ジギー・スターダストに象徴されるように、よくデヴィッド・ボウイは架空のキャラクターを矢面に押し出したイメージ先行のアーティストと言われる。一理あるが、しかしそれがすべてだとも言いがたい。デヴィッド・ボウイは1976年から1978年まで西ベルリンに住んでいたが、この3年間は彼がミュージシャンとしてヒューマニスティックな暮らしを送った期間だ。この時代、『Low』、『Heroes』、『Lodger』など名作群を世に輩出した。いわゆるベルリン三部作と言われ、ブライアンイーノがプロデュースした。そのなかではかのオブリーク・ストラテジーズも使用された。ここではボウイが旧ドイツでどんな暮らしを送っていったのかを探索する。


 ボウイがベルリンを訪れたとき、1960年代の激動と熱気に包まれたこの都市は、東西分裂の時代とあってか、やや荒廃していた。 しかし、ベルリンという都市は、戦後もなお、その名を知られることのなかった、独自の発展を遂げた都市でもあった。 戦争の後、この都市は、常にその名を知られるようになったのである。 しかし、市庁舎センターは、戦争と社会主義的な市街地計画の結果であるような、激しい対立の場でもあった。 その結果、オスト・ベルリンは滅亡の危機に瀕したのである。 その結果、わずか数メートルの距離で、すべての市街地が破壊された。


 西ベルリンは当時、ドイツ連邦共和国からの補助金のみによって運営されている非常に活気のある都市であった。拡大された街並みと、それに付随する街の魅力が、多くの人々の関心を引きつけていた。


 四半世紀前に大成功を収めた後、米国で活躍するミュージシャンは大きな転機を迎えた。 彼は、ある時はファンから激しく非難され、ある時はファシスム・シンパシーを強く意識するようになった。 ボウイは世界主義の人間として再出発しようとしていた。 西ベルリンは、まさにうってつけの世界都市であった。ここでのデヴィッド・ボウイは、世界での数年を経て、再びエルデ星に降り立ったのである。 しかし、ボウイは1970年代のドイツ・キノに興味を持ち、クラフトワーク、ノイ、カンといった、新しい音楽性を追求するクラウトロックにも興味を持った。


「LAでの生活は、私に圧倒的な予感を残していた。 薬物による災難の瀬戸際に何度も近づいたし、何らかの前向きな行動を起こすことが不可欠だった。 長年、ベルリンは私にとってある種の聖域のような魅力があった。 事実上、匿名で動き回れる数少ない都市のひとつだった。 私は危うく一文無しになりそうだった」


「私は10代の頃から、とくに表現者たち(芸術家も映画製作者も)の怒りに満ちた感情的な作品に夢中になっていた。 ベルリンは、ディ・ブルッケ運動、マックス・ラインハルト、ブレヒト、そして『メトロポリス』や『カリガリ』の発祥の地だった。 それは、出来事によってではなく、''気分によって人生を映し出す芸術''だった。 これが私の仕事の方向性だった。 1974年にリリースされたクラフトワークの『アウトバーン』によって、私の関心はヨーロッパに戻った。 電子楽器が圧倒的に多かったので、この分野はもう少し調べなければいけないと確信したんだ」


「クラフトワークが私たちのベルリンのアルバムに与えた影響については、多くのことが語られてきた。 でも、そのほとんどは、少しいい加減な分析だろう。 クラフトワークの音楽へのアプローチは、私の構想には入っていなかった。 彼らの音楽は、管理され、ロボット的で、注意深く、ミニマリズムのパロディに近いものだった。 フローリアンとラルフは、自分たちの環境を完全に管理しており、彼らの作曲はスタジオに入る前に十分に準備され、研ぎ澄まされているという感じがした。 私の作品は表現主義的なムード・ピースの傾向があり、主人公(私自身)は自分の人生をほとんど、あるいはまったくコントロールすることなく、''時代精神''(当時の流行語)に身を任せていた。 音楽はほとんど自然発生的なもので、スタジオで作られた」


「実質的にも、私たちは両極端だった。 クラフトワークのパーカッション・サウンドは電子的に作られたもので、テンポが硬く、動かない。 他方、私たちのサウンドは、力強くエモーショナルなドラマー、デニス・デイヴィスによる揶揄されるような処理だった。 テンポは「動く」だけでなく、「人間」以上に表現されていた。 クラフトワークは、その屈強な機械的ビートを、すべて合成音の発生源で支えていた。 私たちはよくR&Bバンドを使った。『Station To Station』以来、R&Bとエレクトロニクスのハイブリッド化が私の目標だった。 実際、70年代のブライアン・イーノのインタビューによれば、彼はこの点に惹かれて私と仕事をするようになった」


 ベルリンでの時代については、多くの出来事が伝説化している。ボウイは、シェーネベルガー通り155番地の大きなアパートで暮らしていた。また、157番通りにある "Anderes Ufer "というバーにも出入りした。それ以前は、ニュルンベルガー通り53の「Dschungel」、フッガー通り33の「Chez Romy Haag」、パウル・リンケ・ウーファーの「Exil」、カント通りの「Paris Bar」で活動していた。 ボウイの音楽は、ポツダム広場にある有名なハンザ・スタジオで演奏された。 


デヴィッドボウイが暮らしていたアパートメント


 ボウイが文化に興味を持ったとき、彼はブリュッケ・ミュージアムに入った。 WGの仲間であるイギー・ポップの歴史は半ば伝説化して語り継がれている。パンク界のレジェンドは、ボウイの部屋の中に入ってからまもなくアパートを去った。原因は冷蔵庫の食材を勝手に食べたのが理由だったとか……。ボウイがロミー・ハーグと親交を深めたのも、ベルリン時代の思い出のひとつ。そして当然、彼のアシスタントのココ・シュワブもいた。 イギー・ポップの友人であるエスター・フリードマンも、この小さなグループに加わった。 スタジオでは、プロデューサーであるトニー・ヴィスコンティとトーン奏者のエドゥアルド・マイヤーが重要な役割を果たした。


 ベルリンでは、デヴィッド・ボウイは創作活動に没頭した。 この時期に発表された3枚のアルバム、いわゆるベルリン三部作は、ベルリンで最も重要な時代的出来事である。 ボウイは『Low』『Heroes』をドイツ語とフランス語でも発表した。 しかし、それは極限の状態で書かれた。


「私にとっては危険な時期だった。 肉体的にも精神的にも限界だったし、自分の正気について深刻な疑問を抱いていた。 でも、これはフランスでの話……。全体的に、私は''ロー''から絶望のベールを通した本当の楽観主義を感じる。 自分自身が本当に元気になろうと必死になっているのが聞こえてくる。ベルリンは数年ぶりに生きる喜びを感じ、大きな解放感と癒しを与えてくれた。 パリを思い出すよりも8倍も大きな都市で、迷いやすく、自分自身を見つけるのも簡単だった」



 この街では、ボウイはさらに多くのことを学んだ。 そして彼は、西ベルリンが、その昔もそうであったように、きわめて異質なものであったが、その末期には郷愁的であったことを知った。一般的には彼は1978年にこの地を去り、以来ベルリンには戻らなかった。しかし、デヴィッドボウイにとってベルリンは住みやすい街で離れるつもりはなかった。その後ニューヨークに行ったのは行きがかりとも言うべき理由だった。当時のことについてボウイは回想している。


「ベルリン離れるつもりはなかった。たぶん、うまくいっていたんだと思う。 かけがえのない、見逃せない経験だったし、それまでの人生で一番幸せな時期だったかもしれない。 ココもジムも私も、とても素晴らしい時を過ごした。 でも、あそこで感じた自由な感覚は言葉では言い表せない。 私たち3人が車に飛び乗り、東ドイツを狂ったようにドライブして黒い森に向かい、目に留まった小さな村に立ち寄った日……。何日もかけて。 冬の日にはヴァンゼーで午後の長い昼食をとったりしたんだ。そこはガラス張りの屋根があり、木々に囲まれていて、はるか昔の1920年代のベルリンの雰囲気がかなり残っていた。 夜はクロイツベルクにあるレストラン「エグザイル」、インテリやビートとつるんだりもした。奥にはビリヤード台がある煙の充満した部屋があり、いつも仲間が入れ替わる以外は、もうひとつのリビングルームのようだった」



「西ベルリンの中心部にある巨大なデパート、''Ka De We''で買い物をすることもあった。このデパートには、誰もが想像できるような巨大な食品売り場があり、一時期深刻な食糧難に陥った国か、単に食べることが好きな国民しか想像できないような陳列がされていた。 私たちは、チョコレートやキャビアの小さな缶など、当時は贅沢品と感じられるものを時々買い込んでいた。ある日、私たちが出かけている間にジムがやってきて、私たちが朝から買い物に費やした冷蔵庫の中のものを全部食べてしまった。 私たち夫婦がジムの心から怒った数少ない出来事だった」


