©Frank Hamilton


ボルチモアのシンセ・ポップバンド、Future Islands(フューチャー・アイランズ)は、新しいワンオフ・シングル「Glimpse」を発表した。

 

この曲は、2024年初めにリリースされたバンドの最新アルバム『People Who Aren't There Anymore』のセッション中にレコーディングされた。フューチャー・アイランズとスティーヴ・ライトが共同プロデュースし、クリス・コーディとスティーヴ・ライトがミックスした。ジェイラ・スミスが制作したアニメーション・ビデオは以下からご覧下さい。

 

今年初め、4人組は7枚目のスタジオ・アルバム『People Who Aren't There Anymore』(4AD)をリリースした。批評家からも絶賛されたこのアルバムは、バンド史上初の全英トップ10入りを果たした。

 

20年近いキャリアを持つにも関わらず、自分たち自身とお互いに挑戦し続けるフューチャー・アイランズにとって、この最新作は新たな章の到来を告げるものだった。これまで彼らは、高いエネルギーのアンセムを追求してきたが、今回は内側に向き直り、新たなレベルの獰猛さを解き放った。



フューチャー・アイランズは今月末、バンクーバーでのソールドアウト2公演を皮切りに北米を回り、ニューオーリンズで幕を閉じる。

 


「Glimpse」

 
TV On The Radio


数年間活動を休止していたTV On The Radioが、デビュー・アルバム『Desperate Youth, Bloodthirsty Babes』の20周年記念リイシューと5年ぶりのライヴを発表した。

 

再発盤には5曲のボーナス・トラックが収録されており、そのうちの1曲、"Final Fantasy "を公開した。Desperate Youth, Bloodthirsty Babes (20th Anniversary Edition)は11月15日にTouch & Goからリリースされる。ボーナス・トラックと再発盤のトラックリスト、ライヴの詳細は以下をチェック。


TV On The Radioは2019年以来のライヴを発表しており、11月下旬から12月上旬にかけてニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドンでレジデンスを行う。これらのライヴのラインナップは、ツンデ・アデビンペ、カイプ・マローン、ジャリール・バントンで、この3人が新しいプレス写真に写っている。プレスリリースによると、「創立メンバーのデイヴ・シテックはライブに参加できない」とのことだが、欠席についての詳細は明かされていない。


「Final Fantasy」は、Desperate Youth, Bloodthirsty Babesの曲 "Bomb Yourself "の初期のデモである。バンドのラスト・アルバム『Seeds』は10年前の2014年に発表された。




『Desperate Youth, Bloodthirsty Babes』20th Anniversary Edition

 


 Tracklist:


1. The Wrong Way

2. Dreams

3. King Eternal

4. Ambulance

5. Poppy

6. Don’t Love You

7. Bomb Yourself

8. Wear You Out

9. Staring At The Sun

10. You Could Be Love

11. Staring At The Sun (Demo)*

12. New Health Rock (single)*

13. Modern Romance (from the “New Health Rock” single)*

14. Final Fantasy (2004 recording)*

15. Dry Drunk Emperor (2005 recording)*


*bonus tracks


TV on the Radio Tour Dates:


November 25 - New York, N.Y. @ Webster Hall

November 26 - New York, N.Y. @ Webster Hall

November 29 - New York, N.Y. @ Webster Hall

November 30 - New York, N.Y. @ Webster Hall

December 4 - Los Angeles @ El Rey Theatre

December 5 - Los Angeles @ El Rey Theatre

December 7 - Los Angeles @ El Rey Theatre

December 10 - London, UK @ Islington Assembly Hall

December 11 - London, UK @ Islington Assembly Hall

December 12 - London, UK @ Islington Assembly Hall


 

 

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全英オフィシャル・アルバム・チャートで7位を記録したアルバム『Glasgow Eyes』の成功を受けて、ジーザス・アンド・メリー・チェインがニュー・シングル「Pop Seeds」をリリースした。


Fuzz Clubからリリースされたこの曲は、『Glasgow Eyes』のセッション中にレコーディングされたもので、バンドの原点を懐かしむことができる。


「Pop Seeds」は40年以上前のバンド結成の契機となった初期の心象風景を思い起こさせる。『Glasgow Eyes』のエレクトロニカ調のダークな雰囲気とは異なり、ジム、ウィリアム・リードの楽観主義を反映させた爽やかなサイケデリアを披露している。このリリースは、彼らの回顧録『Never Understood』の発売と同時に行われ、『Never Understood』は2種類の限定版でリリースされる。


レコード・ストア・エディションは、別のアートワークが施され、ウィリアム・リードがデザインした特注のスリップケースに収録。1500枚限定で、10月3日に発売。ホワイトラビット・エディションは11月21日に発売。オーディオブックの抜粋と4枚の限定ポストカードを収録した12インチレコードが追加。500枚限定プレスの1枚1枚にウィリアムとジム・リードのサインが付属。



「Pop Seeds」




 


昨年度のマーキュリー賞を受賞した今をときめくエズラ・コレクティヴが、M.アニフェストとムーンチャイルド・サネリーをフィーチャーした新曲 「Streets Is Calling」をリリースした。「Streets Is Calling」は、「Ajala」とヤズミン・レイシーをフィーチャーした「God Gave Me Feet For Dancing」に続くリリースで、バンドの次のアルバム『Dance, No One's Watching』に収録される。


この曲についてフェミ・コレソは、「"Streets Is Calling "は、みんなから電話やメッセージをもらった時の嬉しい気持ちを歌っている。ストリートからの電話だ。ダンスフロアに直行し、それらを自分たちのものにするんだ」


