Gina Birch 『I Play My Bass Loud』


 


Label: Third Man Records

Release: 2023年2月24日




Review



ジーナ・バーチはレインコーツのメンバー、ベーシストとしてお馴染みである。レインコーツは合唱のイラストのデザインで有名なセルフタイトルが代表作に挙げられる。が、印象としては日本でCD盤の流通が一般的だった00年初頭の頃、レコード店に毎日のように通っていた学生時代、なかなかレコードストアで入手しづらかった記憶もある。今では、どの曲をよく聴いていたのかもよく覚えてはいませんが、少なくとも、Raincoatsは、スコットランドのPastelsとともに私の記憶に強烈に残っている。そして、今でもよく思うのは、レインコーツというバンドは掴みどころがないというか、ジャンルを規定することがすごく難しいガールズバンドだったのです。


レインコーツはポスト・パンク・バンドのノイジーな部分もあり、いわゆるネオアコにも近いキャッチーさもあり、かと思えば、ガールズバンド特有のファンシーさも併せ持つ奇妙なバンドというイメージを私自身は抱いていた。それはたとえば、The Slitsのわかりやすいパーティーを志向したダブよりもはるかにレインコーツという存在に対して不可解な印象を持っていました。

 

時代を経て、ベーシストのギーナ・バーチはソロ転向し、サード・マン・レコーズからデビュー・アルバム『I Plat My Bas Loud」をリリースしている。既にそれ以前の時代に有名なバンドのメンバーがソロ転向して何かそれまでと異なる新しい音楽性を生み出すことは非常に稀有なことである。それは以前の成功体験のようなものがむしろ足かせとなり、新しいことにチャレンジできなくなる場合が多いからです。もちろんすべてがこのケースに当てはまるとは言えません。ザ・スマイルのトム・ヨークは少なくとも、レディオヘッドとは違い、ポスト・パンクやダブ、エレクトロの要素を上手く取り入れており、そして、ギーナ・バーチも同様にこのソロ・デビュー作で見違えるような転身をみせています。いや、それは前時代の延長線上にあるが、少なくともレインコーツの時代を知るリスナーに意外性を与えるような新鮮味に富んでいる。そしてかのアーティストが傑出したベーシストであることを対外的に示し、さらにレインコーツの時代見えづらかった副次的なテーマのようなものが随所に感じ取れる作品となっているのです。

 

一曲目のタイトルトラックでギーナ・バーチは分厚いベースラインとともにダブを展開する。そしてかつてのポスト・パンクの実験性、そしてスリッツのような痛快なコーラスワークを通じて現代のポピュラー・ミュージックを踏まえつつも、それとは異なる側面を提示しています。そして、ギーナ・バーチは裏拍を強調したツー・ステップに近いビートを交えつつ、ダブとレゲエの中間を行くようなトロピカルなボーカルを披露します。ヴォーカルのトラックにディレイを分厚くかけることにより、自分の声そのものを背後にあるビートのように処理している。時に自分の声を主役においたかと思えば、他の部分ではベースが主役になったりするのです。


これらのサウンドはいつも流動的な立ち位置を示し、一つのパートに収まることがない、ボーカルは軽妙でキャッチーさを意識してはいますが、何十年も音楽を愛してきた無類の音楽愛好家にしか生み出すことの出来ないコアなサウンドをギーナ・バーチは提示しています。続く「And Then〜」では、ポエトリー・リーディングの手法を見せ、未だにポスト・パンク世代の実験性を失っていないことを示している。

 

このデビュー・アルバムには面白い曲が満載です。没時代的なロックバンガー「Wish I Was You」は、キム・ディール擁するBreedersにも比する快活なオルタナティヴサウンドとなっている。ポストパンクの実験性を交え、ガールズバンドの出身者らしくロックンロールの見過ごされてきたユニークな魅力を再提示する。まさにこの曲はステージでのライブを意識しており、近年のポストパンクバンドにも引けを取らない迫力満点のロックサウンドを生み出してみせたのです。

 

続く、ダブのリズムを突き出した「Big Mouth」は近年のトレンドのポピュラー・ミュージックを意識し、ボコーダーを取り入れつつ、ロボット風のボーカルとして昇華し、SF的な世界観を提示し、特にアルバムの中では1番ベースラインのクールさが引きだれた一曲となっている。驚きなのは、つづく「Pussy Riot」であり、ダブ・ステップに近いビートをイントロに取り入れてレゲトン風のノリを生み出している。これはギーナ・バーチが少し前に流行ったレゲトンや、最近話題に上るアーバン・フラメンコのようなサウンドをセンスよく吸収していることを表しています。


そこには例えば、トーキング・ヘッズに象徴される旧来のポスト・パンクサウンドの影響もあるにしても、旧時代の音楽に埋もれることなく最新鋭のサウンドを刺激的に取り入れている。これはいまだにギーナ・バーチがミュージシャンとしての冒険心を忘れていないことの証となる。おそらく新しいものを古いものと上手く組み合わせることの重要性を知っているのでしょう。

 

 「I Am Rage」、「I Will Never Wear Stilettos」、「Dance Like A Devil」などなど、その他、レインコーツの時代のジャンルレスの要素を継承するかのように、アートポップ、ノイズポップ、アヴァンギャルドポップを始めとする、最近のジョックストラップのような前衛性を感じさせる特異な音楽が続く。