「ジムは、ベルリンで知り合った女性と結婚し、私たちのアパートの隣に自分のアパートを建てたので、もうしばらくベルリンに残ることにした。 それからエレファント・マンの話が持ち上がり、私はかなりの期間アメリカに滞在することになった。 それからベルリンを離れたんだ」


 


アイルランド/ダブリン出身の5人組ロックバンド、Fontaines D.C.は昨年8月にXLからニューアルバム『Romance(ロマンス)』をリリースしました。(レビューを読む)また、このアルバムは昨年のベストアルバムに選出しています。


そして今回、映画的な7分半のミュージックビデオで、新曲「It's Amazing to Be Young」を発表した。曲自体は3分半しかないですが、ビデオには台詞や筋書きの場面もある。以下からご覧ください。


ニューシングル「It's Amazing to Be Young 」はロマンスと同様、ジェームス・フォードがプロデュースしました。この曲は、新B面 「Before You I Just Forget」をフィーチャーした限定7インチレコードでリリースされます。


フォンテーヌD.C.のメンバーは、グリアン・チャッテン(ヴォーカル)、カルロス・オコネル(ギター)、コナー・カーリー(ギター)、コナー・ディーガン(ベース)、トム・コル(ドラム)。


ギタリストのコナー・ディーガンはプレスリリースで新曲についてこう語っています。


「イッツ・アメージング・トゥ・ビー・ヤング」は、カルロスの生まれたばかりの子供の前で書いた曲なんだ。当時は子守唄かオルゴールのように聞こえたが、歌詞は同じ。子供が与えてくれる希望の感覚は、特に私たちのような若者にとっては深く、感動的なものだ。子供たちが幸せに成長できるような世界を作りたいという感覚でもある。


それは、現代社会でしばしば私たちを覆いかねないシニシズムと闘う感情なんだ。だから私たちは、自分たちがどちらの側にいるのかを宣言したかった。私たちはまだ自由だし、その感覚を広めたい。私たちの周りの人たちのためにこの気持ちを守りたい。


ミュージックビデオの監督を務めたルナ・カルムーンは、新しいビデオの制作について次のように語っています。


この新曲は、フォンテーヌが手がけた曲の中でも特に気に入っているし、この曲のビデオ3部作を完成させることができたのも嬉しい。この新曲はフォンテーヌが手がけた中でもお気に入りの曲だし、この曲のビデオ3部作を完成させることができたのも嬉しい。素晴らしいチームと仕事ができたし、音楽を聴いたときに自動的に思い浮かんだ世界を創り出すための空間と息吹を与えてもらった。


私たちは今、ロマンチックな愛が脇に追いやられ、セックスや愛は美徳ではなく、人々が見たいものではなくなっている奇妙な時代に生きているような気がする。私はそんなことはまったく思っていない。


私はこの2人が自分自身と恋に落ちたというエピソードが大好きだし、そして2人が恋に落ちるところを見たかったんだ。カージツのビデオ(『In the Modern World』)を撮った後に種をまいて、それから2、3日で『It's Amazing to Be Young』のビデオを制作したんだ。サンタ・サングレへのオードがたくさんある。また、僕の最初の短編映画『Shagbands』を思い出させる。

 


「It's Amaging To Be Young」

 

公式ホームページより

フジロック・フェスティバルの2025年のラインナップの第一弾が発表されました。今年は日程別に出演者が発表されました。フレッド・アゲイン、エズラ・コレクティブ、イングリッシュ・ティーチャー、Tycho、ヴァンパイア・ウィークエンド、Suchmos、Vaundyなどの出演が決定しています。下記より詳細を確認してみて下さい。


フジロックフェスティバル2025は苗場スキー場で、7月25日から三日間にわたって開催されます。


7/25(金)


スクリレックス、アンダーソンパーク、ブライアン・イーノなど名だたるアーティストとのコラボで知られる、現在のダンスミュージックシーンの最重要アーティスト、フレッド・アゲイン。 が、初来日にしてフジロック初登場!


そして、現在の音楽シーンに多大なる影響を与え、2021年の活動休止からついに再始動を果たしたSuchmos、今年1月のさいたまスーパーアリーナ公演は2日間で76000人を動員した、令和時代の象徴的存在とも言えるアーティストVaundyの出演が決定!


ジャズ・アーティストとして初めてマーキュリー・ミュージック・プライズを受賞したエズラコレクティブ、それぞれ韓国、台湾の音楽シーンを牽引してきたバンドのコラボレーション、ヒュウコー&サンセットジェットコースター、クリエイティビティに溢れるmvで、ミュージック・ビデオのYoutube時代を切り開いてきたOK GO、今年1月に8年ぶりの来日公演を大いに盛り上げた、エレクトロニカ/ポストロックを代表するアーティストTYCHO。


7、今年結成30周年、待望のフルアルバム『viraha』をリリースするBRAHMAN、世界でミュージックラヴァーに注目を受け続けている坂本慎太郎、初日17組のラインナップが決定!"


7/26(土)


インディペンデントな活動を貫き、2019年にはメジャーレーベルの支援を受けることなく、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンを満員に快挙を成し遂げた現代最高峰のファンクバンド、ヴルフペックがフジロックのヘッドライナーとして待望の初来日!!」7/26(土)


エイフェックス・ツイン、レディオヘッド など、錚々たるアーティスト達が魅了して止まないエレクトロニック・ミュージック・シーン唯一無二の存在 FOUR TET、さらに1970年代から現在まで日本の音楽シーンを支え続けるレジェンド山下達郎がフジロックに初登場!


デビュー・アルバムでいきなりマーキュリー賞ノミネートを果たした新鋭プロデューサー、バリーは泳げない、様々な音楽のジャンルの壁を乗り越え、聴き手を魅了してきたエゴラッピン、自作での評価は言わずもがな、21世紀に影響力のある数々のアルバム。支えてきたジェームス・ブレイク、ひたむきロックンロールを愛し続けてきた男たち サンボマスターが出演!、


さらに、2日目を盛り上げる強力な布陣として、繊細な表現と超絶技巧を兼ね備え、1月のラインキューブホール公演を完売させた君島大空合奏形態、昨年10月の初来日公演で大好評を博したアイルランドの新鋭ニューダッドなど、23組が決定!


7/27(日)


昨年5年ぶりにリリースしたアルバム『オンリー・ゴッド・ワズ・アバヴ・アス』が世界中で高い評価を受け、3年ぶりにヴァンパイア・ウィークエンドが最終日のヘッドライナーとしてフジロックにカムバック!


2021年にはグラミー賞にもノミネートされ、エネルギッシュなライブパフォーマンスが魅力のカリフォルニア出身、三姉妹ポップロックバンド・ハイム、2023〜2024年、世界40都市に渡り220,000人を動員するワールドツアーを実施し、2025年11月にはメジャーデビュー20周年を迎えるRADWIMPSが苗場に登場!


テレビアニメ『呪術廻戦』ed主題歌が国内ストリーミング1億再生を突破、4月よりツアーで更なる飛躍を目指す羊文学、「地球上で最高のライヴ・バンド」も称され世界中にその存在を認める蜂の巣が登場!今月行われた東京ドーム公演。


月行われた東京ドーム公演で5万人を動員、ラッパー・R-指定とDJ松永によるHIP HOPユニットCreepy Nuts、昨年8月の日比谷野外音楽堂公演にてバンドとして改めて始動し国内外で活動するkanekoayano、ロックシーンを牽引し続けて40年、今なお第一線で活躍を続けている佐野元春など、最終日は20組のラインナップが発表!大自然の中で音楽と共に過ごす3日間。


大自然の中で音楽と共に過ごす3日間、いよいよ7月の苗場に向けてスタートです。今後の展開もお楽しみに。


イベント情報の詳細は公式サイトをご覧ください。





Photo: Fabrice Bourgelle


Dominic J Marshall(ドミニク・J・マーシャル)は、ロンドンを拠点に活動するUKジャズシーンを担う音楽家です。ピアノやシンセの演奏を得意とし、電子音楽とジャズの融合を図るニュージャズ/クロスオーバージャズの演奏家として知られています。音楽性もきわめて幅広い。スタンダードジャズから電子音楽、ネオソウル、ヒップホップをしなやかなジャズに仕上げています。

 

今年2月7日に発売されたニューアルバム『Fire-breathing Lion』は、完全なインディペンデントの作品として制作されました。ニュージャズの範疇にあるアルバムでJaga Jazzistを彷彿とさせる曲もある。音質は粗いですが、ミュージシャンのマルチタレントの才覚が全編に迸っています。


「私がすべての楽器を演奏したソロアルバムです」とマーシャルは説明しています。「このアルバムは、全曲を私が作曲し、セルフ・プロデュースした。アコースティック・ピアノ、エレクトロニック・ドラム、シンセ・ベース、ムーグ・メロディ、ベース・ギター、フェンダー・ローズがパレットの大部分を占めている」 

 

