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Daphni


カナダ出身のDan Snaith(ダン・スナイス)は、”Caribou”の名を冠するグリッチテクノシーンの大御所であるが、さらに、もうひとつ、電子音楽家、”Dephni”としての顔も併せ持つ。さらに、彼は天才数学者でもある。

 

ダン・スナイスは、これら2つのプロジェクトにおいて若干の方向性の相違を示してきた。彼は、しばしば、カリブーとダフニの両方でフェスティバルに出演し、自分のバンドで伝統的なショーを行った後、もう一つのアイデンティティでDJを行う。先月のこと、ダン・スナイスは、ダフニとして、新曲「Cherry」をリリースしたが、これは2019年のEP『Sizzling』以来の同プロジェクトからの新曲となった。そして、今回、新たなシングル「Cloudy」をリリースした。


この秋、ダフニは、ニュー・アルバム『Cherry』を10月7日にJiaolongからリリースする予定で、これは2017年の『ジョリ・マイ』以来のダフニとしてのフルレングス・プロジェクトとなる。


このアルバムには、シングル「Cherry」のほか、先日公開されたばかりの新曲「Cloudy」が収録される。この曲は、宇宙的であり、さらに、緻密かつ濃密な7分にも及ぶ壮大なダンス・トラックである。瞑想的なピアノの上に会話のようなボーカルのサンプリングがオーバーダビングされている。さらに、シカゴ・ハウスのようなファンキーで推進力のあるベースラインが提示され、Caribouにおけるグリッチノイズのアプローチとは明らかに一線を画している。

 

 

 

 

Daphni  「Cherry」

 


 
 
 
Tracklist

 
1 Arrow
2 Cherry
3 Always There
4 Crimson
5 Arp Blocks
6 Falling
7 Mania
8 Take Two
9 Mona
10 Clavicle
11 Cloudy
12 Karplus
13 Amber
14 Fly Away



『Cherry』は10/7にJiaolongから発売される。現在、以下のオフィシャルリンクで先行予約が開始されています。



Cariou

 

 アメリカの電子音楽家、さらに天才数学者として知られるCaribou、ダン・スナイスは、ダフニ名義でのニューシングル「Cherry」をリリースしました。これは2019年のEP「Sizzlng」に続くシングルとなります。これまでのCaribouの作風と同様に、リズムそのものの複雑性とアナログシンセサイザーの音色に重点が置かれている。この新曲について、スナイスは以下のように説明しています。

 

「例えば、FMシンセの際限なく渦巻くポリリズムほど、愛を語るものはこの世に存在しえない。このトラックを作成することは、謂わば、蛇に自分の尻尾を食べさせるようなものだった」

 

 Apifera

 

アピフェラは、イスラエル出身のYuvai Havkin、Nitaii Hershkovis、Amir Bresler、Yonatan Albarakの四人によって結成されたジャズ・カルテット。音楽性は、電子音楽、ジャズ、民族音楽、また、オリジナルダブのような様々な音楽のクロスオーバーしたものであるといえるでしょう。

 

テルアビブに活動拠点を置くアピフェラは、2020年、LAの比較的知名度のあるインディペンデントレーベル”Stone Throw Records”と契約を結び、七作のシングル盤、一作のスタジオアルバム「Overstand」をリリースしています。活動のキャリアは二年とフレッシュなグループではありますが、それぞれ四人のメンバーは既にソロアーティストとしてアピフェラの活動以前に地位を確立しています。


彼ら四人の生み出す音楽性には、イスラエルという土地に根ざした概念性が宿り、西欧とも東洋とも相容れない独特な文化性によって培われたアート性が込められています。それはこの四人の音楽のバックグラウンドの多彩さにあり、イスラエルのフォーク・ミュージック、フランス近代の印象派の音楽家、モーリス・ラヴェル、エリック・サティ、スーダンとガーナの民族音楽、サン・ラのようなアヴァンギャルドジャズ、スピリチュアルミュージックまで及びます。従来の音楽スタイルを好んで聴いてきたリスナーにとっては、初めて、ポストロック界隈の音楽、あるいはまた、シカゴ音響派の音楽に接したときのようなミステリアスかつ魅惑的な音楽に聴こえるかもしれません。

 