エズラ・コレクティブは、大絶賛を浴びたアルバム『Where I'm Meant To Be』で、31年の歴史の中で初めてマーキュリー賞を受賞したジャズ・アクトとなった。その他、11月15日にロンドンのOVOアリーナ・ウェンブリーでヘッドライナーを務める初のUKジャズ・アクト。昨年、ビルボード・トーキョーでの来日公演も行い、名実ともにUKジャズナンバーワンのグループになった。


エズラ・コレクティブの新作アルバム『Dance, No One's Watching』は9月27日にパルチザン・レコードからリリースされる。


「Streets Is Calling」



 Enumclaw 「Home In Another Life」

 

Label:Run For Cover

Release: 2024年8月30日

 

Review

 

アラミス率いるワシントン/タコマ出身のインディーロック・バンド、Enumclaw(イナムクロウ)がパワフルでダイナミックなロックソング集を引き下げて帰ってきた。『Save The Baby』よりハードロックなアルバムで、ドラムやベース、ギターのミックス/マスターは以前よりも明らかにヘヴィネスを強調している。イナムクロウはファイティングスピリット溢れるサウンドで、生半可なリスナーをノックアウトしにかかる。本作の迫力のあるディストーションギターは、80年代のUSハードロックやメタルの直系に当たり、グランジはもちろん、Dinasour Jr.のJ マシスとルー・バーロウの息のとれたコンビネーションを思わせる叙情的なオルトロックへの愛情が余さず凝縮されている。ワイルドさと繊細さを兼ね備えたロックサウンドに心酔しよう。

 

ワシントン/タコマのバンドの一番の魅力は、大型のハーレーで荒野をひとり突っ走るようなギターサウンドの迫力、安定感のあるドラム、ベース、そして、繊細さとダイナミックさを兼ね備えたアラミスの絶妙なボーカルスタイルにある。これはデビュー・アルバムと同じように、『Home In Another Life』の主眼ともなっている。彼らのロックサウンドは、以前よりも磨きが掛けられ、そして病気のことなど、人生の変化やその中で感じられる恐れが歌われることもある。

 

「I'm Scared I'll End Up All Alone」は孤独に対する恐れがタイトルに据えられ、それらの恐ろしさをかいくぐるようにして、パワフルなハードロックソングが紡がれていく。アラミスのボーカルをバックアップするのは、J Mascisのようなトレモロを活用した苛烈なディストーションサウンドのギター、そして、パンクロックの影響下にあるリズム・セクションである。彼らのサウンドは、驚くほど直情的であるものの、また同時に、グランジ誕生前夜のハードロックバンドがそうであったように、痛快なロックソングの原初的な魅力を呼び覚ます。「Not Just Yet」でも、イナムクロウの志すサウンドに全くブレはない。デビュー・アルバム『Save The Baby』の頃から引き継がれるパワフルなロックが哀愁のあるオルタナティヴの要素と結び付けられ、パンキッシュな響きを織り交ぜ、タイトルの部分でシンガロング性を沸き起こす。以前よりもドラムやギターの音像はコンプレッサーにより極大になり、迫力味とリアリティを帯びることがある。


ただ、『Home In Another Life』は、デビューアルバムのようなハードロック一辺倒のサウンドというわけではない。「Sink」では、Dinosaur Jr.の90年代のサウンドに触発されており、アコースティックギターをメインに、オルタナティヴ・フォーク寄りのアプローチに傾倒している。これがルー・バーロウのソングライティングと同様に、ローファイの要素と結び付けられ、エモーショナルな一面を強調させ、おのずとアルバムの序盤の収録曲の流れに少しの変化を及ぼしている。デビュー作よりも、多彩な音楽を制作しようというバンドの意図も伺い知れる。続く「Spots」ではオーバードライブを掛けたベースを元にして、グランジロックの原点に立ち返ろうとしている。このジャンルは、泥臭い感覚やファッションに象徴される汚れた感覚が特徴であったが、イナムクロウはそれらのグランジの中核にあるサウンドを受け継いでいる。



イナムクロウのサウンドには、オルタナティヴロックやパンク、そしてグランジの他、90年代ごろのエモのテイストが漂うこともある。「I Still Feel About Masturbation」は、これまでにバンドが書いてきた曲の中で最も若く、そして切ない感覚に縁取られている。エモに内在する若さと内省的な感覚を織り交ぜ、バンド特有のパンキッシュなサウンドで彩っている。その他、アメリカン・フットボールやそのフォロワーのサウンドに近い「Haven't Seen That Family In A While, I'm Sorry」では、セッションを基軸に精細感のあるロックサウンドを構築している。この曲もまた、デビュー・アルバムには見受けられなかったバンドの新たな挑戦を刻印している。同じように、中盤のハイライトをなす「Grocery Store」では、エモの系譜にあるロックサウンドが続いている。フェイザーを掛けたギターサウンドに乗せ、アラミスは「サリーの馬鹿らしさ」について歌っている。A-Bというシンプルな構成から繰り広げられるロックサウンドは、90年代のグランジやDinasour Jr.のサウンドの継承の範疇にあるが、と同時に、彼らがデビュー時に話していた「オアシスのようなロックバンドになりたい」という憧れが、ブリット・ポップに近い清涼感のあるサウンドと結び付けられている。実際的に、アルバムの中では最も心を揺さぶられるような一曲である。そしてまたイナムクロウの新しいアンセムナンバーの誕生である。


 

アラミスはこれまでそれほど高い音程を歌ってこなかったが、続く「Change」において珍しく高いピッチを披露している。しかし、それは歌というより、彼の内的な苦悩をを外側に押し出した叫びであり、何か胸を鋭くかきむしられる思いがする。イナムクロウのサウンドは洗練されているわけでもなければ、ヒット・ソングの明らかな予兆があるわけでもない。しかし、にもかかわらず、部分的には惹きつけられるものがあり、夢中になってしまう箇所もある。これはイナムクロウがバンドセクションの中で、不器用でありながらも何ができるかを模索している最中だからであり、その範疇でグループとしての様々な体験を織り込んでいるからなのかもしれない。


