『Sad Clown Bad Dub』シリーズは、シカゴのアンダーグラウンド・ヒップホップ・デュオ、Atmosphereがツアー中に限定販売するカセットテープとCD-Rのシリーズとして始まった。
このプロジェクトは、1999年の開始以来、は、レアな4トラック・デモ、ライヴ・レコーディング、ツアーの舞台裏を収めたDVD、ミックス・テープ、7インチ・ヴァイナル・シングルなど、数多くのフォーマットで十数回に渡って繰り返されてきた。今日に至るまで、初期の作品のひとつである『Sad Clown Bad Dub 2』は、このシリーズで最も有名で、垂涎の的となっている。
2000年にリリースされた『Sad Clown Bad Dub 2』は、手書きのトラックリストとライナーノーツが書かれたイラスト入りジャケットの後ろにCDが収められたシンプルなDIYリリースだった。レコーディングも同様にラフで、ミキシングもマスタリングもされていない生の4トラック・デモが12曲収録されている。アトモスフィアは、当初、小遣い稼ぎのために500枚しかCDを制作しなかったが、その話題性とファンからの要望により、最終的にCDの追加プレスに踏み切り、今度はジャケット・アートに「Authorized Bootleg(公認ブートレグ)」というフレーズを刻印した。『Sad Clown Bad Dub 2』の未完成さは、その内容の魅力を妨げるものではなかった。
一般的に、ヒップホップ界では、アンダーグラウンドの名作とされている『Sad Clown Bad Dub 2』は、アトモスフィアの広範なディスコグラフィーの中でも傑出したリリースのひとつとして語られることが多い。
イアン・シェルトン擁するロサンゼルスを拠点に活動する五人組パンクバンド、Militalie Gun(ミリタリー・ガン)は、このデビュー・アルバムでクラシカルなパンクの魅力を再現しようとしている。イアン・シェルトンは、パンデミック時まで、Radional Justice Centerというバンドで活動していたものの、この年代の社会情勢がバンドの存続を危ぶむことになった。続いて、彼が結成したMilitalie Gunは、そういった悔しさから立ち上がって組まれたハードコアパンクバンドだ。かれらのパンクサウンドの中には、Hot Water Musicのような哀愁が込められている。それは轟音の向こうにほのかに感じられるエモーションという形でリスナーの心を捉えてやまない。
オープニングを飾る「Do It Faster」は、前のバンドからMilitarie Gunへと移行した後に最初に書かれた彼の思いが詰まったパンクアンセムである。 「Do」というフレーズにシェルトンは強いアクセントを込め、骨太でキャッチーなパンクロックを提示する。そのサウンドの中には00年代のポップ・パンクムーブメントに対する親和性も込められている。この年代には雨後の筍ともいうべき形で、数多くのポップパンクバンドが台頭したが、彼らはこれらのムーブメントを振り返り、その中に潜んでいたメロディーの良さや明るいノリをこのアルバムで再現しようとしている。
彼らは、細分化したポスト・ハードコアバンドとは距離を置き、シンプルなパンクサウンドの核心のみを叩きつける。特にサビでの痛快なメロディーは古き良きポップパンクサウンドを想起させる。彼らは簡潔性を通じ、Saves The Dayに近い音楽性を追い求める。三分以上の曲は必要ないとばかりに、ほとんどが一分台か、長くても、二分強のパンクロックソングだけをストレートに提示し続ける。その硬派なパンクロックに対する強固な姿勢は、Bad ReligionのDNAを受け継いでいると言っても過言ではない。それに続く、「Seizure Of Assets」も同じくオレンジ・カウンティを中心とするパンク黎明期を思い起こさせる清々しいソングだ。シェルトンは相変わらず自らバンド名を体現するかのような屈強なボーカルを披露しているが、その無骨なパンクサウンドの背後に、独特な哀愁と切なさが漂う。スリコードを主体にしたギターリフと8ビートの融合を通じて、パンクにとどまらずロックミュージックの本来の魅力に迫ろうとしている。
その後、「Never Fucked Up Once」では、よりダイナミックなドラムに下支えされ、エモーショナル・ハードコアに近い展開に繋がっていく。一見するときわめて不器用にも思える。でも、バンドのひたむきさ、パンクに対する熱情が録音にほとばしり、その熱量はシェルトンのボーカルに乗り移り、独特なエモーションを生み出している。Hot Water Music、Samiam、Face To Faceを想起させる哀愁がこれらの曲には顕著な形で反映されている。Strike Anywhereほど過激ではないが、もちろんそれに比するパンチ力やスパイスは十分に感じとってもらえるはずなのだ。
Militalie Gunは、デビューアルバムを通じて、USパンクバンドらしい直情性を示そうとしているが、ちょっとした遊び心も付け加えている。「See You Around」は、メロトロンの音色を配した「Strawberry Fields Forever」のオマージュとなっているが、この曲は、パンクバンドとは異なるオルトロックバンド寄りの姿を垣間見れる。更に続く、タイトル曲では、直情的なハードコア・パンクサウンドに回帰している。聞き終えた後にはスカッとした清々しさすら覚える。
