Lies
 


マイク・キンセラと従兄弟のネイト・キンセラによるエレクトロニックデュオ、Liesの来日公演が決定しました。デュオは5月18日にspotify O-EASTでtoeとのツーマンライブを行う。詳細はHPより。


American Footballのメンバーであるマイク・キンセラとネイト・キンセラによる新プロジェクトLIEStoeの2マン公演が決定。

 

昨年よりシングルを立て続けに発表し、満を持して先日アルバムをPolyvinylからリリースしたばかりのLIES

 

Cap’n JazzOWLSそしてAmerican FootballとソロプロジェクトOwenとして活動するマイク・キンセラと元Make Believe、ソロプロジェクトBirthmarkもちろん再結成後のAmerican Footballには欠かせないマルチな才人、ネイト・キンセラによる新プロジェクト。


LIES×toe   5月18日(木)





・OPEN  18:30


・START 19:30


・ADV ¥5,800(ご入場時ドリンク代別途600円)


 ・LINE UP


LIES from American Football / Owentoe 


・TICKET


【先行発売】


4
8() 12:00417() 21:00

【一般発売】


4
21() 18:00


イープラス:https://eplus.jp/lies_toe/



・INFORMATION


キュレーション / 協力:Katoman / dotlinecircle

問い合わせ:03-5458-4681 O-EAST / east@shibuya-o.com


 



メタリカは金曜日に発売されるアルバム『72 Seasons』の発売に先駆けて、Jimmy Kimmel Liveに出演し、毎晩ライブを行う予定です。ライブパフォーマンスの前に、メタリカの4人のメンバー全員がJimmy Kimmelと一緒に座った。


メタリカの80年代の代表曲でもありスラッシュメタルの稀代の名曲でもある「Master Of Puppets」は昨年の映画『Stranger Things』のバイラルヒットとなったために当然ながらトークのなかで話題にのぼった。James Hetfieldは、「実はストレンジャー・シングスのためにあの曲を書いたんだ、1980年頃だったかな? こうなることは分かっていたんだ」とジョークを交えて語った。

 

さらに、インタビューの中で、ジェイムス・ヘットフィールドはマーチングバンドの大会や、バージニア工科大学が「Enter Sandman」を公式ソングとして採用したことについても少し話した。


「自分たちが演奏し、自分たちがやっていることが好きで、それを誰かが受け止めて、自分たちのセンスで表現して、自分たちのチームの演奏のために観客全体を盛り上げるという事実は二重にクールなんだ」


また、司会のJimmy Kimmelは4人に初めて買ったアルバムを列挙させた。ラーズ:ディープ・パープルの『ファイアーボール』。ジェームス: レナード・スキナードのアルバム。ロバート:サンタナの『アブラクサス』。カーク:パートリッジ・ファミリーのクリスマス・アルバム。


今週の最初のパフォーマンスでは『72 Seasons』のファーストシングル「Lux Æterna」を演奏しました。演奏とインタビューの模様は以下からご覧ください。




 Wednesday『Rat Saw God』

 


Label: Dead Oceans

Release: 2023年4月7日


Review


Dead Oceansより発売された『Rat Saw God』は、先週のオルタナティヴロックの話題作の一つであり、バンドの飛翔作といってもおかしくないアルバムである。


本作はアッシュビルのDrop of Sunというスタジオで一週間掛けて制作された。個性的なアートワークについては中世ヨーロッパの宗教画を彷彿とさせるが、これには意図が込められており、バンドのギタリスト/ボーカリストのカーリー・ハーツマンがストーリーコレクターであること、そして、この作品自体が短編小説、断片的な記憶、米国南部の肖像を交えた内容として制作されたことによる。これは美と醜が共生するハーツマンのの記憶をより強化するデザインとなっているのである。

 

またプレスリリースによると、『Rat Saw God」はハーツマンの若い時代のことが詳細に描かれているという。それは例えば、以下のような記憶である。Ipad NanoでMBVを聞きながら、グリーンズボロ郊外を自転車で走り、そして壊れたガラス、コンドームが散乱する近所に流れる小川、葛で埋め立てられた寂しく交配した家を通り過ぎた若い時代の記憶、それらの思い出を丹念にたどり、Wednesdayはハリのあるインディーロック作品として仕上げた。これは、テーマ的には、カナダの作家アリス・マンローのように個人的な記憶を交えた自伝的な一作と呼べるのだが、そこには奇妙な皮肉や冷笑のようなニュアンスも含まれている。それはおそらく音楽家にとって、そういった穿ったような視点を交えないでいると、鋭い感覚を持つ人々はみなが同じことではあるのだが、それらの記憶を自分の回りにごく自然に存在するものであると認めることは難しかったのだろう。自伝的な記憶の奥底にうごめく午後のうららかな光のような麗しさと生々しく猥雑な日常空間の重なり合いは、感覚の鋭いハーツマンにとっては、ほとんど混沌とも呼べるものであったと思われる。そして、それらの細やかな個人的な記憶は、ときに奇妙なトラウマや心の息苦しさなど、明るい側面と奇妙な暗さが複雑に渦巻いたような感覚の異質さが複雑に織り交ぜられている。それはあまりに表向きのサウンドとは異なり、その核心にある感覚はほとんど煩雑とも呼ぶべきものである。ロックという形以外ではなかなか共有しえない何かがある、だからこそ、彼らはこのアルバムを制作する必要に駆られたのだと思うのである。

 

表向きには、プレスリリースの通りで、MBVのような分厚いファズ/ディストーションがこのアルバム、あるいはバンドの象徴的なサウンドと化している。 そして、知るかぎりでは昨年のアルバムや21年の「Twin Plagues」のシューゲイズサウンドの延長線上にあるように感じられる。ところが、今作は、単なる青春の雰囲気を前面に突き出した前作とはまったく異なる雰囲気に彩られていることに気づく。それはときに醜く、シニカルで、冷笑的な感覚が前面に押し出されている。


ただ、これらのオルタナティヴロックサウンドの中に救いがないかと言えば、そうではあるまい。米国南部の緩やかな感覚を留めるカントリー・ミュージック等ではお馴染みのペダル・スティールは、これらのときにシリアスの傾きすぎる向きのあるロックサウンドに、ちょっとしたスパイスとおかしみを交えている。これがこのアルバム自体をそれほどシリアスにせず、聞きやすくしている要因でもある。そのことは、オープニングトラックを飾る「Hot Rotten Grass Smell」に最もよく反映されている。ここに、20年代のオルタナティヴと90年代のオルタナティヴを絶えず往来するかのような特異なサウンドが生み出されることになったのだ。

 

アルバムの収録曲はその後、シューゲイズを彷彿とさせるディストーションサウンドと、例えば、テキサスからニューヨークに拠点を移したWhy Bonnieのようなソフトなインディーフォーク性を上手く絡めながら、パワフルなロック・ミュージックという形で展開される。ただ、それは前作よりも遥かに感覚的であり、これらのギターサウンドとベースラインは、記憶を織り交ぜて感覚的な爆発をしたかのようなエネルギッシュでパワフルなサウンドが続く。「Got Shocked」は、現代的なロックの王道を行くナンバーであるが、そこには上記のWhy Bonnieのように南部的な幻想性に満ちあふれている。そして、そのロマンチズムはディストーションサウンドの蜃気楼の向こうに奇妙な形で浮かび上がってくる。激しい幻惑的なロックサウンドに耳を澄ましていると、その奥底には非常に繊細なエモーションが漂っていることが分かる。これがこの曲を聴いていると、何かしら琴線に触れるものがあり、心を揺さぶられる理由なのだろう。

