イタリアのレーベル、Casis Recordsは毎度のように奇抜なリリースを行うことで知られているが、今回、驚くべき独創的なアルバムをドロップしている。

 

Washing Planck(ウォッシング・プランク)は1990年より活動するモンツァ出身のイタリア人デュオであり、ドメニコ・ディアーノとマッテオ・マリアーノで構成される。アナログシンセ、モジュラーシステム、デジタル処理、即興演奏を融合させる。

 

ディアーノは、カスタム機材を製作し、サックスとモジュラーシンセを演奏する。マリアーノは映画音楽を作曲し、マクログラマ名義でアンビエント音楽を発表している。2020年よりTWPとして活動を共にし、その音響的旅路を記録している。

 

先週末、イタリアの実験音楽を専門とするレーベル、Casis Recordsからリリースされたばかりの『GaSosTuForGy』(Grand Socks Through the Forbidden Gatewayの頭字語)は、実験的デュオ、ザ・ウォッシング・プランク(ドメニコ・ディアーノとマッテオ・マリアーノによる)の新作アルバムはきわめて衝撃的な一作である。この作品は、30年以上にわたる共同の音響研究の成果であり、折衷的で皮肉を帯びた音楽的旅路を辿る。その音はハイブリッドで多層的だ。


ベルリン・エレクトロニカ、レトロ・プログレッシブ、アンビエント、民族的要素、再構築された要素、ドローン、そしてファンクの閃光が絡み合い、シンセサイザー、デジタル加工が混ざり合ったテクスチャーを織りなす。遊び心と半ば真剣な姿勢が全体を導き、デュオの表現の特徴である。8曲(組曲「プロジェクトB」を含む)は、時間を超越したシュールな物語のエピソードのように流れる。


作曲手法は固定的な枠組みを排し、サウンドコラージュや具体的な音楽の実践を想起させ、特に予期せぬ出来事と皮肉に注意を払っている。GaSosTuForGyは記憶と様式を弄び、ありそうもないが驚くほど一貫性のある世界を呼び起こす。


しかしそれだけではない。GaSosTuForGyの発売を記念し、限定版CDもリリースされる中、TheWashing Planckは、X線フィルムに刻まれたシングル「Project A」のユニークな10枚限定版を制作した。X線フィルムに刻まれた10枚の限定版シングル「Project A」を制作した。



ソビエト時代のレントゲンイザット(医療用フィルムに録音した音楽の非合法流通)の秘密工作のように、病院から回収した医療用フィルムに録音されたこの作品において、音は有機的で壊れやすく、永遠のものとなる。それぞれの生命のイメージが皮膚、骨、記憶を貫いている。その音―まるでX線写真のように―外にあるものではなく、内なるものをありありと映し出す。それはコレクションのための物体ではなく、収集品ではなく、音による闘争の行為でありリスクと物質性、物質と不完全性を再導入する。


「プロジェクト・アッソーナがかつて身体であったものに刻まれた秘密のメッセージのように響くようにしたかった。これは音の傷跡を刻んだレコード盤であり、架空のスパイ・ロックバンド『The Socks』の物語を紡ぐ」—  The Washing Planck(ザ・ウォッシング・プランク)による声明

 

アルバムからは次から次へと音楽的な着想が溢れ出てくる。音の過剰さでは他に比肩するものが見当たらない。シュットゥックハウゼンを模したマニュピレートされたトーンクラスター、クラフトワークを彷彿とさせるデュッセルドルフのテクノ、サックスの前衛的な演奏を込めたアヴァンジャズ、ニューエイジ思想に絡めとられる前の原始的なアンビエント、インダストリアルノイズ、クラウトロックの要素を含むプログレッシブロック等はほんの一例に過ぎない。


ウォッシング・プランクは30年の活動で培われた、持ち前の豊富な音楽のイディオムを駆使し、先進的な音楽世界を創り出し、徹底したミニマリズムの構成がヒプノティックなサウンドを確立している。その野心的な作風は、ドイツのインダストリアルやCANのプログレとも重なる部分がある。シュールレアリスティックなアルバムのアートワークもダリのような空気感に満ちている。

 

長大な構想をもとに制作された本作は、独特な雰囲気に満ち、それは民族音楽のエキゾチズムとも強く共鳴しながら、このイタリアのデュオにしか到達しえない、宇宙的な音楽へと達している。CAN、YES、Pink Floydなど、独創的なエレクトロニカ/プログレッシヴロックをお好みのリスナーに強く推薦したい一枚だ。本作は、現在のところ、Bandcampなど主要なストリーミングで試聴可能のほか、Amazonでも購入可能だ。 

 

 

 





The Washing Planck


ザ・ウォッシング・プランクは、ドメニコ・ディアーノとマッテオ・マリアーノによるイタリアの電子音楽デュオで、1990年代初頭から活動している。


このプロジェクトは二人の音楽家が自由でハイブリッドな作曲アプローチによって結ばれ、自由でハイブリッドな作曲アプローチによって結ばれた二人の音楽家の長年のコラボレーションから生まれ、アナログシンセ、自作楽器、アンビエント、レトロ・プログレッシブ、即興演奏を融合させる。


デュオは「ザ・ソックス」の名でデビュー。アラン・フォードのエピソードに登場した架空のバンドに由来し、完全に即興のパフォーマンスで知られ、電子楽器と音響環境のリアルタイム相互作用に基づくと音響環境のリアルタイムな相互作用に基づいた、その後、二人の道は独立して発展していく。


ディアーノはモジュラー楽器の構築とマリアーノは映画・映像芸術の作曲家として活動し、マクログラムマの名で環境音楽アルバムを発表。2020年、彼らはザ・ウォッシング・プランクの名の下に再結成し、30年以上にわたる共同実験を具現化することを目的として実験を具現化することを目的として再結成した。

 Weekly Music Feature: S.C.A.B.


当初は、バンドメンバーの名前(ショーン、コーリー、アレック、ブランドン)の頭文字を表す仮タイトルだったS.C.A.B.は、活動の年代ごとに、意味が変化する頭字語である。その発音の二重性は、常に互いを支え合ってきたグループにとっての保護と癒しの比喩として機能している。


2019年にデビューアルバム『Beauty & Balance』をリリースした直後、COVID-19の流行によりブルックリンを拠点とするバンドの急成長に急ブレーキがかかった。ただじっとしているだけでは満足できず、バンドは、ジョージア州へ赴き、自らエンジニアリングとプロデュースを手掛けたセカンドアルバムとなるセルフタイトルのLP(S.C.A.B.)を録音することを決意した。S.C.A.B.の「B」にあたるブランドンは、このアルバムに参加しているが、その後ソロ活動「Hayfitz」に専念するため脱退した。この未曾有の悲劇的状況下で愛する街から距離を置いたことが、かえって彼らに一層ニューヨークらしいサウンドを確立させるきっかけとなった。


フロントマンのショーン・カマルゴは、10代でエクアドルとボリビアから移民した両親のもと、クイーンズ区エルムハーストで生まれた。彼の歌詞には、祖父母が後に定住した90年代のブッシュウィックへのノスタルジックな記憶と、メリーランド州やマサチューセッツ州を経て再びたどり着いた現代の都市への皮肉な観察が色濃く反映されている。 『S.C.A.B.』の各楽曲には、ノスタルジーに霞むニューヨークの瞬間が切り取られている。しかし、それらは、いかに些細に見えようとも、変革の渦中に身を置くことで生まれた産物なのだ。セルフタイトル作として、このアルバムは、バンドの真価を確固たるものとしている——荒々しく歪んだギターと、きらめくような語り口、ポップなメロディの自信を絶妙に融合させる技量を。


リードシングル「Tuesday」の鋭角的なギターフレーズは、老朽化した地下鉄のホームを滑走する電車を想起させる。カマルゴが「愛した全ての人を手放そうとしている」と歌うのは、意味ある繋がりを築こうとする努力にたいする共感できる幻滅と、価値ある何かを無目的に探し求める心情を映している。 テーマ的には、S.C.A.B.は、悲嘆(「Small Talk」でカマルゴが親の死をきっかけにバンドメンバーと絆を深めた体験を綴る)から、結局は自分に良くないと知りつつも相手への執着(「Why Do I Dream Of You」)まで、多様な題材を網羅している。


