多方面で活躍するアーティスト、Mac Wetha(マック・ウェタ)が、beabadoobeeとAminé(アミネ)をフィーチャーしたコラボレーション・シングル「Fear of Flying」をDirty Hitから発表した。


「この曲は2021年に初めて形になり、当初はジョシュ・スカーブロウとマット・マルテーズと書いたものだったんだ。この曲は、フルタイムで音楽で生計を立てるという夢を持ちながら、幾度も自問自答を繰り返し、ファンを失望させることを心配していた時期から生まれたたものなんだ。それが私にとっての "Fear of Flying "の意味でもある。"みんなに見てもらうために高く舞い上がろうとするんだけれど、誰もそれを好きにはならないし、気にもしてくれないという恐怖に関して」


2年後、「Fear Of Flying」の最終バージョンは、レーベル・メイトのBeabadoobeeと、彼が以前プロデュースしたアメリカのラッパーAminéをフィーチャーしている。


2人との制作について、マック・ウェタは次のように語った。「私がコラボレーションについて最も好きなことは、必ずしも意味をなさないかもしれないトラックで人々が一緒になるというアイデアなんですが、実際にそれを聞くとTOTALの意味がわかりますね...。私は2019年にLimboのトラックをプロデュースしたときからAminéを知っていますし、Beaと私の仕事は、2021年に彼女が私をツアーに連れて行ってくれたときからさかのぼっています。この2人が一緒に曲を作るというアイデアはずっと前からあったんだけど...。突然、この曲がパーフェクトだと感じたんだ。この曲は、2年ほどかけて本当に自然にできあがった愛の結晶で、これ以上誇れるものはないよ」


 

「Fear of Flying」

 

©Martyna Bannister


アイルランドのPillow Queens(ピロー・クイーンズ)がニューシングル「Suffer」をRoyal Mountainsから発表した。この曲はコリン・パストーレ(boygenius、Illuminati Hotties、Lucy Dacus)がプロデュースした。


「ダブリンのリハーサル・スタジオで真冬に書いた曲で、寒さが曲に染み込んでいる」とバンドは声明で説明している。昨年、Pillow Queensの2ndアルバム『Leave the Light On』を発表した。

 

 


2022年初め、トロントのハードコアバンド、Fucked Upは、24時間で作曲と録音を行った伝説的なフルレングス『One Day』をMerge Recordsからリリースした。続いて『One Day』のセッションの別テイクから3曲を収録した『Show Friends』(7Inch)をリリースしたばかり。タイトル・トラックと 「Spot The Difference」に続く3曲目のシングル「What The Sun Shaw」がついに公開となった。

 

バンドはリーズの公演を皮切りとするヨーロッパ・ツアーの日程を発表した。フロントマンのダミアン・アブラハムは「一般的なカナダのバンドにとって、英国での活躍は何より最重視される」とKerrang!誌のインタビューで述べた。そして、もうひとつは、アブラハムの父祖がイギリスにルーツを持つというのもある。今回のライブ・ツアーでは、ロンドン、リーズ、ボーンマスの3つの都市においてバンドが現地のファンに対外的なアピールを行う格好の機会となる。


Fucked Upは、最近では、パンクとエレクトロとの融合を試み、新しいチャレンジに事欠かない。7 inchの最後のトラックについても同様で、ポスト・ハードコアをサイケデリックに彩っている。

 

ポスト・ハードコアに関する音楽性は以前と同様でありながら、オルタナティヴ・ロック的なギターラインが異彩を放つ。テクニカルなギターラインは、複雑なドラムと合わさり、トゥインクルエモ/エモコアに近い雰囲気を帯びる。その音楽性を決定づけるのが、ダミアン・アブラハムの人間離れした唸り声である。トロントのFucked Upが提示するアンビバレントで新鮮なハードコアは、このジャンルにとどまらず、オルタナ・ファンの期待に添えるものとなっている。



「What The Sun Shaw」



TOUR DATES:

11/10 – Leeds, UK @ Temple of Boom

11/11 – London, UK @ The Underworld (Pitchfork Music Festival) ^

11/12 – Bournemouth, UK @ The Bear Cave

11/13 – Lille, France @ L’Aeronef (Club Room)

11/14 – Paris, France @ Petit Bain

11/15 – Reims, France @ La Cartonnerie

11/17 – Benidorm, Spain @ Primavera Weekender

11/18 – Malaga, Spain @ Paris 15

11/19 – Barcelona, Spain @ La Nau

11/20 – Toulouse, France @ Connexion Live

11/21 – Milan, Italy @ Legend

11/22 – Wiesbaden, Germany @ Kesselhaus

11/23 – Cologne, Germany @ MTC


デビューEP「A Comforting Notion」に続き、サウス・ロンドンのHeartworms(別名ジョジョ・オム)が「May I Comply」を発表した。Speedy Wundergroundからリリースされたこの曲は、レーベル専属の敏腕プロデューサー、ダン・キャリーがプロデュースした。

 

現時点では謎めいた印象のあるHeartworms。デビュー時には、戦前のミリタリー・ウェアに身を包み、ライブスペースで個性的なパフォーマンスを行い、ロンドンの気鋭メディアの耳目を集めていた。音楽的にはポスト・パンク、ダンス、ポップを一緒くたにしたもので、ダンスに関するアート的なパフォーマンスも話題を呼んでいる。今年発表されたデビューEPは、現地のメディア、DIYのレビューで五つ星を獲得、絶賛を受けた。

 

 ハートウォームズは、単なる音楽家とは言いがたい。あるときはミュージシャンであり、また、あるときはパフォーマーであり、さらにはダンサーとしてもステージで躍動し、その役柄を軽やかに変じてみせる。アーティスト本人は一つのジャンルに規定されないマルチタレント性について、プリンスの影響が大きいと語る。このシンガーソングライターが企むのは、新しい音楽、そして新しい表現の確立である。ダンス・ポップとしてはチャーチズの次世代のグループともいえ、ゴシック的なアート性に関してはかつてのCRASSを彷彿とさせるものがある。


この曲には、頻繁にコラボレートしているギルバート・トレホが監督したビデオが付属しており、彼はこのビデオについてこうコメントしている。「ジョジョと私は、Heartwormsが築いているモノトーンの世界に強く傾倒し、バンド以外のすべてを虚無の海に洗い流したかったんだ。『24 Hours』と『May I Comply』の撮影の間に、ツアー中のハートワームズを撮影する機会があり、この段階でジョジョのパフォーマンスのエネルギーをもう少し捉えることに興奮していた」


「May I Comply」

 


2022年、『With a Hammaer』を発表し、人気急上昇中のYaeji。彼女は「easy breezy」を発表した。この新曲についてこう語る。「"easy Breezy "は、私の過去の作品(と過去の自分)を紡ぐ続編のような感じです」 

 

「韓国や日本のポップ・エレクトロニカを通して、ボサノヴァ、ドラムンベース、ハウスを発見した頃だ。イージー・ブリージー "は、糸であり、トリビュートであり、思い出の回想であり、勇気と笑いをもって変化をもたらそうとする私たちを勇気づける後押しである」

 

ビデオは、曲そのものと同じくらい軽快でのんきなもので、ヤエジが愛犬ジジと一緒にスクーターでニューヨーク中を疾走し、マリオカート風のレースでバナナの皮やその他の障害物をよけている。最近の「For Granted」と「Done (Let's Get It)」のビデオに引き続き、このビデオでもヤエジが監督を務めている。下記よりチェックしてみましょう。


画期的な瞬間にめまぐるしい1年を過ごしたYaejiは、8月に北米とヨーロッパ・ツアーの合間を縫ってスタジオに戻り、そこからこのエキサイティングな新作を発表した。今週、YaejiはWith A Hammerのヨーロッパ・ツアーに出発し、今週土曜日にラウンドハウスで開催される権威あるピッチフォーク・ロンドン・フェスティバルのヘッドライナーを務める。

 

 

