Weekly Music Feature: Samuel Aguilar


サミュエル・アギラールは1975年5月、ランサローテ島生まれ。故郷の島で音楽の勉強を始め、その後1年間アメリカで学ぶ。その後、ランサローテ島評議会から奨学金を得て、ピアニストのマリア・ガルソンに師事するためロンドンへ留学。


テネリフェ島サンタクルス高等音楽院にて、音楽理論・転調・伴奏の高等教授資格、ならびにピアノ教授資格、和声・対位法・作曲・配器法の高等教授資格を取得した。同校ではミレーナ・ペリシッチ、カルロス・プイグ、ミゲル・アンヘル・リナレスらに師事。 サミュエル・アドラー、ギジェルモ・ゴンサレス、ジョエル・レスター、ヘルマン・サッベ、カールハインツ・シュトックハウゼンらによる音楽専門コースにも多数参加。ラ・ラグーナ大学英文学科卒業。


幼い頃から、父親である芸術家イルデフォンソ・アギラールが創設・主宰するランサローテ視覚音楽祭の運営に深く関わってきた。 


20歳の時に『Música para los Jameos del Agua』を録音し、1996年にGEOエディシオンズより発表。以来、定期的に数多くの録音作品を発表している。 近年の主な作品には『Wordless Conversations』(2019年)、イルデフォンソ・アギラルとの共作『Lanzarote, el sonido oculto』(2020年)、2021年に開始した『Diarios Sonoros』シリーズ、そして『Tierra de Hielo』(2024年)が挙げられる。


また様々な録音プロジェクトにも参加しており、特に英国のラッセル・ミルズによる『Undark. Pearl + Umbra』(1999年 Bella Union Ltd. 刊)や、ティマンファヤ国立公園(ランサローテ島)の火山ルートを題材にした音楽環境を収録した書籍兼CD『Sonidos para un Paisaje』が挙げられる。 


彼の音楽活動は音源のリリースにとどまらず、リベラルアーツ全般に及んでいる。公共・私有空間向けの環境音楽や、ドキュメンタリー・広告・短編映画・長編映画・映像インスタレーション・オペラ/演劇/ダンス公演のオリジナル音楽など。 尽きることのない好奇心から、ブライアン・イーノ、ステファン・ミクス(ECM)、スソ・サイス、クリスチャン・ヴァルムロートなど、錚々たるアーティストとのコラボレーションを実現している。また、Supreme Sax&Brass Ensemble、Landscape Project、Lanave、Circular Ensemble、Major Tom Projectなど、様々な音楽プロジェクトの推進者またはメンバーとして活動している。 また、カナリア諸島国際音楽祭やランサローテ視覚音楽祭などから作品の委嘱を受けたほか、ケロクセン・フェスティバルやAPギャラリーなどでアーティスト・イン・レジデンスも経験している。


テネリフェ島サンタクルス音楽専門学校で教鞭を執り、サンタクルス高等音楽学校およびカナリア諸島高等音楽学校でも教授を務めた。カナリア諸島各地で音楽の様々な側面に関する講演やワークショップを実施している。 彼の作品は、ドイツ、アルゼンチン、オーストラリア、ベラルーシ、ブラジル、カーボベルデ、カナダ、チリ、コロンビア、キューバ、デンマーク、エクアドル、エジプト、スペイン、アメリカ合衆国、フランス、フィリピン、インドネシア、イングランド、レユニオン島、イタリア、マレーシア、ニュージーランド、ペルー、ポーランド、ドミニカ共和国、セネガル、シンガポール、南アフリカ、スウェーデン、スイス、チュニジア、ベトナムで初演されている。


最近のプロジェクトでは、EA&AEによりハバナ大劇場(キューバ)で初演された、数々の賞を受賞したダンス作品『エントモ』の音楽、テネリフェ芸術空間TEA(サンタ・クルス・デ・テネリフェ)で初演された演劇『犯罪』の音楽、 CAAM(ラス・パルマス・デ・グラン・カナリア)で発表された音響インスタレーション『秘密のコーナー』、ジョゼ・サラマーゴ生誕100周年を記念して委嘱され、テアトロ・エル・サリネロ(ランサローテ)で初演されたオペラ『焼け焦げた畝に沿って』、パブロ・ファハルド監督によるドキュメンタリー映画『逃亡者』のサウンドトラックなどがある。


 Samuel Aguilar 『Onírica』GEO ediciones 



・音楽を聴く時の客体と主体の関係性 未知の体験を作り出す

 

スペインの作曲家/鍵盤奏者/教授、サミュエル・アギラールは、これまで形態を問わず、2011年頃から作品の発表を続けてきた。本日、GEO edicionesから発売された『Onírica』は、”音楽を聴く”という根本的な意義を問う作品と形容しても過言ではない。


このサイトではアンビエントの名盤やアーティストの紹介を通して、このジャンルの隠れた支援者でありつづけてきたが、張本人としては、難しい言い方になるが、徐々にアンビエントという言葉が拡大解釈されすぎた印象を受ける。このジャンルは、ロック、クラシック、ジャズ、他の微細なジャンルを通過した最後の音楽であり、その次があるのかどうかは定かではない。 

 

もう一度、アンビエントや環境音楽の関係について言及しておきたい。アンビエントは当初、家具の音楽として出発し、主体性を持たない音楽という意義が含まれていた。例えば、空港や駅に向かうと、何らかの環境音楽が流れている。また、MacやWindowsでの工業的な音楽、もしくは、ゲームのBGMなども該当する場合がある。例えば、絵画やイラストはそのもの自体では、主体性を持つ芸術と言えるが、それがウイスキーや日本酒などのコースターとして使用されたらどうなるだろう? 例えば、トリス・ウイスキーでデザインを無償で提供したり、メキシコのホテルに「明日の神話」を提供した岡本太郎は、”これほど光栄なことはない”と述べたことがある。彼は自分のデザインに客体性を付与することに、ある種の愉悦すら覚えていたことはさほど想像に難くないのである。芸術やアートは、機能的な枠組みに組み込まれた時、従来とは別の意味を持つようになる。本来の主体的な機能が客体的に変化するのだ。

 