 

アルバムの中盤では、「Bath Country」を始めとする内省的なオルト・フォークと、バンドの今後のライブのアンセムともなりそうな「Chosen To Derserve」を始めとする明るく外交的なロックバンガーが折り重なるようにしている。これらの一筋縄ではいかない、多重性のあるロックサウンドが感覚的なグルーヴのように緻密に折り連なっている。それらは、美しいもの、醜いものに接したときの原初的な気持ちと綿密にオーバーラップしあいながら、構成力の高いロックサウンドという形で組み上げられ、ひとつの音楽のストーリーが完成されていく。Wednesdayのロックとは別の側面を表すオルト・フォーク/オルト・カントリーの魅力は、終盤に収録されている#8「Turkey Vulture」で花開くことになる。ゆったりしたリズムから性急なリズムへと変化させることで、未知の世界へのワクワクした気持ちや期待感を表現しているように思える。さらにローファイとオルト・フォークを融合させた#9「What's So Funny」は、現代のオルトロックファンの期待に十分応える内容となるはずである。また、この曲には少しジャズの要素が込められていて、これまでのバンドのイメージとは相異なるムーディーなナンバーとして楽しめる。

 

また、アルバムの最後を飾る「TV In The Gus Pump」では、Big Thiefの音楽性に触発されたモダンなオルトフォーク/オルトロックの境地を開拓してみせている。現時点で、ストーリーテリングの要素を今作で導入したことからも分かる通り、Wednesdayはシューゲイズサウンドとオルトフォークサウンドをどのような形で新しく組み上げるのかを模索している最中という印象がある。


『Rat Saw God』はWodnesdayの次なるチャレンジを刻印したものであり、試行錯誤の過程にある意欲作と呼べるかもしれない。おそらくWednesdayのキャリアの中で変革期に当たるようなアルバムに位置づけられるものであるため、バンドのバックカタログと聞き比べて、以前とどのように変化したのかを考えながら、音楽性の変化の一端に触れてみるのも面白いかもしれない。

 


80/100

 

 

Featured Track 「What's So Funny」

 



LAを拠点に活動するティーンネイジャーパンクバンド、ザ・リンダ・リンダズは、図書館でのバイラルなパフォーマンスで、ロック界の多くの人々の心を掴み、注目を集めました。

 

昨年、ロサンゼルスを拠点に活動する4人組は、デビューアルバム『Growing Up』をリリース、さらにサマーソニックで来日公演を行っている。

 

昨日の4月10日、ザ・リンダ・リンダズは2023年最初のシングル「Too Many Things」を公開しました。ロックな新曲は、今週土曜日のコーチェラへの出演に先駆けて発表。下記よりチェックしてみてください。


「Too Many Things」

 


テクノミュージック、ダンス・エレクトロニックミュージックを手掛けているDJ・プロデューサー、Avalon Emerson(アヴァロン・エマーソン)は、『Avalon Emerson & The Charm』の最新プレビューとなる「Karaoke Song」をリリースしました。

 

 Avalon Emerson & The Charmは、EmersonがツアーDJとしての活動から長期休暇を取った際に誕生したプロジェクト。ダンスミュージック好きで知られる彼女ですが、アルバムにはArthur Russell、Oppenheimer Analysis、Cocteau Twins、The Magnetic Fieldsなど、ポップスからの影響もあるのだそう。

 

リード・シングル「Hot Evening」に続くこの曲は、Bullionと共同制作されたものです。以下、チェックしてみてください。


"親密さ "とは、大枚をはたいた弱さだけでなく、2人の間の葉っぱやほこりの小さな欠片を吹き飛ばす風でもある。それがなくなるまで本当に気づかない。まだその本を読んでいるのですか? 誕生日に何かするつもり? 今年は土曜だけど。犬のしつけはどうなっている?


「カラオケソング」は、そんな小さなものたちが住んでいた隙間を埋めてくれる、不思議でならない何かなのです。

 

セルフタイトルのデビュー作は、彼女の新しいレーベル”Another Dove”から4月28日にリリースされる予定です。

 

「Karaoke Song」

Jenny Owen Youngs
 

ニュージャージー出身の音楽家であるJenny Owen Youngsは、新作アルバム「from the forest floor」を発表しました。この12曲入りアルバムは5月5日にOFFAIR Recordsからリリースされます。

 

ニュージャージー州北部の森で育ったジェニー・オーウェン・ヤングスは、現在メイン州の沿岸部に住んでおり、他のアーティストと共同で執筆したり、ポッドキャストを作ったり、次のレコードの制作に多くの時間を費やしています。彼女の曲はBojack Horseman、Weeds、Suburgatory、Switched at Birthなどに登場する。

 

現在、アルバムの収録曲のみが公開となっています。リリースの発表と併せてジェニー・ヤングスはモダンクラシカル/ピアノアンビエントの系譜にある涼やかで自然味溢れる「sunrise mtn」を公開しました。(ストリーミングはこちら

 

「この曲は、北ジャージーのキタティニー山脈にある、アパラチアン・トレイル沿いのストークス州立森林公園にあるピークの名前です」と、ジェニー・ヤングスは声明で説明している。

 

頂上に立つと、ニュージャージー、ペンシルバニア、ニューヨークが眼下に広がり、太陽が昇るのを見るのによく使われる場所です。

 

この作品は、水平線の向こうからやってくる新しい明日に向かって、顔を上げ、外を見るように誘っているのです。ジョン・マーク・ネルソンとこの作品(そしてアルバム全体)で一緒に仕事ができたことは、多くの理由からとても嬉しいことでした。


「sunrise mtn」


 

 

『from the forest floor』

 

Tracklist:


1. sunrise mtn [feat. John Mark Nelson]


2. dove island [feat. John Mark Nelson]


3. skylands [feat. John Mark Nelson]


4. tannery falls [feat. John Mark Nelson]


5. ambrosia [feat. John Mark Nelson & Hrishikesh Hirway]


6. hemlock shade [feat. John Mark Nelson]


7. dusk [feat. John Mark Nelson & Tancred]


8. night-blooming [feat. John Mark Nelson]


9. forager in the fern grove [feat. John Mark Nelson & Tancred]


10. moon moth [feat. John Mark Nelson & Tancred]


11. echolocation [feat. John Mark Nelson]


12. blue hour [feat. John Mark Nelson]

 

Origami Angel


ワシントンDCのエモコア・デュオ、Origami Angelは、ニューシングル「Thank You, New Jersey」をリリースしました。同時にBob Sweeneyが監督したビデオを公開。オリガミ・エンジェルはデュオの構成ではありながら、ライブのパワフルさに定評があり、今最もホットなパンクデュオの一つ。