Foo Fightersの最新作『But Here We Are』の爽快な音楽性にも近いものがあるが、そのサウンドをよりディープなハードコアへと転化したのが、『Life Under The Gun』の正体と言えそうだ。これらのエモーショナルなパンクサウンドが今後どのような変遷を辿っていくのか、今からたのしみ。真面目な話、パンクロックとしては結構良いアルバムです。かなりおすすめです。
ニューヨークのソングライター、Anna Beckerman(アンナ・ベッカーマン)のソロ・プロジェクト、Daneshevskaya(ダネシェフスカヤ)が、Wispearから最初のシングルをリリースしました。涼やかな感覚のローファイなフォーク・ロックソングです。アーティストは2021年に自主制作のEP『Bury Your Horses』を発表していますが、今回、同レーベルと契約を交わしました。
「Somewhere in the Middle」は、Model/ActrizのRuben Radlauer(ルーベン・ラドアウアー)とHayden Ticehurst(ハイデン・タイスハースト)と共にレコーディングされ、ベースには、Artur Szerejko(アルトゥール・セレイコ)、サックスには、Black Country, New RoadのLewis Evans{ルイス・エヴァンス)が参加しています。ミア・ダンカン監督によるビデオは以下よりご視聴下さい。
2015年の『This Is What the Truth Feels Like』が最後のソロ・アルバムとなったステファニーは、先日カリフォルニア州レドンド・ビーチで開催されたビーチライフ・フェスティバルに出演した。彼女はまた、コーチのレバ・マッケンタイア、ナイア・ホーラン、ジョン・レジェンドとともに、シーズン24の『ザ・ヴォイス』に復帰することを発表した。
ケニフは、各曲は全体にとって不可欠なものだと考えている。「もしひとつを取り出したら、本から1ページを切り取るようなものだ」と彼は言うが、それでもなお、一連の自己完結した叙事詩のように独立して機能している。「All The While]」は、この意図を最もよく表している。共鳴するドラムのシークエンスで構成された3つのパートからなる曲だ。最初にシンセサイザーのきらめく音が現れ、次に牧歌的なギターとピアノのたゆたうような音が現れ、最後に収束してエーテルの中に消えていく。
Glastonbury Festival 2023が6月23日から本日まで開催中です。ピルトンと、その六マイル先にある小さな街、グラストンベリーの間にある”Worthy Farm”にて例年開催されるイギリス最大級のライブ・イベントです。今年は、チケット価格が上昇したものの、販売から数時間後にソールドアウトとなった。3日間のヘッドライナーについては、アークティック・モンキーズ、ガンズ・アンド・ローゼズが抜擢され、最終日はエルトン・ジョンが大トリを務め、このフェスを締めくくる予定です。ライブ開始前には、専用の運搬車で、巨大なミラーボールのような装置が運搬されていました。23日には、主催者代表のエミリー・イーヴィスがカウントダウンを行い、農場への扉が開門された。この会場時の模様は、NMEがインタビュー映像として公開しています。
デビュー・アルバムの名曲「I Bet You Look Good on the Dancefloor」、2ndアルバムの代表曲「Brainstorm」「Fluorescent Adolescent」「Teddy Picker」はもちろん、活動The 中期を代表する名作アルバム『AM』の「Do I Wanna Know?」「R U Mine?」もセットリストに取り入れられています。
最新アルバム『The Car』からは、「There'd Better Be a Mirrorball」「Body Paint」「Sculptures of Anything Goes」がピックアップ。途中、ブラック・サバスの「War Ping」のカバーを取り入れ、全キャリアを総括するセットリストを組み、多数のファンを魅了しました。ステージの中央には、巨大な球状のモニターが出現し、パフォーマンスの模様が流された。バンドは一昨日、ステージを後にし、25日にはグラスゴーのフェスティバルに出演しています。彼らのミュージシャンとしてのプロフェッショナリティーには本当に脱帽します。
「R U Mine」 「Body Paint」
Setlist:
Sculptures of Anything Goes
Brianstorm
Snap Out of It
Don't Sit Down 'Cause I've Moved Your Chair
Crying Lightning
Teddy Picker
Cornerstone (Followed by piano interlude)
Why'd You Only Call Me When You're High?