S.C.A.B.は4人のミュージシャン、結束の固いグループ、親友同士という稀有な条件がもたらした、生々しく感情的な音楽の結晶である。バンドメンバーがこれほど親密で、外の世界から互いを守れる時、彼らは圧倒的な存在となる。 フランク・シナトラが比喩的に歌ったように「鋼鉄の緑の光が、まるで故郷に戻ったような気持ちにさせる」。S.C.A.B.はその想いを体現し、ニューヨークという街が持つ形而上の魔法を呼び起こす。


S.C.A.B.は、夜遅くの可能性に満ちてひび割れた都市の響きである。クイーンズ区リッジウッドで結成されたこのバンドは、ニューヨーク生活の息づいた緊張感を、落ち着きのないが思索的な何かへと昇華させる。フロントマンのショーン・カマルゴは、まるで空から瞬間を摘み取るかのように次のことについて書く。地下鉄の柔らかな衝突音、パートナーの沈黙の重み、変化のゆっくりとした悲しみ。バンド名も、かつては単なる頭字語だったが、今や再生の象徴のように感じられる——個人と集団の成長痛が年月をかけて形作った、硬く研ぎ澄まされた刃のように。


『Somebody In New York Loves You!』でS.C.A.B.は内省を深め、表現の幅を広げた。抽象性に逃げず、脆弱性に寄り添う楽曲群は、カマルゴのサイケデリックな体験、親密な日記、生々しい感情の断絶からインスピレーションを得ている。


アルバムの大部分は、インスピレーションを受けた後に訪れたクリエイティヴな高揚の中で書かれた。その体験はカマルゴに奇妙な確信をもたらした。この魔法的リアリズムの感覚がレコードのDNAを貫いており、アートワークにも表出している。カセットプレーヤー、擦り切れたマッチ箱、散らかった机の上のコニーアイランドのアトラクション券、失われた両親が戻ってくる夢、ニューヨークのポストパンクの小路を通過した2000年代初頭のスタジアムロックへの音響的な回顧。 バンドのサウンドは時に広大なフィールドを埋め尽くすかのように巨大に響き、また時には不気味なほど近くに迫る——まるで聞くべきではなかったボイスメモのように。



『Somebody In New York Loves You!』-Grind Select



S.C.A.B.は、Flood Magazine、Stereogumで紹介済み。B級感があるにしても、 『Somebody In New York Loves You』は素通りできない一枚となっている。本作には、S.C.A.Bのメンバーの思い出が凝縮され、それがノスタルジックでパワフルなロックソングの中で胸を打つ瞬間がある。演奏や音質がどうのこうのではなく、良質なロックソングがぎっしりと詰め込まれているのだ。


ここには、フロントマンのショーン・カマルゴを中心とする追憶の数々が、感情的なロックソングの中に揺らめく。それは物置の奥からそっと出てきた旅行カバンのトランクか、それともアートワークに表されているように、引き出しの奥から飛び出てきた昔の旅行券なのか、そういった思い出の品を見るような愉しみ、そして喜び、さらに懐かしさを思わせるところがある。

 

S.C.A.Bの音楽は、Enumclawのロックソングに近い。 骨太のハードロックからの影響があり、そしてパンクからの参照もある。しかし、それに個性的な色を添えるのが、シューゲイズの要素と、2010年代のブルックリンやニューヨークのベースメントのインディーズロックである。彼らは、ヒップホップのミックステープのような手法や、チョップの手法を踏襲しながら、サイケデリックな感じを持つロックソングを提供する。それは意図してそうなったわけではない。様々な追憶や記憶を音楽の箱に詰め込もうとしたら、結果、カオスになっただけなのだ。


S.C.A.Bの書くロックソングは、メロディアスな性質がある。これが、Oceanatorのような、80年代のハードロック・リバイバル勢とは少し異なり、メタリックな性質を合わせ持つ。そして、彼らは、確かにスタジアムロックを参考にしているかもしれないが、スターシステムの管理下にあるロックソングではなく、個人的な感情に寄り添う、ささやかな曲を書き上げている。バンドアンサンブルは、それを実現するために存在する。背伸びをしたロックソングや脚色を込めたロックソングではない。等身大のロックソングを彼らはさらりと書き上げてしまう。


ブルックリンの四人衆の書くロックソングが、ローファイな感覚に満ちているのはおわかりであろう。「7:47」のように、冒頭を飾る曲は、Enumclawのようなパワフルなロックソングの性質も感じられ、PavementやPixiesのような正真正銘のインディーズロックの魅力を兼ね備えている。歪むギター、ハーモニクス、8ビートのシンプルなドラム、ルートの演奏を厭わないベース、人情的な雰囲気のある旋律なヴォーカル、これらが合わさり、アルバムの序章を構成している。


なおかつ曲の展開も巧みで、パワーポップのように長調から短調に転調する箇所を設けながら、要所要所でタムの連打やシューゲイズ風のギターのトレモロでトーンの変調を交えて、巧緻なバンドアンサンブルの力量を披露する。耳をすますと、90年代のカレッジロックのような失われた正真正銘のインディーズロックソングが聞こえる。これらがどことなく、エモーショナルな雰囲気を呼び覚ます。彼らのロックソングの持つセンチメンタルな嘆きが聞き手の琴線に響く。何より、ダサいとかくだらないとか、そんなことは度外視して、生のハートを歌い上げる。

 

一方で、ニューヨークのインディーフォークシーンと呼応する曲が続く。「Strawberry Jam」は、彼らが現在の時間軸から必ずしも距離をおいているわけではないことがわかる。 しかし、イントロからヴァースに至ると、フォークからAORの曲へと変化していく。ここにS.C.A.Bらしい音の魔法があり、2020年代からいきなり80年代へとタイムスリップする。同音反復のベースを中心に曲が組み立てられ、ミュートのギター、そして、ささやくようなボーカルなど、多彩な器楽的な音響効果を用いながら、特異な音楽的な世界を構築していく。ニューウェイブの性質を受け継ぎ、ギターロックを展開させ、清涼感のあるアトモスフェリックなサウンドを打ち立てる。ここにはきっと、現代性と古典性の混在という、現代のNYのテーマが発見出来るはずだ。


その後、この曲は徐々にジャンルが広がっていき、リバーヴやディレイの多いギターが音像を拡大し、マクロコスモスの音楽を醸成し、ドリームポップやシューゲイズの極大のサウンドへとたどり着く。あまりジャンルを決め打ちしないで、スタジオ・セッションの中から最適解を導く。しぜんと曲のイントロから想像もできないようなクリエイティヴな変遷をたどっていく。

 

これは、個人的な印象論に過ぎないが、ローワーイーストサイドっぽい雰囲気が漂うロックソングも収録されている。「I Hate Expectations」は、The Strokesの初期ー中期のサウンドを参照し、ミニマルな構成から、メロディアスな音楽性を引き出そうとする。ショーンのボーカルは、ジュリアンほどにはかっこよくないかもしれないが、親近感という側面には分がある。全体的には、ドリームポップ風のサウンドが際立っているが、ドラムのハイハットの小刻みな連打など、ニューウェイブやポストパンクからの参照もあり、これが楽曲に力感をもたらしている。


曲全体としては、Geeseのようなルーズな印象を保ちながらも、やはりS.C.A.Bのロックソングはメロディアスなハードロックが優勢となり、その底から温かいエモーションが立ちのぼってくることがある。ロックの基本的なリズムを維持しつつも、曲としてじっくり聴かせる要素を軽視することがない。これが結果的に、キャッチーなトラックを生み出す要因となっている。特に、ギターとベースの2つのパートが、Strokesに近い見事なハーモニーを形成することがある。また、混然としたアンサンブルからベースラインが単体でクリアに浮かび上がってくる瞬間がすごい。この曲はたぶん、ブルックリン仕立てのロックソングの象徴的な内容ではないかと思う。

 

