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METZ 『Up On Gravity Hill』 

 

 

 Label: Sub Pop

 Release: 2024/04/12

 

 

 Review

 

Metzは2012年のセルフタイトルで名物的なパンクバンドとしてカナダのシーンに登場した。サブ・ポップの古株といえ、ガレージロック、オルトロック、ポストパンク等をごった煮にしたサウンドで多くのリスナーを魅了してきた。『Up On The Gravity Hill』はデラックスアルバムを発表したからとはいえ、依然としてバンドが創造性を失ったわけではないことを表している。

 

シューゲイズ風の轟音ギターを絡めたオープニング「No Reservation/ Loves Comes Crashing」を聴けば分かる通り、本作は近未来のテイストを持つオルタナティブロックサウンドが展開される。

 

ボーカルのフレーズにはエモーショナルな雰囲気が漂い、バンドの年代としては珍しくエバーグリーンな空気感を作り出すことに成功している。その中に、UKの現行のポスト・パンクに類するオルタナネイトなスケール、ノイズ、不協和音が縦横無尽に散りばめられる。もちろん、バンドがそういったサウンドを志向していないのは瞭然であるが、抽象的なギターのフレージングと合わせて、オルト・ロックの無限のサイケデリアに誘う。少なくともこのオープニングは、本作のリスニングに際して、相応に良いイメージを与えるものと思われる。

 

同じく、エモとまではいかないけれども、「Entwined(Street Light Buzz)」においてオルタナティヴの源流を形作るカレッジロックやグランジの魅力を再訪し、上記のオープナーと同じように、トライトーンを用いたスケール、ノイズ、協和音の中に織り交ぜられる不協和音という形で痛快なインディーロックを展開させる。また、Nirvanaの「Love Buzz」のクリス・ノヴォセリックに対するオマージュが含まれていて、それはオーバードライブを掛けたベースラインという形で、この曲にパンチとフックをもたらす。上記の2曲は、道標のないオルタナの無限の砂漠に迷い込んだリスナーにとってオアシスのような意味を持つ。また、この曲には、わずかにメタリックな香りが漂い、それは80年代後半のグランジロックがヘヴィメタルの後に始まった音楽であることを思い出させる。Mother Love Bone、Green Riverあたりが好きなリスナーにとってはストライクとなるだろう。


グランジサウンドに舵をとったかと思えば、ジョン・ライドン擁するP.I.Lのような70年代後半のニューウェイブサウンドが繰り広げられる場合もある。「Superior Mirage」は、P.I.LやDEVO、Talking Headsが実践したように、テクノサウンドとパンクサウンドの融合というポストパンクの原点に立ち帰っている。問題は、IDLESのような圧倒的な説得力があるわけではなく、サウンドがやや曇りがちになっている。「Would Tight」では、パール・ジャムを思わせるUSロックとグランジの融合に重点を置いているが、この曲もセルフタイトルアルバムのような精細感に乏しい。数時間放置した炭酸の抜けたコーラのような感じで、ちょっとだけ物足りなさを覚えてしまう。

 

ただ、METZのメンバーが新しいカタチの''ポスト・オルト''とも称すべき実験的なサウンドをアルバムで追求していることは注目しておくべきだろう。例えば「Never Still Again」ではギターサウンドの核心にポイントを置き、変則的なチューニングを交えながら、オルタナティヴに新風を吹き込もうと試みる。アルバムのクローズ「Light Your Way Home」ではカナダのミュージックシーンを象徴づけるポストシューゲイズサウンドに挑む。これらはMetzによる、Softcult、Bodywashといったカナダのミュージックシーンの新星に捧げられたさり気ないリスペクトなのかもしれない。




75/100

 

 

「No Reservation/ Loves Comes Crashing」

 

R.E.M


・カレッジロックの原点 ジョージアの大学のラジオ局

 

カレッジロックとは1980年代にアメリカやカナダで発生したカルチャーを意味する。明確な音楽的な特徴こそ存在しないが、大学のキャンバスの中にあるラジオ局でオンエアされたロックである。

 

このジャンルは90年代のオルトロックのブームへの流れを作った。カレッジロックは、マサチューセッツ、ミネソタ、ジョージア等がカレッジロックのシーンの出発点に挙げられる。最も最初の原点を辿ると、ローリング・ストーンが指摘しているジョージア州のアテネの大学ラジオ局に求められる。これらのラジオ局では、Sonic Youth等、ニューヨークのプロトパンクバンドの楽曲もオンエアされたが、 特にミネソタのバンドを中心にそれまで脚光を浴びてこなかった地域の魅力的なバンドをプッシュする効果があった。

 

カレッジロックは、実際に大学の寮のパーティー等で学生の間で親しまれることになったが、特にコマーシャリズムや商業主義に反する音楽を紹介する傾向にあった。特にインディペンデントでの活動を行うバンドを中心にプッシュすることが多かった。これは後に、リプレイスメンツやスミス等がメジャーレーベルからリリースを行うようになると、当初のインディーズのスノビズムの意義は薄れていくことになる。特に、R.E.M、リプレイスメンツやスミスは、ヒットチャートで上位を獲得したことがあるため、インディーズバンドというにはあまりにも有名すぎるのである。


現時点から見ると、インディーズミュージックというのは一昔前に比べると、本来の意義を失っているのは事実である。というのも、90年代以前にはインディーズレーベルが米国にはほとんど存在せず、カレッジラジオの曲のオンエアがレーベルの紹介やリリースの代役を果たしていたからである。そもそも、カレッジロックでオンエアされる音楽がすべて現在のストリーミングのように、リスナーが簡単に入手出来るとも限らなかったはずである。そこで、カレッジロックは、次世代の音楽シーンの橋渡しのような役割を担った。そして、この動きに続いて、サブ・ポップがシングル・コレクション(今も現役)等を通じて、アンダーグラウンドのバンドを紹介し、のちの世代のグランジやオルトロックへと繋がっていく。

 


・カレッジロックはオルトロックの原点なのか?

 

もしカレッジロックが一般的に大学生や若い世代に普及していなければ、その後の90年代のオルタナやミクスチャーロックは存在しなかったはずである。なぜなら、このラジオ曲のオンエアの中にはニルヴァーナやRHCP(マザーズ・ミルク等)の最初期の音楽もオンエアされていたからである。


当時、ラジオ曲を聴いたり、学生寮のパーティー等でこれらの音楽を自然に聴いていた学生が数年後、音楽を始め、それらのムーブメントを担っていったと考えるのが妥当である。また反商業主義的な音楽の宣伝と同時に、このカレッジロックというジャンルには何らかの音楽的な共通項がある。

 

演奏が上手いとは言えないが、ザラザラとしたギター、ときにエモの原点となる音楽的な叙情性、粗野なボーカル、そして音質こそ良くないが、純粋なエネルギーがこもっているということ。これらの長所と短所を兼ね備えたロックは、当時の若者の心を奮い立たせる効果があったかもしれない。そして、演奏がベテランバンドのように上手くなかったことも、当時のティーンネイジャー等に大きな触発を与えたものと思われる。そこには専門性の欠落という瑕疵こそあれ、これだったら自分でも演奏できるかもしれない、と思わせることはかなり重要だったのである。

 

カレッジ・ロックは1980年代からおよそ数年間でそのムーブメントの役割を終える。ある意味、オルト・ロックに飲み込まれていったのである。厳密に言えば、カレッジ・ロックが終わったのは92年で、これはその代表的なバンドのR.E.Mが商業的な成功を収めはじめ、ほとんどシアトルのバンドがメインストリームに引き上げられた年代と時を同じくしている。これらの対抗勢力として、アンダーグランドでは、スロウコアやオルトフォークがミレニアムの時代に向けての醸成期間を形成する。最初のオルトフォークの立役者は間違いなくエリオット・スミスである。

 

1992年以降、カレッジ・ロックが以前のような影響力を失い、宣伝力や求心力を急速に失った要因としては、アメリカのNPRなど次世代のラジオメディアが台頭し、前の世代のカレッジ・ラジオの文化観を塗り替えたことが要因に挙げられる。90年代の後半になると、依然として大学のラジオの影響下にあるインディーズバンドは数多く台頭し、その一派は、パンクという形で、または、エモという形で、これらのUSオルトを受け継いでいく。カレッジ・ロックは、インターネットの一般普及により、デジタルカルチャーの一貫として組み込まれることになる。


その後のインターネットの普及により、2000年前後からブログメディアが誕生し、かつてのカレッジ・ラジオのような影響力を持つに至る。それらが一般的となり、デジタルに勝機があるとみるや、それを大手企業のメディアも追従するという構図が作られた。以後の時代の音楽文化の宣伝はSNSやソーシャルという形に変わるが、以降の20年間は、その延長線上にあると言っても過言ではなく、それらの基礎はすべて90年代後半から00年代初頭にかけて構築されていった。

 

 


・カレッジロックの代表的なバンドとその音楽



・R.E.M

 



 

R.E.M.(アール・イー・エム)は、カレッジ・ロックの象徴的なバンドで大きな成功を収めた。米国、ジョージア州アセンズ出身のロック・バンド。1980年結成。2011年9月21日解散。バンド名はレム睡眠時の眼球運動(Rapid Eye Movement)に由来すると言われているが、本人らは明言しておらず諸説ある。

 

アメリカのインディ・レーベルIRSよりデビュー。6枚目のアルバム『グリーン』よりワーナーへと移籍。以後、現在に至るまでオルタナティブ・ロックの代表的なバンドの一つとして活動を続けている。


高い音楽性、歌詞にこめられたメッセージ性から「世界で最も重要なロックバンド」と称されることもある。デビュー当時は4人組のバンドだったが、1997年にドラムのビル・ベリーが健康上の理由により脱退。以後はメンバーを追加することなく3人で活動している。 2007年、ロックの殿堂入りを果たした。

 

 

 


・Sonic Youth

 



写真が大学生っぽいのは置いておくが、ソニック・ユース (Sonic Youth) は1981年に結成されたニューヨーク出身のバンド。1970年代後半から活動を開始する。現代音楽家グレン・ブランカが主宰するギター・オーケストレーションのグループでサーストン・ムーアとリー・ラナルドが出会いサーストンの彼女のキムを誘いソニックユースの原型が誕生した。ごく初期の数年間、ドラムにはあまり恵まれず、実力不足で何回か交代している。

 

グループ名は元MC5のギタリスト、フレッド “ソニック” スミス(パティ・スミスの亡き夫)が好きだったのと、サーストンが好きなレゲエのアーティストに”ユース”という言葉の付いた者が多かったので思いついた名前。本人曰くあまり意味は無いらしい。バンド名を変えてアルバムを出すことも多かったことから、それほどバンド名に執着は無い様子でもある。


ジャンルとしてはノイズロック、グランジ、オルタナに分類される。サーストン・ムーアは「エレキ・ギターを聞くということはノイズを聞くこと」との持論があり、ギターノイズだけの曲、リーディング・ポエトリーのような曲、実験的な曲も多い。自分でオリジナルのコードや変則的チューニングを考えたこともある。


当初、アメリカで人気が出ず、当時ニューウェイブが全盛期だったイギリスを始めとするヨーロッパで評価された。長年インディーズ・レーベルで活動。しかしアルバム「デイドリーム・ネイション」が傑作と評されメジャーへの足がかりとなる。自分たちがメジャーシーンに移行することでオルタナ全体の過小評価を上げたいとの思いが強かった。しかし「無冠の帝王」などと揶揄されることもあり、売れることより実験性を重んじるようなところがある。


