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Weekly Music Feature: F/LOR & EMMANUELLE PARRENIN


フランスのアヴァンフォークの巨人、エマニュエル・パレナンはどのような時代であれ音の収集家でありつづけてきた。家族の家のあちこちで音楽が響き渡る環境で育った彼女は、密かに、そして本能的に音楽を学んだ。家族の家の様々なリハーサル室から漏れてくるメロディーをピアノで再現することで。父親はパレナン弦楽四重奏団の指揮者、母親はハープの教授であった。


70年代、彼女は音楽と音へのこの自由奔放な関係を続け、フランスとカナダを旅して、ナグラを肩に担ぎ、伝統的な曲や歌を集めた。 彼女は忘れ去られた楽器——スピネット、ヴィエル、そして後に独学で習得したハープ——を再発見し、過去の音色を探求し続けた。こうしてフランスにおけるフォーク運動の勃興に貢献した。


1978年、初のソロアルバム『メゾン・ローズ』を発表。あらゆる境界と様式をクロスオーバーするこの作品は、彼女の音楽的・芸術的軌跡における転換点となった。10年にわたるフォークの歩みと伝統的音色の探求を統合すると同時に、正反対の新境地——実験音楽と現代的な響きの世界——を切り開いたのである。 古楽器において、彼女はもはや過去の響きの閉ざされた記憶を求めるのではなく、現代に提供しうる無限の可能性の響きを追求するようになる。この頃、バスケ兄弟、ジャック・レミュ、そしてクセナキスの弟子であるブルーノ・メニーらと協働した。


2000年代は実験音楽と歌謡へ回帰した。レコードレーベル「レ・ディスク・ビアン」の集団を中心に多くの音楽家と出会い、2011年には『メゾン・ローズ』から30年を経て『メゾン・キューブ』を録音。このとき電子音楽と出会い、エティエンヌ・ジョメ、ヴァンサン・セガル、ピエール・バスティアン、トモコ・ソヴァージュ、ディディエ・プティ、ゾンビ・ゾンビらと共演。ヴィレット・ソニーク、ソニック・プロテスト、モフォなど様々なフェスティバルに招待された。


今回、伝説的なフランスのアヴァンフォーク界の伝説的なミュージシャンと共同制作を行ったのは、F/LORの名義で活動するフランスのエレクトロニックプロデューサー、ファブリス・ロローだ。若い時代、彼は瞑想者や旅行者としての人生を送った後、驚くべき知的好奇心を発揮している。フランスのポストパンクバンド、Prohibitionの活動を終え、録音やミキシングを学び、ソロレコーディングを行うようになった。それ以降、Prohibited Recordsの創設に携わっている。


今回、当該レーベルから発売されるアルバム『F/lor & Emmanuelle Parrenin at Instants』は2025年6月25日にフランス・モントルイユ「インスタント・シャヴィレ」にてライブ録音された作品である。F/LOR(別名ファブリス・ロロー/NLF3、Prohibition…)によるトリッピーなエレクトロニカとエマニュエル・パレナンによる魔法のようなアコースティック楽器の出会い。エレクトロニックとアコースティック楽器の融合は簡素な構成でありながら、驚くべき化学反応が起こった。



『F/lor & Emmanuelle Parrenin at Instants』- Prohibited/kOOL BIRDS RECORDINGS(France)

 

▪アルゴリズム/パターン化された前衛音楽

  

最近、ヨーロッパから優れた実験音楽や前衛音楽が出てくるケースが多い。よく考えてみれば、クラフトワークのような存在が出てきて、商業的な音楽が確立される以前から、フランスやイタリア、ドイツを始めとする国々では、こういった前衛主義の音楽を制作する作曲家が一定数存在した。それらがダンスミュージックやエレクトロニック、そしてフォークミュージックやポピュラーなど他の地域の音楽と連動するようにして、ヨーロッパの音楽は発展してきた経緯がある。

 

しかし、昨今、ヨーロッパでは、商業的な音楽とは一線を画す、独自の前衛主義の隆盛を発見することができる。今週、ご紹介するファブリス・ロロー(F/LOR)、そして、フランスのアヴァンフォークの伝説的なミュージシャン、エマニュエル・パレナンの共同制作は、時代が一巡りして、ヨーロッパの音楽藝術が一つの復刻運動の時期に差し掛かったことを痛感せざるを得ない。このアルバムは、古くは、NEU、Klaus Schulzeを始めとするジャーマンプログレッシヴやエレクトロニックの作風を彷彿とさせる。また、イタリアのルイジ・ノーノを挙げてもそれほど違和感がない。実験音楽として久しぶりの傑作の予感だ。

 

このアルバムの画期的な点は、従来は、レコードの録音として構築されてきた実験音楽の常識を覆し、 ライブレコーディングの妙味を活かした作品であるということである。例えば、カールハインツ・シュトックハウゼンやクセナキスといった電子音楽の先駆者たちは、セリエルの技法を通じて、音楽の革新性に挑戦し、旧来の常識を塗り替えてきた。彼らの音楽は、アンチミュージックとも呼ぶべきものかもしれないが、その飽くなき挑戦心や探究心が次世代に与えた影響は、およそ図りしれないものがある。これらのドイツやフランスの先鋭的な現代音楽家たちは、ニューヨークの前衛主義である偶然性を、ある程度計画された偶然性へと組み替え、「管理された偶然性」という形で体現してきた。それは音楽そのものが、図形譜や楽譜という明確な形で表される中で、「ある種の偶然性を発見する」という意図が込められていたのである。

 

この慣例に倣い、フランスの二人の年齢の離れたミュージシャンは、まったく奇想天外で予測不能なアヴァンギャルドミュージックの記念碑をこのアルバムにおいて打ち立てることに成功したのである。このレコードは、エレクトロニックとして画期的であるにとどまらず、ミニマル・ミュージックや現代音楽の常識を塗り替えるものになるかもしれない。しかし、そこには過去の音楽的な技法が使用されることもある。それは、シュトックハウゼンが考案した「群の音楽」や「モメント形式」、ないしはクセナキスのアルゴリズムの音楽を継承する内容である。

 

ライブでは、F/LORがエレクトロニクス(Rolandのサンプラー)とインディアンベルを担当し、そして、エマニュエル・パレナンがボーカルやダルシマー、その他、珍かな民族音楽の演奏を担当する。明確な設計図が用意されているのかは定かではない。しかし、サンプラーからはボウドギターをサンプリングした音や、インダストリアルノイズの一貫にある工業的で金属的なパーカッション、他にも、ベース的な意味合いを持つパルス状のビートなど、サンプリングを複数用意し、特異な音響効果を与えながら、点描画のように音を敷き詰め、それに呼応するような形で、フランスの伝説的なミュージシャン、パレナンの民族楽器の演奏やボーカルが入る。これは、音楽による対話のようでもあり、マイルス・デイヴィスのモード奏法のような感じで、曲の構成が続いていく。あらかじめ計画されているのは、大まかなリズムやそのパターンだけで、実際に鳴り響く音は、その都度変化していく。全般的には、ミニマルミュージックの構成を中心に六つの組曲が展開される。しかし、これをミニマル・ミュージックと呼ぶのはあまりにも早計かもしれない。 『F/lor & Emmanuelle Parrenin at Instants』は、従来の反復形式の音楽の意義を塗り替え、まったく違った見方を提示してくれる作品なのである。

 

しかし、前衛主義が敷き詰められた録音とはいえ、聞き苦しい作品ではない。むしろ群の音楽や空間音楽の範疇にある音楽は、心地よさや瞑想的な感覚を感じることもある。このアルバムの序章となる「Part Ⅰ」は、インディアンベルのような霊妙な鈴の音が象徴的に、あるいは儀式的に鳴り響き、シンキングボウルがそれに呼応するような形で始まる。そして同じく、エマニュエル・パレナンのボーカルが、メレディス・モンクのような霊妙なボーカライゼーションを発揮し、空間的な音楽の枠組みを作る。しかし、その後始まるのは、モード奏法のようなパターン化されたリズムの形式の中で、異なる旋法や音階が連鎖するという内容である。エレクトロニックのパルス状のリズムが規則的なビートを刻む中で、パーカッション、それからインダストリアルノイズのようなサンプラーの音がその合間に敷き詰められる。

 

一般的に見れば、これらの六つの組曲はエレクトロニックの範疇に属すると言えかもしれないが、そこにはジャズや現代音楽のようなイディオムを見出すことも不可能ではない。そして、サンプラーから放たれる音の連鎖は、必ずしも同じ音形や音価だとも限らない。UKのベースラインやダブステップ、フューチャーステップで使用されることがある現代的な電子音のサンプルをパターン化し組み合わせ、アルゴリズムによる独創的な空間音楽を構成していく。F/LORが織りなすモード奏法のような音の導きの合間には、パレナンの霊妙なボーカル、クラフトワーク、NEUのような断続的なパルスビート、ボウドギターのような音色がめくるめく様に展開される。聴いていてまったく先が読めない音楽の連鎖にあっけにとられるほど。この全般的な電子音楽の流れに、色彩的な効果やバリエーションを添えているのが、民族楽器の使用である。

 

実際的に、どの楽器が使用されているのは定かではない。しかし、ダルシマーの弦をひっかくようなドローンの特殊な演奏、モンゴルのような地域のヴォイスハープのような民族的な楽器の仕様は、この音楽に特異な音のイメージをもたらしている。むろん、音階だけではなくリズムも一定とは限らない。微細な音響効果を施し、巻き戻るディレイの音、連鎖するオスティナートの音、それぞれライブ演奏の中で、驚くほど多彩な音響効果を散りばめている。しかも、この「Ⅰ」は、エキゾチズムという点でも、群を抜いている。曲の後半では、ハーディ・ガーディという、バイオリンやバクパイプに似た楽器が使用され、アラビア風の音楽へと至る。その奇想天外さは一線級で、およそ他の作曲家と比べるのもおこがましいような気がする。

 

アルバム(ライブ)は、パターン化されたリズムやアルゴリズムによる音の組み合わせを中心に繰り広げられる。「Ⅱ」は「アルゴリズムの音楽」の真骨頂ともいえる。ゆったりとしたテンポで点描画のように打ち込まれるリズムを基幹として、音楽が横向きに流れていく。そしてその合間にインダストリアルノイズを踏襲した工業的なパーカッションが連動して続いている。その無機質とも言える音の連鎖の中で、徐々に音階が追加されていき、建築的な構成が組み上げられていく。最初の音から丹念に礎石を積み上げるような音の積み重ねかたは、DTM的とも言えるが、その中でリズムを組み換え、変拍子を織り交ぜ、プログレッシヴな展開を導き出す。パルス状のリズムの中で、鋭く減退するダルシマーの演奏が組み込まれる。これもまた、モード奏法のようなジャズの範疇にある音楽形式を、エレクトロニックや民族音楽から再解釈したような趣旨である。そしてライブ録音による”管理された偶然”の要素も見いだせる。音価の長さや微細な倍音の発生など、生でしか得られない空間的な音楽の性質を強調する。しかし、依然として、この音楽の中枢を担うのは反復的なリズムで、これらが独特なグルーヴを呼び起こす。その音の発生や作曲の全般的な解釈の中には、ディープ・ハウスやアシッド・ハウスのような、少しマニアックなダンスミュージックのサブジャンルの方式が潜んでいるらしい。

 

「Ⅱ」と連曲のような形で続く「Ⅲ」は二人のミュージシャンが意図したであろう内容が明確な形をとって現れた一曲である。ボウドギターのように鋭い減退を繰り返す反復音が、全体的な空間を縦横無尽に駆け巡り、その中でマウスハープのようなエキゾチックな笛の音を把捉できる。構成的にはミニマル音楽を急進的にした内容だが、パレナンの笛が依然としてエスニックのエキゾチズムと落ち着きをこの曲全体に及ぼしている。首座を取るかに思える、楽器やサンプラーの音が平行する音階やリズムとして連鎖していき、二つの境界線を曖昧にしていく。一つのリズムが優勢になったかと思えば、それとは異なるリズムが別の方向から生じ、立体的な音の構成を組み上げていく。ここには、フーガ(追走)の形式がエレクトロニックや民族音楽の楽器の使用を交えて、現代的に洗練された音楽の形式をとって表に現れた瞬間を捉えられる。この曲はライブセッションという面で白熱した瞬間が現れ、特にマウスハープと思われるパレナンの演奏は圧巻で、生でしか捉えられない精細感のあるリアルな音を記録している。曲の最後ではサンプルの音のBPMを変化させ、驚くべき音の化学反応をもたらすことに成功している。曲の最後に聞こえる観客の拍手や賛美の声は、それを明確に証明付ける瞬間と呼べるだろう。

 

「Ⅳ」はエレクトロニック的な性質が強く、長らくAphex Twinで止まりかけていた先鋭的な電子音楽の形式を次の段階へと進めるものである。フューチャーステップの音色を用い、それらをパターン化された音形として出力するという内容である。 そしてここには、クセナキスやシュトックハウゼン、ノーノなど現代音楽からの影響も感じられ、音形をアルゴリズムの観点から解釈し、カンディンスキーのようなパターン化された芸術として解釈し、それらを組み合わせて、音形(フレーズ)を作り上げる。そしてその一定の音形を続ける中で、時折、別の楽節をサンプラーを使用し、突如出現させる。従来は図形譜や楽譜の筆記などの形でしか実現しなかった音形の組み合わせや音の発生学としてのパターンが、新しい技術で組み替えられている。これは、音楽そのものが建築の設計図やデザインのようなものとなり、あらかじめ設計された音の組み合わせの中で予期せぬ音楽の要素が登場するのを試行錯誤しながら待つのである。また、チベットボウルやシードチャイム(ウィンドチャイムの一種)のような一般的にはあまり使用されない異教的な楽器が登場するのは他の曲と同様である。これらが、全般的にパターン化された音楽やアルゴリズムの音楽に明確な形で組み込まれている。そして、これほどドラスティックな形でこういった意図的にパターン化された音楽を作ろうと試みたのは、おそらくエイフェックス・ツイン(リチャード・ジェイムス)以来なのではないかと思う。 この曲はまた、BPMの変化などを通して意図的に変拍子を使用し、リズムの側面でも画期的な気風を呼び込むことに成功している。音楽の驚くべき変貌ぶりをぜひ実際の音源で確かめてもらいたい。

 

パターン化された音楽やアルゴリズムの音楽という側面では、その後の2曲も大きな変わりがない。また、そこには、モード奏法のような音による対話の形式も見いだせる。しかし、全般的な音楽的なアプローチに若干の変化があることは、見識のあるリスナーであればお気づきになられるはず。 依然として、休符を挟みながら不意に出現するサンプラーのパルス状のリズムは暗闇の中に光る明滅のように輝き、その闇を縫うようにし、バンブーフルートのようなマウスハープの特異な吹奏楽器の響きがスタッカートで跳ねながら呼応する。しかし、その演奏法は、やはり一般的な内容とは異なり、ロボットの声のようになったり、ボカロの機械音声のように鳴り響く。人工でアナログな手法を用いたかと思えば、機械的で先進的な音の気風を反映させたりと、全般的な音楽の解釈は驚くほど多彩である。そしてその中で、民族的な舞踊のリズムが登場し、音楽そのものがアグレッシヴになったり、あるいは雅楽のような倍音の性質やその音楽におけるアンビエントの性質を利用した抽象化の音楽が登場したりと、驚くほど広汎な音楽の魅力が散りばめられている。たぶん一度聴いただけでは、その全容を捉えることは困難である。曲の後半では、リズムが完全に停止し、笛のプレスがソロのように象徴的に鳴りわたる。

 

最近、私自身は、音楽全般を良い悪いという、2つの側面だけで考えることは妥当ではないと思うようになった。また、良いメロディーや悪いメロディーというのも、まだ音楽の内奥が把握しきれないとき感じる一つの障壁のようなものでもある。このアルバムは、一般的な二元論を超越し、現代の機械化された社会の中で生きる人間の生々しい息吹を捉えているのが素晴らしい。また、ライブレコーディングならではのスリリングな雰囲気もあり、偶然の要素も確かに内在している。管理された音楽の中で、意外な音の響きを見出す喜びは、他の何にも例えがたい。 「Ⅵ」はその象徴的な楽曲だ。ホワイトノイズを基調にし驚くべき多彩な音楽表現を探る。近年聴いた実験音楽の中では画期的で、最高の部類に入るといっても誇張ではないと思う。

 

 

 

 

95/100 

 

 

 

 

Credit: 


Performed by F/Lor & Emmanuelle Parrenin

On an invitation by Prohibited Records

Recorded live June, 25th, 2025 at Instants Chavirés, Montreuil, France.