そういった中で、 S.C.A.Bのもう一つの重要な音楽的な核心の部分となるのが、UKロックの要素である。彼らはオアシスのようなスタジアム級のロックをベースメント風に置き換えている。曲には、青臭い感じや洗練されていない部分もある。そして、「LOVE」であまりにも率直に愛を説く姿は、むしろカッコよさよりも、四人組のダサい側面を象徴づけている。しかしながら、理想的なロックソングというのは常にダサさとカッコよさが混在するものなのである。それでもなお、ニューヨークの2000年代以降のDIIVのようなサウンドがこれらに加わると、唯一無二のオリジナリティに変化する。ダサいけど、カッコいい。こういった相反する要素は、インディーズバンドならでは。ダサくても愛を直情的に説こうとする姿.....、それはあまりにも純粋にも思えて、意外の感に打たれるが、最終的には、それがクールな印象に変わるのである。さらに、そういった洗練されていない箇所から、研ぎ澄まされた感覚が出てくることもある。


「Red Chair」では、ポリスやスティング的なポップセンスを受け継ぎ、その中で中南米の風を呼び込む。全体的には、ディスコポップなど80年代のサウンドを彷彿とさせるが、この陽気なボーカルの空気感は、メキシコや中南米にしか見出しづらいものである。まるでアステカの太陽神やその文化性が乗り移ったかのように、独特なエキゾチズムやエッセンスを付与している。

 

前曲と並び、大きく称賛したいのが「L.A.A.Y.G.S.G.M.」である。間違いなく本作のハイライトとなる。 初期のPixiesのようなサイケデリックな雰囲気を持つクロマティックスケールを用いたサウンドに、風変わりな抑揚を持つボーカルが融合している。体裁よく見えることを考えないボーカリストの姿を捉えられる。しかし、実際的にそれは一部にすぎない。その先に見えるのは、一般的な価値観を疑問視し、それに疑念を投げかけようという姿だ。どことなくエキゾチックな雰囲気に縁取られたこのワイアードな一曲は、Meat Puppetsのような南米的なロックには収まりきらず、叙情的な性質が曲の途中から強調され、迫力味のあるロックソングへと変貌していく。ボーカルのスポークンワードの手法を巧みに織り交ぜつつ、メロディアスでキャッチーなサビ(コーラス)と対比させる。S.C.A.Bは、大きなものを作ろうとして、表現そのものを小さく縮こまらせるのではない。ここには、小さなところから大きなものが出てくる素晴らしい瞬間がある。そして、ロックバンドとしては、これが素晴らしい箇所である。最終的には、グリッターロックやT-REX(マーク・ボラン)のような素晴らしいロックソングが出てくる。

 

 「L.A.A.Y.G.S.G.M.」

 

 

その後の二曲は、いかにもB級な感じがある。「MK」、「4th of July」の両曲は、お世辞にもうまくいったとは言えないだろうが、荒削りなローファイ風のロックソングからメロディアスなボーカルフレーズが浮かび上がってくる瞬間に注目だ。前者のトラックは、パンクの側面を突き出し、それとは対象的に、後者のトラックは、ロックバラードのゆったりしたテンポを重視している。これらの網羅性のある音楽は、今後まだまだ改善の余地が残されていると言えるだろう。しかし、その中にも彼らの追憶的なテーマが見出され、それには首肯すべきところがある。ここでは、制作者やグループとしての歴史や記憶が重要なファクターとして機能している。

 

中盤から終盤にかけて注目したいのは、やはりジャングルポップやパワーポップの要素を併せ持つロックソングである。これらは先にも述べた、Enumclawのような骨太のハードロックの要素を帯びながら、曲として絶妙なコントラストをアルバム全体の中で描いている。「Star」に見いだせるメロディアスなロックバンドとしての性質は、ときどき、センチメンタルなパワーポップの印象に縁取られ、このバンドの等身大の姿を映し出して、聞き手に親近感をもたらす。


長調から短調のお決まりのベタな和声進行もあるが、これらは、全体的なバンドの演奏のエネルギーやパッションが録音に乗り移ったといえ、ひと方ならぬパワーを感じさせる。録音は、演奏や音を収めるだけではなくて、エネルギーを刻印するためのものでもある。これらのライブレコーディング的な感覚は、アルバム全体を聞いたときに、最大の魅力となるかもしれない。


続く「Erika」は、インディーフォーク、アルトロック、そしてパワー・ポップを結びつけたような曲であるが、アルバムのアートワークと上手く呼応している。この曲に見いだせる懐かしい感じは喩えがたい。この曲を聞くと、ほっと息をつけるような安らぎを感じることが出来る。心地よいロックソングはアウトロに至ると、フランク・シナトラ的な雰囲気を帯び、ピアノがフィールド録音の話し声と混ざりあい、映像的な印象を構築し、記憶としての装置を果たす。

 

「Never Comes Around」はクラシックなロックのリバイバル。これはリアルタイムのバンドに比べると、ニッチなインディーズの枠組みに収まっている。しかし、その中で、 チューブアンプの音響を活かし、ライブなサウンドを追求している。さらに続く「Nothing More」では、ロックバラードに挑戦している。タンバリンの使用など、ストーンズやオアシスの最初期のロックソングを参照し、ブリットポップ風のフレーズを導き出す。これらの清涼感を持つロックソングは、本家には遠く及ばないかもしれない。しかし、アメリカのインディーズバンドもUKロックの影響を受け、ポスト・ブリットポップの曲を気兼ねなく書く時代になったということなのだろう。


全体としては、上手くいかなかった部分もあったと思うが、その中で目を惹く魅力的な曲もある。言うなれば玉石混交のアルバムと言えるが、最後の曲「How Long Has It Been?」は、強いインスピレーションを感じさせる。音楽自体が高次のセンターとつながり、そこから音楽の着想が降りてきている。そしてこれは、アステカのような特別な儀式から出てくるものではあるまい。


とりもなおさず、日頃の生活や人生観からそれとなく滲み出てくる、誰にも真似できないものーーオリジナティーーなのである。また、それこそロックやフォークの本質と言える。お世辞にも巧みとはいえないボーカルと美麗なバイオリンの意外な融合は、The Poguesのような独特な雰囲気を呼び覚ます。これこそ他のバンドが持ち得ない彼らのマチューテ(武器)が出てきた瞬間だ。

 

 

 

84/100 

 

 

 

「Red Chair」 

 

 

▪S.C.A.Bによるニューアルバム『Somebody In New York Loves You!』はGrind Selectから本日発売。ストリーミング等はこちら。 

 


先週、オルタナティブ・ポップの先駆者ジェニー・オン・ホリデーが、トランスグレッシブ・レコードより待望の新曲「Good Intentions」をリリース。下記よりミュージックビデオをご覧ください。


2026年1月9日発売予定のデビューソロアルバム『クイックサンド・ハート』からの先行シングルとなる。批評家絶賛のデュオ「レッツ・イート・グランマ」の一員として知られるジェニー・ホリングワースが、懐かしさと鮮烈な新しさを併せ持つ歌声で新たな姿を披露する。 その結果生まれた音楽は、親密でありながら広がりを感じさせ、新たに発見した「存在の軽さ」への喜びに根ざしている。ジェニーは再び人生に好奇心を抱き、恋に落ちている。


9月にデビューソロシングル「Every Ounce Of Me」を発表し、先月にはアルバム『Quicksand Heart』のリリースを発表したジェニー・ホリングワースは、新たな明快さによって推進される、芸術家としての力強い新たな章を切り開く。 


印象的なイメージである「流砂の心」とは、渦巻く感情の渦、脈打つ感情の深淵。ジェニー・オン・ホリデーが愛を与え、受け取る方法を表現した言葉だ。「グッド・インテントションズ」は、過去を手放し、今この瞬間を生きるという彼女の願いを探求している。


「『グッド・インテントションズ』は、過去に直面した困難と、現在の自分との関係性を振り返って書いた曲です。人生の不確実性にもかかわらず、全力で生き、愛しようと奮闘する姿を描いています」―ジェニー・オン・ホリデイ


