recordsから最初のCDとしてリリースされた4曲もあった。また、「Wired To The Mothership」は、このCDコンピレーションに収録されている32秒のトラックで、あまりにも短いが、特別なものであるのだという。


シェフィールドにインスパイアされたブリープ、タイムレスなパッド、デトロイトなストリングス、JXP-3のオルガンソロ、アナログドラム、アナログ・ベースラインなど、時代を超えたコンポーネントが最も素晴らしい方法で織り成されてから消えていく。DavidとDirkは、この曲のロングバージョンが何故今まで存在していなかったかという点について、「当時のミックスダウンに満足おらず、30年近くかけてようやく2021年のフルバージョンを完成させた」と語っている。


 
今回、Smallville Recordsからリリースされた『All You Can Tweak』の全てのトラックは、1992年から2021年の間にDavid MoufangとDirk Manteiによって書かれ、プロデュースされ、ミックスされた作品である。
 

Move D


昨日、12月2日に発売された南ドイツのダンスシーンを象徴する二人のプロデューサーDirk Mantei & David Moufangの最新作『All You Can Tweak』は、先述したように、90年代に録音されていながら、長らく発表されていなかったトラックも複数収録されているという点で、伝説的なアルバムと呼べるかもしれない。二人のプロデューサー、Dirk Mantei (ディルク・マンテイ)& David Moufang(ダビデ・モンファン)のダンスミュージックは、デトロイト・テクノや初期のハウス・ミュージックに象徴される4つ打ちのきわめてシンプルなハウス・ミュージックが基本的な要素となっている。シンプルなスネアとドラムのキックに支えられた基本的なテクノ/ハウスではありながら、反復的に繰り返されるビートに、アシッド・ハウスやサイケの要素が加わっていくことにより、途中から想像しがたいような展開力を持ち合わせるようになる。
 
 
Move D/Dmanの最新作『All You Can Tweak』は、彼らのテクノ/ハウスの原点を探るような作品といえそうだ。この作品は、ジェフ・ミルズ、オウテカ、クラーク、ボノボの初期のように、最もテクノが新しい、と言われていた時代の熱狂性の痕跡を奇跡的に残している。時代を経るごとに、これらの4つ打ちのリズムは徐々に複雑化していき、ヒップ・ホップのブレイクビートの要素が付け加えられ、ほかにもロンドンのドラムン・ベースの影響が加わり、さらに細々と不可解に電子音楽は枝分かれしていった印象もあるが、『All You Can Tweak』を聴くとわかるように、これらの基礎的な4つ打ちのビートにも、まだ音楽として発展する余地が残されていることを、二人のプロデューサーはあらためて、この最新作『All You Can Tweak』ではっきり証明している。一方で、この作品は、単なるデトロイト・テクノや旧来のハウス・ミュージックへの原点回帰とはいいがたいものがある。三十年という月日は、Move D/Dmanにとって、これらの原始的なダンスミュージックを、さらに深化/醸成させるための準備期間であったのだろうと思う。二人のプロデューサーは、実際に、レコード店を経営しながら、そして、地元ハイデルベルクのダンスシーンと密接に関わりながら、イギリスにもない、イタロにもない、そして、アメリカにもない、特異なGerman-Techno(ゲルマン・テクノ)を綿密に構築していった。
 
 
彼らは、80年代のテクノやハウスのシンプルなビートの要素に加え、デュッセルドルフのテクノ、トランス、構造的なエレクトロの要素をもたらし、他にも、ホルガー・シューカイのダブの多重録音や、サイケの色合いを付け加える。ハウスの16ビートに、シャッフルビートを加え、グルーブの揺らぎを生み出し、オシレーターを駆使したフレーズを重ね、トーンの絶妙な揺らぎをトラックメイクに施し、音の進行に流動性を与え、曲そのものに多重性をもたせている。ビートは、常に反復的で、キックが強調されていることからも分かる通り、フロアの重低音の実際の音響に重点が置かれているが、軽薄なダンスミュージックを極力遠ざけて、思索的な音の運びを尊重している。二人のプロデューサーは、オシレーターによるトーンの微細な変化により、信じがたい音色を生み出す。多くの曲がイントロから中盤にかけて、印象がガラッと一変するのはそのためである。そして、これが今作を聴いていて、ランタイムが進むごとに、音楽の持つ世界が深度や奥行きを増していくように感じられる理由でもあるのだろう。
 
