Photo: Stevie Gibbs

グレッグ・フリーマン(Greg Freeman)のニューシングル「Curtain」を聴いてみよう。8月22日にTransgressive Records/Canvasback Musicから発売予定の『Burnover』の2曲目の先行曲だ。今月初めのザ・グレート・エスケープでのフリーマンの満員御礼のライブセットに続いてリリースされた。

 

この曲には、カール・エルセッサーが監督したミュージックビデオが付属し、彼の短編映画の映像が再利用されている。 下記よりミュージック・ビデオをチェックしてみてほしい。

 

フリーマンは、この曲を''ある種のラブソング''と明かし、その自然発生的なフィーリングについて触れ、ヴォーカルは、自由で洗練されていないクオリティを保つため、最初のテイクが使用されたと語る。 この曲は、納屋の動物の鳴き声のような繊細なタッチが特徴で、フリーマンは、"曲を本当に作った "要素として、カムとサムのソプラノ・サックスとピアノの演奏を挙げている。

 


先行リリースされたシングル「Point and Shoot」はUncut、The Line of Best Fit、Stereogum、Paste、Brooklyn Vegan、Consequenceに賞賛され、今夏のアルバム・リリースへの期待度が高まっている。


グレッグ・フリーマンにとって、先月は忙しい日々だった。 ハミルトン・ライタウザー(ザ・ウォークメン)とのアメリカ・ツアーに始まり、グレート・エスケープ、ドット・トゥ・ドット・フェスティバルへの出演を含むヨーロッパでのヘッドライナー・ツアーを終えたばかり。 


フリーマンは、7月19日にニューヨークのノックダウン・センターでThis Is Loreleiと共演し、その後8月からEUでヘッドライナー・ツアーを行い、10月には、Grandaddyをサポートする全米ツアーで締めくくる。

 

2022年にデビューアルバム『I Looked Out』をひっそりとリリースした時は、PRキャンペーンもレーベルも音楽業界のプロモも行われなかったが、著名な批評家から賞賛を集めた。UPROXXのスティーヴン・ハイデンは''2023年に発見した2022年のお気に入りアルバム''と評した。Paste Magazineは「2020年代のベスト・デビュー・アルバム25選」にこの作品を選んだ。 このリリースの口コミでの成功により、フリーマンは容赦ないツアースケジュールをこなすようになった。

 

『Burnover』に収録された10曲は、エネルギッシュなインディー・ロックとアンブリング・ツワングが融合した、爆発的で、不穏で、紛れもない作品だ。 


「Curtain」を聞けばわかる通り、フリーマンがリメイク/編曲を行ったため、このアルバムは本来の輝きを増すに至った。元々、蛇行するギタージャムのデモが作られたが、ピアニストのサム・アタラーがスタジオでタック・ピアノのテイクを録音し、楽曲全体が新しく生まれ変わったのだ。


生き生きとしたリードボーカルが曲を活性化させる。特にフリーマンが "My thoughts die out slowly on the blood swept plains where I see you every night / And to the lonely hours, it's like burning the furniture to keep the house bright at night "と歌っている。("僕の思いは、毎晩君を見かける血に塗れた平原でゆっくりと死に絶え/ 孤独な時間には、夜、家を明るく保つために家具を燃やすようなものだ'')


「サムがピアノを置いたとたん、私たちはこの曲を自然体で聴くことができたし、そして生き生きとした内容になった」とフリーマンは言う。 『Burnover』はフリーマンの最も冒険的でパーソナルな作品であり、さらにソングライティングの特異な才能を確固たるものにしている。

 


「Curtain」

 

 



Gred Freeman    『BURNOVER』 (New Album)



TRACKLIST:

Point and Shoot

Salesman

Rome, New York

Gallic Shrug

Burnover

Gulch

Curtain

Gone (Can Mean A Lot of Things)

Sawmill

Wolf Pine


Pre-save: https://transgressive.lnk.to/burnover

 

 

GREG FREEMAN Tour Date:

 

AUGUST

28th - 31st End of the Road Festival, DORSET

 

SEPTEMBER

1st    The Albert, BRIGHTON

2nd    The Lexington, LONDON

5th    Brudenell Social Club, LEEDS

6th    The Hug and Pint, GLASGOW

7th    The Workmans Club, DUBLIN

9th    YES, MANCHESTER

10th   Clwb Ifor Bach, CARDIFF

11th   Hare and Hounds, BIRMINGHAM

13th   Ekko, UTRECHT

14th   Blue Shell, COLOGNE

15th   Molotow, HAMBURG

17th   Bar Brooklyn, STOCKHOLM

18th   Vega, COPENHAGEN

19th   Lark, BERLIN



‘Curtain’ is the new single from Greg Freeman and the second to be revealed from his forthcoming album ‘Burnover’, set for release on 22nd August via Transgressive Records/Canvasback Music. The single arrives following Freeman’s packed out set at The Great Escape earlier this month.

 

The song is accompanied by a music video directed by Carl Elsaesser and uses repurposed footage from one of Carl’s short films. Describing the track as “a love song of sorts,” Freeman noted its spontaneous feel, sharing that the vocals were likely a first take to preserve a free-flowing, unpolished quality. The song features subtle touches like barnyard animal sounds, but Freeman credits Cam and Sam’s performances on soprano saxophone and piano as the elements that “really made the song."

 

‘Curtain’ follows the previously released single ‘Point and Shoot’ which received acclaim from outlets like Uncut, The Line of Best Fit, Stereogum, Paste, Brooklyn Vegan, and Consequence, building anticipation for the album’s release later this summer.

 

The last month has been busy for the rising singer songwriter. He started off the month on tour in the US with Hamilton Leithauser (The Walkmen) and just wrapped up a headlining tour in Europe, including festival appearances at The Great Escape & Dot to Dot Festival. Looking ahead, Freeman will be playing with This Is Lorelei at NYC's Knockdown Center on July 19th, followed by another headlining EU tour starting in August, and then will be capping it off with an October U.S. tour supporting Grandaddy.

 

When Freeman quietly released his debut LP I Looked Out in 2022, it had no PR campaign, label, or music industry promo, but still garnered praise from notable critics, with Steven Hyden of UPROXX calling it “my favorite album of 2022 that I discovered in 2023,” and Paste Magazine naming it among the 25 Best Debut Albums of the 2020s. The word-of-mouth success of that release had Freeman on a relentless tour schedule.

 

Explosive, unsettling, and undeniable, the 10 tracks presented on Burnover meld energetic indie rock with an ambling twang. The album truly shines when Freeman tweaks the formula, like on today's release, ‘Curtain’. Originally demoed as a meandering guitar jam, the track came to life when pianist Sam Atallah tracked a tack-piano take at the studio. His lively leads invigorate the song, especially as Freeman sings lines like, “My thoughts die out slowly on the blood swept plains where I see you every night / And to the lonely hours, it’s like burning the furniture to keep the house bright at night.” Freeman says, “As soon as Sam laid down the piano, we heard the song for what it was and it came alive.” Burnover is Freeman’s most adventurous and personal yet, cementing him as a singular songwriting talent.



ロックソングを聴いていて、ぶっ飛ぶような経験をすることは稀有である。しかし、UKのポストパンクバンド、Shameはそういった貴重な経験をさせてくれる数少ないバンドだ。彼らはオアシスからペイブメントまで限りないロックを鉱脈を探り、驚きのある音楽的な体験を授けてくれる。

 

Shameの待望の4枚目のアルバム『Cutthroat』を発表した。9月5日にDead Oceansからリリースされる リードシングルでオープニングトラックの「Cutthroat」を以下で聴くことができる。


『Cutthroat』は、Shameの2023年のアルバム『Food for Worms』に続く作品で、世界的に有名なプロデューサー、ジョン・コングルトンがプロデュースし、12曲の新曲が収録されている。 

 

このアルバムについて、フロントマンのチャーリー・スティーンは次のように語っている。 「現実を直視しようぜ、なんて、今、周りにはそんな奴らが大勢いるんだよ」


バンドは長い共同声明でその態度を拡大し、レコードの表面下にある落ち着きのない衝動をほのめかしている。 「それはハングリー精神によるものだ。 より良いものへの渇望ともいえる。 それは原始的なものだ。 原始的だ。 生々しく、 無愛想。 招かれざる客としてパーティに現れる。 押し倒されたら、もう上がるしかない。 何も持っていないとき、失うものは何もないんだ」


リード・シングルの「Cutthroat」は、サイケデリックな色合いを帯びたドライヴ感のあるアレンジを中心に構成されており、アルバムの傲慢さと不安感の混同を紹介している。

 