そんな中で、ロックソングとして最も心をかき乱される瞬間がある。「This Light Of Mine」は、フロントパーソンの私生活の暗い部分から放たれる強固な光であり、また、内側からメラメラと燃え立つ、抑え難い生命力の輝きでもある。これをかき消すことは誰にも出来ない。それが彼とバンドが生きている証なのだから……。この曲の哀愁のあるサウンドは、90年代のPearl Jam、Alice In Chains、Soundgardenのグランジの核心に接近する箇所もあり、バンドとして新しいフェーズへと到達した瞬間である。もし、これらのワイルドさと繊細さを兼ね備えたサウンドに更なる磨きが掛けられると、ポスト・グランジのバンドとしてかなり良い線を行くかもしれない。

 

 


80/100


 

 

Best Track-「The Light Of Mine」

 



 



スリーター・キニーは、1月にリリースした最新アルバム『Little Rope』のデラックス・エディションを発表した。

 

『Little Rope (Deluxe)』は10月4日にLoma Vistaからリリースされる。本日、バンドは新曲「Here Today」と、活動家アート集団「In Decline」が制作したビデオを公開した。(ニューシングルのプリセーブはこちら)以下からチェックしてほしい。


「この曲はリトル・ロープのセッションでレコーディングした曲です。この曲は、私たちが地球上で過ごす短い時間、そしてその意味をどこに見出すかについて歌った切実な曲です」とバンドはプレスリリースで語っている。


Here Today」に加え、拡張アルバムには新曲「This Time」と「Nothing to Lose」が収録される。また、オリジナルのトラックリストにある曲のライヴ・ヴァージョンと合わせて追加ヴァージョンも収録されている。

 

 

「Here Today」

 

JUSTICEに見出され、Thundercatの全米ツアーやFlying Lotusのオンラインライブ企画「Brainfeeder THE HIT」に出演するなど、海外でカルト的な人気を誇る三宅亮太と丸山素直によるシンセサイザー・デュオが、80’sポップスへの様々なオマージュが散りばめられた、切なくてやるせないテクノ歌謡な新作アルバム「In A Cocktail Glass」を9/25に発売。


本日先行シングル「彼女のオートバイ、彼の島」がリリースとなります。ティーザー映像は下記よりご覧下さい。


奔放なアート系女子に振り回されるひと夏のラヴ・ヴァケイションをテーマにした、情熱的なデュエット曲に仕上がっている。

 

 

「彼女のオートバイ、彼の島」


 

■ CRYSTAL - In A Cocktail Glass



タイトル:In A Cocktail Glass

アーティスト:CRYSTAL

DIGITAL発売日:2024年9月25日

LP発売日:2024年10月9日


tracklist:

1. Winter Forever


2. Autumn Story


3. Ballad of a Handsome Man


4. One More Chance 


5. 少しだけCelebration


6. Polygon Beach


7. 彼女のオートバイ、彼の島


8. Summer Forever



ストリーミング: https://flau.lnk.to/CRYSTAL-CocktailGlass


◾️東京のシンセデュオ、CRYSTAL 「ONE MORE CHANCE」をリリース TRFとNEW ORDERのシンセポップサウンドを変幻自在にクロスオーバー

◾️ Letting Up Despite Great Faultsが10月にリリースするニューアルバム『Reveries』から「Past Romantic」を先行解禁!


5度の来日公演を成功させるなど、日本でも人気を集めるテキサス・オースティンのドリームポップ/ インディーポップ・バンド、Letting Up Despite Great Faultsが10月11日にリリースするニューアルバム『Reveries』から新曲「Past Romantic」を本日リリースした。ストリーミングは記事の最下部をチェック。


「Past Romantic」はLetting Up Despite Great Faultsらしいインディーポップを軸にした楽曲だが、UKガラージ、ドラムンベース、ブレイクビーツなどから発想を得たというリズムが絡み合うバンドらしさを残しつつも、新鮮な要素も含んでいる。


Letting Up Despite Great Faultsは先日アルバムの冒頭を飾る2曲「Powder」「Dress」を2曲まとめたMusic Videoも公開しているので、合わせて下記よりチェックしてほしい。


国内盤CDの予約は下記から受付中。CDにしか収録されないボーナストラックもあるので是非チェックしてほしい。(国内盤のご予約はこちら: https://anywherestore.p-vine.jp/products/pcd-25419)

 


「Powder」/「Dress」

 

 

■リリース情報

 

Letting Up Despite Great Faults『Reveries』




Release Date:2024.10.11(Fri.)

Label:P-VINE


Tracklist(収録曲):

 

1. Powder

2. Dress

3. Color Filter

4. Embroidered

5. I Still Like You The Best

6. Past Romantic

7. Collapsing

8. Swirl

9. Endearingly

10. Self-Destruct

11. Hearts and Flowers(CD限定ボーナストラック)

12. Cottage House(CD限定ボーナストラック)



■Letting Up Despite Great Fault / Past Romantic- Single

Streaming(配信リンク):https://p-vine.lnk.to/NMVhr2



LAで結成され、現在は音楽の街、テキサス・オースティンで活動中のLetting Up Despite Great Faultsが5枚目のオリジナルアルバム『Reveries』を10月11日にリリースする。

 

Letting Up Despite Great Faultsはデビューアルバムで完成させたエレクトロなシンセサウンドをシューゲイズやドリームポップというジャンルに落とし込むという発明で、日本でも5回の来日公演を成功させるなど人気を集めるバンドだ。

 

『Reveries』はミックスにJay Som、マスタリングにSlowdiveのドラマーであるSimon Scottを迎えて制作された作品で、3曲目に収録されている「Color Filter」ではLAで注目を集めるシューゲイズ・バンド、Soft Blue ShimmerからMeredith Ramondをゲストヴォーカルに迎えるなど、インディーポップやシューゲイズ・リスナーにはたまらないメンバーが参加した作品。

