『Sad Clown Bad Dub』シリーズは、シカゴのアンダーグラウンド・ヒップホップ・デュオ、Atmosphereがツアー中に限定販売するカセットテープとCD-Rのシリーズとして始まった。

 

このプロジェクトは、1999年の開始以来、は、レアな4トラック・デモ、ライヴ・レコーディング、ツアーの舞台裏を収めたDVD、ミックス・テープ、7インチ・ヴァイナル・シングルなど、数多くのフォーマットで十数回に渡って繰り返されてきた。今日に至るまで、初期の作品のひとつである『Sad Clown Bad Dub 2』は、このシリーズで最も有名で、垂涎の的となっている。


2000年にリリースされた『Sad Clown Bad Dub 2』は、手書きのトラックリストとライナーノーツが書かれたイラスト入りジャケットの後ろにCDが収められたシンプルなDIYリリースだった。レコーディングも同様にラフで、ミキシングもマスタリングもされていない生の4トラック・デモが12曲収録されている。アトモスフィアは、当初、小遣い稼ぎのために500枚しかCDを制作しなかったが、その話題性とファンからの要望により、最終的にCDの追加プレスに踏み切り、今度はジャケット・アートに「Authorized Bootleg(公認ブートレグ)」というフレーズを刻印した。『Sad Clown Bad Dub 2』の未完成さは、その内容の魅力を妨げるものではなかった。


一般的に、ヒップホップ界では、アンダーグラウンドの名作とされている『Sad Clown Bad Dub 2』は、アトモスフィアの広範なディスコグラフィーの中でも傑出したリリースのひとつとして語られることが多い。

 

この作品は、複雑な思考と感情を探求する内省的なプロジェクトであり、時折ユーモラスな皮肉とウィットに満ちた場面もある。

 

スラッグの文章は鋭く洞察力に富んでおり、個人的な苦悩をリスナーが共感できる普遍的なテーマに変えるコツを心得ている。他方、アントのプロダクションは、ミニマルでムーディー、さらには折衷的で、雰囲気のあるテクスチャーと型破りなリズムに満ちている。このリリースは、ヒップホップ界で最も革新的で境界を押し広げるアーティストとしての評判を確立するのに貢献し、彼ら独自のユニークなサウンドを共に発展させる初期の足がかりの1つとなる。


アルバムは8月4日にRhythmesayersより発売されます。最初のテースターとなる「Body Pillow」が公開されています。

 

Atmosphereは今年、同レーベルより新作アルバム『So Many Other Realities Exist Simultaneously』を発表しました。


 

「Bad Pillow」



Atmosphere  『Sad Clown Bad Dub 2』

 


Tracklist:

 

  1. Sad Clown
  2. Body Pillow
  3. The Pill
  4. Running With Scissors
  5. Fashion Magazine
  6. The Wind
  7. Hungry Fuck
  8. Hells Playground
  9. The Ocean
  10. When It Breaks
  11. Inside Outsider
  12. The River

 Militalie Gun -『Life Under The Gun』

 

Label: Loma Vista

Release: 2023/6/23

 


 

Review

 

イアン・シェルトン擁するロサンゼルスを拠点に活動する五人組パンクバンド、Militalie Gun(ミリタリー・ガン)は、このデビュー・アルバムでクラシカルなパンクの魅力を再現しようとしている。イアン・シェルトンは、パンデミック時まで、Radional Justice Centerというバンドで活動していたものの、この年代の社会情勢がバンドの存続を危ぶむことになった。続いて、彼が結成したMilitalie Gunは、そういった悔しさから立ち上がって組まれたハードコアパンクバンドだ。かれらのパンクサウンドの中には、Hot Water Musicのような哀愁が込められている。それは轟音の向こうにほのかに感じられるエモーションという形でリスナーの心を捉えてやまない。

 

オープニングを飾る「Do It Faster」は、前のバンドからMilitarie Gunへと移行した後に最初に書かれた彼の思いが詰まったパンクアンセムである。 「Do」というフレーズにシェルトンは強いアクセントを込め、骨太でキャッチーなパンクロックを提示する。そのサウンドの中には00年代のポップ・パンクムーブメントに対する親和性も込められている。この年代には雨後の筍ともいうべき形で、数多くのポップパンクバンドが台頭したが、彼らはこれらのムーブメントを振り返り、その中に潜んでいたメロディーの良さや明るいノリをこのアルバムで再現しようとしている。

 

ただ、Militalie Gunが掲げるパンクサウンドは確かにポップパンクに属するが、それほど古びた印象を聞き手に与えることはない。彼らは現在のロンドンのポストパンクバンド、Shameのような音楽性、つまり、90年代から00年代にかけてのUSのオルタナティヴロックの影響を交えることにより、これらのパンクサウンドにモダンな風味をもたらしている。それは3曲目「Will Logic」に見ることが出来る。ここには、90年代のグランジや、その後のヘヴィ・ロックが台頭した時代のUSロックのDNAが引き継がれているが、それが、このデビュー・アルバムに鮮烈性を与えている理由でもある。イアン・シェルトンのボーカルには、軍用銃のようなパンチ力があり、前のめりに歌うフロントマンの姿が音源を介してありありと伝わってくる。若さゆえの無謀さーーそれは確かにそうなのかもしれないが、実際は、若い時にしか出来ない音楽というのもある。彼らはその年でしかできぬことをこのデビュー作に全力で込めようとしているのだ。


アルバムの中盤には、パンク/ハードコアというより、00年代のオルタナティヴロックの核心を捉えたようなミドルテンポの楽曲が続き、アルバム全体に緩急をもたらしている。突っ走るのみが彼らの本領なのではなく、その中にも聴かせる何かを潜在的に秘めていることがわかる。特に、中盤で異質な光を放っている「Return Policy」に注目していただきたい。ミュートのリズムギターと爽やかなシェルトンのボーカルは、80/90年代に立ち返ったかのような雰囲気だ。

 

彼らは、細分化したポスト・ハードコアバンドとは距離を置き、シンプルなパンクサウンドの核心のみを叩きつける。特にサビでの痛快なメロディーは古き良きポップパンクサウンドを想起させる。彼らは簡潔性を通じ、Saves The Dayに近い音楽性を追い求める。三分以上の曲は必要ないとばかりに、ほとんどが一分台か、長くても、二分強のパンクロックソングだけをストレートに提示し続ける。その硬派なパンクロックに対する強固な姿勢は、Bad ReligionのDNAを受け継いでいると言っても過言ではない。それに続く、「Seizure Of Assets」も同じくオレンジ・カウンティを中心とするパンク黎明期を思い起こさせる清々しいソングだ。シェルトンは相変わらず自らバンド名を体現するかのような屈強なボーカルを披露しているが、その無骨なパンクサウンドの背後に、独特な哀愁と切なさが漂う。スリコードを主体にしたギターリフと8ビートの融合を通じて、パンクにとどまらずロックミュージックの本来の魅力に迫ろうとしている。

 

その後、「Never Fucked Up Once」では、よりダイナミックなドラムに下支えされ、エモーショナル・ハードコアに近い展開に繋がっていく。一見するときわめて不器用にも思える。でも、バンドのひたむきさ、パンクに対する熱情が録音にほとばしり、その熱量はシェルトンのボーカルに乗り移り、独特なエモーションを生み出している。Hot Water Music、Samiam、Face To Faceを想起させる哀愁がこれらの曲には顕著な形で反映されている。Strike Anywhereほど過激ではないが、もちろんそれに比するパンチ力やスパイスは十分に感じとってもらえるはずなのだ。

 

Militalie Gunは、デビューアルバムを通じて、USパンクバンドらしい直情性を示そうとしているが、ちょっとした遊び心も付け加えている。「See You Around」は、メロトロンの音色を配した「Strawberry Fields Forever」のオマージュとなっているが、この曲は、パンクバンドとは異なるオルトロックバンド寄りの姿を垣間見れる。更に続く、タイトル曲では、直情的なハードコア・パンクサウンドに回帰している。聞き終えた後にはスカッとした清々しさすら覚える。

 

Foo Fightersの最新作『But Here We Are』の爽快な音楽性にも近いものがあるが、そのサウンドをよりディープなハードコアへと転化したのが、『Life Under The Gun』の正体と言えそうだ。これらのエモーショナルなパンクサウンドが今後どのような変遷を辿っていくのか、今からたのしみ。真面目な話、パンクロックとしては結構良いアルバムです。かなりおすすめです。



  


85/100

 

Featured Track  「Do It Faster」

 

©︎Madeline Lesher

 