映画的でドラマチックなストーリーテリングを特徴とするジェニーは、アニメ『NANA』のように、映画や映像作品にインスパイアされた楽曲を数多く手掛けてきた。 「グッド・インテント」は『雨に唄えば』のシーンを想定して書かれ、彼女の透き通る歌声、鮮やかな物語性、高揚するメロディが織りなす、古典的な青春映画のサウンドトラックを思わせる。ALFREDが撮影・監督した「グッド・インテント」のミュージックビデオは、夕日に染まるテクニカラーの夢のような世界観で、ジェニーの喜びを捉えている。


ノリッジの静かな夏に書き上げられ、ロンドンでプロデューサーのステフ・マルツィアーノ(ヘイリー・ウィリアムズ、ネル・メスカル)とともに完成した『Quicksand Heart』は、ジェニーの映画のようなソロサウンドを紹介しています。 


プレファブ・スプラウト、ビーチ・ボーイズ、ケイト・ブッシュ、リプレイスメンツ、シンディ・ローパー、ティナ・ターナーなどに影響を受けたジェニーは、エリザベス・フレイザーを彷彿とさせる表現力豊かなボーカルで、別世界のような存在感を放っている。「私の声は、自分自身を表現するのに最も楽しい楽器です」と彼女は言う。


「Good Intentions」



ジェニー・ホリングワースとローザ・ウォルトンは 16 歳でトランスグレシブ・レコードと契約し、2016 年に、メロディックなエレクトロニックと風変わりなフォークポップが融合した、奇妙な魅力に満ちたデビューアルバム『I, Gemini』をリリースしました。2018 年、批評家から絶賛された『I'm All Ears』は、甘くも辛辣なボーカル、不気味な歌詞、そして故 SOPHIE の変異したプロダクションを基盤とし、幻想的な新しい音の世界へと拡大した。 


「Hot Pink」はそのアンセムとなり、年間ベストアルバムリストを席巻した。2022年には力強い『Two Ribbons』でバンドモードに回帰。女性として成長する中で経験した悲嘆と、変化する友情の形を鋭く捉えた。もはや双子ではなく、広がる布地を思わせるイメージが適切であり、二人はソロアーティストとしての自己探求という共通の願望を追求しつつ、友情を育むことに注力している。


内省と成長の期間を経て、ジェニー・オン・ホリデーは完全に独自のサウンドを確立した。「Dolphins」は、フェス会場で友人と共に歌い、あるいは夜のひとりで口ずさむのにふさわしい、力強く即効性のあるアルバムの次なる一端を垣間見せる。 



▪️「Good Intentions」- New Single


 Listen: https://transgressive.lnk.to/goodintentions



▪️Jenny On Holiday 『QUICKSAND HEART』- New Album



Tracklist

1. Good Intentions

2. Quicksand Heart

3. Every Ounce Of Me

4. These Streets I Know

5. Pacemaker

6. Dolphins

7. Groundskeeping

8. Push 

9. Do You Still Believe In Me?

10. Appetite


Pre-order: https://transgressive.lnk.to/quicksandheart

 



マルチインストゥルメンタリスト、河原太朗によるソロプロジェクト、TENDREの3年ぶり5枚目となる待望のニューアルバムが完成! 


先行配信された「HAPPY END」「RUNWAY」を含む全8曲を収録したセルフ・タイトル・アルバムがCOLORED VINYL LP/CASSETTE TAPEで1月17日リリース。ソウルやダンス、ポップをクロスオーバーするセンス抜群のアルバムが誕生。今回、新しくSpace Showerからレコードとカセットの2バージョンの発売が決定。音源/デザインともにファンにとってマストアイテムとなりそうだ。




1.LP Version


2.Cassette Version



■アーティスト|   TENDRE(テンダー)
■アルバムタイトル| TENDRE [COLORED VINYL LP](テンダー カラーヴァイナル エルピー)TENDRE [CASSETTE TAPE](テンダー カセットテープ)
■リリース日|    2026年1月17日(土)
■品番|       [LP] DDJB-91264 / [CASETTE TAPE] DDTB-12009
■販売価格|     [LP] 4,545円+Tax / [CASETTE TAPE] 2,500円+Tax
■仕様|       LP / CASSETTE TAPE
■レーベル|     RALLYE LABEL / SPACE SHOWER MUSIC



Kroi、Ryohuをゲストに迎えた初の対バンツアー”ASSEMBLE!”や、人見記念講堂、LINE CUBE SHIBUYAでのホール・ワンマン・ライブを経て、キユーピーのCMナレーションや、J-WAVE “LINKSCAPE”の番組ナビゲーターを担当するなど、ますますその活動の幅を多岐に広げるTENDREの3年ぶり5枚目となる待望のニューアルバムが完成しました! 先行配信された「HAPPY END」「RUNWAY」を含む全8曲を収録したセルフ・タイトル・アルバムが登場しました。



A1. GRATEFUL [ https://youtu.be/hbYKsc0yTcI ]
A2. RUNWAY [ https://youtu.be/lwB1R-z7GpE?si=j875JfK43PaOlQGh ]
A3. LULLABY [ https://youtu.be/YU0welLpFSM?si=Pcy-oKULqBGv0y0K ]
A4. WINNER [ https://youtu.be/jcFtYuIEDNA?si=FUt0qz0Wpp2mAiKo ]

B1. HAPPY END [ https://youtu.be/c2BAWEWuxls?si=S26iQfHIGN_AwAXp ]
B2. 情けない日々、私 [ https://youtu.be/oFWZGnndf8k?si=7tZg1TIFEHKYGPLg ]
B3. AUBE [ https://youtu.be/G-ruesoMwYM?si=FM-mUBRcB43wQtMD ]
B4. SOUL [ https://youtu.be/4eGwxTpwlVw?si=VSQuQ5mBl5vxxaXG ]




TENDRE:


ベースに加え、ギターや鍵盤、サックスなども演奏するマルチプレイヤー、河原太朗のソロ・プロジェクト。2017年にTENDRE名義での6曲⼊りデビューEP『Red Focus』をリリース。同作はタワーレコード”タワレコメン”、HMV”エイチオシ”、iTunes”NEW ARTIST”、スペースシャワーTVミドルローテーション”it”に選ばれるなど、デビュー当初から各⽅⾯より高い評価を獲得した。


2018年には、tofubeatsによるリミックスも話題となった配信シングル『RIDE』を含む1stフル・アルバム『NOT IN ALMIGHTY』をリリース。


2019年4⽉・5⽉と連続して配信シングル『SIGN』『CHOICE』をリリース。前者はオーストリアのスポーツサンダル・ブランドTevaとコラボレーションしたMVも話題を集め、その楽曲はJ-WAVE”TOKIO HOT100”で最高位4位を記録。また、Hondaが手がける、旅とバイクの新プロジェクト「Honda GO」のテーマソングとして新曲『ANYWAY』が起⽤された。


 TENDREは、多数の日本国内の大型フェスへの参加実績を持つ。ARABAKI ROCK FES、VIVA LA ROCK、GREENROOM、FUJIROCK FES、RISING SUN ROCK FES、SWEET LOVE SHOWER、Local Green Room、sunset live、CDJなど、主要フェスにも軒並み出演を果たした他、同年6⽉に開催された東名阪のワンマン・ツアーは追加公演を含む全公演がソールドアウト。続く『IN SIGHT ‒ EP』のリリース・ツアーも同じく追加公演を含む全公演がソールドアウト。


また、Chara、堀込泰行、Original Love、SIRUP、冨田ラボ、ベニー・シングスといったアーティストへの楽曲提供・プロデュース、コラボレーションなどを行う他、キューピーのCMナレーション、J-WAVE”LINKSCAPE”の番組ナビゲーターを務めるなど、その活動は多岐に渡る。


2020年9⽉、先行配信されたシングル「LIFE」「HOPE」「JOKE」を含む2枚目となるフル・アルバム『LIFE LESS LONELY』をリリース。


「HOPE」は、今年1⽉に放送されたテレビ朝日系列「関ジャム 完全燃SHOW」で年間ベスト10 に選出され、サウンドデザインのセンスやメロディーのキャッチーさが高く評価された。