オスカー・ワイルドの戯曲をたくさん読んでいた。そこではすべてが逆説的な意味が込められていた。『 Cutthroat』では、『Lady Windermere's Fan(ウィンダミア夫人の扇風機)』に出てくる、"真剣に考えるには人生はあまりにも重要すぎる "という考え方が全面に出ているんだ」


そのために、スティーンはこのアルバムをバンドのライブ・パフォーマンスになぞらえた。 「これは、僕らが何者であるかということなんだ。 私たちのライブはパフォーマンス・アートではなく、直接的で、対立的で、生々しい。 それが僕らの根源だ。 私たちはクレイジーな時代に生きている。 でも、それは『かわいそう』ってことじゃない。 『ファック』ってことなんだよ」

 

こういった生意気な自己認識も重要となるかもしれない。Shameは、威勢やエゴの泡を吹き飛ばし、鏡を見て、「最初の石を投げる者は...」と自問自答するよう促したいのと同様に、その根底には、人生はしばしば滑稽なものだということも理解している。結果、このアルバムは、人生の特異性を楽しみ、眉をひそめ、時折機転を利かせてはぐらかされるような醜い疑問を投げかけている。

 

しかし、『Cutthroat』から導出される答えは、「今、恥はかつてないほどいい音をしている」ということだ。

 

 

「Cutthroat」

 

 

 

 

Shame 『Cutthroat』 


Label: Dead Oceans

Release: 2025年9月5日

 

Tracklist:


1.Cutthroat 
2.Cowards Around
3.Quiet Life
4.Nothing Better
5.Plaster
6.Spartak
7.To and Fro
8.Lampião
9.After Party
10.Screwdriver
11.Packshot
12.Axis of Evil 

 

Pre-save: https://shame.lnk.to/cutthroat-LP  


テネシーのシンガーソングライター、Marissa Nadler(マリッサ・ナドラー)が10枚目のフルアルバム『New Radiations』をSacred Bonesからリリースする。 今年、Spelllingの新作をリリースし勢いに乗るレーベルの待望の新作は女性シンガーソングライターのアルトフォークとなる。


最初の一音から、ナドラーのみずみずしい歌声と複雑なフィンガーピッキングが前面に出ている。 ファズがかったディストーション、ハモンド・オルガン、不吉なシンセサイザーなど、夢のようで寂しげなサウンドスケープにエヴァリー・ブラザーズ・スタイルのハーモニーを重ねる。 各トラックは、まるで生きてきた人生のヴィネットのように展開し、静かな激しさをもって響く感情の重みを伝える。


このアルバムはリードシングルに見いだせるようなフォークを基調としたポップソングを中心に構成されているが、その荒唐無稽とも呼ぶべきイマジネーションがアルバムの核心には存在する。空飛ぶセスナ機、宇宙船、逃走用の車、そして異次元の世界.......。 甘くキャッチーなメロディーとダークで直感的な歌詞のコントラスト。 一人称の物語から歌おうが、他の人々とチャネリングしようが、このアルバムは愛と喪失の普遍性を重厚さと共感をもって表現している。


『New Radiations』はナドラー自身がプロデュースし、ランダル・ダン(Earth、Sunn O)))がミックスした。長年のコラボレーターであるミルキー・バージェスによる繊細なアレンジが特徴で、ウージーなスライド・ギター、催眠術のようなシンセサイザー、硬質なリフが印象的だ。 

 

ジャンルにとらわれない彼女らしいこのアルバムは、世界のノイズを一瞬の美しさと荘厳さで凍りつかせる。 マリッサ・ナドラーの唯一無二のビジョンと芸術性の証であり、キャリアのハイライトである。

 

アルバムの発表と合わせて公開されたリードシングルはタイトル曲である。アコースティックギター/ボーカルを中心に構成されるこの曲はシンガーソングライターの悲しみを体現させている。

 

 「New Radiations」 

 

 

 

Marissa Nadler 『New Radiations』  




Label: Sacred Bones

Release: 2025年8月15日


Tracklist:

 

1. It Hits Harder

2. Bad Dreams Summertime

3. You Called Her Camelia

4. Smoke Screen Selene

5. New Radiations

6. If It's An Illusion

7. Hatchet Man

8. Light Years

9. Weightless Above The Water

10. To Be The Moon King

11. Sad Satellite

 

 

Pre-save :https://bfan.link/new-radiations 

 


ニュージーランドのシンガーソングライター、Bret Mckenzie(ブレット・マッケンジー)がニューアルバム「Freak Out City」を8月15日にリリースする。正式に言えば、「家族の日」という祝日があるという話を聞いたことはないが、もし存在するならこのアルバムが最適だろう。

 

ブレット・マッケンジーは俳優として世界的に活躍し、ロード・オブ・ザ・リングにも出演経験がある。俳優からミュージシャンへ転向した『Songs Without Jokes』では、実力派シンガーソングライターの片鱗を見せた。

 

ブレット・マッケンジーはグラミー賞とアカデミー賞を受賞したアーティストで、自身のバンド「フライト・オブ・ザ・コンコーズ」とその名を冠したテレビ番組で最もよく知られている。

 

マッケンジーは、主に映画やテレビのために、面白く、奇妙で、ユニークな曲を歌ったり、脚本の執筆などで国際的に知られている。

 

ブレットの曲は、カーミット・ザ・フロッグ、セリーヌ・ディオン、リゾ、ベネディクト・カンバーバッチ、ブリタニー・ハワード、ホーマー&リサ・シンプソン、フレッド・アーミサン、ミス・ピギー、エイミー・アダムス、ジェイソン・シーガル、リッキー・ジャーヴェイス、ベニー、イザベラ・マーセド、スポンジ・ボブ、トニー・ベネット、ミッキー・ルーニーなどが歌っている。


若い頃、ブレット・マッケンジーは、ウェリントンの音楽シーンで活躍し、複数のジャンルのバンドで演奏していた。レゲエ・ファンクの人気バンド、ザ・ブラック・シーズの創立メンバーであり、その後、複数のゴールド・アルバムを制作し、世界中で大規模なツアーを行った。

 

また、ウェリントン・インターナショナル・ウクレレ・オーケストラを結成し、10人編成のウクレレ・グループとして驚異的な人気を博し、実験的なエレクトロニカ・アンサンブル、ダブ・コネクションで演奏し、ビデオ・キッドという別名でインディー・ポップ・エレクトロのレコードを制作し、ミニチュア楽器を演奏するバンド、ザ・シュリンクスから企業向けのカルテット、ザ・カナペスまで、さまざまなジャズ・グループで演奏した。

 

同時に、ブレットは地元の演劇シーンにも深く関わり、数え切れないほどの創作コメディー演劇作品に定期的に出演し、長年のコラボレーターであるジェメイン・クレメンをはじめとする演劇アーティストの大きなコミュニティと親交を深めた。

 

ニュージーランドのソングライターであるブレット・マッケンジーは、コメディ・デュオ、フライト・オブ・ザ・コンコーズの一員として一躍有名になった。しかし、その一方で、ランディ・ニューマンやハリー・ニルソンに影響を受けた、心の奥底から湧き出るような曲も書いている。

 

2022年発表のアルバム『Songs Without Jokes』はデビュー作であり、リセット作でもあった。『Freak Out City』は彼の次のステップであり、8人編成のバンド、ザ・ステイト・ハイウェイ・ワンダーズとともにニュージーランドとアメリカ全土でライブを行いながら制作された。

 

8月15日にリリースされるこのアルバムは、ロサンゼルスとニュージーランドの両方でレコーディングされ、ブレットと長年のコラボレーターであるミッキー・ペトラリアが共同プロデュースした。ニュー・シングル「All I Need」は、ビートルズ/ストーンズライクのロックンロール、ソウルファンクとブルースを融合した人生の円熟味を漂わせる楽曲だ。エレクトリックピアノ、ゴスペル風のコーラス、そしてマッケンジーのブルージーな歌声が音楽の合間を変幻自在に戯れる。この曲の温かいエモーションは、妻への愛情やファミリアーを表したものだという。

 

「これは妻のハンナへのラブソングなんだ。 僕たちは長い間一緒にやってきたし。 僕たちはいつも愛し合っているけれど、正直に言うと、もっと愛し合っている日もある。 この曲は、そんな中でも特に愛し合っていた日の曲なんだ」とマッケンジーは説明する。

 

 

 「All I Need」

 

 

  

2000年、ロード・オブ・ザ・リング第1作『指輪の仲間』にエキストラとして出演した彼は、思いがけず背景のエルフとして一躍有名になり、トールキン・ファンの異常な注目を集めた。彼は 「Frodo is great, who is that? 」の頭文字をとってFigwitと呼ばれた。