 

本作でもLetting Up Despite Great Faultsの特徴であるエレクトロ+シューゲイズ/ドリームポップにキャッチーなメロディーラインを加えるという彼らのオリジナリティーを武器にした作品に仕上がっているが、その上で冒頭を飾る「Powder」や6曲目「Past Romantic」のように実験的なリズムを取り入れた楽曲も収録。

 

K-POPからHyper Popまで様々なポップスを聞くようになったというフロントマンのMike Lee(マイク・リー)がLetting Up Despite Great Faultsのインディーポップな良さに様々なジャンルをポップセンスを加えた楽曲たちもアルバムの中で存在感を放っている。

 

2曲目「Dress」はインディーポップのルーツが存分に感じ取れる心地良い楽曲であり、7曲目に収録されている「Collapsing」のコード感やメロディーセンスも90sのインディーポップやギターポップが好きな人たちにはたまらないであろう。シングル曲として公開された「Swirl」は2010年代の〈Captured Tracks〉が好きな人にはオススメな楽曲であり、国内盤CDに収録されている2曲も間違いない。Letting Up Despite Great Faultsが感じ取れる楽曲が収録!!

 Molly Payton 『Yoyotta』

 

 

Label: Molly Payton

Release: 2024年8月30日

 

Review   ◾️ニュージーランドの気鋭のシンガーソングライターのデビュー作

 

ニュージーランドのモリー・ペイトンのフルレングス・デビューアルバム『YOYOTTA』は、彼女が最も傷つきやすい状態のアーティストを描いた、深く個人的なプロジェクトである。


このアルバムでは、彼女がキャリアで初めてクリエイティブの首座に座り、プロジェクトのサウンドだけでなく、ビジュアル面でも主導権を握った。結果、過去のリリースを結びつけ、アーティストの人生と感情に新たな文脈を与える作品となった。ペイトンは、Beabadoobee、Arlo Parks、Alex G、Tom Odell、Palaceなど数多くのアーティストとのツアー、Primavera、Laneway、Pitchfork Parisでのプレイを経て、2024年後半は8月に「All Points East」でプレイし、アルバム『YOYOTTA』のリリース後、イギリスとヨーロッパでのヘッドライナー・ツアーに乗り出す。


オセアニア圏ではそれ相応の知名度を誇るペイトンのデビュー・アルバムは、世界で支持されるだろうか。少なくとも、全体としては、オルタナティヴロックをベースにしたポップソングが心地よい雰囲気を醸し出している。このアルバムがきっかけとなり、より大きな人気を獲得したとしても大きな不思議ではないだろう。モリー・ペイトンのソングライティングのスタイルは、上記のBeabadoobee、またはアーロ・パークスに近いが、声質がクリアで澄んでいるため、開放的な感覚のポップスとしても楽しむことが出来る。アルバムでは、センチメンタルな感覚が漂い、それがペイトンが10代の頃からソングライティングという形で培ってきたスタイルと上手く合致している。


オープナーを飾る「Asphalt」では、インディーフォーク風のイントロから、オルダス・ハーディングの系譜にあるオーガニックな音楽性、そして、編集的なオルトロックサウンドを織り交ぜたポップスへと展開していく。さほど物珍しさはないものの、良質なポップスと見て差し支えないだろう。


二曲目の「Benchwarmer」では一転して、ギターロックの範疇にあるオルタナティヴロックソングが繰り広げられる。この曲もまた同じく現代的なロックソングであるが、単調のフレーズを部分的に織り交ぜながら、若い年代としてのセンチメンタルな感覚を組み込んでいる。サビでは、求心力のあるギターサウンドをバックグラウンドにして、感染力のあるポップバンガーを書こうとチャレンジしている。これは、大型のライヴツアーをこなすようになったシンガーソングライターの「アリーナで映える曲を書こう」という意識が、こういった曲を生み出すことになったものと推測される。

 

アルバムの中盤では、シンセサイザーをオルガンのように見立てた「A Hand Held Strong」において、深妙なポップスを制作している。繊細な感覚を示すことをためらわず、アーティストなりの神聖な感覚で縁取ろうとしている。若手のシンガーソングライターであるにも関わらず、それほど傲慢にならず、謙虚な姿勢を持つことは、アーティストとして素晴らしい資質のひとつである。音楽に対する敬意を欠かさない姿勢や音楽に対して一歩距離を置いたような控えめな感覚は、実際的に良質な作品を生み出すための入り口となる。モリー・ペイトンは現在のところ、完璧なソングライティングの術を身につけたとまではいいがたいが、音楽に対する真摯な姿勢は、今後、何らかの形で花開く時が来るかもしれない。少なくとも、この曲では、それらがバラードというポピュラーシンガーとしての最初の関門をくぐり抜けるきっかけを与えている。

 

若いシンガーソングライターとして、感情の揺れ動きを曲の中で表現することは、それ以上の年代のミュージシャンよりもはるかに重要な意味が求められる。もちろん、若いリスナーに強いカタルシスをもたらすことはそれほど想像に難くない。現代的な生活の中で、たしかにSNSでもそういったことはできるが、楽曲の制作や録音現場で自分の本来の姿を見つけるということはありうる。


アルバムの中盤では、起伏のあるサウンドが描かれていて、それは開放的で癒やしのあるインディーフォークソング「Thrown Over」、続く「Accelerate」では、パンチとフックのあるオルタナティヴロックソングという対象的なコントラストを形成する。これらの気分の激しい揺れ動きや変調は、単なる衝動性以上の動機が含まれている。例えば、後者の場合は、シンセポップと現代的なロックの融合というフローレンス・ウェルチのようなスタイルを彷彿とさせ、これはスターシンガーとしての道を選んだことの証ともなり得る。実際的には、音楽に既視感があるという弊害を差し引いても、こういった曲が今後どのような特性を持ち得るのかに注目してきたいところだ。

