©Stella Gigliotti


デビー・フライデーが新曲「let u in」を発表した。このシングルは、先日ポラリス音楽賞を受賞した彼女のデビュー・アルバム『GOOD LUCK』に続くものだ。フライデーは、オーストラリアのエレクトロニック・プロデューサーでヴォーカリストのダーシー・ベイリスとこの曲を共同プロデュースした。試聴は以下から。


 

 

『RUSH!』で世界デビューを果たしたばかりのマネスキンが早くも最新アルバムのニュー・エディションのリリースを発表した。

 

『RUSH!』の新バージョンには、最新シングル 「Honey (Are U Coming?)」を含む5曲の新曲が収録。このリリースは全く新しいアルバム・アートワークと共に発表となった。『RUSH! (Are U Coming?) 』は11月10日にオンセールとなる。先行予約は今週金曜日に開始されるという。


バンドは、世界制覇に向けた快進撃を続けている。『RUSH !』のリリースに付随するワールド・ツアーは、先週、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで、タイムズ・スクエアでのサプライズ・ポップアップ・パフォーマンスの後に行われた。

 

ワールド・ツアーは、絶賛の嵐を世界各地で巻き起こしている。ワールド・ツアーでは、バンドの派手なライブ・セットと壮大なステージ・プロダクションは、北米、南米、日本、ヨーロッパ、イギリス、アイルランドで好評を博し、アリーナ公演を軒並みソールドアウトさせている。2022年12月の日本公演はソールドアウトとなった模様だ。


マネスキンは2022年度のVMA(MTV Video Music Awards)で、「The Loneliest」のミュージック・ビデオが最優秀ロック賞を受賞、グループ・オブ・ザ・イヤーにもノミネートされ、「Honey (Are U Coming) 」を披露した。

 


 「Honey (Are U Coming?)」

 

 

 

 


 

アイルランドのロックバンド、The Murder Capitalが、1月にリリースされたセカンド・アルバム『Gigi's Recovery』に続いて、新曲「Heart In The Hole」を引っ提げてカムバックを果たした。

 

「"HeartInTheHole "は、過剰に作られた空白に人間性を注入する。マニアを笑い飛ばし、動機に疑問を投げかけ、そして最も重要なことは、次に何が起こるかを見守ることだ」とバンドは説明している。


2023年はザ・マーダー・キャピタルにとって飛躍の年となった。リリースされた『Gigi's Recovery』は大絶賛を浴び、アイルランドで1位、英国チャートでトップ20入りを果たした。彼らはコーチェラでのパフォーマンスを含む、16日間のアメリカ・ツアーを行い、この夏はグラストンベリー・リーディング/リーズ、プリマヴェーラ、ロック・アン・セーヌなどの大型フェスティバルで決定的なパフォーマンスを行うなど、盛りだくさんのスケジュールをこなした。


マーダー・キャピタルは、ダブリンの3オリンピア・シアターでのヘッドライン・ライヴを頂点に、ロンドンのエレクトリック・ボールルームにも立ち寄る、バンド史上最大規模のUK/EUツアーに出発する。

 

 

「Heart In The Hole」

 


オーストラリアのロックバンド、キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードが、25枚目のスタジオ・アルバム『The Silver Cord』を発表し、そのトラックリストを公開した。アルバムは10月27日に発売される。

 

今年初め、バンドは『PetroDragonic Apocalypse; Or, Dawn Of Eternal Night』をリリースした(レビューはこちら)。2022年に『Butterfly 3001』、『Made In Timeland』、『Omnium Gatherum』を含む6枚のアルバムをリリースしている。これらのうち3枚(『Ice, Death, Planets, Lungs, Mushrooms and Lava』『Laminated Denim』『Changes』)はすべて昨年の10月に一挙にドロップされた。


『The Silver Cord』には7曲が収録される。インスタグラムの投稿にあるように、全曲のエクステンデッド・バージョンも付属する。


最近のリリースではメタルの世界に回帰したが、『The Silver Cord』のイメージは、次のアルバムがよりエレクトロニック・ミュージックに根ざしたものになることを示唆しているようだ。


 

©︎Marcus Madoxx


ブルックリンを拠点に活動するアンナ・ベッカーマンのプロジェクト、Daneshevskaya(ダネシェフスカヤ)が、デビュー・アルバム『Long Is The Tunnel』の3作目のシングルを公開した。