Arabella
(Black Sabbath's "War Pigs" outro)
Four Out of Five
Pretty Visitors (Key change in the outro)
Fluorescent Adolescent
Perfect Sense
Do I Wanna Know?
Mardy Bum
There'd Better Be a Mirrorball
505 (with James Ford) (New arrangement)
Body Paint (with James Ford) (Extended outro)
Encore:
I Wanna Be Yours
(John Cooper Clarke cover) (Star Treatment lyrics with… more )
I Bet You Look Good on the Dancefloor (Finished the previous Star… more )
昨年のテイラー・ホーキンスの死後、バンドはしばらく活動を継続するか悩んでいたものの、以前とは変わるかもしれないが、バンドを存続させることを発表しました。後続のドラマーには、ガンズ・アンド・ローゼズ、NIN,オフスプリング、スティングとステージを共にしたジョッシュ・フリーズが抜擢。テイラー・ホーキンスへの追悼作『But Here We Are』は、このバンドの象徴的なサウンドである骨太なロックサウンドに加え、エモーショナルな繊細さも兼ね備える良作でした。また、このアルバムでは、デイヴ・グロールもドラムを叩いています。
ニッキー・ワイヤーによるタイトなベースラインと、ショーン・ムーアによるヴァレー出身の最高のドラミングを武器に、ステージではスタンダードなロックソングを披露し、全盛期に引けを取らない素晴らしいパフォーマンスによって多数の観客を魅了しています。セットリストの途中では、代表曲のひとつ「Die in the Summertime」をリッチー・エドワーズに捧げています。
当然のことながら、彼らのステージではウェールズのドラゴンの国旗が観客の間にはためいていますね。
「If You Tolerate This Your Children Will Be Next」
Setlist:
Motorcycle Emptiness
1985
Everything Must Go
You Stole the Sun From My Heart
Die in the Summertime (Dedicated to Richey Edwards)
Your Love Alone Is Not Enough (with The Anchoress)
This Is Yesterday
(with The Anchoress) (on lead vocals) A Design for Life
バンドは2014年にもグラストンベリーに出演しており、9年ぶりのカムバックを果たした。インディーロックバンドではありながら、チルアウト風のシンセのメロディーラインと渋さのあるベースライン、ジェニー・リンドバーグのボーカルとコーラスワークには哀愁が漂っている。ライブの終盤では、Fugaziの「I'm So Tired」をカバーし、パンクからの影響を公言する形となりました。昨年、Warpaintは、最新作『Radiate Like This』をVirgin Musicより発売しました。
「Champion」
Setlist:
Champion
Undertow
Hips
Bees
Hard to Tell You
Love Is to Die
Krimson
Whiteout
I'm So Tired (Fugazi cover)
New Song
Disco//Very
Guns N' Roses
グラストンベリーの二日目のヘッドライナーを務めたのは、ハリウッド出身の伝説的なハードロックバンド、Guns N' Roses。昨年、さいたまスーパーアリーナで久しぶりの公演を行ったことは記憶に新しい。
今回、二日目の大トリを任されたガンズは、名作『Appetite For Destruction』の収録曲を中心に、Stoogesのカバーを交え、圧巻の25曲の新旧のセットリストを組んでいます。ダフ・マッケイガンとアクセル・ローズがともにマイクに向かって歌う瞬間は、バンドの長い紆余曲折を知るファンにとっては感涙もの。イジー、スラッシュの華麗なギタープレイも健在です。スタジオ録音の新作も待ち望まれます。GN'Rは、グラストンベリーのヘッドライナーを務めた後、アークティック・モンキーズと同じ日程をたどり、スコットランドのフェスに向かっています。
