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2010年代のシンセポップ/エレクトロニックポップのミュージック・シーンの席巻から10年を経て、いよいよポップスのクロスオーバーやジャンルレス化が顕著になってきています。


その中で台頭したのが、ベッドルーム・ポップに続いて、ハイパー・ポップ、エクスペリメンタル・ポップという、ワイアードなジャンルです。これらのシーン/ウェイブに属するアーティストは、エレクトロニック、ヒップホップ、メタル、ネオソウル、パンク、コンテンポラリー・クラシカル、ゲーム音楽、それから無数のサブジャンルに至るまですべてを吸収し、それらをモダンなポピュラーミュージックとして昇華させています。2010年代以前のポピュラー音楽と2020年代以降のハイパーポップ/エクスペリメンタルポップの音楽の何が異なるのかについて言及すると、以前は耳障りの良い曲の構成やメロディーを擁するのがポピュラーとしての定義であったが、2020年代以後は必ずしもそうとは言いきれません。ときには、ノイズやアヴァンギャルドミュージックを取り入れ、かなりマニアックな音楽性を選ぶこともあるようです。


特に若い世代にかけて、さらにいえば、流行やファッション性、あるいはデジタルカルチャーに敏感な10代、20代のアーティストにこの傾向が多く見られます。若い年代において広範な音楽的な蓄積を積み重ねることはほとんど不可能であるように思えますが、ご存知の通り、サブスクリプションやストリーミング・サービスの一般的な普及により、リスナーは無数の音楽に以前より簡単にアクセス出来るようになり、それと同時に、自分の好みの音楽を瞬時にアクセス出来るようになったこと(かつての書庫のように膨大な数のレコードのラックを血眼になって探し回る必要はなくなった)、SoundcloudやYoutube、あるいは、TikTokで自らの制作した音楽を気軽にアップロード出来るようになったこと、次いで、それらのアップロード曲に関するリスナーのリアクションが可視化出来るようになったことが非常に大きいように推測されます。


これは、デビュー作をリリースしたばかりのイギリスのシンガー、Pinkpantheressも話している通りで、自分の音楽が大衆にどれくらい受け入れられるのかを推し量る「リトマス試験紙」のようになっています。つまり、こういった手段を取ることにより、ポピュラリティーと自らのマニア性のズレを見誤ることが少なくなった。つまり、多数のリスナーがどういった音楽を必要としているのか、音楽市場の需要がアーティストにも手に取るように分かるようになったのです。もちろん、あえてそのことを熟知した上で、スノビズムを押し出す場合があるにしても……。

 

そんな中、2023年は女性、あるいはこのジャンルに象徴づけられるノンバイナリーを自称するシンガーソングライターを中心に、これらのハイパーポップのリリースが盛んでした。特にハイパーポップ/エクスペリメンタルポップに属するアーティストに多く見受けられたのが、自らの独自のサブカルチャー性や嗜好性を、それらのポピュラリティーの中に取り入れるというスタイルです。音楽的に言及すれば、メタルのサブジャンルや、エレクトロニックのグリッチを普通に吸収したポップサウンドを提示するようになってきています。これはUKラップなどで普通にグリッチを取り入れることが一般的になっているのと同じように、ポピュラー・ミュージックシーンにもそれらのウェイブが普及しつつあるという動向を捉えることが出来るでしょう。

 

2023年以降のポピュラー・ミュージックシーン、特に、ハイパーポップというジャンルを見る限りでは、それらの中にどういった独自性を付け加えるのかが今後のこのジャンルの命運を分けるように思われる。


特に今年活躍が目立ったのはアジアにルーツを持つ女性、あるいはノンバイナリーのアーティストだ。必ずしも耳の肥えたリスナー、百戦錬磨のメディア関係者ですら、これらのジャンルの内奥まで理解しているとは言い難いかもしれませんが、少なくともこのジャンルの巻き起こすニューウェイブは、来年移行のミュージックシーンでも強い存在感を示し続けるに違いありません。

 

今年、登場した注目のハイパーポップ/エクスペリメンタルポップアーティスト、及びその作品を以下にご紹介していきます。

 

 

 

 

・シンガポール出身のハイパーポップの新星 Yeule  ーグリッチサウンドとサブカルチャーの融合ー

 

 

Pitchfork Musiic Festivalにも出演経験のあるYeuleは、シンガポール出身のシンガーソングライターであり、現在はLAを拠点に活動している。イエールは、日本のサブカルチャーに強い触発を受けている。

 

エヴァンゲリオンなどの映像作品の影響、次いで沢尻エリカなどのタレントからの影響と日本のカルチャーに親和性を持っている。加えて、Discordなどのソーシャルメディアの動きを敏感に捉え、自らの活動を、インターネットとリアルな空間を結びつけるための媒体と位置づける。

 

今年、Ninja Tuneから三作目のアルバム『softcars』を発表し、海外のメディアから高い評価を受けた。ベッドルームポップを基調としたドリーム・ポップ/シューゲイズの甘美なメロディー、そしてボーカルに加え、チップチューン、グリッチを擁するエレクトロニックを加えたサウンドが特徴となっている。もちろん、その音楽性の中にアジアのエキゾチズムを捉えることも難しくない。

 

 

「Softcar」ー『Softcar』に収録

 

 

 

 

・mui zyu  ー香港系イギリス人シンガーのもたらす摩訶不思議なエクスペリメンタル・ポップー

 

 



香港にルーツを持つイギリスのシンガー、mui zyuは他の移民と同じように、当初、自らの中国のルーツに違和感を覚え、それを恥ずかしいものとさえ捉えていた。ところが、ミュージシャンとしての道を歩み始めると、それらのルーツはむしろ誇るべきものと変化し、また音楽的な興味の源泉ともなったのだった。今年、Mui ZyuはFather/Daughterと契約を交わし、記念すべきアーティストのデビューフルレングス『Rotten Bun For An Eggless Century』(Reviewを読む)を発表した。

 

ファースト・アルバムを通じ、mui zyuは、パンデミック下のアジア人差別を始めとする社会的な問題にスポットライトを当て、台湾の古い時代の歌謡曲、ゲーム音楽に強い触発を受け、SFと幻想性を織り交ぜたシンセ・ポップを展開させている。他にもアーティストは、中国の古来の楽器、古箏、二胡の演奏をレコーディングの中に導入し、摩訶不思議な世界観を確立している。

 

 

「Hotel Mini Soap」ー『Rotten Bun For An Eggless Century』に収録

 

 

 

 

・Miss Grit   ーデジタル化、サイボーグ化する現代社会におけるヒューマニティーの探求ー

 



デジタル管理社会に順応出来る人々もいれば、それとは対象的に、その動きになんらかの違和感を覚える人もいる。ニューヨークを拠点に活動する韓国系アメリカ人ミュージシャン、マーガレット・ソーンは後者に属し、サイボーグ化しつつある人類、その流れの中でうごめくヒューマニティーをアーティストが得意とするシンセポップ、アートポップの領域で表現しようと試みている。


デビューアルバム『Follow the Cyborg』(Reviewを読む)をMuteから発表。『Follow the Cyborg』でソーンは、機械が、その無力な起源から自覚と解放へと向かう過程を追求している。この作品は、エレクトロニックな実験と刺激的なエレキギターが織り成す音の世界を表現している。ピッチフォークが評したように、「ミス・グリットは、彼女の曲を整然とした予測可能な形に詰め込むことを拒み、その代わりに、のびのびと裂けるように聴かせる」


ミス・グリッツがサイボーグの人生についてのアルバムを構想するきっかけとなったのは、このような機械的な存在のあり方に対する自身の関わりからきている。混血、ノンバイナリーであるソーンは、外界から押しつけられるアイデンティティの限界を頑なに拒否し、流動的で複雑な自己理解を受け入れてきた。ローリング・ストーン誌に「独創的で鋭いシンガー・ソングライター」と賞賛されたMiss Gritのプロセスは内省的で、ビジョンは正確である。ミス・グリッドは、サイボーグの人生を探求する中で、『her 世界でひとつの彼女』、『エクス・マキナ』、『攻殻機動隊』、ジア・トレンティーノのエッセイ(『Trick Mirror: Reflections on Self-Delusion』より)、ドナ・ホロウェイの『A Cyborg Manifesto』などに触発を受けている。

 


「Follow The Cyborg」ー『Follow The Cyborg』に収録

 

 

 

  Yaeji  ーXL Recordingsが送り出す新世代のエレクトロニック・ポップの新星ー




ニューヨーク出身の韓国系エレクトロニックミュージック・プロデューサーであり、DJ、さらにヴォーカリスト、Yaeji(イェジ)は、K-POPのネクスト・ウェイブの象徴的なアーティストに位置づけられる。

 

2017年のEPリリースをきっかけに世界的に高い評価を受けた後、彼女はチャーリーXCX、デュア・リパ、ロビンのリミックスを手掛け、2回のワールドツアーをソールドアウトさせ、デビュー・ミックステープ・プロジェクト『WHAT WE DREW 우리가 그려왔던』をリリースした。

 

クイーンズのフラッシングで生まれたイェジのルーツは、ソウル、アトランタ、ロングアイランドに散りばめられている。韓国のインディー・ロックやエレクトロニカ、1990年代後半から2000年代前半のヒップホップやR&Bに影響を受けており、彼女のユニークなハイブリッド・サウンドの背景ともなっている。


『With A Hammer』は、コロナウィルスの大流行による閉鎖期間中に、ニューヨーク、ソウル、ロンドンで2年間にわたって制作された。これは、アーティストの自己探求への日記的な頌歌であり、自分自身の感情と向き合う感覚、勇気を出してそうすることで可能になる変化である。