ニューヨークのソングライター、Anna Beckerman(アンナ・ベッカーマン)のソロ・プロジェクト、Daneshevskaya(ダネシェフスカヤ)が、Wispearから最初のシングルをリリースしました。涼やかな感覚のローファイなフォーク・ロックソングです。アーティストは2021年に自主制作のEP『Bury Your Horses』を発表していますが、今回、同レーベルと契約を交わしました。

 

「Somewhere in the Middle」は、Model/ActrizのRuben Radlauer(ルーベン・ラドアウアー)とHayden Ticehurst(ハイデン・タイスハースト)と共にレコーディングされ、ベースには、Artur Szerejko(アルトゥール・セレイコ)、サックスには、Black Country, New RoadのLewis Evans{ルイス・エヴァンス)が参加しています。ミア・ダンカン監督によるビデオは以下よりご視聴下さい。


曲のコンセプトについて、ダネシェフスカヤはこう説明しています。「私の祖母には2人の姉妹がいて、両親は『アニタはルックス、ミリアムは本で、グロリアは魅力があるわ』と言っていたんです。私はどっちになりたいかよ〜く考えたの。選ぶことに疑問を持ったことはなかったわ」


「Somewhere in the Middle」

 

Jamie Nelson


元No Doubtのボーカリスト、グウェン・ステファニーが新曲「True Babe」をリリースした。サウィーティをフィーチャーした2021年の「Slow Clap」以来の新曲となるこの曲は、スウェーデンのプロダクション・デュオ、ジャック&コークとLAのソングライター兼プロデューサーのKThrashによってプロデュースされた。


2015年の『This Is What the Truth Feels Like』が最後のソロ・アルバムとなったステファニーは、先日カリフォルニア州レドンド・ビーチで開催されたビーチライフ・フェスティバルに出演した。彼女はまた、コーチのレバ・マッケンタイア、ナイア・ホーラン、ジョン・レジェンドとともに、シーズン24の『ザ・ヴォイス』に復帰することを発表した。


 

レーベルを主宰するA.G. Cook

 

A.G.クックが2013年に設立したロンドンのレーベル、PCミュージックが今年限りで新譜のリリースを終了すると発表しました。

 

「10年にわたる活動の後、2023年がPC Musicの新作リリースの最終年となる。「その後、レーベルはアーカイヴ・プロジェクトとスペシャル・リイシューに専念する。その後、レーベルはアーカイブ・プロジェクトとスペシャル・リイシューに専念する。今のところ、過去、現在、未来からの10×10分のコンテンツ。パーソナル・コンピューター・ミュージックよ永遠に。


PC Musicの10周年を記念して、同レーベルはクック、EASYFUN、Ö、GRL、ケイン・ウェスト、umru、Datalord、caro♡、BOPPLES、Dux Contentが参加した新旧の楽曲を100分にまとめたミックスを公開しました。試聴はこちらから。


2013年、ロンドンでクックによって設立されたPCミュージックは、皮肉な消費者主義を示すことが多かったハイパー・ポップとインターネット・ポップのサウンドをもたらした。クックとソフィー、パフォーマンス・アーティストのHydがコラボした「Hey QT」のようなシングルで人気を博した後、プロデューサーの多くは、Charlie XCX、カーリー・レイ・ジェプセン、キャロライン・ポラチェックなど、PCミュージック以外のアーティストと仕事をするようになった。

 

レーベルは今年、アストラ・キングの新作アルバム『First Love』をリリースする予定です。

 


 

キース・ケニフのプロジェクト、Heliosは、ニューアルバム『Espera』のリリースを発表した。アルバムはGhostly Internationalより2023年8月11日発売される。



アメリカの作曲家キース・ケニフのカタログは、2004年以降、ヘリオスとして十数枚、ゴールドムンドとしてほぼ同数のリリースに及んでいる。

 

ゴールドムンドはポスト・クラシカル・ピアノを好み、パートナーのホリーとのプロジェクトであるミント・ジュレップはシューゲイザー・ポップである。ケニフはこの別名義の中で、ミニマルなアンビエント・エレクトロニクスと、より強固なインストゥルメントの間を行き来し、そのすべてをミニ・カセット・レコーダーに通して独特のゆらぎを生み出している。

 

2018年にGhostly Internationalからリリースされたヘリオス初のLP『Veriditas』では、ケニフが構造よりも質感を重視し、ハーモニックなサウンドで緑豊かな風景を形作っている。続く2020年の『Domicile』は、さらに静かなシンセ音色の室内への頌歌である。

 

『Espera』の音楽は瑞々しく生き生きとしており、おそらく彼の作品の中で最も特異なものだろう。ケニフの作品においてタイトルは重要であり、スペイン語で「待つ」を意味するEsperaは、このプロデューサーの忍耐強く映画的な技巧を物語っている。ヘリオスの魅力は、モダニズム的で控えめでありながら、鮮やかで立体的な楽曲を作曲していることだ。



ケニフは、各曲は全体にとって不可欠なものだと考えている。「もしひとつを取り出したら、本から1ページを切り取るようなものだ」と彼は言うが、それでもなお、一連の自己完結した叙事詩のように独立して機能している。「All The While]」は、この意図を最もよく表している。共鳴するドラムのシークエンスで構成された3つのパートからなる曲だ。最初にシンセサイザーのきらめく音が現れ、次に牧歌的なギターとピアノのたゆたうような音が現れ、最後に収束してエーテルの中に消えていく。



20年近い歳月を経て、ケニフは特徴的なゆっくりとした感情の弧を描き出す手法をマスターした。アルバムの発表と同時にリード曲として公開された「Lineoa」は、シンプルなギター・フレーズから完全にシンフォニックなクライマックス・シーンへと花開く。

 

好奇心旺盛な彼は、「A Familiar Place」でのしなやかなフルートや、「Emeralds」での神々しくデジタル化されたヴォーカルなど、アルバム全体に新しいサウンドを導入している。このようなプロダクションの選択により、ヘリオス・プロジェクトは、たとえアーティスト自身がプライベートな存在であったとしても、背景の中に引っ込んでしまうことはなく、彼が活躍するアンビエントな空間は、しばしば私たちの生活における他の活動と独特に結びついている。『Espera』でのケニフは、プロデューサーでありマルチ・インストゥルメンタリストであり、豊かなディテールに傾倒している。

 

「Lineoa」



Helios 『Espera』


Label: Ghostly International

Release: 2023/8/11

 

Tracklist:

 

1.Fainted Flag

2.Interwine

3.All The While

4.Every Time

5.Impossible Valley

6.Lineoa

7.A familiar Place

8.Lowland

9.Well Within

10.Rounds

 



Glastonbury Festival 2023が6月23日から本日まで開催中です。ピルトンと、その六マイル先にある小さな街、グラストンベリーの間にある”Worthy Farm”にて例年開催されるイギリス最大級のライブ・イベントです。今年は、チケット価格が上昇したものの、販売から数時間後にソールドアウトとなった。3日間のヘッドライナーについては、アークティック・モンキーズ、ガンズ・アンド・ローゼズが抜擢され、最終日はエルトン・ジョンが大トリを務め、このフェスを締めくくる予定です。ライブ開始前には、専用の運搬車で、巨大なミラーボールのような装置が運搬されていました。23日には、主催者代表のエミリー・イーヴィスがカウントダウンを行い、農場への扉が開門された。この会場時の模様は、NMEがインタビュー映像として公開しています。

 

シェフィールドのロックバンド、アークティック・モンキーズのボーカル、アレックス・ターナーが公演前に喉を痛めたという報道がありました。これに関して主催者代表のエミリー・イーヴィスは当初、楽観的な意見を示していた。次なるプランを用意し、もしアークティック・モンキーズの出演がキャンセルとなった場合、二日目のフー・ファイターズの出演を前日に早める予定でした。結果的に、アークティック・モンキーズは初日のステージに姿を表し、多数の国旗がはためく中、刺激的なパフォーマンスを行いました。もちろん、そのセットリストの中には、昨年、多数のメディアがベストリストに選出した『The Car』の楽曲も含まれていた。

 

現在のところ、BBCがこのライブステージの一部を公開しており、随時、更新中です。下記に注目のパフォーマンスをピックアップしていきますが、Youtubeの方もチェックしてみてください。



Arctic Monkeys



 イギリスの最大級のフェスティバルの初日のトリを飾ったバンドは、アークティック・モンキーズ。新旧の代表曲を織り交ぜたセットリストを組み、多数の音楽ファンを熱狂させています。

 

デビュー・アルバムの名曲「I Bet You Look Good on the Dancefloor」、2ndアルバムの代表曲「Brainstorm」「Fluorescent Adolescent」「Teddy Picker」はもちろん、活動The 中期を代表する名作アルバム『AM』の「Do I Wanna Know?」「R U Mine?」もセットリストに取り入れられています。

 

最新アルバム『The Car』からは、「There'd Better Be a Mirrorball」「Body Paint」「Sculptures of Anything Goes」がピックアップ。途中、ブラック・サバスの「War Ping」のカバーを取り入れ、全キャリアを総括するセットリストを組み、多数のファンを魅了しました。ステージの中央には、巨大な球状のモニターが出現し、パフォーマンスの模様が流された。バンドは一昨日、ステージを後にし、25日にはグラスゴーのフェスティバルに出演しています。彼らのミュージシャンとしてのプロフェッショナリティーには本当に脱帽します。

 

「R U Mine」

 「Body Paint」


 

Setlist:

 

Sculptures of Anything Goes 

Brianstorm 

Snap Out of It 

Don't Sit Down 'Cause I've Moved Your Chair 

Crying Lightning

Teddy Picker

Cornerstone
(Followed by piano interlude) 

Why'd You Only Call Me When You're High?

