Meerena ©︎ Keeled  Scales



Meernaaは、このニューアルバムを通じて、ネオ・ソウル、R&B、インディー・ポップの情熱的な側面を参照し、セード、ケイト・ル・ボン、ミニー・リパートン、トーク・トークなど様々な影響を受けたソングライター、カーリー・ボンドのくすんだボーカルと、官能的で技術的に洗練された楽曲を提供している。


Meernaa(ミールナー)名義の作品を通して、カーリー・ボンドは中毒や喪失といった重いテーマを愛というレンズを通して捉えようとしている。


「I Believe In You」について彼女はこう語っている。「彼らはやがて麻薬と手を切りましたが、断酒中も彼らの精神衛生は軽視され、私も、彼らと同じ運命からは逃れられないという物語が私の観念に植え付けられた。この曲は、自己成就的予言に挑戦し、変えていくこと、そして、自分の人生にポジティブなことが起きる権利があると自らに信じさせる気概を奮い立たせることについて歌っている」


「On My Line」は、ジョニ・ミッチェルの「Car On A Hill」にインスパイアされた。拒絶されることを悲しく、クールに受け入れ、その中で解放される感覚を表現している。


「Another Dimension」は、ボンドが実際に出会う10年前にタイムスリップしてパートナーに会うという鮮明な夢を見たことを歌っている。目覚めた後、彼女は内面に残る余韻を振り払うことができずにいた。


カーリー・ボンドは、ベイエリア北部の町で育ち、詩や音楽を逃避や感情処理の手段として使っていた。幼い頃、ホイットニー・ヒューストンのセルフタイトルアルバムのカセットを贈られ、音楽がいかにパワフルで癒しであるかを学んだ。クラシック・ロックのラジオ局を聴いたり、オークランドのジャズ・クラブ「Yoshi's」に行ったり、Daytrotterからダウンロードできるものは何でもダウンロードしたりと、思春期を通じてさまざまなジャンルを聴き、探求することで、しばしば自己を癒していた。


やがて、ボンドは、高校のジャズ・プログラムでギターを習い始め、自分で曲を作るようになった。音楽の知識を深めたいと思い、大学に進学するかどうか悩んでいたボンドは、2013年にサンフランシスコのタイニー・テレフォン・レコーディングでインターンを始めた。このスタジオに魅了されたボンドは、ピザ・レストランでのバイト代を貯めて、1日レコーディングをする余裕を作り、後にバンドメイトとなる夫のロブ・シェルトンと仕事をすることになった。


シェルトンとボンドは、その後すぐに一緒に音楽を演奏し始め、ボンドはベイエリアのミュージシャン、ダグ・スチュアート(ブリジャン)やアンドリュー・マグワイアとコラボし、Meernaaとして音楽を発表し始めた。2020年、シェルトンとボンドは一緒にロサンゼルスに移住し、タイニー・テレフォンのOBであるジェームス・リオット、アンドリュー・マグワイアとともに、自身のスタジオ、アルタミラ・サウンドをオープンした。


ロサンゼルスの音楽シーンで花開いたカーリー・ボンドは、ルーク・テンプル、ジェリー・ペーパー、スザンヌ・ヴァリー、ミヤ・フォリックらとセッションやツアーを行うギタリストでもある。




『So Far So Good』/ Keeled  Scales



2019年のデビュー・アルバム『Heart Hunger』に続いて発表された『So Far So Good』は、Meernaaのシンガーソングライターとしての飛躍を約束するような画期的なアルバムとなっている。

 

アーティストはみずからの持ちうる音楽的な語法を駆使し、気品のあるロック/ポップスの世界を構築しようとしている。ホイットニー・ヒューストンやジョニ・ミッチェルから習得した音感の良さと普遍的な音楽に対する親しみは、セカンドアルバムの10曲に艷やかな印象性をもたらす。70、80年代のポップスからの影響は、ダンサンブルなビートと軽快なグルーブ感を付与している。ソロアーティスト名義ではありながら、バンドサウンドの醍醐味を多分に意識したケイト・ル・ボン(シカゴのロックバンド、Wilcoの最新アルバム『Cousin』のプロデュースを手掛けている)のプロダクションも、Meernaの音楽に初めて触れる人々に抜けさがないイメージを与えるに違いない。 

 

 

「Oh My Line」

 

 

アートワークの印象もあいまってか、Meernaの音楽は、心なしかスタイリッシュな感覚を与える。そしてミールナーの音楽は、カルフォルニアの青い空、燦々たる太陽に対する陰影をわずかに留めているように思える。


アルバム『So Far So Good』のオープナー「Oh My Line」を聞けば、彼女がどのような音楽的な知識の蓄積を築き上げて来たのか、その一端に触れることが出来るだろう。


ジョージ・クリントン擁する Funkadelic(ファンカデリック)の『Maggot Brain』、William ”Bootsy” Collins(ウィリアム・ブーツイー・コリンズ)のアルバムに見受けられるファンクやソウルを基調としたミクスチャーサウンドを反映させ、しなやかなロックとポップスの形に落とし込む。バンドサウンドの上に軽快に乗せられるカール・ボンド(その名は映画俳優のようであるが、彼女は歌手である)の飄々としたボーカルが舞う。


ボンドのボーカルは、サザン・ソウル/ノーザン・ソウルの影響下にあると思えるが、スタックスやモータウンのアーティスト程には泥臭くはない。ボーカルの佇まいから匂い立つのは、しなやかな印象である。段階的にスケールを駆け上がっていく軽妙なギターライン、そして、ほんのりと哀愁を漂わせるエレクトリック・ピアノのフレーズがカーリー・ボンドのボーカルを艶やかに引き立てる。ベースラインはグルーヴに重点が置かれているが、それらはサビの中で跳躍するような影響を及ぼし、カール・ボンドのスタイリッシュなボーカルの感覚を上手く引き出している。

 

 

一曲目でファンク/ソウルという切り口を見せた後、カーリー・ボンドは「Another Dimention」において、彼女のもう一つのルーツであるインディーロックやフォークへの傾倒をみせている。マイルドではありながら深みを併せ持つ豊かな感性に根差したボーカルは、ボーイ・ジーニアスとして活動するLucy Dacus(ルーシー・デイカス)の2021年のアルバム『Home Video』で披露した秀逸なメロディーラインと重なるものがある。


そういった2020年代前後の現代的なポップスへのアクセスに加え、ソウルの進化系であるネオソウルからの影響を巧緻に取り入れ、夢見心地に浸されたうるわしきポピュラー・ワールドを追求している。そして、それらのドリーミーな感覚を擁する軽妙なギターラインと上品なストリングスが、感覚的な要素を引き上げていく。音楽の中には聞き手を惑わす心地良さがあり、その音の波の中にいついつまでも浸っていたいと思わせるものがある。それは、制作者が80年代のヒューストンの音楽から学び取った音楽の愉楽であり、そしてポップネスの核心でもあるのかもしれない。

 

