Royel Otis ''Pratts & Pain''  オーストラリアのポストパンクユニットの注目作  ダン・キャリーがプロデュース

Royel Otis




 『Sofa Kings EP』で大成功を収めたロイエル・オーティスがデビュー・アルバム『Pratts & Pain』を本日リリースする。グラミー賞受賞者のダン・キャリー(Foals, Wet Leg)がプロデュースした本作は、サウス・ロンドンのプラッツ&ペイン・パブという居心地の良い場所で丹念に制作された。デュオは、歌詞を完成させ、アルバムの方向性を前進させるために、頻繁にそこに避難した。


 『プラッツ&ペイン』は、信頼と仲間意識によって育まれたロイエル・オーティスの音楽的進化の証である。音楽的には、このアルバムはインディーとサイケデリアをシームレスに融合させ、ファンを魅惑的な旅へと誘い、自発性を謳歌している。


 ロイエル・オーティスは、その核となる2人の絆に揺るぎはない。ロイエルが言うように、「私たちは互いの仲間や創造的相乗効果に喜びを感じている」という。「オーティスの直感と行動を信じることは第二の天性であり、私はそれを心から応援している。互いに支え合うことで、偉大さが生まれる」


 プロデューサーのダン・キャリーの有名なホーム・スタジオの角を曲がったところにあるサウス・ロンドンのパブ、「プラッツ&ペイン」は、ロイエル・オーティスの歴史において重要な位置を占めている。


 2023年初頭にキャリーとデビュー・アルバムを制作する際、幼なじみのオーティス・パヴロヴィッチとロイエル・マデルというオーストラリア出身のデュオは、歌詞を完成させ、最初のLPの方向性を決めるためにパブに出かけた。


「ダンがヴォーカルを録音してくれと頼むと、"30分だけ待ってくれ、プラッツ&ペインに行くから "と言って、パブで一杯やって、ショットを数杯飲んで、歌詞を書き上げたんだ」とロイエルは回想している。


 やがて、それが二人の間でちょっとした評判となり、彼らはこのレコードに『PRATTS & PAIN』というタイトルを名付けることになった。デビューアルバム全体を通して、ロイエル・オーティスはメロディアスでポップなインディーとウージーなサイケの間を揺れ動くが、ひとつのレーンに縛られている感じはほとんどない。ひとつのスタイルやムードが飽きられるとすぐに、サイケデリックな怪しさや不協和音のノイズへとハンドブレーキがかかり、聴く者を飽きさせることがない。2枚のEPの発表を経て、『PRATTS & PAIN』ではバンドの歴史のすべてが1枚のアルバムに集約されている。


 ロイエル・オーティスの曲を作るためのオープンな方程式は、『PRATTS & PAIN』にすべて書かれている。「Velvet」と「Big Ciggie」では、キャリーの11歳になる甥のアーチーがドラムで参加している。最初のシングル「Adored」では、完璧なインディー・ポップ・ヒットを完成させ、「Sonic Blue」では、この根底にあるエネルギーを保ち、鋭いラウド性に彩られたギターをトップに据えている。


 一方、「Velvet」はトーキング・ヘッズのユニークなエネルギーを持ち、「Molly」は不穏で深い雰囲気のスロー・ジャム。しかし、音楽がどのようなサウンド・テンプレートに基づいているにせよ、ロイエル・オーティスの核心は、相互信頼という基礎となるDNAに戻ってくる。ロイエルは言う。「一緒にいて楽しいし、難しいことはない。私はオーティスの考えを信頼している。



Royel Otis 『Pratts & Pain』 /  OWNESS PTY LTD



 ロイエル・オーティスは2019年にシドニーで結成された若手バンドであるが、すでに、ロンドンとマンチェスターのメディアを中心に注目を受けている。

 

 もちろん、オーストラリアという土地が英国人の移民が多いことを鑑みると、イギリスのリスナーがロイエル・オーティスの音楽にちょっとした親近感を見出すのは当然なのではないだろうか。そして彼らがロンドンでレコーディングし、そして同地のパブの名をタイトルに冠することについてもである。現在は夏のオーストラリアのミュージックシーンの盛り上がりを象徴づけるようなデュオであり、南半球にいる彼らが音楽を提供することは北半球に住む人にとって、春の雪解けを見届けるようなものである。

