▪フランスのバロック音楽とヴェルサイユ宮殿文化


バロック音楽は、イタリアのローマで始まり、オペラという新しい音楽の形式を生み出した。その後、17世紀のバロック音楽は本格的な最盛期を迎える。多くの場合、バロック音楽は、イタリアの最初期のオペラ、フランスの宮廷音楽、そして以降のドイツの宗教音楽のことを示唆する。しかし、このバロックという音楽が富と権威を象徴する存在であったことは明確である。

 

実際、17世紀以降は宮殿の建設ラッシュが始まり、この流れはヨーロッパ全体に波及していった。この中でバロック建築という側面で、最も栄華をきわめたのがヴェルサイユである。豪華絢爛な建築、それは王権神授説にも見受けられるように、絶対王政の象徴でもあったのだが、当時の富と権力を象徴するためには建築が必要であり、また、その後には生活様式が必要であった。これらの一貫として、バロック音楽は発展していった。つまり、バロック音楽とは、権力を象徴するために存在し、また、自ずとそれは華やかにならざるを得なかったのである。

 

イタリアのオペラに続いて、フランスでも新しい音楽、バレエが登場した。その舞台となったのがヴェルサイユ宮殿である。そして、この宮殿はもっぱら、「バレ」の発展の一大拠点となった。バレとはフランス語で「バレエ」を意味し、17世紀のフランスの場合は、「コメディ・バレ」や「トラジティ・リリック(叙情悲劇)」と呼ばれた。前者は可笑しみのある音楽付きの芝居劇、そして後者は、ギリシア悲劇のリバイバルで、イタリアのオペラを踏襲している。

 

フランスとイタリアのバロック音楽には、明確な相違点がある。それは装飾音の過多であり、前打音やトリル(Tr)を音符の前に付加することで、華やかな音楽のイメージを押し出した。バロックという言葉には「極端な」とか「誇張的な」という意味があるが、脚色付けや音響的な効果のために発案されたものだろう。それらは国王の権威の暗示として内在せざるを得なかった。

 

こんなふうに考えると、音楽は絶えず社会的な側面を映し出す。これらの華美さは以降のドイツのバロック音楽に引き継がれ、18世紀の重要な音楽の構成を形成した。また、トリルや前打音といった華美さを印象づける音楽性は、バロック建築の装飾のイメージとぴたりと合致している。

 

・ヴェルサイユ宮殿の文化  音楽芸術の最盛期を迎える

ルイ13世の館を改築した当初のヴェルサイユの鳥瞰図

バロック建築というのは、17世紀中頃のローマで発生し、それ以降オーストリアのウイーンで花開いた。それ以降は、フランス、スペイン、フランドル、ドイツ地方でも最盛期を迎えた。これらのバロック建築の精髄といわれるのが、ご存知、ヴェルサイユ宮殿である。


ヴェルサイユの外装、及び、内装的なデザインは、以後の時代にも権力や富の象徴であり続けた。ウイーンのシェーンブルン宮殿、ポツダムのサンスーシ宮殿、そして、日本の赤坂離宮(迎賓館)にも、全体的な意匠において、パスティーシュ的な影響を及ぼしている。豪華絢爛な建築デザインといえば、ヴェルサイユを基本にしたバロック建築群がどのような時代においても模範例となった。そもそも、ヴェルサイユ宮殿は、ルイ13世の狩猟用の小さな城館としてのルーツを持つ。しかし、17世紀初頭になると、ルイ14世の御代のフランスの絶対王政の象徴として大規模改修が行われ、バロック様式を前面に押し出した豪華絢爛な建築へと姿を変えた。 


ルイ14世 太陽神に扮してバレエの演劇に興じた

 

ルイ14世は芸術を庇護に置く王として知られ、その愛好家としての姿はある意味では度を越していた。王にとって芸術とは自らの権力を象徴し、なおかつ、 現実的な側面とは異なる奥深い人生観をもたらしたことは事実だろう。特に、この時代、ルイ14世は、バレなどの芝居で、自ら太陽神アポロンに扮し踊りを演じた。さらに宮廷楽団を創設し、大編成のお抱えの楽団を結成した。その内約は、王室礼拝堂楽団、宮廷室内楽団、野外用の厩舎音楽隊の三つに分けられる。


当時のルイ14世をはじめとする国王の一日は、明確に区分され、各々の生活様式が儀式のように行われ、その場面ごとに楽団の音楽が厳かに演奏された。ルイ14世の時代は、その生活の過剰な華美さもさることながら、自らの人生を芸術や舞台のような華やかさで縁取ろうとしたのである。 

 

鏡の回廊

 

特に、この中で最も重要なお役目を担ったのが王室礼拝堂楽団だ。このセクションは宮廷音楽家の中でも不可欠な立ち位置を担った。これは15人のオーケストラと90名の合唱団から構成され、特に礼拝堂でミサなどが行われるとき、音楽の演奏を担当した。このエピソードは、それ以前の宗教的な儀式の一部を音楽が司っていたことを推測させる。しかし、ローマカトリックの時代の儀式的な音楽に、フランスのバロック音楽を収めこむことは妥当とは言えないだろう。

 

特に、フランスのバロック音楽は、国王であるルイ14世の人生をよりドラマティックに仕立てることが多かったのである。例えば、宮廷室内音楽楽団は、「24人のヴァイオリニスト」、「ペティット・ヴィオロン(小さな楽団)」 という二つのセクションに分割されていた。


これらの楽団は、食事、祝宴、舞踏会など、ことあるごとに音楽を背後で演奏し、ルイ14世の人生をより華やかにした。また、定期的な演奏会のイベントも開催された。特に日曜日の午後、礼拝堂でミサが行われた後、ヴェルサイユ宮殿で最も有名な「鏡の回廊」で室内楽の演奏会が催された。現代風に言えば、ルイ14世は、この鏡の回廊をコンサート会場にしていたのだ!!

 

現在でも豪華なシャンデリア、絢爛な天井画など、芸術的な遺産が残されているこの間では、多くの室内楽団の人々が居並び、日曜日の安息日に華やかな楽の音を演奏したことが想像される。現代に観光客は、この鏡の回廊を訪れるとき、その建築的なデザインや芸術の美しさや凄まじさに目を奪われるだけではない。中世の文化的な営為の残影をその五感で捉えるのである。

 

こうした音楽家の中で、クープラン、シャルパンティエ、そしてリュリといったバロック期の傑出した音楽家が登場した。すべてではないが、これらの音楽家の幾人かはイタリアのフィレンェなどで音楽的な教育を受けた後、フランスに来てヴェルサイユ宮殿の文化を支えたのだった。 

 

 

▪フランスのバロック音楽の重要な作曲家

 

・クープラン(Fracois Couperin)


バロック音楽の鍵盤奏者の名手、クープランは、パリに生まれ、若い頃から音楽家であった父親から音楽教育の手解きを受け、18歳の頃にサン・ジュルヴェ教会のオルガニストを務めた。


1690年には最初のオルガン曲集を出版し、名声を得ると、1693年にルイ14世によって王室礼拝堂のオルガニストに任命され、王室楽団に入団する。また、宮廷内の王族の人々にクラブサンを教え、教育者としても活躍した。王室楽団では、常任クラブサン奏者を務めたほか、さらに宮廷作曲家としても活躍した。室内楽にとどまらず、王室礼拝堂の宗教音楽も手掛けた。

 

クラブサン(チェンバロ)の曲集が有名で、クラブサン曲集を第一巻から四巻まで出版している。その他、鍵盤奏者としての教育的な著作も残している。1716年に出版された「クラブサン奏法」がその代表例である。クープランの鍵盤曲は、宗教的な性質を持つ曲もあるが、ジーグやメヌエットなど当時の宮廷音楽の舞踏的な性質を持つ楽曲や、そのほか、民謡的な性質を持つ楽曲まで広汎に及ぶ。クープランは華美な装飾音を伴う、バロック音楽の象徴的な作曲家である。

 

 

 

・リュリ(Jean-Baptiste Lully)



ルイ14世が愛好してやまない舞台音楽に大きな貢献を果たし、また、ヴェルサイユ文化を支えたリュリの存在も度外視出来ない。彼こそ、フランスのバレエ音楽の重要な先駆者といえる。


リュリはイタリアのフィレンツェ出身。14歳のときにパリにやってきた。彼は、ヴァイオリニストとして活躍しただけではなく、舞踏家としても知られている。1653年に弱冠二十歳にして国王とともにバレエを踊り、名声を獲得。その後、お抱えの音楽家として大出世した。宮廷入りしたリシュは、「ペティット・ヴィオロン」の楽団員として任命され、その後、1661年にはイタリアからフランスに帰化した。宮廷音楽家の中でも最も権威的な人物であり、宮廷すべての音楽を監督する総監督に命じられた。その翌年には王室の音楽教師にも就任した。

 

リュリは共同制作にも励んだ。劇作家のモリエールと協力し、舞台音楽の制作に専念した。当時建設中であったヴェルサイユの中庭で祝宴が開かれた1664年、コメディ・バレの作品「魔法の島の楽しみ」が上演。また、中庭での芝居は定期的に開かれ、オペラ「アルセスト」の版画も残されている。これらはギリシア悲劇、イタリアのオペラと並び、芝居文化の重要な系譜を形作った。また、モリエールとリュリはその後も頻繁に共同制作に取り組んだ。彼らが制作したコメディ・バレの総数は全11曲にも及ぶ。そしてそれらはヴェルサイユで上演された。


しかし、その後、コメディ・バレは国王の出演が断念され、またこの二人がたもとを分かったこともあり、ヴェルサイユ宮殿の文化の最盛期を担った後、急速に衰退していった。その後、ルイ14世とリュリはオペラに夢中になる。リュリは王立音楽アカデミーのオペラの上演者を買取り、フランスの舞台音楽に注力し始めた。


1673年から1686年には、ギリシア悲劇のリバイバルであるトラジェディ・リリックを作曲し、フランスのオペラの第一人者としての地位を不動のものとした。トラジェディ・リリックの多くは、ギリシア神話に基づく5幕構成の舞台作品であり、演者のセリフなどは母国語のフランス語で構成される。これらの他国の文化を取り入れ、独自の音楽として成立させようという試みは、イタリアのオペラと同様であり、その後のバロック以降の音楽の重要なテーマになった。

 

