Womboは2016年頃から活動しているケンタッキー州ルイヴィルのロックバンド。先週末にニューアルバム『Danger In Five』をリリースしたウォンボはトリオ編成で、アルトロックバンドとして真を穿ったサウンドを誇る。表向きにはパンクの音楽性は希薄だが、ポストハードコアのようなサウンドを通過したロックソングを提供する。これはまさしく、ルイヴィルが80~90年代を通して、アートロックやプログレッシヴロックの名産地で有り続けてきたことを印象づける。
基本的には、『Danger In Fives』はマスロックのような数学的な変拍子を基調としたアルバムである。マスロックとは、二つ以上の異なるリズムを織り交ぜたポリリズムのロックのことを意味し、広義においては、転調や変拍子を強調するロックサウンドのことを言う場合もある。しかしながら、今作は単にスノビズムをひけらかす内容ではない。このバンドの音楽に、ポップネスをもたらしているのが、ベース/ボーカルのシドニー・チャッドウィックのアンニュイなボーカルであるが、最近流行するシューゲイズやドリームポップのアウトプットとは明確に異なる。2000年代のレディオヘッドのトム・ヨーク、Portisheadのベス・ギボンズ、Cocteau Twinsのエリザベス・フレイザーをかけ合わせたような特異なボーカルであり、現実空間と幻想的な空間の間を揺らめくようなニュアンスをもたらす。また、上記のボーカリストがそうであるように、器楽的な音階を強調するボーカルであり、器楽的なニュアンスをアンサンブルに及ぼす。
『Danger In Fives』は入念に作り込んだサウンドが特色だ。それらはミニマル音楽を通過したロックソングという点では、ニューヨークのFrankie Cosmosのソングライティングに近い印象を抱く。しかし、同時に、ボーカルとギターがユニゾンしたり、ポリリズムがリズムの中に取り入れられたり、全体的なアンサンブルの中でベースの演奏が優位になり、90年代初頭の最初期のグランジやメタルのようなヘヴィーなウェイトを占めるとき、Womboのオリジナリティの高い魅惑的なサウンドが表面に出てくる。それらは全般的には、Radiohead『Kid A』のエレクトリックサウンドとロックの融合を基本にして、Portishead、Trickyのトリップホップを織り交ぜ、最終的にそれらをルイヴィルのアートロック/マスロックで濾過したような特異なサウンドである。ややもすると、複雑なサウンドを想像するかもしれないが、実際の音楽性は難解ではない。楽曲の作りがシンプルで、盛り上がってきたところで曲をスパッと切り上げる。それが全11曲、30分後半という端的な構成に表れている。Womboの曲はまったく演出がかっていないのが良い。グリム童話やアンデルセンの童話からの影響があり、幻想的な興趣を添えているが、実際的にそれは彼らのいる現実とどこかで繋がっている。基本的には、リアリズムの音楽でもある。
こういった点を踏まえた上で、注目すべき曲が幾つかある。オープナーを飾る「Danger In Five」は、このアルバムの方向性を理解する上で不可欠な楽曲である。グランジ風のベース進行の中でドリームポップ風のアンニュイなボーカルがこのアルバムをリードしている。この曲は、ボーカルの性別こそ異なるものの、Interpolのような独特な哀愁を作風の基底に添えている。また、ルイヴィルのバンドらしい不協和音やクロマティックスケールが登場する。「S.T. Titled」はRodanの不協和音を強調したパンクのエッセンスを吸収し、独特な楽曲に仕上げている。この曲ではドラムやベースの生み出すリズムと呼応しながら、ギターが即興演奏のようにプレイされる。ロックソングの不協和音という要素を押し出した、面白いトラックとなっている。
ただ、このアルバムの場合は、それらの不協和音の中で、調和的な旋律を描くボーカルが魅力的である。それらはやはり、トリップホップのようなUK/ブリストルのサウンドを彷彿とさせる。「A Dog Says」などを聞けば、このバンドの特異なサウンドを掴むことができるのではないか。
古典的な童話をモチーフにした幻想的な音楽性は、短いインタリュード「Really melancholy and There Are No Words」で聴くことができる。また、続く「Spyhopping」においても、彼らの織りなす独特なワンダーワールドを垣間見ることが可能である。さらに、アルバムの終盤のハイライト曲「Common Things」は素晴らしく、ピクシーズの「Trompe le Monde」の時期のアルトロックソングの形式を継承している。ギターソロは、Weezerのリバース・クオモのプレイを彷彿とさせる。しかし、これらは、Womboの手にかかるやいなや、独特なメランコリアを放ち、癒やしの雰囲気を持つオルタナティヴロックのスタイルへと変貌する。アルバムのクローズ「Garden Spies」はマスロックのマニア性を吸収し、雰囲気を満ちたエンディングを形成している。アートロックという側面でマニアックな作風であるが、聞き逃し厳禁のアルバムでもある。