 

同じように、オルトロックシンガーとしての性質と合わせて、繊細な感覚を持つポピュラーソングが本作の終盤に登場する。続く「Devotion」では、オルガンの演奏を背景にして、精妙な感覚を持つポップスを書こうと試みている。果たして、歌手が志すのが、ゴスペルのようなブラックミュージックなのか、教会音楽のような讃美歌なのかまでは分からないが、ここに理想とするポップスの雛形のようなものが暗示されたといえるだろう。また、それに続く「Doing Our Worst」では、映画的なポップスを書いており、「Pretty Woman」の主題歌を持ち前の自虐的なジョークで縁取っている。

 

これらのモダンなポップスはオルダス・ハーディングの系譜や、ヨーロッパの移民系のポピュラーシンガーの脱力感のあるソングライティングの形式を受け継いでいる。全般的には、良質なポピュラー・ソング集として楽しめるが、じっくりと聞かせるものや、核心となるものが乏しいのが懸念事項である。つまり、才能があるのにそれをイマイチ使いきれていないのが惜しい点だ。


「Teenager Bedroom Floor」では、再びクランチなギターロックへと舞い戻り、総仕上げとなるクローズ「Get Back To You」では、アルバムの冒頭と同じように、夢想的なオルタナティヴフォークを最後のテーマに掲げている。しかし、これらは、流行りのサウンドの模倣的な側面を示したに過ぎない。デビューアルバムとしては、一定の力量以上の何かが示されている。しかし同時に、現時点では、「スペシャル・ワン」の存在感が示されたとまでは言いがたい。オセアニア圏のシンガーソングライターとして世界の音楽ファンに何を伝えていくのか、そして、モリー・ペイトンとは一体何者なのか、二作目のアルバムにおいて、それらが明示されることを期待してやまない。

 

 

 

78/100 

 

 


「Asphalt」

 

©Rebeccal Valls


サイケデリック・バンド、Kikagaku Moyo(幾何学模様)の創始者でありリード・シンガーであるトモ・カツラダが、新しいソロEPのリリースを発表した。日本人アーティストであるトモ・カツラダは最近、現在拠点としているアムステルダムにコンセプト・ストア「フューチャー・デイズ」を立ち上げ、新作EP『ドリーム・オブ・ザ・エッグ』(11月15日発売)を発表した。

 

シングル「Zen Bungalow」は、1986年の映画『ベティ・ブルー37°2 Le Mati』のサウンドトラックに収録されているガブリエル・ヤレドの「Bungalow Zen」のカバーだ。以下よりチェックしてください。


1920年代の日本の児童文学「夢の卵」にインスパイアされたこのプロジェクトは、桂田が日本のビジュアルアーティスト大竹祥子とコラボレーションした。5枚組のレコード・シリーズの第1弾となるこのEPには、ギタリストのジョニー・ナッシュが参加している。


キカガク・モヨウの最後のアルバム『Kumoyo Island』は2022年にリリースされ、バンドは正式に解散を発表した。バンドの最後のアルバムは浅草のツバメスタジオで録音された。(レビューはこちらからお読み下さい。)

 

 

 「Zen Bungalow」




Tomo Katsurada 『夢の卵 Dream Of The Egg』 EP


Label: Future Days

Release: 2024年11月15日


Tracklist:


1. Moshimo

2. Zen Bungalow

3. Interlude

4. Inner Garden

5. Dream of the Egg

 

幾何学模様が解散 12月3日のファイナルツアーのライブ映像を公開

 



ローズ・エリナー・ドーガルとブラーのギタリスト、グレアム・コクソンの二人によるプロジェクト、The Waeve(ザ・ウェイヴ)がサード・シングル「Broken Boys」と、この曲のライブ・パフォーマンス・ビデオを公開した。ザ・ウェイヴはブラーのギタリストによるニューウェイブやポスト・パンクに傾倒したプロジェクトで、すでにその力量はデビュー・アルバムで強かに示されていた。単なるサイドプロジェクトではないことは、最新のシングルを聞けば瞭然である。

 

「Broken Boys」は2024年9月20日にTransgressive Recordsからリリースされるバンドのセカンド・スタジオ・アルバム『City Lights』からのシングルで、Cabaret Voltaireライクな曲だ。グラハム・コクソンの特徴的なギター・サウンドとドゥーガルのユニークなヴォーカルによるメロディをフィーチャーしたこの曲は、煽情的なアート・ロックのスコールに続くものだ。

 

 City Lights』のリリースを記念して、ザ・ウェイヴはラフ・トレードで以下の4つのスペシャル・ライヴを行う: 9月20日のラフ・トレード・リバプール、9月21日のラフ・トレード・ノッティンガム(SOLD OUT)、9月23日のラフ・トレード・ブリストル(SOLD OUT)、9月24日のラフ・トレード・イースト(ロンドン)。

 

バンドは今年後半にロンドンに戻り、10月29日にロンドンのヴィレッジ・アンダーグラウンドで、これまでで最大のヘッドライン・ショーとなるソールドアウト公演を行う!-ラティテュードのサンライズ・アリーナでのヘッドライン・スロット、グリーンマン・フェスティバル、オードリー・エンドでのパフォーマンスを含むエルボーとの8日間、さらにノエル・ギャラガーとのワーウィック城での注目のショーなど、フェスティバルやショーに出演した。 

 

 

「Broken Boys」-MV

 

先週末より、バンドの次のアルバムからの全曲を収録した新しいパフォーマンス映像シリーズ『City Lights Sessions』がスタートした。ナタリア・ページが監督し、スタジオで至近距離から芸術的に撮影されたこのパフォーマンスには、新譜からの楽曲の魅惑的なフルバンド・ライブ演奏が含まれている。