リュリの音楽の主な意図は特に、民謡的な舞踏音楽と芝居のような舞台音楽のクロスオーバーである。これらの作品からはメヌエット、ブーレといった後の古典派に強い影響を及ぼす音楽形式も出てきた。どのような文化も独立したものだけでは確立されず、他国家の文化を上手く取り入れて、それを発展させていくことが、このエピソードから汲み取っていただけるはずだ。

 

ところが、リュリは悲劇的な死を遂げる。1687年に、国王の病の回復を祝う演奏会で指揮者を務めたとき、指揮棒を誤って足に落とし、その傷口が元で死去。悲劇的なバレエの作者がその演奏会でなくなるというのは、まさにヴェルサイユ文化の舞台作品の中に生きる人物のようであり、また、ルイ14世の絶対王政の侍者としてのエピソードを明確に象徴づけている。リュリの碑文には、「ルイ大王とヨーロッパ中の支持を勝ち取った」との記述が残されている。

 


Album Of The Year 2025    Vol.1 



毎年のようにアルバムオブザイヤーのリストを眺めていますと、年々、目録そのものが膨大になり、内容もまた濃密になっているという気が致します。私自身もすべてを把握しているというわけではございませんが、今年の音楽の流れを見ていると、ジャンルを問わず、全体的にポップ化しているという印象を受けます。ポップ化というのは、音楽が一般化されるということで、より多くのリスナーを獲得したいというミュージシャン側の意図も読み解くことができます。

 

日に日に、ジャンルそのものは多様化し、細分化しているため、以前のようなロックやポップという大まかなジャンルというのはさほど意味をなさなくなってきています。それが全体的なクロスオーバーの流れを象徴づけており、ポップアーティストがロックに傾倒したり、対照的にロックアーティストがポップソングを制作したりというように、音楽そのものはより多様化しています。これもまた、イギリスやアメリカといった音楽の主要な産業地の特色です。なおかつ、今年はこれまであまり大きな注目を受けてこなかった地域のアーティストの活躍が目立ちました。

 

アフリカ圏のミュージシャンが音楽産業の主要地のレーベルから登場した事例や、イスラム圏の音楽家の活躍も目立ち始めています。また、ドイツのミュージシャンの活躍も際立っていました。今までワールドミュージックとして認識されてきた地域の音楽がメインストリームに現れたことに加え、音楽という分野が往古から栄えてきた地域で復興運動が沸き起こっています。これを音楽のルネッサンス運動とまでは明言することは出来かねますが、面白い流れが見出せます。

 

今日のグローバル化した世界はさまざまな人種や文化を内包させながら、変化していくなさかにある。我々の時代は次なる段階を迎えつつあり、雑多な文化を取り込み、明日の世界は形作られていく。世界的な文化観が形成されていく中で、同時に、もう一つカウンター的な流れを捉えることも出来ます。それが独自のローカライゼーション(地域化)に注目するグループであり、これは''その土地の特性や風土を生かした音楽を打ち出す''というスタイルに他なりません。


従来の世界において音楽という分野は社会と連動してきた経緯があります。なぜなら、音楽という行為は、大小を問わず、個人や大衆の社会の姿を映し出すものであり、世界そのものだからです。結局のところ、グローバル/ローカルという分極化こそ、2025年のミュージックシーンの核心でもありました。また、それこそが今日の社会における課題ともなっています。その二つの潮流を捉えきれなかった場合は、音楽シーン全体がきわめて混雑した印象を覚えたのではないかと思います。惜しくもここで紹介することが出来なかったアルバムもいくつかありますが、何卒ご了承下さい。


いずれにせよ、例年より強力なベストアルバムリストを年末年始の休暇にお楽しみください。リストは基本的に発売順で順不同です。

 

▪️EN


Every year as I look through the lists of Albums of the Year, I feel that the catalog itself grows more enormous and its content more dense with each passing year. While I don't claim to be familiar with everything myself, observing this year's musical trends gives me the impression that, regardless of genre, there's an overall shift towards pop. This pop-oriented trend signifies music becoming more mainstream, and I can also discern the musicians' intention to reach a wider audience.


Day by day, genres themselves are diversifying and becoming more fragmented, making broad categories like rock or pop less meaningful than before. This symbolizes the overall crossover trend, where music itself is becoming more diverse—pop artists leaning into rock, or conversely, rock artists creating pop songs. This is also characteristic of major music industry hubs like the UK and the US.Furthermore, this year saw notable success from artists in regions that haven't received much significant attention until now.


Examples include African musicians emerging on major labels in key music industry hubs, and the growing prominence of musicians from Islamic regions. German musicians also stood out significantly.Beyond the emergence of music from regions previously categorized as "world music" into the mainstream, a revival movement is stirring in areas where music has flourished since ancient times. While it may be premature to explicitly call this a musical renaissance, an intriguing trend is certainly emerging.


Today's globalized world is in a state of flux, encompassing diverse races and cultures. Our era is approaching the next stage, incorporating varied cultures to shape tomorrow's world.Amidst the formation of a global cultural perspective, we can simultaneously discern another counter-current. This involves groups focusing on unique localization, which is nothing less than a style that "produces music utilizing the characteristics and climate of the land."


Historically, music has been intertwined with society. This is because music, regardless of scale, reflects the social reality of individuals and the masses—it is the world itself. Ultimately, this dichotomy of global versus local was at the core of the 2025 music scene. Moreover, it represents a major societal challenge today. Without recognizing these two currents, the entire music scene might have seemed overwhelmingly crowded. Unfortunately, there are some albums we were unable to feature here, but we kindly ask for your understanding.


In any case, please enjoy our year-end holiday with a best albums list that's stronger than ever!!


 

 1. Moonchild Sanelly 『Full Moon』- Transgressive   (Album Of The Year  2025)


 

南アフリカ出身のゲットーファンクの女王、Moonchild Sanelly(ムーンチャイルド・サネリー)は、2025年、Transgressiveが大きな期待をもって送り出したアーティストである。

 

南アフリカのダンスミュージック、アマピアノ、Gqomから 「フューチャー・ゲットー・ファンク」と呼ばれる彼女自身の先駆的なスタイルまで、南アフリカの固有ジャンルを多数網羅したディスコグラフィーを擁する。ムーンチャイルド・サネリーは、ビヨンセやティエラ・ワック、ゴリラズ、スティーヴ・アオキなどのアーティストとコラボレートしてきた南アフリカのスーパースター。


エレクトロニック、アフロ・パンク、エッジの効いたポップ、クワイト、ヒップホップの感性の間を揺れ動くクラブビートなど、音楽的には際限がなく、幅広いアプローチが取り入れられている。サネリーは、サウンド面でも独自のスタイルを確立しており、オリジナルファンから愛されてやまないアマピアノと並び、南アフリカが提供する多彩なテックハウスのグルーヴを強調付けている。サネリーのスタジオでの目標は、ライブの観客と本能的なコネクションを持てるような曲を制作することである。さらに、彼女は観客に一緒に歌ってもらいたいと考えている。


最新アルバム『Full Moon』において、サネリーは自分自身と他者の両方を手放し、受容という芸術をテーマに選んだ。曲作りの過程では、彼女は自己と自己愛への旅に焦点を絞り、スタジオはこれらの物語を共有し、創造的で個人的な空間を許容するための場所の役割を担った。


彼女が伝えたいことは、外側にあるものだけとは限らず内的な感覚を共有したいと願ってやまない。それは音楽だけでしか伝えづらいことは明らかだろう。「私の音楽は身体と解放について歌っている。自分を愛していないと感じることを誰もOKにはしてくれない」と彼女は説明する。BBCの音楽番組で放映された「Do My Dance」は、最高の陽気なクラブビート。同時に、アルバムの後半に収録されている「Mintanami」もアフリカンポップの名曲に挙げられる。

 

 「Do My Dance」

 

 

 

2.Mogwai 『The Bad Fire』- Rock Action

この数年、スコットランドのモグワイは、2020年のEP『Take Side』を除いては、その仕事の多くがリミックスや映像作品のサウンドトラックのリリースに限定されていた。見方によってはスタジオミュージシャンに近い形で活動を行っていた。


『The Bad Fire』は、四人組にとって久しぶりの復帰作となる。以前はポストロックの代表的な存在として活躍したばかりではない。モグワイは音響派の称号を得て、オリジナリティの高いサウンドを構築してきた。

 
『The Bad Fire』は、”労働者階級の地獄”という意味であるらしい。これらは従来のモグワイの作品よりも社会的な意味があり、世相を反映した内容となっている。モグワイのサウンドは、シューゲイズのような轟音サウンド、そして反復構造を用いたミニマリズム、それから70年代のハードロックの血脈を受け継ぎ、それらを新しい世代のロックへと組み替えることにあった。ミニマリズムをベースにしたロックは、現代の多くのバンドの一つのテーマともいえるが、モグワイのサウンドは単なる反復ではなく、渦巻くようなグルーブ感と恍惚とした音の雰囲気にあり、アンビエントのように、その音像をどこまで拡張していけるのかという実験でもあった。

 

それらは彼らの代表的な90年代のカタログで聴くことができる。そして、この最新作に関して言えば、モグワイのサウンドはレディオヘッドの2000年代始めの作品と同様に、イギリスの二つの時代の音楽を組み合わせ、新しいハイブリッドの音楽を生み出すことにあった。エレクトロニックとハードロック。これらは、彼らがイギリスのミュージック・シーンに台頭した90年代より以前のおよそ二十年の音楽シーンを俯瞰して解釈したものであったというわけなのだ。復活という言葉が最適かはわからない。しかし、モグワイのサウンドは、依然としてクラシック音楽のように、ロックの伝統に定着しており、鮮烈な印象をもって心を捉えてやまない

 

 「What Kind of Mix Is This?」

 

 

 

3.Lambrini Girls 『Who Let The Dog Out』- City Slang



 ランブリーニ・ガールズはブライトンを拠点に活動するヴォーカリスト/ギタリストのフィービー・ルニーとベーシストのリリー・マキーラによるデュオ。

 

ランブリーニ・ガールズは、ライオット・ガールパンクの先駆者的な存在、Bikini Kllを聴いて大きな触発を受けたという。そして、彼女たちもまた、次世代のライオット・ガールのアティテュードを受け継いでいるのは間違いない。今年、グラストンベリー・フェスティバルに出演し、話題を呼んだ。記念すべきデビュー・アルバムは、痛撃なハードコア・パンクアルバムである。ユニットという最小限の編成ではありながら、かなり音圧には迫力がある。このアルバムで、ランブリーニ・ガールズは、有害な男らしさについて言及し、痛撃に批判している。