「Paradise City」
Setlist:
Intro
It's So Easy
Bad Obsession
Chinese Democracy
Slither (Velvet Revolver cover)
Welcome to the Jungle
Mr. Brownstone
Pretty Tied Up
Double Talkin' Jive Estranged
Live and Let Die (Wings cover)
Reckless Life
T.V. Eye (The Stooges cover) (Duff on vocals)
Down on the Farm (UK Subs cover)
Rocket Queen
Absurd
Civil War (Jimi Hendrix's "Voodoo Child" outro)
You Could Be Mine (With band introductions after)
Slash Guitar Solo
Sweet Child o' Mine
November Rain
Patience
Hard Skool
Knockin' on Heaven's Door
(Bob Dylan cover) (Alice Cooper’s “Only Women Bleed” intro)
Nightrain
Paradise City
Lana Del Rey
今年、最新アルバム『Did You Know That There's Tunnel Under The Ocean Blvd』を発表した米国のシンガー、ラナ・デル・レイのコンサートは、一波乱を巻き起こしました。ザ・ガーディアンの報じたところによれば、アーティストは、30分遅れでステージに登場し、予定していたセットリストを終えられぬまま、一時間でステージを去ることになった。アーティストが話したところによると、出演時の髪のセットに時間を要してしまい、「ごめんなさい、髪が長くなってしまいました。停電しても、そのまま進みましょう」と観客に対して弁解したのだった。
実際のパフォーマンスは、バックダンサーを交えたマジック・ショーに近い演出が行われた。これが大掛かりなステージでのライブを予期しているのかどうかはわからないものの、ステージの演出については、NFLのスーパーボウルのハーフタイム・ショーを彷彿とさせるものがあります。リナ・サワヤマは、ライブの途中で衣装を変え、ロック/メタルを意識したシアトリカルなライブ・パフォーマンスを行いました。ライブのセットリストは、Charlie XCXのカバーを交え、最新作『Hold The Girl」を中心に、それほど大きな波乱もなく13曲が演奏されました。
「XS」
「This Hell」
Setlist:
Hold the Girl
Hurricanes
Dynasty
Akasaka Sad
Imagining
STFU! (Calls out Matty Healy from… more )
Frankenstein
Bad Friend
Beg for You (Charli XCX cover)
LUCID
Comme des garçons (Like the Boys) ((with “Bad Girls” by Donna… more )
XS
Interlude (On stage costume change,… more )
This Hell (extended version with call and response breakdown)
Outro (‘This Hell’ with band introductions)
Queens Of The Stone Age
『In Times New Roma...』を発売したばかりのQueens Of The Stone Ageは、Other Stageの最終日のヘッドライナーを任され、堂々たるパフォーマンスを行い、このステージの有終の美を飾りました。
彼らの演奏は、その名に恥じぬもので、観客の中にモッシュピットを巻き起こし、純粋なロックの熱さを呼び起こすことに成功した。彼らの代表曲「No One Knows」の安定感のあるパフォーマンスは、未だに彼らの人気が世界的に高く、彼らのロックサウンドが時代に全然古びていないことを証明しています。フロントマンのジョッシュ・オムの佇まいもワイルドでかっこいい。バンドは、新旧のセットリストを織り交ぜながら、最新アルバムに収録されている「Paper Machute」を中心に15曲を演奏し、重厚感のあるパフォーマンスで観客を魅了しました。