これまで、ドミニク・J・マーシャルの音楽は、ロンドンのジャズ専門誌やBBCを中心に称賛を受けてきた。2013年のアルバム『Spirit Speech』は彼の出世作の一つであり、「繰り返し聴く価値のある、想像力豊かで個性的な素晴らしいアルバム」(LondonJazzNews)と評されたほか、ジェイミー・カラム、ジル・ピーターソン、ジェズ・ネルソンによって満場一致で賞賛されました。その年のBBC Introducing Live、マンチェスター・ジャズ・フェスティバルに出演しました。


2015年、ドミニクは、イギリスのニュージャズ・グループ、”The Cinematic Orchestra(ザ・シネマティック・オーケストラ)のピアニストとして活動を始めた。モントルー・ジャズ・フェスティバル(スイス)、グラストンベリー・フェスティバル、サマー・ソニック、ブリクストン・ジャズ・フェスティバル、ブリクストン・アカデミー、ロイヤル・フェスティバル・ホール、ロサンゼルスのウォルト・ディズニー・コンサートホールなど、世界的なフェスティバルや会場で演奏しています。

 

高い評価を得たアルバム『To Believe』のヒットナンバー「Lessons」は彼の代表曲でもある。さらに、ドミニクのヒップホップ・カヴァー・アルバム『Cave Art』は、KMHDの2015年ジャズ・アルバム・トップ10に選出されています。''UK Vibe''は、2016年の『The Triolithic』について、「高い評価に値する、とても愉快で爽やかなオリジナル・アルバム」と評しています。2017年のビートテープ『Silence's Garden』は、Acorn Tapesで完売し、Bringing Down The Bandは次のように振り返っています。「これらのトラックには素晴らしいヴィンテージ感が込められている」


今回、アーティストから貴重なお話を伺うことが出来ました。また、その中では、日本文化についてのご意見を簡単に伺っています。お忙しい中、お答えいただき本当にありがとうございました。

 

 

Music Tribune:   今回のアルバム『Fire Breathing Lion』は、前作に比べると、エレクトロニックとジャズの融合に重点を置いているようで、スタイルが大きく変わりました。なぜこのような音楽の方向性を選んだのでしょう? 


ドミニク・J・マーシャル:作曲するときにスタイルについてあまり考えていないことは認めるけれど、君の言う通り、『Fire-breathing Lion』と前作との間には大きな変化がある。 新しい作品は、より神話に関連しているんだ。

 

僕が音楽の好きなところのひとつは、意味を伝えるのに言葉を必要としないことだ。 おそらく、言葉がないほうが多くのことを伝えられる。 アルバムを制作しているうちに、そのテーマが意識的というよりも "無意識的 "であることに気づき始めた。 できるだけ深く泳ぎたかったし、歌詞は空気でできているから、いつも表面に浮いてくる。 歌詞と神秘主義は親友ではないと思う。


ーーこのアルバムの制作過程について教えてください。どのように録音しましたか。また、作曲、レコーディング、演奏全般で最も重要な点は何でしたか?

 

マーシャル: 制作においては決まりのようなものは作らなかった。 ドラム・パートのほとんどは、ポケットに入るような小さなドラム・マシンを使って、街をぶらぶらしながら作ったんだ。 「メフィストフェレス」は夜中にラップトップで書いた。 

 

「Fairy Business(フェアリー・ビジネス)」はピアノの即興曲で、ライブの後、朝一番に書いた。 まだ半分眠っていた。 「Cross the Dell(クロス・ザ・デル)」はベースを手に入れたときに書いた。 最初に弾いたのがこのベースラインだったから、あのエキサイティングな感じが生まれたんだ。 

 

「Lysianassa(リシアナッサ)」は、好きだった女の子に好きになってもらえなかった話だ......。ものすごくありふれた話なんだけど、アルバムを書くには少なくとも1つはそういうものが必要になってくる。 いくつかのグランドピアノのパートを除いて、レコーディングはすべてロンドンの僕のアパートで行った。 私は自宅で8本の植物を育てているので、私が作ったものが良いものかどうかは、彼らが成長し、健康に見えかどうかでよくわかるんだ。 

 

ーーアルバムのためにハービー・ハンコック、モーリス・ラヴェル、デヴィッド・リンチからインスピレーションを得たそうですね。具体的に彼らからどのような影響を受けましたか?

 

マーシャル:ハービーの70年代のアルバムは私の人生を変えたんだ。 もろんチック・コリアもそうだよ。 この2人のおかげで、学生時代にはすでにミュージシャンになろうと心に決めていた。


ラヴェルについては思い入れがかなり深い。つい1年前、私は音楽を「諦めて」普通の仕事に就こうとしたことがあった。 何年も前に手に入れたラヴェルのピアノ曲集を夜な夜な弾く以外、あまり幸せは訪れなかった。 その本を開くたびに、音楽が私を呼び戻してくれるのを感じた。 プレッシャーを与えるような感じではなくて、「必然」のような感じだったよ。 ラヴェルが "呼吸を諦めるのと同じように、音楽を諦めることはできない "と言っているように聞こえたんだ。

 

デヴィッド・リンチの作品には、答えのない問いがたくさんあった。 多くの監督は彼の真似をしようとするが、すべての疑問に答えることができず、挫折してしまう。


例えば、 私は『ツイン・ピークス』に登場するクーパー捜査官が大好きだ。 私にとって、デイル・クーパーは、生きとし生けるものすべてが人生を通じて謎の軌跡をたどることを象徴している。本当に決心すれば、実際にいくつか解決することもできるが、常に事実よりも謎の方がはるかに多い。 それが宇宙の法則でもある。 事実が謎を上回った日には、宇宙は崩壊するだろうね。 


ーー自分もピアノを弾いていて、ラヴェルもよく演奏します。こういった曲を何も考えずに弾いていると、日常の細かいことを忘れて本来の自分に戻れる。そういう経験ができるのは本当に素晴らしい。偉大なミュージシャンの多くは、音楽を人生そのものにしていると思います。 


マーシャル: ラヴェルを演奏するのはすごい。ラヴェルの曲は簡単じゃない。 それでも、たった1ページから学ぶことがたくさんある。彼はグランドマスターだ。そうだね、君の言うように、音楽は生き方なんだ。 人生とは別の独自のルールがある。 そう考えるとちょっと怖いね。 あまり考えないようにしているよ!!


ーーさて、あなたのアルバム『Fire Breathing Lion』を聴くとき、リスナーに気をつけてほしいことはありますか?

 

マーシャル:理想的なのは、彼らが自分の内面を見つめることだろうね。 でも、もし彼らが外に耳を傾けたければ、鍵を探すことになるのでは......? そのためのヒントはたくさんあるはずだから。


ーーこれまであなたはモントルー・ジャズ・フェスティバルやグラストンベリー、サマーソニックなど、世界的な音楽フェスティバルに出演してきました。今後出演してみたいイベントはありますか?

 

マーシャル: 自分のバンドで日本でライヴをやってみたいと思っているよ。 


間違っているかもしれないけど、日本はとても文化的な場所のように思える。 僕は小さい頃から日本の文化に興味があった。昔、家に留学生が英語を習いに来ていたことがあった。 その留学生が僕と弟にゲームボーイを持ってきてくれた。 その瞬間から、私は熱狂的な任天堂ファンになったんだ。


ーーゲームボーイはなんのソフトをやったの?


マーシャル:  その留学生はゲームボーイと一緒にスーパーマリオブラザーズ3を持ってきた。 あのゲームは難しすぎた! クリアしたことはなかったと思うけど、ラスボスまでは行ったよ。 特にゼルダは音楽と寺がたくさんあったからね。 その後、ゼルダの伝説、ディディー・コング・レーシング、コンカーのバッド・ファー・デイ、大乱闘 スマッシュブラザーズがお気に入りだった。 


ーー今後のアクティビティの予定について聞かせて下さい。

 

マーシャル:実のところ、今のところはまったくわからない......。 すべてを売り払ってヒマラヤに引っ越したいと思う日もあれば、道行く人に気まずい質問をするテレビ番組を始めたいと思う日もある....... (笑)。 

 

でも、しばらくはロンドンでギグをこなす予定だ。というのも、音楽をやっているときが一番生きているように感じられる。 幸いなことに僕の周りには一緒に演奏できる素晴らしいミュージシャンがたくさんいるからね。

 

Photo: Sahil Kotwani

 

 


 最新アルバム『Fire-breathing Lion』のご視聴はこちらから。

 

 



・メディアや著名人からの反応


 ''陽光を呼び起こすビート''-テレグラフ紙


"彼は過去の偉大な遺産と同時に、とても新鮮で新しいものをもたらしている"-ジェイミー・カラム


"マーシャルは不気味の谷に飛び込み、その中で戯れ、不遜なウィットと神聖な優美さでこのジャンルに新鮮な道を開く"-オーケープレイヤー


''彼はピアノのヴィルトゥオーゾと呼ぶにふさわしい'' -ジャムズ・スーパーノヴァ



【Episode In English】

 

--This album, Fire Breathing Lion, seemed to focus more on the fusion of electronic and jazz, compared to the previous album, the style has changed significantly. Why did you choose this kind of musical direction?


