イースト・ロンドンのFolly Groupがデビューアルバム『Down There!』の最新シングル「I'll Do What I Can」を発表した。

 

この曲のテーマについて、ヴォーカル/ドラマーのショーン・ハーパーは次のように語っている。

 

「"I'll Do What I Can"は、許すことが自然にできない状況で許すことについて歌っているんだ。私たちは皆、友人に不当な扱いを受けたことがある。そのような場合、私たちは、集団のために自分の動揺を忘れようとする一種の社会的な筋肉の記憶と、叫ぶ別の内なる声との間で、押し引きを感じるという内なる声との間で揺れ動いている」


「短期的な安らぎと長期的な平和の間の戦いを表現しようとしているのだろう。遅かれ早かれ、恨みを抱くということは、ターゲットが勝っているということ」


このシングルに付属するビデオでは、バンドは、「Strange Neighbour」の不穏な笑いを誘うビデオも監督した、ブリストルのヴィジュアル集団”CLUMP Collective”と再び協力している。


『ダウン・ゼア!』は2024年1月12日にSo Young Recordsからリリースされる。

 

 

 「I'll Do What I Can」

  Spector (UK)


 

今年も後残すところ2ヶ月。1月から約一年間途絶えていた新作アルバムの月例報告を復活します。

 

12月は新作が多くないのでお休みするかもしれませんが、11月は注目のリリースが目白押し。今年、二作目のリリースとなるBar Italia、ジャック・ホワイトの設立したデトロイトの"Third Man"からデビュー作をリリースするHotline TNT、イギリスの新進気鋭の若手ロックバンド、Spector、「カバーの女王」とも称されるCat Powerによるボブ・ディランのロイヤル・アルバート・ホールのライブ再現アルバム、Pinkpantheressの新作アルバム、Danny Brownの新作アルバム等にも注目でしょう。

 

 

・ 11月3日発売のアルバム

 

 Sen Morimoto  『Diagnosis』 - City Slang



現在はシカゴを拠点に活動するセン・モリモト。City Slangはロンドンのシンガーソングライター、Anna B Savegeから、ミニマル/グリッチの象徴的なプロデューサー、Caribou、またNada Surf、Calexicoに至るまで新旧の注目のバンド、アーティストが数多く所属している。

 

今年は、同レーベルのアトランタ/シカゴのラッパー、Mckinly Dicksonのトム・モリソンの小説に因んだデビューアルバム『Beloved! Paradise! Jazz!?』を週末のディスクにご紹介していますが、それに続く森本仙の新作『Diagnosis』は、グノーシス主義に題材を取ったものなのでしょうか。森本さんはソロアーティストではありながら、ライブではコレクティヴのような形態で陽気なパフォーマンスを繰り広げる。


ラップ、ソウル、ファンク、ポスト・ロック等、シカゴのミュージック・シーンらしい雑多な音楽性が今作の最高の魅力となりそうです。さらにアーティストはファンカデリックのような音楽を目指しているとか。


 

Bar Italia 『The Twits』- Matador

 



ニューヨークのベガース・グループの傘下であるMatador Recordsから「punkt」という名曲を引っ提げて衝撃的なデビューを飾ったロンドンの再注目のトリオ、Bar Italia。現行のインディーロックシーンを見渡すと、何かやってくれそうな予感がある。なんでも聞くところによると、海外の音楽業界に精通する日本人の方が、Matadorのスタッフと話した際に、「期待の若手のバンドはいますか」という問いに対して「Bar Italia」と即答だったという。このあたりの話は半信半疑で聞いてもらいたいんですが、実際に『Tracy Denim』を発表後、徐々にコアなオルトロックファンの間でこのバンドの名が上るように。数ヶ月前のニューヨークでの公演もそれ相応に好評だったのではないでしょうか。当初は、「秘密主義のバンドである」とThe Queitusが評していますが、昨日、遂にイギリスの大手新聞”The Guardian”にインタビューが掲載され、いよいよカルト的なバンドの領域の外に出て、イギリス国内でもそろそろ人気上昇しそうな雰囲気もある。

 

Bar Italiaのサウンドの持ち味はローファイな雰囲気、シューゲイズのギター、ガレージ・ロックのようなプリミティヴな質感にある。おそらく、Televisionのようなプロト・パンクにも親和性がある。特に、インディーロックとして画期的なのは、曲自体は反復的な構成を取りながら、メインボーカルが入れ替わるスタイル。最新公開されたアルバムの先行シングル「Worlds Greatest Emoter」を聴く限りでは、底しれない未知数の魅力があり、今後どうなっていくのかわからないゆえに期待感がある。『The Twits』にも、バンドの成長のプロセスが示されることでしょう。ロンドンの音楽やカルチャーの奥深さを象徴する素晴らしいインディーロックバンドです。



Kevin Abstract 『Branket』/ RCA

 



ブロックハンプトンの創設メンバー、テキサス出身のラッパー、ケヴィン・アブストラクトの最新作『Branket』についても、ラップ/インディーロックファン問わず注目しておきたいところでしょう。

 

さて、2019年の『Arizona Baby」に続く作品は、プロデューサーのロミル・ヘルマーにマルチ・インストゥルメンタルリスト、ジョナ・アブラハムと制作された。意外にもケヴィン・アブストラクトはエモ、グランジ、オルタナティヴロックからの影響を挙げており、「サニー・デイ・リアル・エステート、ニルヴァーナ、モデスト・マウスのようなレコードを作りたいと思った」と説明しています。「でも、ラップアルバムのように作りたいという思いもありました」


 

・11月10日発売のアルバム



Cat Power  『Cat Power Sings Dylan: The 1966 Royal Albert Hall Concert』/ Domino

 



キャット・パワーはカバーの女王なる異名をとりながらも、オリジナル曲も素晴らしい。コットニー・バーネットと並んですごく好きなアーティスト。ただ、近年、カバーをライフワークとして考えているのは事実のようで、最初の難関となったのが、ボブ・ディランの伝説のコンサートの再現でした。

 

このコンサートは、ディランがエレクトリック演奏に移行したワールドツアーの一環として行われたもので、この公演のブートレグには、数日後にロイヤル・アルバート・ホールで行われと誤って記載されていた。1998年に2枚組アルバムとして正式にリリースされた際には、「The Bootleg Series Vol.4: Bob Dylan Live 1966, The "Royal Albert Hall" Concert」とまで言われた。

 

このアルバムについて、キャット・パワーは次のように説明しています。「他のどのソングライターの作品よりも、ディランの歌は私に語りかけ、5歳の時に初めて聴いて以来、私にインスピレーションを与えてきた。過去に "She Belongs To Me "を歌うとき、私は時々一人称の物語に変えていた。『私はアーティスト、振り返らない』ってね。でも、ロイヤル・アルバート・ホールでの公演では、もちろん原曲通りに歌いました。作曲と偉大な作曲家への敬意を込めて」

 

 

Daneshevskaya 『Long Is the Tunnel』/ Winspear




今後、注目したいブルックリンのシンガー、Daneshevskayaダネシェフスカヤ)。 インディーポップの範疇にあるソングライティングを行いながらも、ミニマルな枠組みの中にはシューゲイズ風の轟音のギターサウンドが織り交ぜられたかと思えば、インディーフォーク調の和らいだソングライティングを行う。確認出来るかぎりでは、2020年にデビュー・シングルを発表後、Winspearと契約。「Somewher In The Middle」をリリースした後に、このデビューフルレングスが発売される。

 

アルバムの制作にはModel/ActrizのRuben Radlauer、Hayden Ticehurst、Artur Szerejkoの共同プロデュースによる7曲入りで、Black Country、New RoadのLewis Evansも参加している。曲の多くは「モバイルのGaragebandで書かれた」といい、必然的に「ループサウンドが多くなった」という。

 

 

 Chartreuse  『Morning Ritual』/ Communion Music

 


 

Chartreuseはイギリスのバーミンガム出身の要注目の4人組バンド。バンドのサウンドは、「アンビエント・ダーク・ポップ」とマネージメント会社のホームページで紹介されています。同時に彼らに影響を与えたフォーク、ソウル、ジャズといったジャンルのクラシックなサウンドの反映もある。

Chartreuseの結成メンバーは、マイケル・ワグスタッフとハリエット・ウィルソン。彼らは2013年に一緒にフォーク・ミュージックを書き始めた。そして2014年夏、リズム・セクション:ベースとキーボードのペリー・ロヴァリング、そして最後にドラマーのロリー・ワグスタッフが加わり、4人編成となった。ローリーとマイケルは兄弟で、ハリエットとペリーは幼なじみだとか。


新作アルバムからは四作のシングル「Whippet」、「All Seeing All The Time」、「Morning Ritual」、「Switch It On,Switch it Off」が公開されています。先行シングルを聴く限り、新感覚のインディーポップとして楽しめるかもしれません。




・11月17日発売のアルバム

 

 

Danny Brown 『Quaranta』 /Warp



今年は、Killer Mikeを始め、Mckinly Dickson、Mick Jenckinsのアルバムをレビューしてきましたが、最後のラップの期待作がダニー・ブラウンの『Quaranta』となるでしょう。ヒップホップは勉強不足のため、系譜的に言及するのが難しく、背伸びして書くしかないので困っている部分も。昨年、ロンドンのWu-Luに続き、デトロイトのダニー・ブラウンの「Quaranta」は2023年最後の期待作です。Warp Recordらしい巧みなエレクトロニックにブラウンのリリックがどのようなウェイブを描き、ドープな感じのフロウとなるのかに注目です。


さて、ダニー・ブラウンが何年も前から予告していた新作には、ブルーザー・ウルフ、カッサ・オーバーオール、MIKEがゲスト参加し、クエル・クリス、ポール・ホワイト、SKYWLKRがプロデュース。本作は、2019年の『Uknowhatimsayin¿』と3月にリリースされたJPEGMAFIAとのコラボアルバム『Scaring the Hoes』に続く作品となる。なとて素晴らしいアルバムジャケット!!