 

昨年に続いて発表されたこのニューシングルは、来週から始まるライブフェス、ピンクシフト、スウィートピルのUSヘッドライナー・ツアーに先駆けて公開された。この曲は下記よりご覧いただけます。


Origami Angelは昨年、2作のEP、『re: turn』『Depart』をサプライズ・リリースしています。

 

「Thank You,New Jersey」

 

MBV

 

オリジナルと呼ばれる何かを生み出すために遠回りを避けることはできません。オリジナルが生み出される瞬間とは、それ以前に数々の試行錯誤を経た後、最初の原型のようなものが出来上がる。もちろん、アイルランドのケヴィン・シールズは、ギターサウンドに変革をもたらすため、音作りに気の遠くなるような時間を掛けたと思われます。シューゲイズのギターの音作りや機材、エフェクターに関する詳細については、ギター・マガジンをはじめとする専門誌のバックナンバーを紐解いてもらうのが最善でしょう。このミュージックコラムでは、シューゲイザーの先駆者であるMBVがどのような変遷を経て、オルタナティヴロックの金字塔を打ち立てたのか考察していきたいと思います。以下のサウンドの変遷の系譜を見ると、気の遠くなる様な数の音楽性やギターサウンドの試行錯誤を経た後にようやくMBVの代名詞となるギターロックサウンドが確立されたことが分かるはずです。

 

そもそも、アイルランドのマイ・ブラッディ・ヴァレンタインは、どちらかと言えば、現在のポスト・パンクに近いアンダーグランドのシーンから登場しました。無論、バンドは最初から90年代のシューゲイズサウンドを確立していたわけではないのです。昨今では、Fontaines D.C、Inhaler,Murder Capitalなど個性的で魅力溢れるバンドが数多く輩出されるアイルランドのシーンではあるものの、80年代にはまだアイルランドには現在のような音楽のコミューンは存在しなかった。このエピソードを裏付けるものとして一般的に知られていないエピソードを以下にご紹介します。

 

アイルランドのMy Bloody Valentineは、デビュー当初、大きな市場規模を持つイギリスのミュージックシーンではなく、ベルリンの壁崩壊前の西ドイツのインディーズレーベルからデビューしています。彼らの1984年のデビュー作『This Is Your Bloody Valentine』(残念ながらサブスクリプションでは視聴できない)リリースを行ったドイツのレーベル”Dossier”では、複数のアートパンク/ニューウェイブのバンドのリリースを行っており、その中には、イギリスのアートパンクシーンの伝説的な存在であるChrome、そして、さらにマニアックなところでは、Vanishing Heat,Deleriumが所属していました。つまり、表向きにはあまり知られていないことなんですが、My Bloody Valentineはロック・バンドというよりも、そのルーツの出発点には、ポストパンク/アートパンクがあるといっても過言ではないのです。なぜ、こんなことを言うのかというと、91年の『Loveless』だけをこのバンドのキャラクターであると考えると、実際の音楽性を見誤り、間違ったイメージが定着する可能性があるからです。さらにシューゲイズという音楽はシンプルに出来上がったとは言い難いものがあるのです。


また、なぜ、My Bloody Valentineがイギリスではなくドイツからデビューしたのかについては、憶測にすぎませんが、それ以前の70年代からクラウドロックをはじめとする前衛的な音楽を許容するミュージックシーンがドイツに存在したことと、また80年代はどちらかといえば、アイルランドではなくスコットランドのミュージックシーンにイギリスの主要なインディーズレーベルの注目が集まっていたからなのではないかと思われます。特に、この年代には、フォーク・ミュージックとロックを融合させたネオ・アコースティック、ギターポップがスコットランドで隆盛をきわめていたからなのかもしれません。特に、サブスクリプションで聞きやすいところで言えば、88年から91年のレアトラックを集めたEPでは、このバンドの"クラブ・ミュージックとロックの融合"という表向きのイメージとは異なる荒削りでラウドなポストパンクバンドの性質を伺うことができるはずです。

 

そして、My Bloody Valentineが活動初期からシューゲイズと呼ばれるサウンドを作り出していたわけではないことは熱心なファンの間では既知のことでしょう。当初、どのようなバンドであったのかは、特に、フィジカル盤のみのリリースとなっているファースト・アルバム『This Is Your Bloody Valentine』を聴くと分かるはずです。アルバムのクレジットを見ると、西ドイツ時代のベルリンにあるスタジオで制作され、Dimitri HegemannとManfred Shiekがプロデュースを手掛けています。レコーディングでは、Kevin、Colm,Dave,Tinaという名前が見い出せますが、さらに、ケヴィン・シールズがボーカルを取り、ベースもケヴィンがレコーディングで弾いているところを見ると、この頃は彼のワンマンに近いバンドであるという印象が強い。そして、デビュー当時はケヴィン・シールズが多くの曲を歌っており、ツインボーカルになったのは2nd『Isn't anything』前後のこと。また、このデビュー作でMBVがどんな音楽をやっていたのかいうと、明らかにそれ以前に流行ったポスト・パンク/ニューウェイブを志向したサウンドに位置付けられ、また、ケヴィン・シールズのボーカルは、ジョイ・デイヴィジョンのイアン・カーティスやバウハウスのピーター・マーフィーを彷彿とさせるものがある。バンドサウンドについても、ゴシック・ロックとポスト・パンク/ノイズ・パンクの中間点にある特異な音楽性を探っています。この辺りには、数年前にデビューしたThe Cureの影響も見てとることができるかもしれません。

 

ただ、結成から一年後に発売されたデビュー・アルバムに関して、後の90年代のシューゲイズサウンドの萌芽が全く見られないかといえば、どうやらそういうわけではないようです。アルバムの最後に収録されている「The Last Supper(最後の晩餐)」は、『Loveless』の象徴的なサウンドの代名詞となる"陶酔的、甘美的"と称されるロマンティックなサウンドの出発点と捉えることが出来る。さらに、シューゲイズの象徴的なギターサウンド、つまりオーバードライブ/ファズとアナログディレイを複合させた抽象的な音作りに加えて、クラブミュージックサウンドの影響もわずかに留めています。


ただし、2ndアルバムに比べると、バンドのサウンドは、お世辞にも90年代のように洗練されているとはいえず、現在のロンドンのポストパンクパンドのようにプリミティヴです。さらに、ケヴィン・シールズのボーカルとシンセサイザーの掛け合いは、ロサンゼルスのロック詩人、ジム・モリソン率いるザ・ドアーズの音楽性のサイケデリアの影響を伺い知ることが出来るはずです。

 

「The Last Supper」

 

 

当初、イギリスを中心に一世を風靡したJoy Division、Bauhaus、The Cureのニューウェイブの範疇にあるポスト・パンク/ゴシックロックの音楽性を引き継いだ形で始まったMy Bloody Valentineのサウンドは、その後、80年代終わりにかけて、さらに大きな変貌を遂げていくことになります。セカンドアルバムでのドリーム・ポップに近い方向性も以前の年代と同じように、相当な音楽性における試行錯誤が重ねられた末に生み出されたのでしょう。この時代と並行するようにして、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインは、ファースト・アルバムの音楽性から完全に脱却し、スコットランドのグラスゴーで盛んだったネオ・アコースティック/ギターポップを、アイルランドのバンドとしてどのように組み直すのかという作業に専心していくようになるのです。