Dominic J Marshall:  I admit I don’t give much thought to style when I’m composing, but you’re right, there is a big change between Fire-breathing Lion and my last album. The new pieces are more related to mythology. 

 One of the things I love about music is that it doesn’t require words to convey meaning. 

 Arguably, you can say more without words. As I was producing the album, I started to realise its themes were more “unconscious” than conscious, so I would have to keep it instrumental. I wanted to swim as deep as possible, and lyrics always float to the surface, because they are made of air. I guess lyrics and mysticism are not best friends.


--Can you tell us about the production process of this album? How did you record it? And what were the most important aspects of your compositions, recordings and performances in general??


Marshall: There’s definitely no formula. I made most of the drum parts when I was out and about in the city, on a little drum-machine that fits in your pocket. 

 “Mephistopheles” I wrote on my laptop in the middle of the night. “Fairy Business” was a piano improvisation, first thing in the morning after a gig. I was still half asleep. 

 “Cross the Dell” I wrote when I got my bass guitar. The first thing I played on it was that bassline, which is why it has that excitable feel. 

 “Lysianassa” was about a girl I liked who didn’t like me back - kind of cliché but you need to have at least one of those to write an album.

 Except for a few grand piano parts, all the recording was done at my flat in London. I have 8 plants, so I can tell if what I’m making is good because they grow and look healthier. 



--You drew inspiration from Herbie Hancock, Maurice Ravel and David Lynch for this album, what specific impacts have they had?


Marshall: Herbie’s 70s albums changed my life. The same goes for Chick Corea. Between those two, I already knew I was going to be a musician when I was at school.
 

 Ravel: A year ago I had attempted to “give up” music and get a normal job. It didn’t bring me much happiness, except sometimes in the evening I’d play this Ravel piano book I got years and years ago. 

 Whenever I opened that book, I felt music calling me back. Not in a pressurising way, but more in an ‘inevitable’ kind of way. It sounded like Ravel was saying “you can’t give up music anymore than you can give up breathing.” 

 David Lynch had a lot of unanswered questions in his work. Directors try to imitate him, but they fall short because they can’t help answering all the questions. I love Twin Peaks, especially Agent Cooper. 

 To me, Dale Cooper symbolises how all living beings follow a trail of mysteries through our lives. If we’re really determined, we can actually solve a few, but there will always be more mysteries than facts. It’s just the law of the universe. The day facts outnumber mysteries, the universe will collapse. 

 

-- I play the piano myself on a daily basis, and I also play Ravel a lot. When I play these pieces without thinking, I can forget the details of everyday life and return to my true self. It's really wonderful to have that kind of experience. I think great musicians make music their very way of life. 



Marshall: That’s awesome you’ve been playing some Ravel. His music is not the easiest, as you probably noticed. But there is so much to learn from just one page. He was a grandmaster...

 Yeah, you’re right about music being a way of life. It has all its own rules separate from life. Kind of scary when you think about it. I try not to think about it too much!!



--What would you like listeners to look out for when listening to this album?
 

Marshall: Ideally, they will look inside themselves. But if they want to listen out, I guess listen out for the keys… ? There’s quite a bit of keys.



--So far you have performed at world-class music festivals such as the Montreal Jazz Festival, Glastonbury. Are there any other events you would like to perform at in the future?

 
Marshall: I would love to do some shows in Japan with my own band. I might be wrong but it seems like a very civilised place. I’ve been into Japanese culture since I was really young. 

 We used to have foreign students staying in our house who came over to learn English. They were my favourite foreign students because one brought me and my brother a Gameboy. From that moment on I was a diehard Nintendo fan. 


- What software did the Game Boy do?


Marshall: About the games, they brought "Super Mario Bros 3" with the Game Boy. That game was way too hard! I don’t think we ever completed it, but we definitely got to the final boss. Then later my favourites were "Zelda Ocarina of Time", "Diddy Kong Racing", "Conker’s Bad Fur Day", "Super Smash Bros". Especially Zelda because of the music and all the temples. 


-What are your plans for future activities? 


Marshall: To tell the truth I have absolutely no idea. Some days I wake up wanting to sell everything and move to the Himalayas, others I want to start a TV show asking people awkward questions in the street. In all likelihood though, 

 I’ll be in London doing my gigs, because making music is when I feel most alive. There are so many great musicians to play with here.


・Reactions from the media and celebrities


“Sunshine-evoking beats”-The Telegraph


“He brings together a great heritage of the past, but also something very fresh and new.”-Jamie Cullum


“Marshall plunges into the uncanny valley and frolics in it, investing a fresh path for the genre with irreverent wit and divine grace.”-Okayplayer


“He’s what you would call a piano virtuoso”-Jamz Supernova





NaoはロンドンのR&Bシンガー。かつてバックアップ・ヴォーカリストだった彼女はBBCの革新的な新人ミュージシャンを選ぶ「サウンド・オブ・2016」に選出されている。


ネオ・ジェシカ・ジョシュア、イギリスのノッティンガムで育ったナオは、イギリス中を旅した後、最終的にイースト・ロンドンに落ち着いた。彼女は、ナス、ミッシー・エリオット、ブランディが大好きで育ち、ゴスペルが特に好きになった。「ゴスペルをいつも聴いていた。アレサ・フランクリンは、ゴスペル・シンガーでありながらメインストリームになった人の良い例です。彼女は自分の声を完全に解放した。あんなことができる人はあまりいない」


「18歳ぐらいになると、たいていの人は自分のやりたいことを決めたがる。大学に入り、科目を選択しなければならない」と彼女は言う。 法律の授業に退屈していたナオは、音楽に没頭し、ジャズの作曲を学んだ。


2014年、あるマネージャーがナイトクラブで彼女が歌っているのを見つけ、なぜまだ彼女のことを知らないのかと尋ねた。 その後すぐに、彼女は教師業やバック・シンガーの仕事を辞め、デモ・レコーディングを始めた。 その年の10月に最初のトラック「So Good」がリリースされ、2015年5月にはEP『February 15』がリリースされた。


「舞台裏から表舞台に出るというのは、実に美しい瞬間でした」と彼女は言う。「 バック・シンガーだったとき、これが私だったらいいのにと思ったことは一度もなかった。 私はその役でとても幸せだった。 でも、初めて自分として表舞台に立つ瞬間が来たとき、それまで経験したことのない、まったく違うエネルギーに包まれたし、観客の人たちが自分の歌を知っているというのは本当に特別なことだった。 観客が自分の歌を知っているというのは本当に特別なことだった」


「自分の家族の構成や家族のダイナミズムが、自分が存在している空間とは大きく異なっていることを実感していました。両親は一緒にいなかったし、異母兄弟なんて聞いたこともなかったという感じだった。ちょっと控えめで、自分に自信がないのは、そういうところから来ているのかもしれない」


2016年のデビュー作『For All We Know』では、ボイスノートとシルキーでシンセの効いたファンクで埋め尽くし、謎めいたジャイ・ポールとその兄弟AKポールと仕事をした。 絶え間ないアウトプットに執着する業界の異端児であるジャイ・ポールの遺産は、2007年のマイスペースのデモ曲『BTSTU』という、大きな影響力を持つ1曲によって大きく後押しされている。


ナオは多作であり、『Jupiter』は4枚目のフルアルバムであるが、彼女は創作意欲を削ぐ同世代のアーティストたちから学び、初期の誇大広告を凌駕する安定したキャリアを培ってきた。 アルゴリズムがまだ定着していなかった時代に登場したナオは、アーティストにとって状況は難しくなっているという。基本的に、多くの場合、音楽業界そのものはバイラルヒットを待っている。 伝統的なプロモーション方法よりもソーシャルメディアやバイラルが優勢になっているため、業界自体も流動的な状態にあると彼女は付け加えた。


2021年以来の4作目となる最新アルバム『Jupiter』は、発売元のSony Musicによると、精神的なテーマを掘り下げ、新しい一面が表現されているという。「土星は教訓の惑星であり、非常に変革的なタフな惑星です。そして木星は、喜びと豊かさと愛、幸運と幸運の惑星です。それはとても魔法の惑星です。私は人生で本当に良い場所にいると感じています、そして私はそれを祝い、それを私のリスナーと共有したかったので、彼らも彼らの木星を少し持つことができるでしょう」

 

「今作を聴いて、自己の喜びの波動が美しく変化するのを感じてもらえたら嬉しい」と彼女は語っている。

 


NAO 『Jupiter』- Sony Music

 

ナオは2016年に「サウンド・オブ・2016」に選出されてから、燃え尽き症候群のようになり、しばらくツアーを中断していた。高度な資本主義社会では、ある意味、社会全体が刺激的なものが氾濫している。また、同時に便利になりすぎていることから、人々の多くは心が疲れきっている。それはたぶん自分らしく生きることが日に日に難しくなっているからだと思われる。