 

 

Water From Your Eyes 『Crushed By Everyone』 Remix /  Matador


 

ネイト・エイモスとレイチェル・ブラウンによるブルックリンのシンセ・ポップ・デュオ。今年の半ばにはソロで作品をぽつぽつとリリースしていたので、しばらく新作リリースはないのかと思いきや、先にリミックアルバムがリリースされる。

 

このデュオのオリジナル・アルバム『Crushed By Everyone』では、実験的な要素もありつつ、比較的親しみやすいインディーポップの要素も織り交ぜられていました。ネイト・ネイモスのプロデューサーとしての才質に加え、ドリーム・ポップ風のブラウンのアンニュイなヴォーカルの融合がオリジナリティーの高さを象徴づけていました。


同レーベルからのデビューアルバムはAkiraを彷彿とさせる近未来の漫画風のイラストレーションでしたが、リミックスも同様です。元あるオリジナルの素材を全く別の曲に変えてしまうプロデューサーとしてのネイト・エイモスのリミックスのセンスがどのような形で現れるのかに注目。

 

 

 

11月24日発売のアルバム 

 

Guided By Voices 『Nowhere to Go But Up』/GBV Inc.



 

12月は稀にサプライズのリリースがあるものの、(昨年はUKのLittle Simz。ベストリストに入れてほしいという要望をいただいたのですが、間に合わず入れられませんでした。スイマセン)ほとんどリリースが途絶え、ホリデー・シングルのリリースがある24日を越えると、海外のほとんどの音楽メディアが休暇を取り、静かになるのが通例です。大手新聞も基本的には同様のシフト。

 

11月の最終週にリリースされるUSインディーロックの王者、GBVの通算39枚目のアルバムはバンドのインプリントであるGBV.Incから発売。多作なバンドなので、長らくこのバンドの音源に触れてきたリスナーはアタリハズレのあるバンドということはなんとなく気がついているかもしれません。

 

ところが・・・、インドのシタールの演奏を交えた先行シングル「For the Home」を聴くかぎり、今までの作品と違うというのが率直な感想です。例えば、Pixiesがよりポピュラー性を厭わない世界的なロックバンドに進化したのと同じように、GBVも変化している最中なのかもしれません。アルバムジャケットもどことなく往年のアメリカの黄金世代を彷彿とさせるものがある。



Spector 『Here Come The Early Nights』/Moth Noise




2023年11月、最後にご紹介するUKのインディーロックバンド、Spectorは今後の活躍がとても楽しみな四人組。”In Right”という独立のマネージメントに所属、その全貌はまだ明らかになっていません。少しキャラクター性は異なるものの、Spectorもゆくゆくは、現在国内でライブ等で絶大な人気を獲得しているリバプールのSTONEのようになってもおかしい話ではありません。

 

11月24日に発売予定のこのアルバムは、2022年の「Now or Whenever」に続く作品。シングル「The Notion」でプレビューされています。ABBA、ブラー、ニック・ケイヴ等、様々な影響を受けたというスペクターは、アルバムのリリースを記念して、全国9公演のUKツアーに乗り出す予定。

 

「Here Come The Early Nights」について、バンドのフレッド・マクファーソンは次のように語っています。「前作よりも少し内省的なアルバムになったように感じている。曲はより愛を込めて書かれている。それにもかかわらず、もしかしたら今までで一番ラブソングが少ないアルバムになった」と。



 

バンド結成40周年を祝って間もなく、止まらないGuided By Voicesは、1月の『La La Land』、7月の『Welshpool Frillies』に続く今年3枚目のフルアルバム『Nowhere To Go But Up』の制作を発表した。


『Nowhere To Go But Up』は来月リリースされる。本日、彼らはアルバムのセカンド・シングルでオープニング・トラックの 「The Race Is On, The King Is Dead」を公開した。以下でチェックしてみて下さい。


MJ・レンダーマンは、11月17日にANTI-からリリースされるニュー・ライヴ・アルバム『And the Wind (Live and Loose!)』を発表しました。


このアルバムには、2023年夏にシカゴのリンカーン・ホールとロサンゼルスのロッジ・ルームで行われたライヴの模様が収録。ギタリストのジョン・サミュエルズ、ドラマーのコリン・ミラー、そして水曜日のバンド仲間のザンディ・チェルミスとイーサン・ベヒトールドがそれぞれペダル・スティールとベースで参加している。以下、「You Have Bought Yourself a Boat」の演奏ビデオをご紹介します。


    


MJ・レンダーマンはノースカロライナ州アッシュヴィルで生まれ育ったソングライターだ。歪んだペダル・スティールとギター、聖歌隊員の孤独な高音域を彷彿とさせる声、玄関前の哲学者の鋭い観察眼と考察。曲はローファイなホーム・レコーディングから、アッシュヴィルのドロップ・オブ・サン・スタジオで長年の友人たちと一緒に作った艶やかなものまで、蛇行しながら進んでいくが、レコーディングの環境はあまり重要ではないようだ。

これらは、高級肉屋の前で崩壊する関係から、地元のハリス・ティータでフットボールのスター、ダン・マリーノを目撃したことまで、空港のTシャツ売店を中心に作られたラブソングから、雨の中で錆びついたグリルの倦怠感まで、あらゆる物語を歌っている。そしてそれらは、彼の3枚のソロ・アルバムに見られるようなものに過ぎない。

『MJ Lenderman』(2019年)、『Ghost of Your Guitar Solo』(2021年)、そしてスタジオ・デビュー作『Boat Songs』(2022年)だ。レンダーマンのソングライティングはシンプルで真実味があり、ストーリーは、肩をすくめ、オフザカフのギター・リフが曖昧になり、ペダル・スティールとロックンロールのディストーションが絡み合い、アルト・カントリーの不協和音で最高潮に達するという、のんびりとした気楽な雰囲気で届けられる。MJレンダーマンの曲は、ぼんやりとした記憶の絵葉書のようにも感じられる。金物屋の垂木から聞こえてくる鳥のさえずりや、ボブ・ディランのカヴァーなど、予測不可能な断片やディテールが、結局はひとつの物語を作り上げているのだ。-Anti


今年初め、レンダーマンは「Rudolph」と「Knockin」を発表した。両シングルのライブ演奏は『And the Wind (Live and Loose!)』に収録されている。



M J Lenderman And The Wind「And the Wind (Live and Loose!)」



Label: ANTI-

Release: 2023/11/17


Tracklist:


1. Hangover Game

2. Knockin

3. You Have Bought Yourself a Boat

4. TLC Cagematch

5. Rudolph

6. Toontown

7. Dan Marino

8. Under Control

9. SUV

10. Catholic Priest

11. Gentleman’s Jack

12. Someone Get the Grill Out of the Rain

13. You Are Every Girl to Me

14. Tastes Just Like It Costs

15. Long Black Veil [feat. Styrofoam Winos]


©︎Jonah Freeman


MGMT(アンドリュー・ヴァンウィンガーデンとベン・ゴールドワッサー)は、ニュー・アルバム『Loss of Life』を正式に発表し、そのファースト・シングル「マザー・ネイチャー」をミュージック・ビデオで公開しました。『ロス・オブ・ライフ』は2024年2月23日にMom + Popからリリースされる予定で、バンドにとって6年ぶりのニュー・アルバムとなる。長年のコラボレーターであるジョーダン・フィッシュが、アニメーションと実写を組み合わせた「Mother Nature」のビデオを監督した。アルバムのトラックリストとジャケットアートワークは以下の通り。