 

マイ・ブラッディ・ヴァレンタインは、80年代の終りに、最初のポスト・パンク/アートパンクの性質を踏襲した上で、スコットランドのThe Vaseline、The Pastelsのような牧歌的なネオ・アコースティックのバンド、また、JAPANのようなニュー・ロマンティックの影響を反映させた3曲収録のシングル「Strawberry Wine」をリリースしています。これらのサウンドには、エレクトリックギターの背後に薄くアコースティックギターをダビングするという後のシューゲイズサウンドのレコーディングの手法の始まりを見つけることが出来るかもしれません。シングルに収録されている三曲は、残念ながら主要なアルバムやEPに収録されておらず、また、サブスクリプションでも聴くことができません。ファンの間ではレア・トラックとして認知されているはずです。

 

「Strawberry Wine」

 

 

この後の年代になると、My Bloody Valentineは、メンバーを少しずつ入れ替えながら『Loveless』の初盤をリリースするイギリスのレーベル、クリエイションと契約を交わし、『Isn’t Anything』を88年にリリースし、オリジナルサウンドを確立するに至ります。この時代からよりサウンドの変更に拍車が掛かり、大幅にモデルチェンジを行うにしたがい、MBVの最初期を象徴する80年代のネオアコースティック/ギターポップサウンドはやや弱められていきます。




『Isn’t Anything』は、既に知られている通り、バンドのファンの中では隠れた名盤として知られるようになるアルバムではありますが、のちの90年代の象徴的なシューゲイズサウンドとは少し異なり、暗鬱なゴシックパンクと恍惚としたオルトロックを融合した前衛性を見出すことが出来ます。シューゲイズのクラブミュージック以外の特徴的なサウンドは、この作品でほとんど確立されたとかんがえても良いかもしれません。

 

「No More Sorry」

 

さらに、この90年前後から『Loveless』に見受けられるケヴィン・シールズのシューゲイズと呼ばれるギターサウンドと合わせて象徴的な意味を持つようになる、甘いメロディーを擁するボーカルの合致が、バンドの音楽性の謂わば屋台骨ともなっていきます。また、その後、バンドは同レーベルから90年代の不朽の名作『Loveless』をリリースし、シングル「Soon」を皮切りにし、初めて全英チャート入りを果たす。また、このアルバムは最初のヒット作となり、その後、長い時間をかけて、My Bloody ValentineはU2に次ぐアイルランドの象徴的なロックバンド(オルタナティブロックバンド)と見做されるようになりました。


さらに、シューゲイズ/オルタナティヴの金字塔とも呼ばれる『Loveless』のレコーディングにも逸話があり、販売元のクリエイションは、この世紀の傑作を生み出すため、レコーディング費用を掛けすぎ、後にレーベル会社として経営破綻することになったのです。以後、アイルランドのバンドの代表作である『Loveless』はオルタナ・ファンから長い間支持を得るように。しかし実のところ、この伝説的なサードアルバムは、レーベルのクリエイションとマイ・ブラッディ・バレンタインの双方の命運を賭けて録音制作された、いわば"背水の陣"とも例えるべき作品でもあったのです。

 

「When You Sleep」




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Meat Puppets

これまで風変わりなバンドやアーティストは数多く聴いてきたものの、Meat Puppetsほど変わったロック・バンドというのはあまり聴いたことがない。

 

ミート・パペッツは、アリゾナ出身のバンドで、当初はカート・カーウッド、クリス・カーウッドを中心にトリオとして80年に結成され、後に、五人組(現在は四人?)のバンドとなり、何度か解散しているが、現在も活動中である。近年では、KEXPでパフォーマンスを行っている。


もちろん、グランジ、ニルヴァーナ関連に詳しい方は、このバンドに対してカート・コバーンが入れ込んでいたことを知る人も少なくないかもしれない。他にも、コバーンは、シアトルのメルヴィンズに強い触発を受けているとも言われる。そして、いわゆるパンクとメタルの間の子としてのグランジ・ミュージックが誕生し、薄汚れたとか汚らしいというコバーン特有のファッションの表現が定着し、グランジという言葉が生み出されたのだった。そして、コバーンは、稀にボーカルのピッチがよれたような奇妙な歌い方をする場合がある。このスタイルは間違いなく、アリゾナのミート・パペッツのCurt Kirkwoodのボーカルに触発を受けていると思われる。

 

そして、実際、ニルヴァーナは91年の『Nevermind』、93年の「In Utero』で成功を収め、ロックスターとしての地位を手中に収めた。さらに、その年、自らのルーツを公にするようになった。ゲフィン・レコードが主宰する93年のMTV Unpluggedでは、一転してエレクトリックギターではなく、アコースティックギターでそれまで発表した作品を再構成し、パンクのラウド性だけが魅力のバンドではなく、静かに聴かせるバンドでもあることを対外的に示唆したのであった。そして、このアコースティック・ライブに、Meat Puppetsのギタリストのクリス・カークウッドが登場したため、パペッツも自ずとその名を広く認知されることになった。これはたぶんコバーンなりの配慮があって、アリゾナのバンドの音楽に深く触発を受けていることを周知し、改めてミート・パペッツに対するリスペクトを示そうとしたのではなかっただろうか。 

 

MTV Unplugged、1993 「Plateau」

 

 

ともあれ、Meat Puppetsは、80年代のUSハードコアパンクシーン、しかも相当マニアックなアンダーグラウンド界隈から出てきたバンドであることは間違いない。しかも、ミート・パペッツはこの後の時代にメジャーのアイランドレコードと契約し、このバンドにしては珍しく大衆的なロックソング「Backwater」を発表しているが、その出発点を辿ると、きわめてマニアックなバンドとして、Black Flagのグレッグ・ギンが主宰していたSST Recordsからデビューを果たしたのだった。

 

セルフタイトル『Meat Puppets』を聴くと分かる通り、ミート・パペッツは、ある側面では、スピードチューンを誇るハードコアバンドとして出発している。このファーストアルバムには若さゆえの無謀さや未知の可能性を詰め込み、それらをジャンク感満載のハードコアパンクとして無理やり押し込んだような音楽性が全体に通底している。ただ、その中にも米国南部のバンドとしてのルーツが含まれていた。つまり、それらが、グレイトフル・デッドのようなカルフォルニアのサイケデリック・ロック、そして、カントリー、ブルーグラス、そしてテキサス/メキシカンの南部のアメリカーナである。これらが渾然一体となったカオティックな音楽がミート・パペッツの他では求められない特性でもある。ファースト・アルバムに見られるようなすさまじい勢いと、その背後に漂うアリゾナの砂漠地帯を彷彿とさせる幻想性が、カオティック・ハードコアの最初期の源流に位置づけられるこのセルフタイトルの核心を形成していたのだった。

 