同じ頃、この多産なウェリントンの芸術コミュニティから『フライト・オブ・ザ・コンチョーズ』が生まれ、ブレットはバンド仲間のジェメインとともにオーストラリア、カナダ、イギリスのコメディ・フェスティバルを数年間回った。BBCのラジオ番組に続き、HBOのテレビ番組もカルト的な人気を博し、ふたりは国際的な名声を獲得した。サブ・ポップ・レコードからEP1枚とアルバム3枚をリリースし、2008年にはグラミー賞最優秀コメディ・アルバム賞を受賞した。

 

フライト・オブ・ザ・コンチョーズでの活動により、ブレットはコメディと音楽の両エンターテインメントの世界で確固たる地位を築き、アメリカ映画界への扉を開いた。それ以来、彼は一貫して映画やテレビのプロジェクトに携わっている。2012年にはディズニー映画『ザ・マペッツ』のバラード「Man or Muppet」でアカデミー賞オリジナル楽曲賞を受賞。

 

この間、ブレットと妻ハンナ・クラークには3人の子供が生まれ、ブレットは家族と一緒にニュージーランドの自宅で過ごせるプロジェクトに集中し始めた。2022年、ブレットはソロアルバム『Songs Without Jokes』をリリースし、パンチラインのない曲作りを探求した。FarOut』誌は、この曲を「カート・ヴォネガットの小説のミュージカル版のようだ」と評した。


 

Bret Mckenzie 『Freak Out City』 



Label: Sub Pop

Release:  2025年8月15日

 

Tracklist:

 

1.Bethnal Green Blues
2.Freak Out City
3.The Only Dream I Know
4.All the Time
5.That's the Way That the World Goes 'Round
6.All I Need
7. Eyes on the Sun
8.Too Young
9. Highs and Lows
10.Shouldna Come Here Tonight

 

Photo: Bobby Doherty

ニューヨークのフォークプロジェクト、Big Thiefがニューアルバムをアナウンスした。『Double Infinity』はグラミー賞にノミネートされた2022年のアルバム『Dragon New Warm Mountain I Believe In You』に続く作品で、昨年の冬にニューヨークのパワー・ステーションでレコーディングされた。 


トリオは3週間、ブルックリンとマンハッタンを結ぶ凍てついた道を自転車で走り、パワー・ステーションの温かみのあるウッドパネル張りの部屋に集合した。  


アレナ・スパンガー、ケイレブ・ミッシェル、ハンナ・コーエン、ジョン・ネレン、ジョシュア・クラムリー、ジューン・マクドゥーム、ララアジ、ミケル・パトリック・エイブリー、マイキー・ブイシャスといったミュージシャンとともに、彼らは1日9時間演奏し、同時にトラッキングを行い、即興でアレンジを作り、集団的な発見をした。 


アルバムは最小限のオーバーダビングでライヴ録音された。  プロデュース、エンジニアリング、ミックスは、長年ビッグ・シーフとコラボレートしてきたドム・モンクスが担当した。


"生きている美しさとは、真実以外の何ものでもないのだろうか?" リード・シングルの「Incomprehensible」で、エイドリアンヌは子供の頃の思い出の品々を未来に突きつけながら問いかける。  


彼女は、"これから見るものすべてが新しいものになる "と理解している。  肩の銀髪も新しい。 しかし、老いに対する恐れは、その証明によって打ち砕かれる。  


人生が生きることによって形作られるのであれば、"重力に彫刻を、風に髪を任せて"。  生まれること、そしてしばらくとどまることは、最大の謎のままである。  エイドリアンヌは自分の場所と時間を主張する。 "理解しがたい存在よ、私をそうさせて" 


リードシングル「Incomprehensible」はビックシーフのアルトフォークが新境地に到達したことを窺わせる。実験的な音楽性だが、そこにはやはりこのバンドらしい繊細な抒情性が漂っている。



「Incomprehensible」

 




Big Thief     『Double Infinity』




Label: 4AD
Release: 2025月9月5日


Tracklist:

1. Incomprehensible
2. Words
3. Los Angeles
4. All Night All Day
5. Double Infinity
6. No Fear
7. Grandmother
8. Happy With You
9. How Could I Have Known


Pre-order(日本国内はBeatinkで予約受付中): https://bigthief.ffm.to/doubleinfinity

Yeule  『Evangelist Is A Gun』 

 

Label: Ninja Tune

Release: 2025年5月30日

 

Listen/Stream

 

 

Review

 

Yeuleの存在が一般的に知られるところとなったのは2023年のアルバム『Softcars』だったが、Nat Cmielは2012年頃から活動している。前作アルバムはハイパーポップの性質が強かったが、今作ではメロディーメイカーとしての真価を発揮している。トリップ・ホップ、ダンス・ポップ、ハイパーポップ、J-POP/アジアのガチャポップを中心に多角的な音楽性を探っている。

 

邦楽に関しては影響のほどは定かではないにせよ、2000年代以降のポップソングの影響がボーカルのメロディーラインの節々に感じ取ることが出来る。もちろん、Yeuleのプロジェクト名は、FF(Final Fantasy)から来ているし、ゲーム音楽やアニメ、アングラ/サブカルチャーへの親和性も深い。そう、日本政府の主導した「クール・ジャパン政策」は確かに海外に普及していたのだ。

 

Yeuleは、UA,Charaといった平成時代のボーカリストのタイプに近い。印象論として、2010年代以降の日本のポップスは、その前の音楽的な完成度の高さや洗練度を、一部のアーティストを除いて、引き継ぐことが出来なかった。ある意味では、平成時代以降の音楽は、どこかで断絶しているような印象すらある。これは実をいうと、日本の音楽産業が下火になった時代と呼応するような形である。5年前の音楽は聴いたことがあるけれど、10年以上前の音楽は聞かない。結局のところ、一般的に音楽に大きく投資することが難しいのが現在の日本の台所事情である。Yeuleのような音楽的な体現力は、日本国内のシンガーには見出すことが難しく、あったとしても散発的に止まってしまう場合が多い。これは日本のミュージシャンが日本国内の音楽的な系譜や流れを見落としているのではないかと指摘したい。これは、腰を据えて音楽にじっくり取り組もうという土壌がなかなか作られないという側面があることを付言しておきたい。

 

 

 『Evengelist Is a Gun」はかなり毒々しいアルバムになるのでは、と予測していたが、意外とそうでもなかった。そして前作よりもソングライティングとして磨きがかけられ、音楽的な幅広さもましている。その中で、Yeuleらしさというべきか、少し毒々しいイメージのあるボーカルを音楽的なキャンバスに塗り上げる。これらの棘ともいうべきテイストは、前作から引き継がれたものである。アルバムを聴いて分かる通り、2000年前後の日本には結構あった音楽もある。ただ、それらを高いレベルで再現する力量、そしてチャーリーCXCのようなSSWからうまくヒントを掴んで、ポップスのセンスやトラック制作の技術に活かしたりと、新旧の音楽を巧みに織り交ぜる。アルバムの音楽は、アーティストの音楽的な好きを活かし、幅広い世界観を作り上げる。ただ、この音楽的な洗練度は、短期間ではどうにもならず、10年以上熱心に取り組んでいないと、完成されないだろう。Yeuleのやっている音楽は、簡単なようでいて、かなりハイレベルである。

 

 

「Tequila Coma」では、トリップホップを中心に、レーベルの得意とするヒップホップ的なビートの要素をふんだんにまぶし、アンニュイだが心地よいポップスを作り上げていく。ところどころに、マスタリング的な実験が行われ、ボーカルのフレーズの最後の波形を抽出し、それらにディレイ系のエフェクトをかけたり、また、ドラムにダビーな効果を加えたりと、短いシークエンスの中で様々な試みが行われている。しかし、全般的には、ヴォーカルのメロディーの音感的な良さは一貫して維持されている。曲を聴いたときの印象を大切にしているのだろう。1分55秒には、ギターのリサンプリングを用い、Portisheadの『Dummy』のトリップホップサウンドを蘇らせる。ターンテーブルのレコードを回すときのチョップの技法を再現させている。

 

「The Girl Who Sold Her Face」は大胆にも、デヴィッド・ボウイの名曲のオマージュとなっているが、音楽的にはアジアのポストポップに近いスタイルである。その中で、少し毒々しい感覚を交えながら、チャーチズのようなダンサンブルなポップスを展開させている。ただ、明確にサビの構成を作り、バンガー的な響きを作り上げる点については、アジアのポップスに近似する。というように、音楽的には相当、カオスでクロスオーバーが進んでいることがわかる。

 


前作ではトランスヒューマニズムのような近未来的なセンスを生かしたが、今回は対象的に、原点回帰をした印象がある。そしてより人間的な何かを感じさせる。前作から引き継がれた心地よく軽快なベッドルームポップソングを続く「Eko」で楽しむことが出来る。この曲はガチャポップなどでもよくあるトラックだが、ピッチがよれて音程がずれてもそのままにしている。ピッチシフターを使用するのは限定的であり、音楽的な狙いや意図がある場合に限る。欠点を削ぎ落とすと、長所も消えるので、それほど不自然なエフェクトはかかっていない。

