アメリカのモダンチルウェイヴシーンをひた走るトロ・イ・モア(チャズ・ベア)は、7作目のアルバムとなる「Mahal」のリリースを先週発表しました。

 

それに伴い3番目の先行シングル「The Loop」を公開。60-70年代のサイケデリックの影響を感じさせる遊び心満点のファンキーな楽曲です。

 

「The Loop」は2月22日にストリーミング配信が開始されています。チルウェイブ・アーティストと彼の所有するGo Carsでサンフランシスコ市街を流すビデオ、カスタマイズされた「マハル」が一緒に到着。また、このビデオには、フィリピン人のラッパー、カメオも友情出演しています。

 

トロイ・モアの新作アルバム「Mahal」は、デッド・オーシャンから4月29日にリリースされる予定。チャズ・ベアは今回の「The Loops」という曲で、デジタル時代に最新の情報を入手するのがいかに難しいかについて、実にチャズらしいユニークさを交えて次のように歌っています。

 

「East Coast friends fill in me,I Know you get the early scoop/

 

   Online trends that border cringe start to feel overused」

 

既に「Mahal」の先行シングルとして「Postman」「Magazine」の2曲が発表されています。次の新作アルバムもいかにもチャズ・モアらしい開放感溢れるファンキーなアルバムとなりそうです。 



 

 

「Mahal」Dead Oceans  


 


Tracklist

 

1. The Medium (feat. Unknown Mortal Orchestra)
2. Goes By So Fast
3. Magazine (feat. Salami Rose Joe Louis)
4. Postman
5. The Loop
6. Last Year
7. Mississippi
8. Clarity (feat. Sofie)
9. Foreplay
10. Déjà Vu
11. Way Too Hot
12. Millennium (feat. The Mattson 2)
13. Days in Love 



 

・Portico Quartetto 「Next Stop」


まず最初に紹介するのは、厳密にはシングルでなく、最注目のEP作品。ロンドンを拠点に活動するインストゥルメンタルバンド、ポルティコカルテットの「Next Stop」です。

 

これまでに、Nina Tuneからも作品をリリースしています。ジャズ、アンビエント、エレクトロほかの要素を込め、テクニカルな演奏力を交え、玄人好みのインストロックが展開。ノルウェー、オスロのJaga Jazzistにも比する実力派のジャズ・ロックグループの才気煥発な演奏が味わえる一作です。

 

 

 

 

 

・Liam Gallagher 「Everything Electric」

 

オアシスの新作を待ち望む往年のファンの期待を尻目に、快調に良質なソロ作品を量産し続けているリアム・ギャラガー。いやあ、今回も絶好調!!

 

しかし、ソングライターとしての才覚は、近年、「Why Me? Why Not」の素晴らしい出来栄えを見るかぎり、最盛期を迎えようとしているように思えませんか。かっこいいロックンロールとは何か? どんな年代も純粋に楽しめるロック音楽とは何か? 内面に答えを求め続けた硬派のロックシンガー、リアム・ギャラガーの答えがこのシングルに明示されているような気がします。

 

 

 

 

 

・Guide By Voices 「Never Mind The List」

 

 

ガイド・バイ・ヴォイセズは、Superchunk,Pavementと並んでUSインディーロックの代名詞とも言えるバンドなんですが、意外と、一般的な知名度に恵まれていないんでしょうか。少なくとも、「Teenage FBI」だけは聴いておいて下さい。

 

さて、今月にリリースされた「Never Mind The List」も、1990年代のカレッジロックの雰囲気を漂わせた、渋くてかっこいい一曲。R.E.MやPavementをさらに渋くした感じです。USインディー・ロックマニアは是非チェックしておきたいシングルです。 

 

 




・Mogwai 「Reach」

 

 

スコットランドのロックシーンを率いるモグワイが今月リリースしたシングル「Reach」は、バンドとして改めて原点回帰を果たしたかのような曲。

 

マーチングのようなリズム、宇宙的な世界観に加え、ピアノ、繊細なギターのフレーズが活かされている。いかにもモグワイらしい静謐なエネルギーを感じる神秘的な作品です。

 

 

 

 

・GoGo Penguin「Ascent」

 


ゴー・ゴー・ペンギンは、2009年、マンチェスターで結成されたバンドで、ピアニストとウッドベース奏者をメンバーに擁しているのが特徴です。表向きには、ジャズ・アンサンブルとしての表情を持ち、ニュージャズ、アンビエント、実験音楽と、これまでに多種多様な音楽を生み出しています。

 

今月にリリースされた「Ascent」は、ピアノの演奏が活かされた清涼感のあるシングルです。


電子音楽、ジャズ、クラシックを自在にクロスオーバーした上品さとおしゃれさを兼ね備えた一曲、ジャズ・アンサンブルとしての演奏のスリリングさが味わえる貴重な一作です。

 

 

 

・Laffey 「Sweet Dreams」

 

カナダのローファイ・ヒップホップシーンにおいて、良質な楽曲を生み出しているアンドリュー・ラフェイ。

 

Ornithologyとコラボレートした今作「Sweet Dreams」でも、ピクチャレスクな音楽性については変わらず。ピアノ、エレクトリックギター、リズムトラックというシンプルな構成で、虫の声のサンプリングが挿入されるという作風で、美しい情景を思わせるローファイ・ヒップホップ。ノスタルジックな気分にさせてくれ3曲収録のシングル、癒やしを求める人には最適です。


     

  

・Rex Orange Country 「Amaznig」

 

イギリス出身のアーティストでありながら、なぜかアメリカのオレンジ・カウンティに強い愛着を感じているレックス・オレンジ・カウンティ。

 

爽やかで親しみやすいポップスを書くソングライティング能力にかけては彼の右に出るミュージシャンは少ない。 


今月リリースされたシングル「Amazing」もポップスとして鉄板の一曲です。ROCらしいひねりのない明るさ、爽快感満載のポピュラー・ミュージックとなっています。Amazing!! 