 

この10曲のコレクション『City Lights』は、ザ・ウェイヴの共同作業による音楽性の進化を示すもので、バンドのサウンドが、より大胆で、より広がりと自信に満ちたものへと固まっていくのを見ることができる。グラハム・コクソンとローズ・エリナー・ドーガルが作曲し、ジェームス・フォードが再びプロデュースしたこのアルバムには、グラハムとローズのヴォーカルをはじめ、キーボード、ギター、ベース、ドラム、サックスが参加している。


デビュー・アルバムと同様、ジェームス・フォード(アークティック・モンキーズ、フローレンス&ザ・マシーン、フォールズ、HAIM)が『シティ・ライツ』をプロデュースした。前作同様、このアルバムでもコクソンがサックスなどで参加している。コクソンとドーガルは、2020年にロンドンで開催されたチャリティ・コンサートのバックステージで初めて出会い、すぐにコラボレーションのアイディアが浮かんだ。


ローズが『一緒に書いてみないか』と言ってくれるまで、いつまた仕事をするのか、また書いてみるのかわからなかった」とコクソンはプレスリリースで語っている。「ファースト・アルバムを聴くと、私とグラハムがレコード制作を通してお互いを知っていくのがわかる」とダガールは言う。




City Light Sessions

 

  

 

 

 ■ The Waeve、セカンドアルバム『City Lights』を正式に発表 9月20日にTransgressiveよりリリース

 



ザ・キュアのロジャー・オドネルは、「侵攻性のリンパ腫」と診断され、最近治療を終えことを明らかにした。現在、治療は成功し、体調は回復中だという。


バンドの長年のキーボーディストは、血液がん啓発月間の始まりに、他の人々に検査を受けるよう奨励するために、診断のニュースを共有した。「癌は打ち負かすことができるが、もし早期に診断されれば、より良いチャンスがある。もし病気で苦しんでいる人を知っているなら、その人に話してほしい」


オドネルの場合、手術で "壊滅的 "な生検結果が出るまで、当初は数ヶ月間症状を無視していたという。


「世界でも有数の専門医のもとで、セカンドオピニオンを得たり、投与された薬を開発したチームから助言を得たりしながら、11ヶ月の治療を終えた」とオドネルは説明した。「最新のSF免疫療法と、100年前に初めて使用された薬剤の恩恵を受けた。治療の最終段階は放射線治療で、これも癌に対して開発された最初の治療法のひとつだった」


この診断により、オドネルは2023年のザ・キュアーのラテンアメリカ・ツアーをキャンセルせざるを得なくなった。


 Marmo  「Deaf Ears Are Sleeping」EP

 

Label: area127

Release: 2024年8月28日

 

Review    ◾️ロンドンのダンスユニットの新作 リズムの組み替えからもたらされる新しいEDM


ロンドンの二人組、marco、dukaによるエレクトロニック・プロジェクト、MARMO(マルモ)は当初、メタルバンドのギタリストとボーカルによって結成された。おそらく両者とも、覆面アーティストであり、Burialのポスト世代のダンスユニットに位置付けられるが、まだまだ謎の多い存在である。


昨年、マルモはアンビエントとSEの効果音を融合させた近未来的なエレクトロニックアルバム『Epistolae』を発表し、ベースメントであるものの、ロンドンに新しいダンスミュージックが台頭したことを示唆していた。

 

『Deaf Ears Are Sleeping  EP』も新しいタイプのダンスミュージックで、聞き手に強いインパクトを及ぼすのは間違いない。三曲収録のEPで、逆向きに収録されたリミックスが並べられている。オリジナル曲との違いは、リミックスバージョンの方がよりディープ・ハウスに近いダンサンブルなナンバーとなっている。

 

当初、メタルバンドとして出発したこともあってか、Marmoの音楽はサブベースが強く、徹底して重低音が強調されている。それはヘヴィメタルから、ドラムンベースやフューチャーベース、ダブステップ等の現地のベースメントの音楽にアウトプット方法が変遷していったに過ぎないのかも知れない。しかし、ロンドンのダンスミュージックらしいエグさ、ドイツを始めとするヨーロッパのEDMを結びつけるという狙いは、前作よりもこの最新作の方が伝わりやすい。

 

「Inner System」は、ドイツのNils Frahm(ニルス・フラーム)の「All Armed」のベースラインの手法を、モジュラーシンセ等を用い、ダブステップのリズムと結びつけて、斬新なEDMを作り上げている。特に、Squarepusherの最初期からの影響があるのは歴然としており、それは、Aphex Twinのような細分化したハイハットやドリル、SE的なアンビエント風のシークエンスという形に反映されている。まさにロンドンのダンスミュージック文化の威信をかけて制作されたオープナーである。実際的に、ローエンドの強いバスドラム(キック)とMARMOの近未来的な音楽性が結び付けられるとき、ダンスミュージックの新奇な表現が産声を上げるというわけなのだ。

 

二曲目「Deaf Ears Are Sleeping」は、例えば1990年代のCLARKの『Turning Dragon』など、ドイツのゴアトランスに触発された癖の強いダンスミュージックだが、オープナーと同じようにSEの効果音を用いながら、オリジナリティ溢れる音楽を追求している。部分的には、最近のオンラインゲームのサウンドトラックのようなコンセプチュアルな音楽が、ダブステップのようなリズムと結び付けられ、近未来的なEDMが構築されている。


「Deaf Ears Are Sleeping」に発見できるのは、バーチャル(仮想空間)の時代の新しい形式のダンスミュージックであり、それらが一貫して重低音の強いベースやバスドラム、Spuarepusher(スクエアプッシャー)のようなアクの強いリズムと結び付けられている。さらに、モジュラー・シンセなのか、サンプラーで出力しているのかまでは判別出来ないが、ドローン風の効果音もトラック全体に独特なドライブ感と、映像的な音楽性を付け加えていることも付記すべきだろう。

