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boygenius

セルフタイトルEPのリリースから4年が経過し、どうやら、Lucy Dacus(ルーシー・ダカス)、Julien Baker(ジュリアン・ベイカー)、Phoebe Bridgers(フィービー・ブリジャーズ)からなるスーパー・グループ、boygeniusが何かを企んでいるらしい。


このトリオは、先日、LAの街角で一緒に写真撮影をしているところを、ファンに目撃され、さらに撮影されている。これは、1993年発行のマドモアゼル誌に掲載されたNirvanaの写真撮影を再現したようで、多くの人がboygeniusの新しい音楽がもうすぐ聴けるかもしれないと期待しているようだ。

 

Nirvana-1993年

2018年に最初のEPをリリースして以来、ヘイリー・ウィリアムスの2020年のデビュー・プロジェクト『Petals For Armor』の「Roses/Lotus/Violet/Iris」に集い、昨年のアルバム『Little Oblivions』からジュリアン・ベイカーのシングル「Favor」で何度も一緒に仕事をしている。

 

トリオの今後の動向に注目しておきたい。



 


9月3日にロンドンのウェンブリー・スタジアムで開催されるテイラー・ホーキンスのトリビュート・コンサートに参加したいと思う人は少なくないでしょう。幸いなことに、バンドはこのコンサートをライブでストリーミングする計画を発表しています。


日本時間、午前11時30分/午後4時30分より、アメリカでは、Paramount+、海外では、Pluto TVでライブ中継が行われます。また、MTVのYouTubeチャンネルでグローバル・ライブストリームが放映される予定です。


さらに追悼コンサートの後、9月3日(土)22:00(日本時間)より、アメリカの放送局CBSでハイライト映像を含む1時間のスペシャル番組が放送されます。コンサートの模様は、9月5日の週からParamount+、Pluto TV、MTVでオンデマンド配信される予定です。


テイラー・ホーキンスの遺族の同意を得て、フー・ファイターズはロンドンのウェンブリー・スタジアムで「オールスター・ロック・ショー」を行い、故ドラマーを偲ぶ。

 

ロンドン公演には、RUSHのGeddy Lee(ゲディー・リー)とAlex Lifeson(アレックス・ライフソン)、Led ZeppelinのJohn Paul Jones(ジョン・ポール・ジョーンズ)、Liam Gallagher(リアム・ギャラガー)、QueenのRoger Taylor(ロジャー・テイラー)とBrian May(ブライアン・メイ)、NirvanaのKrist Novoselic(クリス・ノヴォセリック)、The PoliceのStewart Copeland(スチュワート・コープランド)など、オールスターのゲストが参加する予定です。Jane's Addictionのクリス・チャーニー、Queens of the Stone Ageのジョッシュ・ホーミ、他にも、アラン・ヨハネス、Pretendersのクリッシー・ハインド、デイヴ・シャペル、クリス・ロック、ナンディ・ブッシェル、ナイル・ロジャース、ウルフガング・ヴァン・へーレン、オマー・ハキム、ホーキンスのカバーバンド・シェビーメタルのメンバーなどです。

 

新たに発表されたラインナップには、トラヴィス・バーカー、Metallicaのラーズ・ウルリッヒ、AC/DCのブライアン・ジョンソン、ジェームズ・ギャング、ケシャ、ジョシュ・フリース、ヴァイオレット・グロール、そして、テイラー・ホーキンスの息子、シェーン・ホーキンスが含まれています。

 

9月27日には、ロサンゼルスのキア・フォーラムで2回目のトリビュート・コンサートが開催される予定。そのラインナップも同様に大規模で、RUSHのGeddy Lee(ゲディー・リー)とAlex Lifeson(アレックス・ライフソン)、Alanis Morissette(アラニス・モリセット)、Miley Cyrus(マイリー・サイラス)、Led ZeppelinのJohn Paul Jones(ジョン・ポール・ジョーンズ)、Red Hot Chili PeppersのChad Smith(チャド・スミス)が出演することが確認されています。


ロサンゼルス公演には、Rage Against The Machineのブラッド・ウィルク、Queenのブライアン・メイとロジャー・テイラー、Nirvanaのクリスト・ノヴォセリック、さらに、ナンシー・ウィルソン、Queen Of The Stone Ageのジョシュア・オム、ジョン・セオドア、アラン・ヨハンネス、ジョーン・ジェット、P! NK、The Policeのスチュワート・コープランド、Jane's Addictionのクリス・チャーニー、KISSのジーン・シモンズ、Mötley Crüeのニッキー・シックス、さらに、マーク・ロンソン、オマー・ハキム、リアン・ライムス、シェビー・メタルが参加。

 

この他、新たに発表されたラインナップには、トラヴィス・バーカー、Black Sabbathのギーザー・バトラー、Metallicaのラーズ・ウルリッヒ、Def Leppardのジョー・エリオット、ジェームズ・ギャング、Skid Rowのセバスチャン・バッハ、ジョシュ・フリース、ヴァイオレット・グロール、そしてテイラーの息子、シェーン・ホーキンスが加わります。


ロンドン、ロサンゼルスで行われるテイラー・ホーキンスの追悼公演のチケットと商品の売上は、ホーキンス家が遠別した慈善団体、Music Support、及び、MusiCaresに寄付されるようです。


 Jack Whiteが週末のツアーでNirvanaの「Heart Shaped Box」をカバーした。ホワイトは2022年に2枚のアルバムをリリースし、その過程でRough TradeのAlbum Of The Yearを受賞している。彼のSupply Chain Issues Tourは世界中を回っており、イギリス公演は息を呑むような評価を得ているという。

マレーシアでは、11月16日(水)夜、2,500人収容のZepp Kuala Lumpurでライブを行いました。

 

この公演では、ジャック・ホワイトが常にセットを見直し、いくつかのサプライズを用意しました。マレーシアのファンは、1993年のニルヴァーナの名曲「Heart Shaped Box」をスローダウンさせ、超ブルージーにアレンジした特別なカバーでもてなされました。

 

Nirvana 『Nevermind』のアートワーク
 

ニルヴァーナは、「ネヴァーマインド」のカバーアートに赤ちゃんの姿で登場し、有名となった原告スペンサー・エルデン氏が起こした「児童ポルノ」訴訟に勝訴したことがこの度判明した。

 

ローリングストーン誌によると、このネヴァーマインド裁判を担当したフェルナンド・オルギン米連邦地裁判事は、”エルデンが提訴するのに長く時間をかけ過ぎた”という事由を元に、10年の時効に基づき訴えを棄却することを最終的に決定した。「要するに、(エルデンが)違反を発見してから10年以内に訴状を提出しなかったことは議論の余地がないため、裁判所は彼の請求は時効でないと結論付けた」とフェルナンド・オルギンは8ページに及ぶ裁判の判決文において記している。

 

裁判の判事オルギンは続けた。"原告は時効に関する彼の訴状の欠陥に対処する機会があったので、裁判所は、原告に修正された訴状を提出する4回目の機会を与えることは無駄であると説得される。"

 

さらにこの最終的な判決を受けて、ニルヴァーナの法務担当者はロイター通信に対して次のように語った。"我々は、このメリットのない訴訟が迅速に最終的な結論に至ったことを喜んでいる"。

 

被告ニルヴァーナは2021年8月に初めて訴えの却下を申請し、スペンサー・エルデンは長年にわたり、サイン入りのカバーを販売したり、大人になってから写真を再現するなど、ネヴァーマインドのカバーアートとの関わりを進んでアピールしてきたため、彼は何らの損害も被っていないと主張していた。また、エルデンが訴訟を起こすには時間が経ちすぎているとのことだった。

 

スペンサー・エルデン氏側の主張は、精神的苦痛、稼得能力の喪失、成人後の「人生の楽しみの喪失」といった損害を被ったとのことであった。また、彼は、バンドが彼の性器をステッカー等で隠す取り決めが交わされていたが、実際のアルバム・アートの公開、アルバムの発売時に約束が組み込まれなかったこと、コバーン、クリスト・ノヴォセリック、デイヴ・グロールが性的搾取から彼を保護しなかったことを裁判において主張した。さらに彼は、この訴訟で、ジャケットのドル札が赤ちゃんを "風俗嬢 "に似せているとも主張している。スペンサー・エルデンは、この訴訟において、名前を挙げた各当事者にそれぞれ15万ドルの賠償金請求を行っていた。


スペンサー・エルデンは以前、三形式の訴状を裁判所に対して提出していたが、今回の裁判官の棄却により、これ以後、4つ目の訴状を提出することができなくなる。


 

日本のパーカッション奏者として活躍する高田みどりは、23年ぶりとなる新作(リイシュー盤)をリリースします。

 

今回、の二つのアルバムの発表が行われます。今回のリリースは、日本のインディーレーベル、Newtone Recordsの傘下にあたる”WRWTFWW”から2022年6月10日に行われる予定です。

 

高田みどりの23年ぶりの新たなソロの素材をフューチャーした作品は、ジュネーブのMEG Museumと共同でWRWTFWWを通じて発売されます。「You Who Are Leaving To Nirvana」については、1983年の「Through The Looking Glass」のリイシュー盤となります。真言宗の僧侶の集団と共に高野山で録音が行われた伝説的な作品です。ここで、パーカッション奏者の高田みどりは、仏教の典礼歌を作品の中に取り入れています。

 

一方、同時にリリースがなされる予定のアルバム「Cutting Branches For A Temporary Shelter」は、仏教音楽ではなく、アフリカの民族音楽に高田が挑戦した意欲作。これは、アフリカの民族音楽に対する高田の深い敬意と憧憬が込められ、それがクロニクルを介して忠実な再現が行われた作品。

 

