イギリス、ノッティンガムのポストパンクデュオ、スリーフォード・モッズは、パレスチナのスカーフがステージに投げ込まれたことを受けて、マドリードのラ・リヴィエラでのライブをキャンセルした。ショーは終わりに近づいており、その後、数曲演奏する予定だった。


ジェイソン・ウィリアムソンとアンドリュー・ファーンは、1時間半ほど演奏していたが、客席からパレスチナのスカーフがステージに投げ込まれ、シンガーは「Nudge It」の途中で演奏を中断した。ウィリアムソンは、スカーフを拾い上げたのち、「もしまた同じことが起きたらコンサートを中止する」と腹立たしそうに言い放ち、スカーフを投げ返した。これは曲の中で政治的な風刺を込めたスポークンワードを披露するデュオに対する、一部の心無い観客からの挑発とも取れる。


ライブの後、バンドはソーシャルメディアで次のように弁明している。「僕は歌手だ。私の仕事は音楽なんだ。戦争について私が本当に知っているのは、他の人たちと同じように、早すぎる死にうんざりしているということだけ。どんなクソみたいな信念の網の下でも、誰もが殺されてしまうということにね」


さらに、ボーカルのジェイソン・ウィリアムソンはツイッターで、ファンが政治的なポジションを求めてきたことに対して、「ギグで何も考えてないのに、どっちにつくかなんて聞かないでほしい」と書いている。ただし、現在のところ、グループは少し態度を軟化しつつあるようだ。



さらにジェイソン・ウィリアムソンは、マドリードで起こったことについて、「いくつかの背景を説明したい」とソーシャルメディア声明で書いている。


ウィリアムソンははまた、「私は答えを持っていない」とも書いており、ガザでの停戦を求める人々が増えていることには賛成している。「意味のある停戦が必要だ。意味のある停戦が必要となるだろう」と、現時点では一方の肩を持たずに、平和的解決を望んでいることを言及するにとどまった。


The Smileはセカンドアルバム『Wall of Eyes』の制作を発表した。2024年1月26日にXLレコーディングスからリリースされる。本日、タイトル曲のミュージックビデオが公開された。下記よりご覧下さい。


最新作『ウォール・オブ・アイズ』は、8曲入り。オックスフォードとアビーロード・スタジオでレコーディングされ、ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラによるストリングス・アレンジがフィーチャーされている。バンドはポール・トーマス・アンダーソンが監督した「Bending Hectic」のビデオをプレビューとして公開している。


ザ・スマイルは、今年初めに初めて楽曲制作中であることを示唆し、3月に2ヶ月近くスタジオ入りしていることを伝えた。6月上旬には、グリーンウッドが、トリオには "アイディアの大きなバックログ "があることを確認した。


そして6月、ザ・スマイルは『ウォール・オブ・アイズ』からのファースト・シングル「ベンディング・ヘクティック」を発表した。夏のツアーで、バンドはこの曲をライヴで演奏し、「Read the Room」や「Under Our Pillows」など、『Wall of Eyes』に収録される他の曲も披露した。


ザ・スマイルは、2020年のCOVID-19パンデミック時に結成された。2022年5月にデビュー・アルバム『A Light for Attracting Attention』を発表。昨年12月にはライヴ・アルバム『The Smile(Live at Montreux Jazz Festival, July 2022)』を発表。バンドは、ライブ・ショーでレディオヘッドのサイド・プロジェクト以上の存在であることを証明し、多くのツアーに乗り出している。今年、NPRのタイニー・デスク・シリーズ、ピッチフォークミュージックフェスティバルにも出演した。



「Wall of Eyes」   


後日掲載したレビューはこちらからお読み下さい。



The  Smile  『Wall of Eyes』


Label: XL Recordings

Release: 2024/1/26


Tracklist:


1.Wall Of Eyes

2.Teleharmonic

3.Read The Room

4.Under Our Pillows

5.Friend Of A Friend

6.I Quit

7.Bending Hectic

8.You Know Me!


The Smile 2024 Tour Dates:


03/13 – Copenhagen, DK @ K.B. Hallen

03/15 – Brussels, BE @ Forest National

03/16 – Amsterdam, NL @ AFAS Live

03/18 – Brighton, UK @ Brighton Centre

03/19 – Manchester, UK @ O2 Apollo

03/20 – Glasgow, UK @ SEC Armadillo

03/22 – Birmingham, UK @ O2 Academy

03/23 – London, UK @ Alexandra Palace



スポティファイが2024年からロイヤリティの再生条件を設けることが新たな報道で明らかになった。


Music Business Worldwideの報道によると、スウェーデンの大手ストリーミング配信事業者であるスポティファイは、各楽曲が年間1,000回再生されるまで、アーティストに楽曲使用料を支払わないとのことで、2024年に実施される予定であると以前報じられた変更の詳細を裏付けるものとなった。


MBWの情報筋によれば、この新しいルールは「現在、平均して月5セント以下、つまり月200回程度の再生回数しかない楽曲を消滅させるために導入さ」だという。スポティファイは、このシェアはアーティスト・プールの約0.5%であり、新しい年間ストリームの最低額は、プラットフォーム上の他の99.5%のアーティストに4,000万ドル(米ドル)をシフトさせると予測している。


ある情報筋はMBWに対し、この変更は「小銭や5セントといった小額の支払い」が「銀行口座で眠っている」ことが一因と語った。「多くの場合、これらのマイクロペイメントは人間にすら届いていない」と彼らは説明した。「アグリゲーターは、インディーズ・アーティストが資金を引き出すことを許可する前に、最低レベルの[支払われたストリーミング使用料]を要求することが多い」


現在確認されているロイヤリティの年間最低再生回数に加え、先月にはいくつかの今後の変更が報告されている。まず、"Super Premium "サブスクリプション・ティアの計画がリークされた。月額19.99ドル(米国)の料金には、ロスレスオーディオ、より多数のオーディオブックの試聴、AIによるプレイリスト作成が含まれる。さらに最近の報道によると、スポティファイは「違法再生」や「ストリームファーム」の検出など、不正行為にさらに焦点を当て、配信者には罰金を科す。また、「音楽以外の "ノイズ "コンテンツ」については、最低視聴時間の要件が設けられる予定だ。



ティモシー・シャラメが司会を務めた昨夜の『サタデー・ナイト・ライブ』に、ボーイジーニアスが音楽ゲストとして登場した。


フィービー・ブリジャーズ、ジュリアン・ベイカー、ルーシー・デイカスの3人組、ボーイジーニアスは、ビートルズ風のセットを組んだスタジオで、デビュー作の収録曲「Not Strong Enough」と「Satanist」を披露した。ブリジャーズがリッケンバッカーを演奏する姿は一見に値する。ビートルズ風のモッズのスタイリッシュなスーツの粋な着こなしに加え、足元のレザーのスリッポン・シューズもおしゃれ。ボーイジーニアスが別のミュージシャンに扮するのは、今年初めのLAのニルヴァーナ以来のことである。ライブパフォーマンスの様子は以下よりご覧下さい。


先週金曜日、「Not Strong Enough」はグラミー賞の最優秀ロック・ソング賞、最優秀ロック・パフォーマンス賞、年間最優秀レコード賞にノミネートされた。




Weekly Music Feature


Daneshevskaya




ニューヨーク/ブルックリンのアンナ・ベッカーマンのプロジェクトであるダネシェフスカヤ(Dawn-eh-shev-sky-uh)は、彼女自身の個人的な歴史のフォークロアに浸った曲を書く。

 

アーティスト名(本当のミドルネーム)は、ロシア系ユダヤ人の曾祖母に由来する。ベッカーマンは音楽一家に育ち、父親は音楽教授でありアンナ・ベッカーマンのプロジェクト。

 