メンバーであるスティーブ・シェリーは自主レーベル、スメルズ・ライク・レコードを運営するなどアンダー・グラウンドへ目を向け有能なアーティストをオーバー・グラウンドへ紹介することもあり「ソニック・ユースがお気に入りにあげている」といった冠詞はよく目にするものである。ニルヴァーナやダイナソーJr.といったバンドもソニック・ユースに見初められたバンドである。

 

 

 

 

 

・Husker Du(-Sugar)

 



 

Hüsker Dü(ハスカー・ドゥ)は、1979年アメリカ・ミネアポリスで結成されたハードコアバンド。Germs、Black Flag,X、Misfitsと並んで、USパンク/ハードコアの最重要バンドである。のちのALL、Discendentsを始めとするカルフォルニアのパンクの一部を形成している。

 

オルタナティヴ・シーンに強い影響を与えた最重要バンドとして知られる。バンド名はスウェーデンのボード・ゲームから。81年、地元で行われたライブ音源をCD化したアルバム『ランド・スピード・レコード(Land Speed Record)』でデビュー。

 

ロサンゼルス以外の北米パンク/ハードコアを吸収し、UKテイストをミックスしたサウンドである。初期の彼らはこういったカラーが濃く、とにかく「速い・やかましい・短い」の強行突破ぶりを見せつけていた。その後、激しい演奏にとことん美しいメロディと非反逆的な歌詞を乗せるという「脱・ハードコア」スタイルにシフト・チェンジする。楽曲の数々は、爆発と沈降を繰り返しながら、オーディエンスの支持を増やしていった。

 

だが、バンドの中心人物であったボヴ・モウルド(vo&g)が、「勢いで燃え尽きてしまったバンド」と自ら語っている通り、 87年のアルバム『ウェアハウス:ソングス・アンド・ストーリーズ』を最後に(86年にメジャーに移籍したばかりだった)、彼らは活動にピリオドを打った。

 

その後、ボブ・モールドはソロを通過してシュガー(Sugar)を結成、グラント・ハート(vo&dr)もソロを経てノヴァ・モヴで活動している。ソロ転向後は、スタンダードなロックに転じ、メロディック性が強まり、モールドのソングライターとしての性質が強まった。

 

  

 



・The Replacements

 


 

リプレイスメンツはミネソタ州ミネアポリスのバンドで、ハスカー・ドゥとともに中西部の最初のミュージック・シーンの立役者である。その野生味のあるロックサウンドは現在もなお得意な煌めきを放つ。

 

当初は荒削りなハードコアパンクやガレージロックを主体としていたが、84年の『Let It Be』からスイング・ジャズやロックンロール等多彩なジャンルを織り交ぜるようになった。バンドの商業的な成功はゲフィンからリリースされた「Don’t Tell A Soul」で訪れる。


以後、フロントマンのポール・ウェスターバーグのソングライティング性を押し出すようになり、インディーフォークやカントリーなどを音楽性の中心に据えるようになった。91年の解散後、ポール・ウェスターバーグはソロアーティストとして、カントリー/フォークロックの象徴的なアーティストとして目されるようになった。

 

 

 

 

・Pixies (-Breeders,Amps)

 

旧ラインナップ

ピクシーズ(Pixies)は、1985年に結成されたアメリカ合衆国のロックバンドである。初期オルタナティブ・ロックシーンに活躍したバンドのひとつであり、乾いた轟音ギターにブラック・フランシスの絶叫ボーカルが重なったサウンドは、後のインディーズミュージシャンに影響を与えた。


バンド名は、ギターのジョーイ・サンティアゴが適当に辞書を引いたところが「pixies」だったため。このバンドの正式名称は "Pixies in Panoply"であり、略してPixiesと読んでいる。
ピクシーズに影響を受けたバンドは数多く、ニルヴァーナのカート・コバーン、U2のボノ、ウィーザー、ブラー、レディオヘッド、ストロークス、the pillows、ナンバーガールなどが挙げられる。特にカート・コバーンがピクシーズを崇拝していたのは有名な話で、ニルヴァーナの代表曲ともいえる「スメルズ・ライク・ティーンスピリット」は、カート・コバーンがピクシーズの曲("Debaser"とも"WhereIs My Mind?"とも言われる)をコピーしている時に出来た曲だといわれている。

 

ニルヴァーナやナンバーガールといったバンドの特徴でもある、AメロやBメロは静かに、そしてサビ部分で絶叫というボーカルスタイルは彼らが発祥である。1曲1曲は短く、2分もない曲も多い。




・Throwing Muses

 



Throwing Musesはニューポートのバンドで、現在のオルトロックの源流を形成している。

 

同じ高校の同級生であり、異父姉妹でもあるクリスティン・ハーシュとタニヤ・ドネリーを中心に結成された。当初のバンド名は「Kristin Hersh and the Muses」だったという。その後ベーシストにエレイン・アダムデス、ドラマーにベッカ・ブルーメンが加入するが1983年に脱退。新ベーシストにレスリー・ランストン、新ドラマーにデヴィッド・ナルシーゾが加入した。


1984年に自主レーベルよりEP『Stand Up』をリリースしデビュー。その後バンドはアメリカのバンドとして初めて4ADと契約する。1986年にギル・ノートンプロデュースのセルフタイトルの1stアルバムをリリース。続けて1988年に2ndアルバム『ハウス・トルネード』をサイアー・レコードからリリース。1989年に3rdアルバム『Hunkpapa』を発表後、1990年にベーシストのランストンが脱退。新しくフレッド・アボンが加入し4枚目のアルバム『リアル・ラモーナ』を1991年にリリースするが、ドネリーがブリーダーズでの活動に専念するため脱退。


1992年にバンドは新ベーシストのバーナード・ジョージズを迎え5枚目のアルバム『レッド・ヘヴン』をリリース。アルバムには元ハスカー・ドゥのボブ・モールドがデュエット参加している[1]。1994年にハーシュはソロ・アルバム『Hips and Makers』を発表した。1995年発表の6枚目のアルバム『ユニヴァーシティ』の内容はプレスから賞賛されるが売れ行きは思わしくなく、その後サイアーを解雇される。

 

1996年に7枚目のアルバム『リンボー』をライコディスクよりリリース。1997年にバンドは解散し、ハーシュはソロ活動を本格化させる2003年にバンドは再結成を発表、同時期に8枚目のアルバム『スローイング・ミュージズ』をリリース。タニヤ・ドネリーもコーラスで参加した。2013年に10年ぶり9枚目のアルバム『Purgatory / Paradise』を発表した。 






・Guided By Voices

 




オハイオ州デイトン市の中学教師だったRobert Pollard率いるGuided By Voicesは、レコーディングに着手して以来大量の音楽を産み出してきた。

 

「ローファイ」というレッテルを貼られたおかげで、彼らの音楽が売上を伸ばしたことは間違いないが、彼らがほとんどの作品を安い機材で録音してきたのは、趣味の問題であると同時に予算の制約があったからだ。メジャー・レーベルと協力関係にあるインディー・レーベルから作品を発表するようになってからも、彼らは一貫してこの「ローファイ」というコンセプトにこだわっている。彼らのようなアンダーグラウンドのはぐれ者にとって、メインストリームでの成功は価値がないようだ。Pollardはつねに、現実のロックスターであるより、彼の空想のなかでロックスターであることを選んできた。

 

『Box』というそっけないタイトルの5枚組ボックス CDは、彼らの初期の作品を収録している。しかし、ほとんどの曲は、焦点が定まっていない。『King Shit And The Golden Boys』と題された付録CDは未発表作品を集めたものだが、このカルトバンドの未発表曲を聴きたいと待ち焦がれていたファンがそれほど大勢いたのだろうか。


なんらかの意味でPollardがポップの高みに達したのは、'92年の『Propeller』からである。このアルバムの数曲は、暗闇の前方に'60年代のハーモニーとパワーポップへの圧倒的な愛情が垣間見える。彼らは(と言っても、正式メンバー以外につねに何人かの酔っ払いが群がっているようだ・・・)『Vampire On Titus』をリリースすべくScat Recordsと契約した。しかし、そのように認知されただけで、Pollardは動揺した。彼は再び、AMラジオの夢の国というお得意のコンセプトで曲を作り出した。

 

それ以後Guided By Voicesがリリースした数枚のアルバムは、'60年代ポップ世界の再構築に関心がある者にとって貴重である。全米ツアーでの、Pollardと仲間たちは、歌の合間にビールを飲んでいた。ライヴが2時間に及ぶ頃には、彼らはたいてい出来あがっていて、最後にPollardが観客からリクエスト曲を募ったり、その場で曲を作ったりしていた。'96年には、Pollardと(元)メンバーのTobin Sproutがそれぞれソロアルバムを発表。'97年、Pollardは、クリーヴランド出身のロッカーCobra Verdeを新メンバーに迎え、『Mag Earwhig!』をリリースした。バンドは昨年、最新アルバム『Nowhere To Go But Up』をリリースし、変わらぬ健在ぶりをみせた。

 

 

 

 

・Superchunk

 


        

1989年にノースカロライナ州チャペル・ヒルで結成されたスーパー・チャンクは、マック・マコーガン(ギター、ヴォーカル)、ジム・ウィルバー(ギター、バッキング・ヴォーカル)、ジョン・ウースター(ドラムス、バッキング・ヴォーカル)、ローラ・バランス(ベース、バッキング・ヴォーカル)の4人組。

 

1989年に最初の7インチをリリースして以来、スーパーシャンクは、初期のパンク・ロック・ストンプ、キャリア中期の洗練された傑作、瑞々しく冒険的なカーブボールなど、さまざまなマイルストーンアルバムを発表してきた。 

 

Superchunkはピクシーズとともに90年代以降のオルタナティヴロックに強い影響を及ぼしている。また2000年代以降のメロディック・パンクバンドにも影響を及ぼしたという指摘もある。彼らの音楽の中には、現在のアメリカーナ、パンク、そしてロック、ポップに至るまですべてが凝縮されている。


 

 

・Dinosaur Jr.