次いで、アリゾナのロックバンドが二作目として84年に発表した『Meat Puppets Ⅱ」は、 前者のハードコアのアプローチから若干距離を置いている。これは一見すると、パンクから遠ざかったという見方が出来るが、実はそうではなく、パンクの無限の可能性を示そうとしたというのである。この点について、フロントマンのカート・カークウッドは、「あえてみんなのために空振りをしたんだ」と語っている。「それくらいパンクなことをやってみてもいいのではないか?」と。 


それがどのような結果となったのかは、2ndアルバムが雄弁に物語っている。カントリー/ブルーグラスをパンクとして再解釈した「Magic Toy Missing」、ジョニー・キャッシュのようなフォーク/カントリーをロカビリー風にアレンジした「Lost」、そして、後にニルヴァーナがMTVでアコースティックバージョンとしてカバーする「Plateau」、「Lake Of Fire」、さらにはヒッピーの暮らしと彼らの信ずるジャンクな神様に対する信仰を描いた「New Gods」、さらにはローリング・ストーンズを無気力にカバーした「What To Do」といった唯一無二のパンクロックソングが生み出されることになった。また、オーロラの神秘性をメキシカンな雰囲気で捉えたインストゥルメンタル曲「Aurora Borealis」は空前絶後の曲である。何かこれらの音楽には、度数の高いテキーラ、メキシカン・ハット、タコス、そして、サボテンというものがよく似合う。これらのアリゾナや国境付近の砂漠であったり、テキサス/メキシコ音楽の影響を反映した奇妙なエキゾチズムが、生前のカート・コバーンの心を捉えたであろうことはそれほど想像に難くない。


近年のMeat Puppets


その後、ミート・パペッツは、カート・コバーンの紹介もあり、いくらかシニカルなユニークさを交えたロック・ミュージックへと方向性を転じ、多作なロックバンドとして知られることに。そして、シンプルなロックバンドとしての商業的なピークは、MTVアンプラグドの翌年、94年の「Too High To Die」に訪れる。しかも、このアルバムは、それまでのジャンクロック/カオティックハードコアとは異なり、SoundgardenやAlice in Chainsに近いグランジっぽい音楽性を含んでいた。


94年といえば、ローリング・ストーン誌の有名なカバーアートを飾った後、コバーンが死去した年である。そして、「Too High To Die」が発売されたのはコバーンが死去する3ヶ月前のこと。アルバムのタイトルについて考えると、こじつけのようになってしまうが、ミート・パペッツはシアトルのMelvinsよりもはるかにニルヴァーナと近い関係にあるようにも感じられる。ニルヴァーナは知っているけれどミート・パペッツを知らないという方は改めてチェックしてみてほしい。

 

 

 

 



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Weekly Music Feature 



Tim Hecker



 


『Infinity Pool』、『The North Water』シリーズのサウンドトラックのオリジナルスコアを手がけたティム・ヘッカーが、『Konoyo(コノヨ)』『Anoyo(アノヨ)』の後継作の制作のためにスタジオにカムバックを果たしました。


シカゴのKrankyからリリースされた『No High』は、前述の2枚のレコードのジャケットのうち、2枚目のジャケットの白とグレーを採用し、濃い霧(またはスモッグ)に包まれた逆さまの都市を表現しています。


このアルバムは、カナダ出身のプロデューサーの新しい道を示す役目を担いました。Ben Frostのプロジェクトと並行しているためなのか、リリース時のアーティスト写真に象徴されるように、北極圏と音響の要素に彩られていますが、基本的には落ち着いたアルペジエーターによって盛り上げられるアンビエント/ダウンテンポの作品となっています。ノート(音符)の進行はしばしば水平に配置され、サウンドスケープは映画的で、ビートはパルス状のモールス信号のように一定に均されており、緊張、中断、静止の間に構築されたアンビエントが探求されています。特に『Monotony II』では、コリン・ステットソンのモードサックスが登場するのに注目です。


『No High』は「コーポレート・アンビエント」に対する防波堤として、また「エスカピズム」からの脱出として発表されました。この作品は、作者がこれほど注意深くインスピレーションを持って扱う方法を知っている人物(同国のロスシルを除いて)はほとんどいないことを再確認させてくれるでしょう。


最近では、ティム・ヘッカーは映画のサウンドトラックの制作にとどまらず、ヴィジュアルアートの領域にも活動の幅を広げています。”Rewire 2019”では、Konoyo Ensembleと『Konoyo』を演奏するため招待を受ける。さらにRewireの委嘱を受け、Le Lieu Uniqueの共同委嘱により、多分野の領域で活躍するアーティスト、Vincent de Bellevalによるインスタレーション、ステージ、オブジェクトデザインによるユニークなコラボレーション・ショーを開催しています

 

彼の音楽に合わせて調整される特注のLEDライトを使ったショーは、「グリッドを壊す」ための方法を探りながら、光、音、色、コントラスト、質感の間に新しいアートの相互作用を見出そうとしています。

 

 

『No Highs』 kranky




カナダ出身のティム・ヘッカーは、世界的なアンビエントプロデューサーとして活躍しながら、これまでその作風を年代ごとに様変わりさせて来ました。01年の『Haunt Me』での実験的なアンビエント/グリッチ、11年の『Ravedeath,1972』で画期的なノイズ・アンビエント/ドローンの作風を打ち立ててきた。つまり、00年代も10年代もアーティストが志向する作風は微妙に異なっています。そして、ティム・ヘッカーは21年の最新作『The North Water』においてモダンクラシカルの作風へと舵を取っています。これは後の映画のオリジナルスコアの製作時に少なからず有益性をもたらしたはずです。

 

現在までの作風の中で、ティム・ヘッカーは、アルバムの製作時にコンセプチュアルな概念をサウンドの中に留めてきました。それは曲のVariationという形でいくつかのアルバムに見出すことが出来る。この度、お馴染みのシカゴのクランキーから発売された最新作『No Highs』においても、その作風は綿密に維持されており、いくらか遠慮深く、また慎み深い形で体現されている。オープニングトラックとして収録されている「Monotony」、#7「Monotony 2」を見ると分かる通り、これらの曲は、20年以上もアンビエント/ドローン/ノイズという形式に携わってきたアーティストの多様な音楽性の渦中にあって、強烈なインパクトを残し、そしてアルバム全体にエネルギーをその内核から鋭く放射している。これは一昨年のファラオ・サンダースとフローティング・ポインツの共作『Promises』に近い作風とも捉えることも出来るでしょう。

 

DJ/音楽家になる以前は、カナダ政府の政治アナリストとして勤務していた時代もあったヘッカーですが、これまで彼のコンセプチュアルな複数の作品の中には、表向きにはそれほど現実的なテーマが含まれていることは稀でした。とは言え、それはもちろん皮相における話で、暗喩的な形で何らかの現実的なテーマが込められていた場合もある。アートワークを見るかぎり、『The North Water』の続編とも取れる『No Highs』は、彼のキャリアの中では、2016年の「Unhermony In Ultraviolet』と同様に政治的なメタファーが込められているように思えます。今回、アートワークを通じて霧の向こう側に提示された”逆さまの都市”という概念にはーー”我々が眺めている世界は、真実と全く逆のものである”という晦渋なメッセージを読み取る事も出来るのです。