今週のシングルとして紹介する「Challenger Deep」は、70年代のアナログのフォーク・ミュージックを彷彿とさせる。ギターの演奏に、ベッカーマンの情感溢れるボーカル/コーラスが美麗に溶け込む。薄く重ねられるストリングスのテクスチャーは、ボーカルのムードを引き立てる。ロンドンのシンガー、Dana Gavanskiが好きなリスナーにはストライクのトラックとなりそうだ。


Daneshevslaya(ダネシェフスカヤ)のニューアルバム『Long Is The Tunnel』は、Model/ActrizのRuben Radlauer、Hayden Ticehurst、Artur Szerejkoの共同プロデュースによる。7曲収録。Black Country, New RoadのLewis Evansも参加。11月10日に発売予定。先行シングルとして、「Somewhere in the Middle」「Big Bird」が公開されている。

 

 

Bleach Lab 『Lost In A Lush Of Emptiness』

 

Label: Nettwerk

Release: 2023/9/22

 

 

Review

 

  

ロンドンのBleach Labは、結成当初からデビューEPを2022年に発表するまでの4年間、刻々と変化する日々の中でバンドとしての実験的なビジョンを実現するため、メンバーを少しずつ追加していった。2017年、ベーシストのJosh Longman、ギタリストのFrank Watesによるデュオとして結成。その後、ボーカリストのJenna Kyleを迎え、2021年の初めにドラマーのKieran Westonを迎えた。Bleach Labの音楽はドリーム・ポップの旋律に、感覚に重きを置いたボーカル、抒情的なギターライン、曲の雰囲気を引き立てるシンプルなベース、ドラムが掛け合わされて作り出される。

 

オープナー「All Night」は、バンドの格好のアピールの機会となったEPの音楽性の延長線上に位置する。そして、メロディーの運び方には、Alvvaysのような親しみやすさがある。ただ、パンクの要素は薄く、良質なメロディーに焦点が絞られ、インディーポップに近い音楽として昇華されている。続く「Indigo」は、現行のUSインディー・ロックとも親和性がありそうだ。ボーカルに関してはブリット・ポップの系譜にある。喉をわずかに震わせるようにしてナイーブなビブラートを交えて歌われるジェンナ・カイルのボーカルは、バンドのサウンドの中核を担い、ジョニー・マーに比する繊細なギターと合わさり、叙情的な空気感を生み出す。正直なところ、モダンな歌い方とは言いがたいが、普遍的なボーカルがリスナーに共鳴する瞬間を呼び起こす。Nettwerkと契約したことで、プロダクションの面でも強化された。ストリングスのアレンジがドリーム・ポップの音楽性に気品を添え、曲の叙情性を高めていることは言うまでもない。

 

カナダの大手レーベルと契約したことは、デビューEPのロックバンドとしての素質に加えて、ボーカリストのポピュラー・シンガーとしての隠れた才質をフィーチャーする機会をもたらした。アルバムのタイトル曲代わりである「Counting Emptiness」は、Sinead O'Conner(シネイド・オコナー)のポップ・センスを彷彿とさせるものがある。加えて、ジェンナ・カイルのボーカルがドリーム・ポップの音楽性と鋭く合致し、普遍的な響きを持つポップスが生み出されている。曲の中に見られるロマンティックな雰囲気は、ボーカリストの詩情が歌詞や旋律に転化されたことにより生じ、カイルは、その時々の人生観を丹念かつ丁寧に描写しようとしている。

 

「Counting Emptiness」

 

 

「Saving Your All Kindness」では、ソフトな感覚のインディーポップへと転じている。特にこの曲にも、それほど劇的な展開は見られないが、 ギターラインの作り込みやそれを補うシンプルなベース、ドラムがボーカルの内省的なメロディーを絶妙に引き立てている。この曲では、なぜ、彼らがバンドとして活動しているのか、その要因の一端を捉えることが出来るかもしれない。続く「Everything At Once」に関しては、一見すると、ロンドンのインディーポップバンドとそれほど大きな差異を感じないかもしれないが、実際のところは、カイルのスポークンワードを基調にしたボーカルからポップバンガー的な響きに移行する瞬間、鮮やかな感覚を及ぼす。中盤からは、PVAのようなシュプレヒゲサングの歌い方に転じ、ポスト・パンク的な音楽性へと移行する。一曲の中で絶えずジャンルが移り変わるような形式は清新な印象をもたらす。