ギーナ・バーチは、テクノ/ハウスのシンプルな4ビートを踏まえながら、それをポピュラーミュージックの領域にある音楽として解釈していますが、これらの曲は常に表面的な音楽の裏側にこのアーティストの主張性や考えのようなものが暗示的に込められているような気がして、なかなか一筋縄ではいかないサウンドとなっています。そして、かつてのレインコーツの時代と同様、規定できない要素を実験的に掛け合わせることで、未曾有のサウンドが随所に生み出されているような気もします。とりわけ、圧巻なのは、アルバムの10曲目を飾る「Feminist Song」で、この曲はアーティストが70年代からポスト・パンクの気鋭としてシーンに台頭し、いまだに主体的な考えや主張性を失っていないことを表しています。音楽シーンや社会に対しての提言や意見を持ち合わせているからこそこういった表現が生み出されるのだろうと思われます。

 

 

84/100

 

 

Featured Track 「I Play My Bass Loud」

 

©Tim Nagle

シカゴを拠点とするインディーロックバンド、Slow Pulpがニューシングル「Cramps」を発表し、ANTI-との契約を発表しました。以下よりお聴きください。


リード・ヴォーカルのEmily Masseyは声明の中で、「この曲は、私がその日、特に生理痛がひどいと宣言した直後の練習でのジャムから生まれた。「他の人にあったらいいなと思うものを探して、自分に足りないと感じる身体的・感情的な属性をすべて備えたこのキャラクターを頭の中で作ることについての曲なんだ」と説明しています。


Slow Pulpは2022年にデビューLP『Moveys』をリリース済み。バンドは来週、デス・キャブ・フォー・キューティーとのヨーロッパ公演に乗り出す予定だ。


 

©Marika Kochiashvili


イギリスのインディーロックバンド、Daughterが新作アルバム『Stereo Mind Game』の最新シングル「Swim Back」を公開した。このシングルは、「Be On Your Way」「Party」に続く三作目のシングルとなる。同時公開されたミュージックビデオは下記よりご視聴下さい。


『Stereo Mind Game』に収録される12曲には、文字通り、そして、比喩的に、つながりと断絶が浸透している。Ivor Novelloにノミネートされた『Music from Before the Storm』(2017)から数年間に、バンドは当初のロンドンの拠点から離れ--アギレラは、オレゴン州ポートランドに、ヘフェリは、イギリス・ブリストルに--それぞれのプロジェクトに時間を費やした(2018年のTonraのEx:Re名義のソロ・デビュー・アルバムもそのひとつ)。


物理的な距離--パンデミックによってさらに悪化した--があったにもかかわらず、ドーターは再会し、一緒に執筆を続けた。HaefeliとTonraによって制作された『Stereo Mind Game』は、イギリスのデヴォン、ブリストル、ロンドン、カリフォルニア州サンディエゴ、ワシントン州バンクーバーなど様々な場所で作曲とレコーディングが行われた。 


今回のTonraの歌声は単独で構成されたものではありません。ヘフェリは「Future Lover」と「Swim Back」でボーカル・ラインを提供し、「Neptune」ではクワイアが登場する。「Wish I Could Cross The Sea」と「(Missed Calls)」では、なんと、友人や家族からのボイスノートがフィーチャーされている。ロンドンを拠点に活動するストリングス・オーケストラ、12 Ensembleは、Josephine Stephensonのオーケストレーションによりアルバムを通してフィーチャーされており、ブラス・カルテットが「Neptune」と「To Rage」に温かみを与えている。 


Daughterの前作が感情的な正直さに力を見出したのに対して、『Stereo Mind Game』はその反対の感情をも歓迎する。「絶対的な観念中で仕事をしないことです」とHaefeliは述べている。

 

©Sophie Kuller


Heather Woods Broderick(ヘザー・ウッズ・ブロデリック)が、4月に発売となるアルバム『Labyrinth』からの最新シングル「Admiration」をリリースした。「Blood Run Through Me」「Crashing Against the Sun」に続くシングルです。下記よりご視聴ください。


ヘザー・ウッズ・ブロデリックは2020年の山火事の際にオレゴン州にある元自宅を訪れた際に「Admiration」を書き下ろした。

 

「私は怖くて、パートナーが恋しくて、避難すべきなのか、どの道に出れば一番チャンスがあるのかわからなかった "とブロデリックは声明で説明している。"恐怖と無力感が世界の現状を増幅させる中、恐怖と不確実性を希望の手段として使おうと、自分が感謝しなければならないことも思い出していました」


新作アルバム『Labyrinth』は4月7日にWestern Vinylからリリースされる。


 

©Christina Fischer


ロンドンのインストゥルメンタルバンド、Los Bitchos(ロス・ビッチョス)は、Champsの「Tequila」とKing Gizzard and the Lizard Wizardの「Trapdoor」をカバーした2曲入りEP「PAH!」をリリースしました。 

 

Los Bitchosは、この新作について次のように語っている。"僕らはKing Gizzardが大好きで、「Trapdoor」は彼らの曲の中でもカバーのチョイスとして際立っていた。Trapdoor, trapdoor, trapdoor "の繰り返しのフックに説得力とトリッピーさを感じた。また、ギターのフックにも最適です。私たちのバージョンは、霞がかった夏の日のような感じで始まり、すべてが見かけと違い、トラブルが起こるかもしれないと思わせるような必死のテンポの変化でエスカレートする... Hehe...」。 

 

「"テキーラ”は、この1年間、私たちのセットの楽しいほど動揺しないエンディングになっている 」と彼らは付け加えた。「いつも今にも崩れそうな感じで、そのエネルギーをレコーディングに取り込みたかった」


Los Bitchosは2022年、デビュー・アルバム『Let The Festivities Begin!』を発売している。


 

 

 


 