 

 
 

 

 

 

・Norah Jones 「Come Away With MeーAlternate Version」

 

12月にホリデイソング集「I Dream Of Christmas」のデラックスバージョンをリリースし、さらに年明けには、エンパイアステーツビルディングで、ビートルズの「Let It Be」の演奏を披露したノラ・ジョーンズ。
 
さて、今月リリースされた「Come Away With Me」は、2002年のグラミー賞を総なめしたアルバム「Come Away With Me」のオルタネイト・バージョン。しっとりとした哀愁漂うバラードソングを歌わせたら、ジョーンズの右に出るものなし、さらに、シンガーソングライターとしての渋さも出てきています。やはり良い曲だなあと痛感!!



 

 今日では、音声を録音し、それを記録として残していくという方法はごく自然な技術となりました。現代では、私達は何らかの音声を、スマートフォンに内蔵されたマイクロフォンを通して簡単に録音出来るようになりましたが、もちろん、20世紀以前はそうではありませんでした。音声記録を何らかのデータとして残すためには、様々な発明者の科学に対する探求が必要だったことは確かなのです。

 

現代のレコードプレイヤー、ターンテーブルの歴史は19世紀の求められます。一般的に、レコードプレイヤーの前身ともいえる蓄音機を発明したのはかのエジソンというのが通説になっていますが、エジソンの以前に、音声記録を残した発明家がいたことを皆さんはご存でしょうか??

 

 

 

1.フォノグラフの発明、 エドワード・レオン・スコット

 

 

1857年に録音の過程を最初に実現したのは、フランスの発明家、エドワード・レオン・スコットでした。

 

フランスの印刷業者、発明家でもあるエドワード・レオン・スコット 彼は、エジソンよりも前に蓄音機の原型を発明している

 

このシステムは、「フォノトグラフ」と称され、人間の聴覚の解剖的な知見から生み出されたものでした。

 

そして、これはマイクロフォンの原型を形作ったとも言える画期的な発明でした。ホーンを用いて音を収集し、スタイラスに取り付けられた弾性膜を通過させるというのがこのフォノトグラフの仕組みでした。

 

 


フォノトグラフ


 

この初歩的な装置は、音波を何らかの用紙にエッチングすることにより、音を記録することを可能にしました。もちろん、ここに、現在のビニールレコードのような針をディスクの上に落とし、記録された音声を再生するというシステムの原型が見いだされることにお気づきでしょうか。でも、このフォノトグラフには一つ難点がありました。音波を視覚化することが出来ず、記録された音を取り出す、つまり、再生装置としての効果を生み出すことが出来なかったのです。

 

その後、音の記録というフォノトグラフの最初の発明に基づいて、二人の発明家がこの装置に音を再生する機能を付加します。それが、フランスの発明家、また詩人でもあるシャルル・クロス、アメリカの大発明家トーマス・エジソンの二人でした。これらの音の再生機能の発明はほぼ同時期に実現しました。


シャルル・クロスは、最初のスコットのフォノトグラフの発明から音を再生する手段を提案しました。

 

これは実際、相当な先見の明があったらしく、フォノトグラフを金属ディスク状の追跡可能な溝に変換することをシャルル・クロスは可能にした。この大発見をした彼はまもなく、1877年4月に、科学論文を書き、フランス科学アカデミーに送っている。それはなんと、驚くべきことに、奇遇にも、エジソンが音を記録し、再生する機械を生み出すことが出来るという結論を見出す数週間前のことだったのです。



2.シャルル・クロス、トーマス・エジソン 音の再生装置の発明


一方、一般的に蓄音機の生みの親とされているトーマス・エジソン。彼は、同年にシャルル・クロスのフォノグラフの進化した装置とは異なる蓄音機を生み出そうとしていた。もちろん、彼の発明は画期的なものでした。

 

 


 

エジソンの生み出したレコードプレイヤーのコンセプトは、当初、手回しで回す事ができるスズ箔で包まれたシリンダーに基づいて構成されていました。

 

彼の考え出したメカニズムは、いわば、レコードプレイヤーのホーンの部分に音を取り入れると、ダイヤフラムと取り付けられた針が振動し、ホイールに窪みが出来るのです。これは、「音の振動と針の共振」という2つの科学の原理を踏まえて、その物理的な理論を応用し、2つの異なる空間をつなぎあわせることに成功した非常に画期的な科学の発見であったように思えます。 