 

この場合、Yaejiは、怒りと自分の関係を検証している。これまでの作品とは一線を画している。トリップホップやロックの要素と、慣れ親しんだハウスの影響を受けたスタイルを融合させ、英語と韓国語の両方で、ダークで内省的な歌詞のテーマを扱っている。ヤエジはこのアルバムで初めて生楽器を使用し、生演奏のミュージシャンによるパッチワークのようなアンサンブルを織り交ぜ、彼女自身のギター演奏も取り入れる。「With A Hammer』では、エレクトロニック・プロデューサー、親しいコラボレーターでもあるK WataとEnayetをフィーチャーし、ロンドンのLoraine JamesとボルチモアのNourished by Timeがゲスト・ヴォーカルとして参加している。

 

 

「easy breezy」ー『With A Hammer』に収録

 

 

 

 

yune pinku  ーロンドンのクラブカルチャーを吸収した最もコアなエレクトロ・ポップー

 



現在、サウスロンドン出身のyune pinkuは特異なルーツを持ち、アイルランドとマレーシアの双方のDNAを受け継いでいる。"post-pinkpantheress"とみなしても違和感のないシンガーソングライター。現時点では、シングルのリリースと2022年のEPのリリースを行ったのみで、その全貌は謎めいている部分もある。yuneというのは、子供の頃のニックネームに因み、10代の頃にはビージーズやキンクス、ジョニ・ミッチェルの音楽に薫陶を受けた。若い頃にパンクとインディーズカルチャーに親しみ、その後、ロンドンのクラブカルチャーでファンベースを広げた。

 

彼女の音楽には、最もコアなロンドンのクラブ・ミュージックの反映があり、そこにはUKガレージ、ダブステップ、 ハウス、ダンスミュージック全般的な実験性を読み解くことが出来る。yune pinkの生み出すエレクトロニック・ポップが斬新である理由は、その音楽に対する目が完全には開かれていないことによる。電子的な音楽を聴くのが楽しくて仕方がないらしく、「まだ電子音楽の異なるジャンルに新しい発見をしている途中なんです」とアーティストは語る。


yuneにとってダンスミュージックはまだ新しく未知なるものなのである。そのため、複数のシングルには電子音楽としてセンセーショナルな輝きに充ちている。今年、発表されたシングル「Heartbeat」は、エレクトロニックのみならず、ポピュラーミュージックとしても先鋭的な響きを持ち合わせている。今後、注目しておきたいアーティスト。

 


「Heartbeat」ーSingle

 

 

 

Saya Gray   ーCharli XCXのポスト世代に属する前衛的なポピュラー・ミュージックー




今年、Dirty Hitからアルバム『QWERTY』をリリースしたSaya Gray(サヤ・グレー)はトロント生まれ。


アレサ・フランクリン、エラ・フィッツジェラルドとも共演してきたカナダ人トランペット奏者/作曲家/エンジニアのチャーリー・グレイを父に持ち、カナダの音楽学校「Discovery Through the Arts」を設立したマドカ・ムラタを母にもつ音楽一家に育ち、幼い頃から兄のルシアン・グレイとさまざまな楽器を習得した。グレーは10代の頃にバンド活動を始め、ジャマイカのペンテコステ教会でセッションに明け暮れた。その後、ベーシストとして世界中をツアーで回るようになり、ダニエル・シーザーやウィロー・スミスの音楽監督も務めている。


サヤ・グレーの母親は浜松出身の日本人。父はスコットランド系のカナダ人である。典型的な日本人家庭で育ったというシンガーは日本のポップスの影響を受けており、それは前作『19 Masters』でひとまず完成を見た。

 

デビュー当時の音楽性に関しては、「グランジーなベッドルームポップ」とも称されていたが、二作目となる『QWENTY』では無数の実験音楽の要素がポピュラー・ミュージック下に置かれている。ラップ/ネオソウルのブレイクビーツの手法、ミュージック・コンクレートの影響を交え、エクスペリメンタルポップの領域に歩みを進め、モダンクラシカル/コンテンポラリークラシカルの音楽性も付加されている。かと思えば、その後、Aphex Twin/Squarepusherの作風に象徴づけられる細分化されたドラムンベース/ドリルンベースのビートが反映される場合もある。それはCharli XCXを始めとする現代のポピュラリティの継承の意図も込められているように思える。

 

曲の中で音楽性そのものが落ち着きなく変化していく点については、海外のメディアからも高評価を受けたハイパーポップの新星、Yves Tumorの1stアルバムの作風を彷彿とさせるものがある。サヤ・グレーの音楽はジャンルの規定を拒絶するかのようであり、クローズ「Or Furikake」ではメタル/ノイズの要素を込めたハイパーポップに転じている。また作風に関しては、極めて広範なジャンルを擁する実験的な作風が主体となっている。一般受けはしないかもしれないが、ポピュラーミュージックシーンに新風を巻き起こしそうなシンガーである。

 


 



2023年のロック・シーンも一言でいえば「盛況」だった。ブリット・ポップの伝説、ブラーの復活宣言、新作アルバムのリリース、そしてワールド・ツアーは当然のことながら、ホーキンス亡き後のフー・ファイターズの新作のリリースもあった。他にも、スラッシュ・メタルの雄、メタリカの新作も全盛期に劣らぬパワフルな内容だった。スウェーデンのガレージ・ロックの伝説、Hivesの新作リリースもあった。そして、彼らの後を追従する若い世代のパラモアもメインのロックシーンで相変わらず存在感を示してみせた。ロックとは何なのか、音楽として聴けば聴くほどわからなくなるというのが本音だが、ハイヴズがその答えを端的に示してくれている。

 

Hivesが言うように、「ロックとは成熟することを拒絶すること」なのであり、また熟達するとか洗練されることから背を向けて一歩ずつ遠ざかっていくことでもある。一般的な人々が世界的なロックバンドに快哉を叫ぶことすらあるのは、そういった人々が年々周囲に少なくなっていくことに理由がある。


すでにご承知のように、ロックとは、パンクと同じように、単なる音楽のジャンルを指すものではなく、アティテュードやスタンスを示すものなのである。そもそも、世間や共同体が大多数の市民に要請する規範や規律から距離を置くことなのであり、私達のよく見聞きする倫理や模範とかいう概念を軽々と超越することなのだ。以下、ベスト・リストとしてご紹介する、2023年度のロックバンドの人々は、おしなべてそのことを熟知しているのであり、そもそもロックが社会が要請する常識的な概念とは別の領域に存在することを教唆してくれる。人間は、年を重ね、人格的に成長すればするほど、規範や模範という概念に縛りつけられるのが常だが、どうやらここに紹介する人たちは、幸運にもそれらのスタンダードから逃れることが出来たらしい。

 

 

 

Foo Fighters  「But Here We Are」


Label: Roswell

Release : 2023/6/2

 

テイラー・ホーキンスの亡き後も、結局、フー・ファイターズは前進を止めることはなかった。『But Here We Areは表向きにはそのことは示されていないが、暗示的にホーキンスの追悼の意味が込められている収録曲もある。グランジの後の時代にヘヴィーなロック・バンドというテーゼを引っ提げて走りつづけてきたデイヴ・グロール率いるフー・ファイターズであるが、新作アルバムではアメリカン・ロックの精髄に迫ろうとしている。更にこれまで表向きには示されてこなったバンドの音楽のナイーブな一面をスタンダードなロックサウンドから読み取る事もできる。

 

そしてメインストリームで活躍するバンドでありながら、このアルバムの主要なサウンドに還流するのは、2000年代、あるいはそれ以前のUSインディーロック/カレッジロックのスピリットである。それらをライブステージに映える形の親しみやすくダイナミックなロックソングに昇華させた手腕は瞠目すべき点がある。そして、ソングライティングの全体的な印象についてはボブ・モールドのSugarのスタイルに近いものがある。オープニングを飾る「Rescued」、「Under You」はフー・ファイターズの新しいライブ・レパートリーが誕生した瞬間と言えるだろう。

 

Best Track 「Resucue」 




Paramore 「This Is Why」

 

 

Label: Atlantic

Release: 2023/2/10


今年、本国の音楽メディアにとどまらず、英国のメディアをも絶叫させた6年ぶりとなる新作アルバムを発表したパラモア。だが発売当初の熱狂ぶりはどこへやら、一ヶ月後そのお祭り騒ぎは少し収まり始めていた。しかし、落ち着いてから改めて聞き直すと、良作の部類に入るアルバムで、正直いうと、マニアックなインディーロックアルバムよりも聞き所があるかもしれない。特に「The News」はポスト・パンクとして見ると、玄人好みの一曲となっていることは確かだ。

 

『This Is Why』は現代社会についてセンセーショナルに書かれた曲が多い。タイトル曲では、インターネット/ソーシャルメディア文化の息苦しさや、公然と浴びせられる中傷について嘆きながら、苛立ちの声を上げ、「意見があるならそれを押し通すべき」と歌う。ウィリアムズの怒りと苛立ちを表現したこの曲は、Paramoreの先行アルバム『After Laughter』のダンス・ファンクにエッジを加えることに成功し、多くの人の共感を呼ぶ内容となっている。ドラマーのザックは世界的に見ても傑出した演奏者であり、彼のもたらす強固なグルーブも聴き逃がせない。

 


Best Track 「The News」

 

 

 

 Metallica 「72 Seasons」

 


 

 Label: Blackend Recordings Inc.