Shot live by Benjamin Pagier on 4 tracks

Mixed and Mastered by F/Lor, October 2025. 


Music by F/Lor. Arranged by Emmanuelle Parrenin.

F/Lor : Indian bells & Roland Sp404 Sampler

Emmanuelle Parrenin : Vocals, Singing Bowls, Hurdy Gurdy, Dulcimer, Mouth Harp, Seed Chimes

Artwork : Nicolas Laureau

Album Of The Year 2025    Vol.1 



毎年のようにアルバムオブザイヤーのリストを眺めていますと、年々、目録そのものが膨大になり、内容もまた濃密になっているという気が致します。私自身もすべてを把握しているというわけではございませんが、今年の音楽の流れを見ていると、ジャンルを問わず、全体的にポップ化しているという印象を受けます。ポップ化というのは、音楽が一般化されるということで、より多くのリスナーを獲得したいというミュージシャン側の意図も読み解くことができます。

 

日に日に、ジャンルそのものは多様化し、細分化しているため、以前のようなロックやポップという大まかなジャンルというのはさほど意味をなさなくなってきています。それが全体的なクロスオーバーの流れを象徴づけており、ポップアーティストがロックに傾倒したり、対照的にロックアーティストがポップソングを制作したりというように、音楽そのものはより多様化しています。これもまた、イギリスやアメリカといった音楽の主要な産業地の特色です。なおかつ、今年はこれまであまり大きな注目を受けてこなかった地域のアーティストの活躍が目立ちました。

 

アフリカ圏のミュージシャンが音楽産業の主要地のレーベルから登場した事例や、イスラム圏の音楽家の活躍も目立ち始めています。また、ドイツのミュージシャンの活躍も際立っていました。今までワールドミュージックとして認識されてきた地域の音楽がメインストリームに現れたことに加え、音楽という分野が往古から栄えてきた地域で復興運動が沸き起こっています。これを音楽のルネッサンス運動とまでは明言することは出来かねますが、面白い流れが見出せます。

 

今日のグローバル化した世界はさまざまな人種や文化を内包させながら、変化していくなさかにある。我々の時代は次なる段階を迎えつつあり、雑多な文化を取り込み、明日の世界は形作られていく。世界的な文化観が形成されていく中で、同時に、もう一つカウンター的な流れを捉えることも出来ます。それが独自のローカライゼーション(地域化)に注目するグループであり、これは''その土地の特性や風土を生かした音楽を打ち出す''というスタイルに他なりません。


従来の世界において音楽という分野は社会と連動してきた経緯があります。なぜなら、音楽という行為は、大小を問わず、個人や大衆の社会の姿を映し出すものであり、世界そのものだからです。結局のところ、グローバル/ローカルという分極化こそ、2025年のミュージックシーンの核心でもありました。また、それこそが今日の社会における課題ともなっています。その二つの潮流を捉えきれなかった場合は、音楽シーン全体がきわめて混雑した印象を覚えたのではないかと思います。惜しくもここで紹介することが出来なかったアルバムもいくつかありますが、何卒ご了承下さい。


いずれにせよ、例年より強力なベストアルバムリストを年末年始の休暇にお楽しみください。リストは基本的に発売順で順不同です。

 

▪️EN


Every year as I look through the lists of Albums of the Year, I feel that the catalog itself grows more enormous and its content more dense with each passing year. While I don't claim to be familiar with everything myself, observing this year's musical trends gives me the impression that, regardless of genre, there's an overall shift towards pop. This pop-oriented trend signifies music becoming more mainstream, and I can also discern the musicians' intention to reach a wider audience.


Day by day, genres themselves are diversifying and becoming more fragmented, making broad categories like rock or pop less meaningful than before. This symbolizes the overall crossover trend, where music itself is becoming more diverse—pop artists leaning into rock, or conversely, rock artists creating pop songs. This is also characteristic of major music industry hubs like the UK and the US.Furthermore, this year saw notable success from artists in regions that haven't received much significant attention until now.


Examples include African musicians emerging on major labels in key music industry hubs, and the growing prominence of musicians from Islamic regions. German musicians also stood out significantly.Beyond the emergence of music from regions previously categorized as "world music" into the mainstream, a revival movement is stirring in areas where music has flourished since ancient times. While it may be premature to explicitly call this a musical renaissance, an intriguing trend is certainly emerging.


Today's globalized world is in a state of flux, encompassing diverse races and cultures. Our era is approaching the next stage, incorporating varied cultures to shape tomorrow's world.Amidst the formation of a global cultural perspective, we can simultaneously discern another counter-current. This involves groups focusing on unique localization, which is nothing less than a style that "produces music utilizing the characteristics and climate of the land."


Historically, music has been intertwined with society. This is because music, regardless of scale, reflects the social reality of individuals and the masses—it is the world itself. Ultimately, this dichotomy of global versus local was at the core of the 2025 music scene. Moreover, it represents a major societal challenge today. Without recognizing these two currents, the entire music scene might have seemed overwhelmingly crowded. Unfortunately, there are some albums we were unable to feature here, but we kindly ask for your understanding.


In any case, please enjoy our year-end holiday with a best albums list that's stronger than ever!!


 

 1. Moonchild Sanelly 『Full Moon』- Transgressive   (Album Of The Year  2025)


 

南アフリカ出身のゲットーファンクの女王、Moonchild Sanelly(ムーンチャイルド・サネリー)は、2025年、Transgressiveが大きな期待をもって送り出したアーティストである。

 

南アフリカのダンスミュージック、アマピアノ、Gqomから 「フューチャー・ゲットー・ファンク」と呼ばれる彼女自身の先駆的なスタイルまで、南アフリカの固有ジャンルを多数網羅したディスコグラフィーを擁する。ムーンチャイルド・サネリーは、ビヨンセやティエラ・ワック、ゴリラズ、スティーヴ・アオキなどのアーティストとコラボレートしてきた南アフリカのスーパースター。


エレクトロニック、アフロ・パンク、エッジの効いたポップ、クワイト、ヒップホップの感性の間を揺れ動くクラブビートなど、音楽的には際限がなく、幅広いアプローチが取り入れられている。サネリーは、サウンド面でも独自のスタイルを確立しており、オリジナルファンから愛されてやまないアマピアノと並び、南アフリカが提供する多彩なテックハウスのグルーヴを強調付けている。サネリーのスタジオでの目標は、ライブの観客と本能的なコネクションを持てるような曲を制作することである。さらに、彼女は観客に一緒に歌ってもらいたいと考えている。


最新アルバム『Full Moon』において、サネリーは自分自身と他者の両方を手放し、受容という芸術をテーマに選んだ。曲作りの過程では、彼女は自己と自己愛への旅に焦点を絞り、スタジオはこれらの物語を共有し、創造的で個人的な空間を許容するための場所の役割を担った。


彼女が伝えたいことは、外側にあるものだけとは限らず内的な感覚を共有したいと願ってやまない。それは音楽だけでしか伝えづらいことは明らかだろう。「私の音楽は身体と解放について歌っている。自分を愛していないと感じることを誰もOKにはしてくれない」と彼女は説明する。BBCの音楽番組で放映された「Do My Dance」は、最高の陽気なクラブビート。同時に、アルバムの後半に収録されている「Mintanami」もアフリカンポップの名曲に挙げられる。

 

 「Do My Dance」

 

 

 

2.Mogwai 『The Bad Fire』- Rock Action

この数年、スコットランドのモグワイは、2020年のEP『Take Side』を除いては、その仕事の多くがリミックスや映像作品のサウンドトラックのリリースに限定されていた。見方によってはスタジオミュージシャンに近い形で活動を行っていた。


『The Bad Fire』は、四人組にとって久しぶりの復帰作となる。以前はポストロックの代表的な存在として活躍したばかりではない。モグワイは音響派の称号を得て、オリジナリティの高いサウンドを構築してきた。

 
『The Bad Fire』は、”労働者階級の地獄”という意味であるらしい。これらは従来のモグワイの作品よりも社会的な意味があり、世相を反映した内容となっている。モグワイのサウンドは、シューゲイズのような轟音サウンド、そして反復構造を用いたミニマリズム、それから70年代のハードロックの血脈を受け継ぎ、それらを新しい世代のロックへと組み替えることにあった。ミニマリズムをベースにしたロックは、現代の多くのバンドの一つのテーマともいえるが、モグワイのサウンドは単なる反復ではなく、渦巻くようなグルーブ感と恍惚とした音の雰囲気にあり、アンビエントのように、その音像をどこまで拡張していけるのかという実験でもあった。

 

それらは彼らの代表的な90年代のカタログで聴くことができる。そして、この最新作に関して言えば、モグワイのサウンドはレディオヘッドの2000年代始めの作品と同様に、イギリスの二つの時代の音楽を組み合わせ、新しいハイブリッドの音楽を生み出すことにあった。エレクトロニックとハードロック。これらは、彼らがイギリスのミュージック・シーンに台頭した90年代より以前のおよそ二十年の音楽シーンを俯瞰して解釈したものであったというわけなのだ。復活という言葉が最適かはわからない。しかし、モグワイのサウンドは、依然としてクラシック音楽のように、ロックの伝統に定着しており、鮮烈な印象をもって心を捉えてやまない

 

 「What Kind of Mix Is This?」

 

 

 

3.Lambrini Girls 『Who Let The Dog Out』- City Slang



 ランブリーニ・ガールズはブライトンを拠点に活動するヴォーカリスト/ギタリストのフィービー・ルニーとベーシストのリリー・マキーラによるデュオ。

 

ランブリーニ・ガールズは、ライオット・ガールパンクの先駆者的な存在、Bikini Kllを聴いて大きな触発を受けたという。そして、彼女たちもまた、次世代のライオット・ガールのアティテュードを受け継いでいるのは間違いない。今年、グラストンベリー・フェスティバルに出演し、話題を呼んだ。記念すべきデビュー・アルバムは、痛撃なハードコア・パンクアルバムである。ユニットという最小限の編成ではありながら、かなり音圧には迫力がある。このアルバムで、ランブリーニ・ガールズは、有害な男らしさについて言及し、痛撃に批判している。

 

実際的に、ランブリーニ・ガールズのボーカル(実際にはスポークンワードとスクリームによる咆哮)にはっきりと乗り移り、すさまじい嵐のようなハードコアサウンドが疾駆する。実際的には、ランブリーニガールズのパンクは、現在のポスト・パンクの影響がないとも言いがたいが、Gorlilla Biscuits、Agnostic Frontといった、ニューヨークのストレート・エッジがベースにありそうだ。アルバムの中では「You're Not From Around Here」がとてもかっこよかった。

 

 

 「You're Not From Around Here」

 

 

4.Franz Ferdinand  『The Human Fear』- Domino




本当に良かったと思うのが、フランツ・フェルディナンドの音楽がいまだに古びず、鮮烈な印象を擁していたことである。アークティック・モンキーズやホワイト・ストライプスと並んで、2000年代のロックリバイバルをリードしたのがフランツ・フェルディナンドであった。

 

彼らはライブ・バンドとしての威厳を示し、そしてレコーディングでもいまだにリアルタイムのバンドとしての存在感を示している。このアルバムは、2013年の『Right Thoughts, Right Words, Right Action』でバンドと仕事をしたマーク・ラルフがプロデュースした。



人類の恐怖について主題が絞られているが、それは恐れを植え付けるものではない、それとは対象的に、そこから喜びや楽しさを見出すということにある。「このアルバムの制作は、私がこれまで経験した中で最も人生を肯定する経験のひとつだった。恐怖は、自分が生きていることを思い出させてくれる。私たちは皆、恐怖が与えてくれる喧騒に何らかの形で中毒になっているのだと思う。それにどう反応するかで、人間性がわかる。だからここにあるのは、恐怖を通して人間であることのスリルを探し求める曲の数々だ。一聴しただけではわからないだろうけど」

 

新メンバーを加え、ダンスロック/ディスコロックの英雄は、新しい記念碑的なカタログを付け加えることに成功した。本作には混じり気のないロックソングの魅力が凝縮されているように思える。 ある意味では、フランツ・フェルディナンドというバンド名の由来に回帰するような作品である。20年経っても音楽の軸は変わらない。これはこのバンドの流儀ともいうべきもの。

 


「Night or Day」

 

 

5.Sam Fender 『People Watching』- Polydor  (Album of The Year 2025) 



ニューカッスル出身のソングライター、サム・フェンダーはデビュー当時から、アーティストとはどのような存在であるべきか、真面目に考えてきた人物である。デビュー当時は、メンタルヘルスに問題を抱え自殺する若者など、社会的な弱者に対するロックやポップソングを提供してきた。

 

テーマは年代ごとに変化し、現在では、アルバムのタイトル曲のテーマである天国にいる代理母に歌を捧げた、音楽性は、デビュー当時の延長線上にあるが、より音楽はドラマティックさをまし、多くの音楽ファンの心に響く内容となった。これは、私自身の言葉ではないが、ある人物がこのように言っていた。オアシスはみんな勇気を持つようにということを歌っていたが、サム・フェンダーはできなくても良いんだと許容する存在である、と。これは、社会的な人間の役割や努力の限界性を象徴づけるものである。ロックやポップソングが時代とともにその内容も変化してきている。今作は、英国内の主要な音楽賞(マーキュリー賞)を獲得したことからも分かる通り、現代のUKロック/ポップを象徴付ける画期的な作品ともいえるかもしれない。