 


 

 

Dinosaur Jrは1983年、マサチューセッツ州アムハーストにて、Deep Woundというハードコア・パンクバンドをやっていたJ Mascis(G/Vo)と、ハイスクールのクラスメートだったLou Barlow(B)により結成され、その後すぐに、Murph (Emmet Patrick Murphy/Dr)がメンバーに加わった。


Country Joe and The Fish、Jeffeson Airplaneの元メンバーのバンドがThe Dinosaurと名乗っており、法に抵触する可能性があったため、デビューアルバムである『Dinasour』(1985年)を発表後すぐに、バンド名を変えている(少なくとも1987年までは、Dinosaurの名前を使っていた。

 

1987年、彼らはSonic YouthからのすすめでSST Recordsと契約、彼らのベスト作とされている『Your' re Living All Over Me』をリリースした。次の年には『Bug』を発表する。イギリスで『Bug』は、Sonic YouthやBig Black、Butthole SurfersらのレーベルであったPaul SmithのBlast First Recordsからリリースされた。この時期、彼らは大音量のライブをやるバンドとして知られるようになった。

 

大きな商業的な成功はなかったものの、カルト的な熱狂を獲得していた。『Freak Scene』と『Just Like Heaven』の成功は、Sonic YouthやNirvanaと仲がよかったことも相まって、結果的にWarner Brothersとの契約に結びつくことになった。彼らの曲はギターノイズに包まれ、メロディックで構成も単純であったため、同時代のPixiesとともに、その後に登場してくるNirvanaに大きな影響を与えている。以後、『Green Mind』でようやく商業的な成功を収める。


面白いことに、ルー・バーロウとJ・マシスの音楽性はすべて1987年の「Little Funny Things」で完成されており、のちの商業的な成功はその付加物でしかないように思える。バンドの音楽は当初サイケデリックロックやフォークの融合という形で登場したが、それをよりスタンダードな音楽性へと変化させていった。


「Green Mind」の商業的な成功はその時代のグランジの影響下にあった。もちろん、「Flying Cloud」でのインディーフォークのアプローチや、「Muck」のサイケとファンク、そしてカレッジロックの融合というセンスの良さがあるとしてもである。それでも、やはり、Jマシスのギタリストとしての凄さは最初期や90年代にかけての音源にはっきりと見出すことが出来る。



                                  

 


・Built to Spill

 



                
Built to Spillはアイダホ州ボイシを拠点に活動するインディーロックバンド。キャッチーなギター・フックとフロントマンDoug Martschのユニークな歌声で有名だ。


元Treepeopleのフロントマンだったダグ・マートシュは、1992年にブレット・ネットソン、ラルフ・ユーツと共にビルト・トゥ・スピルを結成。GBVと並んで、オルタナティヴロックの源流にあるバンド。

 

当時のSpin誌のインタビューで、ダグ・マートシュは「アルバムの度にバンドのラインナップを変えるつもりだった」と語っている。


マートシュは唯一のパーマネント・メンバーだった。バンドのファースト・アルバムバンドのファースト・アルバム『アルティメット・オルタナティヴ・ウェイヴァーズ』(1993年)の後、ラインナップを変えるという考えは真実となった。ネッツォンとユッツの後任にブレットNelson(Netsonではない)とAndy Cappsに交代し、1994年の『There's Nothing Wrong With Love』をリリースした。コンピレーション・アルバム『The Normal Years、 というコンピレーション・アルバムが1996年にリリースされた。1995年のアルバム録音の合間に、バンドは ロラパルーザ・ツアーに参加。マーシュは1995年、ビルト・トゥ・スピルとワーナー・ブラザースと契約。


1997年、『Perfect From Now On』で初のメジャー・レーベルからのリリースを果たした。この時、バンドはマートシュ、ネルソン、ネットソン、スコット・プルーフで構成されていた。Perfect From Now On』は批評家からも高評価を受け、ビルト・トゥ・スピルはアメリカで最もステディなインディーロックバンドのひとつとなった。

 



・Sebadoh




Dinosaur.Jrに在籍していたルー・バーロウとエリック・ガフニーとの宅録テープ交換から生まれたバンド。ダイナソー脱退後、ルーはSebadohを中心とするソロ活動に専念するようになった。

 

安い機材でのレコーディングにこだわり、PavementやBeat Happening同様に、ロー・ファイを確立した重要なバンドと言われている。80年代前半から後半の宅録テープをリリースした後、92年からSUB POPに在籍。ルーのワンマンバンドというわけではなく、ルー以外のメンバーの曲も多い。メンバーチェンジを繰り返しながらも4枚のアルバムをリリースしている。

 

ルー・バーロウはSentridoやFolk Implosion 、ソロ名義などSebadoh以外のプロジェクトでも活動的だった。Sebadohは2000年頃に終止符が打たれ、ルーは他のプロジェクトに力を注ぐようになった。

 

2005年にはDinosaur Jrが再結成、2007年にはエリックを含むオリジナルラインナップでのSebadohでツアーをすると宣言。現在、ルーのメインバンドはDinosaur Jrのようだが、合間を縫って様々な活動を展開中らしい。

 

 

 

・上記で紹介したバンドのほか、カレッジロックの最重要バンドとして、Soul Asylum、The Smithereens、Buffalo Tomが挙げられる。他にも米国のラジオではUKロックがオンエアされており、その中にはThe La's,The Smith,The Cureといったバンドの楽曲がプッシュされていた。


 

©︎Dasha Belikov

ニューヨークを拠点とする5人組ハードコアバンド、Dog Dateが新作アルバム『Zinger』を発表した。2021年のデビュー作『Child's Play』に続くこの作品は、4月12日にPop Wig Recordsからリリースされる。リード・シングル「Nuff Said」とアルバムのジャケット、トラックリストは以下をチェック。


「このアルバムについて、ヴォーカル/ギターのディラン・ケネディはプレスリリースでこう語っている。「二人のドラマーが一緒に演奏することは、僕らにとってとても重要なことだった。


この曲のやや狂暴な性質は、内なる不安について書くのに適している。このアルバムの最後の曲までには、最初の頃のパニックや怒りを乗り越えているといいんだけどね」





Dog Date 『Zinger』


Tracklist:

1. Nirvana
2. Nuff Said
3. Spine Transfer
4. F Bomb
5. Duplo
6. Cruel World Reversal
7. Theory Orb
8. Slug
9. Xipe
10. Twin Star
11. I Love That Story



PACKS


 

PACKSの名義で音楽を制作するトロントのマデリン・リンクは、常に周囲の環境にインスピレーションを見出してきた。最新作『Melt the Honey』(1年ぶり2作目のフルアルバム)の制作にあたり、彼女はこれまでの作品に影響を与えてきた平凡な空間を超えたところに目を向けたいと考えた。


昨年3月の11日間、リンクと彼女のバンドメンバー(デクスター・ナッシュ(ギター)、ノア・オニール(ベース)、シェーン・フーパー(ドラムス))は、メキシコ・シティに再び集まった。2020年にカーサ・リュでアーティスト・イン・レジデンスを行ったことのある彼らにとって思い入れのある場所でもある。PACKSは、スタジオを借りて新曲を練習し、メンバーそれぞれが美的感覚を持ち寄った。そこからバスでハラパに移動したのち、メキシコ・シティで著名な劇場兼音楽ホール、テアトロ・ルシドの構想者であるウェンディ・モイラが所有・運営する、都会の喧騒から切り離された建築物、「カサ・プルポ」と呼ばれる家で残りの海外滞在期間を過ごした。


『メルト・ザ・ハニー』の制作は、2021年のデビュー作『テイク・ザ・ケイク』から参加しているミュージシャンたちが再び集結し、共同作業を行った。レコーディングに感じられる活気の一部は、マデリン・リンクの人生の根底にある感情の変化、恋に落ちたことにも由来しているという。長い間ひとりでやってきたことで、リンクはようやく、自分が大切にされていることを知ることで得られる安らぎを受け入れている。


「これらの曲は、今まで書いたどの曲よりもハッピーというか、楽観的なんだ」とリンクは言う。このアルバムのタイトルは、チリのビーチ・タウンで書かれたシングル曲「Honey」に由来している。マデリン・リンクはこのような感情の中で過ごし、ロマンチックなパートナーと家を共有し、誰かがそばにいるという視点を通して、人生をよりスムーズに経験できるようにしていた。リンクがより幸せな心境にある一方、『メルト・ザ・ハニー』は彼女の感情を徹底して掘り下げ、新たな音の領域を開拓している。Pearly Whitesのスカジーなシューゲイザーから "AmyW "のサイケなテクスチャーの間奏曲に至るまで、『Melt the Honey』は最も磨き上げられたアルバムとなった。

 


PACKS  『Melt the Honey』‐ Fire Talk


 

ここ10年ほど、「米国のオルタナティヴ・ロック」という音楽の正体について考えてきたが、ひとつ気がついたことがある。「ALT」という言葉には「亜流」という意味があり、主流に対するアンチテーゼのような趣旨が込められている。ひねりのあるコードやスケール、旋律の進行に象徴される音楽というのが、このジャンルの定義付けになっている。しかし、ひねりのあるコードやスケールを多用したとしても、米国のオルタナティヴの核心に迫ることは難しい。

 

なぜなら、オルタナティブというジャンルには、多彩な文化の混交やカントリー/フォークのアメリカーナ、合衆国南部の国境周辺からメキシコにかけての固有の文化性や音楽が含まれているからなのだ。つまり、The Ampsのキム・ディールやPixiesのジョーイ・サンティアゴが示してきたことだが、米国南部の空気感やメキシコの文化性がオルタナティヴというジャンルの一部分を構成し、それがそのまま、このジャンルの亜流性の正体ともなっているのである。


PACKS(マデリン・リンク)は正確に言えば、カナダのアーティストであるが、バンド形態で米国のオルタナティヴという概念の核心に迫ろうと試みている。メキシコ・シティにバンドメンバーと集まり、ウェンディ・モイラが所有・運営する、都会の喧騒から切り離された建築物、「カサ・プルポ」を拠点として、レコーディングを行ったことは、東海岸のオルタナティヴロック・バンドとは異なる米国南部、あるいはメキシカーナの雰囲気を生み出す要因となった。それはまた、Nirvanaに強い影響を及ぼし、MTV Unpluggedにも登場したMeat Puppetsのセカンドアルバム『Ⅱ』に見受けられるアリゾナの独特な雰囲気ーーサボテン、砂漠、カウボーイハット、荒れ馬、度数の強いテキーラーーこういったいかにもアメリカ南部とメキシコの不思議な空気感が作品全体に漂っている。たとえそれがステレオタイプな印象であるとしても。


そして、マデリン・リンクのボーカルには、ほどよく肩の力が抜けた脱力感があり、Big Thiefの主要なメンバーであるバック・ミーク、エイドリアン・レンカーのように、喉の微妙な筋力の使い方によって、ピッチ(音程)をわざとずらす面白い感じの歌い方をしている。一見すると、アデルやテイラー・スフィフトの現代の象徴的な歌手の歌い方から見ると、ちょっとだけ音痴のようにも聞こえるかもしれない。しかし、これは「アメリカーナ」の源流を形作るフォーク/カントリー、ディキシーランドの伝統的な歌唱法の流れを汲み、このジャンルの主要な構成要素ともなっている。そしてこれらのジャンルを、スタンダードなアメリカンロックや、インディーズ色の強いパンク/メタルとして濾過したのが米国のオルタナティヴの正体だったのである。

 

オープニングを飾る「89  Days」は、上記のことを如実に示している。PACKSは、アーティストが描く白昼夢をインディーロックにシンプルに落とし込むように、脱力感のあるライブセッションを披露している。


それは、現代社会の忙しない動きや無数に氾濫する情報からの即時的な開放と、粗雑な事物からの完全な決別を意味している。ボーカルは、上手いわけでも洗練されているわけでもなく、ましてや、バックバンドの演奏が取り立てて巧みであるとも言いがたい。それでも、ラフでくつろいだ音楽が流れ始めた途端、雰囲気がいきなり変化してしまう。ビートルズのポール・マッカートニーの作曲性を意識したボーカルのメロディー進行、インディーフォーク、ローファイに根ざしたラフなアプローチは、夢想的な雰囲気に彩られている。そのぼんやりとした狭間で、ヨット・ロックへの憧れや、女性らしいロマンチズムが感情的に複雑に重なり合う。そして、現代的な気風と、それとは相反する古典的な気風が溶け合い、アンビバレントな空気感を生み出す。

 

本作のタイトル曲代わりである「Honey」においても、マデリン・リンクとバンドが作り出す白昼夢はまったく醒めやることがない。

 

アーティストのグランジロックに対する憧れを、ビック・シーフのようなインディーフォークに近い音楽性で包み込んだ一曲である。そしてその中には、アリゾナのミート・パペッツのようなサイケやアメリカーナ、メキシカーナとサイケデリックな雰囲気も漂う。内省的で、ほの暗い感覚のあるスケールやコード進行を用いているにもかかわらず、曲の印象は驚くほど爽やかなのだ。