 

実際的に、ランブリーニ・ガールズのボーカル(実際にはスポークンワードとスクリームによる咆哮)にはっきりと乗り移り、すさまじい嵐のようなハードコアサウンドが疾駆する。実際的には、ランブリーニガールズのパンクは、現在のポスト・パンクの影響がないとも言いがたいが、Gorlilla Biscuits、Agnostic Frontといった、ニューヨークのストレート・エッジがベースにありそうだ。アルバムの中では「You're Not From Around Here」がとてもかっこよかった。

 

 

 「You're Not From Around Here」

 

 

4.Franz Ferdinand  『The Human Fear』- Domino




本当に良かったと思うのが、フランツ・フェルディナンドの音楽がいまだに古びず、鮮烈な印象を擁していたことである。アークティック・モンキーズやホワイト・ストライプスと並んで、2000年代のロックリバイバルをリードしたのがフランツ・フェルディナンドであった。

 

彼らはライブ・バンドとしての威厳を示し、そしてレコーディングでもいまだにリアルタイムのバンドとしての存在感を示している。このアルバムは、2013年の『Right Thoughts, Right Words, Right Action』でバンドと仕事をしたマーク・ラルフがプロデュースした。



人類の恐怖について主題が絞られているが、それは恐れを植え付けるものではない、それとは対象的に、そこから喜びや楽しさを見出すということにある。「このアルバムの制作は、私がこれまで経験した中で最も人生を肯定する経験のひとつだった。恐怖は、自分が生きていることを思い出させてくれる。私たちは皆、恐怖が与えてくれる喧騒に何らかの形で中毒になっているのだと思う。それにどう反応するかで、人間性がわかる。だからここにあるのは、恐怖を通して人間であることのスリルを探し求める曲の数々だ。一聴しただけではわからないだろうけど」

 

新メンバーを加え、ダンスロック/ディスコロックの英雄は、新しい記念碑的なカタログを付け加えることに成功した。本作には混じり気のないロックソングの魅力が凝縮されているように思える。 ある意味では、フランツ・フェルディナンドというバンド名の由来に回帰するような作品である。20年経っても音楽の軸は変わらない。これはこのバンドの流儀ともいうべきもの。

 


「Night or Day」

 

 

5.Sam Fender 『People Watching』- Polydor  (Album of The Year 2025) 



ニューカッスル出身のソングライター、サム・フェンダーはデビュー当時から、アーティストとはどのような存在であるべきか、真面目に考えてきた人物である。デビュー当時は、メンタルヘルスに問題を抱え自殺する若者など、社会的な弱者に対するロックやポップソングを提供してきた。

 

テーマは年代ごとに変化し、現在では、アルバムのタイトル曲のテーマである天国にいる代理母に歌を捧げた、音楽性は、デビュー当時の延長線上にあるが、より音楽はドラマティックさをまし、多くの音楽ファンの心に響く内容となった。これは、私自身の言葉ではないが、ある人物がこのように言っていた。オアシスはみんな勇気を持つようにということを歌っていたが、サム・フェンダーはできなくても良いんだと許容する存在である、と。これは、社会的な人間の役割や努力の限界性を象徴づけるものである。ロックやポップソングが時代とともにその内容も変化してきている。今作は、英国内の主要な音楽賞(マーキュリー賞)を獲得したことからも分かる通り、現代のUKロック/ポップを象徴付ける画期的な作品ともいえるかもしれない。

 

ニューカッスルのスタジアムの公演を前に体調不良でキャンセルしたフェンダーさんであったが、今作を期に、英国の音楽シーンをリードするトップランナーであることを再び証明している。 

 

「Remember Me」 

 

 

6.Anna B Savage 『You & I are Earth』- City Slang 



アイルランドを拠点に活動を行うAnna B Savageは、三作目のアルバムにおいて、地球や自然、そして人間たちがどのように共生すべきかをオーガニックな風合いに満ちたフォークミュージックと詩により探索している。 こういったアルバムを聴かないうちはなにもはじまらない。

 

音楽的な舞台はアイルランド。サヴェージと当地のつながりは、およそ10年前以上に遡り、マンチェスターの大学で詩を専攻していたときだった。「シアン・ノーの歌についてのエッセイ、カートゥーン・サルーンのものを見たり、アイルランドの神話について読んだりした」という。

 

以来、アンナ・B・サヴェージは多くの時間をアイルランド西海岸で過ごしている。ツアー(今年はザ・ステイヴスやセント・ヴィンセントのサポートで、以前にはファーザー・ジョン・ミスティやソン・ラックスらとツアーを行った。その合間には、故郷のドニゴール州に戻り、仕事のためにロンドンを訪れ、当地の文化的な事業に携わっている。

 

アイルランド/スライゴ州の森林地で撮影された写真で、サヴェージが木々を見上げ、そのフラクタルが彼女の目に映し出されている。彼女が瞑想中に感じた何かを映し出し、私たちを一回りさせる。私たちは本質的に一体で、少なくともそうあろうと努力しており、「あなたと私は地球」という感覚に立ち戻らせる。 「You & I are Earth」はその名の通り、安らぎのフォークミュージックをお探しの方に最適な一枚である。同時に、このアルバムは自然と人間の関係について深く思案させる。メッセージとしても今後の共生のあり方が、それとなく問われているのだ。

 

 「You & I are Earth」

 

 

7.FACS 『Wish Defense』- Trouble In My Mind (Album of The Year 2025) 



シカゴのブライアン・ケース率いる、Facsのアルバム『Wish Defense』は今年一番の衝撃だった。ポストロックやアートロックの完成形であり、アヴァンギャルドミュージックの2025年の最高傑作の一つである。アルビニのお膝元である同地の”エレクトリカル・オーディオ・スタジオ”で録音されたが、奇妙な緊張感に充ちている。例えれば真夜中のスタジオで生み出されたかのようで、人が寝静まった時間帯に人知れずレコーディングされたような作品である。トリオというシンプルな編成であるからか、ここには遠慮会釈はないし、そして独特の緊張感に満ちている。それは結局、スティーヴ・アルビニのShellac、Big Blackのアプローチと重なるのである。

 

さながらこのアルバムがアルビニの生前最後のプロデュースになると予測していたかのように、ブライアン・ケースを中心とするトリオはスタジオに入り、二日間で7曲をレコーディングした。生前のアルビニが残したメモを参考に、ジョン・コングルトンが完成させた。要するに、名プロデューサーのリレーによって完成に導かれた作品である。『Wish Defense』は、80年代のTouch & Goの最初期のカタログのようなアンダーグラウンド性とアヴァンギャルドな感覚に充ちている。どれにも似ていないし、まったく孤絶している。その劇的なロックサウンドは、まさしくシカゴのアヴァンギャルドミュージックの系譜を象徴づけるといえるだろう。結局、このサイトは、こういったアンダーグランドな音楽を積極的に推すために立ち上がったのだ。

 

 

 「Ordinary Voice」

 

 

8.Miya Folick 『Erotica Veronica』- Nettwerk Music Group



ロサンゼルスのシンガーソングライターのミヤ・フォリックは、2015年の『Strange Darling』と2017年の『Give It To Me EP』という2枚のEPで初めて称賛を集めた。2018年にインタースコープから発売されたデビューアルバム『Premonitions』は、NPR、GQ、Pitchfork、The FADERなど多くの批評家から称賛を浴びたほか、NPRのタイニー・デスク・コンサートに出演し、ヘッドライン・ライヴを完売させ、以降、ミヤは世界中のフェスティバルに出演してきた。

 

ミヤ・フォリックは、このアルバムにおいて、自身の精神的な危機を赤裸々に歌っており、それは奇異なことに、現代アメリカのファシズムに対するアンチテーゼの代用のような強烈な風刺やメッセージともなっている。アルバムの五曲目に収録されている「Fist」という曲を聞くと、見過ごせない歌詞が登場する。これは個人の実存が脅かされた時に発せられる内的な慟哭のような叫び、そして聞くだけで胸が痛くなるような叫びだ。これらは内在的に現代アメリカの社会問題を暗示させ、私達の心を捉えて離さない。時期的には新政権の時代に書かれた曲とは限らないのに、結果的には、偶然にも、現代アメリカの社会情勢と重なってしまったのである。
 

本作が意義深いと思う理由は、ミヤ・フォリックの他に参加したスタジオ・ミュージシャンのほとんどがメインストリームのバックミュージシャンとして活躍する人々であるということだろう。このアルバムは、確かにソロ作ではあるのだけれど、複数の秀逸なスタジオ・ミュージシャンがいなくては完成されなかったものではないかと思う。特に、 メグ・フィーのギターは圧巻の瞬間を生み出し、全般的なポピュラー・ソングにロックの側面から強い影響を及ぼしている。非常に力感を感じさせるアルバムだ。インディーロック/インディーポップのどちらとして聞いても粒ぞろいの名曲が揃っている。「Fist」、「Love Want Me Dead」は文句なしの名曲。

 

 「Love Want Me Dead」

 


9.Bartees Strange 『Horror」- 4AD



 


前作では「Hold The Line」という曲を中心に、黒人社会の団結を描いたバーティーズ・ストレンジ。2作目はなかなか過激なアルバムになるのではと予想していたが、意外とそうでもなかった。しかし、やはり、バーティーズ・ストレンジは、ブラックミュージックの重要な継承者だと思う。どうやら、バーティーズ・ストレンジは幼い頃、家でホラー映画を見たりして、恐怖という感覚を共有していたという。どうやら精神を鍛え上げるための訓練だったということらしい。

 

この2ndアルバムは「Horror」というタイトルがつけられたが、さほど「ホラー」を感じさせない。つまり、このアルバムは、Misfitsのようでもなければ、White Zombieのようでもないということである。アルバムの序盤は、ラジオからふと流れてくるような懐かしい感じの音楽が多い。その中には、インディーロック、ソウル、ファンク、ヒップホップ、むしろ、そういった未知なるものの恐怖の中にある''癒やし''のような瞬間を感じさせる。

 