ベッカーマンは音楽一家に育ち、父親は音楽教授、母親はオペラを学び、兄弟は家で様々な楽器を演奏していた。彼女は父親の大学院生からピアノを習い、自分で作曲を試みる前は、シナゴーグで教えられた祈りを歌った。彼女自身の曲は、宗教的な意味合いというよりは、ベッカーマン自身の過去、現在、未来の賛美歌のような、アーカイブ的な記録として、スピリチュアルなものを感じることが多い。「音楽の楽しみは人と繋がること、私はそうして育ってきたの」と彼女は言う。


彼女のデビューEP『Bury Your Horses』が人と人とのつながりの定点と謎を縫い合わせたのに対し、『Long Is The Tunnel』(Winspearからの1作目)は、出会った人々がどのように自分の進む道に影響を与えるかを考察している。ベッカーマンはずっとニューヨークに住んでいるが、彼女のアーティスト名(そして本当のミドルネーム)はロシア系ユダヤ人の曾祖母に由来する。『ロング・イズ・ザ・トンネル』を構成する曲を書いている最中に、彼女の祖父母は2人とも他界した。祖母(詩人であり教師でもあった)に関する話は、「過去の自分の姿」のように感じられると同時に、ベッカーマンがどこから来たのかという線に色をつけたいという燃えるような好奇心に火をつけた。

 

ベッカーマンは祖母の手紙を頻繁に読み返したが、その手紙は「憧れを繊細かつ満足のいくリアルな方法で伝えていた」という。痛烈な「Somewhere in the Middle」のような曲は、彼女の人生に残された人々を不滅のものとし(「もう二度と会うことはないだろう」)、過去を再現することで、しばしば暗い真実が表面化する。殺伐とした現実にもかかわらず、このEPは伝統的なソングライティングと現代的な言い回しの間の独特のコラージュを描いており、自己発見の純粋な輝きに魅せられる。


昼間はブルックリンの幼稚園児のためのソーシャルワーカーを務めるベッカーマンの音楽は、すべてが険しいと感じるときに生きる子供のような純粋さを追求することが多い。「子供が登校時に親に別れを告げるとき、もう二度と会えないような気がするものです」と彼女は説明する。

 

『ロング・イズ・ザ・トンネル』は、そのような心の傷の感覚を強調している。「人に別れを告げることは、私にとってとても神秘的なことなの」と彼女は言う。2017年から数年間かけて書かれた7曲は、パッチワークのような思い出/日記で、彼女の人生に関わる人々へのエレジーでもある。Model/ActrizのRuben Radlauer、Hayden Ticehurst、Artur Szerejkoによる共同プロデュースで、これらの初期デモの最終バージョンには、Black Country, New RoadのLewis Evans(サックス)、Maddy Leshner(鍵盤)、Finnegan Shanahan(ヴァイオリン)も参加し、各曲をそれ自身の中の世界のように聴かせるきらびやかな楽器編成を加えている。


ベッカーマンは、音楽を聴くときはまず歌詞に惹かれると強調する。「私が曲を書くことを学んだ方法の多くは詩を通してであり、それは私にとって言語についての新しい考え方なのです」 

 

彼女の祖母の足跡をたどる新作EPは、古典的な構成に、別世界のようでもあり、地に足のついた独特なメタファーが組み込まれている。『ロング・イズ・ザ・トンネル』は、逃避の形を示す超現実的なイメージで満たされている。曲のうち2曲は、鳥を題材にしており、ベッカーマンは、目を離せないものに目を奪われる一方で、自由にその場を離れることもできると説明している。「水中にいるような気分にさせてくれるアートが好きなんだ」とベッカーマンは過去のインタビューで語っているが、『ロング・イズ・ザ・トンネル』は、欲望、感情、ファンタジーに完全に没入しているような感覚を長引かせる。と同時に、「『ピンク・モールド』のような曲は、私が違うバージョンの愛を学ぼうとしていることを歌っているの」と彼女は説明する。彼女のラブソングの陰鬱なメランコリアは、しばしば他の誰よりも彼女の内面に現れている。彼女が本当に求めているのは健全な関係の自立だ。「私たちは互いのものにはならないけれど、この人生を分かち合う」 多くの場合、このような魅惑的なおとぎ話は途切れてしまうにしても。 


「私は運命の人じゃない!、私は運命の人じゃない!"と繰り返すフレーズは、新しい存在の野生の中に生まれた呪文のようである。


『Bury Your Horses』と『Long Is The Tunnel』のタイトルはどちらも特定のカーゲームにちなんだもので、後者はトンネルが何秒続くかを当てる内容だ。ベッカーマンは、それぞれの曲を通して建築的な注意深さを維持し、彼女の視点を越えてゆっくりと世界を構築していく。「海が出会う場所がある/その下には暗闇がある」と彼女は「Challenger Deep」の軽やかさの中で歌いながら夢想する。誰かを理解しようと近づけば近づくほど、その人の欠点が明らかになることがある。しかしながら、結局のところ、愛とは、目的のための手段にすぎないのかもしれない。

 

 -Winspear




『Long Is A Tunnel』/ Winspear


 

このアルバムは、ブルックリンのシンガー、ダネシェフスカヤの「個人的なフォークロア」と称されている通り、奥深い人間性が音楽の中に表出している。それは21世紀の音楽である場合もあり、それよりも古い時代である場合もある。最近の音楽でよくあるように、自分の生きる現代から、父祖の年代、また、複数の時代に生きていた無数の人々の記憶のようなものを呼び覚まそうという試みなのかもしれない。それは、現代的な側面として音楽にアウトプットされるケースもあれば、20世紀のザ・ビートルズが全盛期だった時代、それよりも古いオペラや、東ヨーロッパの民謡にまで遡る瞬間もある。しかし、音楽的にはゆったりとしていて、親しみやすいポップスが中心となっている。フォーク、バロック・ポップ、チェンバー・ポップ、現代的なオルト・ロックまで、多角的なアプローチが敷かれている。そして、アルバムを形成する7曲には、普遍的な音楽の魅力に焦点が絞られている。時代を越えたポップスの魅力。

 

「Challenger Deep」

 



アルバムは、幻想的な雰囲気に充ちており、安らかさが主要なサウンドのイメージを形成している。全般的に、おとぎ話のようなファンタジー性で紡がれていくのが幸いである。ダネシェフスカヤは、自分の日頃の暮らしとリンクさせるように、子供向けの絵本を読み聞かせるかのように、雨の涼やかな音を背後に、懐深さのある歌を歌い始める。ニューヨークのフォークグループ、Floristは、昨年のセルフタイトルのアルバムにおいて、フォーク・ミュージックにフィールドレコーディングやアンビエントの要素をかけ合わせて、画期的な作風で音楽ファンを驚かせたが、『Long Is A Tunnel』のオープニング「Challenger Deep」も同様に『Florist』に近い志向性で始まる。ナチュラルかつオーガニックな感覚のあるギターのイントロに続き、ダネシェフスカヤのボーカルは、それらの音色や空気感を柔らかく包み込む。童話的な雰囲気を重んじ、和やかな空気感を大切にし、優しげなボーカルを紡ぐ。デモソングは、ほとんどGaragebandで制作されたため、ループサウンドが基礎になっているというが、その中に安息的な箇所を設け、バイオリンのレガートやハモンド・オルガンの神妙な音色を交え、賛美歌のような美しい瞬間を呼び覚ます。驚くべきことに、シンガーとして広い音域を持つわけでも、劇的な旋律の跳躍や、華美なプロデュースの演出が用意されているわけではない。ところが、ダネシェフスカヤのゆるやかに上昇する旋律は、なにかしら琴線に触れるものがあり、ほろ苦い悲しみを誘う瞬間がある。

 

「Somewhere in The Middle」は「Challenger Deep」の空気感を引き継ぐような感じで始まる。同じようにアコースティックギターのループサウンドを起点として、インディーロック的な曲風へと移行していく。

 

