昨年、ウィリアムソンとワクサハッチーのケイティ・クラッチフィールドは、Plains(プレインズ)名義で『I Walked With You A Ways』をリリースし、女性としての自信と仲間意識、そしてストレートなカントリーバンガーとバラードでウィスキー片手に溢れるほどの絶賛を浴びたレコードです。過去にMexican Summerからリリースした『Cosmic Wink』(2018年)と『Sorceress』(2020年)の後、ウィリアムソンは新しい方向へシフトする準備が整っていると感じていました。幼少期に愛したものを再確認し、プロセスをシンプルにし、友人と音楽を作ることは、ウィリアムソンにとって最高の前進であることが証明された。
2020年初頭、新たな疎遠に慣れ、自分の思考と隔離されながら、ウィリアムソンは自宅で一人でストリップバックな単体シングル「花の絵」を書き、レコーディングを行った。この経験は、『Time Ain't Accidental』の土台となった。この曲の歌詞のテーマは、地上的で平易なもので、ウィリアムソンの声はドラムマシーンに合わせられ、友人のメグ・ダフィー(ハンド・ハビッツ)による質感のあるギターと組み合わされている。やがてウィリアムソンは、音楽的には自分一人でも十分に通用する、いや、それ以上に優れていることに気づく。Weyes Blood、Kevin Morby and Hamilton Leithauser、José Gonzálezとのツアーは、この新しい自己肯定感を強め、それまで演奏したことのない規模のスペースで彼女の声を響かせることができた。
「Tobacco Two Steps」では、古き良きフォークバラードの形式を通じて、懐かしい米国の文化性を呼び覚まそうとしている。幻影的な雰囲気の向こうには、今最も注目を受けるワイズ・ブラッドの書くような古典的なポピュラー・ミュージックへの親和性が示されている。それは時代が変われど、良い音楽の理想的な形は大きく変わらないことを証明づけている。この曲には、砂漠の風景をはじめとするワイルドな情景がサウンドスケープとして呼び覚まされるかのようである。それは、ワイルドであるとともに、映画的なロマンスも読み解くことも出来る。しかし、曲を聴きつつ、どのような情景を想像するのか、それは聞き手の感性に委ねられているのです。
アルバムのジャケットを見てみれば分かる通り、デザインされるアーティストの姿、その背後はなだらかな草原が広がり、また青と紫とピンクをかけ合わせたような神秘的な空、その向こうに一筋の稲妻が走る。こういったジャケットは、一昔、米国のロックアーティストが80年代頃に好んで取り入れていたものだったと記憶しているが、それらの神秘的な光景をタイトル曲とともに想起させるのが、続く「God In Everything」となるだろうか。ジェス・ウィリアムソンは、この数年間を、それほど思い通りになることは少なかった、と振り返るが、しかし、そこには神なるものの導きがあったことを、この曲の中でほのめかしている。神。わたしたちは、それをひげをはやした人型の何かと思いがちではあるが、彼女にとってそうではなくて、それは背後の稲妻のように、みずからが相応しい場所にいて、相応しい行動を取っているということなのだという。もちろん、そういった考えに裏打ちされたこの曲は無理がなく、自然に倣うという形で展開される。ペダル・スティールの渋さについては言わずもがな、この曲ではこの数年間の思い出が刻まれ、肯定的な思いで、それらの記憶を優しく包み込む。それは最後にフォークからゴスペルに代わり、そういった人智では計り知れない存在にたいする感謝のような思いすら感じさせる。感謝。それはそのまま人生に対する温かい思いに変化するのである。
神秘的な雰囲気は続く「A Few Seasons」で現実的な展開へと引き継がれる。アルバムの中で最も現代的な米国のポップスの型に準じていると思うが、それはまたサブ・ポップのワイズ・ブラッド(ナタリー・メリング)の最新作に近い現実的な制作者の洞察が、叙情的なポップスという形に落とし込まれているように見受けられる。そして、それは間違いなく、昨年のワクサハッチーとのコラボレーションプロジェクト、Plainsの延長線上にある内容でもある。謂わば、前年度の実験的な音楽の探究をより親しみやすく、洗練した形で完成させたと称せるか。この曲の歌詞にはどのような言及が見られるか、それは実際に聴いて確かめてほしいが、人生にまつわる様々な出来事、喜びや哀しみといった多様な色彩を持つ人生観が取り入れられているとも解釈出来る。そして、その人生の体験が実際のポップスに上手く反映されているがゆえ、それほど難しい曲ではないにもかかわらず、この曲はかなりのリアルさで心を捉えるのです。