トーマス・エジソンの発明家としての大躍進は、ダイヤフラム、針を、受信機に取り付け、電話を録音しようとした時に起こりました。

 

当初、フランスで生み出されたフォノトグラフのように、針が紙にグラフのようなしるしを付け、それを記録化するという技術をエジソンは考案、さらに、記録する用紙をティンフォイルで覆われたシリンダーと交換しました。これは、それまでのフォノトグラフの原理の過程を逆になぞらえてみることで、初めて発明品として大成功をおさめた。エジソンは、最初に、録音したばかりの自分の言葉が返ってきたのを聴いた時、一方ならぬ喜び方をしたのだといいます。

 

シャルル・クロス、トーマス・エジソン、両者の音声再生装置の発明は、ほぼ同時期に生み出されています。

 

その相違点を挙げるとするなら、数週間、発見が、遅れたか早かったかという事実でしかありません。音の再生するプロセスについてもほとんど同じものでした。エジソンは、製品としての構造化を計画していた一方、シャルル・クロスには、製品や構造化としてのアイディアはなかった。違いと言えば、只、それだけに過ぎませんでした。

 

この発明が公にされるや否や、世界の人々は、エジソンの生み出した蓄音機に夢中になって、シャルル・クロスについては、フランス国内をのぞいてはそれほど有名にはなりませんでした。

 

 

Charles Cros 彼は、発明家でもあり、詩人でもある

 

トーマス・エジソンの生み出したレコードプレイヤーの原型は、すぐにアメリカの裕福な家庭の娯楽として取り入れられたことは、エジソンの名が偉大な発明家として後世に伝わるようになったことを考えてみたら、それほど想像に難くないはずです。つまり、シャルル・クロワは、純粋な発明家としての能力は、エジソンよりも秀でていたかもしれません。にもかかわらず、音声再生機能を備えた製品を、事業として展開していく能力は、エジソンのほうに分があったため、後世の発明家としての知名度に、天と地ほどの大きな差異が生じたとも言えるのです。

 

事実、最初期に、一般家庭に販売された蓄音機には、トーマス・エジソンの名がクレジットされていました。一方の最初のフォノグラフの発明者のエドワード・レオン・スコット、また、シャルル・クロスについては、2008年になって最初の再生が行われるまでは、科学分野に通じている専門家をのぞいては、ほとんど一般的には知られずに忘れ去られていたことは奇妙に思えます。

 

 

3.エジソンの後継者  グラハム・ベルとエミール・ベルリナーの争い


 
トーマス・エジソンは驚くべきことに、その後、蓄音機の開発から身を引いて、白熱電球の発明に夢中になります。
 
 
それは、ひとつ、一般的に言われるのは、蓄音機の発明には、それほど科学者としての名声が期待できなかったというのがあり、また、彼自身の飽くなき探究心、次なる発明への浮き立つ気持ちが彼を電球の発明へと駆り立てていったとも言えるのです。しかし、この蓄音機の開発の座をエジソンがあっけなく手放した時、それと立ち代わりに新たな技術革新をもたらす発明家が出現した。そのうちのひとりが、かの有名なアレクサンダー・グラハム・ベルでした。
 
 
スコットランド生まれのグラハム・ベル 彼は、実用的な電話の発明者として知られているが、最初期のレコードプレイヤーの開発にも従事していた。

 
 
 
グラハム・ベルが当時在籍していたワシントンDCのジョージタウン、ボルタ研究所は、エジソンの最初の蓄音の技術を、さらに改良、推進させる計画を立てていました。主に、このボルタ研究所の設立者であるグラハム・ベルは、シリンダーを装置の中に組み込むのでなく、鋭利な針の代用として、ティンフォイルとフローティングスタイラスの代わりに、ワックスを用いたのです。
 
 
ワックスを用いたことにより、後の二十世紀の発明のひとつであるビニールレコードに代表されるような高音質、すぐれた音質と耐久性を実現し、「Graphophone」という名前で新たな発明として公表されました。
 
 
 
コロンビア製のグラフォフォン この発明により高音質による音声再生が可能になった


また、ベルの研究チームは、その後、エジソンの発明にさらなる改良を加え、時計のゼンマイじかけを用いた再生機能、ワックスシリンダーを回転させるための電気モーター装置を新たに開発しました。


その後、いくつかの会社間で、製品開発を巡って多くの競争が起こったことは想像に固くありません。

 

このグラフフォンの開発を手掛けた「America Graphophone」は、ボルタ研究所のデバイスとその後のワックスシリンダーを用いたレコードの制作を促進するために新設されました。一方、ベルの在籍する研究所は、業務提携の面で協力を図るため、トーマス・エジソンに開発の協力を要請しましたが、エジソンはこの申し出を断りました。ベルは、その後、独力で蓄音機の改良を行うことを心に決め、個体のワックスシリンダーを新たに用いた技術革新を行ったのです。

 

結果としては、 どちらの開発も、音声再生装置として大きな商業的な成功をおさめることは出来ませんでした。彼らにもたらされる可能性もあった賞賛や注目は、1877年にドイツ系アメリカ人の発明家、エミール・ベルリナーが特許を取得した新しい蓄音機へと注がれるようになった。ベルリナーが開発した蓄音技術は、フランスのチャールズ・クロスに近いもので、ワックスシリンダーではなく、フラットディスクに録音をエッチングする手法が取り入れられました。ベルリナーが、フラットディスクを用いた技術を選択したことによって、今日のレコードの再生技術の基盤が形づくられ、現代レコード生産への扉が一挙に開かれたとも言えるのです。