「As Many Birds Flying」でも同じように、ソフト・ロック/AORに近い音楽を下地にして、感覚的なポップスを作り上げる。イントロのギターラインとシンセの組み合わせは、The Policeの80年代のMTV時代の全盛期の音楽の影響をわずかに留めているが、カーリー・ボンドのボーカルが独特な抑揚を交え、それらのバックバンドの演奏をミューズさながらにリードすると、その印象は、立ちどころにAOR/ソフト・ロックとは別の何かに変貌する。 


ネオソウルなのか、ニューロマンティックなのか、それとも……? いかなる音楽がその背後にあるかは定かではないが、官能的な雰囲気を擁するボンドのボーカルは、ドリーム・ポップのようなアンニュイな空気感を帯びる。それらの夢見心地の雰囲気はやがて、ロサンゼルスのAriel Pink(アリエル・ピンク)のようなローファイ/サイケを下地にしたプロダクションと結びつき、最終的に先鋭的な印象を及ぼすに至る。これらの1980年代から2010年代にひとっ飛びするような感覚は、『Back To The Future』とまではいかないが、SFに近い快感や爽快味を覚えさせる。

 

「Mirror Heart」でも、それらの現代的な感覚を擁する音楽を踏襲している。 インディーフォークやフリー・フォークを根底に置いた曲で、アコースティックギターのストロークとシンセのシークエンスという2つの側面からポップスへのアクセスしている。そして、その上に乗せられるカーリー・ボンドのヴォーカルは、やはり一貫して、涼しげでしなやかな印象に彩られている。これは例えば、昨年、SUB POPからデビューしたNaima Bock(ナイマ・ボック)による爽やかなモダン・ポップのアプローチにも近いものがある。


もちろん、ボンドの場合は、微妙なフレーズのニュアンスの変化、言葉の持つ抑揚の微細な変容により、それらの内面的な音楽を艶気のある表現性に変貌させている。さらに、驚くべきことに、曲の中にサビや見せ場のような形で現れる高音部のビブラートで抑揚をもたらそうとも、その歌の表現性は中音域のときと同じように昂じるわけでもなく、また、激しくなるわけでもなく、一定の落ち着きとしなやかさを維持し続けていることが美点である。


こういった歌による精彩なニュアンスの変化は、平均的な才質の歌手では表現しきれない高水準にカーリー・ボンドが到達していることの確かなエヴィデンスとなるかもしれない。またそれらの歌の世界観を巧緻に引き出すのが、シンセサイザーのトーンシフターによる変化なのである。

 

アルバムの序盤を通じ、こういった盤石かつ安定感のある音楽の世界を示した上で、ボンドは、中盤の収録曲を通じてさらに多彩な表現性を示す。特に、『Black Eyed Susan』では、ワールド・ミュージックに傾倒を見せる。バックビートを意識した軽妙なアコースティック・ギターの演奏は、ボサノヴァ・ブームの火付け役である、Stan Gets(スタン・ゲッツ)/Joao Gilbert(ジョアン・ジルベルト)のオシャレなブラジル音楽のポップスの性質を取り込み、それをモダン・ポップスという形で昇華している。

 

ボンゴのような打楽器のリズムを活かしたワールド・ミュージックを踏襲した音楽はやがて、Miya Folickに象徴されるアヴァン・ポップの性質を帯びる。本作の主な特徴である新時代と旧時代を往来するような不可思議な感覚は、現行の世界のポップス・シーンを俯瞰した際、新鮮な印象を受ける。



続いて、アヴァン・ポップにも近い雰囲気のある曲調は、曲の中盤から終盤にかけて、木管楽器やオーケストラ・ストリングスを配することで、アーティストの重要なルーツの一つであるジャズの気風を反映させ、ノルウェーのJaga Jazzist(ジャガ・ジャジスト)や、クラリネット奏者/Lars Horntvethの『Pooka』で見受けられる、フォークトロニカ/ジャズトロニカの範疇にある先鋭的な音楽へと変遷を辿っていく。これらの一曲を通じて繰り広げられる変容の過程には瞠目すべき点がある。次曲と共にアルバム中盤のハイライトを形成している。


 

その後も、多彩な音楽性はその奥行きを敷衍していく。「I Believe In You」では、シンプルなマシンビートと、「Hum〜」というフレーズを通じて、甘酸っぱく、メロウなムードを反映させたAOR/ソフト・ロックの音楽性を楔にし、彼女の音楽の重要なルーツであるホイットニー・ヒューストンの1985年のセルフタイトル・アルバムの懐かしいR&Bを基調にしたポップスを展開させる。



プレスリリースで紹介されている通り、ボーカリストの艶やかで官能的なイメージは、80年代への懐古的な印象とともに、聞き手を現代のノイズや喧騒から遠ざけ、音楽の持つ深層へと至らせる。


これらのアーカイブからもたらされる音の懐かしさを、カーリー・ボンドはいかなるアーティストよりも巧みに表現しようとしている。ある意味では、ビヨンセの前の時代のR&Bの核心を誰よりも聡く捉え、それらを超えの微妙なトーンの変化、その歌声の背後にある感情の変化により、温かみのある感情性へと変換させる。この技術には感嘆すべき点がある。


もちろん、彼女の夫を擁するバンドアンサンブルの妙も素晴らしい。中盤における金管楽器/木管楽器の芳醇な響きにも注目したいが、ファンク/ソウルを反映させたベースラインがグルーブ感を付加している。音楽はリズムが混沌としていると、メロディーが優れていても残念なものになってしまうが、これらの均衡が絶妙に保たれていることが、こういった、ハリのある音楽を生み出す要因となったのである。

 

「Believe In You」

 

アルバムの中で最も繊細でありながら大胆さを兼ね備えるバラード「Framed In A Different State」も聴き逃せない。静かなギターとエレクトリック・ピアノ、そしてビートルズがよく使用していたメロトロンの音色を掛け合せ、チェンバー・ポップを下地にしたバラードに挑戦している。



そして、この情感溢れる傑出したバラードは、ギターラインやシンセのフレーズをコール&レスポンスのように織り交ぜることにより、温かな雰囲気を持つ曲へと仕上がっている。また、アメリカーナの影響もあり、ペダルスチールの音色が聞き手を陶酔した境地へと誘う。


その上に漂う、ボンドのボーカルは、往年のフォークシンガーのような信頼感がある。そして一方で、涙ぐみそうな情感を込めて歌われるボンドのヴォーカルは、曲の中盤にかけて何かしら神々しい雰囲気に変わる。それはシンガーという人間の性質が変化し、神聖な雰囲気のある光を、その歌の印象の中に留めるということでもある。しかもそれは感情を高ぶらせることではなく、心を包み込むかのような慈しみによってもたらされるものなのである。

 

アルバムのタイトル曲「So Far So Good」は、レトロな感覚を持つテクノを主体として繰り広げられる、少しユニークな感覚を持つポップミュージックである。それほど真新しい手法ではないにも関わらず、インディーロックに触発されたギターライン、そして、やはり一貫して飄々とした印象のあるボンドのボーカルに好印象を覚えない人はいないはず。



しかし、やはりアルバムの全般的な楽曲と同じように、序盤のユニークな印象は中盤にかけて変化していき、Funkadelicの演奏に見られる休符とシンコペーションを効かせた巧みなアンサンブルに導かれるようにし、ボーカルラインは、気品に満ちた印象を帯びながら、淑やかなポップスへと変化してゆく。