プレスリリースの中でMGMTは、"Mother Nature "について「一人のヒーローが、もう一人のヒーローを "行かなければならない "旅に連れ出そうとするという、MGMTの神話の原型を概説している。ある部分はオアシスに似ている」と説明。


プレスリリースによると、この曲のビデオは、単にドッグとタートルと名づけられた2人の動物の友だちが、"邪悪なペット・コレクターを倒すためにチームを組む "という内容だ。


「この物語が人々を幸せにし、家族や友人、そして動物界とのつながりを感じさせてくれることを願っています」とフィッシュは言う。


『ロス・オブ・ライフ』はバンドにとって5枚目のアルバムであり、多くの人が復調作と見なした2018年の『リトル・ダーク・エイジ』に続く作品で、コロンビアからリリースされた(前作も同様)。Little Dark Ageのタイトル・トラックは、パンデミック中にバイラル・ヒットとなり、初期のヒット曲 "Electric Feel "と "Kids "に次いで、バンドの歴代3番目にストリーミングされた曲となっている。


「Mother Nature」

 


今回デュオは、プロデューサーのパトリック・ウィンバリー(ビヨンセ、リル・ヤッティ)と長年のコラボレーターであるデイヴ・フリッドマン(ザ・フレーミング・リップス、スプーン)と仕事をした。フリドマンは、これまでのアルバムと同様、『Loss of Life』のミックスも手がけている。また、ダニエル・ロパティン(別名ワン・オトリックス・ポイント・ネヴァー)、ブライアン・バートン(別名デンジャー・マウス)、ジェームス・リチャードソンがアルバム制作に参加した。マイルズ・A・ロビンソンは、このアルバムのアソシエイト・プロデューサー兼エンジニアでもある。


『ロス・オブ・ライフ』には、"ダンシング・イン・バビロン "にクリスティン・アンド・ザ・クイーンズが参加し、MGMTのアルバムに初めてフィーチャリングとして参加した。


「冗談はさておき(決して冗談じゃない!)、僕らはこのアルバムをとても誇りに思っているし、長い妊娠期間を経て比較的痛みを伴わずに誕生したという事実も誇りに思っている。音楽的に言えば、アダルト・コンテンポラリーは20%くらいで、これ以上はありません」


脚本家/監督/ザ・ベスト・ショーの共同司会者であるトム・シャープリンは、『ロス・オブ・ライフ』についてエッセイを書き、次のように語っている。「簡単に言えば、彼らはまたやってくれた!これで彼らは5勝5敗となり、前回確認したところでは、事実上どんな殿堂入りも果たしたことになる。このアルバムは、全体を通して紛れもない暖かさのオーラを放っており、心地よい自信に満ち溢れている。壮大な曲もあれば親密なポートレートもあり、ここではグラマラス、そこではサイケ・フォークを少し。MGMTの作品群に完璧にフィットすると同時に、再び境界を広げる魔法の一片だ」


アルバムのジャケット・アートワークは、ジョン・バルデッサリによる2006年の絵画『Noses & Ears, Etc.(パート2)である:青い)耳と鼻を持つ2つの(肉体の)顔、2つの(肉体の)手、そして趣味の馬』2006年。


MGMT 『Loss of Life』



Label: Mom+Pop

Release: 2024/2/23

Tracklist:


1. Loss of Life (part 2)

2. Mother Nature

3. Dancing in Babylon (featuring Christine and the Queens)

4. People in the Streets

5. Bubblegum Dog

6. Nothing to Declare

7. Nothing Changes

8. Phradie’s Song

9. I Wish I Was Joking 

10. Loss of Life



LAのグランジ・ポップ・バンド、Mommaとヒューストンのグランジ・シューゲイザー、Narrow Headがスプリット7のためにお互いのナンバーをカヴァーした。MommaがNarrow Headの "Sunday "を、Narrow HeadがMommaの "Medicine "をカヴァー。


「私たちはお互いのバンドの大ファンだった。1年ほど前、お互いの曲をカヴァーしようという話が持ち上がった。ジェイコブ(ナロウ・ヘッド・ギタリスト/ヴォーカリスト)がアレグラに、サウンドチェック中に彼らが "Medicine "をカヴァーしているビデオを送ってきたとき、私たちは、よし、実際にやるしかないって思ったの」


「Mommaは、僕らがすぐに夢中になったバンドのひとつなんだ」とNarrow Headは付け加える。


このスプリットはRun For Cover/Polyvinylから本日リリースされ、レコードは12月1日に発売される。予約はこちら。ストリーミングは以下から。Mommaは11月17日にLAのThe WilternでAnamanaguchiのオープニング・ライヴを開催予定。




京都出身、マサチューセッツ育ち、現在シカゴを拠点に活動するマルティメンタリスト、Sen Morimoto(森本仙)が11月3日にニューアルバム『Diagnosis』をCity  Slangよりリリースします。アルバムの最終シングル「Pressure On The Pulse」は先行シングルの中で最もダイナミックであり、親しみやすい曲。素晴らしいミュージック・ビデオが付属している。


森本仙はこの曲について次のように語っています。「この曲は、私たちの周りのカオスを理解することをテーマにしている。この曲は、2つの相反するダイナミクスの間を行ったり来たりしています。曲の静かな面は、なぜ、世界はこんなにも残酷なんだろう、その答えを本当に聞いて理解できるのかと問いかけている。また、その反対に、答えがまったく得られないという場合、どうすれば前に進み続けることができるかについても考えている。パルスにプレッシャーをかけ続けることは、無意味な世界に何らかの意味を生み出すことなんだ」


「Pressure On The Pulse」



ブルックリンを拠点に活動するアンナ・ベッカーマンのプロジェクト、Daneshevskaya(ダネシェフスカヤ)が、デビュー・アルバム『Long Is The Tunnel』の4作目のシングル「Roy G Big」を公開した。これまでのシングル同様、内的な静けさに満ちたインディーフォークとなっている。


Daneshevslaya(ダネシェフスカヤ)のニューアルバム『Long Is The Tunnel』は、Model/ActrizのRuben Radlauer、Hayden Ticehurst、Artur Szerejkoの共同プロデュース。全7曲収録で、日記を記すように書かれた作品だという。制作には、Black Country, New RoadのLewis Evansも参加している。新作アルバムは11月10日にWinspearから発売。先行シングルとして、「Somewhere in the Middle」「Big Bird」「Challenger Deep」が公開されている。


昼間はブルックリンの幼稚園児のためのソーシャルワーカーとして勤務するベッカーマンの音楽は、すべてが険しいと感じるときを生きる子供のような純粋さを追求することが多い。「子供が登校時に親に別れを告げるとき、もう二度と会えないような気がするものです」と彼女は説明する。再来週発売の『ロング・イズ・ザ・トンネル』は、そのような心の傷や寂しさを表現している。アーティストは11月16日にニューヨークの Stone Circle Theaterでの公演を予定している。


 


今月初め、Fucked Upはニュー・シングル 「Show Friends」を発表した。この曲は、彼らの最新フル・アルバム『One Day』のセッション中にレコーディングされた追加曲で構成された7″に収録されている3曲の新曲のうちの1曲である。その7″は現在出荷中で、本日バンドはその中からもう1曲、"Spot The Difference "をデジタル配信した。


「"Spot The Difference "は、漸進的な変化と妥協について歌っている。抑制の効かない適応の結果と、承認を求めることの自己暗示のカタログだ」


 King Gizzard & The Lizard Wizard 『The Silver Cord』

 

Label: KGLW

Release: 2023/10/27

 

Review

 

メルボルンのスチュアート・マッケンジーを中心とするキング・ギザードは作品毎に作風を変化させることで知られている。弛まざる変化を自らの活動形態に課しているという感じで、サイケデリックロック・バンドという名が定着したかと思えば、メタルバンドへと移行し、かなりベタな音楽へ転じた。そして、今回は、なんとシンセサイザーを主体としたダンスグループに変化している。アルバムのメンバーが分身をしたかのようなアートワークについても、笑いを取りに来ているのか。それとも真面目なのか……。もしかすると、そのどちらでもあるのかもしれない。


キング・ギザードは、オーストラリア国内にとどまらず、米国やイギリスにもファンが多く、実際のレビューの採点に関わらず、海外メディアからの評価は、軒並み高い。彼らの評価を決定づけているのが、劇的なライブであり、オーディエンスを狂乱の渦へと導く熱狂性である。メタルやヘヴィーロックのアプローチが彼らのライブの代名詞ともなっているが、その中にはハードコアやパンクの要素が少なからず含まれている。これがチル/サイケというもう一つの音楽性と結びつき、キング・ギザードの主要な音楽性を形成している。そして、もうひとつ忘れてはいけないのが、ギタリストのジョーイ・ウォーカーがIDMの別名義、Bullantの元で活動していることである。「モジュラーシンセの使い方を知っている振りのロックバンド」というマッケンジーの評はブラフで、このアルバムがEDM/IDM問わず、かなりの深い理解によって制作された作品であることは、エレクトロニックをよく知るリスナーであればお気づきになられるはず。