一曲目と同様、PACKのバンドの演奏は、ラフでローファイな感覚を生み出すが、それ以上にマデリン・リンクの声は程よい脱力感がある。それがある種の安らいだ感覚をもたらす。これらの夢想的な雰囲気は、ラフなギターライン、ベース、ドラム、そして、ハモンドオルガンによって強化される。 

 

「Honey」

 



「Pearly Whites」でも、ミート・パペッツを基調とした程よく気の抜けたバンドサウンドとグランジの泥臭いロックサウンドが融合を果たす。マデリン・リンクのボーカルは、Green River、Mother Love Bone、Pavementといったグループのザラザラとした質感を持つハードロック、つまりグランジの源流に位置するバンドが持つ反骨的なパンク・スピリットを内包させている。そして、これらのヘヴィ・ロックのテンポは、ストーナー・ロックのようにスロウで重厚感があり、フロントパーソンの聞きやすいポピュラーなボーカルと鋭いコントラストを描いている。ボーカルそのものは軽やかな印象があるのに、曲全体には奇妙な重力が存在する。ここに、バンド、フロントマンの80年代後半や90年代のロックに対する愛着を読み取ることができるはずだ。しかし、この曲がそれほど古臭く感じないのは、Far Caspianのような現代的なローファイの要素を織り交ぜているからだろう。

 

ローファイの荒削りなロックのアプローチは、その後も続いている。先行シングルとして公開された「HFCM」は、「ポスト・グランジ」とも称すべき曲であり、『Melt The Honey』のハイライトとも言える。Mommaの音楽性を思わせるが、それにアンニュイな暗さを付加している。相変わらずマデリン・リンクのボーカルには奇妙な抜け感があり、ファジーなディストーションギターとドラム、ベースに支えられるようにして、曲がにわかにドライブ感を帯びはじめる。楽節の節目にブレイクを交えた緩急のあるロックソングは、リンクのシャウトを交えたボーカルとコーラスにより、アンセミックな響きを生み出すこともある。曲のアウトロでは、ファジーなギターが徐々にフェイドアウトしていくが、これが奇妙なワイルドさと余韻を作り出している。

 

「Amy W」は、インストゥルメンタルで、Softcult,Winter、Tanukicyanのような実験的なシューゲイズバンドのサウンドに近いものが見いだせる。その一方で、ニューヨークのプロトパンクの象徴であるTelevision、Stoogesのようなローファイサウンドの影響下にあるコアな演奏が繰り広げられる。ギターラインは、夢想的な雰囲気に彩られ、ときにスコットランドのMogwaiのような壮大なサウンドに変化することもある。たしかに多彩性がこの曲の表面的な魅力ともなっているが、その奥底には、鋭い棘のようなパンク性を読み解く事もできる。そして、この曲でも前曲と同じように、アウトロにフェードアウトを配することで、微かな余韻を生み出し、80年代後半と90年代のロックのノスタルジックな空気感を作り出す。この曲のプロダクションは、アナログの録音機材によるマスタリングが施されているわけではないと思われるが、バンドサウンドの妙、つまりリズムの抜き差しによってモノラルサウンドのようなスペシャルな空気感を生み出している。これぞまさしく、ボーカリストとPACKSのメンバーが親密なセッションを重ねた成果が顕著な形で現れたと言えるだろう。

 

 

このアルバムには、80年代、90年代のオルト・ロックからの影響も含まれているが、他方、それよりも古い、The Byrds、Crosby Still& Nash(&Young)のようなビンテージ・ロックの影響を織り交ぜられることもある。


「Take Care」は、70年代のハードロックの誕生前夜に見られるフォーク/カントリーにしか見出せない渋さ、さらに泥臭さすら思わせるマディーなロックサウンドが、エイドリアン・レンカーの影響をうかがわせるマデリン・リンクの力の抜けたボーカルと合致し、心地よい空気感を生み出す。


そして、リンクのボーカルは、ファニーというべきか、ファンシーというべきか、夢想的で楽しげな雰囲気に彩られる。これがアンサンブルに色彩的な変化を与え、カラフルなサウンドを生み出す。クラフトワークのエミール・シュルトのように「共感覚」という言葉を持ち出すまでもなく、一辺倒になりがちな作風に、リンクのボーカルが、それと異なる個性味を付け加えている。それがこの曲を聴いていると、晴れやかな気分になる理由でもあるのかもしれない。

 

グランジとフォークの組み合わせは、「Grunge-Folk」とも呼ぶべきアルバムの重要なポイントを「Her Garden」において形作る。破れた穴あきのデニムや中古のカーディガンを思わせる泥臭いロックは、Wednesdayの最新アルバムに見いだせるような若い人生を心ゆくまで謳歌する青臭さという形で昇華される。それらが、上記の70年代のビンテージ・ロック、ローファイ、サイケという3つの切り口により、音楽性そのものが敷衍されていき、最終的にPACKにしか作り出せない唯一無二のオルタナティヴ・ロックへと変化していく。この曲も取り立てて派手な曲の構成があるわけではないが、ビンテージなものに対する憧憬がノスタルジックな雰囲気を作り出す。


 「Her Garden」

 


マデリン・リンクは驚くべきことに、ミート・パペッツやニルヴァーナのボーカリストの旋律の進行や事細かなアトモスフィアに至るまで、みずからのボーカルの中にセンス良く取り入れている。なおかつ、その底流にある「オルタナティヴ」という概念はときに、成果主義や完璧主義というメインストリームの考えとは対極にある「未知の可能性」を示唆しているように感じられる。


「Paige Machine」は、サイケ・ロックを和やかなボーカルでやわらかく包み込む。そしてこの曲には、ミートパペッツのようなメキシカンな雰囲気に加え、ピクシーズのような米国のオルタナティヴの核心をなすギターライン、ピンク・フロイドの初代ボーカリストであるシド・バレットが示したサイケデリック・フォークという源流に対する親和性すら見出す事もできなくもない。


続く「Missy」は 、ファニーな感覚を擁するインディーロックソングにより、PACKSが如何なるバンドであるのかを示している。ここでも、バンドとボーカリストのマデリン・リンクは、夢想的とも称すべき、ワイアードなロマンチシズムをさりげなく示す。きわめつけは、「Trippin」では、バレットの「The Madcaps Laughs」の収録曲「Golden Hair」に象徴される瞑想的なサイケ・フォークの核心に迫り、それをアメリカーナという概念に置き換えている。

 

「Time Loop」でアルバムはクライマックスを迎える。クローズ曲は、ビンテージな音楽から、モダンなインディーフォークのアプローチに回帰する。派手なエンディングではないものの、本作のエンディングを聞き終えた時、映画「バグダッド・カフェ」を見終えた後のような淡いロマンを感じる。


PACKSのバンドのラフなライブ・セッション、マデリン・リンクのファニーなボーカルは、アルバムの冒頭から最後まで一貫して、「白昼夢」とも呼ぶべき、心地良い空気感に縁取られている。そして、Fire Talkのプレスリリースに書かれている「平凡な空間を越える」という表現については、あながち脚色であるとも決めつけがたい。アルバムのクライマックスに至ると、フォーク/カントリーの象徴的な楽器であるスティール・ギターのロマンチックでまったりとした感覚を透かして、アリゾナの砂漠、サボテン、カウボーイハット、それらの幻想の向こうにあるメキシコの太陽の眩いばかりの輝きが、まざまざと目に浮かび上がってくるような気がする。

 

 

「Paige Machine」

 

 

 

85/100

 

 

PACKSのニューアルバム『Melt The Honey』は”Fire Talk”より本日発売。アルバムのご購入はこちら、Bandcampから。

 





先週のWeekly Music Featureは以下よりお読みください:

 Music Tribune Presents ”Album Of The Year 2023” 

 

 



・Part 2 ーー移民がもたらす新しい音楽ーー


近年、ジャンルがどんどんと細分化し、さらに先鋭化していく中で、ミュージシャンの方も自分たちがどのジャンルの音楽をやるのかを決定するのはとても難しいことであると思われます。

 

あるグループは、20世紀はじめのブロードウェイのミュージカルやジャズのようなクラシックな音楽を吸収したかと思えば、それとは別に2000年代以降のユース・カルチャーの影響を取り入れる一派もいる。

 

およそ無数の選択肢が用意される中で、Bonoboのサイモン・グリーンも話すように、「どの音を選ぶのかに頭脳を使わなければならない」というのは事実のようです。多様性が深まる中で、移民という外的な存在が、その土地の音楽に新たな息吹やカルチャーをもたらすことがある。最初に紹介するカナダのドリームポップ/シューゲイズの新星、Bodywashのボーカルは実は日本人の血を引いており、彼はカナダでのビザが役所の誤った手続きにより許可されず、住民の権利が認可されなかったという苦悩にまつわる経験を、デビュー・アルバムの中で見事に活かしています。

 

さらに、Matadorから登場したロンドンのトリオ、Bar Italiaのメンバーも公にはしていないものの、同じように移民により構成されると思われ、三者三様のエキゾチズムがローファイなインディーロックの中に個性的に取り入れられています。さらに、ニューヨークのシンガー、Mitskiも日本出身の移民でもある。その土地の固有の音楽ではなく、様々な国の文化を取り入れた音楽、それは今後の世界的なミュージック・シーンの一角を担っていくものと思われます。

 

 

・Part 2  - New Music Brought by Immigrants-



As genres have become more and more fragmented and even more radical in recent years, it can be very difficult for musicians to decide which genre of music they are going to play.

One group may have absorbed classical music such as Broadway musicals and jazz from the early 20th century, while another faction has embraced the influences of youth culture from the 2000s onward.

With approximately countless options available, it seems true that, as Simon Green of Bonobo also speaks, "you have to use your brain to choose which sound to choose". As diversity deepens, the external presence of immigrants can bring new life and culture to local music. The vocalist of the first new Canadian dream-pop/shoegaze star, Bodywash, is actually of Japanese descent, and he makes excellent use of the experience of his anguish over a Canadian work visa whose residents' rights were not approved due to a mishandling by the authorities on his debut album. The album is a great example of the artist's ability to use his own experiences to his advantage.