イントロではフォーク調の音楽を通じて、吟遊詩人のような性質が立ち現れる。続いて、ギターにベースラインとシンプルなドラムが加わると、アップテンポなナンバーに様変わりする。この曲には、Violent Femmesのようなオルタナティヴ性もあるが、それをポップスの切り口から解釈しようという制作者の意図を読み取る事もできる。ときに、フランスのMelody Echoes Chamberのインディー・ポップやバロック・ポップに対する親和性も感じられるが、トラックには、それよりも更に古いフレンチ・ポップに近いおしゃれさに充ちている。曲の雰囲気はシルヴィ・バルタンのソングライティングに見られる涼やかで開放的な感覚を呼び覚ますこともある。曲の最後には、テンポがスロウダウンしていき、全体的な音の混沌に歌の夢想性が包み込まれる。 

 

 

「Bougainvilla」



「Bougainvilla」には、歌手のソングライティングにおける特異性を見いだせる。ダネシェフスカヤは、さながら演劇の主役に扮するかのように、シアトリカルな音楽性を展開させる。ミュージカルの音楽を明瞭に想起させる軽妙なポップスは、音階の華麗な駆け上がりや、チェンバー・ポップの夢想的な感覚と掛け合わされて、アルバムの重要なファクターであるファンタジー性を呼び覚ます。そして、シンガー自身の緩やかで和らいだ歌により、曲に纏わる幻想性を高めている。さらにヴィンテージ・ピアノ、ヴィブラフォン、コーラスを散りばめて、幻想的な雰囲気を引き上げる。しかしながら、嵩じたような感覚を表現しようとも、音楽としての気品を失うことはほとんどない。それはメインボーカルの合間に導入される複数のコーラスに、要因が求められる。アルバム制作中に亡くなったという祖(父)母の時代の言葉、不確かな何かを自らのソングライティングにアーカイブ的に声として取り入れているのは、(英国のJayda Gが既に試みているものの)非常に画期的であると言える。さらに、ダネシェフスカヤは驚くべきことに、自分の知りうることだけを音に昇華しようとしているのではなく、自分がそれまで知り得なかったことを音にしている。だからこそ、その音楽の中に多彩性が見いだせるのである。

 

アルバムには「鳥」をモチーフにした曲が収録されているという。なぜ、鳥に魅せられる瞬間があるのかといえば、私達にとって不可解であり、ミステリアスな印象があるからなのだ。「Big Bird」は、ニューヨークで盛んな印象のあるシンセ・ポップ/インディーフォークを基調とし、それをダイナミックなロックバンガーへと変化させている。特に、ゆったりとしたテンポから歪んだギターライン、ダイナミック性のあるドラムへと変化する段階は、鳥が空に羽ばたくようなシーンを想起させる。ドリーム・ポップの影響を感じさせるのは、Winspearのレーベルカラーとも言える。そして、そのシューゲイズ的な轟音性は曲の中盤で途切れ、ベッドルームポップ的な曲に変化したり、童話的なインディーフォークに変化したり、曲の展開は流動的である。しかし、その中で唯一不変なるものがあるとするなら、それらの劇的な変化を見届けるダナシェフスカヤの視点である。劇的なウェイブ、それと対象的な停滞するウェイブと複数の段階を経ようとも、その対象に注がれる眼差しは、穏やかで、和やかである。もちろん外側の環境が劇的に移ろおうとも、ボーカルは柔らかさを失うことがない。ゆえに、最終的にシューゲイザーのような轟音性が途切れた瞬間、言いしれない清々しい感覚に浸されるのである。

 

 

例えば、ニューヨークのBigThief/Floristに象徴されるモダンなフォークの音楽性とは別に、続く「Pink Mold」において、ダネシェフスカヤはより古典的な民謡やフォークへの音楽に傾倒を見せる。アメリカーナ、アパラチア・フォークのような米国音楽の根幹も含まれているかもしれない。一方、アルプスやチロル地方やコーカサス、はては、スラブ系の民族が奏でていたような哀愁に充ちた、想像だにできない往古の時代の民謡へと舵を取っている。これは、米国のブルックリンのハドソン川から大西洋を越え、見果てぬユーラシア大陸への長い旅を試みるかのようでもある。セルビア系の英国のシンガー、Dana Gavanskiの音楽性をはっきりと想起させる国土を超越したコスモポリタンとしてのフォーク音楽である。それはまた、どこかの時代でジョージ・ハリソンが自分らしい表現として確立しようと企てていた音楽でもあるのかもしれない。これらの西欧的な感覚は、さながら中世の船旅のようなロマンチシズムを呼び覚まし、どのような民族ですら、そういった時代背景を経て現在を生きていることをあらためて痛感させる。

 

メロトロン、淑やかなピアノ、ダネシェフスカヤのボーカルが掛け合わされる「Roy G Biv」は、60、70年代のヴィンテージ・レコードやジューク・ボックスの時代へ優しくみちびかれていく。夢想的な歌詞を元にし、同じようにフォーク音楽とポピュラー音楽を融合を図り、緩急ある展開を交えて、ビートルズのアート・ポップの魅力を呼び覚ます。後半にかけてのアンセミックなフレーズは、オーケストラのストリングスと融合し、すべては完璧な順序で/降りていく最中なのだとダネシェフスカヤは歌い、美麗なハーモニーを生み出す。最後の2曲は、ソロの時代のジョン・レノンのソングライティング性を継承していると思えるが、こういった至福的な気分と柔らかさに充ちた雰囲気は、「Ice Pigeon」において更に魅力的な形で表される。

 

シンプルなピアノの弾き語りの形で歌われる「Ice Pigeon」では、「Now And Then」に託けるわけではないけれど、ジョン・レノンのソングライティングのメロディーが、リアルに蘇ったかのようでもある。この曲に見受けられる、ほろ苦さ、さみしさ、人生の側面を力強く反映させたような深みのある感覚は、他のシンガーソングライターの曲には容易に見出しがたいものである。考えられる中で、最もシンプルであり、最も素朴であるがゆえ、深く胸を打つ。ダネシェフスカヤのボーカルは、ときに信頼をしたがゆえの人生における失望とやるせなさを表している。最後の曲の中で、ダネシェフスカヤは、現実に対する愛着と冷厳の間にある複雑な感情性を交えながら、次のように歌い、アルバムを締めくくっている。「信じてるのは私じゃない/やってくるもの全部が私には役に立たない/なぜならそれが何を意味するのか知っているから」

 

 

 

92/100

 

 

 

 「Ice Pigeon」

 

 

石川紅奈と壷阪健登によるジャズ・ユニット、soraya(ソラヤ)が11月22日(水)にニューシングル「ゆうとぴあ」をデジタルリリース。配信リンクとリリースの詳細については下記の通り。


昨年の4月のデビューからリリース毎に”J-WAVE TOKIO HOT 100”にランクインするなど、注目度が高まるピアニストで作曲家の壷阪健登とベーシストでボーカリストの石川紅奈によるユニット、soraya(ソラヤ)が11月22日(水)に新曲「ゆうとぴあ」を配信にてリリースする。1950-60年代にアメリカの音楽家/ピアニスト、マーティン•デニーらによって生み出され、細野晴臣氏も大きく影響を受けたとされる、ムード音楽”エキゾチカ”を再解釈した一曲となる。

 

歌詞の世界観はドイツの詩人、カール・ブッセの「山のあなた」からインスパイアされている。童謡や唱歌を想起させるような歌と、sorayaとしては初めてフィーチャーしたヴィブラフォンやストリングスのアレンジが、奥深く、異国情緒あふれるファンタジックな世界へと誘う。録音、ミックス、マスタリングは、蓮沼執太、青葉市子、スカートなどの作品を手がける葛西敏彦氏が担当した。

 

今年の夏、LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023、日比谷音楽祭2023などのフェスへも出演したsoraya。各メンバーのソロ活動も活発化している。石川紅奈は今年春にJAZZの名門レーベル”Verve”よりメジャーデビューを果たし、壷阪健登も国内での単独公演を成功させ、スペインのサンセバスチャン国際ジャズ・フェスティバルへの出演を果たすなど、ミュージシャンとして世界への拡がりを見せる。

 


来年は、sorayaとして初となるフルアルバムをリリース予定。壷阪健登と石川紅奈のソロ活動を含め、今後のsorayaの活動をお楽しみに。

 

 

soraya  「ゆうとぴあ」    -New Single-

 

Label: Ondo Inc.