話の筋をアンビエントや環境音楽に戻したい。 アンビエントそのものは、ブライアン・イーノ氏が空港で音楽を使用した瞬間から、客体的な音楽として出発したのが一般的な解釈といえるだろう。しかし、音楽が近代から現代に向かうにつれ、この音楽は、他のダンスミュージックやクラブのフロアのクールダウンのために流れるチルアウトやチルウェイブ、さらには、70年代からフュージョンジャズやアフロジャズの内在的なジャンルとして認知されていたスピリチュアリズムの要素、他にも、魂を癒やす音楽や、科学的な見地から注目を浴びるヒーリングミュージックと連動するようにして、徐々にその裾野が広がっていくようになった。つまり、アンビエントという定義が、拡大解釈されるようになったのである。今日では、このジャンルは、部分的にロック/ポップソングの中のインタリュード(間奏)の要素として利用される場合もある。その捉え方は2020年代に入り、さらに拍車がかかっていき、拡大視されるようになった。

 

しかし、原理主義者の観点から言うと、あまりに拡大解釈されたため、アンビエントと呼ぶべきではないものまで、そのように呼ばれることも多くなってきた。これは、このジャンルの密かな支援者としては複雑な感情を覚える。例えば、このジャンルの祖であるとも言われる、エリック・サティは演奏会で、自分の音楽が聴衆にじっくり聴かれているのを察知すると、烈火のごとく怒り狂ったという。まさしく、ラモンテ・ヤングやフランク・ザッパなどと並び、音楽界きってのアウトサイダー(異端者)らしい逸話なのであるが、これもまた首肯すべき部分がある。

 

つまり、エリック・サティは、自分の音楽が、他の一般的なクラシック音楽のように聞かれたり、自分の作品そのものが主体性を持つことに強烈な拒否反応を示したのである。これと同じように、個人的な意見としては、その音楽が、強烈にパッケージ化(商品化)されて、商業化されすぎてしまえば、それはすでにアンビエントの本当の意味から遠ざかってしまう。つまり、その音楽を、まわりの環境とは何ら関係を持たない「独立した音楽」として聴くのであれば、それはやはり、アンビエントではなく、ヒーリングミュージックやチルアウトというべきだ。



例えば、主体的な音楽の事例が、ポピュラーソングやロックミュージックだとする。それでは、他方、客体的な音楽とは何なのだろう? 例えば、プラネタリウムや美術館の中で、静かに流れる音楽が挙げられる。この場合、当然であるが、主体は天体の映像とか美術品の展示であり、客体は音楽である。ようするに、来館者は、星や天体の運行や絵や展示品の詳細を観察していることになる。しかし、感覚のどこかで、背景に流れる音楽をそれとなく''認識''している。

 

この場合、来館者は、自分がいる空間やスペースの中で、音楽を「体験している」だけであり、「聞いている」わけではない。しかし、同時に、音楽が「聴く」という行為に限定されずに、ある種の体験に変わった瞬間、その意義は、「商品」の枠組みから超越して、本来の芸術的な性質を持ち、古代ギリシアの演劇のような「MUSICA」の意義を取り戻すのである。これは、客体と主体のバランスを揺らがせ、その境界をあえて消滅させるわけなのだ。この瞬間、音楽という行為は、消費のためのものから、体験のためのものへと接近していく。そして、消費のための音楽を制作する人は世に氾濫しているが、体験のための音楽を制作する人は、じつは意外に少ない。殊、アンビエントに関しては、体験のないものは、何かしら物足りなさを覚える。

 

スペインの作曲家がもたらした『Onírica』は深く考えこませる。また、音楽を制作することの意味をつくづく考えさせてくれる。この作品は、客体の音楽と主体の音楽のどちらが優れているのかを決定するわけではなく、その定義を把握した上で、2つの領域で聞き手を揺さぶりつつ、その境界を曖昧にする。いわば、ある種の問いかけも含まれていると感じられる。これは、デュシャンが『泉』は芸術になりうるのか?という問いを投げかけたのによく似ている。

 

『Onírica』の場合は、センセーショナルな手法を選ばず、古典的な電子音楽の形式を参考にし、ギリシア神話の神々「Hypnos(ヒュプノス)」を登場させ、幻想主義の音楽を展開させる。形式こそ異なれ、アンビエントの劇伴音楽とも称するべき、異質なアルバムが登場した。ブライアン・イーノが行った、アクロポリスでのライブのように、演劇的な要素を兼ね備えていると解釈することも不可能ではない。重要なのは、本作は、単なる聴くという行為にとどまらず、未知を体験するという要素が備わっていることである。この点に魅力がある。

 

5つの収録曲は、エジプトやギリシアの遺構のようにそびえ、聞き手を圧倒する。雲や霧のような音楽で、静かな場所で聞かなければ全容を捉えることは難しい。多くは、デジタルシンセを中心に構成されており、パッチワーク的なプロダクションやリサンプリングの手法はほぼ見当たらない。これがライブ性を保持し、雲のように流れていく音楽を阻害することがない。雲というのはドビュッシーの同名のオーケストラ曲にちなんで言及させていただくことにする。

 

冒頭曲「Nyx」からかなりの難物が並んでいる。音楽を聴くという行為、ある意味では、それ以上の概念を提供するかのように、未知なる音の体験が続いている。曲調は、明るいとか暗いとか、一般的な感覚で言い表すことが難しい。ここには、聞き手の解釈や心のあり方によって、複数の側面が提示され、聞き手の心を巻き込むかのように、体験のための音楽が断続的に続いている。


イントロでは、霧のようなシークエンスがシンセサイザーで描かれ、その後、いくつかのテクスチャーが重なり合いながら、雲や波のような時間的な経過を持つ空間の流れの構成が形成される。ごくまれに、その中に、チベット・ボウルを模したマレット・シンセのような打楽器的なパーカッションの効果が点描画のように出現する。曲の初めは、不気味なダークウェイブのような雰囲気が包まれているが、まるで空の景色が徐々に移ろい変わるように、印象は少しずつ変化していき、その後は、景色が一変し、天上の光景を思わせるシークエンスが登場する。横方向の持続低音が重なり合いながら、倍音の特性を活かし、絶妙なハーモニーを形成していく。

 