©Micah E Wood


feeble little horseがニューアルバム『Girl with Fish』を発表した。2021年のデビュー作『Hayday』に続くこのアルバムは、6月9日にSaddle Creekからリリースされる。本日の発表は、ニュー・シングル「Tin Man」のリリースとともに行われた。


「Tin Man」について、バンドのリディア・スローカム(アルバムのカバー・アートも担当)は声明で次のように語っている。「この曲は、あなたが共感してくれると知っているから、あなたの行動をコントロールするために悲しみを利用する人々について歌っています。私はこの種の人物に疑念を抱いている」


Ryan Walchonskは、「『Tin Man』は、グループとしての新しい作風を象徴する曲の一つだ。この曲はGoogle Driveのリンクを通して何度も行き来して、僕ら全員が満足できる最高のイテレーションを考え出したんだ。ヴォーカルを録音しては破棄して再録音、ドラムは破棄して再録音、コーラスはある時点で全く違うものになったよ。"


「"Hayday”を作った時、彼が引っ越してしまって曲を作れなくなる前にと、本当に急いで書いた」と、Sebastian KinslerはGirl with Fishについて話しています。「でも、お互いに音楽を作ることが楽しすぎて、そこから離れることはできないと思った。このアルバムでは、すべての決断に時間をかけることができたんだ」


「Tin Man」

 

 

Feeble Little Horse 『Girl with Fish』

 

Label: Saddle Creek

Release Date: 2023年6月9日


Tracklist:


1. Freak

2. Tin Man

3. Steamroller

4. Heaven

5. Paces

6. Sweet

7. Slide

8. Healing

9. Pocket

10. Station

11. Heavy Water


 



ノエル・ギャラガーがオランダのラジオ局のインタビューでイギリスのポップ歌手、サム・スミスを「クソ馬鹿野郎」と罵倒してイギリス国内で話題となっている。この話題はミラー、デイリー・メール、イブニング・スタンダードでも報じられている。


このインタビューはオランダのラジオ局のKinkで行われ、彼はNoel Gallagher's High Flying Birdsからリリースされる予定の楽曲について話した。ニューアルバム『Council Skies」はこの夏にリリースされ、大規模なツアー日程が組まれている。


ラジオ司会者がノエル・ギャラガーにポップミュージックについての考えを尋ねると、伝説的ミュージシャンはこのように答えました。「音楽は分裂し、チャート音楽はポップに支配されている。ポップミュージックは、ポップスターがクールであればいい。悲しいかな、今のスターはクソバカだよ」また、カッコ悪いポップスターの具体的な名を聞かれたノエルは、はっきりこう答えた。「サム・スミスだ」さらにその理由を聞かれた彼は、「彼を見てみろ!」と言い添えた。


サム・スミスは、2019年9月にノンバイナリーをカミングアウトし、they/themの代名詞を使っている。またサム・スミスは最近、ワイルドなデザイン、奇抜な衣装で知られるようになった。バイラルなBRITsの衣装のように、しばしば皮肉を込めて行われ、センスの境界を押し広げている。さらにサム・スミスはグラミーでは悪魔に扮してパフォーマンスを行い物議を醸している。


 


スネイル・メールこと、リンジー・ジョーダンは新しいインタビューで、マドンナの伝記映画(マドンナ自身が監督する予定だったが、その後破棄された)のオーディションを受けるように頼まれたことを明かした。インクド誌によると、ジョーダンはフィービー・ブリッジャーズと共に出演する予定のA24の近作『アイ・ソー・ザ・テレビ・グロー』のオーディションを受けるように言われたのと同じ週にこの役に挑戦するように誘われたそうである。


「私はマドンナの大ファンなんです」とジョーダンは語っています。「彼女がやっていることを見て、真似をするのではなく、それにインスパイアされる必要があったわ。彼女はダンスの伝説的存在です。ドキュメンタリーを見たんだ。彼女のインタビューを見ていました。メモを取りながら、3つのシーンをこなさなければなりませんでした。いい勉強になったよ。役がもらえるとは思わなかったけど、もし一生懸命やらなかったら、全力を尽くせなかったと後悔することになる」


マドンナ役には俳優のジュリア・ガーナーがキャスティングされており、ミュージシャンのスカイ・フェレイラやベベ・レクサ、ユーフォリアのスター、シドニー・スウィーニーやアレクサ・デミらと共にオーディションを受けたという。この作品は、ポップスター自身が監督を務める予定だったが、マドンナが国際的な大ヒット・ツアーを行うことを決めたため、現在では進行していない。


映画界への進出について、ジョーダンは、「私にとって映画は音楽と並ぶものです。脚本を書いたらクールだと思うんだ」と話している。Snail Mailは、Jane Schoenbrunの『I Saw The TV Glow』で長編映画デビューする予定です。「私はその中で実際の役をやったのよ、クレイジーよね、オーディションを受けた」と、近日公開の映画出演について語った。「とにかく楽しいし、エキサイティングなの。自分が何ができるのか見てみたい」

mui zyu 『Rotten Bun For An Eggless Century』

 


Label : Father/Daughter

Release Date: 2023/2/24

 


 

 

Review

 

mui zyuは、現在ロンドンを拠点に活動するシンガーソングライターで、 元Dama Scoutのメンバーとして知られています。

 

父親の世代に台湾人であった彼女は、家族とともにイギリスに移住し、レストランで勤務する父の家庭で育ちました。


『Rotten Bun For An Eggless Century』は記念すべきアーティストのデビューフルレングス。この作品を通じ、シンガーソングライターmui zyuは、パンデミック下のアジア人差別を始めとする社会的な問題に焦点を当て、さらに中国の幻想文学の先駆者である蒲 松齢、ゲームやその音楽に強い触発を受け、SFと幻想性を織り交ぜたシンセ・ポップを展開させています。このアルバムは面白いオルタナティヴ・ポップをお探しの方には最適な作品です。