In addition, the members of Bar Italia, a London trio that appeared on Matador, are also thought to be composed of immigrants as well, although they have not publicly announced it, and the exoticism of all three is uniquely incorporated into their lo-fi indie rock music. Furthermore, New York singer Mitski is also an immigrant from Japan. Music that is not indigenous to a particular region, but incorporates the cultures of various countries, is expected to become a part of the global music scene in the future.(MT- D)



 Bodywash 『I Held The Shape While I Could』



Label: Light Organ

Release: 2023/4/14

Genre: Dream Pop/ Shoegaze /Experimental Pop

 

 

今年、登場したドリーム・ポップ/シューゲイズバンドとして注目したいのが、カナダのデュオ、Bodywash。シンセサイザーと歪んだギター組みあわせ、独創的なアルバム『I Held The Shape While I Could』制作した。デュオは収録曲ごとに、メインボーカルを入れ替え、その役割ごとに作風を変化させている。

 

シューゲイズのアンセムとしては「Massif Central」がクールな雰囲気を擁する。その他にも、アンビエントやエクスペリメンタルポップが収録されている。アルバムの終盤では、「Ascents」や「No Repair」といったオルタナティヴロックの枠組みにとらわれない、新鮮なアプローチを図っている。 

 

 

 Best Track「Massif Central」



Best Track 「No Repair」




Hannah Jadagu 『Aperture』

 

 

Label: Sub Pop

Release: 2023/5/19

Genre: Indie Rock



Hannah Jadagu(ハンナ・ジャダグ)は、テキサス出身、現在はニューヨークに活動拠点を移している。

 

アーティストはパーカッション奏者として学生時代に音楽に没頭するようになった。以後、最初のEPをiphone7を中心にレコーディングしている。今作でレベルアップを図るため、Sub Popと契約を交わし、海外でのレコーディングに挑戦した。Hannha Jadaguは、彼女自身が敬愛するSnail Mail、Clairoを始めとする現行のインディーロックとベッドルームポップの中間にある、軽やかな音楽性をデビューアルバムで体現させている。

 

『Aperture』はマックス・ロベール・ベイビーをプロデューサーに招いて制作された。アルバムを通じてアーティストが表現しようとしたのは、教会というテーマ、そしてハンナ・ジャダグが尊敬する姉のことについてだった。

 

「Say It Now」、「Six Months」、「What You Did It」を中心とするインディーロック・バンガー、正反対にR&Bのメロウな音楽性を反映させた「Warning Sign」に体現されている。アルバムのリリース後、アメリカツアーを敢行した。インディー・ロックのニューライザーに目される。「Say It Now」では、「Ikiteru Shake Your Time」という日本語の歌詞が取り入れられている。

 

 

Best Track  「Say It Now」


 



Bar Italia  『Tracy Denim』

 

 

Label: Matador

Release: 2023/5/22

Genre: Indie Rock



当初、Bar Italiaは、ローファイ、ドリーム・ポップ、シューゲイザーを組み合わせた独特な音楽性で密かに音楽ファンの注目を集めてきた。Matadorから発表された『Tracy Denim』は、ロンドンのトリオの出世作であり、音楽性に関してもバリエーションを増すようになってきている。


現在は、その限りではないものの、当初、Bar Italiaは、「カルト的」とも「秘密主義」とも称されることがあった。『Tracy Denim』はトリオのミステリアスな音楽性の一端に触れることが出来る。最初期のローファイな作風を反映させた「Nurse」、トリオがメインボーカルを入れ替えて歌うパンキッシュな音楽性を押し出した「punkt」、Nirvanaのグランジ性を継承した「Friends」等、いかにもロンドンのカルチャーの多彩さを伺わせる音楽性を楽しむことができる。

 

アルバムのプロデューサーには、ビョークの作品等で知られるマルタ・サローニが抜擢。バンドは、Matadorからのデビュー作のリリース後、レーベルの第二作『The Twits』(Review)を立て続けに発表し、さらにエネルギッシュな作風へと転じている。今後の活躍が非常に楽しみなバンド。         

 

 Best Track 「punkt」





Gia Margaret 『Romantic Piano』

 


Label: jagujaguwar

Release: 2023/5/26

Genre: Modern Classical/ Post Calssical/ Pop

 

 

シカゴのピアニスト、マルチ奏者、ボーカリスト、Gia Margaret(ジア・マーガレット)の最新アルバム『Romantic Paino』は、静けさと祈りに充ちたアルバム。ピアノの記譜を元にして、閃きとインスピレーション溢れる12曲を収録。過去のツアーでの声が出なくなった経験を元にし、書かれた前作と異なり、単に治癒の過程を描いたアルバムとは決めつけられないものがある。

 

アルバムの冒頭を飾る「Hinoki Woods」を筆頭に、シンセサイザーとピアノを組みわせ、ミニマリズムに根ざした実験的な作風に挑んでいる。しかしピアノの小品を中心とするこのアルバムには、何らかの癒やしがあるのは事実で、同時に「Juno」に象徴されるように瞑想的な響きを持ち合わせている。

 

「Strech」は、現代のポスト・クラシカル/モダンクラシカルの名曲である。他にもギターの音響をアンビエント的に処理した「Guitar Piece」もロマンチックで、ヨーロピアンな響きを擁する。ボーカル・トラックに挑戦した「City Song」は果たしてシカゴをモチーフにしたものなのか。アンニュイな響きに加え、涙を誘うような哀感に満ちている。静けさと瞑想性、それがこのアルバムの最大の魅力であり、とりもなおさず現在のアーティストの魅力と言えるかもしれない。

 

 

Best Track 「City Song」

 

 


Killer Mike 『MICHAEL』

 

 


Label: Loma Vista

Release:2023/6/16

Genre: Hip Hop / R&B

 

ヒップホップのカルチャーの歴史、現在のこのジャンルの課題を良く知るキラー・マイクにとって、『MICHAEL』の制作に取り掛かることは、音楽を作る事以上の意味があったのかもしれない。つまり、近年、法廷沙汰となっているこのジャンルの芸術性を再確認しようという意図が込められていた。そしてヒップホップに纏わる悪評の世間的な誤解を解こうという切なる思いが込められていた。それはブラック・カルチャーの負の側面を解消しようという試みでもあったのです。

 

キラー・マイクは、結局、かつては友人であった人々が法廷に引っ張られていくのを見過ごすわけにはいかなかった。そこで彼は、ヒップホップそのものが悪であるという先入観をこの作品で取り払おうと努めている。また、キラー・マイクはブラックカルチャーの深層の領域にある音楽をラップに取り入れようとしている。このアルバムを通じて、マイクはゴスペル、R&Bへの弛まぬ敬愛を示しており、ブラック・カルチャーの肯定的な側面をフィーチャーしている。

 

取り分け、このアルバムがベストリストにふさわしいと思うのは、彼が亡くなった親族への哀悼の意を示していること。タイトル曲の録音で、レコーディングのブースに入ろうとするとき、キラー・マイクの目には涙が浮かんでいた。彼はブースに入る直前、様々な母の姿を思い浮かべ、それをラップとして表現しようとした。ヒップホップは必ずしも悪徳なのではなくて、それとは正反対に良い側面も擁している。キラー・マイクの最新作『MICHAEL』はあらためて、そういったことを教えてくれるはず。アーティスト自身が言うように、芸術形態ではないと見做されがちなこのジャンルが、立派なリベラルアーツの一つということもまた事実なのである。

 

 

Best Track  「Motherless」

 

 

 

 

McKinly Dixson 『Beloved!Paradise! Jazz!?』

 

 

Label: City Slang

Release: 2023/6/2

Genre:Hip Hop/ Jazz

 

 

City Slangから発売された『Beloved!Paradise! Jazz!?』の制作は、アトランタ/シカゴのラッパー、マッキンリー・ディクソンが、母の部屋で、トニ・モリスンの小説『Jazz』を発見し、それを読んだことに端を発する。

 

おそらく、トニ・モリスンの小説は、女性の人権、及び、黒人の社会的な地位が低い時代に書かれたため、現在同じことを書くよりも、はるかに勇気を必要とする文学であったのかもしれない。私自身は読んだことはありませんが、内容は過激な部分も含まれている。しかしマッキンリー・ディクソンは、必ずしも、モニスンの文学性から過激さだけを読み取るのではなく、その中に隠された愛を読み取った。もっと言えば、既に愛されていることに気がついたのだった。

 

マッキンリー・ディクソンの評論家顔負けの鋭く深い読みは、実際、このアルバムに重要な骨格を与え、精神的な核心を付加している。

 

音楽的には、ドリル、ジャズ、R&Bという3つの主要な音楽性を基調とし、晴れやかなラップを披露したかと思えば、それとは正反対に、エクストリームな感覚を擁するギャングスタ・ラップをアグレッシブかつエネルギッシュに披露する。アトランタという街の気風によるのでしょうか、ヒスパニック系の音楽文化も反映されており、これが南米的な空気感を付加している。

 

『Beloved!Paradise! Jazz!?』では、若いラップアーティストらしい才気煥発なエネルギーに満ち溢れたトラックが際立っています。新時代のラップのアンセム「Run Run Run」(bluをフィーチャーした別バージョンもあり)のドライブ感も心地よく、「Tylar, Forever」でのアクション映画を思わせるイントロから劇的なドリルへと移行していく瞬間もハイライトとなりえる。ジャズの影響を反映させた曲や、エグみのある曲も収録されているが、救いがあると思うのは、最後の曲で、ジャズやゴスペルの影響を反映させ、晴れやかな雰囲気でアルバムを締めくくっていること。もしかするとこれは、キラー・マイクに対する若いアーティストからの同時的な返答ともいえるのでは。

 

 

Best Track 「Run, Run, Run」

 

 

 

 M.Ward 『Supernatural Thing』 

 

Label: ANTI

Release:2023/6/23

Genre: Rock/Pop/Folk/Jazz

 


シンガーソングライターとして潤沢な経験を持つM.Ward。本作の発表後、ウォードはノラ・ジョーンズとのデュエット曲も発表した。

 

『Supernatural Thing』の制作は、M.Wardがふと疑問に思ったこと、ラジオの無線そのものが別世界に通じているのではないか、というミステリアスな発想に基づいている。実際、パンデミックの時期にM.Wardは、よくラジオを聴いていたそうですが、そういった目まぐるしく移ろう現代の時代背景の中で、人生の普遍的な宝物が何かを探求したアルバムと呼べるかもしれない。

 

アルバムには、アーティストのオリジナル曲とカバーソングが併録されている。音楽的には、Elvis Presleyの時代の古典的なロックンロール、パワー・ポップ、ジャングル・ポップ、コンテンポラリー・フォーク、ブルース・ロック、スタンダード・ジャズを始めとするノスタルジックなアプローチが図られている。しかし、それほど新しい音楽でないにも関わらず、このアルバムを良作たらしめているのは、ひとえにM.Wardのソングライティング能力の高さにあり、それがアーティストの人生を音楽という形を介してリアルに反映されているがゆえ。

 

本作のもう一つの魅力は、スウェーデンの双子のフォーク・デュオ、FIrst Aid Kitの参加にある。実際、アルバムに収録されているデュエット曲「Too Young To Die」、「engine 5」は、M. Wardのブルージーな音楽性に爽やかさや切なさという別の感覚を付与する。その他にも、アーティストが夢の中で、ロックの王様こと「エルヴィス」に出会い、「君はどこへだっていける」とお告げをもらう、ロックンロール・アンセム「Supernatural Thing」も珠玉のトラック。

 


Best Track 「Supernatural Thing」

 

 

Best Track 「engine 5」

   

 

 

 

 Oscar Lang  『Look Now』



Label: Dirty Hit

Release: 2023/7/2

Genre: Pop/Indie Rock/Alternative Rock

 


11歳で作曲を始めた(6歳くらいからピアノで曲を作っていたという説もある)マルチ・インストゥルメンタリストのオスカー・ラングは、2016年頃に楽曲を発表し始めた。高校在学中に、Pig名義で『TeenageHurt』や『Silk』のプロジェクトを発表し、実験的なポップと孤独の青春クロニクルで多数のファンを獲得した。2017年、ベッドルーム・ポップの新鋭、BeabadoobeeとのKaren Oの「The Moon Song」のカヴァーは、バイラル・ヒットとなり、数百万ストリーミングを記録し、2019年までに両アーティストはロンドンのレーベル、Dirty Hitと契約した。

 

『Look Now』は、オスカー・ラングが体験した幼馴染の恋人の別れの経験を元に書かれた。ギターロック色が強かったデビュー作とは対象的に、ビリー・ジョエル等の古典的なポップスから、リチャード・アッシュクロフトのVerveを始めとするブリット・ポップへの傾倒がうかがえる。