 

全般を通して、アートワークに象徴されるペーソスに充ちた感覚は、ジェンナ・カイルのボーカルの主な印象を形成している。「Nothing Left To Lose」では、内省的な感覚が心地よいドリーム・ポップ風のメロディーと結びつく。それらは心の機微を表す糸のように絡まりながら、曲のインディー・ポップの中枢を形成している。展開も簡素であり、Aメロの後すぐに跳躍的なサビのフレーズに移行する。シンプルな対比的な構造は、アンセミックな瞬間を呼び起こす。ベースラインとギターラインの絶妙な和声感覚により、エモーショナルな雰囲気を醸成している。もちろん、こういった曲は、ステージで大きな効果を発揮するポテンシャルを秘めている。


「Nothing Left To Lose」

 

 

以前の段階で、バンドは、Slowdiveにも近い、甘美的なドリーム・ポップの世界を探求していることがわかる。続いて、「Never Coming Back」では、その感覚的な悲しみの度合いを増し、ほとんど内的な痛みを隠しそうともせず、多彩な感情性をそのメロディーやフレーズと綿密に同化させている。こういった曲には、J-Popにも近いエモーションが含まれている。どちらかと言えば、メロディー性を重視した楽曲に近く、表立ったアピールを遠慮する控えめな感覚が曲の全般に散りばめられて、それが切なさとも儚さともつかない、淡い抽象的な印象をもたらすのだ。


続く「Smile For Me」では、アルバムの序盤の収録曲で暗示的に示唆されていた恋愛観を交えつつ、オルタネイティヴなポップセンスを発揮している。分けても、サビの意味合いのあるボーカルの高音部が強調される箇所では、平均的なインディーポップグループ以上の存在感を示し、バンドのアンサンブルで構成されるポップバンガーを生みだしている。ただ、もしソロであったら、こういった曲にはならないかもしれず、最初期からバンドサウンドの素地を入念に作り込んできた、Josh Longman、Frank Watesのベースとギターのセッションの集大成とも取れる。

 

以後も、才気煥発なイメージを保ち続ける。「Leave The Light On」では、ソフトなポップセンスをバンドの主要なドリーム・ポップというアプローチと結びつける。それは「Life Gets Better」でも一貫して、良質で親しみやすいポップスを求めるリスナーの期待に応えようとしている。アルバムのクローズを飾る「(coda)」は、クラシックの形式のコーダが取り入れられているが、こういった試みはそれほどわざとらしくは感じられない。いや、それどころか、アルバムを聴き終えた後、切ないセンチメンタルな感覚が目の前を過ぎ去っていくような気がする。

 

デビュー作『Lost In A Lush Of Emptiness』は、四人組がどうあっても形にならぬものを音楽たらしめた美しき感情の結晶体である。その時々の感覚を大切にしたどこまでも澄んだインディー・ポップという点は貴重で、現在のミュージック・シーンを見るかぎり、鮮烈な印象をもたらす。

 

 

84/100


プエルトリコの大スター、バッド・バニーがニューシングル「Un Preview」をリリースした。TainyとLa Pacienciaとの共同プロデュースにより制作された。Stillzが監督したビデオは以下から。


「Un Preview」は、バッド・バニーが5月にフランク・オーシャン、リル・ウージー・ヴェルト、ドミニク・ファイクらをフィーチャーしたビデオとともにリリースした「Where She Goes」に続くシングルだ。また、「K-POP」ではトラヴィス・スコットとザ・ウィークエンドと共演している。


 

©Alexander Richter


ニューヨークのラッパー、billy woodsとELUCIDのデュオ、Armand Hammer(アーマンド・ハマー)が、Run the JewelsのEl-Pがプロデュースした新曲「The Gods Must Be Crazy」を公開した。

 

この曲は、今週金曜日(9月29日)にリリースされる彼らのアルバム『We Buy Diabetic Test Strips』からの最新シングル。これまでにリリースされたシングル「Woke Up and Asked Siri How I'm Gonna Die」「Trauma Mic」が収録されている。以下よりチェックしてほしい。


「woodsとELUCIDは特別な関係にあり、このジャムで一緒になれたことを嬉しく思っているよ。僕たちはバンガーを作ったと思うな」

 

 

 「The Gods Must Be Crazy」



 

boygeniusは、デビューアルバム『the record』(レビュー)に続く新しいEP『the rest』のリリースを発表した。タイトルにも見える通り、今回のEPは癒やしの溢れるレコードであることが予想される。