アギラールの作曲の特色は''音の持つ音響効果を最大限に活用すること''である。これは、近代和声の色彩的な和声を示したいのではなく、音の組み合わせによって生じる音のイメージを独自の手法で拡張させていくのである。例えば、彼が音符を繰り出し、減退しない持続音を組み合わせる。音が存在するだけで、それ以上の意味があるわけではない。けれども、そのドローン的な音を体感していると、何らかの情景が思い浮かんで来て、聞き手がその存在の中に居るような感覚を覚える。彼は、AIやバーチャルの領域ではなく、人間的な想像の作用を活用するのである。

 

ギリシア神話の”眠りの神”を表す「Hypnos」は、音調の変容を積極的に活用した上で、同じように、霧のような音楽を制作している。従来のアンビエントのように明確な主張性を持つわけではないが、同じように複数のシークエンスを何度も丹念に重ねながら、情景的な音楽を作り上げていく。断続的なドローンのシークエンスは、その後、途絶え、マレットのような打楽器的な効果を用い、象徴的な神の坐像を出現させるかのように、何らかの神秘的なシーンを出現させる。さらに続いて、再び、ドローンのシークエンスが続き、終わりなき迷宮に聴き手を導いていく。曲の後半では、ドローンの要素が更に強い割合を占めるが、最後の最後ではクワイアが登場する。ここには、霧や雲の向こうに現れた神話の神々の様子を異教的に伝えようとする。

 

「Iquelo」は、祝祭的な音楽の印象が強まる。パイプオルガンのような演奏法を用い、その中で、一曲目や二曲目とは対象的に、原始的なアンビエントのシークエンスが敷き詰められ、その音楽の裾野を広げ、音像を拡大させていく。これはたぶん、アンビエントの基本的な構成に近似している。

 

ところが、一般的な制作者と異なる点は、ドローン音楽の中で、映像や演劇的な要素が登場し、あろうことか、アギラールはそれを音楽だけで体現させようと試みる。この曲では、アジアの民族音楽の要素を積極的に用い、チベット音楽のチベット・ボウルの打楽器的な音響効果を活用し、神秘的な音楽の側面を強調させる。上記のステファン・ミカスは言うに及ばず、同じく、ECMのスティーヴ・ティベッツの傑作『A Man About A Horse』(2002)、もしくは、チベットの僧侶の歌声との共同制作『Cho』(1997)といった異教的な性質を強めていく。

 

全般的には、心地よい持続音を意識して使用しているが、同時に、ボウド・ギターのようなシンセの音色が配置され、ミステリアスでダークな雰囲気を演出することもある。ここでは、舞台音楽や映像音楽を制作してきた作曲家の強みの部分が現れた形となる。10分以上に及ぶ大作であり、曲のセクションごとに異なる情景が配置される。つまり、この音楽に触れていると、徐々に思い浮かぶ景色が様変わりし、次はどうなるのか、という好奇心を呼び覚ましてくれる。


旋律的な側面の中で、打楽器的な音響効果が登場し、大地の鼓動のような迫力のあるスペクタルに満ちたリズムも現れ、神秘的な音楽の印象を強める。音楽そのものが体験に接近するほど、事物や現象が描かれるにとどまらず、魂の変遷のように神秘的な側面が体現されていく。曲の最後では、途中に登場したチベットボウルを模した音色を用い、民族的で瞑想的な音楽に近づく。この瞬間、聞き手側は音を眺める傍観者ではなく、主体的に捉える体験者に変わるのだ。

 

個人的に圧倒的に素晴らしいと思ったのが、最後に収録されている「Fantaso」と「Morfeo」だった。表面的に聴くと、一般的なアンビエントとさほど変わりがないように思えるだろう。けれども、すでに述べたように、音楽を単なるパッケージや商品として見ず、未知との遭遇や体験と捉えたとき、この2つの曲の意義はかなり変化してくるように思えてならない。この2つの曲は、主体/客体、制作者/聴取者という従来の音楽の関係性の垣根を取り払う力がある。

 

とりわけ、前者では、宇宙的な長大な印象を帯びた神秘的な音楽が生み出されている。全般的にはドローンミュージックの形式で、他の曲と同じく、デジタルのシンセを中心に構成される。しかし、感覚的に言えば、ブライアン・イーノの名曲「An Ending(Asends)」に近似する。というか、この曲に最も近づいた瞬間を捉えられる。 個人的な感覚や印象だけで定義づけるのは非常に難しいけれども、つまり、宇宙的な本質を読み取ったような神秘的な一曲なのだ。もちろん、ここには、歌も無ければ、オペラのように感涙にむせぶような美しい旋律も登場しない。


しかし、その中には、エネルギーや波長という観点において、良い性質が感じられる。それが音の分子や粒子のレベルで、澄んだ音調を作り上げている。一般的には、アンビエントと呼ばれている音楽でも、ざわざわした粗雑で荒いエネルギーが見出されることもある。そういったものに触れると、アンビエントや環境音楽から遠ざかってしまったかなと残念に思う。けれども、同曲はクラシック音楽でも稀に聞こえるような調和的なハーモニーが実現されている。


遠くからぼんやり聴いていても、なぜかほんのりと良い気分をもたらす。これが最も理想的な音楽といえるのである。それは、詳しくいえば、感情に訴えかける音楽ではなくて、理性に訴えかける音楽なのである。

 

音楽の概念を最初に確立したピタゴラスは、オクターヴの法則を発見し、ドミナントとサブドミナントの関連性を数学者として解明するに至った。また、ピタゴラスは、「協和音程の数秘こそが宇宙の秩序を作る」とした。これこそハーモニーの原義である「ハルモニア」の理論の基礎ともなった。また、ピタゴラスは、「理想的な音楽は魂の浄化をもたらす」とも伝えた。このことを考えれば、音楽という分野は神秘的な側面をもたずにはいられないのである。

 

その点で、「Morfeo」には、ハルモニアの美しさが感じられる。アルバムの冒頭のように霧のような微細な音の空気感を維持しつつ、スティーヴ・ティヴェッツのアンビエントの側面を引き継ぐかのように、エキゾチックな雰囲気を持つ民族音楽の要素を上手く両立させている。途中では水のサンプリングを用い、印象音楽としての性質を決定づけている。さらに、曲の最後では、声楽とシンセサイザーを組み合わせたフレーズも登場し、電子音楽と声楽(クワイア)の混在の側面を強く決定づける。音楽そのものは、徐々に静かになり、無音そのものに近づいていき、最終的には音楽的な世界が遠ざかっていく。これは坂本龍一さんの遺作アルバムの手法に近い。