「easy breezy」

 

©Denée Segall

米国のフォーク・シンガーソングライター、Ty Segall(タイ・セガール)がニュー・アルバム『Three Bells』を2024年1月26日にドラッグ・シティからリリースすることを発表した。

 

本日、彼は長年のコラボレーターであるマット・ヨカと共同監督した新曲「My Room」のビデオを公開した。アルバムのアートワークとトラックリストは以下を参照のこと。


『Three Bells』には、既にリリースされたシングル「Void」と「Eggman」が収録される。共同プロデュースはクーパー・クレインで、彼はアルバムのエンジニアリングとミックスも担当した。セガールは5曲を妻のデネと共作し、フリーダム・バンドのメンバーもアルバムに参加している。

 

 「My Room」


タイ・セガールの新作アルバム『Three Bells』は、1月26日にドラッグ・シティからリリースされる。2022年の『Hello,Hi』に続くアルバムとなる。アルバムの制作発表後、「My Best Friend」も公開されている。先行シングルは視聴は下記より。

 

2008年以来、タイ・セガールは12枚のソロLP、さまざまなコラボレーション・プロジェクト、そして波打つような曲、サウンド、プロダクションの折衷主義を通して、自由でありたいという渇望を表現してきた。 この探求は、タイの最新アルバム『Three Bells』でも続いている。このアルバムは、自己の中心への15曲の旅であり、タイは作曲とパフォーマンスの限界に挑戦し、彼の内なる精神に光を投げかけている。

 

自由を求める気持ちは人それぞれだが、時には人間以外の仲間と過ごす時間も大切だ。タイのファルセット・ヴォーカルとドライヴ感のあるエレクトリック・アレンジが「マイ・ベスト・フレンド」のバックボーンで、ギターがシンクロしたラインを刻み、カウベルがコーラスを強化する。ソロ・セクションでは、共鳴するリズム/リードがめくるめくステレオ効果で煽られる。タイが撮影・監督したこの曲のビデオでは、彼の忠実な仲間であるファニーとハーマンが、新しい一日の夜明けに抑えきれない情熱で尻尾を振っている。甘いおやつ、フレンドリーな匂い、ビーチでの元気な出会いが曲のリズムを映し出している。ーDrag City

 

 

 


Ty Segall 『Three Bells』 

 


Label: Drag City

Release:2024/1/26


Tracklist:


1. The Bell

2. Void

3. I Hear

4. Hi Dee Dee

5. My Best Friend

6. Reflections

7. Move

8. Eggman

9. My Room

10. Watcher

11. Repetition

12. To You

 

Tour Date:

 

USA

 
2/20 - San Francisco, CA @ Great American Music Hall
2/21 - San Francisco, CA @ Great American Music Hall
2/23 - Los Angeles, CA @ The Wiltern - w/ White Fence
2/24 - Solana Beach, CA @ Belly Up
4/19 - Tucson, AZ @ 191 Toole
4/20 - Albuquerque, NM @ Sister Bar
4/22 - Austin, TX @ Mohawk (Outside)
4/23 - Jackson, MS @ Duling Hall
4/24 - Nashville, TN @ Brooklyn Bowl
4/26 - Asheville, NC @ The Orange Peel
4/27 - Washington DC @ Lincoln Theatre
4/28 - Philadelphia, PA @ Union Transfer
4/29 - New York, NY @ Webster Hall
5/1 - Boston, MA @ Royale
5/2 - Montreal, QC @ Club Soda
5/3 - Toronto, ON @ Danforth Music Hall
5/5 - Cleveland, OH @ Beachland Ballroom Mon.
5/6 - Chicago, IL @ Thalia Hall
5/7 - Omaha, NE @ The Waiting Room
5/9 - Englewood, CO @ Gothic Theatre
5/10 - May 12 - Salt Lake City, UT @ Kilby Block Party
5/11 - Sacramento, CA @ Harlowʼs



Europe

 
6/17 - Prague, @ Roxy, CZ
6/18 - Zürich, @ Mascotte, CH
6/20 - Vitoria-Gasteiz, @ Azkena Rock Festival, ES
6/22 - Paris, @ Elysée Montmartre, FR
6/24 - Manchester, @ New Century, UK
6/25 - Dublin, @ Button Factory, IE
6/27 - Glasgow, @ Queen Margaret Union (QMU), UK
6/28 - London, @ Roundhouse, UK
6/30 - Bristol, @ Bristol Sounds 2024, UK
7/2 - Lille, @ L'Aéronef, FR
7/3 - Berlin, @ Festsaal Kreuzberg, DE
7/4 - Vilanova i la Geltrú, @ Vida Festival 2024, ES
7/7 - Beuningen, @ Down The Rabbit Hole, NL

 

bar italia  『The Twits』

 

Label: Matador

Release: 2023/11/3



Review



前作『Tracy Denim』に続く『The Twits』は、ビョークの作品等のプロデューサーとして知られるマルタ・サローニを迎えて制作された。スペインのマヨルカ島の間に合わせのホーム・スタジオで録音されたアルバムだという。

 

先日、現地の大手新聞のThe Guardianで紹介されたとはいえ、一般的にはミステリアスな印象のあるロンドンのトリオの音楽をよく知るための最良の手がかりとなるはずである。全般的な印象としては、少し冗長な印象もあった前作に比べ、サウンド・プロダクションがタイトでスマートになった。これはよりプロデューサーとバンドの良好な関係が実際の音源に表れ出たと考えられる。


実際のアルバムは、バー・イタリアのメンバーのプリミティヴなプロトパンクに対する親近感を読み取ることができるかもしれない。そのサウンドの質感は、Television、Sonic Youth、Richard HellといったNYのレジェンドに近いものである。オープニングを飾る「my little tony」は、bar italiaがSonic Youthの次世代のバンドであることのしたたかな表明代わりとなる。ガレージ・ロックを吸収したダイナミックなギターラインは、前作よりも信頼感のあるロックグループとしての道を選択したことの証ともなる。実際に、ソリッドで硬質なギターラインは、bar italiaの代名詞であるボーカルを入れ替えるスタイルと劇的に合致し、従来よりもタイトなサウンドが生み出されるに至った。

 

一方で、前作で象徴的だったローファイで荒削りなニューヨークのNo Waveに近いアヴァンギャルドなオルタナティヴロック・サウンドは、今作でも健在である。「que surprise」では、ホーム・スタジオならでは感覚が重視されていて、ライブ・セッションに近いリアルな息吹を感じる。サローニのラフなミックスも、曲のローファイな感覚を上手く引き出している。スローテンポな曲ではありながら、バンドの演奏のリアルな感覚を楽しめる。同じように「Blush w Faith」においても、ジャム・セッションの延長線上にあるラフなロックが展開される。Violent Femmesを思わせる寛いだインディーロックから、曲の後半にかけてDinasaur Jr.の系譜にあるダイナミックなオルトロックサウンドに移行する瞬間は必聴である。こういったダイナミックさと繊細さを併せ持つ特異なオルトロックサウンドは、「calm down with me」にも見出すことができる。


ローファイな感覚を擁するコアなインディーロックと合わせて、このアルバムの別のイメージを形成しているのが、渋さとクールさを兼ね備えた古典的なフォーク音楽である。アイリッシュ・フォークの影響下にあるロックサウンドは、先行シングルとして公開された「twist」、「Jelsy」という2曲に明瞭な形で表れ出ており、アルバムの今一つのハイライトを形成している。これは前作にはなかった要素であり、バンドの新しいサウンドの萌芽を見出す事ができる。

 