 

 

グランジロックからの影響を交え、それらをオルタナティヴなポップソングに組み替えた曲もある。「1967」 は、Yeuleらしいダウナーな感覚を活かして、Alex Gの系譜にあるループサウンドやカットアップ(ミュージック・コンクレート)のインディーロックのソングライティングを交え、中毒性の高い曲を完成させている。音楽好きの"リピートしてしまう"という謎の現象を制作者側から体現させた風変わりなポップソングだ。メロディーメイカーとしての才覚が遺憾なく発揮されている。アルトポップ・ファンにはたまらない一曲となるだろう。

 

 

一転して、「VV」はイェールらしからぬ一曲である。アーティストの凝り性の一面を巧みに捉えている。しばし毒々しくダウナーな感覚から離れて、それとは対極にある高い領域を表現しようとしている。この曲では、beabadoobbeの系譜にあるポップセンスをベースに、フォーク/エレクトリックの融合であるフォークトロニカを付け加える。エレクトロニカをダンサンブルにアレンジして、そこにイェールらしい個性をさりげなく添えている。 土台となる音楽に対して、必ず画家の署名のようなものを書き添えるのが、Yeuleのソングライティングのスタイルである。それと同時に、アコースティックギターとヴォーカルの組み合わせは、さわやかな感覚を呼び起こす。

 

というように、テクノロジーの進化が目覚ましい現代社会において人間としてどのように生きていくのかというテーマがこのアルバムの重要なポイントを成している。それは、ディアスポラをポピュラー・ソングから追求したサワヤマの系譜を受け継いでいる側面もある。 その中で、より大掛かりな背景を持つポップソングも提示される。

 

「Dudu」はヨーロッパのダンスミュージックの影響を活かして、軽妙な雰囲気を持つポップソングに仕上げている。現在のアーティストの制作の中でダンスミュージックの割合や重要度が高いことを伺わせる。アルバムの事前のイメージは完全に払拭され、ファンシーなポップソングが続いている。

 

「What3vr」ではヒップホップのビートを下地にして、エレクトロ・ポップをアップデートしている。この曲でも叙情的なメロディーという側面は維持され、そしてそれらがエクスペリメンタルポップやハイパーポップとうまく結び付けられている。ポップソングのトラック制作の見本のような一曲。

 

「Saiko」は、Dora Jaのような最新のエクスペリメンタルポップのサウンドと肩を並べるべく、アルトポップの高みに上り詰めようとしている。意外性のある展開に富み、従来のグリッチを多用したビート、転調や移調を繰り返すボーカル、ミュージックコンクレートの形で導入されるアコースティックギターというように、断片的な音楽のサンプリングの解釈を交えたとしても、音楽のストラクチャーは崩れない。これは全般的な構成力が極めて高いからである。しかし、かなりハイレベルなことをやっていても、表向きに現れるのは、モダンな印象を持つキャッチーなポップソングである。この曲でも、自身の音楽がどのように聴かれるのかをかなり入念にチェックしているという印象がある。そして実際的に、表向きのイメージを裏切るような形で持ち前のファンシーな世界観を完成させる。

 

アルバムの後半ではエクスペリメンタル/ハイパーポップの性質が強くなる。 これらの多角的な音楽性を作るための"保護色の性質"は、現時点のイェールの強みといえよう。タイトル曲ではロボットボイスをヒップホップ的に解釈し、エレクトロ・ポップに昇華している。これは専門のミュージシャンではないからこそ出来る試みだろう。「Skullcrusher」はホラームービー的で、ダークなアンビエントポップ、もしくはメタリックなハイパーポップともいうべき一曲である。ホラー映画「I Saw the TV Glow」のサウンドトラックを聴いた人であれば、ピンと来るのではないだろうか。これらのホラー要素は現在のアーティストのユーモアセンスの肩代わりとなっている。

 

 

 

 

84/100 

 

 

 

「1967」

 


Superchunkは、13枚目のスタジオ・アルバム『Songs in the Key of Yikes』を発表した。 Mergeから8月22日にリリースされるこのアルバムには、先にリリースされたロザリとのコラボ曲「Bruised Lung」に加え、新たに公開されたオープニング・トラック「Is It Making You Feel Something」が収録されている。 アルバムのジャケット・アートワークとトラックリストは以下より。


『Songs in the Key of Yikes』は、2022年の『Wild Loneliness』に続くアルバム。長年のドラマーであったジョン・ワースターが翌年にバンドを脱退して以来のアルバムとなる。 ローラ・キングがツアー・ドラマーとして2年間活動した後、現在はパーマネント・メンバーとなっており、アルバムにはクイヴァーズのベラ・クインランとホリー・トーマス、ツアー・ベーシストのベッツィー・ライトも参加している。 

 

エンジニアはポール・ヴォラン(ザ・メンジンガーズ、リフ・ラフ万歳)とイーライ・ウェブ、ミックスはマイク・モンゴメリー(ザ・ブリーダーズ、プロトマーティア)が担当した。


「バンドのマック・マコーガンはプレスリリースの中で、"誰もが自分では気づかないような何かを経験しているものだ。 「これは現在、かつてないほど真実であるが、同時に、私たち全員が一緒に何かを経験しているということでもある。 そのような状況の中で、芸術は何の役に立ち、幸せはどこにあるのだろうか? (私は知らない)」


この曲は、言葉や音楽を書くという非常に二の足を踏みやすいプロセスにおいて、自分自身を二の足を踏まないことについて歌っている。 この曲は、"誰がこれを必要としているのか、何の役に立つのか "という正当な疑問について歌っている。 何かを感じさせてくれるか? それがスタート地点なんだ」



「Is It Making You Feel Something」






Superchunk 『Songs in the Key of Yikes』


Label: Merge

Release: 2025年8月22日


Tracklist:


1. Is It Making You Feel Something

2. Bruised Lung

3. No Hope

4. Care Less

5. Climb the Walls

6. Cue

7. Everybody Dies

8. Stuck in a Dream

9. Train on Fire

10. Some Green


 

オリヴィア・ディーンがニューシングル『Nice To Each Other』をリリースした。複数のBRIT賞とマーキュリー賞にノミネートされたアーティストのソウルフルなヴォーカルを、爽やかなギターに乗せたこの曲は、リアン・ラ・ハヴァスやピンク・パンテレスなどのアーティストとの仕事で知られるマット・ヘイルズとザック・ナホームと共にレコーディングされ、ジェイク・アーランドが監督したワンテイクショット・ビデオは以下の通り。 ディーンはこう語っています。


"Nice To Each Other "は、デートにおける自分の自立を探ることの押しと引きについて歌った曲だ。 この曲は、今現在の誰かを楽しむこと、そしてそれが軽快で有意義なものになることを歌っているんだ。 この曲とビデオは、私の中の遊び心を表していると思う。


「Nice To Each Other」は、キャピトル・レコードから9月26日にリリースされるディーンのセカンド・アルバム『The Art of Loving』に収録されます。 


ディーンはこの夏、ロンドン、ニューカッスル、マンチェスター、エディンバラで開催されるサム・フェンダーのUK公演をサポートし、6月11日にはロンドンのO2シェパーズ・ブッシュ・エンパイアで故郷を祝う新たなギグを行なう。 チケットは6月9日(月)午前10時より一般発売開始。 また、7月6日にはロンドンのBSTハイド・パークでサブリナ・カーペンターをサポートする。 その後、彼女は夏のAcross The Atlantic北米ツアーに出発する。


「Nice To Each Other」



『The Art of Loving』は、2023年のデビュー作『Messy』に続く作品となる。 デビュー・アルバムはイギリスのオフィシャル・アルバム・チャートで4位を記録し、同年のマーキュリー・プライズにノミネートされたが、最終的にエズラ・コレクティヴの『Where I'm Meant to Be』に敗れた。 


今年初め、ディーンは『ブリジット・ジョーンズ』でフィーチャーされた「It Isn't Perfect But It Might Be」をリリース。 マッド・アバウト・ザ・ボーイ』でフィーチャーされ、オフィシャルシングルチャート36位にランクインしました。 この曲が今度のアルバムに収録されるかは未定です。


Olivia Dean  『The Art of Living』


Label: Capital

Release: 2025年9月26日


*収録曲は未公開



 チャート上位のミュージシャン、委嘱作曲家、作家、受賞歴のある教師、講演者、スタジオ・オーナーであるコーリー・カリナンが、ミュージシャンでシンガーソングライターのライリー・マックスをフィーチャーした新しいアヴァンギャルドで実験的な音楽と映像の体験「2025 Alive」をお送りします。  ハイテクの即興音楽は、「2025年に生きているために起こっているすべてのクレイジーなこと」に影響されているとコーリーは宣言している。 