2021年にアルバム『IMAGINE』をリリースし、収録曲「AIM」は、ダイハツ「アトレー」TVCMに起⽤。2022年3⽉に配信された池田智⼦ × TENDREが歌う、サントリーほろよいCMソング「水星 × 今夜はブギー・バック nice vocal」、NHK「あさイチ」2022年度テーマ曲を担当し、ディズニープラス「スター」の日本発オリジナルドラマシリーズ『すべて忘れてしまうから』で、自身初となる実写ドラマの劇伴を手掛けた。同年9月にアルバム『PRISMATICS』発売。


以降も活発にリリースを続ける。2023年4⽉に配信EP『BEGINNING - EP』、9⽉に配信EP『IN WONDER - EP』をリリース、4⽉16日(日) には、自身初となるホール(人見記念講堂)でのワンマン・ライブを開催。


サウスロンドン出身の新進気鋭プロデューサー Mom Tudieが、tavesとのコラボ曲「Don’t Hate Me」を2025年10月24日(金)にリリースします。


独学でプロデュースを学んだMom Tudieは、ジャズ、R&B、ヒップホップ、ソウルを自在に横断する独自のスタイルを “DIYジャズR&B” と名付け、そのサウンドはBBC Radio 1、1Xtra、6Music、NTSをはじめ、ComplexやClashといったメディアからも高い評価を受けている。これまでにTom Misch、Tiana Major9、Jaz Karis、Kwaku AsanteといったUKの才能あるアーティストと共演し、ロンドン・ペッカムのTolaやOmearaでのライブは、そのエネルギーと温かさで観客を魅了してきた。


今回フィーチャリングで参加したのは、ナイジェリア出身のシンガーソングライター taves(テイヴス)。アフロポップ、R&B、フォークをミックスしたスタイルで注目を集め、ナイジェリア・イバダンで育ちながら、Asa、Khalid、The Weekndといったアーティストに影響を受けてきた。デビューEP『Are You Listening?』では愛と失恋をテーマに描き、今回の「Don’t Hate Me」でも飾らない言葉で語りかけるように、過ちと許しをめぐる物語を紡ぎ出している。


「この曲には本当に温かいフィーリングがある。tavesが彼の柔らかく包み込むようなヴォーカルを乗せてくれて、曲全体がより温かく、ウェルカムなものになったと思う。パーカッションにはスタジオの机を叩いた音やアコースティックギターのボディ、金属のビスケット缶など、ナチュラルな音を多用して、DIY感覚を強く意識した。tavesがこのビートでどんな表現をするか本当に楽しみだったけど、想像を超える仕上がりになった。まさに国境を越えたコラボレーションの成果だと思う」 ──Mom Tudie


この秋リリース予定のニューアルバムを前に、さらなる期待を呼び起こす一曲に仕上がっている。



Mom Tudie, taves 「Don't Hate Me」- New Single




アーティスト:Mom Tudie, taves

タイトル:Don’t Hate Me

ジャンル: Afrobeat, R&B/Soul, Alt-R&B

発売元・レーベル:SWEET SOUL RECORDS 

配信リンク:https://lnk.to/mom_tudie_DHM

Sword Ⅱ 『Electric Hour』


Label: Section 1

Release:2025年11月14日

 

Listen/Stream 

 

 

Review

 

アトランタのアルトロックバンド、Sword Ⅱは、マリ・ゴンザレス、アス・カーテン・ズコ、トラヴィス・アーノルドの三人組である。このサイトでは初登場のバンドとなるはずだ。アトランタのバンドではあるが、ブリット・ポップのようなサウンドとインディーロックを融合するバンドである。


2023年にデビュー・アルバム『Spirit World Tour』をリリースしており、本作は二作目となる。このアルバムは、監視技術社会の問題点をベースに制作され、その中で、創造性や革命の時間をもたらすという内容である。


バンドは、ライブステージに立つ時間をそういった抑圧、疎外感から解放する働きをもたらすようなアルバムを制作したかったという。


実際的に、これらは観念的な世界から生み出されたものではない。友人の家がFBIに捜査され、監視下に置かれたのだった。レコーディングに関しても、独特な切迫感をもたらし、漏電などの脅威もあったという。おのずとこのアルバムはアンダーグランドなロックソングの響きがあるが、同時に、その中で作り事ではないリアリズムのサウンドが全般を通じて体現されているように思える。

 

アルバムは「Disconnection」で始まるが、これらは、80−90年代のブリット・ポップのサウンドと共鳴する何かがある。同時に、Guided By Voices、Pavement、Galaxie 500、Sebadohのような最初のオルタナティヴロックソングと通じる何かがある。悲しみに満ちたアコースティックサウンドで始まるが、ローファイなロックサウンドの中で、独特な内向きの熱狂性を生み出している。


これらは必ずしも、感情が昂じたり高ぶることなく、ほどよいテンションを保ちながら、USインディーロックらしい空気感を呼び覚ます。曲の全般はダークな雰囲気に満ちているが、聞いていると不思議と癒やしがあり、勇気づけられる感覚もある。基本的には、ニッチなインディーロックに属しているが、彼らのサウンドには奇妙な説得力がある。これらはフィクションとしてのサウンドにはあらず、リアリズムの延長線上に、アトランタの3人組、Sword Ⅱの音楽性が構築されていることを伺わせる。また、その主要なサウンドは、ガレージ・ロック色には乏しいものの、Bar Italiaのサウンドに通じるものがあることを感じ取っていただけるのではないか。

 

同時に、このトリオは、分担制のボーカルスタイルを取る。これが曲の印象にバラエティを付与しているのは事実だろう。「Swenty」では女性ボーカルに変わり、ネオ・アコースティックやアノラック風のサウンドに傾倒する。それは同時にジャングルポップやトゥイーポップのようなサウンドの一面を強調付ける。この曲には、甘酸っぱい感じもあり、Vaselinesのようなサウンドを楽しむことが出来る。アルバムの冒頭では、さらにロック的な知識量の豊富さを顕示し、バロックポップのような70年代風のサウンドを続く「Under the Scare」に捉えることが出来るはずだ。そうした中で、独特なオリジナリティが出てくることがある。この曲の明るい感じのするコーラスワークは、このバンドの持ち味や長所が目に見える形で出てきた瞬間でもある。

 

ロックバンドとしての性質にとどまらず、MUNAのようなインディーポップサウンドのセンスを発揮することもある。「Sugarcane」は注目の一曲となっている。甘口のアルトポップソングをお望みの方に最適なトラックとなる。 また、それらのポップサウンドには、シューゲイズからの影響もわずかに感じられる。独特なアナログシンセのような音色は、MBVのロックサウンドのような独特な甘酸っぱさに満ちている。これらが最終的に、ドリームポップバンドとしてのSword Ⅱの姿を浮かび上がらせる。ツインボーカルの楽曲は、ロンドンのWhitelandsのサウンドを彷彿とさせることも。これらの田舎性と都会性の混在したロックサウンドが醍醐味となる。

 

90年代のブリット・ポップや、USオルタナティヴロックを踏襲した上で、ローファイやヒップホップのイディオムを的確に踏まえ、「Gun You Hold」では新鮮味のあるサウンドを作り出している。静かなアルトフォークサウンドから、ロック的な轟音のサビ/コーラスが対比されるという点ではやはり、Bar Italiaに近い性質をもった楽曲と言える部分もあるかもしれない。これらはまだ最終的な形になったとまでは言えないけれど、曲の後半ではじんわりとした感覚をもたらす。


鐘の音のイントロで始まる「Passionate Nun」もセンス抜群のサウンドである。以前として全体的には、ボーカルの節回しを見るかぎり、ブリットポップからの影響が色濃いように思えるが、その中で最もユニークな性質がサビ/コーラスの箇所で登場する。これはアトランタのサウンドなのか、それとも、このトリオの持つスペシャリティなのか。よくわからないが、面白い。続く「Halogen」は、ドリーム・ポップ/シューゲイズの楽曲で、現在のインディーズロックの主流のスタイルに準じている。その中で、スコットランドのネオ・アコースティックやシアトルのグランジの要素を織り交ぜながら、Sword Ⅱとしての唯一無二のサウンドを探求している。