もしかすると、映画のワンシーンに流れているような、ホッと息をつける音楽に幼い頃に癒やされたのだろうか。そして、それが実現者となった今では、バーティーズがそういった次の世代に伝えるための曲を制作する順番になったというわけだ。ホラーの要素が全くないとは言えないかもしれない。それはブレイクビーツやチョップといったサンプルの技法の中に、偶発的にそれらのホラー感覚を感じさせる。たとえ、表面的な怖さがあるとしても、その内側に偏在するのは、デラソウルのような慈しみに溢れる人間的な温かさ、博愛主義者の精神の発露である。これはむしろ、ソングライターの幼少期の思い出を音楽として象ったものなのかもしれない。 

 

『Horror』は単なる懐古主義のアルバムではないらしく、温故知新ともいうべき作品である。例えば、エレクトロニックのベースとなる曲調の中には、ダブステップの次世代に当たる''フューチャーステップ''の要素が取り入れられている。こういった次世代の音楽が過去のファンクやヒップホップ、そしてインディーロックなどを通過し、フランク・オーシャン、イヴ・トゥモールで止まりかけていた、ブラックミュージックの時計の針を未来へと進めている。おそらく、バーティーズ・ストレンジが今後目指すのは"次世代のR&B"なのかもしれない。

 

「Norf Gun」

 

 

10.Annie DiRusso  『Super Pedestrian』-Summer Soup Songs(Album of The Year 2025)


アルバムの中に収録されたたった一曲が、そのアルバムやアーティストのイメージを変えてしまうことがある。『Super Pedestrian』の最後に収録されている「It's Good To Be Hot In The Summer」は感動的な一曲だった。3月に発売されたアルバムだが、圧倒的に夏のイメージが強い。

 

ナッシュビルで活動するソングライター、アニー・デルッソ(Annie DiRusso)は、「『Super Pedestrian』は、私という人物を表現していると思うし、「It's Good To Be Hot In The Summer」は、このアルバムの趣旨をよりストレートに表現していると思う。ようするにデビューアルバムとしては、少し自己紹介のようなことをしたかったんだと思う」という。



アーティスト自身のレーベルから本日発売された『Super Pedestrian』には、デルッソが2017年から2022年にかけてリリースした12枚のシングルと、高評価を得た2023年のEP『God, I Hate This Place』で探求したディストーションとメロディの融合をベースにした切ないロックソングが11曲収録されている。 これらのレコーディングはすべてプロデューサーのジェイソン・カミングスと共に行われ、新作は2023年にミネアポリスで行われたショーの後にディルッソが出会ったケイレブ・ライト(Hippo Campus、Raffaella、Samia)が指揮を執った。


「ジェイソンとの仕事は好きだったし、長い付き合いと仕事のやり方があった。けれど、今回のフルレングスのアルバムでは、自分のサウンドをどう広げられるか、何か違うことをやってみたいと思った。いろいろなプロデューサーと話をしたんだけど、ケイレブというアイディアに戻った」


本作は2024年2月と3月にノースカロライナ州アッシュヴィルのドロップ・オブ・サン・スタジオで録音された。 『スーパー・ペデストリアン』の公演では、彼女が歌とギターを担当し、マルチインストゥルメンタリストのイーデン・ジョエルがベース、キーボード、ドラム、追加ギターなどすべての楽器を演奏した。 今作には共作者のサミア(「Back in Town」)とラストン・ケリー(「Wearing Pants Again」)がゲスト・バッキング・ヴォーカルとして参加している。アニーは、Samia、Soccer Mommyとのツアーを経験している。これからの活躍が非常に楽しみなソングライターだ。

 

 

 「It's Good To Be Hot In The Summer」

 

 

・Vol.2に続く



本日、ロンドンのギタリスト/作曲家のRobin Kats(ロビン・カッツ)が坂本龍一の代表曲である「Merry Christmas, Mr. Lawrence」のカヴァー曲を配信リリースした。


ロビン・カッツは、ジプシー・ジャズ、ノマド・フォーク、フラメンコ、ロック、ブルース、新古典派音楽の狭間に位置するスタイルで、そのサウンドは叙情的で魂に響き、唯一無二の認識性を備えている。

 

幼い頃からフラメンコの情感豊かな音色に影響を受け、ロマ音楽とスウィング・ジャズを融合させたジプシー・スウィング(マヌーシュ・スウィング)の創始者、ジャンゴ・ラインハルトの卓越した技に感化されたロビン。


幼少期をスペインで過ごした彼は、5歳の頃から母親に連れられてフラメンコのコンサートに足を運んでいた。中でも印象的だったのが、スペインのギタリストでフラメンコやジャズの分野で活躍するパコ・デ・ルシアであった。  


その後、13歳の時にはガンズ・アンド・ローゼズのギタリストのスラッシュ(Slash)にハマり、誕生日に母親がギターを買い与えたことから自らも演奏するようになった。


そんな彼が、このクリスマスにあわせて特別なカヴァー楽曲を完成させた。その名も「Merry Christmas Mr.Lawrence」。大島渚監督による映画『戦場のメリークリスマス』の原題であり、坂本龍一が手がけたサウンドトラックの曲名でもある名曲をロビンの新解釈によってギターとストリングスで再現している。


ジャワの日本軍捕虜と英国兵の温かなやりとりをリアリスティックに描いたこの映画では、坂本龍一がデヴィッド・ボウイと共演を果たした。坂本龍一は、後に彼の代表的な楽曲となり、重要なライブレパートリーともなったこの曲を、多忙の中、ほぼ寝ずに仕上げたという逸話がある。


同楽曲についてロビン本人は次のように話している。


「初めて『戦場のメリークリスマ ス』を学校で観て、すぐにこの映画に夢中になったよ。坂本龍一のテーマ曲は、一聴してわかる名曲であるだけでなく、僕の子供時代への郷愁を呼び起こすため、僕にとって特別な意味を持っているんだ」


「今回のカヴァーでは、オリジナルを数回聴いただけでギターを手に取り、自ら演奏することにした。そうすることで、メロディに忠実でありながら、僕自身のスタイルとヴィジョンを反映した解釈を生み出せるから。幸運にもプロデューサー のトム・チチェスター=クラーク(ペンギン・カフェ)、そして、最も美しい弦楽セクションを創り出した編曲家のバラク・シュムールと一緒に仕上げることができたよ」


現在、同楽曲のオーディオ・ビデオが公開となっているので、ぜひチェックしてほしい。


「Merry Christmas, Mr. Lawrence」



Robin Kats 「Merry Christmas Mr.Lawrence」(Cover of Ryuichi  Sakamoto)


Listen: https://bfan.link/merry-christmas-mr-lawrence-1



バイオグラフィー


Robin Kats(ロビン・カッツ)は、英国/ロンドンを拠点とするギタリスト兼作曲家であり、その音楽はジャズの伝統に根ざしつつも、フラメンコやボサノヴァから新古典主義的ミニマリズム、ファンク、ソウル、90年代ヒップホップに至るまで幅広い影響を受けて形成されてきた。


英国各地で幅広く演奏活動を行ない、ディスクロージャー、 ルーベン・ジェームス、ジョージア・セシル、ジャコモ・スミス、クロッシュ・ カナニ、ロンドン・ジャンゴ・コレクティブ、ジョセフ・ローレンスらと共演している。


2024年にリリースした、トランペッターのガイ・バーカーとの共作によるデビューEP『オーシャンズ・フォー・エロス』で彼の広大な音楽的表現が披露され、その後、Freemonkがプロデュースした最新アルバム『ロック・ミュージック』を2025年にリリース。同年12月、坂本龍一の楽曲のカヴァー「Merry Christmas Mr.Lawrence」を配信リリース。


 今年1月に批評家から高い評価を受けた待望のデビューアルバム『ファミリア』をリリースした、ロンドンを拠点とするプロデューサーでシンガー・ソングライターのリザ・ロー。8月には新ライヴEP『ファミリア:ライヴ・アット・ギアボックス』をデジタルリリースした彼女が新曲「He is, I am」を発表した。ホリデーシーズンのリリースであるが、表向きにはホリデーソングではない。ジョニ・ミッチェル、キングを彷彿とさせる本格派のフォークソングに挑戦している。


「He is, I am」は、薄れゆく関係における静かな疑念を探求する、飾り気のないフォーク・ソング。親密さを保つために正直さを隠してしまう瞬間を歌っている。ロンドン北部でダイレクトにテープに録音された同楽曲は、リザを彼女のフォークのルーツへと再びつなぎ、ニック・ドレイクやジョニ・ミッチェルからインスピレーションを得ながら、彼女自身の親密なサウンドを刻み出している。


この季節にふさわしい内省的な孤立感を反映しており、長い夜や移ろいゆく光にぴったりのサウンド・トラックとなっている。ミュージックビデオが公開となっているので、ぜひチェックしてほしい。



「He is, I am」



デーモン・アルバーン(Blur)のスタジオ13で、リザのバンドとジョン・ケリー(ケイト・ブッシュ/ポール・マッカートニー)と共にレコーディングされた彼女のデビューアルバム『ファミリア』は、脳梗塞で友人を亡くしたこと、ヨーロッパにある故郷を離れること、そして現代の人間関係にまつわる複雑といったあらゆることに触れている。不気味で親密なギター、レトロでポップなシンセサイザーとベース、クリスタルのようなピアノが、儚さと自己の強さの両方を表現している。DIY、Notion、BBC Introducingといった海外メディアから賞賛を受けた作品である。



「He is, I am」-New Single



Listen: https://bfan.link/he-is-i-am


【アルバム情報】

アーティスト名:Liza Lo(リザ・ロー)

タイトル名:Familiar(ファミリア)

品番:GB1598CD (CD) / GB1598 (LP)

発売日:発売中!