ジンバブエのショナ語のカリンバの音楽のレパートリーを象徴する伝統的作品のひとつ、”ネマムササ”に対する高田みどりの見解を特徴としています。アルバムはライブレコーディングで行われており、スイス・ジュネーブ民族学博物館のコレクションに所蔵された楽譜を取り上げたものとなります。

インディーレーベルについて

 

 

世界各地に点在するインディー・レーベルの成り立ちについて知ることほど面白いことはない。


なぜなら、メジャーレーベルと異なり、こういったレコードレーベルは、必ずしも巨大な資本を持つ企業があらたに経営に乗り出すことは稀であり、独特でユニークな経営方針を持って運営される場合が多いからだ。

 

こういったレコード会社は、メジャーレーベルとは異なり、ラジオ局で知見を深めた人間、独立したファンジンの発行者、レコードショップの店員、実際のミュージシャンが新たに事業に着手するケースが見受けられる。 それはここ日本でも変わらず、レコード・レーベルを始めるのは、それなりに業界で経験を積んだ多くのコネクションを持つ無類の音楽好きである場合が極めて多い。

 

レコードレーベルとしては、設立当初の規模の大小にかかわらず、後に一定規模の企業に成長していく実例もなくはない。もちろん、それは一部の例外といえ、多くは放漫経営により資金繰りの目処が立たず、新しい作品のリリースがままならなくなり、破産に至る事例も多く見られる。

 

さて、シアトルに本拠を置くサブ・ポップ・レコードは、二人の若者によって設立された企業である。

 

サブ・ポップは、設立当初こそ放漫経営を行っていたが、後に、一定の規模の企業に発展していく。1980年代から1990年代にかけて、グランジシーンを牽引したアメリカの名門インディーレーベルのひとつに数えられる。現在、シアトルの空港内にレコードショップを構えており、この土地を代表するレコード会社として知られている。


 

 


二十代の若者二人により設立されたサブ・ポップは、後に、イギリスでもグランジという言葉を浸透させたアメリカの歴代のポピュラーミュージック・シーンにおいて見過ごすことのできない重要なレーベルである。

 

何度となく、サブ・ポップは経営破綻しかけるものの、そのたび幾度となく蘇生してきた。一度、ワーナーミュージックに買収されるが、レーベル経営はその後、比較的安定化していき、2021年現在もアメリカのインディーシーンで一定の影響力を持ち、アメリカ国内のミュージックシーンの繁栄に寄与しつづけている企業だ。

 

現在も、多岐に渡るジャンルの作品をリリースし、個性的なアーティストを輩出しつづけるサブ・ポップは、レーベルの理念としてアメリカの先住民の人々に深い敬意を表している珍しいレーベルであるが、どのように創設期から現在までの道程をたどったのか、その概要について今回記していきたい。 

 

 

 

1.Sub Popの二人の設立者

 

 

 

サブ・ポップは、二人の若者によって設立された。後のグランジシーンの生みの親ともいえるのが、ブルース・パヴィット、カート・コバーンと親交が深かったジョナサン・ポネマンである。まず、この二人の人物のレーベルオーナーになる以前のバイオグラフィーについて、簡単に纏めていきたい。

 

 

 

・Bluce Pavitt

 

 

サブ・ポップの経営者となるブルース・パヴィットはアメリカ・シカゴ郊外で生まれ育つ。パヴィットは若い頃、AMラジオを聴いたり、シカゴのレコードショップ「Wax Trax」(インディー・ミュージックの公式学校として認可されている)を訪れたり、「Villlage Vice」という音楽雑誌を購読して、音楽に対しての知見を深めていった。  

 

 

サブ・ポップの設立者 ブルース・パヴィット https://brucepavitt.com/



その後、彼は、当時、米国内でインディーミュージックを唯一専門オンエアしていたワシントン州のラジオ局「KAOS」で学び、エバーグリーン州立大学に転校。ラジオ局と地元のミュージック・シーンにささやかな貢献を果たした。

 

ラジオ局「KAOS」において、ブルース・パヴィットは、「Rock」の時間帯を受け継ぎ、新たなバンドを「Subterranean Pop」という番組内で紹介した。

 

その後、ブルースは、アメリカのインディー・ミュージックに特化した音楽雑誌「Subterranean Pop」を立ち上げた。(後の「Sub Pop」という名は、この雑誌に因んでいる)1980年代当時、現在のように、インディーミュージック自体が流通する手段が整備されておらず、アメリカ国内ではインディーロックバンドのレコードを入手したり、ラジオ局でオンエアされる以外のバンドの音楽に触れるのはかなり困難だったという。

 

従って、ブルース・パヴィットはこの時代から、独自に発見した一般的に知られていないインディーミュージックを、米国全土に普及させていきたいと考えていた。雑誌の発行部数が増加するにつれて、パヴィットは、カセットコンピレーションのリリースを考案した。これは、後のサブ・ポップレーベルのリリースカタログの重要な概念となった。パヴィットは「Subterranean Pop」の購読者が、自分自身が執筆した音楽の記事だけでなく、実際の音に触れてくれることに深い喜びを感じていた。この時の出来事について、ブルース・パヴィットはこのように回想している。

 

 

音楽ファンが何らかのレコードを購入するとき、彼らの多くが、音楽そのものだけでなく、アーティストによって提示される価値観やライフスタイルにも触れてみたいと考えているのを私は知っていました。だから、私は、そういった情報や音源を率先して提供していこうと考えたのです。

 

また、この1980年代のアメリカにおいて、既に、ハリウッドの打ち立てた産業構造は完全に形骸化しており、(編注・資本家が宣伝したいものを巨大な商業ルートに乗せ、商品を需要者に押し付ける資本家の搾取のことについて、ここでパヴィット氏はきわめて暗示的に語っている。もちろん、言うまでもなく、現代のアメリカだけでなく、ヨーロッパの業界全体にもこういった悪弊は残されている)この時代、新しいサウンド、新しいヒーローの登場を、アメリカの社会全体、多くの人々は、切望していたのです。そのための何らかの手助けをしたいと、私は考えていたのです。

  

 

1983年、パヴィットは、エヴァーグリーン州立大学を卒業後、シアトルに転居する。それほど時を経ず、「Fall Out Records」というレコードショップを開店する。 「Fall Out Records」は、シアトルのキャピトル地区で最初のインディーレコードショップとなった。彼は、このレコード店を経営する傍ら、執筆活動にも精励するようになり、雑誌「The Rocket 」に「Sub Pop USA」というコラムを掲載しはじめる。これは、彼がエヴァーグリーン州立大学時代に発行したファンジン「Subterranean Pop」の雑誌の続編の意味を持ち、月間コラムの形式で掲載され、この雑誌の購読者の間では「インディーミュージックの聖書」という愛称で親しまれていた。

 

また、この時代から、ブルース・パヴィットは、KCMU(現在、ワシントン州シアトルに本拠を構えるラジオ局「KEXP」の前身、オルタナティヴやインディーロックを専門とするラジオ局で、ミュージックシーンから高い評価を受けている)で、インディーズレーベルのスペシャリティーショーを主催し、広い範囲にインディーミュージックを紹介する役目を担っていた。


1986年になると、ブルース・パヴィットは、初期のSUB POPのレーベル運営に乗り出していった。

 

その手始めに「SUB POP Compilation 100」、グランジムーブメントの黎明期を代表する作品、サブ・ポップのカタログ第一号として、Green Riverの「Dry As A Bone」をリリースした。 

 

 

 

Subpop-100.gif
レーベルの第一号となった記念すべきコンピレーション・アルバム「Sub Pop Compilation100」


http://www.petdance.com/nr/discography/, Fair use, Link


 

 

 ・Jonathan Poneman


 
サブ・ポップ・レコードのもうひとりの設立者、ジョナサン・ポネマンは、上記のブルース・ハヴィットとは異なり、バンドマンとして、このレーベルの経営を支えてきた存在である。
 
 
Nirvanaのカート・コバーン(左)とSub Popの設立者のジョナサン・ポネマン(右)
 
 
ジョナサン・ポネマンは、オハイオ州トレドで生まれ育った。彼は、十代の頃から、いくつかのガレージロックバンドで演奏してきたミュージシャン経験のある人物である。(本人は、自分は決して良いミュージシャンではなかったと謙遜して語っている)
 
 
ジョナサン・ポネマンは、ミシガン州の寄宿学校に短期間在籍した後、いくつかの高校に転校した。それから、シアトルに転居して、最終的には地元のラジオ局KCMUで、ボランティアとして、勤務するようになった。
 
 
しかし、このラジオ局に勤めることになった経緯については、ポネマンは無自覚であり、いつの間にかそうなっていたという。興味深いことに、このシアトルのオルタナティヴミュージックの重要人物ジョナサン・ポネマンは、いつの間にか、ラジオ局のステーションを駆け巡るようになっていたのだ。
 
 
1985年、 ジョナサン・ポネマンは、ブルース・パヴィットが主催するKCMUのスペシャルショーと称される番組に初めて出演を果たす。彼は、その時、1990年代のシアトルグランジシーンの代表格となるSoundgardenのライブパフォーマンスにいたく感動した。ボーカリストのクリス・コーネルの歌声に深い感銘を受け、ジョナサン・ポネマンは、サウンドガーデンのシングル作をリリースしたいと熱望するようになった。
 
 
この時、ジョナサン・ポネマンは、キム・テイル、ブルース・パヴィットの二人の知己を得て、サウンドガーデンのレコーディングセッションに2000ドルを捻出した。つまり、これがサブ・ポップ・レコードの始まりだったのだ。
 
 
 
 
 

2.サブ・ポップの黎明期

 
 

 

サブ・ポップの設立者ブルース・パヴィットとジョナサン・ポネマンは、1988年になって、レーベル運営の初期投資となる約1900ドルの資金を集めることに成功した。

 