もちろん、これまでのリリース作品の中で、全くこの手法を提示してこなかったわけではありません。しかし、この作品は明らかに、これまでのティム・ヘッカーの作風とは異なるアバンギャルドな音楽のアプローチを捉えることが出来る。本作において重要な楔のような役割を果たす「monotony」を始め、シンセのアルペジエーターの音符の連続性は、既存作品の中では夢想的なイメージすらあった(必ずしも現実的でなかったとは言い難い)ヘッカーのイメージを完全に払拭するとともに、その表向きの幻影を完膚なきまでに打ち砕くものとなるかもしれません。作品全体に響鳴する連続的なシンセのアルペジエーターは、ティム・ヘッカーのおよそ20年以上に及ぶ膨大な音楽的な蓄積を通じて、実に信じがたいような形で展開されていくのです。

 

ニュージャズ/フリージャズ/フューチャージャズのアプローチが内包されている点については既存のファンは驚きをおぼえるかもしれません。知る限りではこれまでのヘッカーの作風にはそれほど多くは見られなかった形式です。今回、ティム・ヘッカーはコラボレーターとして、サックス奏者のCollin Stenson(コリン・ステンソン)を招き、彼のミニマルミュージックに触発された先鋭的な演奏をノイズ・アンビエント/ドローンの中に織り交ぜています。それにより、これまでのヘッカー作品とは異なる前衛的な印象をもたらし、そして、ドローン・ミュージックとアバンギャルドジャズの混交という形で画期的な形式を確立しようとしている。それは一曲目の変奏に当たる「monotony Ⅱ」において聞き手の想像しがたい形で実を結ぶのです。

 

また、「No High」のプレスリリースにも記されています通り、”アルペジエーターによるパルス波”というこのアルバムの欠かさざるテーマの中には、現実性の中にある「煉獄」という概念が内包されています。

 

煉獄とは、何もダンテの幻想文学の話に限ったものではなく、かつてプラトンが洞窟の比喩で述べたように、狭い思考の牢獄の中に止まり続けることに他なりません。たとえば、それはまた何らかの情報に接すると、私達は先入観やバイアスにより一つの見方をすることを余儀なくされ、その他に存在する無数の可能性がまったく目に入らなくなる、いいかえれば存在しないも同然となることを表しています。

 

しかし、私達が見ていると考えている何かは、必ずしも、あるがままの実相が反映されているともかぎりません。ルネ・デカルトの『方法序説』に記されている通り、その存在の可能性が科学的な根拠を介して完全に否定されないかぎり、その事象は実存する可能性を秘めている。そして、私たちは不思議なことに、実相から遠ざかった逆さまの考えを正当なものとし、それ以外の考えを非常識なものとして排斥する場合すらある。(レビューや評論についてもまったく同じ)しかし、一つの観点の他にも無数の観点が存在する……。そういった考え方がティム・ヘッカーの音楽の中には、現実的な視点を介して織り交ぜられているような気がするのです。


さらに、実際の音楽に言及すると、パルス状のアルペジエーター、フリージャズを想起させるサックスの響き、パイプオルガンの音響の変容というように、様々な観点から、それらの煉獄の概念は多次元的に表現されています。これが今作に触れた時、単一の空間を取り巻くようにして、多次元のベクトルが内在するように思える理由なのです。また、その中には、近年、イーノ/池田亮司のようなインスタレーションのアートにも取り組んできたヘッカーらしく、音/空間/映像の融合をサウンドスケープの側面から表現しようという意図も見受けられます。実際、それらの映像的/視覚的なアンビエントのアプローチは、煉獄というテーマや、それとは対極に位置するユートピアの世界をも反映した結果として、複雑な様相を呈するというわけなのです。

 

こうした緊迫感のあるノイズ/ドローン/ダウンテンポは、その他にも「Total Gabage」や「Lotus Light」、さらに、パルスの連続性を最大限に活かした「Pulse Depresion」で結実を果たしている。しかし、本作の魅力はそういった現実的な側面を反映させた曲だけにとどまりません。また他方では、幻想的な雪の風景を現実という側面と摺り合わせた「Snow Cop」も同様、ヘッカーのアンビエントの崇高性を見い出すことができる。ここでは、Aphex Twinの作風を想起させるテクノ/ハウスから解釈したアンビエントの最北を捉えられることが出来るはずです。

 

以前、音響学(都市の騒音)を専門的に研究していたこともあってか、これまで難解なアンビエント/ドローンを制作するイメージもあったティム・ヘッカーですが、『No Highs』は改めて音響学の見識を活かしながら、それらを前衛的なパルスという形式を通してリスナーに捉えやすい形式で提示するべく趣向を凝らしたように感じられます。ティム・ヘッカーは、アルバムを通じて、音響学という範疇を超越し、卓越したノイズ・アンビエントを展開させている。それは”Post-Drone”、"Pulse-Ambient"と称するべき未曾有の形式であり、ノルウェーの前衛的なサックス奏者Jan Garbarekの傑作「Rites」に近いスリリングな響きすら持ち合わせているのです。

 

 

95/100


 

Weekly Featured Music 「monotony」



Tim Hecker


ティム・ヘッカーは、現在、アメリカ・ロサンゼルス、チリを拠点に活動する電子音楽家、サウンドアーティスト。

 

当初、Jetoneという名義でレコーディングを行っていたが、『Harmony in Ultraviolet』(2006年)、『Ravedeath, 1972』(2011年)など、ソロ名義でリリースしたレコーディングで国際的に知られるように。ベン・フロスト、ダニエル・ロパティン、エイダン・ベイカーといったアーティストとのコラボレーションに加え、8枚のアルバムと多数のEPをリリースしている。


バンクーバーで生まれたヘッカーは、2人の美術教師の家庭に生まれ、形成期には音楽への関心を高めていた。1998年にモントリオールに移り、コンコルディア大学で学び、自分の芸術的な興味をさらに追求するようになった。卒業後、音楽以外の職業に就き、カナダ政府で政治アナリストとして働く。


2006年に退職後、マギル大学に入学して博士号を取得、後に都市の騒音に関する論文を2014年に出版した。また、美術史・コミュニケーション学部で音文化の講師を務めた経験もある。当初はDJ(Jetone)、電子音楽家として国際的に活動していた。


初期のキャリアはテクノへの興味で特徴づけられ、Jetoneの名で3枚のアルバムをリリースし、DJセットも行った。2001年までに彼は、Jetoneプロジェクトの音楽的方向性に幻滅するようになる。2001年、ヘッカーはレーベル"Alien8"からソロ名義でアルバム『Haunt Me, Haunt Me Do It Again』をリリース。このアルバムでは、サウンドとコラージュの抽象的な概念を探求した。2006年にはKrankyに移籍し、4枚目のアルバム『Harmony In Ultraviolet』を発表した。


その後、パイプオルガンの音をデジタル処理し、歪ませるという手法で作品を制作している。アルバム『Ravedeath, 1972』のため、ヘッカーはアイスランドを訪れ、ベン・フロストとともに教会でパートを録音した。2010年11月、Alien8はヘッカーのデビュー・アルバムをレコードで再発売した。