それほど意図的にアンセミックなフレーズを作ろうとはしていないにもかかわらず、なぜか歌を口ずさんでしまう。この音楽的な親しみやすさにこそ、Meernaの音楽の醍醐味が求められる。そして、アルバムのタイトル曲として申し分のない名刺代わりの一曲である。

 

これらのコアなポップスのアプローチは最終的に、クローズを飾る「Love Is Good」という答えに導かれる。トライアングルを織り交ぜたパーカッシヴな手法は、ベースラインとシンセの緊張感のあと、ドラムのロールにより劇的な導入部となって、カール・ボンドの歌の存在感を引き立てる。その期待感に違わず、ネオ・ソウルやモダン・ポップの王道にあるフレーズを丹念に紡いでいく。


コーラスワークや、背後にあるシンセやギターは、より深みのあるソウルミュージックの領域へと達する。それはスタックス・レコードのソウルや、カーティス・メイフィールドのジャズ/フュージョン/ファンクに触発された演奏に比する水準に位置する。しかしながら、こういったコアなアプローチを取りつつも、しっとりとしたボーカルラインが維持されることで、ポップスとしての妙味を失うことがない。 



さらに、バンドアンサンブルの妙は、この曲の中盤から後半にかけて最高潮に達し、Jeff Beckの『Blue Wind』、Eric Claptonを擁するCreamの「Sunshine Of Your Love」で示されたような、ロックンロールの真髄である玄人好みのロックサウンドへと瞬間的に変化していく様は圧巻と言える。


数限りない音楽が内包されながらも、全くブレることのない本作の根幹には、どのような音楽の背景があるのか。少なくとも、表面的なものばかり持てはやされる音楽が散見される現代のシーンにあって、こういった本当の音楽は、他のいかなる音楽よりも深い意義を持つ。Meernaaというシンガーが今後どれくらいの活躍をするのかは予測出来ない。しかし、このアルバムを手にした、あるいは、聴くという幸運に肖った人々は、このアーティストに出会えて良かったという実感をもっていただけると思う。

 

 

Weekend Featured Track- 「So Far So Good」

 

 

 

 

90/100

 

 

Meernaのニュー・アルバム『So far So Good』はKeeled Scalesから発売中です。

 Akumi 『Lines』

 

Label: Total Union

Release: 2023/10/6


Review


先日、ロンドンのレーベルのオーナーから連絡が入り、ぜひレビューをしてもらいたいというご要望をいただきました。その手始めとして、フランス出身、現在、ロンドンを拠点に活動する実験音楽家、Akumi(パスカル・ビドー)の新作アルバム『Lines』を読者の皆様にご紹介したいと思います。

 

ロンドンの自宅スタジオで全曲録音されたこの作品について、Akumiこと、パスカル・ビドーは次のように語っている。「もう少し水平的でアンビエントな感じで、点線か直線かわからないような線を何層にも重ね、それを展開させながら、その線が私をどこに連れて行くかを見てみたかった」

 

このアルバムは、アルトサックス、クラリネット、ピアノの演奏を中心に徹底したミニマリズムと点描主義が貫かれている。またアートワークからも伺えるように、パターン芸術のようなコンセプトが作品全体に散りばめられて、インテリアのような趣のあるスタイリッシュな音楽が出来上がった。


オープニング「Secant」では、ピアノの演奏を通じて、ミニマリズムの極致を表現し、そしてさらに、このアルバム全体のコンセプトでもあるスティーヴ・ライヒへのオマージュをパスカル・ビドーは示そうとしている。ピアノとクラリネット、アルトサックスという組み合わせは、既にECMから発表されたライヒの『Octet Music For A Large Ensemble」で示された前衛音楽の作風である。しかし、これらのオマージュは、アルトサックスのリズムと、クラリネットのレガートという微細な点まで網羅しているが、その中にマニュエル・ゲッチングのような電子音楽の要素が加わることで、新鮮な印象をもたらす瞬間もある。そしてこの電子音の要素は、やがてパルス音のような形式へと変化する。現代音楽としても電子音楽としても楽しめる。


同じようにアルトサックスのリズムの要素を強調する二曲目「Oblique」でも、スティーヴ・ライヒのミニマリズムを継承しているが、パスカル・ビドーは、のちのミニマル・ミュージックが見落としていたジャズの要素を反映させて、清新な作風を追求している。そして一曲目と同様にゲッチングのテクノのパルス音を組み合わせ、ミクロな電子音楽へと変容していく。そしてそのパルス音はやがてクラスター音のように音像を変えていき、短い楽曲の中で印象が面白いように変わっていく過程を捉えることが出来る。やがて、曲の後半部では、ピアノの奥行きのある演奏が加わることにより、この実験音楽はある種の美麗な瞬間を出現させるのである。

 

上記2曲で一貫したミニマリズムを表現しているパスカル・ビドーではあるが、前曲の連曲である三曲目「Oblique」は少しだけ作風が異なり、パターン芸術とは別のインプロヴァイゼーションの面白みを追求している。前曲のパルス音/クラスター音の余韻を巧みに活かし、アンビエントに近い印象のある音楽を変奏的な手法で示している。その中に、アヴァン・ジャズの影響を加味した木管楽器のトリルを加えることで、空間芸術のようなテクノ/アンビエントの領域へと移行していく。その複数の楽器や電子音が織りなすシークエンスを背後にし、クラリネットの響きがソリストのような働きをもたらすことによって、前衛的な音像空間を生み出している。前の2曲と同様に断続的な音響の変化という点に焦点が絞られていることは疑いないが、しかし、それはより自由性の高い寛いだ印象のある音楽性がしめされていることが理解出来る。

 

四曲目「Parallel」でも、アンビエントに近い癒やしと安らいだ印象のある楽曲が続く。そして上品なピアノやクラリネットの演奏を交え、温かみのある音像を生み出している。オーケストラ楽器の演奏は稀に前衛的な奏法も取り入れられているが、それらの前衛性を安らいだ感じのピアノの優しげな響きが包み込む。何かこの複数の楽器によりもたらされる音像空間に身を任せていたいと思わせるような一曲である。時に、クラリネットの演奏は抽象的な概念に限らず、具象的な何か、心安らぐ風景や温かな情景を巧みにその音の中に映し出し、聞き手の心を捉える。アヴァンギャルドな方向性を取りながらも、その中には人間味溢れる温かさが漂っている。

 

五曲目「Tangent」では再び、スティーヴ・ライヒやのミニマリズムの手法に回帰している。冒頭の2曲とは異なり、ライヒがエレクトリック・ギターという観点からミニマリズムを探求した画期的な作品『Electric Counterpoint』の作曲技法を踏襲している。ミクロの音の要素が所狭しと敷き詰められているが、そのパターン的な印象性を変化させるのがベース音だ。表面的なフレーズは反復に過ぎないけれど、高音部と対比的に導入される低音部の迫力ある響きが全く違う印象を及ぼす。 この曲で示されているのは、バッハからライヒ、グラス、ライリーまで継承されている現代音楽におけるカウンター・ポイント(対旋律)の未知なる技法である。

