また、Jungle Giants、Magic City Hippies、Goldroomなどのサポートとしても活動。UKの「The Great Escape Festival」やサンフランシスコの「Noise Pop」、アリゾナ州で行われた「M3F Festival」にDominic Fike、Arlo Parks、Bakarと並び出演するなど大きな注目を集めている。2023年8月にはEP『Le Soir』、そこからわずか半年後の2024年2月にもEP『Matinee』をリリース。世界中の音楽ファンを魅了するティム・アトラスから目が離せない。
Yaya Bey 『Ten Fold』
Label: Big Dada
Release: 2024/05/10
Review 癒やしに充ちたスモーキーなネオソウル
ニューヨークの気鋭のネオ・ソウルシンガー、Yaya Bey(ヤヤ・ベイ)はすでに2022年のアルバム『Remember Your North Star』でシンガーとしてもソングライターとしても洗練された才覚を発揮し、シーンで存在感を示している。このことはコアなR&B/ソウルファンであればご存じのはず。
インプリントということで、ニンジャ・チューンらしいサウンドも反映されている。ロンドンのJayda Gがヒップホップとソウルの中間域にあるモダンなサウンドを、昨年の「Guy」で確立したが、この作品には、ヒップホップのサンプリングをストーリーテリングの手法として導入するという画期的な手法が見受けられた。 補足すると、Jayda Gが試みたのは家族のストーリーをサンプリングとして導入するというもので、スポークンワードの中で文学的にそれを表現するのではなく、サンプルのネタとして物語性を暗示的に登場させるという手法である。これは例えば、デル・レイの最新作にも共通している。もっと言えば、このサンプルの技法は、ストーリーにとどまらず、フレンドシップやコミュニティを表現することもできるかもしれない。「east coast mami」ではスポークンワードのサンプルを導入し、音飛びのしないブレイクビーツの規則的なリズムを背景にし、ヤヤ・ベイはメロウでマイルドな質感を持つリリックと歌を披露している。アルバムの中盤に収録されている「eric adams in the club」にもこの手法が見出せる。
基本的にはヤヤ・ベイのソングライティングのスタイルはヒップホップとソウルの中間に位置していて、同時にそれがこのアルバム全般的な特色やキャラクターともなっているが、音楽性の中心点から少しだけ離れる場合もある。例えば、「Slow dancing in the kitchen」では、Trojan在籍時代のBob Marleyのレゲエサウンドを踏まえ、それらを現代的な質感を持つソウルミュージックとしてアウトプットしている。これらのサウンドは、シリアスになりすぎたヒップホップやソウルにウィットやユニークさを与えようという、ヤヤ・ベイの粋な取り計らいでもあろう。その他にも、ユニークな曲が収録されている。「so fantasic」では、Mad Professor、Linton Kwsesi johnsonのような古典的なダブサウンドに近づく楽曲もある。しかし、歌にしても、ソングライティングにしても、少しルーズで緩い感覚があり、それこそが癒やしの感覚をもたらす理由でもある。これらのチルアウトに近いレゲエやソウルの方向性は、ノッティンガムのYazmin Lacey「ヤスミン・レイシー)の最新作『Voice Notes』の系統にあるサウンドと言えるか。
これらの多角的な音楽性は基本的には、メロウなソウルという感じで、全体的なアルバムの印象を形作っている。それは真夜中の憂鬱や憂いというイメージを孕んでいるが、一方でブラックミュージックの華やかさに繋がる瞬間もある。例えば、先行シングルとして公開された「me and all n---s」は、ダウナーな感覚を持ちながらも、背後のオルガンの音色と合わせて、ヒップホップのニュアンスが少し高まる瞬間、ダークで塞いだ気持ちを持ち上げるような効果がある。
彼女の強力な2022年のアルバム「Remember Your North Star」をリリースしてから9ヶ月後、ヤヤは激動を通して進化する準備を整えた北星のExodusで戻ってきました。「私は通常、アルバムに入るときに、このテーマ全体のものを持つようにしています。しかし、私が人生が起こっていたときに作ったこのアルバム」と彼女は言う。