84/100
「Common Things」
シカゴの作曲家/ヴォーカリスト/ギタリスト/詩人、Hannah Frances(ハンナ・フランシス)がニューアルバム『Nested in Tangles』を発表した。ニューアルバムは10月10日にFire Talkからリリースされる。
ハンナ・フランシスは、この個性的な作品群によって、個人の真実と自己実現にコミットした、反乱的で感情的な明晰さを持つアーティストとしての地位を確固たるものにした。『 Nested in Tangles』は、プログレッシブ・ロック、アヴァン・フォーク、ジャズの領域にまたがっているが、フランシスの特徴であるヴォーカルの跳躍とパーカッシブでポリリズムなフィンガーピッキングによって、全編を支えている。
フランシスは絶賛されたアルバム『Keeper of the Shepherd』の完成直後、2023年から2024年にかけて『Nested in Tangles』を書き上げた。 『Nested in Tangles』でフランシスは、家族の疎遠、感情的なトラウマ、彼女自身の信頼感の深まりといった複雑な物語を、複雑で目まぐるしくスケールの大きな楽曲群を通して語っている。
長年のコラボレーターであるケヴィン・コープランドとともに、フランシスはグリズリー・ベアのダニエル・ロッセンをプロデュースと2曲のアレンジに迎え、友人たちにホーン、管楽器、弦楽器のアレンジを依頼した。 現代のアヴァンギャルド・クラシック作曲家や70年代のプログレッシブ・ロックなど、幅広い音楽的影響から生まれた『Nested in Tangles』は、そのダイナミクスと作曲上の回り道で驚きを与えてくれる。
ハンナ・フランシスはこの秋、『Nested in Tangles』を引っ提げ、ブルックリン、フィラデルフィア、ワシントンDCを含む全米ヘッドライナー・ツアーを行う。
フランシスのヘッドライナー公演は、今週日曜日のGreen Man Festivalを皮切りに、ロンドン、マンチェスター、グラスゴーなどで行われる。 その後、フランシスはフローリストと共にベルリン、パリ、そしてその他の都市で公演を行なう。 この冬の終わりには、ロサンゼルス、サンフランシスコなど西海岸でフォックスウォーレンのサポートを務める。
「Surviving You」
Hannah Frances 『Nested in Tangles』
Label: Fire Talk
Release: 2025年10月10日
Tracklist:
1.Nested in Tangles
2.Life's Work
3.Falling From and Further
4.Beholden To
5.Steady in the Hand
6.A Body, A Map
7.Surviving You 05:34
8.The Space Between Ft. Daniel Rossen
9.Heavy Light
アイルランドのロックバンド、Just Mustardが3rdアルバム『WE WERE JUST HERE』のリリースを発表した。同作は10月24日にPartisan Recordsより発売されます。
ロサンゼルスを拠点に活動するメリーナ・ドゥテルテのプロジェクト、Jay Somが、近日リリース予定のアルバム『Belong』からのセカンド・シングル「Cards On The Table」を発表した。
「Cards On The Table」は、魅惑的なエレクトロニック・フラリッシュ、穏やかなフック、そして歪んだヴォーカル(ミニ・トゥリーズのレクシー・ヴェガが参加)が、テッセレーションされたドラムマシンとシンセサイザーの上を流れ落ちるエレクトロニック・ポップの優しさと明解さに満ちたスライスである。 この曲は、アルバムのリードシングル「Float (feat. Jim Adkins)」、コンプリメンタリーリリース「A Million Reasons Why」に続く作品となる。
ドゥテルテはこの曲についてこう語っている。
『Cards On The Table』は『Belong』で一番好きな曲だ! この曲は、友人関係の移り変わりと、プラトニックな関係において、お互いが誤解していると感じたときに、対立がいかに破滅的なものになり得るかについて歌っている。
キャリーは、ニューミュージックアワードのAC/Hot AC Breakthrough Artist of 2025や、インディペンデント・ミュージック・ネットワークのEntertainer of the Year in 2025などの賞賛を獲得し、インディペンデント音楽シーンで傑出した存在となっている。