 

ヴァイナル・バージョンには続いて2曲が収録されている。「Oblique」の長尺バージョンである「Oblique (Exclusive)」に加えて、「Longing For Tomorrow」が収録されている。そしてこのアルバムの中では最も着想性と想像性に溢れる一曲として聞き逃すことが出来ない。特に、後者の楽曲は、笙のような音色と、マニュエル・ゲッチングの前衛的な響きを重ね、独特な音響性を生み出している。さらに曲調はやがて中盤では、ロンドンのエレクトロニック・デュオであるMarmoの音楽を彷彿とさせるアヴァンギャルドなテクノへと転化する瞬間が留められている。最終的に、この曲はIDMの領域を離れて、EDMのライブセットを思わせるフロアのダンスミュージックへと劇的に変化する。『Lines』は、ミニマリズムを中心として作風では有りながら、同時に、電子音楽家のファンの好奇心を十分に掻き立てる素晴らしい内容となっている。 

 

 

 

 

 

 

88/100 

 

 

 In English--


We were recently contacted by the owner of a London-based label and asked us to do a review for them. As a start, we would like to introduce to our readers the new album "Lines" by Akumi (Pascal Bideau), a French-born experimental musician currently based in London.

Recorded entirely at his home studio in London, "Pascal Bideau", aka "Akumi", describes the album as follows: "It's a bit more horizontal, more ambient. I wanted it to be a little more horizontal and ambient, with layers of lines that I don't know if they are dotted lines or straight lines, and I wanted to let them unfold and see where they would take me."
 

The album is thoroughly minimalist and pointillist, with alto saxophone, clarinet, and piano playing at its core. Also, as the artwork suggests, the concept of pattern art is scattered throughout the work, creating a stylish music with the quaintness of an interior.


In the opening track, "Secant," Pascal Bideau attempts to pay homage to Steve Reich through the piano, the ultimate expression of minimalism, and also the concept of the entire album. The combination of piano, clarinet, and alto saxophone is in the style of the avant-garde music already presented in Reich's "Octet:Music For A Large Ensemble," released on ECM Records. However, while these homages cover the minute details of alto saxophone rhythm and clarinet legato, there are moments when the addition of electronic music elements, such as Manuel Göttsching, bring a fresh impression. And this electronic sound element eventually transforms into a pulsing form of sound. It can be enjoyed as both contemporary music and electronic music.

The second track, "Oblique," which similarly emphasizes the alto saxophone rhythmic element, continues Steve Reich's minimalism, but Pascal Bideau pursues a fresh style by reflecting elements of jazz that were overlooked by later minimal music. Then, as in the first track, he combines the pulsing sounds of Göttsching,' techno and transforms it into a micro electronic music. The pulsing sound eventually changes its sound image like a clustered sound, and the listener can capture the process of the interesting change of impression in the short piece. Eventually, in the latter part of the piece, the piano adds depth to the piece, and this experimental music emerges as a kind of beautiful moment.

Although Pascal Bideau expresses a consistent minimalism in the above two pieces, the third piece, "Oblique," which is a series of the previous pieces, has a slightly different style and pursues the interest of improvisation, which is different from pattern art. It skillfully utilizes the lingering pulse/cluster sounds of the previous piece to present music with an almost ambient impression in a variant manner. The addition of woodwind trills, which add an Avant-jazz influence, moves the piece into the techno/ambient realm of space art. With its multiple instruments and electronic sound sequences behind it, the clarinet's resonance brings a soloist-like function to the piece, creating an avant-garde sonic space. Like the previous two pieces, there is no doubt that the focus is on intermittent sonic changes, but it can be understood that the music has a freer and more relaxed impression. 

 

The fourth track, "Parallel," also continues with a soothing and restful, almost ambient impression. It is then interspersed with elegant piano and clarinet playing, creating a warm and welcoming soundscape. The orchestral instruments play with some avant-garde techniques, but these avant-garde elements are enveloped by the gentle sounds of the piano, which seems to be at ease. This is a piece that makes one want to lose oneself in the soundscape created by the multiple instruments. At times, the clarinet's performance is not limited to abstract concepts, but it skillfully projects something concrete, a comforting landscape or a warm scene in its sound, capturing the listener's heart. While taking an avant-garde direction, there is a humanistic warmth in the music.

The fifth track, "Tangent," once again returns to the minimalist approach of Steve Reich and others. Unlike the first two tracks, it follows the compositional techniques of "Electric Counterpoint," Reich's groundbreaking exploration of minimalism from the perspective of the electric guitar. Microscopic sound elements are laid down in many places, but it is the bass sound that changes the patterned impressionistic nature of the music. The superficial phrases are merely repetitive, but the powerful sound of the bass part, introduced in contrast to the treble part, creates a completely different impression. What this piece demonstrates is the unknown technique of counterpoint in contemporary music, which has been inherited from Bach to Reich, Glass, and Riley.


The vinyl version includes two more pieces. The vinyl version is followed by two more songs: "Oblique (Exclusive)," a longer version of "Oblique," and "Longing For Tomorrow. And it is one of the most imaginative and imaginative songs on the album that cannot be missed. The latter piece, in particular, layers sho-like tones with Manuel Göttsching avant-garde sound, creating a unique acoustic quality. Furthermore, there are moments in the middle of the song where the tune eventually turns into avant-garde techno, reminiscent of the music of London electronic duo "Marmo". Ultimately, the song leaves the realm of IDM and dramatically transforms into dance music for the floor, reminiscent of a live EDM set. ''Lines" is an excellent listen, with a style centered on minimalism, but at the same time, enough to pique the curiosity of fans of electronic music.


ベルリンを拠点に活動する日本人アーティスト、Tetsumasaが新作EP『Lots of Questions』のリリースを発表しました。MVや先行シングルは発売日当日解禁とのことです。下記よりアートワークと収録曲をチェックしてみて下さい。

 

Tetsumasaは名古屋市出身の日本のエレクトロニック・プロデューサー、DJ、シンガー/ラッパー。Downtempo、Hip Hop、House、Dub、Bass Music全般に深い影響を受け、2016年よりベルリンを拠点に活動中。類似アーティストは、Yaeji, 박혜진 Park Hye Jin, BABii, Sassy009, Moderat.が挙げられている。


Tetsumasaは、2000年代には別名義の”Dececly Bitte”としてU-cover、Sublime Porte、AUN Muteや+MUS等、ヨーロッパ/日本のレーベルから、ダブ/テクノ/アンビエント等の音響作品を発表してきた。その後、”Tetsumasa”名義で活動を開始し、実験的な電子音楽の作品 『ASA EP (vinyl)”』、『Obake EP (cassette)』をリリースしました。Urban Spree for Libel Null Berlin、Griessmühle (Berlin)、OHM Berlin、ATOM Festival (ウクライナ) などでもライブセットでプレイしている。

 

Tetsumasaの新作『Lots Of Questions』は、2023年11月2日木曜日に発売予定。神秘的な音の迷宮に足を踏み入れ、Tetsumasaは幅広い影響力を活かした電子サウンドの折衷的な融合を提供する。