 

3つのリミックスは、オリジナル曲をアシッドハウス、ゴアトランス寄りのミックスとして再構成されたものなので、説明は割愛したい。しかし、「Aztec Euphoria」は、ドラムンベースやフューチャーベースの次の新しいジャンルが誕生した、もしくは、その芽吹きが見えはじめたといっても差し支えないかも知れない。リズムが複合的で面白く、アンディ・ストットのようなリズムの重層的な構築に重点を置いたトラックとして楽しめる。また、ブラジルのSeputula(セパルトゥラ)が、民族音楽をヘヴィメタルに置き換えてみせたように、マルモは民族音楽のリズムを彼らの得意とするダンスミュージックの領域に持ち込んだと解釈することができる。


近年、どれもこれも似たり寄ったりなので、EDMは飽和状態に陥っているとばかり思っていたが、どうやら思い違いだったらしい。解決の糸口は思いもよらない別のジャンルにあるのかも知れない。少なくとも、アフリカの打楽器のような音をサンプラーとして処理し、ドラムンベース、ダブステップ、フューチャーベースとして解釈するというマルモの手法は、まったく未曾有のもので、ロンドンのアンダーグラウンドから興味深い音楽が台頭したことの証ともなりえる。

 

例えば、Killing Jokeは、かつてイギリスに固有の音楽が存在しないことを悩んでいたが、彼らの場合は、すでに存在するリズムを複雑に組み替えることで、新しいイギリスの音楽(複合的なリズム)の形式を確立させた。これは、Gang Of Fourはもちろん、Slitsのようなグループを見ても同様だ。新しい音楽が出来ないと嘆くことはなく、すでにあるものに小さな改良を加えたり、工夫をほどこすだけで、従来に存在しなかったものが生み出される場合がある。Killing Jokeのようなポスト・パンクの代名詞的なグループは、歴史的にこのことを立派に実証している。ロンドンのMarmoもまたこれらの系譜に属する先鋭的かつ前衛的なダンスユニットなのである。
 



85/100

  


 Los Bitchos 『Talkie Talkie』


Label: City Slang

Release: 2024年8月30日

 

Review

 

ロンドンの四人組、Los Bitchosのセカンド・アルバムは、カッティングギターでダンサンブルなミュージックを構築し、そしてダンスフロアのような熱狂を巻き起こす。オーストラリア等、移民を中心に構成されるバンドは、演奏における純粋な楽しみや、彼らの音楽的なモチーフ、クンビアをバレアリック等のダンス・ミュージックと絡めて、エンターテインメント性をもたらす。

 

ロス・ビッチョスのサウンドはテキサスのクルアンビンに近く、カッティングギターはサイケデリックなテイストに縁取られる。それほど難しく考えず、体を揺らすためのダンスミュージックとして楽しめるが、 これらのサウンドは薄まり過ぎて、ライト過ぎる印象を受けなくもない。アルバムのオープニングから、「Hi」という掛け声とともに軽快なダンスミュージックが始まる、それは時々、ファンカデリックのようなP-Funkに依拠したサウンドを呼び起こすこともあるが、オリジネーターのようなコアなファンクサウンドには接近出来ていない。軽やかさという点は利点であり、大きな長所であるが、これらのサウンドは薄められすぎている気もする。


確かに、「Talkie Talkie, Charlie Charlie」では、カッティングギターが軽快なグルーブを呼び覚ましている。ただ、このサウンドも70年代の音楽の焼き増しか後追いに過ぎず、いまいち新奇性に乏しい。AORとクンビアのような民族音楽をかけ合わせた「Don't Change」は、ロス・ビッチョスの持ち味であるトロピカルなテイストと、ダンサンブルな熱狂を呼び起こすことに成功している。ただ、ボーカルなしのインストであるため、飽きの来るサウンドであるのが気がかりである。また、曲の盛り上がりにも欠け、非常に平坦なサウンドであるのも難点である。

 

ただ、アルバムの一つのポイントとしては、ロス・ビッチョスの持ち味であるラテン音楽の影響が本作に個性味を与えることがある。「Kiki, You Complete Me」では、ラテン音楽の旋律とリズムが、バンドサウンドとしてエキゾチズムをもたらす。 ただ、難点としては、クルアンビンのようなセッションとしての白熱した感覚や、ライブのような雰囲気を形づくるまでには至っていない。このサウンドでボーカルなしというのは、少し間が持たないため、飽きてしまうのだ。

 

方や、サウンドの中に変化をもたらそうという工夫が随所に見受けられるのも事実である。ワウサウンドを絡めたギターロック「1K!」は、クルアンビンのようなサイケ性とリゾート的な感覚に縁取られ、それらがファニーな印象を形づくることがある。ただ、スケールとして同じような進行が多いため、どうしても音階的、及びリズム的にマンネリ化しているのが懸念事項である。


「La Bomba」は、アルバムの中では最も勢いを感じさせ、ライブパフォーマンスの期待を盛り上げてくれるが、やはりスケール進行として単調な印象をおぼえざるを得ず、音楽的なバリエーションやひらめきに乏しい。それに加えて、70年代の後追いのようなサウンドであるため、目を引くものがないように思える。アルバムジャケットの派手なイメージは良いけれども、それが実際のサウンドと比べると、あまりにも落差が大きいように思える。楽しいライブサウンドを期待してアルバムを聴くと、少しだけ落胆してしまうかもしれない。これはこの「Talkie Talkie」がレコーディング作品の範疇から一歩飛び出すような冒険心が乏しいことに起因する。

 