例えば、成果主義に翻弄された人々がどこかで大きな壁に直面するように、過度な名声や重圧がのしかかることもある。同様に、歌手もこの現象に遭遇せざるを得なかった。結果的にそれはミュージシャンとして活動するのを妨げる難病として現れた。しかし、現在は、ツアーも再開され、回復の途上にあるようだ。ニューアルバムは燃え尽き症候群からの立ち直り、ミュージシャンとしての再生を意味している。その象徴となるのがジュピター、ーー希望の星ーーなのである。

 

アルバムの制作期間は、一個人としての変革期に当たった。母親として妊娠中であり、その多くはかなり疲れていたという。それにもかかわらず、『Jupiter』は明るい気分とエネルギーに満ちている。そして歌手の人生から汲み出された慈愛の精神がこのアルバムの一つのテーマである。それらが、彼女が信奉するボーイズⅡメン、アッシャー、ミッシー・エリオット、ブランディ、さらにはリトル・ドラゴン、ジェイムス・ブレイク、SBTRKTの影響下にあるダンスミュージックとR&Bの中間域にある音楽性がめくるめく様に展開されていく。30分半あまりの簡潔なアルバムとなっているが、これはまちがいなくミュージシャンにとっての人生の重要なスナップショットでもある。このアルバムの期間を後に思い返した時、重要な意味を持つことだろう。

 

『Jupiter』は音楽業界に携わってきた人間として何らかの折り合いをつけるためのアルバムと言えるか。肯定的に見ると、様々な内側の感情が渦巻く中、自分の歩んできた道のりを容認し、誇りに思うということである。分けても、多くの場合、有名アーティストはソーシャルメディアとの付き合いに翻弄され、プレイベートを尊重する人々にとって長い時間そこに滞在することは大きなストレスとなる。そこには生きることへの不安を増長させるもので溢れかえっているからである。こういった情報を上手く活用する人々もいるが、もちろん、そういったたぐいの人たちばかりではない。時々、そういった情報の波に飲み込まれてしまう人もいる。無数に氾濫する情報は、多くの場合、ノイズになることも多く、自分の考えを阻害するものなのである。

 

そして、Naoの場合、そういった存在を容認しつつも、ほどよい付き合い方を考えていた。結果的に現れたのが、アルバムの''希望''という道筋だった。商業を肯定的に捉えた上で、自分なりのやり方を築くことである。もう一つは、彼女の母親のルーツであるジャマイカやロンドンのコミュニティやカルチャーのあり方を再確認し、それらを音楽として具現化しようということである。


結末としては、UKベースライン、ディープ・ハウス、バレアリック、ダンスフロアの音楽に付随するチルアウト、つまりクールダウンのためのダンスミュージックを中心にポピュラーの世界が繰り広げられる。それらがオートチューンやピッチシフターのような機械的な効果を及ぼすボーカルと合致し、トレンドの音楽が構築される。これらは考え方によっては、資本主義社会や現代的なテクノロジー、そして、無数の情報が氾濫する社会の中でどのように生きるべきかを探り、そしてそれを楽観的に乗り切ろうというアーティストなりの考えが音楽に通底している。

 

ナオの歌は驚くほど楽観的であり開放的な感覚に充ちている。これは年代の壁を越えたということでもある。かつて歌手は、若さを手放すことが難しくなるという悩みを持っていたが、概念上の架空のものに過ぎなかった。そういった何歳までに天職に就くというような考えに距離を置くことに決めたのである。それがある意味では吹っ切れたような感覚を生み出し、ベースラインを基調にしたディープハウスと掛け合わされ、驚くべきことに若々しい印象すら生み出している。これは年齢上の老いや若さではなく、人生に対する手応えが溌剌とした印象を生み出し、人生を生きているという実感が乗り移り、軽快なダンスポップナンバー「Wild Flowers」が作り出されたというわけである。しかも、それらがキャッチーでダイナミックな印象を放っている。

 

 

 「Wild Flower」

 

 

 

「Elevate」は、アーバン・コンテンポラリーを意識したトラックで、クインシーやマーヴィンといった80年代のきらびやかなR&Bを下地にして、その後に現代的なソウルナンバーを提供している。そういった中で「Happy People」は、ギターの録音を介して王道のポップソングに挑む。どちらかといえば、これは遠目から幸福な人々を歌っていて、歌手の幸福という概念が徐々に変化していくプロセスが捉えられている。プエルトリコやラテンアメリカの情熱と哀愁の合間にある音楽、そしてそれらが市井の人々の声を反映させたサンプリングと交互に繰り広げられる。ディープハウスはもとより、レゲトンの要素をからめた爽快な楽曲として楽しめる。

 

「Light Years」はマリブ・ステートやプールサイドを彷彿とさせる西海岸風のチルアウトである。ヨットロック風のギターで始まり、 まったりとしていて安らいだ感覚を持つバラード風のR&Bへと変遷する。ベースを起点として、リバーブを印象づける空間的なギターのアルペジオ、ナオのボーカルが合わさり、音楽の印象が決定づけられる。その後、この曲はドラマティックな雰囲気を帯びはじめ、シンセストリングスで雰囲気づけをし、豊かな情感を帯び始める。その後、ピアノの録音を交え、ボーカルは美麗な瞬間を象る。夕日を砂浜からぼんやりと眺めるときのあの美しい感覚だ。そしてサビではドラムフィルが入り、この曲はダイナミックな変遷を辿っていく。ボーカルも素晴らしく、華麗なビブラートが曲の雰囲気を盛り上げる。


続く「We All Win」ではイビサ島のバレアリックのサウンドを踏襲し、EDMの高らかな感覚を表現する。ユーロビート、レイヴ、ハウスを合致させ、ハリのあるサウンドを生み出す。この曲でもリゾートのダンスフロアの音楽性が維持され、リラックスした空気感を放っている。続いて、「Poolside」も同じ系譜に属するが、この曲ではよりポピュラーソングの側面が生かされ、サビでのアンセミックな響きが強調される。踊ることも聞き入ることも出来る絶妙な一曲である。

 

 

「30 Something」は、新しい世代のゴスペルソングのような趣を持つ。精妙なハモンド・オルガンをかたどったシンセの伴奏のイントロのあと、ベッドルームポップを系譜にあるバラードが続く。王道のポピュラーソングの構成をもとに、ギターの演奏のサンプリングの導入などを通じて構造に変化をもたらす。そしてサビでは、わかりやすいシンプルなフレーズが登場する。ここでは、旧来のバックボーカリストとしての役割を離れ、メインボーカリストとして活躍するに至った人生の流れが描かれている。それはまた本来の姿に生まれ変わったような瞬間が立ちあらわれる。この瞬間、聞き手としては歌手に少しだけ近づけたというような実感を持つ。これらはライブを通して歌手が培ってきた手応えが含まれている。それはアーティスト側と聞き手という本来であれば遠くに離れた空間を繋げるような役割を持つ。続く「Just Drive」では、同じような精妙な感覚をもとに、ダンサンブルな重力を持つナンバーを作り上げている。ベースラインの強いローエンドの出力に加え、グリッチの組み合わせが迫力をもたらしている。

 

たいてい、制作された順番に沿って曲が収録されることは多くはないと思われる。しかし、このアルバムは、面白いことに、 アーティストとしての人生のスナップショットやワンカットが曲ごとに順繰りに流れていくような気がする。部分的に何らかの情景としてぼんやりと伝わることもあるし、また、感覚的なものとして心に伝わってくることも。一見したところ、フルレングスとしては分散的であるように思えなくもない。しかし、しっかりと聞き進めていくと、何らかの一連の流れのようなものが備わっているのがわかる。それは音楽的なディレイクションとしてではなく、人生の流れや意識の流れのような感覚をどこかに併せ持っているのである。

 

本作はNaoがバックコーラスとしての音楽家のキャリアを歩み始め、いくつかの逡巡に直面し、そして、一つずつ克服していくような過程が刻みこまれ、最終的にはソロボーカリスト(個人)としての地位の確立というテーマに直結している。要するに、音楽作品が人生の一部分を反映していると称せるかもしれない。そして、それは、泣きたいような瞬間、心から快哉を叫びたくなるような素晴らしい時間をすべて内包している。シンガーは、バックボーカリストとして働いていた時代も、メインボーカリストに憧れることはあまりなかったというが、アルバムの終盤の曲を聴くかぎりでは、心の中でソロで活動することにようやく踏ん切りがついたという印象を抱く。そして、それは実に、2016年にBBCが取り上げた時点からおよそ九年目のことだった。

 

ソロシンガーとしての威風堂々たる雰囲気を捉えることも出来るのがアルバムの表題曲「Jupiiter」。おそらく、これは前作まではなかったオーラのようなものが身についた瞬間ではないか。アルバムの終盤はどうだろうか。グリッチを突き出したダンストラック「All of Me」ではチャペル・ローンのような2020年代のトレンドの歌手に引けを取らない実力を発揮する。アルバムのクローズはアコースティックギターをフィーチャーしたR&Bソングだ。前衛的なアプローチを図ったオルタネイトなR&Bも大きな魅力を感じるけれど、むしろ、こういったストレートな曲こそが、現代のUKソウルの最前線を象徴づけるといっても過言ではないでしょう。