この資金については、不履行になるおそれがある小切手、そうでないものが含まれていた。彼らは、シアトルの小さなオペレーションをフルサービスのレコードレーベルに変え、サブ・ポップのネーミングライセンスと事業に50%ずつ出資し、法人企業としての体裁を整えた。しかしながら、先行投資の設立当初のレーベルとしては多額の投資であったため、サブ・ポップは、発足当初最初の一ヶ月で破産の危機に陥り、その後も、レーベル運営が軌道に乗るまでは、財政的に苦戦を強いられることになった。

 

そもそも、このレーベルの目標は、サブカルチャーに根ざしたアイデンティティを確立することにあった。彼らは、レーベル設立当初から、人々にサブ・ポップと言う名に接した時、シアトルらしい音を思い浮かべてもらえるようにしたいという意図を持っていた。

 

彼らの目論見はピタリと当たり、これは後に「シアトルサウンド」としてアメリカ国内のみならず、国外のイギリスや日本でも知られるようになった。サブ・ポップの初期リリースの多くは、プロデューサー、ジャック・エンディノの協力によって制作された。

 

その後、サブ・ポップのレーベルの名、そして、シアトルサウンドを決定づける魅力的なバンドが数多くシーンに台頭しはじめた。

 

シアトルグランジの始まりとなったのが、Green RiverのEP作品「Dry As A Bone」。その後に、リリースされたSound Gardenのシングル盤「Screaming Life」、「Hunted Down/Nothing To Sat」。


Mudhoneyの「Touch Me I'm Sick/Sweet Young Thing」、「Superfuzz Bigmuff」。Nirvanaの初期作品「Love Buzz/Big Cheese」といった作品群だった。 

 

 

Green River「Dry As A Bone」

 

 

 

Mudhoney 「Superfuzz Bigmuff」
 

 

これらの作品に見受けられる、ギターエフェクター「Big Muff」に代表される、苛烈なほど歪んだディストーションサウンドの台頭は、当時のGuns 'N Rosesや、LA Guns,Skid RowをはじめとするLAの産業ロックが優勢だったアメリカのシーンに、衝撃的な印象を与えたのは事実である。

 

上記のサブ・ポップのリリース作品は、メタルとパンクロックの融合と一般的に称される「グランジサウンド」を象徴する最初期の名盤で、リリースは全てアンダーグラウンドの流通であったが、のちビルボードチャートを席巻するシアトルサウンドの素地を形成した。

 

特に、最初期において、サブ・ポップは、画期的なビジネススタイルを取り入れていた。驚くべきことに、時代に先んじて、1980年代に、毎月、レーベルからリリースされる新しいシングル作をメールで配信するサービス(サブスクリプション方式)を取り入れていた。この事例は、世界で最初のサブスクリプション方式ではなかっただろうか? このサブスクリプションサービスは「Sub Pop Club」と名付けられて、ピーク時には、約2000人の購読者を獲得していた。

 

   

画期的なメールマガジン方式のサブスクリプション「Sub Pop Singles Club」


 

1980年代後半、英国の音楽メディアは、アメリカのパンクロックミュージックとそのサブジャンルに興味を示していた。多くのアメリカのアンダーグラウンドのバンドは、その後、実際にはヨーロッパで成功を収め、アメリカ国内を凌ぐ人気を獲得した事例もある。特に、英国では、ザ・スミスの後の有望なバンドを探し、アメリカ、特にシアトルのシーンに次世代のスターを見出そうとしていた、といえるだろうか?

 

この年代、ブルースとジョナサンは、英国の音楽ジャーナリスト、エヴェレット・トゥルーをシアトルに招いて、サブ・ポップと相携えて成長を遂げる「シアトルシーン」について紹介記事を書くように依頼した。 

 

 

 

Everett True.jpg


By Greg Neate  CC BY 2.0, Link 英国人ジャーナリスト、エベレット・トゥルー

  

 

以来、エヴェレット・トゥルーは、シアトルのグランジシーンの苛烈な音楽性を痛く気に入り、深い関係を保ち続け、英国内にシアトルのインディーミュージックを紹介するプロモーターとしての重要な役割を担った。

 

彼は、グランジシーンについての取材を重ねるにつれ、シアトルで多くのバンドと親しくなり、その後、ミュージシャンとしても活動する。K Recordsのカルビン・ジョンソン、トビ・ベールのバンドとのシングル作において、ゲストボーカルとしても参加している。

 

また、エヴェレット・トゥルーは、Butthole SurfersとL7のギグで、カート・コバーンとコットニー・ラブを引き合わせた人物にほかならない。その後も、夫婦ぐるみの付き合いをし、家族のような関係を持ち続けた。

 

 

 

 3.グランジの最盛期

 

 

 

グランジの最盛期は、Nirvanaのメジャーデビュー作「Nevermind」が「スリラー」での成功以来、長年にわたり不動の地位を築いていたマイケル・ジャクソンをUSビルボードチャートのトップから引きずり下ろした瞬間に始まり、1994年のカート・コバーンの銃による自殺とともに終わったというのが一般的な通説である。少なくとも、ニルヴァーナがシアトルを代表するバンドであるとともに、サブ・ポップを象徴するバンドであったということは疑いがないはずだ。

 

カート・コバーンが地元シアトルの歯科助手として勤めながら、約2000ドルを貯めて、ほとんど自主制作としてレコーディングされた「Bleach」1989は、サブ・ポップからリリースされるや否や、カレッジラジオでオンエアされ、アメリカの若者の間で大きな人気を博した。 

 

 

Nirvana 「Bleach」1989 Sub Pop

 

 

ニルヴァーナは、この実質的なデビュー作「Bleach」により勢いを増し、アメリカのミュージックシーンに強い影響を与えるようになっていた。 


その後、ニルヴァーナとツアーを行っていたNYのインディーロックバンド、ソニック・ユースは、その時代にゲフィン・レコードの系列会社として1990年に新たに設立された「DGC Records」と契約を結び、レーベルの新しい可能性を探るため、マネージャのジョン・シルバとダニー・ゴールドバーグにニルヴァーナの間に入り、彼らをゲフィンレコードに紹介した。当時、ニルヴァーナのカート・コバーンは、サブ・ポップの財政状況に不満を示していて、このソニック・ユースの伝を頼ろうとしたのだ。 

 

 

 

Sonic Youth Still Life 1991, by David Markey"Sonic Youth Still Life 1991, by David Markey" by JoeInSouthernCA is licensed under CC BY-ND 2.0

 

 

その後、ゲフィン傘下のDGC Recordsは、サブ・ポップから、ニルヴァーナの契約を買収した。「Bleach」の楽曲の使用権については、以降もサブ・ポップに保持された。この権利譲渡を行う際の契約内容には、ニルヴァーナのバンドのプロモーションをする際、サブ・ポップのロゴとDGCのロゴを一緒に用いる規定、その規約をニルヴァーナの後のリリース作品にまで及ばせるという事細かな規定が両レーベル間で交わされた。この時代、ニルヴァーナの想像を遥かに上回る商業面での成功により、サブ・ポップは、その後何年にもわたり、会社の収益面での重要な基盤「シアトルサウンド」をリリースするレーベルとして、全米にとどまらず世界的な知名度を獲得する。



1992年からは、アメリカのロックシーンは、インディーロックに移り変わりつつあった。ニルヴァーナの意図せぬ大成功により(もちろん、「Nevermind」はアルバムジャケットからしてゲフェンレコードがすべて意図的に仕込んだセンセーショナルなリリースでもあった)、本来、オーバーグラウンドに全く縁のないマニアックなインディーロックバンドが次々にスターダムへと押し出されていった。これはまた、既に多くの人がご存知の通り、本来、「亜流」の意味を持つオルタネイティヴミュージックがメインストリームを席巻し、アメリカのミュージックシーンの「主流」に成り代わった歴史的な瞬間でもあった。さらに、アンダーグラウンドシーンから、次なるニルヴァーナを見出すべく、レコード会社の関係者、あるいは業界関係者は熱をあげていた。 


これには、多くのサブ・ポップに所属するバンドが全て対象となり、それまで、このサブ・ポップレーベルのシアトルサウンドの基盤を築き上げた、サウンドガーデン、グリーン・リバー、マッド・ハニーといったバンドも一躍脚光を浴びる。アバディーンを代表するメルヴィンズ(カート・コバーンがハイスクール時代にバンド加入オーディションを受け、不合格となっている)も、それなりの知名度を誇るバンドになった。

 

巨大産業、メジャーシーンに組み込まれることを危惧したサブ・ポップレコードは、この急激なミュージックシーンの変化に際して、何らかの先手を打つ必要があった。 1994年、サブ・ポップはワーナー・ミュージックとの合弁会社を設立する。2000万ドルの巨額の取引を通じ、サブ・ポップは、ワーナーミュージックにレコードリリースのライセンスの45%の譲渡を決定した。これは、前例のない取引だったという。しかし、このメジャーレーベルとの合併後、サブ・ポップは急激にインディーミュージックに対する求心力を失っていくことになる。 

 

 


4.サブ・ポップの一時的な凋落

 


 

ワーナーミュージックとの契約は、サブ・ポップのレーベル運営に、少なからずの変更を強いることになった。レーベルのオフィスが拡大し、ワーナーのレーベル担当者が招かれ、サブ・ポップの企業文化に大きな変化が生まれたのだ。

 

この時点で、創設者のブルース・パヴィットとジョナサン・ポネマンは企業の将来についての考えに明らかな違いが生じ始めていた。

 

ブルース・パヴィットは、レーベルのDIYの理念を保持していきたいと考えていたのに対して、ジョナサン・ポネマンは、企業の収益を増やし、レーベルの財務状態を安定させるため、会社の規模自体を拡大していきたいと考えていた。

 