昨年、ポール・マッカートニーのステージでは、USロックのボス、ブルース・スプリングスティーンと、Foo Fightersのデイヴ・グロールが登場し、豪華なコラボレーションを行いました。昨年に比べると、やや物足りなさが残るステージだったようです。『Hold The Girl」で有益なアドヴァイスを送られたサワヤマが出演したことを擁護しつつも、「エミネムやビックネームがいても良かったのではないか・・・」と話すファンもいた。ただ、この夜、エルトンは25曲を演奏している。年齢を考えると、ほとんど驚異的なパフォーマンスであったと考えられます。
エルトン・ジョンは、グラストンベリーの出番を終え、27日、フランスのコンサートに出演予定です。
「Rocket Man」
Setlist:
Pinball Wizard (The Who cover) (First time since 2009)
The Bitch Is Back
Bennie and the Jets
Daniel
Goodbye Yellow Brick Road
I Guess That's Why They Call It the Blues
Philadelphia Freedom
Are You Ready for Love (with Jacob Lusk) (+ London Community Gospel… more )
Sad Songs (Say So Much) (with London Community Gospel Choir)
Someone Saved My Life Tonight
Until I Found You (Stephen Sanchez cover) (with Stephen Sanchez)
Your Song
Candle in the Wind (with video clips of Marilyn… more )
Tiny Dancer (with Brandon Flowers)
Don't Go Breaking My Heart (Elton John & Kiki Dee cover) (with Rina Sawayama)
Crocodile Rock
Saturday Night's Alright for Fighting
I'm Still Standing
Cold Heart
Don't Let the Sun Go Down on Me (Dedicated to George Michael,… more )
Rocket Man (I Think It's Going to Be a Long, Long Time)
M.Wardの超自然的なものを聴きながら、何度か「これは何年だろう? 1952年で、ハリー・スミス・アンソロジーのトラックを聴いているのだろうか? 1972年で、『After the Gold Rush』のレコーディング・セッションをこっそりと聞いているのだろうか? 」というような錯覚に陥らせる。M.Wardは、そのような疑問を抱かせる特別な現代アーティストの一人である。ウォードは、アメリカン・ポピュラー音楽の語彙をマスターし、それを自分の目的のためにどう使うかについて真剣な決断を下そうとしている。ウォードがハリー・スミス、ニール・ヤングといった伝説的なアーティストと共有しようとしているのは、音楽的価値観と人間的価値観の文脈である。リリックの運びには、わずかな生々しさがあり、彼の声には静かな威厳と大きな優しさがある。ようは「Supernatural Thing」は、オープンハートで魅力的なアルバムなのだ。
ファースト・エイド・キット、ショベルズ&ロープ、スコット・マクミッケン、ネコ・ケース、ジム・ジェイムズなど、アルバムのゲスト・スターたちはアルバムの魅力を最大限に引き立てている。「Too Young to Die」では、スウェーデンのファースト・エイド・キットのソダーバーグ姉妹の麗しい歌声がメロディーに軽やかなフロスティングをかけ、「Engine 5」ではビーチ・ボーイズのような爽やかなコーラスがこの曲を瞬く間にヒットへと導くことだろう。プログラム全体は、パンデミック前のハウスパーティーを彷彿とさせる素敵なオープンハウスのような感覚に満ちている。
エルビス・プレスリーがメッセンジャーとして登場するタイトル曲について、「私の曲はすべて、ある程度夢のイメージに依存している。ただし、パンデミックに関連しているかどうかはわからない」とウォードは語っている。これは彼が "you feel the line is growing thin / between beautiful and strange "と歌っている曲であり、このアルバムの感情的なトーンを巧みに要約している。