レーベル:Gearbox Records


<トラックリスト>

(CD)

1. Gipsy Hill

2. Morning Call

3. Darling

4. Catch The Door

5. A Messenger

6. As I Listen

7. Open Eyes

8. Anything Like Love

9. What I Used To Do

10. Confiarme

11. Show Me


(LP)

Side-A


1. Gipsy Hill

2. Morning Call

3. Darling

4. Catch The Door

5. A Messenger

6. As I Listen

Side-B


1. Open Eyes

2. Anything Like Love

3. What I Used To Do

4. Confiarme

5. Show Me



アルバム『ファミリア』配信中! 

https://bfan.link/familiar-3


Credits:

Liza Lo - Vocals, Acoustic Guitar, Piano, Backing Vocals, Synthesisers Sean Rogan - Piano, Backing Vocals, Acoustic & Baritone Guitar Maarten Cima - Electric, Rubber Bridge & Baritone Guitar

Tom Blunt - Drums 


Freek Mulder - Bass

Ben Trigg - Cello & String Arrangements (Gipsy Hill, Open Eyes & A Messenger) Emre Ramazanoglu - Percussion (Catch The Door & Anything Like Love)

Chris Hyson - Synthesisers & Programming (Confiarme)

Wouter Vingerhoed - Prophet (What I Used To Do) 


 


Recorded at Studio 13 and Tileyard Studios in London

Produced by Jon Kelly and Liza Lo

Additional and co-production by Wouter Vingerhoed (What I Used To Do), Topi Killipen

(Morning Call), Sean Rogan (Confiarme) and Chris Hyson (Confiarme)

Written by Liza Lo together with Topi Killipen (Morning Call), Emilio Maestre Rico (Darling),

Peter Nyitrai (Open Eyes), Melle Boddaert (Gipsy Hill), Hebe Vrijhof (What I Used To Do) &

Wouter Vingerhoed (What I Used To Do)

Mixed by Jon Kelly

Mastered by Caspar Sutton-Jones & Darrel Sheinman

Engineered by Giacomo Vianello and Ishaan Nimkar at Studio 13 and Ned Roberts at Tileyard Studios Released by Gearbox Records



Liza Lo(リザ・ロー):


スペインとオランダで育ち、現在はロンドンを拠点に活動するシンガー・ソングライター/プロデューサー/ミュージシャン。優しくも力強い歌声で愛、喪失、成長の物語を紡ぐことを特徴とし、ビッグ・シーフ、キャロル・キング、ドーターやローラ・マーリングなどからインスピレーションを受けながら、独自の親密で詩的な音楽世界を創り出している。


EP『Flourish』はSpotifyの 「New Music Friday UK/NL/BE 」に選出され、「The Most Beautiful Songs in the World 」プレイリストでも紹介された。2024年5月、Gearbox Recordsと契約。自身のUKヘッドライン・ツアー、ステフ・ストリングスやVraellのオープニングをUK各地で務めたほか、ハリソン・ストームとのEU/UKツアーもソールドアウトさせた。


2025年1月、ジョン・ケリー(ポール・マッカートニー、ケイト・ブッシュ)とバンドと共に制作したアルバム『ファミリア』をリリース。同年8月、新ライヴEP『ファミリア:ライヴ・アット・ギアボックス』を、11月にはニュー・シングル「He is, I am」をデジタル・リリースした。


KANDYTOWNやKID FRESINO、JJJなど数々のプロデュースを始め、「Red Bull 64 Bars」や「RAP STAR 2025」へのビート提供で知られる日本のヒップホッププロデューサー、ビートメイカー、Noshが自身の名義として初のEP作品「MORFH」を2026年1月9日(金)にリリースします。


新作EPは先行シングルとした配信した楽曲に加え、新たな客演楽曲、ビートなどを収録した作品となる。Marfa by Kazuhiko Fujitaが手掛けたアートワークも公開となりました。下記よりご覧下さい!!


Nosh「MORFH」



Digital | MUTHOS-005 | 2026.01.09 Release

Released by MUTHOS / AWDR/LR2

Link:[ https://ssm.lnk.to/MORFH ]



▪️EPリリースを記念したイベントが福岡、東京にて開催が決定!


Nosh「MORFH」のリリースを記念したイベントが福岡・東京にて開催決定。1月17日(土)に福岡・The Voodoo LoungeではSCRATCH NICE「Let This be The Healing」とのWリリース・パーティー、2月23日(月・祝)には東京・代官山にあるORD.にてリリースイベントを開催する。福岡のイベントフライヤーが公開され、東京公演の詳細は後日発表となる。


・Better Than Yesterday presents


Nosh「MORFH」Release Party Fukuoka

2026/1/17 (sat)

at The Voodoo Lounge

Open 22:00 / End 5:00

Pre 3500yen+1D / Door 4500yen+1D


・SP Release Guest

Nosh

SCRATCH NICE


・SP Guest Shot Live

仙人掌

ACE COOL


SP Guest DJ

16FLIP

SHOE


・SP Featuring Guests

COVAN

homarelanka


・Live

Venus

Tommy Nemus

J.BRITE

KNT


・DJ

SOU

Flyingpay

KURATME


・前売りチケット販売店

APPLE BUTTER STORE [ https://www.instagram.com/apple_butter_store ]

FOOLS GOLD [ https://www.instagram.com/foolsgold_fuk ]

stockroom [ https://www.instagram.com/stockroom_fukuoka ]



・Nosh「MORFH」 Release Party Tokyo

2026/2/23 (mon・祝)

at Daikanyama ORD. [ https://www.ord-daikanyama.com ]

Open 17:00 / End 24:00


Release Artist

Nosh


Featuring Artists

TBA



Nosh:


トラックメイカー、プロデューサー。現在のヒップホップシーンにて活躍する数々のアーティストへのビート提供で知名度を上げ、独自な制作活動を行なっている。サンプリングから打ち込みなど、ジャンルにとらわれず最新のサウンドを追求しながら自身の制作スタイルを常にアップデートし続けるアーティスト。


2023年、JJJ「Eye Splice」にプロデューサーとして参加、その後もRed Bull 64Bars、KEIJUへの楽曲提供などで注目を浴びる。近年は様々なアーティスト作品への参加、ラップスタア2025へのビート提供などに加え、自身の名義でのリリースなど活動は多岐にわたる。


Selected Biography:


KID FRESINO「Turn. (who do) ft. jjj」

KANDYTOWN「Kruise」

IO「Lalo feat. MUD」

febb as Young Mason「HONEY」

JJJ「Eye Splice」

C.O.S.A.「FLOR DE MOLTISANTI」

KEIJU「Checkers Skit」



2024年に設立されたファッションブランド、daisuke tanabeは、2026年1月14日(水)より、伊勢丹新宿店 メンズ館6階 メンズクリエーターズにて初のポップアップイベントを開催いたします。


本イベントでは、2026年春夏コレクション season 03 "x" のアイテムを展開いたします。 今シーズンは、シルバー芯のゴートレザーと最軽量のVentile®コットンを組み合わせたリバーシブルアウターや、ヴィンテージデニムの経年変化を再構築したジャカード織りのテキスタイルなど、高度な素材開発と構造的な実験が特徴です。「二面性」と「対称性」を核に、ブランド独自のワードローブを構築しています。




会期中はメンズ館6階に加え、本館3階 ReStyle(リ・スタイル)においても、ユニセックスで着用可能なアイテムを一部展開いたします。


本コレクションは、情報が溢れる現代社会への問いかけをテーマとしています。James Blakeの楽曲『Like the End』から着想を得た、「不要な関心の増幅がもたらす社会全体の無関心」への違和感が核となりました。映画『関心領域』の視覚表現にも通じる、見えないものの気配や構造的な緊張感を衣服に落とし込んでいます。真偽の曖昧な情報が無秩序に拡散され、正しさよりも速度が優先される時代において、タイトルの「x」は、揺らぐ真実の輪郭を表すものとして位置づけました。

neo/385,000円(税込)


イタリア・トスカーナで製作したシルバー芯のゴートレザーと、最軽量のVentile®コットンを使用したリバーシブル仕様のマウンテンパーカ

 

kafka /275,000円(税込)




zion /297,000円(税込)


皮革とは思えないほどの肌理細かさとドレープ性を持つ、ニュージーランド原皮のベビーカーフを使用したジャケット、パンツ

x-ray jacuard denim jacket /88,000円(税込)


x-ray jacuard denim trouser /77,000円(税込)


50年代のヴィンテージデニムの経年変化をスキャンデータとして再構築し、ジャカード織で表現したデニム


daisuke tanabe season 03 pop-up at ISETAN SHINJUKU


会期:2026年1月14日(水)〜 1月20日(火)

会場:伊勢丹新宿店 メンズ館6階 メンズクリエーターズ/伊勢丹新宿店 本館3階 ReStyle

住所:〒160-0022 東京都新宿区新宿3-14-1

空間構成:山際 悠輔 広報:尾崎 悠一郎



about daisuke tanabe:


daisuke tanabeは2024年に設立されたウィメンズ・メンズウェアブランド。

映画や小説、写真を元に創作したフィクションをベースに、世界各地の伝統的な職人技術と、前衛的なテクノロジーをミックスしたコレクションを展開する。実験的なクリエイションはファッションという概念の軽やかさと、ものづくりの厳かさの両面性を表現し、ハイエンドな素材と独創的なパターンを織り交ぜて体現する。



about designer:


2021年に京都大学経済学部を卒業後、株式会社細尾に入社。

2023年に独立し、ファッションブランド「daisuke tanabe」を立ち上げる。

2024年2月にファーストコレクションを発表し、国内外での展開を始める。

Loscil 『Ash』



Label: Loscil

Release: 2025年11月21日/12月19日



Review
 
 
ティム・ヘッカーと並んで、カナダを代表する電子音楽プロデューサー、Loscilの最新作『Ash』は、従来通り、アンビエント/ミニマルテクノですが、視覚的な効果を追求した作品と言えます。ベテランプロデューサーとしての技量と重厚な音楽観が凝縮された一作です。アルバムを購入すると、フォトジンが付属していて、そこには、印象的な写真が収録される。今作でロスシルの名を冠するスコット・モルガンさんは音楽と写真を合体させた新たな分野に挑戦しています。
 
 
旧来は、ギターのリサンプリングやモーフィングを中心に楽曲制作を行ってきたロスシルですが、アルバムは、推察するに、シンセサイザー中心の作品となっているようです。ミニマル・テクノに属する短いシークエンスが長尺のトラックを形成していますが、この数年プロデューサーが取り組んでいたトーンの繊細な変化や波形の微細なモーフィングなどを介し、変化に富んだドローンのトラックがずらりと並んでいます。音楽的には、ダークウェイヴとも称すべき短調中心の曲と、対象的に清涼感すら感じさせる長調のドローンが並置されています。こういった対比的な曲調を並べるのが、2025年のアンビエント/ドローンのシーンの主流になりつつある。
 