『Onírica』は、日本語で”夢幻”を意味している。制作者が生み出した電子による幻想的な交響音楽ーーファンタジアーーが一連の目に浮かぶ鮮明な形になり、それが未知の体験となっている点が理想的なのである。 

 


 

86/100 

 


 


英国のエレクトロニックポップバンド、 Ladytronは過去25年間で最も影響力のある象徴的なグループの一つだ。2005年発表のアルバム『Wintching Hour』の20周年を記念した後、レディトロンは沈黙を破り、8作目のスタジオ・アルバム『Paradises』を3月20日にネットワークよりリリースすると発表した。


トリオは新たな爆裂曲「Kingdom Undersea」をリリースした。新しさを感じさせつつも、紛れもないレディトロンらしさを保っている。 


推進力あるマシン・ファンクが轟音のベースラインの上で踊る容赦ないバレアリック・ピアノリフと共に雷鳴のように駆け抜ける。ボーカリストのヘレン・マーニーとダニエル・ハントは稀なデュエットを披露。航海を思わせる哀歌であり、象徴と憧憬の謎、「大理石の壁、鋼鉄の肢体」を歌い上げる。二人の声は恋に病んだフェアライトの幽玄なコーラスに影を落とされる。


このシングルには、アシッドハウスアートの破壊者たち、 The KLFのために設計、製作されたアナログビデオインスタレーションの中で撮影された、不気味なプライベートパフォーマンスの映像が付属している。このクリップには、マーニー、ハント、ミラ・アロヨ、パーカッショニストのピーター・ケリー、そしてライブラインナップに新たに加わったマルチプレイヤー、アンドルー・ハント(ダイアレクト、アウトフィット)が出演している。


2005年発表のアルバム『Witching Hour』の20周年記念イベントを経て、バンドは新たな活力を得ているようだ。プロデューサーのダニエル・ハントと共にスタジオ入りしたレディトロンは、初期の録音作品に宿るエネルギーを、異なる視点から追い求める生まれ変わったバンドとなっている。


豪華な16曲入りアルバムは、長年の協力者であるジム・アビスがミックスを担当。彼はこう語る。「『Paradises』のデモを聴いた時、本当に圧倒された。楽曲制作とアレンジの多様性は『Witching Hour』を思い出させたが、独自の雰囲気、サウンド、姿勢を備えていた」 


ボーカリスト兼共同創設者のヘレン・マーニーはこう付け加える。「まるで帰郷のような感覚でした。私たちは自然に調和したのです。彼の熱意は伝染力があり、そのエネルギーがスタジオに満ちると、ある種の魔法が生まれるのです」


新曲「Kingdom Undersea」は世界観構築の繊細な作品で、豊かな海底シンセはドレクシアを想起させるが、ポップな文脈で表現されている。ボーカリストのヘレン・マーニーとダニエル・ハントが楽曲全体でデュエットを繰り広げる。

 

「Kingdom Undersea」 



Ladyrtron 『Paradises』

 

Label: Nettwerk

Release: 202年3月20日 


Tracklist:

1.I Believe In You 

2.In Blood

3.Kingdom Undersea 04:46

4.I See Red 

5.A Death in London

6.Secret Dreams of Thieves

7.Sing

8.Free, Free

9.Metaphysica

10.Caught in the Blink of an Eye

11.Evergreen

12.Ordinary Love

13.We Wrote Our Names in the Dust

14.Heatwaves

15.Solid Light

16.For a Life in London



日本出身で、現在ドイツ ・ベルリンを拠点とするプロデューサー/鍵盤奏者、Midori Hinano(平野みどり)が2026年2月20日リリース予定のフルアルバム『OTONOMA』を発表した。本作はThrill Jockyからリリース予定。日本盤の詳細も後日発表されるという。

 

先行シングル「Oto- Kioku(音、記憶)」は、霧のようなシンセの潮流である、点描的なエレクトロニクス、かすかに響くピアノのフレーズが、プリズムの蜃気楼のように広がっていく。 この作品は初対面の震えを呼び起こし、生きた印象が時を経てより謎めいた輪郭へと変容する軌跡を描く。記憶の移ろいゆく地形を解剖しようとする本作の、予兆を帯びた序章として佇む。その楽曲は、ニルス・フラームの音楽性に近い。


彼女は新曲について次のように説明している。


「『音』はアルバムタイトルと同じ意味です。日本語で『きおく』。このトラックには、シンセサイザーをいじっている時に偶然生まれた、温かく弾むようなシンセサウンドが使われています。その音があまりにも鮮烈な印象を残し、忘れられなくなったことがタイトルの由来です」

 

平野みどりの芸術性は、音響と視覚の世界の共鳴の中に存在する。ベルリンを拠点とする京都生まれの作曲家、ピアニスト、シンセサイザー奏者である彼女は、輝かしいキャリアの中で、クラシック音楽と抽象性・創造性との調和の領域をまたぐ独自の表現を築き上げてきた。

 

本名での作品に加え、ミミコフ名義でのダイナミックな実験作を発表。映画・テレビ・美術展・万国博覧会のための作曲も手掛ける。印象派的な手法で五感を刺激する情感豊かな作品、すなわち「音による絵画」の創造で高く評価されている。

 
『OTONOMA』はこれらの要素を統合した集大成で、熟練かつ直感的なアーティストとしての彼女の洞察力を際立たせる。本作はピアノによるより古典的な和声感覚と、シンセサイザーの無限のテクスチャー可能性を融合させる。星雲が銀河へと凝縮するように、『OTONOMA』の各楽曲は、グラデーションに折り込まれた微妙な色彩の層が凝縮した、圧倒的で輝かしい色合いを放っている。

 

「Oto.Kioku」 

 


▪最新のインタビュー記事:


Midori Hirano ベルリンを拠点とするミュージシャン 平野みどり  ブルーダー・ゼルケとのアルバムの制作について述べる



Midori Hirano 『OTONOMA』



 

 

Label: Thrill Jocky

Release: 2026年2月20日

 

Tracklist:

 