イスラエル出身のアピフェラの音楽は、グループ名の由来である「蘭に群がるミツバチ」に象徴されるように、色彩豊かなサイケデリアのニュアンスも存分に感じられるはず。しかし、それは例えば、アメリカのサンフランシスコの1970年代に生み出されたサイケデリアとは異なり、アフリカの儀式音楽に根ざしたサイケデリア、西洋側の観念から見ると、相容れないような幻想性が描き出されているのが面白い。そのサイケデリア性は、全然けばけばしくもなく、どきつくもない、上品な雰囲気も滲んでいるのを、実際の彼らの音楽に耳を傾ければ、気づいていただけるでしょう。そのニュアンスは、これまで彼らがリリースしてきた作品のアルバム・ジャケットを見ての通り、ミステリアスでありながら、心休まるようなエモーションによって彩られているのです。

 

アピフェラの音楽は、即興演奏によって生み出される場合が多く、それがこのカルテットの音楽を生彩味あふれるものとしている。実際の作曲面においては、音の広がり、テクスチャー、音の温度差、といった要素に重点が置かれ、この3つの要素が、シンセリード、ギター、ベース、ドラム、電子音と楽器のアンサンブルの融合によって立体的に組み上げられていく。

 

また、オーバーダビングの手法を多用するあたりには、故リー・スクラッチ・ペリーのようなダブアーティストとの共通点も見いだされる。それから、ハウスのブレイクビーツのリズム性を取り入れたり、ジャーマンテクノのような旋律を取り入れたり、また、アバンギャルド・ジャズの領域に恐れ知らずに踏み入れていく場合もある。総じて、イスラエル、テルアビブ出身の四人組、アピフェラのサウンドは前衛的でありながら、懐かしいようなノスタルジアも併せ持っており、それは、このジャズカルテットの中心人物、Nitai Herdhkovisが語るように、「現実よりも明晰夢のような」サウンド、色彩的なサイケデリアが楽器のアンサンブルによって表現されています。

 

 

 

・「6 Visits」 EP   Stone Throw Records

 

 

 さて、今週の一枚として紹介させていただくのは、11月10日にLAのStone Throw Recordsからリリースされたばかりのイスラエル出身のアピフェラのミニアルバム「6 Visits」となります。

 

 




Tracklisting 


1.Beyond The Sunrays

2.Half The Fan

3.Psyche

4.Visions Fugitives-Commodo

5.L.O.V.E

6.Plaistow Flew Out


 

 

「Beyond The  Sunrays」 Listen on youtube:

 

https://www.youtube.com/watch?v=YQwpdB4VkPA 

 

 


Listen on Apple Music

 

 

他にも今週はブルーノ・マーズ擁するsilksonicの「An Evening At Silksonic」」が発表されたり、また、ジミー・イート・ワールドの「Futures」のライブ音源、また、KISSのデモ音源のリイシュー盤だったりと、比較的、話題作に事欠かない、今週の音楽のリリース状況ではありますが、今回、イスラエル出身のApiferaの新譜を紹介しておきたいのは、「6Visits」がミニアルバム形式でありながら、既存のヨーロッパやアジアの音楽シーンにはあまり存在しなかった前衛的作品であり、聞きやすく、スタイリッシュな格好良さもある。つまり、この作品「6 Visits」が多くのコアな音楽ファンにとって、長く聴くにたるような作品になりえるという理由です。

 

既に、前作のスタジオ・アルバム「Ovestand」において、異質なサイケデリックテクノ、プログレッシブテクノの一つの未来形を示してみせたテルアビブの四人組は、このEP「6 Visit」においてさらなる未知の領域を開拓しています。

 

このミニアルバムは、多くがインストゥルメンタル曲で占められていますが、ここに表現されているニュアンスは多彩性があり、このイスラエル、テルアビブ出身の四人組のカルテットの演奏に触れた聞き手は不思議な神秘性を感じるであろうとともに、バンド名「Apifera」に象徴づけられるように、さながら、蘭の花からはなたれる芳香に群がるミツバチのようにその音の蠱惑性にいざなわれていくことでしょう。ミステリアスな雰囲気は往年のプログレを思わせ、アバンギャルドジャズ的でもあり、ダブ的でもありと、音楽通をニンマリさせること請け合いの作品。