フィービー・ブリジャーズ、ルーシー・デイカス、ジュリアン・ベイカーからなるトリオは、10月13日にインタースコープ・レコードから4曲収録の新作をリリースする。トラックリストは現時点では未定だが、バンドはオープニング・トラックが「Black Hole」になることを明らかにしている。


プロデュースには、boygenius、Tony Berg、Jake Finch、Ethan Gruska、Calvin Lauber、Collin Pastore、Marshall Voreが参加している。公式プレスリリースでは、このEPは "バンドのソングライティングの才能と独特のサウンドを披露し続ける "と説明されている。


スリー・ピースは昨夜(9月25日)、マサチューセッツ州ボストンでのライヴでEPのオープナー「Black Hole」を初披露した。ツアーは28日(木)のニューヘイブンでの公演に続き、フィラデルフィア、ニューヨーク、ロサンゼルスへと続く。


先日、デビューアルバムに収録されている「Cool About It」のアニメーション・ビデオを公開したことは記憶に新しい。ローレン・ツァイが監督したこのビジュアルは、犬とおもちゃの関係を複雑なイラストと美しいアニメーションで描いている。ローレン・ツァイは以下のように述べた。

 

ボーイ・ジーニアスという天才とコラボできるなんて、夢のようです。私は11歳の時にYouTubeでアニメーションビデオを作ったが、過去に戻って自分に言い聞かせることができるとしたら、これほど夢中になれるものはないだろう。彼らの作品が私の人生に多くの影響を与えてくれたことに、私はいつも感謝している。



一方、バンドは今年8月に、デビュー・アルバムに影響を与えた曲を集めた82曲のSpotifyプレイリストを公開している。このプレイリストには、Big Thief、Hop Along、Waxahatchee、HAIM、Mitski、Brian Eno、Nada Surf、Suicide、Cyndi Lauper、その他多数が紹介されている。外れなしの素敵なプレイリスト!!

 





boygenius 『the rest』




Folly Groupは、So Young Recordsから2ndアルバム『Down There!』のリリースを発表しました。2021年のデビューEP『Awake And Hungry』、昨年の『Human And Kind』に続くフォリー・グループのデビュー・アルバムは、先月『Strange Neighbour』で大絶賛されたバンドの復帰作『Down There!』はパルチザン・レコードと契約しているブルックリンの5人組、Geeseとの満員御礼ツアーに続いてリリースされる。


ギタリスト/ヴォーカリストのルイス・ミルバーンは、このアルバムのリードカット「Big Ground」に込められたテーマについて次のように語っている。


「この曲の基本的なコンセプトは、人生が不安と恐怖でいっぱいになり、いっそのこと自分が存在しないほうがいい、地面に飲み込まれたほうがいいというものだ。ある意味、この事実を祝福しているようなものだ。心の奥底でこの事実を知れば、不安を手放すことができるようになる」


フォリー・グループは、ミルバーンの本職の楽器を駆使し、『Down There!』を共同制作した。「私は機材の売買をする仕事をしているので、機材は常に入れ替わるんだ。「ヴィンテージのローランドが入荷して、何曲かに使うかもしれない。2週間後、バンドは "もう1回やってもいいか?"と言うだろうが、それはなくなっている。


「『ダウン・ゼア!』は、精神的な健康、肉体的な健康、経済的なプレッシャー、波乱に満ちた友情など、この国の若者であることを徹底的に追求している」「歌詞は、ドラマー/ヴォーカリストのショーン・ハーパーとミルバーンに分かれており、それぞれ抽象的なスタイルと文字通りのスタイルがあるにもかかわらず、「権利剥奪、落胆、不安、経済的破滅」という共通のテーマを扱っている」とハーパーは説明する。「個人的に一歩前進するごとに、会ったこともない政治家のその場しのぎの決断によって、二歩後退する」


これはジャケットの3Dの洞窟ネットワークに示されている。「世界の重圧の中で感じていることの視覚的なメタファーとして、洞窟として表現されている」と彼は続ける。


バンドはこれらの感情の多くを、フルタイムの仕事と両立させなければならない若いミュージシャンとしての現実と結びつけている。「このバンドをやるには時間が足りない。自分たちがやっていることが正しいという盲目的な信念から、生活のあらゆる面で多大な犠牲を払っているんだ」

 