このショート・ミュージカル・フィルムは、グラミー賞受賞者などを起用したミュージックビデオの監督、作曲家・編集者として環境ドキュメンタリーの制作、米国グリーン商工会議所のソーシャルメディア・デザイン、世界最大の環境非営利団体(ネイチャー・コンサーバンシー)史上最大のエンゲージメントを確保したキャンペーンやソーシャルメディア・コンテンツの制作など、高い評価を得ているクリエイター、シドニー・カリナンが監督・制作した。


コーリー・カリナンは、チャート上位のミュージシャン、委嘱作曲家、作家、受賞歴のある教師、講演者、スタジオ・オーナーである。 彼の新作は、『2025 Alive』と題されたカタルシスをもたらす多世代マルチメディア・コラボレーションだ。 ストリーミング・サウンドトラックは、彼と彼の娘でシンガーソングライターとして高く評価されているライリー・マックスによるハイテク即興演奏で、映画は彼の娘シドニー・カリナンによる映画的ファンタジアである。 これらの作品は、この型破りな文化の年に私たちが抱いた無数の思いや感情を表現している。 新しいアイデアのテスト。 現代世界における古い考えのテスト。 スタミナ。 意志の力。 知力。 共感。 愛国心。


彼はさらに、「2025 Aliveは全編を通してヴォーカルが入っているが、歌詞は1つだけだ」と打ち明ける。「 "テスト"。 この言葉は、現代世界の多くのことと同じように、すぐに解体され、バラバラになる。 現在の出来事が、あなたが愛していた文化の中であなたの決意を試しているのか、あるいは、私たちが規範をどこまで壊せるか、あるいは改革できるかを試している人々を支持しているのかにかかわらず、この前提は、あなたが2025年に経験していることに当てはまります。 私たちは、この驚くべき、そして圧倒されるような年に、あなたが私たちの仕事を有意義なものだと感じてくださることを願っています」



 Cory Cullinan is a chart-topping musician, commissioned composer, author, award-winning teacher, speaker, and studio owner. His new release is a cathartic multigenerational multimedia collaboration entitled 2025 Alive. The streaming soundtrack is a high-tech improvisation by himself and his daughter acclaimed singer-songwriter Riley Max, and the film is a cinematic fantasia by his daughter Sidney Cullinan. He shares, "They express the myriad of thoughts and feelings we’ve had during this unconventional cultural year that, regardless of where you stand… feels like a test of some sort. A test of new ideas. Of old ideas in a modern world. Of stamina. Willpower. Intellect. Empathy. Patriotism."


He further confides, "2025 Alive has vocals throughout but only one lyric: “Test.” This word is immediately deconstructed and splintered into pieces, like so much in our modern world. Whether current events are testing your resolve in a culture you loved, or you support those who are testing just how far we can break or reform our norms, this premise is apropos of what you are experiencing in 2025. We hope you find our work meaningful in this amazing and overwhelming year to be alive." 


Weekly Music Feature: Qasim Naqvi     ~パキスタンにルーツを持つ作曲家カシム・ナクヴィによる驚異的な音楽~



パキスタン系アメリカ人の作曲家カシム・ナクヴィは、著名なトリオ、''ドーン・オブ・ミディ''のドラマーとしてよく知られている。その他にも、ECMから新作をリリースしたWadada Leo Smithとも共同制作を行っていて、ジャンルを問わずミュージシャンとして研鑽を重ねてきた。彼は、映画、ダンス、演劇、国際的な室内アンサンブルのためのオリジナル音楽を創作している。 最近の作品は、アナログ・シンセサイザーやオーケストラ編成の音色を深く掘り下げている。


実験音楽や電子音楽を得意とするErased Tapesと契約して以来、彼は2つのモジュラー・シンセサイザーの組曲を制作している。2019年の高い評価を受けた『Teenages』は、エレクトロニクスが生き、呼吸し、自ら変異する音を捉えた作品であり、2020年の姉妹作『Beta』は、この種の楽器のための作曲に対するナクヴィの理解と楽器自体の成長を記録した一連の実験的作品である。


カシムの音楽はアートとも親和性がある。彼の音楽は主体的な音楽としても楽しめるが、空間を彩る環境音楽としての性質も併せ持つ。空間に馴染む音楽の名手とも言え、彼の音楽は、グッゲンハイム美術館、dOCUMENTA 13 + 14、MOMA、リバプール・ビエンナーレ、セントルイス美術館でのインスタレーションに登場している。 現代音楽家としても名高い。彼の室内楽曲や管弦楽曲は、yMusic Ensemble、The Now Ensemble、BBC Concert Orchestra、The Contemporary Music Ensemble of NYU、Stargaze、The Helsinki Chamber Choir、The Bienen Contemporary/Early Vocal Ensemble、Nimbus Dance Works、シカゴ交響楽団(CSO)のMusicNOW Seasonで演奏されている。


2021年、アナログ・シンセシス組曲『クロノロジー』が全世界でレコード・リリースされた。2016年にデジタルのみで構想された『クロノロジー』は、カシムにとって初めてのエレクトロニック・ミュージックのリリースだった。即興音楽とクラシック音楽の世界に身を置いてきたナクヴィにとって、初の電子音楽アルバムは、コンピュータの豊富な選択肢を置き去りにして、故障したシンセサイザー、--古いムーグ・モデルD--だけで制作されるのがふさわしいと思われた。


パキスタン系アメリカ人の作曲家カシム・ナクヴィのニューアルバム『Endling』は、2023年のBBC コンサート・オーケストラ作品『God Docks at Death Harbor』の前日譚として作曲された。この作品は、数百年後の未来を舞台に、強烈で美しい風景の中を43分間のオデッセイへと誘う。


ナクヴィ自身の言葉を借りれば、アルバムは、8つの楽曲を通して、地球上の最後の人間である''エンドリング''の物語を語っている。エンドリングはある種の最後のメンバーである。 エンドリングが死ぬと、その種は絶滅するというのがシナリオだ。カシム・ナクヴイが明らかにしたところによれば、ニューアルバムは複数の構想を経て仕上がったという。


「ある朝、妻が夢から覚めると、"God Docks at Death Harbor "というフレーズが頭に浮かんできたらしかった。ちょうどそのとき、私はBBCコンサート・オーケストラのために新作を書き始めたところだったが、彼女がこの言葉の夢について話してくれたことで、それはあっという間に音楽の構想に浸透していった。 彼女の言葉は私にとってほとんど詩であり、具体的なイメージを呼び起こしてくれることがある。 私は、人類がもはや存在しない、何百年も先の未来の地球を想像した。 私たちがいなくなったことで、世界は平和に回復していく。 これが作品の信条となった」


「それは、このトーンポエムを書いているとき、インスピレーションを得るために眺めることのできる風景画のようだった。 2023年春にロンドンで『God Docks at Death Harbor』が初演された後、この感覚は私の中に残り、新譜について考える時期になり、この物語を続けたいなと感じた。 私は前日譚を想像してみた。地球上で最後の人間であるエンドリングが、何世紀も未来の世界を旅する話。 朽ち果て、変異した世界は、自然と人工の奇妙なアマルガムになるという」


「私は、この音楽が、自然界に追い越され、吸収されつつある未来の崩れかけた風景の中を、この人間を追いかける章立てになっていることをイメージしていた。 God Docksのトーンポエムの伝統に従って、私はまず曲のタイトルを作り、音楽が形になっていくにつれて、その意味をより明確にしていった」


「これらのタイトルには、現在の感覚も込められている。 エンドリングは、多くの人々にとって大きな苦悩と苦痛に満ちた2024年に制作された。 その時間は、このレコードのフィクションに追いつくかもしれない道のりのよう。それ自体がディストピックを感じさせ、それは今も続いているんだ」


アルバムのハイライト曲「パワー・ダウン・ザ・ハート」では、主人公が人生の最後の瞬間にあるA.I.に出会う。 一種の最後の儀式として、この古代の人工意識は、何百年も観察してきた美、悲しみ、恐怖を描写する。Moor MotherのボーカルはAIテクノロジーを表すために取り入れられたが、それは人の手によるボコーダーの装置によって濾過され、アルバムの特異点を形成している。