 

このデビュー・アルバムにおいて、mui zyuは全体的に夢見心地のまったりとしたポップ・ミュージックを提示しています。ミドルテンポではありながらダンサンブルなビートを刻むシンセポップはロンドンだけではなく、米国の現代的なミュージックシーンにも呼応したものであると思われます。このアーティストの音楽性の特質は、オルタナティヴな音階の運行にあり、どちらかといえば、最初期のピクシーズのメロディーのひねりに近い。他にも、中国の民族楽器の二胡を取り入れたり、レトロ・ゲームのようなアナログシンセの音色を積極的に交えることによって、新しいとも古いともつかない、奇妙で摩訶不思議な世界を探求しています。トラック自体はチープな感じを意識していますが、バックビートに乗せられるmui zyuのボーカルはモダンな雰囲気が滲み出ており、聞き入らせるものがある。 特に、アルバムの全般的な音楽は甘美的というか陶酔的というか、独特な内省的なアトモスフェールが漂い、これがつまり、このアーティストの他にはない個性でもある。アッパー・ビートで高揚感を与えるわけでもないにも関わらず、mui zyuの音楽は内向きのエネルギーを渦巻くようにして盛り上がっていくわけです。

 

また、アーティストとして作品を制作する際、mui zyuは、台湾の古い時代の歌謡曲に強く触発されているということです。実際に当地の2000年代以前のポップスがどのような音楽性なのか、この点については明るくありませんが、もしこのアルバムにエキゾチックな何かを感じ取るとすれば、その父祖の代から引き継がれる台湾の文化にその源泉が求められるのかもしれません。

 

オープニングを飾る「Rotten Bun」をはじめ、「Ghost with a Peach Skin」、そして、「Mother Tongue」など、少し昔のゲーム音楽に触発されたような摩訶不思議なシンセ・ポップが多く収録されています。


それはこのアーティストが若い時代に親しんだ文化の源を追い求めるかのようでもあり、なおかつまた、上記のファンタジックな性質、中国の幻想文学の先駆者である蒲 松齢(アルゼンチンの幻想文学の大家、ホルヘ・ルイス・ボルヘスに強い影響を与えた、大河小説の『紅楼夢』で有名な中国の作家。科挙の試験に落第し続け、作家活動に転じた。生涯にわたり、奇想天外な短編小説を多数執筆した)の影響を反映したファンタジックでSFチックな音楽が展開されています。これらはローファイやノイズポップの要素と複雑に絡み合うことで、独特な音楽性に組み上げられてます。


終始、mui zyuのボーカルは落ち着いており、一貫性があり、また何かを物語るかのようであり、サイケデリックな音楽性を擁しながらも全体的に整然とした印象を与える。さらに、そこに感情的な要素、ドリーム・ポップに近い甘い雰囲気と中国文化のエキゾチズムが加わることで、mui zyuの持つ唯一無二の摩訶不思議な世界が奥行きを増していくのです。二次元的とも三次元的ともつかない奇妙な幻想性に溢れた音楽の世界を構築し、作品全体を通じて聞き手の興味を上手く惹きつけることに成功しています。

 

ただ、ひとつ問題を挙げるとするならば、現時点では、これらのエキゾチズムやファンタジー、あるいはゲームの要素がまだ聞き手を圧倒するような迫力を持ち合わせていないことです。それは音楽性の高揚感だとかそういう話ではなく、mui zyuの個性的な光は残念ながらまだ弱く内側にとどまっているのが少し惜しい点なのです。そして、これらの音楽はアジア人としてのヨーロッパ的な概念への憧れの範疇に過ぎず、シンガーが提示する異質な世界、様々な概念が渦巻く世界に少し脆弱な部分も見受けられるかもしれません。感覚的な脆さというのは取りも直さず繊細性でもあり、それはある意味では、製作者にとって必要不可欠の才覚でもあるわけですが、もし、シンガーソングライターが自分自身のアイデンティティや固有の文化性に強い自信を得た瞬間、おそらくこれらの音楽はより素晴らしい作品として昇華されていくはずです。

 

無論、現代的な音楽シーンを俯瞰した際、mui zyuは他のアーティストが持ち得ない独自の才覚を持ち、歌自体にもリスナーを惹き付ける力量を持ち合わせていることから、傑出したシンガーソングライターであると実際の音楽から推察出来ます。デビュー作を足がかりにし、どのような形でこれらの幻想性と現実性が広がりと深みを増していくのかに注目していきたいところです。

 

 

 78/100

 

 

「Ghost with a Peach Skin」

 

米国のロックギタリスト、元ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトが「サタデー・ナイト・ライブ」のステージに出演しました。ホワイトがSNLに出演するのはこれで五回目となる。

 

彼はドラマーのダル・ジョーンズ、ベーシストのドミニク・デイヴィス、キーボーディストのクインシー・マクラリーと、「Taking Me Back」と2022年の『Fear of the Dawn』のタイトル曲を演奏した。その後、そのアコースティック版『Entering Heaven Alive』から「A Tip From You to Me」をパフォーマンスしている。このエピソードのホストはウディ・ハレルソンで、奇遇なことに彼もジャックと同様にまた5度目の出演となった。以下、映像をチェックしてみてください.