4曲目のタイトルをもじった「Topanga Two Steps」では、より現代的なポップスに近づくが、その中には、やはりフォーク/カントリーの影響が取り入れられている。近年から取り組んでいたというiPhoneのドラムサンプラーをセンスよく取り入れ、それらにフォーク/カントリーへの親和性を込めた一曲であるが、木管楽器の演奏をビートを強調するために取り入れている。しかし、リズム楽器としての役割を持ちながら、ジャズに近い甘く酔いしれるような効果を、曲の後半部にもたらしている。薄く重ねられるギターのバッキングはロマンティックな雰囲気を曲全体に付加している。曲の最後に挿入されるハモンド・オルガンの余韻はほとんど涙を誘うものがある。
「Something In Way」は、ニューメキシコとハイウェイ、そして捨て犬だったナナとの出会いについてうたわれている。同じく、70年代のポップスを想起させる親しみやすいイントロから一転して、オーボエ/クラリネットをリズムとして取り入れたフォーク/カントリーを展開させる。アルバムの前半部よりビートやリズムを意識したノリの良いバックトラックは、捨て犬の声を表すコーラスと合わさり、独特な哀感を漂わせる。中盤から終盤にかけて木管楽器のスタッカートは曲に楽しげな雰囲気と動きを与え、ウィリアムソンのボーカルはファニーな雰囲気を帯びるようになる。いわば、最初の悲しみから立ち直り、信頼感を取り戻そうという過程を、この曲の節々に捉えることが出来る。捨て犬というのは、人間不信になっている場合がとても多いのです。
私がアルバムの中でも1番心惹かれる曲が、「I'd Come to Your Call」です。この後の2曲は、アルバム制作で最後に書かれた曲という話ではあるが、それも頷ける内容で、それほど派手ではないのに、鮮烈な印象を残す。豊かな感情を込めて歌われるこの曲は、この数年間の出会いと別れについて歌われていると思うが、記憶そのものを歌詞に込め、その時の感情を噛み締めるようにジェス・ウィリアムソンは歌う。コードは変わらない。アコースティック・ギターの短いコードとピアノが合わさる、シンプルな曲調である。しかし、この曲には聞き手の心を動かすスピリットがある。繊細さから、相反するダイナミックな歌のビブラートは、素朴なコーラスと合わさる時、あっと息を飲むような美しい瞬間へと変貌を遂げる。終盤のグリッチ以外は難しいことはやっていないにも関わらず、不思議と心を深く揺さぶられるものがあるのです。
このアルバムは、「Intro」、「Interlude」を始めとする楽曲で、実際に彼女の父親を思わせるヴォイスが文学のモノローグのように展開される。そこには、米国中西部のカンザス州の荒れた地帯で育ち、近所のいじめっ子や警察、地元当局との様々な交流を描いた「Scars」、「Circle Back Around」、18歳で結婚しベトナム戦争に入隊し、帰国すると妻には別の男がいたことを明らかにする「Heads Or Tails」、「Lonely Back In O」、ワシントンD.C.に移り住んでから、妻との結婚生活に悩まされ続けたこと。夜間のラジオDJとして副業をしていたが、1968年の人種暴動にうっかり巻き込まれてしまう時代を描いた「Blue Lights」等、彼女の父親の人生が複数の観点から緻密に描かれている。これらは例えば、ケンドリック・ラマーが昨年「Mr.Morale~』の中で自分と架空の人物をミックスして独創的な音楽のストーリーを組み上げた手法、あるいは、ラナ・デル・レイの最新作『Did You Know〜』に見られたストーリー風のポピュラーミュージックの手法に近い内容である。音楽の中に文学的な要素を取り入れること、これは最近のミュージック・シーンのトレンドとなっているのである。こと、Jayda Gの場合は、それは家族の歴史をたどりながら紡がれるルポルタージュを意味するのだ。
