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ルイビルのアートロック・トリオ、Womboが今週金曜日に4枚目のアルバム『Danger in Fives』をリリースする。 このプロジェクトは、2023年に4曲入りの『Slab EP』をリリースして以来、バンドにとって初めてのリリースとなる。アルバム発売前にぜひチェックしてもらいたい。


ウォンボは、最後の先行シングル「S.T. Tilted」をリリースし、バンドのキャメロン・ロウ(ギター)が監督を務めたミュージック・ビデオを発表する。

 

 「S.T.Tilted」は、ロウのオフキルターなギター、シドニー・チャドウィックの魅惑的なヴォーカルとベース、ジョエル・テイラーの骨格のあるパーカッションなど、Womboの最も純粋なエッセンスを抽出し、彼らの特異な映像レンズを通してフィルターにかけたものだ。 S.T.ティルテッド」では、熱狂的なリフの上でメロディーが高らかにハミングし、リンプ・ビズキットからエリック・B&ラキムまで、さまざまな音楽が引用されている。


「 S.T.Tileted」のミュージック・ビデオは、ロウとチャドウィックがチャドウィックのガレージで手作りした待合室のセットで構成され、デンジャー・イン・ファイヴスの規範となる、熟練したセルフプロデュースビデオである。


この3分半のカットもまた、型破りなパーカッション、不吉なギター、不可解な歌詞(この場合は「そして傾いた頭で、バランスを取り戻そうとする/時々スイッチを入れて、静かに開く」というマントラが繰り返される)の間で驚くべきバランスを保っている。 ギタリストのキャメロン・ロウが言うように、この曲はバンドが『Slab』以降に書いた最初の曲で、『Fives』のために最終的にカットされた。 


「うまくいくとは思っていなかったが、対照的なパートがすべてクールな仕上がりになった。 「Womboの曲の中で、この曲のようにギターが最初に書かれ、ベースとドラムのパートがその後に地下室でジャム・アウトされるのは珍しいことだ。 奇抜なギター・パートは最後にできたんだ」



「S.T. Tilted」



イギリスの実験的なポストパンク5人組バンド、Squid(スクイッド)がWarpからニューアルバム『Cowards』をリリースした。(レビューを読む)


今回、彼らは新曲 「The Hearth and Circle Round Fire」 をリリースした。最新アルバムのようにマスロック風のテイストであるが、一方で、パンキッシュなエネルギーに満ちあふれている。いわば彼らのパワフルな音楽性がにじみ出た一曲である。


ボーカル兼ドラマーのオリー・ジャッジは、プレスリリースでこの曲について次のように語っています。


「”The Hearth and Circle Round Fire "はパンキッシュな曲で、とても簡単にできたんだけど、その簡単さに不満を感じていた。最初は、15分のジャムとしてレコーディングし、その後、音源をバラバラにしてテープで貼り合わせることに決めた。この曲は実は、レイ・ブラッドベリの『華氏451』やケイ・ディックの『They』に出てくるディストピアの世界にインスパイアされたんだ」
 
 
 
 
 「The Hearth and Circle Round Fire」

イタリアのフィエスタ・アルバ    ポリリズム、ポスト・マスロック、そして世界中の声を通したグローバルな音の旅


謎めいたイタリアの実験的なロックバンド、Fiesta Alba(フィエスタ・アルバ)は、エレクトロニック、ヒップホップ、アフロビート、プログレ、オートチューンのボーカル、アヴァンキャルド・ジャズマスロックを組み合わせて、独創的な音楽スタイルをヨーロッパのシーンにもたらそうとしている。 Battles、C'mon Tigre、Squidなど、実験的なロックがお好きな方は聴いてみてほしい。


彼らはメキシコのレスリングのルチャ・マスクを特徴とし、異形としての印象が強い。不気味だが、そのサウンドはさらにワイアードだ。覆面のバンドという面ではイギリスのGOATを彷彿とさせる。しかし、そのサウンドはミステリアスでエレクトロニックのキャラクターが強い。今回、バンドのPRエージェンシーから、バンドメンバーによるトラックバイトラックが到着した。