 

 


 

©Stephane Manel


元Daft Punkのメンバー、Thomas Bangalter(トーマス・バンガルデル)が七分に及ぶオーケストラの新曲「Le Minoutaure」を発表した。今作はバレエのためのオーケストラ・アルバム『Mythologies』の先行シングルです。

 

ニューアルバムは昨年初演された同名のバレエのためにフランスのコンテンポラリー・ダンス振付師であるAngelin Preljocaj(アンジュラン・プレルジョカージュ)が委嘱した。全23曲が収録され、バルガンデルのクラシカルへの最初の挑戦作でもある。

 

トーマス・バルガンデルの90分に及ぶスコアは、"電子音楽のリソースを利用するのではなく、交響曲の大規模な伝統的な力を伴うので、個人的かつ協力的なジェスチャーでオーケストラのバレエ音楽の歴史を受け入れる。"とある。


ダフト・パンクは2021年に解散を発表した。翌年、デビュー・アルバム『Homework』のデジタル・リイシューをリリース。Bangalterは以前、ギャスパー・ノエ監督の『クライマックス』のサウンドトラックに参加している。先週、Daft Punkは、4枚目のアルバム『Random Access Memories』の10周年記念エディションを発表。5月12日にコロンビアから発売される。


Thomas Bangalterのニューアルバム『Mythologies』は4月7日にErato/Warner Classicsからリリースされる予定です。


 

Jayda G


カナダのDJ/ハウス・プロデューサー、Jayda Gは、6月9日にNinja Tuneからリリースされるニュー・アルバム『Guy』を発表した。アルバムの発表に合わせて同時に公開されたファースト・シングル「Circle Back Around」のミュージックビデオは以下よりご視聴いただけます。


2019年の『Significant Changes』、2021年の『DJ-Kicks』に続く作品となる。Jayda Gはプロデューサー兼DJのJack Peñateと共同プロデュースし、IbeyiのLisa-Kaindé DiazとEd Thomasが参加している。またこのアルバムはJayda Gが亡き父に捧げた作品となる。

 

「このアルバムは、アフリカ系アメリカ人の経験、死、悲しみ、そして理解をテーマにした、ストーリーテリングのブレンドにしたかった」とジェイダは説明する。

 

「このアルバムは、私の父と彼の物語であり、当然、私の物語でもあるのですが、自分自身をもっと知りたいと願い、それを見つけるために旅に出た多くの人々の物語でもあるのです。このアルバムは、虐げられてきた人たち、楽な人生を歩んでこなかった人たちのためにあるんだ」

 


このアルバムは、原曲の持つ陰鬱な雰囲気にもかかわらず、音楽的にもメッセージ的にも、最終的には高揚感とポジティブな体験となる。



「父の人生をもっと理解したいと思った最大の理由は、診断されるほんの数年前、父が自分自身のために懸命に働いていたことだと思うんだ。ソーシャルワーカーになるために学校に戻り、自分自身と自分の悪魔を調べ、その過程で自分自身を本当によくしていました。これは、自分を見つめ直し、なぜそうなったのかを理解し、より良くなろうと努力することに遅すぎるということはないということを証明しているのだと思います。黒人の経験、黒人のアメリカでの経験を理解し、社会が言うところの『こうあるべき』よりも上に行きたいと考えているんです」




「Circle Back Around」
 

                 



Jayda  『Guy』

 


Label: Ninja Tune

Release: 2023年6月9日


Tracklist:

1. Intro
2. Blue Lights
3. Heads Or Tails
4. Scars
5. Interlude: I Got Tired Of Running
6. Lonely Back In O
7. Your Thoughts
8. Interlude: It Was Beautiful
9. Meant To Be
10. Circle Back Around 03:15
11. When She Dance
12. Sapphires Of Gold
13. 15 Foot

 

 

グラミー賞ノミネート作家、プロデューサー、DJ、環境学者、運動家、放送作家であるJayda Gが、新作フルアルバム『Guy』でカムバックを果たす。


ニュー・アルバムには、SAULT、David Byrne、Adeleを手がけるJack Peñateと共同プロデュースし、IbeyiのLisa-Kaindé Diaz、Stormzy、Nia Archives、Jorja SmithのEd Thomasらが参加している。


グラミー賞にノミネートされ、多くの優れた作品をリリースし、忙しい数年をすごした後に渾身の最新作は発表となった。


 その間、アーティストはグラミー賞にノミネートされ、テイラー・スウィフトやデュア・リパのリミックスをリリース、グラストンベリーやコーチェラなどの世界最大のフェスティバルやステージをこなし、DJ KicksシリーズやAlunaとのコラボレーションのコンピをリリースし、さらに、BBCの「Glow Up」のゲスト審査員として出演するなど、きわまて多忙な日々を送った。また、故郷のBC州グランドフォークスで幼なじみの恋人と結婚(数十年前に両親が結婚したのと同じ家で)。気候の危機に焦点を当てた没入型インスタレーション「Undercurrent」(21年6月、ニューヨーク)では、クルアンビン、ノサジ・シング、マウント・キンビー、ボン・イヴェールらと参加することになった。



新作「Guy」は、ジェイダ自身の声と言葉にこれまで以上に焦点を当て、彼女のルーツであるハウス、ディスコ、R&B、ソウルに加え、彼女のポップなソングライティング感覚を強調した13曲を、亡くなった父親、その名もWilliam Richard Guyのアーカイヴ音源を散りばめながら収録している。録音作業は、11時間以上にも及び、アフリカ系アメリカ人の青年の目を通して語られる米国の経験の小さなスナップショットとなった。直接的な引用とJaydaの個人的な歌詞の組み合わせによって、父親の人生にスポットライトを当てている。

 