これは、『Down There!』が、そのテーマにもかかわらず、勝利に満ちたアルバムであることを強調している。その献身的な創作と正直なリリックが、グループに共通する自己信頼と決意を物語っている。「このアルバムが存在するという事実だけでも勝利なのだ」


「Big Ground」

 

 

 The Folly Group 『Down There!』

 

Label: So Young

Release: 2024/1/12

 

Tracklist:

1. Big Ground
2. I'll Do What I Can
3. Bright Night
4. East Flat Crows
5. Strange Neighbour
6. Freeze
7. Pressure Pad
8. Nest
9. New Feature
10. Frame

 

Loraine James 『Gentle Confrontation』 

 

 

 

Label: Hyper Dub

Release: 2023/9/22

 



Review


「James」という名のエレクトロニック・プロデューサーに外れなし。イギリス/エンフィールド出身の若きプロデューサー、ロレイン・ジェイムスの五作目のアルバム『Gentle Cofrontation』はシネマティックなシンセのテクスチャーを交え、ブレイクビーツ、ラップ、グリッチ、ソウル、ダブ・ステップを軽快にクロスオーバーしている。今週の要注目のアルバムとしてご紹介しておきたい。

 

タイトル曲は、シネマティックなシンセのシークエンスから始まり、ミニマル・グリッチのコアなアプローチを展開させる。 ボーカル・テクスチャーを交えた変幻自在のブレイクビーツは一聴の価値あり。UKドリルのビートを孕んだリズムは、ボーカルのコラージュを交え、リスナーを幻惑へと呼び込む。稀にリズムトラックの中に挿入されるボーカルは、会話のような形式となり、単なるエレクトロニック・ミュージックというよりも、ラップに近い意味を帯びる。オープニングの曲中には、ミステリアスな雰囲気のあるアーティストの魅力が凝縮されている。続く「2003」は、実験的な電子音楽で、ボーカルのコラージュをノイズ的なシンセと絡め、ボーカルトラックへと繋がっていく。ジェイムスのボーカルは、ソウルのような渋さがあるが、前衛的なコラージュをもとにしたエレクトロニックがメロウさを上手く引き出している。

 

KeiyaA をゲストボーカルに招いた「Let U Go」は、グリッチとポップスを劇的に融合させている。トラックメイクの刺激性も魅力なのだが、グリッチを背景にメロウなボーカルを披露するKeiyaAのボーカル、また、そのリリックさばきにも注目したい。エレクトロニックとソウルを絡めたネオソウルの最前線を行くようなトラック。まさにハイパー・ダブらしい一曲として楽しめる。「Deja Vu」でもゲストボーカルのRiTchieが参加し、グリッチとラップの融合体を生み出している。グリッチとしてもクールなバックトラックではあるのだが、RiTchieのリリック捌きにも光る点がある。 ボソボソとつぶやくようにリリックを披露するボーカルラインとソウルフルに歌う2つのRiTchieの声が合わさることで、前衛的なアヴァン・ポップが生み出されている。


「Prelude of Tired Of Me」もグリッチを基調にしたアヴァンギャルドなトラック。ドリルのようなドラムのビートが暴れまわるが、一方、そのトラックに乗せられるジェイムスの声はメロウかつ物憂げである。これらのアンビバレントな方向性を持ったトラックがアルバムの序盤の流れを形作っている。以上の5つのトラックはアルバムの印象に絶妙な緊張感をもたらしている。

 

中盤に差し掛かってもなお、ロレイン・ジェイムスの実験性における意欲は途絶えていない。「Glitch The System」は、あらためてアーティストのグリッチに関する愛着が示されている。しかし、アルバムの序盤に比べると、Aphex Twinのドリルン・ベースにも比するアヴァンな方向性が示されている。ジェイムスは自分の感情を電子音に乗り移らせ、不安定に揺れ動く感情性を、これらの複雑でシーケンサーによる変幻自在なビートに声を乗せる。また、このトラックでは、ボコーダーを効果的に用い、いくらかサイケデでリックな領域へと踏み入れていく。続く「I DM U」は聴き応え十分のトラックであり、アルバムのハイライトの一つに数えられる。アコースティックドラムをエレクトロニック風に配し、その上にオーガニックなシンセのシークエンスが被され、ダイナミックな音像が生み出されている。この曲に見受けられるスペーシーな感覚と現代的なエレクトロニック、そしてアヴァンギャルド・ジャズの融合は、アーティストが未知の領域へと足を踏み入れたことの証となる。特に、スネア、タムのハイエンドの強調により、ジャズドラムのような効果が生まれ、刺激的なインプレッションを及ぼしている。 