Release: 2023/11/22


Tracklist:

1.ゆうとぴあ



music: Kento Tsubosaka
lyric: Kurena Ishikawa, Kento Tsubosaka

bass&vocal: Kurena Ishikawa
piano&arrangement: Kento Tsubosaka
violin: Yuko Narahara, Kozue Ito
cello: Koichi Imaizumi
marimba&vibraphone Tomoko Yoshino
drums: Yusuke Yaginuma
percussion: KAN

 

 

配信リンクの予約(Pre-save):

 

 https://linkco.re/1recbcRf



・soraya


2022年4月1stシングル「ひとり/ちいさくさよならを」をリリース。


ジャズフィールドで活躍中の音楽家、壷阪健登と石川紅奈による、国も世代も超えて分かち合うポップスをお届けするユニット。海の向こうのお気に入りのアーティストの曲名、中東の国の親しみのある女性の名、宇宙に浮かぶ星団の名でもある「soraya」(ソラヤ)という、遥か遠くの何処か想起させる、不思議で親しみやすい響きの言葉を由来とする。無国籍に独自の音楽を追求する壷阪が紡いだ楽曲や、ピアノを中心とする繊細で深いサウンド、石川の唯一無二の歌声とベースの温かい音色は、人々を音楽のプリミティブな魅力へと繋ぐ煌めきと包容力を持ち合わせている。

 

2023年夏はLOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023や日比谷音楽祭2023などのフェスへも出演。各メンバーのソロ活動も活発化しており、石川紅奈は今年春にJAZZの名門レーベルVerveよりメジャーデビューを果たし、また壷阪健登も国内での単独公演を成功させ、サンセバスチャン国際ジャズ・フェスティバルへの出演、ミュージシャンとして世界への拡がりを見せる。



・石川紅奈 (Kurena Ishikawa)

 

埼玉県出身。国立音楽大学ジャズ専修卒業。ジャズベースを井上陽介氏と金子健氏に、ヴォーカルを高島みほ氏に師事。


高校1年生の夏にウッドベースを始め、在学中に世界的ピアニストの小曽根真に見いだされ、同氏が教鞭を執る国立音楽大学ジャズ専修に入学。


在学中からプロ活動を始め、卒業後は小曽根真と女優の神野三鈴が主宰する次世代を担う若手音楽家のプロジェクト「From OZONE till Dawn」のメンバーとしても活動。2021年8月 東京・丸の内コットンクラブで行われた『小曽根真 “OZONE 60 in Club” New Project “From OZONE till Dawn” Live from Cotton Club』にて収録された『Off The Wall』(by マイケル・ジャクソン)の映像がYouTubeで200万回以上再生され、一躍注目を浴びる。


2022年から壷阪健登とユニット「soraya」を結成。2023年3月、名門ヴァーヴ・レコードよりメジャーデビューを果たし、同年6月には「石川紅奈”Kurena”Release Live」(コットンクラブ)にて満員を博す。NHK『クラシックTV』や各主要FMラジオ局などのメディアにも登場する。


・壷阪健登 (Kento Tsubosaka)

 

ピアニスト、作曲家。神奈川県横浜市出身。ジャズピアノを板橋文夫氏、大西順子氏、作曲をVadim Neselovskyi氏、Terence Blanchard氏に師事。


慶應義塾大学を卒業後に渡米。2017年、オーディションを経て、Danilo Perezが音楽監督を務める音楽家育成コースのBerklee Global Jazz Instituteに選抜される。
これまでにPaquito D’Rivera, Miguel Zenon, John Patitucci, Catherine Russellらと共演。2019年にバークリー音楽院を首席で卒業。


2022年から石川紅奈とユニット「soraya」を結成。同年4月1stシングルをリリース。その後全楽曲の作曲、サウンドプロデュースを手掛ける。


2023年7月にはソロピアノでサン・セバスティアン国際ジャズフェスティバル(スペイン)に出演。 11月には銀座ヤマハホールにてピアノ・リサイタルを催行する。2022年より世界的ジャズピアニスト小曽根真が主宰する若手アーティスト育成プロジェクト、From Ozone till Dawnに参加。小曽根真とも共演を重ね、ジャンルを超えた多彩な才能で、次世代を担う逸材と注目を集めている。

 Pinkpantheress 『Heaven Knows』

 

 

Label: Warner

Release: 2023/11/10

 

 

Review

 

2021年頃にTikTokから彗星のごとく登場し、オルタナティヴのサウンドの旋風を巻き起こしたPinkpantheress。 そのサウンドは英国圏にとどまらず、日本のリスナーも惹きつけるようになった。

 

Pinkpanthressはポップシンガーと呼ぶには惜しいほど多彩な才能を擁している。DJセットでのライブパフォーマンスにも定評がある。ポップというくくりではありながら、ダンスミュージックを反映させたドライブ感のあるサウンドを特徴としている。ドラムンベースやガラージを主体としたリズムに、グリッチやブレイクビーツが搭載される。これがトラック全般に独特なハネを与え、グルーヴィーなリズムを生み出す。ビートに散りばめられるキャッチーで乗りやすいフレーズは、Nilfur Yanyaのアルバム『PAINLESS』に近い印象がある。

 

もちろん、熱心なファンを除けば、すべての人が音楽をゆったりと聞ける余裕があるわけではない。Tiktok発の圧縮されたモダンなポピュラー音楽は、それほど熱心ではない音楽ファンの入り口ともなりえるだろうし、また、その後、じっくりと音楽に浸るための布石を作る。現代的なライト層の要請に応えるべく、UKの新星シンガーソングライター、Pinkpanthressは数秒間で音楽の良さを把握することが出来るライトなポップスを制作する。ポピュラーのニュートレンドが今後、どのように推移していくかは誰にも分からない。けれども、Pinkpanthressのデビュー・アルバムでは、未来の可能性や潜在的な音楽の布石が十分に示されていると言える。

 

荘厳なパイプ・オルガンの音色で始まる「Another Life」は、その後、ドラムンべースの複雑なリズムを配したダンス・ポップへと移行するが、ボーカルラインには甘い感じが漂い、これがそのままPinkpanthressの音楽の最たる魅力ともなっている。日本国内でのGacya Popにも近い雰囲気のあるTikTokでの拡散を多分に意識した音楽性は、2023年の音楽シーンの最前線にあるといえるかもしれない。そして、ピンクパンサレスは、バックトラックのダンサンブルなビートを背後に、キュートさと落ち着きを兼ね備えたボーカルで曲にドライブ感とグルーヴ感を与えている。途中に加わるコラボレーター、RemaのラップもトラックにBad Bunnyのようなエキゾチシズムとチルアウトな感覚を付け加えている。両者の息の取れたボーカルワークの妙が光る。

 

観客の歓声のSEで始まる「True romance」は、Nilfur Yanyaのソングライティングのスタイルに近く、ダンス、ポップ、そして、ラップ的なリズムのテイストを組み合わせたバンガーである。ヨーロッパにおいて、DJセットで鳴らしてきたアーティストがあらためて多数のオーディエンスの目の前で、どういうふうにポップバンガーが鳴り響くのか、そういった空間的な音響性を最重要視した一曲である。 このトラックもTikTokサウンドを過剰なほど意識しているが、魅力はそれだけにとどまらない。ボーカルワークの運びの中には、胸を締め付けるような切ないフレーズが見られ、 アーティストの人生におけるロマンスを音楽を通じて表現している。