 

そこには、往年のジャーマンテクノ、また、YESのようなプログレッシブ・ロックのようなシンセサイザー音楽のコアな雰囲気が漂い、そして、ハウスのブレイクビーツを実際のドラムにより生み出すという点では、現代のイギリスあたりのフロアシーンの音楽にも通じるものがあるようです。

 

一曲目「Beyond The Sunrays」は、流行り廃りと関係のない電子音楽が展開されています。その他、オリジナルダブの原点に立ち戻った「Half The Fan」も、懐かしさとともに渋い魅力を兼ね備えています。

 

今作品に収録されているのはインストゥルメンタル曲だけではありません、三曲目「Phyche」は、ヴォーカルトラックとしてのエレクトロミュージックが展開され、ニュー・オーダーの音楽性にも近いクールさが込められているように思えます。

 

さらに、イスラエルの伝統的なフォーク音楽を、電子音楽の要素を交えて組み上げた「Visions Fugitives-Commodo」も、エレクトロニカをより平面的なテクスチャーとして捉え直した実験的な楽曲。また、アフリカ民族音楽を電子音楽という観点から再解釈した「Plaistow Flew Out」も、イギリスの最新のフロアシーンにも引けを取らないアヴァンギャルド性を感じていただけることでしょう。

 

表向きにはアバンギャルド性が強い作品ですけれど、作曲と演奏の意図は飽くまでリスナーの心地よさ、楽しませるために置かれ、もちろん、フロアで聴いて踊ってもよし、また、家でゆったり聴いても良しと、幅広い選択を聞き手に与えてくれる。全体的に見ると、新しいダンスミュージックの潮流、IDMという音楽の次なる未来形は、このアピフェラのEP作品を聴くにつけ、このあたりのイスラエル、テルアビブ周辺から出てくるのではないかと思うような次第です。

 

総じて、サイケデリアに彩られながらも知性溢れる作品であり、静かに聴いていると、音の持つミステリアスな精神世界の中に底知れず入り込んでいくかのような、深みと円熟味を持ち合わせた音源です。それほどイスラエルというのは多くの人にとってはまだ馴染みのない地域の音楽であるように思われますけれど、これから面白いアーティストが続々と出て来るような気配もあります。イスラエルのフロアミュージックシーンきっての最注目の作品としてご紹介致します。

 

 

・Apiferaの作品リリースの詳細情報につきましては、以下、Stone  Throw Recordsの公式サイトを御参照下さい。

 

  

Stone Throw Records Offical Site 

 

 https://www.stonesthrow.com/

 

 

 

 

 

 


Squarepusher 「Feed Me Weird Things」2021

 

 

 

英国のWarp Recordの象徴的な存在、この二十年の英国のクラブシーンをエイフェックス・ツインと共に牽引して来たスクエアプッシャーのデビュー作「FEED ME WEIRD THINGS」の25周年記念リマスター・バージョンが6月4日に再発される。

 

オリジナル版はLPリリースのみで、今回デジタル版としては最初のリリースとなります。ファンは泣いて喜びましょう。

 

「高音質UHQCD」という聞き慣れない圧縮形式が、技術的にどんなものなのかについての詳細は、ハイ・クオリティCD-Wikipediaを参考にして頂き、ここではスクエアプッシャーの新譜の感想のみを述べておこうと思います。 

 

 

 

 

 

 




1.Squarepusher Thema

2.Tundra

3.The Swifty

4.Dimotane Co

5.Smedleys Melody

6.Windscale 2

7.North Cinclur

8.Goodnight Jade

9.Thema From Ernest Borgnine

10.U.F.O's Over Leytonstone

11.Kodack

12.Future Gibben

13.Thema from Goodbye Renald

14.Deep Fried Pizza 

 


 
Listen on Apple Music

 

 

 

このリマスター版を聴くと、トーマス・ジェンキンソンの代名詞とも呼べるドラムンベースサウンドが高音の抜け、そして、低音のグルーブの厚みがバランスよくリマスターされていて、低価格イヤホンでもダンスフロアで音を聴いているかのようなリアリティが感じられる一枚となってます。


