US Girls(メグ・レミー)が4ADからリリースされる新作アルバム『Scratch It』を発表した。 トロントをベースに活動するUS Girlsは、プロデューサー、映画製作者、そして著作家と複数の活動を行っている。最初のリードシングル「Bookends」は、壮大なスケールを持つ12分に及ぶ。ミュージックビデオは、20世紀始めのキャバレーのようなモノクロの映像である。

 

このアルバムは、ギタリストのディロン・ワトソンと、ベースのジャック・ローレンス(ザ・デッド・ウェザー、ザ・ラコンターズ)、ドラムのドーモ・ドノーホー、キーボーディストのジョー・ショーニコウとティナ・ノーウッド、伝説のハーモニカ奏者チャーリー・マッコイ(エルヴィス、ボブ・ディラン、ロイ・オービソン)を含むセッション・ミュージシャンのバンドと共にナッシュビルで制作された。 

 

アルバムはアナログ・テープによるライヴ録音で、オーバーダビングは最小限に抑えられている。


最初のシングルは「Bookends」で、エドウィン・デ・ゲイと共作した12分のエピソードで、レミーの友人であるパワー・トリップのフロントマン、故ライリー・ゲイルへのトリビュートである。 この曲のリリックは、「レミーがジョン・キャリーの『Eyewitness To History』(24世紀にわたる世界の大事件に関する、300以上の目撃証言からなる歴史的コレクション)を読むというレンズを通して」語られている。 人類の歴史に関するこれらの生の証言を読む中で、彼女は 「苦しみに序列はなく、死は偉大な平等装置である 」という考えについて熟考し始めた。


リードシングル「Bookends」のミュージックビデオは、ケイティ・アーサーが手掛けた。究極的には死と赦しについて、つまり、死がいかに人生において唯一確かなものであるか、それから、"偉大なる平等者"、「nolens volens」について描いている。 しかしながら、死は、絶望的な虚無である、という伝統的な概念を覆し、むしろ、幻覚的なアンサンブル・キャスト、1960年代のポップスターのパフォーマンス、手品のようなマジックを通して、死を陶酔的な一過性の経験や、あるいは、新たな始まりとして描いている。 映像が進むにつれて、メグの歌詞が様々な形の死を想起させるように、テレビのチャンネルは、これらのシーンを交互に映し出す。 



「Bookends」


アーティストがお金や流行ではなく本能に従うとき、彼女はどこでもインスピレーションを得ることができる。

 

トロントの自宅から1,000マイル以上離れたアーカンソー州ホットスプリングスで開催されたフェスティバルへの出演依頼を受けたレミーは、友人のギタリスト、ディロン・ワトソン(D. Watusi、Savoy Motel、Jack Name)に依頼、この日のためにナッシュヴィルを拠点に活動していたバンドを結成した。 彼女はそのエネルギーに乗り、インスタントなバンドで最初にリハーサルを行ったミュージック・シティに戻ることにした。

 


US Girls  『Scratch It』

Label: 4AD

Release: 2025年6月20日

 

Tracklist:

 

1. Like James Said

2. Dear Patti

3. Firefly on the 4th of July

4. The Clearing

5. Walking Song

6. Bookends

7. Emptying the Jimador

8. Pay Streak

9. No Fruit

 

Ebru Yildiz

 

HEALTHはChelsea Wolfe(チェルシー・ウルフ)とのコラボレーションシングル「MEAN」を発表した。 カルフォルニアのインダストリアルロックバンドは、近年では、Chvrches(チャーチズ)のLauren Mayberry(ローレン・メイベリー)と共同制作を行っている。

 

「MEAN」は、Stint (Oliver Tree, Demi Lovato)がプロデュースし、Lars Stalfors (SALEM, The Neighbourhood)がミックスを手がけた。激情的で幽玄なダンスロックトラックとなっている。


昨年、チェルシー・ウルフは最新アルバム『She Reaches Out to She Reaches Out to She』をリリース。 HEALTHは『2023』のデラックス盤『RAT WARS ULTRA EDITION』をリリースした。

 

チェルシー・ウルフは、ゴシック/ドゥーム的な世界観とダンスロックを結びつけた独特な音楽性で近年注目を集めており、NPR Tiny Desk Concerにも出演している。一方のHEALTHは、カルフォルニアのインダストリアル系のロックバンド。今回のコラボレーションシングルは両者の長所を上手く増幅させている。近年になく、ウルフの清涼感のあるボーカルが際立っている。


「Mean」

 

Man/Woman/Chainsaw

イギリスの実験的なロックバンド、Man/Woman/Chainsawがニューシングル「Mad Dog」を発表し、デビュー盤となる7インチをリリースすることを発表した。Man/Woman/Chainsawのヴェラ・レッパネンは、ニューシングルのテーマについて次のように語っている。


 「マッド・ドッグは、友人を失い、その友人が自分の思っていたとおりの存在になるのを見ることについて歌っている。 この曲は、怒った部分と悲しくノスタルジックな部分の2部構成で書いた」


SO YOUNGは、「Adam & Steve / MadDog」の限定7インチをリリースし、その前夜にはリリース記念のシークレット・ライヴを行う。 1枚限りのシングルは、バンドにとって初のレコード・リリースとなり、さらに、7インチとラフ・トレードからのみ入手可能なプリントを組み合わせたエクスクルーシブなアイテムも用意されている。海外盤/7インチの詳細はこちらから。


「Mad Dog」


ジョニー・グリーンウッドとイスラエル人ミュージシャン、ドゥドゥ・タッサとのコラボレーションをめぐる論争が続いている。イスラエルに対するキャンセル運動(BDS)が世界的に活発化する中、両者はイギリス国内で吹き荒れる論争に巻き込まれ、ライブ活動を中断せざるを得なくなった。ジョニー・グリーンウッドはこのことに不服を覚え、ソーシャルを通じて反対声明を唱えた。音楽は政治を超えて存在するべきで、アーティストは国境をこえるべきと彼は述べている。


 昨年、彼は "アート・ウォッシング・ジェノサイド "と非難されたことに反論し、そして今、2つのイギリス公演がキャンセルされたことを受けて声明を発表した。 グリーンウッドとタッサは、来月ロンドンとブリストルで公演を行う予定だったが、グリーンウッドはXに、"続行するのは安全ではないと結論づけるに足る、信憑性のある脅迫 "のため、両公演が中止されたと書き込んだ。 


 グリーンウッドは、キャンセルを強行した者たちを "検閲と口封じ "で非難し、"中東の誰もが値する平和と正義 "を提唱した。 グリーンウッドは、イスラエルによるパレスチナ人虐殺や、2023年にタッサがガザで戦うイスラエル国防軍兵士のために公演を行った事実を認めなかった。 「芸術は政治を超えて存在し、中東における国境を越えた共通のアイデンティティを確立しようとする芸術は、非難されるのではなく、奨励されるべきであり、アーティストたちは国籍や宗教に関係なく、そしてもちろん政府による決定に関係なく、自由に自己表現すべきだと信じています」と彼は書いている。


グリーンウッドとタッサは、ステージ上での彼らの発言に対する警察の捜査が続く中、100人以上のアーティスト仲間から支持を受けているニーキャップをめぐる論争を取り上げ、こう述べた。


声明は次のように結ばれている。 「私たちは、このバンドのすべてのパフォーマー、特に私たちの最初のレコードに貢献し、私たちとともにツアーを行うことで、驚くべき勇気と信念を示してくれたアラブのミュージシャンやシンガーたちに、大きな賞賛と愛と尊敬の念を感じている。 彼らの芸術的な功績は非常に重要であり、私たちはいつか、どこかで、何とかして、私たちと一緒にこれらの曲(主にラブソング)の演奏を聴いてくれることを願っている。 もしそうなれば、それはどの国、宗教、政治的大義に対する勝利でもない。 私たちが共有する音楽への愛とリスペクト、そして互いへの勝利なのだ」





「遺憾ながら、6月23日と25日に予定されていたブリストルとロンドンでの公演はキャンセルとなりました。 会場とその非のないスタッフは、続行するのは安全でないと結論づけるに足る十分な信憑性のある脅迫を受けています。ショーのプロモーターは、私たちや観客の保護に資金を提供することは期待できません」


コンサートを中止させることに成功したキャンペーンは、「これは検閲ではない」「音楽を封じたり、個々のアーティストを攻撃したりするものではない」と主張している。 しかし、主催者側はそれを両立させることはできない」