 

ストリーミングで驚愕的な再生数を記録している「Mosquito」では、グリッチサウンドを元にして、同じようにドライブ感のあるダンス・ポップが展開される。しかし、21年頃からTiktokがアーティストの名声を上昇させたのは事実であるとしても、Pinkpanthressはそこにべったりより掛かるのではなく、そのプラットフォームに関するアンチテーゼのようなものをさりげなく投げかける。それは反抗とまではいかないかもしれないが、このプラットフォームに親しみながらも、冷やかしを感じる人々に対して共感を呼び覚ます。オートチューンを掛けたボーカルは、2020年代のポップスの王道のスタイルが図られているが、このアーティストの持ち味であるキュートさを呼び覚まし、同時に、軽やかでインスタントな印象をもたらす。

 

「Aisle」は、序盤のアルバムのハイライト曲として注目したい。イントロにヒップホップ的なサウンド処理を施し、それに現代的なハウスのビートやグリッチを加えている。この曲にわだかまるアシッド的な空気感は、アーティストのボーカルと掛け合わされた途端、独特なオリジナリティーを生み出す。音楽的な手法や解釈ではなく、ある意味ではアンニュイな空気感がダンスビートの回りにまとわりつく。これが実際、アシッド・ハウスで感じられるような快感を呼び起こす。そしてそれは一貫して口当たりの良いしなやかなポップスという範疇で繰り広げられる。最終的にはロサンゼルスのローファイの質感を持つコアなポップスへと変遷を辿っていく。

 

Central Ceeが参加した「Nice To Meet You」はピンクパンサレスからの初見のリスナーに送られた挨拶状、グリーティングカード代りである。実際にキュートなポップスとは何かを知るのには最適なトラックであり、タブラの打楽器を加えることで、その中にインド的なエキゾチズムをもたらす。エスニック・ポップとも称すべき新味なポップサウンドを探求している最中であることがわかる。トラックの後半で登場するCentral Ceeのラップは爽やかな感覚に満ちている。ドリルのリズム対し繰り広げられるCeeのスポークンワードのテクニックにも注目。曲のリズムは最後にドリルからドラムンベースに変わり、ボーカルのサンプリングを遊びのような感じで付け加えている。

 

Kelelaが参加した「Bury Me」は、アルバムの中盤の注目曲としてチェックしておくべし。アンビエント的な癒やしのテクスチャーから始まり、以後、グリッチやドリルを絡めたナンバーで、チップチューンからの影響も伺い知れる。これが例えば、インドネシアのYeuleが志向するハイパーポップのような現代的なボーカルのアプローチと取り入れ、清涼感を生み出す。ボーカルにオートチューンを掛け、キュートさが重視されているのは他の曲と同様であるが、ロンドンのネオソウルのボーカルワークの影響を反映させたフレーズは、琴線に触れる瞬間がある。トレンドのサウンドを重視しながらも、そこに何らかの独自性を併せ持つのが強みである。

 

以後、22歳になったアーティストは、ユースカルチャーを振り返るように、「Internet Baby」において、8ビット風のゲームサウンドの影響を反映させた、バーチャルな空間に繰り広げられるポピュラーという概念を音として昇華している。しなるようなドリルのリズムが特徴となっているが、コアなラップを避け、ポップスの範疇にサウンドを収束させている。ここではよりK-POPの主要なグループやそれに近いサウンドを押し出し、Tiktokファンにアピールを欠かさない。その後に続く、「Ophelia」もハイパーポップサウンドに主眼を置いているが、中盤から後半にかけて意外な展開力を見せ、実験的なエレクトロニックの領域に踏み入れている。こういった才気煥発なソングライティングの創造性や意外性のある曲展開はアルバムを楽しむ上で、重要なポイントとなり、予想以上に長くアルバムを聴き続けるための足がかりとなりえる。

 

アルバムの中盤から終盤にかけて、ポップスを軸点として、遠心力で離れていくかのように、序盤以上に多彩な音楽性が展開される。「Feel complete」は、UKガラージやベースラインを基調とし、遊び心のあるシンセリードがそれに加わる。リズムに関しては、アシッド・ハウスに近いスタイルに移行する場合もある。しかし、トラックメイクがダンス・ミュージック寄りになりすぎると、一般的にボーカルの印象性が霞んでしまうケースが多いのにも関わらず、このトラックだけはその限りではない。同じように、ハイパーポップやインドネシアのYeuleの志向する次世代ポップスに準ずる「機械的なものに対する人間的なエモーション」を鋭く対比させることで、アーティストしか生み出し得ない唯一無二のポピュラー音楽を作りだそうとしている。 


アルバムの終盤にも良曲が並んでいて聴き逃がせない。それは考えようによっては、これまでに定着したTikTok発のアーティストというイメージを十分に払拭し、彼女が次のメガスターの階段をひとつずつ上り詰めていくためのプロセスを示しているとも考えられる。「Blue」におけるダンス・ミュージック、ポップ・ミュージックの痛快なクロスオーバーも素晴らしく、ドラムンベースのリズムを発展させた「Feelings」も、UKのフロアシーンのリアルな空間をレコーディングとして絶妙に反映させている。「Capable of love」では、ブレイクビーツを元にして、コアなポップスを生み出している。Ice Spiceが参加したアルバムのクローズ「Boy's a Liar Pt.2」でもチップ・チューンを元にして、キラキラと輝くようなエレクトロポップを制作している。

 


88/100

 

 

「The Aisle」


カナダ/オンタリオのバンド、 Softcultがニューシングル「Haunt You Still」を発表した。3月にイージー・ライフ・レコードからリリースされた6曲入りEP「See You in the Dark」に続く作品。

 

「これは防衛機制なのかもしれないけれど、私たちは、かつて身近にいた人がいなくなると、その人を悪者にする傾向がありますよね。それは自分を守るための反応的な方法でもあるんだ」

 

「曲は、2人の間で物事が上手くいかない時、悪いのは必ずしも一方ではないことを表している。過去を振り返ってみると、私たちは自分が演じてきた部分や、意図せずに残したかもしれないダメージについて反省しなければ…。その人々が私たちのことを思い出す時、好意的に振り返ってくれるのか、それとも、私たちが登場した人生の一章が辛い思い出になってしまっているのか…」



 

イギリスのシンガー、Dua Lipaがニューシングル「Houdini」をリリースした。このリリースを記念して、新しいミュージック・ビデオが撮影された同じ場所で、ロンドンのイングリッシュ・ナショナル・バレエ団のファン・イベントが開催された。1400万回の再生数を記録しているMVは下記よりご覧ください。


「この曲は、私の独身時代の最も明るく、そして自由な部分を表現しています」と彼女は説明する。"Houdini "はとても舌っ足らずな曲で、その人が本当に私にとって価値のある人なのか、それとも結局は単なるゴーストのようになってしまうのか、ということを探っているわけ」


「何かがあなたをどこに連れて行くかわからない。人生があなたに投げかけるものに対してオープンであることの素晴らしさ。反抗的な至福の感覚をファンと分かち合うことを楽しみにしてます」


この新曲は、HAIM、Charli XCX、Tame Impala、Ice Spiceと共に『バービー』の映画のサウンドトラック「Dance The Night」に続くシングル。デュア・リパの最新作は2020年の「Future Nostalgia」。以後、大規模なワールド・ツアーを敢行し、2022年後半に終了させた。

 

 

「Houdini」


2024年度グラミー賞のノミネート候補が明らかになった。テイラー・スウィフト、オリヴィア・ロドリゴ、SZA、ラナ・デル・レイ、ボーイジーニアス、マイリー・サイラス、フー・ファイターズ、アークティック・モンキーズがノミネートされた。


今年で66回目を迎えるグラミー賞は、対象期間(2022年10月1日~2023年9月15日)にリリースされた最高のアルバム、楽曲、音楽を表彰する。


2024年のグラミー賞は、2024年2月4日にロサンゼルスのCrypto.com Arenaで開催される。同イベントはCBSとParamount+で生放送される。