そのようなオープンエンドの創造的なリズムの中で働くことで、ヤヤは音楽とそれ以降の彼女の仕事に知らせるすべての努力、感情、経験を伝える瞬間でアルバムを豊かにすることができました。彼女は詩人、抗議のストリートメディックとして人生を送り、サナアと呼ばれる相互扶助組織、アートキュレーター(PGアフリカ系アメリカ人博物館)、そしてブルックリンのモカダ博物館に居住し、過去のプロジェクトのカバーアートを制作したミクストメディアアーティストを設立しました(「ケイシャ」、「9月13日」、「The Things I Can't Take With Me EPなど)。
3作目のEP「Stone Woman」でもウィルソンは注目を集めた。収録曲「Falling Apart」はジェイムス・ブレイクが「I Keep Calling」でサンプリングを行った。2021年頃にはR&Bアーティストとして国内で評価される。2021年のシドをフィーチャリングしたシングル「Take Care Of You」でジュノー賞のトラディショナルR&B/ソウルのレコーディング・オブ・ザ・イヤーを獲得した。
その後の#4「Forever」でもボーカルのオートチューンや複雑な対旋律的なコーラスの導入は顕著な形で表れる。この曲にはエレクトロニックの影響があり、サンプリング的に処理されたピアノとソフトシンセの実験的なエフェクト処理が施されたマテリアルが多角的なネオソウルを作り上げる。ウィルソンのボーカルについても、「しっとりとしたソウル」とよく言われるように、落ち着いたアルトボイスを基本に構成される。けれども、それらのボーカルのニュアンスはジェイムス・ブレイクが以前話していた”ビンテージソウルの温かみ”がある。最新鋭のレコーディングシステムや多数のプラグインを使用しようとも、ボーカルやトラックには深いエモーションが漂い、それがそのままアルバムの導入部の魅力ともなっている。さらに曲の後半では、ミックスボイスに近い伸びやかな鼻声のボーカルが華やかさを最大限に引き上げていきます。続く#5「Do U Still」でも中音域のボーカルを中心にして、しっとりとした曲が作り上げられる。この曲では、旋律よりもリズムが強調され、それはスキッターな打ち込みのドラムが、ボーカリストがさらりと歌い上げるメロディーや複合的な和音のメロウさを引き立てている。
この2曲はダンスフロアのクールダウンのような意図を持つリラックスした箇所として楽しめる。そして、中盤の最大のハイライトがジュディー・ガーランドのカバー「Over The Rainbow」である。''オズの魔法使い''の主題歌でもあったこの曲を、デイ・ウィルソンは、ゴスペルとネオソウルという二つの切り口から解釈している。ここには、カバーの模範的なお手本が示されていると言えるでしょう。つまり、原曲を忠実に準えた上で、新しい現代的な解釈を添えるのである。基本的なメロディーは変わっていませんが、何か深く心を揺さぶられるものがある。これはデイ・ウィルソンが悲劇のポップスターの名曲を心から敬愛し、そして、霊歌や現代のソウルR&Bに至るまで、すべてにリスペクトを示しているからこそなし得ることなのでしょうか? そしてミュージシャンの幼少期の記憶らしきものが、最後の子供の声のサンプリングに体現される。
#11「I Don't Love You」では「Over The Rainbow」と同じく、古いゴスペルを鮮やかなネオソウルに生まれ変わらせる。ピアノとボーカルにはデチューンが施され、入れ子構造やメタ構造のような意図を持つ弾き語りのナンバーとも解釈出来る。落ち着いた感じのイントロ、中盤部のブリッジからサビの部分にかけて緩やかな旋律のジャンプアップを見せる箇所に素晴らしさがある。なおかつタイトルのボーカルの箇所では、シンガーの持つ卓越したポピュラリティーが現れる。しかし、多幸感のある感覚は、アウトロにかけて落ち着いた感覚に代わる。ウッドベースに合わせて歌われるウィルソンの神妙なボーカルは、このアルバムの最大の聞き所となりそう。
”Cyan Blue”は全体的にブルージーな情感もあり、ほのかなペーソスもあるが、アルバムの最後はわずかに明るい感覚をもってエンディングを迎える。クローズ「Walk With Me」は他の曲と同じように落ち着いていて、メロウな空気感が漂うが、ドラムのリズムはアシッドなグルーヴ感を呼び起こし、それに加えてローファイの要素が心地よさをもたらす。スタイリッシュさやアーバンな雰囲気が堪能出来るのはもちろん、超実力派のシンガーによるR&Bの快作の登場です。