「ミュージシャンに演奏しないことを強要し、彼らの演奏を聴きたい人々にその機会を与えないことは、検閲と沈黙の手法であることは明らかだ。 会場を威圧して公演を中止させても、中東のすべての人が望む平和と正義の実現にはつながらない。 今回の中止は、その背後にいる運動家たちによって勝利として歓迎されるだろうが、私たちには何も祝うべきことはないし、何かポジティブなことが達成されたとは思えない。


「私たちがツアーしているレコードには、シリア、レバノン、クウェート、イラク出身の歌手が参加している。 イラク、イエメン、シリア、トルコ、そして中東全域に、グループの祖先と音楽のルーツは何世紀も前からある。 口封じキャンペーンは、「倫理的で包括的な文化プログラムへのコミットメントを再確認する」ことを会場に要求している。 ただ、この特殊な文化のミックスではないらしい。 


「中東の国境を越えた音楽家たちの共通のアイデンティティを確立しようとするアートは、非難されるのではなく、奨励されるべきであり、アーティストたちは、国籍や宗教に関係なく、そしてもちろん、政府の決定に関係なく、自由に表現することができるはずだ」


「このプロジェクトは、常に困難で狭い水路を通ってきた。 私たちは、政治的スペクトラムの両端から非難されるという奇妙な立場にいる。 右派の一部の人たちにとっては、私たちは "間違った "音楽を演奏している。あまりにも包括的で、中東文化の豊かで美しい多様性を意識しすぎている。 左翼の一部にとっては、私たちは自分たちの集団的な罪を免れるためにこの音楽を演奏しているだけなのだ。 私たちは、一部の進歩的な人々によるこの音楽の賛美を嘆くのと同じくらい、反動的な人々によるこの中止の武器化を恐れている」


「それなのに、何の反応もなくおとなしく黙殺されることに同意するのは間違っている。 アーティストとして、私たちは芸術の自由に対するいかなる政治的抑圧にも反対の意思を表明する必要性を感じています......民主主義において、政治家や政党は、何千人もの人々が楽しむ音楽フェスティバルやライブで誰が演奏し、誰が演奏しないかを決める権利を持つべきではないのです。 また、誰もそうすべきでもない。 しかし、彼らの表現の自由を支持する人たちが、私たちの表現の自由を最も制限しようとする人たちと同じであることが、いかに悲しいことか。


「ガザやイスラエルで起きていることよりも、このことがどうして重要なのか? 彼らは正しい。 どうしてそうなるのか? これからの文化的人生において、何が重要なのだろうか?」


「私たちは、このバンドのすべてのパフォーマー、特に私たちの最初のレコードに貢献し、私たちと一緒にツアーを行うことで、驚くべき勇気と信念を示してくれたアラブのミュージシャンやシンガーたちに、大きな賞賛と愛と尊敬の念を感じている。 彼らの芸術的な功績は非常に重要であり、私たちはいつか、どこかで、何とかして、私たちと一緒にこれらの曲(主にラブソング)の演奏を聴いてくれることを願っている。 もしそうなれば、それはどの国、宗教、政治的大義に対する勝利でもない。 私たちが共有する音楽への愛とリスペクト、そして互いへの勝利なんだ」


 


今日はこどもの日。4月に発売された邦楽のシングルを中心にご紹介します。先月は高木正勝のサントラが発売されたほか、スカート(澤部渡)のデビュー15周年を祝うメジャー5thアルバムもアナウンスされました。モダンクラシカルの作曲家/小瀬村晶のニューアルバムもアナウンス。先行シングルはボーカル曲です。

 

また、蓮沼執太は、環Roy、青葉市子と組み、実験的なボーカルアルバムを発表しています。エクスペリメンタルフォークの担い手、サトミマガエのニューアルバム『Taba』もRVNG/Planchaから発売されました。それぞれ個性的な音楽を制作していて、日本の邦楽シーンからも目が離せません!!

 

 

 

・高木正勝  「スタジオ地図 Music Journey Vol. 2  うたの時間」- Sony Music



作曲家/ピアニスト、高木正勝は「おおかみこどもの雨と雪」など、細田守監督のアニメーション作品の劇伴音楽に長年にわたり関わってきた。最新アルバムは細田作品に対する思いを親しみやすいボーカル曲に乗せて制作。

 

「13年越しの夢がかなった」と制作者自身が語る正真正銘の”うたのアルバム”。ピアノを中心とするささやかな作曲を行ってきた高木正勝の日本語の歌へのたゆまぬ愛情が現れた素晴らしい作品となった。このアルバムでは、Hana Hope、クレモンティーヌ、アン・サリー、寺尾紗穂、角銅真実など、個性豊かな女性シンガーを共同制作者に招き、記念碑的なアルバムが誕生。

 

また、本作『うたの時間』の発売を記念して、ビルボードでのライブが決定。こちらもお見逃しなく。 


ストリーミング:  https://sonymusicjapan.lnk.to/MasakatsuTakagi_ATimeToSingAW

 

 

【Billboard Live公演情報】

 

・2025年5月17日(土) Billboard Live OSAKA
・2025年5月31日(土) Billboard Live YOKOHAMA


出演:高木正勝、アン・サリー、Hana Hope、寺田紗穂 他  

 

・ビルボードライブ公式HP:https://www.billboard-live.com/


 

 

*昨年のインタビュー記事は以下よりお読み下さい: 高木正勝  音楽や鍵盤楽器との出会い、アメリカの売り込み時代 ライフワーク、最新映画「違国日記」までを解き明かす  

 

 

・小瀬村晶 「Autumn Moon」  英デッカからの二作目のアルバム『MIRAI』の発売(6/27)が決定。

 

エレクトロニカやポストクラシカルを専門とする自主レーベル、Scholeを手掛ける作曲家/ピアニスト/プロデューサーの小瀬村晶は、新曲「Autumn Moon」のリリースと合わせてニューアルバム『MIRAI』のリリースをアナウンス。『Seasons』に続くイギリスのクラシックの名門レーベル、デッカからの発売。(ニューアルバムの予約はこちら

 

この曲は、宮城県出身のシンガー、畠山美由紀をゲストボーカルに迎えて制作された。エレクトリック、ピアノ、弦楽器を中心とするアトモスフェリックなサウンドに、美麗で奥行きのあるボーカルが特徴となっている。日本的な音楽観、そして西洋の音楽観が見事にマッチしたボーカル曲です。

 

コロナ禍の中で分断を感じたことからインスピレーションを得たという『MIRAI』は、小瀬村晶にとって初のボーカル・プロジェクトとなっている。日本人作曲家としての個人的な視点から、音楽を通して未来を描き、次世代へメッセージを伝えることをコンセプトとしている。アジアの伝統楽器、ミャンマーのナガ族の歌、サウンドトラック、ポストロック、ポストクラシカル、エレクトロニカなど、様々な要素が、独自の音楽性と複数の言語で融合しあっている。それは未来への幻想的なメッセージであると同時に、音楽のユートピアへの旅でもある。

 

 

「Autumn Moon」

 

 

・スカート 「スペシャル」 Pony Canyon

 

”スカート”のプロジェクト名を冠して活動を行うシンガーソングライター/ギタリストの澤部渡。大瀧詠一ライクの良質なポップス/ギターロックを2016年頃から制作、一躍邦楽シーンで注目を受けるようになった。今年、ミュージシャンは記念すべきメジャーデビュー15周年を迎えるに当たり、”優勝”と題し、メジャー5thアルバム『スペシャル』が5月14日に発売される。

 

先行シングルでタイトル曲「スペシャル」 ではスカートらしい、ポピュラーでハネるようなリズムを織り交ぜたジャングリーなギターロックソング。ジャキジャキっとした硬質なギターの刻みが妙にクセになる。ゲストボーカルにはなんと柴田聡子が参加している。エレピやドラムの演奏も心地よい。

 

”単純に新しくいいアルバムが出来た”と語るスカートの新作は邦楽の醍醐味を知るのに最適な一枚となる。


ヤクルトスワローズのユニフォームを着た宣伝写真にはデビュー15周年の貫禄が備わっている。2025年を通じて、スカートはワンマンなどライブツアーを開催予定。

 

 

ストリーミング: https://lnk.to/SG_special

 

 

 「スペシャル」

 

 

 

・蓮沼執太  「デザインあneo」 -New Album(Series)  -NHK Educational

 

 