 

幼い頃に亡くなった母との記憶について歌われた「On God」の敬虔なるポップスの魅力も当然のことながら、バラードに対するアーティストの敬愛が全編に温かなアトモスフィアを形作り、ソングライターとしての着実な成長が感じられる快作となっている。「Leave Me Alone」、「Take Me Apart」、「One Foot First」等、聴かせるロックソングが多数収録されている。



Best Track「One Foot First」

 

 

 

 

Far Caspian   『The Last Remaining Light』-Album Of The Year 



 

 


 Label: Tiny Library

Release: 2023/7/28

Genre: Alternative Rock/Lo-Fi

 


リーズのJoseph Johnston(ダニエル・ジョンストン)は、デビューEPのリリース後、3年を掛けて最初のフルレングスの制作に取り掛かった。2021年にファースト・アルバム『Ways To Get Out」を発表後、ジョセフ・ジョンストンの持病が一時的に悪化した。このツアーの時期の困難な体験は、日本建築に対する興味を込めた「Pet Architect」に表れている。ジョンストンは、日本の狭い道に多くの建物が立て込んでいるイメージに強く触発を受けたと語る。

 

アルバムの制作中に、ジョセフ・ジョンストンはブライアン・イーノの『Discreet Music』を聴いていた。タイトルはTalking Headsの名作アルバム『Remain In Light』に因むと思われる。

 

『The Last Remaining Light』はオルタナティヴ・ロックの範疇にあるアルバムではありながら、ギターサウンド、ドラムのミックスに、ミュージック・コンクレートの影響が反映されている。本作は一時的な間借りのスタジオで録音され、音源を「タスカム244」の4トラックに送った後、それをテープ・サチュレーションで破壊し、最終的にLogicStudioに落としこんだという。

 

「デビュー・アルバムのミックスをレーベルに提出した翌日から、すぐ二作目のアルバムの制作に取り組んだ」とジョンストンは説明する。「ファースト・アルバムを完成させるのに精一杯で疲れきっていた。でも、アルバムが完成したとき、次の作品に取りかかり、失敗から学ぼうという気持ちになった。長いデビュー作を作った後、10曲40分のアルバムを書きたいとすぐに思った」

 

アルバム全体には荒削りなローファイの雰囲気が漂う。さらに、Rideへのオマージュを使用したり、American Footballのようなエモ的な質感を追加している。特にドラムの録音とギターの多重録音には、レコーディング技術の革新性が示唆される。本作の音楽性は、懐古的な空気感もあるが、他方、現代的なプロダクションが図られている。オルタナティヴ・ロックの隠れた名盤。

 

 

Best Track「Cyril」

 

 

 

 

 No Name 『Sundial』


Label: AWAL

Release; 2023/8/11

Genre: Hip Hop/R&B

 


シカゴのシンガー、No Nameは実際、良い歌手であることに変わりはないでしょうし、このアルバムも深みがあるかどうかは別としてなかなかの快作。

 

2021年にローリング・ストーン誌に対して解き明かされた新作アルバム『Sundial』の構想や計画をみると、過激なアルバムであるように感じるリスナーもいるかもしれないが、実際は、トロピカルの雰囲気を織り交ぜた取っ付きやすいヒップホップ・アルバムとなっている。多くの収録曲は、イタロのバレアリックで聴かれるリゾート地のパーティーで鳴り響くサマー・チルを基調にしたダンス・ミュージック、サザン・ヒップホップの系譜にあるトラップ、それから、ゴスペルのチョップ/サンプリングを交えた、センス抜群のラップ・ミュージックが展開されている。


少なくとも本作は、モダンなヒップホップを期待して聴くアルバムではないけれど、他方では、ヒップホップの普遍的なエンターテイメント性を提示しようとしているようにも感じられる。良い作品なので、アルバムジャケットを変更し、再発を希望します。

 

 

Best Track 「boomboom(feat. Ayoni」

 

 

 

 

Olivia Rodrigo 『GUTS』

 


Label: Geffen 

Release: 2023/9/15

Genre: Alternative Rock/Punk/Pop



米国の名門レーベル、ゲフィンから発売されたオリヴィア・ロドリゴの『GUTS』は主要誌、Rolling Stone、NMEで五つ星を獲得したものの、独立サイト系は軒並み渋めの評価が下された。


しかし、それもまた一つの指標や価値観に過ぎないだろう。オルタナティヴ・ロックという観点から見ると、少なくとも標準以上のアルバムであることがわかる。オリヴィア・ロドリゴは、アルバムの制作時、ジャック・ホワイトにアドバイスを求め、若いアーティストとして珍しく真摯に自作の音楽に向き合った。「Snail Mail、Sleater-Kinney、Joni Mitchell、Beyoncé、No DoubtのReturn Of Saturn、Sweetなど、お気に入りの曲を記者に列挙しており、「今日は『Ballroom Blitz』を10回も聴いた。なぜかは全然わからない」とNew York Timesに話している。

 

『Guts』では、ベッドルームポップの要素に加え、インディーロック、グランジ、ポップ・パンクの要素を自在に散りばめて、ロックのニュートレンドを開拓している。特に、現在の米国のロックアーティストとしては珍しく、アメリカン・ロックを下地に置いており、ティーンネイジャー的な概念がシンプルに取り入れられていることも、本作の強みのひとつ。ときに商業映画のようにチープさもあるが、一方で、アーティストは、その年代でしかできないことをやっていることがほんとうに素晴らしい。これが本作に、全編に爽快味のようなものを付加している。

 

それほど洋楽ロックに詳しくない若いリスナーにとって、オリヴィア・ロドリゴの『GUTS』は、入門編として最適であり、ロックの魅力の一端を掴むのに最上のアルバムとなるはずだ。このアルバムを聴いて、Green Dayの『Dookie』を聴いてみても良いだろうし、Nirvanaの『Nevermind』を聴いても良いかもしれない。その後には、素晴らしき無限の道のりが続いている!?

 

 

Best Track 「ballad of a homeshooled girl」

 

 

 

 

 Mitski 『The Land Is Inhospitable and So Are We』-Album Of The Year

 

 

Label: Dead Oceans

Release: 2023/9/15

Genre; Pop/Rock/Folk/Country

 

 

三重県出身、ニューヨークのシンガーソングライター、Mitski(ミツキ)の7作目のアルバム『The Land Is Inhospitable and So Are We』は、前作『Laurel Hell』のシンセ・ポップを主体としてアプローチとは対象的に、オーケストラの録音を導入し、シネマティックなポップ・ミュージックへと歩みを進めた。歌手としての成長を表し、たゆまぬ前進の過程を描いた珠玉のアルバム。


「最もアメリカ的なアルバム」とミツキが回想する本作は、フォーク/カントリーを始めとするアメリカーナの影響を取り入れ、それらを歌手のポピュラーセンスと見事に合致させた。オーケストラとの生のレコーディングという形に専念したことは、実際、アルバムにライブレコーディングのような精細感をもたらしている。それを最終的にミックスという形で支えるプロデューサーの手腕も称賛するよりほかなく、ミツキのソングライティングや歌に迫力をもたらしている。

 

現時点では、「My Love Mine All Mine」がストリーミング再生数として好調。この曲は、今は亡き”大瀧詠一(はっぴーえんど)”のソングライティングを想起させるものがある。クリスマスに聞きたくなるラブソングで、ミツキの新しいライブレパートリーの定番が加わった瞬間だ。

 

他にも、全般的にポピュラー・ミュージックとして聴き応えのある曲が目白押し。フォーク、ゴスペルの融合を試みた「Bug Like An Angel」、ミュージカル、映画のようなダイナミックなサウンドスケープを描く「Heaven」、歌手自身が敬愛する”中島みゆき”の切なさ、そして、歌手としての唯一無二の存在感が表れた「Star」等、アルバムの全編に泣ける甘〜いメロディーが満載である。このアルバムの発売後、Clairoが「My Love Mine All Mine」をカバーしていた。


 

Best Track 「My Love Mine All Mine」

 

 

 Best Track「Star」

 

 

Part.3はこちらからお読み下さい。

 

Part.1はこちら



Music Tribune Presents ”Album Of The Year 2023” (Part 1)

 


今年を総括しておきますと、2023年度のリリースの総数は、パンデミック開けの昨年に比べると、さほど多くはなかったという印象です。これはおそらく、2021年にレコードの生産がロックダウン等で停滞していた流通が、翌年に発売が引き伸ばされたことに起因するかもしれません。

 

表面的な印象としましては、昨年の方が話題作やビックアーティストのリリースが断然多かったようです。今年は、週間のアルバムを探していても、1、2作しか話題作がないという週も少なからずでした。


テイラー・スウィフトが世界的な影響力を持つ中で、海外では個性的なアーティストも数多く出てきた年でした。

メインストリームでは、ソロアーティストによるスーパーグループ、boygenius、Geffen Recordsの新しい看板アーティスト、Olivia Rodrigoの登場が音楽シーンの今後の命運を左右する印象があるかもしれません。他方、アンダーグランドのミュージック・シーンでも、Anti、Matador、4AD、City Slang、Mergeを中心に注目すべきアーティストが数多く登場しました。今年はジャンルを問わず、「隠れた名盤」が数多く登場しました。どちらかと言えば、一回聴いてわかるというよりも、 よく聴かないと、その真価が分からないという作品が多かったように思えます。

 

今年、多数のレビューをさせていただいた実感として、音楽そのものに関しては、個別的なポピュラー性を求めるグループ、反対に音楽そのものの多様性やクロスオーバー性を徹底的に突き詰めるグループに二分されていたという印象を受けます。また、音楽という形態は、現実では実現不可能なものを実現させることが出来るような、稀有な表現媒体でもあることを実感しています。

 

今年も国内外のたくさんの読者様に支えられたことに篤く感謝いたします。さらに、リリース、ライブ情報をお送りいただいたすべての方々に深く感謝申し上げます。何より、日々制作に励むアーティストのみなさん、良いクリスマスとお正月をお過ごし下さいませ。来年も引き続き、Music Tribuneをよろしくお願いいたします!! 
      
   

・サイトがバッファに耐えられないので、記事を3つか4つに分割して公開する予定です。


To summarize this year, my impression is that the total number of releases in 2023 was not as large as last year at the opening of the pandemic. This may perhaps be attributed to the fact that the distribution of records production was stalled in 2021 due to lockdowns, etc., and the releases were stretched out to the following year.
 
On the surface, my impression is that there were definitely more high-profile and big artist releases last year. This year, there were more than a few weeks where you could find an album of the week and there were only one or two buzzworthy releases.

With Taylor Swift's global influence, it was a year that also saw a number of unique artists emerge overseas. In the mainstream, a supergroup of solo artists, boygenius, Geffen Records' new signature artist, Olivia Rodrigo, the new signatory of Geffen Records, may give the impression that the future fate of the music scene depends on their appearance. On the other hand, in the underground music scene, Anti, Matador, 4AD, City Slang, and Merge, among others. Regardless of genre, many "hidden gems" appeared this year. If anything, it is more than just recognizable after one listen,Rather, it seems that there were many works whose true value could not be appreciated unless one listened to them carefully.
 
As a result of reviewing many of the albums this year, I have the impression that the music itself was divided into two groups: those who sought individual popularity, and those who were more interested in the diversity and crossover nature of the music itself. I also realize that music is a rare medium of expression that can realize the unrealizable in reality.
 