 

「I DM U」

 

「Emo」と銘打たれた次のトラック「One Way Ticket To Midwest(Emo)」は、おそらくアーティストの隠れたエモへの愛着が示されているのだろう。もちろん、シカゴを始めとする米国中西部のエモシーンを意味する「Midwest」という言葉も忘れていない。リバーブを掛けたギターラインから始まるイントロは、エモとまではいかないが、少なくともエモーショナルな気分を際どく表現している。しかし、その後は、北欧のエレクトロニカのような展開へと続く。本物志向が続いたアルバムの序盤に比べると、安らいだ感覚を味わえるトラックとなっている。ここにアーティストのちょっとしたユニークさや可愛らしいものへの親しみを感じ取ることも出来る。


「Cards With The Grandparents」は、アーティストの家族への親しみが歌われている。これは以前発売されたJayda Gのアプローチにも近いものである。しかし、ボーカルのサンプリングによって始まるこの曲は、やがて今作の重要なモチーフとなるグリッチ・サウンドの中に導かれていく。やがてそれは心地よいブレイクビーツ風のリズムと掛け合わされ、特異なグルーヴ感を生み出す。まるでアーティストは今や切れ切れとなりつつある記憶の断片を拾い集めるかのように、それらの破砕的なブレイクビーツを丹念に、そして重層的に折り重ねていく。それはやがて、アルバムのオープニングと同じように幻惑的な感覚を呼び覚ます瞬間がある。ネオソウルの方向性はほとんど取り入れられてはいないが、なぜかソウルにも近いメロウな雰囲気が生み出されている。これはアーティストの繊細な感覚がエレクトロニカ・サウンドに上手く乗り移った証でもある。いかなる感情や魂も音楽に乗り移らなければなんの意味もなさないのだから。


ロレイン・ジェイムスは音楽の実験性と並行して、茶目っ気というか、ユニークな手法も取り入れている。続く「While They Are Singing」は、そのことをよく表している。ボーカルのボコーダーのエフェクトは、一見するとアーティストによる戯れにしか過ぎないようにも思える。しかし、そのぼんやりとした音像に聴覚をよく澄ましてみると、意味深な目論見が込められているように感じる。グリッチ的な早いBPMを用いたトラックには、アーティストの人生に存在した複数の人物の声がコラージュのように散りばめられ、それは時に淡い悲しみや憂い、悲しみといった感情を伴い、ソウル音楽に近い印象を帯びる。単なるエレクトロニックと思うかもしれない。ところがそうではなく、アーティストは、みずからの人生や記憶に纏わる何らかの思いや感情を、実験的なエレクトロニック・サウンドに複合的な要素として織り交ぜているのだ。


「Try For Me」は、アーティストとしては珍しくアンビエントのトラックに挑戦している。ドローンに近い抽象的な音像はそれほど真新しいものとは言いがたい。けれど、その後、グリッチとハウス、そして、R&B寄りのボーカルトラックと結びつくことにより、新鮮なアヴァン・ポップ/エクスペリメンタル・ポップが生み出されている。この曲は、宇多田ヒカルの『Bad Mode』にも近い方向性が選ばれているが、難解なフレーズやリズムを擁する曲を軽快なポップスとして仕上げている。これはボーカリストとして参加したEden Samaraの貢献によるものなのかもしれない。アルバムの序盤の収録曲において、曲調という形で暗示的に示されていた物憂げな印象は、続く「Tired Of Me」では、フラストレーションや苛立ちに近い感覚を介して示されている。このトラックでも、アルペジエーターを駆使したユーロ・ビートとグリッチの融合という新しい型に取り組んでいる。ロレイン・ジェイムスの感情をあらわにした声については、他の曲にも増して迫力があり、真実味があり、なんとなく好感を覚えてしまう。しかし、スポークンワード風のリリックは、劇的なミニマル/グリッチによる中間部を越えると、一挙に虚脱したかのようなメロウでダウナーな瞬間に変わる。テンションの落差というべきか、抑揚の変化、あるいは感情の振れ幅にこそ、このアーティストの最大の魅力を感じ取ることが出来る。