”NHK Eテレ”の子供向け番組「デザインあneo」のサウンドトラックとして制作。身の回りのモノ・コトにこめられた工夫や思考を斬新な映像と音楽で伝えるNHK Eテレの人気番組「デザインあneo」を彩るサウンドトラックが、12inchアナログレコード&配信限定アルバムとしてリリースされる。

 

アルバムは、番組の音と音楽を中心となって制作している蓮沼執太がプロデュース。おなじく番組音楽を担当する環ROY、青葉市子、また、大貫妙子、高野寛、んoonなど多彩な参加ミュージシャンによるコーナー音楽、おなじみの番組オープニング・エンディングテーマなど、バラエティに富んだサウンドを多数収録している。
 

回転するレコードを「みて」、耳をすませてじっくり「きいて」みたら、そこには「あ!」っとおどろく発見があるだろう。アナログレコード未収録の楽曲も収録された配信限定アルバム4作品は、4月から毎月リリースされる。

 

 「デザインあneo 1」は遊び心の延長線上にある作品かと思いきや、本格的な楽曲も収録されている。ゲストボーカル/ミュージシャンに、大貫妙子、青葉市子、オオルタイチ、そして食品まつり a.k.a Foodmanを迎えて制作された。


また、本作にまつわるNHKが主催するアート展、”デザイン あ展 neo”が4月18日~9月23日にかけて虎ノ門ヒルズにて開催中。イベントの詳細については公式サイトをご覧ください。

 

 

ティーザー映像 「デザインあneo」

 

 

・No Buses 「NB2」- Tugboat

 

No Busesは、日本人バンドとして唯一、Tugboatに所属しているロックバンド。ニューアルバム『NB2』は、三人組の新体制となって最初のフルレングスで三年ぶりのアルバム。日本語歌詞として挑んだポップソング「Our Broken Promises」も良いが、同時に「Inaho」が傑出している。アンディ・シャウフ、アレックスG、あるいはマック・デマルコの日本版といった感じだろうか。他にもポスト・ロックなどに触発されたギターロックソングが収録されている。

 

今作のリリースを記念して、リリースツアーがアナウンス。東京、愛知、大阪の3箇所で開催される。

 

『NB2 Release Tour』

 
日程:2025年5月10日(土)
会場:東京・恵比寿 The Garden Hall

日程:2025年5月15日(木)
会場:愛知・名古屋 ElectricLadyLand

日程:2025年5月16日(金)
会場:大阪 UMEDA CLUB QUATTRO

 

 

ストリーミング:https://tugboat.lnk.to/NoBusesNB2

 

 

 

・Tendre 「Runway」 - SPACE SHOWER


ベースに加え、ギターや鍵盤、サックスなども演奏するマルチプレイヤー、河原太朗のソロ・プロジェクト、Tendreのニューシングル「Runway」は華やかでパワフルなダンスポップソング。

 

R&Bやダンスミュージックをベースにし、ベースラインがバリッとしたクールでノリの良い一曲。4月の卒業や入学、入社、そして新生活を意識した決意に満ちた曲で、これから新しい暮らしを始めようとする人々に明るさとエナジーをもたらす。この曲を聴いて新しい季節を乗り切るべし。

 

「様々な感情が交差する季節、春がやってきますね。兆しと共に思い描く先の未来には光も闇もあるものでございます。煌めきや閃きを目印に、自らが輝ける花道をゆきたい。そんな想いを胸にみんなで進んでいきたいのです。迷わずに行け!!」 (TENDREによるコメント)

 

ストリーミング: https://ssm.lnk.to/RUNWAY

 

 「Runway」

 

 

 

 YOSSY LITTLE NOISE WEAVER  「Night Music」- AWDR/LR2


Yossy Little Noise Weaverは、DETERMINATIONS、BUSH OF GHOSTSでの活動を経て、YOSSY(キーボード・ヴォーカル)とicchie(トランペット・トロンボーン)が2005年に始動したユニット。


デビュー作『Precious Feel』では、Ego-Wrappin’の中納良恵とのコラボレーション経験を持つ。ハナレグミ、Mr.Childrenのサポートミュージシャンとしても活動してきた。

 

前作アルバム「Sun and Rain」(2018年)以降に発表されたシングルやコンピレーション参加曲に新録を追加した、7年振りのフルアルバム「恋に忙しくて」が6月11日に発売決定されます。4月に配信された先行シングル「Night Music」は本作に収録。


6月11日に「恋に忙しくて」のCD、YOSSYによるソロ名義の6曲入りミニアルバム「HONEY」のCDバージョンも発売。聴く人の気持ちをふわっと時にドリーミーに、そして、時にファニーに包み込むようなオリジナルPOPを展開。

 

ストリーミング: https://ssm.lnk.to/yossylittlenoiseweaver_nightmusic

 

 「Night Music」

 ▪Best New Track- Mel Denisse 「Like a Friend)


アメリカ/ナッシュビルを拠点に活動するアーティスト、Mel Denisse(メル・デニッセ)は新曲「Like a Fiend」をリリースした。 デニッセの曲はBBC Radio 1でオンエア/プッシュされている。


「Like a Fiend」は、ミクスチャー・ロック(Alice In Chainsを彷彿とさせる最初期のグランジ)とアニー・クラークのようなスタイリッシュなダンス・ポップが融合した素晴らしいシングル。Paramore、St.Vincentのファンにもおすすめしたいグッドソングとなっている。アナログなシンセの音色やビートを生かしたダンスロックで、ダークさと切なさの感覚をスタイリッシュなボーカルで表現する。80-90年代のマンチェスターのエレクトロからの影響も色濃い。

 

儚い告白から躁的な陶酔へと一瞬にして反転する、2つの自己の間で分裂する生き物の押し引きを捉えている。 この新曲のため、彼女はマイカ・タウルクス(ヘイリー・ウィリアムズ、ノア・カハン、アッシュ)とコラボレートした。


メル・デニッセは、ジャンルを超えたアーティスト/プロデューサーである。 音楽制作を早い段階から始め、10歳の時に父親のアコースティック・ギターに夢中になった彼女は、10代をクラックされたソフトウェアでデモレコーディングに費やし、18歳の時にはマイスペースのツアーに参加した。


ナッシュビルとロサンゼルスを行き来する生活をする中、数年間で、彼女の作曲とプロダクションは洗練された。歪んだアルト・ロックのベッドに、エスプリの効いたクラシカルなヴォーカルを乗せ、フロリダとトルコを行き来しながら幼少期に吸収した東洋の音階をスパイクする。 リリックでは、二元性、強迫観念、自己保存と自己破壊の綱引きについて掘り下げている。


メルは、Failure、Deftones、Tori Amosまで、あらゆるものから影響を受けている。彼女が "コントロールされた衝突 "と呼ぶものを追い求めている。 彼女の声は煙のように漂い、次のビートで唸り、ひび割れ、その下でギザギザのギターループが脈打つ。 「私はトラックを "フランケンシュタイン "するのが好きなの。 ヘビーなリフとデリケートなメロディが紙の上では間違っているように見えても、それこそが私を引き込むの」とデニスは自分の作風について説明する。


これまでのリリースは、BBCラジオ1のオルタナティヴショーでスピンされ、スポティファイの「All New Rock」にランクイン。ヴァニヤランド(Vanyaland)のテイストメーカーは「90年代ギターロックの無謀な野心」と賞賛。ウルフ・イン・ア・スーツ(Wolf in a Suit)は彼女のデビューを「催眠術をかけるような...。私たちの魂の最も深いところに家を見つけるに違いない」と評した。 


ファンのために音楽を個性化することについて彼女は言う。「もしその曲が、あなたに優しいガッツポーズを感じさせるなら、それがポイントなの。 曲の中に鏡のようなものを忍ばせている」 


制作者によれば、曲の中に共感するものやシンパシーを覚えるかどうかが大切だというが、そのヒントはこの新曲に見つかるに違いない。


デニッセは、スタジオの仕事の中を通じて、カルロス・デ・ラ・ガルザ(パラモア、ベスト・コースト)、ケン・アンドリュース(パラモア、M83)、マイカ・タワークス(ヘイリー・ウィリアムス、ノア・カハン、アッシュ)、長年のコラボレーター/プロデューサーのスティーヴン・ローレンソンと出会ってきた。 オフには、World of Warcraftのストリーミング配信をしたり、ファンタジー小説に没頭したりと、アーティストの興味は音楽だけにとどまらず、ゲームやエンタメ文学にも及ぶ。

 

 「Like A Friend」

 

 

 
M
el Denisse is a genre‑bending artist‑producer whose songs land between raw guitar grit and left‑field pop. First hooked on her dad’s acoustic at ten, she spent her teens recording demos in cracked software and, by eighteen, hustled onto a Myspace‑era tour.
 