Release: 2023/4/14

 

一般的にいうと、大型アーティストやバンドのリリース情報というのは、レーベルのプロモーションを通じて、大手メディアなどに紹介され、順次、中型のメディア、そして零細メディアへと網の目のようにニュースが駆け巡るものである。しかし、近年、限定ウイスキーの生産及び公式販売など、サイド・ビジネスを手掛けていたメタリカの新作アルバム「72 Seasons」の発表は、ほとんどサプライズで行われた。


ドラマーのラーズ・ウィリッヒが語ったところによると、新作の情報を黙っていようとメンバー間で示し合わせていたという。そういったこともあってか、実際にサプライズ的に発表された『72 Seasons』(Reviewを読む)は多くのメタルファンに驚きを与えたものと思われる。

 

実際のアルバムの評価は、メタル・ハマーなどの主要誌を見ると、それほど絶賛というわけでもなかった。しかしながら、多くのメタルバンドが商業的に成功を収めるにつれて、バンドの核心にある重要ななにかを失っていくケースが多い中、メタリカだけではそうではないということが分かった。

 

確かに、フルレングスのアルバムとして聴くと、全盛期ほどの名盤ではないのかもしれないが、特にオープニングに収録されている「72 Seasons」LUX ÆTERNAの2曲は、スラッシュ・メタルの重要な貢献者、そしてレジェンドとしての風格をしたたかに示している。特にラーズ・ウィリッヒのドラムのスネア、タム、ハイハットの連打は、精密機械のモーターのように素早く中空で回転しながら、フロント側のヘッドフィールドのギター/ボーカル、他のサウンドを強固に支え、それらを一つにまとめ上げている。90年代のUSロックの雰囲気に加え、80年代のプログレッシヴ・メタルの影響を反映した変拍子や創造性に富んだ展開力も健在だ。

  


Best Track 「72 Seasons」

 

 

 

 

Hives  「The Death of Randy Fitzsimmons」



Label: Hives AB

Release: 2023/8/11

 

スウェーデンは90年代後半、ガレージロックやパンクが盛んであった時期があり、Backyard Babies、Hellacoptersと、かっこいいバンドが数多く活躍していた。しかし、最も人気を博したのは、ガレージ・ロックのリバイバルを合間を縫って台頭したHivesだ。デビュー当時の代表曲「Hate To Say I Told You So」はロックのスタンダード・ナンバーとして今なお鮮烈な印象を放っている。


『The Death of Randy Fitzsimmons』はコンセプチュアルな意味が込められ、さらにドラマ仕立てのジョークが込められている。なんでも、ハイヴズの曲は「ランディ・フィッツシモンズ」という謎のスヴェンガリによって書かれたと長い間言われてきたというが、一度も一般人の目に触れることはなかった。そして、つい最近になって、フィッツシモンズが "死んだ"らしく、ハイブスは彼の墓を探し回っていたところ、偶然にもデモ音源を発見し、『ランディ・フィッツシモンズの死』というタイトルにふさわしいアルバムに仕上げた(と言う設定となっている)。

 

まるで墓から蘇ったかのように久しぶりのアルバムをリリースしたハイヴズ。しかし、年を経ても彼らのロックバンドとしてのやんちゃぶりは健在である。さらに、アホさ加減は現代のバンドの中でも群を抜いている。先行シングルのビデオに関しても、シュールなジョークで笑わせに来ているとしか思えない。もちろん、新作アルバムについても、シンプルな8ビートを基調としたガレージ・ロックのストレートさには、唖然とさせるものがある。そして、アルバムに充るストレートな表現やシンプル性は、複雑化し、細分化しすぎた音楽をあらためて均一化するような意味がこめられているのではないか。サビのシンガロングなコーラスワークもすでにお約束となっている。

 

「ロックとは成長するものではない!!」と豪語するハイヴズ。しかしながら、彼らの音楽が2000年代から何ひとつも変わっていないかといえば、多分そうではない。アルバムの後半では、クラフトワークのようなテクノ風の実験的なロックの作風に挑戦しているのには、少し笑ってしまった。

 

 

 Best Track 「Bogus Operandi」

 

 

 

 

 Blur  「The Ballad Of Darren」

 


Label: Warner Music

Release; 2023/7/21



オリジナル・アルバムとしては2015年以来となるブラーの『The Ballard Of Darren』。デーモン・アルバーンはこのアルバムに関して最善は尽くしたものの、現在はあまり聴いていないと明かしている。どちらかといえば、先鋭的な音楽性という面では、グラハム・コクソンの新プロジェクト、The Waeveのセルフタイトル(Reviewを読む)の方に軍配が上がったという印象もある。もちろん、音楽は優劣や相対的な評価で聴くものではないのだけれど。

 

デーモン・アルバーンはどれだけ多くのロックバンドをかき集めようとも、テイラー・スウィフト一人が生み出す巨大な富には太刀打ちできない、とも回想していた。 そんな中で、ブリット・ポップ全盛期の時代の勘のようなものを取り戻すべく苦心したというような趣旨のことも話していた。

 

今作には、彼らの代名詞であるアート・ロック、そして現代的なポストパンクの要素、それからブリットポップの探求など、様々な音楽性が取り入れられている。磨き上げられたサウンドの中には懐古的な響きとともに、現代的な音楽性も加わっている。特に、オープニング「The Ballad」はシンセ・ポップとスタイル・カウンシルの渋さが掛け合せたような一曲だ。その他、録音機材の写真を見ても、シンセ・ポップをポスト・パンク的な音響をダイレクトに合致させ、新しいサウンドを生み出そうしている。彼らの目論むすべてが完成したと見るのは早計かもしれないが、新しいブラーサウンドが出来つつある予兆を捉えることも出来る。つまり、このアルバムは、どちらかといえば結果を楽しむというより、過程を楽しむような作品に位置づけられる。

 

 

Best Track 「The Ballad」

 

  


 Queen Of The Stone Age 「In Times New Roman...」

 


 

Label: Matador 

Release: 2023/6/16

 

 ストーナーロックの元祖、砂漠の大音量のロックとも称されるKyussの主要なメンバーであるジョッシュ・オムを中心とするQOTSA。すでに多くのヒット・ソングを持ち、そのなかには「No One Knows」、「Feel Good Hit Of The Summer」など、ロックソングとして後世に語り継がれるであろう曲がある。2017年の『Villains』に続く最新アルバム『In Times New Roman...』はジョッシュ・オムの癌の闘病中に書かれ、ロックバンドの苦闘の過程を描いている。現在、オムの手術は成功したようで、ファンとしては胸をなでおろしていることだろう。

 

今作には、ガレージ・ロック調の曲で、ジョッシュ・オムが「お気に入り」と語っていた「Paper Machete」などストレートなロックソングが満載。タイトルにも見受けられる通り、何らかの米国南部の文化性もそれらのロックソングの中に込められているかもしれない。注目すべきはストーナーの系譜にある「Negative Space」など轟音ロックも収録されていることである。その中にはさらにテキサスのSpoonのように、ブギーのような古典的なロックの要素も加味されている。轟音のロックとは対象的なブルースロックも本作の重要なポイントを形成している。


 

Best Track 「Paper  Machete」

 

 

 

 

 King Gizzard & The Lizard Wizard 『The Silver Cord』



Label: KGLW

Release: 2023/10/27

 

オーストラリアのキング・ギザード&リザード・ウィザードはメタルやサイケロックを多角的にクロスオーバーし、変わらぬ創造性の高さを発揮してきた。ライブにも定評があり、バンドアンサンブルとして卓越した技術、さらに無数の観客を熱狂の渦に取り込むパワーを兼ね備えている。

 

『The Silver Chord』は、A面とB面で構成されている。後半部はリミックス。従来のメタルやサイケを中心とするアプローチから一転、テクノやハウスの要素を交え、それらを以前のメタルやサイケの要素と結びつけ、狂信的なエナジーを擁するロックを構築した。バンドから電子音楽を中心とする音楽性に変化したことで、一抹の不安があったが、予想を遥かに上回るクオリティーのアルバムをファンに提供したと言える。アンダーワールドやマッシヴ・アタックのダンス/エレクトロニックのスタイルにオマージュを示し、それを新たな形に変えようとしている。

 

 

Best Track 「Gilgamesh」

 

 

 

PJ Harvey   『I Inside The Old Year Dying』

 


 

Label: Partisan 

Release; 2023/7/7

 

 


これまでは長らく「音楽」という形式がポリー・ジーン・ハーヴェイの人生の中心にあったものと思われるが、それが近年では、ウィリアム・ブレイクのように、複数の芸術表現を探求するうち、音楽という形式が人生の中心から遠ざかりつつあるとPJ ハーヴェイは考えていたらしい。しかし、音楽というものがいまだにアーティストにとっては重要な意味を持つということが、『I Inside The Old Year Dying』を聴くと痛感出来る。一見すると遠回りにも思え、ばらばらに散在するとしか思えなかった点は、このアルバムで一つの線を描きつつある。

 

詩集『Orlam』の詩が、収録曲に取り入れられていること、近年、実際にワークショップの形で専門の指導を受けていた”ドーセット語”というイングランドの固有言語、日本ふうに言えば”方言”を歌唱の中に織り交ぜていること。この二点が本作を語る上で欠かさざるポイントとなるに違いない。

 

それらの文学に対する真摯な取り組みは、タイトルにも顕著な形で現れていて、現代詩に近い意味をもたらしている。「死せる旧い年代のなかにある私」とは、なかなか難渋な意味が込められており、息絶えた時代の英国文化に現代人として思いを馳せるとともに、実際に”ドーセット語”を通じ、旧い時代の中に入り込んでいく試みとなっている。