クルアンビンのトリオが重視するのは曲の構成やロジカルではなく、スタジオのライブセッションから作り出されるリアルな心地良さ。ムード感とも言えるが、シンプルなスネアドラムとベースライン、フランジャーの印象が強いギターは見事な融合をみせ、アフロソウルを基調とする唯一無二のサウンドを丹念に作り上げていく。ライブセッションでの間の取り方やリズムの合わせ方など、演奏面では目を瞠るものがあり、それらはリゾート的な雰囲気を越えて、Architecture In Helsinkiの名曲「Need To Shout」のように天国の空気感にたどり着く場合がある。
前のアルバムがどうだったのかは定かではないが、アフロソウルやフュージョンの要素に加え最新作ではレゲエ/ダブのサウンドが強い印象を放つ。「Todavia Viva」はスネアのリムショットで心地よいリズムを生み出し、淡いダブサウンドを追求する。「Juegos y Nubes」は、Trojan時代のボブ・マーリーの古典的なレゲエをベースに、ライブセッションを通じて、心地よい音を探ろうとしている。
やはり「May Ninth」と同じように、ムード感が重視されていて、コンフォタブルな感覚を味わうことができる。正確な年代こそ不明であるが、60年代、70年代のファンクソウルをベースにした「Hold Me Up」はヴィンテージソウルに対する彼らの最大の賛辞代わりである。アルバムの終盤に収録されている「A Love International」では、セッションのリアルな空気感とスリリングな音の運びを楽しむことができる。この曲でもフュージョン・ジャズに焦点が置かれている。
アルバムの中にダンスフロアのクールダウンのような形で導入されているトラックが複数ある。例えば、「Farolim de Felguriras」では、ダブやアフロソウルをニューエイジやアンビエントのような形に置き換えていて面白い。その他、「Caja de la Sala」ではギターのリバーブやディレイのエッフェクトを元に、ニューエイジ/ヒーリングミュージックに近い質感を作り出している。
ヴィッキー・フェアウェル(Vicky Farewell)の2ndアルバム『Give a Damn』はMac's Record Labelから5月10日にリリースされる。その名の通り、LAを拠点とするこのアーティストを、スウィートなヴォーカルに彩られたR&Bのスロージャムと官能的なシンセファンクの立役者として紹介している。
アルバムの最新シングル "Push It "は、彼女の最もシュガーコーティングされた作品のひとつに数えられる。ミニマルな催眠インストゥルメンタルが、昔の恋愛を回想するファーウェルのクーイング・ヴォーカルの土台を築く。
「停滞することへのフラストレーションを表現したかった。時には、みんなを一緒に連れて行くことができない、という悲痛な現実に直面することもあるのだから。ポール・サイモンの『Still Crazy After All These Years』という曲をいつも思い出す。この特別な曲をどの視点から見るかにもよるけれど、『Push It』はそれを私が翻案したものなの」
アルバムのオープニングを飾る「Closer」はディープ・ハウスの気風を残しつつも、そのサウンドの風味は驚くほど軽やかで爽やかである。それはかつてのアーバン・コンテンポラリーに属するアーティストがR&Bとポップスを融合させ、ブラック・ミュージックとしての深みとは対極にある軽やかさという点に焦点を絞っていたのを思い出す。これらのサウンドの最終形態は、チャカ・カーンの1984年の「Feel For You」によって集大成を見ることになった。チャカ・カーン等のニューソウルにまつわるサウンドについては、ブラック・ミュージックの評論の専門家によると、以前のR&Bに比べて、「編集的なサウンド」と称される場合がある。これはソングライターのリアルな歌唱力や、R&Bそのものが持つ渋さとは相異なる新境地を開拓し、その後のマイケル・ジャクスンに象徴されるような、きらびやかなポップスへの流れを形作った経緯がある。これは、現代的なオルタナティヴロックと同じように、録音したものをスティーブ・ライヒのようにミュージック・コンクレートの編集を加え、磨き上げるという手法によく似ている。
迫力のあるベースラインを強調するロイシンやジェシーとは異なり、明らかにファビアーナのR&Bサウンドは、軽妙なAOR/ソフト・ロックの系譜に属する。いわばその軽やかさは、二曲目の「Can You Look In The Mirror?」で示されるように、クインシー・ジョーンズやマーヴィンの80年代のアプローチに近いものがある。そしてこの点が低音域が強調されるハウスのサウンドとはまったく異なる。ファビアーナのサウンドは、ココ・シャネルのデザインのように足し算ではなく引き算によって生み出される。これがおそらく耳にすんなりと馴染む理由なのだろう。