 

アルバムの冒頭を飾る「Theia」は、宇宙との交信を開始するかのようなユニークなイントロに続き、UnderworldともDepeche Modeとも取れるEDMが始まる。あるいはそのどちらでもないかもしれない。とにかく、そのサウンドをさらにユニークにしているのがポピュラーなボーカルワークで、ボコーダーを交えたジャーマン・テクノ的なサウンドがドライブ感を生み出す。テクノ的なビートの背後にはイタロ・ディスコに象徴される重低音を突き出した重さが加わる。さらに、プログレッシヴ・テクノに見受けられるような複雑な展開力を交えて、キング・ギザード独自のサウンドを構造的に生み出していく。曲の中盤から終盤にかけては、ループの要素を効果的の駆使してユーロビートを思わせるような刺激性と多幸感を兼ね備えた展開に繋げていく。

 

アルバムは、その後、コンセプチュアルな設計が施され、タイトル曲「The Silver Chord」では、エジプト風の旋律を取り入れているのを見ると分かる通り、Radioheadの『Kid A』で示されたエレクトロニックとロックの究極系を再現している。コラージュなのか、イミテーションなのか。そんなことはどうでもよくなるほどの愚直かつ痛快なサウンドが展開される。しかし、これらの土台が既存のものであるとしてもそれを再構成するテクニックやジャンルへの理解度が尋常ではないため、曲の終盤ではそれなりに聞けるサウンドになってしまうのが凄い。メタルの超絶的な演奏力だけがKing Gizzardの魅力ではないことがわかる。

 

「Set」はもう一つのハイライトとして楽しめる。ほとんど表向きには知られていなかったことではあるが、皮肉にも、キング・ギザードが平均的以上のEDMのグループであったことが判明する。クラフトベルク風のレトロな音色で始まるイントロに続いて、Underworldを思わせるベースラインを貴重としたサウンドに、彼らは新たにサイケ的な要素を付加している。不思議なことにその使い古されたループサウンドからエグミのあるグルーヴが立ち上る瞬間がある。これはメタルバンドとしてボーカルワークやコーラスでの前衛性を別のジャンルに置き換えている。結果、イントロではイミテーションに過ぎないものが、最終的には唯一無二のEDMに変化する。 


「Chang'e」は、大きな変化こそないけれども、JAPAN/Human Leagueのボーカルワークを踏襲し、その背後にユーロビートやトランスの要素を加え、ライブで映えるような空間性を持つダンスミュージックを展開させる。そしてボーカルの多彩性を組み合わせながら多幸感を重視したEDMの中にウェイブを生み出す。その熱狂的なウェイブは、ジャンルこそ違うがメタルの反復的なギターリフの刻みの中で偶然的に生み出されるものとその本質は変わらない。彼らは異なる音楽性を通じて、「Gaia」のライブセッションでしか得られない一体感を生み出している。 

 

「Gilgamesh」は、もうひとつのハイライト曲。Massive Attackを思わせるUKのベースメント等の要素を絡めたクールな反復的なハウスビートとKG&LWの代名詞のサイケ性を掛け合わせている。さらにサビの部分では、このバンドの重要なパンク性が出現し、アンセミックな展開を呼び起こす。現時点ではそこまで評価が高くないアルバムだが、むしろこのトラックが存在することにより、表向きのメタルというアプローチを選んだ前作よりもはるかに力強くダイナミックな印象がある。彼らがメタルという領域で培ってきたシンガロングという長所をダンスミュージックのエクストリームな側面へと持ち込んで見せている。その流れは、すぐに次のトラック「Swan Song」に引き継がれていき、Underworld風のビートにメタル的な熱狂性、サイケと結びつけて、クールなダンスミュージックを生み出している。4つ打ちのシンプルなハウスのトラックメイクにわずかに充溢するアシッド・ハウスの要素が、この曲にクールなノリを与えている。

 

『The Silver Chord』のB面はA面のリミックスとなっているため、レビューは割愛したい。クローズを飾る「Extinction」ではジャーマンテクノ/プログレッシヴ・テクノの形を軸に、メタルやサイケデリックロックという表向きの音楽性に隠されていた歌もののバンドとしての真価を見せる。KG&LWは、世界的に見ても、卓越したアンサンブル、チームワークを持つことで知られるが、今作を聴くと分かる通り、どうやらそれはロック/メタルだけの話にとどまらなかったらしい。

 

 

84/100

 

 

 「Gilgamesh」

 

Weekly Music Feature


Hinako Omori


大森日向子 ©︎Luca Beiley


大森日向子にとって、シンセサイザーは潜在意識への入り口である。ロンドンを拠点に活動するアーティスト、プロデューサー、作曲家である彼女は、「シンセは、無菌的で厳かなものではありません」と話す。

 

「ストレスを感じると、シンセのチューニングが狂ってしまうことがあった。一度、シンセの調子が悪いのかと思って修理に出したことがあるんだけど、問題なかった。だから、私が座って何かを書くとき、出てくるものは何でも、その瞬間の私の気持ちに関係している。音楽は本当に私の感情の地図になる」


大絶賛されたデビュー作『a journey...』(2022年、Houndstooth)が、その癒しのサウンドで他者を癒すことをテーマにしていたとすれば、大森の次のアルバムは思いがけず、自分自身を癒すものとなった。stillness,softness...』の歌詞を振り返ると、「自分自身の中にある行き詰まりを発見し、それと平穏な感覚を得るための内なる旅でした」と彼女は言う。


大森はとりわけ、シャドウ・セルフ、つまり私たちが隠している自分自身の暗い部分、そして自由になるためにはそれらと和解する必要があるという考えに心を奪われた。「自分自身との関係は一貫しており、それが癒されれば、そこから素晴らしいものが生まれるのです」と彼女は付け加えた。


2022年のデビューアルバム「a journey...」で絶賛されて以来、大森日菜子はクラシック、エレクトロニック、アンビエントの境界線を曖昧にし、イギリスで最も魅力的なブレイクスルー・ミュージシャンの一人となった。

 

日本古来の森林浴の儀式にインスパイアされたコンセプト・アルバム「a journey...」は、自然に根ざしたみずみずしいテクスチャーで、Pitchforkに「驚くべき」と評され、BBC 6Musicでもヘビーローテーションされた。以後、ベス・オートン、アンナ・メレディス、青葉市子のサポートや、BBCラジオ3の『Unclassified』で60人編成のオーケストラと共演、今年末にはロサンゼルスのハリウッド・ボウルで、はフローティング・ポインツのアンサンブルに加わり、故ファロア・サンダースとのコラボ・アルバム『Promises』を演奏する。


「stillness、softness...」は、大森のアナログ・シンセの世界ーー、すなわち、彼女のProphet '08、Moog Voyager、そしてバイノーラルで3Dシミュレートされたサウンドを生み出すアナログ・ハイブリッド・シンセサイザー、UDO Super 6ーーの新たな音域を探求している。このアルバムは、彼女の前作よりもダークで広がりがあり、ノワールのようにシアトリカル。デビュー作がインストゥルメンタル中心だったのに対して、本作ではヴォーカルが前面に出ており、「より傷つきやすくなっている」と彼女は説明している。夢と現実、孤独、自分自身との再会、そして最終的には自分自身の中に強さを見出すというテーマについて、彼女は口を開いている。


大森は「静けさ、柔らかさ...」を「実験のコラージュ」と呼び、それを「パズルのように」つなぎ合わせ、それぞれの曲が思い出の部屋を表している。最終的にはシームレスで、13のヴィネットが互いに出たり入ったりする連続的なサイクルとなっている。「とてもDIYだったわ」と彼女は笑う。「誰も起こしたくなかったから、マイクに向かってささやいたの」


大森は日本で生まれたが、ロンドン南部で育ち、サリー大学でサウンド・エンジニアリングを学習した。彼女がマシン・ミュージックに興味を持ち始めたのは、それ以前の大学時代、アナログ・シンセサイザーを授業で紹介した教師のおかげだった。「好奇心に火がつきました」と大森は説明する。


「クラシック・ピアノを習って育った私が、初めてシンセサイザーに出会った瞬間、完全に引き込まれました。シンセサイザーでは、サウンドを真に造形することができる。それまで考えたこともなかったような、無限の表現の可能性が広がった」


大学卒業後、大森はEOB、ジェイムス・ベイ、KTタンストール、ジョージア、カエ・テンペストといったインディーズ・ミュージシャンやアリーナ・アクトのツアー・バンドに参加した。「これらの経験から多くのことを学びました」と大森は言う。「素晴らしいアーティストたちとの仕事がなかったら、今のようなことをする自信はなかったと思います」 