 
アルバムのタイトル、及び曲のタイトルは、全般的に火にまつわる内容となっている。6曲で40分という聞きごたえたっぷりの内容となっています。「Smoulder− 燻る」、「Carbon- 炭素」、「Soot-煤」など象徴的なタイトルが並んでいます。しかし、それとは対象的に、「Crown- 王冠/王位」、「Cholla− サボテン」もあり、最後は、「Ember- 残り火」で終わる。もしかすると、このアルバムには謎解きのようなミステリアスな意図が込められているのかもしれません。実際の作風は、ロスシルの一般的なアンビエント/ドローンに属していますが、最近の作品は、硬質でメタリックな重厚感に満ちていて圧倒的です。もちろん、それは『Ash』についても同様でしょう。また、ロスシルは最近、シンセサイザーなどを介して、パイプオルガンのような音響を再現することもある。それは全般的には、表立って出てこないものの、最後に暗示的に登場します。
 
 
アルバムを聴いていて思ったのは、昨今のロスシルは、音響工学に属するアンビエントを志しているのではないかということです。そこには音がどのように響き、増幅されていくのかという音響学の視点が備わっている。また、音のサステイン(持続)をどう続けるのか、音響そのものをどう反響させ、減退させ、収束させ、消えさせるか。音が立ち上がる瞬間だけではなく、音が消え入る瞬間にも細心の注意が払われています。プロデューサーという観点から言えば、ソフトウェアの波形のモーフィングにその点が反映されています。音が鳴っている瞬間にとどまらず、音が減退する瞬間や消えゆく瞬間に力が込められていて、スリリングな響きが発生します。こういった音響学的な制作者の興味が「火」というテーマに沿って形作られています。
 
 
短いシークエンスが組み合わされ、徹底的にオスティナート(反復)されるに過ぎないのに、ロスシルの卓越したプロデュースの手腕は、さほど個性的ではないモチーフですら、興味深い内容に変貌させ、最後には、マンネリズムとは無縁の代物になってしまう。波形のデジタル処理やトーンの変調により、驚くべき微細な波形の変化が作り出されています。これは電子音楽による、もしくはプロデュースによる、バリエーション(変奏)の手法と言えるのではないでしょうか。
 
 
 
「Smoulder」を聴くと、荒涼とした風景を思わせるサウンドスケープがイントロに配される。これが曲の根本的な骨組みとなっています。しかし、ドローンのパッドは音量的なダイナミクスの変化を経て、音が発生した後すぐ静かにフェードアウトしていき、その合間に別のシークエンスが登場します。2つのパッドが重なりながら音楽が同時に進行していく。音楽的には、重苦しさや暗鬱さもあるが、同時に力強さもある。その音量的な変化の中で、パンフルートのような音色を用いた3つ目の旋律も登場し、音楽的な印象を決定づける。例えば、ポップやロックソングでは、イントロの後の2、3小節で行うことを、独特なディレイの方式により丹念に行っています。その結果として、映像音楽のように、なにかを物語るような音楽が完成します。


一連のミニマル・テクノの作風の中で、短調のハーモニーを形成させ、静寂の向こうから重厚感のあるドローンの旋律を登場させる。同じ構成がずっと続くようでいて、その過程で微細な変奏を用いている点に驚かされる。短調の悲哀のある印象音楽は、5分以降はその表情を変え、清涼感のあるサウンドスケープに変化していく。明らかに描写的な音楽と言え、大規模火災のような情景を想起させることがあり、それはまた追悼的な意味合いが感じられることもあるでしょう。
 
 
 
二曲目「Carbon」は中音域の持続音に高音域の持続音を付け加え、イントロからロスシルにしかなしえないオリジナリティあふれる音響を作り出す。音楽的な印象そのものは、一曲目と同様に物悲しさに満ちていますが、そのトーン自体からは精妙な感覚も感じ取られる。そして同じように複数のドローンの旋律を重ね合わせ、倍音を作り出し、それらをハーモニーに見立てる。


同様の音楽的な手法が用いられていますが、この曲の面白さは、テクノ的な音の配置にあるようです。永遠に続くかと思われたドローン音が消え去り、静寂が現れると、2分20秒以降では、Burialが使用したようなダブステップの音色がスタッカートのような効果を強調させ、曲のキャンバスに点描を打つ。Andy Stottのようなインダストリアルなテクノの影響が加わり、特異な音響を生み出す。こういった試みは、以前のロスシルの作風には多くは見いだせませんでした。そして、ダブ的なプロデュースの方法を使用し、その残響を強調し、ドローンとして続く。このあたりには、レゾナンス(残響)を巧みに活用しようという制作者の美学が反映されています。また、後半でも、複数の持続音を組み合わせる、カウンターポイントの手法が見出されます。
 
 
 
音楽の基礎としては、1小節目や2小節目において、曲の気風や印象を明瞭に提示するというのが常道です。しかし、それを逆手にとった音楽は古今東西存在している。「Crown」ではその固定概念を覆す。シンセの倍音の音域を増幅させ、煉獄的とも天国的ともつかない中間域にある音楽を作り出す。こういう音楽は、聞き手の感情に訴えかけるのではなく、聞き手の理性に根ざした音楽と言えます。感情の内側にある魂に到達し共鳴する音楽なのです。催眠的な音楽効果も含まれていますが、むしろ制作者が体現したかったのは形而下の内容なのではないでしょうか。


この音楽は、2000年代くらいにあったアンビエント曲を彷彿とさせ、それは聴く人によって印象が様変わりする。「明るい」と思う人もいれば、「暗い」と思う人もいるかもしれません。そして、クワイア(声楽)を模したシンセサイザーの音色が響き、それはやはり特異な印象を帯びる。これらは「音楽の一般化」という概念に対抗するような内容となっているのは確かです。つまり、音楽を決められたように作らないというアイディアが盛り込まれています。全体的なプロデュースの手腕も優れていて、洞窟や高い天井のようなアンビエンス(空間性)を再現しています。こういった曲を聴くと、アンビエントのトラックを制作する時は、''どのような空間性を作りたいのか''というシミュレーションが不可欠であることが理解していただけると思います。
 
 
全般的には、アンビエントともドローンとも言える、その中間点に属する曲が続いた後、いかにもロスシルらしい個性派の曲が登場します。「Soot」はまさしく、このプロデューサーの作品でしか聞けない内容で、ロスシルのファンにとっては避けては通れない内容です。特に、2000年代以降の作品より重力が加わり、メタルのようなヘヴィな質感を帯びていて素晴らしい。従来から制作者が追求していた重みのあるドローン音楽が集大成を迎えた瞬間であり、迫力満点です。文章がその人を体現するとよく言うことがありますが、音楽もまたそれは同様です。そして、この曲の場合は、単なる付け焼き刃ではなく、自然と獲得した人物的な重厚感なのでしょう。


総じて、こういった類いの曲は、扇動的な音楽を意図すると、ノイズや騒音に傾倒しがちなのですが、重力を保ったまま、心地よい精妙なトーンやハーモニーが維持されているのが美点です。本作の冒頭曲のように荒涼とした大地を思わせる抽象的なドローンが徹底して継続されるが、それは先にも言ったように空虚さとは無縁であり、むしろ陶然としたような感覚をもたらす。音量的にはダイナミズムを重視しつつも、その中には奇妙な静けさと落ち着きが含まれる。これこそ長く続けてきた制作者やプロデューサーにしか到達しえない崇高な実験音楽の領域。
 
 
 
16分以上の力作が並んだ最後の二曲は圧巻です。 「Cholla」は、前の四曲とは対象的に、それらの地上的な風景から遠ざかり、天上的で開けた無限の領域に属する音楽性が強調される。 音楽だけに耳を傾けると、誰にも作れるように思えますが、実はこういった曲は、簡単にはなしえません。これこそ、余計な夾雑物を選り分けた後に到達する崇高な領域です。このアルバムで登場した複数のシークエンスが同時進行するカウンターポイントの形式は、カンタータのようなクラシックやジャズとの融合を試みる、新しいアンビエントの形式が台頭した瞬間です。少なくとも、2025年のこのジャンルの曲の中では傑出していて、開放的な空気感に満ちています。
 
 
それは自然の鮮やかな息吹、美しさや崇高さという本作の副次的なテーマを暗示している。この曲を聴いて覚える解放的な感覚や心が晴れやかになる瞬間こそ、このジャンルの醍醐味と言えるのではないでしょうか。人間の魂が、自然と調和し、共鳴するような素晴らしいモーメントを体験することが出来ます。それはまたヒーリングというこのジャンルの副次的な効果をもたらす。
 
 
「Ember」もマニアックではありますが、他の制作者には簡単には作れない曲でしょう。地の底から鳴り響くかのような重厚感のある低音のドローン、その後、教会のパイプオルガンのような主旋律が作曲の首座を占める。これは現代的な感性に培われた電子音楽の賛美歌のようです。通奏低音を徹底的に引き伸ばし、その上に複数の持続音を重ねていくという手法が見出せます。


こういった作風は、現代音楽などでは既出となっていますが、ロスシルは、それらを最も得意とする電子音楽の領域に導き入れる。ドローンの基本的な持続音の形式に属していますが、特に曲の終盤でのフェードアウトしていく瞬間に着目です。音像がフィルターによりだんだん曇り、ぼかされ、ロスシルのモーフィングの卓越した手腕が遺憾なく発揮されています。また、この曲は一曲目「Smoulder」と呼応していて、円環型の変奏形式をひそかに暗示する。冒頭でも述べたように、未知の音響体験といえるのではないでしょうか。かなりの力作となっています。
 
 
 


Luby Sparks' final release of 2025 is a Mars89 remix of “Broken Headphones” from the “Songs of The Hazy Memories” EP.The heavy shoegaze original transforms into a low-slung, flowing dub shoegazer.