今年の新カテゴリーには、最優秀ポップ・ダンス・レコーディング賞、最優秀オルタナティヴ・ジャズ・アルバム賞、最優秀アフリカン・ミュージック・パフォーマンス賞が追加された。その他の変更点としては、"ビッグ4 "部門(アルバム、レコード、楽曲、最優秀新人賞)のノミネート者数が10人から8人に減らされる。AIについては、「グラミー賞への応募、ノミネート、受賞の対象となるのは、人間のクリエイターのみ。人間の作者を含まない作品は、どの部門においても受賞資格がない。


2月5日に発表されたグラミー賞受賞リストはこちら



2024 Grammy Nominations


Album of the Year:

Jon Batiste – World Music Radio

boygenius – the record

Miley Cyrus – Endless Summer Vacation

Lana Del Rey – Did you know there’s a tunnel under Ocean Blvd

Janelle Monáe – The Age of Pleasure

Olivia Rodrigo – GUTS

Taylor Swift – Midnights

SZA – SOS


Song of the Year:

Lana Del Rey – “A&W”

Taylor Swift – “Anti-Hero”

Jon Batiste – “Butterfly”

Dua Lipa – “Dance the Night”

Miley Cyrus – “Flowers”

SZA – “Kill Bill”

Olivia Rodrigo – “Vampire”

Billie Eilish – “What Was I Made For?”


Record of the Year:

Jon Batiste – “Worship”

boygenius – “Not Strong Enough”

Miley Cyrus – “Flowers”

Billie Eilish – “What Was I Made For?”

Victoria Monet – “On My Mama”

Olivia Rodrigo – “Vampire”

Taylor Swift – “Anti-Hero”

SZA – “Kill Bill”


Best New Artist:

Gracie Abrams

Fred Again..

Ice Spice

Jelly Roll

Coco Jones

Noah Kahan

Victori Monét

The War and Treaty


Best Alternative Music Album:

Arctic Monkeys – The Car

boygenius – The Record

Lana Del Rey – Did you know there’s a tunnel under Ocean Blvd

Gorillaz – Cracker Island

PJ Harvey – I Inside the Old Year Dying


Best Alternative Music Performance:

Alvvays – “Belinda Says”

Arctic Monkeys – “Body Paint”

boygenius – “Cool About It”

Lana Del Rey – “A&W”

Paramore – “This Is Why”


Best Rock Performance:

Arctic Monkeys – “Sculptures of Anything Goes”

Black Pumas – “More Than a Love Song”

boygenius – “Not Strong Enough”

Foo Fighters – “Rescued”

Metallica – “Lux Æterna”


Best Rock Song:

The Rolling Stones – “Angry”

Olivia Rodrigo – “Ballad of a Homeschool Girl”

Queens of the Stone Age – “Emotion Sickness”

boygenius – “Not Strong Enough”

Foo Fighters – “Rescued”


Best Rock Album:

Foo Fighters – But Here We Are

Greta Van Fleet – Starcatcher

Metallica – 72 Seasons

Paramore – This Is Why

Queens of the Stone Age – …In Times New Roman


Best Metal Performance:

Disturbed – “Bad Man”

Ghost – “Phantom of the Opera”

Metallica – “72 Seasons”

Slipknot – “Hive Mind”

Spiritbox – “Jaded”


Best Solo Pop Performance:

Miley Cyrus – “Flowers”

Doja Cat – “Paint the Town Red”

Billie Eilish – “What Was I Made For?”

Olivia Rodrigo – “Vampire”

Taylor Swift – “Anti-Hero”


Best Solo Pop Duo/Group Performance:

Miley Cyrus ft. Brandi Carlile – “Thousand Miles”

Lana Del Rey ft. Jon Batiste – “Candy Necklace”

Labrinth ft. Billie Eilish – “Never Felt So Alone”

Taylor Swift ft. Ice Spice – “Karma”

SZA ft. Phoebe Bridgers – “Ghost in the Machine”


Best Pop Vocal Album:

Kelly Clarkson – Chemistry

Miley Cyrus – Endless Summer Vacation

Olivia Rodrigo – GUTS

Ed Sheeran – – (Subtract)

Taylor Swift – Midnights


Best Dance/Electronic Recording:

Aphex Twin – “Blackbox Life Recorder 21F”

James Blake – “Loading”

Disclosure – “Higher Than Ever Before”

Romy & Fred again.. – “Strong”

Skrillex, Fred again.. & Flowdan – “Rumble”


Best Dance/Electronic Album:

James Blake – Playing Robots Into Heaven

The Chemical Brothers – For That Beautiful Feeling

Fred again.. – Actual Life 3 (January 1 – September 9 2022)

Kx5 – Kx5

Skrillex – Quest for Fire


Best Rap Album:

Drake & 21 Savage – Her Loss

Killer Mike – Michael

Metro Boomin – Heroes & Villains

Nas – King’s Disease III

Travis Scott – Utopia


Best Rap Song:

Doja Cat – “Attention”

Nicki Minaj & Ice Spice ft. Aqua – “Barbie World”

Lil Uzi Vert – “Just Wanna Rock”

Drake & 21 Savage – “Rich Flex”

Killer Mike ft. André 3000, Future, and Eryn Allen Kane – “Scientists & Engineers”


Best Rap Performance:

Baby Keem ft. Kendrick Lamar – “The Hillbillies”

Black Thought – “Love Letter”

Coi Leray – “Players”

Drake & 21 Savage – “Rich Flex”

Killer Mike ft. André 3000, Future, and Eryn Allen Kane – “Scientists & Engineers”


Best Melodic Rap Performance:

Burna Boy ft. 21 Savage – “Sittin’ on Top of the World”

Doja Cat – “Attention”

Drake & 21 Savage – “Spin Bout U”

Lil Durk ft. J. Cole – “All My Life”

SZA – “LOW”


Best Country Album:

Kelsea Ballerini – Rolling Up the Welcome Mat

Brothers Osborne – Brothers Osborne

Zach Bryan – Zach Bryan

Tyler Childers – Rustin’ In the Rain

Lainey Wilson – Bell Bottom Country


Best Country Solo Pop Performance:

Tyler Childers – “In Your Love”

Brandy Clark – “Buried”

Luke Combs – “Fast Car”

Dolly Parton – “The Last Thing On My Mind”

Chris Stapleton – “White Horse”


Best Música Urbana Album:

Rauw Alejandro – Saturno

Karol G – Mañana Será Bonito

Tainy – Data


Best Americana Album:

Brandy Clark – Brandy Clark 

Rodney Crowell – The Chicago Sessions

Rhiannon Giddens – The Chicago Sessions

Jason Isbell and the 400 Unit – The Chicago Sessions

Allison Russell – The Returner


Best Folk Album:

Dom Flemons – Traveling Wildfire

The Milk Carton Kids – I Only See the Moon

Joni Mitchell – Joni Mitchell at Newport [Live]

Nickel Creek – Celebrants

Old Crow Medicine Show – Jubilee

Paul Simon – Psalms

Rufus Wainwright – Folkocracy


Best Comedy Album:

Trevor Noah – I Wish You Would

Wanda Sykes – I’m an Entertainer

Chris Rock – Selective Outrage

Sarah Silverman – Someone You Love

Dave Chappelle – What’s in a Name?


Best Music Video:

The Beatles – “I’m Only Sleeping”

Tyler Childers – “In Your Love”

Billie Eilish – “What Was I Made For?”