レコード技術の知識については疎いため、あまり偉そうなことをいえないですけども、今回の高音質バージョンは、最新のリマスタリング技術も、ここまで来たのかと唸らされるような高級感のある音の仕上がり。

 

レコード生産技術というのは、日々進化しているというのが、音の質感によって感じることができるのは、クラシックでのオケの弦の温かみ、もしくは、コンサートホールの空間のダイナミクスというのも醍醐味といえるかもしれないが、こういったクラブ・ミュージックについても引けを取らないものがある。そして、今作のリマスタリング盤は、スタジオ・アルバムの形式でありながら、音に迫力感が他の作品よりも増しているように思え、ライブ感というのも凄まじい。

 

英国の「コーンウォール一派」と呼ばれるアーティストの一角をなすスクエアプッシャーは、この二十年以上のキャリアにおいて、ソロベース作品「Solo Electric Bass 1」でジャズ・フュージョン的なアプローチを見せ、スタジオ・アルバムで新しいエレクトロサウンドへ傾倒を見せたり、同レーベルを象徴する、クラーク、エイフェックスと異なるスタイルで独自の音楽性を追求している。

 

そして、この一枚を聴いてあらためて断言しておきたいのは、このデビュー作「FEED ME WEIRD THINGS」こそが、彼のキラキラと溢れんばかりの才質が感じられるスクエアプッシャーの最高傑作であるということ。

 

一曲目「Squarepusher Thema」から、誰も踏み入れたことのないアシッド・ハウスの先の極致ともいえる領域に入り込み、ベーシストとしての傑出したテクニックもたっぷり味わえるはず。

 

「Tundra」では、ダブステップ界隈のアーティストが、後の10年代に当たり前のように奏でる音を、エイフェックス風のドリルンベースと呼ばれる緻密なリズムを交えてあっけなくやってのけているあたりも驚愕といえる。

 

「Smedleys Melody」では、後のジャズ・フュージョン的なアプローチを予見するかのような前衛的なエレキベースを主体としたスイング風のリズムにも、ジェンキンソンは挑戦している。重低音の響き、そして、畳み掛けるようなドラムンベースのリズム、シンセリードの音色を変幻自在に変化させている辺りの音楽性は後の「Ultravisitor」の楽曲性の萌芽を見てとる事ができるはず。

 

そして、このアルバムの肝となるのが、スクエアプッシャーの後の一つの方向性を決定づけた「Thema From Ernest Borgnine」。この圧倒される音楽性の凄さというのは筆舌に尽くしがたいものがある。


たった、四小節のリンセリードのモチーフで、これだけの曲の表情に変化をつけられるのは、世界中見渡しても、トマス・ジェンキンソンくらいしか見当たらないかもしれない。この曲は、本当に感動ものです、英エレクトロ史上最高傑作の一つといっても過言ではないはず。

 

今回、初めて、デジタル版として解禁となったこの「Feed Me Weird Things」というデビュー作は、ファンにとってはたまらないものがあるでしょう。今作は、スクエア・プッシャーというミュージシャンの際立った凄さというのが痛感できる高音質のリマスター音源となっています。

 

 

 

Clark「Playground In a Lake」

 

 

 

 

Clarkは、クリス・クラークのソロプロジェクトで、スクエアープッシャーやエイフェックスと共に既にテクノ界の大御所ともいえる存在。

 

 

現在、イギリスからドイツに移住し、ワープレコードから移籍し、今作も前作に引き続いてドイツ・グラムフォンからのリリースです。

 

 

クリス・クラーク自体は、オラフソンの作品への参加など近年、クラシカルアーティストに近い活動を行うようになり、その辺りは彼の最近のドイツ移住に関連しているのかもしれません。

 

 

元々、クラークというのは、イギリスのワープ・レコーズの代表的な存在であり、元々はコアなテクノ、エレクトロを追求するアーティストでしたが、2016年「The Last panthers」辺りから徐々に方向性を転じていった印象を受けます。

 

 

活動初期はコアなテクノ、エレクトロという音の印象があり、それをクリースクラークらしいというか、彼の真骨頂であった音楽性がいよいよひとつの沸点を迎え、アンビエント・ドローン、そして、ポスト・クラシカル、ニューエイジの雰囲気も出てくるようになりました。これは往年のクラークを知るファンにとっては彼が一足先を行ってしまったのが少し寂しくあり、また、楽しみなところでもあるでしょう。 