Years ping‑ponging between Nashville and L.A. sharpened her writing and production: warped alt‑rock beds under ethereal, classically tinged vocals, spiked with the Eastern scales she soaked up while splitting childhood between Florida and Turkey. Lyrically, she digs into duality, obsession, and the tug‑of‑war between self‑preservation and self‑destruction.
 
Influenced by everything from Failure and Deftones to Tori Amos, Mel chases what she calls a“controlled collision.” Her voice drifts like smoke, then snarls and cracks on the next beat while jagged guitar loops pulse beneath. “I like to ‘frankenstein’ a track,” she says. “If a heavy riff and a delicate melody look wrong together on paper, that’s exactly what pulls me in.”
 
"Like a Fiend", her latest single, captures that push‑pull in a creature split between two selves, flipping from fragile confession to manic euphoria in a heartbeat.
 
Previous releases earned spins on BBC Radio 1’s Alternative Show, placement on Spotify’s All New Rock, and tastemakers from Vanyaland praised the “reckless ambition of ’90s guitar‑rock grit,” while Wolf in a Suit called her debut “hypnotizing… bound to find a home in the deepest corners of our souls.”
 
When it comes to personalizing the music for her fans: “If the song makes you feel a gentle gut-punch–that’s the point,” she says. “I’m slipping mirrors into the track so you have to sit with whatever stares back.”
 
In the studio, she’s worked with Carlos de la Garza (Paramore, Best Coast), Ken Andrews (Paramore, M83) , Micah Tawlks (Hayley Williams, Noah Kahan, Ashe), and longtime collaborator/producer Stephen Laurenson. Off the clock, you’ll catch her streaming marathon World of Warcraft sessions or disappearing into fantasy novels.

 

 

 

 


今週、5月2日にMei Semonesは待望のデビューアルバム『Animaru』をリリースした。このアルバムのタイトルトラックのミュージックビデオが公開された。映像は昨年の渋谷で撮影された。映像監督は新保拓人さんが務めた。メイ・シモネスのコメントは以下の通りとなっている。


タイトル曲のビデオも公開できてとても興奮しています! ♡


「アニマル」のビデオは、2024年11月に新保拓人監督と東京で撮影されました。 小さい頃から家族で出かけていた渋谷の街を、まさか豚のバイクに乗って走るなんて夢にも思いませんでした!


もうひとつ、このビデオを特別なものにしているのは、私がビデオの中で着ている、ヘアメイクも担当してくれたマヒトさんが愛情を込めて作ってくれた、手作りの素晴らしいアニマルコスチュームです。


このミュージックビデオでは渋谷の街を歩いたり、109前を闊歩するシモネスの姿が撮影されている。



「Animaru」





Mei Semones 2025 TOUR DATES:


Wed. May 7 - Brooklyn, NY @ Music Hall of Williamsburg*
Thu. May 29 - Philadelphia, PA @ World Cafe Live*
Fri. May 30 - Washington, DC @ The Atlantis*
Sat. May 31 - Carrboro, NC @ Cat’s Cradle Back Room*
Mon. June 2 - Atlanta, GA @ Aisle 5*
Tue. June 3 - Nashville, TN @ DRKMTTR*
Wed. June 4 - Louisville, KY @ Zanzabar
Fri. June 6 - Columbus, OH @ Ace of Cups*
Sat. June 7 - Chicago, IL @ Lincoln Hall*
Sun. June 8 - Milwaukee, WI @ Cactus Club*
Mon. June 9 - Minneapolis, MN @ 7th St Entry*
Wed. June 11 - Ferndale, MI @ The Loving Touch*
Thu. June 12 - Toronto, ON @ Longboat Hall*
Fri. June 13 - Montreal, QC @ Bar Le Ritz PDB*
Sat. June 14 - Boston, MA @ Red Room Cafe 939*
Fri. July 11 - Dallas, TX @ Club Dada ~
Sat. July 12 - Austin, TX @ Parish ~
Tue. July 15 - Phoenix, AZ @ Valley Bar ~
Wed. July 16 - San Diego, CA @ Quartyard ~
Fri. July 18 - Los Angeles, CA @ Lodge Room ~
Sat. July 19 - San Francisco, CA @ The Independent ~
Mon. July 21 - Portland, OR @ Polaris Hall ~
Tue. July 22 - Vancouver, BC @ Biltmore Cabaret ~
Wed. July 23 - Seattle, WA @ Barboza ~
Sun. July 27- Yuzawa @ Fuji Rock Festival
Fri. August 1 - Taipei @ The Wall
Mon. August 4 - Seoul @ Westbridge Live Hall

* with John Roseboro
~ with Lionmilk

 

Enji

''彼女の夢のような歌声は、優しいピアノと重みのあるコントラバスにのって響き渡る''- ガーディアン紙


夕暮れ時のほんの一瞬、空が鮮やかな琥珀色に染まる。 ドラマチックな色彩の閃光、昼と夜の両方に属する瞬間。 モンゴル生まれでミュンヘンを拠点に活動するエンジのニューアルバム『Sonor』は、この鮮やかで儚い世界の中で書かれた。『Sonor』は、夕暮れがそうであるように、2つの世界の間に存在することの美しさを見出したアーティストによる、生命力と楽観主義に満ちたレコードである。 モンゴルとドイツ、伝統と革新、郷愁と未来への興奮。 『Sonor』は、個人的な成長、内省、そして変化というほろ苦い感情への認識を特徴とする音楽の旅である。


エンジの人生は、多様な文化の糸で織られたタペストリーである。 モンゴルのウランバートルに生まれた彼女は、若い頃からモンゴルの民族音楽の豊かな伝統に浸ってきた。 長い音節と自由なメロディが特徴のモンゴルの伝統的な歌唱スタイルである「urtiin duu(長い歌)」に早くから触れ、自分の文化的ルーツに対する深い感謝の念を持つようになった。

 

2014年、エンジはウランバートルのゲーテ・インスティトゥートのプログラムに参加し、彼女の音楽の旅は一変した。 ここでドイツ人ベーシスト、マーティン・ゼンカーの指導のもと、ジャズの世界に入門した。 彼女はジャズの即興性と感情の深みに共鳴し、ミュンヘン音楽演劇大学でジャズ歌唱の修士号を取得。 この転居が、母国モンゴルと新天地ドイツの両方の風景をナビゲートする、彼女の文化間生活の始まりとなった。


『Sonor』は、エンジの個人的な進化と、2つの文化的な世界の間で生きることに伴う複雑な感情の反映である。 このアルバムのテーマは、文化の狭間にある居場所のない感覚を中心に展開されるが、それは対立の原因としてではなく、成長と自己発見のための空間としてである。 エンジは、伝統的なモンゴルのルーツとの距離がいかに彼女のアイデンティティを形成してきたか、そして、故郷に戻ることがいかにこうした変化への意識を高めるかを探求している。


『Sonor』で、エンジはアーティストとしての進化を続け、彼女のサウンドをより流動的で親しみやすいものへと拡大した。 世界的に有名なジャズ・アーティストをバンドに迎え、定番の「Old Folks」を除いて全曲をモンゴル語で歌うなど、エンジの音楽的基盤は揺るぎないが、『Sonor』ではメロディーとストーリーテリングが明瞭になり音楽が多くの聴衆に開かれている。 単にスタイルの変化というだけでなく、芸術的な声の深化を反映したもので、深みを失うことなく親しみやすさを受け入れ、彼女の歌が普遍的なレベルで共鳴することを可能にした。


カラフルで楽観的であるにもかかわらず、このアルバムはほろ苦いノスタルジア、あるいはメランコリアに彩られている。 この二面性を最もよく表しているのが、モンゴル語で日没時の空の色を意味するトラック「Ulbal(ウルバル)」だろう。 鮮やかで美しい現象でありながら、昼間の終わりと夜への移行を意味する。 同様に、エンジの音楽は、新しい経験や成長の喜びをとらえる一方で、人生を歩むにつれ、以前の経験が身近なものではなくなっていくことを認めている。