デビュー・フル・アルバム『Pyrotechnic Babel』が2025年3月21日(金)にリリースされた。 ここ数週間、シングル「No Gods No Masters」(feat.カタリーナ・ポクレポヴィッチ)が先行発売されている。 このアルバムは、neontoaster multimedia dept./ Bloody Soundレーベルからデジタル・フォーマットとCD(スタンダード・バージョンと限定デラックス・バージョン)で発売済み。



『Pyrotechnic Babel』は、フィエスタ・アルバによる初の公式アルバムであり、2023年のセルフタイトルEPに続く2枚目のリリース。 40分以上に及ぶこのアルバムは、複雑で多面的な音楽を提供し、彼らの高い評価を得たデビュー作で紹介された言語やテーマを洗練させ、発展させている。


タイトルの『Pyrotechnic Babel』は、音のマニフェストである。数学ロックに根ざしながら、ジャンル、音色、言語を変幻自在にブレンドしている。 アフリカン・ポリリズム、ダブ、20世紀のアメリカ人作曲家の洗練されたミニマリズム、ループトロニカ、プログレッシブ・ロック、現代ブリティッシュ・ジャズ、ドラムンベースが豊かなサウンドスケープに融合している。 その結果、色彩とエネルギーがダイナミックに爆発し、まさに花火のようなバベルとなった。


初リリースでイタリア、アメリカ、アフリカの声を取り入れたフィエスタ・アルバは、その幅をさらに広げた。 


このアルバムでは、日本、中央ヨーロッパ、アフリカ、イタリアのシンガーやラッパーが、ラディカルな思想家、哲学者、現代の語り部たちがフィーチャーされている。 バンドの複雑な音楽的テクスチャーに支えられたこれらの声は、現代世界の矛盾や複雑さを生き生きと表現している。


周縁部出身でありながら、紛れもなく国際的なビジョンを持つフィエスタ・アルバは、音と文化の探求を続けている。 『Pyrotechnic Babel』は、野心的な第二のステップであり、全世界からの声、音、アイデア、闘争に満ちたレコードである。



 

 

【Track  By Track】フィエスタ・アルバによる楽曲解説


1. No Gods No Masters (feat. Katarina Poklepovic)


シンセティックなサウンドのギター、アフロなベースライン、デジタルビートを模倣したドラムの中、カタリーナ・ポクレポヴィッチ(ソー・ビースト)の声が、神も主人も必要ない感覚の帝国を語りかける。

 

2. Technofeudalism (feat. Gianis Varoufakis)


ループするギターとプログレッシブ・ミュージックのエコーが、ディストピア的な現在を宣告された惑星のサウンドトラックとして容赦ないリズムを打ち鳴らす中、現代の預言者が新しい資本主義のアイデンティティを概説する。


3. Je Suis le Wango (feat. Sister LB)


ミニマルなギターと断片的なベースラインが密に織りなす上に、セネガル出身のシスターLBの歌声が音楽的、地理的な境界を超えた架け橋を築く。 彼女は目に見えない障壁を燃え上がらせる花火のようなバベルを歌う。


4. Collective Hypnosis


息もつかせぬエレクトロニクスが、ループするギターとともに縦横無尽に回転する。 アルバム初のインストゥルメンタル・トラックでは、タイトなリズムと万華鏡のようなシンセとギターのレイヤーが、私たち全員が陥ってしまった集団催眠を物語る。


5. Waku Waku (feat. Judicious Brosky)


バトルズとヘラの中間のような、インストゥルメンタル・マス・ロックが織り成す濃密なテクスチャーと非常にタイトなリズムの上で、日本人ラッパーの武骨な歌い回しが際立つ。 高速列車を舞台にした極東の小さなラブストーリー。


6.Post Math


インストゥルメンタルのポリリズムが幾重にも重なり、多面的なハイパーキューブを形成する。 エレクトロニック・ブラス、ベース・ライン、歪んだギター・リフ、ミニマルなシンセ、切迫したドラム・マシーンの中で、奇妙なメトリックス、トニック・シフト、不協和音が見事に調和している。 タイトルが示すように、この曲はほとんどマニフェストだ。


7. Learn to Ride Hurricanes (feat. Alessandra Plini)


ディストピア社会で生きることの葛藤についての生々しい寓話が、宣言的でありながら夢のような声で歌われている。 ストリングスが幽玄なギターに寄り添い、アルバムの中で最もロック色の強いエピソードとなっている。