Luby Sparks、2025年の締めくくるリリースは、「Songs of The Hazy Memories」EPより、「Broken Headphones」のMars89によるリミックス。ヘヴィ・シューゲイズな原曲が重心の低い流麗なダブ・シューゲイザーへと変貌を遂げている。


Luby Sparks「Broken Headphones (Mars89 Remix)」

Digital | LSEP-9 | 2025.12.19 Release | Released by AWDR/LR2


Listen:[ https://ssm.lnk.to/Mars89Remix ]


1. Broken Headphones (Mars89 Remix)

2. Broken Headphones (Mars89 Remix) -Instrumental


Lyrics : Erika Murphy (Tr.1)

Music : Tamio Sakuma, Natsuki Kato, Mars89

Arranged by Erika Murphy, Natsuki Kato, Tamio Sakuma, Sunao Hiwatari & Shin Hasegawa

Remix : Mars89


Vocal : Erika Murphy (Tr.1)

Backing Vocal, Bass & Synthesizers : Natsuki Kato

Electric Guitar : Tamio Sakuma

Electric Guitar : Sunao Hiwatari

Drums : Shin Hasegawa


Recorded by Ryu Kawashima at IDEAL MUSIC FABRIK

Mixed by Zin Yoshida at Garden Wall

Mastered by Kentaro Kimura (Kimken Studio)


Produced by Luby Sparks & Zin Yoshida, Mars89


Cover Photography : Annika White



Luby Sparks



Luby Sparks is a Japanese alternative rock band formed in 2016. The band’s current lineup is Natsuki (bass, vocals), Erika (vocals), Tamio (guitar), Sunao (guitar), and Shin (drums). The band’s self-titled debut album, Luby Sparks (2018), was recorded in London with Max Bloom (Yuck/Cajun Dance Party) as a co-producer. In 2019, they released a single titled “Somewhere,” which was remixed by Robin Guthrie (Cocteau Twins). 


In May 2022, Luby Sparks released their second album, Search + Destroy, which is produced by Andy Savours, a Mercury Prize-shortlisted producer and engineer in London, who is known for working with My Bloody Valentine, Black Country, New Road, and Rina Sawayama. The album launch show at WWW X in Shibuya held in June was successfully sold out. 


In October, they performed in Bangkok, Thailand. In March 2023, Luby Sparks were actively expanding overseas with their first headline US tour around seven cities (New York, Boston, Philadelphia, San Francisco, Seattle, San Diego, and Los Angeles). In September of the same year, they were touring in seven cities in China, including a show at Strawberry Music Festival 2023, followed by a performance in Korea, and the worldwide festival Joyland Festival 2023 in Indonesia. Following the release of the last EP Song for The Daydreamers released in May 2024, new EP Song of The Hazy Memories will be released on January 24th, 2025.


[ https://lubysparks.lnk.to/bio_top ]


Natsuki (ba/vo)  Erika (vo)  Sunao (gt)  Tamio (gt)  Shin (dr)。


2016年3月結成。2018年1月、Max Bloom (Yuck) と全編ロンドンで制作したデビューアルバム「Luby Sparks」を発売。2019年9月に発表したシングル「Somewhere」では、Cocteau TwinsのRobin Guthrieによるリミックスもリリースされた。


2022年5月11日にMy Bloody Valentine、Rina Sawayamaなどのプロデュース/エンジニアを手掛けるAndy Savoursを共同プロデューサーに迎え、セカンド・アルバム「Search + Destroy」をリリース。同年6月には、初のワンマンライブ「Search + Destroy Live」(WWW X) も行い、ソールドアウトとなった。


10月にはタイでの海外公演、2023年3月全米7都市にて「US Tour 2023」、9月「Strawberry Music Festival 2023」を含む中国全7都市「China Tour 2023」、10月韓国、11月インドネシア「Joyland Festival」へ出演を行うなど海外での展開も積極的に行なっている。2024年5月にリリースした「Songs for The Daydreamers」EPに続き、2025年1月24日にも「Songs of The Hazy Memories」EPをリリース。

 

[ https://lubysparks.lnk.to/bio_top ]



Mars89


Mars89 is a musician whose uncompromising electronic compositions have cemented him as one of the most unique and exciting prospects within Tokyo’s underground club circuit, but his contribution to the city’s culture extends far beyond the dancefloor.


Since moving to Tokyo in his late teens in 2008, Mars89 has established himself as someone whose creative output — in all its shapes and forms — provides a vital perspective on the vicissitudes of living in one of the most populous urban metropolises in the world.


His discography to-date is a bricolage of styles, channeling the guttural, sub-bass-infused body music from UK dubstep’s heyday and the mutant rhythms of Bristol’s signature bass music scene — some of Mars89’s foundational musical influences — as well as the auteurs of cinema, from Kubrick to Lynch, and, specifically, their unparalleled flair for all things eerie, abject and uncanny. In his arsenal, he possesses tracks that can immediately ignite the latent energy of a heaving club crowd, as well as ambient compositions that transport listeners into unsettling alien landscapes evocative of sci-fi dystopias and biotechnological collapse. It’s his ability to weave seamlessly between the two that sets him apart as an artist who ultimately uses his sensibilities to design entire worlds, and this is also reflected in his boundary-pushing VR explorations with label Bokeh Versions and collaborations with designers like Patrick Savile.


Under the alias Temple Ov Subsonic Youth, known for his live hardware sets, he creates chaotic dance floors through the heavy bass of drum machines and distorted sounds born from layered, diverse sampling.

Additionally, his label Nocturnal Technology, as the name suggests, consistently releases nocturnal electronic sounds. The label name, 'Nocturnal Technology,' refers to the idea that a DJ's skills come to life during the night. The logo pays homage to the bat, an animal that is active at night and perceives its surroundings through sound waves, symbolizing the label’s concept of 'nocturnal technology.'


Outside of music, Mars89 has collaborated with fashion brand Undercover's Jun Takahashi, on a collection that deconstructed military garments, making them into a powerful anti-war statement in true punk spirit, as well as releasing a record through the brand. The latter referenced the show soundtrack he had created for Undercover’s AW19 collection, and featured remixes by Thom Yorke, Zomby and Low Jack, who he had played alongside at the Takahashi-curated instalment of Virgil Abloh’s club night, Sound Design. All three of the artists signed up for remix duty immediately upon request, demonstrating how highly regarded Mars89 is by his global contemporaries.


Mars89 is also a key figure within Tokyo’s activist community, spearheading an anti-establishment ‘Protest Rave’ that has seen sound trucks drive through some of the city’s most iconic vistas while blasting out hard techno, galvanising Tokyo’s youth into new, emergent strands of political engagement.


Mars89は、妥協のないエレクトロニック・ミュージックで、東京のアンダーグラウンド・クラブシーンで最もユニークでエキサイティングな存在として知られている。


2008年に10代後半で東京に移住して以来、世界で最も人口の多い都市のひとつで生活することの難しさについて、あらゆる形で表現する人物として地位を確立してきた。


これまでの彼のディスコグラフィーは、様々なスタイルが混在している。UKダブステップ全盛期のサブベースや、ブリストルの特徴的なベースミュージックシーンの突然変異したリズムなどの音楽的な影響に加え、David LynchやDavid Cronenbergなどの映画監督、特に不気味で忌まわしいものに対する彼らの比類ない才能からも大きな影響を受けている。

クラブの群衆の潜在的なエネルギーに即座に火をつけるトラックや、ディストピアやバイオテクノロジーの崩壊を連想させる不穏な風景にリスナーを連れて行くアンビエントトラックが彼の武器であり、この2つをシームレスに織り成す能力こそが、自分の感性を使って世界全体をデザインするアーティストとしての彼の特徴である。このことは、Bokeh Versionsとの境界を超えたVRの探求や、Patrick Savileとのコラボレーションにも反映されている。


彼のハードウェア機材によるライヴセットの名義であるTemple Ov Subsonic Youthでは、空間を震わせるドラムマシンの重低音と、多様なサンプリングが重なり合うことで生み出される歪んだサウンドにより、混沌としたフロアを作り出すことに成功している。


また、彼が立ち上げたレーベルNocturnal Technologyは、その名の通り、夜のエレクトロニック・サウンドをコンスタントにリリース。レーベル名のNocturnal Technology(夜行性の技術)は、DJの技術が夜間に活気づくことを意味している。ロゴは、夜間に活動し音波を見通す動物であるコウモリへのオマージュであり、レーベルのコンセプトである 「夜行性の技術」を象徴している。


音楽以外では、UNDERCOVERの高橋盾とのコラボレーションプロジェクトでミリタリーウェアを解体し、真のパンク精神で反戦を訴えるコレクションを発表したほか、同ブランドからレコードもリリース。後者は、UNDERCOVERのAW19コレクションのために制作したショーのサウンドトラックをベースにしたもので、Virgil Ablohが主催するクラブナイト「Sound Design」で高橋がキュレーションした際に共演したThom Yorke、Zomby、Low Jackのリミックスが収録されてる。この3人のアーティストがリミックスの依頼にすぐに応じたことは、Mars89が世界の同世代のアーティストからいかに高く評価されているかを示している。


Mars89は、東京のアクティヴィストコミュニティの重要な存在でもあり、Protest Raveでは、サウンドシステムを積んだトラックでハードテクノを鳴らしながら東京の象徴的な景色の中を走り抜け、若者に政治的活動への参加を促している。

カナダとハイチにルーツを持つ音楽家/作曲家のジョーイ・オミシルは、まるでジャンルに境界線など存在せず、自由への跳躍台となる異世界からやって来たかのようだ。オシミルのメイン楽器はソプラノ・サックスであるが、その卓越した技量と想像力でアルト・サックス、クラリネット、フルートといった木管楽器から、金管楽器(コルネット)までも演奏し、歌も歌う。彼の奏でる一音一音が無限の創造性を表現し、手に取る楽器一つ一つが自由な精神の延長なのだ。


去る2025年11月11日(火)、ジョーイにとって11枚目のアルバムとなる『スマイルズ』が配信先行でリリースされた。


▪️アルバム『sMiLes』配信中!

https://modulor.lnk.to/smiles


『スマイルズ』は、妥協なき真実性の宣言である。個人の表現、不完全であることの美しさ、そしてリスクを取る勇気を称えている。一見反抗的なタペストリーのように見えるこの作品は、実は無限の自由と幸福への明確な宣言である。


オープニング曲「Throw it Away」は、アビー・リンカーンのへのオマージュで、手放すこと、真実を語ることを呼びかける曲だ。そこからジョーイは、カーボベルデ、ニューヨーク52丁目、ハイチのブードゥー・ドラム、オープンマイク・セッションの残響など、数多の世界を巡る旅へとリスナーを誘う。

 

最初の音から、受賞歴のあるヴォーカリスト、ドミニク・フィルズ・エイメとのデュエット曲で純粋な宝石のような最終曲「SHouLd I sMiLe?」まで、すべての音符が彼の「音符を信頼する」という哲学を体現している。


ジョーイは今作で、ロイ・ハーグローブに敬意を表し、ウェイン・ショーターに賛辞を送り、マイルス・デイヴィスに敬意を示しつつも、決して模倣することなく、常に革新を続け、紛れもなく自分自身であり続けている。


この度、ドミニク・フィルズ・エイメが参加した「SHouLd I sMiLe?」のビデオが公開となりました。ぜひチェックしてみよう!


