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©Jody Domingue

 

テキサスのソウル・デュオ、Black Pumas(ブラック・プーマズ)はセカンド・アルバム『Chronicles Of A Diamond』を発表した。2019年のセルフタイトル・アルバムに続く本作は、ATOから10月27日にリリースされる。  


アルバムはバンドのエイドリアン・ケサダがプロデュースし、ショーン・エヴェレットが主にミックスした。リード・シングル「More Than a Love Song」は、ジュリアナとニコラ・キリンが監督したミュージック・ビデオとともに本日公開される。また、アルバムのジャケットとトラックリストは以下を参照のこと。


「"More Than a Love Song "は、スティーヴおじさんから借りたメッセージなんだ。ソングライターであり、介護者でもある彼は、遠くから私が曲を書くのを聴いてくれて、運が良ければ、私のために1つか2つの指針を持っていた。つまり、『人生はラブソング以上のものだ』ってね」

 


「More Than A Love Song」

 

 

 

Black Pumas 『Chronicles Of A Diamond』


Label: ATO

Release: 2023/10/27

 

Tracklist: 

 
1. More Than A Love Song


2. Ice Cream (Pay Phone)


3. Mrs. Postman


4. Chronicles Of A Diamond


5. Angel


6. Hello


7. Sauvignon


8. Tomorrow


9. Gemini Sun


10. Rock And Roll

 


  

  今では、不動の地位を獲得している伝説のシンガーにも、困難な時代があった。ローリング・ストーン誌の選ぶ、歴史上最も偉大な100人のシンガーで2位を獲得し、ケネディー・センター名誉賞、国民芸術勲章、ポーラー音楽賞の授与など、音楽という分野にとどまらず、米国のカルチャー、ポピュラー・ミュージックの側面に多大な貢献を果たしたレイ・チャールズにも、不当な評価に甘んじていた時期があったのだ。それでも、チャールズはちょっとした悲しい目に見舞われようとも、持ち前の明るさで、生き生きと自らの人生の荒波を華麗に乗りこなし、いわば、その後の栄光の時代へと繋げていったのだった。今回、この伝説的な名歌手の生い立ちからのアトランティック・レコードの在籍時代までのエピソードを簡単に追っていこう。



 

レイ・チャールズの歌には、他の歌手にはない深みがある。深みというのは、一度咀嚼しただけでは得難く、何度も何度も噛みしめるように聞くうち、偽りのない情感が胸にじんわり染み込んでくるような感覚のことを指す。もっといえば、それは何度聴いても、その全容が把握出来ない。チャールズは、バプテスト教会や黒人霊歌を介し、神なる存在に接しているものと思われるが、他方、聴いての通り、彼の歌は全然説教っぽくない。スッと耳に入ってきて、そのままずっと残り続ける。

 

彼の歌は、サザン・ソウル、ゴスペル、ジャズ、ポップ、いかなる表現形式を選ぼうとも、感情表現の一貫である。そして、それは説明的になることはない。彼はいかなる表現でさえもみずからの詩歌で表する術を熟知していた。彼の歌は、彼と同じ立場にあるような人々の心を鷲掴みにした。

 

歌手がビック・スターになる過程で、チャールズは、天才の称号をほしいままにするが、アトランティック・レコーズの創始者、アーメット・ガーディガンはチャールズのことについて次のように説明していた。彼いわく、天才と銘打ったのは、マーケティングのためではなかった。「そうではなくて、単純に我々が彼のことを天才だと考えていたんだ。 音楽に対するアプローチ全般に天才性が含まれていた。あいつの音楽のコンセプトは誰にも似てはいなかったんだ」



 

そのせいで、彼は当初、異端者としてみなされるケースもあった。「攻撃されるのは慣れっこだったよ」とチャールズは後にアトランティック・レコードの時代を回想している。「ゴスペルとブルーズのリズム・パターンは、以前からクロスオーバーしていた。スレイヴの時代からの名残なんだろうと思うけど、これはコミュニケーションの手段だと思っていたから・・・。なのに、俺が古いゴスペルの曲をやりはじめたら、教会どころか、ミュージシャンからも大きなバッシングを受けた。”不心得者だ”とかなんとか言われてさ、俺がやっていることは正気ではないとも言われたな」

 



 

  


1980年のこと、クリーブランドのホテルの一室でパーマーという人物が直接に「君は天才ではないのか?」と尋ねると、チャールズは例のクックという薄笑いを浮かべた。

 

「俺はさ、つねに決断を迫られているマネージャーみたいなもんでね・・・」チャールズは、そういうと、オレンジ色のバスローブ姿で立ち上がり、それまで吸っていた煙草の火をテーブルの上にある灰皿で器用にもみ消した。

 

「上手く行きゃ、天才呼ばわり・・・。行かなきゃ、ただのバカかアホ・・・。俺たちがやったことは、結局はうまく行ったわけだ。だから俺は天才ということになった。ただ、それだけのことだろ?」

 

 

  



1930年、9月22日にレイ・チャールズはジョージア州、オルバニーに生まれ、フロリダ州で少年時代を過ごす。彼は、生まれた時点で、不幸の兆候に見舞われていた。五歳の時、弟が風呂場で溺死するのを目撃した。七歳になる頃には、緑内障で失明した。独立精神を重んじた母親の教育方針の賜物があってか、彼は当時住んでいたフロリダのグリーンヴィルのカフェのブギ・ウギ・ピアノの演奏家から、ピアノ演奏の手ほどきを受けるようになった。「ヘイ、チャールズ、昨日弾いたみたいに弾いてごらん」と、つまり、それが親父の口癖だった。

 

チャールズの演奏の才覚は目を瞠るべきものがあった、バッハ、スウィング・ポップ、グランド・オール・オプリー、お望みとあらば、何でも弾くことが出来た。それから、彼はセント・オーガスティンという人種隔離制の視覚障がい者学校で裕福な白人婦人のためのピアノを弾いた。

 

チャールズは、その後、作曲と音楽論を学び、点字で編曲を行うようになった。クラスメートが休暇に帰省すると、彼は白人専用の校舎にあるピアノ室に寝泊まりした。そんな生活がチャールズの人生だったが、15歳のときに母親が他界した。いよいよ学業を断念せざるをえなくなった。「ママが亡くなった時・・・」チャールズは自伝で回想している。「夏の数ヶ月間が俺にとってのターニングポイントだったよ」「つまりさ、自分なりのタイミングで、自分なりの道を、自分のちからで決断せねばならなかった。でも、沈黙と苦難の時代が俺を強くしたことは確かだろう。その強靭さは一生のところ俺の人生についてまわることになったんだ」



 

 

 チャールズは青年期を通じて、故郷であるフロリダを中心に演奏するようになった。もちろんレパートリーの多さには定評があった。その後、彼は、バスに乗り込んで、西海岸を目指した。1947年頃には、Swing Timeという黒人のレコード購買層をターゲットにしたロサンゼルスの弱小レーベルとレコード会社と最初のサインを交わした。レイ・チャールズは、ナット・キング・コールとチャールズ・ブラウンをお手本にし、彼らの自然な歌の延長線上にあるピアノの演奏をモットーにしていた。

 

 

「レイは俺の大ファンでいてくれたんだ」とブラウンは打ち明け話をするような感じで回想している。「実は、彼と一緒に演奏していた頃、それでかなりの稼ぎがあったんでね・・・」

 

 

Charles Brown
   1951年に、「Baby Let Me Hold Your Hand」が最初のヒット作となった。このシングルは翌年にメジャーレーベルのアトランティック・レコードが2500ドルで彼の契約を買収したことで、アーティストにとっては自信をつけるためのまたとない機会となった。ニューヨーク、ニューオーリンズで行われたアトランティックが企画した最初のセッションでは、「It Should Have Been Me」、「Don’t You Know」、「Black Jack」等、感情的なナンバーを披露した。 これらの曲にはアーティストの最初期の文学性の特徴である、皮肉と自己嫌悪が内在していた。



 