 

今後、どのようなバンドになるのか読めないという点で、Sword Ⅱに大きな期待値を感じる。アルバムの後半ではほとんどジャンルを度外視し、冒険に満ちたサウンドを追求している。「Violence of the Star」では、Let's Eat Gramma、MUNAのような甘口のポップサウンドを提示しているが、その後は、まったく予想がつかず、そして展開が読めない。藪から蛇といった感じだ。


「Who's Giving Your Love」では、荒削りな感じのあるガレージロックをベースにしたsnooperっぽい高速パンクチューンを制作している。また、クローズ「Even if it's Just a Dream」ではアルバムの序盤や中盤に見出されるブリットポップを中心としたバラード風のインディーロックソングへと舞い戻る。このアルバムの全体に通底するバラエティ性こそ、このバンドの最大の魅力であるとともに、USインディーロック特有の性質でもある。今後のトリオの活躍にも注目したい。

 

 

80/100

 

 

 

「Gun You Hold」 


Daivid Byrneがフルアルバムに続く新曲「T Shirt」をリリースした。この楽曲は、Talking Heads時代からの長年の友人であり共同制作者でもあるアンビエントの巨匠ブライアン・イーノとの共作である。

 

現在、劇的な復活を果たしたデイヴィッド・バーンは、絶賛された同名の新アルバムリリースを記念した新作アルバム「Who Is The Sky?」のツアーで北米を巡っている最中である。フルアルバムは、2018年にリリースされ高評価を得た『American Utopia』(後にブロードウェイ・ミュージカルとHBO映画として大ヒットした)以来、デイヴィッド・バーンにとって初のアルバムとなる。

 

デイヴィッド・バーンは最近、Paramoreのボーカリスト、ヘイリー・ウィリアムズと新曲でコラボレーション、ロアルド・ダールの児童小説を原作とするNetflixのアニメーション映画『The Twits』のサウンドトラックを提供した。新曲も渋さがあり、なかなか良い感じになっている。


「T Shirt」 

 


ノースカロライナ州を拠点とするシンガーソングライター、Anjimileが新曲「Auld Lang Syne II」をリリースし復帰を果たした。

 

2023年に4ADからリリースされたデビュー・アルバム『The King』を通じて、チタンボは個人的・社会的な激動の中で黒人でありトランスジェンダーであることの存在を深く掘り下げ、不快感を解放への手段として受け入れるという勇気ある姿勢を再確認した。(レビューを読む)


アンジマイルは2023年に『The King』を携えてツアーを行い、全米でのヘッドライン公演に加え、ロンドンとパリで開催されたピッチフォーク・ミュージック・フェスティバルにも出演した。

 

『オールド・ラング・サインII』のリリースはアンジミレにとって新たな時代の幕開けを告げる——変化と変容を受け入れつつも優しさと脆さを失わないことで生まれた、喜びと自由の時代だ。この新曲に満ちるエネルギーが物語るように、アンジミレは問いを投げかけて帰還する:手放し、愛を受け入れたら何が起こるのか?

 

アンジミレ・チタンボは、揺るぎない内省と深い誠実さを特徴とする独自の音楽的道を切り拓いてきた。ノースイースタン大学在学中にボストンの活気あるインディーシーンから登場したアンジマイルは、真摯なソングライティング、繊細な音響テクスチャー、祈りと祝祭を思わせるパフォーマンスで聴衆を魅了した。2018年にNPRの「Tiny Desk Concert」コンテストに応募した作品がボストン地区最優秀と評価されたことで、その名声は一気に高まった。その後も批評家の称賛は続いた。

 

2020年のアルバム『Giver Taker』はローリング・ストーン誌が年間ベストアルバムの一つに選出。精神性、アイデンティティ、解放という普遍的なテーマを探求する魅力的な声として彼の地位を確立した。ジェイ・ソム、ササミ、ロメルダらによるカバー曲集『Reunion』(2021年)を発表後、アンジマイルはホセ・ゴンザレス、チューン・ヤーズ、ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフなどの前座を務めながら、新曲をツアーで試した。


「『オールド・ラング・サインII』は元々、数年前に結婚した親友への結婚祝いのようなものとして構想していました。しかし制作過程で、友人夫婦だけでなく私自身や家族、親しい人間関係にとっての時間の流れの甘酸っぱい本質についての思索へと変化していったのです」とアンジマイルは語る。


ブラッド・クックがプロデュースしたこの楽曲は、2023年のアルバム『The King』以来となるリリース。不屈の精神と苦闘の末に掴んだ自由について、自らへの優しいメッセージを綴った前作の続きを紡ぐ作品となっている。

 

 

 「Auld Lang Syne II」

パフューム・ジーニアスは2026年、3月にリリースした傑作アルバム『Glory』(レビューを読む)のツアーを継続する。新たに発表したのは、彼と共同制作者でありパートナーでもあるアラン・ワイフェルズとの親密な「デュオ」公演だ。

 

「アランは僕が初めて歌を聴かせた相手なんだ」とマイク・ハドリアスは語る。 「15年間、全ての公演を二人で共にしてきた。始めた頃はステージ最前列でキーボードを前に、ただ二人きりで演奏していました。あの頃の古い楽曲の数々、そして二人だけで奏でたあの強烈な演奏が懐かしい。再びあの頃に戻れることを楽しみにしています。新曲のシンプルなアレンジ版も披露し、デュオとして演奏するための新曲も書き下ろしたいと思っています」 

 

ツアーの初日は1月22日イリノイ州シカゴ公演。ツアーは3月31日ワシントンD.C.で再開し、4月9日ニューヨーク州ホーマー公演で幕を閉じる。途中ニューヨーク市、トロント、ボストンにも立ち寄る。


パーフューム・ジーニアスはまた、アルバム『Glory』収録曲「Me And Angel」の新ビデオを公開した。監督はオティウムが務めた。古めかしいアンティークのピアノバラードはシンガーソングライターの有望さを示している。

 

「『ミー・アンド・エンジェル』は今まで作った曲の中で最も好きな曲の一つだ」と彼は語る。 「ある夜、突然インスピレーションが湧いて、メロディと歌詞がほぼ同時に完成した。だからデモ音源を修正する必要は全くなかった。でもスタジオで録音するのは大変だった。感情が高ぶりすぎて何度もテイクをやり直さなければならなかった。こんな経験は初めてだった。ビデオは僕たちの家の近くの通りで撮影しました」


「Me & Angel」

 

 

Tour Date:

 

Thursday Jan 22, Tomorrow Never Knows, Chicago IL
Saturday, March 26, Big Ears Festival, Knoxville TN
Tuesday Mar 31, Lincoln Theatre, Washington DC
Wednesday Apr 1, First Unitarian Sanctuary, Philadelphia PA
Thursday Apr 2, New York Society for Ethical Culture - Adler Hall, New York NY
Saturday Apr 4, First Parish Church, Portland ME
Sunday Apr 5, Arts at the Armory, Boston MA
Monday Apr 6, Le National, Montreal QC
Wednesday Apr 8, Great Hall, Toronto ON
Thursday Apr 9, Center for the Arts, Homer NY 



フランスを代表するシンガーソングライター Yael Naim(ヤエル・ナイム)が、先日リリースされたばかりのニューシングル「Multicolor」のミュージックビデオを公開!


インドの古典楽器タブラとシタール、そこにマントラのようなコーラスが重なり合った癖になるサウンド。その楽曲のテーマである <多様な “生命の色”> を讃えるべく、色彩鮮やかで個性が光るミュージックビデオが完成しました!


アルバムからの第2弾シングルとなる本作は、まさに最新アルバムが描く物語の序章ともいえる一曲。一度見たら忘れられない、そして癖になる映像美、ご堪能ください!!