 

 

 

90/100

 

 

Naoのニューアルバム『Jupiter』はソニーミュージックより2月21日に発売。詳細はこちら。 


 

「Elevate」

 


LAのインディーロックバンド、Mamalarky(ママラーキー)が3作目のアルバム『Hex Key』を発表した。 本作はエピタフから4月11日にリリースされる。このアルバムには、先にリリースされたシングル「Nothing Lasts Forever」と 「Feels So Wrong」が収録されている。

 

さらに、アルバムの発表と合わせて、爽快でハーモニーに満ちたグルーヴィーな「#1 Best of All Time」が配信された。この新曲は西海岸のサイケポップ、フラワームーブメント、ベッドルームポップ、エレクトロニックをすべてトランクに詰め込んだLAの最新鋭のオルタナティヴロックだ。

 

同レーベル(Epitaph)からの初のリリースとなるこのアルバムは、彼らのホームスタジオで制作された。 

 

「このアルバムの多くは、怒りと和解すること、怒りと何か有用なものを創り出す方法を見つけることをテーマにしている」とボーカルのリヴィー・ベネットは言う。「感情から自分自身を説得することはできないけれど、それを置くのに良い場所は常にある」


 ボーカルのベネットは次のように続ける。

 

たくさんのUNOゲームを通して、私は実はかなり負けず嫌いだとわかった。 そしてどういうわけか、負けたときの感覚がモチベーションを高めてくれるんだ。 いつも自分自身と競争しているような気分で、自分がやろうとしたことなら何でも、最後の挑戦でベストを尽くそうとしているんだ。

 

史上最高にはなれないかもしれないけれど、史上最高の自分であることに変わりはない。 私は、力強さを感じさせながらも、笑いを誘うような、疑念を笑い飛ばすようなものを書きたかった。 なぜなら、負け馬のように感じるときでも自分に賭けることで、大きな収穫があるからだ! 失敗した瞬間に自分が勝っていると感じることができ、自分のバロメーターだけで自分を測ることができれば、もっと幸せになれるはず。

 

 

「#1 Best of All Time」




Mamalarky 『Hex Key』


Label: Epitaph

Release: 2025年4月11日

 

Tracklst:

1. Broken Bones

2. Won’t Give Up

3. The Quiet

4. Hex Key

5. Anhedonia

6. #1 Best of All Time

7. Take Me

8. MF

9. Blow Up

10. Blush

11. Nothing Lasts Forever

12. Feels So Wrong

13. Here’s Everything



Pre-save: https://mamalarky.ffm.to/hexkey

 


パフューム・ジーニアスがオルダス・ハーディング(Aldous Harding)と組んだ「No Front Teeth」は、次作アルバム「Glory」に収録される壮大なセカンド・シングルである。


ハーディングは、フロントマンのマイク・ハドレアス、長年のPerfume Geniusのバンド・メンバーで共同作曲者のアラン・ワイフェルスと共に、この曲のミュージック・ビデオにも出演している。Perfume Geniusの象徴的な「Queen」のビデオを監督したCody Critcheloeがこのクリップを監督した。以下から視聴できる。


先月、Perfume Geniusはニューアルバム『Glory』を長年のレーベルであるMatador Recordsから3月28日にリリースすることを発表した。 『Glory』はブレイク・ミルズのプロデュースによるもので、ハドリアスの7枚目のスタジオアルバムとなる。 この発表と同時に、彼はファースト・シングル「It's a Mirror」をリリースした。


この曲は、ほぼ満場一致で批評家から賞賛を受け、ピッチフォークの「ベスト・ニュー・トラック」に選ばれた。 "ハドレアスは、2022年の『アグリー・シーズン』の拡散的な雰囲気から決定的に揺り戻されたような、筋肉質で直接的なサウンドの到来を告げる。 ハドレアス自身、フロントマンとしてこれほどセクシーで自信に満ちたサウンドを聴かせたことはない。Perfume Geniusが初めてツァングに挑戦した作品ではないが、「It's a Mirror」は、アウトローの本拠地でありながら、しばしば膿んだ近視眼を生み出しかねない音楽の伝統の中で、その主張を貫いている。"


パフューム・ジーニアスの待望のニューアルバム『Glory』は3月28日にマタドールからリリースされる。


「No Front Teeth」 



 


ニューヨークを拠点に活動するミュージシャン、Maia Friedman(マイア・フリードマン)がニューアルバム『Goodbye Long Winter Shadow』をラスト・ギャング・レコードから5月9日にリリースすると発表した。 

 

シングル「New Flowers」を筆頭に、自己慈愛に満ちた作品となっている。 フリードマンによれば、この曲は「失われた愛、そして自分自身を失い、再び自分自身を見つけるという必然的なプロセス」について歌っている。

 

「親愛なる友人ハンナ・コーエンにハーモニーを歌ってもらい、エンディングのギターソロはマディ・バルターと私が並んでデュエルしたんだ。 「控えめに言っても楽しかった。 この曲にはドラムが必要だとわかっていたので、伝説的なケニー・ウォーレセンを呼んだら、彼は最初のテイクでドラムを叩いてくれた。 オリバー・ヒルが私のデモを木管楽器と弦楽器のための美しいアレンジに解釈してくれたのが気に入った。


フリードマンの2022年のデビュー作『アンダー・ザ・ニュー・ライト』に続く新作は、フィリップ・ワインローブ(エイドリアン・レンカー、フローリスト)とオリヴァー・ヒル(マグダレナ・ベイ、ヘラド・ネグロ)とともに制作された。 歌詞は、ユング派の分析家であり神話研究家でもあるフリードマンの母親の影響を受けている。 

 

「彼女は芸術作品、夢、神話について書き、似たような物語を異なる方法で語るイメージ、原型、文化のつながりを描く」とフリードマンは説明する。 「神話とおとぎ話について語り、探求する、とても総合的なアプローチなのです」


「New Flowers」 



Maia Friedman 『Goodbye Long Winter Shadow』


Label: Last Gang

Release: 2025年5月9日


Tracklist:


1. Happy

2. New Flowers

3. In A Dream It Could Happen

4. Iapetus Crater

5. Russian Blue

6. Suppersup

7. A Long Straight Path

8. On Passing

9. Foggy

10. Vessel

11. A Heavenly Body

12. Open Book

12. Soft Pall Soft Hue

13. Shape Is Your Own

14. Witness

 

Pre-save: https://maiafriedman.ffm.to/newflowers

 

©Athena Merry

 

Wishyは、4月25日にWinspearからリリースされる新作EP『Planet Popstar』を発表した。 このEPは、デビューアルバム『Triple Seven』のセッションで録音されたB面曲のコンピレーションである。 (レビューはこちら)新曲「Fly」で、ニーナ・ピッチカイトはこう歌っている。"I found a way/ To be grateful every day/ Even when I sit and wait/ Knowing I gotta fly." 以下からチェックしてほしい。


「この曲は、現在を楽しむこと、愛に包まれること、そして自分自身を深刻に捉えすぎないこと、という一般的なテーマを伝えている」とピッチカイツはプレスリリースで語っている。 

 

「わたしとケヴィンとスティーヴ・マリーノがこの曲を共作したのは、『Triple Seven(トリプル・セブン)』という曲を書いたのと同じ頃だった。 この曲は、スティーヴが私達のために持ってきてくれたデモのうちのひとつなんだ」


EPのヴァイナル盤は、これまでフィジカルリリースされることのなかったWishyのデビューEP『Paradise』と合わせて、『Paradise on Planet Popstar』として両面12インチで発売される。 シンガー/ギタリストでバンドの発足者であるケヴィン・クラウターは次のように説明している。「ハイ・プロダクション・スタイルに傾倒したかったし、より洗練されたアダルト・コンテンポラリー・フィールを探求する機会として、これらの曲を使ってスタジオでとても楽しんだ」

 

 

「Fly」

 



Wishy 「Paradise』/「Planet Popstar」 EP


 Label: Winspear

Release: 2025年4月25日

 

Tracklist:


Paradise


1. Paradise

2. Donut

3. Spinning

4. Blank Time

5. Too True


Planet Popstar


6. Fly

7. Planet Popstar

8. Over and Over

9. Chaser

10. Portal

11. Slide

 

 

Pre-save: https://lnk.to/planet-popstar

 

©Dennis Larance

リッチモンド出身で、現在シカゴを拠点に活動するヒップホップ・ミュージシャン、Mckinley Dixon(マッキンリー・ディクソン)は、6月6日にシティ・スラングからリリースされる5枚目のアルバム『Magic, Alive!』を発表をアナウンスした。 2023年の『Beloved』に続く作品となる。

 