これは、インディーレコード会社としての理念を守るか、はたまた、最初の理念を捨て、大手レーベルとしての歩みを選択するか、いわばレーベルの分岐点に当たった。ワーナーミュージックの買収、シアトルグランジがワールドワイドなブームとなる中、資本主義の企業文化に対してサブ・ポップも無関心でいられなかった。また、この時代、少数のサブ・ポップのスタッフがワーナーのスタッフに置き換えられてしまったことに、ブルース・パヴィットは深い動揺を覚えていたという。

 

まもなく、最初の創業者ブルース・パヴィットは、サブ・ポップを去っていった。以後、パヴィットは、執筆活動やDJといったレーベル経営とは異なる分野で活躍している。

 

その後、サブ・ポップは、ジョナサン・ポネマンの意向を重んじ、スケールアップを図り、世界中にオフィスを開き、メジャーレーベルのような存在感を示そうとした。しかし、この決断により、皮肉にも、サブ・ポップのレーベルカラーを失う結果となり、以前の特性を維持することが困難となった。正直、ニルヴァーナやサブ・ポップのリリースしたレコードのブームは一過性のものでしかなく、永久的な音楽市場の需要を築き上げるまでには至らなかった。1990年代後半、グランジブームが下火になるにつれ、サブ・ポップのレーベルの経営は息詰まり、1997年には破産寸前まで追いやられた。


この時代、コストを削減するため、余分なオフィスを手放す必要に駆られたのち、残留したスタッフの給料を捻出できないほどになっていた。サブ・ポップのレーベルとしての未来は、決して明るくないように思えた。

 

 

5.最初のレーベル理念の復活 

 

 

 

しかし、再び時を経て、ジョナサン・ポネマンが、シアトルに戻った時、重要なインスピレーションを得た。彼は、それまでの三年間、なんとしてでも巨大なレコード会社へ成長させようと試みていたが、そもそもその考え自体が誤りであったと気がついたのだ。


サブ・ポップと契約しようとするバンド、アーティストはそもそも、メジャーレーベルに属するミュージシャンと異なり、インディー体質、つまり、ある程度、DIYのスタイルを保持し、音楽活動を行っていきたいと考えるアーティストばかりだと、ジョナサン・ポネマンはようやく思い至ったのである。

 

それは、インディーレーベルらしい家族やコミュニティのような近い関係を、レコード・レーベルとアーティストが結ぶことにより、アメリカのインディーロックの重要な価値観であるDIYの精神を強固に構築するものでもあった。むしろ、これらのアーティストは、サブ・ポップというレーベルを通して、他のメジャーレーベルでは味わえない経験を得たいと考え、契約を結ぶことが多かったのだ。

 

この重要なレーベルコンセプトに気がついたポネマンは、以後、企業規模を縮小していく方針を取る。サブ・ポップは、以前と変わらず、財政面での苦戦を強いられ、その将来も見通せないままであったにせよ、ポネマンは、サブ・ポップの社屋をシアトルに戻し、巨大レーベルとしての道を諦め、その後、シアトルらしいレコード企業として小さな経営を続けていくことを決断した。

 

 

その後、幸運にも、サブ・ポップの財政面での困難を救ったのが、The Shinsの「Oh,Inverted World」2001のリリースだった。  

 

 

The Shins 「Oh Inverted World」2001 Sub Pop

 

 

「Oh Inverted World」は、商業的にも批評的にも概ね好評で、新たなサブ・ポップの代名詞とも呼ぶべき名盤となった。The Shinsのレコードは、Sub Popの歴史に新たな1ページを加え、レーベルの明るい未来に向けての新たな分岐点を形作ったと言える。

 

 

 

6.サブ・ポップの現在 シアトルの象徴

 

 

 

2000年代以降、サブ・ポップはジャンルにかかわらず、多岐にわたる新人アーティストの発掘に努めている。

 

2021年現在、ロックにとどまらず、フォーク、R&B、エレクトロニック、ヒップホップ、と魅力的なアーティストが数多く在籍し、刺激的なリリースを行っているレーベルであることに変わりはない。

 

同じように、サブ・ポップは、NYのMatadorと並んで、アメリカの重要なインディーズレーベルとして息の長い経営を続けている。それのみならず、スターバックス、アマゾンと並んで、シアトルを代表する企業であることにも何ら変わりない。サブ・ポップのレーベルの特色、そして、所属するアーティストの独特な音楽性は、現在もシアトルという土地の象徴的なブランドを形成しているのだ。

 

7年前から、シアトルのシータック空港(シアトル・タコマ国際空港)内には、サブ・ポップのレコードショップが開設されている。


ここには、サブ・ポップのPNW関連の商品を販売するパートレコードストア、それから、パートギフトショップであるサブ・ポップ・エアポートストアが開かれており、レコードマニアにとっては見過ごすことのできない観光名所となっている。2021年現在も開設されているのかについては、シアトル現地のファンの証言に頼るしかあるまい。

 



シアトル・タコマ国際空港内のサブ・ポップ公式ショップ

 

2018年にサブ・ポップは、遂に目出度く三十周年を迎えた。いや、迎えてしまったと言えなくもない。(これは、彼らが「創業三十周年」ではなく、「廃業三十周年」と自虐的に呼んでいることからも明らかである)

 

長年にわたるレコード会社として粘り強いDIYスタイルの経営を続けてきたことに加えて、財政面で浮き沈みの激しかったレーベル運営という面で、シアトルのサブ・ポップレコードは、英国のラフ・トレードにも近い魅力を持ったレコード会社といえる。


今後、果たして、どのような素晴らしい魅力を持つアーティストがこのアメリカの名門レコード会社から出てくるのだろう。音楽ファンとしてはワクワクしながら次なるビッグスターの登場を心待ちにしたい!!



・Reference 


「A History of Sub Pop Records」Lauren Armao 2021

 

Kurt Cobain ©Jeff Kravitz


Nirvana(ニルヴァーナ)、The Supremes(シュープリームス)、Slick Rick(スリック・リック)、Nile Rogers(ナイル・ロジャース) 、Heart(ハート)のアン&ナンシー・ウィルソン、Bobby McFerrin(ボビー・マクファーリン)、Ma Rainy(マー・レイニー )が、グラミー賞授賞式の前日に行われるレコード・アカデミーの功労賞授賞式で、生涯業績賞を受賞することが決定しました。この授賞式は、ロサンゼルスのウィルシャー・エベル劇場で開催される予定です。


さらに、写真家のヘンリー・ディルツ氏、伝説のジャズ・ミュージシャンで教育者のエリス・マルサリス氏、スタックス・レコードの創設者ジム・スチュワート氏が、"音楽界でのキャリアにおいて、演奏以外で録音分野に大きな貢献をした個人 "に贈られるTrustees Awardを受賞することになっています。


オーディオ・エンジニアリング協会とオート・チューンの発明者であるアンディ・ヒルデブランド博士には、グラミー技術賞が授与されます。更に、社会変革のための最優秀楽曲賞の受賞者は、今後数週間のうちに発表される予定です。


現在、ビヨンセ(9)、ケンドリック・ラマー(8)、アデル(7)、ブランディ・カーライル(7)が、CBSで生放送される2023年度グラミー賞の候補者をリードしている。その他の上位候補者には、メアリー・J・ブライジ、DJキャレド、フューチャー、テリウス "ザ・ドリーム "ゲスティールド・ディアマン、ランディー・メリル.、ハリー・スタイルズがそれぞれ6点を獲得しています。

裁判の争点となっているニルヴァーナの「ネヴァーマインド」のジャケット 1991年 ゲフィンより発売


今年 9月、NirvanaのNevermindのカバー・ベイビー、スペンサー・エルデンがカバーアートをめぐって損害賠償を求めて起こした訴訟は、時効が成立していることを理由に、米国連邦地方裁判所の判事によって3回目で最終的に棄却されている。しかし、エルデンは裁判を続けることを拒み、今、棄却を不服として控訴を申し立てている。


31歳のスペンサー・エルデンは、ニルヴァーナの象徴的なアルバム・ジャケットに自分の写真が使われたとき、生後わずか4カ月だった。スペンサー・エルデンは、バンドの生存メンバー、コートニー・ラブ、ユニバーサル・ミュージック・グループ、写真家のカーク・ウェドルに対する最初の訴訟で、写真を作成するために用いられた「不法行為」が彼に「永久的損害」を与えたとし、写真の使用を児童ポルノと呼んでいた。


この訴訟は今年9月2日に正式に棄却されたが、スピンによると、エルデンの弁護士は現在、この写真によってエルデンが被った被害は現在も続いているため、裁判長の時効に関する判断が誤っていると主張し、判決を不服としているとのこと。また、児童ポルノの被害者が成人後も金銭的賠償を求めることができるマーシャ法も引用しています。


エルデンの弁護士は提出書類の中で、"裁判所は、児童ポルノの配布は、配布時の被害者の年齢に関係なく、被害者の尊厳利益を侵害すると繰り返し判示してきた "と述べている。


さらに、スピンによると、・エルデンは「被控訴人らが、生後4ヶ月の彼の正面ヌード画像を商業的に利用し、世界中の何百万人もの人々(その多くは彼の知らない人々)にアルバムを販売していることを認識している」とも書いている。このことは、当然のことながら、彼に極度の継続的な精神的あるいは感情的損害を与え、それに対して損害賠償と差止命令を受ける権利を与えています。この救済措置は、彼の性的イメージを世界から取り除くことはできませんが、彼に精神的な治療を受ける手段を提供し、被控訴人による彼のプライバシーの配布と度重なる侵害がついに止まると知る利益を与えるでしょう "と述べています。