アルバムの収録曲の中でひときわ目を惹くのが、発売前の最後の先行シングルとして公開された「Worlds Greatest Emoter」である。ドライブ感のあるインディーロックサウンドに、お馴染みのトリオのボーカルが入れ替わるスタイルが示されている。実際、以前よりも清涼感があり、従来のバー・イタリアのイメージから脱却を図った瞬間であると解釈できる。曲の構成は一定であるのに、ボーカルのフレーズを変えると、その印象が一変する。これはバンドの重要なテーマである多様性や人格の独立性を尊重した結果が、こういったユニークなトラックを生み出す契機ともなったのかもしれない。音楽の方向性としては、USインディーロックが選ばれているが、その枠組みの中で展開されるのは、ロンドンという街の持つ、多彩で流動的な性質である。さらに「Shoo」では、従来の手狭なロックという領域を離れて、ジャズともボサノヴァともフレンチ・ポップとも付かない、世界市民としての音楽に取り組んでいるのにも注目したい。


さらに、bar italiaは、Matadorと契約する以前から、シューゲイズ、ドリーム・ポップの音楽にも取り組んで来た。それらはローファイという形でアウトプットされることは旧来のファンであればご承知のはずである。しかしながら、今まさにバンドは、過酷なライブツアーを目前に控えて、「Hi Fiver」、「Sounds Like You Had To Be There」と、原点回帰の意味を持つ曲を書いている。これはとても重要なことで、今後、何らかの形で生きてくる可能性が高い。

 

正直に言うと、前作アルバム『Tracy Denim』と比べて、何かが劇的に変わったというわけではない。もっといえば、バンドとして、今後どうなるかわからず、未知数の部分が残されている部分がある。けれど、人間もバンドもいきなり著しい変化を迎えることはない。何かを一つずつ着実に積み上げていった結果、それが突然別のものに変化し、誰も想像しえないオリジナリティーに辿り着く。そして、このアルバムのサウンドの中には、原石のようなものが眠っているという気がしている。未完成の荒削りなサウンドであるがゆえ、大きな飛躍をする可能性も残されている。いずれにしても、未だこのバンドに対し、何らかの期待感を抱いていることには変わりがない。

 

 

84/100 

 

 



5月にリリースされた『Tracey Denim』に続くアルバム『The Twits』は、11月3日にMatadorからリリースされた。アルバムからは、「My Little Tony」「Jelsy」「Worlds Greatest Emoter」公開されている。

 

Zazen Boys


向井秀徳率いるZazen Boysがおよそ12年ぶりとなるニューアルバム「らんど」の制作を発表した。今作はバンドの自主レーベル”Matsuri Studio”から来年1月24日(水)に発売される。発売はCD/Digitalの2バージョン。アルバムのアートワークと収録曲は下記よりご覧下さい。「すとーりーず」以来となるファン待望の新作アルバムについて、向井秀徳は次のように説明している。

 

 

ZAZEN BOYSのニューアルバムのタイトルは「らんど」だ。
乱土世界の夕焼けにとり憑かれ続けている人間の歌がここにある。 ー向井秀徳

 

 

さらに新作アルバム発表と同時に、10月から開催されているライブツアー、Zazen Boys Tour Matsuri Sessionの日程が追加された。こちらのツアー日程についても下記よりご確認下さい。




Zazen Boys  『らんど』


 

 

 

アーティスト ZAZEN BOYS
タイトル   らんど
Label     MATSURI STUDIO
発売日    2024年1月24日(水)
価格     3000円+税(CD)
品番     PECF-3287
POS     4544163469411
形態     CD、Digital

 

 

Tracklist: 


1 DANBIRA
2 バラクーダ
3 八方美人
4 チャイコフスキーでよろしく
5 ブルーサンダー
6 杉並の少年
7 黄泉の国
8 公園には誰もいない
9 ブッカツ帰りのハイスクールボーイ
10 永遠少女
11 YAKIIMO
12 乱土
13 胸焼けうどんの作り方

 

 

 

・ ZAZEN BOYS TOUR MATSURI SESSION

 


ZAZEN BOYS オフィシャル先行


受付URL:https://ticket-frog.com/e/zbtms2024
受付期間:2023/11/6(月)20:00〜2023/11/12(日)23:59



・2月3日(土)熊本 B.9 V1

 
開場17:00/開演18:00
(問)BEA 092-712-4221<平日12:00〜16:00>



・2月4日(日)福岡 DRUM LOGOS 

 
開場17:00/開演18:00
(問)BEA 092-712-4221<平日12:00〜16:00>



・2月28日(水)東京 TOKYO DOME CITY HALL

 
開場18:00/開演19:00
(問)ホットスタッフ・プロモーション 050-5211-6077<平日12:00〜18:00>



・3月10日(日)大阪 なんばHatch 

 
開場17:00/開演18:00
(問)YUMEBANCHI(大阪) 06-6341-3525<平日12:00~17:00>



・3月20日(水・祝)名古屋 ダイアモンドホール

 
開場17:00/開演18:00
(問)クロスロードミュージック 052-732-1822<平日:11:00〜17:00>

前売¥6,600(税込・ドリンク代別)
一般発売:11月25日(土)10:00 

 

 

ライブツアーに関する詳細:

 

http://mukaishutoku.com/live.html


 Paint It Black 『Famine』

 

 

Label: Revelation

Release: 2023/11/3


Review


フィラデルフィアのハードコア・アウトフィット、Paint It Blackは、Kid Dynamite/Lifetimeのメンバーとして知られるDanが所属しているという。意外にも長いキャリアを持つバンドらしいが、今作では、USハードコアの王道を行くパンク性により、パンクキッズをノックアウトする。

 

Kid Dynamite,Lifetime、Dag Nasty周辺を彷彿とさせる硬派なボーカルスタイルやハードコアの方向性には、Discordを中心とするDCのハードコアやストレイト・エッジのオールドスクール性が漂うが、一方、グルーブ感を生かしたニュースクールのリズムと鋭いエッジを擁するギターやドラム、無骨なボーカルスタイルが特徴である。さらに、Paint It Blackの音楽性にはニューメタルやメタルコア等の影響も滲んでいる。アルバムの蓋を開けば、怒涛のノイジーさとアジテーションの応酬に塗れること必至だが、他方、Converge以後のニュースクール・ハードコアのスタイルの中には、奇妙な説得力や深みがノイジーさの向こう側に浮かび上がってくる瞬間がある。つまり、プレスリリースで説明されているとおり、「ハードコア・パンクの最も強力なリリースは、弱さ、正直さ、信憑性の空間から生まれるものであることを証明するもの」なのである。

 

そのことはオープニング「Famine」において示されている。フックやエッジの聴いたギターラインと屈強なリズムとバンドのフロントマンの咆哮にも近いスクリーモの影響を絡めた痛撃なハードコアサウンドは、バンドがこれまでどのような考えを持ち、活動を行ってきたのかを示している。ノイジーなサウンドの中核を担うのは、オールドスクールのDCハードコア、そしてFiddleheadに近いモダニズムである。他方、ヨーロッパのニュースクール・ハードコア/ポスト・ハードコアの独特な哀愁も漂う。それは、イタリア/フォルリの伝説、La Quiete、フランスのDaitro、スウェーデンのSuis La Luneのポストハードコアバンドと比べても何ら遜色がないことがわかる。

 

さらに、彼らはパンクバンドとしてのNOFXのようにメッセージ性もさりげなく取り入れている。前回の米大統領選に公平性に関する疑惑を歌った「Dominion」では、大型の戦車が走り回り、すべての草木をなぎ倒していくかのような怒涛の疾走感とパワフルさをサウンドに搭載し、理想的なハードコアパンクとは何かをみずからのアティテュードで示す。ミリタリーの性質があるのは瞭然で、このあたりは80年代のボストン・ハードコアや、以後のニューヨークのAgnostic Frontを思わせるものがある。

 

特に、エッジの効いたベースラインについては、バンドの最大の長所と言える。「Safe」ではオーバードライブを搭載した屈強なベースラインでパンクキッズを完全にノックアウトしにかかる。メタルコアやラップにも近いボーカルラインが加わることで、エクストリームなサウンドが生み出される。さらに、そのモダンなハードコアサウンドの中に、Dropkick Murphysのような古典的なパンクのギターソロを中盤で披露することにより、曲そのものに変化を与えている。ライブを意識した痛撃なサウンドはもちろん、パンクファンの心を鼓舞するためのものであるが、一方、その中にもDag Nasty/Lifetimeのようにじっくりと聴かせるなにかが備わっていることがよくわかる。