 

これは昨年のウェールズのシンガー、Gwenno(グウェノー)が『Tresor』(Reviewを読む)において、コーニッシュ語を歌の中に取り入れてみせたように、フォークロアという観点から制作されたアルバムとも解釈出来るだろう。この旧い時代の文化に対するノスタルジアというものが、音楽の中に顕著に反映されている。それはイギリスの土地に縁を持つか否かに関わらず、歴史のロマンチシズムを感じさせ、その中に没入させる誘引力を具えている。音楽的にはその限りではないけれど、今年発売されたアルバムの中では最も「ロック」のスピリットを感じたのも事実。

 

 

 Best Track『I Inside The Old Dying』





The Rolling Stones 『Hackney Diamonds』

 


Label: Polydor

Release: 2023/10/20

 

ローリング・ストーンズの最新アルバム『Hackney Diamonds』はチャーリー・ワッツがドラムを叩いている曲もあり、またレディーガガ、マッカートニー、エルトン・ジョンなど大御所が録音に参加している。

 

正直なところ、思い出作りのような作品なのではないか思っていたら、決してそうではなかったのだ。ミック・ジャガーも語っている通り、「曲の寄せ集めのようなアルバムにしたくなかった」というのは、ミュージシャンの本意であると思われる。


そして、産業ロックに近い音楽性もありながら、その中にはキース・リチャーズのブギーやブルース・ロックを基調とする渋いロック性も含まれている。そして最初期からそうであったように、フォークやカントリーの影響を込めた楽曲も「Depends On You」「Dream Skies」に見出すことも出来る。そして、「Jamping Jack Flash」の時代のアグレシッヴなロック性も「Bite My head Off」で堪能出来る。他にもダンスロック時代の余韻を留める「Mess It Up」も要チェックだ。



Best Track 「Whole Wide World」

 

 

 

 

Noel Gallagher’s High Flying Birds 『Council Skies』




Label: Sour Math

Release: 2023/6/2 

 

 

ノエル・ギャラガーは、2017年の『フー・ビルト・ザ・ムーン?』に続く11曲入りの新作アルバム『Council Skies』を、お馴染みのコラボレーターであるポール "ストレンジボーイ "ステイシーと共同プロデュースした。『Council Skies』には初期シングル「Pretty Boy」を含む3曲でジョニー・マーが参加している。


「初心に帰ることだよ」ノエル・ギャラガーは声明で述べた。「たとえば、白昼夢を見たり、空を見上げて、人生って何だろうと考えたり・・・。それは90年代初頭と同様に、今の僕にとっても真実なんだよ。私が貧困と失業の中で育ったとき、音楽が私をそこから連れ出してくれたんだ」「テレビ番組のトップ・オブ・ザ・ポップスは、木曜の夜をファンタジーの世界に変えてくれたが、自分の音楽もそうあるべきだと思うんだ。自分の音楽は、ある意味、気分を高揚させ、変化させるものでありたいと思う」

 

今作において、ノエル・ギャラガーはスタンダードなフォーク・ミュージックとカントリーの要素を交えつつも、ポピュラー・ミュージックの形にこだわっている。微細なギターのピッキングの手法やニュアンスの変化に到るまで、お手本のような演奏が展開されている。言い換えれば、音楽に対する深い理解を交えた作曲はもちろん、アコースティック/エレクトリックギターのこと細かな技法に至るまで徹底して研ぎ澄まされていることもわかる。どれほどの凄まじい練習量や試行錯誤がこのプロダクションの背後にあったのか、それは想像を絶するほどである。本作は、原型となるアイディアをその原型がなくなるまで徹底してストイックに磨き上げていった成果でもある。そのストイックぶりはプロのミュージシャンの最高峰に位置している。

 

「Love Is a Rich Man」ではスタンダードなロックの核心に迫り、Sladeの「Com On The Feel The Noise」(以前、オアシスとしてもカバーしている)グリッターロックの要素を交え、ポピュラー音楽の理想的な形を示そうとしている。ロックはテクニックを必要とせず、純粋に叫びさえすれば良いということは、スレイドの名曲のカバーを見ると分かるが、ノエル・ギャラガーはロックの本質を示そうとしているのかもしれない。


「Think Of A Number」では渋みのある硬派なアーティストとしての矜持を示した上で、アルバムのクライマックスを飾る「We're Gonna Get There In The End」は、ホーンセクションを交えた陽気で晴れやかでダイナミックな曲調で締めくくられる。そこには新しい音楽の形式を示しながら、アーティストが登場したブリット・ポップの時代に対する憧れも感じ取ることも出来る。


90年代の頃からノエル・ギャラガーが伝えようとすることは一貫している。最後のシングルの先行リリースでも語られていたことではあるが、「人生は良いものである」というシンプルなメッセージをフライング・バーズとして伝えようとしている。そして、何より、このアルバムが混沌とした世界への光明となることを、アーティストは心から願っているに違いあるまい。

 

 

Best Track 「I'm Not Giving Up Tonight」



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ALBUM OF THE YEAR 2023 今年のベスト・アルバム40をピックアップ (PART 3)




2023年度のエレクトロニック・シーンの話題の中で、最も注目すべきは、イギリスのエイフェックス・ツインがライブに復帰し、そして新作EP『Blackbox Lif Recorder 21F/In a Room7 F760 』をリリースしたことに尽きる。

 

フレッシュな存在としては、ウェールズからはトム/ラッセル兄妹によるデュオ、Overmonoが台頭し、ニューヨークのシンセ・ポップ・デュオ、Water From Your Eyesが登場している。また中堅アーティストの活躍も目覚ましく、ジェイムス・ブレイクも最新作でネオソウルとヒップホップを絡めたエレクトロニックに挑戦している。さらに、アイルランドのロイシン・マーフィーもDJ/ボーカリストとしての才覚を発揮し、最新作で好調ぶりをみせている。

 

2023年度のエレクトロニックの注目作を下記に取り上げていきます。あらためてチェックしてみて下さい。

 



Overmono 『Good Lies』


 

ウェールズから登場したトム/ラッセル兄妹によるデュオはデビュー・アルバム『Good Lies』(Review)でロンドンやマンチェスターの主要なメディアから注目を集めた。

 

ダブステップを意識した変奏ク的なベースに、ボコーダーなどを掛けたボーカルトラックを追加し、ポピュラーなダンスミュージックを制作している。少なくとも軽快なダンスミュージックとしては今年の作品の中でも抜群の出来であり、現地のフロアシーンを盛り上がらせることは間違いない。


全般的にはボーカルを交えたキャッチーなトラックが目立ち、それが彼等の名刺がわりともなっている。だが彼らの魅力はそれだけに留まらない。


その他にも二つ目のハイライト「Is U」では、ダブステップの要素を交えたグルーブ感満載のトラックを提示している。同レーベルから作品をリリースしているBurialが好きなリスナーはこの曲に惹かれるものがあると思われる。そして、それは彼らのもうひとつのルーツであるテクノという形へと発展する。この曲の展開力を通じ、ループの要素とは別にデュオの確かな創造性を感じ取ることができるはずである。

 

更にユーロビートやレイヴの多幸感を重視したクローズ曲「Calling Out」では、Overmonが一定のスタイルにとらわれていないことや、シンプルな構成を交えてどのようにフロアや観客に熱狂性を与えるのか、制作を通じて試行錯誤した跡が残されている。これらのリアルなダンスミュージックは、デュオのクラブフロアへの愛着が感じられ、それが今作の魅力になっている。

 

 


 

Aphex Twin 『Blackbox Lif Recorder 21F/In a Room7 F760 』 EP

 

 


 

近年、実験音楽をエレクトロニックの中に組み込んでいた印象のあるAphex Twin。久しぶりの復帰作は『Ambient Works』のアンビエント/ダウンテンポの時代から『Richard D James』アルバムまでのハード・テクノ、ドリルン・ベースの要素を取り入れた作風と言えるか。


しかし、パンデミックの期間を経て、何らかの制作者の心境が変わったように思え、スタジオの音源というよりも、ライブセットの中でのリアルな音響を意識した作風が目立つ。今年、ライブステージでもバーチャル・テクノロジーを活かし、画期的な演出を披露している。少なくとも、ここ近年には乏しかったリズムの変革を意識したEPであり、先行シングルとして公開されたタイトル曲は旧来のファンにとどまらず、新規のファンもチェックしておきたいシングルである。


 

 

 

 

James Blake 『Playing Robot Into Heaven』


 

来年のグラミー賞にノミネートされている本作。ロンドンのプロデューサー/シンガーソングライターによる『Playing Robot Into Heaven』は、ネオソウル、ラップ、そしてエレクトロニックとアーティストの多彩な才覚が遺憾なく発揮された作品である。前作はボーカル曲の印象が強かったが、続く今作は、ダンス・ミュージックを基調としたポピュラー音楽へと舵取りを果たした。

 

しかし、その中にはアーティストが10代の頃からロンドンのクラブ・ミュージックに親しんでいたこともあり、グライム、ベースライン、ハウス、ノイズテクノなど多彩な手法が組み込まれている。これは制作者がライブセットを多分に意識したことから、こういった作風になったものと思われる。しかし、ボーカルトラックとしては、最初期から追求してきたネオソウルを下地にした「If You Can Hear Me」が傑出している。特に面白いと思ったのは、クローズ曲で、パイプオルガンのシンセ音色を使用したクラシカルとポップスの融合にチャレンジしている。これはBBCでもお馴染みのKit Downesの作風を意識しているように思える。意欲的な作品と言える。