しかし、アルバムの最後に至ると、なんとなくアーティストが考えていることが少し理解でき、より身近に感じられる瞬間もあった。それは、ネオソウルの影響を加味した大人な雰囲気を持つ「Mean To Be」に至ると、そういった売れることへのプレッシャーがすっと消えて、また表面上の見栄や体裁が消えて、Jayda Gというシンガーの持つ本来の魅力が出てくるようになる。これらのネオソウルの影響を交えた楽曲は一聴の価値があり、時代に古びない普遍性が込められている。そして軽快なダンサンブルなナンバーである「Circle Back Around」を経た後、「When She Dance」は同じように、ソウル・ミュージックに依拠した一曲ではあるが、このあたりになると、少しだけ重苦しくかんじられたシンガーの父親の声が楽しげな印象に変化してくる。
「Barbie The Album」は、マーゴット・ロビーとライアン・ゴズリングがバービーとケンを演じる映画「Barbie」のミュージック・コンパニオンで、どちらも7月21日(金)にリリースされます。
「Angel」
イギリスのDJ/ソングライター、Nia Archivesがニューシングル「Off Wiv Ya Headz」をリリースしました。
さあ、真骨頂のジャングリストの夏がやってきました。ビヨンセのルネッサンス・ツアーで初のサポート・アーティストとしてロンドンに出演した後、無類のスーパースターであるニア・アーカイブスが、この夏を彩る衝撃的なバンガー「Off Wiv Ya Headz」を公開しました。ライブではDJセットとともに多くの観客を魅了しました。
昨年秋のWHPマンチェスターでのデビュー以来、彼女のセットの定番であり、最近ではプリマベラ・バルセロナ、We Love Green、Love Saves The Dayで観客を熱狂させたこのパーシーなクラブカットは、A-Trakのクラブランドで有名なリミックス「Heads Will Roll」のハイエネルギなジャングルで、絶賛発売中のSunrise Bang Ur Head Against Tha Wall EP以来初のソロシングルとなる。
昨日、続いて、彼らは第二弾コラボレーション「John Wayne Was a Nazi」を発表しています。そもそもこのコラボレーションは、Fucked Upのボーカリスト、Damian Abraham(ダミアン・アブラハム)がEhren "Bear Witness" Thomasと以前から親交があり、そのうち何かしようと話し合っていた結果、実現したコラボレーションです。前回のシングルでは、エレクトロとパンクの劇的な融合を見ることが出来ましたが、2ndシングルについても同様のアプローチが取られています。
こちらも今週のHot New Singleとして読者の皆様にご紹介致します。
Manchester Orchestra
Jimmy Eat WorldとManchester Orchestraは、今年7月から共同のヘッドライナー・ツアーを始める準備を着々と整えていますが、それに先駆けて、両バンドにリスペクトを捧げるためにお互いの曲のカバーを公開した。マンチェスター・オーケストラは『Crarity』のオープニング「Table For Glasses」をカバー、一方のジミー・イート・ワールドはマンチェスター・オーケストラの2021年の名盤『The Million Masks of God』から「Telepath」をピックアップしています。
「Past Lives」のサウンドトラックには、ヴァン・エッテンの新しいオリジナル曲に加えて、グリズリー・ベアのダニエル・ロッセンとクリストファー・ベアがスコアを提供しています。これまでのところ、アーティストたちは「Why Are You Going to New York」と「Across the Ocean」という曲を共有しています。サウンドトラックはA24 Musicから6月9日に発売される。
シャロン・ヴァン・エッテンの最新のアルバムは2022年の『We've Been Going About This All Wrong』です。その後、未発表のボーナストラック2曲を収録したデラックスエディションをリリースした。3月には、2012年のアルバム『Tramp』の記念リイシューをリリースした。