 

レコードプレイヤーの最初期の設計では、蜜の蝋が使用され、薄い層でコーティングされた亜鉛のディスクが使用されていました。 さらに、1890年代に入り、エミール・ベルリナーは、ドイツの玩具メーカーと協力し、最初に5インチのゴムディスクを導入しました。最終的に、ベルリナーの在籍していた”America Graphophone Cmpany”は、その後、シェラックディスクを完成させ、1930年代まで、録音技術をはじめとする音楽業界を支配し続けていたのです。

 

 

4.レコードの大量生産技術はどのように生み出されたのか?



エミール・ベルリナーの発明がなぜ科学技術の発展においてきわめて画期的だったのかは、彼の生み出した製品が、その後のレコードの大量生産技術に直につながっていったからなのです。

 

Google Atrs &Cultureより   エミール・ベルリナーとレコードプレイヤー

 

エミール・ベルリナーは、音波をディスクに外向きに記録し、電気めっきを使用し、マスターコピーを作成した最初の人物でした。

 

もちろん、レコーディングを体験した事がある方なら理解していただけるでしょう。これは、音の元になる記録を残す「マスターテープ」の最初の発明でもありました。つまり、ベルリナーがマスターコピーという手法を生み出したことによって、もし、技術的にそれが許されるのならば、百枚、千枚、いや、それどころか、無数のレコードのコピーを生み出すことも出来るようになりました。

 

これらのマスターコピーという独自の技術を活用すれば、レコーディングを行ったアーティストは、一つのトラックの録音を何度でも再現出来て、さらに、商業的な価値としても大きな影響を及ぼせるようになりました。もちろん、ベルリナーがこのコピー技術を生み出すまでは、アーティストは複数のコピー製品を生み出すため、一曲をその回数分だけ演奏する必要があったのです。

 

発明家エミール・ベルリナーが生み出したフラットディスクの技術には、明確な利点が存在しました。それは、端的に言えば、成形やスタンピングにより音の再生を簡単に実現できるという点です。そして、それ以前に開発がなされていたシリンダー技術についても、製品化という面では、大きな成功は収められなかったにしても、トーマス・エジソンによって金の成形プロセスが導入された1901年から、その翌年にかけて、シリンダー技術が取り入れられた。

 

このことから、製品化としては失敗したものの、その後のレコードプレイヤーの技術革新に大きな貢献をもたらしたことはほぼ疑いありません。その後、ベルリナーの生み出したレコードプレイヤーは、一般的に製品として販売されるにいたり、1901年、Victor Taking Maschine Companyにより、世界で初めて、10インチレコードが生み出され、一般向けに販売されるようになりました。

 

Victor Taking Maschineから発売された10インチレコード


一方、他のレコードプレイヤー生産を行う会社も、これらの発明に対して手を拱いていたわけではありません。

 

コロンビアレコードは、市場に新たに参入し、ライセンスに基づいて最初のディスクを製造していきました。コロンビアは、いくつか新たな方法を考案し、1908年までに、両面のシェラックレコードの製造過程を完成させています。しかし、この間、まだ、現在のレコードプレイヤーのような標準の再生速度には至らず、初期のディスク再生速度は、60-130BPMの範囲内にとどまっていました。 



4.ラジオの登場 モダンレコードの誕生

 

1920年代初頭のラジオの出現は、レコード業界に新たな課題を突きつけることになりました。音楽が電波を介して無料で放送されるようになったため、レコードは新たな領域へ進むことを余儀なくされたのです。ラジオの音質は、電気的なサウンドピックアップの出現によって大幅に向上します。

 

当時、蓄音機を家庭に導入できるのは、中産階級以上にかぎられていたため、再生速度を78BPM(1925年頃)に標準化し、純粋に機械的な録音方法でなく、電気的な録音方法を採用することには役立ったものの、マーケットでの採用が定着するまでには長い長い道のりが必要でした。


1930年代に、ラジオコマーシャルのレコード素材として、ようやくビニール(ビニライト)が導入されました。当時、この素材を使った家庭用ディスクは、ほとんど生産されていませんでした。しかし、興味深いことに、第二次世界大戦中に、米軍兵に発行された78rpmVディスクには、輸送中の破損が大幅に減少したため、現代の規格の一つ、ビニール素材が使用されていたのです。

 

最後に、信頼性が高く商業的に実現可能な再生システムの開発に関する多くの研究が行われた結果、1948年6月18日、ロングプレイング(LP)33 1/3rpmのマイクログルーブレコードアルバムがコロンビア社によって発表されました。それに次いで、コロンビア社は、ビニール製の7インチの45RPMシングルをリリースします。これが現在のレコードの標準基準となったわけです。

 