Loraine James 『Gentle Controntation』

 


 

ロンドンのエレクトロニックプロデューサー、ロレイン・ジェイムスは、ローレル・ヘイローの『Atlas』に関して「美しい」と評していました。

 

しかし、 『Gentle Controntation』も音の方向性こそ違えど、『Atlas』に引けを取らない素晴らしいアルバムであり、もしかりにエレクトロニックのベスト・アルバムを選ぶとしたら、『Gentle Controntation』、もしくはアメリカのJohn Tejadaの『Resound』であると考えている。

 

特に、「Post-Aphex」とも称すべきドラムンベース/ドリルンベースの変則的なリズムの妙が光り、そしてその中に独特な叙情性が漂う。おそらく、アコースティックのドラム・フィルをKassa Overall/Eli Keszlerのような感じで、ミュージック・コンクレートとして処理し、その上にシンセサイザーの音源や、ビートやパーカッションを追加した作品であると推測される。現在最も才覚のあるエレクトロニック・プロデューサーを挙げるとしたら、ロレイン・ジェイムスである。女性プロデューサーは、それほど旧来多くは活躍してこなかった印象もあるけれども、きっとこのアーティスト(ロレイン・ジェイムス)が、その流れを変えてくれるものと信じている。



 

 


Rosin Murphy 『Hit Parade』

 


 

世界的な影響力という側面で語るならば、今年度のNinja Tuneのリリースの中では、Young Fathers(ヤング・ファーザーズ)の1択なんだけれど、個人的にはアイルランド出身のSSW/DJのロイシン・マーフィーのDJ Kozeをフィーチャーした最新作『Hit Parade』が好き。

 

本作の発売前、LGBTQに関してアーティストは発言を行っていますが、別に間違ったことは言っていない。多分、ラベリングせず、個人としての尊厳を重んじてという真っ当な考えが曲解されたと思われる。言葉尻だけ捉えるかぎり、ロイシン・マーフィーの発言の真意に迫ることは難しいのだ。


マーフィーの故郷であるアイルランドで撮影されたビデオも本当に美しかった。DJセットを意識したダンスミュージックの範疇にあるネオソウルとしてはかなりの完成度を誇っている。ディスコソウルの範疇にある80年代のダンスミュージックの懐古的な雰囲気も今作の雰囲気にあっている。特にアルバムの中では、「CooCool」、「The Universe」、「Fader」はソウルミュージックのニュートレンドと言える。アルバムジャケットで敬遠するのはもったいない。

 


 

 


Sofia Kourtesis 『Madres』

 


 

ベルリンを拠点にするエレクトロニック・プロデューサー、ソフィア・クルテシスの最新作もコアなレベルでかっこいい。どちらかと言えば、エレクトロニックの初心者向けの作品ではなく、かなり聴き込んだ後に楽しむような作品。ワールドミュージックの要素を内包させたエレクトロニックだ。

 

アルバムの制作の前に、アーティストはペルーへの旅をしているが、こういったエキゾチックなサウンドスケープは、続く「Si Te Portas Bonito」でも継続している。よりローエンドを押し出したベースラインの要素を付け加え、やはり4ビートのシンプルなハウスミュージックを起点としてエネルギーを上昇させていくような感じがある。さらにスペイン語/ポルトガル語で歌われるボーカルもリラックスした気分に浸らせてくれる。Kali Uchisのような艶やかさには欠けるかもしれないが、ソフィア・クルテシスのボーカルには、やはりリラックスした感じがある。やがて、イントロから中盤にかけ、ハウスやチルアウトと思われていたビートは、終盤にかけて心楽しいサンバ風のブラジリアン・ビートへと変遷をたどり、クルテシスのボーカルを上手くフォローしながら、そして彼女持つメロディーの美麗さを引き出していく。やがてバック・ビートはシンコペーションを駆使し裏拍を強調しながら、お祭り気分を演出する。もし旅行でブラジルを訪れ、サンバのお祭りをやっていたらと、そんな不思議な気分にひたらせてくれる。

 

 

 

 

 

Water From Your Eyes 『Everyone's Crushed』

 


 

2023年、ニューヨークのMatadorと契約を交わした通称「あなたの目から水」、Water From Your Eyesのネイサンとレイチェルは、二人とも輝かしい天才性に満ちあふれている。

 

デュオはソロアーティストとして、インディーポップのマニアックな作品に取り組んでいるが、デビュー・アルバム『Everyone's Crushed』では、エレクトロニックやシンセポップ、ポスト・パンク、ノーウェイブ、インディーポップをミックスした新鮮な音楽に取り組んでいる。しかし、「あなたの目から涙」の最大の魅力は実験音楽や現代音楽に近いアヴァンギャルド性に求められる。またアルバムアートワークに象徴づけられる「AKIRA」のようなSFコミック風のイメージもデュオの魅力と言える。本作では、「Barley」のビートの変革、あるいは「14」でのオーケストラとポップス、エレクトロニックをクロスオーバーしたような作風も素晴らしい。

 

 

 


 

Avalon Emerson  『&the Charm』

 


 

イギリスのDJとして現地のクラブシーンで鳴らしてきたアヴァロン・エマーソン。実は、現地でしか聞けない音楽というのがある。それは他のどの地域でも聴くことが出来ず、またレコードなどの音源でも知ることが出来ないもの。アヴァロン・エマーソンのエレクトロニックはそういったスペシャルなダンスミュージックだ。旧来は、DJとしてクラブのフロアでならしてきたアーティスト。今作では彼女が得意とするスタイルに、ボーカルを加えたポップとして仕上げている。

 

『& the Charm』は、コアなDJとしての矜持がアルバムのいたるところに散りばめられている。テクノ、ディープハウス、オールド・スクールのUKエレクトロ、グライム、2Step、Dub Step、とフロアシーンで鳴らしてきた人物であるからこそ、バックトラックは単体で聴いたとしても高い完成度を誇っている。さらに、エマーソンの清涼感のあるボーカルは、彼女を単なるDJと見くびるリスナーの期待を良い意味で裏切るに違いあるまい。今回、アヴァン・ポップ界でその名をよく知られるブリオンをプロデューサーに起用したことからも、エマーソンがこのジャンルを志向した作曲を行おうとしたことは想像には難くない。何より、これらの曲は、踊りやすさと聞きやすいメロディーに裏打ちされポピュラーミュージックを志向していることが理解出来る。

 

 

 

 

John Tejada 『Resound』

 

 


 

オーストリア/ウィーン出身で、現在は米国のテック/ハウスの重鎮といっても過言ではない、ジョン・テハダ。このアルバムはベースの鳴りが今年度聴いた中で一番凄くて驚いてしまった。 


今年既に3作目となる『Resound』(Review)はテハダ自身がこれまで手掛けてきた音楽や映画からインスピレーションを得ている。クラシックなアナログのドラムマシンとフィードバック、そしてノイジーなディレイによるテクスチャを基盤として、テハダは元ある素材を引き伸ばしたり、曲げたり、歪ませたりしてトーンに変容をもたらす。さらにはシンセを通じてギターのような音色を作り出し、テックハウスの先にあるロック・ミュージックに近いウェイブを作り出すこともある。その広範なダンスミュージックの知識は、ゴアトランス、Massve Attackのようなロックテイストのテクノ、そして、制作者の代名詞的なサウンド、ダウンテンポを基調としたテック/ハウスと数限りない。

 

特に圧巻と思ったのは、「Fight or Flight」では、Aphex Twinの影響を感じさせる珍しいアプローチをとっている。さぞかしこの曲をDJライブセットで聴いたらかっこいいだろうなあと思う。



 

 

 Marmo  『Epistolae』


 


ロンドンのアンダーグラウンドのミュージック・シーンで着目すべきなのは、何もSaultだけではない。エレクトロ・デュオ、Marmoもまたその全容は謎めいており、あまり多くは紹介されない。以前、The Vinyle Facotryが紹介してくれたので、Marmoを知る機会に恵まれた。デュオは最初からエレクトロニックを演奏していたのではなく、10年前はメタルバンドとして活動していたという。

 

ラテン語で「書かれた手紙」を意味するという『Epistolae』は、COV期間中にロンドンとボローニャの間で制作された。COVID-19のパンデミックの最中に、ロンドンとボローニャの間で作られた作品。友情への頌歌であり、また、パンデミックの間につながりを保つ方法として作られた。

 

この作品については、デュオの謎めいたキャリアを伺わせるアヴァンギャルドな電子音楽が貫かれている。 その中には、トーン・クラスターを鋭利に表現するシンセ、ノイズ、アンビエント風の抽象的な音作り、そしてインダストリアル風の空気感も漂う。一度聴いただけでは、その音楽の全容を把握することはきわめて難しい。ロンドンの気鋭の電子音楽デュオとして要注目。






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現代音楽としてはドローン・ミュージックがスウェーデンを中心に活発な動向をみせている。最も注目したいのが商業音楽とはまったく異なる領域の前衛性を表現するグループが北欧を中心に登場しはじめている。


そんな中、実際のオーケストレーションをレコーディングの中で再現させて、古典音楽との融合にチャレンジしたのがカルフォルニアのSarah Davachiだった。その他にも、トルコ/イスタンブールのEkin Filは、Grouperに触発されたテクノ、アンビエント、フォークの中間域にある音楽を制作し、オリジナリティー溢れる作風を確立した。アジアでも実験音楽は盛んであり、韓国のデュオ、Salamandaは一定のジャンルに規定しえない実験的な電子音楽の作風で異彩を放っている。