「Moment in Berlin」で始まるこのトラックは、暗く謎めいた低音と突き刺すような明快な瞬間を融合させた実験的なサウンドスケープにリスナーを引き込む。それはベルリンの霧の夜の感覚を呼び起こし、そこでは何でも可能であるように見えるが、実のところは明確なものは何もない。



より内省的な「Lots Of Questions」は、ミニマリズムの痕跡を呼び起こしながらも、親しみやすくも独特なTetsumasaの雰囲気を醸し出している。 あたかもアーティストがあなたを、ささやき声の会話と反響する思考で満たされた薄暗い部屋に招待したかのようである。


 

「Leave Now」はTetsumasaの心の奥深くに突き刺さる曲。抽象的なシンセの組み合わせの深さを掘り下げて、リスナーに別世界のサウンドスケープを思い出させる要素を組み合わせた。



一瞬、親近感を覚える瞬間もあるが、『Lots Of Questions』は本質的には自己探求の旅。それはすべて音楽の曖昧さによる美しさ。 Tetsumasaの世界では、答えよりも質問が強力で、目的地よりも旅が重要である。 

 

 


Tetsumasa's new release, "Lots Of Questions," is set to land on Thursday, November 2, 2023. Venturing into the mysterious labyrinth of sound, Tetsumasa offers an eclectic fusion of electronic sounds, drawing on a broad spectrum of influences.

Starting off with "Moment In Berlin", the track immerses listeners in an experimental soundscape, blending dark, enigmatic undertones with moments of piercing clarity. It evokes the feeling of a foggy night in Berlin, where anything seems possible but nothing is quite clear.

The more introspective "Lots Of Questions" beckons with traces of minimalism yet exuding a familiar yet uniquely Tetsumasa vibe. It's as if the artist has invited you into a dimly lit room, filled with whispered conversations and echoing thoughts.

Finally, "Leave Now" is the deepest plunge into Tetsumasa's mind. A track that delves into the depths of abstract synth combinations, combining elements that may remind listeners of the otherworldly soundscapes.

While there are fleeting moments of familiarity, "Lots Of Questions" is, at its core, a journey of self-exploration. it is all about the beauty of musical ambiguity. Let Tetsumasa guide you through his universe - one where questions are more potent than answers, and the journey is more important than the destination.



Tetsumasa 『Lots Of Questions』 EP


Tracklist:

1. Moment In Berlin
2. Lots Of Questions
3. Leave Now



Pre-order(先行予約):

 

https://linktr.ee/tetsumasa 

 

Blondeshellが前作のセルフタイトルアルバム『Blondeshell』のデラックス・ヴァージョンをリリースしました。


「恋をしていると思っていたのに、実は憧れや絶望、あるいは自分の価値に対する戸惑いを感じていたことがたくさんあった。

 

 アルバムに書いた恋愛の多くがそうだったと思う。私は、自分の中のもっと根本的な葛藤について語る方法として、愛やロマンスについて語った。この曲は、そうした過去の関係や、特にクィアな関係という文脈の中で、実際に愛と認められるものについて、私の視点が変わったということを伝えるためのものなんだ」


デラックス・アルバムの全曲は以下をチェック。

 

 

 

©︎Petros


今年、来日公演を開催したUKのシンガー、シグリッドがニューシングル「Ghost」をリリースしました。このシングルは、セカンド・アルバム『How To Let Go』リリース後初となる新曲「The Hype」に続く作品。「The Hype」と名付けられた10月27日発売予定のEPの収録曲となる。


「物心ついたときから、キャッチーなもの、特に頭から離れないメロディーが好きだった」とシグリッドは説明する。特に、頭から離れないメロディーが好き」とシグリッドは説明する。

 

「どうりでポップミュージックを作り始めたわけだ!ひとつのタイプのポップ・ソングを作りたいと思ったことは一度もない。書き続けてきたけど、今年シングルを1枚出すだけじゃ物足りない気がして、音楽的に今の自分の位置を示すためにEPを出すことにした。この形式が好き。短くて簡潔だけど、曲作りやストーリー、サウンドのさまざまな側面を見せるのに十分な時間がある」


 

 

「”Hype EP”では、本当に期待に応えられているのか、失敗してしまったのか、誰かを乗り越えているのか、そして「きっと大丈夫!」ということについて書いた」


「Ghost」




Sigrid 「The Hype』 EP
 

Tracklist:

The Hype
Borderline
Ghost
Wanted It To Be You

©Joelle Grace Taylor
 

mxmtoonが新作EP「plum blossom (revisited) 」を発表しました。このEPには、ティーザー・トラック「feelings are fatal (revisited)」を含む、彼女の初期の曲の新バージョンが収録されています。新作EPは11月10日にリリースされます。


マイアはこう説明しています。「5年の間に多くの変化が起こるもので、その中で10代から大人になるときは特にそう。最初のEPをリリースしたのは18歳のときで、『plum blossom』は17歳のときに書いた曲で構成されている。その時点では、頭の中にあるすべてのアイデアを効果的に歌にするためのツールもボキャブラリーも持っていなかったから、私が作っていた音楽は、私が思い描いていた形にはならなかった。


「23歳になった今、若い頃の自分の夢を叶えるためのリソースを持っていることに、とても感謝している。”plum blossom (revisited)”は、自分がどこからスタートしたのかに敬意を表し、この5年間で一緒に成長してくれたみんなに感謝し、若い自分を受け入れることから逃げないように励ますための私の方法だ」



「feelings are fatal (revisited)」


 


ラモーンズが復活!? と思ったら・・・、blink-182だった・・・。彼らは今回、ラモーンズへのリスペクトとオマージュを示したニューシングル「Dance With Me」をリリースし、ファンを楽しませてくれています。


この曲は、最近リリースされた「One More Time」と「More Than You Know」に続くシングル。これらの曲は、2011年以来マーク・ホッパス、トム・デロンゲ、トラヴィス・バーカーが参加した彼らの復活作『One More Time...』からのシングル・カット。ニューアルバムは10月20日にリリースされる。


プレスリリースによると、この17曲は、「悲劇、勝利、そして、最も重要な兄弟愛というテーマを重ね合わせながら、彼らの絶頂期のバンドを捉えている」という。

 


「Dance With Me」

 

 

映画、アニメ、CMの作曲家として多方面で活躍する、Rayonsがニューシングル「Aqua Spirit」をFLAUよりリリースしました。


「Luminescence」「A Fragment Of Summer」に続くシングルとなります。アートワーク、試聴、及び、配信リンクは以下より。

 

大ヒット映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」や河野裕原作のTVアニメ「サクラダリセット」、新田真剣佑×北村匠海W主演が話題となった映画「サヨナラまでの30分」など話題作のサウンドトラックを手がける日本人作曲家、Rayons。

 

今年最後となるシングル・シリーズの第3弾「Aqua Spirit」は、ポスト・クラシカルの世界に日本の美意識の繊細さと情緒的な深みを吹き込む感動的な楽曲。ピアノのミニマルなモチーフに、ストリングスの壮大さが融合したこの楽曲は、リスナーに水の満ち引きのような感情の波を呼び起こします。作曲の流動性と深みを連想させるタイトル通り、ピアノが広大な音楽の海の静謐な表層となり、弦楽器は感情の複雑さを何層にも重ね、深遠な感覚を生み出しています。