 
アルバムのアートワークを見ても分かる通り、これらのテクノ/ディープ・ハウスは一筋縄ではいかない。製作者の音楽的な背景を実際の音楽に反映したかのように、サイケデリックな色合いを持ち、アンダーグラウンド性の高い、緊迫したトラックが続く。リスナーはオープニングを飾る日本の江戸時代後期の浮世絵画家にちなんだオープニング「Hokusai」で、異質な何かを発見することになる。コアなグルーブと共に、ベースラインを強調させたリード、ハイハットのシンプルな連打がアルバムの世界観を牽引する。 これらは、二人のプローデューサーの豊かな創造性により、浮遊感が加味され、ときに、サイケデリック・アンビエントの領域に踏み込む場合もある。
 
 
一転して、#2「All You Can Tweak」では、落ち着いたIDM寄りの電子音楽が展開される。ミニマル・グリッチ的なアプローチの中にチルアウトの要素が加味される。金属的なパーカションを涼し気な音響の中に落とし込むという点では、Bonobo(サイモン・グリーン)に近い手法が取り入れられている。さらに、#3「Colon.ize」は、本作の中でハイライトの1つとなる。4つ打ちの簡素なビートは、ハウスの基本的な要素を突き出しているが、特にバスドラムのベースラインを形成するシンセが絡み合うことにより、コアなグルーブ感を生み出していく。しかし、この曲が既存のハウス/ ディープ・ハウスと明らかに異なるのは、デュッセルドルフのテクノ、つまり、クラフトベルクのロボット風のシンセのフレーズがSFに近い特異な音響空間を導出する点にある。不思議なのは、これらのロボット・シンセが宇宙的な雰囲気を演出するのである。さらに続く、#4「Weierd To The Mothership 2021」は、ユーロ・ビートやトランスが隆盛をきわめた時代のノスタルジアが揺曳する。これらのアプローチは古びている感もなくはないが、その点を二人のプロデューサーは、リミックスを通し、アシッド・ハウスの要素を加味することによって克服し、淡白なダンスミュージックを避け、鮮やかな情感を添えることに成功している。

 
その後もまた、4つ打ちのシンプルなビートがタイトル・トラック「All You Can Tweak」で続くが、ここでは複合的なリズム性が現れ、シャッフル・ビートの手法を駆使し、特異なグルーブを呼び覚ましている。この曲でも、ビートやリズムは、新旧のハウス/ディープ・ハウスをクロスオーバーしているが、そこにシンセのオシレーターのトーンの振幅により、音色に面白い揺らぎがもたらされ、曲のクライマックスでは、ボーカルのサンプリングを導入し、近未来的な世界観をリスナーに提示している。ただ、ひとつ付け加えておきたいのは、それは人間味というべきなのか、電子音楽の良曲を見極める上で欠かすことの出来ない仄かな情感を漂わせているのである。
 
 
 
アルバムの終盤では、この二人のダンスフロアへの熱狂性がさらに盛り上がりを見せ、90年代のハイデルベルクのアンダーグランドのダンスフロアに実際に踏み入れていくかのようでもある。続く、#6「Doomstorlling」では、シンセ・リードにボコーダーのエフェクトで処理した面白い音色を生み出していてユニークであるが、やはり、80年代のイタロ・ディスコに触発されたマンチェスターのミュージック・シーンとも異なる、バスドラムのキックのダイナミクスを最大限に活かした少しダークな雰囲気を持つダンス・ミュージックを体感することが出来る。そして、アルバムのクライマックスを飾る#7「Luvbirdz」は、「Hokusai」「Colon.ize」「All You Can Tweak」と合わせて聞き逃すことの出来ない一曲である。彼らは、シャッフル・ビートを交えつつ、アシッド・ハウスの極北を見出す。タイトルに纏わる鳥のシンセの音色についても、二人のプロデューサーの斬新なアイディアを象徴するものとなっている。
 
 
 
総じて、『All You Can Tweak』は、90年代から続く、南ドイツのアンダーグラウンドのダンス・ミュージックの二人の体現者であるDavid&Dirkが、それをどのような形で現代に繋げていくのか、真摯に探求しているため、歴史的なアーカイブとしてみても、意義深い作品となっている。これらの7つのトラックは、90年代のハイデルベルクのミュージック・シーンの熱狂性を余すことなく継承しているばかりか、現在も新鮮かつ刺激的に感じられる。いや、それどころか、これらの楽曲が、2020年代の世界のダンス・ミュージックの最高峰に位置することに疑いを入れる余地はない。信じがたいことに、彼ら(David&Dirk)が90年代にハイデルベルクに蒔いたダンス・ミュージックの種-Keimzellen-は、30年という月日を経て実に見事な形で結実したのである。
 

98/100
 
 
 
 Weekend Featured Track #1「Hokusai」