 

 

Playground In A Lake  2021

 

 

 

 

 

そして、2021年3月26日リリースの今作「Playground  In a Lake」では、ピアニスト、コンダクターとしても活躍するAndy Masseyを迎え入れ、そして、さらに豪華なストリングス編成を加えたアルバムとしてリリース。

 

 

これはクリス・クラークの見せた新たな一面といって良いように思え、そして、元はワープレコードの代名詞的な存在でありながら、彼がいよいよクラブアーティストと呼ばれるのを拒絶しはじめたような印象を受けます。

 

 

この新作アルバムで展開されていく美しい電子音楽という彼の長年のキャリアの蓄積を踏まえた音楽性というのは、既に彼が現代音楽、または、純性音楽家としての道を歩み始めた証左であり、彼の往年のファンにとどまらず、クラシック界隈のファンにも自信を持ってレコメンドしたい作品です。 

 

 

ここでひとつのポスト・クラシカルとしての完成形をむかえた今作は、美麗なストリングスの表情をもち、また、ピアノの慎ましい演奏により、時には、クラーク流の電子的音響世界により、綿密かつ緻密、そしてインテリジェンス性を持って作り上げた歴史的名盤。彼自身のTwitterでのつぶやきを見ても、クリス・クラーク自身も、この新作の出来栄えに大きな満足感を抱いている様子。 

 

 

IDM(Intelligence Dance Music)というジャンルの一歩先を勇ましく行くのがクラークという存在であり、もちろん、それはかつての盟友、エイフェックスや、スクエアプッシャーが未来に見る音楽とは全く別の様相。

 

 

さて、これから、クリス・クラークがどのような新境地を開拓するのか、ファンとしては一時たりとも目を離すことができないでしょう。

Squarepusher 「ultravisitor」


今回は、ここで、あらためてくだくだしく説明するまでもなく、Aphex Twinと双璧をなすワープ・レコードの代名詞的な人物にして、現代エレクトロニカ界の大物アーティスト、スクエアプッシャー!! 


まず、この人のすごすぎるところは、電子楽器、たとえば、シンセやシーケンサーにとどまらず、生楽器の演奏というのも自分でやってのけ、しかも、ほとんど専門プレイヤー顔負けの超絶技巧を有している点です。

音楽性自体も非常に幅広く、電子音楽家という範囲で語るのが惜しくなるような逸材です。

おそらく彼にとっての音楽というのは人生そのものなのでしょう。特に、ベーシストとしても才能はずば抜けており、後の彼のジャズ・フュージョンのエレクトリックベースソロ・ライブは、音楽史において革命の一つであり、ジャズベースの名プレイヤー、ジャコ・パストリアスにも全く引けを取らない名演でした。

そして、このアルバムもまたスクエアプッシャー節、いわゆるドラムンベースの怒濤のラッシュとともに、さまざまな音楽のエッセンスが盛り込まれている辺りで、彼の代表作のひとつとして挙げても良いでしょう。

一曲目の「Ultravisitor」のライブのような音作りを聞いた時は、かなりヒッと悲鳴をあげ、少なからずの衝撃を受けました。はじめはこれはライブアルバムなのかと面食らったほどの生音感、また、そこには観客の歓声もサンプリングされており、スクエアプッシャーのライブをプレ体験できます。いや、それ以上の興奮感でしょう。後のスクエアプッシャーの数あるうちの方向性のひとつを定めたともいえる楽曲であり、彼自身も相当な手応えを持って、リリース時にこの曲「ultravisitor」を一曲目にすることを決断したのではないでしょうか。

これはクラブミュージック屈指の名曲。疾走感、ドライブ感があり、よくいわれるグルーブ感という概念、つまり音圧のうねりというのがはっきりと目の前に風を切って迫って来るような感じがあって、この曲を聞けば、その意味が理解できるだろうと思います。そして、ボノボのようなチルアウト感をもったアーティストとは異なり、彼は非常に熱いエレクトロニカを展開しています。これはほとんライブ会場内で、生々しい音を体感しているかのようなサウンドプロダクションといえ、他にこういった熱狂的なダンスミュージックは空前絶後。この曲で、彼は現代クラブミュージックシーンを、ひとりで、いや、リチャードDと二人で塗り替えてしまったといっていいでしょう。