1955年に最初に全トランジスタ蓄音機モデルを導入したのは、ラジオ会社のPhilcoでした。


この製品は持ち運び可能で、バッテリーで駆動し、内蔵アンプリフターとスピーカーが売りの製品でした。さらに、米国では59,95ドルで売りに出されたため、限られた階級だけではなく、幅広い層にレコードプレイヤーが普及していくことになりました。 この後の時代からレコードプレイヤー、ターンテーブルは富裕層だけでなく、一般の家庭にも導入されていくようになったのです。


このお手頃な価格でレコードプレイヤーが売り出されたことは、音楽業界全体にも良い影響を与え、ポピュラー・ミュージックの台頭を後押ししました。その後、1960年代までに、レコードのスタックを再生する安価なポータブルレコードプレイヤー、レコードチェンジャーが相次いで開発されたおかげで、プレイヤー機器の値段はさらに安価になり、十代の若者たちがより手軽に音楽に親しめるようになりました。もちろん、これらの持ち運び可能のプレイヤーの出現により、アメリカのNYのブロンクス区ではじまった「DJ文化」が花開いたのは言うまでもありません。



5.現代までのレコードプレイヤーの歩み


1980年代までに、ほとんどの家庭には、いくつかの種類のビニール再生システムが普及するようになり、現代のレコードプレイヤーとして市場に流通しているモデルが主流となっていきました。

 

 

Panasonic製のレコードプレイヤー「Technics SP-10」1970年代に生産

 

 

これらは、セパレート(ターンテーブル、ラジオ、アンプ、カセットデッキ)で作られたHi−Fiシステムそのものでした。この一世紀において、レコード形式は基本的なシリンダーとティンフォイルで作製された原始的なシステムから、多くの人が利用できるHI-FI技術へと移行していきました。

 

さらに、時代は流れていき、10年が経過するにつれて、デジタル技術とコンパクト・ディスクの台頭により、ビニール、ターンテーブルの売上は一時的に徐々に減少に転じました。しかし、多くのファンはレコードを手放すことはありませんでした。御存知のとおり、多くの点で、DJのターンテーブルは、90年代から00年代の時代にかけて、フォーマットを存続させるのに役立ちました。

 

もちろん、ダンスフロアでのDJのターンテーブルはその間も途絶えず、また、2000年代から、アメリカでは、ヒップホップ、イギリスではUKガラージの人気が高まったため、DJのクールなプレイやスクラッチの技術により、レコードプレイヤー文化は完全に衰退せず、しぶとく生き残りつづけたのです。


そして、さらに、意外なことに、今日では、ビニールレコードとターンテーブルの需要が1980年代より高まっているようです。サブスクリプションサービスを通して、スマートフォンでお手軽に音楽と接することが出来る現代のデジタル時代においてもレコード人気が衰える兆しは見えません。なぜなら、本格的に音を楽しむことが出来るリスニング体験を求める音楽ファンにとっては、デジタルよりもレコードプレイヤーの方がはるかに馴染みやすいからなのです。

 

音楽の生みの親であるレコードプレイヤーは、現在も、多くの音楽ファンにより愛好されていますし、未来へと引き継がれていくべき重要な文化そのものです。レコードという音楽文化の悠久の歴史、人類の近代文明を象徴するカルチャー。それはまた、エドワード・レコン・スコット、トーマス・エジソン、グラハム・ベルといった偉大な発明家たちの音のたゆまぬ探求の足跡でもあったのです。

 

 



Caroline



キャロラインは、ロンドンを拠点に活動する八人組のロックバンド。ブラック・ミディに続いて、ラフ・トレードが満を持してデビューへと導いた新鋭ロックバンドの登場である。


デビューアルバムのリリースこそ2022年となったものの、バンドとしての歴史は意外にも古く、2017年のはじめ、Jasoer Llewellyn,Mike 0’Malley,Casper Hughesを中心に結成された。当初、毎週のように即興演奏を行っていたが、後になって、バンドとして活動を開始した。

 

キャロラインは、1990年代のアメリカン・フットボールをはじめとするミッドウェスト・エモ、ガスター・デル・ソルのようなシカゴ音響派、アパラチア・フォーク、ミニマリストのクラシック音楽、ダンスミュージック、実に多種多様な音楽から影響を受けている。ミニマリストに対する傾倒を見せるあたりは、Black Country,New Roadと通じるものがある。イギリスの音楽メディアは、このバンドの音楽の説明を行う上で、アメリカ・シカゴのスリント、あるいはスコットランドのモグワイを比較対象に出している。


結成当初、明確なプロジェクト名を冠さず、一年間、謂わば、即興演奏を行っていた。小さなフレーズの演奏の反復を何度も繰り返すことにより、楽曲を、分解、再構築し、幾度も楽曲を洗練させて、音楽性の精度を高めていった。その後、ステージメンバーを徐々に増加させていき、2018年になって、初めて、バンドとしてデビューライブを行った。キャロラインは2022年までに、シングル作品を五作リリースしている。ブラック・ミディに続いて、名門ラフ・トレードがただならぬ期待を込めてミュージック・シーンに送り込む新進気鋭のロックバンドである。





「Caroline」 Rough Trade



 

caroline [国内流通仕様盤CD / 解説書封入] (RT0150CDJP)



Tracklisting


1.Dark Blue

2.Good Morning (Red)