ライブでは、オルガンの音を加工し、音量を大きく変化させながら即興演奏を行う場合もある。


2012年、ダニエル・ロパティン(Oneohtrix Point Neverとしてレコーディング)と即興的なプロジェクトを行い、『Instrumental Tourist』(2012)を発表する。2013年の『Virgins』に続き、ヘッカーは再びレイキャビクに集い、2014年から翌年にかけてセッションを行い、『Love Streams』を制作した。共演者には、ベン・フロスト、ヨハン・ヨハンソン、カーラリス・カヴァデール、グリムール・ヘルガソンがおり、ジョスカン・デ・プレの15世紀の合唱作品がアルバムの土台を作り上げた。


2016年2月、ヘッカーが4ADと契約を結び、同年4月に8枚目のアルバムがリリースされた。ヘッカーは、制作中に「Yeezus以降の典礼的な美学」や「オートチューンの時代における超越的な声」といったアイデアについて考えたことを認めている。    


God Speed You! Black EmperorやSigur Rósとのツアー、Fly Pan Amなどとのレコーディングに加え、HeckerはChristof Migone、Martin Tétreault、Aidan Bakerとコラボレーションしている。また、Isisをはじめとする他ジャンルのアーティストにもリミックスを提供している。また、サウンド・インスタレーションを制作することもあり、スタン・ダグラスやチャールズ・スタンキエベックなどのビジュアル・アーティストとコラボレーションしている。


ティム・ヘッカーは、他のミュージシャンであるベン・フロスト、スティーブ・グッドマン(Kode9)、アーティストのピオトル・ヤクボヴィッチ、マルセル・ウェーバー(MFO)、マヌエル・セプルヴェダ(Optigram)と共に、Unsound Festivalの感覚インスタレーション「エフェメラ」に音楽を提供した。また、ヘッカーは、2016年サンダンス映画祭の米国ドラマティック・コンペティション部門に選出された2016年の『The Free World』のスコアを作曲している。

 


元RIDEのAndy Bellは、エセックスを拠点とするデュオ”Masal”とのコラボレーションアルバム『Tidal Love Numbers』を発表しました。この新作は5月19日にSonic Cathedralからリリースされる。

 

このアルバムよりアンディ・ベルはトラック「Tidal Love Conversation In That Familiar Golden Orchard」を公開しました。Jean de Oliveiraによるこの曲のMVは以下よりご覧ください。


「これは従来のアレンジに最も近いものなんだ」とアンディ・ベルは声明の中でこのシングルについて述べている。「リフとビートを認識しながらも、ほとんどの時間、リフから解放されている」

 

 「Tidal Love Conversation In That Familiar Golden Orchard」




Andy Bell & Masal 『Tidal Love Numbers』


Label: Sonic Cathedral

Release: 2023年5月19日


 

Tracklist:


1. Murmuration Of Warm Dappled Light On Her Back After Swimming


2. The Slight Unease Of Seeing A Crescent Moon In Blue Midday Sky


3. Tidal Love Conversation In That Familiar Golden Orchard


4. A Pyramid Hidden By Centuries Of Neon Green Undergrowth

 Daughter 『Stereo Mind Game』

 



Label: 4AD

Release: 2023年4月7日



 

Review

 


最近、4ADはErased Tapesと同様に、SNSで4AD Japanのアカウントをローンチし、遂に日本で本格的なマーケティングを開始するようである。その先駆けとして、イギリスのインディーロックバンド、Daughterがいる。4ADは早速、このアルバムのリリースパーティーを企画し、6日に渋谷のコスモプラネタリウムで世界最速のリスニングパーティーが開催されている。

 

エレナ・トンラ(ボーカル)、イゴール・ヘフェリ(ギター)、レミ・アギレラ(ドラム)のトリオは、元々、イギリス、スイス、フランスとそれぞれ異なる国籍を持つロック・バンドではあるが、そのワールドワイドなメンバー構成は実際のレコーディング時にも反映されている。この4thアルバムは、 イギリスのデヴォン、ロンドン、ブリストル、カルフォルニア、ワシントン、バンクーバーと複数の別のスタジオでレコーディングされた作品となっている。


Daughterの7年ぶりの新作は、今流行りの4ADサウンドを象徴づけるようなアルバムと言えるだろうか。ただ、絶対的なものの中で仕事をしないということなんだ」とHaefeliは言うように、アルバムは暗鬱なロマンチックさに根ざしながらも、流動的にその曲の雰囲気を変化させていく。トラックメイク自体は、The Golden Gregsや、Bon Iverに近いものでありながら、エレナ・トンラのアンニュイなボーカルや、センス十分のへフェリのギターサウンドの兼ね合いはときに同レーベル所属のBig Thiefのようなマイルドなオルトロックの雰囲気に包まれる場合もある。例えば、ビックシーフファンは収録曲の「Party」に親近感を覚え、琴線に触れるものがあるに違いない。

 

そして、なんといっても先週、青葉市子のレビューでも紹介したとおり、このアルバムにはロンドンの名アンサンブル、12 Emsembleと聖歌隊が参加し、ストリングスやコーラスの面で貢献している。ただ、それは大掛かりな映画の音楽をイメージするかもしれないが、どちらかといえば、バンドのオルトロックの中に組み込まれるようにして、これらのオーケストラレーションやクワイアはあくまでバンドの叙情性を引き出すためのサポート役に徹しているのである。

 

パンデミック時には、物理的な距離をとっていたトリオではあるが、その後に再会を果たし、ソングライティングを行っている。それは言い換えれば、このアルバム自体が鬱屈とした瞬間からより建設的な瞬間への移り変わりの時期を捉えているように思える。例えば、今、その時点にいることにためらいを覚えながらも、その場から立ち上がり、次のステップとなる明るい方向へむけて走り出していく期間を捉えたようなロックサウンドとも言いかえられる。そのあたりは、「Dandelion」の曲にわかりやすい形で現れている。それほど明るいサウンドではないけれども、実際に癒やされるような感覚がこの曲には潜んでいるような気がするのである。

 

上記の二曲に加えて、Daughterの象徴的なサウンドとしてアンビエントとポップスをかけ合わせたようなスタイルがある。例えば、「Neptune」での天文学的な興味に支えられるようにして、これらの宇宙的なロマンスを反映したサウンドは、Big Thiefを思わせるインディーロックサウンドのさなかにあって、アルバムの曲の流れの中に緩急とアクセントをもたらしているように思える。また、現在、ストリーミング回数が好調である「Swim Back」もまたダンサンブルなシンセ・ポップに宇宙的な雰囲気を加味したシングルとなっている。また、「Junkmail」もノイジーなポップであるが、ノリの良いグルーブが体感出来る一曲となっている。

 