ウエストコースト・ポップ・カントリー」と形容される彼女の音楽は、アップビートで親しみやすく、感情に響く。 「Land with You」や「Good Bad Girl」といったキャリーのシングルはラジオ・チャートの上位にランクインし、その力づけるメッセージとダンサブルなメロディーが賞賛されている1。
Eileen Carey is an award-winning country-pop singer-songwriter based in Altadena, California. Known for her infectious optimism and genre-blending sound, Carey has become a standout figure in the independent music scene, earning accolades such as the New Music Awards’ AC/Hot AC Breakthrough Artist of 2025 and the Independent Music Network’s Entertainer of the Year in 2025.
Her music, described as “West Coast Pop-Country”, is upbeat, accessible, and emotionally resonant. Carey’s singles like “Land with You” and “Good Bad Girl” have topped radio charts and earned praise for their empowering messages and danceable melodies1.
A dynamic live performer, Carey has shared stages with legends including Don McLean, Rita Coolidge, Jefferson Starship, and The Motels, captivating audiences with her “Gretchen Wilson-meets-Miranda Lambert” stage presence. Her shows are known for turning passive listeners into active participants, with line dancing, singalongs, and standing ovations.
Her new single "Carry Me Away" is all about finding that special place to escape and be in the magic of living in the moment. The seductive upbeat pop-country song also narrates finding a space to make those important changes needed in life. She sings, "I feel like taking chances / I feel brand new / Can't lose." The song features Eileen's soul-drenched and honeyed vocals singing an anthemic chorus over layered guitars and lush rhythms for an enticing listen.
Beyond music, Carey is a beauty ambassador for Joe Blasco Cosmetics, reflecting her commitment to self-expression and empowerment. She’s also the founder of The Music Mom blog, where she shares insights on motherhood, wellness, and creativity.
With over 25 career awards, performances at nearly 80 notable venues and a growing international fanbase, Eileen Carey continues to light up the music industry with her authenticity, positivity, and undeniable talent.