1.Illuminance

2.Ame, Hikari

3.In Colours

4.Warped In Red

5.Rainwalk

6.Blue Horizon

7.Aurora

8.Before The Silence

9.Oto, Kioku

10.Was It A Dream



マンチェスターのタズミン・スティーヴンスのソロプロジェクト、TTSSFUがEP『Blown』に続いて、セルフプロデュースによるニューシングル『Upstairs』をリリースした。当初は、シューゲイズの新星とも言われていたが、ダークウェイブ/ドリームポップ色が強いアーティストである。

 

この曲は、微かに魅惑的で、暗く酸っぱいドリームポップの珠玉。同時に間違いなく壮大でもある。まるで失われたC86の名曲が、テープが溶け始めるまで繰り返し再生されたかのようだ。TTSSFUのボーカルも幽霊のように響き、重い影のようにミックスの中で現れては消える。


TTSSFUは『Upstairs』について次のように語る。「この曲は一度だけ出会った男について。彼に完全に夢中になり、写真にズームインして、欠点を探さずにはいられなくなったほどだった」 同時に公開されたミュージックビデオはライブ映像仕立て。ローカルなライブハウスでのライブシーンが組み合わされている。また、ライブのオフショットの映像も使用されているようだ。

 

「Upstairs」

 


Daniel Avery(ダニエル・エイヴリー)がHappy Mondaysの名曲「Halleluiah」をリミックスした。同バンドのレガシーと現代のエレクトロニック・ミュージックの革新者たちを繋ぐリミックスドロップ・シリーズの第二弾。

 

ハッピー・マンデーズはマッドチェスターと呼ばれるマンチェスターのファクトリーレコーズ発の熱狂的な音楽シーンの先駆けとなり、のちの当地のダンス・ミュージックやポップ・ミュージックに強い影響を及ぼした。


ダニエル・エイブリーのリミックスは、オーケンフォールドによる新曲「Step On」のリミックスに続くもので、2026年にはアンナ・プライアー、メラ・ディー、ザ・リフレックス、シャドウ・チャイルドによるさらなるリミックス・ドロップが予定されている。

 

これらのリミックス・ドロップは、マンチェスターの象徴的バンド結成40周年を記念した特別リリースシリーズの一部であり、新コンピレーション『ザ・ファクトリー・シングルズ』も含まれる。


『The Factory Singles』は、伝説的マンチェスター・レーベル「ファクトリー・レコード」からリリースされたハッピー・マンデイズの全シングルを網羅している。マッドチェスターの全容を知る良い機会となるはずだ。

 

シングル集の主要な収録曲には「Step On」「Kinky Afro」「Hallelujah」「24-Hour Party People」などがある。今回の決定版コレクションは、1985年から1992年にかけてのバンドの画期的な作品を収め、英国音楽文化形成における彼らの重要な役割を称えるために制作された。

 


「Hallelujah」


今週、レゲエのもう一人のレジェンド、ジミー・クリフが81歳で惜しまれつつこの世をさった。ジミークリフとはどんな人物だったのだろう。その一端となるエピソードを少し紹介していきたいと思う。歴史上の多くの伝説がそうであるように、ジミー・クリフの物語は壊滅的な嵐の最中に始まった。


舞台はジャマイカにあるセントジェームズ教区のソマートン地区。村全体をたった一人の助産師が支える中、ある母親が子供を産み、シーツに包んで隣人の家に避難させる。ハリケーンが彼女の家を吹き飛ばした。


しかし、それを見た誰もが口を揃えて言った。「この子には何か特別なものがあるよ」と。クリフは幸運にもすでに若い頃からスターになる資質を持ち合わせていた。14歳で偶然にも「ハリケーン・ハティ」と題されたヒット曲で有名になる。その後、レゲエ音楽を世界中に広め、世界を変えた。 


グラミー賞受賞者であり、ロックの殿堂入りを果たしたミュージシャン、俳優、歌手、ソングライター、プロデューサー、そして人道支援活動家は、ヒットの理由を「魔法」と表現する。それは彼の迷信深さとも言えるが、彼の音楽に対する実直な姿勢を意味する。音楽が鳴り響くこと、それは彼の故郷ではある種の魔法のようなものだった。マジックという表現は古くから語り継がれてきた物語にふさわしいものでありながら、現代ではあまりにも軽視されている。


「何事にも魔法のような何かがある気がするんだ」とジミー・クリフは言った。「母が妊娠した時、お腹がすごく大きくて、みんな三つ子を妊娠していると思ったんだ!だから人々は最初から僕が''特別な存在だ''と言った。学校ではもう手品をやっていた。どうやって覚えたのか分からない。手相も読めた。それも誰も教えてくれなかった。僕の人生にはそういう話がたくさんある。あの嵐の中から生まれてきたという事実が、僕にとって意味深いものだったんだ」


今日でも彼のミュージシャンとしての影響力は計り知れなかった。誰もが「I Can See Clearly Now」「Wonderful World, Beautiful People」「You Can Get It If You Really Want」「The Harder They Come」など、彼の不朽の名曲の数々に口ずさんだことがあるだろう。 自国最高位の勲章、メリット勲章を受章したほか、ボブ・マーリーと並ぶジャマイカ人としてロックの殿堂®入りを果たした2人のうちの1人という栄誉も持つ。 


その人気の理由は何だったのか。ローリング・ストーンズやエルヴィス・コステロからアニー・レノックス、ポール・サイモンに至るまで、数多くのアーティストが彼とのコラボレーションを求め、ブルース・スプリングスティーン、ウィリー・ネルソン、シェール、ニュー・オーダー、フィオナ・アップルらが名高いカバー曲を録音した。


ブルース・スプリングスティーンの「トラップド」は『ウィ・アー・ザ・ワールド』のトラックリストにも名を連ねたことがある。さらに、ボブ・ディランは「ベトナム」を「史上最高の抗議歌」と称賛したことで有名だ。 比類なきスクリーン・プレゼンスも持ち、1972年の名作『ザ・ハーダー・ゼイ・カム』では主演を務め、サウンドトラックでも重要な役割を担い、レゲエに国際的な注目を集めた。その他の映画出演作には『クラブ・パラダイス』『マッスル・ショールズ』『マークド・フォー・デス』などがある。


'' The Harder They Come''