Kendrick Lamar – “Count Me Out”

Troye Sivan – “Rush”


Best Music Film:

David Bowie – Moonage Daydream

Lewis Capaldi – How I’m Feeling Now

Kendrick Lamar – Live From Paris, The Big Steppers Tour

Little Richard – I Am Everything

Tupac Shakur – Dear Mama


Best Score Soundtrack for Visual Media:

Barbie

Black Panther: Wakanda Forever

The Fabelmans

Indiana Jones and the Dial of Destiny

Oppenheimer


Producer of the Year:

Jack Antonoff

Dernst “D’Mile” Emile II

Hit-Boy

Metro Boomin

Daniel Nigro


Songwriter of the Year:

Edgar Barrera

Jessie Jo Dillon

Shane McAnal

Theron Thomas

Craig Armstrong
 

 

Massive Attackのコラボレーターとして、また『ロミオ+ジュリエット』や『ムーラン・ルージュ』など数々の映画音楽で知られるスコットランド出身の作曲家、Craig Armstrong(クレイグ・アームストロング)の楽曲をausがリミックス。2曲入りのリミック・シングルはNocturne 8 (aus Remodel)として、Modern Recordingsからデジタルで発売となった。配信リンクとアートワークは下記よりご覧ください。

 

この曲は、ロックダウン中に2台のピアノのために制作された『NOCTURNES - MUSIC FOR TWO PIANOS』に収録されていた。Alva Noto、Mogwai、Scott Fraserらが参加してきたリミックス・プロジェクトの最後を締めくくる作品となっている。



Massive Attackとの長年に渡るコラボを経て、Massive Attackのレーベル”Melankolic” (Virgin Records)から、リリースしたソロ・アルバムの二枚、『The Space Between Us』と『As If To Nothing』でソロ・アーティストとしてのキャリアをスタートしたクレイグ・アームストロング。

 

その後、クラシック、映画音楽などジャンルの壁を越えて、繊細かつ詩情溢れる色彩豊かな音楽を発表することで高い評価を築いてきた彼の作品を、日本人プロデューサーausがリミックス、本日リリースした。

 

aus

 

クラシカルでメロディックな楽曲の世界を引き継いだ「aus Remodel」、躍動感溢れるパーカッションとシンセを加え、メランコリックなダブ・エレクトロニカへと変貌させた「aus Reprise」の2曲を収録。




Craig Armstrong - Nocturne 8 (aus Remodel)

 




発売日:2023年11月10日
フォーマット:DIGITAL
レーベル:MODERN RECORDINGS



Tracklist:

 
1. Nocturne 8 (aus Remodel)
2. Nocturne 8 (aus Reprise)

 

配信リンク:


https://aus.lnk.to/CraigArmstrong

 

 

 
 NOCTURNES: MUSIC FOR 2 PIANOS:



『ロミオ+ジュリエット』や『ムーラン・ルージュ』、『華麗なるギャッツビー』などのバズ・ラーマン監督映画のスコアや、マッシヴ・アタックとのコラボレーションで知られるスコットランドはグラスゴー出身の作曲家/アレンジャー/現代音楽/エレクトロ・アーティスト、クレイグ・アームストロングが贈る、長く、静かな夜の癒しのピアノ・ナイト・ミュージック。

 

ロックダウン中に制作された『NOCTURNES - MUSIC FOR TWO PIANOS』。本作には彼が2020年から2021年の間に制作した14曲が収録されているが、そのほとんどが、英国中がロックダウンとなっていた時期に、外出禁止となっていた夜の間で作られたものだという。

 

アームストロング曰く、「2台のピアノのための楽曲としたことで、より抽象的な曲を作ることができ、メロディーやハーモニーの輪郭がぼやけた拡散した音を作ることができた」という。収録されているノクターンは繊細なメロディの断片に焦点を当て、作曲の過程を明らかにしながら展開されている。そして、それぞれの小品は独立していながらも、各楽章の雰囲気や意図は全体としてまとまったものになっている。



自宅で作曲・録音した本作の制作は、アームストロングにとってパンデミックの中である意味、癒しの時間でもあったという。

 

それゆえに彼は、アルバムの音の美しさと音楽の内省性が、リスナーにとってこの奇妙な時代に慰めを見出す助けになるかも知れないと思っている。本作『NOCTURNES』をアコースティックなアルバムにしたいと考えたのも、「この形式であれば、演奏したいと思う2人のピアニストがいれば、誰でも楽曲を演奏することができるから」と彼は語った。音楽の持つ癒しの力が込められた本作『NOCTURNES: MUSIC FOR 2 PIANOS』。長く静かな夜にぴったりの作品である。


©Natalie Piserchio

Sheer Mag(シアー・マグ)は、サード・マン・レコードからの3作目となるアルバム『Playing Favorites』を発表した。

 

2019年の『A Distant Call』に続く本作は、2024年3月1日にリリースされる予定で、以前に発表された楽曲「All Lined Up」が収録さ。このタイトル・トラックは、クレイグ・シェイシングが監督したビデオとともに本日公開された。


「10年近く一緒にツアーをやってきて、ツアーについて曲を書く資格があると感じたんだ。シア・マグの次の時代への良いイントロダクションだ」


ボーカルのティナ・ハラデーはアルバムについてこう付け加えた。「最初の何枚かのレコードは、個人的なカミングアウト・パーティーのような感じだった。10年前、5年前、あるいは3年前には想像もできなかったような部分がこのアルバムにはある」と語っている。 

 

 

「Playing Favorites」



Sheer Mag  『Playing Favorites』


Label: Third Man

Release: 2024/03/01


Tracklist:


1. Playing Favorites

2. Eat It and Beat It

3. All Lined Up

4. Don’t Come Lookin’

5. I Gotta Go

6. Moonstruck

7. Mechanical Garden

8. Golden Hour

9. Tea On The Kettle

10. Paper Time

11. When You Get Back

 

Pre-order:

 

https://orcd.co/playingfavorites 

 

ブルックリンを拠点に活動する注目のR&Bアーティスト、Yaya Bey(ヤヤ・ベイ)が2曲の新曲 「crying through my teeth」と 「the evidence」をBig Dadaから発売した。2024年に登場するベイのニュー・アルバムの最初のテイスト。

 

ミュージック・ビデオは、さまざまな世代の黒人女性とその日常生活の些細なことに焦点を当て、ポートレートと夢のようなダンスの両方のシークエンスのバランスをとっている。ベイがシャシディ・デイヴィッドと共同監督を務め、アレクサンドリア・ジョンソンと振付を担当している。


ヤヤ・ベイはこの曲について、「昨年の冬、これまで経験したことのないような困難な方法で悲しみを経験し、自分自身を励ます必要があったときに、『the evidence』を書きました」と語った。




 Ian Sweet  『Sucker』

 

Label: Polyvinyl

Release: 2023/11/3



Review


 

ロサンゼルスは世界的に見ても、大きな夢が存在する都市であることに疑いはないと思う。しかし、ときに、その大きさゆえに何かを見失うこともある。結局、2021年に秀逸な女性ロックシンガーを多数輩出するPolyvinylからデビューしたジリアン・メドフォードにもそういった出来事が訪れたのであり、メドフォードはニューヨークの保養地である山岳地帯、キャッツキルでしばらくの間、自分自身を見つめ直す必要に駆られたのだった。それは考え方によっては、旧来の音楽性から脱却する必要に迫られたといえ、同時に音楽活動を行う必要性について考えを巡らせる時期に当たった。イアン・スウィートは当時についてこう回想している。「そもそもなぜ音楽を始めたのか、その理由を見直したの。もっと個人的になりたかったし、音楽的にも歌詞的にももっと自信に満ちた面を見せたかった。私はいつも自分の作品にとても疑問を持っていて、それを多くの人と共有することはあまりなかった。でも、このアルバムには、自分が書いていることにとても安心感があり、みんなに聴いてもらいたいという気持ちがあったんだ」

 