米国連邦地方裁判所のフェルナンド・M・オルギン判事による9月2日の判決では、"要するに、(エルデンが)違反を発見してから10年以内に訴状を提出しなかったことは議論の余地がないため......裁判所は彼の主張は時効でないと結論づける "と述べられている。さらに、"原告は時効に関する訴状の不備に対処する機会があったため、裁判所は、原告に4回目の修正訴状提出の機会を与えることは無駄であると説得される。"と述べた。


エルデンは、当初、30周年記念特別版のリリースにジャケットが使用されるのを阻止することを期待して訴訟を起こしたが、訴訟は発売日を超えて継続された。彼の最初の訴えは、ニルヴァーナの訴えの却下要求に対する最初の回答期限を過ぎていたため、2022年1月に却下された。


エルデンは自分に与えた損害について論じているが、過去には2016年にアルバム25周年記念でアルバム・ジャケットを再現し、祝福したこともある。


Music Tribune Presents ”Album Of The Year 2023” (Part 1)

 


今年を総括しておきますと、2023年度のリリースの総数は、パンデミック開けの昨年に比べると、さほど多くはなかったという印象です。これはおそらく、2021年にレコードの生産がロックダウン等で停滞していた流通が、翌年に発売が引き伸ばされたことに起因するかもしれません。

 

表面的な印象としましては、昨年の方が話題作やビックアーティストのリリースが断然多かったようです。今年は、週間のアルバムを探していても、1、2作しか話題作がないという週も少なからずでした。


テイラー・スウィフトが世界的な影響力を持つ中で、海外では個性的なアーティストも数多く出てきた年でした。

メインストリームでは、ソロアーティストによるスーパーグループ、boygenius、Geffen Recordsの新しい看板アーティスト、Olivia Rodrigoの登場が音楽シーンの今後の命運を左右する印象があるかもしれません。他方、アンダーグランドのミュージック・シーンでも、Anti、Matador、4AD、City Slang、Mergeを中心に注目すべきアーティストが数多く登場しました。今年はジャンルを問わず、「隠れた名盤」が数多く登場しました。どちらかと言えば、一回聴いてわかるというよりも、 よく聴かないと、その真価が分からないという作品が多かったように思えます。

 

今年、多数のレビューをさせていただいた実感として、音楽そのものに関しては、個別的なポピュラー性を求めるグループ、反対に音楽そのものの多様性やクロスオーバー性を徹底的に突き詰めるグループに二分されていたという印象を受けます。また、音楽という形態は、現実では実現不可能なものを実現させることが出来るような、稀有な表現媒体でもあることを実感しています。

 

今年も国内外のたくさんの読者様に支えられたことに篤く感謝いたします。さらに、リリース、ライブ情報をお送りいただいたすべての方々に深く感謝申し上げます。何より、日々制作に励むアーティストのみなさん、良いクリスマスとお正月をお過ごし下さいませ。来年も引き続き、Music Tribuneをよろしくお願いいたします!! 
      
   

・サイトがバッファに耐えられないので、記事を3つか4つに分割して公開する予定です。


To summarize this year, my impression is that the total number of releases in 2023 was not as large as last year at the opening of the pandemic. This may perhaps be attributed to the fact that the distribution of records production was stalled in 2021 due to lockdowns, etc., and the releases were stretched out to the following year.
 
On the surface, my impression is that there were definitely more high-profile and big artist releases last year. This year, there were more than a few weeks where you could find an album of the week and there were only one or two buzzworthy releases.

With Taylor Swift's global influence, it was a year that also saw a number of unique artists emerge overseas. In the mainstream, a supergroup of solo artists, boygenius, Geffen Records' new signature artist, Olivia Rodrigo, the new signatory of Geffen Records, may give the impression that the future fate of the music scene depends on their appearance. On the other hand, in the underground music scene, Anti, Matador, 4AD, City Slang, and Merge, among others. Regardless of genre, many "hidden gems" appeared this year. If anything, it is more than just recognizable after one listen,Rather, it seems that there were many works whose true value could not be appreciated unless one listened to them carefully.
 
As a result of reviewing many of the albums this year, I have the impression that the music itself was divided into two groups: those who sought individual popularity, and those who were more interested in the diversity and crossover nature of the music itself. I also realize that music is a rare medium of expression that can realize the unrealizable in reality.
 
We would like to express our sincere gratitude to the many readers both in Japan and overseas who have supported us this year. We would also like to express our deepest gratitude to all those who sent us information on releases and live performances. Above all, to all the artists who work hard every day on their productions, we wish you a happy Christmas and New Year.

 

Thank you very much for your continued support of Music Tribune in the coming year! 
      
   

The site cannot withstand the buffer, so we will publish it in installments.




・Best 35 Albums

 

Ryuichi Sakamoto(坂本龍一) 『12』


 

 


 

Label: Commons/Avex Entertainment

Release: 2023/1/17

Genre:Post Classical/Amibient

 


『12』は、今年4月2日に亡くなられた坂本龍一の遺作。YMOの活動や以後のソロ活動において、映画音楽やオーケストラ音楽、盟友であるAlva Notoとの実験的な電子音楽という多岐にわたる音楽を追求してきた。昨年からは「V.I.R.U.S」と称するリイシューを発表していた。

 

『12』は、日記のように書かれた作品で、癌の闘病中であった坂本龍一の渾身のアルバムとも言え、曲名は制作された日付を元に銘打たれ、人生の記録のような意味も読み取ることが出来る。

 

音楽性としては、従来、音楽家が得意としてきたアンビエント、クラシカル、そして新たにジャズの要素が付加されている。さらに驚くべきことに、厳しい状況の中で、制作者は、電子音楽という観点を通して、従来の作風のなかで最もアヴァンギャルドな音楽性に挑戦している。ピアノの演奏に関する気品に満ち溢れた演奏力は最盛期に劣らず、敬愛するバッハに対するオマージュともとれる「sarabande」も制作していることにも注目したい。クラシック音楽を親しみやすい音楽として、一般的なファンに広めるべく専心してきた坂本さんの集大成を意味するような作品。NHKの伝説の509スタジオで行われたピアノライブ、及び、インタビューも大きな話題を呼んだ。さらに生前最後のコンサート映画「OPUS」はヴェネチア国際映画祭で上映された。

 

 

「12」 Album Teaser

 

 

 

CVC 『Get Real』

 



Label: CVC Recordings

Release: 2023/1/23

Genre: Rock/R&B


ウェールズから登場した六人組のコレクティヴ、CVC(チャーチ・ヴィレッジ・コレクティヴ)はユニークなデビューアルバム『Get Real』を今年の初旬に発表した。チャーチ・ヴィレッジは、ラグビー場とパブに象徴される小さな町。CVCは、ウェールズ国内のライブを軒並みソールドアウトさせている。

 

CVCはビートルズやローリング・ストーンズ、ビーチ・ボーイズを始めとするヴィンテージ・ロックに強い触発を受けているという。

 

昨年末、デビュー・シングル「Docking The Pay」で、ドライブ感のあるハードロックサウンドを引っ提げて、ささやかなデビューを飾ったコレクティヴ、CVCは、今年、デビューアルバムで飛躍を遂げた。ビンテージ・ソウル、ファンク、ロックといったメンバーの音楽的な影響を持ち寄り、それらをコンパクトなサウンドにまとめている。

 

本作は、デビューシングル「Docking The Pay」に加え、「Hail Mary」、「Winston」、「Good Morning Vietnam」等、粒揃いの楽曲を収録したファーストアルバム。デビュー当時、彼らは、ラフ・トレードに提出したプレス資料の中で、「ウェールズを飛び出し、海外でライブをするようになりたい」と語っていましたが、その夢はすでに実現し始めている。小規模のスペースではありながら、NYCでのライブを実現させている。今後、どのようなバンドになるのか非常に楽しみ。

 

 

Best Track 「Hail Mary」





The Murder Capital 『Gigi's Recovery』



Label: Human Session Records

Release: 2023/1/20

Genre: Alternative Rock

 

The Murder Capitalはアイルランド/ダブリンの四人組。元々はポスト・パンクサウンドを引っ提げてデビュー・アルバムをリリースした。


デビュー作では、確かに若いポスト・パンクバンドとしての荒削りな感じが彼らの魅力だったが、セカンドアルバムでは、若干音楽性を変更している。本作にはオルタナティヴロックを中心に聴き応えのある曲が多数収録。ザ・マーダー・キャピタルは、エモーショナルなポップ性とオルタナティヴロック直系の捻りを追加し、オリジナリティー満点のサウンドを確立させた。


フロントマンのジェイムス・マクガバンは、アルバムの制作時のパンデミックの期間を、ダブリン、ドニゴール、ウェックスフォードで過ごし、自らを見つめ直す機会を得た。内省的とも解釈出来るサウンドは、セカンド・アルバムの重要な骨格を形作り、前衛的とも言えるシンセサイザーのテクスチャーと複雑に絡み合わせ、独自のオルタナティブロックサウンドを生み出した。


『Gigi's Recovery』にはThe Murder Capitalの新しい代名詞とも言えるサウンドが収録。バラードをオルト・ロックとして昇華した「Only Good Thing」、Radioheadの次世代のサウンド「A Thousand Lives」もまた、バンドらしくクールとしか言いようがない。今年、バンドはコーチェラ・フェスティバルでもライブパフォーマンスを行い、海外にもその名を轟かせることになった。  

 

 

Best Track 「A Thousand Lives」

 


 

 

Fucked Up 『One Day』 


 

Label: Merge

Release: 2023/1/27

Genre: Punk/Hardcore



2001年に結成されたカナダ/トロントのFucked Up。Matador Records、Jade Tree等、アメリカの主要なインディーロック/パンクのレーベルを渡り歩いてきた。6人組編成らしい分厚いポスト・ハードコアサウンドに、英国にルーツを持つダミアン・アブラハムの迫力のあるボーカル、実験的なエレクトロサウンドを組み合わせ、次世代のポスト・ハードコアサウンドを生み出す。