 

ニューカッスルのスタジアムの公演を前に体調不良でキャンセルしたフェンダーさんであったが、今作を期に、英国の音楽シーンをリードするトップランナーであることを再び証明している。 

 

「Remember Me」 

 

 

6.Anna B Savage 『You & I are Earth』- City Slang 



アイルランドを拠点に活動を行うAnna B Savageは、三作目のアルバムにおいて、地球や自然、そして人間たちがどのように共生すべきかをオーガニックな風合いに満ちたフォークミュージックと詩により探索している。 こういったアルバムを聴かないうちはなにもはじまらない。

 

音楽的な舞台はアイルランド。サヴェージと当地のつながりは、およそ10年前以上に遡り、マンチェスターの大学で詩を専攻していたときだった。「シアン・ノーの歌についてのエッセイ、カートゥーン・サルーンのものを見たり、アイルランドの神話について読んだりした」という。

 

以来、アンナ・B・サヴェージは多くの時間をアイルランド西海岸で過ごしている。ツアー(今年はザ・ステイヴスやセント・ヴィンセントのサポートで、以前にはファーザー・ジョン・ミスティやソン・ラックスらとツアーを行った。その合間には、故郷のドニゴール州に戻り、仕事のためにロンドンを訪れ、当地の文化的な事業に携わっている。

 

アイルランド/スライゴ州の森林地で撮影された写真で、サヴェージが木々を見上げ、そのフラクタルが彼女の目に映し出されている。彼女が瞑想中に感じた何かを映し出し、私たちを一回りさせる。私たちは本質的に一体で、少なくともそうあろうと努力しており、「あなたと私は地球」という感覚に立ち戻らせる。 「You & I are Earth」はその名の通り、安らぎのフォークミュージックをお探しの方に最適な一枚である。同時に、このアルバムは自然と人間の関係について深く思案させる。メッセージとしても今後の共生のあり方が、それとなく問われているのだ。

 

 「You & I are Earth」

 

 

7.FACS 『Wish Defense』- Trouble In My Mind (Album of The Year 2025) 



シカゴのブライアン・ケース率いる、Facsのアルバム『Wish Defense』は今年一番の衝撃だった。ポストロックやアートロックの完成形であり、アヴァンギャルドミュージックの2025年の最高傑作の一つである。アルビニのお膝元である同地の”エレクトリカル・オーディオ・スタジオ”で録音されたが、奇妙な緊張感に充ちている。例えれば真夜中のスタジオで生み出されたかのようで、人が寝静まった時間帯に人知れずレコーディングされたような作品である。トリオというシンプルな編成であるからか、ここには遠慮会釈はないし、そして独特の緊張感に満ちている。それは結局、スティーヴ・アルビニのShellac、Big Blackのアプローチと重なるのである。

 

さながらこのアルバムがアルビニの生前最後のプロデュースになると予測していたかのように、ブライアン・ケースを中心とするトリオはスタジオに入り、二日間で7曲をレコーディングした。生前のアルビニが残したメモを参考に、ジョン・コングルトンが完成させた。要するに、名プロデューサーのリレーによって完成に導かれた作品である。『Wish Defense』は、80年代のTouch & Goの最初期のカタログのようなアンダーグラウンド性とアヴァンギャルドな感覚に充ちている。どれにも似ていないし、まったく孤絶している。その劇的なロックサウンドは、まさしくシカゴのアヴァンギャルドミュージックの系譜を象徴づけるといえるだろう。結局、このサイトは、こういったアンダーグランドな音楽を積極的に推すために立ち上がったのだ。

 

 

 「Ordinary Voice」

 

 

8.Miya Folick 『Erotica Veronica』- Nettwerk Music Group



ロサンゼルスのシンガーソングライターのミヤ・フォリックは、2015年の『Strange Darling』と2017年の『Give It To Me EP』という2枚のEPで初めて称賛を集めた。2018年にインタースコープから発売されたデビューアルバム『Premonitions』は、NPR、GQ、Pitchfork、The FADERなど多くの批評家から称賛を浴びたほか、NPRのタイニー・デスク・コンサートに出演し、ヘッドライン・ライヴを完売させ、以降、ミヤは世界中のフェスティバルに出演してきた。

 

ミヤ・フォリックは、このアルバムにおいて、自身の精神的な危機を赤裸々に歌っており、それは奇異なことに、現代アメリカのファシズムに対するアンチテーゼの代用のような強烈な風刺やメッセージともなっている。アルバムの五曲目に収録されている「Fist」という曲を聞くと、見過ごせない歌詞が登場する。これは個人の実存が脅かされた時に発せられる内的な慟哭のような叫び、そして聞くだけで胸が痛くなるような叫びだ。これらは内在的に現代アメリカの社会問題を暗示させ、私達の心を捉えて離さない。時期的には新政権の時代に書かれた曲とは限らないのに、結果的には、偶然にも、現代アメリカの社会情勢と重なってしまったのである。
 

本作が意義深いと思う理由は、ミヤ・フォリックの他に参加したスタジオ・ミュージシャンのほとんどがメインストリームのバックミュージシャンとして活躍する人々であるということだろう。このアルバムは、確かにソロ作ではあるのだけれど、複数の秀逸なスタジオ・ミュージシャンがいなくては完成されなかったものではないかと思う。特に、 メグ・フィーのギターは圧巻の瞬間を生み出し、全般的なポピュラー・ソングにロックの側面から強い影響を及ぼしている。非常に力感を感じさせるアルバムだ。インディーロック/インディーポップのどちらとして聞いても粒ぞろいの名曲が揃っている。「Fist」、「Love Want Me Dead」は文句なしの名曲。

 

 「Love Want Me Dead」

 


9.Bartees Strange 『Horror」- 4AD



 


前作では「Hold The Line」という曲を中心に、黒人社会の団結を描いたバーティーズ・ストレンジ。2作目はなかなか過激なアルバムになるのではと予想していたが、意外とそうでもなかった。しかし、やはり、バーティーズ・ストレンジは、ブラックミュージックの重要な継承者だと思う。どうやら、バーティーズ・ストレンジは幼い頃、家でホラー映画を見たりして、恐怖という感覚を共有していたという。どうやら精神を鍛え上げるための訓練だったということらしい。

 

この2ndアルバムは「Horror」というタイトルがつけられたが、さほど「ホラー」を感じさせない。つまり、このアルバムは、Misfitsのようでもなければ、White Zombieのようでもないということである。アルバムの序盤は、ラジオからふと流れてくるような懐かしい感じの音楽が多い。その中には、インディーロック、ソウル、ファンク、ヒップホップ、むしろ、そういった未知なるものの恐怖の中にある''癒やし''のような瞬間を感じさせる。

 

もしかすると、映画のワンシーンに流れているような、ホッと息をつける音楽に幼い頃に癒やされたのだろうか。そして、それが実現者となった今では、バーティーズがそういった次の世代に伝えるための曲を制作する順番になったというわけだ。ホラーの要素が全くないとは言えないかもしれない。それはブレイクビーツやチョップといったサンプルの技法の中に、偶発的にそれらのホラー感覚を感じさせる。たとえ、表面的な怖さがあるとしても、その内側に偏在するのは、デラソウルのような慈しみに溢れる人間的な温かさ、博愛主義者の精神の発露である。これはむしろ、ソングライターの幼少期の思い出を音楽として象ったものなのかもしれない。 

 

『Horror』は単なる懐古主義のアルバムではないらしく、温故知新ともいうべき作品である。例えば、エレクトロニックのベースとなる曲調の中には、ダブステップの次世代に当たる''フューチャーステップ''の要素が取り入れられている。こういった次世代の音楽が過去のファンクやヒップホップ、そしてインディーロックなどを通過し、フランク・オーシャン、イヴ・トゥモールで止まりかけていた、ブラックミュージックの時計の針を未来へと進めている。おそらく、バーティーズ・ストレンジが今後目指すのは"次世代のR&B"なのかもしれない。

 

「Norf Gun」

 

 

10.Annie DiRusso  『Super Pedestrian』-Summer Soup Songs(Album of The Year 2025)


アルバムの中に収録されたたった一曲が、そのアルバムやアーティストのイメージを変えてしまうことがある。『Super Pedestrian』の最後に収録されている「It's Good To Be Hot In The Summer」は感動的な一曲だった。3月に発売されたアルバムだが、圧倒的に夏のイメージが強い。

 

ナッシュビルで活動するソングライター、アニー・デルッソ(Annie DiRusso)は、「『Super Pedestrian』は、私という人物を表現していると思うし、「It's Good To Be Hot In The Summer」は、このアルバムの趣旨をよりストレートに表現していると思う。ようするにデビューアルバムとしては、少し自己紹介のようなことをしたかったんだと思う」という。



アーティスト自身のレーベルから本日発売された『Super Pedestrian』には、デルッソが2017年から2022年にかけてリリースした12枚のシングルと、高評価を得た2023年のEP『God, I Hate This Place』で探求したディストーションとメロディの融合をベースにした切ないロックソングが11曲収録されている。 これらのレコーディングはすべてプロデューサーのジェイソン・カミングスと共に行われ、新作は2023年にミネアポリスで行われたショーの後にディルッソが出会ったケイレブ・ライト(Hippo Campus、Raffaella、Samia)が指揮を執った。


「ジェイソンとの仕事は好きだったし、長い付き合いと仕事のやり方があった。けれど、今回のフルレングスのアルバムでは、自分のサウンドをどう広げられるか、何か違うことをやってみたいと思った。いろいろなプロデューサーと話をしたんだけど、ケイレブというアイディアに戻った」


本作は2024年2月と3月にノースカロライナ州アッシュヴィルのドロップ・オブ・サン・スタジオで録音された。 『スーパー・ペデストリアン』の公演では、彼女が歌とギターを担当し、マルチインストゥルメンタリストのイーデン・ジョエルがベース、キーボード、ドラム、追加ギターなどすべての楽器を演奏した。 今作には共作者のサミア(「Back in Town」)とラストン・ケリー(「Wearing Pants Again」)がゲスト・バッキング・ヴォーカルとして参加している。アニーは、Samia、Soccer Mommyとのツアーを経験している。これからの活躍が非常に楽しみなソングライターだ。

 

 

 「It's Good To Be Hot In The Summer」

 

 

・Vol.2に続く

Loscil 『Ash』



Label: Loscil

Release: 2025年11月21日/12月19日



Review
 
 
ティム・ヘッカーと並んで、カナダを代表する電子音楽プロデューサー、Loscilの最新作『Ash』は、従来通り、アンビエント/ミニマルテクノですが、視覚的な効果を追求した作品と言えます。ベテランプロデューサーとしての技量と重厚な音楽観が凝縮された一作です。アルバムを購入すると、フォトジンが付属していて、そこには、印象的な写真が収録される。今作でロスシルの名を冠するスコット・モルガンさんは音楽と写真を合体させた新たな分野に挑戦しています。
 
 
旧来は、ギターのリサンプリングやモーフィングを中心に楽曲制作を行ってきたロスシルですが、アルバムは、推察するに、シンセサイザー中心の作品となっているようです。ミニマル・テクノに属する短いシークエンスが長尺のトラックを形成していますが、この数年プロデューサーが取り組んでいたトーンの繊細な変化や波形の微細なモーフィングなどを介し、変化に富んだドローンのトラックがずらりと並んでいます。音楽的には、ダークウェイヴとも称すべき短調中心の曲と、対象的に清涼感すら感じさせる長調のドローンが並置されています。こういった対比的な曲調を並べるのが、2025年のアンビエント/ドローンのシーンの主流になりつつある。
 
 
アルバムのタイトル、及び曲のタイトルは、全般的に火にまつわる内容となっている。6曲で40分という聞きごたえたっぷりの内容となっています。「Smoulder− 燻る」、「Carbon- 炭素」、「Soot-煤」など象徴的なタイトルが並んでいます。しかし、それとは対象的に、「Crown- 王冠/王位」、「Cholla− サボテン」もあり、最後は、「Ember- 残り火」で終わる。もしかすると、このアルバムには謎解きのようなミステリアスな意図が込められているのかもしれません。実際の作風は、ロスシルの一般的なアンビエント/ドローンに属していますが、最近の作品は、硬質でメタリックな重厚感に満ちていて圧倒的です。もちろん、それは『Ash』についても同様でしょう。また、ロスシルは最近、シンセサイザーなどを介して、パイプオルガンのような音響を再現することもある。それは全般的には、表立って出てこないものの、最後に暗示的に登場します。
 
 
アルバムを聴いていて思ったのは、昨今のロスシルは、音響工学に属するアンビエントを志しているのではないかということです。そこには音がどのように響き、増幅されていくのかという音響学の視点が備わっている。また、音のサステイン(持続)をどう続けるのか、音響そのものをどう反響させ、減退させ、収束させ、消えさせるか。音が立ち上がる瞬間だけではなく、音が消え入る瞬間にも細心の注意が払われています。プロデューサーという観点から言えば、ソフトウェアの波形のモーフィングにその点が反映されています。音が鳴っている瞬間にとどまらず、音が減退する瞬間や消えゆく瞬間に力が込められていて、スリリングな響きが発生します。こういった音響学的な制作者の興味が「火」というテーマに沿って形作られています。
 
 
短いシークエンスが組み合わされ、徹底的にオスティナート(反復)されるに過ぎないのに、ロスシルの卓越したプロデュースの手腕は、さほど個性的ではないモチーフですら、興味深い内容に変貌させ、最後には、マンネリズムとは無縁の代物になってしまう。波形のデジタル処理やトーンの変調により、驚くべき微細な波形の変化が作り出されています。これは電子音楽による、もしくはプロデュースによる、バリエーション(変奏)の手法と言えるのではないでしょうか。
 
 
 
「Smoulder」を聴くと、荒涼とした風景を思わせるサウンドスケープがイントロに配される。これが曲の根本的な骨組みとなっています。しかし、ドローンのパッドは音量的なダイナミクスの変化を経て、音が発生した後すぐ静かにフェードアウトしていき、その合間に別のシークエンスが登場します。2つのパッドが重なりながら音楽が同時に進行していく。音楽的には、重苦しさや暗鬱さもあるが、同時に力強さもある。その音量的な変化の中で、パンフルートのような音色を用いた3つ目の旋律も登場し、音楽的な印象を決定づける。例えば、ポップやロックソングでは、イントロの後の2、3小節で行うことを、独特なディレイの方式により丹念に行っています。その結果として、映像音楽のように、なにかを物語るような音楽が完成します。


一連のミニマル・テクノの作風の中で、短調のハーモニーを形成させ、静寂の向こうから重厚感のあるドローンの旋律を登場させる。同じ構成がずっと続くようでいて、その過程で微細な変奏を用いている点に驚かされる。短調の悲哀のある印象音楽は、5分以降はその表情を変え、清涼感のあるサウンドスケープに変化していく。明らかに描写的な音楽と言え、大規模火災のような情景を想起させることがあり、それはまた追悼的な意味合いが感じられることもあるでしょう。
 