Arabella 


(Black Sabbath's "War Pigs" outro) 


Four Out of Five 

Pretty Visitors (Key change in the outro) 

Fluorescent Adolescent

Perfect Sense

Do I Wanna Know? 

Mardy Bum 

There'd Better Be a Mirrorball 

505 (with James Ford) (New arrangement) 

Body Paint (with James Ford) (Extended outro) 


Encore:

 
I Wanna Be Yours 

(John Cooper Clarke cover) (Star Treatment lyrics with… more ) 

I Bet You Look Good on the Dancefloor (Finished the previous Star… more )

R U Mine?

 

 

Foo Fighters



デイヴ・グロールを中心とする米国を代表するロックバンド、Foo Fightersは二日目に出演しています。

 

昨年のテイラー・ホーキンスの死後、バンドはしばらく活動を継続するか悩んでいたものの、以前とは変わるかもしれないが、バンドを存続させることを発表しました。後続のドラマーには、ガンズ・アンド・ローゼズ、NIN,オフスプリング、スティングとステージを共にしたジョッシュ・フリーズが抜擢。テイラー・ホーキンスへの追悼作『But Here We Are』は、このバンドの象徴的なサウンドである骨太なロックサウンドに加え、エモーショナルな繊細さも兼ね備える良作でした。また、このアルバムでは、デイヴ・グロールもドラムを叩いています。

 

バンドは、二日目のグラストンベリーのステージでパワフルなアメリカン・ロックサウンドを披露しています。最新アルバムからはオープニング曲「Rescued」がセットリストに組み込まれています。デイヴ・グロールの声量は圧倒的で、まさにフェス級の圧倒的なハードロックサウンドで多数の観客を圧倒しました。 それほど演奏曲の数は多くなかったですが、セットリストの最後では、テイラー・ホーキンスにバンドの最高の名曲「Everlong」が捧げられています。

 

「All My Life」

 

「Rescued」

 

 

「Pretender」

 

「My Hero」

 

Setlist:


All My Life 



No Son of Mine 
(with Metallica's "Enter… more )

Learn to Fly

Rescued

The Pretender

My Hero 
(“I’ll make it short, they… more ) 
7. Show Me How 
(with Violet Grohl) 

(Preceded by band… more ) 


Best of You 



Everlong 
(dedicated to Taylor Hawkins) 




Manekskin



イタリアのロックバンド、マネスキンも、グラストンベリーの二日目のウッドサイドステージに出演しています。

 

マネスキンは今年、世界初デビュー作となるアルバム「RUSH!」を発表しました。基本的にはハードロックサウンドというように捉えられがちな場合もあるようですが、このステージを見る限りでは、ボーカルのダミアーノ・デビッドはラップ調のノリで、軽快なステージを披露しています。毎度、クイアネス主張を交えた過激なコスチュームでステージに登場するヴィクトリアは、今回、ヴェルヴェット調のゴージャスなドレス姿でベースを演奏しています。ギター・ソロでは白熱した瞬間が見られ、強いエナジーとスパークがステージに生み出され、多数の観客の激しい熱狂を湧き起こしている。音源とは異なる形でバンドの本来の魅力が伝わってきます。


「I Wanna Be Your Slave」

 

 

 

Setlist:

 

DON'T WANNA SLEEP 

GOSSIP

ZITTI E BUONI

OWN MY MIND

BLA BLA BLA

BABY SAID

Beggin'
(The Four Seasons cover)

FOR YOUR LOVE

GASOLINE
(Extended intro)

I WANNA BE YOUR SLAVE

MAMMAMIA

KOOL KIDS

 

 

Manic Street Preachers


 

ウェールズ出身のロックバンド、マニック・ストリート・プリーチャーズもグラストンベリーに出演しています。ブリット・ポップのムーブメントの一角を担ったバンドは、昨年「Know Your Enemy」のデラックス・バージョンを発売しました。

 

遡ること、1994年、彼らは「この田舎の上にバイパスを作ろうぜ」と呼びかけて、物議を醸したこともあったそうです。しかし、1999年にピラミッド・ステージでヘッドライナーを務めて以来、2003年、2007年、2014年にも再びヘッドライナーを務めており、2020年にはパーク・ステージでヘッドライナーを務める予定だったが、パンデミックの影響でそれも立ち消えとなった。今年、バンドはPyramid Stageではなく、Other Stageの二日目に出演しています。

 

ニッキー・ワイヤーによるタイトなベースラインと、ショーン・ムーアによるヴァレー出身の最高のドラミングを武器に、ステージではスタンダードなロックソングを披露し、全盛期に引けを取らない素晴らしいパフォーマンスによって多数の観客を魅了しています。セットリストの途中では、代表曲のひとつ「Die in the Summertime」をリッチー・エドワーズに捧げています。

 

当然のことながら、彼らのステージではウェールズのドラゴンの国旗が観客の間にはためいていますね。

 

 


Setlist:

 

Motorcycle Emptiness 

1985 

Everything Must Go 

You Stole the Sun From My Heart

Die in the Summertime
(Dedicated to Richey Edwards) 

Your Love Alone Is Not Enough
(with The Anchoress) 

This Is Yesterday 

(with The Anchoress) (on lead vocals)
A Design for Life

La Tristesse Durera (Scream to a Sigh)
(Acoustic)

Faster

Walk Me to the Bridge

You Love Us 

If You Tolerate This Your Children Will Be Next



Warpaint



Warpaintは、ロサンゼルスを拠点とする実験的なアート・ロック・グループ。メンバーは、ジェニー・リー・リンドバーグ (ボーカル/ベース)、エミリー・コカル (ボーカル/ギター)、テレサ・ワイマン (ボーカル/ギター)、ステラ・モズガワ (ドラム/キーボード)の4人で、全員が女性です。

 

バンドは2014年にもグラストンベリーに出演しており、9年ぶりのカムバックを果たした。インディーロックバンドではありながら、チルアウト風のシンセのメロディーラインと渋さのあるベースライン、ジェニー・リンドバーグのボーカルとコーラスワークには哀愁が漂っている。ライブの終盤では、Fugaziの「I'm So Tired」をカバーし、パンクからの影響を公言する形となりました。昨年、Warpaintは、最新作『Radiate Like This』をVirgin Musicより発売しました。

 

 

 「Champion」

 

 

 

Setlist:

 

Champion

Undertow  

Hips 

Bees 

Hard to Tell You 

Love Is to Die 

Krimson 

Whiteout 

I'm So Tired
(Fugazi cover) 

New Song 

Disco//Very 



Guns N' Roses

 


グラストンベリーの二日目のヘッドライナーを務めたのは、ハリウッド出身の伝説的なハードロックバンド、Guns N' Roses。昨年、さいたまスーパーアリーナで久しぶりの公演を行ったことは記憶に新しい。

 

賛否両論を巻き起こした『Chinese Democracy』以降、決定的なスタジオ録音こそリリースしていませんが、昨年のライブの評判は良かった印象もある。

 

今回、二日目の大トリを任されたガンズは、名作『Appetite For Destruction』の収録曲を中心に、Stoogesのカバーを交え、圧巻の25曲の新旧のセットリストを組んでいます。ダフ・マッケイガンとアクセル・ローズがともにマイクに向かって歌う瞬間は、バンドの長い紆余曲折を知るファンにとっては感涙もの。イジー、スラッシュの華麗なギタープレイも健在です。スタジオ録音の新作も待ち望まれます。GN'Rは、グラストンベリーのヘッドライナーを務めた後、アークティック・モンキーズと同じ日程をたどり、スコットランドのフェスに向かっています。

 

「Paradise City」 

 

 

 

Setlist:


Intro

It's So Easy 

Bad Obsession 

Chinese Democracy

Slither
(Velvet Revolver cover) 

Welcome to the Jungle 

Mr. Brownstone 

Pretty Tied Up 

Double Talkin' Jive
Estranged 

Live and Let Die (Wings cover)  

Reckless Life 

T.V. Eye (The Stooges cover) (Duff on vocals) 

Down on the Farm
(UK Subs cover)

Rocket Queen

Absurd  

Civil War
(Jimi Hendrix's "Voodoo Child" outro)

You Could Be Mine
(With band introductions after) 

Slash Guitar Solo 

Sweet Child o' Mine 

November Rain 

Patience 

Hard Skool 

Knockin' on Heaven's Door 

(Bob Dylan cover) (Alice Cooper’s “Only Women Bleed” intro) 

Nightrain 

Paradise City



Lana Del Rey

 

 

今年、最新アルバム『Did You Know That There's Tunnel Under The Ocean Blvd』を発表した米国のシンガー、ラナ・デル・レイのコンサートは、一波乱を巻き起こしました。ザ・ガーディアンの報じたところによれば、アーティストは、30分遅れでステージに登場し、予定していたセットリストを終えられぬまま、一時間でステージを去ることになった。アーティストが話したところによると、出演時の髪のセットに時間を要してしまい、「ごめんなさい、髪が長くなってしまいました。停電しても、そのまま進みましょう」と観客に対して弁解したのだった。

 

ザ・ガーディアンは、アークティック・モンキーズのパフォーマンスに対して、3/5と厳しい評価を下したが、ラナ・デル・レイには5/5をつけています。パフォーマンス自体は素晴らしかったようですが、このせいで、ステージは演奏の終了を待たずに、ステージライトがブラック・アウトし、マイクがオフにされたまま、アーティストが話す姿がスクリーンに写しだされました。


デル・レイは、ステージの終盤で、ひざまずき、イヤー・モニターを耳から外し、マイクとビデオがオフになった。マイクがオフの状態のまま、デル・レイが話し続けようとしたため、会場内はブーイングが鳴り響き、一時騒然となったという。これは主催側に、マイクをオンにせよ、というファン側の抗議だったと思われます。その後、マイクがオフのまま、ラナ・デル・レイはステージから降りていき、「サマータイム・サッドネス」を歌ったという。その後、観客とともに、デル・レイは「ビデオ・ゲーム」を歌いはじめた。むしろ、こういったハプニングに見舞われたせいで、この夜は、「ポピュラー・ミュージックの伝説」となった。


「Born To Die」

 

 

 「The Grant」

 
 
 
Setlist:
 
Nature Boy
(Craig Armstrong song) ("God bless you Glastonbury,"… more ) 
 
A&W (Shortened) 

Young and Beautiful

Bartender
(Instrumental interlude;… more ) 

Bartender

The Grants
(Shortened) 

Cherry
(Extended intro)
Pretty When You Cry

Ride Monologue
(Footage compiled from various music videos) 

Ride
(Shortened; new vocals during pre-choruses) 

Born to Die (Shortened) 

Blue Jeans
(Extended intro) 

Norman Fucking Rockwell (Shortened) 

Arcadia
(Shortened) 

Candy Necklace
(Extended intro) 

Ultraviolence
(Extended intro) 

White Mustang
(Extended intro & outro,… more ) 
 
 
 
 Rina Sawayama
 


ラナ・デル・レイとは別に、もう一人、「グラストンベリー騒動」を巻き起こしたアーティストがいます。TikTokでの発売前の新曲のリークなどを見るかぎりでは、予想できたことであるが、リナ・サワヤマがグラストンベリー・フェスティバル・オブ・パフォーミング・アーツでのセット中、ザ・1975のマティ・ヒーリーの名を呼び、彼を罵倒したことで論争をもたらした。


以前から、ステージで歯に絹着せぬ物言いをすることで知られている彼女ではありますが、今回、たまりかねたようにヒーリーの差別主義に言及したのです。「今夜は、Ghetto Gaggersを見て、ポッド・キャストでアジア人を馬鹿にしている白人に捧げます」と、リナ・サワヤマは自身の曲「STFU!」の紹介時に言い放った。「彼は私のマスターも所有している。もうたくさん!!」

 
実際のパフォーマンスは、バックダンサーを交えたマジック・ショーに近い演出が行われた。これが大掛かりなステージでのライブを予期しているのかどうかはわからないものの、ステージの演出については、NFLのスーパーボウルのハーフタイム・ショーを彷彿とさせるものがあります。リナ・サワヤマは、ライブの途中で衣装を変え、ロック/メタルを意識したシアトリカルなライブ・パフォーマンスを行いました。ライブのセットリストは、Charlie XCXのカバーを交え、最新作『Hold The Girl」を中心に、それほど大きな波乱もなく13曲が演奏されました。



 「XS」
 
 

「This Hell」

 

 

Setlist:

 

Hold the Girl 

Hurricanes

Dynasty

Akasaka Sad

Imagining


STFU!
(Calls out Matty Healy from… more ) 

Frankenstein 

Bad Friend 

Beg for You
(Charli XCX cover)

LUCID 

Comme des garçons (Like the Boys)
((with “Bad Girls” by Donna… more )

XS 

Interlude
(On stage costume change,… more ) 

This Hell
(extended version with call and response breakdown) 

Outro
(‘This Hell’ with band introductions) 



Queens Of The Stone Age

 


『In Times New Roma...』を発売したばかりのQueens Of The Stone Ageは、Other Stageの最終日のヘッドライナーを任され、堂々たるパフォーマンスを行い、このステージの有終の美を飾りました。

 

これまでグランジの後の世代のロックシーンをストーナー・ロックの雄として牽引し、数多くのアンセムソングを残してきたQOTSA。

 

彼らの演奏は、その名に恥じぬもので、観客の中にモッシュピットを巻き起こし、純粋なロックの熱さを呼び起こすことに成功した。彼らの代表曲「No One Knows」の安定感のあるパフォーマンスは、未だに彼らの人気が世界的に高く、彼らのロックサウンドが時代に全然古びていないことを証明しています。フロントマンのジョッシュ・オムの佇まいもワイルドでかっこいい。バンドは、新旧のセットリストを織り交ぜながら、最新アルバムに収録されている「Paper Machute」を中心に15曲を演奏し、重厚感のあるパフォーマンスで観客を魅了しました。

 

バンドはグラストンベリーのヘッドライナーを務めた後、28日にデンマークのフェスティバルに出演します。

 

「No One Knows」

 

 

Setlist:

 

Go With the Flow 

The Lost Art of Keeping a Secret 

My God Is the Sun 

Smooth Sailing 

Little Sister 

If I Had a Tail 

Paper Machete 

The Evil Has Landed 

Make It Wit Chu
(With Rolling Stones' "Miss You" interlude) 

Carnavoyeur 

The Way You Used to Do 

In the Fade
(Extended intro. Dedicated to Mark Lanegan) 

God Is in the Radio 

No One Knows
(Josh gets crowd to sing intro) 

A Song for the Dead



Elton John



3日間にわたって音楽ファンを熱狂させてきたグラストンベリー・フェスティバルは25日夜(現地時間)に大団円を迎えました。例年、メインの会場であるピラミッド・ステージの最終日のヘッドライナーを務めるのは、イギリスのミュージシャンの中でも伝説的な存在に限られます。

 

昨年、最終日のヘッドライナーにはポール・マッカートニーが抜擢され、圧巻のパフォーマンスを行った。今年、マッカートニーは、フー・ファイターズとプリテンダーズの出演時に、ステージ横と、看板の前で複数の観客に目撃され、彼らのステージにゲストとして出演するのではないかとの噂もあった。今年の最終日のヘッドライナーを任されたのは、イギリスの伝説的なソングライター、エルトン・ジョン。ここには、主催者側の意図も少なからず読み取る事もできます。昨年、デビューしたYard Actとのコラボレーションも話題を呼んだエルトン・ジョンですが、貫禄の、あるいは圧巻のパフォーマンスを観客の前で披露したといっていいでしょう。

 

エルトン・ジョンは現在76歳で、彼は「この出演が本国での最後のライブになる」と明かしています。ライブには、ブリトニー・スピアーズ、デュア・リパ、ハリー・スタイルズといったセレブリティーをゲストに迎えるとの噂もあった。実際、ブリストルの空港でブリトニーの目撃情報の噂もあった。

 

ポピュラー・ミュージックの伝説的な存在、エルトン・ジョンを見るべく、10万人以上の観客が最終日のピラミッド・ステージに詰めかけ、彼の勇姿をその目で見届けようとした。観客には、歌手と同じような、スパンコール風のキラキラした衣装姿で、ライブを見届けようとするファンの姿も見られた。また、会場の物販では、歌手のグッズが販売され、彼の衣装の代名詞であるスパンコール風の衣装、カウボーイ・ハット、ノベルティ・グラス等が小売店に並べられた。

 

エルトン・ジョンのコンサートは、このシンガーソングライターの代名詞ーーピアノの前に座っての弾き語りーーというクラシックなスタイルで行われ、それは実際、多くのファンの熱狂を呼び起こしました。一方で、スターのゲスト出演を期待していたファンにとっては、少なからずの失望をもたらすことになりました。実際、ステージにゲストとして登場したのは、リナ・サワヤマ、ジェイコブ・ラスク、スティーヴン・サンチェスといったアーティスト。これが上記のセレブ・アーティストが出演すると期待していたファンにとっては少し不満だったようです。

 

昨年、ポール・マッカートニーのステージでは、USロックのボス、ブルース・スプリングスティーンと、Foo Fightersのデイヴ・グロールが登場し、豪華なコラボレーションを行いました。昨年に比べると、やや物足りなさが残るステージだったようです。『Hold The Girl」で有益なアドヴァイスを送られたサワヤマが出演したことを擁護しつつも、「エミネムやビックネームがいても良かったのではないか・・・」と話すファンもいた。ただ、この夜、エルトンは25曲を演奏している。年齢を考えると、ほとんど驚異的なパフォーマンスであったと考えられます。

 

エルトン・ジョンは、グラストンベリーの出番を終え、27日、フランスのコンサートに出演予定です。

 

「Rocket Man」

 

 

 

Setlist:

 

Pinball Wizard
(The Who cover) (First time since 2009)

The Bitch Is Back 

Bennie and the Jets 

Daniel 

Goodbye Yellow Brick Road 

I Guess That's Why They Call It the Blues 

Philadelphia Freedom 

Are You Ready for Love
(with Jacob Lusk) (+ London Community Gospel… more ) 

Sad Songs (Say So Much)
(with London Community Gospel Choir) 

Someone Saved My Life Tonight 

Until I Found You
(Stephen Sanchez cover) (with Stephen Sanchez) 

Your Song 

Candle in the Wind
(with video clips of Marilyn… more )

Tiny Dancer
(with Brandon Flowers)

Don't Go Breaking My Heart
(Elton John & Kiki Dee cover) (with Rina Sawayama)

Crocodile Rock 

Saturday Night's Alright for Fighting 

I'm Still Standing

Cold Heart 

Don't Let the Sun Go Down on Me
(Dedicated to George Michael,… more )

Rocket Man (I Think It's Going to Be a Long, Long Time)
 

Weekly Music Feature


M. Ward
 
©︎Jacob Ball


『Supernatural Thing』について、M.ウォードは、「このタイトルは、ラジオが超自然的なものからのメッセージと同じ電波を行き来していると子供の頃に考えたことに由来している」と語っている。「記憶や夢からのメッセージの送受信は、このようにしばしば途切れる波長に沿って動いているかのようだ。この新譜は、『Transistor Radio』の延長線上にあるが、より簡潔で、より多くの声とムードがあり、私の好きなラジオが昔も今もそうであるように、この新譜はより優れている」


M.Wardの超自然的なものを聴きながら、何度か「これは何年だろう? 1952年で、ハリー・スミス・アンソロジーのトラックを聴いているのだろうか? 1972年で、『After the Gold Rush』のレコーディング・セッションをこっそりと聞いているのだろうか? 」というような錯覚に陥らせる。M.Wardは、そのような疑問を抱かせる特別な現代アーティストの一人である。ウォードは、アメリカン・ポピュラー音楽の語彙をマスターし、それを自分の目的のためにどう使うかについて真剣な決断を下そうとしている。ウォードがハリー・スミス、ニール・ヤングといった伝説的なアーティストと共有しようとしているのは、音楽的価値観と人間的価値観の文脈である。リリックの運びには、わずかな生々しさがあり、彼の声には静かな威厳と大きな優しさがある。ようは「Supernatural Thing」は、オープンハートで魅力的なアルバムなのだ。  


ファースト・エイド・キット、ショベルズ&ロープ、スコット・マクミッケン、ネコ・ケース、ジム・ジェイムズなど、アルバムのゲスト・スターたちはアルバムの魅力を最大限に引き立てている。「Too Young to Die」では、スウェーデンのファースト・エイド・キットのソダーバーグ姉妹の麗しい歌声がメロディーに軽やかなフロスティングをかけ、「Engine 5」ではビーチ・ボーイズのような爽やかなコーラスがこの曲を瞬く間にヒットへと導くことだろう。プログラム全体は、パンデミック前のハウスパーティーを彷彿とさせる素敵なオープンハウスのような感覚に満ちている。


エルビス・プレスリーがメッセンジャーとして登場するタイトル曲について、「私の曲はすべて、ある程度夢のイメージに依存している。ただし、パンデミックに関連しているかどうかはわからない」とウォードは語っている。これは彼が "you feel the line is growing thin / between beautiful and strange "と歌っている曲であり、このアルバムの感情的なトーンを巧みに要約している。


ゲスト・アーティスト、ファースト・エイド・キットについては、「ファースト・エイド・キットはストックホルム出身の双子姉妹で、彼女たちが口を開くと何かすごいことが起こる」と彼は説明している。「ストックホルムに行き、数曲レコーディングするのは、スリリングだった。  エヴァリー・ブラザーズ、デルモアズ、ルーヴィンズ、カーターズ、セーデルベルグなど、血のつながったハーモニー・シンガーのヴォーカルはどれも同じようなフィーリングを持っているんだ」


アルバムの全10曲のうち、8曲がウォードのオリジナルである。また、ボウイの曲としては珍しく、『ブラックスター』収録の "I Can't Give Everything Away "とダニエル・ジョンストンの "Story of an Artist "のライブ演奏をカバーしている。「ボウイとジョンストンは、私にとってインスピレーションの源で、何年そうしてきたかわからない」とウォードは語る。ボウイのインストゥルメンタルを聴きながら、昔サンルイス・オビスポで、喫茶店でアコースティック・ソロを弾きながらウォードが "Let's Dance "をとてもスローなバラードとして歌った夜のことが思い出される。


また、このアルバムは、パンデミック時代の暮らしと直結している。ウォードは次のように語った。「外に出て自分の目で見ることができない時代、ラジオは私にとって外の世界とつながる最良の方法だったんだ。音楽であれ、トークであれ、ニュースであれ、政治であれ、FMであれ、AMであれ、衛星放送であれ、パンデミックの時に屋内に取り残された時にそのことを改めて学んだんだ」

 


「Supernatural  Thing」 ANTI-



USパンクのメッカともいえるEpitaphの派生レーベルであるANTI-からこういったリリースがあるのは、非常に感慨深いとともに、かつてはディープなパンクファンであった人間としては、時代の流れを感じさせる。

 

結局、こういったジャンルは、さらにひとつ先へ進むと、より普遍的な音楽の良さ、もしくは、パンクという枠組みにとらわれない自由な音楽へといつかは恋い焦がれるものだ。実際、米国のシンガーソングライター、M.Wardは厳密に言えば、パンクというジャンルからは程遠いが、彼の書く音楽や歌詞の中には、パンクの精神が込められている。かつてコンテンポラリー・フォークがそうだったように、メインカルチャーに対するアンチテーゼも含まれているように思える。フォーク・ミュージックはウディー・ガスリー、ディランの時代から反体制でないことはなかった。しかし、M.Wardは音楽性をかなりマイルドな感じで表現しており、歌手の個人的な興味、すなわち夢の中の出来事や、ラジオに対する関心などきわめて広汎な内容に及んでいる。それらがアメリカーナ、フォーク、ジャズ、オールディーズ、ブルース・ロック、トロピカルミュージックが渾然一体となり、多彩な音楽がこのアルバムに通底している。

 

このアルバムは、1999年から、およそ24年にも及ぶ、M.Wardの人生の背景が反映されているとも解釈出来る。そして、彼の音楽に真摯に耳を傾けるならば、制作者のバックグランドが、実際の音楽を通じておのずと目の裏に浮かんでくる。それは、世間が言うところの甘さや華やかさといった類いのものではない。人生の辛酸を味わったものだけが納得することが出来る、あの渋みや苦味なのである。M.Wardの音楽が称賛するものは、必ずしも、一般的にいう世間的な成功や美事とは程遠いかもしれない。しかし、ある意味では、わたしたちはそういった世間的な成功や美事を目指すものだと誰かから教わってきた。でも、それは本当なのか、本当にそうだったのだろうか? 

 

M.Wardの音楽と歌詞には、渋さと深い情感が漂っている。それは世界を見渡した際に、必ずしも脚光を浴びるとは限らぬ人々への大いなる愛の讃歌ともなっている。もちろん、それは現状の厳しい環境や苦悩そのものに甘んじている人々に、ある種の人生の苦さと、その人生を愛することの重要性を思い出させてくれるだろう。すべての人間が、世間でいう成功や栄光を掴むことはできない。ある意味では、敗残者がいるからこそ、その対極に成功者が存在するといえる。誰かが諦めたからこそ、その場に残ることが出来る人もいる。しかしこの音楽は、世間的な成功とは別の幸福を、アーティストなりのやりかたを通じて探し求めようというのだ。幸福の本当の意味はなんなのだろう。M.Wardは多分それを知っている。そのことはアルバムを聴いていくと、最後になってだんだんわかってくるはずなのだ。M.Wardの音楽の素晴らしさは、つまり、報われぬ人へ脚光を投げかけようということである。それはかつてのボブ・ディランやトム・ウェイツといった伝説的なアメリカのシンガーソングライターとまったく一緒なのである。

 

オープニング曲「lifeline」は、コンテンポラリー・フォークやカントリー、ブルース・ロックの雰囲気を交えてフレンドリーな感じで始まる。最も軽快な一曲で、このアルバムは幕を開けるが、M.Wardによるアコースティックギターの演奏と淡々と歌われる彼の声の渋さは何物にも代えがたい。彼は、ギターを介して、人生の渋みや感慨を丹念に歌いこむ。それはディランや、ニール・ヤングの米国の古き良きフォーク・ミュージックの系譜にあるもので、彼はこの偉大な国土に生きることを最大限に賛美しようというのである。現代のリスナーにとっては少し懐古的にも聞こえるかもしれないが、しかし、よくこの音楽に耳を澄ましてみていただきたい。M.Wardの探し求めようというのは、普遍的なアメリカのポピュラー・ミュージックの姿なのだ。  

 

 「too young to die」

 

 

続いて、スウェーデンの双子のフォークデュオ、First Aid Kitがゲストボーカルとして参加した「too young to die」もタイトルからして、往年の米国のポップスやフォーク/カントリーへのリスペクトが示されている。軽快なM.Wardのアコースティックギターに、ファースト・エイド・キットの姉妹のボーカルが心地よく乗せられる。イントロは、教会の聖歌の神への宣誓への一節のように同じ音程が歌われるが、その後の次いで爽やかに繰り広げられる姉妹デュオの美しいボーカルは、じんわりとした心地よさを与えてくれる。ここには、70年代の音楽をこよなく愛するFirst Aid Kitの楽曲の深い理解と彼女たちの歌唱力が、2020年代のフォーク・トレンドを生み出したと言える。M.Wardは、時に、拳を効かせながら、それらのボーカルに呼応するように渋みのあるボーカルで合いの手を入れる。コラボレーターの相性の良さと、互いの敬愛がこういった調和的な美しさを持つフォークミュージックを生み出したのだろう。楽曲は、草原を駆け巡る風のように緩やかに、そして流れるように展開されるが、特に、曲の終わりにかけてのM. WardとFirst Aid Kitの「too young to die」というフレーズの掛け合いには甘美的な雰囲気すら漂う。


続く「Supernatural Thing」は、アーティストのラジオに対するミステリアスな興味を表すようなトラックである。現実世界でのシリアスな出来事と、夢の中でのロマンティックな出来事が絶えず交錯している。ボブ・ディラン、ジョージ・ハリスン、ルー・リード、トム・ペティ、ポール・ウェスターバーグに代表される、古き良きブルース・ロックを基調とするこの楽曲の全体には、この歌手の人生を反映した哀愁やペーソスがほのかに漂っている。アーティストは、夢の中でロックの王様のエルヴィス・プレスリーに出会い、「You Can Go Anywhere You Please - 君はどこへだっていける」と素敵なメーセージを告げられる。M. Wardは、単調と長調の合間を絶えず行き交いながら、コードのうねりを作り出すことによって、この曲全体に渋さと切なさを与えている。 パンデミック時代の厳しい現実と、それと相反するウェスタン時代のロマンチシズムがその根底には揺曳している。これらの旧時代と新時代の不確かな波間を絶えず行き来するような奇妙な感覚やエモーションは、ブルースを基調にしたフックのあるギター・ソロだったり、あるいは、M.Wardのコーラスの多重録音によって段階的に高められていく。曲のタイトルを歌った「Supernatural Thing - 超自然的なもの」というフレーズは、シュールな印象を与えるとともに、アルバム全体を俯瞰してみた際に、鮮やかな印象を聞き手の脳裏に残すことだろう。 

 

 「Supernatural Thing」

 

「New Kerrang」では、スタンダードなブルース・ロックの方向性を推し進めていく。タイトルが英国最高峰のメタル雑誌に因むものなのかは分からないものの、トム・ペティやチャック・ベリー、ボ・ディドリー、エルヴィス・プレスリーといったレジェンドを彷彿とさせるプリミティヴな60年代のロックンロールへと回帰し、聞き手の耳を喜ばせる。Scott McMicken and The Ever-Expandigのゲスト参加は、Robyn Hitchcockのようなカルト的な意義をもたらす。M.Wardは、''踊りのための大衆音楽''として台頭した、人種や年代を問わないロックの原初的な魅力に再度脚光を当てようとしている。また、ブルースのスケールを取り入れた進行にも着目しておきたい。


『Supernatural Thing』の音楽の魅力は、ブルースやロック、フォーク/カントリー、アメリカーナだけにとどまらない。M.Wardはそれと同年代にあるブロードウェイ・ミュージカルやキャバレーの時代へと入り込んでいく。「dedication hour」はタイトルが示す通り、20世紀初頭のニューヨークやニューオリンズのカルチャーへのアーティストの献身が示唆されている。ピアノのイントロから続いて、オールディーズやジャズに近い雰囲気へと移行する瞬間については、筆舌に尽くしがたい。ムードたっぷりのメロウな音階に加えて、女性コーラスを背後に、M. Wardは甘美的なボーカルの真骨頂を提示している。フランク・シナトラやルイ・アームストロング、エラ・フィッツジェラルドといったレジェンドを彷彿とさせるブルー・ジャズを基調した曲調は、華美なニューヨーク・キャバレーの雰囲気に包まれ、弦楽器のトレモロやピアノのフレーズにより、その雰囲気は徐々に盛り上げられていく。M.Wardは、20世紀初頭の人物であるかのように、この曲で振る舞い、甘美的なフレーズをうっとり歌い上げている。曲の終盤にかけてのドゥワップやブルージャズをもとにしたコーラスは、アルバムの最高の瞬間を捉えている。

 

その後、ロックやフォーク/カントリーの要素とは別に、もうひとつの主要な音楽性となるスタンダードなジャズに対する親和性も、このアルバムの一番の魅力に挙げられるだろう。ボウイのインストゥルメンタル・カバーである「i Can't Give Anything」では、タイトルからも分かる通り、アーティスト(ボウイ)の少し情けない一面が示されており、親しみを覚えることが出来る。トランペットの鋭いスタッカートの後に芳醇なレガートが続いているが、その後、モノクロ映画のワンシーンのようなノスタルジア溢れるコーラスが曲の雰囲気を支配している。ドラムとギター、トランペットが渾然一体となり、ジャズの気配を強化する。こういったノスタルジックな音楽のアプローチは、Father John MistyやAngel Olsenの最新アルバムでも見受けられたもので、米国の現代的なポピュラー音楽の一つの形式となっていきそうな気配もある。古き良き時代の伝統性と、その文化が持つ美しさを継承しようというアーティストの切なる思いがこの曲に込められており、そして、それは、Father John MistyやAngel Olsenのアルバムにあるようなノルタルジアを求めるリスナーにとって、この上ない至福の瞬間をもたらすものと思われる。

 

2曲目の「too young to die」に続いて、スウェーデンの姉妹フォークデュオ、First Aid Kitは7曲目の「engine 5」でもゲストボーカルとして素晴らしい貢献を果たしている。この曲は、それほどモダンなポピュラー・ソングとは言えないにせよ、その一方で、ソダーバーグ姉妹のボーカルは奇妙な新鮮味をもたらしている。少なくとも、ハイパーポップともエクスペリメンタルポップとも異なり、自然なロック/ポップを原型にしたスタンダードなナンバーであるが、フォーク/カントリーに根ざしたアコースティック・ギターのストロークは、この曲にダンス・ミュージックに近いグルーブやビートをもたらし、聞き手を心をほんわかさせてくれる。ここには、アルバムの序盤と同じように、人生の悲哀や苦悩に近い感慨も率直に込められているが、その奇妙な感覚が、聞き手にある種の癒やしの瞬間をもたらし、普遍的なロック/ポップの良さを追求する両者の才覚が劇的なスパークを果たしている。ここでも、三人のミュージシャンは、現代的な苦悩を認めつつも、旧時代のラジオのような領域へと逃避場を設けるかのように潜りこんでいく。そしてそれは清らかな一滴の雫のような感覚を生み出し、わずかな清涼感をもたらす。

 

アルバムの終盤に差し掛かると、M.Wardの趣味に根ざしたコアなポピュラー音楽の色合いが強まる。ジョン・レノンが早逝したため、書かなかった/書くことができなかった類のロック・ミュージックを「mr.dixon」で踏襲している。ここには、サイケロック時代へのアーティストの憧れが感じられる。シンセへの深い興味を交え、シンセロックにも近い展開は、最後になると混沌とした瞬間を生み出す。M.Wardは、聞き手の時代感覚を狂わせ、音楽に対して恋い焦がれるような感覚を表そうとしている。また、この曲の最後では、ブルース・ロックの精髄へと迫ろうとする。ゲイリー・ムーアを始めとする渋いブルースギタリストの系譜にある一曲である。

 

その後、アルバムは急展開を見せ、映画のサウンドトラックに近いストーリー性を交えてクライマックスへと近づいていく。


続いて、「for good」には、アーティストのバラードソングの作曲の才能が華々しく開花した瞬間を見出せる。ここにはM.Wardの内省的なフォーク・ミュージックがアーティストのブルースへの親和性を感じさせるコード進行へと繋がっていく。曲の途中から導入される管楽器の響きとブルースのスケールは、最終的にはハワイアンのようなトロピカル・ミュージックへと繋がっていき、チルアウトに近いリラックス感をもたらす。アウトロにかけての海のさざなみのサンプリングは、夕陽を眺めつつ浜辺のパラソルの下で寝そべるような安らいだ感覚に満ちている。

 

アルバムの最後に収録されているダニエル・ジョンストンのカバー曲「story of an artist」は、ジョンストンがみずからの人生を映画の登場人物のように歌った一曲で、またそれは多くの人への愛の讃歌代わりでもある。自らの人生をあらためて回想するかのような和らいだ内省的なフォーク・ミュージックは、カバーという形ではありながら、M.Wardの24年のキャリアを総括するとともに、彼のアーティストとしての心情を虚心坦懐に打ち明けたものとなっている。それは傷ついた心を癒やし、傷んだ心のある種の慰みを与える。それほど大きな抑揚や起伏に富んだ展開こそないものの、M.Wardのギターの進行とヴォーカルのフレーズは一定の音域の間をきわどい感じで淡々と彷徨っている。そこには、派手な上昇もなければ、派手な下降もない。そして、多くの人々の人生を見るかぎりでは、世界のすべての人に映画のような人生の大きな上昇があるわけでもなければ、大きな下降があるわけでもない。しかし、そういった何気ない日常の連続は、ここ数年で、奇妙な形で破壊され、阻害され、変化してしまった。関連するとまでは明言こそしていないが、M.Wardは、きわめて間接的なかたちで、そういった現代の多数の人々の人生の浮き沈みを直視し、それを最後の曲や作品全体を通じて真摯に描出しようと試みている。いうまでもなく、みずからの得意とするフォーク/カントリーによってである。

 

クローズ曲では、『アラビアンナイト』のようなメタ構造が取り入れられ、イントロとアウトロのコンサートの観客の拍手喝采を通して、『Supernatural Thing』は幕引きを迎え、彼が数年をかけて構想した夢は終わりを迎える。最後になって沸き起こるミュージシャンに対する観客の拍手は、とりも直さず、アルバムを体験する人々すべてに捧げられる美しい賞賛を意味している。M.Wardは、デヴィッド・ボウイのカバー曲を含むアルバムを通して、夢と現実の狭間をクロスオーバーしようとしている。しかし、こういったラジオの混線のような現実と非現実が入り交ざったような奇異な感覚は、誰しも一度くらいは体験したことがあるものだ。そう考えると、ここ数年間、わたしたちが生きてきた不確かな日常もまた、本作で描かれるような、現実と非現実が奇妙に入り交ざった『Supernatural Thing』とすぐ隣り合わせだったのかもしれない。

 

 

95/100



Weekend Featured Track「Dedication Hour」



M.Ward -『Supernatural Thing』はANTI-より発売中。

 Maisie Peters -『The Good Witch』

 

Label: Warner Bros.

Release: 2023/6/24



Review


結局、アルバムの発売日というのは大局的に見ると、売上を大きく左右する場合がある。レーベル側の売り込みの定石としては、話題のイベント開催と重ならないように慎重にリリース日を選ぶということに尽きる。去年もそうだったが、現地の音楽メディアのプレス・ルームが、音楽フェスティバルが開催される日には空っぽになり、メールなどを送っても連絡がつかなくなる場合が多い。 


今年、来日公演も行ったブライトンのシンガーソングライター、メイジ−・ピーターズはグラストンベリー・フェスティバルの初日に、ニューアルバム『The Good Witch』の発売日を合わせてきたわけだが、これはレーベルが相当この作品によほど自信があるか、もしくは発売日に無頓着であるかのどちらかである。もちろん後者については考えづらいので、他のアーティストのリリースが先延ばしにされる日を見計らい、前者の奇策を打ったのが、アルバムの宣伝の意図とも推測される。

 

そして、世界有数の巨大レーベルの奇策はそれなりに成功を収めるかもしれない。もちろん、イギリスの全ての音楽ファンがグラストンベリーに参加出来るわけではない。このフェスティバルはチケット発売日から数時間後にソールドアウトとなった。チケットが取れずに、夜な夜な枕を濡らした音楽ファンも少なくはない。つまり、メイジー・ピーターズの新作はグラストンベリーに参加できなかったポップスファンの心を慰め、フェスティバル級の楽しみを与えてくれるはずだ。

 

アーティストはポップネスに欠かさざる清涼感溢れる音楽で、ミュージック・シーンに清新な風を巻き起こそうとしている。アルバムには、アーティスト自身の恋愛観などを絡めながら、「Good Witch-良き魔女」として振る舞おうとするポップスターの姿を捉えることが出来る。スタジアムでのライブを意識したアンセミックなポップナンバーの数々は、ポップミュージックファンの最低限の要求に応えるもので、もしかすると、それ以上の至福の瞬間を与えてくれる可能性もある。前2作では、甘酸っぱいキャンディー・ポップとも称すべき音楽性を提示していたメイジー・ピーターズだったが、三作目では、さらにオープンハートな曲作りが行われている。メイジ−・ピーターズは、UKポップスのトレンドを踏襲し、旧来のアヴリル・ラヴィーンの名曲のようにロックのテイストを交えた王道のポピュラー・ミュージックを展開する。表向きには親しみやすさを意識してはいるが、聴き応えがあるため一度聴いて飽きるような作品ではない。どころか何度も聞き返したくなるような中毒性もあるように思えるが、これはアーティストの音楽に対する強い愛情がこれらの収録曲に余すところなく込められているがゆえなのだ。

 

特に、前2作に比べて、昨年ヒットを記録したサワヤマの音楽性を少なからず意識したダイナミックなポップスナンバーがずらりと並んでいる。ナイーブさとパワフルさが混在する絶妙なポップスの数々である。もちろん、Tiktokのように、一曲だけ取り出して気軽に楽しんでみるのもいいだろうし、アルバムを購入し、最初から最後までじっくりと聴いてみてもいい。聞き方を選ばない自由なモダン・ポップという面では、昨年のサワヤマの最新作「Hold The Girl」に近いものがある。リナ・サワヤマは、昨年の最新作において、ハイパーポップの理想的な形を提示したのだったが、ポップスの中にエヴァネッセンスのメタリックな要素や、フックの効いたロックないしはフォーク・ミュージックの要素を絶妙に織り交ぜることで、最高傑作を生み出した。


メイジー・ピーターズも、その成功例に倣い、ポップスの中に複数のジャンルを織り交ぜ、強いスパイスを加えることに成功している。シンガーソングライターの作曲における試行錯誤の成果が、「Body Better」、「Lost The Breakup」、「Therapy」といったハイライト曲に顕著な形で現れている。これらの曲は、ラムネ・ソーダを飲み干すときの爽快感があり、青春の甘酸っぱい雰囲気に溢れている。曲の構成もすごくわかりやすく、サビに近いフレーズもあるので、それほど洋楽に詳しくないJ-Popのリスナーにも強烈にプッシュしておきたい。

 

スタジアム級のダイナミックなポップスの楽曲群に加えて、終盤の収録曲では多彩な音楽性を織り交ぜて新たなチャレンジをしている。「Run」では、グライムなどをはじめとするUKのクラブミュージックを基調にしたポップスに、さらに、「Two Weeks Ago」では、シャナイア・トゥエインを彷彿とさせるフォーク・ミュージックに取り組み、さらに「History Of Man」では、しっとりとしたバラード・ソングにも取り組んでいる。


表向きのガーリーなイメージとは別の大人の雰囲気を交えたバラードは、アーティストが「良き魔女」に変身した瞬間だ。これらの多彩な音楽性は、以前の作風にはなかった要素で、アーティストがシンガーソングライターとしての次なるステップに歩みを進めた証でもある。本作の音楽性には、まだ見ぬソングライターとしての潜在的な可能性が秘められている。ブライトンのメイジー・ピーターズは、世界的なポップ・スターへの階段を着実に駆け上っている最中なのである。

 

  

86/100

 

 

 Featured Track 「Lost The Breakup」

 


ストームジーは、イギリス/ウェストロンドン出身のラッパー、Fredo(フレド)をフィーチャーし、デイヴことサンタンをプロデュースに迎えた新曲「Toxic Trait」を発表した。昨年12月に3作連続で1位を獲得したアルバム『This Is What I Mean』に続くニューシングルで、UKドリルの新機軸を示している。


このシングルには、イギリス人ディレクター、フェミ・ラディが監督したビデオが付属しており、社会的な有害特性を探求している。ビデオでは、ギャンブル、暴力、贅沢なライフスタイルへの賛美など、様々な架空のシナリオが描かれている。ムハメッド・アリの1968年のエスクァイア誌の表紙やケヒンデ・ワイリーが描いた絵画「A Ship Of Fools」など、文化的な引用も含まれている。ビデオには、フレドとアリソン・ハモンドのセラピー・シーンがあり、最後はイヴォリアン・ドール、ウレッチ32、スペックス・ゴンザレスが登場するグループ・セッションで締めくくられる。入れ替わり立ち替わりに披露されるリリックのスタイルにも着目したい。


監督のフェミ・ラディはこのミュージックビデオについて、「歌詞を聴いた後、このビデオで楽しみたいと思った。ルネッサンス風の絵画に命を吹き込むというアイディアが気に入ったんだ。このビデオの大部分は、ロンドンで撮影された。高速のシネマ・ロボット・カメラで撮影され、水平方向にも垂直方向にも毎秒2メートルのスピードで動くことができる」と説明している。


昨年には、音楽業界における多様性についての考えを述べたストームジーは、今年に入っても活発な意見を共有している。最近のDazed Magazineのインタビューで、ストームジーは音楽業界における自分の成長を振り返り、「22歳で音楽をやるのと、30歳になろうとしているのとでは違いがある。それは、成熟することでしか得られない平穏と安定と静けさなんだ」と語った。


「Toxic Trait」


8月18日、Cautious Clayはブルーノートからデビュー・アルバム『KARPEH』をリリースする。シンガー・ソングライター、マルチ・インストゥルメンタリスト、プロデューサーとして知られるジョシュア・カルペは、自身のジャズ・ルーツをこれまで以上に深く掘り下げることで、芸術性の新しい一面を明らかにしている。この発表に合わせて、「Ohio」に続く二作目のシングル「Another Half」が公開されている。

 

「Another Half」


マルチインスドゥルメンタリストとして複数の楽器を自由自在に操るCautiousだが、それは常に音楽の物語に奉仕するためである。「物語を語るための音楽でありたかった」と彼は説明する。「このアルバムを通して、私は自分の人生の旅を、家族の過去の人生経験の融合、現在の自分の探求、そして、それらの断片が未来にどのような影響を与えるか、ということと同一視している」


アルバムを3つのセクションでテーマ別に構成し、彼の親族が家族の歴史について語る音声を挿入した。最初のセクションを彼は "The Past Explained "と呼び、アルバムのリード・シングルである「Ohio」を含む、クリーブランドで育った彼の初期の体験に触れた曲を収録している。アルバムの真ん中のセクションは、Cautiousが "The Honeymoon of Exploration "と呼ばれている。


この5曲は彼のサイケデリック体験の一部を描いたもので、自己反省と他者とのより深い親密さの欲求を刺激している。最後の4曲は、コーシャスが "A Bitter & Sweet Solitude "と呼ぶ第3のテーマ・セクションを構成している。孤独の中で充実した時間を過ごすことで、自分自身や他者とのより良い関係を築くことができ、より深い親密さが生まれるというのが、コーシャスの主張である。

 

 アルバム全15曲の中で、ボーカル、フルート、テナー・サックス、ソプラノ・サックス、バス・クラリネット、ギター、シンセサイザー、ベースを聴くことができる。ゲスト参加も豪華だ。

 

ラージ、トランペッターのアンブローズ・アキンムジレ、サックス奏者のイマニュエル・ウィルキンス、ヴィブラフォン奏者のジョエル・ロス、キーボード奏者のジュリアス・ロドリゲス、ベーシストのジョシュア・クランブリー、ドラマーのショーン・リックマンなど、モダン・ジャズ界の重鎮を含む幅広い共演者を招いている。その他、叔父のベーシスト、カイ・エックハルト、高名なパキスタンのヴォーカリスト、アロージ・アフタブらがアルバムに参加している。

 

 

Cautious Clay  『KARPEH』 


Label :Blue Note

Release:2023/8/18


  1. 102 Years of Comedy (Intro)
  2. Fishtown
  3. Ohio
  4. Karpehs Don’t Flinch
  5. The Tide Is My Witness
  6. Take a Half (a Feeling We Chase)
  7. Another Half (with Julian Lage)
  8. Repeat Myself
  9. Glass Face (with Kai Eckhardt & Arooj Aftab)
  10. Walls & a Roof (Interlude)
  11. Unfinished House (with Julian Lage)
  12. Blue Lips (with Julian Lage)
  13. Tears of Fate
  14. Yesterday’s Price (with Immanuel Wilkins and Ambrose Akinmusire)
  15. Moments Stolen

16.Daring Is Caring 

 


Samiaはシングル・シリーズを立ち上げた。このシリーズでは、「Charm You」で幕を開けるBlondshellやMaya Hawkeといったアーティストが、Samiaの最新アルバム「Honey」の楽曲を再解釈している。


Samiaは次のように語っている。「私はいつも、コミュニティが自分にとって重要だと声を大にして言ってきた。友人たちがいなければ、このようなことはできなかった。パンデミックの間、私たちはみんな家に閉じこもっていたから、『The Baby in 2020』を再構築したんだけど、そのアイデアはこのプロジェクトの理念にとても忠実だと感じたから、『Honey』でもう一度やってみたくなったの。曲に新しい命を吹き込むのは、いつもエキサイティングなことよ」


Blondshellはこう付け加えた。「私は長い間サミアにインスパイアされてきた。彼女は歌に自分自身をたくさん注ぎ込んでいて、人々や場所に対する愛に溢れている。暗闇を切り裂く友情と喜び。Charm You'ではそれを本当に感じたし、彼女のプロジェクトに参加できてとても嬉しい」。


「Charm You」(Blondshell)

 


The Japanese Houseが、Dirty Hitのレーベル・メイトであるThe 1975のマティ・ヒーリーと共に、ニューヨークのラジオ局、SiriusXMに立ち寄り、数曲を演奏した。


先日発売されたばかりの『In The End It Always Does』の最新シングル「Sunshine Baby」を一緒に披露したアンバーとマティは、カナダのカントリー歌手であるShania Twain(シャナイア・トゥエイン)の「It Only Hurts When I'm Breathing」のカヴァーも披露した。パフォーマンスの模様は、SiriusXMのThe Coffee Houseで22日に放送された。SXMのアプリでも視聴できる。