3.desperately

4.IWR

5.messen #7

6.Engine(Eavesdropping)

7.hurtle

8.Skydiving onto the library roof

9.zlich

10.Natural death



さて、今週の一枚として紹介させていただくのは、ラフ・トレードからの大型新人、Carolineの2月25日にリリースされたデビューアルバム「Dark Blue」です。

 

なぜ、キャロラインがデビュー前からイギリスのメディアを中心に大きな話題を呼んでいたのかについては、ラフ・トレードの創設者であるジェフ・トラヴィスがこのロックバンドのサウンドに惚れ込んでいたからです。

 

今回のデビュー作「Dark Blue」において、キャロラインは、ジェフ・トラビスの期待をはるかに上回る音楽を提示しています。ブラック・ミディ、ランカムの作品を手掛けたジョン・スパッド・マーフィーをエンジニアに招き、納屋、メンバーの寝室、リビングルーム、プール、と、様々な場所で録音を行ない、アパラチア・フォーク、エモ、実験音楽、電子音楽、ロック、様々なアプローチを介して、音響ーアンビエンスという側面から音楽という概念を捉え直しています。

 

そして、キャロラインの「Dark Blue」がどう画期的なのかについては、レコーディングで、リバーヴやディレイといったエフェクトを使用せず、上記のような、様々な場所の空間のアンビエンスを活用しながら、ナチュラルな音の質感、そして、音が消え去った瞬間を、楽曲の中で上手く生かしていることに尽きるでしょう。これはきっと、現代のマスタリングにおける演出過剰な音楽が氾濫する中、自然な音が何であるのかを忘れてしまった私達に、新たな発見をもたらしてくれるはずです。

 

この作品では、デビューアルバムらしからぬ落ち着き、バンドとしての深い瞑想性が感じられ、八人という大編成のバンドアンサンブルらしい、緻密な構成をなす楽曲が生み出されています。ギター、ベース、パーカッション、チェロ、バイオリン、複数の楽器が縦横無尽に実験的な音を紡ぎ出し、和音だけではなく、不協和音の領域に踏み入れる場合もあり、謂わば、演奏としてのスリリングさを絶妙なコンビネーションによって生み出しています。


また、キャロラインのバンドアンサンブルのアプローチは、ロック・バンドというよりかは、オーケストラの室内楽に近いものです。

 

彼らは、歪んだディストーションではなく、クリーントーンのギターの柔らかな音色を活かし、新鮮な感覚を音楽性にもたらし、さながら豊かな緑溢れる風景に間近に相対するようなおだやかな情感を提示してくれています。


このあたりの抒情性については、アメリカン・フットボールを筆頭に、アメリカのミッドウェストエモの影響を色濃く受け継いでいます。さらに、キャロラインは、「間」という概念に重点を置き、音が減退する過程すら演奏上で楽しんでいるようにすら思えます。またこれは、レコーディングのプロセスにおいて、作品をつくる過程で音を純粋に出すという行為が、本来、ミュージシャンにとって何より大きな喜びであるのを、彼らは今作のレコーディング作業を通し、改めて再確認しているようにも思えます。

 

彼らキャロラインが今作で提示しているものは、音楽の持つ多様性、その概念そのものの素晴らしさ。そして、ここには、ロックの未来の可能性だけでなく、現代音楽の未来の可能性も内包されています。かつて、ジョン・ケージ、アルフレド・シュニトケが追求した不協和音の音楽の可能性は、次世代に引き継がれていき、八人編成のバンドアンサンブル、キャロラインによって、ロック音楽として、ひとつの進化型が生み出されたとも言えるかもしれません。

 

「Dark Blue」は、デビュー作ではありながら、長い時間をかけて生み出されたダイナミックな労作です。およそ、2017年から5年間にわたり、このバンドアンサンブルは途方も無い数のセッションを重ねていき、どういった音を生み出すべきなのか、まったく功を急ぐことをせず、メンバー間で深いコミュニケーションを取りあいながら、数多くの音を介しての思索を続けてきました。

 

今回、そのバンドアンサンブルとしての真摯な思索の成果が、このデビュー・アルバム「Dark Blue」には、はっきりと顕れているように感じられます。新世代のポストロックシーンを代表する傑作の誕生と言えそうです。

 

 

 

95/100

 

 

Featured Track 「Dark Blue」Official Audio





アメリカのご機嫌なダンスロックバンド、!!!(Chk Chk Chk)が最新アルバム「Let It Be Blue」のリリースを発表し、新曲「Storm Around The World」を公開しました。

 


 

!!!(Chk Chk Chk)の通算9作目となるアルバム「Let It Be Blue」は絶え間ない感覚の変化を未開拓の新たな境地へと導いている。大音量でかけて人々を解放へと導くダンスミュージック、そういったたぐいの音楽だ。

 

長年のコラボレーターであるパトリック・フォードがプロデューサーを務めた今作は、未来のダンスフロアを夢見て、2年間にわたって温められてきたという。その結果生み出された楽曲は、バンドがかつてないほど制作に力を注いだ作品となった。

 

サブベースとドラムビートにあふれ、ダンスパーティーミュージックをごった煮した!!!(Chk Chk Chk)独自のグルーブが展開されているが、これまでと比べて隙間のある作品となっている。これはバンドにとってかなりエキサイティングな挑戦であった。