 
 
二曲目「Carbon」は中音域の持続音に高音域の持続音を付け加え、イントロからロスシルにしかなしえないオリジナリティあふれる音響を作り出す。音楽的な印象そのものは、一曲目と同様に物悲しさに満ちていますが、そのトーン自体からは精妙な感覚も感じ取られる。そして同じように複数のドローンの旋律を重ね合わせ、倍音を作り出し、それらをハーモニーに見立てる。


同様の音楽的な手法が用いられていますが、この曲の面白さは、テクノ的な音の配置にあるようです。永遠に続くかと思われたドローン音が消え去り、静寂が現れると、2分20秒以降では、Burialが使用したようなダブステップの音色がスタッカートのような効果を強調させ、曲のキャンバスに点描を打つ。Andy Stottのようなインダストリアルなテクノの影響が加わり、特異な音響を生み出す。こういった試みは、以前のロスシルの作風には多くは見いだせませんでした。そして、ダブ的なプロデュースの方法を使用し、その残響を強調し、ドローンとして続く。このあたりには、レゾナンス(残響)を巧みに活用しようという制作者の美学が反映されています。また、後半でも、複数の持続音を組み合わせる、カウンターポイントの手法が見出されます。
 
 
 
音楽の基礎としては、1小節目や2小節目において、曲の気風や印象を明瞭に提示するというのが常道です。しかし、それを逆手にとった音楽は古今東西存在している。「Crown」ではその固定概念を覆す。シンセの倍音の音域を増幅させ、煉獄的とも天国的ともつかない中間域にある音楽を作り出す。こういう音楽は、聞き手の感情に訴えかけるのではなく、聞き手の理性に根ざした音楽と言えます。感情の内側にある魂に到達し共鳴する音楽なのです。催眠的な音楽効果も含まれていますが、むしろ制作者が体現したかったのは形而下の内容なのではないでしょうか。


この音楽は、2000年代くらいにあったアンビエント曲を彷彿とさせ、それは聴く人によって印象が様変わりする。「明るい」と思う人もいれば、「暗い」と思う人もいるかもしれません。そして、クワイア(声楽)を模したシンセサイザーの音色が響き、それはやはり特異な印象を帯びる。これらは「音楽の一般化」という概念に対抗するような内容となっているのは確かです。つまり、音楽を決められたように作らないというアイディアが盛り込まれています。全体的なプロデュースの手腕も優れていて、洞窟や高い天井のようなアンビエンス(空間性)を再現しています。こういった曲を聴くと、アンビエントのトラックを制作する時は、''どのような空間性を作りたいのか''というシミュレーションが不可欠であることが理解していただけると思います。
 
 
全般的には、アンビエントともドローンとも言える、その中間点に属する曲が続いた後、いかにもロスシルらしい個性派の曲が登場します。「Soot」はまさしく、このプロデューサーの作品でしか聞けない内容で、ロスシルのファンにとっては避けては通れない内容です。特に、2000年代以降の作品より重力が加わり、メタルのようなヘヴィな質感を帯びていて素晴らしい。従来から制作者が追求していた重みのあるドローン音楽が集大成を迎えた瞬間であり、迫力満点です。文章がその人を体現するとよく言うことがありますが、音楽もまたそれは同様です。そして、この曲の場合は、単なる付け焼き刃ではなく、自然と獲得した人物的な重厚感なのでしょう。


総じて、こういった類いの曲は、扇動的な音楽を意図すると、ノイズや騒音に傾倒しがちなのですが、重力を保ったまま、心地よい精妙なトーンやハーモニーが維持されているのが美点です。本作の冒頭曲のように荒涼とした大地を思わせる抽象的なドローンが徹底して継続されるが、それは先にも言ったように空虚さとは無縁であり、むしろ陶然としたような感覚をもたらす。音量的にはダイナミズムを重視しつつも、その中には奇妙な静けさと落ち着きが含まれる。これこそ長く続けてきた制作者やプロデューサーにしか到達しえない崇高な実験音楽の領域。
 
 
 
16分以上の力作が並んだ最後の二曲は圧巻です。 「Cholla」は、前の四曲とは対象的に、それらの地上的な風景から遠ざかり、天上的で開けた無限の領域に属する音楽性が強調される。 音楽だけに耳を傾けると、誰にも作れるように思えますが、実はこういった曲は、簡単にはなしえません。これこそ、余計な夾雑物を選り分けた後に到達する崇高な領域です。このアルバムで登場した複数のシークエンスが同時進行するカウンターポイントの形式は、カンタータのようなクラシックやジャズとの融合を試みる、新しいアンビエントの形式が台頭した瞬間です。少なくとも、2025年のこのジャンルの曲の中では傑出していて、開放的な空気感に満ちています。
 
 
それは自然の鮮やかな息吹、美しさや崇高さという本作の副次的なテーマを暗示している。この曲を聴いて覚える解放的な感覚や心が晴れやかになる瞬間こそ、このジャンルの醍醐味と言えるのではないでしょうか。人間の魂が、自然と調和し、共鳴するような素晴らしいモーメントを体験することが出来ます。それはまたヒーリングというこのジャンルの副次的な効果をもたらす。
 
 
「Ember」もマニアックではありますが、他の制作者には簡単には作れない曲でしょう。地の底から鳴り響くかのような重厚感のある低音のドローン、その後、教会のパイプオルガンのような主旋律が作曲の首座を占める。これは現代的な感性に培われた電子音楽の賛美歌のようです。通奏低音を徹底的に引き伸ばし、その上に複数の持続音を重ねていくという手法が見出せます。


こういった作風は、現代音楽などでは既出となっていますが、ロスシルは、それらを最も得意とする電子音楽の領域に導き入れる。ドローンの基本的な持続音の形式に属していますが、特に曲の終盤でのフェードアウトしていく瞬間に着目です。音像がフィルターによりだんだん曇り、ぼかされ、ロスシルのモーフィングの卓越した手腕が遺憾なく発揮されています。また、この曲は一曲目「Smoulder」と呼応していて、円環型の変奏形式をひそかに暗示する。冒頭でも述べたように、未知の音響体験といえるのではないでしょうか。かなりの力作となっています。
 
 
 




▪️過去のインタビュー

LOSCIL'S COMMENTS ON THE NEW EP UMBEL   新作EP「UMBEL」に関するロスシルのコメントをご紹介


▪️レビュー


 LOSCIL 「THE SAIL'S,PT.1」


LOSCIL - 『UMBEL』 EP:  バンクーバーのアンビエントの重鎮による重厚なドローン


Luby Sparks' final release of 2025 is a Mars89 remix of “Broken Headphones” from the “Songs of The Hazy Memories” EP.The heavy shoegaze original transforms into a low-slung, flowing dub shoegazer.


Luby Sparks、2025年の締めくくるリリースは、「Songs of The Hazy Memories」EPより、「Broken Headphones」のMars89によるリミックス。ヘヴィ・シューゲイズな原曲が重心の低い流麗なダブ・シューゲイザーへと変貌を遂げている。


Luby Sparks「Broken Headphones (Mars89 Remix)」

Digital | LSEP-9 | 2025.12.19 Release | Released by AWDR/LR2


Listen:[ https://ssm.lnk.to/Mars89Remix ]


1. Broken Headphones (Mars89 Remix)

2. Broken Headphones (Mars89 Remix) -Instrumental


Lyrics : Erika Murphy (Tr.1)

Music : Tamio Sakuma, Natsuki Kato, Mars89

Arranged by Erika Murphy, Natsuki Kato, Tamio Sakuma, Sunao Hiwatari & Shin Hasegawa

Remix : Mars89


Vocal : Erika Murphy (Tr.1)

Backing Vocal, Bass & Synthesizers : Natsuki Kato

Electric Guitar : Tamio Sakuma

Electric Guitar : Sunao Hiwatari

Drums : Shin Hasegawa


Recorded by Ryu Kawashima at IDEAL MUSIC FABRIK

Mixed by Zin Yoshida at Garden Wall

Mastered by Kentaro Kimura (Kimken Studio)


Produced by Luby Sparks & Zin Yoshida, Mars89


Cover Photography : Annika White



Luby Sparks



Luby Sparks is a Japanese alternative rock band formed in 2016. The band’s current lineup is Natsuki (bass, vocals), Erika (vocals), Tamio (guitar), Sunao (guitar), and Shin (drums). The band’s self-titled debut album, Luby Sparks (2018), was recorded in London with Max Bloom (Yuck/Cajun Dance Party) as a co-producer. In 2019, they released a single titled “Somewhere,” which was remixed by Robin Guthrie (Cocteau Twins). 


In May 2022, Luby Sparks released their second album, Search + Destroy, which is produced by Andy Savours, a Mercury Prize-shortlisted producer and engineer in London, who is known for working with My Bloody Valentine, Black Country, New Road, and Rina Sawayama. The album launch show at WWW X in Shibuya held in June was successfully sold out. 


In October, they performed in Bangkok, Thailand. In March 2023, Luby Sparks were actively expanding overseas with their first headline US tour around seven cities (New York, Boston, Philadelphia, San Francisco, Seattle, San Diego, and Los Angeles). In September of the same year, they were touring in seven cities in China, including a show at Strawberry Music Festival 2023, followed by a performance in Korea, and the worldwide festival Joyland Festival 2023 in Indonesia. Following the release of the last EP Song for The Daydreamers released in May 2024, new EP Song of The Hazy Memories will be released on January 24th, 2025.


[ https://lubysparks.lnk.to/bio_top ]


Natsuki (ba/vo)  Erika (vo)  Sunao (gt)  Tamio (gt)  Shin (dr)。


2016年3月結成。2018年1月、Max Bloom (Yuck) と全編ロンドンで制作したデビューアルバム「Luby Sparks」を発売。2019年9月に発表したシングル「Somewhere」では、Cocteau TwinsのRobin Guthrieによるリミックスもリリースされた。


2022年5月11日にMy Bloody Valentine、Rina Sawayamaなどのプロデュース/エンジニアを手掛けるAndy Savoursを共同プロデューサーに迎え、セカンド・アルバム「Search + Destroy」をリリース。同年6月には、初のワンマンライブ「Search + Destroy Live」(WWW X) も行い、ソールドアウトとなった。


10月にはタイでの海外公演、2023年3月全米7都市にて「US Tour 2023」、9月「Strawberry Music Festival 2023」を含む中国全7都市「China Tour 2023」、10月韓国、11月インドネシア「Joyland Festival」へ出演を行うなど海外での展開も積極的に行なっている。2024年5月にリリースした「Songs for The Daydreamers」EPに続き、2025年1月24日にも「Songs of The Hazy Memories」EPをリリース。

 

[ https://lubysparks.lnk.to/bio_top ]



Mars89


Mars89 is a musician whose uncompromising electronic compositions have cemented him as one of the most unique and exciting prospects within Tokyo’s underground club circuit, but his contribution to the city’s culture extends far beyond the dancefloor.


Since moving to Tokyo in his late teens in 2008, Mars89 has established himself as someone whose creative output — in all its shapes and forms — provides a vital perspective on the vicissitudes of living in one of the most populous urban metropolises in the world.


His discography to-date is a bricolage of styles, channeling the guttural, sub-bass-infused body music from UK dubstep’s heyday and the mutant rhythms of Bristol’s signature bass music scene — some of Mars89’s foundational musical influences — as well as the auteurs of cinema, from Kubrick to Lynch, and, specifically, their unparalleled flair for all things eerie, abject and uncanny. In his arsenal, he possesses tracks that can immediately ignite the latent energy of a heaving club crowd, as well as ambient compositions that transport listeners into unsettling alien landscapes evocative of sci-fi dystopias and biotechnological collapse. It’s his ability to weave seamlessly between the two that sets him apart as an artist who ultimately uses his sensibilities to design entire worlds, and this is also reflected in his boundary-pushing VR explorations with label Bokeh Versions and collaborations with designers like Patrick Savile.


Under the alias Temple Ov Subsonic Youth, known for his live hardware sets, he creates chaotic dance floors through the heavy bass of drum machines and distorted sounds born from layered, diverse sampling.

Additionally, his label Nocturnal Technology, as the name suggests, consistently releases nocturnal electronic sounds. The label name, 'Nocturnal Technology,' refers to the idea that a DJ's skills come to life during the night. The logo pays homage to the bat, an animal that is active at night and perceives its surroundings through sound waves, symbolizing the label’s concept of 'nocturnal technology.'


Outside of music, Mars89 has collaborated with fashion brand Undercover's Jun Takahashi, on a collection that deconstructed military garments, making them into a powerful anti-war statement in true punk spirit, as well as releasing a record through the brand. The latter referenced the show soundtrack he had created for Undercover’s AW19 collection, and featured remixes by Thom Yorke, Zomby and Low Jack, who he had played alongside at the Takahashi-curated instalment of Virgil Abloh’s club night, Sound Design. All three of the artists signed up for remix duty immediately upon request, demonstrating how highly regarded Mars89 is by his global contemporaries.


Mars89 is also a key figure within Tokyo’s activist community, spearheading an anti-establishment ‘Protest Rave’ that has seen sound trucks drive through some of the city’s most iconic vistas while blasting out hard techno, galvanising Tokyo’s youth into new, emergent strands of political engagement.