アルバムの全10曲のうち、8曲がウォードのオリジナルである。また、ボウイの曲としては珍しく、『ブラックスター』収録の "I Can't Give Everything Away "とダニエル・ジョンストンの "Story of an Artist "のライブ演奏をカバーしている。「ボウイとジョンストンは、私にとってインスピレーションの源で、何年そうしてきたかわからない」とウォードは語る。ボウイのインストゥルメンタルを聴きながら、昔サンルイス・オビスポで、喫茶店でアコースティック・ソロを弾きながらウォードが "Let's Dance "をとてもスローなバラードとして歌った夜のことが思い出される。
続いて、スウェーデンの双子のフォークデュオ、First Aid Kitがゲストボーカルとして参加した「too young to die」もタイトルからして、往年の米国のポップスやフォーク/カントリーへのリスペクトが示されている。軽快なM.Wardのアコースティックギターに、ファースト・エイド・キットの姉妹のボーカルが心地よく乗せられる。イントロは、教会の聖歌の神への宣誓への一節のように同じ音程が歌われるが、その後の次いで爽やかに繰り広げられる姉妹デュオの美しいボーカルは、じんわりとした心地よさを与えてくれる。ここには、70年代の音楽をこよなく愛するFirst Aid Kitの楽曲の深い理解と彼女たちの歌唱力が、2020年代のフォーク・トレンドを生み出したと言える。M.Wardは、時に、拳を効かせながら、それらのボーカルに呼応するように渋みのあるボーカルで合いの手を入れる。コラボレーターの相性の良さと、互いの敬愛がこういった調和的な美しさを持つフォークミュージックを生み出したのだろう。楽曲は、草原を駆け巡る風のように緩やかに、そして流れるように展開されるが、特に、曲の終わりにかけてのM. WardとFirst Aid Kitの「too young to die」というフレーズの掛け合いには甘美的な雰囲気すら漂う。
続く「Supernatural Thing」は、アーティストのラジオに対するミステリアスな興味を表すようなトラックである。現実世界でのシリアスな出来事と、夢の中でのロマンティックな出来事が絶えず交錯している。ボブ・ディラン、ジョージ・ハリスン、ルー・リード、トム・ペティ、ポール・ウェスターバーグに代表される、古き良きブルース・ロックを基調とするこの楽曲の全体には、この歌手の人生を反映した哀愁やペーソスがほのかに漂っている。アーティストは、夢の中でロックの王様のエルヴィス・プレスリーに出会い、「You Can Go Anywhere You Please - 君はどこへだっていける」と素敵なメーセージを告げられる。M. Wardは、単調と長調の合間を絶えず行き交いながら、コードのうねりを作り出すことによって、この曲全体に渋さと切なさを与えている。 パンデミック時代の厳しい現実と、それと相反するウェスタン時代のロマンチシズムがその根底には揺曳している。これらの旧時代と新時代の不確かな波間を絶えず行き来するような奇妙な感覚やエモーションは、ブルースを基調にしたフックのあるギター・ソロだったり、あるいは、M.Wardのコーラスの多重録音によって段階的に高められていく。曲のタイトルを歌った「Supernatural Thing - 超自然的なもの」というフレーズは、シュールな印象を与えるとともに、アルバム全体を俯瞰してみた際に、鮮やかな印象を聞き手の脳裏に残すことだろう。
「Supernatural Thing」
「New Kerrang」では、スタンダードなブルース・ロックの方向性を推し進めていく。タイトルが英国最高峰のメタル雑誌に因むものなのかは分からないものの、トム・ペティやチャック・ベリー、ボ・ディドリー、エルヴィス・プレスリーといったレジェンドを彷彿とさせるプリミティヴな60年代のロックンロールへと回帰し、聞き手の耳を喜ばせる。Scott McMicken and The Ever-Expandigのゲスト参加は、Robyn Hitchcockのようなカルト的な意義をもたらす。M.Wardは、''踊りのための大衆音楽''として台頭した、人種や年代を問わないロックの原初的な魅力に再度脚光を当てようとしている。また、ブルースのスケールを取り入れた進行にも着目しておきたい。