 

このアルバム「ultravisitor」の興味深いのは、全体的にはライブの生音的なサウンド面でのアプローチが見られる所でしょう。もうひとつ挙げるべき特徴は、ドラムンベース・スタイルのダンスミュージック的な性格もありながら、それでいて多彩なジャンルへの探究心を見せている。例えば、ジャズ・フュージョンや古典音楽的な楽曲の才覚を惜しみなく発揮しているところに、ひとつのジャンルとして収めこもうと造り手が意識すること自体がきわめてナンセンスだというメッセージがここにほの見えるかのようです。

つまり、ジャンルというのは、売る側が決める都合であり、作り手は絶対にそんなことを考えてはいけないということなんでしょう。

まさに彼はそういった意味で、一種のラベリングに対する無意味さを熟知しているといえますね。

 

とりわけ、アルバムのなかで異彩を放っている「Andrei」という楽曲、これは甘美な響きがある現代音楽家の古典音楽へのつかの間の回帰ともいえるでしょう。イタリアの古楽のような響きがあり、中世リュートの伝統的な和音進行が、実に巧みに使いこなされ、バッハのコラール的な対旋律ふうに、ベースが奏でられています。これは本当に、彼の美しい名曲のひとつに挙げられます。もうひとつ、最後のトラックでも同じようなアプローチが見られ、「Every day I love」では、ジャズ・フュージョンというより、ベーシストとしての古典音楽にたいする接近が見られます。おわかりの通り、スクエアープッシャーのベーシストとしての天才性というのは、この最後の曲において遺憾なく発揮されているといえるでしょう。これまた、「Andrei」と同じように、彼の伸びやかな才能が感じられる曲であり、イタリアルネッサンス期の中世音楽への接近が見られ、優雅な雰囲気でアルバムをあたたく包み込み、アルバムの最後の印象を華やかに彩っています。

 また、「Tommib Help Bass」は、Aphex Twinのような、どことなく孤独感をおもわせる雰囲気の楽曲。ミニマルな構成のシンプルな曲ですけど、これがとても良いんです。落ち着きと心地よい鎮静を与えてくれる名曲。エイフェックスツイン好きならピンとくる楽曲でしょう。 只、少しエイフェックスと異なるのは、彼の楽曲というのは、和音構成がしっかり重視されている点でしょう。

そして、忘れてはならない、彼の代表曲のひとつの呼び声高い「Lambic 9 Poetry」については、もはや余計な説明不要だといえましょう。非常に落ち着いたイントロのベースのミュートから、生演奏のドラムのブレイクビーツの心地よさ。これは言葉にもなりません。そして、スクエアープッシャーの真骨頂は、途中からの破壊的な展開にある。徐々に、徐々に、崩されていって、拍子感を薄れさせていくリズムの発明というのはノンリズムの極致、作曲においての音楽の一大革命のひとつといえ、そのニュアンスは一種の陶酔感すら与えてくれるはず。

ダンスミュージックシーンに彗星のごとくあらわれたスクエアプッシャー!!。彼こそ、新たなダンスミュージックを初めて誕生させ、前進させた歴史的な音楽家だと明言しておきましょう。

Andy Stott  「Luxury Problems」2012

 
 
アンディ・ストットを最初に聞いたとき、音のニュアンスが”Burial”に近いのかなとも思いましたが、よく聴くと全然違うようです。確かにダブステップのニュアンスもありますが、その実、似て非なる存在かもしれません。
 
上記の二人は、古いダブといわれるスタイルの代表格、同じ英国のリントン・クウェシ・ジョンソンあたりの古典的なアーティストと比べると、現代のイギリスのダブ・ステップというのは、レゲエ、スカ色は薄まり、ダビング的な玄人好みの複雑で立体的なリズム性だけが引き継がれています。
 
とりわけ、このアンディ・ストットを唯一無二の存在たらしめているのは、インダストリアルの硬質な香りでしょうか。都会で鳴り響くような洗練された雰囲気、それがとてもクールに表現されています。そして、彼の音楽性には、必ずしもフロアで鳴らされるだめだけに作られたものではないところが興味深いです。ボノボあたりのひとりで家のなかで聴くような、鑑賞するための絵画的な音楽としても楽しめるでしょう。
 