 

 

 

Ekin Fil  『Rosewood Untitled』  

 


Label: re:st

Release:2023/1/13


『Rosewood Untitled』は2021年のギリシャ/地中海沿岸地方の大規模火災をモチーフに書かれた電子音楽である。

 

当時、地中海地域の最高気温は、47.1度を記録。記録的な熱波、及び、乾燥した大気によって、最初に発生した山火事は、二つの国のリゾート地全体に広がり、数カ月間、火は燃え広がり、収束を見ることはなかった。2021年のロイター通信の8月4日付の記事には、こう書かれている。


「ミラス(トルコ)4日 トルコのエルドアン大統領は、4日、南部沿岸地域で一週間続いている山火事について、『同国史上最悪規模の規模』であると述べた。4日には、南西部にある発電所にも火が燃え移った。高温と乾燥した強風に煽られ、火災が広がる中、先週以降8人が死亡。エーゲ海や地中海沿岸では、地元住民や外国観光客らが自宅やホテルから避難を余儀なくされた」。この大規模な山火事については同国の通信社”アナトリア通信”も取り上げた。数カ月間の火事は人間だけでなく、動物たちをも烟火の中に飲み込んでしまった」


このギリシャとトルコの両地域のリゾート地を中心に発生した長期間に及ぶ山火事に触発されたアンビエントという形で制作されたのが、イスタンブールの電子音楽家、エキン・フィルの最新アルバム『 Rosewood Untitled』。多作な音楽家で、2011年のデビューアルバム『Language』から、昨年までに14作をコンスタントに発表。

 

エキン・フィルは、基本的にはアンビエント/ドローンを音楽性の主な領域に置いている。今作『Rosewood Untitled』において、画期的なアンビエントやテクノを制作している。昨年に発表した『Dora Agora』は、以前の作風とは少しだけ異なり、ドリーム・ポップ/シューゲイザーとアンビエントを融合させ、画期的な手法を確立している。Music Tribuneはトルコの地震直後に安否確認を行ったが、その三ヶ月後、アーティスト自身の連絡により無事を確認している。

 


 

 


marine eyes  『idyll』- Expanded

 



Label: Stereoscenic

Release: 2023/3/27


 

ロサンゼルスのアンビエント・プロデューサー、Marine Eyes(マリン・アイズ)の昨日発売された最新作『Idyll』の拡張版は、我々が待ち望んでいた癒やし系のアンビエントの快作である。2021年にリリースされたオリジナル・バージョンに複数のリミックスを追加している。

 

Marine Eyesは、アンビエントのシークエンスにギターの録音を加え、心地よい音響空間をもたらしている。作品のテーマとしては、海と空を思わせる広々としたサウンドスケープが特徴。オリジナル作と同じように、拡張版も、ヒーリング・ミュージックとアンビエントの中間にある和らいだ抽象的な音楽を楽しむことが出来る。日頃、私達は言葉が過剰な世の中に生きているが、現行の多くのインストゥルメンタリスト、及び、アンビエント・プロデューサーと同じように、このアルバムでは言葉を極限まで薄れさせ、情感を大切にすることにポイントが絞られている。


タイトル・トラック「Idyll」に象徴されるシンセサイザーのパッドを使用した奥行きのあるアブストラクトなアンビエントは、それほど現行のアンビエントシーンにおいて特異な内容とはいえないが、過去のニューエイジのミュージックや、エンヤの全盛期のような清涼感溢れる雰囲気を醸し出す。それは具体的な事物を表現したいというのではなく、日常に溢れる安らいだ空気感を、大きな音のキャンバスへと落とし込んだとも称せる。制作者の音楽は、情報や刺激が過剰な現代社会に生きる私達の心に、ちょっとした余白や空白を設け、癒やしを与えてくれる。

 

 

 

 

 

Tim Hecker 『No Highs』

 



 Label: kranky

Release: 2023/4/7


シカゴのKrankyからリリースされた『No Highs』』は、前述の2枚のレコードのジャケットのうち、2枚目のジャケットの白とグレーを採用し、濃い霧(またはスモッグ)に包まれた逆さまの都市を表現しています。


このアルバムは、カナダ出身のプロデューサーの新しい道を示す役目を担った。Ben Frostのプロジェクトと並行しているためなのか、リリース時のアーティスト写真に象徴されるように、北極圏と音響の要素に彩られていますが、基本的には落ち着いたアルペジエーターによって盛り上げられるアンビエント/ダウンテンポの作品となっています。ノート(音符)の進行はしばしば水平に配置され、サウンドスケープは映画的で、ビートはパルス状のモールス信号のように一定に均されており、緊張、中断、静止の間に構築されたアンビエントが探求されている。特に『Monotony II』では、コリン・ステットソンのモードサックスが登場するのに注目です。


『No Highs』は「コーポレート・アンビエント」に対する防波堤として、また「エスカピズム」からの脱出として発表された。この作品は、作者がこれほど注意深くインスピレーションを持って扱う方法を知っている人物(同国のロスシルを除いて)はいないことを再確認させてくれる。


以前、音響学(都市の騒音)を専門的に研究していたこともあってか、これまで難解なアンビエント/ドローンを制作するイメージもあったティム・ヘッカーではありますが、『No Highs』は改めて音響学の見識を活かしながら、それらを前衛的なパルスという形式を通してリスナーに捉えやすい形式で提示するべく趣向を凝らしている。ティム・ヘッカーは、アルバムを通じて、音響学という範疇を超越し、卓越したノイズ・アンビエントを展開させている。それは”Post-Drone”、"Pulse-Ambient"と称するべき未曾有の形式であり、ノルウェーの前衛的なサックス奏者Jan Garbarek(ヤン・ガルバレク)の傑作「Rites」に近いスリリングな響きすら持ち合わせている。

 

 

 

 

 

 

Ellen Arkbro 『Sounds While Waiting』

 

 


Label: W.25TH

Release: 2023/10/13


スウェーデンの現代音楽家/実験音楽家、エレン・アルクブロ(Ellen Arkbro)は2019年に、パイプオルガンの音色を用いたシンセサイザーとギターのドローン音による和声法を対比的に構築した2015年のアルバム『CHORD』で同地のミュージック・シーンに台頭し、続く、2017年の2ndアルバムでは本格派の実験音楽に取り組むようになり、パイプオルガンとブラスを用いた「For Organ and Brass」を発表。スウェーデンにはドローン音を制作する現代音楽家が多い印象があるが、気鋭のドローン制作者として注目しておきたいアーティストである。

 

本作はスウェーデンのアーティストにとって三作目の作品となり、Kali Maloneの作風に象徴されるパイプオルガンを使用したドローン音楽に挑戦している。

 

ポリフォニーの旋律を主体としているのは上記のアーティストとほとんど同様であるが、Ellen Arkbroの音楽はどちらかといえば「パターン芸術」に近いものがある。音の出力とそれが消失する瞬間をスイッチのように入れ替えながら、 減退音(ディケイ)のトーンがいかなる変遷を辿るのかに焦点が絞られている。また、音響学の観点から見て、音の発生と減退がどのように製作者の抑制により展開されるのかに着目したい。



 

 

 

 

 

 Duenn & Satomimagae 『境界 Kyoukai』

 


 

Label: Rohs! Records

Release: 2023/6/21



イタリアのレーベルから発売された『境界 Kyoukai』は、レビューをしなかったので改めて紹介しておきたい作品。限定販売ですでにソールドアウトとなっている。

 

今作は福岡を拠点にする実験音楽家、Duenn(インタビューを読む)、東京の音楽家/シンガーソングライター/アーティスト、Satomimagae(インタビューを読む)によるコラボ作。Duennによるミニマル/グリッチ的な緻密なプロダクション、シュトゥックハウゼンの系譜にあるクラスターなど、電子音楽の引き出しに関しては、海外の著名な実験音楽家に匹敵するものがある。それらの実験音楽の領域にあるトラックの要素に特異なアトモスフィアを付加しているのが、ニューヨークのRVNGに所属するSatomimagaeさんのボーカル。作品制作のインスピレーションとなったのは、Duennさんが通勤中に見た看板で、その時、アーティストはその現実の中にある一風景に現実と非現実の狭間のような概念を捉えた。シンセの音作りに関してはロンドンのMarmoあたりの方向性に近いものが感じられた。

 

アルバムの序盤は実験的な音楽性を擁する曲が多いが、中盤から終盤にかけてチェレスタの音色を用い、ロマンティックな雰囲気を漂わせる場合もある。他にも、プロデューサーとしての引き出しの多さが感じられ、「gray」ではシンプルなアンビエントを楽しむことが出来る。さらに、クローズ曲「blue」では、エクスペリメンタルポップの作風に挑戦している。おそらくこれまで両者がそれほど多くは取り組んで来なかったタイプの曲といえるかもしれない。独立した2つの才能がバッチリ合致し、コラボレーションの醍醐味とも言えるような作風が誕生した。しかし、プロデューサーでもない私がアルバムのマスター音源を所有しているのはなぜ・・・??