8. Doromocrasy


ギターとシンセが交差し、追いかけっこをしながら、四角く容赦のないリズムを刻む。 スピードのパワーの神話を物語る、カラフルで花火のようなインストゥルメンタル曲。


9. Safoura (feat. Pape Kanoute)|


アフリカのグリオの賢者が、マスロックのポリリズムとエシェリアのアラベスクの上に座り、世界最古の物語を語る。


10. Mark Fisher Was Right (feat.Mark Fisher)


加速度論者の故マーク・フィッシャーは、オンユー・サウンドの威厳に響くポリリズミックなダブ・トラックに先見の明を感じさせる歌声を乗せ、アルバムを最高の形で締めくくる。


【Biography】


フィエスタ・アルバの音楽は、オルタナティヴ・ロックの進化を通して、提案、影響、実験がダイナミックに混ざり合い、本物のルートを描いている。


 アングロサクソン的な数学ロックの独特な解釈から始まったバンドは、アフリカン・ポリリズム、ループトロニカ、ダブ、ヒップホップ、プログレッシブ、ドラムンベースとの過激なハイブリッドによって、ジャンルの限界を越えようとしている。 インストゥルメンタルに重点を置きながら、フィエスタ・アルバは世界中の声をサウンドに加える。 


各トラックはユニークな個性を持ち、パンク、ラップ、アフロビートの要素で汚染されている。 その結果、ハイパー・キネティックで洗練された万華鏡のようなサウンドが生まれ、観客や批評家を魅了し、彼らのデビューEP(s/t, neontoaster multimedia dept.)が熱狂的に歓迎されたことが証明している。 


この研究は、このファースト・アルバム『Pyrotechnic Babel』において増幅され、バンドは新たな音楽的領域を探求し、慣習に挑戦し続けている。 実験と不適合に満ちた彼らのアプローチは、ジャンルやアルゴリズムに縛られる音楽シーンに対抗するものだ。


バトルズからキング・クリムゾン、アイ・ヘイト・マイ・ヴィレッジ、カエ・テンペスト、エイドリアン・シャーウッド、サンズ・オブ・ケメットを経て、ブライアン・イーノ、スティーヴ・ライヒ、フェラ・クティといった巨人にまで影響を受けたと宣言している。 彼らの音楽の流動的な進化を反映した、モザイクのような影響。

 Squid  『Cowards』

 

Label: Warp

Release: 2025年2月7日

 

 

Review

 

最もレビューに手こずった覚えがあるのが、Oneohtrix Point Never(ダニエル・ロパティン)の『Again』だったが、ブリストルのポストパンクバンド、Squidの『Cowards』もまた難物だ。いずれも、Warpからの発売というのも面白い共通点だろう。


そして、いずれのアルバムも成果主義に支配された現代的な観念からの脱却を意味している。スクイッドは無気力と悪魔的な考えがこのアルバムに通底するとバンドキャンプの特集で語った。また、サマーソニックの来日時の日本でのプロモーション撮影など、日本に纏わる追憶も織り交ぜられており、日本の映像監督が先行曲のMVを制作している。従来、スクイッドは、一般的なロンドンのポストパンクシーンと呼応するような形で登場。同時に、ポストパンクの衝動性というのがテーマであったが、ボーカルのシャウトの側面は前作『O Monolith』から少し封印されつつある。それとは別のマスロックの進化系となる複雑なロックソングを中心に制作している。さて、今回のイカの作品は音楽ファンにどのような印象をもって迎え入れられるのだろう。

 

 

近年、複雑な音楽を忌避するリスナーは多い。スクイッドも、時々、日本国内のリスナーの間でやり玉に挙げられることもあり、評論家筋の評価ばかり高いという意見を持つ人もいるらしい。少なくとも、最新の商業音楽の傾向としては、年々、楽曲そのものが単純化されるか、省略化されることが多いというデータもあるらしい。また、それはTikTokのような短いスニペットで音楽が聞かれる場合が増加傾向にあることを推察しえる。ただ、音楽全体の聞き方自体が多様化しているという印象も受ける。以前、日本のTVに出演したマティ・ヒーリーは短いスニペットのような音楽のみが本質ではないと述べていた。結局、音楽の楽しみ方というのは多彩化しており、簡潔な音楽を好む人もいれば、それとは反対に、70年代のプログレッシヴロックのような音楽の複雑さや深みのような感覚を好き好むと人もいるため、人それぞれであろう。ちゃちゃっとアンセミックなサビを聞きたいという人もいれば、レコードで休日にじっくりと愛聴盤を聞き耽りたいという人もいるわけで、それぞれの価値観を押し付けることは出来ない。