こういった最初の下積み時代を経て、チャールズはより自らの音楽性に磨きをかけていった。続く、1954年、アトランティックのビーコン・クラブのセッションでは、アーメット・アーティガンとパートナーに向けて、新曲を披露する機会に恵まれた。「驚くべきことに、彼は音符の一個に至るまで」とアーティガンは回想している。「すべて頭の中に入っていた」「彼の演奏を少しずつ方向づけすることは出来ても、後は彼にすべてを任せるしかなかったんだ」

 

 

レイ・チャールズの音楽性に革新性がもたらされ、彼の音楽が一般的に認められたのは、1954年のことだ。アトランタのWGSTというラジオ局のスタジオで「I Get A Woman」というマディー・ウォーターズのような曲名のトラックのレコーディングを、ある午後の時間に行った。これが、その後のソウルの世界を一変させた。「たまげたよ」レコーディングに居合わせたウィクスラーは、感嘆を隠そうともしなかった。「正直なところさ、あいつが卵から孵ったような気がしたな。なんかめちゃくちゃすごいことが起ころうとしているのがわかったんだよ」



 

ウィクスラーの予感は間違っていなかった。「I Get A Woman」は、一夜にしてトップに上り詰めた。古い常識を打ち破り、新しい常識を確立し、世俗のスタイルと教会の神格化されたスタイルを混同させて、土曜の歓楽の夜と日曜の礼拝の朝の境界線を曖昧にさせる魔力を持ち合わせていた。チャールズのソウルの代名詞のゴスペルは言わずもがな、ジャズとブルースに根ざした歌詞は、メインストリームの購買層の興味を惹きつけた。もちろん、R&Bチャートのトップを記録し、エルヴィス・プレスリーもカバーし、1950年代のポピュラー・ミュージックの代表曲と目されるようになった。この時期、アメリカ全体がチャールズの音楽に注目を寄せるようになった。

 

 

 

 

  


やがて、多くのミュージシャンと同様に、ロード地獄の時代が到来した。チャールズはその後の4年間の何百日をライブに明け暮れた。中には、ヤバそうなバー、危険なロードハウスでの演奏もあった。ところが、チャールズの音楽は、どのような場所でも歓迎され、受けに受けまくった。その後も、ライブの合間を縫ってレコーディングを継続し、「This Little Girl Of Mine」、「Hallelujah I Love Her So」の両シングルをヒットチャートの首位に送り込んでいった。その中では、レイ・チャールズのキャリアの代表曲の一つである「What'd I Say (PartⅠ)」も生み出されることに。この曲は文字通り、米国全体にソウル旋風を巻き起こすことになった。



 

この曲は、ゴスペル風の渋い曲調から、エレクトリック・ピアノの軽快なラテン・ブルースを基調にしたソウル、そしてその最後にはアフリカの儀式音楽「グリオ」のコール・アンド・レスポンスの影響を交えた、享楽的なダンスミュージックへと変化していく。 1959年、ピッツバーグのダンスホールで即興で作られた「What'd I Say (PartⅠ)」は、ブラック・ミュージックの最盛期の代表曲としてその後のポピュラー音楽史にその名を刻むことになる。しかし、当時、白人系のラジオ曲では、この曲のオンエアが禁止されていた。それでも、ポップチャート入りを果たし、自身初となるミリオン・セラーを記録した。その六ヶ月後に、チャールズは、アトランティックからABCレコードに移籍した。その後、カタログの所有権に関する契約を結ぶ。当時、29歳。飛ぶ鳥を落とす勢いで、スター・ミュージシャンへの階段を上っていった。

 



 



Jessy Ware(ジェシー・ウェア)がニューシングル「Freak Me Now」をリリースしました。Rosin Murphy(ロイシン・マーフィー)とのコラボレーションで、マーキュリー賞にノミネートされたジェシーのアルバム「That!Feels Good!』の収録曲となっている。UKソウルとディスコの象徴的なアーティストの共演です。


「ディスコの女王、ロイシン・マーフィーを『Freak Me Now』に起用できて、とても光栄だわ」ジェシー・ウェアは説明しています。「私とのコラボを考えてくれるかもしれないと思って彼女にメッセージを送ったら、いつの間にか彼女はスタジオに直行して、この曲のためにすべてのヴォーカルを録音し、私たちに送ってくれました。私は彼女の仕事を長年尊敬してきた。そんな彼女が『That!Feels Good!」が参加してくれるのは本当に素晴らしい。将来、ライブで一緒にやるのが待ちきれない! 私と同じように、ファンもこのことに熱狂するでしょう。彼女はとても優美で、寛大で、先駆的で、ロワジン・マーフィーであり、『Freak Me Now』に出演しています」


一方のロイシン・マーフィーはこう付け加えています。「ジェシーは本当に素晴らしく、超才能的なソングライターであり、素晴らしいシンガーです。彼女は本当に美しいけど、とても面白くて、決して深刻に考えすぎない。しばらく前から一緒に仕事をしようと話していたんです。彼女が'Freak Me Now'を送ってくれたとき、私はその曲に惚れ込んで、この曲に私が参加するのが完璧にふさわしいと感じた。ビデオ撮影当日は、ファッション・カオスのようで、とても楽しかった!舞台裏では、高級なジャンブルセールのようでした。自分たちのバカバカしさに笑い、一日中とてもバカだった!彼女が大好きで、彼女と仕事をすることすべてが大好きです」


「Freak Me Now」

 


UKの今をときめくソウルデュオ、Jungleは、近日発売のアルバム『Volcano』からセカンドシングル『DOMINOES』を発表しました。『Volcano』は8月11日に発売されます。

 

アルバムのリードシングル「Candle Flame」(Erik The Architectをフィーチャー)は、Sian EleriのHottest RecordとしてRadio 1でデビューしました。


同時に公開された「Dominioes」のミュージックビデオは、Contentus MaximusのJ Lloyd & Charlie Di Placidoが監督した。「Candle Flame」からシームレスに繋がり、次のシングルリリースに期待するティーザーとなっている。

 

この2曲は、ジャングルの4枚目のスタジオアルバム『Volcano』に収録される予定です。2021年の『Loving in Stereo』では、Jロイドとトム・マクファーランドからなるデュオが、ビルボード・ダンス・アルバム・チャートで1位を獲得し、これまでで最高位のチャートインを記録した。

 

「Dominioes」



 
©Sandra Vigliandi

バーミンガムのユニークなソウルバンド、Dexy's Midnight Runners、通称デキシーズが11年ぶりにオリジナル・アルバムを発表しました。

 

『The Feminine Divine』は7月28日に100% Recordsから発売される予定です。バンドはこの発表と同時に最初の先行シングル「I'm Going to Get Free」を公開しました。

 

この曲についてKevin Rowlandは、「このキャラクターは、内面化したトラウマ、うつ病、罪悪感から楽観的に脱却している」と述べています。Guy Myhillが監督したビデオは以下からご覧下さい。


Kevin Rowlandはプレスリリースで、「僕にとっては、いつも自然なことなんだ。"インスピレーションが先に来て、自分に何ができるか、どんな曲があるかを考え、それからバンドにアプローチするんだ」と説明しています。

 

 「I'm Going to Get Free」

 

 

 

Dexy's 『The Feminine Divine』


 

 

Label: 100% Records

Release: 2023年7月28日


Tracklist:


1. The One That Loves You

2. It’s Alright Kevin (Manhood 2023)

3. I’m Going To Get Free

4. Coming Home

5. The Feminine Divine

6. My Goddess Is

7. Goddess Rules

8. My Submission

9. Dance With Me

 

©︎Lydia Kitto

 

イギリスのネオソウル・デュオ、JUNGLEは、4枚目のフルレングス「VOLCANO」を8月11日にリリースすると発表しました。アルバムの発表に併せて最初のテースターとなる「Candle Flame」が公開されていますので、アートワーク、収録曲と併せて以下よりチェックしてみて下さい。

 

エリック・ザ・アーキテクトをフィーチャーした新曲「Candle Flame」をこのニュースと共に発表した二人は、「ジャングルとして、最新作の『Candle Flame』は信じられないほど誇りに思います」と述べている。

 

私たちは、個人的で親しみやすく、愛と人間関係の高揚と低落を、詩的で本物の方法で探求する曲を作りたかった。エリック・ザ・アーキテクトと一緒に仕事をするのは本当に楽しいことで、彼のユニークな視点と才能が、この曲にさらなる深みと豊かさを加えてくれました。

「Candle Flame」は、創造性、情熱、そしてファンの心に響く音楽を作るというコミットメントなど、私たちがバンドとして支持するすべてを表しています。この曲を皆さんに聴いていただくのが待ちきれません。"聴く人すべてに喜びとインスピレーションを与えてくれることを願っています。


「Candle Flame」

 

 

JUNGLE 『VOLCANO』

 

 

 

 

Label: Caiola Recordings(AWAL Recordings Ltd.)