We would like to express our sincere gratitude to the many readers both in Japan and overseas who have supported us this year. We would also like to express our deepest gratitude to all those who sent us information on releases and live performances. Above all, to all the artists who work hard every day on their productions, we wish you a happy Christmas and New Year.

 

Thank you very much for your continued support of Music Tribune in the coming year! 
      
   

The site cannot withstand the buffer, so we will publish it in installments.




・Best 35 Albums

 

Ryuichi Sakamoto(坂本龍一) 『12』


 

 


 

Label: Commons/Avex Entertainment

Release: 2023/1/17

Genre:Post Classical/Amibient

 


『12』は、今年4月2日に亡くなられた坂本龍一の遺作。YMOの活動や以後のソロ活動において、映画音楽やオーケストラ音楽、盟友であるAlva Notoとの実験的な電子音楽という多岐にわたる音楽を追求してきた。昨年からは「V.I.R.U.S」と称するリイシューを発表していた。

 

『12』は、日記のように書かれた作品で、癌の闘病中であった坂本龍一の渾身のアルバムとも言え、曲名は制作された日付を元に銘打たれ、人生の記録のような意味も読み取ることが出来る。

 

音楽性としては、従来、音楽家が得意としてきたアンビエント、クラシカル、そして新たにジャズの要素が付加されている。さらに驚くべきことに、厳しい状況の中で、制作者は、電子音楽という観点を通して、従来の作風のなかで最もアヴァンギャルドな音楽性に挑戦している。ピアノの演奏に関する気品に満ち溢れた演奏力は最盛期に劣らず、敬愛するバッハに対するオマージュともとれる「sarabande」も制作していることにも注目したい。クラシック音楽を親しみやすい音楽として、一般的なファンに広めるべく専心してきた坂本さんの集大成を意味するような作品。NHKの伝説の509スタジオで行われたピアノライブ、及び、インタビューも大きな話題を呼んだ。さらに生前最後のコンサート映画「OPUS」はヴェネチア国際映画祭で上映された。

 

 

「12」 Album Teaser

 

 

 

CVC 『Get Real』

 



Label: CVC Recordings

Release: 2023/1/23

Genre: Rock/R&B


ウェールズから登場した六人組のコレクティヴ、CVC(チャーチ・ヴィレッジ・コレクティヴ)はユニークなデビューアルバム『Get Real』を今年の初旬に発表した。チャーチ・ヴィレッジは、ラグビー場とパブに象徴される小さな町。CVCは、ウェールズ国内のライブを軒並みソールドアウトさせている。

 

CVCはビートルズやローリング・ストーンズ、ビーチ・ボーイズを始めとするヴィンテージ・ロックに強い触発を受けているという。

 

昨年末、デビュー・シングル「Docking The Pay」で、ドライブ感のあるハードロックサウンドを引っ提げて、ささやかなデビューを飾ったコレクティヴ、CVCは、今年、デビューアルバムで飛躍を遂げた。ビンテージ・ソウル、ファンク、ロックといったメンバーの音楽的な影響を持ち寄り、それらをコンパクトなサウンドにまとめている。

 

本作は、デビューシングル「Docking The Pay」に加え、「Hail Mary」、「Winston」、「Good Morning Vietnam」等、粒揃いの楽曲を収録したファーストアルバム。デビュー当時、彼らは、ラフ・トレードに提出したプレス資料の中で、「ウェールズを飛び出し、海外でライブをするようになりたい」と語っていましたが、その夢はすでに実現し始めている。小規模のスペースではありながら、NYCでのライブを実現させている。今後、どのようなバンドになるのか非常に楽しみ。

 

 

Best Track 「Hail Mary」





The Murder Capital 『Gigi's Recovery』



Label: Human Session Records

Release: 2023/1/20

Genre: Alternative Rock

 

The Murder Capitalはアイルランド/ダブリンの四人組。元々はポスト・パンクサウンドを引っ提げてデビュー・アルバムをリリースした。


デビュー作では、確かに若いポスト・パンクバンドとしての荒削りな感じが彼らの魅力だったが、セカンドアルバムでは、若干音楽性を変更している。本作にはオルタナティヴロックを中心に聴き応えのある曲が多数収録。ザ・マーダー・キャピタルは、エモーショナルなポップ性とオルタナティヴロック直系の捻りを追加し、オリジナリティー満点のサウンドを確立させた。


フロントマンのジェイムス・マクガバンは、アルバムの制作時のパンデミックの期間を、ダブリン、ドニゴール、ウェックスフォードで過ごし、自らを見つめ直す機会を得た。内省的とも解釈出来るサウンドは、セカンド・アルバムの重要な骨格を形作り、前衛的とも言えるシンセサイザーのテクスチャーと複雑に絡み合わせ、独自のオルタナティブロックサウンドを生み出した。


『Gigi's Recovery』にはThe Murder Capitalの新しい代名詞とも言えるサウンドが収録。バラードをオルト・ロックとして昇華した「Only Good Thing」、Radioheadの次世代のサウンド「A Thousand Lives」もまた、バンドらしくクールとしか言いようがない。今年、バンドはコーチェラ・フェスティバルでもライブパフォーマンスを行い、海外にもその名を轟かせることになった。  

 

 

Best Track 「A Thousand Lives」

 


 

 

Fucked Up 『One Day』 


 

Label: Merge

Release: 2023/1/27

Genre: Punk/Hardcore



2001年に結成されたカナダ/トロントのFucked Up。Matador Records、Jade Tree等、アメリカの主要なインディーロック/パンクのレーベルを渡り歩いてきた。6人組編成らしい分厚いポスト・ハードコアサウンドに、英国にルーツを持つダミアン・アブラハムの迫力のあるボーカル、実験的なエレクトロサウンドを組み合わせ、次世代のポスト・ハードコアサウンドを生み出す。

 

『One Day』はカナダ/トロントの伝説的なグループが一日という期間を設け、ソングライティング、レコーディングを行った。一発録音ではなく、トラックごとに分けて、八時間ごとの三つのセクションに分割し、レコーディングが行われ、2019年と2020年の二回にわたって制作された作品。しかし、それらの個別のトラックは正真正銘、「一日」で録音されたものだという。

 

本作は、硬派なポスト・ハードコアサウンドが主要なイメージを形作っているが、中にはメロディック・パンクからの影響も反映されている。

 

加えて、アブラハムの咆哮に近いエクストリームなメインボーカルと、分厚い編成によるコーラスワークの合致は、驚くべき美麗な瞬間を呼び起こす。エンジンが掛かるのに時間がかかるが、アルバムの中盤から終盤にかけてアンセムが多い。「Lords Of Kensington」、「Falling Right Under」、「One Day」をはじめ、Hot Water Music、Samiam、JawbreakerのようなUSエモ・パンクの精髄を受け継いだ「Cicada」も聴き応え十分。無骨なハードコアサウンドの中にあるメロディ性や哀愁のあるエモーションは、バンドの最大の魅力に挙げられる。



「Lords Of Kensington」

 

 

 

Young Fathers 『Heavy Heavy』



 

Label: Ninja Tune

Release: 2023/2/3

Genre: R&B/Hip-Hop

 

スコットランドのトリオ、Young Fathers(ヤング・ファーザーズ)は、リベリア移民、ナイジェリア移民、そしてエジンバラ出身のメンバーにより構成される。彼らの音楽の根底にあるのは、ビンデージのソウル/レゲエ。それにブレイクビーツやヒップホップのトラップの手法を加え、流動的な音楽性を生み出す。『Heavy Heavy』の背景にはレイシズムに対する反駁も込められており、ゆえに表向きの音楽性は必ずしもその限りではないものの、重力を感じるダンスミュージックとなっている。

 

バンコール、ヘイスティングス、マッサコイのトリオは、自分たちの面白そうだと思うものがあれば何であれヤング・ファーザーズの音楽に取り入れてしまう。ボーカルやコーラスワークに関しては、ソウルミュージックの性質が強いが、じっくり聴いてみると、アフリカンな民族音楽のリズムが取り入れられている。アフロビート、ビンテージ・ファンク、ソウル、ヒップホップの融合は移民としての多様性を反映した内容となっている。特にアルバムに収録されている「Drum」は、ヤング・ファーザーズが未曾有の領域にたどり着いた瞬間である。

 


Best Track「Drum」



Yo La Tengo 『This Stupid World』

 



Label: Matador

Release: 2023/2/10

Genre: Indie Rock/Alternative

 

 

1990年代から米国のオルタナティヴ・ロックシーンを牽引してきたニュージャージ州/ホーボーケンのトリオ、Yo La Tengo。元々、音楽ライターを務めていたアイラ・カプランを中心に結成。彼らは信じがたいことに、30年目にして、オルタナティヴ・ロックの高みに上り詰めた。本作のリリース後、トリオは『This Stupid World』の収録曲をライブで披露した「The Bunker Sessions」を発売し、バルセロナの音楽フェスティバル、プリマヴェーラ・サウンド 2024にも出演が決定している。

 

『This Stupid World』 は、Stereogumによると、Tortoise(トータス)のドラマーとして知られるミュージシャン、John McEntire(ジョン・マッケンタイア)が部分的にミックスを手掛けたという話である。

 

「And Then Nothing Turned Itself Inside-Out」、「Summer Sun」 といった良盤をリリースしながらもフルレングス単位では今ひとつ物足りなさがあったが、今作では従来のイメージを完全に払拭してみせた。特に、Yo La Tengoは、The Velvet Undergroundに象徴づけられるニューヨークのアヴァンギャルド・ミュージックの源泉に迫る。オープニング曲「Sinatra Drive Breakdown」、及び「Fall Out」では、オルタナティヴロック/ギターロックの最高の魅力を示している。

 

「Tonight Episode」におけるホラー映画を彷彿とさせる音楽性も、新しい魅力の一端を担っている。その後、息をつかせるジョージア・ハブレイによる穏和なバラード「Aselestine」は、「Let’s Save Tony Orland's House」に象徴される温かな曲風を想起させる。


アルバムの終盤のハイライト「This Stupid World」では、近年見過ごされがちだったギターロックの音響性の未知の可能性を示唆している。アイラ・カプランとジョージア・ハブレイは、7分に及ぶこの曲の最後で歌う。「This stupid world/ It's killing me/This stupid world/ Is all we have」。My Bloody Valentineのケヴィンの全盛期に匹敵するディストーションの怒涛の嵐の後、エレクトロニックとポップの融合に挑んだ壮大な世界観を持つ「Miles Away」では、神秘的な境地に至る。  


 


Best Track 「Fall Out」



Caroline Polachek 『Desire,I Want To Turn Into You』




Label: Perpetual Novice

Release: 2023/2/14

Genre: Pop/Experimental Pop

 


2019年末、『Pang』をリリース後、ブルックリン出身のキャロライン・ポラチェックはレコードのツアーを行う予定だったが、2020年3月のCOVID-19のパンデミックによって中断された。

 

以後、ポラチェクはロンドンに滞在し、ダニー・L・ハーレと『Desire, I Want to Turn Into You』の制作に取り組んだ。彼女はアルバムを"他のコラボレーターがほとんど参加していない "ハーレとの主要なパートナーシップであると考えた。2021年半ばまで、ポラチェックはロンドンでアルバムの制作を続け、ハーレやコラボレーターのセガ・ボデガと共にバルセロナに一時的に移住した。

 