 

『One Day』はカナダ/トロントの伝説的なグループが一日という期間を設け、ソングライティング、レコーディングを行った。一発録音ではなく、トラックごとに分けて、八時間ごとの三つのセクションに分割し、レコーディングが行われ、2019年と2020年の二回にわたって制作された作品。しかし、それらの個別のトラックは正真正銘、「一日」で録音されたものだという。

 

本作は、硬派なポスト・ハードコアサウンドが主要なイメージを形作っているが、中にはメロディック・パンクからの影響も反映されている。

 

加えて、アブラハムの咆哮に近いエクストリームなメインボーカルと、分厚い編成によるコーラスワークの合致は、驚くべき美麗な瞬間を呼び起こす。エンジンが掛かるのに時間がかかるが、アルバムの中盤から終盤にかけてアンセムが多い。「Lords Of Kensington」、「Falling Right Under」、「One Day」をはじめ、Hot Water Music、Samiam、JawbreakerのようなUSエモ・パンクの精髄を受け継いだ「Cicada」も聴き応え十分。無骨なハードコアサウンドの中にあるメロディ性や哀愁のあるエモーションは、バンドの最大の魅力に挙げられる。



「Lords Of Kensington」

 

 

 

Young Fathers 『Heavy Heavy』



 

Label: Ninja Tune

Release: 2023/2/3

Genre: R&B/Hip-Hop

 

スコットランドのトリオ、Young Fathers(ヤング・ファーザーズ)は、リベリア移民、ナイジェリア移民、そしてエジンバラ出身のメンバーにより構成される。彼らの音楽の根底にあるのは、ビンデージのソウル/レゲエ。それにブレイクビーツやヒップホップのトラップの手法を加え、流動的な音楽性を生み出す。『Heavy Heavy』の背景にはレイシズムに対する反駁も込められており、ゆえに表向きの音楽性は必ずしもその限りではないものの、重力を感じるダンスミュージックとなっている。

 

バンコール、ヘイスティングス、マッサコイのトリオは、自分たちの面白そうだと思うものがあれば何であれヤング・ファーザーズの音楽に取り入れてしまう。ボーカルやコーラスワークに関しては、ソウルミュージックの性質が強いが、じっくり聴いてみると、アフリカンな民族音楽のリズムが取り入れられている。アフロビート、ビンテージ・ファンク、ソウル、ヒップホップの融合は移民としての多様性を反映した内容となっている。特にアルバムに収録されている「Drum」は、ヤング・ファーザーズが未曾有の領域にたどり着いた瞬間である。

 


Best Track「Drum」



Yo La Tengo 『This Stupid World』

 



Label: Matador

Release: 2023/2/10

Genre: Indie Rock/Alternative

 

 

1990年代から米国のオルタナティヴ・ロックシーンを牽引してきたニュージャージ州/ホーボーケンのトリオ、Yo La Tengo。元々、音楽ライターを務めていたアイラ・カプランを中心に結成。彼らは信じがたいことに、30年目にして、オルタナティヴ・ロックの高みに上り詰めた。本作のリリース後、トリオは『This Stupid World』の収録曲をライブで披露した「The Bunker Sessions」を発売し、バルセロナの音楽フェスティバル、プリマヴェーラ・サウンド 2024にも出演が決定している。

 

『This Stupid World』 は、Stereogumによると、Tortoise(トータス)のドラマーとして知られるミュージシャン、John McEntire(ジョン・マッケンタイア)が部分的にミックスを手掛けたという話である。

 

「And Then Nothing Turned Itself Inside-Out」、「Summer Sun」 といった良盤をリリースしながらもフルレングス単位では今ひとつ物足りなさがあったが、今作では従来のイメージを完全に払拭してみせた。特に、Yo La Tengoは、The Velvet Undergroundに象徴づけられるニューヨークのアヴァンギャルド・ミュージックの源泉に迫る。オープニング曲「Sinatra Drive Breakdown」、及び「Fall Out」では、オルタナティヴロック/ギターロックの最高の魅力を示している。

 

「Tonight Episode」におけるホラー映画を彷彿とさせる音楽性も、新しい魅力の一端を担っている。その後、息をつかせるジョージア・ハブレイによる穏和なバラード「Aselestine」は、「Let’s Save Tony Orland's House」に象徴される温かな曲風を想起させる。


アルバムの終盤のハイライト「This Stupid World」では、近年見過ごされがちだったギターロックの音響性の未知の可能性を示唆している。アイラ・カプランとジョージア・ハブレイは、7分に及ぶこの曲の最後で歌う。「This stupid world/ It's killing me/This stupid world/ Is all we have」。My Bloody Valentineのケヴィンの全盛期に匹敵するディストーションの怒涛の嵐の後、エレクトロニックとポップの融合に挑んだ壮大な世界観を持つ「Miles Away」では、神秘的な境地に至る。  


 


Best Track 「Fall Out」



Caroline Polachek 『Desire,I Want To Turn Into You』




Label: Perpetual Novice

Release: 2023/2/14

Genre: Pop/Experimental Pop

 


2019年末、『Pang』をリリース後、ブルックリン出身のキャロライン・ポラチェックはレコードのツアーを行う予定だったが、2020年3月のCOVID-19のパンデミックによって中断された。

 

以後、ポラチェクはロンドンに滞在し、ダニー・L・ハーレと『Desire, I Want to Turn Into You』の制作に取り組んだ。彼女はアルバムを"他のコラボレーターがほとんど参加していない "ハーレとの主要なパートナーシップであると考えた。2021年半ばまで、ポラチェックはロンドンでアルバムの制作を続け、ハーレやコラボレーターのセガ・ボデガと共にバルセロナに一時的に移住した。

 

ポラチェックは勇敢に人生を受け入れ、制作に取り組んでいる。バルセロナの滞在は『Desire,I Want To Turn Into You』の音楽性にエキゾチズムを付加することになった。旧来の楽曲のポピュラー性とアーバン・フラメンコ等の南欧の音楽が合致し、オリジナリティー溢れる作風が確立。アルバムに充溢する開放感のある雰囲気は、アーティストの未知なる魅力の一端を司っている。


「Pretty Is Possible」を筆頭に、ダンス・ミュージックを反映したモダンなポップが本作の骨格を形成する。一方、「Hopedrunk Everasking」に見受けられるナイーブな曲も聴き逃せない。その他、「Somke」、「Butterflly Net」を始めとするソングライターとしての着実な成長を伺わせる曲も収録。

 

 

Best Track  「Smoke」

 

 

 

 

Shame 『Food for Worms』

 


 

Label: Dead Oceans

Release: 2023/2/24

Genre: Post Punk/Indie Rock



ロンドンのポストパンクバンド、Shameは最新作『Food For Worms』の制作を通じて、一回り成長して帰ってきた。 


元々は、プリミティヴなポスト・パンクを強みとしていたSHAME。彼らの最新作は、オルタネイトなひねりもあるが、インディーロックやブリット・ポップ、プログレッシヴ・ロックの要素を交え、多角的なロックサウンドを追求している。

 

IDLES、Squidを筆頭に、今やロンドンは「ポスト・パンクの聖地」となりつつある。そしてSHAMEは彼らに劣らないバンドとしてのクオリティー、卓越したバンドアンサンブルを誇る。

 

オープニングを飾る「Fingers of Steel」 のドライブ感のあるポスト・パンクサウンドに加えて、エモの質感を持つ叙情的でメロディアスな曲調が彼らの強み。他にも、変拍子を交えた「Six Pack」はオリジナルパンクとしても聴けるし、プログレッシヴ・ロックとしても楽しめる。

 

中盤にも、良い曲が多く、Pavement、Guided By Voicesに近いオルタナティヴとエモの風味を加えた「Adderall」は、素晴らしいロックソング。きわめつけは、ブラー、オアシスの最初期を彷彿とさせるブリット・ポップを緊密なスタジオ・セッションに近い形で収録したクローズ曲「All The People」は、彼らが昨年からライブで温めてきたもので、Shameの新たな代名詞が誕生した瞬間。アルバムを聞き終えた後、ロックの素晴らしさと温かみに浸れること間違いなし。 



Best Track 「All The People」

 


Live Vesion

    





 

 

Yazmin Lacey 『Voice Notes』

 



Label: Own Your Own

Release: 2023/3/3

Genre: R&B/ Reggae

 

Yazmin Laceyの「Voice Notes』は、UKのR&B/レゲエの注目のアルバム。デビューアルバム『Voice Notes』は、ヤズミン・レイシーの人生の瞬間をとらえた重要な記録。Black Moon(2017年)、When The Sun Dips 90 Degrees(2018年)、Morning Matters(2020年)という3枚のEPに続く本作は、3部作の一つに位置づけられている。

 

ヤズミン・レイシーは、洗練されたサウンドを出来るだけ避け、生々しさ、つまり、アルバムタイトルにもなっているように「誰かの間に立ち止まり、声のひび割れを聞く」チャンスを与えることを選んだという。

 

ヒップホップの話法を交え、サンプリングを元にしたR&B,レゲエ、ダブをシームレスに展開させる。夜のメロウな雰囲気がアルバム全体には漂い、ときに贅沢な感覚が表現されている。特に「Bad Company」はアルバムのハイライトの一つであり、アーティストの出世作に挙げられる。

 


Best Track 「Bad Company」

 

 

 

 

Sleaford Mods 『UK Grim』

 



Label: Rough Trade

Release: 2023/3/10

Genre: Post Punk/Electronic

 