 

もちろん、疾走感や無骨さだけが、Paint It Blackの魅力なのではない。「Explotation In Period」では、イギリスのNew WaveやニューヨークのNo Waveを系譜にあるアヴァンギャルド音楽をポスト・ハードコアという形に落とし込んでいるのが美点である。これらの前衛性は、彼らがパンク・スピリットとは何かという原義的なものを探し続けた来た結果が示されていると言える。そして、実際、アルバムの全体的な音響性の中に面白い印象の変化をもたらしている。

 

ハードコアパンク・サウンドの中にある多彩さというのは、本作の最大の強みとなっている。 「Serf City, USA」では、Kid Dynamiteを思わせるメロディック・ハードコアのアプローチを選んでいる。ストップ・アンド・ゴーを多用したパンクサウンドはアンサンブルの深い理解に基づいており、Paint It Blackのバンドとしての経験豊富さやソングライティングにおける引き出しの多さを伺わせる。ダブル・ボーカルに関しても苛烈で痛撃な印象を及ぼし、もちろんハードコア・パンクファンの新たなアンセムと言って良く、拳を突き上げてシンガロングするよりほかない。

 

Paint It Blackは、このアルバムを通じて、パンクロックそのものの最大の魅力である簡潔性や衝動性に重点を置いている。それはその後も続いている。


「The Unreasonable Silence」では、レボリューション・サマーの時代のOne Last Wish、Fugaziの系譜にあるアヴァンギャルドなロックへの展開していく。さらに、Minor Threat、Teen Idlesを思わせる「Namesake」では、ストレイト・エッジを、近年のConvergeのように、ポストハードコアの側面から再解釈しようとしている。表向きにはきわめてノイジーなのに、内側に不思議にも奇妙な静寂が感じられるのは、La Quieteと同様である。クローズ曲「City Of Dead」では、王者の威風堂々たる雰囲気すら漂う。最後の曲では、暗示的に政治不安や暗黒時代の何かが歌われているのだろうか。そこまではわからないことだとしても、アルバムの全般を通じて、フィラデルフィアのPaint It Blackは現代のハードコアパンクの未来がどうあるべきなのか、その模範を断片的に示そうとしている。

 

 

86/100

 


Interview- Tetsumasa

 


Tetsumasaは名古屋市出身の日本のエレクトロニック・プロデューサー、DJ、シンガー/ラッパー。Downtempo、Hip Hop、House、Dub、Bass Music全般に深い影響を受け、2016年よりベルリンを拠点に活動中。


Tetsumasaは、2000年代には別名義の”Dececly Bitte”としてU-cover、Sublime Porte、AUN Muteや+MUS等、ヨーロッパ/日本のレーベルから、ダブ/テクノ/アンビエント等の音響作品を発表してきた。

 

その後、”Tetsumasa”名義で活動を開始し、実験的な電子音楽の作品 『ASA EP (vinyl)”』、『Obake EP (cassette)』をリリースしました。Urban Spree for Libel Null Berlin、Griessmühle (Berlin)、OHM Berlin、ATOM Festival (ウクライナ) などでもライブセットでプレイしている。

 

今回のインタビューでは、海外に活動拠点を移した経緯や、ベルリンでの生活、今後のアーティストとしての展望等についてお話を伺うことが出来ました。エピソードの全容を以下にご紹介します。



Music Tribune:  意外に活動期間が長いようなのでびっくりしました。テツマサさんは2000年代頃からプロデューサーとして活動なさっているようですが、日本にいた頃は、どういった感じで音楽活動を行なっていたのか、大まかで構いませんので、教えてください。



Tetsumasa:  ベルリンに来る以前は、日本やヨーロッパのレーベルから作品をリリースをしたりしながら、地元名古屋を中心に、時々、東京等でもライブしたりしていました。今はなくなりましたが、名古屋の”Club Domina”でライブをよくやっていて、その後、Dominaのオーナーが新たに設立した”spazio rita”というアートスペースで定期的にパーティーも主催していました。その頃は、Dark Electronic Exparimentalのような音楽をやっていましたね。



Music Tribune:  2016年から日本からベルリンに拠点を移して活動なさっているとのことですが、現在はどのような感じで日常生活を送っているのか教えてください。また、なぜドイツに移住しようと思ったのかについても教えてください。さらに言語的なコミュニケーションやドイツの文化に馴染むのは、なかなか大変なことではないですか??



Tetsumasa:  僕はフリーランサーなので、いつも自宅で仕事しています。あとは週に3回か4回くらいジムに行ったり、公園を散歩したりとか。友達と飲みに行くのが好きなので、週末は友達とバーとかたまにパーティー行ったりして過ごしてますね。
 

ベルリンに移住しようと思ったのは、ベルリンの音楽が昔から好きだったのと、ビザが比較的取得しやすいというのを知っていたので決断しました。僕は今でも、ドイツ語はまったくしゃべれないので、基本的に英語で人とコミュニケーションをとってます。ベルリンはインターナショナルな都市なので、そんな人結構いるかなと思います。



Music Tribune:   テツマサさんは、2017年に「OBAKE EP」を発表しています。この作品は「レフトフィールド・テクノ」とも称されるように、かなり実験的な電子音楽に挑んでいると思いますが、このアルバムについては、2000年代からの音楽性を受け継いだものだったのでしょうか?



Tetsumasa:   そうですね。「OBAKE EP」 は2000年代からやっていた音楽の延長線上にあると思います。2010年くらいからのインダストリアルとかエクスペリメンタルなテクノとかのエレクトロニック・ミュージックがほんの一部ですけど少しトレンドになっていたと思います。その辺りの音楽に影響受けてその時は制作を行っていました。



Music Tribune:  以後、2020年の「On The Way」(食品まつり a.k.a foodmanが参加)からガラッと作風が変化したように思えます。私は、この辺りの音楽にはあまり詳しくないんですが、これは現地のフロアのダンス・ミュージックに感化されたことが大きいのでしょうか。また、最近では髪の色も赤に変わり、かなりイメージチェンジを図っていますね??



Tetsumasa:   いや、ベルリンのダンスミュージックとはぜんぜん関係ないと思います。でも、この頃からシーン全体が大きく変わったように思いますね。

 

元々ポップミュージックを聴いていたんですけど、この頃から、更にポップスのジャンルやシーンにはまっていきました。(SOPHIE, Lapalux, Kilo Kish, Sega Bodega, BABii, Jessy Lanza, Tirzah等を好んで聴いていたという)

 

逆に、以前僕がやっていたスタイルの音楽は目に見えて廃れていくのがわかりました。僕自身、そうゆう音楽を聴かなくなってしまったし、その手のジャンルの人達も何かしらのスタイルチェンジを図った人も少なくなかったと思います。2020年以前はモチベーションも結構下がっていたため、2018年頃からは、新たにやりたいことを見つける旅でした。


髪の色については、髪を染めようと思って、その当時の彼女に聞いたら「赤が良いんじゃない?」ってことで赤にしました。結構自分でも気に入っているんで、そのまま赤にしてます。最近ファッション系の人とつながりも結構あって、ファッションも気にしたりもしていますね。




Music Tribune:   続いて、11月2日発売の新作EPについても質問したいと思います。「Lots of Question」のテーマ、コンセプト、全般的な構想などについて教えてください。



Tetsumasa:  タイトルの”Lots Of Questions”は自分自身とオーディエンスに対しての疑問がテーマになってます。自分が今どこにいて、どこに向かっているのかがはっきりわからないので、「Lots Of Questions」というタイトルにしました。僕の疑問にオーディエンスが何か答えをおしえてくれることを期待しています。