その後、ロックやフォーク/カントリーの要素とは別に、もうひとつの主要な音楽性となるスタンダードなジャズに対する親和性も、このアルバムの一番の魅力に挙げられるだろう。ボウイのインストゥルメンタル・カバーである「i Can't Give Anything」では、タイトルからも分かる通り、アーティスト(ボウイ)の少し情けない一面が示されており、親しみを覚えることが出来る。トランペットの鋭いスタッカートの後に芳醇なレガートが続いているが、その後、モノクロ映画のワンシーンのようなノスタルジア溢れるコーラスが曲の雰囲気を支配している。ドラムとギター、トランペットが渾然一体となり、ジャズの気配を強化する。こういったノスタルジックな音楽のアプローチは、Father John MistyやAngel Olsenの最新アルバムでも見受けられたもので、米国の現代的なポピュラー音楽の一つの形式となっていきそうな気配もある。古き良き時代の伝統性と、その文化が持つ美しさを継承しようというアーティストの切なる思いがこの曲に込められており、そして、それは、Father John MistyやAngel Olsenのアルバムにあるようなノルタルジアを求めるリスナーにとって、この上ない至福の瞬間をもたらすものと思われる。
2曲目の「too young to die」に続いて、スウェーデンの姉妹フォークデュオ、First Aid Kitは7曲目の「engine 5」でもゲストボーカルとして素晴らしい貢献を果たしている。この曲は、それほどモダンなポピュラー・ソングとは言えないにせよ、その一方で、ソダーバーグ姉妹のボーカルは奇妙な新鮮味をもたらしている。少なくとも、ハイパーポップともエクスペリメンタルポップとも異なり、自然なロック/ポップを原型にしたスタンダードなナンバーであるが、フォーク/カントリーに根ざしたアコースティック・ギターのストロークは、この曲にダンス・ミュージックに近いグルーブやビートをもたらし、聞き手を心をほんわかさせてくれる。ここには、アルバムの序盤と同じように、人生の悲哀や苦悩に近い感慨も率直に込められているが、その奇妙な感覚が、聞き手にある種の癒やしの瞬間をもたらし、普遍的なロック/ポップの良さを追求する両者の才覚が劇的なスパークを果たしている。ここでも、三人のミュージシャンは、現代的な苦悩を認めつつも、旧時代のラジオのような領域へと逃避場を設けるかのように潜りこんでいく。そしてそれは清らかな一滴の雫のような感覚を生み出し、わずかな清涼感をもたらす。
アルバムの最後に収録されているダニエル・ジョンストンのカバー曲「story of an artist」は、ジョンストンがみずからの人生を映画の登場人物のように歌った一曲で、またそれは多くの人への愛の讃歌代わりでもある。自らの人生をあらためて回想するかのような和らいだ内省的なフォーク・ミュージックは、カバーという形ではありながら、M.Wardの24年のキャリアを総括するとともに、彼のアーティストとしての心情を虚心坦懐に打ち明けたものとなっている。それは傷ついた心を癒やし、傷んだ心のある種の慰みを与える。それほど大きな抑揚や起伏に富んだ展開こそないものの、M.Wardのギターの進行とヴォーカルのフレーズは一定の音域の間をきわどい感じで淡々と彷徨っている。そこには、派手な上昇もなければ、派手な下降もない。そして、多くの人々の人生を見るかぎりでは、世界のすべての人に映画のような人生の大きな上昇があるわけでもなければ、大きな下降があるわけでもない。しかし、そういった何気ない日常の連続は、ここ数年で、奇妙な形で破壊され、阻害され、変化してしまった。関連するとまでは明言こそしていないが、M.Wardは、きわめて間接的なかたちで、そういった現代の多数の人々の人生の浮き沈みを直視し、それを最後の曲や作品全体を通じて真摯に描出しようと試みている。いうまでもなく、みずからの得意とするフォーク/カントリーによってである。
今年、来日公演も行ったブライトンのシンガーソングライター、メイジ−・ピーターズはグラストンベリー・フェスティバルの初日に、ニューアルバム『The Good Witch』の発売日を合わせてきたわけだが、これはレーベルが相当この作品によほど自信があるか、もしくは発売日に無頓着であるかのどちらかである。もちろん後者については考えづらいので、他のアーティストのリリースが先延ばしにされる日を見計らい、前者の奇策を打ったのが、アルバムの宣伝の意図とも推測される。
特に、前2作に比べて、昨年ヒットを記録したサワヤマの音楽性を少なからず意識したダイナミックなポップスナンバーがずらりと並んでいる。ナイーブさとパワフルさが混在する絶妙なポップスの数々である。もちろん、Tiktokのように、一曲だけ取り出して気軽に楽しんでみるのもいいだろうし、アルバムを購入し、最初から最後までじっくりと聴いてみてもいい。聞き方を選ばない自由なモダン・ポップという面では、昨年のサワヤマの最新作「Hold The Girl」に近いものがある。リナ・サワヤマは、昨年の最新作において、ハイパーポップの理想的な形を提示したのだったが、ポップスの中にエヴァネッセンスのメタリックな要素や、フックの効いたロックないしはフォーク・ミュージックの要素を絶妙に織り交ぜることで、最高傑作を生み出した。
