レーベル提供のリリース情報を基にして7月の邦楽の作品を以下にピックアップし、ご紹介致します。先月は、''NHKワークス''の一貫として発売された蓮沼執太の芸術と音楽の融合作品「Ⅰ (Neo-Japonism Immersive Theater Original Sound Track)」を筆頭に注目すべき音源が複数リリースされました。夏らしいテーマを選んだカジヒデキの四曲入りのEP「Start A Summer」も発売。他にも豪華ゲストが参加したU-Zhaanの新作アルバムも発売。下記よりお好みの音楽をお探し下さい。

 


蓮沼執太 「Ⅰ (Neo-Japonism Immersive Theater Original Sound Track)」



 
NHKが放送100年を機に立ち上げた「新ジャポニズム」プロジェクトと東京国立博物館のスペシャルプロジェクトとして、2025年3月25日より8月3日まで東京国立博物館で開催されている「イマーシブシアター 新ジャポニズム~縄文から浮世絵 そしてアニメへ~」のために、蓮沼執太が制作したサウンドトラックがリリース。全8曲で構成されるこのサウンドトラックでは、蓮沼執太が得意とするミニマルテクノを中心とし、展示空間のような音響体験をすることが可能。


イマーシブシアターは、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺」の蔦屋重三郎役である横浜流星ナビゲーターをつとめ、はるか1万年以上前から、日本の風土の中で、独自の美意識が受け継がれてきた。縄文土器、はにわ、絵巻、鎧兜、浮世絵、世界で人気のアニメまで、NHKの高精細映像と技術で結集した、没入体験型展覧会。


東京国立博物館が所蔵する国宝や重要文化財を中心に織りなす日本文化のタイムトラベルを大迫力の映像と立体音響で展開している。(詳細はSPACE SHOWER公式サイトを参照)
 
 
 
「NIJIT Opening」
 
 
 
▪ストリーミング: https://ssm.lnk.to/I_neojaponism



阿部海太郎 「Music Portrait of Takashi Minamoto(グレースの履歴)」- Soundtrack




劇伴音楽を中心に活躍する作曲家/阿部海太郎。前作のシングルではグレゴリオ聖歌や教会旋法を取り入れたコラールをリリースしたが、このシリーズ曲は今後9ヶ月に及び連続する予定。第二弾シングル「グレースの履歴」は、2023年に放映されたドラマのための劇伴音楽集となっている。


「グレースの履歴」は亡くなった妻の愛車「グレース」のカーナビにのこされていた彼女の旅の履歴をたどる男と、各地で出会う人々それぞれの再生を描くロードムービー。エンディング曲『ハートビート』の作詞とヴォーカルは武田カオリ。エレキギターとドラムのセッションによるサウンドが日本の原風景を巡る名車の疾走感を掻き立てる。(出演:滝藤賢一、尾野真千子、広末涼子、伊藤英明、柄本佑、林遣都、丘みつ子、石橋蓮司、宇崎竜童 ほか/2023)   全15曲。

 
 
「Heartbeat」 
 



▪ストリーミング: https://ssm.lnk.to/TracesofGrace




Icchie 「Ask Me Now」



DETERMINATIONS、BUSH OF GHOSTSでの活動を経て、現在は、YOSSY LITTLE NOISE WEAVERとして活動するicchie。 


ニューシングル「Ask Me Now」は、ジャズピアニスト、Thelonious Monk(セロニアス・モンク)作曲のカヴァー。この曲は、のちにジャズシンガー、Jon Hendricks(ジョン・ヘンドリックス)が詩をつけた。YOSSYのコーラスを除くトラック全編をicchieが一人で制作した。ジャマイカ音楽、ダブ、テクノなどからの影響が強かった前2作ともYOSSY LITTLE NOISE WEAVERとも異なるエクスペリメンタルな風合いを持ちながらもどこか温かいユニークな作品となっている。

 
 
 「Ask Me Now」
 
 
 
 
ストリーミング: https://ssm.lnk.to/icchie_askmenow 
 




カジヒデキ 「Start A Summer」 -EP



 
カジヒデキ「START A SUMMER」2025.07.23 リリース 来る2026年はカジヒデキのソロデビュー30周年の記念イヤー。それに向けてのキック・オフ作品として、カジをデビュー時から支えてきたニールとイライザの二人(堀江博久&松田 "chabe "岳二)と『夏』『ヴァカンス』をテーマに作り上げたご機嫌なサマーが完成した。


カジヒデキのソロデビュー30周年の記念イヤーに向けてのキック・オフ作品として、カジをデビュー時から支えてきたNEIL AND IRAIZAの二人(堀江博久&松田“CHABE”岳二)と『夏』『ヴァカンス』をテーマに作り上げたご機嫌なサマーEPが完成。ゲスト・ギタリストとしておとぎ話の牛尾健太、コーラスには前作にも参加したミサトとアマイワナが加わり、彩りを添えた。

 

「Start A Summer」 




ストリーミング: https://ssm.lnk.to/startasummer
 
 
 
鈴木真海子 「雨と」



2014年に女性2人組ラップユニットchelmicoとして活動をスタート。2017年より神奈川県を拠点とする「ご近所録音チーム」ことピスタチオスタジオに所属、アーティストとしても多彩な活動をしている鈴木真海、作編曲家・ryo高橋との共作による新作シングル「雨と」をリリースする。通常盤と初回限定盤で発売。本作は2025年7月から放送されるtvアニメ『雨と君と』opテーマに決定した。


タイトル曲「雨と」、同曲を軽やかなアレンジで再構築したカップリング「雨と(versão de bolso)」の全2曲が収録。会話するように展開するパルチード・アウトのリズムと、詩的な歌詞が織りなす作品が特徴の本作では、古川麦のギターが軽快にリードし、サンバージャズの風合いが漂う中、鈴木真海子の新たな一面を見いだせる。
 
 
「雨と」 



U-Zhaan 『Tabla Dhi, Tabla Dha』-New Album



前作『タブラロックマウンテン』から約11年ぶりに、ニューアルバム『Tabla Dhi, Tabla Dha』を2025年7月23日にリリース。


川越出身の伝説的なタブラ奏者U-Zhaanのニューアルバムは、ラップ、J-POP、民族音楽を交えた作品集。ファンからも好評価です。インドの本格的な伝統音楽ラーガを楽しめるアルバムとなっています。


鎮座DOPENESS、小山圭吾、青葉市子、ハナレグミ、原口沙輔、ベンガル人ラッパー、シジー、そしてインドのタールシール奏者プルバヤン・チャタルジーと一曲ずつコラボレーション。坂本龍一とのコラボ曲「Tibetan Dance(チベット舞踊)」は葛西敏彦による新ミックスで収録。
 
 
 
「Tibetan Dance (feat. 坂本龍一) (Cover)」


Yannis & The Yow(ヤニス&ザ・ヨウ)は、広く絶賛されたEP「Lagos Paris London」(フィーチャリング:トニー・アレン)に続き、2024年秋にアムステルダムとパリでソールドアウト公演を含む一連のエネルギッシュなライブ・パフォーマンスを行った。 


これらのエレクトリックなコンサートを基にしたライヴ・アルバム「Onstage」が、本日Transgressive Recordsよりデジタル・リリースされ、11月14日には限定盤のダブル・ゲートフォールド・ブラック・ヴァイナルが発売される。


この6曲入りアルバムには、ヤニス&ザ・ヨウのデビューEPに収録された、オールドスクールなアフロビートにインスパイアされた広がりのあるジャムが収録されている。


Onstage」には、EPのハイライトである「Night Green, Heavy Love」の衝撃的な拡大演奏、未発表曲「3」、1979年の画期的なレコード「Progress, Jealousy」に収録されているトニー・アレンの傑作「Afrodisco Beat」のまばゆいばかりのカヴァーが収録されている。 


Y&TYのツアー・バンドは、イギリスのFoalsのフロントマンでEPのクリエイティブ・フォースでもあるヤニス・フィリッパキスが率いた。  彼は、EPの主要コラボレーターであるヴィンセント・タウレル(鍵盤)とヴィンセント・テーガー(ドラム)、デイヴ・オクム(ギター、ザ・インヴィジブル)、セイエ・アデレカン(ベース、ゴリラズ)、そしてプロジェクトのヴィジュアル・コラボレーターであるキット・モンティス(パーカッション、シンセ)と共に参加した。 







YANNIS & THE YAW  「ONSTAGE」



Label: Transgressive

Release: 2025年11月14日


Tracklist

1. Under The Strikes (Live In Paris)

2. Walk Through Fire (Live In Paris)

3. 3 (Live In Paris)

4. Night Green, Heavy Love (Live In Paris)

5. Afrodisco Beat (Live In Amsterdam)

6. Rain Can't Reach Us (Live In Paris)



▪️Pre-save:https://transgressive.lnk.to/onstage



Yannis & The Yaw followed their critically acclaimed EP ‘Lagos Paris London’ (featuring Tony Allen) with a series of high-energy live performances, including sold-out shows in Amsterdam & Paris, during the Autumn of 2024. These electric concerts are now the basis for a live album ‘Onstage’, released digitally today via Transgressive Records, and on limited-edition double gatefold black vinyl on November 14th.


The 6-track offering showcases the expansive, old school Afrobeat-inspired jams from Yannis & The Yaw’s debut EP; capturing the spirit of the musicianship and personality that made the late, legendary Tony Allen such an inimitable figure.


‘Onstage’ includes an electrifying and extended rendition of EP highlight ‘Night Green, Heavy Love’ as well as a previously unreleased composition ‘3’ and a dazzling cover of the Tony Allen masterpiece 'Afrodisco Beat' from his groundbreaking 1979 record ‘Progress, Jealousy’. 


The Y&TY touring band was led by Yannis Philippakis, Foals frontman and creative force behind the EP.  He was joined by key EP collaborators Vincent Taurelle (keys) and Vincent Taeger (drums) along with Dave Okumu (guitar, The Invisible) Seye Adelekan (bass, Gorillaz) and the project’s visual collaborator Kit Monteith (percussion, synths). 


 

UK/ダーラムのロックバンド、Fortitude Valleyは、BBC Radio 6で楽曲のオンエア経験を持つグループ。The  Beths、The Go-Go's、 Pavementなどのサウンドに触発を受けてきた。バンドは、ロス・カンペシーノス!、アロ・ダーリン、グルーフ・リース、ザ・ウェーブ・ピクチャーズとステージを共にしてきた。ローラは以前、サイケデリック・ポップ・バンド、タイガーキャッツで活動しており、バンドにはマーサやファスト・ブラッドのメンバーも参加している。パンクやパワーポップ、インディーポップのエッセンスをくまなく吸収したインディーズサウンドが特徴である。


フォーティテュード・バレーがセルフタイトル・デビューをリリースしてからおよそ4年が経過した。それはたぶんバンドにとって必要な時間だった。本日リリースされたセカンドアルバムは、ロックダウン、ロジスティクス、他にも多くのことを考えながら作り上げられた。 今回はこれまでとは違う。じっくりと念入りに作り上げたため、奇妙な自信と自負に満ちている。現在のラインナップは、ローラ・コヴィック - ギター、ヴォーカル、キーボード、デヴィッド・ヒリアー - ギター、ナオミ・グリフィン - ベース、ネイサン・ステェファンズ・グリフィン - ドラム、パーカッション、ギター。


バンドの曲制作を担当するソングライターのローラ・コヴイックはアルバムの制作について次のように明かしている。 「フィラー・ソング(間に合わせの曲)を入れたくなかった。可能な限り良い曲を作ることに集中し、良くないと思った曲はカットした」という。 メロディーは相変わらず温かく心地よい、エッジはより鋭く、ギターはより歯ごたえがあり、意図はより明確だ。


作曲は2023年初めに始まったが、レコーディングはほぼ1年ごとに2回に分けて行われた。 無理に急ぐことはなく、それが制作の重要なポイントでもあった。 「時間がたくさんあったから、見た目やテーマなど、もう少し慎重に見直すことができた」 その意図的な感覚は至るところに散りばめられているが、決して堅苦しくは感じないはずだ。 それは、すべてのアイデアを二の次にするのではなく、自分の直感を信じることから生まれる明晰さのようなもの。 バンドはノッティンガムのJT Soarでフィル・ブースとレコーディングを行った。彼は何も電話させなかった。


 「フィルは素晴らしくて、たくさんの意見やアイデアをくれた。 彼が提案したことは、ほぼすべて実現したと思う。週末は2日だけで、そのあと私とデイヴ(ギター)は追加のギターを弾くために週末にスタジオに行った」


もちろん、完璧主義的なサウンドディレクションにはそれなりの困難が伴った。 「デイヴは偏頭痛持ちだった。 彼はかなり複雑なソロを書くし、自分を追い込むのが好きだから、レコーディングは難しい側面もあった。 だから何度もテイクを重ねなければならず、かなりストレスを感じていた。 それでも、その努力は表れている。 素晴らしいサウンドで、みんな本当に満足している」


『Part Of The Problem, Baby』はFortitude Valleyらしいサウンドだが、よりラウドになっているという。 デビュー作が優しくインディー・ポップに傾倒していたのに対し、今作はフックの効いたギターとライブワイヤーのようなロック・エネルギーで聴く者を惹きつける。


 「それは自然なこと。 バンドに曲を持って行って一緒に演奏すると、デモとはまったく違うサウンドになることもある。 その多くの理由は、アルバムとアルバムの間にパンキッシュでヘヴィなバンドを好んで聴いていたからだと思う。 でも、ギターでもっと自分を押し出そうとしたからでもある」


リリックの面でも工夫が凝らされている。他者との距離、自己のアイデンティティや成長といったテーマを無意識に織り交ぜている。 「テーマを決めて曲を書いているわけではありません。 なんとなく歌詞が頭に浮かんでくるんだけど、最後には共通する糸が見えてくることがあった」オーストラリアからロンドン、そして、ダラムへと移り住み、COVIDで家族と離れ離れになり、10代の脳みそを持ったまま大人になるという奇妙な余韻が心のどこかにわだかまつている。


オーストラリアに戻ったことで、その糸がより鮮明になった。「あるとき、10代の頃の古い日記を見つけたんだ。 いつも''イギリスに引っ越したい''と書いていた。 そして今、オーストラリアはとても素敵だと思っている。『サンシャイン・ステイト』では、「大げさに言うつもりはないけど、もう二度と恋はしない」という一節が、その日記から引用されている。 「ティーンエイジャーの頃はたくさんのホルモンや感情を持っていて、何もかもがドラマのようだった」


もちろん、今考えるとそれは少しこそばゆい感じもなくはない。昔を振り返ってみると、彼女は苦笑せざるを得ない。「10代の頃の私はなんでも我慢できなかった。 でも、若い頃はライブに行ったり、レコードショップでバンドを見たり、音楽に夢中でした。 その激しさにはちょっと憧れてしまう」


最も静かな感動を与えてくれる曲が「Into The Wild」に他ならない。この曲はローラにとって思い入れのある曲なのだという。「この曲は10年前、ウクレレ時代に書いた。 10曲目が必要だったのだけど、ネイサンがなぜかこの曲を覚えていたの。 アーカイブから掘り出し、ギター用に作り直してみた。 コードをいくつか変えて、ミドルエイトを加えました。歌詞はそのままだったけどね」 それから長い時間が流れた。にもかかわらず、違和感はほとんどなく、あるべきところに収まった。「私の人生の中で違う場所だったけど、それでもフィットしているはずだよ」とローラは言う。




Fortitude Valley 『Part of The Problem, Baby』- Specialist Subject

 

フォーティテュード・ヴァレーのセルフタイトルのデビューアルバムは、Pavementのようなアルトロックが主な特徴だった。その中には、The Beths,Alvvaysのようなポップサウンドを内包させていた。二作目は音楽性が明瞭になり、マスタリングの側面でも音がクリアになっている。それによるものか、ローラのボーカルのメロディーの青春時代を思い起こさせる甘酸っぱさは言わずもがな、バンドサウンドとしても全体的な意図が明らかになっている。このアルバムは、現代的なテイストを持つパワーポップソングを中心に繰り広げられる、ダーラムのロックバンドのドキュメント的な記録である。その親近感のあるインディーロックサウンドは、シカゴのBeach Bunnyに近いかもしれない。センチメンタルなメロディーの雰囲気を保ちつつも、ライブ・バンドとしての空気感のどこかに残している。

 

今作ではメロディックパンクの影響が反映され、楽曲はよりシンプルになっている。スリーコードやパワーコードのギターを多用し、ボーカルのメロディラインを浮き立たせるようなサウンドが特徴だ。バンド全体の演奏は、ボーカルと駆け引きをし、アンサンブルが主体になったかと思えば、ボーカルが主役にもなる。変幻自在なサウンドだが、バンドのソングライティングやレコーディングは、「何を聞き手に聞かせたいか」が明らかにされている。結局のところ、どれほど作曲や音楽性が優れていても、また、演奏が巧みだとしても、それが意図したような形で聞き手側に伝わらないとしたらとても惜しいことだ。音楽がどのように聴かれるのかを把握し、そして曲に磨きをかけていく。基本的なことに過ぎないが、この繰り返しの作業は良いレコードを制作する際に欠かすことができない。そしてもちろん、多くの場合は、ミュージシャンの方が一般的なリスナーよりも音楽的な理解力はあるだろうと思われるが、それほど詳しくない音楽ファンにも取っ掛かりのようなものを用意しないと、どうしても作曲や録音は独りよがりになってしまう。

 

その点、このアルバムは最近聴いた中では最も協調性のあるロックソング集である。もっと高度なことも出来たのではないかと個人的には思うのだが、聞き手の多様な音楽的な理解力に合わせ、最小公約数を探したという感じである。つまり、バンドメンバーがあまり良くないと思う収録曲をカットしたというだけではなく、楽曲の側面でも、余計な箇所を徹底して削ぎ落とし、最小化し簡素化している。西海岸の2000年代のポップパンクのような作曲の簡素さ、そして、それらが現代的なインディーロックのファンシーな感覚に縁取られている。それは少し昔の事例になってしまうが、Fastbacksのようなメロディアスなパンクバンドのような温和な雰囲気を持ち合わせている。楽曲のベースに流れているのは、パンクロックであると思うが、それらがパワーポップやガレージロック、インディーポップを通じてアウトプットされる。結果的には、フレンドリーでキャッチーなロックソングが出来上がるというわけなのだ。

 

ただ、一般化されたロックソングの欠点としては、それらがニュートラルにならざるを得ない、ということである。一般化とは、音楽の網や裾野を広げるということで、換言すれば、一つの焦点に絞った音楽とは対象的に、先鋭的な側面を削ぎ落とし、均等にしていく行為にほかならない。それはより詳しく言うと、親しみやすく、聴きやすいけれど、その反面、欠点としては、すぐ飽きてしまうという弊害をもたらす。しかし、多くの成功した世界的なロックバンドは、なぜかしれないが、こういった均一化された曲を制作しても、音楽そのものが一辺倒にならないし、平坦にもならない。これは本当に不思議でならない。まるで彼らの紡ぐ出す音楽は、ドキュメントや映画のようにドラマティックに映る。また、音楽自体はフラットなのに、静かに聞き入らせる集中性がある。集中性というのは、聞き手から見れば、説得力とも言える。どういう点が音楽に説得力を与えるかと言えば、リアルな体験や人生観しかない。


バンドの場合、個人的な経験を他のメンバーと共有することが大切だ。そういった他者との共有をする時には、複数の人間の中に自分と違う性質を許容したり認めるための懐深さが必要になるのは、言うまでもない。


バンドやコラボというのは友人関係を構築していくのに良く似ている。最初は共通する点の共有から始まり、最終的には、相容れない点の共有へとたどり着く。その中では不和や喧嘩だって起こり得る。しかし、もし自分とはまったく違う点があると、はっきりと認めたとしても、最終的にそれは人間的な衝突や齟齬をもたらすわけではない。いや、それとは対象的に、融和をもたらすのだ。もちろん、こういった領域にまでたどり着いた人々は少ないのではないかと思われる。だが、それこそ、バンドやコラボレーションをすることの意義なのではないだろうか。フォーティテュード・ヴァレーのセカンド・アルバムの楽曲は、そういったことをありありと感じさせる。他者の個性を尊重することが、このアルバムの重要な核心をなす。シンガーソングライターのローラは、そのための道筋を示し、バンドメンバーと肩を組んでゴールを目指す。

 

『Part of The Problem, Baby』はオープニング「Everything Everywhere」を中心に、個人的な感覚や追憶を複数のグループで共有し、それらを的確なロックサウンドに絞っている。ボーカルのメロディーは親しみやすく、時々は湿っぽさがあるが、バンド全体のサウンドには融和があり、それらが良質なハーモニーを奏でている。このアルバムの冒頭曲には、ソングライターのローラが若い時代に夢中になっていたレコードの影響がそこかしこに散りばめられている。それらがたとえ思い出に過ぎないとしても、キラキラとしたまばゆいほどの輝きを放ってやまない。もちろん、音楽そのものが人生の流れと結びつき、センチメンタルな感覚を呼び起こす。それらのエモーションは、パワー・ポップの響きとガレージ・ロック風の響きと呼応している。コーラスやサビの箇所で歌われるのは、一般的な感覚であり、それがシンパシーを生み出す働きを持つのは言うまでもない。卓越したものを選ばず、誰もが共感するような個人的な感覚を見つけて歌い上げる。アルバムの冒頭は、脆いようなセンチメンタルな響きが込められている。しかし、対象的にアップテンポなパンキッシュなロックナンバー「Totally」では、明朗でソリッドなギターのリフを中心に、ハードロックやパワーポップを基幹にした甘酸っぱいロックソングを聴くことが出来る。特にボーカルの旋律進行は、青春の切ないような響きを導き出す。

 

「Video(Right Here With You)」では、The Bethsと共通するような夢想的なインディーポップとパンクサウンドの融合を楽しめる。この曲では、特にギターが全体の中で押し出され、硬質な響きを持ち、全体のアンサンブルの中で良いヴァイブスを生み出す。ガレージロック風のジャキジャキしたサウンドはギターファンであれば必聴である。 そして、それらがこのバンドの持ち味である、ほのかに甘酸っぱいメロディーと融和している。もちろん、パンキッシュでエッジの効いたサウンドだが、その中には温和さが併存している。トゲトゲしいパンクも一つの魅力ではあるのだが、メロディアスなパンクも捨てがたいものがある。そして、フォーティテュード・ヴァレーの場合は、ナンバーガールの最初期のように鮮烈で青春の雰囲気に包まれたギターロックサウンドを提供している。これらは、音楽全体に良いヴァイヴを生み出している。曲の後半では、ドラムの演奏に特に注目してほしい。メロディやビート的確に補佐し、主役的な立ち位置になる。実際的に、ネイサンのドラムは、このパンキッシュな曲にソリッドなダイナミズムを及ぼしている。


 

 「Video(Right Here With You)」

 

 


「Red Sky」はインディーポップをベースにしたロックソングで、このバンドの入門曲として推薦する。持ち前の甘酸っぱいメロディーがバンド全体のアンサンブルに絶妙に溶け込んでいる。特に、ボーカルのコーラスとヴァースの箇所で、バンドアンサンブルが上手く駆け引きをし、ラウドとサイレンスという両側面で、ボーカルの持つ温和な雰囲気や穏やかさを補佐する。連携の取れたサウンドで、一貫して音楽性は旋律的な側面に重点が絞られている。冒頭にも述べたように、「何をどう聞かせたいのか?」という狙いや意図が見える一曲である。


「Sunshine State」では、バンドのアンセミックなコーラスが力強い印象を放つ。 同じようにThe Bethsを彷彿とさせるようなメロディアスなパンクサウンド。そして一貫してスリーコードを中心に組み立てられ、それがボーカルを浮き立たせるような役目を担っている。ヴァースからブリッジにかけての盛り上がりが、サビのコーラスの部分へと期待感を盛り上げ、実際的にそれを裏切らない形で、聞かせどころが登場する。コーラスの箇所では、ほどよく力の抜けたフレーズ、そして少しノスタルジックな雰囲気を持つ音楽性が際立っている。もちろん、ボーカルとギターソロが対旋律を描き、バンドとして連携の取れたサウンドを作り上げている。曲の後半では、シンガロング必須のチャントが登場する。ベタではあるが、その中に熱狂性がこもる。ポップスに強烈に傾倒したサウンドもある。「Don't You Wanna Be Near Me?」は、どこまでも純粋な雰囲気を持つパワーポップソング。ものすごく簡素で、単純な楽曲構成であるが、その中に、なぜかほろりとさせるものがある。これもまた、実際的な経験が含まれているからこその感情的な共鳴効果なのである。ローラの作曲は、夢想的な感覚もありつつも、現実性に基づいている。

 

 

 「Sunshine State」

 

 


タイトル曲は、アルバムのハイライトで、バンドが重要視しているという。ポリヴァイナルに所属するOceanatorを彷彿とさせる、産業ロックの響きを強調した魅力的な一曲である。特に、この曲では、ギターソロが大きな活躍し、全体的な音楽性に強く影響を及ぼしている。その中には大陸的なロマンや情景的な音楽が含まれ、脳裏にそれらを連想させる力がある。また、タイトなドラムの演奏も、曲の音楽性を上手くリードしている。そして、ギターに対して対旋律的な効果を及ぼすベース。バンドとしては、どの要素も欠かすことが出来ない。ボーカルのメロディーが哀愁のある美しさを感じさせる理由は、これらのリアルなライブセッションを重視したサウンドが盤石な曲の枠組みを作り出し、その上で最後の牙城としてボーカルが存在するからである。


ギターやベースの和声進行としても半音階の隣接音を経ながら、基本的な調性の中で、どことなく切ないようなエモーションを巧みに引き出すこともある。また、間奏の箇所では、ドラムが主役となり、スネアとバスの強固で硬質な響きを持つパーカッションが力強い印象を聞き手にもたらす。この曲はバンドが細部までじっくりと作り込んだ形跡があるためか、聴き応えがある。どのような細かな箇所も適当に済まさないというプロフェッショナルな姿勢が、このアルバムを平均的な水準以上の内容にし、そしてAlvvaysのようなバンドの作品と部分的には同じレベルに押し上げている。

  

アルバムの後半の3曲では、音楽性に多彩な側面を持たせていて、コーダのように聞くことができる。しかし、同時に、大きく音楽性が変更されるというわけでもない。よりセンチメンタルでナイーブな感覚を顕にした「Take Me Away,I'm Dreaming」では、現実逃避的なニュアンスもあるが、その足はしっかりと地についている。 そして、ベースがソロ的なパートで間奏を担っている。このバンドは、チームとしての連携が最高のストロングポイントであり、どのメンバーの個性も軽視しないという点が、良質なロックソングを作り出すためのよすがになっていることが分かる。ソロではできない音楽を、彼らフォーティテュード・ヴァレーは巧みに実践してみせるのだ。


音楽性という側面では、むしろアルバムの終盤になればなるほど、深遠な感覚が色濃くなってくる。それは音楽という靄の向こう側に実際的な意味を見出す行為のようであり、また、バンドの音楽の本質的な部分に近づいていくということである。続く「Into The Wild」では、方法論こそ同じでありながら、ブリットポップのような哀愁のあるフレーズが時折登場することがある。

 

Jets to Brazilの前身、伝説的なエモコアバンド、Jawbreakerのカットソーの先入観は裏切らない。バンドはこの数年、パンクやヘヴィロックを中心に聴いていたというが、アルバムのクローズ「Oceans Apart」には、このエピソードがはっきりとした形で現れ出ている。疾走感があり、爽やか。2000年代以降のメロディックパンクの教本のような曲ですが、懐かしさこそあれ、新しいモダンな感覚によりアップデートされている。相変わらず、フォーティテュード・ヴァレーは軽やかで親しみやすい音楽を提供し、そのクオリティは最後まで続いている。サビ(コーラス)でも期待を裏切らない。良いメロディーの条件とは、万人が口ずさめることである。徹底して簡素さを強調するロックサウンドは今後多くのリスナーを獲得しても全く不思議ではありません。

 

 

 

82/100

 

 

 

 

「Part of The Problem, Baby」

 

 

 

▪Fortitude Valley 『Part of The Problem, Baby』はSpecialist Subjectより発売。Bandcampでの視聴はこちらからどうぞ。

WONKとのコラボでも話題になったNYのフューチャーソウル・バンド満を持しての新曲で魅せる実験的でコズミックなオルタナティブR&B 


 

ニューヨークを拠点に活動するフューチャーソウル・バンド、The Love Experiment(ラヴ・エクスペリメント、以下LEX)がニューシングル「House Boat」を2025年8月8日にリリースします。

 

新曲「House Boat」をいち早く視聴させていただいた。グリッチやフューチャーステップを織り交ぜたエレクトロニックなビート、ソウルフルなボーカル、ジャズ風の響きを持つサックスが重層的に折り重なる。ヒップホップ的なエッセンスもあるが、ジャズコレクティヴらしい流動的なサウンドが特色で、とても刺激的だ。楽曲の展開はスリリングで、まったく先が読めない。

 

2017年から2018年にかけて、東京を拠点に活動するエクスペリメンタル・ソウルバンド、WONKとのコラボアルバム『BINARY』をリリースし、東京・大阪・名古屋でツーマンツアーも成功させたLEX。

 

その後、メンバーはプロデューサー、ソングライター、ミュージシャンとして、それぞれのキャリアを広げ、ソウル/R&B、ジャズ、ヒップホップシーンで活躍。Lauryn Hill、Nas、Anderson .Paak、Solange、Corey Henryなどのビッグネームから、Amber Mark、Poppy Ajudha、Standing on the Cornerなどの新進気鋭のアーティストまで、幅広くコラボレーションを重ねてきた。 

 

長い沈黙を破ってリリースされるニューシングル「House Boat」は、今年リリース予定のニューアルバム『Velvet』からのリードトラックだ。

 

実験的でコズミックなサウンドデザインで迫るオルタナティブR&Bで、海を鏡に自らの魂と向き合い、新たな道を見出す心の内面を描いている。ドラム、ベース、ギター、シンセ、サックス、ヴォーカルがシームレスに重なり、水面を漂うような感覚へとリスナーを誘う。 

 

また、ミックスにはTravis Scott「R.I.P. SCREW」やDon Toliver「Crossfaded」のプロデュースも手がけたBlair Taylorが参加。それぞれのフィールドで成長を遂げたメンバーたちが再集結し、生み出したニューシングル「House Boat」。バンドとして新たなステージに到達したLEXが生み出すサウンドに注目したい。ニューシングルは、一週間後の8月8日に配信リリース。乞うご期待。

 

 

The Love Experiment 「House Boat」- New Single 


 

アーティスト :The Love Experiment

タイトル : House Boat

ジャンル : Alternative R&B

配信日:2025年8月8日 

発売元・レーベル : SWEET SOUL RECORDS

 

 

The Love Experiment Bio: 

 

NYを拠点に活動するフューチャーソウルバンド/コレクティブ、The Love Experiment(ラブ・エクスペリメント、以下LEX)。チャールス・バーチェル(ドラム)、パーカー・マクアリスター(ベース)、アンドリュー・バーグラス(ギター)、デヴォン・ディクソン Jr.(キーボード)、シル・デュベニオン(サクスフォン/ボーカル)、キム・マヨ(ボーカル)で構成される。

 

2 0 1 7 年から2 0 1 8 年にか けて、東 京を拠 点に活 動 するエクスペリメンタル・ソウルバンド、WONKとのコラボアルバム『BINARY』をリリースし、東京・大阪・名古屋でツーマンツアーも成功させた。その後、個々のメンバーはプロデューサー、ソングライター、ミュージシャンとしてソウル/ R & B 、ジャズ、ヒップホップの 各シーンで活躍。

 

L a u r y n H i l l 、N a s 、Anderson .Paak、Solange、Corey Henryなどのビッグネームから、Amber MarkやPoppy Ajudhaといった新進気鋭のアーティストまで、幅広い共演歴を誇る。

 

コレクティブとしての側面も強いLEXは、新たにニューヨークのアヴァンギャルド・ジャズ~ヒップホップコレクティブ、Standing on the CornerのメンバーでもあるSyl DuBenion(サックス&ヴォーカル)をローテーションに加え、Kim Mayo(ヴォーカル)とのツインヴォーカルスタイルを採用。新たな編成で、LEXの可能性を広げている。ソングライティングやプロダクションにおいて、各メンバーが変幻自在に役割を変えながら、多彩なフィーチャリングアーティストをクルーに迎え、LEXが見上げる宇宙へとスペースシップが飛び立つ。


 IDLESは、アメリカの映画監督、ダーレン・アロノフスキーのアクション・スリラーの次回作『Caught Stealing』のために新曲「Rabbit Run」を提供した。 アイドルズの曲の中では最も渋いハードボイルドなナンバーだ。


この曲は、彼らがサウンドトラックのためにレコーディングした4つのオリジナル曲のうちの1つ。以下で聴くことができる。


「これは僕らにとって大きなチャンスだった。たまたま同じ日にゲストとして出演していた僕らが、ファロンのバックステージで偶然出会ったことがきっかけだった。ダレンは僕の大好きな監督の一人で、彼の映画はある意味、アーティストとしての僕を作ったんだ。 この明晰な夢は、一生かけて作り上げたものであり、大きな謙虚さと喜びを持って、何度も繰り返し生きていく」


IDLESはダーレン・アロノフスキーの "お気に入りのバンド "だという。 アロノフスキー監督は、「『Caught Stealing』をジェットコースターのような楽しさにするために作り上げ、パンクの感性をメインに据えることで、この映画をさらにパワーアップさせたかった。 バンドが映画の音楽を担当することは、これまでなかったと思う。IDLES以上にコラボレーションに適したバンドはいるだろうか?  彼らが音符を曲げて映画のスクリーンに穴を開けるのを見るのは夢のようだった」と述べた。



「Rubbit Run」
Dustin O'Halloran

ロサンゼルスの著名なピアニスト/作曲家であるダスティン・オハロラン(Dustin O'Halloran)にとって、過去2年間は実り多い時期でした。


昨年末には、スカーレット・ヨハンソン監督の初監督作『エレノア・ザ・グレート』を含む2本の映画の音楽を手がけ、同作は5月にカンヌ国際映画祭で初上映され、今秋に公開予定。


彼の野心的な2024年アルバム『1 0 0 1』は、ドイツ・グラモフォンからリリースされ、AIの時代における人間の意識の役割について問いかける没入型のコンセプトのアルバムです。


最新シングルは、その答えとしての繊細な返答となっている。シンプルに『ゴールド』と名付けられたこの親密な即興のソロ・ピアノ作品は、ダスティンのレイキャビクのスタジオで一発録りで収録されました。このトラックは、プロダクションのレイヤーを剥ぎ取り、想像力が働く瞬間の本質と共鳴を明らかにしています。


「自然と出てくる即興的なアイデアを捉えたんだ」ダスティンは語る。「通常、作品のその部分を人々と共有しません。ですが、より直接的なものを作りたかった--ただスタジオでの一瞬をね」


ダスティンはテクノロジー主導の豪華な完璧さへの誘惑を拒み、『ゴールド』の録音において、異なるマインドセットを採用しました。


マイクは迅速かつシンプルに設置され、彼のパフォーマンスは可能な限りストレートな方法で捉えることを目的としました。


「私は不完全さが好きなんだ」と彼は言います。「それが美しさの源なのだから。結果、背筋が凍るようなシンプルさを持つ作品が生まれました。時間から切り取られた黄金の瞬間なのです」


ダスティン・オハロランはアカデミー賞のノミネート作「ライオン」のサウンドトラックを手がけたことがあり、音楽という側面で米国の映画界に多大な貢献をもたらしている。今回のシングル「ゴールド』は、静謐で情景を思い浮かばせる瞑想感に満ちたピアノ曲。ダスティンの自主レーベル、スプリンターレコードから7/30にシングルとしてリリース。色彩豊かな作品が計画中です。




Dustin O'Halloran 「Gold」-New Single


アーティスト:Dustin O'Halloran(ダスティン・オハロラン)

タイトル:Gold(ゴールド)

リリース日:2025年7月30日

フォーマット:デジタルダウンロード・ストリーミング

レーベル:Splinter Records

ストリーミング:  https://pdis.lnk.to/gold


 

2024年4月、ジョセフ・シャバソンとニコラス・クルゴヴィッチは、シャバソン&クルゴヴィッチとして初の日本公演となる2週間の日本ツアーに出発した。 7e.p.レコードの斉藤耕治さんは、松本、名古屋、神戸、京都、東京でのツアー中、尊敬する日本人デュオ、テニスコーツのサヤと上野をツアーに同行させ、バックバンドを務めた。


リハーサルは2回しかできなかったが、それだけで十分だった。 彼らのつながりは即座に音楽に反映され、彼らのショーは流動的で弾力性に富み、適度に予測不可能だった。 斎藤はこの相性の良さを予想し、レコーディング・エンジニアを神戸に呼び、築117年のコロニアル様式の邸宅をアーティスト・レジデンスに改装した有名なグッゲンハイム・ハウスに2日間滞在することにした。


曲は何も用意されていなかったが、彼らは即興でメロディーを弾き始め、その自然発生的なものから断片を抜き出して全体像を作り上げた。 サヤとクルゴヴィッチはすぐに、作詞に対するアプローチの近さに気づいた。 


休憩所の上空で雲の愛称(うろこ雲、竜雲、いわし雲、ねむり雲、ひつじ雲)を共有したり、洋服屋でビンの中からお揃いの靴下を探したり、神戸市立王子動物園で老衰のため死んだばかりの愛すべきパンダ、タンタンへの頌歌を作ったりと、ふたりは日常に潜む魔法を探し出し、歌い上げる。


それこそ、この体験が「毎日の魔法」のように感じられるようになった。 一行は作業をしながら、グッゲンハイムハウスの窓から太平洋が前進したり後退したりするのを眺めた。 この2日間で、彼らは8曲を作曲し、レコーディングした。


「このアルバムの素晴らしいところは、この家がレコーディング・スタジオではないので、超ライブ・サウンドだということです。僕にとっては、それがとても魅力的で個性的なんだ」とジョセフは語る。 


「全体が夢のような感じで、あっという間に終わってしまったから、帰国して数週間経つまで、ちょっと忘れていたんだ。 セッションを開いたとき、私たちが特別なことをしたのは明らかだった」


すべてがあっという間だった。 夢のように、彼らはその中に、そしてそこから抜け出していった。 数週間後、録音が郵送されてきたときに初めて、その夢のような状態が記憶として鮮明になり、その瞬間を何度も何度も思い出すことができるようになった。


「Lose My Breath」



Shabason/ Krgovich/ Tenniscoats  『Wao』


Label: Western Vinyl
Release: 2025年8月29日


Tracklist:


1.Departed Bird

2.A Fish Called Wanda

3.Shioya Collection

4.Our Detour

5.At Guggenhein House

6.Ode To Jos'

7.Look Look Look

8.Lose My Breath


 Pre-save: https://lnk.to/skt-wao

 Far Caspian  『Autofiction』   



Label: Tiny Library 

Release: 2025年7月25日

 

Listen/ Stream 

 

 

Review   

 

アイルランド出身のミュージシャン、Far Caspian(ファー・カスピアン)は、前作『The Last Remaining Light』を通じて、素晴らしいインディーロックソングを聴かせてくれた。2021年頃からクローン病に悩まされ、また、その中で神経症などに悩まされていたジョエル・ジョンストンだったが、前作アルバムの発表後、 ロサンゼルスなどをツアーし、好評を博した。イギリスでは最近、スロウコアやサッドコアのバンドが登場する。リーズのファー・カスピアンの場合は、ローファイなサウンドが特色で、Tascamなどを用いたアナログ風のサウンドが主体となっている。ジョエル・ジョンストンのソングライティングは派手さはないが、その音楽は叙情的で切ない雰囲気がある。軽妙なインディーロックソングの中に、淡いエモーションが漂っているのだ。

 

前作のアルバムのレコーディング中に、ジョエル・ジョンストンは、ブライアン・イーノのアルバムをよく聴いていたというが、それがプロデュースとしてかなり洗練されたサウンドを生み出す要因となった。 新作アルバム『Autofiction』でも大きな音楽性の変更はないように思える。

 

アルバムの冒頭を飾る「Ditch」は、オープニングを飾るに相応しいダイナミックなトラックとして聞き入らせてくれる。アナログの逆再生をかけて、そのサウンドの向こうから、軽妙なアコースティックギターのバッキングが鳴り響く。ミニマルな構成を持つ演奏をベースにし、奥行きのあるアトモスフェリックなアンビエンスを作り、ジョエル・ジョンストンらしい心温まるエモーションが、音の向こうからぼんやり立ち上ってくる。どうやら、ライブツアーの時に指摘されたらしく、ボーカルの音量を上げて録音したのだとか。実際的に、きっとそれは幻想的なインディーロックソングの中で、クリアな質感を持つボーカルという形を捉えられるはずだ。

 

ジョエル・ジョンストンのボーカルは、少しだけ物憂げでダウナーな雰囲気を持っている。欠点のように思えるが、これは間違いなく、繊細さという面でストロングポイントなのである。それがむしろ曲の背景となるギターロックと絶妙なコントラストを描き、迫力をもたらしている。


オープナー「Ditch」のサウンドは、エリオット・スミスのように、インディーフォークやサッドコアの雰囲気に縁取られているが、ロックのアプローチを選ぶことにより、絶妙な均衡を保っている。そして、静と動をギターの重ね録りによって音量のダイナミズムを表現しながら、フォークロックとシューゲイズの間を行き来している。


この曲のサウンドは、従来よりもノイジーに聞こえる。だが、その中で独特な美的センスが現れることがある。メロディアスなきらめきともいうべき瞬間が、ミニマルな構成からぼんやりと立ち上ることがある。例えば、3分前後の轟音のフィードバックギターから、癒やされるような音楽性が滲み出てくる。それは、バンジョーの演奏から繰り出されるアメリカーナの要素が、スーパーチャンクのような、ほっこりするようなハートウォーミングな音楽性を作り出すのである。

 

二曲目「First Day」は、カスピアンらしい持ち味が現れ、ジョギングをするような軽快な疾走感を持つロックソングである。今回のアルバムでは、ギターを多重録音し、異なるコードを演奏しながら、その中でムードのあるボーカルが心地よい雰囲気を作る。前作では、ドラムの録音やミキシングに結構苦労したような印象があった。しかし、今回のアルバムでは慣れたというべきか、その経験を踏まえて、ミックスの側面で、ギターやボーカルと上手くマッチしている。


この曲では、良質なシンガーソングライターとしての表情だけではなく、名プロデューサーとしての性質を捉えることが出来るかもしれない。そして、前作アルバムでも登場した女性ボーカルとのデュオも同じように物憂げな雰囲気を醸し出す。そのサウンドには前作と同様、Rideの90年代のメロディアスで哀愁に満ちたロックソングの影響が捉えられる。二本以上の重厚なギターサウンドの迫力はもちろん、アウトロではドラムのテイクが強い印象を及ぼす。今作はソロアルバムの性質が強いが、依然としてバンドアンサンブルを重視していることが痛感出来る。

  

ジョンストンは、『Autofiction』に関して、''今この瞬間を楽しむことをモットーにしている''という。序盤から中盤にかけての以降の三、四曲は、フラットなアルトロックソングを聴くことが出来るが、それぞれ異なる音楽性に縁取られ、録音を通して現在を楽しんでいる様子が伺える。


このアルバムが、どのように評価されるか、もしくはどのような完成品になるのかというのを考えず、直情的でストレートなサウンドを重視している。そのサウンドは飾り気がなくどこまでも実直だ。またジョンストンは自分を楽しませることが良い作品を作るための近道であることをよく知っている。「The Sound Changind Place」ではスロウテンポのギターロック、続く「Window」ではミドルテンポのギターロックを提供し、心地よく、時に切ない叙情性を曲の節々に込めている。


「Lough」では、パワーポップやジャングルポップ風のサウンドを選び、これもまた独特な甘酸っぱさがある。上記の三曲はアナログのコンソールを取り入れたことにより、本格的なローファイサウンドを獲得した。 ザラザラとした質感を持つギターサウンドは、現代のアルトロックの主流のサウンドディレクションだ。カスピアンの場合は幻想的な雰囲気を兼ね備えている。

 

アルバムの中では、フォーク・ロックやジャングルポップなどの音楽性が強いように思える。しかし、その中でシューゲイズ色が強いのが続く「Here Is Now」である。 このアルバムの重要な録音方法であるギターの多重録音で得た重厚なギターサウンドをベースにして、ドリームポップのような夢想的なジョンストンのボーカルが揺らめく。


ジョンストンのボーカルや歌詞には、伝統的な英国詩人のような性質がある。そして、それらが、轟音性を強調したサウンドと、それとは対象的なミニマルなエレクトロニックの静かなサウンドを対比させ、起伏のあるロックソングを構築する。それほど構成は奇をてらわず、ヴァースからコーラスにそのまま跳躍するというのも、聴きやすさがある要因なのかもしれない。


ともあれ、前作アルバムから引き継がれるエレクトロニックの音楽から触発を受けたサウンドがミニマルな構成を持つロックソングと結びつく。また、最新アルバムでは、ドラムの録音に結構こだわっており、硬質な響きを持つスネアが力強い印象を帯びている。最終的には、生のドラムの録音をエレクトロニックの打ち込みやサンプラーのような音として収録している。こういったアコースティックなサウンドを活かしたロックソングがこのアルバムの持ち味である。


アルバムの前半部から中盤部は、前作アルバムの復習ともいうべきサウンドが顕著だ。しかし、完全な自己模倣には陥っていない。新しい音楽性がアルバムの終盤になって登場する。アーティストの持ち前のローファイ性をサイケのテイストで縁取った「A Drawing Of The Sun」は、American Footballの『LP1』のポスト世代に位置づけられる。エモ好きは要チェックだ。

 

また、「An Outstreched Hand/ Rain From Here to Kerry」はオーストラリアのRoyel Otisのようなポストパンク勢からのフィードバックを感じさせる。ただ、ファー・カスピアンの場合は、美麗なギターのアルペジオを徹底して強調させたキラキラとした星の瞬きのようなサウンドが特色である。音楽の系統としてはエモ。しかし、このアルバムでは、柔らかさと強さが共存している。これはたぶん、前作にはなかった要素であり、シンガーソングライターとしての進歩を意味する。

 

終盤にも注目曲が収録されている。「Autofiction」は、エモとアルトロックの中間域にあるミドルテンポの女性ボーカルとのデュエット形式で展開される。この曲は、二曲目「First Day」と同じように、ファー・カスピアンのアイルランドのルーツを伺わせ、スコットランド民謡のダブル・トニック(楽曲の構成の中で2つの主音を作る。二つの調性を対比させる形式)の影響がバラード風のロックソング、スロウコアやサッドコアのようなインディーサウンドに縁取られている。


前回のアルバムではニッチなロックソングもあったが、今回のアルバムにおいてファー・カスピアンの音楽は一般性を獲得したように感じられる。一見すると矛盾しているようだが、徹底して自己を楽しませることにより、広汎なポピュラー性を獲得する場合がある。それは、自分が楽しんでいるから他者を楽しませられるという、ごくシンプルな理論だ。このロジックに即して、ジョエル・ジョンストンは、相変わらず良質なインディーロックアルバムを制作している。


「Whim」のようなサウンドはグランジ的な響きが漂う。90年代のアメリカのカレッジ・ロックの系譜にあるファー・カスピアンらしいサウンド。これらのスタイリッシュでマディーな匂いのするアルトロックソングは、他のバンドやアーティストの作品ではなかなか聴くことが出来ない。

 

クローズ曲「End」はエレクトロニカとロックの実直な融合である。そこにあるのは、やはり''瞬間に集中する''ということである。何ができるかわからないが、やってみる。これがロックの楽しみだ。本作を通じて、何かしら新しい音楽の芽をアーティストは見つけたに違いない。楽しみは苦しみを凌駕する。音楽を心から楽しむこと。それは結局、受け手にも伝わってくる。前作は会心の一作だったが、今作でもカスピアンは人知れず、良質なアルバムを制作している。

 

 

82/100 

 

 

 

「A Drawing of The Sun」  

 

Snooperがニューアルバム『Worldwide』を発表。ガレージ・ロックに彼ららしい疾走感を加えたタイトル曲を発表した。スヌーパーはギタリストのコナー・カミンズとヴォーカリスト/ヴィジュアル・アーティストのブレア・トラメルによって結成された。

 

今年2月、スヌーパーは自然発生的にロサンゼルスでジョン・コングルトンとレコーディングすることになった。 それまではプロデューサーと仕事をすることなど考えたこともなかったが、コングルトンはファンであり、バンドはこのプロセスがアーティストとしての成長に不可欠だったと振り返っている。 「このアルバムの全体的なアイデアは、実験と変化だった」とカミンズは言う。


2023年リリースの『Super Snõõper』は、長い間路上でテストされ、ファンに承認されてきた既成曲を再レコーディングしたもので、バンドは『Worldwide』を真のデビューアルバムと見なしている。

 

「Worldwide」


▪️Review:  SNOOPER  『SUPER SNOOPER』



Snooper 『Worldwide』



Label: Third Man

Release: 2025年10月3日


Tracklist:


1.Opt Out

2.On Line

3.Company Car

4.Worldwide

5.Guard Dog

6.Hologram

7.Star *69

8.Blockhead

9.Come Together

10.Pom Pom

11.Relay

12.Subdivision

 

 

Pre-save: https://ffm.to/snooperworldwide 



The Bethsが、8月29日にAntiからリリースされるニューアルバム『Straight Line As a LIe』から3枚目のシングル「mother, pray for me」をリリースした。

 

 ザ・ベスは、ニュージーランドを拠点に活動するヴォーカリスト/ギタリストのエリザベス・ストークス、ギタリストのジョナサン・パース、ベーシストのベンジャミン・シンクレア、ドラマーのトリスタン・デッキの4人組。 

 

先月のシングル「No Joy」に続く「Mother, Pray For Me」は、「何も感じないことを歌った、パンチの効いたギター・トラック」と評されている(Paste Magazine)

 

清らかな指弾きのギターにのせて、ストークスの声は子供のように切々と繋がりを求めている。 ストークスはここで、彼女の両親が歩んできた人生、その死、そして両親を、たとえそれが十分でないと感じたとしても、最善を尽くした人間として見る方法と格闘している。 「書いている間、ずっと泣いていました。 

 

「私たちの関係がどうあってほしいのか、どうあるべきなのか、実際どうなのか、そしてそこから私が何を期待できるのか、できないのか」


「母はインドネシアからの移民で、とてもカトリック的なんだ。 私はジャカルタで生まれ、4歳のときにオークランドに引っ越した。 この曲は、私と母との関係、そして母の信仰と母との関係を理解しようとしている曲だと思う。 書くのは大変だった。 フルバンドアレンジも考えたんだけど、最終的には私とギターだけで、一番クリアに感じられた。 それとオルガンを少し」

  

ザ・ベスの2022年のアルバム『Expert In A Dying Field』から『Straight Line Was A Lie』までの道のりは、一筋縄ではいかなかった。 ストークスは初めて、携帯電話で録音した断片以上の新しい曲を書くのに苦労していた。 彼女は最近、SSRIを服用し始めたが、そのせいで、精神的、肉体的な健康状態から、家族間のいざこざまで、自分の人生で壊れているものすべてを「解決」できるような気がしていた。 だが、同時に、書くことが以前のように簡単にはできなくなっていた。 

 

『Straight Line Was A Lie』では、ストークスとピアースは典型的なベスの執筆プロセスを打ち破り、創造的なインプットの波に自分たちを開放した。 すでに有名な作詞家であるストークスは、個人的なことをとらえ、普遍的なことを梯子するキャッチーでインスタント・クラシックなフレーズで、長い間ファンや批評家に感動を与えてきた。 

 

しかし、ストークスは作詞との関係を意図的に解体し、再構築した結果、完全に生まれ変わった。 彼女のソングライティングは、洞察力と脆弱性という驚くべき新たな深みを獲得し、『Straight Line Was A Lie』はこれまでで最も鋭い観察眼と真実味に溢れ、詩的なベス・プロジェクトとなった。   

 

今年初め、ベスは今秋、北米、英国、ヨーロッパを回るワールド・ツアーを発表した。 ロサンゼルスのThe Wiltern、サンフランシスコのThe Fillmore、シカゴのThe Salt Shed、ニューヨークのBrooklyn Paramount、フィラデルフィアのUnion Transfer、ワシントンDCの9:30 Clubなど、これまでで最大規模の会場でヘッドライナーを務める。

 

 

「Mother, Pray For Me」 


ザ・スマイルとサンズ・オブ・ケメットのトム・スキナー(Tom Skinner)が、セカンドソロ・アルバム『Kaleidoscopic Visions』を9月26日にリリースすると発表した。 

 

このアルバムには、メシェル・ンデゲオチェロ、ポーティスヘッドのエイドリアン・アトリー、コンツアー、スマイルのコラボレーターであるロバート・スティルマン、ヤフラなどが参加している。


アルバムからのファースト・シングルはタイトル曲。 「Kaleidoscopic Visions』は、このアルバムのために最初に書いた曲なんだ。 「直感的なピアノのインプロヴィゼーションを軸にしたこの曲は、私のアプローチと、創作過程で達成したかったサウンドの基調となった。 この曲は、音楽と僕のバンドの会話とコラボレーションのダイナミズムを表現し、霞んだサイケデリックな背景の中で、ムーディーでシネマティックな流れを前景化している。 試聴は以下から。


トムはこの秋、アメリカで3公演を行なう: 10月1日にシカゴのタリア・ホールでマカヤ・マクレイヴンと、10月6日にブルックリンのパブリック・レコードで、10月7日にフィラデルフィアのソーラー・マイスで。 また、11月にはEFGロンドン・ジャズ・フェスティバルにも出演する。

 

 

Tom Skinner 『Kaleidoscopic Visions』 

Label: Brownswood RecordingsとInternational Anthem

Release: 2025年9月26日

 

Tracklist: 

 

1.Kaleidoscopic Visions

2.There’s Nothing To Be Scared Of

3.Auster

4.Margaret Anne

5.Kaleidoscopic Visions

6.MHA

7.Still (Quiet)

8.The Maxim (ft. Meshell Ndegeocello)

9.Extensions 12

10.Logue (ft. Contour)

11.See How They Run (ft. Yaffra)

ピーター・シルバーマンのレコーディング・プロジェクトであり最愛のバンドであるThe Antlersが、待望のニューアルバム『Blight』を10月10日(金)にTransgressive Recordsよりリリースすることを発表した。 


ザ・アントラーズの4年以上ぶりとなるスタジオ・ニューアルバム『Blight』から最初のリードシングル「Carnage」が初公開された。


依然としてIDMのエレクトロニカの要素は多分に感じさせるが、2009年の代表作 『Hospice』のようなロック的な音楽性から距離を置き、よりソングライター色を押し出した渋いテイストのバラードソングだ。


シンガーソングライター兼ギタリスト兼プロデューサーのピーター・シルバーマンの轟音テレキャスターが、長年のコラボレーターであるマイケル・ラーナーの不協和音のようなドラミングに群がり、バンドが長い間ライヴで生み出してきたエネルギーをテープに収めることはなかった。 


「”Carnage”は、私たちがめったに認めないような暴力について歌った曲だ。何の罪もない生き物が、彼らの世界と私たちの世界が衝突するとき、破壊の道に巻き込まれる」 


2021年の素朴でフォーク調の『Green to Gold』に続く『Blight』は、簡単な答えを提示することなく、多くの問いを投げかけている。 


アントラーズの創設者であり、主要なソングライターであるシルバーマンは、9曲の新曲の中で、私たちの受動的な破壊傾向(無頓着な汚染、無自覚な浪費、自然界のうっかりした荒廃)を見つめ直している。 


しかし、その重いテーマにもかかわらず、『Blight』は決して退屈な作品ではない。 冒険的なアレンジと持続的な勢いにより、このアルバムはむしろ玉虫色のオデッセイのように演奏される。  


アルバムは数年かけてレコーディングされ、その大部分はニューヨーク州北部にあるシルバーマンの自宅スタジオで制作された。 「このアルバムの大部分は、この広大な畑を歩きながら構想された。廃墟の惑星をさまよっているような気分だった」


そしてある意味、『Blight』はSFのようでもあり、近未来から届けられたかのようでもある。 このアルバムは、綿密な世界構築の作品であり、耳の保養と驚くようなスタイルの変化で溢れている。 


指弾きのギター、催眠術のようなオルガンのスタブ、軽快なピアノのメロディーなど、多くの曲がまばらな要素から始まるが、その土台に縛られ続けることはほとんどない。 曲の途中で穏やかなバラードからドキドキするようなエレクトロニカへと変化し、最後にはまったく別の地点に着地する。   

 


「Carnage」   

 

 

 

The Antlers 『Blight』 

Label:Transgressive

Release: 2025年10月10日

 

Tracklist:

 

1.Consider the Source 

2.Pour 

3.Carnage 

4.Blight 

5.Something in the Air 

6.Deactivate 

7.Calamity 

8.A Great Flood 

9.They Lost All of Us 

 

Pre-save: https://transgressive.lnk.to/blight