『Sonor』では、モンゴルの伝統的な歌「Eejiinhee Hairaar」(「母の愛をこめて」)に新たな命を吹き込んだ。 彼女は、モンゴルの故郷で父親が自転車を修理しているときに、この曲をよく口ずさんでいたことを思い出す。 日常生活に溶け込んだ音楽、そして、何世代にもわたって受け継がれてきたメロディー、このイメージに''ソノールの精神''が凝縮されている。 エンジは単に伝統を再認識しているのではなく、故郷の感覚や、遠くから見て初めてその意義がわかる小さな喜びを抽出しているのだ。 親が口ずさむ親しみのある歌のように、彼女の音楽は、ひとつの場所に縛られることなく、私たちを形作る感情や記憶といった「帰属」の本質を捉えている。


「Much」のようなトラックは、はかない瞬間の哀愁を真にとらえ、希望に満ちたトーンで、エンジのヴォーカルは、リスナーにゆっくりと、過ぎゆく瞬間に感謝するよう促している。 「Ergelt」では、ノスタルジアと親しみの移り変わりについての瞑想である。''幸せいっぱいのまなざしが私を悲しませる/悲しみを口に出そうとしても言葉は出てこない/見慣れない、でもどこか知っている"


『Sonor』は、エンジの協力者たちの貢献によって、より豊かなものになっている。 エリアス・シュテメセダーはオーストリアのピアニスト、作曲家で、コンテンポラリー・ジャズや前衛音楽の分野で知られている。 シュテメセダーはこれまでに、前衛音楽の領域で活躍するジョン・ゾーンやクリスチャン・リリンガーなどのミュージシャンとコラボしている。 


ロベルト・ランドフェルマン(Robert Landfermann)は、ヨーロッパのジャズや即興音楽界で広く知られるドイツのコントラバス奏者だ。 彼の演奏の特徴は、技術的な妙技と深いリズム感。 


ジュリアン・サルトリウスはスイスのドラマーでパーカッショニスト。 彼の作品はジャズ、エレクトロニック、実験音楽など多岐にわたる。 一方、長年のコラボレーターであるポール・ブレンドルは、ドイツのジャズ・ギタリストで、クラシック・ジャズの影響と現代的な感覚を融合させた、温かみのある流麗なスタイルを持つ。


エンジのこれまでの作品は国際的な注目を集め、批評家からも高い評価を得ている。 2023年に発表したアルバム『Ulaan』は、英ガーディアン紙で「モンゴルの伝統音楽をエレガントかつパワフルにアレンジした」と絶賛され、文化的な枠組みの中で革新する彼女の能力を浮き彫りにした。


また、ジャズとモンゴル民謡のユニークな融合はワシントン・ポスト紙にも評価され、同紙は彼女の曲について "とても独創的で、とても自由で、それでいて地に足がついている "と書いている。 このバランス感覚はエンジの音楽の特徴であり、コンテンポラリー・ジャズ界で最も魅力的な声のひとつとなっている。


『Sonor』で、エンジはリスナーを彼女の体験の風景を旅する旅へと誘い、文化の架け橋となり、変化を受け入れ、私たちの人生を決定づける移り変わりの中に美を見出す。 彼女の音楽は、夕日のように、変化の瞬間は美しくもあり、痛烈でもあるということを思い出させてくれる。


モンゴルとドイツ、伝統と革新の間を行き来し続ける彼女の『Enji's Sonor』は、世界の狭間で生きることの豊かな体験と、多面的なアイデンティティを受け入れることから生まれる芸術の証である。 



Enji 『Soner』 - Squama



 
エンジは、モンゴルの首都、ウランバートルで育った。現在はミュンヘンをベースに活動している。労働者階級の娘として、彼女はモンゴルの草原に点在する、遊牧民の円形型の移動テントで暮らし、定住する地を持たぬ、ジプシー的な文化観の元で育った。このことは、彼女にイミグラントの性質を付与するとともに、多様な文化感を自らのものにする柔軟性を培った。なぜ遊牧するのかといえば、それは、外敵から身を守るためだ。日本のような島国とは異なり、これらの大陸の性質が季節風のモンスーンのような暮らしをモンゴル民族の宿命としたのだった。


しかし、こういった遊牧民のたくましい暮らしの中で、エンジは両親から音楽的な教育を受けてきた。それがモンゴルの民謡、そして舞踏の伝統であった。チンギスハーンの御代から、モンゴルはコーカサス地方との交流があり、いわば北アジアとコーカサスの折衝地として、ヨーロッパとアジアの境目として、エキゾチックな文化感を折り込む地方として栄えてきたのだった。その中で、エンジは、「オルティンドー」と呼ばれる遊牧民族の象徴的な歌唱法を学び、習得した。それは体系的なものではなく、体感的なものとして学習したと言えるかもしれない。
 
 
エンジは元々、ミュージシャンの道を歩んでいたわけではなかった。小学校教師を務めていたが、その後、2014年にドイツ人ベーシスト、マーティン・ツェンカーと出会ったことから音楽家としてのキャリアが始まった。それも彼がモンゴルに持ち込んだゲーテ・インスティトゥートのプログラムを通じてである。ゲーテ・インスティトゥートは、ドイツ政府が設立した教育プログラムで、ドイツ語教育の推進や、文化交流を行う目的で、ミュンヘンに本部を持ち、東京にも支部がある。音楽にかぎらず、様々な分野から講師を招き、質の高い教育を行っている。
 
 
エンジの音楽的な出発は共同制作で、モンゴルの伝統音楽の民謡の録音であった。2017年にアメリカのビリー・ハート、ドイツのサックス奏者ヨハネス・エンダー、イギリスのピアニスト、ポール・カービー、モンゴルを代表する作曲家、センビーン・ゴンチングソラーとの共演を録音した『Mongolian Songs』への参加を契機とし、ドイツ/ミュンヘンに移住し、2020年からミュンヘン音楽/舞台芸術大学のジャズ・ボーカルの修士課程を卒業した。その後、エンジはソロボーカリストに転身し、2020年代の初頭のパンデミックをきっかけに、深い内省をもとにした二作目のアルバム『Ursugal』を発表し、ソロキャリアとしての地位を不動のものにした。
 

エンジの音楽的なキャリアの中核にある舞台芸術及びボーカルアートの体系的な習得は、この三作目のアルバム『Sonor』を聴く上で、非常に重要な役割を果たしている。アルバムの最後に収録される1938年に初めて発表されたジャズ・スタンダード「Old Folks」をのぞけば、モンゴルの現地語を中心に歌われ、そしてモダンジャズのボーカリストの急峰としての存在感が随所に感じられる。そしてこのアルバムには、インタリュードの代わりを担う2つのスポークンワードの曲が収録されている。それらは、ウランバートルの時代の思い出を回想するという内容で、これは演劇的な意味を持ち、アルバムのストーリーテリングの要素を拡張させるものである。そして、それらがアーティストが持つジャズという文脈によって押し広げられていく。

 

例えば、「3-Unadag Dugui」、「9-Neke」でそれらのストーリーテリングの音楽を聴くことが出来るはず。これらはドイツのヴィム・ヴェンダース監督の傑作『ベルリン・天使の詩』にも出演したブルーノ・ガンツが自身のボーカルを収録したポエトリーリーディングのアルバムのように、あるいはニュージャージーのビートニクスの作家アレン・ギンスバーグの詩の朗読のように、声をモチーフとする芸術作品のような機能を果たす。そして、2つのインタリュードを起点とし、ジャズとモンゴルの伝統音楽の融合が敷衍していく。ある一つの記憶のシーンをきっかけに、見えなかった過去が少しずつ明らかになる。これは、映像作品のクローズとワイドを行き来するような意味を持つ。エンジの音楽は、制作者の過去の姿を遠近法で表現する。 そして、その機能を果たすために、ムーブメントの延長線上にある曲という単位が存在する。

 

 

このアルバムは、音楽の持つ物語る力が遺憾なく発揮された素晴らしい作品である。もちろん、それはエンジの得意とするジャズ・ボーカルという領域で繰り広げられ、サックス、ピアノ、ローズ・ピアノ、華麗なサックスフォンの演奏により、ジャズの持つ深遠な魅力が深められる。音楽を通して、どのようなことが語られるのかというと、ミュンヘンに在するシンガー、エンジが遠く離れたモンゴルのウランバートルを、そして、その遊牧民族として暮らしを懐かしむ、という内容である。映画のシナリオ的でもあり、文学的でもあり、演劇的でもある。