Music Tribune:  テツマサさんは、これまでウクライナやベルリンでのライブを経験されているようですね。日本とヨーロッパのクラブ・シーンの違いや、ライブ時の迫力の違い等があれば教えてください。


Tetsumasa:  特にベルリンがそうなんだと思いますけど、なんか日本に比べてヨーロッパの方がクラブという場所がカジュアルだと思います。

 

その他に娯楽も特にないし、みんなで楽しむ場所という感じですね。日本のそういったテクノとかのクラブに行く人って結構本当に好きな人が多いと思うんですけど、ベルリンはそうじゃない人の方が多いと思います。

 

あと、ベルリンのクラブって、結構、ガーデンがついているところがあって、チルスペースみたいな? そうゆうのとか凄くいいなと思いますね。ライブの迫力とかは大きい箱か小さい箱かみたいな違いで、日本とそんな変わらないじゃないかと思いますけど、お客さんのノリは日本よりいい気がしますね。それは単純に日本人がシャイな人が多いからという気がしますけど・・・。

 

(クラブのフロアから外に出ると、庭のようなスペースがあるという。そこでも室内と同じように、DJのプレイが行われており、アンビエント寄りのリラックスした音楽が掛かっている。意外にも広く、屋内のスペースと同じか、それよりも広いスペースである場合もあるのだという)


Music Tribune:  ドイツ名物といえば、ビール、ソーセージ、ザワークラウト等が真っ先に思い浮かびますが、日頃どんな感じの食生活を送っているのかお聞きしたいです。ドイツの食文化の中で、一番好きなものはなんでしょうか? また外国文化で生きていく上で、日本食が恋しくなることはありますか??



Tetsumasa:  ドナー(ケバブ)がベルリン発祥みたいで、ケバブ屋さんがたくさんあって安くて早いのでたまに食べますが、ドイツ料理はほとんど食べないです。

 

お酒を飲む時は、カクテルとかが高いので、ビールかワインをよく飲んでますね。普段は基本的に自炊していて、毎日、大体同じものしか食べないんですけど、栄養バランスを気にしてます。脂質の少ない肉、卵、オートミール、米、ブロッコリー、トマトをよく食べてます。ベルリンにラーメン屋さんとか日本食料理屋は結構あるんですけど、寿司屋だけはクオリティが違いすぎるので、日本に帰って久しぶりにおいしいお寿司を食べたいです。



Music Tribune:  理想とするミュージシャン、今後、一緒にやってみたいと思うコラボレーターがいたら教えてください。



Tetsumasa:   理想としているミュージシャンとかは特にいないですけど、コラボレーション自体に対してはすごくオープンです。コラボレーションは、自分の想定外の作品が出来上がるのでいいですよね。特定のアーティストはいませんが、ボーカルの人とコラボレーションできたら嬉しいです。あと、最近は、「Salamanda」(韓国のエレクトロニックデュオ、アンビエントの作品も発表している)の曲にはまっているので、そのうちコラボレーションできたらいいですね。


Music Tribune: いよいよ『Lots of Question』が11月2日に発売されました。ずばり手応えはいかがでしょうか?? アルバムの収録曲の中で、これだけはチェックしておいて欲しいという注目の一曲を教えてください。


Tetsumasa:  手応えは今までで1番良い感じがしてます。EPのタイトルにもなっている2曲目「Lots of Question」が関係者から良いと言ってもらえることが多く、フックになっている気がしています。自分的には、1曲目の「Moment In Berlin」が自分らしい世界観が最も出せたし好きですね。タイトル、曲の雰囲気、MV、全てが合致したと思える作品になったので、是非、MVも見てほしいです!!

 

 

Music Tribune: 今後、ミュージシャン(プロデューサー)としてどういうふうになりたいか、こういった音楽を作っていきたい等の展望をお持ちであれば、教えてください。

 


Tetsumasa: 今後の展望は、次のEPも既に制作中で近々リリースできると思います。しばらくは今回の"Lots Of Questions”のような方向性の音楽のリリースを続けようと今のところ考えてます。でも僕はよく気が変わるのでどうなるかわからないですけどね。DJやライブセットも積極的に色々な場所でやっていきたいです。



インタビューをお受けいただき、厚く御礼申し上げます。 今後のさらなる活躍に期待しております。

 


 

 

Tetsumasaの新作EP「Lots Of Questions』は11月2日より発売中です。ストリーミングとご購入はこちらから。

 

 

「Moment In Berlin」 MV

 

 

「Lots Of Questions」 MV

 

Sen Morimoto


セン・モリモトはこれまでに2枚のアルバムをリリースし、Pitchfork、KEXP、FADER、Viceなどのメディアから高い評価を得ている。


シカゴの緊密で多作なDIYシーンの著名なメンバーであるセンが、初めてプロのスタジオで制作したのが、「If The Answer Isn't Love」だった。 シカゴのFriends Of Friendsレコーディング・スタジオで作業し、曲の肉付けに彼のコミュニティのメンバーを起用したこの曲は、ブロック・メンデがエンジニアを務め、ライアン・パーソンがドラム、マイケル・カンテラがベース、KAINAがバッキング・ヴォーカルを担当した。

 

センは高校卒業後、荷物をまとめてニューイングランドからシカゴに移り住み、その後数年間、シカゴの音楽シーン全体と深い関係を築きながら、ジャンルの垣根を越え、その間に橋を架けていった。昼はレストランで皿洗いをし、夜はプロデュースの腕を磨いたセン。エキサイティングな彼の音楽はほどなくシカゴで知られるようになった。

 

音楽的なつながりを求める彼はやがて、共同制作者であるNNAMDÏとグレン・カランが設立した地元のレーベル、スーパー・レコードに共同経営者として参加することになった。この小さなレーベルは、ジャンルにとらわれないレコードをリリースし、シカゴのミュージシャン・コミュニティから国際的なステージに立つアーティストを輩出したことで、瞬く間にシカゴで有名に。

 

デビュー・アルバム『キャノンボール!』と2枚目のセルフタイトル・アルバムをスーパー・レコードからリリースし、これをきっかけに彼はアメリカ、カナダ、日本、ヨーロッパをツアーする生活に突入。センとスーパーは現在、3枚目のアルバムの制作のため、彼自身が尊敬してやまないシティ・スラングと素晴らしいチームを組んでいる。

 

 

 『Diagnosis』 City Slang


 

 

今から数ヶ月前、ある見知らぬ日本人ミュージシャンがCity Slangと契約を交わしたとの知らせが飛び込んできた。以前、アトランタのMckinly Dicksonの最新作を週末に紹介したこともあり、数ヶ月を経てより興味を駆り立てられた。複数のシングルの中において、弟である裕也さんが手掛けたというミュージックビデオもこのアーティストに対する興味を募らせる要因ともなった。

 

日本出身で、現在、米国を拠点に活動するセン・モリモトの音楽は、シカゴのミュージックシーンの多彩さを色濃く反映している。コレクティヴのような形でライブを行うこともあるアーティストの音楽の中には、彼が知りうる以上の音楽が詰め込まれているのかもしれない。ワシントンという地区では、ギャングスタのラップが流行ったこともあったし、彼が親交を深めているというNNAMDÏのジャズからの影響は、このアルバムの最高の魅力といえるかもしれない。

 

「差し迫った気候災害、戦争、終わりのない病気に直面すると、何が残るのか、何がそのすべてを価値あるものにしたのかを考え始めるのは自然なことです」「私の音楽のサウンドも、同じような緊急性を反映させたいのです。楽器の音はビートの上でゆらめき、そして飛び散り、メロディーはもつれ、矛盾しています。この曲は、愛の不朽の力と、危機に陥ったときにその気持ちにしがみつくことの葛藤について書いたんだ」

 