2008年にリリースしたシングル「New Soul」がApple MacBook AirのCMに起用、ビルボード・ソング・チャート9位をはじめ、世界的で大ヒットを記録し一躍スターとなったパリ在住のシンガー ヤエル・ナイム。これまでのアコースティック・サウンドから、変化のアンセムとも言えるオーガニックとデジタル、親密さと普遍性という異なる世界をつなぐ新曲「Multicolor」をリリース。


インドのタブラのリズム、歓喜に満ちたシタールの響き、そしてマントラのように催眠的なコーラスに支えられた同楽曲は、あらゆる色合いの “生” を祝福する。サウンドは2000年代半ばにヤエル自身が伝説的なボリウッド作曲家デュオ Laxmikant–Pyarelalと行ったレコーディングから着想を得た。その時々のオーケストレーションを呼び覚まし、時代を超越し、未来を感じさせる楽曲が誕生した。


さらに2026年にはニューアルバム『Solaire』のリリースが決定しました。本作「Multicolor」はまさしく ”再生、光、自由” をテーマにした、待望のニューアルバム作品の到来を予見している。




【楽曲概要】

■ アーティスト名:Yael Naim(ヤエル・ナイム)

■ 曲名:Multicolor(マルチカラー)

■ レーベル:ASTERI ENTERTAINMENT

■ 形態:ストリーミング&ダウンロード

■ URL:https://asteri.lnk.to/yaelnaim_multicolor_jp



Yael Naim:


フランス=イスラエル出身のシンガーソングライター/ディレクター。2001年にフランスでアルバム・デビュー。2008年に発表した「New Soul」がApple MacBook AirのCMに起用され、全米ビルボードHot 100でトップ10入り。世界各国でチャート1位を獲得し、国際的に注目を浴びる。


本国フランスでは、フランスのグラミー賞とも例えられる権威ある音楽賞 ”ヴィクトワール・ド・ラ・ミュージック” を3度受賞し、フランス芸術文化勲章オフィシエに叙任。ブラッド・メルドーやストロマエら多彩なアーティストと共演している。


また日本国内でもその活躍は広く知られており、2009年「PICNIC」が NISSAN cube のCMソングに起用。2012年にはTVドラマ「最後から二番目の恋」の劇中で「Go to the River」(アルバム『She was a boy』収録)が使用され、大きな話題となった。


音楽だけでなく映像や絵画でも活動し、自身のドキュメンタリー映画『A New Soul』や自伝『Une chambre à moi(私の部屋)』を通じて「女性」「自由」「平和」をテーマに表現を続けている。

その存在は、音楽シーンにおいて25年以上にわたり“光”を放ち続ける、現代を代表するアーティストのひとりである。

マントラ・アーティストであり瞑想ガイドのRina Rain(リナ・レイン)による新曲「Lokah Samastah Sukhino Bhavantu(ロカ・サマスタ・スケーノ・バヴァントゥ)」は、魂を癒すヒーリングミュージック。昨今、マントラはヒーリングミュージックとして注目されることが多くなった。デジタルからのデトックス。アンビエントと共にこの音楽の需要度はさりげなく高い。


リナ・レインは、音楽を通じて平和、献身、癒しを伝えるガイドである。そして魂のこもった歌声と古代のマントラ、現代的なサウンドスケープを融合させ、内なる静寂と繋がりを促す楽曲を創り出す。彼女の声は静寂の本質を運び、それぞれの詠唱は柔らかな祈りのように広がり、今この瞬間に戻ることを導く。本曲はアルバム『雨のささやき』からの先行公開曲である。 


リナ・シンはベイエリアを拠点とする瞑想トレーナーで、マインドフルネス、キャリア開発、自己啓発の分野で20年以上の経験を持つ。また、マントラアーティスト(リナ・レイン)として、音楽を通じて平和、献身、癒しを伝える瞑想ガイドでもある。魂のこもった歌声と古代のマントラ、現代的なサウンドスケープを融合させ、内なる静寂と繋がりを促す楽曲を創り出す。


彼女の声は静寂の本質を運び、それぞれの詠唱は柔らかな祈りのように広がり、今この瞬間に戻る道となる。 神聖な反復と音と音の間の沈黙に根ざしたリナの歌声は、聴く者をゆっくりと歩み、呼吸し、自分自身へと帰るよう誘います。シンプルで広々とした音と導きを通して、彼女は平和、記憶、静かな変容の周波数を伝えます。彼女の音はパフォーマンスではなく、境界線なのです。


新曲「Lokah Samastah Sukhino Bhavantu(ロカ・サマスタ・スッキーノ・バヴァントゥ)」は、瞑想と深い平安のために創られたアルバム『雨のささやき』の第一弾となる。彼女はこの曲について語る。  


「『ロカ・サマスタ・スッキーノ・バヴァントゥ』は私の声と心を開いたマントラです。この曲は、私たちの心と魂の苦しみを和らげ、あらゆる時、あらゆる場所の全ての存在のために捧げる私の祈りです。 このマントラが、重く感じるものを和らげ、聴くすべての人に深い帰属意識を呼び覚ますことを願っています。私たちは皆つながっており、誰もこの旅を独りで歩んでいるわけではないことを思い出せますように」


20年以上にわたり、リナはマインドフルネス、コーチング、創造的表現を通じて癒しの場を提供してきた。彼女の音楽は瞑想の本質でもある。それはペースを落とし、呼吸を整え、心へと戻るための招待状である。ストレスの多い現代社会をヒーリングミュージックが救う!?


「Lokah Samastah Sukhino Bhavantu(ロカ・サマスタ・スケーノ・バヴァントゥ)」



▪︎EN

Rina Singh is a Bay Area-based meditation trainer with over twenty years of experience in mindfulness, career and personal development. 

 

She is also a mantra artist (Rina Rain) and meditation guide sharing peace, devotion, and healing through music. Blending soulful vocals and ancient mantras and modern soundscapes, she creates songs that inspire inner stillness and connection. 


Her voice carries the essence of tranquility, each chant unfolding like a soft prayer, a return to presence. Rooted in sacred repetition and silence between the notes, Rina’s voice invites listeners to slow down, breathe, and come home to themselves. Through simple, spacious sound and guidance, she channels frequencies of peace, remembrance, and quiet transformation. Her sound is not performance, it is a threshold.


Her new track “Lokah Samastah Sukhino Bhavantu” serves as the first glimpse of her forthcoming album Whispers of Rain, an album created for contemplation and deep peace. She shares, “‘Lokah Samastah Sukhino Bhavantu’ was the mantra that opened my voice and my heart. 

 

This track is my prayer to help ease suffering in our minds, in our hearts, and for all beings everywhere, at all times. My wish is for this mantra to soften what feels heavy and awaken a deeper sense of belonging in everyone who listens. May we remember that we are all connected, and none of us are walking this journey alone.”


For over two decades, Rina has held space for healing through mindfulness, coaching, and creative expression. Her music is a meditation. It’s an invitation to slow down, breathe, and return to the heart.





 ▪バロック音楽の時代背景 

ヴィラ・メディチ
 

16世紀までの古典音楽は、その多くが宗教音楽に終始していた。また、それと同時に、民衆のための音楽、イタリアのトレチェントやマドリガーレ、バラードなどの民謡や舞曲も登場した。そして、前回までのバロックの以前の音楽の歴史を概観した際、音楽という形式は、たえず社会の風潮を反映させ、さらに、ときには政治とも関連付けられることもあったといえるだろう。17世紀に入ると、フランスでは絶対王政が始まり、王による治世の時代が始まった。

 

これこそ中世ヨーロッパの政治機構の象徴でもあり、フランス革命の時代まで、この政治形態が継続していく。同時に、貴族や民衆からの徴税が始まり、これらが「税金」という制度として確立されたのである。17世紀のヨーロッパは、絵画などのモチーフとなることが多いので、現代人は脚色を込めて見ることが多いかも知れません。しかし、バロック期はヨーロッパの絵画に見いだせるような、理想的な時代とばかりは言えなかった。理想的に見える時代も、それぞれの苦労があったのである。例えば、この時代は、凶作、不況、そして、人口減少など様々な社会問題が発生したものの、商工業を王政が推進することにより、経済的な拡大を図った。しぜん、市民は以前より経済力を持つに至り、個人としての力を拡大していくことになった。