 

Release Date: 2023年8月11日



Tracklist:
 
 
1. Us Against The World
2. Holding On
3. Candle Flame (Feat. Erick the Architect)
4. Dominoes
5. I’ve Been In Love (Feat. Channel Tres)
6. Back On 74
7. You Ain’t No Celebrity (Feat. Roots Manuva)
8. Coming Back
9. Don’t Play (Feat. Mood Talk)
10. Every Night
11. Problemz
12. Good At Breaking Hearts (Feat. JNR Williams & 33.3)
13. Palm Trees
14. Pretty Little Thing (Feat. Bas)


Young Fathers 『Heavy Heavy」


 

Label: Ninja Tune

Release : 2023/2/4



 

Review 

 

リベリア移民、ナイジェリア移民、そして、エジンバラ出身のメンバーから構成されるスコットランドのトリオ、ヤング・ファーザーズは、一般的にはヒップホップ・トリオという紹介がなされるが、彼らの持つ個性はそれだけにとどまらない。MOJO Magazineが指摘している通り、多分、このトリオの音楽性の核心にあるのはビンテージのソウル/レゲエなのだろう。またそれは”近作でトリオが徹底的に追究してきたことでもある”という。そして最新作『Heavy Heavy』では、多角的な観点からそれらのコアなソウル/レゲエ、ファンクの興味を掘り下げている。

 

しかし、ヒップホップの要素がないといえばそれも嘘になる。実際、ヒップホップはビンテージ・レコードをターンテーブルで回すことから始まり、その後、ソウルミュージックをかけるようになった。ヤング・ファーザーズの最新作は一見、ロンドンのドリルを中心とする最近のラップ・ミュージックの文脈からは乖離しているように思えるが、必ずしもそうではない。トラップの要素やギャングスタ・ラップの跳ねるようなリズムをさりげなく取り入れているのがクールなのだ。


バンコール、ヘイスティングス、マッサコイの三者は、自分たちが面白そうと思うものがあるならば、それが何であれ、ヤング・ファーザーズの音楽の中に取り入れてしまう。その雑多性については、他の追随を許さない。もちろん、彼らのボーカルやコーラス・ワークについては、ソウル・ミュージックの性質が強いのだが、レコードをじっくり聴いてみると、古典的なアフリカの民族音楽の影響がリズムに取り入れられていることがわかる。また、UKのドラムン・ベースやクラブ・ミュージックに根ざしたロックの影響を組み入れている。これが時にヤング・ファーザーズが商業音楽を志向しつつも、楽曲の中に奥行きがもたらされる理由なのだろう。

 

『Heavy Heavy』は、トランス、ユーロ・ビート、レイヴ・ミュージックに近い多幸感を前面に押し出しながらも、その喧騒の中にそれと正反対の静けさを内包しており、ラウドに踊れる曲とIDMの要素がバランス良く配置されている。さらにアフリカのアフロ・ソウルを始めとするビート、ゴスペル音楽に近いハーモニーが加わることで新鮮な感覚に満ちている。ヤング・ファーザーズが志す高み、それは、ザ・スペシャルズのスカ・パンク世代の黒人音楽と白人音楽の融合がそうであったように、国土や時代を越えた文化性に求められるのかもしれない。実際、歌詞やレコードのコンセプトの中には、人種的な主張性を交えた楽曲も含まれている。

 

この最新作で注目しておきたいのは、ジェイムス・ブラウンに対する最大限のリスペクトをイントロで高らかに表明している#3「Drum」となるか。アンセミックな響きを持つこの曲は、ラップに根ざしたフレーズ、ダブ的な音響効果、ソウル・ミュージックを中心に、パンチ力やノリを重視し、アフリカの音楽の爽やかな旋律の影響が取り入れられている。ループの要素を巧みに取り入れることにより、曲の後半ではレイヴ・ミュージックのような多幸感が生み出される。


続く#4「Tell Somebody」は、この最新作の中にあって癒やされる一曲で、最後に収録されているしっとりしたソウル・バラード、#10「Be Your Lady」と合わせて、クラブ的な熱狂の後のクールダウン効果を発揮する。他にも、ドリル、ギャングスタ・ラップをDJのスクラッチの観点から再構築し、エレクトロと劇的に融合させた#6「Shoot Me Down」も個性的な一曲である。その他、ドラムン・ベースの影響を打ち出した#9「Holy Moly」も強烈なインパクトを放つ。

 

この新作において、ヤング・ファーザーズは、ブラック・カルチャーの特異な思想であるアフロ・フューチャリズムのひとつの進化系を提示しようとしており、また、同時に既存の枠組みに収まるのを拒絶していて、ここに彼らの大きな可能性がある。ヤング・ファーザーズの一貫した姿勢、ご機嫌な何かを伝えようとするクールな心意気を今作から読み取っていただけるはずだ。

 

 

82/100

 

 

Joesef

スコットランドのR&Bシンガー、Joesef(ジョーセフ)は、今週金曜日(1月13日)にAWALからリリースされる待望のデビュー・アルバム『Permanent Damage』に先駆け、最新シングル「Borderline」を公開しました。

 

Joesefは、”ソウル・ポップの新星”とも称される若い期待のシンガーソングライターで、サム・スミスが引き合いに出される場合もある。


「”Borderline"はニュー・アルバムのために書いた最後の曲なんだ」とJoesefは説明している。

 

「この曲はとても文学的な会話形式の曲で、プロダクションは全てとても近い。その場に一緒にいるような感覚にしたかった。このようなペースで書かれた曲は、ある種の優しさがあるため、スピードアップしたり、大きくしたりしたくなる傾向がある。いくつか試してみましたが、アルバムで聴けるバージョンほど、ストーリーに忠実なものはありませんでした。今でも聴くのは難しいかもしれない。この曲は、完璧であったはずの人にふさわしい自分の姿には決してなれない、ということを歌っているんだ。"正しい人、間違った時 "というような曲なんだ」 


 

 

Joesefのデビュー・アルバム『Permanent Damage』はAWALから1月13日に発売されます。

 

 

Nilüfer Yanya


イギリスのシンガーソングライター、Nilüfer Yanya(ニルファー・ヤンヤ)は、最新アルバム『PAINLESS』のデラックス・エディションを昨日、11月14日にATO/PIASよりリリースしました。

 

また、オリジナルアルバムに収録されていた「Shameless」、「Chase Me」、「Midnight Sun」のリワーク・バージョンの3曲のパフォーマンス・ビデオも公開されています。下記よりご覧下さい。 『Painless』のオリジナル・アルバムは3月に同じくATO/PIASから発売されている。

 

「Chase (Reflects)」

 

 

 

「Midnight Sun (Reflects)」

 

 

 

「Shameless (Reflects)」 

 

 



KhruangbinとマリのギタリストVieux Farka Touréがニューシングル「Tongo Barra 」を公開しました。これは、9月23日にDead Oceansからリリースされるアルバム『Ali』からの最新リリースです。

このアルバムはトゥーレの亡き父でグラミー賞受賞ミュージシャン、アリ・ファルカ・トゥーレへのトリビュートアルバムとなっている。発表と同時に、KhruangbinとTouréはリードシングル "Savanne "を公開した。

Khruangbinの最新アルバムは2020年の『Mordechai』となる。


Photo by Kiss Diawara, Rob Williamson, Donovan Smallwood and Riot Muse


テキサスのソウル/ファンクグループ、クルアンビン、そしてアフリカ・マリのギタリストヴィユー・アルカ・トゥーレが、ヴィユーの亡き父、Ali Farka Touréを称えるコラボレーションアルバム『Ali』を、9月23日にDead Oceansから発売する。このアルバム発売の告知と同時に、最初のリードシングルとして 「Savanne」を発表した。