メイジー・ピーターズも、その成功例に倣い、ポップスの中に複数のジャンルを織り交ぜ、強いスパイスを加えることに成功している。シンガーソングライターの作曲における試行錯誤の成果が、「Body Better」、「Lost The Breakup」、「Therapy」といったハイライト曲に顕著な形で現れている。これらの曲は、ラムネ・ソーダを飲み干すときの爽快感があり、青春の甘酸っぱい雰囲気に溢れている。曲の構成もすごくわかりやすく、サビに近いフレーズもあるので、それほど洋楽に詳しくないJ-Popのリスナーにも強烈にプッシュしておきたい。
スタジアム級のダイナミックなポップスの楽曲群に加えて、終盤の収録曲では多彩な音楽性を織り交ぜて新たなチャレンジをしている。「Run」では、グライムなどをはじめとするUKのクラブミュージックを基調にしたポップスに、さらに、「Two Weeks Ago」では、シャナイア・トゥエインを彷彿とさせるフォーク・ミュージックに取り組み、さらに「History Of Man」では、しっとりとしたバラード・ソングにも取り組んでいる。
ストームジーは、イギリス/ウェストロンドン出身のラッパー、Fredo(フレド)をフィーチャーし、デイヴことサンタンをプロデュースに迎えた新曲「Toxic Trait」を発表した。昨年12月に3作連続で1位を獲得したアルバム『This Is What I Mean』に続くニューシングルで、UKドリルの新機軸を示している。
このシングルには、イギリス人ディレクター、フェミ・ラディが監督したビデオが付属しており、社会的な有害特性を探求している。ビデオでは、ギャンブル、暴力、贅沢なライフスタイルへの賛美など、様々な架空のシナリオが描かれている。ムハメッド・アリの1968年のエスクァイア誌の表紙やケヒンデ・ワイリーが描いた絵画「A Ship Of Fools」など、文化的な引用も含まれている。ビデオには、フレドとアリソン・ハモンドのセラピー・シーンがあり、最後はイヴォリアン・ドール、ウレッチ32、スペックス・ゴンザレスが登場するグループ・セッションで締めくくられる。入れ替わり立ち替わりに披露されるリリックのスタイルにも着目したい。
アルバムを3つのセクションでテーマ別に構成し、彼の親族が家族の歴史について語る音声を挿入した。最初のセクションを彼は "The Past Explained "と呼び、アルバムのリード・シングルである「Ohio」を含む、クリーブランドで育った彼の初期の体験に触れた曲を収録している。アルバムの真ん中のセクションは、Cautiousが "The Honeymoon of Exploration "と呼ばれている。
この5曲は彼のサイケデリック体験の一部を描いたもので、自己反省と他者とのより深い親密さの欲求を刺激している。最後の4曲は、コーシャスが "A Bitter & Sweet Solitude "と呼ぶ第3のテーマ・セクションを構成している。孤独の中で充実した時間を過ごすことで、自分自身や他者とのより良い関係を築くことができ、より深い親密さが生まれるというのが、コーシャスの主張である。
Samiaは次のように語っている。「私はいつも、コミュニティが自分にとって重要だと声を大にして言ってきた。友人たちがいなければ、このようなことはできなかった。パンデミックの間、私たちはみんな家に閉じこもっていたから、『The Baby in 2020』を再構築したんだけど、そのアイデアはこのプロジェクトの理念にとても忠実だと感じたから、『Honey』でもう一度やってみたくなったの。曲に新しい命を吹き込むのは、いつもエキサイティングなことよ」
The Japanese Houseが、Dirty Hitのレーベル・メイトであるThe 1975のマティ・ヒーリーと共に、ニューヨークのラジオ局、SiriusXMに立ち寄り、数曲を演奏した。
先日発売されたばかりの『In The End It Always Does』の最新シングル「Sunshine Baby」を一緒に披露したアンバーとマティは、カナダのカントリー歌手であるShania Twain(シャナイア・トゥエイン)の「It Only Hurts When I'm Breathing」のカヴァーも披露した。パフォーマンスの模様は、SiriusXMのThe Coffee Houseで22日に放送された。SXMのアプリでも視聴できる。