 

ボーカリストのニック・オファーが「7.8.人のバンドとしてスタートし、これまでは全員ですべてを詰め込み、できるだけ多くのパーツをはめ込もうとした」と語るように、初期作品では音数の多さとある種の複雑さが魅力だったが、今作はより洗練されたプロダクションとなっている。しかし、ミニマルなアプローチだからといって、代名詞のカオティックなエレルギーはうしなわれていないどころかむしろ熱量を増している。

 

「Lit It Be Blue」は、レゲトン、アシッド・ハウス、エイサップ・ファーグ、Kompakt Records作品、スーサイド、アコースティック・・・といった様々な要素が散りばめられたパンドラの箱のような作品である。また、ブルーでメランコリックな一面と希望的な感覚を併せ持っている。それはアルバムタイトルにも反映されている。「Lit It Be」という悟りでなく、これから待ち受ける様々なことを受け入れるという意味が込められている。憂鬱や悲劇は一時的なものであり、物事は常に過ぎ去るもの。しかし、何より本作は、これまで以上に踊りだしたくなる作品だ。

 

また、ニック・オファーは、「芸術を作るこことにおいて大切なこと。まず、自らを奮い立たせ楽しむために、自らを改革し、常に挑戦し続けなければならない。常に挑戦者の気持ちで自分自身の最高傑作を更新すること。!!!(Chk Chk Chk)の歩みを振り返れば、実に25年にもわたってその姿勢を貫いてきたことがわかるだろう。俺たちは、常により奇妙で変なものに向かって突き進んできた。俺たちは挑み続けなければならないんだ」というように語っている。

 

「Let It Be Blue」は、CDとLPバージョンが、2022年4月29日に日本先行で発売される。次いで、5月6日にデジタル/ストリーミング配信でリリースされる。 国内版にはボーナストラック「Fuck It,I'mDone」が追加収録され、歌詞対訳と解説書付きの限定版(ブルー・ヴァイナル)で発売される。また、国内版CDと日本語帯付限定版LPは、オリジナルTシャツ付セットも発売される予定。

 

 

 

!!! 「Let It Be Blue」 


 


 

2022 4/29 CD Release


2022  5/6 Digital Release


国内版CD  2,200円(税抜)

 

国内版+Tシャツセット 6,000円 (税抜)

 

 

 

収録楽曲


1.Normal People

2.A Little Bit(More)

3.Storm Around the World(feat.Maria Uzor)

4.Un Puente(feat.Angelica Garcia)

5.Here's What I Need To Know

6.Panama Canal(feat,Meah Pace)

7.Man On The Moon(feat,Meah Pace)

8.Let It Be Blue

9.It's Grey,It's Grey(It’s Grey)

10.Carzy Talk

11.This Is Pop 2

12. Fuck It,I'm Done *Bonus Track

 

 

・Storm Around the World(feat.Maria Uzor)  Official Visualizer

 

 

昨日、アメリカのシンガーソングライター、モニカ・マーティンは、、LAのコンウェイレコーディングスタジオで撮影が行われた「Go Easy,Kid」のライブバージョンを2月24日に公開しました。

 

 


 

ライブ映像の監督は、クリス・スグロイが務めています。今回、モニカ・マーティンは、イギリスのソウルシンガー、ジェイムス・ブレイクと共演を果たし、ソウルフルな歌声の絶妙なハーモニーを聴かせてくれています。

 

ジェイムス・ブレイクは今回のコラボレーションライブについて、Instagramで以下のように説明を行っています。

 

「今回のゴージャスで悲痛な歌は、モニカの内面の反抗的な精神と自己破壊的な資質を表している。それは、「Go Easy,Kid」の「私は妨害に専念する」「ある正気への忠誠を誓う」といった歌詞のニュアンスの中に滲み出ているんだ。

 

「結局、誰しも、このような内面に巣食う感情はコントロールできないものだ。 唯一、コントロール出来るのは、イージーキッド、そして、ロックンロールだけなんだよ」

 

昨年、モニカ、マーティンはジェームス・ブレイクの最新アルバム「Friends That Break Your Heart」の「Show Me」に参加し、 NYのRadio City、その他様々な都市でブレイクと共演を行っています。

 

 




 LITE

 


2003年に結成された日本のポストロック/インストゥルメンタルロック・バンド。 

 

natumen、3nd、Toeと共に2000年代から最初期のポストロックシーンを牽引し、日本のポストロックの独自のスタイルを形作った最重要のロックバンドである。アメリカのドン・キャバレロにも比する、アクロバティックなめくるめく曲展開がバンドサウンドとしての特徴。移調や変拍子を交えたバンドアンサンブルは超絶技巧の領域に達する。現在まで六枚のスタジオ・アルバムをリリースしている。

 

2006年のデビュー当時から、独自のプログレッシブで鋭角的なリフやリズムから成るエモーショナルでスリリングな特徴をもつ楽曲は、たちまち国内外で話題を呼び、最初期の「LITE」「Fimlet」はヨーロッパでも発売され、その後、アイルランドツアーを敢行している。

 