 

 さて、シドニーのデュオ、ロイエル・オーティスは3枚のEPを発表した後、『Sofa Kings』をリリースし、着々とファンベースを拡大させてきた。とりわけ、全般的な彼らの音楽の評価を高め、そして、ダン・キャリーをプロデューサーに起用するに至った経緯として「Murder on the Dance Floor」がある。このライブセッションは、ロイエル・オーティスがウェット・レッグに近い存在と見なされる要因となった。この曲のおかげでロイエル・オーティスがどれほどクールなバンドなのか、その評判が広まったのだ。 

 

 

 

 

 当時のファンの反応は「かなりクレイジーだった」とロイエル・オーティスはauducyの取材に対して次のように述べている。「私達はそれを始める前に一日リハーサルおこないました」とパブロヴィッチ。「ライブセッションを終えるのに一時間ありましたが、まあ、それが起こるということです」とマデルは付け加えた。

 

「私達はアイディアを検討していて、かなりストレスを感じていた」バンドの最初のアルバムのタイトル曲は、彼らの知名度を上昇させる要因となり、最初のヒットシングルになった。そして、このヒットシングルがどのように生まれたのかを解き明かした。


 ロイエル・オーティスはDMA'sと親しい関係にあるというが、そもそも「友達を利用しようと思った」と言い、「彼らにぴったりな曲を書いてみようと思った」と話している。このことはデュオがコミュニティ性を重視し、自分達の感覚をリアルな音楽としてアウトプットすることを証し立てる。もうひとつ、彼らの音楽を語る上で、日本の映画と漫画の影響があることも付け加えておきたい。ジブリ映画、「AKIRA」といった作品は彼らの音楽にSFと幻想的な要素をもたらしている。他にも韓国のポップカルチャーにも、ロイエル・オーティスの二人はちょっとした親しみを感じているという。

 

 ロイエル・オーティスの『Pratts & Pain』のサウンドは、ダンキャリーがプロデュースを手掛けたということもあってか、Wet Leg(ウェット・レッグ)のオルトポップとSF的な雰囲気を持つ未来志向のポスト・パンクのクロスオーバーに近い。しかし、そこにレコーディングの場所もあいまってか、英国的な匂いのするアルバムである。そして、実際にデュオがサイケ、ローファイ、ポスト・パンク、ネオソウル、プロトパンクという複数の影響を内包させながら、英国のフットボール・スタジアムで聞かれるようなチャントのコーラスを意識していることがわかる。アルバムの冒頭「Adored」は、Nilfur Yanyaの『Pailnless』に収録されていた「stabilise」の影響下にあり、ドライブ感とフックのあるポスト・パンクをよりスタイリッシュに洗練させている。

 

 また、ロイエル・オーティスは、ディスコサウンドとジャミロクワイからの影響を公言しているが、「Fried Rice」は、ダンサンブルなポスト・パンクをイギリス的なテンションで包み込んだかのような痛快なトラックだ。ワイト島のデュオのように脱力感のあるポップセンスと曲の運び方は同様であるのだが、そこにフットボールチームのチャントのようなテンションを付加しているのがかなり新鮮である。タイトルを「Fish & Chips」にしなかったのが惜しいが、少なくともロンドンのパブでギネスかペールエールのパイントを飲み、プレミアリーグの試合を観戦する時のような、熱狂と無気力さと陽気さの中間にある奇妙なワクワクした感覚がこの曲にはわだかまっている。

 

 サイケロック・サウンドからの影響はファンクの要素と合わさり、セッションの内的な熱狂性がパッケージされている。しなるようなギターのカッティングは70、80年代のミラーボールディスコやディスコファンクの要素と融合し、ノースロンドンのGirl Rayを思わせるダンサンブルなナンバーに昇華している。ただインディーポップの要素が強いガール・レイとは対象的にロイエル・オーティスのサウンドはギター・ポップやLAのローファイやサイケロックに傾倒している。それは例えば、Miami Horror(マイアミ・ホラー)のようなスタイリッシュなディスコサウンドという形で展開される。これはまさにウェスト・コーストサウンドの現代版として楽しめるかもしれない。

 

