New Album Review  CVC 『Get Real』

New Album Review  CVC 『Get Real』 


 

 

Label:  CVC Recordings

Release Date: 2023年1月13日

 


Review



昨年9月、最初のEP『Reel To Real』をリリースしたウェールズ出身の6人組のロックバンド、CVC(Church Village Collective)は『Get Real』で、ついに本格的なデビューを果たします。カーディフの北部にあるチャーチ・ヴィレッジから登場したコレクティヴは、すでに国内で人気を着実に積み重ねており、彼らのウェールズでのライブのスペースは、いつも満員となっているようです。

 

以前にも紹介したとおり、CVCのロックサウンドは必ずしも新しいものとは言いがたい。彼らは、60、70年代のロックやR&Bやファンクを聴き、ビートルズ、ビーチ・ボーイズを始めとする古典的なロックミュージックがバックグランドにあり、そのサウンドは懐古的で、ノスタルジア満載です。古いビンデージレコードに漂うような懐かしさをあえて志向しているとも言えます。

 

ファーストEPでは、70年代のハードロック・バンドの音楽を彷彿とさせるものがあり、フルアルバムでは、よりビンテージ・ソウルやファンク、それから、ドゥワップを始めとする、古い年代の音楽の要素を下地に渋い雰囲気に充ちたサウンドに重点を置いています。さらに、この音楽には彼らの無類のレコード好きとしての矜持が至る所に散りばめられている。そして、このバンドのユニークなキャラクター性、ときにサイケデリック・ソウルの色合いもあいまって、このグループにしか醸し出せない魅力が存分に引き出された快作となっています。

 

ただし、いくつか難点を挙げると、いわば、活発な動きのあるサウンドであったファーストEPに比べると、このデビュー・アルバムは停滞したサウンドに変わってしまった印象もある。言い換えれば、ファーストEPはドライブ感のあるサウンドでしたが、フル・アルバムになったとたん、サウンドがまったりとしすぎ、間延びしまっているため、もしかすると、このことが実際のバンドのポテンシャルの高さを考えてみると、本作の評価が今ひとつ奮わない原因となってしまうかもしれません。ことデビュー・アルバムに関しては、ジャム・セッションの楽しさをレコーディングを通じて引き出そうとしており、それはある面では成功していますが、他の側面では、一作品として今ひとつ迫力に欠けるという心残りもある。


しかし、CVCは、バンドアンサンブルとしてはオーディエンスを惹きつけるパワーを持っているのは事実で、サウンドの中には非凡な才覚も見て取れる。デビュー・シングル「Docking The Party」は、依然として、このバンドの重要なレパートリーとなるだろうし、そして、EPには収録されなかった新曲の中には、キラリと光るセンスを感じさせるトラックも多く含まれています。


たとえば、オープニング・トラック「Hail Mary」では、往年のモータウン・サウンドやビンデージ・ソウルを基調にしたロックを提示している。ここでは、CVCのバンド・サウンドの核心にあるソウルフルな温みや、グループとしての結束の強さが反映されています。また、その他、#3「Knock Knock」では、ビンテージ・ファンクを基調にしたフックの利いたサウンドを提示している。これらのソフト・ロック/AORの音楽の影響下にある楽曲は、さっぱりとしていて、爽快味を感じさせてくれます。特に、演奏面での技術の高さについては目をみはるものがあり、ベースライン、ドラム、シンセの演奏から引き出される分厚いグルーブ感、及びR&Bの要素の色濃いソウルフルなボーカルが、これらの曲に力強いパンチとスパイスをもたらしています。

 

その他、CVCは、ビートルズのリバプール・サウンドを基調にし、エリック・クラプトン(Cream)の影響を感じさせる渋さ抜群のブルース・ロック、Sladeの名曲「Come on The Feel the Noize」のようなカラフルなロックンロール、オールディーズのドゥワップのコーラスといった要素を交え、さらに、「Mademoiselle」では、アース・ウインド&ファイアのディスコ調のファンクを展開させてみたりと、音楽性の間口はきわめて広く、そのバリエーションの豊富さにおいては他のバンドを圧倒するものがある。何より、CVCは、とことん自分たちの好きな音楽を掘り下げているのが頼もしい。これらの気質の良さに基づく楽しいサウンド、パーティーでの演奏を志向したような陽気なエネルギーは、聞き手の気分を和ませてくれるだろうと思われます。


ラグビー場とパブに象徴されるカーディフに在するのどかな街、チャーチ・ヴィレッジから登場した6人組のCVC。彼らはビンテージ・ソウルやファンクをルーツに持つロック・バンドであることを、このアルバムで力強く示してくれました。これらのサウンドが、今後、どんなふうに成長していくか、ファンとして楽しみにしています。そして、こういった形で心弾ませるようなサウンドを追及していけば、シングル・リリース時に掲げていた野望ーー「ウェールズを飛び出して、世界で演奏してみたい」という夢は、必ずや現実のものになるものと思われます。

 

85/100


Featured Track 「Hail Mary」


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