 

一方、スクイッドの場合は、間違いなく、長い時間をかけて音楽を聞きたいというヘヴィーなリスナー向けの作品をリリースしている。また、『Cowards』の場合は、前作よりも拍車がかかっており、まさしくダニエル・ロパティのエレクトロニクスによる長大な叙事詩『Again』のポストロックバージョンである。スクイッドは、このアルバムの冒頭でチップチューンを絡めたマスロックを展開させ、数学的な譜割りをもとに、ミニマリズムの極致を構築しようとしている。

 

スクイッドはアンサンブルの力量のみで、エキサイティングなスパークを発生させようと試みる。バンドが語るアパシーという感覚は、間違いなくボーカルの側面に感じ取られるが、バンドのセッションを通じてアウトロに至ると、そのイメージが覆されるような瞬間もある。それは観念というものを打ち破るために実践を行うというスクイッドの重要な主題があるわけだ。激動ともいえるこの数年の大きな流れからしてみれば、小市民は何をやっても無駄ではないのかという、音楽から見た世界というメタの視点から、無気力に対して挑もうとする。これが「Crispy Skin」という日常的な出来事から始まり、大きな視点へと向かっていくという主題が、ミニマリズムを強調した数学的な構成を持つマスロック、そしてそれとは対象的な物憂げな雰囲気を放つボーカルやニューウェイヴ調の進行を通じて展開されていく。この音楽は結果論ではなく、「過程を楽しむ」という現代人が忘れかけた価値観を思い出させてくれるのではないか。

 

以前、ピーター・ガブリエルのリアル・ワールド・スタジオ(実際はその近くの防空壕のようなスタジオ)で録音したとき、スクイッドは成果主義という多くのミュージシャンの慣例に倣い実践していたものと思われる。だが、このアルバムでは彼等は一貫して成果主義に囚われず、結果を求めない。それがゆえ、非常にマニアックでニッチ(言葉は悪いが)なアルバムが誕生したと言える。その一方で、音楽ファンに新しい指針を示唆してくれていることも事実だろう。

 

そして「プロセスを重視する」という指針は、「Building 500」、「Blood On The Boulders」に色濃く反映されている。ベースラインとギターラインのバランスを図ったサウンドは、従来のスクイッドの楽曲よりも研ぎ澄まされた印象もあり、尚且つ、即興演奏の側面が強調されたという印象もある。いずれにしても、ジャジーな印象を放つロックソングは、彼等がジャズとロックの融合という新しい節目に差し掛かったことを意味している、というように私自身は考えた。


続く「Blood On The Boulders」では、ダークな音楽性を通して、アヴァンギャルドなアートロックへと転じている。ハープシコードの音色を彷彿とさせるシンセのトリルの進行の中で、従来から培われたポストパンクというジャンルのコアの部分を洗い出す。この曲の中では、女性ボーカルのゲスト参加や、サッドコアやスロウコアのオルタネイトな性質を突き出して、そしてまるで感情の上がり下がりを的確に表現するかのように、静と動という二つのダイナミクスの変遷を通じて、スクイッドのオリジナルのサウンドを構築するべく奮闘している。まるでそれは、バンド全体に通底する”内的な奮闘の様子”を収めたかのようで、独特な緊張感を放つ。また、いっとき封印したかと思えたジャッジのシャウトも断片的に登場することもあり、これまで禁則的な法則を重視していたバンドは、もはやタブーのような局面を設けなくなっている。これが実際的な曲の印象とは裏腹に、何か心がスッとするような快感をもたらすこともある。

 

 

同じように、連曲の構成を持つ「Fieldworks Ⅰ、Ⅱ」では、ハープシコードの音色を用い、ジャズ、クラシックとロックが共存する余地があるのかを試している。もっとも、こういった試みが出来るというのがスクイッドの音楽的な観念が円熟期に達しつつある証拠で、アンサンブルとしての演奏技術の高いから、技巧的な試みも実践出来る。しかし、必ずしも彼等が技巧派やスノビズムにかぶれているというわけではない。