プレスリリースによると、「ヴィユーは、亡き父・アリの人生を回想し、カタログからハイライトとB面を紹介し、このカルテットがアリ・ファルカトゥーレの音楽の自然な即興を維持し、彼ら自身の音楽を込めている」とあります。 


マリのギタリスト、ヴィユー・アルカ・トゥーレは、クルアンビンとののコラボレーションアルバムの制作について、「このアルバムは愛を伝えたいんだ。アリがこの世にもたらした愛について。私が彼に抱く愛、そしてクルアンビンが彼の音楽に抱く愛。古いものに愛情を注ぎ、それを再び新しくすることを目的としている」と説明しています。
 
 
さらに、クルアンビンは、「 私たちは、アリ・ファルカ・トゥーレの人生と作品群に最大の敬意を表してこのアルバムを作りました。このコラボレーションによって、より多くの人がアリの音楽的遺産を知るきっかけになることを願っています」と付け加えています。
 
 
 

 
 
 
 Vieux Farka Touré&Khruangbin 『Ali』


 
 
 
Label: Dead Oceans 
 
Release: 2022年9月23日

 
 Tracklist
 
1.Savanne
2.Lobbo
3.Diarabi
4.Tongo Barra
5.Tamella
6.Mahine Me
7.All Hala Abada
8.Alakarra






また、テキサスのファンクトリオ、クルアンビンは11月に来日公演が決定しています。詳細は下記の通り。
 
 
 
 
 
"FIRST CLASS TOUR"

KHRUANGBIN
 

・2022年11月16日(水)東京ZEPP HANEDA
・2022年11月17日(木)大阪NAMBA HATCH

問:SMASH(smash-jpn.com)
 
 
 
 

Khruangbin  Biography



『The Universe Smiles On You』(2015)、『Con Todo El Mundo』(2018)と60~70年代のタイ・ファンクに強く影響を受けた2枚のアルバムをリリースし、メロウでエキゾなソウル~ファンク・サウンドが瞬く間に評判を呼び2019年に行われた初来日は即完売。同年のフジロックにも出演、そのエキゾチックなライブ・パフォーマンスでここ日本でも絶大な人気を得ている。その後セカンド・アルバムのダブ盤、リオン・ブリッジズとのコラボEPを経て、最新作『モルデカイ』を発表した。
 
 
これまでの音楽性から更に西アフリカ、インド、パキスタン、韓国など古今東西、様々な土地の音楽的要素を吸収しながらもほぼ全編にボーカルという楽器を取り入れ大胆な深化を遂げた。クルアンビン=タイ語で”空飛ぶエンジン/飛行機”というその名の通り、時代と国境を飛び越える唯一無二の存在である。約3年ぶりの待望の来日公演が決定!!

 



イギリス・ヘッドフォードを拠点にするプロデューサー、Lil Silvaは、デビュー・アルバム『Yesterday Is Heavy』から5曲目の先行シングルとなる 「To The Floor 」を公開しました。

 

BADBADNOTGOODをフィーチャーした 「To The Floor」は、Lil Silvaのデビューアルバムのリリースに先駆けて公開。Skiifallをフィーチャーした「What If?」, Charlotte Day Wilsonとのコラボ「Leave It」「Another Sketch" and "Backwards" featuring Sampha」といった曲と併せてアルバムに収録されている。


ニューアルバム『Yesterday Is Heavy』には、Ghetts、Little Dragon、serpentwithfeetとの新たなコラボレーションも収録される予定です。


 


Son Littleは、9月9日にANTI-からニューアルバム『Like Neptune』をリリースすることを発表しました。彼は、アルバムからのリード・シングル「deeper」と「stoned love」の2曲を公開し、さらにアルバムを引っさげての北米ツアーも発表しています。
 
 
Son Littleはプレスリリースで、このアルバムの制作に至った経緯について詳しく語っています。
 
 
 
「ロックダウンの最初の頃、私はガラクタでいっぱいのクローゼットに入り、私の古い執筆の本でいっぱいの箱をいくつか見つけたんだ。72冊もあることがわかった。一番古い本は、9歳の時にクリスマスプレゼントとしてもらったものです。その中で、私は自分の人生に起きていることについて自分自身に手紙を書きました。その中の1ページに、5歳頃に性的虐待を受けたクイーンズ区の隣人について書かれていました。19歳の誕生日を迎えて母に事情を話すまで、この事実を認めたのはこれが初めてであり、また唯一の機会でした。母は私にセラピーを受けるよう懇願した。私は抗議の意を込めて、セラピーを受けました。私の試みは誠実なものではありませんでした。準備が整っていなかったのです。ただ乗り越えればいいと思っていたのです。
 

ある日、セラピーで私は自分自身に語りかけ始めた。"あなたが失敗したとき、すべてを批判する迷惑な内なる声に。何歳か尋ねると、『10歳』と答えた。私が誰なのか、何歳なのか知っているかと尋ねると、『知らない』と答えたんだ。奇妙に思えるかもしれませんが、それは驚くべき結果をもたらしました。私は自分の中の...子供をなだめ、慰めることができるようになったのです」
 


「deeper」




「Stoned Love」 

 





Son Litttle 『Like Neptune 』 




 

Tracklist

 

1. drummer
2. 6 AM
3. like neptune
4. bend yr ear
5. inside out
6. Didn’t Mean a Thing
7. stoned love
8. deeper
9. no friend of mine
10. Playing Both Sides
11. gloria
12. what’s good

 

Fela Kuti  Photo : Rick McGinnis
 

アフロビートの創始者、黒人解放運動家としても知られるフェラ・クティの1972年に発表したアルバム「Roforofo Fight」が、今年8月19日にPartisan Recordsから再発されることになった。


アルバム発売50周年を記念したこのリイシューには、アルバム全曲に加え、シングル曲「Shenshema」と「Ariya」が初めてバイナル盤に収録される予定である。前者のトラックは、今回のリイシューで初めてデジタル配信される。 

 


「Music of Fela: Roforofo Fight」は、元々「Music Of Fela Volume One」と「Music Of Fela Volume Two」という2枚組のレコードでリリースされた。1972年のリリースは、フェラ・クティが西アフリカで最も注目されるミュージシャンのひとりに急成長していた時期であった。このアルバムの再発は、昨年末にパルチザンがリリースしたクティのアルバム7枚を収録したボックスセットに続く。


Partisan Recordsは、続いて、2022年8月19日に『Roforofo Fight: 50th Anniversary Edition』をリリースする予定。

 

 

 Fela Kuti 「Music of Fela: Roforofo Fight」

 

 

1.Roforofo Fight

2.Go Slow

3.Question Jam Answer

4.Trouble Sleep Yanga Wake Am

5.Shenshema

6.Ariya

 


Fela Kuti Official:  

 

https://felakuti.com/us/roforofo-reissue


Photo:Zamar Velez


ドレイク、ジャスティン・ビーバーとの客演、さらには、2021年度のグラミー賞にもノミネートされているR&Bシンガー、ギヴィオンは、4月29日にニューシングル「Lie Again」をリリースしている。ギヴィオンの2020年のアルバム「Heartbreak Anniversary」はトリプルプラチナムを獲得し、名実共にメインストリームにギヴィオンの名が押し上げられた出世作となった。

 

新しく公開されたニューシングル「Lie Again」は、夢のような速さで、束の間の沈黙を破る楽曲。R&Bのテイストに加え、ラップ、ローファイの風味を交えて、スタイリッシュな空気感が存分に引き出された一曲でもある。曲のトーンを壊さぬよう、バックトラックに心地良く鳴り響くギターラインを背に、シンガーソングライターは、飄然と爽快感のあるリズムアンドブルースを紡ぎ出す。ギヴィオンの曲は、捉えやすく、一度聴いただけで理解できるような普遍性が込められている。しかし、彼の曲は、大衆性を兼ね備えながら、そこに精神性がしっかりと備わっている。アーティストのヴィンテージソウルへのリスペクトが込められ、それが聴き応えをもたらしている。メロウでありつつ、感傷に溺れることなく、曲の持つパワフルさによって、リスナーに心をグッと惹きつける。それは、このシンガーソングライターの内面に満ちる詩的な表現性がそうさせているのだ。ギヴィオンは、最新のシングルについて、以下のように説明している。