このニューヨーク北部にある山岳地帯には有名なスタジオがあることは、既に何度か言及している。USインディーロックの聖地であり、オードリー・カンを擁するインディーロックバンド、Lightning Bugもまた最新作のレコーディングをこの山岳地帯で行っている。都会よりも北部に位置するため、寒冷な土地であることは想像に難くない。結局のところ、キャッツキルでレコーディングの拠点を張ることに何らかの欠かさざる意味を求めるとしたら、多少そのことに厳しさが付随するとしても、都会の喧騒や名声からしばし距離を置き、自らを見つめ直す機会を得るという点に尽きる。そして、レコーディングが行われる場所の空気が実際の音楽に反映されるケースがあるように、山岳地帯の清涼な空気感を反映した音楽を制作できる余地を設けるということである。実際、LAからニューヨークへと大陸を横断したことは、この東海岸で盛んなシンセ・ポップという切り口や観点を最新アルバム『Sucker』にもたらすことになった。


NYの大御所シンガー、セイント・ヴィンセントの次世代を受け継ぐダイナミックなシンセポップソング「Bloody Knees」は鮮烈な印象性を擁し、同時にイアン・スウィートというシンガーの音楽性の一端を知るヒントとなりえる。キャッツキルの高地であるがゆえの澄んだ空気感というのも本作のサウンドに織り込まれている。そして、ロック寄りのサウンドを絡めながら、静と動の展開を交差させ、外交的な性質と内省的な性質を併せ持つボーカルワークを鋭く対比させている。曲の序盤では、清濁併せ呑むボーカルや音楽性という表現が表向きの印象性を作っているが、後半では、繊細でセンチメンタルな一面性を伺わせる時がある。これはアーティストの素直な感情が反映されているのか。見方によっては、商業的な側面を見て取る場合もあるかもしれないし、それとは正反対にDIYのアーティストとしての一面が見て取れる場合もある。

 

現在のニューヨークでは、Nation Of Languageを見ると分かる通り、聴きやすいインディーポップがシーンの一角を担っているという印象がある。「Smoking Again」は、Palehoundのようなヘヴィネスではなく、ソフト・ロックのような軽さを重視し、ダンスミュージックを反映した軽妙なポップで聞き手を魅了する。同様に、Big Thief、Slow Pulpのようなモダンなオルトロックのスタンダードな感性を踏まえた「Emergency Contact」でも、現代の耳の早いリスナーを魅了してやまない。上記の2曲は、アルバム全体を聴き通した後、また聴き返したいと思わせる要因を作るはずだ。

 

さらに、『Sucker』の制作環境において、イアン・スウィートは心の痛みやまた苦悩といった、一般的には負の側面とも思われる感情性を、丹念にソングライティングに反映させていることは賛嘆に値する。タイトル曲であり、重要なハイライトでもある「Sucker」は最もセンチメンタルな側面が表れ、その中にはいままで見過ごしていたアーティストの自己よりも更に深いインナーチャイルドのようなものも見出すことができる。イアン・スウィートは、アーティストとしての原点に帰り、そして誰よりも深く自己と向き合うことにより、(ときにそれは強さが必要となることもある)共感性に富んだ、柔らかく靭やかなインディーポップソングを書くことが出来たのだろうか。そして、驚くべきことに、そういった内面の痛みや切なさ(脆弱性)というマイナスの側面を持つ曲を書くことで、アーティストと同じような場所にいるリスナーを苦しみから救い出せる。もちろん、リスナーの心に癒やしを与えることもできるのだ。

 

以後、アルバム、あるいはアーティストは、内省的になることを恐れず、そして「他者から見る自己」よりも「自分自身が見つめる自己」を重視し、しなやかなインディーポップソングを書いている。それは言い換えれば、本当の自分を見つめ、その姿をそのまま音楽に素直に昇華するということなのかもしれない。「Come Back」では、内省的なインディーポップの音楽性を選んでいるが、ここにも2年間のイアン・スウィートの人生が何らかの形で反映されているという気がする。みずから地を足で直に踏みしめるかのようなリズムに対する、自己に言い聞かせるようなボーカルは説得力があり、心深くに共鳴するものがある。派手さや華美を避け、徹底して内面の感情性を見つめ、それを繊細なポップソングとして昇華させているのが素晴らしいと思う。そしてサビの部分では、山岳地帯の清涼感のある空気感を表現しようとしている。

 

続いて、ダイナミックなシンセポップバンガー「Your Spit」も聴き逃がせない。クランチなギターとマシンビートを融合させ、Japanese Breakfast、Samiaのようなキュートな感覚を表現しようとしている。シンセ・ポップの現行のトレンドの王道にある音楽性とシンプルなオルト・ロックサウンドの融合は爽快感がある。「Clean」では、Clairoを思わせるベッドルーム・ポップとオルト・フォークの融合に焦点が絞られていて、これらの繊細な感覚は琴線に触れるものがある。「Fight」においても、ベッドルーム・ポップを踏襲したトレンドのサウンドで聞き手を魅了する。「Slowdance」ではドリーム・ポップ/シューゲイズに近い陶然とした感覚に浸らせる。

 

さらに、クローズ「Hard」は、Phoebe Bridgersのソロ作に近いインディーポップソングで締めくくられる。ただ、アルバムの中盤までのオリジナリティーが、後半にかけて副次的なサウンドに変化し、キャッツキルの清涼感や雰囲気が、曲が進む毎に立ち消えていくような感覚があったのは少しだけ残念だった。アンチテーマという考えもあり、ストーリー性をあえて避けるという考えもあるため、アルバムの中には、必ずしもテーマや概念が必要とはかぎらない。けれども、音楽の中に内在する一連のイメージの流れのようなものが結実せず、最後に少しずつしぼんでいくような印象がある。これは、Squirrel Flowerの最新作のクローズ曲の心震わせるような圧倒的な凄みを聴くと、その差は歴然としている。もちろん、反面、『Sucker』は良いアルバムであることに変わりない。タイトル曲、「Bloody Knees」、「Come Back」を始め、聴き応えのある良曲も数多く収録されている。インディーポップ/ロックファンを問わず、ぜひチェックしてほしい良盤の一つ。

 

 

78/100

 


 「Sucker」


 

広島出身で、モントリオールを拠点に活動するJonah Yano(ジョナ・ヤノ)が「concentrate」を発表した。ニューシングルには、モントリオールのミュージシャン、クリストファー・エドモンソン、ベンジャミン・マクリーン、レイトン・ハレル、フェリックス・フォックス=パパス、ライデン・ルイのライブ・バンドが参加している。さらに、Clairoがクラリネットとバッキング・ヴォーカルを担当している。Jonah Yanoは奇妙礼太郎とのツアーも以前敢行している。

 

ニューシングル「Concentrate」は、ジャズが盛んなモントリオールの文化性を色濃く反映する素晴らしいトラックとなっている。ジャズ/R&Bのムードが漂うナンバー。ジョナ・ヤノのメインボーカルと、録音に参加した複数のボーカリストのコーラスのメロウさは必聴に値する。曲の中盤では、サックスのインプロバイぜーションが、曲にご機嫌なアクセントを与え、その後、再び、メロウなR&Bのコーラスが、ローファイでサイケデリックな雰囲気の中に包み込まれていく。クライマックスに追加されるハモンド・オルガンは、全般的なムードを温和にし、至福のひと時を呼び覚ます。アルト・サックスの芳醇なプレイが静かなフェードアウトへと導かれていく。

 

 

 

©Chris Hornbecker


スリーターキニーは、ニュー・シングル「Say It Like You Mean It」のビデオを公開した。バンドのキャリー・ブラウンスタインが監督を務め、サクセションのJ・スミス=キャメロンが出演している。以下より。


「このビデオは、何が適切なことなのか全くわからなくなってしまった女性の物語です。「彼女は衰弱した喪失感と闘い、人に見られたいと願い、そしてあえてあなたに去ってもらおうとする。


「Say It Like You Mean It」は、来年1月19日にリリースされるSleater Kinnyの新作アルバム『Little Rope』に収録される。リード・シングル「Hell」に続く曲である。

 

 

「Say It Like You Mean It」