「私は、音楽がこの存在の心の中に流れるように感じられるふうにしたかった。 私は音楽とこの物語をカマエ(Moor Mother)と共有し、彼女がこのA.I.の声を担当してくれないかと頼んでみた。Camaeの声のサウンドをこのレコードの世界に取り入れるため、私は、”Buchla 296t Spectral Processor”として知られる、古い機械設計で彼女のボーカルを処理した。 この特異なアナログ・イコライザーを駆使し、微妙なヴォコーディング・エフェクトを作り出したり、もっと極端なやり方では、彼女の声の特定の響きを強調したり弱めたりすることができた。 そして最終的な結果は、プログラムされた人間らしさを脱ぎ捨て、永遠にパワーダウンする一種の合成音声だった」


「要するに、『Endling』の音楽はすべて有機的なアプローチによって行われ、ARP Odyssey、Minimoog、モジュラー・シンセサイザーによって生成され作られたと言える。私にとって、モジュラー・シンセサイザーのやりがいと満足感のひとつは、複雑な音色を一から開発することに尽きる。このモジュール装置は、有機的に不安定であり、扱いをミスると故障しやすい。 さながら有機体のように感じられ、そして演奏者としてそのエネルギーの流れや電圧をコントロールすることができた。 大人になってから、私の創作活動は両極端な方向性に進んでいった。 私は即興音楽を通じて、純粋に自然発生的な方法で物事を創造することが大好きなんだ」


「このたぐいの音楽的コミュニケーションは、二度と再現できないような複雑で直感的なアイデアに直結することがある。 そして、もう一方には、オーケストラや室内楽グループのために作曲するのが大好きな私がいる。 これは私の思考の詳らかな青写真をスローダウンしたようなものなんだ。 モジュラー・シンセサイザーは、この2つの世界を見事に橋渡ししてくれることがわかった」


「私は、今回、この電圧制御のマシンを、珍しい楽器やモジュールで構成されたアンサンブルのように扱うことができ、そのアンサンブルのためにコンポジションを行った。 私は、このマシンの有機体に音楽を提示し、電圧の減衰(Decay)を通して、即興演奏家のようにライブで素材を編成することが出来たんだ。そしてアンサンブルのように、モジュラー・シンセサイザーの解釈は常に異なり、私が思い描く以上の非常に豊かなソノリティやパターンを生み出した」

 

「”Endling”に対するこれらの全般的なマシーン・アプローチは、(BBCの)オーケストラの前任者に対する比類なき賛辞であり、なおかつまた、このアルバムの未来とは異なる種類のオーケストラのように感じられる」ーーQasim Naqvi 

 


Qasim Naqvi  『Endling』- Erased Tapes




従来の音楽形態は、ポピュラー/ロックソングのように主体的なもの、サウンドトラック/環境音楽のように付属的なものというように、明確に分別されてきたように思える。しかし、パキスタンにルーツを持つ作曲家、カシム・ナクヴィの音楽はその境界を曖昧にさせ、一体化させる。

 

そして、今一つの音楽の持つ座標である能動性と受動性という二つの境界をあやふやにする。ナクヴィの音楽は、ある種のバーチャル/リアルな体験であり、それと同時に、近未来の到来を明確に予見している。彼の音楽は、高次関数のように、多次元の座標に、音階、リズム、声を配置し、その連関や定点を曖昧にしながら、音の流れが複数の方向に流れていく。このアルバムの音楽は、従来のポリフォニー音楽になかったであろう新しい着眼点をもたらしている。音楽のストラクチャーというのは、音階にせよ、リズムにせよ、ハーモニーにせよ、必ずしも一方方向に流れるとは限らない。これが二次元のスコアで考えているときの落とし穴となるのだ。

 

電子音楽による壮大なシンフォニアとも言える「Endling」は、SFをモチーフにした広大な着想から生まれている。ナクヴィの妻が話してくれた謎の言葉、「デス・ハーバーのゴッドドック」は、一般的な制作者であれば気にもとめなかったのではないか。しかし、制作者にとっては啓示のように思え、ある種の”ダヴィンチコード”のような不可解さを持ち、脳裏を掠め、音楽のシナリオの出発点となり、また、その最初の構想が荒唐無稽であるがゆえ、イマジネーションが際限なく広がっていった。


カシム・ナクヴィは、フィクションとノンフィクションが混ざり合う不可解なモチーフを、彼自身の豊富なイマジネーションをフルに活用して、電子音楽によってそれらの謎を解き明かしていこうと努めた。しかし、もちろん、MOOGなどモジュラーシンセというアナログな装置を中心に制作されたとはいえ、完全な古典主義への回帰を意味するわけではなかった。いや、それとは対象的に、先進的な趣旨に縁取られ、現代人の生き方と密接に関連する内容となった。


この音楽を聴き、どのような考えを思い浮かべるかは、それぞれの自由であろうと思うが、重要なのは、その考えを日頃の仕事や暮らしのヒントにすることも不可能ではないということである。つまり、アルバムの音楽は見えない複数のルートが同時に存在することを暗示させる。これらはSFのタイムラインやパラレルという概念とも密接に繋がっているのではないかと思う。

 

現今では、AIテクノロジーの著しい進化は、人間の暮らしに多大な利便性をもたらしたのは確かだったが、日常的な生活に浸透させ過ぎることに警鐘を鳴らす研究家もいる。 便利すぎるということ、それがそのまま新しい着想や発明の芽を摘みとることがある。それに加え、利便性には、人類が発展するための成長性や自律性を削ぎ落とす弊害も内在している。果たして地球の未来は、「猿の惑星」のようにAIやテクノロジーに翻弄されるディストピアになるのだろうか。


カシム・ナクヴィさんは、どうなるか不分明な未来の人間社会の進展を、現在の世界情勢や暮らしとリンクするような形で、人間の根源的な生命の意義と結びつけて、人類の理想的な存在とは何かを探求していく。しかし、例えば、優れた映像作品のように、それらは飽くまで提言にとどまり、ぞれぞれの聞き手が答えを見つけるというような趣旨の作品となっている。良い概念とは、性急な結論を出すのではなくて、自発的な考えを促すよう手助けをするものである。 


このアルバムには、宗教、人種、戦争、環境、自然と生物との共存、エネルギーや資源、そういった現代の世界に内在する複数の問題点を明らかにし、それらの着想を音楽で体現するという、現代のミュージシャンが率先して行うべき模範例が示されていると言えるかもしれない。それらは利己主義やポピュリズムが繁栄する現代社会に、ある種の規律や均衡をもたらそうとする。

 

 

同時に、このアルバムでは、アナログのシンセが積極的に制作に取り入れられている。アナログというのは、意図的に音を消すということが出来ない。信号を送るのは人の手であるが、音がどこで消えるのかを決定するのは人間ではない。時々、アナログ信号では、音を消すことができず、ずっと鳴り続けることもある。また、演奏者がまったく意図せぬ偶発的な音が発生する場合もある。それはそのまま、即興的な音楽の発生を促し、結末や結果がどうなるかわからない、というスリリングな雰囲気をもたらすことになる。例えば、音楽がすべて方程式のように進んでいき、何の意外性も偶然性も持たないとすれば、それではあまりに退屈すぎるのではないか。実際的に、このアルバムには、チャンス・オペレーションの次の段階が示されている。


音楽のライブ演奏の中で、観客の反応も含めて、どのような偶発的な要素が発生するのか。偶発的な要素により、何らかのケミストリーが発生するのか。それはミュージシャンとしての最高の楽しみのひとつであると思うが、カシム・ナクヴィは、この偶発的に生み出される要素を心から楽しんでいる印象を持つ。例えば、コンピューターやプログラムのエラーやバグのような瞬間もまた、ライブ演奏のような感じで演奏し、組み合わせたり設計したりしている。それは部分的には、意図しない何かを許容したり、抑制できない何かを認めるという、音楽制作をするまでは出来なかったことが出来るようになる瞬間である。そして、このアルバムでは、そういったコントロール出来ない部分から逸脱したときに、神秘的な音楽が出来することがある。そして、制作者は旧来、現代を問わず、テクノロジーを駆使し、それらを作り出していくのだ。

 

 

『Endling』は全般的に見ると、ドローン・ミュージックを中心に組み上げられている。 ドローンというのは、スウェーデンなどで盛んなアンビエントの次世代の音楽であり、ラモンテ・ヤング、タシ・ワダがバクパイプ構造を持つ音響性を活かし、持続音の知られざる魅力を探求し、前衛音楽を作り出した。音の通奏音の持続、あるいは減退の段階を通じて、音調(トーン)の変調や波のうねりを生み出し、最終的には多彩な音楽のウェイブの性質を示すというものである。

 

「1-Fires」はインタリュードのような形で始まり、カナダのエレクトロニック・プロデューサー、Tim Heckerが『No Highs』で試みたように、下降していくドローン音が導入部となっている。その最初のモチーフに対して、アナログシンセのリードやベースは、段階的に上昇するカウンターポイントを描き、SFや天文的な音楽の印象を取り入れ、スタンリー・キューブリックの映画「2001年 宇宙の旅」のような神秘的なオープニングのような序章の音楽を形作る。

 

「2-Beautification Technology」は対して、シュトゥックハウゼンが提唱した音の集合体を意味する「トーン・クラスター」の類型に属する。アルペジエーターを配した持続音を緻密に配列した上で、高次関数のように複数の座標を持つ数学的な電子音楽の構造を作り上げる。ミニマル音楽としても聴くことも可能であるが、オシレーターのような装置を用いて、徐々に全体的な音響をぼかしていき、移調させていくという独特な手法を発見することが出来る。この曲では、人の手ではコントロール出来ない、音の強弱を活かして、偶発的な音楽を発生させている。

 

 

 「Beautification Technology」

 

 


近代/現代の音楽として、その場に満ちる”空気感”とも呼ぶべきものを最初に表現したのは、おそらく、リゲティ・ジョルジュであった。ユダヤ人のホロコーストを題材に、不気味で恐ろしい空気感を表現したのだった。「3-The Glow」は、地上的な概念を表したというより、宇宙に偏在するダークマターやダークエネルギーといった、現在の物理化学では解明しえないエナジーを出現させたという印象である。一般的に言われるところでは、現行の物理の分子学や原子学では解明しえないエネルギーが、宇宙空間には90%以上も偏在するのだという。これはおそらく、ギリシャ哲学でほのめかされたエーテルのような、三次元空間には存在しない非物質のことを示唆するのではないか。そして、カシム・ナクヴィは、そういった非物質的な現象や目に映らない存在を認め、音楽を通じて、それらの神秘性に迫ろうとしている。音楽の正体は振動やバイブレーションである、ということをあらためて痛感させる特異なトラックである。

 

前曲を分岐点として、このアルバムの音楽はSFの性質を強めていく。SFのロマンとは、この世に解明出来ないことが存在すること、あるいは、その謎を探索したいという人間の原初的な欲求から生ずる。


続く「4-Power Down The Heart」は、そういった知的好奇心を駆り立てる何かが内在する。例えば、子供の頃は、すべて知らないものを無邪気な目で見ているが、大人になると知らないものですら、そういった純粋な目で見れなくなる。''多くの情報を知りすぎる''という楽園のアダムのような現象こそ、現代の人々にとって、退廃や堕落を意味するのだ。「Power Down the Heart」は、むしろ知らないことの素晴らしさや、知り得ないことに目を開かれることの喜びを表す。この曲では、Moor Motherをボーカリストとして招き、そして、AIの声をシンガーに仮託し体現させている。ムーア・マザーは最後に地球に残された種の意識体をボーカルで表現している。近未来を人類はどのように生きていくべきか、そういった提言をナクヴィは行う。

 

 

 

 「Power Down The Heart」

 

 

 

「5-Plastic Glacier」はどうだろうか。スコットランド/スペインのバクパイプの音響性をドローン音楽という側面から解釈し、それらをブライアン・イーノのアンビエントのバイブルになぞらえた一曲という感じがする。表向きには、ありふれた氾濫するフラットな音楽に過ぎないように思える。しかし、実際に聴いてみるとわかるように、他の曲とは印象が異なる。モジュラーシンセは、一つの音符を発音するたびに、異なる倍音を発生させ、次に同じ音階を発生したとしても、同じ音やトーンになるとは限らない。これらの偶発的な音楽性は、ハモンド・オルガンやパイプ・オルガンのような荘厳で奥行きのある音響性をもたらし、そして実際的に曲の中で、フーガにもよく似た追走の性質をもたらし、コラールにも似た美麗なハーモニーを形成するに至る。

 

 

アルバムのもう一つの注目曲でタイトル曲「6-Endling」は、アナログシンセによって、鳥の声や生物の声を生成し、澄明で精妙なエネルギーを持つシークエンスを敷き詰める。この曲は、地球から宇宙を俯瞰する人間とは対象的に、宇宙から地球を俯瞰するような超大な音楽的な印象に縁取られている。ドイツのAlva Notoを彷彿とさせる精妙なシンセの音色は、重厚な通奏低音の配置、そして、オクターブの倍音を構成する高音部といった多彩なハーモニーを形成する。持続音が連なっていくに過ぎないように思えるが、音楽の持つ景色が少しずつ変化していく。この曲でも、ドローン音楽に類する作曲の中で、偶発的な音響の発生が、計算しつくせない審美的な和音を作り上げる。音楽の持つ人智では図りしれない神秘的な一面をものの見事に発現させている。

 

 

全般的には、アナログの人工的なサウンドが際立っているが、「7-In The Distance」はかなりデジタルの質感が強いサウンドである。 しかし、よく聞くと、この曲も、アナログで制作されているらしく、ボリュームの抑制が効かない箇所が登場する。他のトラックでは封印していたノイズの側面が際立つ。しかしそれは、一貫して、精妙な振動数で構成されていためか、そのノイズの中には、数式の配列のような美しさが存在している。そして前の曲と同じように、十二音階から導き出される無数の倍音の持つ多彩性を組み合わせて、地球の多様な生物の性質を表現しているように思える。

 

近年、アジアの雅楽やガムランの微分音に興味が注がれることもあったが、西洋音階にも、微分音はおそらく存在している。それらは音符のタブルフラットやダブルシャープ、あるいはJSバッハやベートーヴェン、ショパンがスコアの中に暗号のように残した半音階進行の和声や対旋律、あるいはその残響や余韻という形で体現されてきた。

 

タイトル「In The Distance」から見ると、宇宙に関する主題に思えるが、おそらく''このアルバムの信条''と制作者が述べる''時間的な隔たり''をモチーフとし、未来から現在の地球の姿を俯瞰するという、かなり深遠な概念が込められている。第二次産業革命以降の人類は絶えず、テクノロジーの発展により、未来を造出してきた。他方、現代の人類としては、未来の理想を考えたさいに、今どのように工業や産業、テクノロジーを発展させていくべきか、という逆算的な視点が不可欠であることがわかる。

 

 

最も衝撃的な曲がアルバムの最後に控えている。結末がどのようになったのかは実際に聴いて確かめていただきたいと思う。しかし、ダークアンビエントともいうべき、この曲は、アルバムの中で最も衝撃的であり、緊張感に満ちていて、音楽の持つスリルを体現させている。今作は、EDM、IDMといったジャンルに希釈されることのない''独立した正真正銘の電子音楽''である。影響を受けた作品はあるかもしれないが、それが完全にオリジナルになっている点に敬意を表したい。映画的な音楽と言っては語弊があるかもしれないが、BBCのドキュメンタリー以上のハリウッド的なエンディングだ。音楽ファンとしては、本当の意味で、新しい形態が出てきた瞬間に感動を覚える。テクノロジーと同じである。それがつまり「Endling」の価値といえよう。このアルバムを聴くという、またとない幸運にあやかった少数のファンは、音楽の近未来の姿を垣間見ることになるだろう。

 

 

 

 

100/100

 

 

 

 


Qasim Naqvi(カシム・ナクヴィ)の新作アルバム『Endling』はErased Tapesから本日リリース。ストリーミングはこちらから。

 

©︎Chris Maggio

アレックス・Gが帰ってきた。 昨年RCAと契約したこのシンガー・ソングライターは、同レーベルからのデビューアルバム『Headlights』を発表した。 


2022年の『God Save the Animals』に続くこのアルバムは、7月18日にリリースされる。 本日発表されたニュー・シングル「Afterlife」は、シャーロット・ラザフォード監督によるミュージック・ビデオと合わせてリリースされる。 LPのカバー・アートとトラックリストは下にスクロールしてください。


バンジョーが前面に押し出された「Afterlife」は、アレックス・Gの前作にあった軽快でダイレクトなサウンドを踏襲しつつ、シュールで動物的なリリックをさらに捻じ曲げている。 つまり、メジャー・レーベルに移籍したことで、このアーティストのアプローチが劇的に変化したようには見えない。 


プレスリリースによると、『Headlights』は「不条理なひねりと平凡なマイルストーンのコレクション」であり、「アレックスのシンボルとサウンドの語彙が、何年もアルバムを重ねるうちに、より大きなもの、つまり影響力があり紛れもない音楽的神話へと成長した」ことを示している。



「Afterlife」



 Alex G   『Headlights』


Label: RCA

Release:  2025年7月18日


Tracklist:


1. June Guitar

2. Real Thing

3. Afterlife

4. Beam Me Up

5. Spinning

6. Louisiana

7. Bounce Boy

8. Oranges

9. Far and Wide

10. Headlights

11. Is It Still You in There?

12. Logan Hotel (Live)



Gina Zoのニューシングル「Dirty Habits」は究極のポップ・ロック・サマー・アンセム。アメリカの音楽エージェンシーグループいわく、”私たちはこの夏のガールズ・ソングと呼んでいる!”という。