また、遠く離れた土地に対する望郷の念を歌い、それらを滑らかな音楽として組み上げるという面では、大河のような意味を持つジャズアルバムと言えるかもしれない。そして、そのポイントは、ヘルマン・ヘッセの「郷愁」のような、単なる若い時代への追憶や、その若さに対する慈しみに終始するわけではない、ということである。つまり、必ずしも、それらが美化されず、そのままボーカルでシンプルに表現されるに過ぎない。これは彼女が故郷に対する尽くせぬ思いをシンプルに歌い上げているだけなのだ。脚色や過度な演出的な表現というのはほとんどない。

 

『Sonor』には、自分の過去や現在の姿を過度に美化したり、脚色しようという意図は感じられない。まるで音楽が目の前をゆっくりと流れていき、それがそのままそこにあるだけである。それが素朴で親しみやすい音楽性を形作る。


その中には故郷にいる親族や共同体に対する慈しみが込められ、それがノスタルジアとメランコリアの合間にあるジャジーでアンニュイなボーカルの表現として発現するとき、本来の音楽の物語る力が発揮され、クヌルプとしての感情音楽の核心が出現する。 そして、現代のミュンヘンの暮らしと過去のウランバートルの暮らしを対比させ、それらを温かいハートウォーミングなジャズボーカルで包み込もうとする。その瞬間、聞き手のノスタルジアの換気力を呼び覚ます。

 

 

そして、このアルバムは基本的には、ポピュラーに属するジャズアルバムとして楽しむことが出来る。一度聴いて終わりのアルバムではなく、聴く度に異なる魅力を発見することが出来るだろう。しかし、ボーカルトラックに聴き応えをもたらす素晴らしいジャズのプレイヤーの共演も見逃すことができない。そして、舞踊的な要素がジャズに加わることにより、新鮮な風味が生み出されている。これらは、モンゴルの伝統音楽に組み込まれた異文化からの影響、つまり、コーカサス地方の音楽の要素が入り込んでいる。本作の冒頭を飾る「1−Hungun」は、これらの舞踊的な音楽性が、ウッドベースにより対旋律として配され、音楽に躍動感をもたらす。主旋律の役割を担うエンジのメランコリックでノスタルジックなボーカルも静かに聞きいらせるものがある。しかし、ジャズのスケールをせわしなく動くウッドベースがピアノと組み合わされ、サックスの巧みなパッセージ、異言語としてのモンゴル語のエキゾチズムが加わることで、エスニック・ジャズの次世代を担う素晴らしいジャズソングが誕生することになった。

 

先行シングル「2-Ulbar」は、ゆったりとしたテンポのジャズバラード。近年のジャズソングの中では傑出している。 ノラ・ジョーンズのポピュラーを意識したジャズであるが、やはりモンゴルの伝統音楽の要素がこの曲に心地よいエキゾチズムをもたらす。この曲では、モンゴルへの懐かしさが歌われるが、同じようなイメージを聞き手にも授けるのはなぜなのだろう。聞き手はエンジと同じように、遠く離れた故郷に温かな思いをはせるという気分にさせるのである。

 

イントロが大胆な印象を持つ「3-Ergelt」はエンジのボーカルが主体的な位置にある。ボーカルの持つメロディーも美しいが、その感覚を引き立てるギター、コントラバスの演奏にも注目だ。 この曲でのエンジの歌の良さというのは筆舌に尽くしがたい。まるで彼女の若い頃の遊牧的な生活がユーラシア大陸の勇壮なイメージを持ち、それらがヨーロッパの音楽の一つの集大成であるジャズと結びつく。その瞬間、言語や文化性を超えた本当のグローバルな音楽が出来上がる。エンジの華麗なビブラートを持つ歌は、自然の持つ荘厳なイメージすら織り込んでいる。


 

「Ergelt」

 

 

 

「4-Unadag Dugui」は、ドイツ語のストーリーテリングが披露され、シンガーの持つ過去が明らかとなる。そして、それは映像的なイメージを上手く拡張させる役割を果たす。また、ドイツということで、ECMのモダンジャズ風の曲も収録されている。「5−Ger Hol」は、2000年代以降にさりげなく流行ったエスニックジャズの系譜を踏まえた一曲である。イスラエル人のピアニスト、Anat Fortを思わせる上品なジャズピアノ、そしてエンジの物悲しくも力強さがあるボーカルは心に染みるような感動に溢れている。この曲では特にピアノがフィーチャーされ、JSバッハ風の品格に満ちたポリフォーニーのピアノが演奏され、静かに聞き入らせてくれる。

 

エンジは見事なほどに、ミュンヘンとウランバートルの追憶を行来しながら、現代と過去の文化観を兼ね備えた音楽を、このアルバムで提示している。そして、「6-Eejiinhee Hairaar」では、彼女のモンゴルへのたゆまぬ美しい愛情の奔流を感じ取ることが出来る。この曲ではモンゴルの民族音楽の二拍子の範疇にあるリズムを駆使し、コミカルでおどけたような可愛らしい音楽性を作り上げている。アジア圏にも似たような音楽があり、例えば、日本では、拍手で二拍のリズムを取る”囃子”という、祭りなどで演奏される民族音楽が、これに該当するだろう。この曲では、ローズピアノとコントラバスの演奏が活躍し、リズム的な効果を支え、それに負けないくらいの力強い歌声をエンジは披露している。そして、全く馴染みのないはずのモンゴル語、それがエンジの歌にかかると、この言語の持つ親しみやすさや美しさがあらわになる。この曲ではジャズと民謡の融合という、これまでにあまりなかった要素が追求され、それらが心あたたまるようなハートウォーミングなジャズソングに昇華されている。中盤のハイライト。

 

 

北欧のジャズからの影響を感じさせる曲もある。「7-Zuirmegleh」は、ノルウェージャズの巨匠、Jan Garbarek(ヤン・ガルバレク)のエレクトロニックジャズの最高傑作『In Praise of Dreams』 の電子音楽とジャズの融合の影響下に位置づけられる一曲である。また、同時に、ブリストルのトリップホップの雨がちな風景や憂愁を想起させる音楽性を織り交ぜ、新鮮な風味を持つジャズを提供している。これらは”Trip-Jazz”というべき、新しいタイプの音楽である。

 

ドラムはヒップホップ的なリズミカルなビートを刻み、ウッドベースは渋みのある低音を担い、マリンバやエレクトリック・ギター、そしてローズ・ピアノの演奏が錯綜しながら美麗なハーモニクスを描く。そして、電子音が和音の縁取りをし、単発的に鳴り響く中、エンジは、ベス・ギボンズを彷彿とさせるメランコリックな歌を歌い、古くはミシシッピ近郊のニューオリンズの文化であるジャズの夜の甘美的な雰囲気を体現させる。ただし、それは懐古的とはいえまい。アーバンでモダンな香りを放ち、ダンサンブルな音楽の印象を漂わせる。これらの空気感とも呼ぶべき音楽性は、現代的なミュンヘンの文化や生活がもたらした産物なのだろう。

 

アルバムは少しダークでアンニュイな雰囲気に縁取られた後、「8-Much」では、再び温和なハーモニーが明瞭になる。この曲では、ブルーノートのライブハウスで演奏されるような落ち着いたジャズの持つ、ゆったりとして、ゴージャスな雰囲気が掻き立てられる。それはしかし、とりも直さず、アンサンブルとしての卓越した音楽理論に対する理解、そして多彩な文化的な背景を持つエンジの神妙なボーカルがあってこそ実現したのである。エンジは、この曲において、明確なフレーズを歌いながらも、スキャットに触発された音程を暈す歌唱法により、ムードたっぷりに彼女自身の情感を舞台芸術さながらに表現し、ジャズの魅力を伝えている。これらはモンゴルの文化観にとどまらず、ジャズの伝統性を伝えるという彼女の天命を伺わせる。 とくに「Much」では共同制作者の演奏が素晴らしい。サックス奏者ヨハネス・エンダーによるソロは、伝統的なジャズの演奏に根ざしているが、イマジネーションをこの上なく掻き立てる。

 

こういった中、スポークンワードを主体とするジャズソング「9-Neke」では、どうあろうと伝えるべきイミグラントの性質が色濃くなる。ストリートで演奏されるジャズバンドのような演奏を背景に伝えられる言葉は、言語の持つ本物の力を思い出させるし、そして、彼女が生きてきた人生を走馬灯のように蘇らせる。言葉とは単なる意図を伝えるためだけに存在するものではなく、より深遠な意味を持つことがある。背景となるジャズの流れの中で、ミュンヘンという都市の渦中にある様々な人々の流れ、雑踏、そして交差する人生がストーリーテリング調の音楽によって繰り広げられていく。リズムという切り口を元に、音楽の持つ世界が奥行きを増して、未知なる世界を映し出す。ジェフ・パーカーのようなムードたっぷりのギターにも注目だ。

 

 

一番素晴らしいのがジャズ・スタンダード「10-Old Folks」のカバーソング。南北戦争の時代を懐かしむ古い老人を歌ったジャズ・バラードである。オリジナルは、ミルドレッド・ベイリー、ビング・クロスビーによって1938年に録音された。オールドタイプの渋いブルージャズだが、エンジの歌唱とバックバンドの貢献により、モダンでアーバンなジャズに生まれ変わっている。8分後半の壮大なジャズだが、音の運びが見事であり、アウトロは圧巻の迫力である。

 

『Sonor』の持つ音楽の世界はこれで終わりではない。クローズを飾る「11-Bayar Tai」ではインスト色の強い一曲でアウトロのような意味を持つ。ジャズ・ギターの心地よい響きは、本作の最後を飾るにふさわしい一曲。比類なきジャズボーカリストが国際都市ミュンヘンから登場した。

 

 

Best Track-「Old Folks」

 

 

 

94/100

 

 

 

Enjiのアルバム『Sonor』はSquama(日本盤はインパートメントから発売)から本日(5月2日)リリース。

 

『Sonor』収録曲:

 
1. Hungun

2. Ulbar

3. Ergelt

4. Unadag Dugui

5. Gerhol

6. Eejiinhee Hairaar

7. Zuirmegleh

8. Much

9. Neke

10. Old Folks

11. Bayar Tai


アーティスト:Enji(エンジ)

タイトル:ソノール(Sonor)

品番:AMIP-0376

価格:2,900円(税抜)/3,190円(税込)

発売日:2024年5月2日(金)

バーコード:4532813343761

フォーマット:国内流通盤CD

ジャンル:ワールド/ジャズ

レーベル:Squama

販売元:株式会社 インパートメント

発売元:Squama



▪更なる国内盤のリリース情報の詳細につきましてはインパートメントのサイトをご覧ください。

NEI/MIZ

 

名古屋を拠点に活動するラッパー/ビートメイカーのNEIが、MONO NO AWAREのメンバーとして知られる、玉置周啓と加藤成順によるアコースティックユニットMIZとの共作曲「No Brake」をリリースした。今回のリリースはデジタルバージョン。

 

NEIは、名古屋で活動するビートメイカー。2018年からEP『Words For Strars』などを発表し、KIDS FRESINOとのコラボレーションの経験を持つ。

 

今回の共同制作者のMIZは、玉木周啓、加藤成順によるアコースティックユニット。聞き手のある場所の思い出、匂い、音にリンクするような楽曲をコンセプトに制作している。


この楽曲は、mizが奏でる牧歌的なアルペジオギターと洗練された美しいヴォーカル/コーラスワーク、そしてソングライティングを重視した優しくも芯の通ったNEIのラップが見事に調和している。ミックス、マスタリングは奥田泰次、アートワークはフォトグラファーの千葉武が担当した。


同郷のBMXライダー/映像ディレクターの勅使河原龍生とNEIの初ディレクションによるMVも公開した。下記よりご覧下さい。

 

 

「No Brake」





【リリース情報】NEI, MIZ『No Brake』




2025.05.02 On Sale
Released by D.R.C. / AWDR/LR2
 

Gabriel Brady 『Day-Blind』 ハーバード大学寮で録音されたクラシック、映画音楽、ジャズ、エレクトロニックをクロスオーバーする実験音楽集

 


Label: Tonal Union

Release: 2025年6月13日

 

 

摩訶不思議な音楽世界を作り出すガブリエル・ブレイディに注目したい。2025年にミュージシャンとしてデビューしたてのプロデューサーは、ハーバード大学の寮の寝室で録音されたデビューアルバム『Day- Blind』を今年6月にリリースします。彼は、ヴァイオリン、ピアノ/ローズ・ピアノ、ギリシアの弦楽器、ブズーキを演奏するマルチ奏者である。


アンティークなピアノ、アトモスフェリックなアンビエント風のシークエンス、モーフィングした波形を駆使したディレイ風のサウンドエフェクト、シンセやフェンダーのローズ・ピアノをアトモスフェリックに配して、独特な実験音楽の世界を構築している。まるでそのオルゴールの音色は、バシンスキーの『Melancholia』のようにメランコリックに響き、聞き手の興味を惹きつけてやまない。

 

アンビエントを志向したアルバムのように思えるかもしれないが、フランス映画のサウンドトラックからの影響は、ガブリエル・ブレイディの音楽に奥深さを与え、まさに聞き手がついぞ知り得なかった領域に誘うかのようである。ヨーロッパのモノクロの映画、あるいは、パリの映画音楽の音の世界の奥底へと聞き手をいざなう。全体的な音楽は、原初的な実験音楽のように聴こえるが、イタリアやフランスといった、ジャズやオーケストラ音楽の影響を受けた地域の音楽がアトモスフェリックに加わり、モノクロ映画のワンシーンのような瞬間を呼び起こす。

 

 

前の年代の音楽を愛する者にとって、旧来の時代の音楽を演奏したりすることは言葉に尽くしがたいロマンチズムがある。その時代の音楽を忠実に再現したとしても、どうあろうと同じにはならず、新しく別の形に生まれ変わる。そして、矛盾撞着のように思えるかもしれないが、私たちの生きている時代よりも以前の音楽ーー私達が実際には耳にしたりできないものーーその実態は現代的な視点から見ると、現在の音楽よりもあざやかな生命の息吹を得る場合がある。


形而下の領域においては、生も死も存在せず、そしてもちろん、時間という概念も存在しない。そしてそれこそが、私達の生きている世界から見ると、背後の影のように、どこかに無辺に広がっていることに気づく。まさしく、ブルトンの提唱した”シュールレアリスム”という概念は、我々が住まう生の領域から離れて、それとは異なる形なき領域に近づくことを意味していた。


ガブリエル・ブレイディの音楽もまたシュールレアリズムの概念によく似ている。ギリシアの弦楽器、ピアノ、ローズ・ピアノというように、時代を問わぬ楽器を幾つも演奏し、時代が定かではない音楽を作り上げる。幼いときにはあったもの、年を取るごとに忘れたもの、それを彼は音楽を通じて思い出そうとする。あるいは、その神秘性の一端に音楽を通じて触れようとする。

 

ブレイディの音楽の賛嘆すべき点を挙げるならば、多次元的な性質を持つということ。言い換えれば、多面体の音楽を彼は難なく作り出してしまう。これまで作曲の世界において、数奇な作曲家やプロデューサーが何人かいて、彼らは驚嘆すべきことに複数の要素を図面のように同時に組み立てられる。間違いなくガブリエル・ブレイディはこのタイプの制作者ではないかと思われる。

 

『Day-Blind』は聞き方によっては、エイフェックス・ツインに近い音楽性を感じる。それは初期のアンビエントというよりもケージやクセナキスを経た後の実験音楽の時代である。ブレイディはミュージック・コンクレートを用い、自分で演奏した音源をリサンプリングする手法を駆使している。という面では何度も録音を繰り返しながら、最適な音楽を手探りで探していくという制作スタイルである。

 

これは例えば、ロスシルのような現代的なエレクトロニックのプロデューサーと同様である。しかし、ブレイディが音楽で体現させるのは、失われた時代への憧憬。それは私達のいる現代的な空間やバーチャル、もしくはソーシャルのような世界とは対極に位置している。若い世代の人々がノスタルジアに心を惹かれるのは、現代社会にはない神秘性がそこに遍在するからだ。

 

『Day-Blind』は、ミニマリズムに根差したループサウンドも登場するが、基本的には断片的であり、決められた構成もなく、音の流れのようなものが現れたと思えば、すぐにたち消え、それと立ち代わりにまた別の音の流れが現れる。そして、それは同じタイプの音楽にはなることはあまりない。宇宙の生々流転を音楽に描くように、神秘的な音楽がどこからともなく立ち現れ、テープループのようなアナログの形式のレコーディングや、デチューン、フィル・スペクターが追求したエコーチェンバーなどを取り入れて、特異なレコーディングシステムを組み上げる。それはアンビエントに聞こえたかと思えば、賛美歌のように聞こえ、ジャズにもなり、そして、映画音楽にも変化することもある。多面的な音楽と述べたのは、こういう理由なのである。

 

 