アンディ・ストットはデビュー時からマンチェスターの「Modern Love」からリリースを続けていて、今でこそかなりアクのある重低音ブレイクビーツ感の強いアーティストといえますが、活動初期においての音楽性は、どちらかといえば、そこまでリズムの低音域が強調されていませんでした。淡々とした、むしろその音の古臭いようなチープさが癖になるようなアナログ風のテクノ音楽という感じで、そこまで深いドラマティック性というのもなかったように思えていました。
 
ところが、2011年リリースの「Passed Me By」あたりから、独自の趣向をガンガン押し進めていき、ダブステップ要素のある実験的な手法を取り入れはじめ、そして、複雑なリズムとグルーブを生み出していき、それまで抑えられている印象のあった低音域が出てくるようになりました。 
 
そして、 さらにダブステップ界隈のデムダイク・ステアーなどに比べ、彼の長所であるメロディーセンスを、この「Luxury Problems」から惜しみなく見せていきます。彼のメロディーセンスというのは、あまり他の音楽のジャンルでは聴いたことのない独特な個性に溢れ、女性ボーカルの艶のある声のサンプリングが巧みに生かされ、実に怪しげな耽美的音響世界が展開されていきます。
 
  
 
ストットの基本的な作曲技法としては、ミニマルな音形をループさせ、そこに、対旋律的に美しいメロディーをちりばめていくことにより、徐々にリズム自体を複雑化、抽象的にさせ、聞き手の感覚を、徐々に、麻痺、惑乱させていくところが面白い特徴。本来ならリズムトラックとして使われない音源をリズム的に使用しているのが、たとえば、ボーカルのサンプリングをハイハットのように使ったりするのが、ストットの凄いところでしょう。そして、コレは、ボーカルを旋律を紡ぎ出すものというにとどまらず、ヴォイスを”器楽的”に捉えているからこそ生み出し得る音楽といえるでしょう。
 
この観点からいうと、Andy Stottの音楽というのはよくエレクトロの風味に近いといわれますが、ドローン、もしくは現代的なアンビエントに近い風味のある、抽象的なエクスペリメンタルエレクトロ/テクノとも呼べなくもないかもしれません。
 
ストットの音楽性について特筆すべきなのは、アーキテクチャーの土台となる礎石を積み上げていくかのように、音が複雑に構築されていって、曲が展開されていくにつれ、イントロで明瞭としなかった要素、ドラマ、ストーリの性質が徐々に引き出され、ドラマティックな雰囲気が形作られるという点、他の多くのクラブミュージック界隈のアーティストと一線を画しています。

 
今回、紹介する「Luxury Problems」は、彼の他のアルバムに比べて、女性ボーカルのサンプリングが醸し出す妖しげな色気に満ちていて、それはインスト曲においても余韻のように染み渡り、彼独自の一貫した奇怪な世界観を形成しています。つまり、今作はコンセプト色の強いアルバムとみなすことができるはず。
 
アルバムに収録されている中では、「Numb」「Luxury Problems」「Leaving」このあたりがボーカルの旨味が感じられて、いくらか突っつきやすい歌曲としても存分に楽しめるはずです。
 
また、他の収録曲には、彼独自の油断のならなさのような滲み出ていて、それこそがこのアルバムの聴き応えを十分にしています。
 
ここでは、アンディ・ストットの才覚がいかんなく発揮されており、尚且、”ポピュラー性”と”インダストリアル性”という正反対にある要素が、上手く融合されることにより、アルバム全体が引き締まった均勢の取れた聴き応えのある楽曲群になっています。
 
総じて、ストットのめくるめくようなリズムの展開力。そして、夜の都市に満ちあふれる街のインダストリアル的な冷ややかな香り。そして、そういった生の気配から遠ざかった無機質な雰囲気。
 
それらがダブ・ステップという形式によりあざやかに表現され、さらに、そこに女性ボーカルのの艷やかなブレス、アンニュイな歌声の息吹がミューズのごとく麗しく添えられることにより、このアルバム「Luxury Problems」をクラブ・ミュージックの極北たらしめているという気がします。