アルバムのオープニングを飾る「If The Answer Isn't Love」では、ジャズ、ファンクの影響を巧みに取り入れ、それを爽快感のあるロックへと昇華している。インディーロックと言わないのは普遍性があるから。リズムのハネを意識したボーカルはフロウに近い質感を帯びている。しかし、曲において対比的に導入されるソウルフルなコーラスがメロウな空気感を作り出す。制作者に触発を与えたNNAMDÏの既存の枠組みにとらわれない自由奔放な音楽性も今一つの魅力として加わっている。それらが幻惑的なボーカルとローファイの質感を前面に押し出したプロダクションの構成と組み合わされ、親しみやすさとアヴァン性を兼ね備えたナンバーが生み出された。先行シングルとして公開された「Bad State」は、オープニングよりもファンクからの影響が強く、巧みなシンコペーションを駆使し、前のめりな感じを生み出している。聴き方によっては、Eagles、Doobie Brothersのようなウェストコーストサウンドを吸収し、微細なドラムフィルを導入し、シカゴのドリル的なリズムの効果を生み出している。以前、シカゴで靴がかっこいいというのをそう称したように「ドリルな」ナンバーとして楽しめる。また、アーティストの弟の裕也さんが撮影したというミュージックビデオも同様にドリルとしか言いようがない。 

 

「Bad State」

 

 

「St. Peter Blind」は、アブストラクトヒップホップとネオソウルの中間にあるトラックといえるか。と同時に、ジャズのメロウな雰囲気にも充ちている。さらに無数のクロスオーバーがなされているものと思われるが、 前衛的なビートを交え、ゴスペルを次世代の音楽へと進化させている。もしくは、これはラップやジャズ、ファンクを網羅した2020年代のクリスマスソングのニュートレンドなのかもしれない。たとえ、JPEGMAFIA、Danny Brownが書くヒップホップのようにリズムがアブストラクトの範疇にあり、相当構成が複雑なものであるとしても、ほのかな温かみを失うことがなく、爽快感すら感じられる。また、リリックとして歌われるかは別として、アーティストのブラック・ミュージックへの愛着が良質なウェイブを生み出している。


タイトル曲「Diagnosis」は、ラップのフロウをオルト・ロックの側面から解釈している、曲にあるラテン的なノリに加えて、メロディー性に重きを置いたモリモトのボーカルは、プエルトリコのBad Bunnyのようなパブリーな質感を生み出す瞬間もある。しかし、一見するとキャッチーさを追求したトラックの最中にあって、妙な重みと深みがある。これがアンビバレントな効果を生み出し、さながら人種や文化の複雑さを反映しているかのようなのだ。

 

続いてアルバム発売前の最後に公開された「Pressure On The Pulse」は周囲にある混沌を理解することにテーマが縁取られている。「静かな面は、なぜ、世界はこんなにも残酷なんだろう、その答えを本当に聞いて理解できるのかと問いかけている。また、その反対に、答えがまったく得られないという場合、どうすれば前に進み続けることができるかについても考えている」とプレスリリースで紹介されているシングルは、イントロのネオソウル風のメロウな感覚からポスト・ロックに転じていく。この切り替えというべきか、大きく飛躍する展開力にこそアーティストの最大の魅力があり、それはNinja Tuneに所属するノルウェーのJaga Jazzistのようなジャズとロックとエレクトロの融合という面で最大のハイライトを形成し、その山場を越えた後、イントロのように一瞬の間、静寂が訪れた後、一挙に大きくジャンプするかのように、ポップ・バンガーへと変化していく。ライブで聴くと、最高に盛り上がれそうな劇的なトラックだ。

 

「Naive」はアルバムの全体的な収録曲がモダンな音楽性に焦点が絞られているのに対して、この曲はジャック・ジャクソンのようなヨットロックやフォークへ親しみがしめされているように思える。アルバムのタイトルに見られるナイーヴ性は、ギターの繊細なハーモニーの中で展開されている。しかし、こういった古典的な音楽性を選択しようとも、その音楽的な印象が旧来のカタログに埋もれることはない。もちろん、セン・モリモトのボーカルは、ボサノバのように軽やかかつ穏やかで、ギターのシンプルと演奏の弾き語りは、おしゃれな感覚を生み出している。続く「What You Say」はNNAMDÏの多彩な音楽性を思わせるものがあり、ギターアンビエントをベースに前衛的なトラックが生み出されている。曲の中でたえず音楽性が移り変わっていき、後半ではファンカデリックに象徴されるようなクロスオーバー性の真骨頂を見出す事もできる。 

 

「Naive」

 

 

「Surrender」ではシカゴ・ドリルの複雑なリズム性を織り交ぜた新鮮なポスト・ロック/プログレッシヴ・ロックを追求している。タイトルのフレーズを元に、トラックの構成におけるマキシマムとミニマルの両視点がカメラワークのように切り替わる瞬間は劇的であり、本作のハイライトとも称せるかもしれない。さらに、本作に伏在する音楽的な要素ーーサイケロックと綿密にそれらのアブストラクトな曲の構成が組み合わされることによって、このアーティストしか持ち得ない、そして他の誰にも売り渡すことが出来ない人間的な本質へと繋がっていく。しかし、それは最初からオリジナリティを得ようとするのではなく、他の考えを咀嚼した後に苦心惨憺してファイトをしながら最終的なゴールへとたどり着く。


「Deeper」は、知りうる限りでは、最もアーティストらしさが出た一曲といえ、サクスフォンの演奏がメロウなムード感を誘い、ローファイ・ホップの範疇にある安らぎとクランチな感覚を兼ね備えたトラックへと導かれていく。偉大なジャズ・ギタリストであるウェス・モンゴメリーを思わせるセンス抜群のギターの瞬間的なフレーズを交え、適度なブレイクを間に挟みながら最終的には変拍子によるネオソウルという答えに導かれていく。

 

「Pain」では、ザ・ビートルズのジョン・レノンが好んだような和らいだ開放的なフレーズを駆使し、スペインのフラメンコ/アーバン・フラメンコの旋律性をかけあわせ、それをやはりこのアルバムの一つのテーマともなっているリズミカルなトラックとしてアウトプットしている。曲のベースに関しては古典的な要素もありながら、やはりこのアーティストやバンドらしい変拍子や劇的な展開力を交え、モダンなポップスとして昇華しているのが素晴らしいと思う。アルバムの最後は、「Forsythia」ではモダンなインディーフォークで空気感を落ち着かせた後、MTV時代のジャクソンのように華麗なダンス・ポップがラストトラックとして収録されている。 

 

「Reality」は、ミュージカル的なクローズ曲で、ネオソウル、ファンク、ジャズ、ラップというSen Morimotoというアーティストの持つ多彩な感覚が織り交ぜられている。しかし、この曲にもアルバム序盤とは正反対のクラシカルなポップスに対する親しみが示され、それは今は亡きジョン・レノンのソングライティングを思わせるものがある。もちろん、このアルバムには英国のサウスロンドンのアーティストと同様に、米国中西部のカルチャーの奥深さが反映されているように思える。



88/100

 

©︎Mark Seliger

シェリル・クロウがニューアルバムの制作を発表した。『Evolution』は3月29日にリリースされ、彼女が『The Tonight Show Starring Jimmy Fallon』で初披露した新曲「Alarm Clock」は本日リリースされる。


2019年の『Threads』に続くこの作品は、マイク・エリゾンド(ドクター・ドレー、マルーン5、キース・アーバン)がプロデュースした。"今はストリーミングですべてが曲中心になっており、アルバムを作るのは大きな努力だ "とクロウはプレス声明で語った。"マイクにデモを送り始めたんだけど、曲はどんどん溢れ出てきて、これがアルバムになるのは明らかだった"


「この音楽と歌詞は、静かな場所に座って、深い魂の場所から書いたものなんだ。「もうレコードは作らないと言ったし、意味がないと思っていた。でも、この音楽は私の魂から生まれた。そして、このレコードを聴いた人がそれを感じてくれることを願っている」


今夜(11月3日)、クロウはロックの殿堂入りを果たし、オリヴィア・ロドリゴとともに殿堂入りセレモニーを行う予定だ。


 