 

フィリー・ロック・バンド、ヴェルヴェット・ルージュを脱退した彼女は、感染力のある80年代シンセサイザーとハイエナジーなポップ・ロックを融合させた、フレッシュで楽しいサウンドを取り入れ、新しい「カリフォルニア・ガール」の感覚を表現している。



グラミー賞受賞プロデューサーのジャスティン・ミラー(ザック・ブライアン、ジャズミン・サリヴァン)とティム・ソネフェルド(アッシャー)がプロデュースしたこの曲は、2026年初頭にリリース予定のデビュー・アルバムからのファースト・シングルだ。

 

「”Dirty Habits”は、夢と現実の間の緊張感をテーマにしており、決してかなわないかもしれない何かを追い求めるスリルを、セクシーな笑顔と抵抗できないビートで表現している。遊び心のある歌詞、キャッチーなフック、そしてアンセミックなコーラスが特徴。ドラマ仕立てのミュージックビデオは下記よりご覧ください。

 

ジーナ・ゾーは、フィラデルフィア郊外出身で、現在はLAで活躍するパワフルなヴォーカリストである。

 

2023年のアンセム「Faking It」でバイセクシュアルであることを大胆に宣言したジーナは、個人的な旅をLGBTQIA+コミュニティのための力強い物語へと変貌させ、真のアイデンティティとは型にはまったものに対する反抗の一形態であること、そして自分が本当に所属している場所とは共に走る仲間であることを証明した。

 

彼女の旅は、チーム・ブレイクのメンバーとして『ザ・ヴォイス』に出演したことでさらに形づくられた。グウェン・ステファニーの指導により、彼女は自分自身の中にあるユニークな真正性を発見する。



ノラ・ジョーンズのソウルフルな系統からスティーヴィー・ニックスの神秘的な魅力に至るまで、彼女が影響を受けた音楽は、若い頃から彼女の芸術性を形作った。彼女の青春時代、祖父母との家族のひとときは、懐中電灯をストロボライトにして踊り、その場しのぎのマイクに向かって歌うことに費やされ、後に彼女のキャリアに火をつける情熱の基礎を築いた。ジーナの活動初期は、自家製ビデオや即興パフォーマンスの渦中にあり、彼女の不屈の精神の証でもあった。


2024年にリリースされたヴェルヴェット・ルージュのデビューEPは、ジーナの魂を貫く直感的な旅である。「Lonely Since The Day We Met」の、愛したことのない人と一緒にいるという胸に迫る真実から、「I Don't Know Why」の、自分が何者なのか、何になるべきなのかわからないという深い葛藤にいたるまで、このEPは生々しく、率直な感情で共鳴している。尊敬するブライアン・マクティアーとエイミー・モリッシー(ザ・ウォー・オン・ドラッグス、ドクター・ドッグ、シャロン・ヴァン・エッテン)がプロデュースしたこのEPは、2000年代初期のロックと90年代の硬質なエッセンスを取り入れ、自分探しの葛藤と勝利のサウンドトラックとなっている。



ジーナの業界への復帰は、単なるカムバックではなく、革命だった。ヴェルヴェット・ルージュで、彼女は音楽界の女性が直面する制度的障壁に立ち向かう先頭に立ち、ステージ上でも舞台裏でも変化を提唱している。ローレン・シューラーがデザインした2023年のグラミー賞のドレスは、エレガンスと反骨精神の融合を体現し、ファッションを超越したステートメントとなった。



2022年末にフィリーのベスト・ロック・バンドに選ばれ、フィリー・スタイル・マガジンで「フィリーで最もホットなロック・バンド」として賞賛されたヴェルヴェット・ルージュの影響力は否定できない。


XPoNential Fest、MusikFest、Beardfestなどのフェスティバルでのパワフルなパフォーマンス、NPRのNational Public Radio DayやWXPNのFree At Noonでの特集は、ロック・ジャンルの先駆者としての彼らの役割を示している。



ジーナ・ゾーは、グラミー賞受賞プロデューサーのジャスティン・ミラー(ジャズミン・サリヴァン、ザック・ブライアン)とティム・ソネフェルド(アッシャー)を迎え、夢は現実よりも素晴らしいというロック・ポップ・バラード「Dirty Habits」をデビュー・レコードとファースト・シングルとして発表した。彼女は、愛、アイデンティティ、忍耐という生の真実をさらに深く掘り下げている。

 

LAに住む彼女は、一から料理を作り、シルバーレイク貯水池を散歩し、殺人小説に没頭することに癒しを見出している。(元彼を殺そうと企んでいるというわけではないことを約束しよう)

 

ジーナ・ゾーにとって、音楽はキャリア以上の存在である。若い女性たちが本当の自分を受け入れ、アイデンティティ、セクシュアリティ、キャリアにおいて自分たちを閉じ込めようとする型にはまることを拒絶するよう鼓舞するプラットフォームである。大胆不敵な芸術性と不屈の精神を通して、ジーナ・ゾーは、ルールを塗り替え、ポップ・ロック界の革命をリードしていく。

 

 

 



 

 

・Gina Zo: A Fearless Symphony of Identity, Rebellion, and Empowerment

 

Gina Zo, a powerhouse vocalist hailing from the suburbs of Philadelphia and now making waves in LA, is not just a rock-pop singer-songwriter—she’s a beacon of authenticity and empowerment within every performance, song, and beat. With her bisexuality boldly declared in her 2023 anthem “Faking It,” Gina has transformed her personal journey into a powerful narrative for the LGBTQIA+ community, proving that true identity is a form of rebellion against conformity and that the tribe you ride with is where you truly belong. 

 

Her journey was further shaped by her time on The Voice as a member of Team Blake, where Gwen Stefani's mentorship led her to discover a unique authenticity within herself—so profound that it brought her to tears after their first meeting, as Stefani challenged her to be more genuine.



Her musical influences, from the soulful strains of Norah Jones to the mystical allure of Stevie Nicks, shaped her artistry from a young age. Family moments with her grandparents in her youth were spent dancing with flashlights as strobe lights and singing into makeshift microphones laid the foundation for a passion that would later ignite her career. Gina’s early days were a whirlwind of homemade videos and impromptu performances, a testament to her unyielding spirit.



At just 18, Gina signed with an indie label in Philadelphia, where she soon faced the harsh realities of the music industry. Disillusioned by its darker side, she stepped away, only to feel an undeniable pull back to her true calling after a breakup that left her reaching for her lost identity. Reuniting with her original band, she forged Velvet Rouge, a rock band that embodies defiance and the pursuit of artistic freedom.

Velvet Rouge’s debut EP, released in 2024, is a visceral journey through Gina’s soul. From the haunting truth of being with someone you never loved in “Lonely Since The Day We Met” to the deep conflict of not knowing who you are or what you should be in  “I Don’t Know Why,” the EP resonates with raw, unapologetic emotion. 

 

Produced by the esteemed Brian McTear and Amy Morrissey (The War on Drugs, Dr. Dog, Sharon Van Etten), it channels the gritty essence of early 2000s rock and ‘90s grit, offering a soundtrack to the struggles and triumphs of self-discovery.



Gina's return to the industry was not just a comeback but a revolution. With Velvet Rouge, she’s leading a charge against the systemic barriers faced by women in music, advocating for change both on stage and behind the scenes. Gina’s focus is to champion young artists in all mediums: her 2023 Grammy dress, designed by Lauren Schuler, embodied her fusion of elegance and rebellious spirit, making a statement that transcends fashion. 



Honored as Best Rock Band in Philly in late 2022 and celebrated in Philly Style Magazine as "Philly's Hottest Rock Band," Velvet Rouge’s impact is undeniable. Their powerful performances at festivals such as XPoNential Fest, MusikFest, and Beardfest; along with features on NPR’s National Public Radio Day and WXPN’s Free At Noon showcase their role as trailblazers in the rock genre.


Gina Zo has unveiled her debut record and first single, "Dirty Habits", a rock-pop ballad all about how our dreams are better than reality, with Grammy-winning producers Justin Miller (Jazmine Sullivan and Zach Bryan) and Tim Sonnefeld (Usher). She has delved even deeper into the raw truths of love, identity, and perseverance. 

 

Living in LA, she finds solace in cooking from scratch, strolling around Silver Lake Reservoir, and immersing herself in murder novels (she promises she is not plotting to kill an ex). For Gina Zo, music is more than a career—it’s a platform to inspire young women to embrace their true selves and to reject any mold that seeks to confine them in their identity, sexuality, and career. Through her fearless artistry and unbreakable spirit, Gina Zo is rewriting the rules and leading a revolution in the world of pop-rock music.