 

 

 

 

 Salamanda 「In Parallel』

 



Label: Wisdom Teeth

Release: 2023/11/3

 

 

Salamanda(サラマンダ)は、韓国のDJ、Peggy Gou(ペギー・グー)が主宰するレーベルから作品をリリースしている。サウスコリアの注目すべき実験音楽のデュオ。昨年、FRAUの主宰するイベントにDeerhoofとともに出演していた覚えがある。デュオの音楽は、最初はアンビエントかと思ったが、必ずしもそうではなく、アヴァンギャルドという枠組みではありながら、ジャンルレスな音楽性に取り組んでいる。従来の作品を聴く限り、輝かしい才能に満ちあふれている。


「In Parallel』 ではエレクトロニカ/EDM寄りのアプローチを図ったと思えば、K-POPを絡めたのエレクトロニックにも挑戦している。また、環境音などを絡めつつ、オリジナリティーを付加している。アヴァンギャルドという範疇に収まりきらないポピュラー性がデュオの音楽の魅力。音楽的にはアイスランドのMumに近く、北欧のエレクトロニカが好きなリスナーはぜひチェックしてもらいたい。あまり一つの音楽を規定したりすることなく、今後も頑張ってほしい。

 


 

 

 

 

Chihei Hatakeyama 『Hachirougata Lake』

 



 

『Hachirougata Lake』は畠山地平さん(インタビューを読む)が現地に向い、フィールド・レコーディングを取り入れながら従来のアンビエント/ドローン音楽とは別の実録的な作風に挑んだ作品。水の音をモチーフ的に使用し、八郎潟の風景が持続的に変遷する情景をアンビエントというアーティストが最も特異とする手法により描写しようとしている。アルバムには朝の八郎潟を思わせるサウンドスケープから夕景と夜を想起させるものへと変化していく。ドキュメンタリー的な作品と言える。

 

ウィリアム・バシンスキーの「Water Music」のループ/ミニマルの楽曲構造やブライアン・イーノの『An Ending』のシンセの音色を受け継いだ楽曲も収録されている。従来、アーティストは、いわゆるメインストリームのアンビエントの制作することを直接的には控えてきた印象もあったが、この最新作ではイーノを始めとするアンビエントの原初的な作風にも挑んでいる。



 

 

Oneohtrix Pointnever 『Again』

 


Label: Warp

Release: 2023/9/29


2020年の『マジック・ワンオトリックス・ポイント・ネヴァー』に続く『アゲイン』は、プレスリリースで "思弁的な自伝 "であり、"記憶と空想が全く新しいものを形成するために収束する「非論理的な時代劇」"と説明されている。ジャケットのアートワークは、マティアス・ファルドバッケンがロパティンとともにコンセプトを練った。ヴェガール・クレーヴェンがMVを撮影した。


このアルバムはエレクトロニックによる超大な交響曲とも称すべき壮大な作風に挑んでいる。実際に、交響曲と称する必要があるのは、すべてではないにせよ、ストリングの重厚な演奏を取り入れ、電子音楽とオーケストラの融合を図っている曲が複数収録されているから。また、旧来の作品と同様、ボーカルのコラージュ(時には、YAMAHAのボーカロイドのようなボーカルの録音)を多角的に配し、武満徹と湯浅譲二が「実験工房」で制作していたテープ音楽「愛」「空」「鳥」等の実験音楽群の前衛性に接近したり、さらに、スティーヴ・ライヒの『Different Trains/ Electric Counterpoint』の作品に見受けられる語りのサンプリングを導入したりと、コラージュの手法を介して、電子音楽の構成の中にミニマリズムとして取り入れる場合もある。


さらに、ジョン・ケージの「Chance Operation」やイーノ/ボウイの「Oblique Strategy」における偶然性を取り入れた音楽の手法を取る場合もある。Kraftwerkの「Autobahn」の時代のジャーマン・テクノに近い深遠な電子音楽があるかと思えば、Jimi Hendrix、Led Zeppelinのようなワイト島のフェスティヴァルで鳴り響いた長大なストーリー性を持つハードロックを電子音楽という形で再構成した曲まで、ジャンルレスで無数の音楽の記憶が組み込まれている。そう、これはまさしく、ダニエル・ロパティンによる個人的な思索であるとともに、音楽そのものの記憶なのかもしれない。


 

 

 

Sarah Davachi 『Long Gradus』

 

 



Label: Late Music

Release: 2023/11/3

 

 

スウェーデンではドローン音楽がアンダーグラウンドで盛り上がりつつある。しかしロサンゼルスも負けていない。Laurel Halo,Sara Davachiを筆頭に、このジャンルが存在感をみせている印象がある。

 

従来までは、シンセやパイプオルガンを使用し、ドローン音楽やアンビエントを中心に制作してきたアーティストはこの作品、及び続編となる『Arrengements』でオーケストラとの共演をし、既存作品のレベルアップを図った。

 

デビュー当初、テクノ/エレクトロニックの領域の音楽を制作してきたアーティストではあるが、近年、クラシカルへの傾倒をみせ、古楽をベースにした作風にも挑戦している。「Long Gradus』ではオーケストラのストリングスの合奏を交え、ドローン音楽の創始者の実験音楽家、Yoshi Wadaのバグパイプにも似たポリフォニーによる特異な音響を発生させている。ストリングスの通奏低音の重なりは、清新な気風に充ち、笙の響きのような瑞々しさにあふれている。



 

 

 

Peter Broderick & Ensenble O 『Give It To The Sky: Arthur Russell's Tower of Meaning Expanded』

 


 

Label: Erased Tapes

Release: 2023/10/6

 

米国のコンテンポラリー・クラシカルの象徴的な存在、Peter Broderick(ピーター・ブロデリック)による最新作。ブリデリックは、これまでのバックカタログで、ピアノを主体とするポスト・クラシカルや、インディー・フォーク、はては自身によるボーカル・トラック、いわゆる歌ものまで多岐にわたる音楽に挑戦している。



ピーター・ブロデリックは、ロンドンのErased Tapesの看板アーティストである。特に「Eyes Closed and Traveling」は、ポスト・クラシカルの稀代の名曲である。今回、プロデリックはフランスのアンサンブル”Ensemble O”と組み、リアルなオーケストラ録音に着手した。

 

この度、ブロデリックは、アイオワのチェロ奏者、アーサー・ラッセルの隠れた録音に着目している。ラッセルは、チェリスト/作曲家として活躍し、複数の録音を残している。ブロデリックとラッセルには共通点があり、両者ともジャンルや形態を問わず、音楽をある種の表現の手段の一つとして考え、それをレコーディングに収めてきた経緯がある。ブロデリックは、ラッセルの一般的には知られていない録音に脚光を当て、当該録音の一般的な普及をさせることに加えて、それらを洗練されたコンテンポラリー・クラシックとして再構成するべく試みている。


アーサー・ラッセルのオリジナルスコアの中には、いかなる魅力が隠されていたのか? 考えるだけでワクワクするものがあるが、彼は、実際にスコアを元にし、ピアノ/木管楽器を中心としたフランスのアンサンブルと二人三脚で制作に取り組んだ。Peter Broderick & Ensemble 0による『Give It To The Sky』は、純正なクラシカルや現代音楽に真っ向から勝負を挑んだ作品と称せる。

 





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DANCE & ELECTRONIC 2023:  今年のエレクトロニック、ダンスミュージックの注目作をピックアップ
  Spector (UK)


 

今年も後残すところ2ヶ月。1月から約一年間途絶えていた新作アルバムの月例報告を復活します。

 

12月は新作が多くないのでお休みするかもしれませんが、11月は注目のリリースが目白押し。今年、二作目のリリースとなるBar Italia、ジャック・ホワイトの設立したデトロイトの"Third Man"からデビュー作をリリースするHotline TNT、イギリスの新進気鋭の若手ロックバンド、Spector、「カバーの女王」とも称されるCat Powerによるボブ・ディランのロイヤル・アルバート・ホールのライブ再現アルバム、Pinkpantheressの新作アルバム、Danny Brownの新作アルバム等にも注目でしょう。

 

 

・ 11月3日発売のアルバム

 

 Sen Morimoto  『Diagnosis』 - City Slang



現在はシカゴを拠点に活動するセン・モリモト。City Slangはロンドンのシンガーソングライター、Anna B Savegeから、ミニマル/グリッチの象徴的なプロデューサー、Caribou、またNada Surf、Calexicoに至るまで新旧の注目のバンド、アーティストが数多く所属している。

 

今年は、同レーベルのアトランタ/シカゴのラッパー、Mckinly Dicksonのトム・モリソンの小説に因んだデビューアルバム『Beloved! Paradise! Jazz!?』を週末のディスクにご紹介していますが、それに続く森本仙の新作『Diagnosis』は、グノーシス主義に題材を取ったものなのでしょうか。森本さんはソロアーティストではありながら、ライブではコレクティヴのような形態で陽気なパフォーマンスを繰り広げる。


ラップ、ソウル、ファンク、ポスト・ロック等、シカゴのミュージック・シーンらしい雑多な音楽性が今作の最高の魅力となりそうです。さらにアーティストはファンカデリックのような音楽を目指しているとか。


 

Bar Italia 『The Twits』- Matador

 



ニューヨークのベガース・グループの傘下であるMatador Recordsから「punkt」という名曲を引っ提げて衝撃的なデビューを飾ったロンドンの再注目のトリオ、Bar Italia。現行のインディーロックシーンを見渡すと、何かやってくれそうな予感がある。なんでも聞くところによると、海外の音楽業界に精通する日本人の方が、Matadorのスタッフと話した際に、「期待の若手のバンドはいますか」という問いに対して「Bar Italia」と即答だったという。このあたりの話は半信半疑で聞いてもらいたいんですが、実際に『Tracy Denim』を発表後、徐々にコアなオルトロックファンの間でこのバンドの名が上るように。数ヶ月前のニューヨークでの公演もそれ相応に好評だったのではないでしょうか。当初は、「秘密主義のバンドである」とThe Queitusが評していますが、昨日、遂にイギリスの大手新聞”The Guardian”にインタビューが掲載され、いよいよカルト的なバンドの領域の外に出て、イギリス国内でもそろそろ人気上昇しそうな雰囲気もある。