例えば、「Ⅰ」では、ボーカルそのものはスポークワンドに近く、一見すると、回りくどい表現のように思えるが、ハープシコードの対旋律的な音の配置を行い、その中でポピュラーソングやフォーク・ソングを組み立てるというチャレンジが行われている。そして「Ⅰ」の後半部では、シンセによるストリングスと音楽的な抑揚が同調するようにして、フィル・スペクターの「ウォール・オブ・サウンド」のオーケストラストリングを用いて、息を飲むような美しい瞬間がたちあらわれる。この曲では必ずしも自己満足的なサウンドに陥っていないことがわかる。ある意味では、音楽のエンターテインメント性を強調づけるムーブメントがたちあらわれる。

 

また、「Ⅱ」の方では、バンドによるリズムの実験が行われる。クリック音(メトロノーム)をベースにして、リズムから音楽全体を組み上げていくという手法である。また、その中にはジャズ的なスケール進行から音楽的な細部を抽出するというスタイルも含まれている。一つの枠組みのようなものを決めておいて、そのなかでバンドメンバーがそれぞれ自由な音楽的表現を実践するという形式をスクイッドは強調している。それらがグラスやライヒのミニマリズムと融合したという形である。それが最終的にはロックという視点からどのように構築されるかを試み、終盤に音量的なダイナミクスを設け、プログレやロック・オペラの次世代にあるUKミュージックを構築しようというのである。試みはすべてが上手くいったかはわからないけれども、こういったチャレンジ精神を失えば、音楽表現そのものがやせほそる要因ともなりえる。

 

以後、楽曲自体は、聞きやすい曲と手強い曲が交互に収録されている。「Co-Magnon Man」ではロックバンドとしてのセリエリズムに挑戦し、その中でゲストボーカルとのデュエットというポピュラーなポイントを設けている。シュトックハウゼンのような原始的な電子音楽の醍醐味に加えて、明確に言えば、調性を避けた十二音技法の範疇にある技法が取り入れられるが、一方で、後半では珍しくポップパンクに依拠したようなサビの箇所が登場する。明確にはセリエリズムといえるのか微妙なところで、オリヴィエ・メシアンのような「調性の中で展開される無調」(反復的な楽節の連続を通して「調性転回」の技法を用いるクラシック音楽の作曲方法で ''Sequence''と言う)というのが、スクイッドの包括的なサウンドの核心にあるのだろう。これらの実験音楽の中にあるポップネスというのが、今後のバンドのテーマになりそうな予感だ。また、ギターロックとして聞かせる曲もあり、タイトル曲「Cowards」はそれに該当する。ここでは、本作のなかで唯一、ホーンセクション(金管楽器)が登場し、バンドサウンドの中で鳴り響く。アメリカン・フットボールの系譜にあるエモソングとしても楽しめるかもしれない。

 

どうやら、アルバムの中には、UKの近年のポストロックやポストパンクシーンをリアルタイムに見てきた彼等にしか制作しえない楽曲も存在する。「Showtime!」は、最初期のBlack Midiのポスト・インダストリアルのサウンドを彷彿とさせ、イントロの簡潔な決めとブレイクの後、ドラムを中心としたスムーズな曲が繰り広げられる。そして、アルバムの序盤から聴いていくと、観念から離れ、現在にあることを楽しむという深い主題も見いだせる。そのとき、スクイッドのメンバーは、おそれや不安、緊張から離れ、本来の素晴らしい感覚に戻り、そして心から音楽を楽しもうという、おそらく彼等が最初にバンドを始めた頃の年代の立ち位置に戻る。


アルバムの最後では、彼等のジャンルの括りを離れて、音楽の本質や核心に迫っていく。ある意味では、積み上げていったものや蓄積されたものが、ある時期に沸点のような瞬間を迎え、それが瓦解し、最終的には理想的な音楽に立ち返る。その瞬間、彼等はアートロックバンドではなくなり、もちろんポストパンクバンドでもなくなる。しかし、それは同時に、心から音楽をやるということを楽しむようになる瞬間だ。「Cowards」は、音楽的に苦しみに苦しみ抜いた結果にもたらされた清々しい感覚、そして、次なるジャイアント・ステップへの布石なのである。