米国中西部のカンザス州の荒れた地帯で育ち、近所のいじめっ子や警察、地元当局との様々な交流を描いた「Scars」、「Circle Back Around」、18歳で結婚しベトナム戦争に入隊し、帰国すると妻には別の男がいたことを明らかにする「Heads Or Tails」、「Lonely Back In O」、そして、ワシントンD.C.に移り住んでから、妻との結婚生活に悩まされ続けたこと。ワシントンDCに移り住み、夜間のラジオDJとして副業をしていたが、1968年の人種暴動にうっかり巻き込まれてしまう「Blue Lights」等、彼女の父親の人生が複数の観点から緻密に描かれている。

 

さらに、カナダでの新しい生活ではジェイダの母親と結婚し、自分だけでなく子供や地域の人々にもより良い人生を送ろうとするようになる「Meant To Be」。また、ジェイダの祖母、そして黒人女性の回復力と強さに敬意を表した「When She Dance」。さらに内省的な展開を見せ、父親の死という悲しみだけでなく、「15 Foot」など、ジェイダはこのアルバムで亡き父親の幻影を追い、一連の叙事詩を作り出した。タイトルは、ジェイダの母親が彼女自身の悲しみとの関係を記述した内容に由来している。父親の人生を調べ、死後にテープを聴くことがジェイダに何を意味するのかについて、「Your Thoughts」、「Sapphires Of Gold」で考察されている。

 

©Felix Walworth


Foyer Redは、デビューアルバム『Yarn Away the Hours』をCarparkより5月19日にリリースすることを発表した。

 

先週、ブルックリンのバンドはシングル「Plumbers Unite!!!」を公開した。アルバムのカバーアートワークとトラックリストは以下の通りです。


「この曲の最初の数行は、決められたゴールとその場で走るという行為について言及しています。それは、キャラクターを横スクロールのビデオゲームに配置するものです」と、バンドのElana Riordanは「Plumbers Unite!」についての声明の中で説明しています。

 

「これは、文字通りの日常の苦労を、目的、ポイント、有限の生命などのゲームの文脈で補強したものです。しかし、一日が終わると、主人公はシミュレーションから抜け出し、コンソールの感覚について考え、数時間操作した後にその可能性に奇妙な感覚を覚えるのです。小さい頃、ゲームキューブに夢中になっていたのですが、「牧場物語」でチートコードを入力した後、すごーく罪悪感を感じてしまいました。その後、ゲームキューブが私に対して怒っている悪夢を繰り返し見ました。非現実的なことだとわかっていても、とても不気味でリアルに感じました」


『Yarn Away the Hours』は、ブルックリンのFigure8 Studiosで、プロデューサーのJonathan Schenkeと共にレコーディングされた。先にリリースされたシングル「Etc」も収録される。

 

「Plumbers Unite!!!」

   



Foyer Red 『Yarn Away The Hours』

 




Tracklist:


1. Plumbers Unite!

2. Unwaxed Flavored Floss

3. Wetland Walk

4. A Barnyard Bop

5. Etc

6. Gorgeous

7. Blue Jazz

8. Pocket

9. Oh, David

10. Time Slips

11. Big Paws

12. Toy Wagon


 



ロンドンのデュオ、Prima Queenは、デビューEP「Not The Baby」を発表しました。このミニアルバムは5月3日にBig Indie Recordsからリリースされる。


Prima Queenのルイーズ・マクファイルとクリスティン・マクファーデンは、「私たちはここ数年で多くの変化を経験し、すべての曲を一緒に書いているので、たいてい私たちの並行した経験について書くことになるのです」と説明している。「このEPでは、誕生と死、旅立ちと帰還など、さまざまなタイプの変化と、それが私たちの関係にどのような影響を与えるかを探求しています。自分たちの気持ちだけでなく、家族、友人、恋人の気持ちも反映させているんだ。


「単体のシングルではなく、完全な作品集をついにリリースすることができて、本当に興奮しています。これらの曲は一緒に聴くべきもので、彼らが作り出すエモーショナルな旅を体験してもらいたい」


ニューシングル「Back Row」をこのニュースと共にシェアしたデュオは、「『Back Row』は、自分にとって本当に大切だった人を傷つけてしまった時の痛みについて歌っている」と付け加えている。「EPは人間関係の変化について多く語っていて、この曲は失敗した人間関係がそれなりに美しく、最終的に自分を作るということを明るみに出しているんだ」

 



Prima Queen 『Not The Baby』 EP

 


Label: Big Indie Records

Release: 2023年5月3日



Tracklist
 
1. Back Row 
2. Crow 
3. Dylan 
4. Hydroplane

 


韓国系アメリカ人のシンガーソングライター、Yaejiは、ニューシングル「Done (Let's Get It)」と、ビデオを公開しました。
 
 
この曲は、先に公開された「For Granted」を含む、彼女の次のアルバム『With a Hammer』から収録されています。ソウルで撮影され、Yaejiと彼女の祖父がバニードッグのユニークなコスチュームで登場する「Done (Let's Get It)」の自主制作クリップは以下からご覧いただけます。

 

 多くのアーティストや音楽ファンにとって、ドルビーの没入型オーディオフォーマットは、ポッドキャスティングと同様、現代の音楽システムに必要不可欠なものとなっています。そして今、主要アーティストのリリースにより、ストリーミング時代におけるDolby Atmosの大きな可能性が見出され、このシステムはより広範囲に採用されつつあるのが現状です。では、Dolby Atmosとは一体何なのでしょう?

 

 ”イマーシブオーディオフォーマット”という言葉は一般の方には聞き慣れないかもしれません。これはアーティストが自分のビジョンを実現する音楽を作るための重要な機会を提供する、サウンドシステムの新たな構築方法の一つ。”Immersive”というのは、「没入感」という意味で、つまり「イマーシブ・オーディオ」とは「没入感の高いオーディオ」。一般的には、多くのスピーカーを配置し、ヘッドフォンの再生でも特殊な処理を行い、360度、全方位から音が聞こえるコンテンツを「イマーシブ・オーディオ」と呼びます。「立体音響」「3Dサラウンド」「Spacial Audio」など様々な呼称がありますが、基本的に全て同義語と考えて間違いないです。
 
 

 「イマーシブ・オーディオ」が、「立体音響」「3Dサラウンド」と呼ばれるケースがあるということは、つまり、「イマーシブ・オーディオ」とは、従来の「サラウンド」の一手法ということもできるでしょう。従来の「サラウンド」というと、5.1や7.1といった平面にスピーカーを配置した「2Dサラウンド」でしたが、「イマーシブ・オーディオ」すなわち「3Dサラウンド」は、上部にもスピーカーを配置し、空間に半球面や全球面を表現する立体的なサラウンド手法となります。

 

 180度の音響に限られていた従来のステレオシステムから360度から音響を楽しめるサラウンドシステムへの移行は、各々の家庭でも映画館のような豊潤な音響をお手軽に楽しめるようになりました。しかし、このサラウンドシステムは、音楽や映像の製作者の間ではお馴染みものでしたが、ひとつ難点を挙げると、どうしてもオーディオファイルとして書き出す際、ステレオ化してしまうということでした。しかし、近年、このドルビー・システムがアップル・ミュージックをはじめとするオーディオプラットフォームに取り入れられたことにより、リスナーは製作者が音源作製時に聴いているものとほとんど同じか、それに近い素晴らしい音質で音楽を聴くことが出来るようになったのです。

 

 近年、サブスクリプリョンでも導入されつつある、 Dolby Atmos Musicでは、ステレオでは不可能な3次元の音響空間に、個々のオーディオやオブジェクトを自由自在に配置することができる。さらに、ドルビー・アトモスのシステムは、4方向のスピーカーの機能を持つ5.1時代のサラウンドシステムの音響を可能性を押し広げ、より多くの音を鮮明に聞き取ることが出来るようになりました。ドルビー・アトモスの特性は、空間の天井の反響により、それまでの平面的な音響性を、球体の音響性へと拡張することにある。この革新性によって、音を聴いている場所から再生された音の波形は、聞き手のいる空間に届くまでに立体的な球体のような図形を描く。言い換えれば、このフォーマットが広まったことで、ファンはスタジオでアーティストのオリジナルなビジョンに合致した、これまでになくクリアな音で音楽を聴くことを可能にしたのです。


 ドルビー・アトモスのシステムは、何も音楽の需要者であるリスナーだけに利便性をもたらしたというわけではありません。音楽の供給者であるアーティストやプロデューサーにとってもこのシステムは比較的手軽に導入出来ます。例えば、一般的に親しまれているレコーディング・ソフトウェア、Logic Pro、ProTools、Nuendoなど、同じレコーディングのツールで動作するので、Dolby Atmosでの制作の利用自体はそれほどハードルが高くありません。つまり、アーティストは自分のレコーディングシステムを、共同制作者と簡単に共有できるほか、一度そのシステムを導入すれば、将来まで維持することが出来ると言う利点があるわけです。

 

 

 実際、ドルビーアトモスの録音システムは、著名なレコーディングスタジオに導入されはじめています。中でも、ロンドンの伝説的なレコーディングスタジオであるアビーロード、イーストコート、ディーンストリートは、プロデューサーとアーティストのために最先端のDolby Atmosミキシング施設を備え、サラウンド・サウンドの革命に貢献した。ポーキュパイン・ツリーのスティーブン・ウィルソンやマックス・リヒターなどの著名なアーティストは、自身のプロジェクトを通じて没入型オーディオ・フォーマットの威力を既に実感しています。

 

アビーロードスタジオのドルビーアトモスの導入事例

 また、このシステムは既存作品のリイシューの際に有効的に活用されています。以前にはステレオの指向性しか持たなかった録音に多くの指向性を与えることで、オリジナル作品よりも鮮明な音質を実現しています。ドルビーシステムが最初に業界内に浸透したのは、2017年に発表されたREMの『Automatic For The People』のリイシュー(再編集)でした。このオーディオ・フォーマットを発表して以来、ドルビーアトモスは音楽業界全体で受け入れられるようになったのです。

 

 プロデューサーのジャイルズ・マーティンによる新しいアトモス・ミックスでのビートルズの『リボルバー』をはじめとするクラシック・カタログだけでなく、数カ月のこのフォーマットでの主要リリースにはロビー・ウィリアムスの『No.1 XXV』、イージー・ライフの『Maybe In Another Life』、ホット・チップの『Freakout Release』等が含まれています。また、現在のダンスミュージックブームにより、Apple Musicのカタログをドルビーアトモスで聴くことができるようになった。


 Dolby Atmos Musicによって、アーティストは音楽をキャプチャし、個々のタイプのデバイスで可能な限り最高のリスニング体験を提供するため、拡張性のある完全没入型ミックスを作成出来る。つまりリスナーは、このシステムの導入により、意図されたとおりの音楽、製作者がレコーディングの際に聴いている音と同じクオリティーを楽しむことできるようになったのです。



 それでは、このドルビー・アトモスに関して、実際の音楽制作者はどのように考えているのでしょうか?

 

 例えば、U2やトーキング・ヘッズの名作を手掛けた伝説的なプロデューサー、そしてロキシー・ミュージックにキーボード奏者として在籍し、ソロ転向後にはハロルド・バッドやジョン・ハッセルと共同制作を行い、アンビエント・ミュージックを確立したことでも知られるイギリスのミュージシャン、ブライアン・イーノは、ドルビーとのインタビューで、新作アルバム『FOREVERANDEVERNOMORE』をアトモスで録音する際のアプローチについて次のように語っています。


 「私がレコードを作るのは、人々を何らかの形で変えたいと思うからです」とイーノは言います。「つまり、今までにない組み合わせの感情を与えたいんだ」さらに、作業プロセスについて、イーノは次のように語っている。「アトモスとの共同作業で私が心から興奮したのは、音を空間に、つまり適切な空間に配置することができるというアイデアです。このレコードをアトモスのためにミキシングし始めたとき、『私は目の前にある何かを見ている観客ではなく、何かの真ん中にいる訪問者なのだ』と思った。だから、この音楽システムを全面に出したいと思った」また、最新アルバム『FOREVERANDEVERNOMORE』についても、「このアルバムでは、ほとんど何もしていないのに、まったく違う場所にいて、その間に海が広がっているような感覚になることがあった。ステレオではそのような感覚は得られなかった。密度が高い時代と低い時代。レンジが変わったという感じです。ミニマリズムの選択肢が増えたんです」


 ドルビー・アトモスの革新的なシステムを手放しに称賛するのはブライアン・イーノにとどまりません。その他、2022年10月、電子音楽の伝説的存在であるフランスのジャン=ミシェル・ジャールは、ニューアルバム『Oxymore』をドルビー・アトモスでリリースしました。彼もまた、実際に音響の変化を体感したときの感動を以下のように述べています。「私は、この新しいシステムで自分の音を周囲にいつものように配置することから始めましたが、それはもちろん、あらかじめ予期していた結果を全く塗り替えてしまうものでした」とジャン=ミシェル・ジャールはドルビーに語っています。「このプロジェクトを本当に制作した最初の率直な反応というのは、いまだ開拓されていない土地のドアを開けるような感覚でした」そして彼は、さらに以下のように述べています。「ドルビー・アトモスが提供する技術では、自然な音の聴き方に戻ることができる。360度の音響の美しさは、たくさんの音、より多くの音を入れることができ、それらが存在するための十分なスペースがあるという事実なのです」

 

また、「”イマーシブ”と呼ばれる音響技術は、未来の音楽を創造するための大きな鍵となるでしょう。イマーシブ・サウンド、つまり没入型サウンドの最大のポイントは、新しいスタイル、新しいタイプのミュージシャン、サウンドエンジニア、プロデューサー、ミュージシャンにまったく新しいエコシステムを生み出すということ。レコーディングの初日からイマーシブを意識すれば、ミュージシャンにとって新しい銀河のように未知の可能性を秘めているのです」とも語っています。


 さらに、レコーディングアーティスト、プロデューサー、プログレッシヴ・ロックのミュージシャン、スティーブン・ウィルソンは、ビートルズのアビーロードの50周年記念リイシューを新しいフォーマットで聴いて圧倒された後、アトモス用に自分のスタジオを設計しました。「バック・ボーカルなど、いろいろなものを後ろのスピーカーで再生していた。最初の頃は、ちょっとギミック的なことをやっていました。でも、今はそれを抑えることにして、より効果的なもの、何度聴いても飽きないようなものを深く理解するようになりました。そうやって、失敗から学んできたんです」



 現在、ドルビー・アトモスの革新的なシステムは、音楽のデジタルプラットフォームや映画館だけではなく、より実用的な日常のシーンに導入されるようになり、私たちの生活に溶け込んでいます。スマートスピーカー、ストリーミング・プラットフォーム、スマートフォン、そして車内のオーディオシステムなど、多岐にわたる業界全体で包括的に採用されつつあります。今、このシステムに注目しているのが、自動車メーカーのメルセデス・ベンツです。同社はユニバーサル・ミュージックグループおよび、アップル・ミュージックと緊密に提携することによって、車載オーディオ体験の一環としてドルビー・アトモスのシステムを導入しています。


 Tidal、Amazon Music、Apple Musicなどのグローバルなストリーミング・プラットフォームは、近年、サブスクリプリョン加入者に追加料金を支払わせることなしに、アトモスのシステムを提供しています。これによって、多くの音楽ファンは、お気に入りのアーティストの音楽をレコーディングスタジオさながらに臨場感あふれるオーディオフォーマットで聴くことが出来るようになりました。また今後、ドルビー・アトモスを有効的に活用した複数の音楽がリリースされる予定です。例えば、Pinkの「Trustfall」、Sam Smithの「Gloria」、Ava Maxの「Diamonds & Dancefloors」、KSI (feat. Oliver Tree) の『Voices』、Maise Petersの「Body Better」、Tom Grennanの「Here」といったシングルのほか、Atmosを使用した楽曲が収録されています。

 

 音響技術の革新は日進月歩。高い能力を持つ技術者の試行錯誤により、20世紀のモノラルからステレオ、以後の時代では、5.1サラウンド、7.1サラウンドと目に見えるような形で大きく進化してきました。そして、最近注目を浴びつつある没入型の音楽システム、ドルビー・システムはリスナーのオーディオ体験を刷新し、音楽や製作者の環境をも変化させ、そして、私達の日常の世界の音楽の楽しみ方にも革新をもたらしつつある。これらの技術は現在も進化を続けていて、その終着点のようなものは見えません。既に空を車が飛び始めるような時代……、もしかすると今後、音楽は私達が予測もつかない形に変貌していくかもしれませんね。