クリフはレゲエの伝道師として有名だが、彼の功績はそれだけにとどまらない。異なるジャンルとのコラボレーションを欠かさなかった。偉大なミュージシャンは未だかつてジャンルにこだわったことはない。2012 年、アルバム『Reverse』はクリフにとって新たな転機となった。パンク界の大御所、Rancidとオペレーション・アイビーのティム・アームストロングがプロデュースしたこのアルバムは、グラミー賞の「ベスト・レゲエ・アルバム」を受賞し、ローリング・ストーン誌の「2012 年ベスト・アルバム 50 選」にも選ばれた。


また、彼はライブステージでも大きな影響力を持った。コーチェラ、ボナルーなどのフェスティバルで、観客を魅了するパフォーマンスを披露しました。 その勢いは衰えることなく、待望の『The Harder They Come』の続編『Many Rivers To Cross』、そしてリンキー・マースデンが共同プロデュースした 2018 年の 2 枚の EP『Free For All』と『Love For All』という、彼の創造性の新たな章へとつながった。


音楽にしても映像にしても彼の全般的な活動の意味は、結局のところ、自分たちの住む地球をより良い場所にすると言うことだった。「今、この地球で果たすべき使命をまだ完遂していないと感じている」と彼は認めたことがある。「私は音楽と映画を通じて、伝えねばならないことを語り、成すべきことを成さねばならない。毎朝目覚めるたびに、それが私の原動力なんだ」




彼は異なる地域の人々との交流を欠かさなかった。違う土地の気風を寛容的に取られる力がクリフには備わっていた。EP制作ではガーナ生まれロンドン在住の共同プロデューサー、クワメ・イェボアとタッグを組み、クリフはレゲエの最も純粋な形を再訪し、再充電し、再活性化させた。家族を大切にする男として、彼は今も妻(モロッコ/フランス/ジャマイカ系)、娘リルティ・クリフ、息子アケン・クリフという高き源泉からインスピレーションを得続けている。そのエネルギーが音楽に脈打っている。


アップビートで紛れもないスウィング感を持つファーストシングル「ムービング・オン」は、繊細な楽器編成から力強い宣言「俺は前に進む」へと発展する。彼の比類なき歌声が天へと届き、再び戻ってくる。「これは私のお気に入りのひとつだ」と彼は言う。「非常に個人的な体験だ。誰もがその考えに共感できる。人生のどこかで、誰もが前に進まなければならないのだから」


「Refugee」の社会政治的含意はクリフにとって深い意義を持ち、考えさせられるアンセムの長い伝統を継承している。「これは今も続いている問題なんだ」と彼は語っていた。「歌詞は自明であり、世界中で目にする難民問題に触発されたものなんだ」



クリフはまた、新しいデジタル社会へ適応し、来るべき革新の時代を心から楽しみにしていた。「インターネット」は、オールドスクール・レゲエの視点から現代社会を考察する。クリフは言った。「『インターネット』の着想は、インターネットが音楽シーン全体を変えた事実から生まれたんだ。もはや誰も音楽にお金を払わなくていい。『フリー・フォー・オール』。それが胸に刺さった。誰も逃れられない革命なんだ。私はそれについて言及せざるを得なかった」


『Many Rivers To Cross』はクリフにとって分岐点となり、一連の物語の完結を意味した。最初の映画から温めていた構想で、主人公イヴァンが40年の歳月を経て刑務所を出所し、贖罪の道を歩み始める姿を描く。


「40年は長い時間だよ」と彼は説明する。「毎年が小川であり大河だ。アイヴァンはそれらを渡ってきた。どうやって生き延びたのか? 今は何をしているのか? 彼が撃たれた時点から、なぜ、どうやって刑務所を出たのかまでを描く。『ザ・ハーダー・ザ・カム』以来考えていたこと。ファンは続編を求めてきたし、物語をあのまま終わらせたくなかった。語るべきことはまだある」


結局、ジミー・クリフの魔法は年を重ねるごとに華やかになるばかりだった。生前クリフは次のように言った。「最高の曲はまだ書いていない。実はそれを追い求めている。僕の音楽が誰かを奮い立たせ、より良い人生を歩みたいと思わせ、諦めさせないなら、それは僕にとって大きな成功だ!!」 


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インコグニートによる通算20作目のスタジオ・アルバム『Music. Magic. Ironic.』が12月20日にリリースされる。

 

全17曲を収録した本作のタイトル「Music. Magic. Ironic.」は、IncognitoのリーダーBluey(ブルーイ)が幼少期を過ごしたモーリシャスで、地元の音楽家たちが労働の終わりに手に入る楽器(ハンドドラム、瓶とフォーク、あるいは手拍子さえも)で演奏する姿の記憶からインスピレーションを得たもの。

 

彼らの奏でる音楽はその場にいた人々を奮い立たせ、踊らせ、皆が歓喜に満ちていたという。この驚くべき光景が少年時代のブルーイに「音楽(music)」という言葉と「魔法(magic)」を混同させるきっかけとなった。


後に彼は、この「間違い」が実は間違いではなかったと気づき、プロとしての生涯を「魔法」の創造に捧げることを決意した。この20作目のスタジオ・アルバム「Music. Magic. Ironic.」は、Incognitoの新旧メンバーが共に作り上げたもので、制作過程では多くの「魔法(magic)」が生まれた。

 

ボーカルには、英国を代表する歌手たちであるジョイ・ローズ、トニー・モムレル、ナタリー・ダンカン、クレオ・スチュワートに加え、米国のパワフルなボーカリスト、メイサ(メイサ・リーク)とゼブロン・エリスが参加。

 

”音楽という魔法が、困難な時を乗り越え、あなたの心を高揚させ、魂を育み、日々の生活に調和をもたらすことを願っています。”



▪️Incognito「Music. Magic. Ironic.」(インコグニート「ミュージック マジック アイロニック」)



CD (2,800Yen+Tax) | 2025.12.24 Release | PECF-3303

Released by SPACE SHOWER MUSIC

[ https://ssm.lnk.to/MusicMagicIronic ]


1   It's About Time (feat. Joy Rose)

2   Running Away

3   Can't Be A Fool

4   Lost Until I Want To Be Found

5   Reasons To Love

6   Can't Give Up On This Feeling

7   In Time We'll Love Again

8   This Is Your World

9   Changes In Me (feat. Zebulon Ellis)

10   Like Fire In The Rain

11   (Your Lovin' Is) Everywhere

12   Zahra Smiles

13   Strangers Become Friends (feat. Zebulon Ellis)

14   Sweet Enough

15   Rain On A Hot Tin Roof

16   Late Night On The Subway

17   Music. Magic. Ironic.




▪️Incognito(インコグニート):