彼女の自信はまだ発展途上だというが、それは本作が物語っている部分でもある。タイトルは "静寂、柔らかさ... " だけど、このアルバムは成長するために自分自身を不快にさせることをテーマにしている。「それは隠していたいこと、恥ずかしいと思うことを受け入れるということなのです」と彼女は言う。


アルバム全体を通して、大森はこれまでで最も親しみやすく、作曲家、アーティスト、アレンジャー、ヴォーカリスト、そしてシンセサイザーの名手としての彼女の真価が発揮された1枚となっている。このアルバムは、タイトル・トラックで締めくくられ、ひとつのサイクルを完成させている。


「自分の中にある平和な状態を呼び起こすような曲にしたかった」と大森。「毛布のようなもので、とても穏やかで、心を落ち着かせるものだと思っています」。その柔らかさこそが究極の強さなのであり、自分自身と他者への愛と思いやりをもって人生を導いてくれるものなのだ」と彼女は言う。




「stillness、softness...」/Houndstooth

 

大森日向子は既に知られているように、日本/横浜出身のミュージシャンであり、サウスロンドンに移住しています。


厳密に言えば、海外の人物といえますが、実は、聞くところによれば、休暇の際にはよく日本に遊びにくるらしく、そんなときは本屋巡りをしたりするという。ロンドン在住であるものの、少なからず日本に対して愛着を持っていることは疑いのないことでしょう。知る限りでは、大森日向子は元々はシンセ奏者としてロンドンのシーンに登場し、2019年にデビューEP『Auraelia』を発表、続いて、2022年には『A Journey...』をリリースした。早くからPitchforkはこのアーティストを高く評価し、ピッチフォーク・フェスティバル・ロンドンでのライブアクトを行っています。

 

エクスペリメンタルポップというジャンルがイギリスや海外の音楽産業の主要な地域で盛んなのは事実で、このジャンルは基本的に、最終的にはポピュラー・ミュージックとしてアウトプットされるのが常ではあるものの、その中にはほとんど無数と言って良いくらい数多くの音楽性が内包されています。エレクトロニックはもちろん、ラップやソウル、考えられるすべての音楽が含まれている。リズムも複雑な場合が多く、予想出来ないようなダイナミックな展開やフレーズの運行となる場合が多い。このジャンルで、メタルやノイズの要素が入ってくると、ハイパーポップというジャンルになる。ロンドンのSawayamaや日本の春ねむりなどが該当します。

 

先行シングルを聴いた感じではそれほど鮮烈なイメージもなかったものの、実際にアルバムを紐解いてみると、凄まじさを通りこして呆然となったのが昨夜深夜すぎでした。私の場合は並行してデ・ラ・ソウルやビースティー・ボーイズのプロデューサーと作品をリリースを手掛けているラップアーティストとのやりとりをしながらの試聴となりましたが、私の頭の中は完全にカオスとなっていて、現在の状況的なものがこのアルバムを前にして、そのすべてが本来の意味を失い、そして、すぐさま色褪せていく。そんな気がしたものでした。少なくとも、そういった衝撃的な感覚を授けてくれるアルバムにはめったに出会うことが出来ません。このアルバム「stillness,softness…」の重要な特徴は、今週始めに紹介したロンドンのロックバンド、Me Rexのアルバムで使用されていた曲間にあるコンマ数秒のタイムラグを消し、一連の長大なエレクトロニックの叙事詩のような感じで、13のヴィネットが展開されていくということなのです。

 

アルバムには、独特な空気感が漂っています。それは近年のポピュラー音楽としては類稀なドゥームとゴシックの要素がエレクトロニックとポップスの中に織り交ぜられているとも解釈出来る。前者は本来、メタルの要素であり、後者は、ポスト・パンクの要素。それらを大森日向子は、ポップネスという観点から見直しています。このアルバムに触れたリスナーはおしなべてその異様な感覚の打たれることは必須となりますが、その世界観の序章となるのが、オープニングを飾る「both directions?」です。ここでは従来からアーティストみずからの得意とするアナログ・シンセのインストゥルメンタルで始まる。シンプルな音色が選択されていますが、音色をまるで感情の波のように操り、アルバムの持つ世界を強固にリードしていく。アンビエント風のトラックですが、そこには暗鬱さの中に奇妙な癒やしが反映されています。聞き手は現実的な世界を離れて、本作の持つミステリアスな音像空間に魅了されずにはいられないのです。

 

続いて、劇的なボーカル・トラックがそのインタリュードに続く。#2「ember」は、アンビエント/ダウンテンポ風のイントロを起点として、 テリー・ライリーのようなシンセサイザーのミニマルの要素を緻密に組み合わせながら、強大なウェイブを徐々に作りあげ、最終的には、ダイナミックなエクスペリメンタル・ポップへと移行していく。 シンセサイザーのアルペジエーターを元にして、Floating Pointsが去年発表していた壮大な宇宙的な感覚を擁するエレクトロニックを親しみやすいメロディーと融合させて、それらの感情の波を掻い潜るように大森は艶やかさのあるボーカルを披露しています。描出される世界観は壮大さを感じさせますが、一方で、それを繊細な感覚と融合させ、ポピュラー・ミュージックの最前線を示している。それらの表現性を強調するのが、大森の透き通るような歌声であり、ビブラートでありハミングなのです。これらの音楽性は、よく聴き込んで見るとわかるが、奇妙な癒やしの感覚に充ちています。

 

このアルバムには創造性のきらめきが随所に散りばめられていることがわかる。そしてその1つ目のポイントは、シンセサイザーのアルペジエーターの導入にある。シンセに関しては、私自身は専門性に乏しいものの、#3「stalactities」では繊細な音の粒子のようなものが明瞭となり、曲の後半では、音そのものがダイヤモンドのように光り出すような錯覚を覚えるに違いありません。不用意にスピリチュアルな性質について言及するのは避けるべきかとも思いますが、少なくとも、シンセの音色の細やかな音の組み合わせは、精妙な感覚を有しています。これらの感覚は当初、微小なものであるのにも関わらず、曲の後半では、その光が拡大していき、最初に覆っていた暗闇をそのまばゆいばかりの光が覆い尽くしていくかのような神秘性に充ちている。

 

 「cyanotype memories」

  

 

 

続く「cyanotype memories」は、アルバムの序盤に訪れるハイライトとなるでしょう。実際に前曲の内在的なテーマがその真価を見せる。イントロの前衛的なシンセの音の配置の後、ロンドンの最前線のポピュラー・ミュージックの影響を反映させたダイナミックなフレーズへと移行していく。そして、アルバム序盤のゴシックともドゥームとも付かないアンニュイな感覚から離れ、温かみのあるポップスへとその音楽性は変化する。エレクトロニックとポップスを融合させた上で、大森はそれらをライリーを彷彿とさせるミニマリズムとして処理し、微細なマテリアルは次第に断続的なウェイブを作り、そしてそのウェイブを徐々に上昇させていき、曲の後半では、ほのかな温かみを帯びる切ないフレーズやボーカルラインが出現します。トラック制作の道のりをアーティストとともに歩み、ともに体感するような感覚は、聞き手の心に深く共鳴を与え、曲の最後のアンセミックな瞬間へと引き上げていくかのような感覚に充ちている。この曲にはシンガーソングライターとしての蓄積された経験が深く反映されていると言えます。 

 

 

 

#5「in limbo」では、テリー・ライリー(現在、日本/山梨に移住 お寺で少人数のワークショップを開催することもある)のシンセのミニマルな技法を癒やしに満ちたエレクトロニックに昇華しています。そこにはアーティストの最初期のクラシックへの親和性も見られ、バッハの『平均律クラヴィーア』の前奏曲に見受けられるミニマルな要素を現代の音楽家としてどのように解釈するかというテーマも見出される。平均律は元は音楽的な教育のために書かれた曲であるのですが、以前聞いたところによると、音楽大学を目指す学習者の癒やしのような意味を持つという。本来は、教材として制作されたものでありながら、音楽としての最高の楽しみが用意されている平均律と同じように、シンセの分散和音の連なりは正調の響きを有しています。素晴らしいと思うのは、自身のボーカルを加えることにより、その衒学性を衒うのではなく、音楽を一般的に開けたものにしていることです。前衛的なエレクトロニックと古典的なポップネスの融合は、前曲と同じように、聞き手に癒やしに充ちた感覚を与える。それはミニマルな構成が連なることで、アンビエントというジャンルに直結しているから。そして、それはループ的なサウンドではありながら、バリエーションの技法を駆使することにより、曲の後半でイントロとはまったく異なる広々とした空へ舞い上がるような開けた展開へとつながっています。

 

 