2010年に、LITEは、シカゴのミュージックシーンの最重要人物、Tortoiseのジョン・マッケンタイアをエンジニアに迎えて、シカゴのSoma Electric Music Sudioでレコーディングを行ない、「llluminate」をリリースした。その後、アメリカのインディーレーベル「Topshelf」と契約を交わし、USツアー、アジアツアーを精力的にこなしながら、国内の音楽祭、フジ・ロック・フェスティヴァル、サマー・ソニック、ライジング・サン、といった著名なイベントへの出演を重ねていき、ポストロックバンドとしての不動の地位を確立していった。

 

2019年には、Toeの美濃隆章、JawboxやBurning Airlinesの活動で知られるJ.Robbinsをレコーディング・エンジニアに迎え、六作目の「Multiple」を発表している。また、LITEは劇伴音楽も手掛けており、大泉洋主演「騙し絵の牙」「Bright:Samurai Soul」といった映像作品のサントラを担当している。

 

LITEは、これまでの作品の多くを”I Want The Moon"をはじめとするインディーレーベルからリリースしている。日本国内ではメジャーレーベルのアーティストに近い人気を誇るバンドであるものの、2006年のデビュー当時からLITEのストイックかつDIYな活動形態は依然として変わることがない。

 

 

 

 

「Fraction」 I want the moon

 

 

 

 

 

 

Tracklisting

 

1.Infinite Mirror The Vinny Club 8-bit

2.Pirates And Parakees Dark Dark Horse Remix

3.Image Games De De Mouse 4+1Remix

4.100 Million Rainbows Kozo Kusumoto Remix

5.Pirates And Parakees The Department Remix

6.Shinkai feat.Robin Aoki

7.Infinite  Mirror feat. TomotakaTuji

8.D feat.Tomotaka Tuji

9.Film

10.Clock Work Junlzawa Remix





今年2月23日にリリースされた「Fraction」は、LITEの既存発表曲やアウトテイクを、リミックス、コラボレーション作品として配信を通し発表していくという独特なスタイルが取られ完成へと導かれた作品である。 


最近のインディーロックバンドの一つの流行として、例えば、スコットランドのモグワイのリリースを見ても分かる通り、自作品のリミックス作品をリリースするというスタイルがトレンドになっているのが見受けられる。


しかし、正直なところ、リミックス作品自体を成功させるのはかなり至難の業のように思える。それはなぜかといえば多くのゲストやコラボレーターを招聘しすぎたせいで、船頭多くして船山に登るという結果にもなりかねない。つまり、ダンスミュージック専門のアーティストならいざしらず、ロックバンドのリミックス作品というのは、音楽性自体のニュアンスが変わってしまうため、もし、そのリミックス作の出来栄えが良くなかった場合、バンドのオリジナルの楽曲の印象を悪くしてしまう場合がある。

 

もちろん、その点で、LITEは、モグワイと同様、経験豊富なバンドだからその心配は一切感じられない。国内外のフェスティバルで豊富な演奏経験があり、演奏技術にもどっしりとした安定感があり、バンド、アーティストとして蓄積された経験があるため、リミックス作品を手掛けたからといって音楽性がぶれたりすることはない。それまでのLITEのイメージが変わったり、後の音楽性が変わることは有り得ないのだ。

 

今作「Fraction」は、前半部では、ロックバンドとしての遊び心が随所に感じられる作風となっている。それは、DE DE MOUSEをゲストとして招いたことにはっきり顕れている。これまでの技巧的なインストゥルメンタル・ロックバンドとしてのキャラクターに加え、時代を明るくさせるような遊び心を音や演奏として表現した聴き応え十分のリミックス作となっている。「Fraction」は複数のリミックステイクが豊富で奥行きのあるバリエーションを持って展開され、ゲーム音楽の影響を感じさせるチップチューン、モダンなUKエレクトロの質感を持ったクールな楽曲が新たに生み出されている。これは、LITEのこれまでとは違ったアプローチを図った実験作品といえる。

 

また、今作は、もちろん、リミックス作としてだけにとどまらず、後半部においてインスト・ロックバンド、ポスト・ロックバンドとしてのLITEの醍醐味もたっぷり堪能できる内容となっている。


Tomotaka Tujiをゲストとして迎えて制作された「Shinkai」もバンドアンサンブルとしての迫力は健在で、息のとれたスリリングな演奏が堪能出来るはず。加えて、エイフェックス・ツインの名曲「Film」のカバーも聴き所といえる。原曲に忠実な解釈を交え、LITE節とも譬えるべき抒情性あふれる魅力的なインストロックに仕上げられているのが見事だ。


さらに、チップチューンとポストロックを絶妙に融合した「Cloclwork」は、LITEがバンドアンサンブルとして新境地を切り開いた瞬間といえる。ここに、ポストロックバンドとしての新しい可能性が示されている点がこのリミックス作自体の魅力をただならぬものにしている。このリミックス作品を聴くかぎりでは、モグワイのような堂々たる風格が漂う。きっとこれから後も、LITEは、日本のポスト・ロックシーンの最前線を力強く駆け抜けくれるに違いない!!

 

 

 

・Featured Track

 

「Infinite Mirror」feat.Tuji Tomotaka

 

 

 

 

 

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