Rayons 「Aqua Spirit」‐ New Single



タイトル:Aqua Spirit
アーティスト:Rayons
アルバム発売日:2023年10月6日
フォーマット:DIGITAL
レーベル:FLAU

 

 

試聴リンク:

https://rayons.lnk.to/AquaSpirit 


配信リンク:

https://rayons.lnk.to/AquaSpirit


 

 

Rayons(レイヨン)

 
音楽家・中井雅子のソロプロジェクト。音大にて、クラシック、管弦楽法、ポップス、スタジオワークなどを学び、卒業後、音源制作を中心に据えた活動を開始。作曲、ストリングスアレンジ、ピアノ演奏等を行う。彼女が紡ぎ織りなす世界は、ファンタジーとダークネスな感情が重なり共鳴し特有の美しさとノイズを生み出している。

 

デビューミニアルバム『After the noise is gone』、Predawnをゲストに迎えたファーストアルバム『The World Left Behind』(2015)をリリース。映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」「サヨナラまでの30分」、TVアニメ「サクラダリセット」の音楽を手がける他、ゴンチチ、ももいろクローバーZ、小山田壮平、majikoらの作品に参加している。Rayonsとは、フランス語で「光線」「半径」の意。



 

米国のシンガーソングライター、M.ウォードは6月にANTI-から最新作『Supernatural Thing』をリリースしました。このアルバムはWeekly Music Featureとしてご紹介しています。


今回、ウォードは、1990年代の任天堂のビデオゲームにインスパイアされたアルバム収録曲「Engine 5」のビデオを公開しました。この曲には、スウェーデンの姉妹デュオ、ファースト・エイド・キット(クララとヨハンナ・セーデルベリ)が参加しています。ビデオはアンバー・マッコールが監督とアニメーションを手がけた。


 


ファースト・エイド・キットはストックホルム出身の姉妹で、彼女たちが口を開くと何かすごいことが起こるんだ。ストックホルムに行き、そこで数曲レコーディングするのはとてもスリリングだったよ。
エヴァリー・ブラザーズ、デルモアズ、ルーヴィンズ、カーターズ、セーデルベルグなど、血のつながったハーモニー・シンガーのヴォーカルは、どれも同じようなフィーリングを持っているんだ。


最新アルバム「Supernatural Thing」には他にも、Jim James、Neko Case、Shovels & Rope、Kelly Prattも参加している。


アルバムには、ウォードのオリジナル曲に加えて、2曲のカヴァーが収録。デヴィッド・ボウイの最後のアルバム『Blackstar』の「I Can't Give Everything Away」と、クローズ曲として収録されているダニエル・ジョンストンの「Story of an Artist」のライブ演奏である。ウォードはサード・アルバム『Transfiguration of Vincent』(2003年)でボウイの「Let's Dance」をカヴァーしている。


ロンドンを拠点に活動するドリーム・ポップ・デュオ、dearyのセルフタイトルのデビューEPがソニック・カセドラルから11月17日にリリースされます。6曲入りのこの作品は、数種類のヴァイナル盤と、5曲のボーナストラックとリミックスが追加されたCDの2バージョンが発売される。


1月末にリリースされたデビュー・シングル「Fairground」は、即座にクラシックとなった。シューゲイザーの美しさとトリップホップのビートがミックスされている。世界中でオンエアされ、サン・テティエンヌによるリミックス、オフィシャル・チャートのレコード・シングル・チャートで1位を獲得するなど、リアルタイムで多くの人々がこの曲に夢中になっています。


EPには、ダークな「Beauty In All Blue Satin」、ニューシングル「Sleepsong」、その他3曲の新曲が収録されており、ロンドンのトロクシーでのスローダイヴのサポート・スロットに続いてのリリースとなる。



 



deary 『deary』 EP




Tracklist:


1. Heaven

2. Only Need

3. Fairground

4. Want You

5. Sleepsong

6. Beauty In All Blue Satin


CD-only bonus tracks:

7. 2000 Miles

8. Fairground (Hide In Glass Mix)

9. Fairground (Saint Etienne Meet Augustin Bousfield At The Top Of Town Mix)

10. Fairground (Extended Mix)

11. Fairground (Live)



Pre-oder:


https://linktr.ee/dearyband




 細野晴臣 『Undercurrent』EP

 

 

 

 

Label: カクバリズム

Release: 2023/10/4




Review


映画『アンダーカレント』は、フランスのアングレーム国際漫画祭にてオフィシャル・セレクションに選出され、国内外から高評価を受ける一作。


豊田徹也の長編映画『アンダーカレント」の実写化作品。真木よう子、リリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこ等、実力派俳優が終結し、今泉力哉が監督を務めた。今回、この映像作品のための音源を細野晴臣は制作しました。EP『Undercurrent」は、来年1月にアナログ盤としても発売予定。

 

ここ数年、ボーカルトラックやジャズ等を発表してきた細野晴臣としては珍しく完全な実験音楽に挑戦した一作。リリースに関して、アーティストは、「映画用に、音の断片をシンプルにすっぴんに近い形で作りました」と説明しています。映像のイメージの換気力は十分で、多数のサンプリングやフィールド・レコーディングの手法を用いた前衛的なコラージュを散りばめている。


一例では、映画評論家であるジェイムス・モナコは、映像のサウンドトラックという形式に関して、「サウンドトラックは映像の付加物として生まれたが、その中には実際の映像を上回る意義深い作品も存在する」と著作において指摘していますが、「Undercurrent」はそういった類のEPであるようです。


無論、映像効果的な手法、コラージュにより構築される効果音としての性質を反映させた六曲は、映像のワンシーンやカットのイメージを引き出すための装置として機能する。一方で、単体の音楽作品としても聴きごたえがあり、陰影やコントラストを生かしたイメージを、流麗な音の調べを介して聞き手の脳裏に呼び起こす。かつて、吉祥寺の映画館「バウス・シアター」の閉館時のイベントに出演した細野氏ではありますが、この音源にはキネマに対する普遍的な愛情に加え、音楽制作者としての鋭い洞察力が音の片々に滲み出ています。


「Bath & Frog」は、ミステリアスであるとともに、また、いささか不気味な印象を持つ抽象的なドローン/アンビエントで始まります。


「風呂と蛙」という、日常によく見られる現実的な事物を題材に取りながらも、実際の音楽はどことなく非現実的であり、また、シュトックハウゼンに象徴されるクラスター音の技法を取り入れながら、アヴァンギャルドな空気感を生み出す。その中に、さらにアナログのシンセを用い、ノイズの歪みをもたらし、さながら空間の中に軋轢をもたらすかのようです。