R&Bシンガーとしての才覚が遺憾なく発揮された「Stay With Me Through The Night」はこのアルバムのハイライトとなりそうだ。ダイアナ・ロスの80年代の作風をわずかに思い出させる。この時代、ロスは以前の時代の作風から離れ、開放的で明るいサウンドを志向していた。ファビアーナの場合は、それよりも落ち着いたメロウなサウンドを作り出している。この曲には、デビューアルバムということを忘れさせてしまうほど、どっしりとした安定感が込められている。もちろん、その道二十年で活躍するようなベテランのシンガーのような信頼感がある。また他の曲に比べ、ファンクソウルの性質が強く、そしてベースラインも強調されている。これが他の曲よりも深いグルーブ感をもたらしている。ダンスフロア向きのナンバーと言えそうだ。
ファビアーナ・パラディーノのアーバンソウル/ネオソウルの次世代を行くサウンドは、その後、さらに明るい印象を以ってクライマックスへと向かう。 「Deeper」では同じように、ジョージ・ベンソンの近未来的なソウルのバトンを受け継ぎ、よりモダンな印象を持つサウンドへと昇華させる。続く「In The Fire」では、低音域の強いディープ・ハウス、アシッド的な香りを持つR&BをEDMのサウンドと結びつける。パラディーノのR&Bの表現は、その後もスムーズに繋がっていく。これらの流動的なR&Bサウンドを経たのち、クローズ「Forever」において、しっとりとしたメロウなソウルでエンディングを迎える。分けてもバラードという側面でシンガーの並々ならぬ才覚が発揮された瞬間だ。今年度のR&Bの中では間違いなく注目作の一つとなる。
R&Bの影響を受けたサウンドは、すでにクラシックな雰囲気を醸し出している。彼女はこれまで
4月に発表したゴスペル調の "Work "から、BADBADへのゲスト参加まで、静かに曲を作り続けている。からBADBADNOTGOODの "In Your Eyes "へのゲスト参加まで、彼女は静かに曲を生み出している。
テキサスのR&Bグループ、Khruangbinがネクストアルバム『A LA SALA』からセカンドシングルを発表しました。「May Ninth」は、ダウンテンポ・グルーヴを得意とするこの3人組にとって特にチルな曲で、これまでで最も効果的なヴォーカル曲のひとつ。ジェニー・ルシア・マシアとジェレミー・ヒギンズによる、とてもかわいらしいアニメーション・ビデオを以下からご視聴下さい。
『A LA SALA』は4月5日にDead Oceansからリリースされる。その後コーチェラでツアーが始まる。
ムーア・マザーが、近日発売予定のアルバム『The Great Bailout』から新曲「All the Money」を発表した。ロニー・ホリー、メアリー・ラティモア、ライア・ワズとのコラボレーションによるリード・シングル「GUILTY」に続くこの曲は、ヴィジャイ・エアーが共同プロデュースし、アリヤ・アル・スルターニが参加している。監督のコーリーン・スミスによるPVは以下より。
2022年の『Jazz Codes』に続く新作アルバム『The Great Bailout』はANTI-から3月8日にリリースされる。
2020年代のソウル・ミュージックを見ると、AORやジャズの影響を交えたR&Bが登場している。黒人のミュージシャンのみならず白人のアーティストにも好意的に受け入れられ、その影響を絡めたネオソウルというジャンルが2020年代のメインストリームを形成している。70、80年代のR&Bと現代のネオソウルは上辺だけ解釈してみると全然違うように聞こえるかも知れないが、実はそうではない。ブラックコンテンポラリーと現在のネオソウルの相違点を挙げるなら、現代的なポップス、テクノ、ハウスといったクラブミュージックの影響が含まれているか否かの違いしかない。そして、現代的なポップスとは、すでにハサウェイやチャカ・カーンが代表曲「Feel For You」で明示していたプロデュース的な視点を持つサウンドなのである。
ブラック・コンテンポラリーという趣旨に沿った推薦盤としては、『Robert
Flick Feat. Donny
Hathaway」が真っ先に挙げられることが多いのだが、ダニー・ハサウェイはやはりこのアルバムで、クロスオーバーの先駆的なアルバム。映画のような壮大なストリングスを交えたオープニング、ジャズやニューソウルの影響を交えた「Someday