『Beloved!  Paradise! Jazz!!!』に続くこのアルバムは、プロデューサー、ラッパー、ソングライターのクエル・クリス、そして4ADのインディー・フォーク・ミュージシャンのアンジマイル(Anjimile)をフィーチャーしたシングル「Sugar Water」がリード曲となっている。


マッキンリー・ディクソンは、躍動的で説得力のある「Sugar Water」でラップしている。 この曲は、「つかの間の瞬間を永遠に持続させる方法と、ここにいない人たちを時空を超えて連れて行く方法についての議論だ。 この曲は、"他人の思い出を通して生きる永遠の人生に支払う代償は何か?"という問いを提起している」と彼は説明している。


ディクソンは2024年7月、生まれ故郷のヴァージニア州リッチモンドに戻り、シャミア、ピンク・シーフー、テラー・バンク$らが参加したこのレコードを制作した。 「リッチモンドに戻ってレコードを作ると、まるでお祝いのような気分になる」とディクソンは語った。 「みんな成長した」


「Sugar Water」

 

 

 

 

 

McKinly Dixon 『Magic, Alive!』


 Label: City Slang

 Release: 2025年6月6日

 

 Tracklist:


1. Watch My Hands

2. Sugar Water [feat. Quelle Chris & Anjimile]

3. A Crooked Stick [feat. Ghais Guevara & Alfred.]

4. Recitatif [feat. Teller Bank$]

5. Run, Run, Run Part II

6. We’re Outside, Rejoice!

7. All The Loved Ones (What Would We Do???) [feat. ICECOLDBISHOP & Pink Siifu]

8. F.F.O.L. [feat. Teller Bank$]

9. Listen Gentle

10. Magic, Alive!

11. Could’ve Been Different [feat. Blu & Shamir]

 

Murder Capital(マーダー・キャピタル)は、サード・アルバム『Blindness』リリース前の最後のプレビューとして、新曲「A Distant Life」を公開した。


この曲の歌詞は、UKツアーで立ち寄った多くの感動的なサービスのひとつに向かう移動中に書いたんだ。 ポエトリー・アンバウンドというポッドキャストで、マーガレット・アトウッドの詩 "All Bread "を聴いていて、書きたいという衝動に駆られたんだ。 その夜、私とアーヴはリバプールの会場の裏に立った。 私は彼に2つのコードを前後に弾くように頼んだ。 アーヴのセンスも加わって、すべてがあっという間にまとまり、その瞬間、僕とガールフレンドの距離がほんの一瞬だけど縮まったんだ。



マーダー・キャピタルは最近、Medical Aid For Palestiniansを支援するためにトラック "Love Of Country "をリリースした。 この曲は、"A Distant Life"、"Words Lost Meaning"、"Can't Pretend To Know "と共に、近日発売のアルバムに収録される。


『Blindness』は、絶賛された『Gigi's Recovery』、そして2019年にリリースされたデビュー・アルバム『When I Have Fears』に続く作品である。






マサチューセッツを拠点に活動するシンガーソングライター、4オクターブの声域を持つヴォーカリスト、Jordan Duffy(ジョーダン・ダフィー)がニューシングルとミュージックビデオ「Not Your Dream Girl」をリリースした。ミュージックビデオと合わせてチェックしてみよう。

 

この曲は、映画『シックスティーン・キャンドルズ』を見ている時に書かれた。もしジョン・ヒューズの映画がハッピーエンドじゃなかったら、こんな曲はどんな風に聞こえるだろう? ビデオのストーリーは、ジョーダンが高校時代の片思いの相手に拒否されるのをスパイしていた宇宙人が、後にその宇宙人がジョーダンを振り向かせるために高校時代の片思いの相手になりすますというもの。プロデューサーのパーティー・ネイルズとジョーダン・ダフィーは、モダンな80年代のシンセ・サッド・ポップ・ソングを作り上げた。この曲は、私が想いを寄せていた友人のことを書いたの。

 

「私はいつも彼を私のジェイク・ライアンと思っていた。彼はこの曲が彼のために書かれたものだとは知らないし、これからも知ることはないだろう。でも、今まで書いた曲の中で一番好きな曲になった」

 

 

 「Not Your Dream Girl」


 

 

Massachusetts singer Jordan Duffy, who has an incredible four-octave vocal range, has released her new single ‘Not Your Dream Girl’ with a music video. Check it out below.

 The song was written while watching the movie Sixteen Candles. Jordan Duffy thought, ‘what if these John Hughes movies didn’t have a happy ending, what would a song like that sound like?’. 

The video's storyline, showcases an alien spying on Jordan being denied by her high school crush, later that alien pretends to be the high school crush to win Jordan over! Producer Party Nails and Jordan Duffy create a modern ‘80s synth sad pop song that you can’t stop dancing to. She shares, "This song is written about a friend that I had feelings for, but I knew it would not go any further.

--I always saw him as my Jake Ryan. He does not and will never know this was written about him. But it has become one of my favorite songs I’ve ever written.--

 

 

 【Jordan Duffy】

 

ジョーダン・ダフィーは、ダイブ・バーでの失恋、女性のエンパワーメント、一夜限りの恋、ゾンビの恋人など、題材に触れた楽しくも重要な音楽のリリースで知られている。このソングライターは、ウィアード・アル・ヤンコビックのために歌い、「Just Between Us」のポッドキャストのテーマ曲のヴォーカリストでもある 。

 

ジョーダン・ダフィーは、シンガー、ソングライター、プロデューサー、シニア・オーディオ・エンジニアであり、そのサウンドはインディーズ、ジャズ、ポップスなど様々なジャンルに及んでいる。


アデル、レイク・ストリート・ダイブ、ヨーラ、チャーリーXCXなどから影響を受けている。

 

マサチューセッツ州ウースター出身の彼女は、ダイブ・バーでの失恋、女性のエンパワーメント、爆発するヒキガエル、一夜限りの恋、ゾンビの恋人をテーマにした曲を書き、音楽キャリアをスタートさせた。18歳のとき、オールマン・ブラザーズ・バンドのギタリスト、ディッキー・ベッツのオープニングを務めたのが、彼女のプロとしての最初のショーだった。大学でオペラを学び、演奏しているうちに4オクターブの音域を発見した。

 

その後も勉強を続け、Earwolf/Stitcher Podcastsで初の女性オーディオ・エンジニアとして活躍している。そこで彼女は、ウィアード・アル・ヤンコヴィックと歌ったり、『The Office Ladies』で 「Total Eclipse of the Fart 」を自ら演奏したり、「Just Between Us 」ポッドキャストのテーマ曲のヴォーカリストを務めたりする機会を得た。

 

 Jordan Duffy is a singer, songwriter, producer, and senior audio engineer whose sound stretches across a multitude of genres such as indie, pop, americana, and alternative. The artist is influenced by the likes of Adele, Lake Street Dive, Yola, and Charlie XCX, to name a few. Originally from Worcester, Massachusetts, she began her music career writing songs about heart breaks in dive bars, female empowerment, exploding toads, one night stands, and zombie lovers. 

 At 18 years old, her first professional show was opening for The Allman Brothers Band guitarist Dickie Betts. It was in college when she discovered her 4 octave range while studying and performing Opera. 

 She continued her education and landed her role as the first female audio engineer at Earwolf/Stitcher Podcasts. There she has had the opportunity to sing to Weird Al Yankovic, do her own rendition of “Total Eclipse of the Fart” on “The Office Ladies”, and is the vocalist for the “Just Between Us” Podcast theme song. You may even recognize her (and her laugh) as Engineer Jordan from the “Best Friends” podcast.

 Her new single "Not Your Dream Girl" was written while watching the movie Sixteen Candles. Jordan Duffy thought, ‘what if these John Hughes movies didn’t have a happy ending, what would a song like that sound like?’. 

 The video's storyline, thought up by the Painfully Creative Production team, showcases an alien spying on Jordan being denied by her high school crush, later that alien pretends to be the high school crush to win Jordan over! Using "If You Were Here" by the Thompson Twins as their inspiration, producer Party Nails and Jordan Duffy create a modern ‘80s synth sad pop song that you can’t stop dancing to. She shares, "This song is written about a friend that I had feelings for, but I knew it would not go any further. I always saw him as my Jake Ryan. He does not and will never know this was written about him. But it has become one of my favorite songs I’ve ever written."

