グランジロックの再考  NirvanaとMeat Puppetsの親密な関係

Meat Puppets

これまで風変わりなバンドやアーティストは数多く聴いてきたものの、Meat Puppetsほど変わったロック・バンドというのはあまり聴いたことがない。

 

ミート・パペッツは、アリゾナ出身のバンドで、当初はカート・カーウッド、クリス・カーウッドを中心にトリオとして80年に結成され、後に、五人組(現在は四人?)のバンドとなり、何度か解散しているが、現在も活動中である。近年では、KEXPでパフォーマンスを行っている。


もちろん、グランジ、ニルヴァーナ関連に詳しい方は、このバンドに対してカート・コバーンが入れ込んでいたことを知る人も少なくないかもしれない。他にも、コバーンは、シアトルのメルヴィンズに強い触発を受けているとも言われる。そして、いわゆるパンクとメタルの間の子としてのグランジ・ミュージックが誕生し、薄汚れたとか汚らしいというコバーン特有のファッションの表現が定着し、グランジという言葉が生み出されたのだった。そして、コバーンは、稀にボーカルのピッチがよれたような奇妙な歌い方をする場合がある。このスタイルは間違いなく、アリゾナのミート・パペッツのCurt Kirkwoodのボーカルに触発を受けていると思われる。

 

そして、実際、ニルヴァーナは91年の『Nevermind』、93年の「In Utero』で成功を収め、ロックスターとしての地位を手中に収めた。さらに、その年、自らのルーツを公にするようになった。ゲフィン・レコードが主宰する93年のMTV Unpluggedでは、一転してエレクトリックギターではなく、アコースティックギターでそれまで発表した作品を再構成し、パンクのラウド性だけが魅力のバンドではなく、静かに聴かせるバンドでもあることを対外的に示唆したのであった。そして、このアコースティック・ライブに、Meat Puppetsのギタリストのクリス・カークウッドが登場したため、パペッツも自ずとその名を広く認知されることになった。これはたぶんコバーンなりの配慮があって、アリゾナのバンドの音楽に深く触発を受けていることを周知し、改めてミート・パペッツに対するリスペクトを示そうとしたのではなかっただろうか。 

 

MTV Unplugged、1993 「Plateau」

 

 

ともあれ、Meat Puppetsは、80年代のUSハードコアパンクシーン、しかも相当マニアックなアンダーグラウンド界隈から出てきたバンドであることは間違いない。しかも、ミート・パペッツはこの後の時代にメジャーのアイランドレコードと契約し、このバンドにしては珍しく大衆的なロックソング「Backwater」を発表しているが、その出発点を辿ると、きわめてマニアックなバンドとして、Black Flagのグレッグ・ギンが主宰していたSST Recordsからデビューを果たしたのだった。

 

セルフタイトル『Meat Puppets』を聴くと分かる通り、ミート・パペッツは、ある側面では、スピードチューンを誇るハードコアバンドとして出発している。このファーストアルバムには若さゆえの無謀さや未知の可能性を詰め込み、それらをジャンク感満載のハードコアパンクとして無理やり押し込んだような音楽性が全体に通底している。ただ、その中にも米国南部のバンドとしてのルーツが含まれていた。つまり、それらが、グレイトフル・デッドのようなカルフォルニアのサイケデリック・ロック、そして、カントリー、ブルーグラス、そしてテキサス/メキシカンの南部のアメリカーナである。これらが渾然一体となったカオティックな音楽がミート・パペッツの他では求められない特性でもある。ファースト・アルバムに見られるようなすさまじい勢いと、その背後に漂うアリゾナの砂漠地帯を彷彿とさせる幻想性が、カオティック・ハードコアの最初期の源流に位置づけられるこのセルフタイトルの核心を形成していたのだった。

 

次いで、アリゾナのロックバンドが二作目として84年に発表した『Meat Puppets Ⅱ」は、 前者のハードコアのアプローチから若干距離を置いている。これは一見すると、パンクから遠ざかったという見方が出来るが、実はそうではなく、パンクの無限の可能性を示そうとしたというのである。この点について、フロントマンのカート・カークウッドは、「あえてみんなのために空振りをしたんだ」と語っている。「それくらいパンクなことをやってみてもいいのではないか?」と。 


それがどのような結果となったのかは、2ndアルバムが雄弁に物語っている。カントリー/ブルーグラスをパンクとして再解釈した「Magic Toy Missing」、ジョニー・キャッシュのようなフォーク/カントリーをロカビリー風にアレンジした「Lost」、そして、後にニルヴァーナがMTVでアコースティックバージョンとしてカバーする「Plateau」、「Lake Of Fire」、さらにはヒッピーの暮らしと彼らの信ずるジャンクな神様に対する信仰を描いた「New Gods」、さらにはローリング・ストーンズを無気力にカバーした「What To Do」といった唯一無二のパンクロックソングが生み出されることになった。また、オーロラの神秘性をメキシカンな雰囲気で捉えたインストゥルメンタル曲「Aurora Borealis」は空前絶後の曲である。何かこれらの音楽には、度数の高いテキーラ、メキシカン・ハット、タコス、そして、サボテンというものがよく似合う。これらのアリゾナや国境付近の砂漠であったり、テキサス/メキシコ音楽の影響を反映した奇妙なエキゾチズムが、生前のカート・コバーンの心を捉えたであろうことはそれほど想像に難くない。


近年のMeat Puppets


その後、ミート・パペッツは、カート・コバーンの紹介もあり、いくらかシニカルなユニークさを交えたロック・ミュージックへと方向性を転じ、多作なロックバンドとして知られることに。そして、シンプルなロックバンドとしての商業的なピークは、MTVアンプラグドの翌年、94年の「Too High To Die」に訪れる。しかも、このアルバムは、それまでのジャンクロック/カオティックハードコアとは異なり、SoundgardenやAlice in Chainsに近いグランジっぽい音楽性を含んでいた。


94年といえば、ローリング・ストーン誌の有名なカバーアートを飾った後、コバーンが死去した年である。そして、「Too High To Die」が発売されたのはコバーンが死去する3ヶ月前のこと。アルバムのタイトルについて考えると、こじつけのようになってしまうが、ミート・パペッツはシアトルのMelvinsよりもはるかにニルヴァーナと近い関係にあるようにも感じられる。ニルヴァーナは知っているけれどミート・パペッツを知らないという方は改めてチェックしてみてほしい。

 

 

 

 



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