アンドリュー・ファーン、ジェイソン・ウィリアムソンによるSleaford Modsは、『Spare Ribs』に続くアルバム『UK Grim』を通じて、国外に宣伝されるイギリス像とは異なる国家観をポスト・パンクやクラブ・ミュージックで表現する。アルバムの発売の直前、The Guardianの日曜版で特集が組まれた。アルバムのタイトルは「グリム童話」と「UKグライム」を掛けていて、洒落の意味があるのだろう。

 

オープニングを飾るタイトル曲「UK Grim」は、ミュージックビデオを見ても分かる通り、政治的に過激な風刺が込められている。それをリアルから一定の距離を置いて、シニカルかつコミカルに表現するのがSleaford Modsの魅力。


今作には、複数の豪華コラボレーターが参加している。Dry Cleaningのフローレンス・ショー、そして、意外にも、Jane's Addictionのペリーファレルがゲストボーカルで参加。マドリード公演での中断が今年11月に話題を呼んだ。今後も彼らの動向から目を離すことは出来ない。もちろん同レーベルのアイルランド・フォークの重要な継承者、Lankumの『False Lankum』も聴いてみてね。


 

「So Trendy」

 

 



Unknown Mortal Orchestra 『V』(US)

 



Label: jagujaguwar

Release: 2023/3/17

Genre: Indie Rock/Alternative

 

 

ニュージーランド出身のルヴァン・ニールソン率いるアンノウン・モータル・オーケストラは、近年、ポートランドに拠点を移して活動中。従来の作品では、フリーク好みのローファイ/サイケロック/ファンクで多数のファンを魅了してきた。『V』に関しては、 ルヴァン・ニールソンがポリネシアのルーツを辿っている。サウンドプロダクションについては、ボズ・スキャッグス、ボビー・コールドウェルといった70、80年代のポピュラー音楽が重要なファクターとなっている。それに加えて、ニールソンのルーツであるハワイの南国的な雰囲気も漂う。


本作の魅力は、ダンス・ミュージックを意識したミニマルなループ・サウンドの中に、旧来のサイケ、ファンク、ソフト・ロック、AOR,ローファイと、無数の要素が散りばめられていることにある。アルバム発表の約2年前に発表された先行シングル「That Life」を始め、アーティストの故郷への愛着が歌われた「The Beach」、哀愁に充ちた雰囲気を擁するループサウンドをローファイとして処理した「The Garden」等、聴き応えたっぷりの良曲が多数収録されている。

 


Best Track 「The Beach」

 

 

 

 

 Lucinda Chua 『YIAN』



Label: 4AD

Release: 2023/3/24

Genre: Pop/Modern Classical/R&B

 

 

ロンドンを拠点に活動する中国系イギリス人シンガー、Lucinda Chua(ルシンダ・チュア)は、当初、フォトグラファーとして活動し、後にチェリストに転向している。以後、Oneohtrix Pointnever(ダニエル・ロパティン)でのツアーサポートを期に、エレクトロニック/アンビエント界隈で、名を知られるようになった。2021年、4ADと契約を交わし、ソングライターに転向した。 


モダンクラシカル/ポピュラー/アンビエントをクロスオーバーし、美麗な音楽世界を構築するようになった。「Antidotes Ⅰ、Ⅱ」では、幼い頃から親しんできたピアノ、そしてチェロ、エレクトロニック、彼女自身のボーカルを交え、このシンガーソングライターにしか表現しえないオリジナリティー溢れる音楽を作り出した。

 

最新作『YIAN』でもピアノ/エレクトリックピアノの弾き語りを中心に落ち着いたモダンクラシカルを基調としたポピュラー・ミュージックのアプローチが図られている。しかし、ボーカルから滲み出るネオ・ソウルの質感は、シンガーの人間的な成長、あるいは考えの深化を表し、そしてそれを支える華麗なストリングスは、ルシンダ・チュアがよりワールドワイドなシンガーソングライターの道を歩み始めたことの証ともなりえる。繊細な感覚を持つピアノとボーカルのハーモニーが合わさった時、息を飲むような美麗さが訪れる。本作の音楽にはイメージの換気力があり、表向きの印象の奥底に、ピクチャレスクな印象が立ち上ることもある。

 

「Golden」、「I Promise」、「Echo」を始め、聞きやすさと深みを兼ね備えた美麗なモダンクラシカルを基調とするポップソングが鮮烈な印象を擁する。


オーケストレーションを用いた「Meditations on a Place」、ボーカリストとしての進化を意味する「Autumn Leaves Don't Come」も聞き逃せない。デビューEP「Antidotes」以降の音楽性は、アルバムのクローズ曲「Something Other Than You」において、ひとまず集大成を迎えたと見て良さそうだ。 

 


Best Track 「Something Other Than You」

 

 

 

 Lana Del Rey 『Did You Know That There's a Tunnel Ocean Blvd」





Label:  Polydor

Release: 2023/3/24

Genre: Pop

 

 

米国では最も影響力のあるシンガーソングライター、ラナ・デル・レイ。先日発表されたグラミー賞では、主要部門にノミネートされた。『Did you know? ~』のアートワークとタイトルーー地下トンネルの存在とジュディー・ガーランド扮するアーティストーーには暗示的なメッセージが含まれている。

 

アーティストの最も傑出したところは、ビックアーティストになろうとも、出発点を忘れず、サッドコアを始めとするインディーミュージックにも重点を置いている点にある。加えて、アーティストは、今年の夏頃、地元の小さなマーケットのスタッフとして短期的に勤務していた。スターではあるものの、一般的な人々に目を向けていることは本当に尊敬するよりほかない。

 

このアルバムがポピュラー音楽として秀作以上の何かがあることは、レコーディング・アカデミーの太鼓判を見ても明らかである。さらに、デビューから10年あまりを経て、このアルバムのサウンドに円熟味を感じたとしても、思い違いではない。特に「The Grant」のミュージカル等に触発されたシアトリカルなサウンドを提示し、アーティストとしての真心が込められたタイトル曲も切なく、琴線に触れるものがある。


「A&W」における映画音楽を彷彿とさせる音楽性に関しても、作品全体に堅固な存在感とポップスとしての聴き応えをもたらしている。以前、コラボ経験のあるFather John Misty,そして同じく、2023年度のグラミー賞にノミネートされたJon Batisteの参加も聴き逃せない。この上なく洗練されたポピュラーミュージックの至宝。年代を問わず幅広いリスナーに推薦したいアルバム。

 

 

Best Track 「A&W」

 

 

 

 

boygenius 『the record」-Album Of The Year

 


 

Label: Interscope

Release: 2023/3/31

Genre: Indie Rock


元々、ソロシンガーとして活動していたルーシー・デイカス、フィービー・ブリジャーズ、ジュリアン・ベイカーによるboygenius。


今年始め、いきなりロサンゼルスの街角でNirvanaの三人に変装して撮影された写真を公開して、ファンの話題を攫った。今、考えてみれば、ボーイ・ジーニアスの壮大なストーリーの始まりで、デビューアルバム『the record』の告知でもあった。


デビュー・アルバムは、Rolling Stone誌のカバーを飾り、グラミー賞の主要部門にもノミネートされた。実際、このアルバムは商業的な路線を図りながらも聴き応え十分の内容だ。3人のソングライティングの個性が劇的に融合を果たしている。特にコーラスのハーモニーが織りなす美しさに着目したい。

 

ゴスペル風の作風に挑戦したオープナー「Without You Without Them」、すでにライブ等で定番といえる「Cool About It」、「Not Strong Enough」等、インディーロック、フォーク、ポップスを軽やかにクロスオーバーしている。もちろん、フィービー・ブリジャーズのソングライティングにおける繊細でエモーショナルな感覚も内在している。アルバムの中で唯一、ポストロック的なアプローチを図った「$20」もクール。洋楽のロックの初心者にこのアルバムを推薦したい。

 


Best Track 「Not Strong Enough」

 

 

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ニルヴァーナ『イン・ユーテロ』は、20周年記念として2013年に増補リイシューされているが、再びデラックスバージョンでリリースされることになった。カート・コバーン率いるバンドの最後のスタジオ・アルバムは、30周年を記念して10月27日にGeffen/UMeから8枚組LPと5枚組CD、53曲の未発表ライヴ・トラックを含むいくつかのフォーマットで再発される。


この音源は、1993年12月30日にロサンゼルスのグレート・ウェスタン・フォーラムで行われたイン・ユーテロ時代の2つのフル・コンサートと、1994年1月7日にシアトル・センターで行われたコバーンが亡くなる前のニルヴァーナの最後の地元公演から抜粋されたものだ。この音源は、1989年のデビュー・アルバム『Bleach』をプロデュースしたシアトルのプロデューサー/エンジニア、ジャック・エンディーノがサウンドボード・テープから編集した。また、エンジニアのボブ・ウェストンが『イン・ユーテロ』セッションのオリジナル12曲とボーナス・トラック/サイド5曲をリマスタリングしている。


1993年9月21日に発売された『イン・ユーテロ』は、ビルボード200で初登場1位を獲得し、"All Apologies"、"Heart-Shaped Box"、"Rape Me "などの曲で知られる。全米レコード協会によると、全米出荷枚数は600万枚と認定されている。


 

 

シアトルサウンド、グランジの歴史の中で最も象徴的なミュージシャンのメンバーが集い、新たなバンド「3rd Secret」は結成されました。彼らは、興味深いことに、バンドの存在の告知すら行わず、デビュー・アルバム「3rd Secret」を4月9日に自主レーベルからリリースしています。

 

3rd Secretは、Nirvanaのベーシスト、クリス・ノヴォセリック、Soundgardenのギタリスト、キム・テイル、Pearl Jamのドラマー、マット・キャメロンを中心に結成され、グランジのバンドの最重要メンバーが含まれています。また、このグランジシーンの中心人物の三人に加え、ワシントンDCハードコアシーンの黎明期を牽引したVoidのギタリストを務めていたBubba Dupee,そして、クリス・ノヴォセリックのサイドプロジェクトとして活動していたバンド、Giants In The Treesに参加していたジェニファー・ジョンソン、ジュリアン・レイの二人も参加しています。