「Lie Again」は、酷い真実を受け入れることや、恋人の過去の亡霊をうけいれることの拒否と戦おうとするものです。喩えるなら、自分自身の内面に起こる内戦についての物語です。愛の名のもとに幸福にも無知なままでいるために、赤い旗を見落とす内面の心境の複雑さを表しています。

 

 

 

Album Of ther year 2021 

 

ーModern Soulー

 


 

・Jungle 

 

「Loving In Stereo」 Caiola

 

 


 LOVING IN STEREO [歌詞対訳・解説書封入 / ボーナストラック追加収録 / 日本盤CD] (BRC672)  




モダン・ソウル、或いはネオ・ソウルは、往年のR&Bに加え、様々なジャンルを交えたクロスオーバーを果たし、年々ジャンルレスに近づいているように思える。


そして、今年の一枚として選んでおきたいのは、ソウルミュージックの正統派の音楽でUKを中心とする数多くのヨーロッパのリスナーを魅了しつづけるJungleの最新のスタジオ・アルバム「Loving In Stereo」だ。


ジャングルは、ロンドンを拠点に活動するジョッシュ・ロイド・ワトソンとトム・マクファーランドを中心に結成された現在は7人組のグループとして活動するネオソウルプロジェクトであるが、デビュー作「Jungle」をリリースし、この作品が話題沸騰となり、イギリスを中心にヨーロッパのダンスフロアを熱狂の渦に巻き込んだ。「Jungle」はマーキュリー賞の最終候補にも選ばれた作品だ。


オアシスのノエル・ギャラガー、ジャミロクワイもジャングルの二人の音楽性については絶賛していて、リスナーだけではなく、ミュージッシャンからも評価の高いジャングルの音楽が人気が高い理由、それは、往年のディスコサウンド、EW&Fを始めとするソウル、ファンカデリックのようなPファンクを、アナログレコード時代のノスタルジアを交え、巧みなDJサンプリング処理を交えて、現代人にも心置きなく楽しめる明快なソウルミュージックを生み出しているからなのだ。


2021年リリースされた最新作「Loving In Stereo」でもJungleのリスナーを楽しませるために一肌脱ぐというスタンスは変わることはない。人々を音で楽しませるため、気分を盛り上げるため、ロイド・ワトソンとマクファーランドの二人は、このアルバム制作を手掛けている。もちろん、彼らの試みが成功していることは「All Of The Time」「Talking About It」「Just Fly,Dont'Worry」といったネオソウルの新代名詞とも呼ぶべき秀逸な楽曲に表れているように思える。


もちろん、Jungleは知名度、商業面でも大成功を収めているグループではあるが、話題ばかり先行するミュージシャンではないことは、実際のアルバムを聴いていただければ理解してもらえるだろうと思う。ブンブンしなるファンクの王道を行くビート、そして、分厚いベースライン、ヒップホップのDJスクラッチ的な処理、これらが渾然一体となった重厚なグルーブ感は実に筆舌に尽くしがたいものである。それは、言葉で語るよりも、実際、イヤホン、ヘッドホン、スピーカーを通してジャングル生み出すグルーヴを味わう方がはるかに心地よいものだといえる。


「Loving In Stereo」にあらわれている重厚なグルーヴ、低音のうねりと呼ぶべきド迫力は、EW&Fやファンカデリックといったアメリカ西海岸の先駆者に引けを取らないものであるように思える。そして、彼らのそういった先駆者たちへの深い敬意がこの作品に込められているのである。 

 

 

  

 

 






・James Blake 

 

「Friends Break Your Heart」 Polydor


 


Friends That Break Your Heart  

 


ジェイムス・ブレイクは、インフィールド・ロンドン特別区出身のソングライターである。デビュー作「James Blake」で前衛的なプロダクションを生み出し、鮮烈なるデビューを果たし、一躍、UKのミュージックシーンのスターダムに躍り出た。


その後、ブライアン・イーノ、ボン・イヴェールといったUKきっての著名なミュージシャンだけでなく、RZAやトラヴィス・スコットといったアメリカのラッパーと深いかかわりを持ってきたミュージシャンであるため、電子音楽、ヒップホップ、ソウル、単一ジャンルにとらわれない、幅広いアプローチを展開している。


ブレイクの新作「Friends Break Your Heart」は今年の問題作のひとつ。アルバム・ジャケットについては言わずもがなで、賛否両論を巻き起こしてやまない作品である。SZAやJIDといったラップアーティストとのコラボについても話題性を狙っているのではないかと考える人もいらっしゃるかもしれない。


主要な音楽メディアは、このアルバムについてどのような評価を与えたのかといえば、イギリスのNMEだけは、このアルバムに満点評価を与えた一方、きわめて厳しい評価を与えたメディアも存在する。


それは、このアルバムがブレイクの告白的なコンセプト・アルバム、文学でいえば、フランスのルソーの「私小説」に近いニュアンスを持った作品であるからだろう。もしかすると、この点について、多くの音楽メディアは、なぜ、ジェイムス・ブレイクのようなビックアーティストが今更個人的なことについて告白する必要があるのか、と、大きな疑問を持つのかもしれない。ブレイクならば、もっと社会的な問題を歌うべきだ、と多くのメディアは考えているのかもしれない。

 

しかし、本当にそうだろうか。必ずしも、大きな社会的な問題を扱うだけがアーティストの役割とは言えない。

 

つまり、そういった社会の常識に追従しない気迫をジェイムス・ブレイクは本作において示しているように思える。それは、リスナーとしては、とても心強いことであり、なおかつ頼もしいことなのだ。さらに、好意的にこのアルバムを捉えるなら、この作品はPVを見ても分かる通り、いかにもこのアーティストらしい、個性的なユーモアが込められていることに気がつくのだ。


それは、明るい意味でのユーモアというより、ブラックユーモアに近いものなので、ちょっとわかりづらいように思える、イングリッシュ・ジョークに近い、暗喩的ニュアンスが込められているのである。


しかし、「自分の代替品はいくらだってある」と、自虐的に歌うブレイクだが、ラストトラック「If I’m Insecure」では、その諦めや絶望の先に希望を見出そうとしている。つまり、この作品を、寓喩文学に近い側面から捉えるなら、全体的な構成として、暗鬱な前半部、そして、明るい後半部まで薄暗く漂っていた曇り空に、最後の最後になって、神々しい明るいまばゆいばかりの希望の光がほのかに差し込んでくる、それが痛快な印象をもたらすわけである。


つまり、コンセプトアルバムとして、この作品には、ジェイムス・ブレイクの強いメッセージが込められている、生きていると辛いこともあるけど、決して諦めるなよ、という力強いリスナーに対する強いメッセージが込められているように思える。そういった音楽の背後に漂う暗喩的なストーリにNMEは気がついたため、満点評価を与えた(のかもしれない)。個人的な感想を述べるなら、本作は「Famous Last Word」をはじめ、ネオソウルの新しいスタイルが示されているレコードで、ジェイムス・ブレイクは新境地を切り開くべく、ヒップホップ、ソウル、エレクトリック、これらの3つのジャンルを中心に据え、果敢なアプローチ、チャレンジを挑んでいる。


それは、既に国内外でビックアーティストとして認められていながら、この作品を敢えてカセットテープ形式でのリリースを行うというアーティストとしての強い意思表示にも表れている。


つまり、どこまでもインディー精神を失わず、現在まで活動をつづけているのがジェイムス・ブレイクの魅力でもあるのだろう。 

 

 

 

 


 

 


 


・ Hiatus Kaiyote

 

「Mood Valiant」 Brainfeeder

 

 


Mood Valiant  


 