その中で、音楽における有機的な役割を発揮する瞬間がある。サティをはじめとする近代フランス和声に触発された色彩的な和音を生かしたローズピアノの演奏(オルゴールのような音色)、ギリシアの民族楽器、ブズーキがもたらすエキゾチックで楽園的な音楽、祝祭的に鳴り渡るシンセ、それらをトーンクラスターの手法で破砕するデチューンの構成など、実験音楽の性質が色濃い。同時に、音楽的な心地良さはうっすらと維持されている。こういった中で、聞き手の中にあるノスタルジアを呼び覚ます安らかな電子音楽「Womb」、そして、制作者が強い影響を受けた20世紀のフランス映画のように、ジャズとポップスの融合を実験音楽として濾過した「Streetlight」が本作の中で興味を惹かれる。ジャジーな響きをコラージュ的なミュージックコンクレートの手法を用い、うっとりするような映像的な音楽に内在する耽美的な世界を探求しつくし、それと同時に実験音楽やジャズのアプローチによって映画音楽を斬新に解釈している。


最近の電子音楽の流れはアコースティック楽器やボーカルを制作者が録音し、リサンプリング(再構成)するのが日常的になっており、電子音だけで制作されることは減少しつつある。そして電子機器そのものが、チェンバー(音響の拡張装置)のような役割を担うことが多くなって来た。こういった音楽を若きプロデューサーが大学寮の寝室で作ってしまうことに感動を覚えた。レーベルオーナーのアートキュレーターとしての性質を的確に反映させた魅惑的なアルバム。

 

 

 

 

 

Gabriel Brady 


 
ガブリエル・ブラディは、米国バージニア州アレクサンドリア生まれで、現在はマサチューセッツ州ケンブリッジ在住のアメリカ人作曲家・音楽家。



ブレイディは、フランスの古い映画音楽のメロディーの感性に惹かれ、そのメロディーの暖かな真摯さ、そしてそのような音楽が生み出す完全で無媒介な感覚に惹かれる。『Day-blind』では、ブレイディの作品は常に平穏と緊張感に包まれている。


 
彼自身の鋭敏な音楽的感性を喚起的なヴォイシングで表現することで、ブレイディは現実を一瞬にして解体し、ゆがめ、再構築し、アルバムの不思議なタイトルが暗示するように、知覚と私たちの存在意義について疑問を投げかけている。7つのヴィネットを通し、ブレイディが超越的なものとの日常的な出会いを可能にすることで、『Day-blind』は鮮やかな生命を躍動させる。

 

ギリシャのブズーキ、散発的なピアノ、ヴァイオリンが織り成す甘美なテクスチャーと調和のとれたメロディーの相互作用を通して、ヴァージニア州アレクサンドリア生まれの謎めいたミュージシャン、ガブリエル・ブラディは、Tonal Unionからリリース予定の艶やかなアルト・アンビエント/アルト・フォーク・デビュー作『Day-blind』で、大胆なまでにシンプルに日常を嘆いている。



フランスの古い映画音楽、ミシェル・ルグランやジャン・コンスタンタンの音楽や、ドビュッシー、サティ、ラヴェルのシンプルな美しさに惹かれたブレイディは、メロディに対する温かな真摯さ、そしてそのようなスコアやオーケストレーションが生み出す完全で無媒介なフィーリングにインスピレーションを得たという。

 

マサチューセッツ州ケンブリッジにあるハーバード大学の寮の寝室で作曲・制作されたこの作品は、オーガニックな楽器(ヴァイオリン、ブズーキ)を録音し、それをコンパクトなモジュラー・シンセに通すことでサウンド・チェンバーとして機能させ、ループ、エフェクト、テクスチャーなどの操作を加えている。『Day-blind』では、日常を理解しようと努力するあまり、ブレイディの作品は常に静寂と緊張感に包まれている。



「日常生活は深い苦痛と憂鬱の源であり、強烈に不穏で鈍く鉛のようなものであることもあれば、深い安らぎと今この瞬間への意識的な同調の場であることもある」




ウージーなオープニングの「Womb」は、2つのシンプルなコード、穏やかなピアノの間奏、白昼夢のような状態を誘発する粒状のテクスチャーを交互に繰り返す質感のあるシンセのうねりによって、深く個人的な感情空間にアクセスする。

 

「Ordinary」は、ウーリッツァー(フェンダーのローズ・ピアノ)の哀愁を帯びたコードで構成された2つのキーセンターの間を、意図的にゆったりとしたテンポで流れていく。ブレイディは、ジャン・コンスタンチンの『400 Blows』のスコアのような映画的な音色に惚れ込み、憧れを表現するようになった。

 

「Attune」は、スローダウンしたシンセサイザーとブズーキで始まり、ループさせ、ディレイをかけ、再合成し、ブレイディが重心を移動させることで、アコースティックとエレクトロニックの奇妙だがシームレスな融合を生み出している。このような意図的な介入は、普通の楽器を馴染みのないものにし、その出所や由来を容易に分からなくすることで、連想の空白をなくす。


『Day-blind』もまた、記憶、ノスタルジア、メランコリアというテーマを探求しており、そのローファイで親密かつ繊細な性質から発している。ブレイディは、ディレイ、テープループ、ディケイという霞んだ煙幕を通して、切ない憧れと孤独なノスタルジアという、ポスト・モダン時代の典型的なジレンマについて考えている。

 

カルマン・シュトラウスが演奏する泣きのヴァイオリンのメロディをはさみ、ピッチシフトと変速のピアノが素っ気なく内省的な「Streetlight」、重くフィルターがかかったループ・ピアノとリズミカルなパルスが再構築的な「Untitled」に続く。「Ambrosial」は、イーノの『アンビエント4』のコラージュ技法に似たゆるやかな音素材を組み合わせた、最もテクスチャーに富んだトラックで、スポットライトを落として幕を閉じる。-レーベル提供のプレスリリースより

 

Gabriel Bradyのアルバム『Day-Blind』はTonal Union(UK)から6月13日にリリースされます。

 


シアトルを拠点に活動するSea Lemon(シー・レモン)がニューシングル「Give In」を発表した。ソングライター(本名ナタリー・ルー)は太平洋岸北西部で育ち、青春時代を海岸沿いで過ごした。 水中の王国に魅せられた彼女は、水中世界のイメージを明晰なドリーム・ポップに変換した。

 

シングル「Give In」は ドリーミーなハーモニーとネオサイケなエフェクトが妖艶なサウンドを作り出している。ドリームゲイザー風のシングル。

 

彼女は歌う。 "ツリーハウスの外には家がある/そこに誰が住んでいるのか、あなたには決してわからない/夜になると、ブラインドが壁から落ちる/あなたは穴から飛び出す光を見つける..."

 

リリックでは、シーレモンは精神的な健康について、そして侵入的な思考についての経験について語っている。 彼女は次のようにコメントしている。


「大人になるにつれて、特に残っている侵入思考は、ひどい考えだとわかっていても、廃屋の中に入りたくなること。 Give In』は、押しつけがましい考えに屈したときの安堵感と、その後に起こる結果について歌っている。 この曲は、プロデューサーのスタジオで午後に書いたもので、最初に書いてから完成するまで、おそらく一番早かった曲だ」

 

Sea Lemonのニューアルバム「Diving For A Prize」は5月30日にLuminelle Recordingsからリリースされる。


「Give In」

 

Thistle Brown

ニュージーランドのスーパースター、Lorde(ロード)は4枚目のアルバムを発表した。 2021年の「Solar Power」に続く「Virgin」はRepublicから6月27日にリリースされる。 


ロードはジム・E・スタックと『Virgin』を共同プロデュース。 ファビアナ・パラディーノ、アンドリュー・エイジド、バディ・ロス、ダン・ニグロ、デヴォンテ・ハインズが参加している。 スパイク・ステントとトム・エルムハーストがミックスを、クリス・ゲリンガーがマスタリングを担当した。 


--アルバムの色は透明だ。 お風呂の水のように、窓のように、氷のように、唾のように。 完全な透明。 言葉は平易で、感傷的ではない。 サウンドは可能な限り同じ。 私は自分自身を見ようとしていた。 生々しく、原始的で、無邪気で、エレガントで、開放的で、スピリチュアルで、マスキュリンで......。このアルバムを誇りに思うし、少し怖くもある。 隠れる場所はどこにもない。 自分自身の最も深い部分を音楽にすることが、私たちを自由にするのだと信じている--

 

 

 

Lorde 「Virgin」


Label: Republic

Release:2025年6月27日