 

今回、3rd Secretの事前告知が行われない形でデビュー・アルバム「3rd Secret」がリリースされました。バンドは、メンバーが古くから関わりを持ってきたプロデューサー、ジャック・エンディノと一緒にレコーディングを行っています。(ジャック・エンディノは、他のグランジやアンダーグラウンドロックシーンにおいて重要な役割を果たしたプロデューサーであり、かの有名なニルヴァーナのデビュー・アルバム「Bleach」、Soundgardenの「Screaming Life」のエンジニアを務めています)新作アルバムについては、現時点で、spotifyやAmazon Musicについては、デジタル形式で視聴可能ですが、全ての形式でデジタル配信が行われているわけではありません。


デビューアルバム「3rd Secret」は、サウンド・ガーデンの最初期の作風に近いものが感じられます。本作は、Led Zeppelinの「Ⅲ」のスタイルを継承した神秘的なフォーク・ロック、あるいは、グランジらしいオーバードライブのかかったソリッドなリフの間を自由自在に往来するサウンドです。アメリカの音楽メディア、Rolling Stoneによれば、バンドのメンバーは直近のインタビューにおいて、シアトルのポップカルチャーミュージアムの館内にて初のライブアクトを行ったようです。往年のハードロック、シアトルサウンドのグランジを継承するバンドとして、アメリカの音楽メディアのStereogumは、3rd Secretの音楽について、「新しいスーパーグループ」と称し、かなり大きな期待を寄せています。

 


 


4月上旬、Nirvana、Pearl Jam、Soundgardenのメンバーが3rd Secretという新しいグループを結成し、ニューアルバムをリリースしました。この作品は、当初、Youtube上でバンドがサプライズで公式に無料で音源配信を行い、さらに、bandcampでも音源が公開されています。このサプライズリリースのニュースは最初にアメリカの音楽メディアが報じています。残念ながら現時点では、デジタル配信のみのリリースであり、CD/LP盤としてはリリースされていません。


クリス・ノヴォセリック、キム・テイル、マット・キャメロンが率いるこのスーパーグループは、「Rhythm of the Ride」のビデオを公開しました。この曲は、エリック・フレンドがレコーディングし、シアトルの長年のプロデューサーであるジャック・エンディノがミキシングを手掛けています。


デビューアルバムからのカットされた最初の曲「Rhythm of the Ride」のビデオクリップでは、クリス・ノヴォセリックがジリアン・レイとジェニファー・ジョンソンの2人のボーカリストとアコースティックギターをステージで演奏している姿が映されています。この映像は、ワシントン州ナセルにある「Murky Slough Studios」で撮影され、クールな背景が追加されています。


 

バンドは、4月11日にデビューアルバム「3rd Secret」をリリースしています。ノヴォセリックとキャメロンは、スタジオに滞在している間、秘密のコラボレーションを予告しており、セッションの写真をソーシャルメディア上で公開しました。その後、3rd Secretは、4月18日にシアトルの「The Museum of Pop Culture」で記念すべき初ライブパフォーマンスを行っています。


今月初め、マット・キャメロンはCOVID-19に感染する前、、パール・ジャムのツアーに参加していた。その後、2回の公演を欠席し、ジョシュ・クリングホッファーとリチャード・スチュヴェルート(と幸運なファンたち)がドラマーの代役を務めていた。

Meat Puppets

これまで風変わりなバンドやアーティストは数多く聴いてきたものの、Meat Puppetsほど変わったロック・バンドというのはあまり聴いたことがない。

 

ミート・パペッツは、アリゾナ出身のバンドで、当初はカート・カーウッド、クリス・カーウッドを中心にトリオとして80年に結成され、後に、五人組(現在は四人?)のバンドとなり、何度か解散しているが、現在も活動中である。近年では、KEXPでパフォーマンスを行っている。


もちろん、グランジ、ニルヴァーナ関連に詳しい方は、このバンドに対してカート・コバーンが入れ込んでいたことを知る人も少なくないかもしれない。他にも、コバーンは、シアトルのメルヴィンズに強い触発を受けているとも言われる。そして、いわゆるパンクとメタルの間の子としてのグランジ・ミュージックが誕生し、薄汚れたとか汚らしいというコバーン特有のファッションの表現が定着し、グランジという言葉が生み出されたのだった。そして、コバーンは、稀にボーカルのピッチがよれたような奇妙な歌い方をする場合がある。このスタイルは間違いなく、アリゾナのミート・パペッツのCurt Kirkwoodのボーカルに触発を受けていると思われる。

 

そして、実際、ニルヴァーナは91年の『Nevermind』、93年の「In Utero』で成功を収め、ロックスターとしての地位を手中に収めた。さらに、その年、自らのルーツを公にするようになった。ゲフィン・レコードが主宰する93年のMTV Unpluggedでは、一転してエレクトリックギターではなく、アコースティックギターでそれまで発表した作品を再構成し、パンクのラウド性だけが魅力のバンドではなく、静かに聴かせるバンドでもあることを対外的に示唆したのであった。そして、このアコースティック・ライブに、Meat Puppetsのギタリストのクリス・カークウッドが登場したため、パペッツも自ずとその名を広く認知されることになった。これはたぶんコバーンなりの配慮があって、アリゾナのバンドの音楽に深く触発を受けていることを周知し、改めてミート・パペッツに対するリスペクトを示そうとしたのではなかっただろうか。 

 

MTV Unplugged、1993 「Plateau」

 

 

ともあれ、Meat Puppetsは、80年代のUSハードコアパンクシーン、しかも相当マニアックなアンダーグラウンド界隈から出てきたバンドであることは間違いない。しかも、ミート・パペッツはこの後の時代にメジャーのアイランドレコードと契約し、このバンドにしては珍しく大衆的なロックソング「Backwater」を発表しているが、その出発点を辿ると、きわめてマニアックなバンドとして、Black Flagのグレッグ・ギンが主宰していたSST Recordsからデビューを果たしたのだった。

 

セルフタイトル『Meat Puppets』を聴くと分かる通り、ミート・パペッツは、ある側面では、スピードチューンを誇るハードコアバンドとして出発している。このファーストアルバムには若さゆえの無謀さや未知の可能性を詰め込み、それらをジャンク感満載のハードコアパンクとして無理やり押し込んだような音楽性が全体に通底している。ただ、その中にも米国南部のバンドとしてのルーツが含まれていた。つまり、それらが、グレイトフル・デッドのようなカルフォルニアのサイケデリック・ロック、そして、カントリー、ブルーグラス、そしてテキサス/メキシカンの南部のアメリカーナである。これらが渾然一体となったカオティックな音楽がミート・パペッツの他では求められない特性でもある。ファースト・アルバムに見られるようなすさまじい勢いと、その背後に漂うアリゾナの砂漠地帯を彷彿とさせる幻想性が、カオティック・ハードコアの最初期の源流に位置づけられるこのセルフタイトルの核心を形成していたのだった。

 

次いで、アリゾナのロックバンドが二作目として84年に発表した『Meat Puppets Ⅱ」は、 前者のハードコアのアプローチから若干距離を置いている。これは一見すると、パンクから遠ざかったという見方が出来るが、実はそうではなく、パンクの無限の可能性を示そうとしたというのである。この点について、フロントマンのカート・カークウッドは、「あえてみんなのために空振りをしたんだ」と語っている。「それくらいパンクなことをやってみてもいいのではないか?」と。 


それがどのような結果となったのかは、2ndアルバムが雄弁に物語っている。カントリー/ブルーグラスをパンクとして再解釈した「Magic Toy Missing」、ジョニー・キャッシュのようなフォーク/カントリーをロカビリー風にアレンジした「Lost」、そして、後にニルヴァーナがMTVでアコースティックバージョンとしてカバーする「Plateau」、「Lake Of Fire」、さらにはヒッピーの暮らしと彼らの信ずるジャンクな神様に対する信仰を描いた「New Gods」、さらにはローリング・ストーンズを無気力にカバーした「What To Do」といった唯一無二のパンクロックソングが生み出されることになった。また、オーロラの神秘性をメキシカンな雰囲気で捉えたインストゥルメンタル曲「Aurora Borealis」は空前絶後の曲である。何かこれらの音楽には、度数の高いテキーラ、メキシカン・ハット、タコス、そして、サボテンというものがよく似合う。これらのアリゾナや国境付近の砂漠であったり、テキサス/メキシコ音楽の影響を反映した奇妙なエキゾチズムが、生前のカート・コバーンの心を捉えたであろうことはそれほど想像に難くない。


近年のMeat Puppets


その後、ミート・パペッツは、カート・コバーンの紹介もあり、いくらかシニカルなユニークさを交えたロック・ミュージックへと方向性を転じ、多作なロックバンドとして知られることに。そして、シンプルなロックバンドとしての商業的なピークは、MTVアンプラグドの翌年、94年の「Too High To Die」に訪れる。しかも、このアルバムは、それまでのジャンクロック/カオティックハードコアとは異なり、SoundgardenやAlice in Chainsに近いグランジっぽい音楽性を含んでいた。


94年といえば、ローリング・ストーン誌の有名なカバーアートを飾った後、コバーンが死去した年である。そして、「Too High To Die」が発売されたのはコバーンが死去する3ヶ月前のこと。アルバムのタイトルについて考えると、こじつけのようになってしまうが、ミート・パペッツはシアトルのMelvinsよりもはるかにニルヴァーナと近い関係にあるようにも感じられる。ニルヴァーナは知っているけれどミート・パペッツを知らないという方は改めてチェックしてみてほしい。

 

 

 

 



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