ポラチェックは勇敢に人生を受け入れ、制作に取り組んでいる。バルセロナの滞在は『Desire,I Want To Turn Into You』の音楽性にエキゾチズムを付加することになった。旧来の楽曲のポピュラー性とアーバン・フラメンコ等の南欧の音楽が合致し、オリジナリティー溢れる作風が確立。アルバムに充溢する開放感のある雰囲気は、アーティストの未知なる魅力の一端を司っている。


「Pretty Is Possible」を筆頭に、ダンス・ミュージックを反映したモダンなポップが本作の骨格を形成する。一方、「Hopedrunk Everasking」に見受けられるナイーブな曲も聴き逃せない。その他、「Somke」、「Butterflly Net」を始めとするソングライターとしての着実な成長を伺わせる曲も収録。

 

 

Best Track  「Smoke」

 

 

 

 

Shame 『Food for Worms』

 


 

Label: Dead Oceans

Release: 2023/2/24

Genre: Post Punk/Indie Rock



ロンドンのポストパンクバンド、Shameは最新作『Food For Worms』の制作を通じて、一回り成長して帰ってきた。 


元々は、プリミティヴなポスト・パンクを強みとしていたSHAME。彼らの最新作は、オルタネイトなひねりもあるが、インディーロックやブリット・ポップ、プログレッシヴ・ロックの要素を交え、多角的なロックサウンドを追求している。

 

IDLES、Squidを筆頭に、今やロンドンは「ポスト・パンクの聖地」となりつつある。そしてSHAMEは彼らに劣らないバンドとしてのクオリティー、卓越したバンドアンサンブルを誇る。

 

オープニングを飾る「Fingers of Steel」 のドライブ感のあるポスト・パンクサウンドに加えて、エモの質感を持つ叙情的でメロディアスな曲調が彼らの強み。他にも、変拍子を交えた「Six Pack」はオリジナルパンクとしても聴けるし、プログレッシヴ・ロックとしても楽しめる。

 

中盤にも、良い曲が多く、Pavement、Guided By Voicesに近いオルタナティヴとエモの風味を加えた「Adderall」は、素晴らしいロックソング。きわめつけは、ブラー、オアシスの最初期を彷彿とさせるブリット・ポップを緊密なスタジオ・セッションに近い形で収録したクローズ曲「All The People」は、彼らが昨年からライブで温めてきたもので、Shameの新たな代名詞が誕生した瞬間。アルバムを聞き終えた後、ロックの素晴らしさと温かみに浸れること間違いなし。 



Best Track 「All The People」

 


Live Vesion

    





 

 

Yazmin Lacey 『Voice Notes』

 



Label: Own Your Own

Release: 2023/3/3

Genre: R&B/ Reggae

 

Yazmin Laceyの「Voice Notes』は、UKのR&B/レゲエの注目のアルバム。デビューアルバム『Voice Notes』は、ヤズミン・レイシーの人生の瞬間をとらえた重要な記録。Black Moon(2017年)、When The Sun Dips 90 Degrees(2018年)、Morning Matters(2020年)という3枚のEPに続く本作は、3部作の一つに位置づけられている。

 

ヤズミン・レイシーは、洗練されたサウンドを出来るだけ避け、生々しさ、つまり、アルバムタイトルにもなっているように「誰かの間に立ち止まり、声のひび割れを聞く」チャンスを与えることを選んだという。

 

ヒップホップの話法を交え、サンプリングを元にしたR&B,レゲエ、ダブをシームレスに展開させる。夜のメロウな雰囲気がアルバム全体には漂い、ときに贅沢な感覚が表現されている。特に「Bad Company」はアルバムのハイライトの一つであり、アーティストの出世作に挙げられる。

 


Best Track 「Bad Company」

 

 

 

 

Sleaford Mods 『UK Grim』

 



Label: Rough Trade

Release: 2023/3/10

Genre: Post Punk/Electronic

 

アンドリュー・ファーン、ジェイソン・ウィリアムソンによるSleaford Modsは、『Spare Ribs』に続くアルバム『UK Grim』を通じて、国外に宣伝されるイギリス像とは異なる国家観をポスト・パンクやクラブ・ミュージックで表現する。アルバムの発売の直前、The Guardianの日曜版で特集が組まれた。アルバムのタイトルは「グリム童話」と「UKグライム」を掛けていて、洒落の意味があるのだろう。

 

オープニングを飾るタイトル曲「UK Grim」は、ミュージックビデオを見ても分かる通り、政治的に過激な風刺が込められている。それをリアルから一定の距離を置いて、シニカルかつコミカルに表現するのがSleaford Modsの魅力。


今作には、複数の豪華コラボレーターが参加している。Dry Cleaningのフローレンス・ショー、そして、意外にも、Jane's Addictionのペリーファレルがゲストボーカルで参加。マドリード公演での中断が今年11月に話題を呼んだ。今後も彼らの動向から目を離すことは出来ない。もちろん同レーベルのアイルランド・フォークの重要な継承者、Lankumの『False Lankum』も聴いてみてね。


 

「So Trendy」

 

 



Unknown Mortal Orchestra 『V』(US)

 



Label: jagujaguwar

Release: 2023/3/17

Genre: Indie Rock/Alternative

 

 

ニュージーランド出身のルヴァン・ニールソン率いるアンノウン・モータル・オーケストラは、近年、ポートランドに拠点を移して活動中。従来の作品では、フリーク好みのローファイ/サイケロック/ファンクで多数のファンを魅了してきた。『V』に関しては、 ルヴァン・ニールソンがポリネシアのルーツを辿っている。サウンドプロダクションについては、ボズ・スキャッグス、ボビー・コールドウェルといった70、80年代のポピュラー音楽が重要なファクターとなっている。それに加えて、ニールソンのルーツであるハワイの南国的な雰囲気も漂う。


本作の魅力は、ダンス・ミュージックを意識したミニマルなループ・サウンドの中に、旧来のサイケ、ファンク、ソフト・ロック、AOR,ローファイと、無数の要素が散りばめられていることにある。アルバム発表の約2年前に発表された先行シングル「That Life」を始め、アーティストの故郷への愛着が歌われた「The Beach」、哀愁に充ちた雰囲気を擁するループサウンドをローファイとして処理した「The Garden」等、聴き応えたっぷりの良曲が多数収録されている。

 


Best Track 「The Beach」

 

 

 

 

 Lucinda Chua 『YIAN』



Label: 4AD

Release: 2023/3/24

Genre: Pop/Modern Classical/R&B

 

 

ロンドンを拠点に活動する中国系イギリス人シンガー、Lucinda Chua(ルシンダ・チュア)は、当初、フォトグラファーとして活動し、後にチェリストに転向している。以後、Oneohtrix Pointnever(ダニエル・ロパティン)でのツアーサポートを期に、エレクトロニック/アンビエント界隈で、名を知られるようになった。2021年、4ADと契約を交わし、ソングライターに転向した。 


モダンクラシカル/ポピュラー/アンビエントをクロスオーバーし、美麗な音楽世界を構築するようになった。「Antidotes Ⅰ、Ⅱ」では、幼い頃から親しんできたピアノ、そしてチェロ、エレクトロニック、彼女自身のボーカルを交え、このシンガーソングライターにしか表現しえないオリジナリティー溢れる音楽を作り出した。

 

最新作『YIAN』でもピアノ/エレクトリックピアノの弾き語りを中心に落ち着いたモダンクラシカルを基調としたポピュラー・ミュージックのアプローチが図られている。しかし、ボーカルから滲み出るネオ・ソウルの質感は、シンガーの人間的な成長、あるいは考えの深化を表し、そしてそれを支える華麗なストリングスは、ルシンダ・チュアがよりワールドワイドなシンガーソングライターの道を歩み始めたことの証ともなりえる。繊細な感覚を持つピアノとボーカルのハーモニーが合わさった時、息を飲むような美麗さが訪れる。本作の音楽にはイメージの換気力があり、表向きの印象の奥底に、ピクチャレスクな印象が立ち上ることもある。

 

「Golden」、「I Promise」、「Echo」を始め、聞きやすさと深みを兼ね備えた美麗なモダンクラシカルを基調とするポップソングが鮮烈な印象を擁する。


オーケストレーションを用いた「Meditations on a Place」、ボーカリストとしての進化を意味する「Autumn Leaves Don't Come」も聞き逃せない。デビューEP「Antidotes」以降の音楽性は、アルバムのクローズ曲「Something Other Than You」において、ひとまず集大成を迎えたと見て良さそうだ。 

 


Best Track 「Something Other Than You」

 

 

 

 Lana Del Rey 『Did You Know That There's a Tunnel Ocean Blvd」





Label:  Polydor

Release: 2023/3/24

Genre: Pop

 

 

米国では最も影響力のあるシンガーソングライター、ラナ・デル・レイ。先日発表されたグラミー賞では、主要部門にノミネートされた。『Did you know? ~』のアートワークとタイトルーー地下トンネルの存在とジュディー・ガーランド扮するアーティストーーには暗示的なメッセージが含まれている。

 

アーティストの最も傑出したところは、ビックアーティストになろうとも、出発点を忘れず、サッドコアを始めとするインディーミュージックにも重点を置いている点にある。加えて、アーティストは、今年の夏頃、地元の小さなマーケットのスタッフとして短期的に勤務していた。スターではあるものの、一般的な人々に目を向けていることは本当に尊敬するよりほかない。

 

このアルバムがポピュラー音楽として秀作以上の何かがあることは、レコーディング・アカデミーの太鼓判を見ても明らかである。さらに、デビューから10年あまりを経て、このアルバムのサウンドに円熟味を感じたとしても、思い違いではない。特に「The Grant」のミュージカル等に触発されたシアトリカルなサウンドを提示し、アーティストとしての真心が込められたタイトル曲も切なく、琴線に触れるものがある。


「A&W」における映画音楽を彷彿とさせる音楽性に関しても、作品全体に堅固な存在感とポップスとしての聴き応えをもたらしている。以前、コラボ経験のあるFather John Misty,そして同じく、2023年度のグラミー賞にノミネートされたJon Batisteの参加も聴き逃せない。この上なく洗練されたポピュラーミュージックの至宝。年代を問わず幅広いリスナーに推薦したいアルバム。

 

 

Best Track 「A&W」

 

 

 

 

boygenius 『the record」-Album Of The Year

 


 

Label: Interscope

Release: 2023/3/31

Genre: Indie Rock


元々、ソロシンガーとして活動していたルーシー・デイカス、フィービー・ブリジャーズ、ジュリアン・ベイカーによるboygenius。


今年始め、いきなりロサンゼルスの街角でNirvanaの三人に変装して撮影された写真を公開して、ファンの話題を攫った。今、考えてみれば、ボーイ・ジーニアスの壮大なストーリーの始まりで、デビューアルバム『the record』の告知でもあった。


デビュー・アルバムは、Rolling Stone誌のカバーを飾り、グラミー賞の主要部門にもノミネートされた。実際、このアルバムは商業的な路線を図りながらも聴き応え十分の内容だ。3人のソングライティングの個性が劇的に融合を果たしている。特にコーラスのハーモニーが織りなす美しさに着目したい。

 

ゴスペル風の作風に挑戦したオープナー「Without You Without Them」、すでにライブ等で定番といえる「Cool About It」、「Not Strong Enough」等、インディーロック、フォーク、ポップスを軽やかにクロスオーバーしている。もちろん、フィービー・ブリジャーズのソングライティングにおける繊細でエモーショナルな感覚も内在している。アルバムの中で唯一、ポストロック的なアプローチを図った「$20」もクール。洋楽のロックの初心者にこのアルバムを推薦したい。

 


Best Track 「Not Strong Enough」

 

 

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