ヴェルサイユ

同時に、17世紀は、フランスのヴェルサイユを中心とする宮廷文化が花開き、これらが芸術の本流を形成するようになった。ルイ13世は、反抗的な貴族やユグノーを弾圧し、絶対王政を確立する。しかし、社会学として、この絶対王政を見た時、やはり、暴政という点が問題となる。フランス革命を焚き付けたのが、どのような勢力であれ、これらの王政には、社会的な問題が付随した。問題となったのは、現在の資本主義の一つの課題でもある、富の不均衡である。民衆の怒りが、王政に向けられ、以降の革命に至ったのは当然の摂理だった。

 

世界史を見ていると、面白いのは、ヨーロッパ県の国々は、まるで足並みを揃えるようにして連動して政治などが動いていくことだ。こうした中、イギリスやドイツ各国では政治的な改革が盛んに行われた。イギリスがバチカンから距離を取り、独自の宗教組織であるイギリス国教会を設立し、権力の安定を図ったことは言うでもなかった。本格的な議会政治が始まると、カルヴァン派(宗教改革派)の勢力が強い影響力を持った。この派閥が勢力をました結果、王政との対立が起き、クロムウェルが王を処刑して共和政を確立した。これが、俗に言う「ピューリタン革命」である。その一方、ドイツでは、オーストリアのハプスブルグ家が台頭し、三十年戦争が勃発する。そのため、ドイツでは、国家的な統一が遅れ、神聖ローマ帝国の麾下にあるウイーンなどの大都市が発展していくことになった。

 

民主主義政治の萌芽が各地で見える中、バロック音楽が登場した。バロックというのは「歪んだ真珠」を意味する。 ルネサンス期の芸術と異なるのは、個人的な情熱や感情を端的に表現することも可能になった。ルネサンス期では、均衡や理性など、ある意味では、統合性を持ち、合理的な芸術が好まれたが、個人的な感情を表現することも可能になった。個人的な解釈としては、ヨーロッパにおけるバロック期とは、大きな組織や機構を中心に動いていた社会において、個人やそれらのグループが社会と同様のレベルの力を持つ、その発端を形成した重要な時代とも言えるかもしれない。

 

さて、こうした中で、登場したのがイタリアの歌曲(カンツォーネ)やオペラという新しい芸術だった。バロックと聞くと、短調を中心としたいかにも重苦しい音楽や古めかしい音楽を皆さんは想像するかも知れないが、バロック音楽の出発は、どう考えても、そして、どこからどう見ても、華やかなイメージに縁取られている。 イタリアのオペラは、ギリシア芸術の演劇を音楽と結びつけたもので、クロスオーバーやハイブリッドの先駆的な事例に該当する。オペラが登場したときの当時の衝撃はすさまじかったらしく、そのメッカであるフィレンツェでは、「新しい音楽」が出てきたと言われた。 オペラは、フィレンツェで始まり、その後、イタリア各地で普及していき、さらに、フランス、そして演劇が盛んなイギリスにも大きな影響を及ぼしていった。

 

 

オペラの誕生 ギリシア悲劇の復興

カヴァリエーリ像 ミラノ

イタリアのオペラは、貴族のサロンに集まった音楽家や詩人のリバイバル運動の一環として始まった。16世紀末に、カメラータという文人サークルが作られ、そこにはガリレオ・ガリレイの父、ヴィンセンツォ・ガリレイ、作曲家のカッチーニ、フィレンツェの宮廷楽長をつとめたペーリなど著名人が在籍していた。彼らは、古代ギリシアの悲劇を、大掛かりで大スペクタルな音楽劇にすべく、知恵を出し合い、それらを明確な作品として仕上げようと試みた。カメラータの面々は、歌詞の意味と言葉のリズムを重んじていたという点を踏まえ、それらをモノディーと呼ばれる形式へと組み替えた。これらは演劇でいうところの、モノローグの出発点ではないかと推測される。オペラが誕生する段階に当たって、それらの歌は、明確な音調を帯びるようになり、ストーリーやシーンと呼応するような形になったことは、それほど想像に難くない。


メディチ家の邸宅群


こうした中で、オペラの普及に貢献したのが、メディチ家である。フィレンツェの大富豪の娘、マリア・デ・メディチが、フランス国王アンリⅣ世のための催しものとして、「エウリディーチェ」が上演。これが1600年のオペラの始まりでもあった(という定説)。リヌッチーニが手掛けたイタリア語の台本に、ペーリとカッチーニが共同で作曲し、歌をつけた現存する最古のオペラ作品だ。カバリエーリがより本格的なオペラを発表し、『魂と肉体の劇』が同じ年に制作された。カヴァリエーリは、ローマの出身であり、バロック期の宗教音楽の先駆的な存在であった。


彼はローマカソリックを称賛するために、オラトリオという独自の形式を確立した。後にJS バッハがこの形式を崇高な領域に引き上げてみせた。このオラトリオという形式は、演劇に焦点を置いた、一般的なオペラとは対極にある純正音楽を重んじる内容であった。舞台装置や衣装を使用せず、演奏会で披露されるケースが多かったという。

 

オペラの一般的な普及に一役買ったのが、モンテヴェルディだった。彼はオペラの作曲家として名をはせた後、サンマルコ大聖堂の楽長をつとめた。ペーリなどとは異なり、現在でも演奏される機会があると思われるが、モンテヴェルディはマントヴァの公爵につかえていた人物であり、彼の作曲した『オルフェオ』はイタリアで有名になった。どうやら、この作品が高い評価を受けたのには理由があるらしく、単純なオペラに比べて、内容が充実していた。ワーグナーの歌劇では頻繁に用いられるライトモチーフの原点となる登場人物の死を象徴付ける転調であったり、主人公の苦痛を体現する下降半音階など、音楽的な効果が演劇と絶妙に溶けこんでいた。その後、オペラの形式は発展していき、舞台には、神話の人物、神々、果ては、妖精、魔女まで出てきた。舞台装置も豪華になっていき、機械仕掛けの装置もこの頃すでに登場していたという。

 

その後、イタリアの音楽の最高の作曲家の一人であるアレッサンドロ・スカルラッティが登場した。アレッサンドロは、ナポリのオペラの発展を後押しした重要人物でもある。これらは、後の時代に、さらに一般化され、民衆的な音楽に変化する過程で、カンツォーネと呼ばれるようになった。


もちろん、今でもヴェネチアでゴンドラに乗ると、船を漕ぐ人が歌をうたうことがある。これはバルカローレといい、ヴェネチアの民謡の一形式にもなった。ナポリのオペラの後代のクラシック音楽への貢献度は計り知れない。ソナタ形式の原型である「急ー緩ー急」の原初的なスタイルを確立したほか、「Sinfonia」という形式を出発させた。イタリアのシンフォニアは、のちのドイツ古典派の重要な作曲の一部分を担った。

 

歌唱の側面でも、最初のイタリア・オペラの発展は目覚ましかった。ダ・カーポ・アリアが確立され、アリアとレスタティーヴォとの分離が行われた。アリアは劇を中断して歌われた。その一方、話し言葉で現在のスポークンワードに近いレスタティーヴォは、演劇を中断することなく、スムーズな劇の進行を促すことを可能にしたのだった。

 

その後、イタリアから各国に伝わったフランスやイギリスで独自の進化を遂げた。フランスでは、リュリが中心となり、バレ・ド・クール(宮廷バレ)にイタリアのオペラの要素を追加した。イギリスでは、マスクと呼ばれる、仮面劇を基本としたオペラが発展していく。18世紀以降は、それぞれ各地域のオペラの形式が細分化していき、セリアとブッファの2形式に分割された。


その後、母国語を生かしたローカルなオペラが登場した。イギリスではバラッド、フランスではコミック、ドイツでは、シングシュピールが登場した。シングシュピールの代表的な作品は、稀代の天才、クラシック音楽の至宝であるモーツァルトの『魔笛』が挙げられる。現在では、多様な形のオペラが存在している。今回の記事がオペラを楽しむためのきっかけとなれば幸いです。