#6「epigraph…」では、アンビエントのトラックへと移行し、アルバムの序盤のゴシック/ドゥーム調のサウンドへと回帰する。考えようによっては、オープナーのヴァリエーションの意味を持っています。しかし、抽象的なアンビエントの中に導入されるボーカルのコラージュは、James Blakeの初期の作品に登場するボーカルのデモーニッシュな響きのイメージと重なる瞬間がある。そして最終的に、ミニマルな構成はアンビエントから、Sara Davachiの描くようなゴシック的なドローンを込めたシンセサイザー・ミュージックへと変遷を辿っていく。しかし、他曲と同じように制作者はスタイリッシュかつ聴きやすい曲に仕上げており、またアルバム全体として見たときに、オープニングと同様に効果的なエフェクトを及ぼしていることがわかるはずです。 

 

 

「foundation」



しかし、一瞬、目の前に現れたデモーニッシュなイメージは消えさり、#7「foundation」では、それと立ち代わりにギリシャ神話で描かれるような神話的な美しい世界が立ち現れる。安らいだボーカルを生かしたアンビエントですが、ボーカルラインの美麗さとシンセサイザーの演奏の巧みさは化学反応を起こし、エンジェリックな瞬間、あるいはそのイメージを呼び起こす。音楽的にはダウンテンポに近い抽象的なビートを好む印象のある制作者ではありながら、この曲では珍しくダブステップの複雑なリズム構成を取り入れ、それを最終的にエクスペリメンタルポップとして昇華しています。しかし、ここには、マンチェスターのAndy Stottと彼のピアノ教師であるAlison Skidmoreとのコラボレーション「Faith In Strangers」に見られるようなワイアードな和らぎと安らぎにあふれている。そして、それらの清涼感とアンニュイさを併せ持つ大森の歌声は、イントロからまったく想像も出来ない神々しさのある領域へとたどりつく。そして、それはダンスミュージックという制作者の得意とする形で昇華されている。背後のビートを強調しながら、ドライブ感のある展開へと導くソングライティングの素晴らしさはもちろん、ポップスとしてのメロディーの運びは、聞き手に至福の瞬間をもたらすに違いありません。

 

アルバムのイメージは曲ごとに変わり、レビュアーが、これと決めつけることを避けるかのようです。そしてゴシックやドゥームの要素とともに、ある種の面妖な雰囲気はこの後にも受け継がれる。続く、#8「in full bloom」では、アーティストのルーツであるクラシックの要素を元に、シンセサイザーとピアノの音色を組み合わせ、親しみやすいポピュラー音楽へと移行する。しかし、昨晩聴いて不思議だったのは、ミニマルな構成の中に、奇妙な哀感や切なさが漂っている。それはもしかすると、大森自身のボーカルがシンセと一体となり、ひとつの感情表現という形で完成されているがゆえなのかもしれません。途中、感情的な切なさは最高潮に達し、その後、意外にもその感覚はフラットなものに変化し、比較的落ち着いた感じでアウトロに続いていく。

 

 

前の曲もベストトラックのひとつですが、続く「a structure」はベストトラックを超えて壮絶としか言いようがありません。ここではファラオ・サンダースやフローティング・ポインツとの制作、そして青葉市子のライブサポートなどの経験が色濃く反映されている。ミニマル・ミュージックとしての集大成は、Final Fantasyのオープニングのテーマ曲を彷彿とさせるチップチューンの要素を絶妙に散りばめつつ、それをOneohtrix Point NeverやFloating Pointsの楽曲を思わせる壮大な電子音楽の交響曲という形に繋がっていく。本来、それは固定観念に過ぎないのだけれど、ジャンルという枠組みを制作者は取り払い、その中にポップス、クラシック、エレクトロニック・ダンス・ミュージック、それらすべてを混合し、本来、音楽には境目や境界が存在しないことを示し、多様性という概念の本質に迫っていく。特に、アウトロにかけての独創的な音の運びに、シンセサイザー奏者として、彼女がいかに傑出しているかが表されているのです。

 

アヴァンギャルドなエレクトロニックのアプローチを収めた「astral」については、シンセサイザーの音色としては説明しがたい部分もあります。これらのシンセサイザーの演奏が、それがソフトウェアによるのか、もしくはハードウェアによるのかまでは言及出来ません。しかし、Tone 2の「Gladiator 2」の音色を彷彿とさせる、近未来的なエレクトロニックの要素を散りばめ、従来のダンス・ミュージックやエレクトロニックというジャンルに革命を起こそうとしています。アンビエントのような抽象的な音像を主要な特徴としており、その中には奇妙なクールな雰囲気が漂っている。これはこのアーティストにしか出し得ない「味」とでも称すべきでしょう。

 

 

これらの深く濃密なテーマが織り交ぜられたアルバムは、いよいよほとんど序盤の収録曲からは想像もできない領域に差し掛かり、さらに深化していき、ある意味では真実性を反映した終盤部へと続いていきます。「an ode to your heart」では驚くべきことに、日本の環境音楽の先駆者、吉村弘が奏でたようなアンビエントの原初的な魅力に迫り、いよいよ「epilogue...」にたどり着く。ホメーロスの「イーリアス」、ダンテ・アリギエーリの「神曲」のような長大な叙事詩、そういった古典的かつ普遍性のある作品に触れた際にしか感じとることが難しい、圧倒されるような感覚は、エピローグで、クライマックスを迎える。海のゆらめきのようにやさしさのあるシンセサイザーのウェイブが、大森の歌声と重なり、それがワンネスになる時、心休まるような温かな瞬間が呼び覚まされる。その感覚は、クローズで、タイトル曲であり、コーダの役割を持つ「stillness,softness…」においても続きます。海の上で揺られるようなオーガニックな感覚は、アルバムのミステリアスな側面に対する重要なカウンターポイントを形成しています。

 

 

100/100

 

 

Hinako Omori(大森日向子)のニューアルバム「stillness,softness…」は、Houdstoothより発売中です。

 Wild Nothing  『Hold』 

Label: Captured Tracks

Release: 2023/10/28



Review


2010年に発表された『Gemini』からニューヨークのキャプチャード・トラックスの屋台骨となり、同レーベルの象徴的な存在として名を馳せてきたWild Nothing(ワイルド・ナッシング)こと、ジャック・テイタム。

 

デビュー時からの盟友とも称せるBeach Fossils(ビーチ・フォッシルズ)のジャスティン・ペイザーと同様に、ミュージシャンとしての道のりを歩む傍ら、家庭を持つに至り、人生における視野を広げ、新たな価値観を作りあげつつあるのを見ると、確実に十三年という時の流れを象徴づけている。5thアルバムは、ジェフ・スワン(キャロライン・ポラチェックやチャーリーXCXの作品を手掛ける)がミックスを担当。パンデミック時に書かれ、現代的な時代背景から「模索的で実存的な音楽になるのは必然だった」とレーベルのプレスリリースには明記されている。

 

デビュー当時の名曲「Golden Haze」(同名のEPに収録)の時代からインディーロックやシューゲイズ/ドリーム・ポップのポスト世代の担い手として日本国内でも紹介されてきたワイルド・ナッシングではありながら、プレスリリースでも言及されている通り、オルタネイトなロックのみが、このアーティストの音楽的なバックグランドを構築しているわけではないことは瞭然である。そして、ひとつこのアルバムを聴くとよく分かることがあるとするなら、シューゲイズ/ドリームポップと、ポスト世代で多くのバンドが追求してきた当該ジャンルの主要な要素であるメロディーの甘美さや陶酔感と併行して、ダンス・ミュージックからの強いフィードバックが、テイタムのオルタナティヴ・ロックサウンドの背後には鳴り響き、重要なバックボーンを形成していたという意外な事実である。さらに、「ピーター・ガブリエルとケイト・ブッシュに最も触発を受けた」とテイタム自身が説明している通り、彼がこの13年間を通じて、良質なポピュラー音楽から何かを掴み、それを一般的に親しめる曲としてアウトプットしてきたという事実を物語っている。つまり、表面上からは伺いしれないワイルド・ナッシングの本質的な音楽性にふれることが出来るという点に、本作の最大の魅力が反映されているのだ。デビュー時の派手な印象は薄れてはいるものの、一方、かなり聴き応えのある作品となっている。少なくとも、オルトロックファンとしては素通りできないレコードとなるかもしれない。おそらく、このアーティストの作品に幾度となく慣れ親しんできたリスナーにとどまらず、新たにワイルド・ナッシングの作品に触れようという方も、そのことを痛感いただけるものと思われる。

 