We'll All Be Free」はソウルミュージックの歴史的な名曲とも言えるだろう。
『The Dude』はディスコサウンドの影響を残しながら、ポピュラー音楽寄りのアプローチをみせている。「Ai No Corrida」はどれくらいラジオやテレビでオンエアされたか計測不可能である。クインシーはこのアルバムを通じて、ロックやファンクを視点にして、グルーブ感のあるダンサンブルなソウルを追求している。AOR/ソフト・ロックに近いバラード「Velas」も必聴だ。
リード・シングル「Ai No Corrida」のダンス・エアプレイが多く、トップ40で28位、UKシングル・チャートで14位を記録。イギリスで11位を記録した「Razzamatazz」(パティ・オースティンがヴォーカル)も収録。同国におけるジョーンズのソロ最大のヒット曲となった。ルバム・オブ・ザ・イヤーを含むグラミー賞12部門にノミネートされ、第24回グラミー賞では3部門を受賞した。
シュープリームスを離脱後、ダイアナ・ロスはソロアーティストとして「Ain't Know Mountain High Enough」等、複数のヒット作に恵まれた。70年代には低迷期があったというダイアナ・ロスであるが、ナイル・ロジャースがプロデュースした『Diana』で第二の全盛期を迎える。反ディスコの気風の中、制作されたというが、その実、ファンクやディスコの影響も取り入れられている。それがロスの持つスタイリッシュかつアーバンな雰囲気と一致した一作だ。
TV Oneの『Unsung』のエピソードでナイル・ロジャースは、曲の大半はロスとの直接の会話の後に作られたと語った。彼女はロジャースとバーナード・エドワーズに、自分のキャリアを "ひっくり返したい"、"もう一度楽しみたい "と言ったと伝えられている。結果、ロジャースとエドワーズは 「Upside Down」と 「Have Fun (Again)」を書いた。
クラブでダイアナ・ロスの格好をした何人かのドラッグ・クイーンに出くわしたロジャースは、「I'm Coming Out」を書いた。My Old Piano」だけが、彼らの通常の曲作りのプロセスから生まれた。「Upside Down」は全米チャート首位を獲得し、「I’m Coming Out」も5位以内にチャートインした。ロスの80年代のキャリアを決定づける傑作と言っても良いかもしれない。
Chaka Khan 『I Feel For You』 1984
今聴いても新鮮な感覚を持って耳に迫るチャカ・カーンの『I Feel For You』。カーンはルーファスのフィーチャリング・シンガーとして、70年代にヒットを飛ばしていた。ダニー・ハサウェイと同じようにゴスペルにルーツを持ちながらも、それをあまり表に出さず、叫ぶようなボーカルを特徴とするカーンのボーカルスタイルは70年代の女性シンガーに多大な影響を与えた。『I Feel For You』はプリンスのカバーで、スティーヴィー・ワンダーのハーモニカをフィーチャーしている。チャカ・カーンにとっての最大のヒット・ソングとなった。現在のプロデュース的な視点を交えたポップスに傾倒したR&Bのアルバムとして楽しむことが出来る。
1986年のアルバム『While The City Sleeps』は驚くほどライトなポップで、アーティストのイメージを覆す。AOR/ソフト・ロックに、ベンソンが傾倒したことを裏付ける作品である。その中にはこのジャンルの中にある近未来的なシンセ・ポップの影響も伺い知ることが出来る。ジョージ・ベンソンというと、渋いソウルというイメージがあるが、それらのイメージを払拭するような作品である。この年代、前のニューソウルの時代から活躍していたシンガーの中で、最も時代に敏感な感覚を持つミュージシャンはこぞって、ロックやポップスとのクロスオーバーを図っていたことがわかる。今聴いても洗練されたポピュラー・アルバムと言えるのだ。
Lionel Ritchie 『Dancing On The Ceiling』 1986
コモドアーズのメンバーでもあり、後にソロアーティストとして、そしてパラディ・ソウルの象徴的なシンガーに挙げられるライオネル・リッチー。彼の全盛期を知らない私のようなリスナーにとっては、ジャクソンやスティーヴィーと共演した「We Are The World」のイメージの人という感じだ。どうやら、リッチーが歌手としての実力に恵まれながらも、いまいちコアなソウルファンからの評価が芳しくないのは、白人の音楽市場に特化したことが理由であるらしい。