 

 

 

 

 82/100

 

 

Best Track 「Blood On The Boulders」

 

 

イギリス/ブリストルのエクスペリメンタル・ポストパンク5人組、Squidが今週金曜日にWarpからアルバム『Cowards』をリリースする。 3枚目のシングル「Cro-Magnon Man」がリリースされた。 この曲は、ギタリストのルイス・ボルレーズのヴォーカルと、ゲスト・ヴォーカリストのクラリッサ・コネリー、トニー・ンジョク、ローザ・ブルックをフィーチャーしている。


『Cowards』はスクイッドのサード・アルバムで、2023年の『O Monolith』(レビューを読む)と2001年のデビュー・アルバム『Bright Green Field』に続く作品である。 Squidは、Louis Borlase、Ollie Judge、Arthur Leadbetter、Laurie Nankivell、Anton Pearsonが参加している。


『Cowards』は、ロンドンのクラウチ・エンドにあるチャーチ・スタジオで、マーキュリー賞受賞プロデューサーのマルタ・サローニとグレース・バンクスと共にレコーディング。 バンドの最初の2枚のアルバムを録音した長年のコラボレーター、ダン・キャリーがプロデュースを担当した。 ジョン・マッケンタイア(トータス)がミキシングを、ヘバ・カドリーがマスタリングを担当した。


新しいアルバムについて、ボーレイズは以前のプレスリリースでこう語っている。 「素晴らしい曲作りのアルバムを考えていた。 濃密で複雑だった『O Monolith』とは全く異なる方法で共鳴するシンプルなアイデア」ジャッジは、「ツアーは、当初は気づかなかった方法でこのアルバムに反映された。 ニューヨーク、東京、東欧など、5人全員が一緒に訪れた場所だった」と回想する。


「Cro-Magnon Man」




 


 

伝説的なポストロックバンド、MONOの旅は、島根から始まり、東京に移り、そして最終的にアメリカへと繋がっていった。弦楽器を含めるインストを中心としたギターロックの美麗な楽曲は、日本のポストロックシーンのシンボルにもなり、このジャンルの一般的な普及に大きな貢献を果たした。近年、彼らの唯一無二の音楽観は、ライブステージで大きく花開きつつある。


昨年、MONOは、伝説的なエンジニアで、ロパート:プラントのソロアルバム、ニルヴァーナの『In Utero』を手掛け、Big Black、Shellacとしても活動したスティーヴ・アルビニのプロデュースによるアルバム『Oath』を発表した。本作は、スティーブ・アルビニのお膝元のエレクトリカル・オーディオで制作されている。アルビニが最後に手掛けたアルバムの一つでもあった。

 

『You Are There』(2006)を中心にポストロック/音響派として象徴的なカタログを持つ彼らの魅力はレコーディングだけにとどまらない。年間150本のステージをこなす、タフなライブ・バンドとしても熱狂を巻き起こしてきた。

 

MONOは、大規模なワールドツアーを発表し、ライブを続けている。パリ、ロンドン、ブエノスアイレス、ベルリン、シカゴ、ブルックリン、上海など、文字通り世界の主要都市でコンサートを続けている。その日程の中にはアジアツアーも含まれており、東京、大阪での公演を行った。

 

今回、2024年11月、Spotify O-East(東京)で開催されたライブパフォーマンスの模様が配信された。ライブのハイライト「Everlasting Light」 では、トレモロにより生み出されるドローンのギターを中心にダイナミックなアンサンブルが構築されている。MOGWAI、Explosions In The Skyに匹敵する迫力を映像として収録。重厚でありながら叙情性を失わない正真正銘の音響派のサウンドを聴くと、およそ結成25年目にしてMONOの最盛期がやってきたことを痛感させる。

 

2025年もワールドツアーは進行中だ。2月19日のボストン公演に始まり、フィラデルフィア、アトランタ、ヒューストン、シアトル、デンバーと北米を中心に公演を開催する予定である。現時点では3月の公演日程が公表されている。公式ホームページにてバンドの日程を確認出来る。

 

 

 「Everlasting Light」