 Sheril Crow 『Evolution』



Label: Valory Music Group

Release: 2024/3/29




Tracklist:


1. Alarm Clock

2. Do It Again

3. Love Life

4. You Can’t Change the Weather

5. Evolution

6. Where?

7. Don’t Walk Away

8. Broken Record

9. Waiting in the Wings

Drop Nineteens 『Hard Light』

 


Label: Wharf Car Records

Release: 2023/11/3



ボストンの伝説的なシューゲイズバンド、Drop Nineteensは1993年以来新作から遠ざかっていた。92年の『Declare』をリリース後、一時的にメンバー内の均衡が変化し、グループという形態から離れざるをえなかった。


以後、95年までにバンドに残ったのはアッケルだけとなった。昨年、ほとんど30年もの歳月を経、再結成を発表し、そして、全米各地でのレコーディングに取りかかった。しかし、長年のブランクにより失われた感覚的な何かを取り戻すことは容易ではなかった。Drop Nineteensの音楽は、現代の最新鋭のものではないし、流行の先を行くようなバンドではないことは明白だった。


しかしながら、結局のところ、彼らが再び、Drop Nineteensとして立ち上がり、新しい作品の制作に着手し、失われていたバンドの核心となる音楽を追求し、友人としての絆を深めるように促したのは、Merge Recordsに所属するThe Clienteleだった。懐かしさと新しさが混在する陶酔感のあるインディーロックの音楽性は、Drop Nineteensに力を与え、そして早足ではないものの、前に向けて歩き出すことを促した。

 

ドロップ・ナインティーンズのフロントパードンであるアッケルが強い触発を受けたと語る、The Beatles、The Clientele、 LCD Soundsystem。一見したところ、共通項を見出すことが難しいように思える。けれど、表向きにアウトプットされる音楽こそ違えど、普遍的な音楽を探求するというテーゼがある。


現代に染まらないサウンド。時代という観念を遠ざけるサウンド。音楽の中にとどまらせることを約束するサウンド。誇大広告がなされる現代の音楽業界の渦中にあり、それとは正反対に位置づけられる音楽に対して深い信頼感を覚えるリスナーもいることを忘れてはいけない。アッケルもまたそのひとりなのであり、「クライアンテレがただレコードを作ってくれるなら、私はそれだけで生きていけると考えていた、あるいはビートルズかもしれない。私はそれを永遠に聴き続けることだろう」と語っている。


無限に細分化していき、音楽そのものが消費されるための商品として見なされる風潮の中、ボストンの5人組は普遍的な音楽とは何なのかを探しもとめることになった。アッケルの言葉によれば、「永遠に聴き続けられる」音楽とは何なのかということである、およそ30年の歳月を経て発売された『Hard Light』の中には、その答えが全般的に示されている。アルバムの音楽には、ビートルズのようなアート・ロックを下地にしたポップネスもあるし、クライアンテレの最初期の60年代志向のレトロなロック、ブリット・ポップ、ネオ・アコースティック、そしてシューゲイズ/ドリーム・ポップのアプローチがほとんどダイヤモンドのように散りばめられている。

 

アルバムのオープニングを飾るタイトル曲「Hard Light」は、Drop Nineteensが直接的な影響を受けたと語る、MBV、Jesus&Mary Chains の系譜に属するネオ・アコースティックとギターロック、ドリーム・ポップの中間にある方向性を選んでいる。アイルランド/ウェールズの80年代のギターロックをベースにし、この時代の音楽に内包されるレトロな感覚や陶酔的な雰囲気を繊細なギターラインによって再現しようとしている。90年代のシューゲイズの登場前夜のプリミティヴなドリーム・ポップやシューゲイズの音楽性から滲み出るエモーションは、二人のボーカリスト、アッケルとケリーの声の融合性によってもたらされる。

 

Drop Nineteensが戻び制作に取り掛かることは、既に誰かがやっていることを後から擬えるのとは意味が異なっていた。ほとんど前例のないことであり、彼らは、電話で連絡を取りあった後、ほとんど制作前には曲を用意していなかったという。しかし、それは良い効果を与え、新しい学びや経験の機会をもたらした。「Scapa Flow」は、80、90年代のギターロック/ネオ・アコースティックの影響を取り入れ、よりモダンでダイナミックなシューゲイズ・サウンドへと進化させている。しかし、その中にはやはりノスタルジアが滲み、内省的な感覚とレトロな雰囲気を生み出し、アッケルの親しみやすいボーカルがディストーションの轟音と合致している。

 

続く「Gal」は、シンセサイザーの反復的なマシンビートを元にし、瞑想的な雰囲気のあるインディーロックとディケイサウンドが展開される。表向きには70年代のポスト・パンクや最初期のドイツ時代のMBVに象徴されるシューゲイズの原始的な響きを留めているが、アッケルのボーカルは、どことなくYo La Tengoのアイラ・カプランの声の持つ柔和な響きに近い雰囲気が漂う。ギターロック、ネオアコ、ドリーム・ポップ、シューゲイズをクロスオーバーし、アンサンブルの核心となるUSのオルタナティヴ性を捉えようとしているといえるかもしれない。これらの複数のサウンドの合致は、どちらかといえば和らいだ響きを作り出し、さらに曲の後半では、シネマティックなストリングスが導入されることで、曲に漂う感情性を巧みに引き出している。

 


 

 

続く「Tarantula」は、 スコットランドのネオ・アコースティックやアノラックの要素を受け継いだ上で、ビートルズのポップセンスの影響を取り入れ、懐古的な音楽性を探求している。シューゲイズサウンドとともにボーカルのコーラスワークの秀逸さが光る。そのメロディーは、ウェールズのYoung Marble Giants等に象徴される奇妙な孤独感や切なさが漂っている。さらに「The Price Was High」では、ボーカルが入れ替わり、ドリーム・ポップに近い音楽性に転じる。彼らのルーツであるMTV時代のサウンドを受け継ぎ、それをシューゲイズとして解釈しているようだ。ポーラ・ケリーのボーカルは、このトラックにわずかながらのペーソスを添えている。

 

「Rose With Smoke」は「Gal」と同様に、MBVの2ndアルバム『Isn’t Anything』に見出された ディケイサウンドの復刻が見受けられる。ギターのトーンの独特の畝りは聞き手の感覚に直に伝わり、切なさや陶酔的な感覚を呼び覚ます。シューゲイズバンドをやっているプレイヤーはかなり参考になる点が多いと思われる。30年もの長い試行の末にたどり着いた究極のサウンドである。


 

 

 

続く「A Hitch」では、The Clientele、The Beatlesに対するリスペクトが示されている。レトロなオルトロックサウンドをローファイ寄りのサウンドで処理し、安江のシューゲイズギターが炸裂し、劇的なハイライトを作る。他方、アッケルのボーカルは気安い感覚を生み出し、レトロな感覚を擁し、リスナーを淡いノスタルジアの中に招き入れる。曲の展開の中では、80、90年代のブリット・ポップやネオ・アコースティック風のサウンドへと鞍替えをする瞬間もある。


多少、これらのサウンドは時代に埋もれかけているような気もするが、アッケルのソングライティングの才質とドロップ・ナインティーンズの潤沢な経験によるバンドアンサンブルは、シューゲイズの一瞬のキラメキのような瞬間を生み出す。ビートルズのデモ・トラックのようなローファイ感のある「Lookout」。


その後に続く「Another on Another」では、ドロップ・ナインティーンズのサウンドの真髄が示され、「Policeman Getting Lost」では再びポーラ・ケリーが牧歌的なフォークの音楽性を示す。クローズ「T」では、The Clienteleのフォロワーであることを示し、ローファイと幻惑的な雰囲気を兼ね備えたサウンドでアルバムを締めくくっている。


 


80/100

 

 