 


ニューヨーク州北部を拠点に活動するシンガーソングライター、Hanna Cohen(ハンナ・コーエン)が、3月28日にベラ・ユニオン/コングラッツ・レコードからニューアルバム『Earthstar Mountain』をリリースします。今回、彼女はセカンド・シングル「Draggin'」を公開した。バロックポップとインディーロックを取り巻く心地よいポピュラーシングルとなっている。

 

コーエンはプレスリリースでこの曲についてこう語っている。 「普遍的な真実がある。水は濡れている、太陽は東から昇る、そしてあなたの家族はあなたを瀬戸際まで駆り立てるだろう」

 

仲間のシンガー・ソングライター、サム・エヴィアン(別名サム・オーウェンズ、コーエンの恋愛パートナーでもある)がアーススター・マウンテンをプロデュースし、ニューヨーク州キャッツキルズにあるフライング・クラウド・レコーディングスでレコーディングした。

 

このアルバムには、Sufjan Stevens、Clairo、Liam Kazar、Oliver Hill、Sean Mullinsらが参加している。ハンナ・コーエンのニューアルバム『Earthstar Mountain』は3月28日にベラ・ユニオン/コングラッツ・レコードから発売されます。 

 

「Draggin'」



▪️HANNAH COHEN(ハンナ・コーエン)、ニューアルバム『EARTHSTAR MOUNTAIN』の制作を発表  ベラ・ユニオンから3月28日に発売 

 Bartees Strange 『Horror』


Label: 4AD

Release: 2025年2月14日

 

 

Review

 

前作では「Hold The Line」という曲を中心に、黒人社会の団結を描いたバーティーズ・ストレンジ。2作目は過激なアルバムになるだろうと予想していたが、意外とそうでもなかった。しかしやはり、バーティーズ・ストレンジは、ブラックミュージックの重要な継承者だと思う。どうやら、バーティーズ・ストレンジは幼い頃、家でホラー映画を見たりして、恐怖という感覚を共有していたという。どうやら精神を鍛え上げるための訓練だったということらしい。

 

ということで、この2ndアルバムは「Horror」というタイトルがつけられたが、さほど「ホラー」を感じさせない。つまり、このアルバムは、Misfitsのようでもなければ、White Zombieのようでもないということである。アルバムの序盤は、ラジオからふと流れてくるような懐かしい感じの音楽が多い。その中には、インディーロック、ソウル、ファンク、ヒップホップ、むしろ、そういった未知なるものの恐怖の中にある''癒やし''のような瞬間を感じさせる。もしかすると、映画のワンシーンに流れているような、ホッと息をつける音楽に幼い頃に癒やされたのだろうか。そして、それが実現者となった今では、バーティーズがそういった次の世代に伝えるための曲を制作する順番になったというわけだ。ホラーの要素が全くないとは言えないかもしれない。それはブレイクビーツやチョップといったサンプルの技法の中に、偶発的にそれらの怖〜い感覚を感じさせる。しかしながら、たとえ、表面的な怖さがあるとしても、その内側に偏在するのは、デラソウルのような慈しみに溢れる人間的な温かさ、博愛主義者の精神の発露である。これはむしろ、ソングライターの幼少期の思い出を音楽として象ったものなのかもしれない。

 

バーティーズ・ストレンジは、オペラ歌手と軍人という特異な家庭に育ったミュージシャンであるが、結局、彼はギタリストとしての印象が強い。例えば、数年前にはロンドンにあるカムデンのマーケットでギターを選んでいる様子をドキュメント映像として残している。ギターに対する愛情は、アルバムの始めから溢れ出ている。そして、彼の家でかかっていたというパーラメント、ファンカデリック、フリートウッド・マック、テディ・ペンダーグラス、ニール・ヤング、そういった懐かしのR&B、そしてロック、さらにコンテンポラリーフォークまでもがこのアルバム全体を横断する。

 

「Too Much」のイントロはツインギターの録音で始まり、その後、まったりとしたR&Bへと移り変わる。それは、通勤電車やバスの向こうに見える人生の景色の変化のようである。そしてバーティーズはデビューの頃から培われたソウルフルなヴォーカルで聞き手を魅了する。ラフな感じで始まったこのアルバムだが、続く「Hit It Quit It」ではヒップホップとR&Bの融合というブラックミュージックの重要な主題を受け継いでいる。しかし、バーティーズのリリックは、それほど思想的にはならない。音楽的な響きや表現性が重要視されているので、言葉が耳にすんなり入ってくる。ファンカデリック、パーラメント好きにはたまらないナンバーとなるだろう。バーティーズはまた、哀愁のあるR&Bやソウルのバラードの系譜を受け継いでいる。「Sober」は、デビュー作に収録されている「Hold The Line」と同じ系統にある楽曲だが、しんみりしすぎず、リズムの軽やかさを感じさせる。エレクトリック・ピアノ(ローズピアノ)とセンチメンタルなボーカルが融合する。この曲は、ジャック・アントノフ&ブリーチャーズが志向するようなAOR、ソフィスティポップといった80年代のUSポップを下地にした切ないナンバーだ。


米国のトレンドに準じた形でアメリカーナを取り入れた曲が続く。「Baltimore」は、もしかすると、この土地に対するアーティストの何らかの繋がりのようなもの描いているのかもしれない。しかし、それほど、バーティーズの音楽はモダンにならず、70年代のUSロックの懐かしさに留まっている。これは彼の音楽観のようなものが幼い頃に出発しており、それらを現代のアーティストとして再現するのが理想だと考えるからなのだろうか。そして、アメリカーナ(カントリー)の要素は、バーティーズ・ストレンジが子供の頃に聴いていたニール・ヤングの世界観と結びつき、普遍的な響きのあるポップスとして蘇る。そして、それらは、南部のブルースの影響下にある渋いギターや曲調と繋がっている。むしろ、前作では、黒人社会について誰よりも真摯に考えていたシンガーであるが、この二作目では、人種的な枠組みを超えるような良質な曲を書いている。これは、明らかにシンガーソングライターとしての大きな成長といえる。なぜなら、この世界に住んでいるのは一つや二つの人種だけではないのだから。

 

「Lie 95」は、たぶんマイケル・ジャクソンのようなナンバーにすることも出来たかもしれない。しかし、この曲は少し控えめな感覚が維持されている。見え透いたようなきらびやかなポップスからは距離を置いているのが分かる。それが、渋さや深みのような奥深い感覚を漂わせている。もちろん、ポップソングとしての分かりやすさや聞きやすさという点はしっかりと維持した上で、深い感覚がしっかりと宿っている。従来のポピュラーソングの聞き方が少し変わるような面白い音楽である。結果的に、この曲は80年代のディスコとYves Tumorのハイパーポップのセンスを巧みに結びつけて、古さと新しさを瞬時にクロスオーバーするようなユニークな感じに仕上がっている。

 

中盤にもハイライト曲がある。最もロックソングの性質を前面に押し出した「Wants Need」は、ブリーチャーズとも共通点のあるナンバーである。 この曲はスプリングスティーンから受け継がれる定番のようなロックソング。しかし、それほどマッチョイズムにそまらず、中性的な感じが生かされているのが新しい。この曲でも、古典的な観念に染まりきらず、現代的な考えを共有しようという、ソングライターの心意気のようなものが伝わってくる。歌詞に関しても、無駄な言葉を削ぎ落としたような洗練性があり、耳にすんなり入ってくることが多い。「Love」は、アーティストがこれまでに作ったことが少ないタイプの曲ではないかと推測される。EDMに依拠したダンストラックで、この曲の全体に漂うダブステップの感覚に注目してもらいたい。

 

『Horror』は単なる懐古主義のアルバムではないらしく、温故知新ともいうべき作品である。例えば、エレクトロニックのベースとなる曲調の中には、ダブステップの次世代に当たる''フューチャーステップ''の要素が取り入れられている。こういった次世代の音楽が過去のファンクやヒップホップ、そしてインディーロックなどを通過し、フランク・オーシャン、イヴ・トゥモールで止まりかけていたブラックミュージックの時計の針を未来へと進めている。おそらくバーティーズ・ストレンジが今後目指すのは"次世代のR&B"なのかもしれない。


終盤のハイライト曲「Loop Defenders」「Norf Gun」には、未知なるジャンルの萌芽を見出すことが出来るはずだ。後者の曲については、Nilfer Yanyaが2022年のアルバム『Painless』で行ったR&Bの前衛性を受け継いだということになるだろうか。こういったフレッシュな音楽が次の作品ではどのように変容していくのかとても楽しみだ。

 


 

85/100 

 


 

 Best Track-「Norf Gun」


Youth Lagoon(ユース・ラグーン)は、今週金曜日に発売予定の新作アルバム『Rarely Do I Dream』から、きらびやかで推進力のある「Gumshoe (Dracula From Arkansas)」を発表した。 このシングルは、「Speed Freak」、「Football」、「Lucy Takes a Picture」、「My Beautiful Girl」に続く。 インディーロック風のナンバーであるが、声のサンプリングを散りばめた遊び心満載のシングルとなっている。ぜひ以下の自主制作のミュージックビデオをチェックしてみて下さい。


ユースラグーンこと、トレヴァー・パワーズは声明の中でこのニューシングルについて、「誰かが僕の音楽を聴くと森で死んだような気分になると言ってくれた。 『Gumshoe』ほどその表現が似合う曲はないと思う。 僕は普段、純粋な愛、錯乱、あるいはただ悪魔を追い払うために書いているんだけど、この曲はその3つの条件をすべて満たしている」と述べている。

 


「Gumshoe (Dracula From Arkansas)」