ハイエイタス・カイヨーテはオーストラリアを拠点に活動するネオソウル・フューチャーソウルの代表的なグループである。


この作品は2020年からレコーディングが始まったが、途中、このグループのヴォーカリスト、ナオミ・ネイパームが乳がんに罹患し、その病を乗り越えてなんとか完成にみちびかれた作品ということから、まずこの作品に対し、そして、このヴォーカリストに対して深い敬意を表しておかなければならない。さらに、2つ目のパンデミックという難関を乗り越えて完成へと導かれた作品でもあることについても、同じように深い敬意を表して置かなければならないだろう。


しかし、そういった作品の背後にあるエピソードを感じさせないことが「Mood Valiant」という作品の凄さとも言える。


本作では、ポップ、ソウル、ヒップホップ、エレクトロニック、チルアウト、ローファイ、これらの音楽性が渾然一体となり、ひとつのハイエイタス・カイヨーテともいうべきミュージックスタイルが確立された作品である。


長い期間を経て制作されたアルバムにもかかわらず、時の経過を感じさせないタイトで引き締まった構成力が感じられる。そこに、ネイパームの渋みのあるヴォーカルがアルバム全体に絶妙な艶やかさ、色気とも呼ぶべき雰囲気をそっと静かに添えている。もちろん、そのヴォーカルというのは、このアルバム制作期間において自身の病を乗り越えたがゆえの本当の意味での強い生命力が込められているのだ。


そして、ハイエイタス・カイヨーテがオーストラリア国内にとどまらず、世界的な人気を獲得し、グラミー賞にも、当該作がノミネートされている理由は、トラック自体のノリの良さに加え、その中にも深い味わい、一種のアンビエンス、ソウルという表現性を介してのメロウな雰囲気をもつ、秀逸なソウルミュージックを生み出しているから。そして、表向きの音楽性の中に強いソウルミュージックへのハイエイタス・カイヨーテの滾るような熱い気持ちが表された作品ともいえる。  

 

 

  

 


 

 

 

 


・Mild High Club 

 

「Going Going Gone」 Stones Throw



 


Going Going Gone


マイルド・ハイ・クラブはイリノイ州シカゴを拠点とするサイケデリックポップ・グループである。表向きにはローファイ寄りのロックバンドではあるものの、このバンドの音楽性には、ほのかにソウル、R&Bの雰囲気が漂っているため、モダンソウルの枠組みの中で紹介しておきたいバンドでもある。


「Going Going Gone」は近年、LAを中心に盛んなリバイバルサウンド、ローファイ感を前面に打ち出したモダンな作品といえる。


この作品の良さ、魅力については、「雰囲気の良さ」という一言で片付けたとしてもそこまで的外れにはならないと思える。


それに、加えて、MHCの生み出すメロウなメロディは、コアなリスナーに一種の安らいだ時間を与えてくれるはず。


しかし、もうひとつ踏み込んで、マイルド・ハイ・クラブの音の魅力を述べるならば、彼らの音楽のフリークとしての表情、矜持とも呼ぶべきものが、これまでの作品、そして、最新作「Going Going Gone」に表れ出ていることであろう。それは、俺たちは他のやつらより音楽を知ってるんだぜ、という矜持にも似た見栄とも言える。


無論、マイルド・ハイ・クラブの音楽性はお世辞にも、それほど、上記の作品ほどには存在感があるわけではないけれども、彼らの音楽に深い共感を見出すリスナーは少なくないはずである。

 

いわば、「レコードマニアが生み出したレコードマニアのための音楽」と喩えるべきフリーク性がこの作品には発揮されていて、それが音楽ファンからみても、とても頼もしくもあり、痛快でもあるのだ。


また、それは、別に喩えるなら、アナログレコードプレーヤーに針を落とし、実際にノイズがぱちぱち言う中、音がゆっくり流れ始める、あの贅沢で素敵なタイムラグ、そういったコアな音楽ファンのロマンチズムが、このアルバム全体にはふんわり漂っている。マイルド・ハイ・クラブの音楽に対する尽きせぬロマンチズム。


その感覚というのは、何故かしれないが、実際のサイケデリック寄りの音楽を介し、心にじんわりした温みさえ与えてくれるのである。

 

 

 




 Jungle 

Jungleは、ジョッシュロイド・ワトソンとトム・マクファーランドによって2013年に結成されたソウル、R&B,ファンクユニットで、イギリスを拠点に活動している。母国ではかなり人気の高いアーティストでもあります。

このワトソンとマクファーランドは子供の頃、ロンドンのシェパーズブッシュで隣に住んでいたといい、その頃からの幼馴染であったといいます。また、2人は共に、ハマースミスの私立学校ラティマー高等学校に通っていました。学校を卒業した後、つまり、2013年にワトソンとマクファーランドは、このクラブミュージックユニット、Jungleを結成します。彼らの言葉によれば、このユニットは「真の友情の繋がりへの欲求」から結成された音楽デュオでもあるといいます。

Jungleの音楽性は、1960年代後半に盛んであったファンク、ソウルに触発を受けたディスコサウンドで、ファンカデリック、スライ・ザ・ファミリーストーン、また、ウィリアム・ブーツイー・コリンズといったアーティストからの影響が色濃いブラックミュージック。これまでの音楽シーンにおいて、ローリング・ストーンズやエリック・クラプトンがそうであったように、多くの白人アーティストはロックミュージックを介し、黒人音楽に対する接近を試みてきましたが、近年のロンドン周辺のクラブシーンにおいては、電子音楽、ダンスミュージックを介してブラックミュージックへ接近を図るアーティストが増えてきているという印象を受けます。

勿論、Jungleも、年代に関わらず、ブラックミュージックに対して敬意を持ち、それらの音楽性の核心を現代に引き継ぎ、リテイクしていくという点では同じであるように思えます。まだまだ60.70年代に一世を風靡したソウル、ファンク、ディスコ、これらのブラックミュージックには開拓の余地が残されているということを、現代のクラブシーンのアーティストは証明しようとしているように思える。そのあたりのクラブシーンの活気に後押しされ、これらの60.70年代のブラックミュージックのリバイバルの動きの延長線上に、ディスコサウンドの立役者「ABBA」の復活の理由があるのかもしれません。

これらの音楽、つまり、懐古サウンドといわれていたブラックミュージックは、2020年代には再び脚光を浴びる可能性が高くなっている。このイギリスのユニット、デュオ、Jungleについていうなら、近年のアーティストらしく、ラップ寄りのサンプリングといった技法も取り入れられているのがクールで、現代のユーロ圏のクラブシーンにおいて人気を博している理由でしょう。

2013年10月、シングル盤「This Heat」をチェスクラブレコードからリリース。この楽曲の発表後、BBCの"Sound of 2014"にノミネート、大きな話題を呼ぶ。また、翌年7月リリースされたデビューアルバム「Jungle」は、国内のクラブシーンで好意的に迎えられ、2014年のイギリスのマーキュリー賞の最終候補に選出されています。このBPIによりゴールドディスク認定を受けたデビュー作は、商業的にも大成功を収め、イギリスチャートにおいて、最高7位を獲得、鮮烈なデビューを飾る。とりわけ、イギリス国内とベルギーといったユーロ圏の国において根強い人気を獲得している。それからもJungleの快進撃は留まることを知らず、2018年に発表されたセカンド・アルバム「For Ever」も内外のチャートで健闘を見せ、イギリスチャートでは最高10位、ベルギーチャートで13位を獲得、ユーロ圏で安定した人気を見せているアーティストです。


Jungleの楽曲は、主にCMやゲームに頻繁に使用されていることでも有名。AppleやO2、スターバックス、トヨタ・ヤリスのCM、EAスポーツ、FIFA15.19でもJungleの楽曲が使用されています。つまり、単なるクラブ音楽としての踊れるという要素だけにとどまらず、バックグラウンドミュージックとしての重要な要素、聞き流す事のできる陽気な音楽としても適しています。

また、Jungleは、ミュージックビデオ制作にも力が入れており、専門の監督、振り付け師、ダンサーを器用する。映像作品を音楽から独立したアート作品というように捉えているアーティストです。