「Scapa Flow」






今年、ゲフィン・レコードから2ndアルバムを発表した米国のシンガーソングライター、Olivia Rodrigo(オリヴィア・ロドリゴ)がニューシングル「Can't Catch Me Now」を発表した。2ndアルバムの収録曲のイメージとは裏腹に、内省的なフォークミュージックへと転じた。


「Can't Catch Me Now」は、映画が公開される11月17日にリリースされる17曲入りのサウンドトラック『The Ballad of Songbirds & Snakes Soundtrack』のオープニングとして収録されている。

 

このアルバムには、レイチェル・ツェグラー、モリー・タトル、ビリー・ストリングス、シエラ・フェレル、フラットランド・キャバルリー、ベラ・ホワイト、チャールズ・ウェズリー・ゴドウィンの新曲も収録されている。


この曲は彼女のセカンド・アルバム「GUTS」のリリースに続き、来年5月にはレミ・ウルフがサポートするUKツアーが予定されている。この曲は最新の予告編にも登場しており、以下でチェックできる。



 

Mckinly Dickson ©City Slang

 

今年6月にCity Slangから『Beloved! Paradise! Jazz!?』をリリースした後、現在、シカゴを拠点に活動するラッパー、McKinly Dickson(マッキンリー・ディクソン)は、ヒット・シングル「Run Run Run」で、同じアメリカ出身のラッパー、ブルーをコラボレーションに招いた。この作品はオリジナル・バージョンと合わせて2曲収録EPとして発売中である。ストリーミングはこちら



マッキンリーとブルーはともに、リリックの深みとパワフルな表現で知られている。このコンビはオリジナル・トラックの陽気でありながら物悲しい衝動と完璧にマッチしている。オリジナル・トラックの楽しげでありながら地味な緊迫感にぴったりであり、ニューシングルの発売についてもマッキンリーが11月2日にイギリスとヨーロッパで公演を行う前の絶好のタイミングとなった。



このコラボレーションシングルについて、マッキンリー・ディクソンは次のように語っている。

 

”Below The Heavens”は私の人生において極めて重要なポイントだったんだ。ラップ・ミュージックが表現方法として使えることを発見した瞬間だった!

 

あれから何年も経って、Bluが僕の曲でハングリーなサウンドを聴かせてくれるなんて光栄だよ。聴かせてくれたことを光栄に思う。



John Tejada 『Resound』

 

 

Label: Palette Recordings

Release: 2023/11/3

 

Review

 

オーストリア出身で、現在ロサンゼルスを拠点に活動するジョン・テハダ。もはや、この周辺のシーンに詳しい方であればご存知だろうし、テック・ハウスの重鎮と言えるだろうか。テクノ的なサウンド処理をするが、ハウス特有の分厚いベースラインが特徴である。もちろん、ジョン・テハダのトラックメイクは、ダンスフロアのリアルな鳴りを意識しているのは瞭然であるが、アルバムの中にはいつも非常に内的な静けさを内包させたIDMのトラックが収録されている。さらに、数学的な要素が散りばめられ、理知的な曲の構成を組み上げることで知られている。近年のジョン・テハダの注目曲を挙げておくと、「Father and Fainter」、「Reminische」等がある。 



今年既に3作目となる『Resound』はテハダ自身がこれまで手掛けてきた音楽や映画からインスピレーションを得ている。クラシックなアナログのドラムマシンとフィードバック、そしてノイジーなディレイによるテクスチャを基盤として、テハダは元ある素材を引き伸ばしたり、曲げたり、歪ませたりしてトーンに変容をもたらす。さらにはシンセを通じてギターのような音色を作り出し、テックハウスの先にあるロック・ミュージックに近いウェイブを作り出すこともある。

 

「Simulacrum」は、テハダの音楽性の一貫を担うデトロイトテクノのフィードバックである。さらに、Tychoが近年、ダンスミュージックをロックやポップス的に解釈するのと同じように、テハダもロック的なスケールの進行を交え、ロックに近いフレーバーを生み出していることがわかる。ただ、複雑なEDMの要素を散りばめたダンスビートの底流には、CLARKのデビュー作で見受けられたロック的な音響性や、ダンスミュージックの傑作『Turning Dragon』でのゴアトランスの要素が内包されているように思える。これらのベテランプロデューサーらしい深い見地に基づくリズムの運行は、ループサウンドを徐々に変化させていくという形式を取りながらも、より奥深い領域へとリスナーを導いてゆく。ダンスフロアでの多幸感、それとは対極にある冷静な感覚が見事に合致した、ジョン・テハダの代名詞的なサウンドとして楽しめる。

 

 続く「Someday」では、Authecre(オウテカ)の抽象的なビートと繊細なメロディーを融合させている。ベースラインを元にしたリズムに、Tychoのようなギターロックの要素を加味することにより、一定の構造の中に変容と動きをもたらしている。その中には、Aphex Twinの「Film」に見受けられるような内省的な感覚が含まれているかと思えば、それとは対極に、ダブステップのしなやかなリズムが強固なコントラストを形成している。その後、ノイジーなテクスチャーが音像の持つ空間性をダイナミックに押し広げ、その中にグリッチテクノで使用されるようなシンプルかつレトロなシンセリードが加わる。リズム的には大げさな誇張がなされることはないにせよ、入れ子構造のような重層的なリズムが建築さながらに積み上げられていき、しなやかなグルーブを生み出す。曲のクライマックスでは、ノイジーなテクスチャーに加えて崇高な感覚のあるシークエンスを組み合わせることで、シネマティックな効果を及ぼしている。

 

 

三曲目の「Disease of Image」はテックハウスの代名詞的なサウンドといえるかもしれない。ループサウンドを元に、複数のトラック要素を付け加えたり、それとは反対に減らしながら、メリハリのあるダンストラックを制作している。特にリズム、メロディー、テクスチャーの3つの要素をどこで増やし、どこで減らすのか。細心の注意を払うことによって、非常に洗練されたサウンドが生み出されている。5分40秒のランタイムの中には音によるストーリー性や流れのようなものを感じ取ることもできる。アウトロに至った時、最初のループサウンドからは想像もできないような地点にたどり着く。こういった変奏の巧緻さも醍醐味のひとつ。

 

「Fight or Flight」ではテハダのバンド、オプトメトリーのパートナーであるマーチ・アドストラムがボーカルを担当している。ビートのクールさは言わずもがな、このボーカルがトラック自体に奇妙な清涼感を与えている。Massive Attackの黄金時代のサウンドを思わせる瞬間もある。こういったボーカルトラックが今後どのような形で集大成を迎えるのかを楽しみにしたい。

 

 次の「Centered」は、シンセの音色の選択と配置がかなりユニークな魅力を放つ。 反復的なビートはアシッド・ハウスのエグみのある幻惑の中に誘う。バスドラムのビートに対比的に導入されるシンセベースは色彩的な響きを生み出し、さらに続いてゴアトランスのような抽象的なサウンドへと行き着く。 テハダは、アルバムの序盤のトラックとおなじようにトーンシフターを駆使し、音響性に微妙な変化を与える。しかし、音の運びは、脇道にそれることは殆どなく、力学的なベクトルやエネルギーを、中心点に向け、的を射るかのように放射する。これが実際に表向きに鳴らされるサウンドに集中性を与え、音に内包される深層の領域に踏み入れることを促すのである。

 

「Trace Remnant」は、ダウンテンポのイントロからしなやかなテックハウスに展開していく。この曲でも従来のループ構造のトラック制作から離れ、より劇的な展開力のある曲構成へと転じており、ドラムに関してはロック的な効果が重視されている。これらはTychoが近年制作しているような「ポップスとしてのダンスミュージック」の醍醐味を味わえる。アルバムのクローズでも凄まじい才覚が迸る。「Different Mirror」は、TR-909によるドラムマシンのジャムである。しかし、アシッド・ハウスの核心をつく音楽的なアプローチの中には、アルバムの全般的なトラックと同様、遊び以上の何かが潜んでいることが分かる。

 

 

86/100

 


「Fight or Flight」