そして、全体的に見れば、エレナ・トンラの歌い上げるボーカルは、淡い切なさを漂わせている。それは理論的に見れば、彼女がソフトに歌い上げるメロディーラインからそういったエモーションが引き出される思えるけれど、しかし、そうとばかりも決めつけがたい。おそらく、このボーカリストの外向性と内向性という双方の性質が曲の中で感覚的なものとして複雑にせめぎ合っているからこそ、それらのエモーションが他には求めがたいようなミステリアスな雰囲気として表側に期せずして現れる場合があるのだろう。Daughterの感覚的な音楽は、愛や孤立といった両端にある生と負の感情の間で揺れ動いていくが、もしかすると、 論理的に説明しがたい人間の機微のようなものを、トリオはこのアルバムの中で追い求めようとしたのかもしれない。もちろん、心地よさや感覚的な美しさを感じさせるアルバムとして十分楽しむことが出来ると思われるが、より深く聴き込むと、何かしら新しい発見がありそうな作品でもある。

 

 

84/100

 


 Featured Track 「Swim Back」

Wednesday


アッシュビルのインディーロックバンド、Wednesday(ウェンズデイ)は昨日、最新アルバム『Rat Saw God』をDead Oceansからリリースしました。(アルバムのストリーミングはこちら)さらにアルバムのリリースに伴い、収録曲「Quarry」のビジュアライザーも公開しましたので、以下でご覧ください。

 

フロントウーマンのKarly Hartzmanは、「この曲は、私が作ったライティング・エクササイズでふざけていた時に書きました」と声明で説明しています。

 

私は通りを想像し、家ごとにそれを説明しました。いくつかの家には架空のキャラクターがいますが、他の家には私が知っている実在の人物とその物語が含まれています。このビデオは、カンザスシティの野原で、クリス・グッドと一緒に撮影したんだ。ものすごく寒かったので、十分な重ね着をしませんでした!ブーツの中にハンドウォーマーを入れていたよ。

 

「Quarry」 

 

 

『Rat Saw God』は、iPod Nanoで初めてMy Bloody Valentineを聴きながら、グリーンズボロの郊外を自転車で走り、壊れたガラス瓶やコンドームが散乱する近所を流れる小川、壊れて錆びた車の部品でいっぱいの前庭、葛で埋め立てられた孤独で荒れ果てた家を通り過ぎていくアルバムである。

 

4人のロコやロデオのピエロ、トウモロコシ畑を焼き払う子供たち。道端のモニュメント、教会の看板、ペットボトルに入ったポッパーとウォッカ、ユダヤ人のサマーキャンプでのたわごと、古着屋に並ぶ奇妙な感傷的家宝。夏から秋にかけての一晩中、南部が活気に満ちている様子、高校のフットボールの試合音、暗闇を汚染する照明の後光効果。前が見えるほど明るくはないけれど、あの漆黒の空白の空間では、なぜかすべてが見えるのだ。



『Rat Saw God』は、『Twin Plagues』の完成直後の数ヶ月に書かれ、アッシュビルのDrop of Sunスタジオで1週間かけてレコーディングされました。

 

『Twin Plagues』は『Wednesday』にとって画期的な作品であったが、ハーツマンにとっても創造的かつ個人的な画期的作品であった。このアルバムは、トラウマや酸欠など、めちゃくちゃな気分を表現している。ハーツマンは次のようにプレスリリースで述べている。「リスナーのこと、自分の母親がこの曲を聴いたときのこと、自分の本心をぶちまけることがどんな感じなのかを考えた。そして、最終的に、それは大丈夫だと感じた。「Twin Plaguesでは、傷つきやすいことを全く気にしないようになったんだ」
 

 

©Shervin Lainez


アメリカーナのニュースター、Madison Cunningham(マディソン・カニンガム)は、アルバム「Revealer」のデラックスエディションを発表しました。5月5日にVerve Forecastから発売される予定。


アルバムの収録曲は、「Who Are You Now」と「Life According to Raechel」のデモ、Remi Wolfをフィーチャーした「Hospital」の新バージョン、そして未発表曲「Inventing the Wheel」で、現在リリースされています。以下、ご視聴ください。

 

マディソン・カニンガムは「Inventing the Wheel」について次のように語っています。「この曲は、一度実現したら、自分で書くことができるような曲のひとつだった」

 

この曲は、自分の外側に目を向けたときに起こる啓示のようなもので、自分の感情の幅に限界を感じているのは、自分が最初でも最後でもないことがわかると思う。そして、その啓示によって、仲間、家族、アイドル、敵、すべてがゼロ地点に立ち、同じ問いを掻き立てながら見上げているのがわかるのです。「Revealer」では喪失感という考え方に重きを置いていて、この曲は私の中でその考えを何らかの形で完成させてくれたんだ。

 


 

Swim Schoolがニューシングル「Don't Leave Me Behind」をリリースしました。この曲は、LAB Recordsから5月25日に発売予定のエディンバラのトリオの2nd EP「Duality」の最新曲で、ファースト・シングル「Delirious」に続く作品です。

 

「Don't Leave Me Behind」は、フロントウーマンのアリス・ジョンソンがプレスリリースで説明したように、ノスタルジックなラブソングへのドリーミーなトリビュートである。「ドント・リーヴ・ミー・ビハインド」は、あなたが純粋なつながりを持つ人に会ったときに感じる感情ですが、その人との立ち位置がよくわからないのです」と彼女は説明しました。「相手が自分と同じように感じていると思うけれど、確信が持てず、心が相手のことを考えずにはいられない」

 

「90年代前半の安っぽいラブソングの自分たちバージョンを書きたかったんだ。厳しいギターの音色と柔らかい歌詞は、その未知の場所で経験する強い浮き沈みに似ている」

 

近日発売予定のEPについて、ジョンソンは、「Dualityとは、2つの正反対の感情が同時に存在する状況である」という言葉を目にし、それがこのEPを完璧に表現している。

 

EPには4曲入っていて、2つのラブソングと2つのアングリーソングがあります。曲は、私が人生のある時点で経験したことがベースになっています。対照的な感情を同時に感じることができるということは、混乱を招き、精神的に負担をかけることになりますが、書くことがそれに対処する最良の方法だと感じています。

 

「Don't Leave Me Behind」

 


元ジェネシスのピーター・ガブリエルは、近日発売のアルバムからのタイトル曲「i/o」を発表した。毎度恒例のこととなっているが、この新曲もまた6日の満月に合わせて発売されている。このシングルにはSoweto Gospel Choirが参加しており、これまでの「Panopticom」、「The Court」、「Playing for Time」に続く楽曲です。この曲のBright-Side Mixは以下からお聴きください。

 

"今月の曲は「i/o」で、「i/o」は入力/出力を意味します。"とガブリエルはプレスリリースで説明しています。

 

多くの電気機器の裏側で目にするこの言葉は、物理的、非物理的な方法で、私たちが自分自身に入れたり引き出したりしているものについてのアイデアを思い起こさせるものでした。それが、このアイデアの出発点であり、その後、すべてのものの相互関連性について語ろうとしたのです。でも、私たちは独立した島々ではなく、全体の一部なのだということがよくわかりました。もし、自分たちがよりよくつながっていて、まだめちゃくちゃな個人であっても、全体の一部として見ることができれば、何か学ぶべきことがあるかもしれませんね。

 

「i/o」