Jean-Paul “Bluey” Maunickが率いるイギリスを代表するジャズ・ファンク/アシッド・ジャズ・バンド。


デビュー作「Jazz Funk」(1981年)は、インストゥルメンタル作品で、錚々たるメンバーが参加、UKのチャートに入るなど、ヒットを記録した。その後、Incognito名義でのリリースはなかったが、1980年代後半より、Blueyがサンプラーとシーケンサーを使い自宅で楽曲制作を始め、その頃、Talkin’ Loudを立ち上げたばかりの、Gilles Peterson(ジャイルズ・ピーターソン)と意気投合し、1991年にシングルとセカンド・アルバム「Inside Life」をTalkin’ Loudよりリリース、復活を遂げた。


クラブシーンとチャートを席巻しただけでなく、バンドは、アメリカのスムース・ジャズ界のヒーローにもなった。1992年、サード・アルバム「Tribes, Vibes & Scribes」では、Stevie Wonderの「Don’t You Worry ’Bout a Thing」をカヴァーし、ラジオから大ヒットを記録した。
 

本作の鍵となったのは、今でもIncognitoのサウンドのキーパーソンであるRichard Bullのドラム・プログラミング、ボルチモア出身のMaysa(Maysa Leak)による艶やかで甘美なボーカルの導入だった。「Tribes, Vibes & Scribes」のリリース以降も精力的に活動を行い、国際的な人気バンドの地位に確固たるものとした。1993年にリリースした「Positivity」では、「Still a Friend of Mine」や「Givin’ It Up」などの世界的なヒット曲を含む、洗練された楽曲が満載のアルバムで世界中で100万枚近くを売り上げた。


1995年にリリースした「100 Degrees & Rising」は、当時まだ無名だった英国の作曲家・編曲家、Simon Hale(後にBAFTA賞を受賞した)を起用して、フルオーケストラを伴ったアビーロードでのレコーディングを行った。Talkin’ Loudレーベルでのリリース以降も、英国のレーベルDômeやドイツのEdel Recordsから、バンド史上最高傑作とも言える作品や批評家絶賛のアルバムを次々と発表している。


そして、2025年のクリスマスに記念すべき20作目のスタジオ・アルバム「Music. Magic. Ironic.」をリリースする。アルバムからのシングルとしてリリースされた「It's About Time」には、Incognitoの長年のヴォーカリスト、Joy Roseが参加。この楽曲は、45周年を迎えるバンドのロンドンでの記念イベントで初披露される予定となっており、今後、世界ツアーでも演奏されることが期待される。


BlueyとIncognitoが辿ってきて物語は、とてもユニークでイギリスならではの大冒険だ。トップ10ヒットから、伝説的アーティストたちとのプロデュースやコラボレーション。R&Bのアイコンやパワフルなヴォーカリストから、現代ジャズミュージシャン、国際的なマルチ・インストゥルメンタリストやソングライターまで。Bluey=Jean-Paul Maunickは世界のソウル界の偉大な存在の一人としてここに名を連ねている。

ブルターニュ出身のプロデューサー、Quinquis(本名エミリー・クインキス)——現在グウェノとの全英ツアー中——が本日、エミリーの新作アルバム『eor』収録曲「Morwreg」のGwennoによるリミックスを公開した。ダブステップ風のリズムの中で、先進的なボーカルのリミックスが光る一曲。


二人のアーティストは今年インタビューする中で初めて出会い、音楽を通じて自らの文化的アイデンティティをいかに守り、称えるかについて語り合った。クインキスもグウェノも、それぞれの母語であるケルト語——ブルトン語、コーンウォール語、ウェールズ語——で歌っており、本作『eor』ではウェールズ語(ケリス・ハファナとの共演)とズールー語(デズィア・マレアとの共演)でのコラボレーションが収録されている。 クインキスのグウェノ・アルバム『ユートピア』(ヘヴンリー・レコーディングスより発売中)収録曲リミックスも近日公開予定。


「グウェノのリミックスは長い夜を回想するもの…壊れた関係の断片を床に散らばったまま、夜明けと共に思い返すような感覚です」とエミリーは語る。「『船が出航する時、私から何を隠すの?』と問い続ける——まるで失われた愛への執着が頭の中でぐるぐる回り続けるように」


「Morwreg」- Gwenno Remix


Apparatは、1990年代からドイツのエレクトロニックシーンを牽引してきた象徴的なプロデューサーである。ドイツ人プロデューサーの前作『LP5』は2019年にリリースされたが、その後奇妙なことが起きた——かつて驚異的な創作力を誇ったApparatが、突然の創作意欲の枯渇に直面したのだ。この状況を打開しようとする試みは彼を混乱させ、本名サシャ・リングであるアパラートは何も完成させられずに苦しんだ。


2025年を迎え、彼は新たな試みを開始した——毎日1曲分のアイデアを生み出すことを誓い、内なるプレッシャーや評価への恐怖から解放されたのだ。これらの断片をスタジオに持ち込み、今年初めの3ヶ月間で新作アルバム『A Hum Of Maybe』が構築された。

 

極めてパーソナルな作品となる本作のレコーディングには、親しい友人たちがゲストミュージシャンとして参加。フィリップ・ヨハン・ティムが共同作曲・共同プロデュースを担当、アルメニア系アメリカ人歌手KÁRYYNが「Tilth」でフィーチャーされるほか、ベルリンとローマを拠点とするミュージシャン、ヤン=フィリップ・ローレンツ(別名Bi Disc)が「Pieces, Falling」で演奏を披露している。



「An Echo Skips A Name」

 

 

 

Apparat 『A Hum Of Maybe』


Label:  Mute
Release: 2026年2月20日

 Tracklist:

1.Glimmerine

2.A Slow Collision

3.Gravity Test

4.Tilth (Apparat X KÁRYYN)

5.Hum Of Maybe

6.An Echo Skips A Name

7.Enough For Me

8.Lunes

9.Williamsburg

10.Pieces, Falling (Apparat X Bi Disc)