既に、イギリスの著名な音楽フェスティヴァル、グラストンベリー、レディングへの出演を果たしており、ライブパフォーマンスでは、サポートメンバーを追加し、六、七人編成まで膨らんで、ファンカデリックやスライ・ザ・ファミリーストーンのようなソウルフルなロックバンドへの様変わりを果たす。楽曲の制作自体は、ジョッシュロイド・ワトソンとトム・マクファーランドの2人で行われていますが、実際の活動としては流動的な形態を持つアーティストです。

  

 「Loving in Stereo」 2021

 

今回ご紹介するJungleの2021年の8月13日に、自主レーベル、Caiola Recordsからリリースされた「Loving in Stereo」は、発表時に予告編のミュージックビデオが話題を呼んだ作品。 
 
 
 
 

 TrackListing

 
 
1.Dry Your Tears
2.Keep Moving
3.All Of the Time
4.Romeo
5.Lifting You
6.Bonnie Hill
7.Fire
8.Talk About It
9.No Rules
10.Truth
11.What D'you Know About Me?
12.Just Fly,Don't Worry
13.Goodbye My Love
14.Can't Stop The Stars
 

 
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前々からのミュージックビデオでも登場していた"ビネット"というダンサーを起用し、廃墟となった複合施設、刑務所で映像が撮影されています。また、ゲストとしてラッパーのBas,そしてスイスのTamilミュージシャンPriya Raguを起用している辺りも見過ごせない点といえるかもしれない。
  
このアルバムの実際の音楽性としては、これまでの方向性を引き継いだ往年の60.70年代のディスコサウンド、あるいはファンク、ソウルの王道を行くもので、大きな捻りはなし。ソウル、ファンクの核をこれでもかというくらいに突き詰めたサウンド。白人としての黒人音楽への憧憬というのは、イギリスの近代大衆音楽の重要なイデアとも呼べそう。このブラックミュージックの音楽を知る人なら、音楽性の真正直さに面食うはず。それでも、懐古感、アナクロニズムという要素はとことんまで突き詰めていくと、新しい質感をもたらすことの証明でもある。
 
アースウインドアンドファイヤー等のディスコサウンド全盛期の時代の熱狂性を現代のロンドンのアーティストとして受け継ぎ、その旨みをギュウギュウに凝縮したサウンドとしか伝えようがなし。もちろん、リアルタイムでのリスナーだけでなく、後追い世代のリスナーもこのJungleの生み出す真正直なディスコサウンドを聴けば、妙なノスタルジックさに囚われ、さながら自分がこれらのディスコサウンド時代のダンスフロアに飛び込んでいくような錯覚を覚えるはず。

しかし、現代の他のファンクサウンドを追求するアーティストにも通じることだけれども、もちろん懐古主義一辺倒ではないことは、Jungleがユーロ圏で大きな人気を獲得している事実からも伺えます。

一曲目のトラック「Dry Your Tears」はアルバムの序章といわんばかりに、ストリングスを用いたボーカル曲としてのドラマティックなオーケストラレーションで壮大な幕開け。そして、そこからは、いかにもJungleらしい怒涛のソウルサウンドラッシュに悶絶するよりほかなし。
 
特に、#2「Keep Moving」から#3「All Of Time」のディスコサウンド風のノスタルジーにはもんどり打つほどの熱狂性を感じざるをえない。ダンスフロアのミラーボールが失われた時代に、Jungleは、ミラーボールを掲げ、現代の痛快なソウル、ファンクを展開する。この力強さにリスナーは手を引かれていけば「Love in Stereo」の持つ独自の世界から抜けで出ることは叶わなくなるでしょう。
 
 
音自体のノスタルジーさもありながら、サンプリングをはじめとするラップ色もにじむクールなトラックの連続。これには、目眩を覚えるほどの凄みを感じるはず。この土道のR&Bラッシュは、アルバム作品として中だるみを見せず、#8「Talk About It」で最高潮を見せる。ここでも、往年のディスコサウンドファンを唸らせるような通好みのコアなファンクサウンドが爽快なまでに展開される。また、#12「Just Fly,Dont't Warry」というタイトルには笑いを禁じ得ませんが、ここではブーツイー・コリンズ並のコアなファンクサウンドを体感することが出来るはず。


そして、Jungleのアルバムとしての熱狂性は、中盤で最高潮を迎えた後、徐々にしっとりとしたソウルバラードにより徐々に転じていく。特に、アルバム終盤に収録されている「Goodbye My Love」は聞き逃すことなかれ、実に、秀逸なR&Bバラードであり、チルアルト的な安らいだ雰囲気を持ったトラック。
 
 
もちろん、アルバムトラックの最後でリスナーの気分を盛り上げずにはいられないのがJungleのサービス精神旺盛たるゆえんなのでしょう。彼らは、このアルバム制作について

「私達が音楽を書くときには希望がある、私達は人々に影響を与えるような何かを作るでしょう。あなた方の気持ちを持ち上げるに足る作品を作れる事ができれば一番素晴らしい」と語る。
 
 
そして、それは彼等2人の9歳の頃からの友情により培われたソウルでもある。彼等の言葉のとおりで、作品の幕引きを飾る「Cant’ Stop The Stars」は、ソウルサウンドによって、リスナーの気持ちを引き上げていく力強さに満ちあふれている。シンセサイザーのアレンジメントも、往年のブラックミュージックファンも舌を巻かずにはいられない素晴らしさ。現代的な洗練性、そして、往年のノスタルジーを見事にかけ合わせ、ブレンドしてみせた、この素晴らしきネオ・ソウルサウンドをぜひ、一度ご堪能あれ!!
 



References


 
Wikipedia 


 




Unkown Mortal Orchestra 

 

今週も、先週のノスタルジックな通好みの音楽「”Lord Huron”にいざ続け!」といわんばかりに、同じようなリヴァイヴァルタイプの素晴らしい楽曲をお届けしようと思います。

 

今回、ご紹介するアンノウン・モータル・オーケストラは、Ruban Nielsonを中心にアメリカのオレゴン州、ポートランドを拠点として活動するインディーロック・バンドで、このグループの中心的な人物であるルビン・ニールソンは、元々、ニュージーランドでプロジェクトを立ち上げた当初は、Bandcampを中心として、楽曲を制作発表していたけれども、その後、アメリカのポートランドに移住、他のメンバーを引き入れ、基本的には、四人編成のバンドとしてメンバーを入れ替えながら活動を続けている。  

 

アンノウン・モータル・オーケストラの音楽は、 先週紹介したロード・ヒューロンと同じように、古い時代に流行したサウンドを現代にリバイバルした形で展開し、それを独自の他にはない渋い持ち味としている。

 

特に、昨今、アメリカンのインディーシーンでは、NYのアーティストをはじめ、ロサンゼルス近辺にこういった懐かしいサウンドを、バンドの主体的イメージとして打ち出し、独特な通好みの現代的なロック/ポップスを奏でるミュージシャンが数多く見られるのは事実であり、これは、アメリカのインディー・ロックの現在のライブハウスでも人気を博しているような雰囲気が伺える。

 

もちろん、このアンノウン・モータル・オーケストラにとどまらないで、Mild Club High,Real Estate,Arien Pink,Foxygen,Toroy Moi,Beach Fossils,Wild Nothing,Molly Burchと、その例をあげれば、枚挙にいとまがない。特に、このリバイバルミュージックのアーティストが分布しているのは、サンフランシスコ近辺の地域か、もしくはニューヨークで、これはあながち偶然とは思えない。

 

ニューヨークの往年の6.70年代の音楽の盛り上がりについては言わずもがな、サンフランシスコという土地も同じように、グレイトフル・デッド、スライ&ザ・ファミリーストーン、あるいは、ザ・レジデンツを始めとする、サイケデリック、ファンクロックが盛んな土地として栄えた歴史を持つ。この文化的な流れをうけてか、サンフランシスコ近辺には、いわゆる昔の音楽として、一時期、完全に忘れ去られていたサイケデリック音楽の影響を大いに受けたインディーロックバンドが、サンフランシスコ周辺、南部のロサンゼルス、それから、北部のオレゴンのポートランドのミュージックシーンに数多く見受けられる。そして、現代のインディーロックバンドは、このサイケデリック音楽を、どちらといえば、クラブミュージック寄りの解釈によって彩ってみせている。