 ロイエル・オーティスのプロトパンクからの影響、Sonic Youthの変則チューニングのギターサウンドの影響は「Sonic Blue」に見いだせる。『Bad Moon Rising』の頃のニューヨークのアヴァン・ロック/プロトパンクを一般的に聞きやすく親しみやすく昇華させ、ドライブ感のあるポストパンクによって展開させる。


 このアプローチは、IDLESと大きな違いはないと思うが、シンセのマテリアルのキラキラした輝き、ボーカルの鮮烈な印象は「TANGK」に匹敵する。全体的にはロサンゼルスの双子のデュオ、The Gardenのような勢いに任せたような適当さと荒削りさがあるが、適度に力の抜けたサウンドはスカッとしたカタルシスをもたらす瞬間がある。疾走感のあるポスト・パンクは炭酸ソーダを飲み終えたときのような清々しい感じに満ちている。

 

 ロイエル・オーティスのサウンドは、その後も変幻自在に基底とする音楽性を少しずつ変化させていき、「Heading For The Door」では、ネオソウルの影響を絡めたインディーポップで聞き手にエンターテイメント性をもたらし、続いて「Velvet」では、70年代のウェストコーストロックをプレミアリーグのチャントのように変化させる。

 

 これらのサウンドがそれほど安っぽくならないのは、彼らがブルース・ロックを何らかの形で間接的に聴いているから。そしてそのイメージからは想像できないような渋さは、ローリング・ストーンズのようなホンキートンクに近くなり、最終的にはSham 69のフットボールのチャントを基調とするUKのオリジナルパンクの源流に至る。言うまでもなく、ライブステージではシンガロングを誘発するはず。これらのサウンドには現在のロンドンのバンドよりもイギリス的な本質が流れているかもしれない。それはもしかすると、デュオの隠れたイギリス的なルーツに迫っているとも言える。 

 

 

「Velvet」

 


 

 6曲目までを前半部とすると、アルバムの後半では、ややこれらの変幻自在なサウンドに変化が見える。

 

 いうなれば、パイントのギネスをしばらくテーブルの上に置いておいた時のような渋い味わいに変わる。「IHYSM」は勢いのあるポストパンクで鮮烈さを感じさせ、「Molly」でもBar Italia(バー・イタリア)の三人が好むようなダウナーなスロウバーナーとして楽しめる。「Daisy Chain」ではウェット・レッグのようなアンセミックなインディーポップとニューウェイブの合間を探り、Indigo De Souzaのデビュー当時の鮮烈さを思わせる。

 

 それらのダサさとかっこよさの絶妙なバランス感覚を持ち、アルバムのその後の収録曲をリードし続けている。ただ本来、ロックやパンクはそういったアンビバレントな感覚を探るものでもあるからそれほど悪いことではない。そのあと、ギリギリの綱渡りのようなスリリングな感覚で曲が進んでいき、「Sofa King」ではダンサンブルなビートに彩られたサイケデリック・ロック、「Glory to Glory」では、The ClashのようなUKのオリジナルパンクをインディーポップから再解釈している。曲のサビの部分にはフックがあり、これらのアンセミックな展開はライブでその真価を発揮しそう。

 

 このアルバムの最も興味深い点は、終盤になればなるほど音楽的な年代が遡っていくような感覚を覚えること。


「Always Always」ではBeach Fossilsがデビュー時に試みたビンテージロックの再現性を再考する。クローズ曲では、ロンドンのHorseyのロックとミュージカルを融合したようなシアトリカルなサウンドで終わる。 そしてまだ何か残っているという気がする。

 

 正直なところ、ロイエル・オーティスの二人が作り出すサウンドは、取り立てて圧倒的なオリジナリティーがあるというわけではないけれど、アルバムの収録曲の随所から、二人の才覚の煌めきと、押さえつけがたいようなポテンシャルも感じ取れる。それはおそらく両者の信頼関係からもたらされるものなのだろうか。しかし、まだ、このアルバムで彼らのポテンシャルの全てを推し量ることは難しいかもしれません。ただ、今週のアルバムの中では、一番真新しさと楽しさがある素敵なサウンドでした。

 

 


85/100




Royel Otis 『Pratts & Pain』はロイエル・オーティスの自主レーベル、OWNESS PTY LTDから発売中。ストリーミング/ご購入はこちら

 


 

Weekend Featured Track「Sonic Blue」





先週のWEFは以下よりお読みください: