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©︎Tim Atlas


ブルックリンを拠点に活動するシンガーソングライター、プロデューサーのTim Atlas (ティム・アトラス)が、先月のリリースに続き、早くもメロウなR&Bシングル「Stardust」をリリースしました。リリックビデオのプレビューが公開されていますので下記よりチェックしてみて下さい。


ロサンゼルスに向かう旅の間に制作されたという本楽曲は、ティムが拠点とするブルックリンの都会的で洗練されたサウンドと、LAに燦々と降り注ぐ陽の光がもたらす開放的でカジュアルな空気感を内包し、肩の力が抜けた酒脱な雰囲気が漂う。


制作に関して「デビット・ボウイの音楽を自分なりのアプローチで再解釈した。」と語るティム。楽曲タイトルの「Stardust」も デビッド・ボウイが生み出したキャラクター ”ジギー・スターダスト”に由来しており、ティムの遊び心とレジェンドアーティストへのリスペクトが感じられる。


音楽面では、まるで異世界へと誘われるようなミステリアスなシンセの音色や、レイドバックしながらも細かく刻まれたビート、甘美なティムの歌声と色気漂うメロディラインが融合。


サビでは、“空から降ってくる星みたいに君を僕のものにしたい” と歌い、親密な人との愛しい時間をロマンチックな瞬間へと演出してくれる。


今月末5月31日には、愛、不安、信頼などをテーマにしたデビューアルバム『Enchanté』をリリースすることも発表しているティム・アトラス。


ティムの音楽的スタイルでもあるR&B、ネオソウル、オルタナティブからサイケデリックまで様々なサウンドをスムースに横断し、世界中の音楽ファンを虜にしている。



「stardust」-Preview




Tim Atlas 「stardust」- New Single


レーベル:ASTERI ENTERTAINMENTERI 

形態:ストリーミング&ダウンロード


Pre-save/Pre-add(配信リンク):https://timatlas.ffm.to/stardust



Tim Atlas Biography:


ロサンゼルス出身・ブルックリンを拠点に活動するシンガーソングライター、プロデューサー。

2018年にリリースされたEP『All Talk!』で注目を浴び、ラジオ局や様々なメディアから熱烈な支持を受ける。ストリーミングの再生回数は累計1億5000万回以上を記録。 ニューヨーク、ロサンゼルスなど、計10箇所を巡る全米ツアーを敢行するとソールドアウト公演が続出。

また、Jungle Giants、Magic City Hippies、Goldroomなどのサポートとしても活動。UKの「The Great Escape Festival」やサンフランシスコの「Noise Pop」、アリゾナ州で行われた「M3F Festival」にDominic Fike、Arlo Parks、Bakarと並び出演するなど大きな注目を集めている。2023年8月にはEP『Le Soir』、そこからわずか半年後の2024年2月にもEP『Matinee』をリリース。世界中の音楽ファンを魅了するティム・アトラスから目が離せない。



 Yaya Bey  『Ten Fold』

 

Label: Big Dada

Release: 2024/05/10


Review    癒やしに充ちたスモーキーなネオソウル



ニューヨークの気鋭のネオ・ソウルシンガー、Yaya Bey(ヤヤ・ベイ)はすでに2022年のアルバム『Remember Your North Star』でシンガーとしてもソングライターとしても洗練された才覚を発揮し、シーンで存在感を示している。このことはコアなR&B/ソウルファンであればご存じのはず。


続く最新作『Ten Fold』では、どうやらヤヤ・ベイが内面のフォーカスを当て、瞑想的なサウンドを打ち立てているという。アルバムのアートワークに写しだされる扇動的でセクシャルかつグラマラスなシンガーの姿は、一見したところポップな作風を思い浮かばせるが、しかし、驚くなかれ、それはブラフのような意味を持ち、実際はメロウでスモーキーなネオソウルのアトモスフィアが今作の全体には漂っている。ある意味では、このアルバムの事前のイメージは、ニューヨークの摩天楼を思わせるような洗練されたネオソウルによって覆されるに違いない。ヒップホップをベースにしながらも、ボーカルのサンプリング、レゲエ/ダブに近いリズム、そして時折、ソウルシンガーとして表されるヒップホップカルチャーへのリスペクト……。これらが混在しながら、メロウかつアーバンな響きを持つR&Bのストラクチャーが築き上げられる。



この作品の発売元であるBig DadaがNinja Tuneのインプリントであることを考えると、ニューヨークのソウルシンガーでありながら、インターナショナルな香りを漂わせるアルバムである。ヤヤ・ベイのサング(歌唱法)は、例えば旧来のサザン・ソウルやモータウンサウンドとは対極に位置し、アーバンな雰囲気に浸されている。ベイの歌はまるで、夜が深まったニューヨークの五番街を歩きながら、日常生活を丹念にリリックとして描写し、それをソフトに歌うかのようである。いや、歌うというよりも、ウィスパーボイスによってささやくといった方がより適切だろう。ベイの歌には、ヒップホップからの影響もあり、細かなニュアンスの変化とともに抑揚をコントロールしたピッチの微細なゆらぎを駆使し、マイルドな質感を持つ歌を披露する。背後のビートにUKソウルからの影響を反映させ、ダブともベースラインともつかないアンビバレントなリズムを背景にし、ヤヤ・ベイは軽やかな足取りでステップを踏むかのように歌う。このアルバムには、ニューヨークでの生活がリアルな形で反映され、その土地にしかないリアルな空気感が含まれている。曲が進むごとに、夜の町並みが中心街から地下鉄、そして再び地上の家へと、代わる代わるサウンドスケープが変化するような印象があるのがとても興味深い。

 

インプリントということで、ニンジャ・チューンらしいサウンドも反映されている。ロンドンのJayda Gがヒップホップとソウルの中間域にあるモダンなサウンドを、昨年の「Guy」で確立したが、この作品には、ヒップホップのサンプリングをストーリーテリングの手法として導入するという画期的な手法が見受けられた。 補足すると、Jayda Gが試みたのは家族のストーリーをサンプリングとして導入するというもので、スポークンワードの中で文学的にそれを表現するのではなく、サンプルのネタとして物語性を暗示的に登場させるという手法である。これは例えば、デル・レイの最新作にも共通している。もっと言えば、このサンプルの技法は、ストーリーにとどまらず、フレンドシップやコミュニティを表現することもできるかもしれない。「east coast mami」ではスポークンワードのサンプルを導入し、音飛びのしないブレイクビーツの規則的なリズムを背景にし、ヤヤ・ベイはメロウでマイルドな質感を持つリリックと歌を披露している。アルバムの中盤に収録されている「eric adams in the club」にもこの手法が見出せる。


ヤヤ・ベイは、ニューヨークを中心とする暮らしを、彼女の得意とするR&Bの手法で端的に表現している。それは、例えば、S.Raekwonのスタテン・アイランドに向かう船で切ない慕情を歌ったものとは異なり、ニューヨークのビジネスマンが肩で風を切って歩くような都会的な洗練性である。その中には、ややウィットに富んだ内容も見え、「Chasing Bus」は、乗り遅れたバスを追いかけるシーンと、彼女自身のソウルのアウトプットが現代的な質感とともに古典的な側面を持つことに対する自虐とも解釈出来る。これらはメインボーカルと鋭いコントラストをなしているし、そしてまた、ヒップホップの話のようなレスポンスと合わせて新旧の両側面を持つソウルミュージックの形として昇華されると、洗練されたモダンな音楽の印象を与える。さらにそういった多角的なネオソウル/ヒップホップのアプローチを通じて、トラックリストを経るごとに、ヤヤ・ベイの日常的な生活は内面と呼応するような感じで、どんどんと奥深くへと潜っていき、音楽的な世界観の広がりを少しずつ増していく。 つまり、このアルバムでは、最初から完成形が示されるのではなく、リスナーがニューヨークやロサンゼルスの歌手の体験を追いかけて、それらの出来事に接した際の感情の過程を追体験するような楽しさがある。さらに救いがあるのは音楽がシリアスになりすぎず、ユニークな要素をその中に併せ持つということ。

 

 

基本的にはヤヤ・ベイのソングライティングのスタイルはヒップホップとソウルの中間に位置していて、同時にそれがこのアルバム全般的な特色やキャラクターともなっているが、音楽性の中心点から少しだけ離れる場合もある。例えば、「Slow dancing in the kitchen」では、Trojan在籍時代のBob Marleyのレゲエサウンドを踏まえ、それらを現代的な質感を持つソウルミュージックとしてアウトプットしている。これらのサウンドは、シリアスになりすぎたヒップホップやソウルにウィットやユニークさを与えようという、ヤヤ・ベイの粋な取り計らいでもあろう。その他にも、ユニークな曲が収録されている。「so fantasic」では、Mad Professor、Linton Kwsesi johnsonのような古典的なダブサウンドに近づく楽曲もある。しかし、歌にしても、ソングライティングにしても、少しルーズで緩い感覚があり、それこそが癒やしの感覚をもたらす理由でもある。これらのチルアウトに近いレゲエやソウルの方向性は、ノッティンガムのYazmin Lacey「ヤスミン・レイシー)の最新作『Voice Notes』の系統にあるサウンドと言えるか。


これらの多角的な音楽性は基本的には、メロウなソウルという感じで、全体的なアルバムの印象を形作っている。それは真夜中の憂鬱や憂いというイメージを孕んでいるが、一方でブラックミュージックの華やかさに繋がる瞬間もある。例えば、先行シングルとして公開された「me and all n---s」は、ダウナーな感覚を持ちながらも、背後のオルガンの音色と合わせて、ヒップホップのニュアンスが少し高まる瞬間、ダークで塞いだ気持ちを持ち上げるような効果がある。


また、「iloveyoufrankiebeverly」は、古典的なノーザン・ソウルの影響下にある素晴らしいトラック。この曲では一貫して、アンニュイなボーカルを披露してきたシンガーが唯一楽しげな雰囲気を作り上げている。しかし、ベイが作り出す音の印象は一貫して真夜中のアトモスフィアなのである。憂いに留まらず夜の陶酔ともいうべき際どい感覚、要するにこれらは、トリップ・ホップのブリストルサウンドと似ているようで、実はカウンターポイントに位置している。

 

ダンスミュージック、ヒップホップ、チルアウト、レゲエ/ダブ、ジャズ、モダンなネオソウル、それとは対極にある70年代のノーザン・ソウルというように、幅広いバックグランドを持つベイだが、最後は、安らいだ感じのチルウェイブで統一されている。


「yvettes's cooking show」はヒップホップやローファイに近い音楽性を選んでいるが、依然として癒やしの感覚に満ちている。クローズ「let go」ではチルアウトをトロピカルと結びつけ、リラックスしたサウンドを生み出す。アウトロのタブラを思わせる民族楽器のエキゾチックな響きは、リゾート気分を呼び覚ますこと請け合いだ。


序盤ではニューヨークの都会的なイメージで始まるこのアルバム。しかし意外にも、複数の情景的な移ろいを通じて、最終的にはリゾート地への逃避行のような感覚を暗示している。『Ten Folds』には本格派のソウルミュージックの醍醐味が満載だ。それがウィットに富んだミュージシャンのユニークさに彩られているとあらば、やはり称賛しないというわけにはいかないのである。

 

 

 

86/100

 






Yaya Bey






ニューヨーク育ちのR&Bボーカリスト、ヤヤ・ベイは、彼女の新しいスタジオアルバム「Ten Fold」で包括的な自画像を想起させる。彼女の以前の作品が真剣でマインドフルだったところでは、ヤヤの新しいアルバムは決定的であり、意識的な意図の流れで彼女を取り巻く世界の未来を調べながら、彼女の過去の側面を遡ります。


ジャズグループブッチャーブラウン、カリームリギンズ、ジェイダニエル、エクサクトリー、ボストンチェリーのコーリーフォンビルからの熱狂的な制作を通して、ヤヤは、悲しみと喪失、人生を変えるマイルストーン、そしてその間のすべてによって中断された1年間の忍耐の複雑さを語る自由話の傑作を提供します。


彼女の強力な2022年のアルバム「Remember Your North Star」をリリースしてから9ヶ月後、ヤヤは激動を通して進化する準備を整えた北星のExodusで戻ってきました。「私は通常、アルバムに入るときに、このテーマ全体のものを持つようにしています。しかし、私が人生が起こっていたときに作ったこのアルバム」と彼女は言う。


そのようなオープンエンドの創造的なリズムの中で働くことで、ヤヤは音楽とそれ以降の彼女の仕事に知らせるすべての努力、感情、経験を伝える瞬間でアルバムを豊かにすることができました。彼女は詩人、抗議のストリートメディックとして人生を送り、サナアと呼ばれる相互扶助組織、アートキュレーター(PGアフリカ系アメリカ人博物館)、そしてブルックリンのモカダ博物館に居住し、過去のプロジェクトのカバーアートを制作したミクストメディアアーティストを設立しました(「ケイシャ」、「9月13日」、「The Things I Can't Take With Me EPなど)。


このアルバムは、ヤヤのアイデンティティのこれらのさまざまな側面の間に糸を結びつけ、彼女が誰であるかの心のこもった肖像画を提示し、彼女が見ているように世界について話すためのスペースを切り開く。テンフォールドでは、彼女は自分の内なる存在について瞑想し、恋に落ち、同様に、彼女の周りの世界やコミュニティについてコメントし、コストの上昇や人類のほぼディストピア状態などの政治状況を批判します。


滑稽で風刺的なリスニングのために、ユーフォリックな「クラブのエリックアダムス」を演奏し、ヤヤは市全体の混乱の真っ只中に公共のお祝いに出席するためにニューヨーク市長の名前をチェックします。「インフレと住宅危機のために、私たちは同じパーティーをすることさえできませんが、少なくとも市長は私たちと一緒にパーティーをしています」とヤヤは冗談を言います。


他の社会政治的懸念もヤヤの頭にある。彼女は、紛争鉱物と児童労働が毎年それらを注ぎ出すために使用されているため、別のiPhoneを購入することを拒否します。彼女のニューヨークの友人は、家賃が高騰している間、避難所の支払いに苦労しています。広大なLPを作るプロセスを通して自分自身をプッシュし、ヤヤは彼女の仕事が共感的であり、実生活とその絶え間なく変化する状況に対する彼女の意識を示すことを目指しました。アーティストとしての彼女の人生の真実を提示するヤヤのコミットメントは、本質的に音楽を作るキャリアの一部である成果と失敗の両方に聴衆を聞かせ、派手な芸術的なペルソナのファサードを取り除き、代わりにこの旅が彼女に教えたことへの感謝を植え付けます。


ヤヤは、彼女の中心的な音楽物語が苦労している黒人女性の声として彼女を見つけるというジャーナリズムの考えに反撃します。なぜなら、テンフォールドは、彼女が内側に焦点を向けるときと同様に、彼女の音楽が群衆を含むことができることを証明しているからです。彼女がどのように認識されても、ヤヤの使命は、主に最初から彼女を知っていたサポーターに、常に信憑性を維持することです。「私は失敗したので、現実と関連性からあまり離れないことを願っています」と彼女は言います。


ヤヤの本質は、センターピースのトラック「サー・プリンセス・バッド・ビッチ」にあります。催眠性のイヤーワームは、歌手が「私以外の何もない」と歌いながら、のんきに感じます。自然の中では軽いが、歌の中で、ヤヤはジェンダークィアな人としての彼女の存在について熟考する。ヤヤの定義では、「サー・プリンセス・バッド・ビッチ」はアーティストの複雑さを表しています。「このスイッチは非常に極端です。ある日、私はハンサムな男で、次の日、私はクソガウンを着てステージにいます」とヤヤは告白します。


内面と外面の探検がヤヤの精神であるように、テンフォールドはその文章に無文化なニュアンスで輝いています。ソウルフルなオープナー「歯をかばって泣く」は、ヤヤが「私はこのすべてのお金を得たが、私はまだクソ壊れている」のようなパンチの効いたセリフでユーモアを通して人生の重荷を運ぶのを見ます。「証拠」の大気生産は、ヤヤの穏やかな発声と「時々私はそれを作らないように感じる」のような不安な告白を覆います。


テンフォールド全体に散在するのは、日曜日の朝の親密さを醸し出す、軽くレゲエが塗られた「キッチンでのスローダンス」のように、喜びを垣間見ることができます。ヤヤは、短く輝く「私とすべての私のニガー」で彼らの窮状から自分自身を回復する彼女の友人サークルの能力を証明しています。「Iloveyoufrankiebeverly」は、夜間のバーベキューの雰囲気があり、迷路のフロントマンへの適切なオマージュです。各曲は、テンフォールドが顕在化するのにかかったライティングとフリースタイルセッションの治療的性質で流れます。


ヤヤは、祖先と直接つながっているように、バルバドスの父方の故郷を思い起こさせます。彼女のカリビアンのルーツを取り入れて、ヤヤは、詩の重い「私のパパのようなスタンティン」であろうと、ベイが娘に「あなたがどこかにいたように世界に自分自身を提示する」ことを思い出させる「私と私の」の紹介のような散在したオーディオクリップで、彼女の父アユブ・ベイに絶え間ないオードを与えます。


そして、本当に、彼女はどこにでもいました - ヤヤは私たちにそれをすべて音響的に旅行させています。第二世代のアーティスト、ヤヤが直接目撃した旅は、音楽とのより健康的な関係を築き、彼女の労働の成果を受け入れるために必要なツールを彼女に与えました。「それは天職であり、私と私の血統にとって、それは先祖代々のものです」と彼女は言います。彼女がアーティストとして舗装された道では、テンフォールドに浸透するヤヤの真実です。
Charlotte Day Wilson-



トロント出身のシンガーソングライター/プロデューサー、シャーロット・デイ・ウィルソン(CDW)が、待望の2ndアルバム『Cyan Blue』を5月3日にリリースする。


『シアン・ブルー』は、ゴスペル・ピアノ、温かみのあるソウルのベースライン、雰囲気のあるエレクトロニクス、そしてR&Bの突き抜けたメロディーなど、ウィルソンが永遠に影響を受け続けてきたシアン・タペストリーを滑らかに織り上げています。そして、この作品には、ウィルソンの新時代の到来を告げるに足るセンスがある。


「シアン・ブルー』の制作について、ウィルソンは次のように語っている。「多くの荷物がなかった頃、多くの人生を生きる前について。でも、若い頃の自分と合わせて現在の自分を見てほしいとも思う。私が今持っている知恵や明晰さの一部を、伝授することができたらいいなと思う」


レオン・トーマス(SZA、アリアナ・グランデ、ポスト・マローン)、ジャック・ロション(H.E.R、ダニエル・シーザー)といったプロデューサーと組んだ『シアン・ブルー』は、ウィルソンの音響的な専門知識を示すと同時に、彼女の時を超えたソングライティングの次なる進化を披露している。


13曲のヒプノティックなトラックを通して、彼女は音楽を人間関係を解きほぐす器として使い続けている。しかしながら、『シアン・ブルー』では、彼女は完璧主義者の傾向を一蹴することに挑戦しています。「それ以前の私は、強固な基礎、芸術的な完全性を備えた音楽を創ることに熱心でした」とウィルソンは振り返る。「でも、それは少し息苦しかった。"時の試練に耐えられるような素晴らしい作品を、プレッシャーなく作らせてほしい "という感じでした。今は、すべてが完璧でなければならないという、凍りついた状態から抜け出せたと思います。それよりも、その瞬間に起こった感情をその瞬間にとらえ、その瞬間に残すことに興味があります」


このアルバムはまだ通算2作目にもかかわらず、ウィルソンの音楽における影響力はメインストリームに大きな影響を及ぼし続けている。

 

ウィルソンは2016年に絶賛されたEP『CDW』でブレイクし、2018年の『Stone Woman』に続き、2021年には絶賛された自主制作盤『Alpha』でスタジオ・デビュー・アルバムを正式なカミング・アウトの瞬間とした。過去10年間、その楽曲は、ドレイク、ジョン・メイヤー、ジェイムス・ブレイクにサンプリングされ、最近では、パティ・スミスがウィルソンの2016年のブレイク・シングル "Work "を賞賛しカバーしている。さらに、ケイト・ラナダ、BADBADNOTGOOD、SGルイスといったアーティストともコラボレーション経験がある。ウィルソンが適応できない音はない。彼女はシアンブルーの魔法を振りかけることができることを示す。

 


『Cyan Blue』‐ Stone Woman Music/ XL Recordings

 

・Background

 

シャーロット・デイ・ウィルソンは、10代の頃にAppleのGaragebandで音楽制作をはじめ、幼初期にクラシックピアノを学んでいる。ハリファックスに引っ越し、大学で音楽を学習する予定だったが、その後、キャリアに専念するために大学を去った。十数年前から音源のリリースを行い、2012年にはEPのセルフリリースを行い、以後の数年間で、スタンドアロンのシングルを三作発表した。また、それらのソロシンガーとしてのキャリアに加え、ファンクバンドでも活動したことがあった。The Wayoではボーカル、キーボード、サックスを演奏していたという。


ケベック州モントリオールで過ごした後、ウィルソンはトロントに戻り、アーツ&クラフツプロダクションでインターンを行う。


その頃、ダニエル・シーザー、リバーテイバー、BadBadNotGoodなどのコラボに取り組むことになった。2016年には、リリースしたEPの収録曲「Work」が注目を集めはじめ、Socanソングライティング賞にノミネートされ、ポラリス音楽賞のロングリストに残った。また、ウィルソンはプロデューサーとしても高い評価を得ている。2017年のジュノー賞ではプロデューサー・オブ・ザ・イヤーにノミネート。ファンタヴィアス・フリッツ監督が手掛けた「ワーク」のビデオも好評で、2018年度のプリズム賞を受賞している。

 

3作目のEP「Stone Woman」でもウィルソンは注目を集めた。収録曲「Falling Apart」はジェイムス・ブレイクが「I Keep Calling」でサンプリングを行った。2021年頃にはR&Bアーティストとして国内で評価される。2021年のシドをフィーチャリングしたシングル「Take Care Of You」でジュノー賞のトラディショナルR&B/ソウルのレコーディング・オブ・ザ・イヤーを獲得した。

 

着実に実績を重ね、イギリスのXL recordingsと契約し、満を持してリリースされるアルバム『Cyan Blue』はウィルソンの初期のキャリアを決定づける可能性が高い。もしかするとマーキュリー賞にノミネートされても不思議ではない作品である。13曲とヴォリューム感のあるアルバムであることは間違いないが、驚くほどスムーズに曲が展開され、そして作品の中に幾つかの感動的なハイライトが用意されています。本作はプロデューサーとしての蓄積が高水準のネオソウルとして昇華され、加えて、ファルセット、ウィスパーボイス、ミックスボイス、そしてアルトボイス等など、驚くほど多彩なヴォーカリストとしての性質が見事に反映されている。


シャーロット・デイ・ウィルソンのソウル/R&Bは、例えば、SZA、Samphaといった最も注目を集めるシンガーとも無関係とは言えません。しかし、上記の二人とは異なり、基本的には低音域のアルトボイスを中心の歌われる。その歌声は基本的には落ち着いていて、ダウナーともいうべき印象をもたらすが、稀にファルセットや高音域のミックスボイス等が披露されると、曲の印象が一転して、驚くべき華やかさがもたらされる。あらゆるボーカルスタイルを披露しながら、細部に至るまで多角的なサウンドを作り込もうとする。”完璧主義から距離を置いた音楽を選んだ”というシンガーの言葉は捉え方によっては、ボーカルにしてもプロデュースにしても、それ以前の音楽的な蓄積が、少し緩さのある軽妙なネオソウルを作り上げるための布石となった。

 

2ndアルバム”Cyan Blue”はアーバンなソウル、メロウさ、それとは対象的な爽快さを併せ持つ稀有な作品となっています。その中にはファンクバンドとしての経験を織り交ぜたものもある。そしてカナダのミュージック・シーンに何らかの触発を受けてのことか、ローファイなサウンドメイキングが施されている。例えば、ボーカルのオートチューンの使用はダフト・パンクのようなロボット声を越え、ユニークなボーカルの録音という形で表れる。ただ、マニアックなプロディースの形式が選ばれているからとは言え、アルバム全体としてはすごく聞きやすさがある。

 

 

・1「My Way」〜 5「Do U Still」

 

オープナー「My Way」ではギターサウンドをローファイ的に処理し、それにダブステップのような”ダビーなリズム”というようにコアな音楽が展開される。しかし、そのトラックに載せられるウィルソンのボーカルは、メロウな雰囲気を漂わせながらも、驚くほど軽やかである。イギリスのシンガーソングライター、Samphaを思わせるネオソウルは、サビでコーラスが入ると、親しみやすく乗りやすいポピュラー・ソングへと変化する。徹底して無駄や脚色を削ぎ落とした、スタイリッシュかつタイトな質感を持つサウンドが繰り広げられます。さらに、デイ・ウィルソンのR&Bにはモダンでアーバンな空気感が漂う。#2「Money」でも、最初のメロウな雰囲気が引き継がれる。曲そのものはポピュラーなのに、新しい試みもある。デチューンをトラック全体に掛け、サイケな曲の輪郭を作り出し、アウトロにかけて、ラップのサンプリングをクールに導入している。こう言うと、難解なサウンドを思い浮かべるかもしれませんが、全般的にはメロディーの心地よさ、リズムの乗りやすさにポイントが絞られているので聞きやすさがある。もちろん、リズムの心地よさに身を委ねるという楽しみ方もありかもしれない。

 

ウィルソンのファンクバンドとしての演奏経験は続く#3「Dovetail」に表れている。Pファンクの代表格である”Bootsy Collins”のようなしなやかなファンクサウンドを基調としているが、デイ・ウィルソンのソウルは、チルウェイブの影響を取り入れることで、モダンな雰囲気と聞きやすさを併せ持つトラックに昇華される。アルトボイス中心の落ち着いたボーカルに色彩的な和音が加わり、スマイルの最新作やジェイムス・ブレイクなどのレコーディングでお馴染みのボーカルのエフェクト効果がリズムや旋律と混ざり合い、大人の感覚を持つR&Bが構築される。


その後の#4「Forever」でもボーカルのオートチューンや複雑な対旋律的なコーラスの導入は顕著な形で表れる。この曲にはエレクトロニックの影響があり、サンプリング的に処理されたピアノとソフトシンセの実験的なエフェクト処理が施されたマテリアルが多角的なネオソウルを作り上げる。ウィルソンのボーカルについても、「しっとりとしたソウル」とよく言われるように、落ち着いたアルトボイスを基本に構成される。けれども、それらのボーカルのニュアンスはジェイムス・ブレイクが以前話していた”ビンテージソウルの温かみ”がある。最新鋭のレコーディングシステムや多数のプラグインを使用しようとも、ボーカルやトラックには深いエモーションが漂い、それがそのままアルバムの導入部の魅力ともなっている。さらに曲の後半では、ミックスボイスに近い伸びやかな鼻声のボーカルが華やかさを最大限に引き上げていきます。続く#5「Do U Still」でも中音域のボーカルを中心にして、しっとりとした曲が作り上げられる。この曲では、旋律よりもリズムが強調され、それはスキッターな打ち込みのドラムが、ボーカリストがさらりと歌い上げるメロディーや複合的な和音のメロウさを引き立てている。

 


 「My Way」




・6「New Day」~ 9「Over The Rainbow」


アルトボイスとミックスボイスを中心に構成されていたアルバムの導入部。しかしながら、アーティストは驚くべきことに、手の内を全部見せたわけではなかった。ボーカリストとしての歌唱法の選択肢の多さは、中盤部において感動的な瞬間を呼び起こす箇所がある。中盤の収録されている#6「New Day」を聴けば、ウィルソンのボーカリストとして卓越した技巧がどれほど凄いのかを体感していただけるに違いない。イントロではゴスペルを下地にした霊妙なハミング/ウィスパーボイスとジェイムス・ブレイクの作風を思わせるピアノ、それに続いて優しく語りかけるようなデイ・ウィルソンのボーカルが続く。背後には、XL Recordingsが得意とするボーカル・ディレイが複合的に重ねられ、トリップホップを思わせる霊妙な音楽へとつながる。そして曲の中盤から、それまで力を溜め込んでいたかのように、華やかで伸びやかなビブラートでボーカリストがこの曲を巧みにリードしていく。これこそソロシンガーとしての凄さ。

 

歌にとどまらず、音楽のバラエティー性にも目を瞠るものがある。#7「Last Call」ではサンファを彷彿とさせる落ち着きと爽快感を兼ね備えるネオソウルを披露したかと思えば、#8「Canopy」では、アルバムの一曲目と同様に、ローファイなギター、エレクトロニカ風のエフェクトという現行のネオソウルやヒップホップの影響があるが、それらをブレイクビーツとして処理している。もちろん上記の2曲でも依然として、メロウさやモダンな感覚が維持される。

 

この2曲はダンスフロアのクールダウンのような意図を持つリラックスした箇所として楽しめる。そして、中盤の最大のハイライトがジュディー・ガーランドのカバー「Over The Rainbow」である。''オズの魔法使い''の主題歌でもあったこの曲を、デイ・ウィルソンは、ゴスペルとネオソウルという二つの切り口から解釈している。ここには、カバーの模範的なお手本が示されていると言えるでしょう。つまり、原曲を忠実に準えた上で、新しい現代的な解釈を添えるのである。基本的なメロディーは変わっていませんが、何か深く心を揺さぶられるものがある。これはデイ・ウィルソンが悲劇のポップスターの名曲を心から敬愛し、そして、霊歌や現代のソウルR&Bに至るまで、すべてにリスペクトを示しているからこそなし得ることなのでしょうか? そしてミュージシャンの幼少期の記憶らしきものが、最後の子供の声のサンプリングに体現される。 

 

 

 「Over The Rainbow」

 

 

 

 ・10「Kiss & Tell」〜13「Walk With Me」

 

アルバムの後半では、UKのアンダーグランドのダンスミュージックの影響が親しみやすいポピュラー・ソングの形で繰り広げられる。


#10「Kiss & Tell」では、ベースラインを基にして、トリップ・ホップやダブステップのリズムをミックスして織り交ぜながら、それらを最終的に深みのあるネオソウルに昇華させています。特にこの後の2曲は、アルバムの最高の聞きどころで、またハイライトになるかもしれない。


#11「I Don't Love You」では「Over The Rainbow」と同じく、古いゴスペルを鮮やかなネオソウルに生まれ変わらせる。ピアノとボーカルにはデチューンが施され、入れ子構造やメタ構造のような意図を持つ弾き語りのナンバーとも解釈出来る。落ち着いた感じのイントロ、中盤部のブリッジからサビの部分にかけて緩やかな旋律のジャンプアップを見せる箇所に素晴らしさがある。なおかつタイトルのボーカルの箇所では、シンガーの持つ卓越したポピュラリティーが現れる。しかし、多幸感のある感覚は、アウトロにかけて落ち着いた感覚に代わる。ウッドベースに合わせて歌われるウィルソンの神妙なボーカルは、このアルバムの最大の聞き所となりそう。

 

タイトル曲「Cyan Blue」のイントロでは複雑なエフェクトが施され、サンファの系譜にある艷やかな空気感のあるネオソウルというかたちで昇華させる。しかし、そういった前衛的なサウンド加工を施しながらも、普遍的なポピュラーミュージックの響きが込められている。この曲では古典的なポピュラーソングのスタイルを採用し、ポール・サイモン、ジョニ・ミッチェル、ウェイツのような穏やかで美しいピアノ・バラードがモダンな感覚に縁取られている。この曲でもシャーロット・ウィルソンのソウル/R&Bシンガーとしての歌唱力は素晴らしいものがあり、ビブラートの微細なニュアンスの変化により、この曲に霊妙さと深みをもたらしています。

 

”Cyan Blue”は全体的にブルージーな情感もあり、ほのかなペーソスもあるが、アルバムの最後はわずかに明るい感覚をもってエンディングを迎える。クローズ「Walk With Me」は他の曲と同じように落ち着いていて、メロウな空気感が漂うが、ドラムのリズムはアシッドなグルーヴ感を呼び起こし、それに加えてローファイの要素が心地よさをもたらす。スタイリッシュさやアーバンな雰囲気が堪能出来るのはもちろん、超実力派のシンガーによるR&Bの快作の登場です。

 

 

* プロデュース面での作り込みの凄さに始終圧倒されてしまいました。それ以前にどれほど多くの試行錯誤が重ねられたのかは予想もできないほど……。一度聴いただけで、その全容を把握することは難しいかもしれません。しかし、その一方で、純粋なネオソウルとしても気軽に楽しめるはず。

 

 

 

96/100

 

 

 

 Best Track-「I Don't Love You」

 


カナダ/トロントのR&Bシンガーソングライター、Charlotte Day Wilson(シャーロット・デイ・ウィルソン)が今週末に発売されるニューアルバム『Cyan Blue』から一挙に2曲の先行シングルを公開しました。

 

『シアン・ブルー』からの最新曲は「My Way」とLPのタイトル・トラック。どちらもセード全盛期の洗練された親密さを思い起こさせる、雰囲気のあるR&Bの没入感のある作品となっています。

 

シャーロット・デイ・ウィルソンはジャック・ロションと両曲を共同プロデュースし、レオン・トーマスもマックスウェルを取り入れた渦巻くネオ・ソウル・ジャム「My Way」を手がけた。「Cyan Blue」は比較的短く、控えめで、ウィルソンのささやくようなアルトボーカル、繊細なピアノ、スタンドアップ・ベースを中心に構成されている。2曲とも以下よりチェックしてみて下さい。

 


「My Way」
 

 

 「Cyan Blue」

 

Khruangbin 『A LA SALA』



Label: Dead Oceans

Release: 2024/04/05


 

Review


ヒューストンのR&Bグループ、クルアンビンはCoachellaへの出演を控えている。『A LA SALA』はアルバムのオープナーで示されるように、シンプルに言えば、安らぎに満ちたアルバムである。

 

2021年頃から多くのバンドに散見されたケースは、バンドアンサンブルの一体感を失いつつあった。しかし、徐々にであるが、それらの分離的な感覚も解消されつつあり、バンドらしい息の取れたサウンドが出てくるはずだ。


その手始めとなるのが、クルアンビンの『A LA SALA」となるかもしれない。クルアンビンのサウンドは全般的にはアフロソウルの範疇にあり、トミー・ゲレーロ(Tommy Guerro)のサウンドを彷彿とさせる。


もちろん、それだけではなく、レゲエ/ダブに近いギターサウンドやリズム、ヨットロックに比する安らいだトロピカルなサウンドというように、単一のジャンルでは語り尽くせないものがある。月並みな言い方になってしまうが、クロスオーバーサウンドの代表例となりえる。しかし、最新作に共通したサウンドの特徴があるとすれば、ホリー・クックの主要な楽曲に見出されるような”リゾート的な雰囲気を帯びたダブ/レゲエ・サウンド”と言えるかもしれない。ただ、クルアンビンはバンドであるので、スタジオのライブセッションの妙味に重点が置かれている。

 

アルバムで抑えておきたい曲を挙げるとすれば、3曲目の「May Ninth」がその筆頭となりそうか。ダブ風のスネアの一打から始まり、反復的なベースラインとフュージョンジャズに基軸をおいたギターサウンドがしなやかなグルーブ感を生み出す。そこに心地よいボーカルが合わさり、メロウなムードを生み出す。


クルアンビンのトリオが重視するのは曲の構成やロジカルではなく、スタジオのライブセッションから作り出されるリアルな心地良さ。ムード感とも言えるが、シンプルなスネアドラムとベースライン、フランジャーの印象が強いギターは見事な融合をみせ、アフロソウルを基調とする唯一無二のサウンドを丹念に作り上げていく。ライブセッションでの間の取り方やリズムの合わせ方など、演奏面では目を瞠るものがあり、それらはリゾート的な雰囲気を越えて、Architecture In Helsinkiの名曲「Need To Shout」のように天国の空気感にたどり着く場合がある。

 


前のアルバムがどうだったのかは定かではないが、アフロソウルやフュージョンの要素に加え最新作ではレゲエ/ダブのサウンドが強い印象を放つ。「Todavia Viva」はスネアのリムショットで心地よいリズムを生み出し、淡いダブサウンドを追求する。「Juegos y Nubes」は、Trojan時代のボブ・マーリーの古典的なレゲエをベースに、ライブセッションを通じて、心地よい音を探ろうとしている。


やはり「May Ninth」と同じように、ムード感が重視されていて、コンフォタブルな感覚を味わうことができる。正確な年代こそ不明であるが、60年代、70年代のファンクソウルをベースにした「Hold Me Up」はヴィンテージソウルに対する彼らの最大の賛辞代わりである。アルバムの終盤に収録されている「A Love International」では、セッションのリアルな空気感とスリリングな音の運びを楽しむことができる。この曲でもフュージョン・ジャズに焦点が置かれている。

 

アルバムの中にダンスフロアのクールダウンのような形で導入されているトラックが複数ある。例えば、「Farolim de Felguriras」では、ダブやアフロソウルをニューエイジやアンビエントのような形に置き換えていて面白い。その他、「Caja de la Sala」ではギターのリバーブやディレイのエッフェクトを元に、ニューエイジ/ヒーリングミュージックに近い質感を作り出している。


アルバムの終盤は、やはりトミー・ゲレーロを彷彿とさせるジャズとアフロソウルの中間に位置するコアなアプローチ。ただ、ライブセッションを重視している中でも、曲の起伏のようなものが設けられている点が今作の最大の特徴である。これはリスニングの際にもユニークさが感じられるかもしれない。アフロソウルをサティのフランスの近代和声と組み合わせたクローズ「Les Petis Gris」は新しい気風があり、ちょっとしたエスプリみたいなものを感じる。

 

このアルバムはムードや空気感やライブセッションの心地よさが追求されている。その点では、聴くごとに渋さが出てくるような作品と言えるかもしれない。 ソウルというより、レゲエやダブ、そしてフュージョンジャズに近いアルバムで、たしかにビンテージな感覚に満ちている。

 

 

78/100
 

 

 「May Ninth」

 



ヴィッキー・フェアウェル(Vicky Farewell)の2ndアルバム『Give a Damn』はMac's Record Labelから5月10日にリリースされる。その名の通り、LAを拠点とするこのアーティストを、スウィートなヴォーカルに彩られたR&Bのスロージャムと官能的なシンセファンクの立役者として紹介している。


アルバムの最新シングル "Push It "は、彼女の最もシュガーコーティングされた作品のひとつに数えられる。ミニマルな催眠インストゥルメンタルが、昔の恋愛を回想するファーウェルのクーイング・ヴォーカルの土台を築く。


「この曲では、『ジョパディ!』のテーマ・ソングの私なりのひねったバージョンを目指していたの」と彼女はこの曲のシンプルで効果的なメロディについて話している。歌詞についてこう続ける。


「停滞することへのフラストレーションを表現したかった。時には、みんなを一緒に連れて行くことができない、という悲痛な現実に直面することもあるのだから。ポール・サイモンの『Still Crazy After All These Years』という曲をいつも思い出す。この特別な曲をどの視点から見るかにもよるけれど、『Push It』はそれを私が翻案したものなの」


この曲と一緒に、フェアウェルはアルバムジャケットにある西海岸の雰囲気を見事にアニメーション化したミュージックビデオを公開している。

 

 

「Push It」 

 




Vicky Farewell 『Give A Down』


Label : Mac's Record Label

Release: 2024年5月10日

 

Tracklist:

1. Intro (Remember Me)

2. Semi Auto

3. Make Me

4. Push It

5. Textbook

6. Isn't It Strange

7. Tern Me On

8. Luxury Hellscape

9. Love Ya Like Me

10. Always There

 Fabiana Palladino 『Fabiana Palladino』

 

 

Label: XL Recordings(Paul Institute)

Release: 2024/ 04/05



Review


ロンドンを拠点に活動するソングライター/プロデューサーによる記念すべきデビュー・アルバム『Fabiana Palladino』は、大胆不敵にもアーティスト名をタイトルに冠している。ファビアーナは、間違いなくジェシー・ウェアのポスト世代に位置づけられるシンガーである。現在、ロンドンではR&Bのリバイバルが盛んで、JUNGLEを始めとする、ディスコソウルをヒップホップ的に解釈するグループ、もしくはGirl Rayのようにディスコサウンドをインディーロック風に再解釈を試みるグループ等、多彩なディスコリバイバルによるシーンが構築されつつあるようだ。

 

レディオヘッドなどのリリースでおなじみのXL Recordingsは90年代にはロックのリリースも手掛けるようになったが、80年代まではクラブミュージックを得意としていたレーベルであった。つまり、今回のファビアーナ・パラディーノの最新作は、レーベルにとって原点回帰のような意味を持つ。R&Bにとってターニングポイントとなるようなリリースになるかもしれない。

 

ファビアーナ・パラディーノのサウンドは、やはりリバイバルの気風に彩られている。 アーティストは、80年代のクインシー、ダイアナ・ロス、ジョージ・ベンソンといったブラック・コンテンポラリー/アーバン・コンテンポラリーの象徴的なアーティストの音楽の系譜を受け継ぎ、それらを現代的なクラブミュージックの視点を通し、斑のないモダンなサウンドを見事に構築する。それらのモダンなテイストは、現代のR&Bのスター、ジェシー・ウェア、ロイシン・マーフィーのようなデュープ・ハウスを絡めた重厚なサウンドのプロダクションが特徴である。

 

しかし、リバイバルや現代の音楽シーンを踏襲しているとはいえ、アーティストの唯一無二のカラーがないかといえばそうではない。ロジャー・プリンスがかつて、ファンクソウルを下地にジャズやロック、ラップ、そしてポップスと、このジャンルの可能性を敷衍してみせたように、ファビアーナもアーバン・コンテンポラリーをベースとして、多彩なサウンドをその中に織り交ぜる。これこそが、このアーティストが”次世代のプリンス”と称される所以なのである。

 

 

アルバムのオープニングを飾る「Closer」はディープ・ハウスの気風を残しつつも、そのサウンドの風味は驚くほど軽やかで爽やかである。それはかつてのアーバン・コンテンポラリーに属するアーティストがR&Bとポップスを融合させ、ブラック・ミュージックとしての深みとは対極にある軽やかさという点に焦点を絞っていたのを思い出す。これらのサウンドの最終形態は、チャカ・カーンの1984年の「Feel For You」によって集大成を見ることになった。チャカ・カーン等のニューソウルにまつわるサウンドについては、ブラック・ミュージックの評論の専門家によると、以前のR&Bに比べて、「編集的なサウンド」と称される場合がある。これはソングライターのリアルな歌唱力や、R&Bそのものが持つ渋さとは相異なる新境地を開拓し、その後のマイケル・ジャクスンに象徴されるような、きらびやかなポップスへの流れを形作った経緯がある。これは、現代的なオルタナティヴロックと同じように、録音したものをスティーブ・ライヒのようにミュージック・コンクレートの編集を加え、磨き上げるという手法によく似ている。

 

しかし、ソロ作品としてのプロデュース的なサウンドが目立つとはいえ、ファビアーナの生み出すサウンドは驚くほど耳に馴染む。編集的なサウンドだからといって、複雑な構成を避けて、ジェシー・ウェアのようなビートに乗りやすく、そして、なめらかな曲の構成が重視されている。そこにロジャー・プリンスのように色彩的な和音やメロディーが加わる。これが現時点のファビアーナの音楽の最大の長所であり、言い換えれば唯一無二のオリジナリティである。

 

迫力のあるベースラインを強調するロイシンやジェシーとは異なり、明らかにファビアーナのR&Bサウンドは、軽妙なAOR/ソフト・ロックの系譜に属する。いわばその軽やかさは、二曲目の「Can You Look In The Mirror?」で示されるように、クインシー・ジョーンズやマーヴィンの80年代のアプローチに近いものがある。そしてこの点が低音域が強調されるハウスのサウンドとはまったく異なる。ファビアーナのサウンドは、ココ・シャネルのデザインのように足し算ではなく引き算によって生み出される。これがおそらく耳にすんなりと馴染む理由なのだろう。

 

80年代のアーバンコンテンポラリーの見過ごせない特徴として、いわばドリーミーな感覚がR&Bサウンドの中に織り込まれていた。それらの特徴は、「I Can't Dream Anymore」に見出すことが可能だ。そして面白いことに、パラディーノの場合はそれらをエクスペリメンタルポップのフィルターを通し、かつてのプリンスが試みたように近未来的なR&Bを構築するのである。もうひとつ、現代的なR&Bのシーンのアーティストとは少し異なるサウンドの特徴が垣間見える。それが80年代以前のブラック・ミュージックの重要なテーマのひとつだったファンクの要素である。これらは、カーティス・メイフィールドのR&Bやマーヴィン・ゲイの曲のベースという形で繋がっていったのだったが、それらの系譜をファビアーナは踏襲した上で、最終的には、やはり軽快で聞きやすいポップスとして落とし込んでいる。ここにもアーティストのシンガーソングライターとは相異なる、敏腕プロデューサーとしての表情を伺い知ることができる。

 

そして、かならずしもR&Bという枠組みに囚われていないということも痛感し得る。「I Care」では現代的なUKのピューラーミュージックを踏襲し、ボウルの中でかき混ぜ、R&Bやネオソウルのテイストをバニラ・エッセンスのようにまぶす。これがメロウなサウンドから、ほんのりと甘い香りが立ち込めてきそうな理由なのだ。特に、心を惹かれるのは、商業主義のポピュラーサウンドに軸をおいた上で、その中にエクスペリメンタルポップのニュアンスを添えていること。ここにも歌手とは異なるプロデューサーとしての才覚が非常にさりげなく示されている。

 

R&Bシンガーとしての才覚が遺憾なく発揮された「Stay With Me Through The Night」はこのアルバムのハイライトとなりそうだ。ダイアナ・ロスの80年代の作風をわずかに思い出させる。この時代、ロスは以前の時代の作風から離れ、開放的で明るいサウンドを志向していた。ファビアーナの場合は、それよりも落ち着いたメロウなサウンドを作り出している。この曲には、デビューアルバムということを忘れさせてしまうほど、どっしりとした安定感が込められている。もちろん、その道二十年で活躍するようなベテランのシンガーのような信頼感がある。また他の曲に比べ、ファンクソウルの性質が強く、そしてベースラインも強調されている。これが他の曲よりも深いグルーブ感をもたらしている。ダンスフロア向きのナンバーと言えそうだ。

 

80年代のジョージ・ベンソンを始めとする、偉大なブラックミュージックの開拓者は、あの時代に何を求めていたのか、そして何を提示しようとしていたのか。おそらくであるが、彼らすべてのブラックミュージックに属する歌手やグループは、どのような苦難の時代にあろうとも明るい未来を見据えていたし、そして心から希望を歌っていた。だからこそ、多くの人を勇気づけてきたのだった。最終的には決して絶望を歌うことはなかったことは、ライオネル・リッチーやマイケル・ジャクスンといった面々が示したことである。ファビアーナの場合も同様で、現代的な悲壮感に基軸を置く場合もあるが、ベンソンのように未来における希望を歌おうとしている。そして、これが音楽そのものにワクワクした感覚や漠然とした期待感をもたらす。

 

ファビアーナ・パラディーノのアーバンソウル/ネオソウルの次世代を行くサウンドは、その後、さらに明るい印象を以ってクライマックスへと向かう。 「Deeper」では同じように、ジョージ・ベンソンの近未来的なソウルのバトンを受け継ぎ、よりモダンな印象を持つサウンドへと昇華させる。続く「In The Fire」では、低音域の強いディープ・ハウス、アシッド的な香りを持つR&BをEDMのサウンドと結びつける。パラディーノのR&Bの表現は、その後もスムーズに繋がっていく。これらの流動的なR&Bサウンドを経たのち、クローズ「Forever」において、しっとりとしたメロウなソウルでエンディングを迎える。分けてもバラードという側面でシンガーの並々ならぬ才覚が発揮された瞬間だ。今年度のR&Bの中では間違いなく注目作の一つとなる。

 

 

 

90/100

 

 

Best Track- 「I Can't Dream Anymore」

 

©Nikita Freyermuth


Yaya Bey(ヤヤ・ベイ)が新曲「me and all my n*****s」を発表した。この曲は、彼女の次のアルバム『Ten Fold』に収録される。この曲には、シャシディ・デイヴィッドが監督し、ベイ自身が振り付けをしたビデオが付属している。

 

「このビデオは、私の父と彼のファースト・アルバムのスタイルへのオード」と彼女は説明した。彼女の父でラッパーの故グランド・ダディI.U.は、1990年にデビューアルバム『Smooth Assassin』をリリースした。


Yaya Bey(ヤヤ・ベイ)による新作アルバム『Ten Fold』は5月10日にBig Dadaからリリースされる。

  

「me and all my n*****s」


©Rocket Weijers


メルボルンのフューチャーソウルグループ、ハイエイタス・カイヨーテ'(Hiatus Kaiyote)は、ニューアルバム『Love Heart Cheat Code』を発表した。Brainfeeder/Ninja Tuneから6月28日にリリースされる。注目のリリースなので、ぜひとも発売日を抑えておきたい。

 

2021年の『Mood Valiant』に続くこのアルバムは、先にリリースされた「Everything's Beautiful」に続くシングル「Make Friends」がリードしている。アルバムのアートワークとトラックリストは下記よりチェック。


この曲について、ヴォーカルのナオミ・"ナイ・パーム"・サーフィールドは声明でこう語っている。

 

「私の人生における女性たちから、男性たち、そして私のノンバイナリーな友人たちに至るまで、私が愛する人たちの様々な例を表現したかったの」


「私は最大主義者なの。私は何でも複雑にしてしまう。でも、人生でいろいろなことを経験すればするほど、リラックスして奔放になれる。このアルバムは、私たちがそれを明確にした結果だと感じている。曲が複雑さを必要としないのであれば、複雑さを表現する必要はなかったの」


「Make Friends」

 


Hiatus Kaiyote 『Love Heart Cheat Code』


Label: Brainfeeder/ Ninja Tune

Release : 2024/06/28


Tracklist:


1. Dreamboat

2. Telescope

3. Make Friends

4. BMO is Beautiful

5. Everything’s Beautiful

6. Dimitri

7. Longcat

8. How To Meet Yourself

9. Love Heart Cheat Code

10. Cinnamon Temple

11. White Rabbit

 

POND Creative


ニューヨークを拠点に活動するSSWの新星、S. Raekwon(S.レイクウォン)は、j次作アルバム『Steven』の最新シングル「If There's No God...」をリリースした。フォーク・ミュージックとソウルを融合させたスタイルは「Folk-Soul」とも称するべきだろうか。この曲は、前作「Old Thing」と「Steven's Smile」に続くシングル。この曲のミュージックビデオは以下よりご覧下さい。


「『If There's No God...』はアルバムの感情的、テーマ的な中心作なんだ。自分の中にある醜さが自分という人間を定義しているのかどうかを問うている。人間というのは、自分の最悪の部分によって判断されるべきなのだろうか? それとも、私はちょっとだけ自分に厳しすぎるのだろうか? しばらくの間、この曲をどんなふうに仕上げるか迷っていたんだ。やはり、宗教と道徳は大きなテーマになっている。でも、この作品が本当に好きなのは、そのどれにも答えようとしないからなんだ。誰も批判しちゃいない。だれも自分のことしか考えていないだけだよ」


PONDクリエイティブはビデオについてこう付け加えた。「ニューヨークを中心としたグラウンドホッグ・デイのような物語を実現するため、マンハッタンからスタテン島まで、スタテン島フェリーに乗り、何度も何度も往復してみた」

 

「日の出、日没、朝、昼、夜明け、夕暮れ、後悔から羞恥心、怒り、混沌まで、スティーヴンがフェリーの壁の中で様々な感情を経験するのを見守っていた」


S. Raekwonによる新作アルバム『Steven』は5月3日にFather/Daughter Recordsからリリースされる。黄昏に照らされるマンハッタンのフェリーのミュージックビデオは、ヴィンテージな映像処理が施され、クールで美しい。アーティストはマンハッタンの望洋の果てに何を見るのか??



「If There's No God...」

 

©David Black

 

R&Bやサイケ、ダブ、レゲエ、ウェストコーストロックをごった煮にし、それらをスタイリッシュなエレクトロニック・サウンドに落とし込み、フロアをダンスの熱狂へと導くテキサス/オースティンのトリオ、クルアンビン(Khruangbin)がニューシングル「Pon Pón」をリリースした。

 

このシングルで、クルアンビンはヴィンテージソウルとトロピカルとの中間点を探る。いかにもアナログレコードのサウンドに依拠しているが、スノビズムよりもポピュラリティに照準が置かれ、親しみやすいナンバーとなっている。古典的なR&B/ファンクのギターラインとボーカルのサンプリングの合致がスモーキーな印象を醸し出す。しなるようなベースラインにも注目したい。

 


「Pon Pón」

 

 


アルバムのレビューは以下よりお読み下さい。


New Album Review-  Khruangbin 

 

 

 Khruangbin 『A la Sala』


Label: Dead Oceans

Release: 2024/04/05

 

Tracklist:


1. Fifteen Fifty-Three

2. May Ninth

3. Ada Jean

4. Farolim de Felgueiras

5. Pon Pón

6. Todavía Viva

7. Juegos y Nubes

8. Hold Me Up (Thank You)

9. Caja de la Sala

10. Three From Two

11. A Love International

12. Les Petits Gris




Khruangbin – 2024 Tour Dates


4/14/24 – Coachella – Indio, CA
4/18/24 – Alex Madonna Expo Center – San Luis Obispo, CA*
4/19/24 – Alex Madonna Expo Center – San Luis Obispo, CA*
4/21/24 – Coachella – Indio, CA
4/23/24 – Brooklyn Bowl – Las Vegas, NV *
4/24/24 – Brooklyn Bowl – Las Vegas, NV *
4/26/24 – Revel – Albuquerque, NM *
4/27/24 – Revel – Albuquerque, NM *
5/21/24 – The Met – Philadelphia, PA ^
5/22/24 – The Met – Philadelphia, PA ^
5/23/24 – The Met – Philadelphia, PA ^
5/25/24 – Boston Calling – Boston, MA
5/26/24 – Saratoga Performing Arts Center – Saratoga Springs, NY ^
5/28/24 – Rockin’ At The Knox – Buffalo, NY ^
5/29/24 – Jacob’s Pavillion – Cleveland, OH ^
5/31/24 – History – Toronto, ON ^
6/1/24 – History – Toronto, ON ^
6/2/24 – History – Toronto, ON ^
6/4/24 -The Masonic Temple Theatre – Detroit, MI ^
6/7/24 – The Salt Shed – Chicago, IL
6/8/24 – The Salt Shed – Chicago, IL ^
6/9/24 – The Salt Shed – Chicago, IL ^
6/11/24 – Red Hat Amphitheater – Raleigh, NC
6/14/24 – Bonnaroo – Manchester, TN
7/4/24 – Roskilde Festival – Roskilde, DK
7/6/24 – Werchter Festival – Werchter, BE
7/7/24 – Down The Rabbit Hole – Ewijk, NE
7/10/24 – Jardin Sonore – Vitrolles, FR
7/11/24 – Musilac Festival – Aix-les-Bains, FR
7/12/24 – Bilbao BBK – Bilbao, ES
7/13/24 – Nos Alive Festival – Lisbon, PT
7/16/24 – Zagreb SRC Salata – Zagreb, HR
7/17/24 – Metastadt Open Air – Vienna, AT
7/18/24 – Colours of Ostrava – Ostrava, CZ
7/20/24 – Electric Castle – Bontida, RO
7/24/24 -Luzern Live Festival – Lucerne, CH
7/26/24 – Latitude Festival – Suffolk, UK
8/14/24 – Greek Theatre – Berkeley, CA %
8/15/24 – Greek Theatre – Berkeley, CA %
8/16/24 – Greek Theatre – Berkeley, CA %
8/18/24 – Edgefield – Troutdale, OR %
8/19/24 – Edgefield – Troutdale, OR %
8/21/24 – Kettlehouse – Bonner, MT %
8/22/24 Kettlehouse – Bonner, MT %
8/24/24 – Granary Live – Salt Lake City, UT %
8/26/24 – Red Rocks – Morrison, CO &
8/27/24 – Red Rocks – Morrison, CO &
8/28/24 – Red Rocks – Morrison, CO %
9/20/24 – Forest Hills Tennis Stadium – New York, New York +
9/21/24 – Forest Hills Tennis Stadium – New York, New York +
9/23/24 – The Anthem – Washington, DC $
9/24/24 – The Anthem – Washington, DC $
10/2/24 – The Factory – St.Louis, MO $
10/3/24 – The Factory – St.Louis, MO $
10/9/24 – Saenger Theatre – New Orleans, LA $
10/10/24- Saenger Theatre – New Orleans, LA $

* w/ Hermano Gutiérrez
^ w/ John Carroll Kirby
% w/ Peter Cat Recording Co.
+ w/ Men I Trust
$ w/ Arooj Aftab

 


デュア・リパがニューアルバムを正式に発表した。2020年の『Future Nostalgia』に続くアルバム『Radical Optimism』は5月3日にリリースされる。
 
 
先にリリースされたシングル「Houdini」と「Training Season」が収録されている。ジャケットアートワークとトラックリストは以下をチェック。
 

「数年前、友人がラディカル・オプティミズムという言葉を紹介してくれた。そのコンセプトは私の心に響いたし、それを自分の人生に織り込んで遊び始めたら、もっと興味が湧いてきた。カオスを優雅に乗り越え、どんな嵐も切り抜けられるような気がする。それと同時に、サイケデリア、トリップホップ、ブリットポップといった音楽の歴史にも目を通すようになった。サイケデリア、トリップ・ホップ、ブリット・ポップといった音楽の歴史は、私にとって常に自信に満ちた楽観的なもので、その正直さと姿勢は、レコーディング・セッションに持ち込んだ感覚」
 
 
アルバムでの彼女の主要なコラボレーターは、『Houdini』や『Training Season』と同じだ: テーム・インパラのケヴィン・パーカー、キャロライン・ポラチェック/チャーリーXCXのコラボレーターであるダニー・L・ハーレ、トビアス・ジェッソ・ジュニア(アデル、ハリー・スタイルズ、マイリー・サイラス)、キャロライン・アイリン(リパのヒット曲の共同作曲者)である。

 
ニューアルバムがどのようなサウンドになるのか、事前情報はほとんどない。彼女は最近、ニューヨーク・タイムズ紙に「1970年代スタイルのサイケデリア」にインスパイアされていると語っている(そのような兆候はほとんどないが)。2022年初頭、リパは自身のポッドキャスト『デュア・リパ:アット・ユア・サービス』でエルトン・ジョンにアルバムは半分ほど完成していると話していた。
 
 
同年末にVarietyの取材に対して、デュア・リパは次のように述べた。「制作を続けているうちに一転して、まとまりのあるサウンドになりつつあると今は本当に感じている。だから、新年の初めの数カ月は書き続けて、それが私をどこに連れて行くのか見てみようと思っている。アルバムはこれまでとは違っていて、ポップであることに変わりはないんだけど、サウンド的にも違うし、歌詞のテーマもより明確になっている。タイトルを言えば、すべてが理解できるだろうね」



 
Dua Lipa  『Radical Optimism』



Tracklist:

1. End of an Era
2. Houdini
3. Training Season
4. These Walls
5. Whatcha Doing
6. French Exit
7. Illusion
8. Falling Forever
9. Anything for Love
10. Maria
11. Happy for You


ニューヨーク/バッファローを拠点にS.Raekwonとしてレコーディングを行うシンガーソングライター、Steven Raekwon Reynolds(スティーヴン・レイクウォン・レイノルズ)がニューアルバムを発表した。

 

2021年のデビューアルバム『Where I'm at Now』と2022年のEP『I Like It When You Smile』に続く『Steven』は、Father/Daughter Recordsから5月3日にリリースされる。新曲「Old Thing」は以下より。


「このアルバムは去年の夏、長年の友人でドラマーのマリオ・マラチと一緒に南イリノイのリビングルームでレコーディングした。僕ら2人は数本のマイクを囲んで向かい合って座り、シングルテイクから曲を作っていった。ライヴを反映した、より生々しくダイレクトなサウンドを撮りたかったのさ」


「スティーヴンは、自分という人間を鏡のように映し出し、振り返っている音なんだ。自分の中にある多種多様なものを理解しようとしているんだよ。この曲を通して、自分が与えられた愛に値しないと感じることがあるのは、自分一人ではないとわかった。そして、その愛が得られたときに、それを受け入れることを学ぶんだ」

 


S. Rakewon 『Steven』

Label: Father/Daughter

Release: 2024/05/03

 

Tracklist:


1. Steven’s Smile

2. Old Thing

3. Winner’s & Losers

4. The Fight

5. The Camel

6. If There’s No God…

7. Does the Song Still Sound the Same?

8. It’s Nothing

9. What Love Makes You Do

10. Katherine’s Song


Pre-order(INT):


https://sraekwon.lnk.to/steven


本日、イギリスの多国籍グループ、イビビオ・サウンド・マシーンは、2024年5月3日にマージ・レコードからリリースされる『Pull The Rope』のタイトル・トラックを公開した。


「プル・ザ・ロープ」は、脈打つ、催眠術のようなダンスフロアバンガーで、分断された世界における団結を願う、インスタント・クラシックのイビビオ・サウンド・マシーン・ジャムだ。ファンカデリックの次世代のサウンドに酔いしれてみよう。


このトラックは、世界における違いを克服する平和的な方法を見つける希望について歌っている。ロープの両端に立つというアイデアがそれを象徴している。友人のリッチモンド・ケッシーとヘレン・マクドナルド、そしてイーノ・ウィリアムスの母親をコーラスのボーカルに起用し、より大きなサウンドを提供してもらった。音楽的には、ポスト・パンクとエレクトロニック・サウンドがミックスされている。


"Pull the Rope "には、ダーリントン・エニアムが監督したミュージック・ビデオが付属している。アフロフューチャーとクラシックなダンス・ビデオの雰囲気を思わせる、宇宙を飛び回るような映像だ。


「イーノの美しい歌声と存在感に魅了された私は、彼女のビジュアル・パフォーマンスをパワフルな存在のモノマネに変えてしまった」と、ウィリアムズが天空のファラオに扮したことについてエニアムは説明する。



「Pull The Rope」



Ibibio Sound Machine on tour:

May 06 Newcastle, UK – Boiler Shop

May 11 Belfast, UK – Cathedral Quarter Arts Festival

May 22 Portsmouth, UK – Wedgewood Rooms

May 23–26 Walton-on-Trent, UK – Bearded Theory Festival

May 23 Norwich, UK – Arts Centre

May 25 Birkenhead, UK – Future Yard

Jun 05 Cambridge, UK – Junction 2

Jun 06 London, UK – KOKO

Aug 01–04 Oxfordshire, UK – Wilderness Festival

Aug 15–18 Brecon Beacons, UK – Green Man Festival

Nov 08 Bristol, UK – SWX

Nov 09 Leeds, UK – Project House

Nov 14 Brighton, UK – Concorde 2

Nov 15 Manchester, UK – Academy 2

Nov 16 Dublin, IE – Whelan’s

Nov 18 Edinburgh, UK – Summerhall

Nov 19 Nottingham, UK – Rescue Rooms

 

©Emily Lipson

カナダのR&Bシンガー、Charlotte Day Wilson(シャーロット・デイ・ウィルソン)は、ニューアルバム『Cyan Blue(シアン・ブルー)』を発表しました。
 
 
シャーロット・デイ・ウィルソンはトロントを拠点に活動するカナダのシンガー・ソングライター。ウィルソンは、ジャズやR&Bの影響を受けた、ゆっくり燃え上がるような、いぶし銀のようなサウンドの持ち主だ。
 
 
 R&Bの影響を受けたサウンドは、すでにクラシックな雰囲気を醸し出している。彼女はこれまで 4月に発表したゴスペル調の "Work "から、BADBADへのゲスト参加まで、静かに曲を作り続けている。からBADBADNOTGOODの "In Your Eyes "へのゲスト参加まで、彼女は静かに曲を生み出している。
 
 
彼女のデビューEP『CDW、 ウィルソンは、彼女の時代を超えたサウンドを確固たるものにした。ここまで来るのは簡単ではなかった、 アーティストが言うように、"必死に働いてきた"。言うまでもなく、その努力は報われた。 ウィルソンのトラックは、アップル・ミュージックのCMからグレイス&フランキー(「グレイス&フラキー」)のCMまで、あらゆるところでフィーチャーされている。 
 
 
2021年の『Alpha』に続くこのアルバムは、ウィルソンのStone Woman MusicとXL Recordingsから5月3日にリリースされる。リード・シングル「I Don't Love You」のミュージック・ビデオはダニ・アフロディーテが監督。
 

「この曲は、愛を失い別れることは、愛を見つけることと同じくらい感動的なことなのだということを思い出させてくれるものです」とウィルソンは声明で語っている。このアルバムについて、彼女はこう付け加えた。
 
 
「荷物が少なかった頃、たくさんの人生を生きた頃。でも、若い頃の自分に今の私を見てほしいとも思う。私が今持っている知恵や明晰さの一部を、彼女に伝授することができたらいいと思う」
 
 


Sharlotte Day Wilson 『Cyan Blue』


 
 
Label: XL Recordings
Release: 2024/05/03
 

Tracklist:

1. My Way
2. Money
3. Dovetail
4. Forever [feat. Snoh Aalegra]
5. Do U Still
6. New Day
7. Last Call
8. Canopy
9. Over The Rainbow
10. Kiss & Tell
11. I Don’t Love You
12. Cyan Blue
13. Walk With Me
 
 
 
「I Don’t Love You」
©Jacob Webster


SZAがニューシングル「Saturn」をリリースした。彼女は、「Kill Bill」と「Snooze」を披露した2024年グラミー賞の放送中に、マスターカードの広告でこのニューシングルを予告していた。

 

SZA、カーター・ラング、ロブ・ビゼル、ソロモンフォニック、そしてモンシュンが共作したこの曲は以下で聴くことができる。アーティストは前作『SOS』でノミネート、見事グラミー賞に輝いた。

 

「Saturn」

 



テキサスのR&Bグループ、Khruangbinがネクストアルバム『A LA SALA』からセカンドシングルを発表しました。「May Ninth」は、ダウンテンポ・グルーヴを得意とするこの3人組にとって特にチルな曲で、これまでで最も効果的なヴォーカル曲のひとつ。ジェニー・ルシア・マシアとジェレミー・ヒギンズによる、とてもかわいらしいアニメーション・ビデオを以下からご視聴下さい。


『A LA SALA』は4月5日にDead Oceansからリリースされる。その後コーチェラでツアーが始まる。

 

最初の発表以来、コロラドのレッド・ロックス、バークレーのグリーク・シアター、フィリーのザ・メットでの第3弾公演、DCとサンルイス・オビスポでの追加公演など、いくつかのツアー日程を追加しています。

 

 

「May Ninth」




アルバムのレビューは以下よりお読み下さい。


New Album Review-  Khruangbin 

 

 

『A LA SALA』  Khruangbin 『A la Sala』


Label: Dead Oceans

Release: 2024/04/05

 

Tracklist:


1. Fifteen Fifty-Three

2. May Ninth

3. Ada Jean

4. Farolim de Felgueiras

5. Pon Pón

6. Todavía Viva

7. Juegos y Nubes

8. Hold Me Up (Thank You)

9. Caja de la Sala

10. Three From Two

11. A Love International

12. Les Petits Gris




Khruangbin – 2024 Tour Dates


4/14/24 – Coachella – Indio, CA
4/18/24 – Alex Madonna Expo Center – San Luis Obispo, CA*
4/19/24 – Alex Madonna Expo Center – San Luis Obispo, CA*
4/21/24 – Coachella – Indio, CA
4/23/24 – Brooklyn Bowl – Las Vegas, NV *
4/24/24 – Brooklyn Bowl – Las Vegas, NV *
4/26/24 – Revel – Albuquerque, NM *
4/27/24 – Revel – Albuquerque, NM *
5/21/24 – The Met – Philadelphia, PA ^
5/22/24 – The Met – Philadelphia, PA ^
5/23/24 – The Met – Philadelphia, PA ^
5/25/24 – Boston Calling – Boston, MA
5/26/24 – Saratoga Performing Arts Center – Saratoga Springs, NY ^
5/28/24 – Rockin’ At The Knox – Buffalo, NY ^
5/29/24 – Jacob’s Pavillion – Cleveland, OH ^
5/31/24 – History – Toronto, ON ^
6/1/24 – History – Toronto, ON ^
6/2/24 – History – Toronto, ON ^
6/4/24 -The Masonic Temple Theatre – Detroit, MI ^
6/7/24 – The Salt Shed – Chicago, IL
6/8/24 – The Salt Shed – Chicago, IL ^
6/9/24 – The Salt Shed – Chicago, IL ^
6/11/24 – Red Hat Amphitheater – Raleigh, NC
6/14/24 – Bonnaroo – Manchester, TN
7/4/24 – Roskilde Festival – Roskilde, DK
7/6/24 – Werchter Festival – Werchter, BE
7/7/24 – Down The Rabbit Hole – Ewijk, NE
7/10/24 – Jardin Sonore – Vitrolles, FR
7/11/24 – Musilac Festival – Aix-les-Bains, FR
7/12/24 – Bilbao BBK – Bilbao, ES
7/13/24 – Nos Alive Festival – Lisbon, PT
7/16/24 – Zagreb SRC Salata – Zagreb, HR
7/17/24 – Metastadt Open Air – Vienna, AT
7/18/24 – Colours of Ostrava – Ostrava, CZ
7/20/24 – Electric Castle – Bontida, RO
7/24/24 -Luzern Live Festival – Lucerne, CH
7/26/24 – Latitude Festival – Suffolk, UK
8/14/24 – Greek Theatre – Berkeley, CA %
8/15/24 – Greek Theatre – Berkeley, CA %
8/16/24 – Greek Theatre – Berkeley, CA %
8/18/24 – Edgefield – Troutdale, OR %
8/19/24 – Edgefield – Troutdale, OR %
8/21/24 – Kettlehouse – Bonner, MT %
8/22/24 Kettlehouse – Bonner, MT %
8/24/24 – Granary Live – Salt Lake City, UT %
8/26/24 – Red Rocks – Morrison, CO &
8/27/24 – Red Rocks – Morrison, CO &
8/28/24 – Red Rocks – Morrison, CO %
9/20/24 – Forest Hills Tennis Stadium – New York, New York +
9/21/24 – Forest Hills Tennis Stadium – New York, New York +
9/23/24 – The Anthem – Washington, DC $
9/24/24 – The Anthem – Washington, DC $
10/2/24 – The Factory – St.Louis, MO $
10/3/24 – The Factory – St.Louis, MO $
10/9/24 – Saenger Theatre – New Orleans, LA $
10/10/24- Saenger Theatre – New Orleans, LA $

* w/ Hermano Gutiérrez
^ w/ John Carroll Kirby
% w/ Peter Cat Recording Co.
+ w/ Men I Trust
$ w/ Arooj Aftab

 

©︎Ebru Yildiz

ムーア・マザーが、近日発売予定のアルバム『The Great Bailout』から新曲「All the Money」を発表した。ロニー・ホリー、メアリー・ラティモア、ライア・ワズとのコラボレーションによるリード・シングル「GUILTY」に続くこの曲は、ヴィジャイ・エアーが共同プロデュースし、アリヤ・アル・スルターニが参加している。監督のコーリーン・スミスによるPVは以下より。


2022年の『Jazz Codes』に続く新作アルバム『The Great Bailout』はANTI-から3月8日にリリースされる。



 

Donny Hathaway

 

現代のラップ/ヒップホップやネオソウルが政治的な主張、よりミクロな視点で見るなら、内的な問題の主張という内在的なテーマがあるように、R&Bミュージックが政治的な主張を持たぬ時代を見つけるほうが困難かもしれない。そもそもR&Bに関しては、公民権運動やブラックパンサー党の活動等の前の時代からブラックミュージックという音楽に乗せてミュージシャンが何らかの主張を交えるということは、それほどめずらしくはなかった。それは基本的に社会的な主張が許されなかった時代であるからこそ、有意義なメッセージを発信することが出来たのである。

 

R&Bは80年代に入ると、政治的な主張性における首座を、アイス・キューブを筆頭とするギャングスタ・ラップ勢に象徴される西海岸のグループに譲り、白人のロックやAORとの融合を試みた通称”ブラコン”(ブラック・コンテンポラリー)というジャンルが主流派となっていった。現地名ではUrban Contemporary(アーバン・コンテンポラリー)とも呼ばれている。


R&Bで「アーバンなサウンド」とよく評されるのは、このジャンルの余波を受けた評論用語と思われる。モータウン・サウンド等に象徴されるノーザン・ソウル、そして公民権運動に象徴されるニューソウルと呼ばれる、60年代と70年代にかけての動きの後に、黒人としての主張性が薄められ、ポピュラーなサウンドが主流となっていったのが80年代のR&Bであったらしい。

 

その時代、R&Bは死語になりつつあったが、このジャンルを節目に復活する。80年代のR&Bは日本では「ブラコン(ブラック・コンテンポラリーの略)」という名称で親しまれたのは有名で、スティービー・ワンダー、マイケル・ジャクソン、クインシー・ジョーンズ、マーヴィン・ゲイ、ダイアナ・ロスを始めとするミュージシャンがその代表的なアーティストに挙げられる。

 

上記のミュージシャンに共通するのは、それ以前の時代にジャクソン5としてニューソウルの運動の中心的な存在であったジャクソンを除いては、ポピュラー音楽との融合というテーマを持っていたことである。それは後にAORやソフト・ロックと合わさり、より軽やかなR&Bという形でメインストリームを席巻する。これらをプロモーションとして後押ししたのはMTVで、この放送局は24時間流行りの音楽をオンエアし続けていた。

 

やがて、R&Bはワンダーをはじめグラミー賞に多数のシンガーを送り出し、文字通り、スターシステムの中に組み込まれていったのは周知の通り。以後、R&Bはチャカ・カーンに代表されるようにプロデュース的なサウンドに発展し、また、90年代に入ると、ヒップホップとクロスオーバーが隆盛となる。その合間の世代にはDR. Dreなどの象徴的なミュージシャンも登場した。

 

2020年代のソウル・ミュージックを見ると、AORやジャズの影響を交えたR&Bが登場している。黒人のミュージシャンのみならず白人のアーティストにも好意的に受け入れられ、その影響を絡めたネオソウルというジャンルが2020年代のメインストリームを形成している。70、80年代のR&Bと現代のネオソウルは上辺だけ解釈してみると全然違うように聞こえるかも知れないが、実はそうではない。ブラックコンテンポラリーと現在のネオソウルの相違点を挙げるなら、現代的なポップス、テクノ、ハウスといったクラブミュージックの影響が含まれているか否かの違いしかない。そして、現代的なポップスとは、すでにハサウェイやチャカ・カーンが代表曲「Feel For You」で明示していたプロデュース的な視点を持つサウンドなのである。

 

リバイバルが発生するのは、何もロックやパンクだけにはとどまらない。スタイリッシュでアーバン、比較的、ライトな印象のあるブラック・ミュージックのジャンルが、2020年代中盤のR&Bに重要なエフェクトを及ぼす可能性は少なくない。ジェシー・ウェアをはじめとするアーティストにディスコサウンドの影響がハウスやテクノとともに含まれているのと同様である。

 

今回、ご紹介するブラック・コンテンポラリーの入門編とアーティストは、その最初期のウェイブを形成した先駆者で、80年代のR&Bシーンの音楽市場の土壌を形成した。以下のガイドは、アーバンなソウルとはどんな感じなのか、その答えを掴むための最良のヒントになるはずである。よりコアなブラコンのディスクガイドに関しては専門的な書籍を当たってみていただきたい。

 

 

Stevie Wonder  『Song In The Key Life』 1976




ブラックコンテンポラリーの先駆者として名高いのがご存知、スティービー・ワンダーである。モータウン時代はもとより、70年代のニューソウル運動を率い、現在でも大きな影響力を持つ。70年代のブラック・ミュージックの思想的な側面を削ぎ落とし、それらをライトで親しみやすい音楽にしたことが、ブラック・コンテンポラリーの最大の功績と言われている。

 

スティーヴィー・ワンダーといえば、ソウルバラードの達人であり、ピアノの弾き語りのイメージが強いが、このアルバムではファンクやホーンをフィーチャーしたご機嫌なファンクソウルサウンドが主体である。それはハサウェイと同じようにフュージョンジャズの音楽を取り入れている。代表曲「Sir Duke」はご機嫌なホーンのフィーチャーがマイルドなワンダーと声と見事な合致を果たしている。「I Wish」ではのちにジャクスンが80年代に試みたブラコンの商業的なイメージの萌芽を見出せる。80年代のメインストリームのR&Bの素地を作ったアルバムと見ても良さそうだ。

 

 

 


Donny Hathaway 『Extension Of a Man』 1973

 

 

ブラック・コンテンポラリーという趣旨に沿った推薦盤としては、『Robert Flick Feat. Donny Hathaway」が真っ先に挙げられることが多いのだが、ダニー・ハサウェイはやはりこのアルバムで、クロスオーバーの先駆的なアルバム。映画のような壮大なストリングスを交えたオープニング、ジャズやニューソウルの影響を交えた「Someday We'll All Be Free」はソウルミュージックの歴史的な名曲とも言えるだろう。


ファンク、フュージョン・ジャズの影響はもとより、このアルバムには、ブラジル音楽等の影響も取り入れられている。その合間に導入される現在のサンプリングやミュージックコンクレートのような手法を見る限り、現代の多くのアルバムは、今作の足元にも及ばない。発想力の豊かさ、卓越した演奏力、圧倒的な歌唱力、どれをとっても一級品であり、現在のデジタルの音質にも引けを取らない作品。ハサウェイの最高傑作と目されるのも頷けるR&Bの大作である。

 

 

 

 

Quincy Jones 『The Dude』 1981


アメリカのミュージシャン、プロデューサーのクインシー・ジョーンズによる1981年のスタジオ・アルバム。ジョーンズは多くのスタジオ・ミュージシャンを起用した。元々、トランペット奏者であったクインシーはジャズ、ソウル、ポップス、ロックと多角的な音楽性をもたらした。70年代には盛んだったクロスオーバーを洗練された音楽性へと昇華させたのがクインシーだ。元々プロデューサーとして活躍していたクインシーこそ、ブラコンの仕掛け人であるという。


『The Dude』はディスコサウンドの影響を残しながら、ポピュラー音楽寄りのアプローチをみせている。「Ai No Corrida」はどれくらいラジオやテレビでオンエアされたか計測不可能である。クインシーはこのアルバムを通じて、ロックやファンクを視点にして、グルーブ感のあるダンサンブルなソウルを追求している。AOR/ソフト・ロックに近いバラード「Velas」も必聴だ。

 

リード・シングル「Ai No Corrida」のダンス・エアプレイが多く、トップ40で28位、UKシングル・チャートで14位を記録。イギリスで11位を記録した「Razzamatazz」(パティ・オースティンがヴォーカル)も収録。同国におけるジョーンズのソロ最大のヒット曲となった。ルバム・オブ・ザ・イヤーを含むグラミー賞12部門にノミネートされ、第24回グラミー賞では3部門を受賞した。


 

 


 

Marvin Gaye 『Midnights』 1982


それまでモータウンの看板アーティストであった、マーヴィン・ゲイは、レーベルとの関係が悪化し、制作費を捻出できなったことから、いわゆるバンド主体のアプローチとは別のシンセ主体の音楽性へと突き進んだ。マーヴィンは、その後、CBSからの提案を受け入れ、コロムビアから三作のアルバムのリリースの契約を交わした。モータウンとの距離を置いたことが良い影響を及ぼし、ノーザン・ソウルから距離を置いたアーバンなソウルを生み出す契機となった。

 

享楽的ともいえるアーバンソウルの音楽には以前のマーヴィンのソウルから見ると、軽薄なニュアンスすら感じられるかもしれないが、レーベルとの契約の間で揺れ動いていたのを見ると、致し方無い部分もある。それ以前に対人のアルバムを制作したために、ファン離れを起こしていたマーヴィンはファンを取り戻すために、メインストリームの音楽を録音しようとした。前作『In Our Lifetime』のように内面に目を向けるのではなく、商業的なサウンドを追求することにした理由について、「今を逃すわけにはいかない。ヒットが必要なんだ」と語っていた。


 

 


Michael Jackson  『Off The Wall』 1971


 

 1979年の最大のベストセラーであり、ブラックコンテンポラリーの象徴的なアルバムと言われている。ソウルミュージックの評論家の中には、『Thriller』よりも高い評価を与える方もいるが、まったくの同意である。というか、マイケル・ジャクソンの最高傑作はこのアルバム。

 
『オフ・ザ・ウォール』(Off The Wall)は、1979年に発売されたマイケル・ジャクソンの5作目のオリジナル・アルバム。『ローリング・ストーン誌が選ぶオールタイム・ベストアルバム500』(2020年版)に於いて、36位にランクイン。


1979年、初めてクインシー・ジョーンズをプロデューサーに迎えて制作された。エピック・レコードからは初、モータウン・レコード時代を含めた通算では5作目のソロ・アルバム。



それまでのマイケルのソロ・アルバムは、制作サイドが主導して作られたもので、マイケルは用意された曲を歌うだけだったが、本作ではクインシーが主導権を持っていたものの、マイケルの自作曲やアイデアも随所に入れられている。ロッド・テンパートン、ポール・マッカートニー、スティーヴィー・ワンダーからの楽曲提供、バックの演奏もクインシーの息のかかった一流ミュージシャンを起用するなど、アルバムのクオリティがそれまでと比べて格段に洗練された。このアルバムから真の意味でのマイケルのソロ活動が始まったと言って良く、「『オフ・ザ・ウォール』こそ、マイケルの本当の意味でのファースト・アルバム」と言う人もいる。 




 


Whitney Houston 『Whitney Houston』 1985

 


なぜ、このアルバムを入れるのかというと、R&Bやポピュラー音楽としての影響力はもとより、現在のシンセ・ポップというジャンルにかなり深い影響を及ぼしている可能性があるということ。ホイットニー・ヒューストンは80年代の最高の歌手の一人であるが、このアルバムは基本的にはポピュラーアルバムで、ディープなソウルファンには物足りなさもあるかも知れない。


ただ、ポップスにソウルの要素をさりげなくまぶすというセンスの良さについては、現代のミュージシャンにとってヒントになりえる。アーバンソウルの都会的な雰囲気や、同年代に、ジョージ・ベンソンが試みた近未来志向のポップスという要素も散りばめられている。80年代の懐メロという印象があるかもしれないが、ケイト・ブッシュの再ヒットなどを見る限り、むしろ、現在こそ、ホイットニー・ヒューストンの再評価の機運が高まる可能性も予想される。

 

AOR/ソフト・ロック志向のR&Bポップスの名盤という意味では、ホイットニーは現代のリスナーの耳に馴染むようなアーティストと言えるのではないか。なぜなら現代のミュージックシーンはAORが重要視されているからである。ファルセットの美しさに関しては不世出のシンガーである。人を酔わせるメロディーとはいかなるものなのか、その模範的な事例がここにある。


 



Diana Ross 『Diana』 1980

 

 


 

シュープリームスを離脱後、ダイアナ・ロスはソロアーティストとして「Ain't Know Mountain High Enough」等、複数のヒット作に恵まれた。70年代には低迷期があったというダイアナ・ロスであるが、ナイル・ロジャースがプロデュースした『Diana』で第二の全盛期を迎える。反ディスコの気風の中、制作されたというが、その実、ファンクやディスコの影響も取り入れられている。それがロスの持つスタイリッシュかつアーバンな雰囲気と一致した一作だ。

 

 TV Oneの『Unsung』のエピソードでナイル・ロジャースは、曲の大半はロスとの直接の会話の後に作られたと語った。彼女はロジャースとバーナード・エドワーズに、自分のキャリアを "ひっくり返したい"、"もう一度楽しみたい "と言ったと伝えられている。結果、ロジャースとエドワーズは 「Upside Down」と 「Have Fun (Again)」を書いた。

 

クラブでダイアナ・ロスの格好をした何人かのドラッグ・クイーンに出くわしたロジャースは、「I'm Coming Out」を書いた。My Old Piano」だけが、彼らの通常の曲作りのプロセスから生まれた。「Upside Down」は全米チャート首位を獲得し、「I’m Coming Out」も5位以内にチャートインした。ロスの80年代のキャリアを決定づける傑作と言っても良いかもしれない。


 

 

Chaka Khan 『I Feel For You』 1984


 

 

今聴いても新鮮な感覚を持って耳に迫るチャカ・カーンの『I Feel For You』。カーンはルーファスのフィーチャリング・シンガーとして、70年代にヒットを飛ばしていた。ダニー・ハサウェイと同じようにゴスペルにルーツを持ちながらも、それをあまり表に出さず、叫ぶようなボーカルを特徴とするカーンのボーカルスタイルは70年代の女性シンガーに多大な影響を与えた。『I Feel For You』はプリンスのカバーで、スティーヴィー・ワンダーのハーモニカをフィーチャーしている。チャカ・カーンにとっての最大のヒット・ソングとなった。現在のプロデュース的な視点を交えたポップスに傾倒したR&Bのアルバムとして楽しむことが出来る。


現在、チャカ・カーンはローリングストーンのインタビューに答え、ツアーの引退を表明し、ガーデニングをしながら悠々自適の生活を送っている。単発のライブに関しては行う可能性があるという。





George Benson 『While The City Sleeps』 1986

 


ジョージ・ベンソンはソウル・ジャズのオルガン奏者、ジャック・マクダフとのバンドを経たギタリストで、76年にはフュージョンの先駆けのような曲「Breezin」を制作した。だが、この年代にはスティービー・ワンダーとダニー・ハサウェイの影響を受け始め、ブラックコンテンポラリーの道に入っていくことになる。

 

1986年のアルバム『While The City Sleeps』は驚くほどライトなポップで、アーティストのイメージを覆す。AOR/ソフト・ロックに、ベンソンが傾倒したことを裏付ける作品である。その中にはこのジャンルの中にある近未来的なシンセ・ポップの影響も伺い知ることが出来る。ジョージ・ベンソンというと、渋いソウルというイメージがあるが、それらのイメージを払拭するような作品である。この年代、前のニューソウルの時代から活躍していたシンガーの中で、最も時代に敏感な感覚を持つミュージシャンはこぞって、ロックやポップスとのクロスオーバーを図っていたことがわかる。今聴いても洗練されたポピュラー・アルバムと言えるのだ。 


 

 



Lionel Ritchie 『Dancing On The Ceiling』 1986



 

コモドアーズのメンバーでもあり、後にソロアーティストとして、そしてパラディ・ソウルの象徴的なシンガーに挙げられるライオネル・リッチー。彼の全盛期を知らない私のようなリスナーにとっては、ジャクソンやスティーヴィーと共演した「We Are The World」のイメージの人という感じだ。どうやら、リッチーが歌手としての実力に恵まれながらも、いまいちコアなソウルファンからの評価が芳しくないのは、白人の音楽市場に特化したことが理由であるらしい。


ダニー・ハサウェイのような黒人としてのアイデンティティ云々という要素は乏しいが、現在、メロウなポップスやAORというジャンルが取りざたされるのを見ると、今、まさに聴くべきアーティストなのではないかというのが印象である。確かにヒット曲でさえもその曲調はいくらか古びてしまったが、今なお彼の卓越した歌唱力、メロウな音の運びは現代的なリスナーにも親しまれる可能性を秘めている。『Can’t Slow Down』とともにリッチーの代表作に挙げられる。

 





Prince  『1999』  1982

 


 

プリンスといえば真っ先に『Purple Rain』のヒットにより、スターミュージシャンの仲間入りを果たした。ノーザンとサザン、サウスで別れていたR&Bの勢力図をスライ・ザ・ファミリーとともに塗り替えた。彼は10代の頃からすでにバンドにおいて、ダンスソウルの音楽性、そしてマルチインストゥルメンタリストとしての演奏力に磨きを掛けてきたが、その後のレコード契約、ひいてはスターミュージシャンとしての道のりはある意味では、付加物のようなものだったと思われる。


革新的とされたファンク・ソウルやシンセサイザーをフィーチャーしたスタイルは、それ以前の80年代にすでに行われていたものだったというが、彼のサウンドはエキセントリックかつエポックメイキングであるにとどまらず、現在のハイパーポップやエクスペリメンタルポップというジャンルの先駆者である。つまり、R&Bというのはプリンスにとって1つの装置のようなもので、その影響をもとに、様々な要素を取り入れ、それらの実験的でカラフルなイメージを持つポップスとして組み上げていった。

 

『1999』は今聴いても新鮮なアルバム。解釈によってはロジャー・プリンスの全盛期をかたどったアルバムと言えるだろうが、ボーカルから立ち上るスター性や独特な艶気はシアトリカルな要素を込めた「総合芸術としてのライブエンターテイメント」の始まりではなかったかと思われる。