アルバムの終盤でもほとんどサウンド的な変化が見受けられず、その中には眠気を誘うものもある。また、ボーカルがなく、インスト中心なのもちょっと寂しく、色気にかけるという気がする。ギターやベースの音作りへのこだわりはたしかに見受けられるが、サウンドチェックの段階で終わってしまっている気がする。つまり、これらの曲は曲にすらなっておらず、それ以前で録音され、パッケージ化されたものに過ぎない。だから世に出た時、既に形骸化している。

 

唯一、終盤に収録されている「Tango & Twirl」ではアルゼンチンタンゴの音楽性が登場するが、果たして、ピアソラが築いたアルゼンチンの文化がこのように軽薄な内容であると考えることは妥当と言えるのだろうか。アルバム全体に感じるのは、ヨーロッパ主義から見た他の地域の文化に対する奇妙な優越感と搾取的な軽視である。その点ははっきり言えば、容認することが出来ない。音楽の表現は自由であるべきだが、表現における放埒と自由性はまったく意味が異なる。最大の問題は、他地域の文化圏に対する敬意が欠如していることである。このアルバムを手に取るくらいなら、クルアンビンの最新作「A La Sala」を先に聴くことをおすすめする。

 

 

 

68/100 

 

 





 【J-POP Trends】 8月のJ-Popの注目作をピックアップ


 

提携レーベルからご提供いただいたリリース情報を元に、注目の邦楽のシングル作やアルバムの収録曲をピックアップするというコーナー。夏も終わりに差し掛かり、夏休みも終わり。いよいよ秋が近づいてきました。2024年もいよいよ後半です。年末に向けて頑張っていきましょう。

 

 

 

JJJ 「July Tour at Zepp Haneda」

 

JJJは、ダイチ・ヤマモトとの共同制作で知られている。秀逸なトラックメイクはもとより、ハリのあるリリック捌きを披露するミュージシャン。日本のロイル・カーナーとも称すべきMC/トラックメイカー。

 

今回、JJJは、7月のZepp Hanedaでのライブ公演を音源にした「July Tour at Zepp Haneda」をリリースした。アルバムの全12曲には白熱したステージの模様を収録。

 

ライブでは、DJセットに加え、コントラバス奏者を招聘し、エレクトロニック・ジャズの影響を絡めたアクトを披露している。もちろん、旧来のドリルやトラップといったJJJらしいヒップホップも堪能できる。ロンドンのヒップホップを反映させた最もクールな音楽性を体感しよう。

 

「Strand」

 



柴田聡子 「Reebok」

 

 バタやんこと柴田聡子の新作は、最新アルバム『Your Favorite Things』のリミックス・バージョン。リミックスを手掛けたのは、日本の人気DJ/プロデューサー、tofubeats。


シティポップや昭和歌謡の世界観をベースにして、モダンなポピュラーワールドを構築するシンガーソングライターの今後の活躍に注目したい。

 

今後、柴田聡子は、最新アルバムのりミックスアルバム「My Favorite Things」の発売を予定している。「Reebok」は、現在、各レコードショップで、Tofbeatsのリミックスシングルと合わせて7インチで販売中。デジタルバージョンも配信中。オリジナル曲のミュージックビデオもぜひ。

 

 

「Reebok」


 

 

ziproom 「Dive」

神戸を拠点に活動するヒップホップ・コレクティヴ、Ziproom。テクノ、ハウス、ダブ、アンビエントを取り入れたエレクトロニックなヒップホップを制作する。

 

スペースシャワーから発売されたニューシングル「Dive」では、フューチャーベースをベースに、アーバンなヒップホップ、及びニュアンスを披露する。英国/レスターのSainte、ロンドンのStormzyが好きな人ならピンとくるものがあるかもしれない。


「Dive」はプロデューサーにMFSなどを手掛けているRUI、マスタリング・エンジニアにはエド・シーラン、アヴィーチー、チャーリーXCX、ディスクロージャーなどを手掛け、日本のHIP HOPシーンからも支持の厚いStuart Hawkesを迎え、Arich自身がミックスを手掛けている。


RUIによるメロディアスで内省的なビートに2人の安定感あるラップが絡み、ziproomならではの個性溢れる楽曲となっている。


 

 

 

「Dive」

 

 

 

Laura Day Romance 「渚で会いましょう」

 

東京のインディーフォークバンドの待望のニューシングル「渚で会いましょう」は、このバンドの旧来のオルトフォークの音楽性はそのままに、ローファイなギター、そしてややセンチメンタルなボーカルを絡めて、唯一無二のローラズの世界観を作り上げている。


ドラムの磯本がリズムパターンを他のメンバーに渡し、直感的なやりとりで制作されたというこの新曲。


ウィルコのような編集的なサウンド、ミュージック・コンクレートを要素を散りばめ、ローファイ風のギターを反映させ、J-POPを意識しつつも、洋楽とのクロスオーバーサウンドを構築している。聞きやすさがあるが、同時に作り込みの凄さが際立つニューシングルである。ギターのデチューンのエフェクト等を見る限り、かなり音作りへのこだわりを感じさせる。


 

 「渚で会いましょう」

 

 

 

 青葉市子 「Lullaby」

 

全国ツアーとヨーロッパツアーを発表した日本のシンガーソングライター、青葉市子のニューシングル「Lullaby」はフォークトロニカの音楽性が選ばれている。

 

アコースティックギターの弾き語りであるが、曲の途中からエレクトロニカやグロッケンシュピールの要素を押し出し、ファンタジックな世界観へと移行していく。

 

イントロでは暗鬱のように思える曲調だが、徐々に森の奥深くに入り込んでいくかのような摩訶不思議な音楽へと変化していき、リスナーの心を巧みに捉える。歌とギターによってかなり奥深い音楽性を提供している。ソングライターとしての手腕にあらためて敬意を表しておきたい。

 

「Lullaby」




◾️前回のJ-POP Trendsを読む: