ケイティ・ステルマニス(別名Austra)が、2020年の『HiRUDiN』以来となる初のアルバムを発表した。カナダのエレクトロポップバンドの注目作品。

 

タイトルは『Chin Up Buttercup』で、11月14日にドミノ・レコードよりリリース予定。ステルマニスはキーラン・アダムスと共同プロデュースを手掛け、マドンナの『Ray of Light』に代表されるユーロダンスサウンドからインスピレーションを得ており、その影響は先行シングル「Math Equation」にも響き渡っている。

 

クラシック音楽の訓練を受けた音楽家であり、オペラ愛好家でもあるステルマニスは、これまでに4枚のアルバムを発表し、カナダ・スクリーン賞も受賞している。彼女は長年、悲劇を題材にしたドラマティックなアリアを歌い続けてきた。彼女は、その壊滅的な痛みがどんなものか本当に知らなかった。2020年初頭、長年連れ添ったパートナーが衝撃的な告白をした時、初めて舞台の外でその痛みを経験した。「全く予期せぬことでした…。愛する人がある日突然、幸せじゃないと言って別れを告げ、その後ほぼ二度と会うことはありませんでした」とステルマニスは語る。世界と完全に隔絶した感覚に陥り、何もかもが意味をなさなかったと彼女は打ち明ける。


アルバムのタイトルは、笑顔を貼り付けて前へ進めという社会の圧力への言及だ。ステルマニスと共同プロデューサーのキーラン・アダムスは、ウィリアム・オービットがプロデュースしたマドンナの1998年の画期的なアルバム『Ray of Light』のユーロダンスサウンドからインスピレーションを得て、催眠的なダンスフロアアンセムと、傷ついた心を癒す優雅なメロディを融合させた。

 

ステルマニスは別れの痛みをカタルシス的なGoogleドキュメントに詩的な断片として吐露し、それがアルバムの力強い歌詞の原点となった。その一例が、アルバムの最初の魅力的なシングル「Math Equation」に鮮烈に刻まれている:「君は俺に友達が必要だって言った/だから俺はその友達を見つけた/そしたら君はその友達とヤったんだ」 全曲に貫かれる紛れもないサフィックな混沌。そして「Math Equation」は、キャッチーな反撃と再会への切ない嘆願が等分に混ざり合った楽曲だ。本日公開のミュージックビデオはトレバー・ブラムが監督を務めた。


 

 

「Math Equation」



Austra 『Chin Up Buttercup』

 

Label: Domino 

Release :2025年11月14日

 

 Tracklist:


1. Amnesia

2. Math Equation

3. Siren Song

4. Chin Up Buttercup

5. Fallen Cloud

6. Blindsided

7. Think Twice

8. Look Me in the Eye

9. The Hopefulness of Dawn

10. Good Riddance

Photo: Abbie Gobeli

 

ニューヨークのシンガーソングライター、Hannah Jadagu(ハンナ・ジャダグ)がニューアルバム『Describe』をサブポップから10月24日にリリースする。

 

全12曲収録の本作には先行シングル「My Love」に加え、ハイライトとなる「Gimme Time」「Normal Today」「Tell Me That!!!!」、タイトル曲、そして本日新たに公開された軽快なポップソング「Doing Now」が収録されている。

 

『Describe』でハンナ・ジャダグは、距離とは相対的なものだと苦い経験から学ぶ。2023年のデビューアルバム『Aperture』がニューヨーク・タイムズやNPRなどから絶賛を浴びた後、彼女の有望なキャリアはニューヨークで育まれていた恋愛関係から遠ざけてしまった。「愛と感謝を感じつつも、仕事のために離れていることへの罪悪感もあった」と彼女は振り返る。 

 

「ミュージシャンであることは時間を犠牲にすることを意味する——そして私の特徴の一つは、質の高い時間を大切にする人間だということ」。彼女の広がりを見せるセカンドアルバムでは、その分離と向き合い、物理的な距離を超えた繋がりを見出し、その過程で自身の声を強固にしていく姿が描かれている。

 

『Describe』は、繋がりを求めつつも空間を渇望するという緊張感に満ちている。デビュー作同様、その歌詞は生きた経験からしか引き出せない感情的な特異性で胸を締めつける。

 

しかし、その距離感が、ジャダグに新たな音の世界を探求させるきっかけにもなった。「アナログとモダンを融合できるアーティストにすごく惹かれるの」と彼女は語る。夏にカリフォルニアへ移ったことで、新たなコラボレーターと出会い、アナログシンセサイザーやドラムマシンを実験する機会を得た。

 

前作『Aperture』では温かなギターの響きが主軸だったが、その楽器への記憶が自分を縛っていると感じ始めた。 「シンセの前に座り、一つの音をドローンさせながらボーカルを探求できるのは解放感があった」と彼女は語る。 

 

「ギターを弾くよりも、むしろ自由を感じたんです」。共同プロデューサーのソラとアルタデナのスタジオで、またパリ在住のアパーチャー共同プロデューサー兼コラボレーターであるマックス・ベイビーとはリモートで数曲を制作しながら、ジャダグは『Describe』において、デビュー作の歪んだギターメロディからは完全に脱却しつつも、彼女独自のサウンドを確立した

 

コラージュのようなサウンドスケープで、一見シンプルに見えるギターメロディと、曲のキャッチーで自覚的なリフレイン(「Timid, I get so」)を繰り返し歌う彼女の催眠的なボーカルが融合した「Doing Now」は、ハンナのソングライティングにおけるこの刺激的な新たな方向性を示している。 

 

ユーモアあふれる公式ミュージックビデオはサム・ウィルバート監督作品。ハンナが「ル・ハン」役で地元のバスケットボールリーグ試合に登場し、彼女のチームが「ビッグゲーム」で勝利を収める様子が描かれている。

 

 

「Doing Now」


Hannah Jadagu  『Describe』





Label: Sub Pop

Release:  2025年10月24日

 

Tracklist:

1. Describe

2. Gimme Time

3. More

4. D.I.A.A.

5. Perfect

6. My Love

7. Couldn’t Call

8. Tell Me That!!!!

9. Normal Today

10. Doing Now

11. Miracles

12. Bergamont

 

Pre-save: https://music.subpop.com/hannahjadagu_describe 


 

ロンドンの実験的なロックバンド、Honeyglazeが「Turn Out Right」を公開した。先鋭的なイメージが目立った前作アルバムであったが、このバンドの持ち味である安らぎに満ちた優しげでナチュラルなフォークソングである。

 

今回のリリースは、オパス・キンク主催のコンピレーションアルバム『A Hideous Collective』から2曲目として発表された楽曲です。同アルバムは全24曲を収録し、ミュージック・ヴェニュー・トラストとUKアーティスト・ツーリング基金を支援するための資金調達を目的としている。


ハニーグレイズのボーカリスト/ギタリスト、アニウスカ・ソコロウは次のように語っている。「これは『Real Deal』に収録されなかった曲の、本当に骨組みだけのデモ版です。アルバムの他の曲と同様に、憂鬱でありながら皮肉を込めた、しかし最終的には希望に満ちたテーマを持っています」


「インディペンデント・ミュージック・ヴェニューを巡るツアーとはこういうものです。 最も情熱的な主催者たちは、わずかな資金で運営し、たった一度の不振で崩壊しかねない状況にある。こうした会場と人々への支援は、寄付や認知度向上、MVTのような団体の活動を通じて、灰の中からかすかに光り始めている」

 

「残念ながら、この国の草の根ライブ音楽文化の壊滅を本当に食い止めるには、業界からより根本的でトップダウンの支援を引き出す必要も、相変わらずあるのだ。 それまでの間、彼らを育んだ場所を存続させるアーティストたちの音を楽しんでほしい。そしてこのレコードを購入し、あなたもその一助となってほしい」とオパス・キンクは本作について語る。

 

近年、イギリス国内の小規模のライブハウスが経営難に陥っているという統計が出ている。ハニーグレイズは、今回、こういった出来事を受けて、慈善的な活動に乗り出した。ミュージシャンとして素晴らしい行動に称賛を送りたい。


『A Hideous Collective』は9月5日、バンド自身のレーベル、Hideous Mink RecordsとSO Recordingsの提携によりリリース予定。

 


「Turn Out Right」


ロサンゼルスのシンガーソングライターのジョーダナ・ナイ(通称 Jordana)が、アルバム『Lively Premonition』に続くEP『Jordanaland』を11月7日にGrand Juryよりリリースすると発表した。7曲入りの本作では、ポップグループMICHELLEのチャーリー・キルゴアとジュリアン・カウフマンが参加している。このアルバムでは、ユートピアへの逃避行を意味している。


「『Jordanaland』は間違いなくアメリカからの逃避行よ。混沌の中のオアシスで、生理用品は無料、全てが楽で、ルーサー・ヴァンドロスが副大統領なの」とナイは語る。

 

「ビデオではなぜかロサンゼルスにすごく似てる…変よね。でも目を閉じればどこにでも行ける場所。ポップミュージックを目指したのは確か。自信に満ちた、確固たるポップ。この進化は、自分の声に慣れ親しみ、確立されたサウンドを得たこと、そしてそうした表現をするアーティストたちからインスピレーションを得た結果だと思う」


EPの先行シングル「Still Do」は、力強いビート、レトロなシンセサイザー、ジョーダナの甘口の歌声が特徴の、柔らかなポップ・バラードだ。この楽曲は、自分を失望させた相手への執拗な愛情を反映すると同時に、自立を宣言する瞬間を象徴している。オティウム監督によるミュージックビデオでは、女性が自らを主権国家と宣言しようとする架空の報道が映し出される。

 

 

「Still Do」


Jordana 『Jordanaland』


Label: Grand Jury

Release: 2025年11月7日


Tracklist:


1. Burning Me Down

2. Like That

3. Still Do

4. Blouse

5. I Wanna Be

6. Hard Habit To Break

7. Jordanaland

 


ニューヨークのバンド、Geeseが3rdアルバム『Getting Killed』の2曲目となる先行曲「100 Horses」を公開した。アメリカーナとビンテージロックを融合させたGeeseらしい楽曲です。

 

この楽曲は、リードシングル「Taxes」と、キャメロン・ウィンターがニューポート・フォーク・フェスティバルで流出した「Trinidad」に続く、バンドの新アルバムからの2曲目の先行公開です。

 

『Getting Killed』は、バンドの2021年のデビューアルバム『Projector』と、2023年の続編『3D Country』に続く作品です。今年初め、Geeseのフロントマンであるキャメロン・ウィンターは、自身のデビューソロプロジェクト『Heavy Metal』を発表しています。

 


「100 Horses」



 

Spoonは夏の間スタジオで新曲を磨き上げた。バンドはその成果に興奮し、この新曲ダブルA面シングルで一気に解き放つことを決めた。


新曲として、生々しいパワーが炸裂するロックナンバー「Chateau Blues」と、煮えたぎるような熱量を持つ「Guess I’m Fallin In Love」が登場。ジャスティン・メルダル=ジョンセンとスプーンが共同プロデュースしたこの二本立ては、グラミー賞ノミネートアルバム『Lucifer On The Sofa(ルシファー・オン・ザ・ソファ)』以来となるバンドの新録音作品だ。バンドのブリット・ダニエルはこう語る。


「今年アルバム制作を始めたんだが、普通なら曲を作ってリハーサルし、レコーディングしてミックスし、全てを完璧に仕上げた後に曲を世に送り出す。でもLP用の最初の2曲を完成させた時、誰かが、そして最終的には全員がこの2曲を今すぐリリースすべきだと気づいたんだ。さあ、世に出そう。というわけで本日『Chateau Blues』と『Guess I’m Fallin In Love』をお届けしたい」

 

「テキサス州オースティンとロードアイランド州プロビデンスでこの数ヶ月間に生み出された、個性豊かな2曲だ。今日はあらゆる意味で特別な日だ。今夜サンタアナで久々のツアーをスタートさせ、明日はピクシーズとの共演が始まる。率直に言って、史上最高のバンドの一つだ。ご存知の方もいるだろうが、このバンドは長年私にとって特別な存在だった。本当に光栄だし、しばらくの間でもライブの世界に戻れることを心から嬉しく思っている。最前列で会おう」



『Chateau Blues』

 

 

「Guess I’m Fallin In Love」


レディオヘッドの1997年発表の名盤『OK Computer』収録曲「Let Down」が、TikTokで最近話題となり、ビルボード・ホット100で91位にランクインした。


レディオヘッドはビルボードのアルバムチャートでは安定した成功を収めてきたが、アメリカでのシングルでは必ずしも同様の成果を上げてこなかった。「レット・ダウン」は、1993年の「クリープ」、1996年の「ハイ・アンド・ドライ」、2008年の「ヌード」に続き、ビルボード・ホット100にランクインした4曲目のレディオヘッド楽曲であり、17年ぶりのチャート入りとなった。


この楽曲の最近の爆発的人気は、特定の時代精神への言及によるものではない(ただし『ザ・ベア』シーズン1の感動的なクライマックスで使用された)。むしろ、Z世代がこの楽曲の痛烈なトーンを初めて発見したこと、そして「レット・ダウン」をBGMに用いた様々な映画的・壮大な・感情的な映像が広まったことが、新たな人気の要因となっている。


レディオヘッドは2016年の『A Moon Shaped Pool』以来新作アルバムを発表していないが、最近は新たな動きを見せている。今月、バンドはライブアルバム『Hail to the Thief Live Recordings 2003 – 2009』をリリース。2003年のアルバム『Hail to the Thief』収録曲の改変・拡張アレンジを収録している。また、1995年発表のアルバム『ザ・ベンド』の30周年を記念し、トム・ヨークによる未公開の貴重なアコースティック演奏を公開。さらに今年に入り新たな事業体を設立したことから、レディオヘッドの新時代が間近に迫っていることを示唆している。

 

 

今年、力作アルバム『物語を終わりにしよう』をリリースした想像力の血がニューシングル「夏のおみやげ」をリリースいたします。

 

本作はギターにシンリズム、ドラムス&ベースに元・昆虫キッズの佐久間裕太、のもとなつよを迎えたバンド編成で制作、エンジニアリングは樫本””GURI”大輔が担当しております。


どこか懐かしい夏の記憶を呼び起こすような、この季節にふさわしい一曲として、ぜひお楽しみください。



▪想像力の血「夏のおみやげ」

 
ソウゾウリョクノチ「ナツノオミヤゲ」Yusuke Sato「Summerdog」


[ https://ssm.lnk.to/natsunoomiyage ]


Digital | 2025.08.27 Release | Released by 想像力の血

作詞・作曲・編曲:想像力の血/ソウゾウリョクノチ/Yusuke Sato


Vocals, Guitar, Keyboards:佐藤優介/サトウユウスケ/Yusuke Sato


Guitar:シンリズム/シンリズム/Shin Rizumu


Bass:のもとなつよ/ノモトナツヨ/Natsuyo Nomoto


Drums:佐久間裕太/サクマユウタ/Yuta Sakuma


Recording, Mixing Engineer:樫本“GURI"大輔/カシモトグリダイスケ/Kashimoto "GURI" Daisuke




想像力の血:


福島県浪江町生まれ。ミュージシャン。

Yusuke Sato:
 

Musician. Born in Namie-machi, Fukushima, Japon.




▪想像力の血「物語を終わりにしよう」


[ https://SPACESHOWERMUSIC.lnk.to/yusukesato ]


Digital | 2025.04.16 Release | Released by 想像力の血

1. ◯◯空洞説
2. UTOPIA(異議申し立て)
3. ゴーストタウンの町長さん
4. ataraxia
5. ふたつのアリア
6. 着いてすぐ帰ることを考える観光客
7. Quaggi
8. Ide
9. こんな仕事はこれで終わり
10. 反時代ゲーム Il Conformista
11. EL TOPO
12. そして音楽はつづく

ゲストボーカル



岡田紫苑(M5)
鈴木慶一(M7)
佐藤奈々子(M10)

ゲストミュージシャン


イトケン(ドラムス、パーカッション M3, 7)
岡田徹(アコーディオンノイズ M5)
佐久間裕太(シンセサイザー M9)
澤部渡(サックス M11)
四家卯大(チェロ M7)
シマダボーイ(シンセサイザー、パーカッション M6, 7)
シンリズム(ギター、ベース M3, 7, 10, 12)
Daniel Kwon(ギター、コーラス、フィールドレコーディング M3)
西田修大(ギター M7, 10)
森達哉(ギター M2)

ミックス・マスタリング


The Anticipation Illicit Tsuboi
Stuart Hawkes
Felix Davis
樫本”GURI”大輔
原口宏

 Water From Your Eyes 『It's A Beautiful Place』


 

Label: Matador 

Release: 2025年8月22日

 

Listen/Stream 

 

Review

 

ニューヨークのWater From Your Eyesは、2023年のアルバム『Everyone's Crushed』に続いて、Matadorから二作目のアルバム『It's A Beautiful Place』をリリースした。前作は、アートポップやエクスペリメンタルポップが中心の先鋭的なアルバムだったが、本作ではよりロック/メタル的なアプローチが優勢となっている。ネイト・アトモスとレイチェル・ブラウンの両者は、この2年ほど、ソロプロジェクトやサイドプロジェクトでしばらくリリースをちょこちょこと重ねていたが、デュオとして戻ってくると、収まるべきところに収まったという感じがする。このアルバムを聴くかぎりでは、ジャンルにとらわれないで、自由度の高い音楽性を発揮している。

 

表向きの音楽性が大幅に変更されたことは旧来のファンであればお気づきになられるだろう。Y2Kの組み直した作品と聞いて、実際の音源に触れると、びっくり仰天するかもしれない。しかし、ウォーター・フロム・ユア・アイズらしさがないかといえば、そうではあるまい。アルバムのオープニング「One Small Step」では、タイムリープするかのようなシンセの効果音で始まり、 レトロゲームのオープニングのような遊び心で、聞き手を別の世界に導くかのようである。

 

その後、何が始まるのかと言えば、グランジ風のロックソング「Life Signs」が続く。今回のアルバムでは、デュオというよりもバンド形式で制作を行ったという話で、その効果が一瞬で出ている。イントロはマスロックのようだが、J Mascisのような恐竜みたいな轟音のディストーションギターが煙の向こうから出現、炸裂し、身構える聞き手を一瞬でノックアウトし、アートポップバンドなどという馬鹿げた呼称を一瞬で吹き飛ばす。その様子はあまりにも痛快だ。


しかし、その後は、スポークンワードを取り入れたボーカル、変拍子を強調したマスロック、Deerhoofのようなめくるめく曲展開というように、デュオらしいオリジナリティが満載である。ロックかと思えばポップ、ポップかと思えばロック(パンク)、果てはヒップホップまで飲み込み、爆走していく。これらのジョークなのかシリアスなのかわからない曲に釘付けになること必須である。その中でアルバムのタイトルが執拗的に繰り返される。これがドープな瞬間を巻き起こす。


「Nights In Armor」では先鋭的な音楽性を取り入れ、ほとんどバンド形式のような巨大な音像を突き出し、ルイヴィルのバストロ以降のポストロックの系譜を称賛するかのような刺激的な音楽が続いている。新しい時代のプログレ? Battlesのリバイバル? この曲を聴けば、そんな些細な疑問は一瞬で吹き飛び、ウォーター・フロム・ユア・アイズのサウンドの虜になること必須である。K-POPのサウンドを部分的に参考にしたとしても、二人の秀逸なソングライターの手にかかると、驚くべき変貌を遂げ、誰にも真似出来ないオリジナリティを誇るポップソングが作られてしまう。ミニマルミュージックの構成やミュージックコンクレートのようなギター、そして、それらのカオスな音楽の中で奇妙なほど印象深いブラウンの声、すべてが混在し、この曲のすべてを構成している。それらの音楽はときおり、宇宙的な響きを持つこともある。

 

このアルバムでは、前作よりもはるかにヘヴィネスが強調されている。「Born 2」はまるでBlurのタイトルのようだが、実際は、90年代-00年代のミクスチャーロックを彷彿とさせる。同様に、魔神的なディストーションギターが曲の中を歩き回り、口から火炎を吐き、すべてを飲み込むような迫力で突撃していく。そのサウンドは、全体的にはシューゲイズに近づいていき、最終的にはボーカルが入ると、NIN、Incubus、Ministryのようなインダストリアルロックに接近していく。しかし、最も面白いのは、これらのサウンドから、ボーカルとして聞こえてくるのは、Evanescenceのようなニューメタルを想起させるポップネスである。これらのアンビバレントな要素ーーヘヴィネスとポップネスの混在ーーこそがこのアルバムの核らしいことがわかる。また、曲の終盤では2000年代以降のポストメタルに近づいていき、そのサウンドは、Meshuggahのようなポストスラッシュのような変則的なメタルソングに傾倒していく。 

 

Water From Your Eyesの多趣味は以降もほとんど手がつけられない。それは彼らが音楽制作におけるオールラウンダーであることを伺わせる。「You Don't Believe In God?」では、古典的なアンビエントでセンスの良さを見せつけ、古参のアンビエントファンを挑発する。しかし、アルバムの中で奇妙なほど静かなこの曲は実際的にインタリュードとしての働きを担っている。さらに続く「Spaceship」では、ニューヨークのAnamanaguchiがやりそうでやらなかったチップチューンを朝飯前のようにこなす。しかも、それ相応にセンスが良い曲として昇華されている。 その中には賛美歌のようなボーカル、アートポップ等が織り交ぜられ、まるでそれは''音楽バージョンのメトロポリタンミュージアムがどこかに開設したかのよう''である。続く「Playing Classics」もまたチップチューンを主体とした曲で、ゲームサウンドとエレトロニカの融合に挑んでいる。この曲もまた同年代のエレクトロニックのプロデューサーに比肩するような内容である。しかし、ボーカルが入ると、軽快なエレクトロ・ポップに印象が様変わりする。背景のビートとボーカルの間の取れたリズムは、単発のコラボレーションでは実現しえないものである。

 

これらのデュオの多趣味は、デモソングのようなローファイなロックソング「It's A Beautiful Place」で最高潮に達する。史上最も気の抜けたタイトル曲で、わずか50秒のやる気が微塵もないインスタントなギターロックのデモソング。炭酸の抜けたコカコーラのような味わいがしなくもない。最後とばかりに気を取り直し、実質的なクローズ「Bloods On Dollar」が続く。クライムサスペンスみたいな妙なタイトルだが、曲は同郷の有名なインディーフォークバンドのオマージュかイミテーションそのもの。しかし、この模倣もそれなりの曲として完成されている。アルバムの最後では再びイントロのタイムリープのようなシンセの効果音が入る。入り口と出口が繋がっているのか。それとも別の世界に続いているのか。その真相は謎に包まれたままだ.......。

 

 

 

84/100

 

 

 

 

Best Track-  「Life Signs」

 


NHK連続テレビ小説「ばけばけ」主題歌 ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」のデジタル配信&ベスト盤のリリースが決定!

 

ハンバート ハンバートの新曲「笑ったり転んだり」は、9月29日(月)より放送スタートのNHK連続テレビ小説「ばけばけ」の主題歌として書き下ろされた楽曲。


ドラマの初回放送週の10月01日(水)より配信が決定、只今よりPre-add/Pre-saveがスタート。配信後すぐお聴きいただけるようぜひご利用ください。


また、この楽曲「笑ったり転んだり」を含む、初の公式ベスト盤を今年の冬にリリースすることも決定。詳細は後日発表いたします。



◼︎ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」



Digital | 2025.10.01 Release | Released by SPACE SHOWER MUSIC

Pre-add / Pre-save(配信事前予約)[ https://humberthumbert.lnk.to/warattarikorondari ]  


■Pre-add / Pre-save とは? 


Apple Music の Pre-add(プリアド)、SpotifyのPre-save(プリセーブ)は、配信前のアルバムやシングルを事前に予約できる機能です。前もってPre-add/Pre-seveをしておくと、配信開始後に自身のライブラリやプレイリストに自動で追加されます。



◼︎ハンバート ハンバート プロフィール


1998年結成、佐野遊穂と佐藤良成によるデュオ。2人ともがメインボーカルを担当し、フォーク、カントリーなどをルーツにした楽曲と、別れやコンプレックスをテーマにした独自の詞の世界観を持つ。これまでに12枚のオリジナルアルバムを発表し、テレビ・映画・CMなどへの楽曲提供も多数。


2014年発表の楽曲「ぼくのお日さま」が主題歌/タイトルとなった映画『ぼくのお日さま』(2024年/監督:奥山大史)では、佐藤が劇伴も担当。また、2024年リリースのアルバム『カーニバルの夢』収録曲「トンネル」はドキュメンタリー映画『大きな家』(監督:竹林亮/企画・プロデュース:齊藤工)の主題歌として起用された。9月29日放送開始のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』の主題歌を担当、ドラマのために「笑ったり転んだり」を書き下ろした。

 ジャズの巨人として必ず紹介されるアート・ブレイキー。伝説的なジャズドラマーの幻の音源が今年の秋、ついにお目見えとなる。ジャズファン垂涎の音源がここに登場する。

 

1982年にフランスのストラスブールにて録音されたアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの未発表音源『ストラスブール 82』。

 

一般流通は2026年2月を予定しているこちらの作品を、アート・ブレイキーの誕生日にあたる10月11日(土)より、ギアボックスの公式サイトから一足先に先行販売が開始される。本作はCD/LPの2バージョンの発売と合わせて、ジャズアルバムとしては珍しくデジタル・ハイレゾ音源でも発売予定です。


*なお、こちらの商品には、このタイトルの今後の成功から利益を得ることができるGearbox Collection(GBX)トークンが付属している。

 

ハイライトを聴くかぎり、82年のライブではジャズ・アンサンブルとしての魅力を直接的に伝えつつも、ビッグバンドの楽しい音色が強調されている。金管楽器(トランペット/サックス)、ピアノ、アート・ブレイキーの生々しく味わい深いドラムを体感出来、緊密でゴージャスなライブアルバムとして楽しめる。アルバムの紹介動画を下記よりチェックしてみてください。

 





【アルバム情報】

 

アーティスト名:Art Blakey & The Jazz Messengers(アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ)

タイトル名:Strasbourg 82(ストラスブール 82)

品番:GB4009CD (CD) / GB4009 (LP)

発売日:2025年10月11日(土)

レーベル:Gearbox Records


<トラックリスト>

(CD)

1. Little Man

2. Along Came Betty

3. Fuller Love

4. Eighty One

5. I Can’t Get Started

6. New York

7. I Didn’t Know What Time It Was

8. Blues March / Theme

9. Moanin’


(LP)

Side-A


1. Little Man (Charles Fambrough) 13:04

2. Along Came Betty (Benny Golson) 09:27

Side-B


1. Fuller Love (Bobby Watson) 09:13

2. Eighty One (Miles Davis) 14:26


Side-C

1. I Can’t Get Started (Vernon Duke) 07:44

2. New York (Donald Brown) 14:01


Side-D

1. I Didn’t Know What Time It Was 04:34

2. Blues March (Benny Golson) / Theme (Miles Davis) 08:39

3. Moanin’ (Bobby Timmons) 07:48


Credits:

Art Blakey; drums


Johnny O’Neal; piano


Donald Harrison; alto saxophone


Terence Blanchard; trumpet


Billy Pierce; tenor saxophone


Charles Fambrough: double bass


Recorded on 1st April 1982 in Strasbourg, France


Mastered by Caspar Sutton-Jones at Gearbox Records, London


Album artwork by Alan Foulkes


℗ & © Gearbox Records, 2025



CD『Strasbourg 82』プレオーダー受付中! 

https://store.gearboxrecords.com/products/pre-order-art-blakey-the-jazz-messengers-strasbourg-82-cd/


LP『Strasbourg 82』プレオーダー受付中! 

https://store.gearboxrecords.com/products/pre-order-art-blakey-the-jazz-messengers-strasbourg-82


『Strasbourg 82』デジタル・ハイレゾ音源プレオーダー受付中! 

https://gearboxrecords.bandcamp.com/album/strasbourg-82-24bit-96khz-high-resolution-version




Art Blakey & The Jazz Messengers:

アート・ブレイキーは、1919年、ペンシルベニア州ピッツバーグ出身のジャズ・ドラマー。1944年からビリー・エクスタインの楽団へ入り、1940年代後半からマイルス・デイヴィス、セロニアス・モンク、チャーリー・パーカーらと共演後、1954年にホレス・シルヴァーと初代ジャズ・メッセンジャーズを結成。


メンバーはその後入れ替わるも、基本的に2管または3管のフロント+3リズムのコンボ形式のバンドである。親日家として知られ、メッセンジャーズにも1970年代以降鈴木良雄、鈴木勲等の日本人がレギュラーまたは客演で加わっていた。


1990年に肺がんのため、ニューヨーク・マンハッタンにて死去する間際まで来日を繰り返し、特に夏のフェスティバルではおなじみだった。なお、アート・ブレイキーは多くの新人を発掘し、多くの著名なミュージシャンがメッセンジャーズから巣立った。その中にはリー・モーガン、ボビー・ティモンズ、ウェイン・ショーター、フレディ・ハバード、キース・ジャレットなどがメッセンジャーズ在籍をきっかけにスターになった。


他にも、第一線で活躍しているウィントン・マルサリス、ブランフォード・マルサリス、テレンス・ブランチャード、マルグリュー・ミラーなどがメッセンジャーズの出身である。

 


デンマークのミュージシャン、Blue Lake(ブルー・レイク)が野心的なアルバムを、ロンドンのTonal Unionから10月3日にリリースします。アルバム発売日を前にこの作品をいち早くご紹介します。


広範なビジョンを具現化するクリエイター、ジェイソン・ダンガンがバンドの集団的な化学反応を活かし、10曲の情熱的なトラックが力強い直接性で共鳴し、広大な世界との生態学的つながりを喚起する。


テキサス州ダラスで育ったダンガンは、その後長年移動を繰り返し、ヨーロッパとアメリカ合衆国で生活した後、デンマークの首都コペンハーゲンに深く惹かれ、現在もそこに居住しています。


この場所は、アストリッド・ソンネ、ML・ブッフ、クラリッサ・コネルリーなど、同時代の実験的アーティストたちにとって、近年注目される創造的な土壌として浮上している。この多岐にわたる地理的な経験は、ダンガンがアンビエント、アメリカーナを横断し、コスミッシュの要素をノルディック美学で融合させた独自の芸術的な声として台頭する上で、大きな意義を持つことでしょう。


ソロプロジェクト(ブルー・レイク)は、現在5枚目のアルバムをリリースしている。その名前とインスピレーションは、ドン・チェリーの1974年のライブアルバムから得たもので、ダンガンに創造的な啓示をもたらし、彼は非歌詞的な作曲の中に存在する感情的な可能性を引用し、自身の未開拓のサウンドの世界へと踏み出す道筋を築いた。


新たな理念を掲げ、直接的でシンプルな器楽音楽に深い感情を込めることを目指したジェイソンは、多様な音楽的要素を組み合わせ、高く評価されるアルバム『サン・アークス』(2023年)を生み出しました。このアルバムは「装飾的な、ツィターを主体とした格子模様」(ピッチフォーク、ベスト・ニュー・ミュージック)と評されています。

 

スウェーデンの森の中に建つ小屋の至福の孤立の中で生まれたこの音楽は、その時期の満開の春を彩るサウンドトラックとなりました。その後、『Sun Arcs』の孤独なアプローチとは対照的に、高く評価されたミニアルバム『Weft』(2025年)は、ブルー・レイクのサウンドをバンド指向のアプローチで表現する方向性を明確に示しました。


ジェイソンは、この頃までにバンドとの特別な集団的なエネルギーをライブパフォーマンスを通じて体験し、それを『The Animal』で活用し凝縮しようと試みました。これにより、彼は才能豊かな仲間たちと共に、伝統的なレコーディングスタジオ(The Village)とその無限の可能性を追求するプロジェクトへと進んだのです。

 

 『The Animal』は、その核心において人間の協力を鮮やかに讃え、コミュニティの意識と階層のないつながりに根ざしている。グループの創造的な錬金術は、共に演奏するミュージシャンを超え、より広い世界とその住む空間との包摂的、存在論的、生態学的なつながりを呼び起こします。アルバムは、ダンガンが説明する通り、人間を動物として捉えるアイデアを考察しています。


「私は、人間を動物の環境の一部として考えることに非常に興味を持っています。人間が『人間』という領域に分離された存在として、または階層的なピラミッドの頂点に立つ存在としてではなくて。つまり、『The Animal』は私や私たち自身なのであり、苔や雀や牛と同じように、ただ生きて、そこに存在しているのです」とダンガン。


ダンガンは完全にオープンな対話を歓迎し、そのプロセスはバンドの初期のリハーサルから始まり、彼のデモはダブルベース、チェロ、クラリネット、ヴィオラ、ドラムスを加えることで急速に進化し、洗練され、聴覚的に装飾された。


ジェイソンは録音プロセスにおいてより広範な深みを捉えることに焦点を当て、楽器の細かなニュアンスを分析し、自然界と都市界で展開される複雑で常に変化するバランスとダイナミクスを表現した。テーマもまた、「都市を動物や都市の生物として捉える」というアイデアを巡っています。コペンハーゲンの故郷について、その工業的な過去と半野生地域や海への近接性を挙げ、彼は重なるシナリオを説明します。「今や、それは不可能になりつつあると思います」

 

『The Animal』において、ダンガンは声を楽器として使用する手法を導入し、優雅なアルバムのオープニング曲『Circles』で聴かれるような歌のような特性を引き出す手段として活用しています。この曲では、グループが鳥のさえずりのように合唱のユニゾンで歌い、その声が周囲のサウンド環境の一部として響き渡ります。


バンドは演奏において際立ち、力強い存在感を示し、ダンガンのツィター奏法、土臭いギター、打楽器のパターンに豊かなアコースティックな伴奏を添えています。サウンドワールドは『Cut Paper』で明らかになるように、大胆で活気ある内容となっています。これは、現在定期的にミキシングで協力しているジェフ・ザイグラーが、新しいバンドのサウンドの豊かさを捉えているため。


ジェイソンはデンマークのプロデューサー、アスケ・ジドーレの協力を得て、新たな作業戦略への挑戦を促されました。この解放的な介入は、驚きと発見の要素を可能にした。ダンガンは中心を完全に支配せず、尊敬の念を抱きながら距離を保ち、ミュージシャンの即興的なパフォーマンスと即興に広い空間を与え、彼らの音楽的直感が魅惑的な全体的な同期を生み出すようにしています。 


ダンガンは、ドイツの首都ベルリンでのツアー滞在中に、豊かなツィターのリフと長いリバーブの余韻が、テキサスの起伏に富んだ丘陵地帯への広大な深夜の賛歌を織り成す映画的な『Berlin』を執筆しました。ジェイソンの親密で情感豊かな作風は、『Flowers for David』で感じられます。この心温まるフォーク調のトリビュート曲では、高揚感のあるフィンガーピッキングのギターが、友人の死への温かい別れのメッセージを伝えています。


アルバムは『Yarrow』で前進する勢いを増し、グループがメロディックに調和して進む中、カラフルな『Strand』では、高揚するソロと土臭い下地が、恍惚としたコメシクレシェンドへと突き進みます。タイトルトラック『The Animal』は、ドラムマシンが点線のような道を刻む中、情感豊かなホーンと、言葉のない癒しの大気的なボーカルが再び集う、短いメランコリックなバラード調の曲です。


To Read』に到達すると、ダンガンの探求は驚くべき明快さで凝縮され、グループが響き渡る和音で完全に一致する瞬間が訪れます。ダンガンにとって、音と空間で互いに絡み合ったまま、その瞬間の存在を捉える貴重な瞬間です。彼はこのように結論付けます。「私はいつも、音楽を通じて共有される、一瞬の儚さ、それから強い一体感を持つ瞬間に興味を抱いています」


『The Animal』は音楽的な変容の形態であり、依然としてアコースティックを中心に組み立てられながら、より作品として増幅され、新たな次元へと昇華されています。ブルー・レイク・プロジェクトは、ジェイソン・ダンガンとの普遍的なつながりに基づくコラボレーションを通じて新たな生命を吹き込まれました。それは彼の最も野心的なアルバムにおいて結実を果たしています。

 

 

Blue Lake  『The Animal』

 

 

Preview      ヨーロッパの視点から見た故郷テキサスへの賛歌

 

エレクトロニックの実験音楽からミニマルミュージックを中心とする前衛音楽、そして民族音楽まで幅広い実験音楽をリリースするロンドンのレーベル、Tonal Unionがこの秋新譜として送り出すのは、コペンハーゲンの作曲家/ツィター奏者のブルーレイクによるニューアルバム『The Animal』です。 


デンマーク/コペンハーゲンに在住するアーティストによる故郷アメリカ/テキサスへの賛歌ともいえ、ツィター(フォルテ・ピアノの原型。琴のように演奏する)、ダブルベース、クラリネット、ヴィオラ、ドラム等、ジャズからカントリーをくまなく駆使し、開放的なフォーク/カントリーミュージックを制作しています。インスト中心のアルバムですが、ツィターの音色がエキゾチックに響く。全般的にはヨーロッパのレンズから見たアメリカへの郷愁を意味するかのようです。

 

アルバムのオープニング「Circles」のイントロでは、オーケストラのティンパニのような奥行きのあるパーカッションのミュートの演奏から始まり、蛇腹楽器(コンサーティーナ/アコーディオン)、ツィター、弦楽器等の楽器が分散和音を描き、色彩的な音楽空間を生み出す。イージーリスニングのような響きがありますが、よく耳を澄ますと、様々な音楽が混在し、民族音楽音楽やフォーク音楽を融合した芳醇な響きが込められている。これらの色彩的にきらびやかな万華鏡のような世界は、ヨーロッパとアメリカの音楽を混在させながら発展していく。民族的な音楽の発露の後には、静かなシークエンスが登場し、ピアノとクラリネット、そしてツィターの演奏が和やかなムードをはなつ。その後、女性ボーカルのフォークミュージックに依拠した賛美歌のようなコーラスが登場し、音楽そのものは霊妙な感覚を持つようになる。様々な音楽文化が入り乱れながら、霊妙な出口へと音楽が向かっていく。それはアーティスト自身が様々な声や楽器を用いながら、故郷のアメリカへと精神的に近づいていくような感覚を授けてくれます。

 

二曲目「Cut Paper」ではフォーク/カントリーミュージックの色合いが強まる。 ナイロン弦を用いた繊細なアコースティックギターのアルペジオの演奏をもとにして、古き良きカントリーの世界へと誘います。この曲は、南部の広大な農場や畑のような田園風景を思い起こさせる空気感を、静かで落ち着いたフォーク/カントリーミュージックで体現している。音楽そのものが情景的な効果を持ち、聞き手は音楽を聴きながら自由な発想を膨らませることも不可能ではないでしょう。そして、それこそが、このアルバムの重要なポイントとなっているという気がします。


アコースティックギターとオクターヴの音程の関係でユニゾンを描くクラリネットの音色はふくよかな響きが含まれていて、聞き手の心を和ませる力を持っています。この曲はまた、次第に馬の疾駆の風景を象るかのように、軽快さを増していき、さらにリズミカルになっていきます。


インストゥルメンタル曲でありながら、聞かせどころがあり、ヴィオラのような楽器が伸びやかなパッセージを描き、風のように音楽が浮上する時、心が洗われるような感覚がもたらされる。フィドルのように響くヴィオラの華やかなイメージをパーカッションのシンバルが強調している。楽器の特性や音響性をしっかりと踏まえて、それらをうまく活かした一曲となっています。

 

続く「Berlin」は同じ調性を用い,同じような音楽のムードを引き継いでいますが、 より都会的な空気感が漂っています。この曲ではツィターのアルペジオを強調させ、異文化の混合という近代以降のベルリンという都市の気風のようなものを縁取っているように感じられます。この曲では、BGM(バックグラウンドミュージック)のような音楽的な手法を用い、家具の音楽としての爽やかなフォーク・ミュージックをアーティストの巧みな楽器の使用法により体現しています。音楽に耳を傾けていると、おのずと牧歌的な風景が目の裏に浮かんできそうになります。これらの印象的な音楽は、2分後半以降、ツィターと弦楽の演奏が中心となり、静謐なサイレンスに近い音楽へと近づく。曲の後半では、ツィターの演奏がエキゾチックに心地よく響き渡る。この曲は、どこまでも爽やかな音楽で、イージーリスニングに近い郷愁を持っています。

 

 

アルバムのハイライト曲「Flower For David」は、アコースティックギター、ツィターを中心に演奏され、カントリーの空気感に満ちている。ミニマル・ミュージックをヒントにした独創的なカントリーミュージックとも言えますが、その中にはやはり様々な文化や民俗が入り混じるように混在している。南欧の古学、あるいはイスラム圏の古楽の影響が折り重なり、これらの表層のヨーロッパ的なフォークミュージックを支えていると言える。しかし、この曲は現代的な音楽として出力されているのは間違いなく、それらがスタイリッシュな印象を及ぼすことがあります。

 

「Seeds」はこのアルバムの中でも風変わりな楽曲です。イントロでは、ダブル・ベース(ウッドベース)や弦楽器を中心とするレガート奏法の演奏を敷き詰めていますが、音楽的な印象はクラシックというより、ジャズ寄りです。エキゾチックなサウンドスケープの向こうから、爽やかなアコースティクギターの演奏が登場し、この曲はにわかにフォークミュージックの雰囲気が強まります。しかしまた、音楽そのものは単一に規定されることを忌避するかのように抽象性を増していき、ジャズのサウンドスケープの中で、ヨーロッパの民族音楽の響きを持つツィター、そしてアメリカのフォーク/カントリーミュージックの響きを持つアコースティックギターが色彩的に散りばめられ、カラフルで多彩な音楽性が強まります。 聞き手はきっと時代感覚を失ったかのような年代不明の魅惑的な音楽のワンダーランドへいざなわれることでしょう。

 

「Yarrow」において、ジェイソン・ダンガンはフォークミュージックの奥深い音楽世界を探求しています。舞踏的な要素の強い曲です。複数のギターを中心とする楽器で演奏されるアルペジオは時折、見事なほどきらびやかな音響を得ており、プロデュース的な側面においても、これらの滑らかな音響が見事に強調され、クリアな音像を獲得しています。しかし、このアルバムの中心的なテーマーー牧歌的な風景ーーが音楽で描写されているとはいえ、曲そのものは単調になることはなく、時折、ミステリアスな空気感が醸成されることがある。 全体的な四拍子のリズムの中で、曲の後半ではスラヴの民族音楽のようなイディオムも登場し、中央ヨーロッパの音楽性が強まる。アーティストの音楽的な感性がどのように完成されていったのかを垣間見ることが出来るかもしれません。「Strand」では同じように、民謡の音楽の形式が続きますが、前曲よりもアメリカーナの音楽性が色濃いように感じられます。一連の曲には、やはりアーティストの故郷への温かな思いが、爽やかな印象を持つフォーク音楽の中に滲み出ているようです。

 

もう一つの注目曲がアルバムの後半に収録されているタイトル曲「The Animal」となります。この曲では、ジャズの形式を通してフォークミュージックが展開されます。清流のせせらぎのように美しいアコースティックギターのような弦楽器の演奏を通して、伸びやかな印象を持つクラリネットのレガートがジャズ調の雰囲気を生み出すとともに、柔らかく安らいだ感覚を与えています。この曲に感じられるような温いエモーションを捉えられるかが、このアルバムを聴く際のポイントとなるかも知れません。 特に、アコースティックギターの演奏の聞かせどころがあり、1分20秒付近のギターソロは澄明で美しい感覚に縁取られています。これは今や現代的な工業化が進む中で失われつつある原初的な風景への憧憬が仄めかされているように思えます。

 

終盤の曲を聴けば、フォーク/カントリーミュージックが単なるボーカル音楽ではないことが理解してもらえるはずです。 ギターミュージックによる理想的なフォーク/カントリーを探求したのが「Vertical Hold」だとするなら、「To Read」はその音楽の郷愁的な印象を強調している。それぞれに異なる印象を持つ曲が多く収録されており、フォークミュージックの奥深い魅力を知るのに最適な一枚となる。また、『The Animal』は、BGMとしても聴くことが出来、ブルー・レイクの音楽性の片々には、リゾート的な安らいだ趣向も凝らされているように思えます。聴く場所を選ばず、気兼ねなく楽しめる音楽という点では家具の音楽の要素を多分にはらんでいるようです。聞き手の空間の雰囲気を尊重した珍しいタイプのカントリーアルバムとなっています。



*レビューは英国のレーベル、Tonal Unionから提供された音源をもとに掲載しました。(8月24日)

 

 

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▪Reactions from various media outlets for ”Blue Lake”(各メディアからの反応)


・“Radiantly tranquil...braids together masterful precision and naturalistic experimentation(輝きに満ちた静けさ…卓越した精度と自然主義的な実験を巧みに融合させた)” -Pitchfork


・“Blue Lake weaves a scintillating sonic tapestry(ブルー・レイクは、きらめく音の織物を見事に作り出す)” - Paste Magazine


・"Irresistably radiant(抗いがたい輝き)" - Uncut


・"Dazzling(まばゆさ)" - The Guardian


・“A pastoral gem..painting a gorgeous vista of experimental Americana, country music for someone who is far from home(牧歌的な宝石…実験的なアメリカーナ音楽の壮麗な風景を描き出す、故郷から遠く離れた人に向けたカントリー音楽)” - Beats Per Minute


・“Gentility and grace.. lowered my blood pressure about 10 points(優美さと優雅さ…血圧を10ポイントほど下げてくれる)” - NPR All Song Considered