11.Recalibration


グラミー賞ノミネート作『LP5』から6年を経て、サシャ・リング(別名アパラット)は6作目のスタジオアルバムで人生の複雑さに大胆に飛び込む。


『A Hum Of Maybe』は緻密に構築され、見事に予測不能な作品だ。その核心にあるのは愛——自身への愛、妻への愛、娘への愛——そしてその愛を掴み続け、守り、絶え間なく変化する愛に合わせ自らを調整し続けることである。タイトルが示す通り、楽曲は「はっきりとイエスでもノーでもない、曖昧な『たぶん』の唸り」という中間状態に囚われることを探求する。


リングは電子音楽プロデューサーとクラシック作曲家の視点を優雅に融合。長年の共同制作者であるフィリップ・ヨハン・ティム(チェロ、ピアノ、ギター)―本作の共同作曲・共同プロデューサーも務める―、クリストフ・“マッキー”・ハマーン(ヴァイオリン、キーボード、ベース)、イェルク・ヴェーナー(ドラム)、クリスチャン・コールハース(トロンボーン)と緊密に協働した。 また、アルバム『Tilth』ではアルメニア系アメリカ人アーティスト、KÁRYYN(アパラットのレーベルメイト)が、『Pieces, Falling』ではベルリンとローマを拠点とするミュージシャン、ヤン=フィリップ・ローレンツ(別名 Bi Disc)が参加している。


『A Hum Of Maybe』は複雑で深く個人的な作品であり、宙ぶらりんの状態を受け入れる姿勢を示している。これはアパラートにとって刺激的な新たな章の始まりを告げるものだ。

アイルランド・コーク出身のバンド、Cardinalsがデビューアルバム『Masquerade』からの最新曲「Barbed Wire」を発表した。『Masquerade』は2月13日にSo Young Recordsよりリリース予定。


「この曲は、私たちの街の歴史と、何年も前に南門橋に建っていた刑務所(Gaol house)から強く影響を受けています。歌詞では、シルエットとなった城壁や防護柵のイメージを喚起したかったのです。時に美学が、曲の構想から完成までを導くことがあります。ケヴィン・バリーの小説『ボハーンの街』も、コークをゴシック風に再構築するインスピレーションとなりました」と、フロントマンのユーアン・マニングは語る。


ザンダー・ルイスによるモノクロ映像と共に公開された「Barbed Wire」は、デビューアルバム『Masquerade』からの4曲目となる楽曲で、先行シングル「Big Empty Heart」「The Burning of Cork」に続くリリースとなる。


バンドは年末を締めくくる11月下旬にヨーロッパでのヘッドラインツアーを実施。さらに3月には『Masquerade』を引っ提げた英国・アイルランドでのヘッドライン公演を全日程発表し、パリ、ベルリン、ダブリン、ロンドン、グラスゴーなどで公演を行う。ポスト・フォンテインズD.C.として着目したいバンド。


「Barbed Wire」

Blossom Caldarone(ブロッサム・カルダローン)のニューシングル「Waxing Lyrical」がナイス・スワンからリリースされた。ブロッサム・カルダローンはロンドンを拠点に活動するソングライター、チェリスト、マルチインストゥルメンタリスト。同楽曲はクラシカルなポップソングを受け継いだ甘口のインディーポップソングである。


シングルは、BBC 6Musicでヒュー・スティーブンスが最初にオンエアし、その後BBC Radio 2でジョー・ウィリーもプレイした。パット・ピアソン(ドーター、ブルック・ベンサム)と共にデヴォンのミドル・ファーム・スタジオでレコーディングされたもので、個人的な混沌を深い人間性と抗いがたいメロディックなものに変えるブロッサムの独特な能力が表現されている。


ブロッサムは根っからの日記作家で、身の回りの世界を理解するために文章を書く。Waxing Lyrical」は、失恋を演劇的でウィットに富み、静かなカタルシスをもたらすものへと変貌させ、恋愛が終わってから長い年月が経った後、その恋愛を過剰に分析することについての皮肉交じりの考察である。


このシングルについてブロッサムはこう語っている。


「Waxing Lyricalという名前の由来は、私がその状況について話すことに文字通りうんざりしているから。夏で、暑くてベタベタしたアパートにいて、誰かと知り合って、その人があなたをイライラさせるんだけど、お互い放っておけない。そんなカオスを歌っているんだ。今となっては笑いがこみ上げてくる」


ブロッサムはクラシック音楽の訓練を受け、ザ・ビッグ・ムーン、ブラック・ミディ、イングリッシュ・ティーチャー、マヤ・デリラ、プリマ・クイーンらとコラボレートする一方、独自の世界を開拓し続けている。彼女の音楽は、BBC Radio 1、BBC 6 Music、BBC Introducing、Amazing Radio、Foundation.fm、Absolute Radio(Frank Skinner)、Hoxton Radioで紹介され、Clash、i-D、Dorkでも特集された。


ブロッサムのソングライティングはルーファス・ウェインライト、リリー・アレン、レジーナ・スペクター、カレン・カーペンターに影響を受けたと語る。演劇的なものと告白的なものの中間に位置し、ユーモア、傷心、正直さが共存する場所で、そのすべてが彼女の日記的なレンズを通してフィルターされている。 

 

「Waxing Lyrical」

 

ニューヨークのロックバンド、The Lemon Twigsがニューシングル「I've Got A Broken Heart」をリリースしました。このシングルは7インチとしてキャプチャードトラックスから発売された。ストリーミングはこちら


さらに、同時発売の7インチバージョンには、「Friday(I'm Gonna Love You」が併録されています。いずれも、古典的なロックンロールソングに回帰した一曲で、リバイバル以上のラフなロックナンバーの輝きがある。


両シングルはレモンツイッグスによるミックス、スコット・ハルがプロデュースを手がけた。12弦ギターとエレクトリックシタールが楽曲の中で使用されているのに注目したい。


既に来日公演を行い、好評を博しているレモンツイッグス。ダダリオ兄弟は来年1月からロサンゼルスの歴史的なライブハウス、トルバドールや、ニューヨークのバワリーボールルームなどの公演を控えています。


ザレモンツイッグスの最新アルバムは2024年にキャプチャードトラックスからリリースされた『A Dream Is All We Know』です。(レビューを読む)


「I've Got A Broken Heart」