Mars89は、妥協のないエレクトロニック・ミュージックで、東京のアンダーグラウンド・クラブシーンで最もユニークでエキサイティングな存在として知られている。


2008年に10代後半で東京に移住して以来、世界で最も人口の多い都市のひとつで生活することの難しさについて、あらゆる形で表現する人物として地位を確立してきた。


これまでの彼のディスコグラフィーは、様々なスタイルが混在している。UKダブステップ全盛期のサブベースや、ブリストルの特徴的なベースミュージックシーンの突然変異したリズムなどの音楽的な影響に加え、David LynchやDavid Cronenbergなどの映画監督、特に不気味で忌まわしいものに対する彼らの比類ない才能からも大きな影響を受けている。

クラブの群衆の潜在的なエネルギーに即座に火をつけるトラックや、ディストピアやバイオテクノロジーの崩壊を連想させる不穏な風景にリスナーを連れて行くアンビエントトラックが彼の武器であり、この2つをシームレスに織り成す能力こそが、自分の感性を使って世界全体をデザインするアーティストとしての彼の特徴である。このことは、Bokeh Versionsとの境界を超えたVRの探求や、Patrick Savileとのコラボレーションにも反映されている。


彼のハードウェア機材によるライヴセットの名義であるTemple Ov Subsonic Youthでは、空間を震わせるドラムマシンの重低音と、多様なサンプリングが重なり合うことで生み出される歪んだサウンドにより、混沌としたフロアを作り出すことに成功している。


また、彼が立ち上げたレーベルNocturnal Technologyは、その名の通り、夜のエレクトロニック・サウンドをコンスタントにリリース。レーベル名のNocturnal Technology(夜行性の技術)は、DJの技術が夜間に活気づくことを意味している。ロゴは、夜間に活動し音波を見通す動物であるコウモリへのオマージュであり、レーベルのコンセプトである 「夜行性の技術」を象徴している。


音楽以外では、UNDERCOVERの高橋盾とのコラボレーションプロジェクトでミリタリーウェアを解体し、真のパンク精神で反戦を訴えるコレクションを発表したほか、同ブランドからレコードもリリース。後者は、UNDERCOVERのAW19コレクションのために制作したショーのサウンドトラックをベースにしたもので、Virgil Ablohが主催するクラブナイト「Sound Design」で高橋がキュレーションした際に共演したThom Yorke、Zomby、Low Jackのリミックスが収録されてる。この3人のアーティストがリミックスの依頼にすぐに応じたことは、Mars89が世界の同世代のアーティストからいかに高く評価されているかを示している。


Mars89は、東京のアクティヴィストコミュニティの重要な存在でもあり、Protest Raveでは、サウンドシステムを積んだトラックでハードテクノを鳴らしながら東京の象徴的な景色の中を走り抜け、若者に政治的活動への参加を促している。

 【Album Of The Year 2025】  Best Album 50   2025年のベストアルバムセレクション   Vol.4 


 

31.Alex G   『Headlights』- RCA/Sony Music(Album of The Year 2025)



アメリカの名うての名門レーベル、RCAに移籍して最初のアルバム『Headlights』をリリースしたAlex G。すでに来日公演を行っており、馴染みのあるリスナーも多いのではないかと思う。

 

Alex Gの全般的なソングライターとしての価値は、従来はバンド単位で行っていたインディーロックやアメリカーナを個人のアーティストとして(ときにはバンドアンサンブルを交えて)パッケージすることにある。ニューアルバムも素晴らしい出来で、ハイライト曲もしっかり収録されていた。アレックスGの代表的なアルバムが登場したと言っても差し支えないだろう。ソングライターとしての手腕も年々高い水準に達しつつあり、今後の活躍も楽しみでしようがない。

 

さて、『Headlights』は、近年の男性ミュージシャンの中でも傑出した作品といえるだろう。前作ではアメリカーナやフォークミュージックをベースに温和なロックワールドを展開させたが、それらの個性的な音楽性を引き継いだ上で、ソングライティングはより円熟味を増している。現代的なポップ/ロックミュージックの流れを踏まえた上で、彼は普遍的な音楽を探求する。


前作アルバムはくっきりとした音像が重視され、ドラムテイクが強めに出力されていたという点で、ソロアーティストのバンド性を重視している。その中で幻想的なカントリー/フォークの要素をもとにした、ポピュラーなロックソングが多かった。最新作では前作の延長線上を行きながら、さらに深い領域に達した。円熟味のあるソングライティングが堪能できるグッドアルバム。

 

「Afterlife」

 

 

32. Benefits 『Constant Noise』 - Invada 


 

ミドルスブラのデュオ、Benefitsは2023年のデビューアルバム『Nails』で衝撃的なデビューを果たし、グラストンベリーへの出演、国内メディアへの露出など着実にステップアップを図ってきた。メンバーチェンジを経て、デビュー当時はバンド編成だったが、現在はデュオとして活動している。


当初インダストリアルな響きを持つポストハードコアバンド/ノイズコアバンドとして登場したが、その中には、ヒップホップやエレクトロニックのニュアンスも含まれていた。ベネフィッツは新しい時代のポストパンクバンドであり、いわば、Joy Divisionがイアン・カーティスの死後、New Orderに変身して、エレクトロの性質を強めていったのと同じようなものだろう。もしくはそのあとのヨーロッパのクラブを吸収したChemical Brotersのテクノのようでもある。


全体としては、メンバーチェンジを経たせいもあり、音楽性が定まらなかった印象であるが、やはり依然としてベネフィッツらしさは健在である。スティーヴ・アルビニへの追悼「Lord of The Tyrants」、Libertinesのピーター・ドハーティをフィーチャーした「Relentless」、このユニットの重要なコアであるヒップホップナンバー「Divide」も強烈な印象を放ってやまない。

 

「Relentless」 

 

 

33.Water From Your Eyes 『It's A Beautiful Place』 - Matador



ニューヨークのWater From Your Eyesは、2023年のアルバム『Everyone's Crushed』に続いて、Matadorから二作目のアルバム『It's A Beautiful Place』をリリースした。前作は、アートポップやエクスペリメンタルポップが中心の先鋭的なアルバムだったが、本作ではよりロック/メタル的なアプローチが優勢となっている。もちろん、それだけではない。このアルバムの魅力は音楽文化の混在化にある。

 

ネイト・アトモスとレイチェル・ブラウンの両者は、この2年ほど、ソロプロジェクトやサイドプロジェクトでしばらくリリースをちょこちょこと重ねていたが、デュオとして戻ってくると、収まるべきところに収まったという感じがする。このアルバムを聴くかぎりでは、ジャンルにとらわれないで、自由度の高い音楽性を発揮している。

 

表向きの音楽性が大幅に変更されたことは旧来のファンであればお気づきになられるだろう。Y2Kの組み直した作品と聞いて、実際の音源に触れると、びっくり仰天するかもしれない。しかし、ウォーター・フロム・ユア・アイズらしさがないかといえば、そうではあるまい。アルバムのオープニング「One Small Step」では、タイムリープするかのようなシンセの効果音で始まり、レトロゲームのオープニングのような遊び心で、聞き手を別の世界に導くかのようである。

 

その後、何が始まるのかと言えば、グランジ風のロックソング「Life Signs」が続く。今回のアルバムでは、デュオというよりもバンド形式で制作を行ったという話で、その効果が一瞬で出ている。イントロはマスロックのようだが、J Mascisのような恐竜みたいな轟音のディストーションギターが煙の向こうから出現、炸裂し、身構える聞き手を一瞬でノックアウトし、アートポップバンドなどという馬鹿げた呼称を一瞬で吹き飛ばす。その様子はあまりにも痛快だ。ロック、ポップ、ヒップホップを始め、様々なカルチャーが混在するニューヨークらしい作品。

 

「Life Signs」 

 

 

 

34.Marissa Nadler 『New Radiations』 - Bella Union/ Sacred Bones  



最近は、国内外を問わず、マイナー・スケール(単調)の音楽というのが倦厭されつつある傾向にあるように思える。暗い印象を与える音楽は、いわば音楽に明るいイメージを求める聞き手にとっては面食らうものがあるのかもしれない。

 

ナッシュビルを拠点に活動を行うマリッサ・ナドラーは古き良きフォークシンガーの系譜に属する。彼女は、レナード・コーエン、ジョニ・ミッチェルのような普遍的な音楽を発表してきたミュージシャンに影響を受けてきた。暗い感情をそのまま吐露するかのように、淡々と歌を紡ぐ。歌手は、物悲しいバラッドを最も得意としていて、それらの曲を涼しげにさらりと歌う。全般的には、このミュージシャンの表向きにイメージであるモノトーンのゴシック調の雰囲気に彩られている。


ただ、そのフォークバラッドに内在するのは、暗さだけではない。その暗さの向こうから静かに、そしてゆっくりと癒やされるようなカタルシスが生じることがある。ナドラーのキャリアハイの象徴的なアルバム『New Radiations』は光と影のコントラストから生じている。学生時代から絵画を専門に専攻し、絵をサイドワークに据えてきた人物らしい抜群のコントラストーー色彩感覚がこのアルバムのハイライトになっているのである。

 

「Light Years」 

 

 

 

35.TOPS『Bury The Key』Ghostly International  



 

トップスは”最も優れたインディーポップバンド"としての称号をほしいままにしてきた存在である。しかし、このアルバム全体を聴くとわかる通り、フラットな作品を作ろうというような生半可な姿勢を反映するものではない。この点において、2012年頃から彼らはコアな音楽ファンからの支持を獲得してきたが、音楽性を半ば曲解されてきた部分もあったのではないだろうか。

 

ニューアルバム『Bury the Key』はソフィスティポップ(AOR/ソフトロック)を中心に構成され、そしてヨットロックの音楽性も盛り込まれている。 しかし、実際の音楽は表向きの印象とは対照的に軽いわけではない。ギター、ベース、ドラム、フルート、シンセの器楽的なアンサンブルは、無駄な音がなく、研ぎ澄まされている。メロディーの良さが取り上げられることが多いが、TOPSのアンサンブルは、EW&F(アースウィンド&ファイア)に匹敵するものがあり、グルーヴやリズムでも、複数の楽器やボーカルが連鎖的な役割を担い、演奏において高い連携が取れている。


TOPSのサウンドは、Tears For Fears、Freetwood Macといった、70、80年代のサウンドを如実に反映させているが、実際的なサウンドはどこまでもモダンな雰囲気が漂い、スウェーデンのLittle Dragonに近い。表向きに現れるのは、ライトな印象を持つポップソングであるが、ディスコ、アフロソウル、R&B、ファンク等、様々な要素が紛れ込み、それらの広範さがTOPSの音楽に奥行きをもたらしている。これが、音楽に説得力をもたせている要因である。しかし、それらのミュージシャンとしての試行錯誤や労苦をほとんど感じさせないのが、このアルバムの凄さといえる。

 

TOPSの曲が魅力的に聴こえる理由はなぜなのかといえば、それは音楽そのものが平坦にならず、セクションごとの楽器の演奏の意図が明確だからである。さらにヴァースやコーラスの構成のつなぎ目のような細部でも一切手を抜かないでやり抜くということに尽きる。 

 

「Wheels At Night」 

 

 

36. Jaywood 『Leo Negro』- Captured Tracks



ジェイウッドはカナダ/ウィニペグから登場したソングライターで、ヒップホップやインディーソウルを融合させ、これらのジャンルを次世代に導く。『Slingshot』では自己のアイデンティティを探求し、繊細な側面をとどめていたが、今作にその面影はない。現在の音楽の最前線であるモントリオールに活動拠点を移し、先鋭的なネオソウル/ヒップホップアルバムを制作した。ここで"ヒップホップはアートだ"ということを強烈に意識させてくれたことに感謝したい。

 

全般的な楽曲からは強いエナジーとエフィカシーがみなぎり、このアルバムにふれるリスナーを圧倒する。ジェイウッドは、電話のメッセージなど音楽的なストーリーテリングの要素を用い、起伏に富んだソウル/ヒップホップソングアルバムを提供している。また、その中には、デ・ラ・ソウル、Dr.Dreなどが好んで用いた古典的なチョップやサンプリングの技法も登場したりする。


直近のヒップホップ・アルバムの中では、圧倒的にリズムトラックがかっこいい。彼は、このアルバムで、トロイ・モアの系譜にあるメロディアスなチルウェイブとキング・ダビーが乗り移ったかのような激烈なダブのテクニックを披露し、ドラムンベースらベースラインを含めるダブステップの音楽性と連鎖させる。彼は次世代の音楽を『Leo Negro』で部分的に予見している。

 

アルバムには古典から最新の形式に至るまで、ソウルミュージックへの普遍的な愛着が感じられ、それらはビンテージのアナログレコードのようなミックスやマスターに明瞭に表れ出ている。ギターのリサンプリング、そしてサンプル、ボーカルが混在し、サイケでカオスな音響空間を形成する。しかし、その抽象的な音の運びの中には、メロウなファンクソウルが偏在している。

 
全体的には2000年代前後のヒップホップをベースにし、ピアノのサンプリングを織り交ぜ、ジャズの響きを作り出す。モントリオールの音楽が新しく加わり、ジェイウッドの音楽は驚くほどゴージャスになっている。実際的にジャズ和声を組み合わせ、それをリズムと連動させ、強固なグルーブを作り出す、ニューヨークの前衛的なヒップホップの影響を織り交ぜられ、激烈な印象を持つギターが入ることもある。これらの古典性と先進性が混在したヒップホップソングは、スクラッチの技法を挟みながら、時空の流れを軽々と飛び越えていく。これは本当にすごい。

 

「Sun Baby」

 

 

37.Nation Of Language  『In Another Life』- SUB POP



ネイション・オブ・ランゲージの新作アルバムは現代社会のテーマを鋭く反映していて、興味を惹かれる。テクノロジーという無限世界に放たれ、道標を見失う現代人の心を、明確に、そして的確に捉えているのが感歎すべき点である。


イアン・デヴァニー(ボーカル/ギター)を中心とする三人組は、テクノロジーを逆手にとったような音楽を探求している。そこから浮かび上がるのは、デジタル社会における人間性とは何かという点である。


また、いいかえれば、目覚ましく発展するIT社会で、人間的な感性はいかなる価値を持ちうるのか、という問いなのである。デヴァーニー、ノエル(ドラム)、マッケイ(シンセ)の三者は、それらを「テクノ・ポップ」という近代と未来の双方を象徴付ける音楽で表現しようとする。

 

 最新作『Dance Called Memory』はデジタルとアナログが混合した不可思議な音楽世界を醸成する。彼らがハードウェアのシンセサイザーを使用するのは周知の通りで、本作の冒頭から終盤にかけて、エレクトロニクスの楽器がミステリアスな世界観を確立している。本作を機に、バンドはPIASからSub Popへと移籍したが、相変わらず素晴らしい楽曲を書くグループだ。

 

「I'm Not Ready For The Change」 

 

 

 

38.Automatics 『Is It Now』- Stone Throw 



オートマティックの自称する「Deviant Pop」とは、''逸脱したポップ''のことを指すが、ロスの三人組の三作目のアルバムを聴けば、どのような音楽か理解出来るだろうと思われる。ニューウェイブのポスト世代に属する音楽であり、その中には、ディスコやクラウトロック、エレクトロニック、ダブ、デトロイトの古典的なハウス、ヨットロックなどが盛り込まれているが、明らかにオートマティックは、最新アルバム『Is It Now?』で未来志向の音楽を発現させている。



彼女たちは、ギターレスの特殊なバンド編成を長所と捉えることで、複合的なリズムとグルーヴをつくりだす。オートマティックは、ジナ・バーチ擁するニューウェイブバンド、The Slitsの再来であり、彼女たちが生み出すのは内輪向けのパーティソングともいえる。しかし、その内輪向けのポップソングは、同時に今後のミュージックシーンの流行のサウンドを象徴づけている。



今年のアルバムの中では鮮烈な印象を放つ。『Is It Now?』はニューウェイブの次の世代となるネオウェイブの台頭が予感される。三者のボーカルが入り乱れる音楽は、どこから何が出てくるかまったくわからない。現代社会への提言を織り込んだ痛撃なアルバムが登場したと言える。

 

 

 

 

 

39.Leisure 『Welcome To The Mood』(Album of The Year 2025)



NZ/オークランドの6人組グループ、Leisure。TOPSのようなヨットロックから、80年代初頭のStylistics、Commodoresのような、マーヴィン・ゲイやスティーリー・ダン、クインシー・ジョーンズらが登場する前夜のソウルミュージックを織り交ぜ、トロピカルな雰囲気に満ちたポップソングを制作している。

 

新作『Welcome To The Mood』は相当練り上げられたかなり完成度の高い作品である。もちろん、ミックスやマスターで磨き上げられ、現代的なデジタルレコーディングの精華である”艶のあるクリアな音質”が特徴で、聴きやすい作品。

 

ドラムの演奏が際立ち、レジャーの楽曲全体を司令塔のようにコントロールしている。ドラムが冗長なくらい反復的なリズムを刻むなか、6人組という、コレクティブに近い分厚いバンド構成による多角的なアンサンブルが繰り広げられ、音楽そのもののバリエーションが増していく。

 

レジャーの音楽は、表面的には、ポップネスの要素が強い反面、その内実はファンクソウル/ディスコソウルを濾過したポップソングである。ジェイムス・ブラウンの系統にあるファンクのビートが礎になり、軽快で清涼感のあるポップソングが形作られる。

 

レジャーの音楽は、ポップをベースにしているが、ロックの性質を帯びる場合がある。ただ、レジャーはどちらかと言えば、The Doobie Brothers、Earth Wind & Fireのような白人と黒人の融合したロックソングの性質を受け継いでいる。彼らのソウルのイディオムは必ずしも、ブルー・アイド・ソウルに根ざしているとはかぎらず、サザンソウルやサザンロックなど、米国南部のロックやR&Bの要素をうまく取り込んで、それらを日本とシティポップや米国西海岸のソフィスティポップと撚り合わせて、安定感に満ちた聴き応えのある音楽を提供しています。

 

「The Colour Of The Sound」 

 

 

 

40. Geese  『Getting Killed』 - Partisan/ PIAS



 

ニューヨークのバンド、Geeseが待望の3rdスタジオアルバム『Getting Killed』で帰還。音楽フェスでケネス・ブルームに声をかけられた彼らは、ロサンゼルスの彼のスタジオで10日間という短期間で本作を録音。


オーバーダビングの時間がほとんどない中、完成した作品は混沌としたコメディのような仕上がりとなった。ガレージ風リフにウクライナ合唱団のサンプルを重ね、ヒス音のするドラムマシンがキーンと鳴るギターの背後で柔らかく脈打つ。奇妙な子守唄のような楽曲と反復実験が交互に現れる。『Getting Killed』でGeeseは、新たな柔らかさと増幅した怒りのバランスを取り、クラシックロックへの愛を音楽そのものへの嫌悪と交換したかのようである。

 

今作は、セカンド・アルバム『3D Country』の延長線上にあるが、より冒険心と遊び心を感じさせる。全般的なロックソングとしては、ローリング・ストーンズの系譜にあるブギーロックを受け継いでいるが、Geeseのデビュー当時のサウンドと同様に、それは混沌とし、錯綜していて、現代社会を暗示するかのようだ。それらはしばしば、「Au Pay Du ocaine」などに象徴されるようにサイケロックやサイケソウルのようなテイストも併せ持つ。そんな中でも、カントリーとロック、ブルース、ソウルなどを組み合わせた楽曲が本作のコアとなっている。「Getting Killed」、「Islands of Man」、「100 Horses」はその象徴ともいうべきトラックだ。また、 ローリングストーンズの名曲「Symphony for The Devil」を彷彿とさせる、アヴァンギャルドなロックソング「Long Island City Here I Come」にも注目したいところです。

 


「100 Horses」 

 

 

・Vol.5に続く

ブルターニュ出身のプロデューサー、Quinquis(本名エミリー・クインキス)——現在グウェノとの全英ツアー中——が本日、エミリーの新作アルバム『eor』収録曲「Morwreg」のGwennoによるリミックスを公開した。ダブステップ風のリズムの中で、先進的なボーカルのリミックスが光る一曲。


二人のアーティストは今年インタビューする中で初めて出会い、音楽を通じて自らの文化的アイデンティティをいかに守り、称えるかについて語り合った。クインキスもグウェノも、それぞれの母語であるケルト語——ブルトン語、コーンウォール語、ウェールズ語——で歌っており、本作『eor』ではウェールズ語(ケリス・ハファナとの共演)とズールー語(デズィア・マレアとの共演)でのコラボレーションが収録されている。 クインキスのグウェノ・アルバム『ユートピア』(ヘヴンリー・レコーディングスより発売中)収録曲リミックスも近日公開予定。


「グウェノのリミックスは長い夜を回想するもの…壊れた関係の断片を床に散らばったまま、夜明けと共に思い返すような感覚です」とエミリーは語る。「『船が出航する時、私から何を隠すの?』と問い続ける——まるで失われた愛への執着が頭の中でぐるぐる回り続けるように」


「Morwreg」- Gwenno Remix

Yazmin Lacey 『Teal Dreams』 


Label: AMF

Release: 2025年10月24日

 

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Review

いつの間にか、ロンドンに活動拠点を移したアーティストは、前作『Voice Notes』では、レゲエのリバイバルを試みていたが、最新作『Teal Dremas』はダンサンブルなビートを生かしたネオソウルアルバムを制作した。ダンストラックとして楽しめる曲がある一方、ディープなソウルミュージック、それからクラシカルなレゲエソングもある。今回のレビューは、デジタルの音源をもとに行いますが、ビニール盤では、また一味異なる音の質感が感じられるかもしれません。

 

ネオソウルとしては、実際の制作者の実像はさておき、作品としてはファッションスターのような、きらびやかな印象があることが重要です。その点において、「Teal Dreams」には、スターへの羨望的な雰囲気、バブリーな空気感が漂っている。また、それは80年代のソウルミュージックと呼応するようなスタイリッシュな音楽が示されている。次いで注目すべきは、前作の全体的なレゲエの要素に加え、アンダーグランドのダンスミュージックを絡め、センスの良いブラックミュージックを制作していることでしょう。ビンテージなレゲエの要素もたまに登場するが、モダンなネオソウルやダンス・ミュージックをレイシーは追求したということになる。それ加えて、夢見るような音楽を、ヤスミンは制作しようとしたように感じられる。しかし、夢見るような音楽とは言っても、それは千差万別です。今回のアルバムの場合、それは、クラバー向けのDJサウンドを、全般的なディープソウルの要素と結びつけたと言えるでしょう。

 

その中で、もう一つ新たな音楽的な要素が加わった。アルバムの冒頭曲「Teal Dreams」では、アフリカの民族音楽のリズムが、心なしかエキゾチックな印象をもたらす。 その中で、近代的なイギリスの革新的なリズムーースカ、レゲエ、ダブーーといった、70-80年代の英国のニューウェイヴの要素を添え、独特なテイストを持つネオソウルのトラックを制作している。もちろん、アフロ・カリブやアフリカへのルーツの回帰という主題も捉えることは可能ですが、それらにイギリスに対する文化的な敬意を添えようとしている。最終的には、スタイリッシュな感覚を持つソウルミュージックが出来上がる。現在のロンドンの混在する文化性を象徴するような楽曲です。


その中で、レイシーはボーカルの側面で、絶妙なポップセンス/メロディーセンスを発揮している。これはラップだけでは少し物足りないと感じるリスナーをも惹きつける可能性がある。その中で、エキゾチズムというテーマを音楽的に強調する瞬間が「Two Steps」に現れる。文字通り、ロンドンのガラージや2ステップのリズムを取り入れているが、全般的にはアフロ・キューバン・ジャズのような南米の音階やリズムが登場し、躍動するビートの中で、南欧の音階も登場する。ジプシー音楽を彷彿とさせる哀愁のあるサウンドは、キューバ/プエルトリコのような地域のサウンドも相まって、特異なテイストを放つ。その中で、全般的には、ブレイクビーツを配したドラムテイクの中で、ヤスミン・レイシーのボーカルが鮮やかな印象を保っている。その中で、最近流行りの2つのボーカルーー歌とラップーーを並置させ、特異な音楽を作り出す。

 

しかし、これらは飽くまでポピュラーソングの範疇で行われていることに注目したいところです。レゲトンを意識した「Wallpaper」では、ヤスミン・レイシーは、堂々とポピュラーシンガーであると宣言している。そして、依然として、前作と同じように、レゲエのジャマイカのリズムが、心地良い雰囲気を作り出す。また、この曲では、アーティストによるトロピカルソングの見本が示される。今回は、ダンス・ミュージックやネオソウルが表向きには主要な印象を占めているように思えます。しかし、同時に前作のレゲエの要素は、より奥深い領域へと到達していることが分かる。「Love Is Like The Ghetto」は、Trojan Reggeaのリズムを参考にして、オルガンの裏拍の音色やダブ風のギターのサウンド処理を通じて、トロピカルな印象を押し出す。その中で、ゲットーへの愛を示すかのように、温かなボーカルの雰囲気を作り出す。ムードたっぷりで、東京の下町のような人情味溢れる雰囲気のソウルミュージックは、他ではなかなか聞くことができないでしょう。アーティストによるローカルコミュニティへの愛情が感じられる。

 

その他、ヤスミン・レイシーの音楽が理想的である理由は、一貫して、人間の愛情や友情の側面に焦点を当てようとするから。つまり、レイシーの音楽は、必ずしも特異性を示すのでなく、共通項を示そうとしている。「Worlds Apart」 は、分断する今日の世界から距離を取り、人間の本質的な美徳を言い表わそうとする。音楽的にも、それは同様で、美麗なギターのアルペジオを中心としたフォークミュージックを通じて、現代人の多くが忘れかけた感覚を取り戻すべく試みる。これはしかし、必ずしも悲劇的なヒロイックな印象を押し出すのではなく、平等や人権といった普遍的な観念から、これらの一般性ーー親しみやすさーーを導出するのである。


そして、そのための1つの鍵となるのが、エズラ・コレクティヴが示した”ダンス”という主題であるが、このアルバムの場合は専門的なダンスではなく、一般的なダンスであり、”音楽に合わせて体を揺らす”という”シンプルな運動”を意味する。これは、エズラ・コレクティブが、神様という視点を欠かさぬように、より大きな宇宙的な存在を見ないことにはなし得ないことなのでしょう。また、それはヤスミン・レイシーの音楽の根幹の部分を形成している。続く「Rear View」でも、その点は変わりがないようです。金管楽器をフィーチャーし、ジャズの要素が付け加えられるが、ダンスミュージックにある陽気さや楽しさという本作の理想が体現されている。当然、一般的な感覚の共有という側面でのコミュニケーションを意図しているのでしょう。


また、音楽的に言っても、最近のダブは、他の音楽とのクロスオーバや融合が進んでいるので、その本義が薄まりつつある。しかし、「Grace」はダブの王道の楽曲であり、この音楽の基本的な要素が受け継がれている。シンプルなレゲエのスネア、そして、時折、切れ切れに聞こえるブレイクビーツやヒップホップの重要なヒントとなったベース、夢想的なヴィブラフォン、そしてベルを交え、全体的な楽曲の骨組みを作り上げていく中で、ソウルの王道のボーカルが、最終的にメインメロディーを作り出す。同時に、これらの器楽と声は、美麗なハーモニーを形成する。まさしく大人のためのソウルミュージックで、これはあまり近年に聴いた記憶がない。この曲では、ブラックミュージックの奥深い感覚、そして、静寂を体感することが出来る。また、一般的なギターロックやギター・ポップに挑戦した曲も収録されている。「No Promises」は、80年代っぽい秀逸なギターポップソングとして大いに楽しむことが出来るでしょう。

 

後半にも簡単に聴き逃がせない曲がいくつかあります。「Wild Things」ではアルバムの序盤のアフロキューバのリズムが復活し、それらがこのアルバムの根幹にあるダンスミュージックと呼応し、サイケな印象を帯びる。サイケデリック・ソウルの急峰が、このポイントで形成される。「Ain't I Good For You」は、キューバン・ジャズのリズムや音階を強調し、エズラ・コレクティヴ風のサウンドを追求している。華やかで祝祭的な金管楽器のユニゾンがエズラの持ち味ですが、この曲では、ヤスミンらしさがほとばしり、躍動感のあるネオソウルに昇華されている。


終盤の収録曲は、近年のヒップホップのコラボブームを参照しつつ、ヒップなソウルを制作している。これらの曲では、フェミニンなソウルの魅力を体感出来ます。また、クローズ曲は、ヒップホップ・ジャズを意識している。これらのメロウなサウンドは、うっとりした余韻を残し、本作のテーマを印象づける。『Teal Dreams』は、ネオソウルの急進的な作品です。アメリカのミック・ジェンキンスのようなヒップホップ・アーティストが好きな方にもおすすめです。

 

 

84/100 


 

「Two Steps」- Best Track




▪️過去のレビューを読む


YAZMIN LACEY (ヤスミン・レイシー) 英ノッティンガムのシンガーによるR&B/レゲエの注目作 ”VOICE NOTES”

 Hannah Jadagu 『Describe』


 

Label: Sub Pop

Release: 2026年10月26日

 

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Review

 

ニューヨーク→カルフォルニアのシンガーソングライター、ハンナ・ジャダグ(Hannah Jadagu)は、2020年代中盤以降のインディーポップシーンを象徴するような存在である。元々、iPhoneなどで録音を行っていたハンナ・ジャダグであったが、Sub Popにその才を見初められ、ポップ/ロックシンガーとしての華々しい才能を発揮するに至った。


『Apeture』は、フランスで同地のプロデューサーと組んでレコーディングされた。これまで影響を受けてきた、ポップやソウル、そしてロックのエッセンスにヒップホップの話法を取り入れた画期的なアルバムで、ニューヨーク・タイムズ、NPRから称賛を受けた。サブ・ポップの説明によると、セカンド・アルバムは、ミュージシャンとして生きるようになってからの葛藤が描かれている。

 

彼女の開花しつつあるキャリアは、ニューヨークで育まれていた恋愛関係から彼女を引き離した。「愛と感謝を感じつつも、仕事のために離れていることへの罪悪感もあった」と彼女は振り返る。「ミュージシャンであることは時間を犠牲にすることを意味する——そして私の特徴の一つは、質の高い時間を大切にする人間だということ」 


彼女の広がりを見せるセカンドアルバムでは、その分離と向き合い、物理的な距離を超えた繋がりを見出し、その過程で自身の声を強めている。このセカンド・アルバムは、ソングライターがアイデンティティを確立するための過程を描いている。


前回はロック調の曲も多かったが、今回はポップソングを中心に構成されている。しかし、メインストリームの音楽とどこかで呼応しつつも、独自のDIYのソングライターとして出発したミュージシャンらしく、インディーズポップが中核に据えられている。また、従来としては、白人のポップとして位置づけられていたアートポップやエクスペリメンタルポップ、ケイト・ルボンのような実験的なポップスへの接近を図った作品でもある。

 

「アナログとモダンを融合できるアーティストにすごく惹かれる」と彼女が語るように、今回のアルバムでは、普遍的なポップソングのエッセンスを取り入れながらも、それが現代的な音楽として通用するのか、もしくは新しいなにかが出てくるのか、その過程のようなものを捉えることが出来るはずである。アルバムの冒頭曲「Describe」を聞けば、そのことがよくわかる。ボーカルにはオートチューンを使用し、現代的なポップソングと呼応してはいるが、同時に、バックトラックでのシンセサイザーは清涼感のあるテクスチャを構成し、AORのようなサウンドに変化する。


1980-90年代と2020年代の商業音楽が入り混じったようなサウンドは、このアルバムのコアの部分を構成し、現在の活動拠点であるカルフォルニアのヨットロックやソフィスティポップのごとき音楽性と呼応する。しかし、必ずしもニューヨーク的な気風が立ち消えになったとまでは言えない。ボーカルのリリックや節回しには、依然として都会的な気風があり、アーバンな空気感が漂う。


この曲は、その後、エレクトロニックの音楽性が大々的に強調され、一分半以降はミニマル・アンビエントの音楽性と連動しつつ、ポピュラーソングの未知の領域を開拓する。「Describe」には、その後、ゴスペルやソウルのような要素が追加され、荘厳なポップソングへと移行していく。現代と古典を行き来しながら、未来への希望を物語るかのような一曲だ。

 

デビューアルバム『Apeture』では、恋愛に関する曲も収録されていたが、「Gimme Time」でもその作風は受け継がれている。プロのミュージシャンになったことによる人間関係の葛藤は、内面をシンプルに吐露するという、伝統的なポップソングのスタイルと言えるが、それと同時に、この曲で垣間見えるのは、一般的なエモーションを巧みに表現したラブソングだ。ベッドルームポップのスタイルを参照しつつ、2020年代に相応しい一曲が書かれている。


サウンド面でも、瞠目すべき箇所が数多くあり、ダブのエフェクト、IDMのエレクトロニックの要素等、クロスオーバーの多彩さでは、昨今のミュージックシーンでは群を抜いている。しかし、そういった新しい試みの中でも、ボーカルのメロディーラインは大きく変わっていない。これこそ、ハンナ・ジャダグのソウルやヒップホップを経過した、新しいポップソングの独自のスタイルである。ボーカルは、時々、ラップのニュアンスのように音程をぼかしたり、ネオソウルのような歌唱を踏まえながら、独自のポップネスのイディオムを構築している。同時に、白人のミュージックシーンでは一般的なドリーム・ポップのエッセンスも添えられる。つまり、この曲には、夢想的な感覚が織り交ぜられ、半ば陶酔感のある感覚を付与するのだ。

 

分けても、ヒップホップやブレイクビーツが強調づけられると、旋律的な性質が強いジャダグの音楽は、にわかに、先鋭的なアートポップ/エクスペリメンタルポップの表情が強まる。「More」は、シカゴ/ニューヨークのドリルに触発された一曲で、 アメリカ的なサウンドとイギリス的なサウンドが共存している。気忙しいグリッチのビートに合わせて歌うというケンドリック・ラマーを始めとする現代的なラッパーと同じスタイルであるが、ハンナ・ジャダグの場合は、やはりドリーム・ポップのような乙女心を感じさせるメロディーが切ない空気感を帯びる。


そして、アルバムの一曲目にも登場した、トラックの背景となるシンセのシークエンスが、清涼感のある空気感を生み出している。前面ではヒップホップやソウル、そしてポップやロックが交差するが、その背後では、ミニマル・アンビエントやエレクトロニックが鳴り響くというものである。これは、実は、率先してダニー・ブラウンが『Quaranta』で試していた前衛音楽だったが、これらを聴きやすく、可愛らしい音楽へと置き換えたのが、この曲の正体なのである。特に、この曲も、後半部分では、ダンス・ミュージックの要素が強まり、踊れる音楽としての性質を帯びる。この点を見ると、このシンガーソングライターにとって、理想的なポップソングとは適度に踊れる、また、リズムに乗れるということが重要であることがわかる。

 

急進的なアートポップ/エクスペリメンタルポップのソングライターとしての一つの成果が続く「D.I.A.A」にはっきりと表れ出ている。ダンスビートとロック、そしてポップの融合が図られ、極大の音像を持ち、シューゲイズやポストロックのような宇宙的な壮大さを持つ全体的なテクスチャーの中で、ハンナ・ジャダグは持ち前のポップセンスをいかんなく発揮してみせる。デビュー・アルバムではまだ初々しさも感じられたが、今回のアルバムのいくつかの曲では、ベテラン歌手のような存在感を発揮する瞬間もある。この曲では、SSWとしての強い生命力やオーラのようなものを捉えることがきっと出来るはずである。特に、ダンス・ミュージックとしては極端なほどにBPMを落として、旋律的な側面を維持し、堂々たるポップソングの印象性を強めようとする。旧来のマイケル・ジャクソンのようなサウンドの影響もあるかもしれないが、それらは結局、どこまでもモダンな印象が強調付けられている。この曲では、テクノ、アンビエントを通過したポップソングで、新しい音楽ジャンルの萌芽を捉えることが出来る。こうした中で、ドローンのような痩せたパンフルートの音色を模したシンセサウンドが取り入れられた「Perfect」では、従来にはなかったミステリアスな音楽性で楽しませてくれている。

 

ハンナ・ジャダグというのは不思議なソングライターで、非常に感覚が鋭い。特に意識したわけでもないのに、現在のトレンドとなる音楽性を上手く捉えている。それはいわば、ミュージシャンとして波に乗っている証拠である。今回のアルバムでは、現代のソフィスティポップやAORのリバイバル運動と呼応するようなサウンドが、解題のためのヒントやキーとなりそうだ。


80年代のディスコポップと連動した「My Love」では、ブリブリとしたリズムやビートとネオソウルやヒップホップ的なボーカルが組み合わされ、見事なポップソングが誕生している。その後も、前衛的なポップソングが続き、「Couldn't Call」では、ピアノにモーフィングのエフェクトを加えたサウンド・デザイン的なアートポップソングが登場している。アンビエント的な音像も魅力の一つであるが、ゴスペルに根ざしたボーカルの壮大な印象にも注目したい。この曲では、歌手が子供の時代、ゴスペルを歌っていた頃の経験がモダンなサウンドと共鳴する。「Tell Me That!!!」はスパイス・ガールズやビヨンセのようなサウンドやヒップホップのドリルをポップソングとして昇華しており、聴きやすい一曲として楽しめることうけあいだ。

 

セカンド・アルバムでは、ジャダグのポップセンスの才能的な拡張に加えて、リズムの実験的な試みがいくつも見いだせる。それは実際的に、リズムの側面において、ポリフォニックな革新性を持つに至る場合もある。「Normal Today」は刺激的なビートが特徴で、 ダブステップやUKガラージの派生系であるツーステップ/フューチャーステップのリズムが取り入れられている。 このリズムのセクションに加えて、このアルバムの肝となるソフィスティポップやEnyaのようなヒーリングの要素を持つオーガニックな質感溢れるイージーリスニングの性質が加わり、独自のポップソングの形式が登場している。これはハンナ・ジャダグ以外にはなしえない唯一無二のオリジナリティであり、今後どのような形で成長し、完成されていくのかに注目したい。この曲では、しなるように強固なビートが温和な印象を持つボーカルと見事に融合し、グルーヴィーなポップソングが確立されている。この曲のリズムやウェイブは圧巻とも言える。


さらにヒップホップのビートを矢面に突き出して、それらを持ち前のベッドルームポップの要素と融合させた「Doing Now」は、このセカンド・アルバムの隠れたハイライト曲となるだろう。『Apature』の延長線上にあるこの曲。しかし、ギターサウンドにはさらなる磨きがかけられて、ローファイ風のコアなインディーロックソングのスタイルと見事な形で合致している。ベースラインとヒップホップのビート、そしてジャダグのボーカルは、美しいハーモニーを形成している。このあたりに、新しい米国のポップソングの台頭を捉えることが出来るはずだ。

 

ロックとヒップホップの性質が強まる瞬間もある。これらは、ハンナ・ジャダグの影響を受けた音楽のどの側面が強調付けられるかによって、最終的な音楽性が決定されることの証でもある。なおかつ、アルバムを通して聴く際にも、多彩でバリエーションに富んだ音楽性を楽しめるに違いない。今回の最新アルバムでは、デビューアルバムのクローズのようなフランスのエスプリを表したり、映画的なポップソングを制作したのとは対象的に、エポックメイキングな仕掛けは施されていない。しかしながら、これこそ、ハンナ・ジャダグが本格派のシンガーとしての道のりを歩み始めた証拠で、今後の音楽性がどのように変容していくのか楽しみでならない。「Miracle」でのヒップホップ/ブレイクビーツのリズムのクールさは形容のしようがない。また、夢想的な印象を持つドリームポップの要素がこの曲に独特なロマンチシズムを添えている。おそらく、このアルバムでは最終的な結果のようなものが出てきたとは限らない。つまり、潜在的な歌手や作曲者としての才能が無限大で、今後はまだまだ良い曲が出てきそうだ。

 

アルバムをたくさんレビューしていると、フルアルバムの最後、あるいは一箇所において、大きな期待感を抱く瞬間がある。それは間違いなく、新しい何かが登場した瞬間であり、そこに漠然としたロマンを感じる。アルバムの最終曲「Bergamont」では、それがはっきりと感じられる。音楽が、既存の枠組みに窮屈に押し込まれず、無限に広がっていくような感覚がある。音楽とは、既存の枠組みに押し込めるものではなくて、枠組みから解放するためのものなのだ。そしてそこには、威風堂々たる感覚すら捉えられる。これこそ、ハンナ・ジャダグが、今、着実に、優れたミュージシャンとしての階段を上っている最中であることを示唆するのである。望むべくは、アーティストにとって象徴的なトラックが出てくると、最も理想的かもしれない。

 

 

 

85/100

 

 

 

 

「Doing Now」

Weekly Music Feature: Automatic

 

 ロサンゼルスから登場した新時代のニューウェーブ・グループ、Automaticは、ローラ・ドンペ(ドラム/ボーカル)、イジー・グラウディーニ(シンセ/ボーカル)、ハレ・サクソン・ゲインズ(ベース/ボーカル)によって2017年に結成された。米国の原初的なガールズバンドでニューウェイブの先駆的なグループ、The Go Go'sの『Beauty And The Beat』に名をあやかっている。当初、DIYシーンに夢中になっていた彼女たちであるが、デビュー後、たちまち同地のクラブサーキットの常連に。そこにはトルバドールを筆頭とする同地のライブ文化が強い力学を及ぼしている。


 デビュー作をリリース後、大きな話題を呼び、Poptone、Surfbortのオープニングアクトに抜擢された。これまでに二作のアルバム『Signal』、『Excess』を Stone Throwからリリースしています。これまで不安や疎外感、企業の貪欲さや環境問題に対する考えをテーマに盛り込んで先進的な楽曲を制作してきた。彼女らのサウンドは、Neu!を始めとするアナログシンセ主体のエレクトログループに触発されているという。バウハウスのドラマー、ケビン・ハスキンスの娘、ローラ・ドンペをメンバーに擁するのは偶然ではなく、好きなものを呼び寄せたということだ。


 オートマティックは特にライブツアーに力を入れている。この三人組のショーはインタラクティヴな魅力がある。視覚的にも刺激的で、熱狂的なファンを獲得している。ライブステージでの個性的なファッションにも注目が集まるのは女性グループならではと言える。IDLES、Tame Impala、Crumb、Parquet Courtsとステージを共有し、プリマヴェーラ・サウンド、デザート・デイズ、ワイド・アウェイクなど著名なフェスティバルに出演してきた。また、米国、英国、ヨーロッパでのヘッドラインツアー、オーストラリアとニュージーランドツアーを経験した。

 

 オートマティックの曲はシステマティックに組み上がっているような印象を覚えると思われるが、意外にもリアルタイムな響きを追求している。ソングライティングがどのように行われるかについてイジーは次のように説明している。「わたしたちはいつも、リハーサルスタジオで一緒になって曲を書いています。自分たちの目標とする雰囲気を思い浮かべ、それに向かっていく。たいていハレがベースラインを書いて、それからジャムを続けて曲が完成していきます」

 

 トリオの一番の魅力はトリオ全員がボーカルを担当するという点にある。歌詞については、イジーが担当している。「思いつきで最初の歌詞を書き、そのあと、変更を加えてたりして、周りのメンバーに歌詞を渡したりします。最初の出発点から遠ざかっていき、そこから徐々に発展していきます」 また、リリックについても音楽自体と呼応するような工夫が凝らされていて、それぞれのボーカリストとしての特性の差異がバンドサウンドの中で巧みに活かされている。

 

 彼女たちはクラウト・ロック、エレクトロニック、ポスト・パンク/シンセパンクといった70年代のニューウェイブサウンドを中心に影響を受けた。その他、ダブやディスコ、それからブライアン・イーノのアンビエントにも触発されている。さらに、映画ファンでもある。ミュージシャンに圧倒的な支持を受けるデヴィット・リンチやダリオ・アルジェントの不穏な映画がその対象に挙がることも。しかし、以上のような、音楽的な蓄積や経験はさておき、何より、オートマティックを唯一無二の存在にしているのが、ロサンゼルスのライブカルチャーであった。

 

 ロサンゼルスのコミュニティが魅力だとイジーと語る。「私達は一緒に演奏したいと思うようなミュージシャンに常日頃から囲まれている」とハレ。しかし、それは良い側面だけの影響ともかぎらない。彼女たちはステージで共演するバンドのいけていない側面を見て、ときどきそれを反面教師にすることもある。「ギター・ソロが多すぎて飽きてくるバンドも中にはいる」とローラが言うと、ハレもそれに同意をせざるを得ない。「私達は、かねてからギターなしで自分達の音楽をやりたいと思っていました。当然のことながら音が最低限にならざるをえないし、クリエイティブなことをしなければいけない。でも、それがプロジェクトの楽しみでもある」

 

 オートマティックは録音作品を切り口として、広い世界へと旅立とうとしている。彼女たちの向かう先には、ライブ活動がある。そこに力を入れていきたいと話している。ハレは「音楽をもっと演奏し、ツアーを楽しみたいと思っています。私達は本当にツアーが好きなんです」といい、ローラもそれに同意している。「私達は、親友たちと演奏するのを楽しみにしています」


 世界が新しく生まれ変わるなかで、オートマティックは、自分自身で人生の主導権を握ることにより、生きがいのような感覚を生み出すことを大切にしている。『Is it Now?』では大胆さと鋭い批評を両立させ、ロサンゼルスのトリオは三作目のフルレングスに軽快なステップで挑む。 変容のメッセージは背景のビートと前のめりなグルーヴで伝えるべきと考え、世界の抑圧の構造を、未知の切迫感で直視するよう促す。本作では、プロデューサーのローレン・ハンフリー(キャメロン・ウィンター、ナイス・アズ・ファック、アークティック・モンキーズ)とタッグを組み、バンド自身が「デビアント・ポップ」と表現する謎めいたサウンドを生み出した。


 イジーは、新作に関して次のように述べている。「日々、いつも最も考えることは、世界が崩壊しているように見え、無力感に苛まれる中で、自分たちがどう喜びを感じ続けるのかということでした。アメリカ市民として、システムを止めるためのレバーを引く責任があると思いました」


「『Is It Now?』は、この環境下で被害者意識に陥らないためのチャレンジです。 たとえ世界中で発生している恐ろしい出来事の中にあろうと、何らかの喜びを感じ続けることが大切なんです」



Automatic 『Is It Now?』- Stone Throw  2025


 

 オートマティックの自称する「Deviant Pop」とは、''逸脱したポップ''のことを指すが、ロスの三人組の三作目のアルバムを聴けば、どのような音楽か理解出来るだろうと思われる。ニューウェイブのポスト世代に属する音楽であり、その中には、ディスコやクラウトロック、エレクトロニック、ダブ、デトロイトの古典的なハウス、ヨットロックなどが盛り込まれているが、明らかにオートマティックは、最新アルバム『Is It Now?』で未来志向の音楽を発現させている。


 彼女たちは、ギターレスの特殊なバンド編成を長所と捉えることで、複合的なリズムとグルーヴをつくりだす。オートマティックは、ジナ・バーチ擁するニューウェイブバンド、The Slitsの再来であり、 彼女たちが生み出すのは内輪向けのパーティソングともいえる。しかし、その内輪向けのポップソングは、同時に今後のミュージックシーンの流行のサウンドを象徴づけている。


 今年のアルバムの中では、かなり鮮烈な印象を放つ。『Is It Now?』はニューウェイブの次の世代となるネオウェイブの台頭が予感される。三者のボーカルが入り乱れる音楽は、どこから何が出てくるかまったくわからない。現代社会への提言を織り込んだ痛撃なアルバムが登場したと言える。

 

 軽いエレクトロ・ポップだと思って聴くと肩透かしを喰らい、また、オートマティックのガールズバンドというイメージを元に聴くと、意外の念に打たれること必須だ。全般的には、ポップソングなので、ソフトな音楽として楽しめることは請け合いである。しかし、痛撃なパンク精神とクラウト・ロックの主題である”ロックの解体”という前衛主義の精神が貫かれている。前衛主義というのは、前に見た何かを反芻することではなく、それを時には否定し、新しい表現形式を確立させるということである。そこには、新しいクリエイターとしての自負が必要となり、少なくとも手垢のついた表現形式のことをアヴァンギャルドと呼ぶことは出来かねる。

 

 オートマティックは音楽の聴きやすさや分かりやすさを維持した上で、本質ではない箇所で、感嘆すべき実験音楽をやってのける。それらはクラウトロックの主なテーマであるビートやリズムの解体、そしてそれらの再構築、あるいは、既存のリズムの革新などが例に挙げられる。”定義化されたものを再定義する”という試みは、Killing Jokeなどが行ったことがある。そして、ロスの三人組の場合、その行き着く先は、''ポピュラーソングという形態の再考''でもある。


 ポップソングというのは、常態化し一般化された時に、先進主義の意義を失い、そのバランス感覚を崩すことになり、軽薄化し、味気ないものになっていく。つまり、新しい何かが出てこなくなるという意味なのだ。しかし、もし、音楽を作る際のクリエイターのマインドの中に、''既存の音楽的な定義や前例に疑問を抱く''という先進的な気風が残されていた場合は、ポピュラーミュージックの常識化した意味が完全に反転する。その瞬間、新しい音楽が出てくる。


 この点を踏まえ、オートマティックは、DIYシーンに夢中になった経験を活かし、ポピュラーソングの構造を刷新するための試みを行っている。また、それこそがニューウェイブの正体である。既存のポピュラーという形態に一石を投じるような意味合いがあるわけなのだ。先日、デヴィッド・バーン氏は新作アルバムをリリースしたが、さすがで、このことがよくわかっていたと思う。

 

 オートマティックの生み出す楽曲は 二律背反から成立している。それらがアルバムの全体的な構造を支えている。ディスコポップのような軽快な音楽と鋭い音楽的な批評精神を並立させ、独立した音楽を定義化する。アルバムの冒頭を飾る「Black Box」は、ディビアント・ポップとはどんなものなのかを知るための好材料となるはずだ。

 

 ザ・スリッツのようなダブの古典的なリズムやアフロビートのリズムを掛け合わせ、NEUのような原始的な電子音楽と並列させる。

 

 デジタルな電子音楽が主流となった現代の音楽シーンの渦中にあり、デュッセルドルフの最初期のテクノに触発されたアナログなモジュラーシンセの音色が主旋律として鳴り響き、ファンファーレのように鳴り響いている。その上でボーカルの録音が入るが、ケイト・ブッシュの時代のポピュラーソングを、茶目っ気たっぷりで少し艶気のある声で再現させるのである。曲にはミラーボールのディスコポップの影響が色濃く反映されていることは言うまでもない。イントローヴァースーコーラスーブリッジを二回繰り返した後、自由な電子音楽の旋律が膨らむ。主旋律の動きの中で、マクロコスモス的な音楽の超大なサウンドスケープが拡張されていく。

 

 「Black Box」

 

 

 

 ニューウェイブの範疇にあり、Wet Legのようなポストパンクサウンドに傾倒した曲が続く。「mq9」は、同様にダブのリズムを活かし、スリットからウェットレッグに至るまでのニューウェイブのスピリットを受け継いでいる。しかし、この曲を独創性溢れる内容にしているのは、スペーシーなシンセがボーカルの合間を変幻自在に飛び交い、スチームパンクやSFのような音楽的感性を随所に織り込んでいるからである。


 シンセサイザーのフレーズの中には、クラフトワークを模した内容も登場するが、それらはイミテーションやオマージュの域を越えて、自由な精神を発露している。結果的には懐古的とも先進的ともいえない独特な音楽が作り上げられる。


 ボーカルの側面では、ロサンゼルスの古典的なパンクバンドからの影響もうかがえるが、あくまでこれらはパンクというフィルター装置を通したポップソングに昇華されている。 これらはDEVOのようなニューウェイブのユニークさとウィットを明瞭に思い起こさせるのである。

 

 たとえば、DEVOはパンクという文脈の中で、電子音楽とポップやロックがどのように生きてくるのかを探求したが、オートマティックも同じようなサウンドに挑んでいる。「Mercury」に見出されるようなサウンドは、 デトロイトで発生した原子的なテクノの魅力をポップソングの中で再現しようという趣旨である。

 

 これらは最終的に、この後の時代において、ヒップホップやユーロビートに取り込まれてしまった印象もある。しかし、いまだに懐古的ではあるものの、近未来的な印象を与える。全般的にはポピュラーソングとダンスミュージックの中間にある音楽的なアプローチの中で、ブレイクビーツをブリッジに取り入れたりと、やはり、リズムの再構成というテーマが見え隠れする。これらが同じようにスペーシーなシンセと融合し、未来的なサウンドが作り出される。それらに旧来の''ディスコポップ''と呼ばれていたアーティストのボーカルを加えることで、適度な軽さと聴きやすさ、そして音楽的な対比性や意外性のポイントを見事なまでに作り出すのである。

 

 現在のインディーズシーンの主流がロックからポップへと移行しつつある傾向は、もうすでに、4週か5週連続でポップバンドをご紹介していることからも理解していただけることだろう。これはあながち偶然とはいえない。カナダのTOPSのようなソフィスティポップも含まれている。


「Lazy」の程よく力の抜けたサウンド、あるいは脱力系のポップソングとも言えるサウンドは、西海岸のチルウェイブやヨットロックの次世代の音楽として、ソフィスティポップが続いていることをはっきりと伺わせる。


 しかし、オートマティックのサウンドは、それらをチラ見したからとはいえ、依然としてニューウェイブのサウンドに根ざしており、 どことなく宇宙的なポップサウンドを思わせる。そしてこの曲を牽引しているのは、ウィスパーボイスではなく、ドラムとベースである。これらの起伏があり変化に富んだリズムは、同じようなフレーズが続いたとしても、それほど飽きさせないものがある。それらは結局、ファンクやR&Bの要素を擁していて、強いハネ感を体験出来る。なおかつまた強固なリズム・セクションから繰り出されるグルーブという、このバンドの持ち味が体感出来る。これらはライブで観衆とのエネルギーの一体感を獲得する可能性が高い。

 

 

 また、Gang of Fourのポストパンクに根ざした楽曲もアルバムの中盤で強いウェイトを占めている。ベースのスラップ奏法を思わせる、Pファンクからの影響は、スリッツのようなガールズグループの影響を交え、新しい世代のニューウェイブへと生まれ変わっている。この曲のベースは卓越していて、『Mothers Milk』の時代のRHCPのフリーの圧倒的な存在感を彷彿とさせる。何よりすごいのは、ベースソロだけで、曲が成立しているということである。これらは、オートマティックの三人が、一流のミュージシャンの演奏技術に匹敵するのだという事実を証し立てている。”カントリーソング”と銘打っておいて、完全なニューウェイブソングなのも面白い。ボーカルのメロディの側面でも、どこかで聴いたことがある音階やフレーズを意図的に散りばめている。閉鎖的な前衛主義とは一定の距離を置き、ハイレベルな実験音楽を出現させる。

 

 

 タイトル曲「Is It Now?」はアルバムのハイライトの一つとなり、聞き逃すことが出来ない。カルフォルニアのパンクの系譜を受け継いで、それらをニューウェイブサウンドで縁取っている。 この曲は、X-Ray SpecsのようなUKニューウェイブをカルフォルニアの感性で捉え、それらをよりパンク寄りにしたようなもの。 リズムは結構複雑であるが、Wireのようなパンクの影響も捉えられる。 それらのパンクサウンドの中で、やはり自由闊達なモジュラーシンセが動き回る。曲の後半の部分では、クラフトワークのようなディッセルドルフの電子音楽も登場する。これらのサウンドは、過去と未来を巡りながら、楽しいガールズバンドの雰囲気を生み出す。

 

 

 

さらに、オートマティックの音楽的なマニア性は、ビーチ・ボーイズの『Pet Sounds』のカルフォルニアの伝統的なロックと結びついて、原初的なダブやクラウトロックに傾倒する場合がある。

 

「Don't Wanna Dance」はビーチ・ボーイズの系譜にあるポップソングであるが、強烈で目のくらむようなダブのエフェクトや、CANやホルガー・シューのようなクラウトロックのリズムの解体と再定義というテーマを受け継ぐことにより、アヴァンギャルドなポップソングが確立されている。これらは、サンフランシスコのサイケデリックロックや、西海岸のフラワームーブメントのリバイバルに位置づけられ、それらがローファイを通過して、現代的な感性で捉えられている。

 

 続いて、「Smog Summer」もハイライト曲の一つ。オートマティックのSFやスチームパンク趣味が全開となる。ブンブン唸るイントロのシンセベースは''最高''としかいいようがない。Suicideのアラン・ヴェガを彷彿とさせる分厚いアナログシンセのベースライン、それはデトロイトのIggy Pop &Stoogesを筆頭とする原始的なガレージロックとの合体を意味する。依然としてニューウェイブやクラウトロックの影響が強く、スペーシーなシンセが圧倒的な存在感を放つ。映画「Tron」のようなSFや近未来の世界観を軽快なシンセロックで体現させているとも解釈出来る。 これは、デヴィッド・ボウイがベルリン三部作で確立したポップソングと並行したパラレルワールドである。そこにはやはり、未来のテクノロジーに対する期待感が反映されている。

 

 

  驚きなのは、終盤の三曲である。一般的な作品であれば、そろそろ息切れの感が出てくるが、オートマティックは終盤からエンジンのギアを上げて加速する。本作の序盤から中盤にかけての要約に終始してしまいがちな後半部であるが、未知の音楽的なセンスを見事なまでに発現させる。ここには、オートマティックの三者三様の音楽的な趣味がバランス良く散りばめられている。フルレングスを聴くにつけ、音楽的な世界が、出口にかけて収束したり閉じていくというより、それとは対象的に世界が拡張していくような感覚があるのが最大の長所に挙げられる。


 なおかつ、最後の部分にかけて着想が閉じずに、永遠のように満ち広がっていくような感覚がするのが、秀才と天才を分け隔てる、ひとつの基準である。例えば、「The Prize」は、同じように、スリッツやクラッシュの「London Calling」のようなダブの要素を交えながら、それらを軽妙なポップのエッセンスで包み込んでいる。実験音楽や前衛主義を標榜しつつも、それを一般的に開けた内容にしようという考えは、ロサンゼルスの文化が作り出した最大の遺産であろう。


 ドイツ/ニューヨークのインダストリアルロックやクラウトロックからの影響も強く、ドラム缶のように響くパーカッションのエフェクトも「インダストリアル・ポップ」という、いまだかつて存在しなかった音楽性を成立させるための機能を果たしている。しかし、同時に、オートマティックというバンド名とは対象的に、トリオの音楽は一貫して、スタジオセッションから生み出される。当然のことながら、それはリアルタイムの音楽の性質が一際強い。おのずと、その瞬間にしか生み出されない偶然の音楽の要素をどこかに有しているという次第なのである。

 

 今回は、全般的にリズムの説明に終始してしまったが、オートマチックは、意図的にBPMを上げたり、下げたりしながら、テンポの実験を行っている。また、ゆっくりしたテンポ感は強固なグルーブを発生させ、対象的に性急なテンポは特異な疾走感を発生させることは言うまでもない。これらの絶対的な前衛主義は、表向きの商業音楽のパッケージに覆われていて、さらりと聴いただけでは把握できないと思う。何度も聴くたびに新鮮な音楽的な発見があるアルバムになっている。意図的にBPMを落とし、ゆったりしたテンポの中でファンクとポップを結びつけた「Play Boi」だけは、扇動的な意味合いを持ちつつも、依然としてニューウェイブの本質的な部分を影のように映し出している。また、この曲に見受けられるようなディスコポップからの影響もまた、このアルバムの基底にあるウィットやユーモアの要素を力強く映し出している。

 

 しかし、こういったポップスで今作は終わることがない。いや、あっけなく終わるわけもなかった。クローズ曲「Terminal」は衝撃的なトラックで、彼女たちが単なるポップトリオではなく、鋭い感覚を持ったポストパンクバンドであることを暗示している。 イントロでは、Nirvanaのゲフィン時代の楽曲をシンセで組み直し、その後、ラテン系の言語の歌詞が歌われている。オマージュの意味を逆手にとり、新しい時代のパンクソングを作り上げた功績はあまりにも大きい。


 

 

88/100 



・Album Tracklist: 


 1.Black Box

 2.mq9 

3.Mercury 

4.Lazy 

5.Country Song 

6.Is It Now? 

7.Don’t Wanna Dance 

8.Smog Summer 

9.The Prize 

10.PlayBoi 

11.Terminal

 

 

「Is It Now?」 

 

 


■Automaticのニューアルバム『Is It Now?』はStone Throwから本日発売。ストリーミングはこちらから。 リリース記事はこちらから。




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