 

 

これは、往古のファンクロックと、近年のヒップホップシーンの、「ハイブリッド的な存在」として誕生したアメリカ独自のジャンルではないかと思える。また、そこには、スライストーンのような泥臭さとはなく、サイケデリックをはじめとするジャンル、往年のサンフランシスコ発祥の音楽に大きな影響を受けていながら、それを斜に構えるような感じでクールに演奏してみせる。

 

 

そして、現時点において、アメリカの西海岸の重要なインディーのミュージックシーンは、シアトルではなく、その北部にあるポートランド、あるいは、ロサンゼルス周辺が最も盛り上がっているような印象をうける。つまり、アメリカという国土を全体的に見渡してみると、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、ポートランド辺りに、重要なアーティスト、あるいは、新しいミュージック・シーンが台頭している、もしくは、これから台頭してくるような気配が漂っている。


さて、このアンノウン・モータル・オーケストラだけに関して言えば、このサンフランシスコの伝説的なサイケデリック、ファンクロック界のスター、スライ&ファミリーストーンの影響を色濃く受けたバンドとして挙げられる。そこには、LPアナログ時代にしか味わえなかったデジタル音源よりはるかに甘美な味わいのある音、そういった音楽フリークが探し求める要素を、ルバン・ニールソンは自身の手で探し求め、それを往年の「暴動」を始めとするスライ・ストーンの時代に賑わったサンフランシスコシーンの音を多くのファンに提供し続けている。

 

このような言い方が相応しいものか分からないものの、ルビン・ニールソンは、上記に挙げた、Arien PinkやMild Club Highと共に、アメリカのサイケデリックのコアな継承者としてシーンで息の長い活動を今日まで続け、インディーズシーンの流れを必死に形作ろうとしているように思えてならない。

 

アンノウン・モータル・オーケストラは、バンドの作曲を担当し、もちろん、シンガーでもあるニールソンのソロプロジェクトとして発足した2010年から、Bandcampを中心としてインディーシーンで活動を続け、ポートランドに移住し、バンド体制となってからも、多くの良盤をリリースしてきている。

 

 

まず、はじめに、アンノウン・モータル・オーケストラの入門編として推薦しておきたい作品は、「Ⅱ」 2013、Multi-Love」 2015、(共にJagjaguwarからリリース)の二つがある。

 

「Ⅱ」では、良質なメロディセンスの感じられるローファイ風味あふれるポップソングが味わえる。一方、「Muli-Love」では、スライ・ストーン直系のノスタルジックなサイケデリックファンク、ディスコサウンドを堪能出来る。なぜかしれないが、不思議と、70年代のサンフランシスコの音楽的な熱狂をリアルタイムで体感していないリスナーにも、ノスタルジックな気分に浸らせてくれる、何かがあるように思える。

 

 

 


「That Life」 2021   (Single)



 

直近では、「Weekend Run」というシングルをリリースしているアンノウン・モータル・オーケストラ。このシングル作品では、女性ボーカルをフーチャーしたアース・ウインド&ファイアー寄りの寛げるような音楽を奏でている。

 

そして、七月の下旬にリリースされたばかりのシングル「That Life」においては、またそれとは異なるアプローチを図り、新たな2020年代のファンクロックの誕生を予感させている。

 

 

 

 

 

およそ一年ぶりくらいに、このモータウン・オーケストラの楽曲を聞いてみたところ、ほとんど驚愕せずにはいられなかった。それは、単純に、ルバン・ニールソンの歌い方がこれまでのスタイルとは一変していたことによるもので、まるで、別人が歌っているように思えた。これまでの作品、たとえば、「Ⅱ」において、ニールソンは、内省的なローファイ風味あふれる繊細な歌い方を選んでいたが、「Multーlove」辺りのリリースを機に、徐々に歌い方、声の質感というのが変貌してきていて、ついに今作「That Life」で、ひとつの完成形を見たといえるかもしれない。最新シングル作「That Life」において、ニールソンは、これまでのベールを、ガバっと剥ぎ取り、張りのあるファンク寄りの激渋のボーカルスタイルに路線変更を試みているように思える。そのスタイル変更は、バンドとしても完全に成功したと言って良いでしょう。


また、これは、このアンノウン・モータル・オーケストラが追究していた音楽のスタイル、往年のアナログレコードの音のジャンクでシャリシャリした質感を、完璧な形でデジタルとして現代に再現することに成功した快作。

 

これまで、どことなく、ぼんやりしたような印象があったニールソンの歌声が、今作においてかなり鮮明になっているのに、アンノウン・モータル・オーケストラのファンは驚くはず。歌詞をじっくり喉元で噛みしめるように歌うニールソンの声は、今作では、渋い味わいを伴い、楽曲トラックの前面に力強く表れ出ている。また、そこに、独特のR&Bとしての抒情性が込められている。このソウルフルな歌声を、心地よいリズムが背後からバンドサウンドとして強固に支えている。つまり、「That Life」の楽曲全体の雰囲気自体には、七十年代へのサンフランシスコの音楽の憧憬が滲んでいるものの、そこには漏れなく、現代的なクールさも滲んでいる。そして、楽曲のノリノリな感じというのは、これまでの彼等の楽曲より痛快味があるように思える。

 

そして、この楽曲において見過ごせないのは、アンノウン・モータル・オーケストラの公式プロモーションビデオのかわいらしい人形のダンスである。


ここで、セサミストリート風の人形が登場し、「That Life」の往年のディスコサウンド、あるいは、サイケデリックファンクの楽曲に併せて、可愛らしく踊っていて、それがこのミュージックビデオのハイライトとなっている。

 

このセサミストリート風の可愛らしい人形ダンス映像は、Youtubeの公式動画だけではなく、Spotifyのcanvasという機能、また、Apple配信のミュージックビデオでもお楽しみ頂く事が出来ます。  

 

 

 

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ここには、ルバン・ニールソンの温和な人柄だけではなく、アンノウン・モータル・オーケストラというバンド形態としてのユニークさが十全に発揮されている。これまでの音楽性は、どちらかといえば、フリーク向けの楽曲であったものの、今作では、アンノウン・モータル・オーケストラは様変わりを果たし、より多くの層に馴染みやすい楽曲のサウンドアプローチを追究している。


曲全体としては、それほど目くるめく展開力があるわけではないにせよ、何度となく、この曲をループしてみたくなる欲求を覚える。それは、彼等のサウンドアプローチが七十年代の音楽の美味しいとこ取りをし、なおかつそれをノリの良いリズムトラックとして再現しているからこそ。そして、メロディセンスというのも、初期からの”アンノウン・モータル節”ともいうべき独自の性質が引き継がれており、往年のディスコ、サイケデリックファンクを聴き込んだがゆえのセンスの良さが詰め込まれている。

 

これは、本当に、「美味い、美味すぎる!」と、思わず、声をあげてしまいそうになるのは必須です。そして、その辺りが、往年のディスコサウンドやファンクサウンドに慣れ親しんだヘヴィリスナーはもちろんのこと、この年代サウンドに馴染みがない最近の音楽ファンの心さえも「グワシ!」と鷲掴みにして離さないはずです。今作を、じっくり、または、とっくり聴いてみれば、次のアンノウン・モータル・オーケストラの次回作への期待感がいや増していくはず。


すでに、ニールソンの母国ともいえるニュージーランドでは、インディーズのディスクタイトルを複数回獲得して来ているアンノウン・モータル・オーケストラ。これから、さらに、アメリカのシーンにおいても快進撃を続けていきそうな勢いが余す所なく込められているのが「That  Life」!!

 

とても、親しみやすく、渋みのあるダンスミュージックであって、これぞまさに、現代のアメリカのインディーシーンの流行の最先端を行くポップサウンド!! 思わず一緒になってノリノリに踊りだしたくなる衝動に駆られるキャッチーで激渋ダンスロック。最近の音楽に飽きてきて、「なんか良いのないかな?」と探し回っている方に、是非ぜひおすすめしておきたい良曲です。