一連のドローン風のシークエンスの流れは、やがて、太鼓のようなパーカッシヴな効果音を取り入れ、現実感と非現実感の間にある抽象的な音像空間を生み出す。制作法に関しては西洋的な観念をもとにしていると思われますが、しかし、それと相対する形で導入される日本の太鼓のような効果音は、松尾芭蕉の俳句の世界を連想とさせる。つまり、鈴木大拙が指摘するように、「古池や〜」の句は、蛙が水の中に飛び込むことにより、それまで自分の周りにあった静けさーーサイレンスの正体ーーをあらためて知覚し、森羅万象がその光景に含まれていることに思い至る。

 

「Underwater」は、一曲目とは対象的に、モダン・クラシカルや、ポスト・クラシカルを基調とした楽曲である。


ピアノのミニマルな演奏は神秘的なイメージの換気力を呼び起こす。ピアノは、ギャヴィン・ブライヤーズの『The Sinking Of The Titanic』や、ウィリアム・バシンスキーの『Watermusic」で好んで用いられた音像を曇らせるリバーヴ効果が取り入れられています。


しかし、これらのミステリアスな印象は、その後のシンセサイザーの導入によって、全く別の印象性を帯びるようになる。効果音的なマテリアルを配したかと思えば、その音の背後には、安らいだ感じのあるシンセの音像がその空間性を増していき、音像全体を柔らかく包み込む。


イントロの段階では、モダン・クラシカルの手法であったものが、中盤にかけてアンビエントへと緩やかに変遷を辿る様子が示されています。その後、それらの抽象的な音像は、音の解像度を敢えて落とすことにより、ドローンに近い音楽へと変化していきます。


 「Memory」では、人間の観念の中にあるきわめて得難い何かを表現しているように思えます。


前曲のある種清らかな印象を要するイントロの後に、複雑怪奇なシークエンスが連なっています。時にそれは、パンフルートを用いた効果音によって、ノイズや歪みという表現によって、また、モジュラー・シンセのフレーズによって、様々な形而下の世界が描出されている。


インダストリアル・ノイズのような硬質な印象を持つ電子音楽は、坂本龍一が遺作で鋭く描き出した人智では計り知れない無限性を解釈したような、神秘性/表現性へと繋がっていく。これまでの細野作品の中で、最も前衛的であり、また、画期的な楽曲とも言えるでしょうか。

 

「Lake」は同じように、前曲の神秘性を受け継いだイントロで始まる。ピアノの安らいだ演奏に加え、ウィンドチャイムのような音色がそれらのミステリアスな雰囲気を引き立てています。


やがてこの曲は、このアルバム全体の主要なイメージを形成しているアンビエント/ドローンのような抽象的な音像の中に縁取られていく。デチューン/リバーブ/ディレイを効果的の用いたピアノの明るさがそれらの音全体に働きかけ、水辺に満ちる清涼なアトモスフィアや空気感を綿密に作り上げる。


そして、ピアノの演奏は、背後に満ちるシンセのシークエンスに支えられるようにし、癒やし溢れる結末に導かれます。


多数の音源や楽器が使用されているとは思えないものの、音の特性や音響性を上手に活用し、美麗な印象を作り出す。この曲には、アーティストにとっての美的な感覚とは何を示唆するのかをうかがい知ることが出来るでしょう。

 

タイトル曲「Undercurrent」でもそういった美麗な感覚が維持される。


ピアノのシンプルな演奏がシンセサイザーのパーカッシヴな音色とかけ合わさることで、安らいだ水の中にある宇宙的な観念を生み出しています。ミニマリズムに根ざした親しみ易いピアノのフレーズは、クローズ曲「Reverberation」の呼び水の役割を持ち、ある種ロマンティックなイメージを擁しています。曲の中盤では、シンセサイザーの演奏の中に遊び心を取り入れ、ピアノの通奏低音のベースとなる音を基軸にしながら、物語性に富んだ音楽へと結実させています。

 

最後の曲「Reververation」ではグリッチに近い音色を取り入れて、 アルバムの序盤のミステリアスなイメージへと回帰します。


作品には仏教的な円環の考えが取り入れられ、全体の構造を強固に支えています。クローズ曲に充ちる、非現実的な印象性は、これまで細野氏があまり書いてこなかった作風であるように感じられます。


ミニアルバムという形式、さらにインストゥルメンタルという形態をとる、旧来の細野晴臣の作品で最も手強い楽曲集です。何度か繰り返して聴くと、未知の発見があるかもしれません。また、このアーティストの表向きのイメージを一変させてしまうようなアルバムです。


音楽を楽しみつつ映像作品に触れると、映画としての良さがより伝わるかもしれません。『Undercurrent』は10月6日公開予定です。シネマの予告編はこちらよりご覧下さい。 


86/100

©Ethan Hickerson

 

ワイルド・ナッシングが、近日リリース予定のフルアルバム『Hold』からのニューシングル「Dial Tone」を公開しました。このシングルは、先にリリースされたハッチーをフィーチャーした「Suburban Solutions」「Headlights On」に続く作品。Min Soo Park監督によるビジュアルは以下よりご覧下さい。


Wild Nothingのニュー・アルバム『Hold』は10月27日にCaptured Tracksからリリースされる。


「Dial Tone」



ボーイジーニアスは、火曜日の夜、The Late  Showの復活を祝うためにステージに上がり、「Cool About It」を披露した。


ジュリアン・ベイカー、フィービー・ブリジャーズ、ルーシー・デイカスのトリオは、1本のマイクを囲むように位置し、落ち着いたバラードを歌った。パフォーマンスは、3人のミュージシャンがキスのために身を乗り出すところで最高潮に達した。


今月末、boygeniusは、3月にリリースされたレコードに収録されなかった曲を集めた4曲入りEP『rest』をリリースする。ベイカー、ブリッジャーズ、デイカスのスーパーグループは、ここ数ヶ月でインディーズ界に旋風を巻き起こし、2023年のベストソングのひとつをリリースし、バラク・オバマの2023年夏のプレイリストに登場した。




カルフォルニアのエレクトロニックプロデューサー、Marina Eyesがニューシングルをリリースしました。前作アルバムでは西海岸の海岸の風景をモチーフにした安らいだアンビエントを制作しています。


今回のニューシングル「Half Dreaming」は現実の光景にある幻想性に焦点を絞ったとプレスリリースには書かれている。「私は先月、カリフォルニア南部に大雨が降ったときに『半分夢を見ている』と書いた。この一度きりのシングルは、私の声の小さなうねり、オスモーズ・シンセ、フィールド・レコーディングだけを使った、私にとってちょっと新しい静かな方向性の曲だ」


「そして、この曲を彼の最近のディープ・ブレックファスト・ミックスでシェアしてくれた夫のジェイムズにも感謝します。そして、今後数ヶ月のうちに、さらに多くの音楽がリリースされる予定です(Marine Eyes #3を含む)! 愛を込めて、シンシア」






アンビエントの名盤ガイドもあわせてお読みください:


アンビエントの名盤 黎明期から現代まで

 


スピリチュアライズド(別名ジェイソン・ピアースとバックバンド)は、2003年のアルバム『アメイジング・グレイス』の20周年記念盤の再発を発表し、アルバムの "Rated X "の未発表ビデオを公開しました。アメイジング・グレイス(20周年記念盤)』はファット・ポッサムから2024年1月19日発売予定。再発盤のトラックリストとジャケット・アートワークは以下の通り。