「Rage」は2000年代のUSインディーズロックの時代に回帰したような楽曲だ。このジャンルのファンの心を捉えるであろうと予測される。 Saves The Day、Third Eye Blind、Motion City Soundtrackを彷彿とさせるインディーズロックのリバイバルの楽曲である。全般的なロックの方向性の中で、エモの性質が垣間見えることがある。その中で、エレクトロパンクとエモやパワーポップを融合させた切ないフレーズが骨太のロックソングに内在するという点に注目すべきだ。彼らのロックサウンドは基本的にはインディーズ贔屓であり、USインディーズという概念を実際的なサウンドを介して復刻するような内容である。さらに、''チップチューンの先駆者''を自称するアナマグチであるが、今作では、1990年代のグランジ、ミクスチャーロック、オルタナティヴロックのテイストを吸収し、かなり際どいサウンドにも挑戦していることが分かる。
「Magnet」はアメリカのロックミュージックの多彩さがパワフルに反映されている。彼らのサウンドはメタリックにもなり、パンキッシュにもなり、スタンダードなロックにもなる。曲の中で熱帯雨林の生物のように変色し、セクションごとにまったく別の音楽を聴くような楽しさに満ちあふれている。そして全般的には、1990年代のRage Against The Machineの主要曲を彷彿とさせるミクスチャー・ロックのリズムがベースになっているが、その中には、Pixies、Weezer、Radioheadのようなオルタネイトなベース/ギターが炸裂し、クロマティック・スケールを最大限に活用したクールなロックサウンドが前面に押し出され、オルタナファンをノックアウトする。
「Lieday」は、The Gamitsのような2000年代初頭の良質なメロディックパンクサウンドに縁取られている。しかし、こういった曲は、さほど古びておらず、いまだにそれなりの効力を持っているのだ。ただ、アナマナグチの特色はベースメントのパンクサウンドの要素を押し出し、チップチューンのようなサウンドを疾走感のあるパンクソングに散りばめている。アナマナグチのサウンドの運び方は秀逸であり、飽きさせないための工夫が凝らされている。曲の後半のチャントは、1990年代以前のシカゴのエモコア勢に対する愛に満ち溢れている。結局、リバイバルエモへと受け継がれたチャント的なコーラスが、この曲のハイライトになるだろう。その後、商業的なポップパンクソング「Come For Us」では、Get Up Kidsの音楽性を踏襲し、エモパンクのお手本を見せている。「Buckwild」は最近のエモラップへの返答ともいうべき楽曲だ。
『Anyway』は、こういったエモ/パンクがアルバムの音楽性の中核部を担っている。一方で、チップチューンを織り交ぜたシンセの近未来的なサウンドが入る時、アナマグチの魅力が顕わとなる。「Sapphire」では、スペーシーなシンセがポップパンク/メロデイックパンクの要素と結びつき、ポップパンクのポスト時代の台頭を予見している。これらはどちらかと言えば、The Offspring、Sum 41のような骨太なロックやメタルの延長線上にあるパンクソングという形でキッズの心を捉えそう。ただ、アナマナグチの多趣味は、ロック/パンクの領域を超える瞬間もある。「Valley Of Silence」はニューヨークのエレクトロポップシーンと共鳴する楽曲である。Porches、Nation of Languageのサウンドを彷彿とさせる清涼感のあるポップソングのフレーズは、アルバムの全体的なノイジーなロックサウンドの中にあるオアシスのような意味をもたらす。
ただ、全般的には、Reggie And The Full Effectとポップパンクを結びつけたような個性的なサウンドがアルバムの中枢を担っている。「Fall Away」では、Fall Out Boyのような、やんちゃなパンクスピリットを反映させているが、同じようにスペーシーなシンセサイザーが独特なテイストを添えている。また、楽曲のBPMを下げて、テンポを緩めて、リズムがゆったりすると、彼らのメロディセンスの良さが表側に引き出されて、Weezer、The Rentals、Fountains of Wayneのような甘酸っぱいパワーポップ/ジャングルポップに接近する。「Darcie」は最も親しみやすい曲として楽しめるはず。また、アルバムの終盤でも、荒削りではあるけれども、良いバイブレーションを放つパンク/ロックソングが収録されているため、聴き逃さないようにしていただきたい。
「Really Like to」は、Fall Out Boyのようなシカゴの代名詞への尊敬の念が感じられる。その他、ベテランのバンドらしからぬ鮮烈な勢いを収めた「Nightlife」はアナマナグチの重要な音のダイアログの一つ。多彩なパンクロックを収録したユニークなアルバムがポリヴァイナルから登場。