 

Bar Italiaのサウンドの持ち味はローファイな雰囲気、シューゲイズのギター、ガレージ・ロックのようなプリミティヴな質感にある。おそらく、Televisionのようなプロト・パンクにも親和性がある。特に、インディーロックとして画期的なのは、曲自体は反復的な構成を取りながら、メインボーカルが入れ替わるスタイル。最新公開されたアルバムの先行シングル「Worlds Greatest Emoter」を聴く限りでは、底しれない未知数の魅力があり、今後どうなっていくのかわからないゆえに期待感がある。『The Twits』にも、バンドの成長のプロセスが示されることでしょう。ロンドンの音楽やカルチャーの奥深さを象徴する素晴らしいインディーロックバンドです。



Kevin Abstract 『Branket』/ RCA

 



ブロックハンプトンの創設メンバー、テキサス出身のラッパー、ケヴィン・アブストラクトの最新作『Branket』についても、ラップ/インディーロックファン問わず注目しておきたいところでしょう。

 

さて、2019年の『Arizona Baby」に続く作品は、プロデューサーのロミル・ヘルマーにマルチ・インストゥルメンタルリスト、ジョナ・アブラハムと制作された。意外にもケヴィン・アブストラクトはエモ、グランジ、オルタナティヴロックからの影響を挙げており、「サニー・デイ・リアル・エステート、ニルヴァーナ、モデスト・マウスのようなレコードを作りたいと思った」と説明しています。「でも、ラップアルバムのように作りたいという思いもありました」


 

・11月10日発売のアルバム



Cat Power  『Cat Power Sings Dylan: The 1966 Royal Albert Hall Concert』/ Domino

 



キャット・パワーはカバーの女王なる異名をとりながらも、オリジナル曲も素晴らしい。コットニー・バーネットと並んですごく好きなアーティスト。ただ、近年、カバーをライフワークとして考えているのは事実のようで、最初の難関となったのが、ボブ・ディランの伝説のコンサートの再現でした。

 

このコンサートは、ディランがエレクトリック演奏に移行したワールドツアーの一環として行われたもので、この公演のブートレグには、数日後にロイヤル・アルバート・ホールで行われと誤って記載されていた。1998年に2枚組アルバムとして正式にリリースされた際には、「The Bootleg Series Vol.4: Bob Dylan Live 1966, The "Royal Albert Hall" Concert」とまで言われた。

 

このアルバムについて、キャット・パワーは次のように説明しています。「他のどのソングライターの作品よりも、ディランの歌は私に語りかけ、5歳の時に初めて聴いて以来、私にインスピレーションを与えてきた。過去に "She Belongs To Me "を歌うとき、私は時々一人称の物語に変えていた。『私はアーティスト、振り返らない』ってね。でも、ロイヤル・アルバート・ホールでの公演では、もちろん原曲通りに歌いました。作曲と偉大な作曲家への敬意を込めて」

 

 

Daneshevskaya 『Long Is the Tunnel』/ Winspear




今後、注目したいブルックリンのシンガー、Daneshevskayaダネシェフスカヤ)。 インディーポップの範疇にあるソングライティングを行いながらも、ミニマルな枠組みの中にはシューゲイズ風の轟音のギターサウンドが織り交ぜられたかと思えば、インディーフォーク調の和らいだソングライティングを行う。確認出来るかぎりでは、2020年にデビュー・シングルを発表後、Winspearと契約。「Somewher In The Middle」をリリースした後に、このデビューフルレングスが発売される。

 

アルバムの制作にはModel/ActrizのRuben Radlauer、Hayden Ticehurst、Artur Szerejkoの共同プロデュースによる7曲入りで、Black Country、New RoadのLewis Evansも参加している。曲の多くは「モバイルのGaragebandで書かれた」といい、必然的に「ループサウンドが多くなった」という。

 

 

 Chartreuse  『Morning Ritual』/ Communion Music

 


 

Chartreuseはイギリスのバーミンガム出身の要注目の4人組バンド。バンドのサウンドは、「アンビエント・ダーク・ポップ」とマネージメント会社のホームページで紹介されています。同時に彼らに影響を与えたフォーク、ソウル、ジャズといったジャンルのクラシックなサウンドの反映もある。

Chartreuseの結成メンバーは、マイケル・ワグスタッフとハリエット・ウィルソン。彼らは2013年に一緒にフォーク・ミュージックを書き始めた。そして2014年夏、リズム・セクション:ベースとキーボードのペリー・ロヴァリング、そして最後にドラマーのロリー・ワグスタッフが加わり、4人編成となった。ローリーとマイケルは兄弟で、ハリエットとペリーは幼なじみだとか。


新作アルバムからは四作のシングル「Whippet」、「All Seeing All The Time」、「Morning Ritual」、「Switch It On,Switch it Off」が公開されています。先行シングルを聴く限り、新感覚のインディーポップとして楽しめるかもしれません。




・11月17日発売のアルバム

 

 

Danny Brown 『Quaranta』 /Warp



今年は、Killer Mikeを始め、Mckinly Dickson、Mick Jenckinsのアルバムをレビューしてきましたが、最後のラップの期待作がダニー・ブラウンの『Quaranta』となるでしょう。ヒップホップは勉強不足のため、系譜的に言及するのが難しく、背伸びして書くしかないので困っている部分も。昨年、ロンドンのWu-Luに続き、デトロイトのダニー・ブラウンの「Quaranta」は2023年最後の期待作です。Warp Recordらしい巧みなエレクトロニックにブラウンのリリックがどのようなウェイブを描き、ドープな感じのフロウとなるのかに注目です。


さて、ダニー・ブラウンが何年も前から予告していた新作には、ブルーザー・ウルフ、カッサ・オーバーオール、MIKEがゲスト参加し、クエル・クリス、ポール・ホワイト、SKYWLKRがプロデュース。本作は、2019年の『Uknowhatimsayin¿』と3月にリリースされたJPEGMAFIAとのコラボアルバム『Scaring the Hoes』に続く作品となる。なとて素晴らしいアルバムジャケット!!

 

 

Water From Your Eyes 『Crushed By Everyone』 Remix /  Matador


 

ネイト・エイモスとレイチェル・ブラウンによるブルックリンのシンセ・ポップ・デュオ。今年の半ばにはソロで作品をぽつぽつとリリースしていたので、しばらく新作リリースはないのかと思いきや、先にリミックアルバムがリリースされる。

 

このデュオのオリジナル・アルバム『Crushed By Everyone』では、実験的な要素もありつつ、比較的親しみやすいインディーポップの要素も織り交ぜられていました。ネイト・ネイモスのプロデューサーとしての才質に加え、ドリーム・ポップ風のブラウンのアンニュイなヴォーカルの融合がオリジナリティーの高さを象徴づけていました。


同レーベルからのデビューアルバムはAkiraを彷彿とさせる近未来の漫画風のイラストレーションでしたが、リミックスも同様です。元あるオリジナルの素材を全く別の曲に変えてしまうプロデューサーとしてのネイト・エイモスのリミックスのセンスがどのような形で現れるのかに注目。

 

 

 

11月24日発売のアルバム 

 

Guided By Voices 『Nowhere to Go But Up』/GBV Inc.



 

12月は稀にサプライズのリリースがあるものの、(昨年はUKのLittle Simz。ベストリストに入れてほしいという要望をいただいたのですが、間に合わず入れられませんでした。スイマセン)ほとんどリリースが途絶え、ホリデー・シングルのリリースがある24日を越えると、海外のほとんどの音楽メディアが休暇を取り、静かになるのが通例です。大手新聞も基本的には同様のシフト。

 

11月の最終週にリリースされるUSインディーロックの王者、GBVの通算39枚目のアルバムはバンドのインプリントであるGBV.Incから発売。多作なバンドなので、長らくこのバンドの音源に触れてきたリスナーはアタリハズレのあるバンドということはなんとなく気がついているかもしれません。

 

ところが・・・、インドのシタールの演奏を交えた先行シングル「For the Home」を聴くかぎり、今までの作品と違うというのが率直な感想です。例えば、Pixiesがよりポピュラー性を厭わない世界的なロックバンドに進化したのと同じように、GBVも変化している最中なのかもしれません。アルバムジャケットもどことなく往年のアメリカの黄金世代を彷彿とさせるものがある。



Spector 『Here Come The Early Nights』/Moth Noise




2023年11月、最後にご紹介するUKのインディーロックバンド、Spectorは今後の活躍がとても楽しみな四人組。”In Right”という独立のマネージメントに所属、その全貌はまだ明らかになっていません。少しキャラクター性は異なるものの、Spectorもゆくゆくは、現在国内でライブ等で絶大な人気を獲得しているリバプールのSTONEのようになってもおかしい話ではありません。

 

11月24日に発売予定のこのアルバムは、2022年の「Now or Whenever」に続く作品。シングル「The Notion」でプレビューされています。ABBA、ブラー、ニック・ケイヴ等、様々な影響を受けたというスペクターは、アルバムのリリースを記念して、全国9公演のUKツアーに乗り出す予定。

 

「Here Come The Early Nights」について、バンドのフレッド・マクファーソンは次のように語っています。「前作よりも少し内省的なアルバムになったように感じている。曲はより愛を込めて書かれている。それにもかかわらず、もしかしたら今までで一番ラブソングが少ないアルバムになった」と。