「SHouLd I sMiLe? Feat. Dominique Fils-Aimé」

 


YouTube:

https://youtu.be/taxICerVvIg?si=njg6zr6sFO7v6PfF


続いて『スマイルズ』のフィジカル・アルバム(CD/LP)は、2026年1月23日(金)リリース予定となっている。ジャズファンこちらの情報も抑えておきたい。



【アルバム情報】



アーティスト名:Jowee Omicil(ジョーイ・オミシル)

タイトル名:sMiLes(スマイルズ)

発売日:2026年1月23日(金)

品番:BV02CD (CD) / BV02LP (LP)

レーベル:BasH! Village Records


<トラックリスト> 

1. Throw it Away 

2. BeaT CoiN aka WaLTz For RH Feat. Ludovic Louis 

3. SOeuR FeLiX aka BeeHive 

4. Trip To GHanA Feat. Mawuena Kodjovi 

5. SHorTer Way To MarraKecH Feat. Malika Zarra 

6. DessaLinienne AyiTi LiberateD 

7. OkaP To MinDeLo 

8. JupiTeR Feat. Jonathan Jurion 

9. FuLL oF LoVe Remix 

10. LeTTre Du MALi PouR JonaTHan 

11. MiLes ConvoY 

12. SHouLd I sMiLe? Feat. Dominique Fils-Aimé



▪️デジタル・アルバム『sMiLes』配信中!

https://modulor.lnk.to/smiles



【バイオグラフィー】


ハイチからの移民の両親のもとカナダ・モントリオールで生まれ育つ。父親の教会で初めて音楽に出会い、賛美歌やゴスペルを吸収し、15歳でアルト・サックスを手にしたことが、彼の人生を大きく切り拓く転機となる。その才能は徐々に注目を集め、数年のうちにボストンのバークリー音楽大学から奨学金を獲得。


大学での学びを通じて音楽的な技術を磨き視野を大きく広げていった。サックス、クラリネット、トランペット、ローズ、ピアノ、フルートなどどんな楽器でも手に取り、その瞬間にしか生まれない音を全身で表現してきた。これまでにロイ・ハーグローヴ、トニー・アレン、アンドレ3000、マーカス・ミラー、ワイクリフ・ジーン、JBダンケル(エール)など、ジャンルも世代も越えた多彩なアーティストたちと共演。


ディスコグラフィーには『Let’s BasH!』(2017)、『Love Matters!』(2019)、『LeKTure』(2020/カルロス・ニーニョに影響を与えた)、『SpiriTuaL HeaLinG: Bwa KaYimaN FreeDoM Suite』(2023)など、最新作『スマイルズ』を含む、創造性と自由を貫いた全11作品が並ぶ。


もし、ジャズをワールドミュージックとして見たらどうなるだろう? その音楽的な文脈は少し変わって来る。さて、すでに、ニューオリンズの歓楽街、ストーリービルで始まったジャズ文化については言及しているが、一方で、これらの文化的な背景についてはまだ触れていない。ジャズは結局、ルイジアナにルーツがあるが、この文化的な背景を支えたのが、クレオールだった。


''ルイジアナ''はスペインとフランスが混合しながら支配し、黒人奴隷を呼び込んだ。しかし、これらの一般的な枠組みに収まりきらないのが、クレオールである。ニューオリンズには、ヨーロッパ人と黒人の混血がいた。この土地はアフリカやカリブの文化形態をこの土地に呼び込むことに成功し、様々な文化が混在していた。当初、ニューオリンズのクレオールは、白人に肩を並べる地位を獲得し、ヨーロッパ音楽など高等教育を受けることも出来た。南部は歴史的に差別の多い地域と一般的に言われているが、これらのエピソードはその定説を覆す内容でもある。

 

特権階級のような地位を与えられたクレオールであったが、 19世紀末に奴隷制が解体されると、これらの特権的な地位を奪われた。そこで、クレオールたちは、ストーリーヴィルに根を張り、独自のジャズカルチャーを形成していく。ここでは売春も行われたが、西欧のキャバレー文化が持ち込まれた好例となるだろう。今回は、クレオール文化について簡単に触れていく。

  

そもそもクレオールという言葉は、フランスの''クレオール''に由来し、植民地出身の意味。ルイジアナでは、この言葉を引き継ぎ、ルイジアナで生まれた人とそうではない移民を区別することにした。クレオールーーそれは旧世界と新世界の子孫を区別するために存在した言葉であった。

 

しかし、元々、この言葉は人種的な指標が存在しない。ヨーロッパ人、アフリカ人、その混血など様々な階級の人々がそう呼ばれていた。ルイジアナは、ルイジアナ買収を通じて、アメリカ合衆国の一部となり、便宜的にこのクレオールという言葉が使用されるようになった。当初は、移民を示す政治的なアイデンティティを持つ意味として使用された経緯があった。1718年にニューオリンズが制定されると、開拓者たちは地元で生まれた最初のクレオール世代に道を譲った。以降、黒人が入植しはじめ、ブラック・クレオールというように呼ばれることになる。

 


▪クレオールのルーツとルイジアナの発展と再興


ルイジアナの白人クレオールの多くは、ヨーロッパのフランスにルーツが求められる。この祖先は、さらに、北部のケベック(カナダ)、アカディア(ケイジャン)」のコミュニティから発生している。もちろん、これもクレオールの一部を示すに過ぎない。ルイジアナは19世紀ごろに多くの人口が流入した。ハイチ革命では、白人と有色人種の難民がセント・ドミンゲからニューオリンズに押し寄せる。この人口流入は都市部の全体的な人口を押し上げることになった。

 

もちろん、クレオールは他地域からの移民も含まれていた。アイルランド、ドイツ、そしてイタリアなどのグループが19世紀後半にかけてルイジアナに移住した。例えば、ボストンのスコットランドやアイルランドからの移民の事例を見てもわかる通り、これらの移民はクレオール文化を強化させ、今日に続く、ニューオリンズのような活気に満ちたコミュニティを形成していった。

 

クレオールとは、最も基本的な定義では「植民地生まれ」を意味し、18世紀以来、あらゆる背景や肌の色を持つ人々が自らのアイデンティティとして用いてきた。20世紀初頭まで、アカディア系(ケイジャン)を含む多くのルイジアナのクレオールは、自らをアメリカ人とは認識していなかった。 ナポレオンがルイジアナをアメリカに売却する以前から彼らはこの地にいたのだから。


1803年、アメリカ合衆国がフランスからルイジアナを購入した後、クレオールは英語を話し、プロテスタントの「アメリカ人」による侵略とみなした状況下で自らの言語のフランス語とクレオール語、衣食住、ローマカトリック信仰を維持するために努めた。それゆえ、ニューオーリンズはアメリカで最もヨーロッパ的であり、''最もカリブ海的な都市''と呼ばれることがある。


クレオールはアフリカ的ルーツを持つ。多くの人々に「クーリ・ヴィニ」と呼ばれ、1700年代半ばからルイジアナで話されてきた。現在ユネスコの危機言語リストに登録されているルイジアナ・クレオール語は、使用促進に尽力する拡大するコミュニティの努力により、復興の兆しを見せている。



▪ニューオリンズのジャズの出発 

チャールズ・バディ・ボールデンは左から二番目

こうした文化的な背景を持つクレオールの中からジャズは出発している。特に、ニューオリンズにはブラスバンドの伝統があり、これらはなんらかの記念祭のようなシーンで演奏されていたと推測される。その中で、元々音楽的な演奏の経験を持つ人々、もしくは、上記のように高等音楽教育を受けた音楽家がこれらの最初のジャズの風をルイジアナに呼び込むことになった。

 

しかし、そのジャズの始まりというのも、複雑であり、一概にどのように発生したのかを定義付けるのは難しい。ラグタイムなど黒人系のダンスミュージック、そしてニューオリンズのブラスバンドの影響が流入した。コルネット、トロンボーン、クラリネット、そしてピアノを前面に立ててジャズという形式が形づくられていく。

 

最初のヒーローは、コルネット奏者のCharles Buddy Bolden(チャールズ・バディ・ボールデン)というミュージシャンである。ボールデンは「キング・オブ・ジャズ」の元祖とされていて、ジャズの先駆者であると言われている。ボールデンは、コントラバスとクラリネット、トロンボーン、そしてアコースティックギターの編成を中心にジャズを演奏した。彼はけたたましい音量で演奏し、女性たちを驚かせた。

 

その後、ニューオリンズジャズの最盛期になると、キング・オリバー、ピアニスト、ジェリー・ロール・モートン、それからトロンボーン奏者、キッド・オリー、クラリネットのシドニー・ベシェ、ジョニー・ドッズ、ジミー・ヌーンなどが活躍した。これらの最初期のジャズ奏者の演奏は、そのほとんどが即興演奏の技術を競い合うというものであった。ジャズが誕生後、一般的な黒人や白人にも広まり、ニューオリンズから急速に周辺都市へと広まっていった。

 

バディ・ボールデンの型破りで破天荒なミュージシャンの姿に強い触発を受けた人間がいた。それが、サッチモこと、ルイ・アームストロングであった。アームストロングは1936年の自伝『Swing That Music』で以下のように書いた。



ーーそういえば、ここでバディー・ボルデンの名前に触れないわけにはいかないだろう。ニューオリンズに生まれ育ち、ジャズの誕生を目撃した僕らならだれでも知っているが、そもそも彼が創始者だったーー

 

ーー彼はコルネットを持って1905年にニューオリンズに迷い込んできた。彼がホーンを放り投げるもんだから、みんなは彼が完全にいかれていると思った。 バディーは酒びたりになっていった。多くのホットなミュージシャン同様、週のうち2、3晩は寝ずに働いていたから。彼らは落ち込んで、さらに飲む。彼らのうち、あまりに多くが若いうちにバディーみたいに崩壊していったよーー

 

ーーたしか、ディキシーランド(ジャズ・バンド)がやってきたときに彼は行ってしまった。ボルデンは、疑いなく最初の偉大な個人のジャズ・プレーヤーだったが、ディキシーランドみたいなバンドを持ったことがなく、ニューオリンズの外部では全然知られなかった。彼はただの一匹狼の天才で、みんなから先に進みすぎていたんだよね。ちょっとだけ時代を先取りしすぎていたんだーー