エンジニアのマット・コルトンがロンドンで『アメイジング・グレイス』をヴァイナル用にリマスタリングし、180グラムのアルバムにはメトロポリス・マスタリングによるラッカー・カットが施されている。リイシュー盤は、マーク・ファローがデザインしたゲートフォールド・ジャケットに収められ、通常のブラック・ヴァイナル・プレスのほか、限定盤のドーヴ・グレー・ヴァイナルも発売される。


『Amazing Grace』は、スピリチュアライズドの前2作、1997年の『レディース・アンド・ジェントルメン ウィ・アー・フローティング・イン・スペース』と2001年の『レット・イット・カム・ダウン』の壮大な展開と比べると、よりガレージ・ロック的なサウンドを取り入れた。このアルバムはウェールズのロックフィールド・スタジオでわずか3週間でレコーディングされ、中心メンバーはピアース、ジョン・コクソン、トニー・フォスター、ティム・ルイスだった。


「このアルバムに先立つ2枚のアルバムでやっていたこととは、ほとんど正反対だった」と、ピアースはプレス・リリースに収録されたアルバムについて語っている。「私たちは『Ladies and Gentlemen We Are Floating in Space』と『Let it Come Down』をレコーディングし、物事をできる限り押し進めた。そして、もう少しスペースがあるレコードを作りたかったんだ」


バンドの他のメンバーは、新鮮さを保つために、それぞれの曲がレコーディングされる朝まで曲やデモを聴いていなかった。


「曲のアイデアは、永遠に追い続けるつもりはないということだった」とピアースは言う。「これは、前の2枚のアルバムでやっていたこととほとんど正反対なんだ。


「というのも、このアルバムは成功しているようで成功していない。静かな曲は本当に特別なんだ。「Oh Baby」や「Rated X」のように、時間の中で奇妙な位置を占めている。これらのレコーディングでは、非常にユニークなものを捉えた。即座に捉えられるものもあるし、それ以上のものはない」


「ヘヴィーな曲は、レコードに収録されているのと同じように、速くレコーディングするのが簡単だと思っていたけれど、実際には、より長い時間をかけて練り上げることができたから、結果的に良かったんだ」


『アメイジング・グレイス』というタイトルのアルバムだが、スピリチュアライズドはこのゴスペル・スタンダードを実際にはカバーしていない。


ピアースはこう説明する。「”Hold On”のトップは、僕らが作った "Amazing Grace "のライヴ・レコーディングの一部だったんだ。だから、あの曲にはこのアルバムのための根回しみたいなものがあったんだと思う。私たちはアメリカをツアーしていて、アメリカの音楽の多くがアイルランドやスコットランドのルーツから生まれたこと(『アメイジング・グレイス』は1773年にドニゴールで書かれた)、そしてアメリカの音楽のるつぼに入った他のすべてのものについて話していた。この曲で遊んでいた時期もあったんだけど、アルバムには入れなかったんだ。必要ないと思った」

 

「She Kissed Me」


「Cheapstar」

 

 

「Rated X」

   

 



Spritualized 『Amazing Grace (20 Year Anniversary Edition)』

Label: Fat Possum

Release: 2023/1/19


Tracklist:


1. This Little Life of Mine 

2. She Kissed Me (It Felt Like a Hit)

3. Hold On

4. Oh Baby

5. Never Goin’ Back

6. The Power and the Glory

7. Lord Let It Rain On Me

8. The Ballad of Richie Lee

9. Cheapster

10. Rated X

11. Lay It Down Slow

©Ebru Yildiz

ブルックリンを拠点とするシンガーソングライター、TORRES(別名 マッケンジー・スコット)がニューアルバム『What an enormous room』を発表しました。この発表と同時にファーストシングル「Collect」が配信されています。


『What an enormous room』はMergeより2024年1月24日リリース予定。Collect」のビデオはダニ・オコンが監督。アルバムのトラックリストとジャケット・アートワークは以下の通り。


「この曲は正義が果たされることを歌っている。何年も書こうとしていた怒りの曲だ!」とスコットはプレスリリースで語っている。


スコットはサラ・ジャッフェと共にアルバムをプロデュースし、昨年秋にノースカロライナ州ダーラムのスタジアム・ハイツ・サウンドでレコーディングした。ライアン・ピケットがエンジニアを務め、TJ・アレンが海外のブリストルでミックス、ヘバ・カドリーがマスタリングを担当した。


アルバムのバイオグラフィーを書いたボーイ・ジーニアスのジュリアン・ベイカーは、次のように語っている。「TORRESについて言えることは、この音楽は確信に満ちたところから生まれているということだ...。そして、聴いていて信じられないほど良い音楽だと思う」

 

 

「Collect」



「I got the fear」



TORRESはアルバムからのファースト・シングル「Collect」を発表しているが、今日はそれに続く新曲「I got the fear」を公開した。以下よりご試聴下さい。


マッケンジー・スコットはこの曲について、次のように説明している。「集団的な恐怖が高まっている。戦争、気候の大災害、パンデミック、世界的な人権の後退、政治的な地獄絵図...。希望を取り戻す方法を見つけることが本当に重要だと思う。私はここで、できることなら道を照らすような手助けをしたいと思っている。ほとんどの日、私は人類が道を見つけると本当に信じている。しかし、もしかしたらそうならないかもしれないという不安がつきまとう。絶望的だと信じる種が自らを破滅させるというのは、自己成就的予言なのだろうかと思わざるを得ない」




 ・「Wake to flowers」



TORRES(別名: マッケンジー・スコット)は、近日発売予定のアルバムの最新曲「Wake to flowers」をMergeからリリースした。

 

シンセ・ポップとエクスペリメンタル・ポップの中間域を漂うかのようなアプローチを取るマッケンジー・スコットであるが、最新シングルではクランチなギターとベッカ・マンカリやニューヨークのシンセポップグループの性格を思わせる清涼感のあるインディーポップサウンドが魅力だ。

 

シングルと同時公開された「Wake to flowers」のMVは前二作のミュージックビデオを制作した、スコットのコラボレーターであるダニ・オコンが監督。マッケンジー・スコットは次のように説明している。


「"希望 "の後に "失望 "が訪れることはよくある。人は恐ろしいほど回復力がある。私たちは日頃から楽観的で、何かが欲しくて打ち砕かれることが多い。もしかしたら、私たちの全力とエネルギーを費やして、それでも実現しないことがあるかもしれない。それでも、物事が自分の望んだ通りにならないと不安になったり、あまり楽観的でなかったかもしれないのに、望みをすべて叶えてしまったことはないだろうか? これはよくあることのような気がするけど、それを認める声はあまり聞かない。この曲は、そのことを常に意識しておくための私の方法なんだ」

 

 




アルバムのレビューはこちらよりお読み下さい。


 

Torres 『What an enormous room』



Label: Merge

Release:  2024/1/24

 

 

Tracklist:


1. Happy man’s shoes 

2. Life as we don’t know it

3. I got the fear

4. Wake to flowers

5. Ugly mystery

6. Collect

7. Artificial limits

8. Jerk into joy

9. Forever home

10. Songbird forever