ファーストシングルとして公開された「Headlights On」は、ホルヘ・エルブレヒトやBeach Fossilsのトミー・デイヴィッドソン、ハッチーが参加し、「アシッド・ハウスに匹敵するベースグルーヴとブレイクビーツが特徴ではあるが、このクラブの雰囲気はミスディレクション」と記されている。テイタムはオープニング曲を通じて、バランスを取ることを念頭に置いており、背後のダンスビートの中にAOR/ソフト・ロックに象徴される軽やかで涼し気なサウンドを反映させる。表面的な印象に関しては、ダンスロックやシンセポップからのフィードバックを感じ取る場合もあるかもしれないが、同時にビリー・ジョエルのサウンドに関連付けられる良質なバラードやポップスにおけるソングライティングがグルーブの中に何気なく反映されている。モダンなトラックとしても楽しめるのはもちろんなのだが、往年の名バラードのような感じで聞き入る事も出来るはずだ。「Headlights On」は、いわば、キャッチーさと深みを併せ持つ音楽の面白みを凝縮させたシングルなのである。アルバムのイントロとも称すべき一曲目で、懐かしさと新しさの融合性を示した後、#2「Basement El Dorado」では、さらにユニークなダンス・ポップが続く。Dan Hartmanの「Dream About You」を思い起こさせる懐かしのシンセ・ポップを背後に、テイタムはそれとは別の彼らしいオリジナリティを発揮する。現在、ニューヨークでトレンドとなっているシンセ・ポップのモダンな解釈を交え、それらにHuman Leagueのような軽やかなノリを付加している。

 

こういった新鮮な音の方向性を選んだ後、#3「The Bodybuilder」では2010年のデビュー当時から続くドリームポップのメロディー性を踏襲し、新鮮な音楽性を開拓しようとしているように感じられる。メロディーの中にはSheeranのようなポップネスもあり、LAのPoolsideと同様にヨット・ロックからのフィードバックも感じとれる。リゾート的な気分を反映しつつも、Cocteau Twinsのような陶酔的なメロディーもその音の中に波のように揺らめいている。しかし、曲の途中からは雰囲気が一変し、マーチングのようなドラムビートを交えた聴き応えのあるギターロックへと移行していく。断片的なバンドサウンドとしての熱狂性を見せた後、クラブのクールダウンのような感じで、曲も落ち着いた印象のあるコーラスが続き、そして再び、サウンドのバランスを取りながら、それらの二つの音楽性を融合させ、メロディーとビートの両方の均衡を絶妙に保ち、曲はアウトロへと向かう。そのサウンドの中に一瞬生じるグルーブは旧来のワイルド・ナッシングの音楽とは別の何かが示されていると思う。

 

中盤でもダンスミュージックを意識したモダン/レトロのクロスオーバー・サウンドが続く。 「Suburban Solutions」でも、やはりドリーム・ポップの基礎的なサウンドを形成しているAOR/ソフト・ロックのサウンドからの影響を織り交ぜ、MTV時代のディスコサウンドに近いナンバーとして昇華している。こういったサウンドでは、旧来よりもエンターテイメント性に照準を絞っているという印象も受ける。実際に、そのことはアウトロでのコーラスワークに反映されており、単なる旋律の良さにとどまらず、清涼感を重視した意外性のあるナンバーとなっている。その後、「Presidio」でも同じように、比較的新しい試みがなされ、アンビエント/エレクトロニックの中間の安らいだ電子音楽を制作している。クオリティーの高さに照準を置くのではなくて、聴きやすさと安らぎに重点を置いているのに親近感を覚える。電子音楽ではありながら、シンセ音源のシンプルな配置を通じて、温かい感情が波のように緩やかに流れていく。こういった心がほんわかするような気分は、もちろん、次の曲でも健在だ。「Dial Tone」では日本のJ-POPの音楽性にも近い叙情的なインディーロック・サウンドが展開される。この曲もまた同様にローファイな感覚が生かされていて、欠点があることに最高の美点が潜んでいる。

 

 「Histrion」でもダンス・ミュージックとソフト・ロックが曲の核心を形成しているが、その中にはやはりオープニング曲と同じように現代的なポップネスが反映されており、彼が尊敬するガブリエルやケイト・ブッシュの良質なソングライティング性を継承し、それらをどのような形で次のポピュラー音楽に昇華するのかという試行をリアルなサウンドメイクにより示している。それはまだ完全に完成されたとは言えない。ところが、その中に何かきらめいた一瞬を見出せる。デペッシュ・モードを彷彿とさせるダンスビートを背に歌われるボーカルラインの節々に本質的な概念が現れ、きらびやかな印象を醸し出す。そのことをひときわ強く象徴づけるのが、アウトロにかけて導入されるダンスビートをバックに歌われるアンセミックなフレーズなのだ。

 

「Prima」では、アルバムのハイライト、象徴的な音楽性が表れている。言い換えれば、今までになかった次なる音楽が出現したという感じだ。ミステリアスな印象のあるシンセサイザーのシークエンスの中に、それらの抽象的な空間に向けて歌われるジャック・テイタムのボーカルに要注目である。和音的な枠組みの中にテイタムのボーカルのメロディーが対旋律のような効果を与える瞬間がある。従来のインディーロックという枠組みを離れて、まだ見ぬ未知の段階にアーティストが歩みを進めた瞬間でもある。レーベルのプレスリリースにも書かれている通り、ジャック・テイタムは、地球の温暖化や、その他、政治的な問題に無関心というわけではない。しかし、それらの考えを言葉でストレートに表現するのではなく、言葉の先にある音楽という形に落とし込んでいる。つまり咀嚼しているということなのだ。ワイルド・ナッシングの音楽に対する探究心は尽きることがないし、それは本作のクライマックスを飾る収録曲においても断続的に示されている。「Alex」では、親しみやすい良質なインディー・フォーク、「Little Chaos」ではエレクトロニック/アンビエント。クローズ曲は『Toto Ⅳ』に見いだせるような、爽やかな感じで、アルバムはさらりと終わる。

 

 

 

88/100

 


Interview

 

SAGOSAID

Photo: wakaiwamoto



-自由に英詩を作れるほどの英語力がないからこそ、シンプルで直接的な感情が出せる- 

SAGO


 

 

Music Tribune: 少し時間が経ってしまいましたが、新作アルバムのリリース記念ツアーに関して、ご質問したいと思います。大阪、名古屋、東京と、三ヶ所のツアーを開催して、手ごたえはいかがだったでしょうか? また、何かツアー時の印象深かった出来事などありましたら教えてください。

 

SAGO:  かなり手応えがありました。アルバムを聴いてくれた人が各地にこんなにたくさんいるということに感動しました。客席から歓声が上がることがとても印象深かったです。




Music Tribune: セカンド・アルバム『Tough Love Therapy』が6月末に発売されました。前作の頃と比べ、音楽性の変更があり、シューゲイズ性が強まり、バンドとしての一体感が強まった印象を受けます。あらためて、新作アルバムのコンセプト、メッセージ、制作のアプローチの変化などについて教えてください。

 

SAGO: 今まではライブで再現できるような録音をしていたのですが、今作はライブで再現することばかりを考えるのをやめて、やりたいようにRECしました。ギターを何本も重ねたり、コーラスをたくさん重ねたり、ピアノの曲もあったり、、など。

 

コンセプトはタイトルが先に決まって、それから考えていって愛とか依存性とかについて、だったんですけど、今思えば、それらの現実から逃げたくて制作に没頭したかったのかもしれないです。恋愛とかメンタルヘルスについて悩んでいたから・・・。



Music Tribune:  アルバムから「Broken  Song」のミュージックビデオが公開されています。この曲はシューゲイズ風のギターもクールですが、曲のクライマックスも切なく、心揺さぶられるものがありました。また、ご自身に加えてバンドメンバーも出演なさっています。撮影時のエピソードや印象深かった出来事はありますか?



SAGO:  監督のsekaiseifukuyametaくんとぶらぶら散策しながら撮影しました。彼はとても話しやすくていろいろなものにかわいい〜といいながら楽しく撮影できたのが良かった。
普段全く自然と触れ合わないので、河原に行った時異世界みたいに感じたのが印象的でした。

 


Music Tribune:   新作アルバムの収録曲の中には、ファースト・アルバムのタイトル「REIMEI」の名が再登場していますよね。これは、ご自身で運営なさっているスタジオのことについて書かれたものなのでしょうか? 写真を見るかぎりでは、アングラな感じでめちゃくちゃ面白いと思いました。スタジオの設立のきっかけ、運営方針、魅力などがあれば教えてください。


SAGO:   (スタジオ)設立のきっかけは、本当にたまたま前のオーナーが辞めてしまうタイミングで引き継いだことです。いろんな人が集まってきてくれるのが魅力的だと思います。

 

こういうことをやりたい、とか持ち込みの企画とかあったら出来る限り力を貸せる場所でありたいと思います。私はかなり無気力なタイプの人間なので、運営だけでヘトヘトになっているので、いろいろみんなやりたいように使って欲しいと思っています。(破壊以外で・・・)

 

 

Photo: wakaiwamoto




Music Tribune:  曲の歌詞は(全般的に)英語で書かれています。これはSAGOSAIDの最初期から一貫したスタイルと言えるでしょうか。しかし、英語でリリックを書くと言うのは難しいことではないですか? また、歌や詩に関して、ここに注目してほしいなど、こだわりなどありますか?


SAGO:  英語は流暢に話せないし、自由に扱えるわけではないですが、ずっと聴いてきた音楽が英語が多かったので英詩は最初期からのスタイルです。
 

だいたいの曲はメロディから考えて、後から歌詞を考えるのですが、英語を使うのは難しいけど、音に当てはめるのは日本語より英語のほうが簡単です。 逆に日本語は音に当てはめるのが難しい。
 

あと意外にも、完成した歌詞を見ると、英語の方が言いたいことを言っていると思います。
自由に英詩を作れるほどの英語力がないからこそ、シンプルで直接的な感情が出ているのだと思います。



Music Tribune: ソングライターとして曲を書く上で、影響を受けた音楽やアーティストがいましたら教えてください。例えば、”Holiday! Records”の紹介記事では、 beabadoobee、 Sobsなどの音楽性が比較に出されていたように、ベッドルームポップとドリームポップの要素があり、そこが琴線に触れることもあったのですが。



SAGO:  影響を受けたアーティストは本当にたくさんいるので、答えるのが難しい...。
 

でも、ベッドルームポップやドリームポップはあまり聴いてなくて、 ロックの要素が強いアーティストが好きです。最近の人だと、Momma, Snail mail、Wednesday、SASAMIなど…あとは90sのインディーロックがとても好きです。




Music Tribune: SAGOさんは、ジャガーをトレードマークにしていらっしゃいます。このギターを持つきっかけとなった出来事などがありましたら教えてください。また、演奏時の映像を見て、びっくりしました。かなり多くのエフェクターを使っていらっしゃるようですが、お気に入りのエフェクターや、音作りのこだわり等ありましたら教えてください。



SAGO:  ジャガーはもともとメンバーのShinmaくんのギターなんです。
借りてそのまま使わせてもらっています。音のこだわりは、Shinmaくんがリーダーとなって音のバランスを考えています。ギターが3本なので音の棲み分けをいつも悩んでいます。
自分の足元は全部好きなエフェクターですが、特に好きなのは、JHSのDouble Barrelかなー。




Music Tribune:  最近のスマッシュ(smash-jpn) フジロックのプロモーター)主催のツアーでは、アルバムの新曲がライブのセットリストに組み込まれていたと思います。ステージで演奏してみて、実感はいかがだったでしょうか。また、ステージから見てオーディエンスの反応はいかがでしたか?



SAGO:  オーディエンスの反応がとてもよかったので、ステージからびっくりしてました。笑顔の人や、一生懸命聴いている人や、様々な表情が見れて、こちらも自然といろんな表情でライブができた気がします。

Photo: wakaiwamoto


 

Music Tribune:  また、ツアーを終えてから、スタジオでの自主イベントも開催されたようですね。こういった企画を積極的に開くというのは、レイメイがSAGOさんの人生にとって、すごく重要なコミュニティなのかなと思います。ずばり、”レイメイ”とは、SAGOさんにとって、どのような場所なのでしょうか?



SAGO:  自分の家にみんなが遊びにきてくれてる感じなので居心地がいいです。人の家に遊びにいくと緊張しちゃうけど、自分の家でライブとかしてくれて嬉しいし、ありがたいな〜と思います。”私はすぐ疲れるから寝てるかもしれないけど、みんなでいつまででも遊んでていいよ〜”みたいな場所です。



Music Tribune:  正直なところ、 SAGOSAIDというバンドは、日本的なオルタナの要素もありますが、ロンドンやニューヨークのロックバンドに近い音楽性もあるかなと思っています。今後、どのようなバンドに変化していくか、展望などありますか。また、チャンスがあれば、海外のツアーをしてみたいというような思いはありますか?



SAGO:  どんなバンドになっていくかは自分でもわからないんですけど、惰性で曲をつくりたくないと思っていて、これからも本当につくりたいものをつくっていきたいと思っています。
 

確かに今は日本的なオルタナとロンドンやニューヨークの音楽性を合わせたかんじの音楽をやりたいと思っているかもしれない。でも、音楽の好みも服の好みもそのときそのときで結構変わるので、そのときの気分でやりたいことをやっていきたいと思います。 もちろん海外でもツアーをやりたいと思っています!!




Music Tribune:  それでは、最後の質問となります。ツアーを終えたばかりですが、バンドの今後の活動予定について、簡単に教えてください。また、イベントやライブの予定があれば、教えてください!!



SAGO:   

 

・2023/11/24(金) at 下北沢SPREAD

Ido Kyo pre "NEW KIDS”

 

・2023/11/28(火) at 新代田FEVER


“QUASI Japan Tour 2023”

・2023/12/23 (sat) at 新代田FEVER


Fennel presents ''MELTY WALTZ''


 

インタビューにお答えいただき、厚く御礼申し上げます。さらなる活躍に期待しております。

 

 


(Music Tribune  10月19日)

 


ブライトンのシンガー、メイジー・ピーターズが新しいデラックス・アルバムをリリースした。下記より曲を視聴してみて下さい。アーティストは今年3月に来日公演を行っている。イギリスのメディア、DORKがイチオシするシンガー。


彼女のセカンド・アルバム「The Good Witch」のエクステンデッド・エディションには、6曲の新曲が収録されている。


メイジー・ピーターズは次のように語っています。「『The Good Witch』の制作は、私の人生で最もマジカルな体験のひとつで、このアルバムにはまだ人生があると最初からわかっていた。『You Signed Up For This』と『The Good Witch』は私にとって姉妹盤のようなもので、年齢も曲調も違うけれど、この2枚を書いた時の私自身によって永遠に絡み合っている。この1年を締めくくるにふさわしい、そして私が語ることのできなかったお気に入りの物語への扉を開くために、私はあなたたちにそれらを贈りたいと思いました」

©Beth Garrabrant

テイラー・スウィフトが、5枚目のスタジオ・アルバム『1989』を再録した『1989 (Taylor's Version)』をリリースした。8月9日(通称8/9)にカリフォルニア州イングルウッドのSoFiスタジアムで行われたコンサートで発表された。


アルバム『1989』は私の人生を数え切れないほど変えてくれました。その私のバージョンが10月27日にリリースされることを発表できて、興奮でいっぱいです」と、スウィフトはアルバムを発表するソーシャルメディアの投稿に書いている。

 

「正直に言うと、このアルバムは今までで一番好きな再レコーディングなんだ。だって、From The Vaultの5曲はとてもクレイジーだから」

 

そして、彼女は「From The Vault」の曲名を明かした。"Slut!(スウィフト、ジャック・アントノフ、パトリック・バーガーが書いた)、「Say Don't Go」(ダイアン・ウォーレンと書いた)、「Now That We Don't Talk」、「Suburban Legends」、「Is It Over Now?」


1989 (Taylor's Version)』は、2021年にリリースされた『Red (Taylor's Version)』と『Fearless (Taylor's Version)』、今年初めにリリースされた『Speak Now (Taylor's Version)』に続く作品となる。

 

©︎Kevin Estrada

L.S.DUNESがニューシングル「Old Wounds (DEMO)」をリリースした。


彼らの新譜「Lines and Shapes」からのトラック。ギタリストのフランク・イエロ(マイ・ケミカル・ロマンス)、ギタリストのトラヴィス・ステヴァー(コヒード・アンド・カンブリア)、ヴォーカリストのアンソニー・グリーン(サーカ・サヴァイヴ)、ベーシストのティム・ペイン(木曜)、ドラマーのタッカー・ルール(木曜/イエローカード)を擁するスーパーグループのデビュー・アルバム「Past Lives」からの曲の初期バージョンが収録され、11月10日にリリースされる。


フランク・イエロのコメントL.S.デューンズの最新作『Lines and Shapes』は、デビュー作『Past Lives』から1周年を記念する最高の作品だ。これは、アルバムがどのように生まれたかの青写真なんだ。私たちがこの旅を始めてから、それぞれの勝利の終わりを迎えるまでの、それぞれの曲の輝き。

 

「『Lines and Shapes』は、私たちがバンドとして歩んできた道と同じ道をリスナーを案内してくれるだろう。私たちがどのように遠くから一緒に創り上げていったのか、耳を傾けてみてほしい。デジタルのパンくずを行き来させ、クラウドで来るべきもののための基礎を築き、そして最終的に、それらの構造が決定的な形で構築される。『Lines and Shapes』は、パスト・ライヴスの周年記念を祝うだけでなく、曲作りの技術や、バンドで活動することの意味する様々なダイナミズムを表現している。それは、私がこれまで愛し、それがどのようにして生まれたのか不思議に思っていたすべてのレコードについて経験することができればよかったと思うことについて」