「Speechless」「I DM U」と合わせてチェックしておきたい。まったりしたビートの中を揺れ動くように歌われるGeroge Rileyのセクシャルなボーカルの魅力は何ものにも例えがたいし、ジェイムスのボーカルとライリーのボーカルの掛け合いには、対話のような形式を感じ取ることが出来る。シンセのメロウなフレージングの妙はもとより、両者のボーカリストとしての相性の良さもあり、感情の交流が多彩な形で繰り広げられる。この曲において、ジャンルの選別はアーティストにとって第一義的なことではあるまい。両者の感情を巧緻に通わせて、感覚的なウェイブを、親しみやすいメロディーやリズムとして昇華させることの必要性を示唆している。 

 

「Speechless」

 

 

「Disjoined」もまたアーティストのユニークな性質が見事に反映されているのではないか。ジャズ・ピアノのコラージュを効果的に散りばめ、ブレイクビーツを展開させた後、ネオソウルに根ざしたボーカルトラックという形に引き継がれる。アルバムの中で最もアヴァンギャルドなポップスだが、むしろ音像という全体的な構造の中で、リズムやメロディー、ボーカルという複数のマテリアルをどのように配置するのかという点に、アーティストのこだわりや工夫を見いだせる。断片的に自己嫌悪が歌われた後、「I'm Trying To Love Myself」では、トラップの要素を活用しつつ、その後にやはり、アルバムの重要なモチーフであるグリッチを取り入れ、前衛的なダンスビートとして仕上げている。手法論としては、かなり難解ではあるが、少なくとも、これらは実際のフロウが欠落しているとしても、ラップのバック・ミュージックのような感覚で楽しめるはず。当然のことながら、ロレイン・ジェイムスのセンス抜群のアプローチにより、それは一定以上の水準にあるダンス・ミュージックとしてアウトプットされているのだ。

 

クローズ曲「Saying Goodbye」では少なくとも、アーティストのSSWとしての成長を感じ取れる。ネオソウルという切り口はロレイン・ジェイムスの得意とするところであると思われるが、その中には、作品全般のナラティヴな試みとともに、人生観の深み、あるいは自己的な洞察の深さも読み解くことが出来る。

 

このレコードの音楽は、前衛的な手法が用いられているため、マニアックな印象もある。けれども、実際、アバンギャルドな音楽に親近感を持たないリスナーにも少なからず琴線に触れるものがあるはずだ。それはアーティストがこの音楽性に関して、感情性に一番の重点を置いているからである。そして、音楽の設計的な考えを重要視する代わりに、己の感覚を大切にすることを最重要視しているからこそ、こういった説得力溢れるアルバムが生み出されたのだろう。

 

 

84/100

Yeule  

 

 

 

・エヴァンゲリオン等、日本のカルチャーからの影響 仮想現実と音楽の連結 

 


Yeuleはシンガポール出身、現在、ロンドンを拠点に活動するSSW。ご存知の通り、Ninja Tuneの看板アーティスト。先週『Softcars』を同レーベルからリリースした。それ以前に2作のアルバムを発表している。現在、ヨーロッパツアーを開催中であり、ロンドンのDIYのカバーストーリーを飾った。今、ロンドンのポップシーンで大きな注目を受けていることは間違いない。

 

Yeuleの音楽は、ドリーム・ポップ、シューゲイズ、ノイズ・ポップの融合体、あるいは、その未来系である。しかし、アーティストは明確にジャンルの規定を避け、バーチャルとAIのカルチャーに根ざしたテクノロジーの未来を予見させる音楽を生み出そうと試みる。それはバーチャル・リアリティと、アーティストが住まう現実空間を直結させる働きを成している。Yeuleの音楽は、現実世界に鳴り響くものであるが、同時に仮想空間でも鳴り響く。リアルとバーチャルな導線をつなげる役割を持っているのだ。しかし、こういった2つの空間を繋げる音楽はどこから生じたのだろう。

 

 

・ポスト・ヒューマンという認識

 

そもそも、Yeuleの名を冠して活動するアーティスト、ナット・チミエルは”ポスト・ヒューマン”という認識を自らの実存性に関して抱いているという。旧時代、アダムとイヴがいて、教えに反し、禁断の実を食べたことで、例の楽園を追われ、地上という煉獄に行き着いた。そういった旧約聖書の人類史の神話的なエピソードは、現在的な感性からはいくらか理解しがたいものである。たとえ、それが文化史の美徳であると仮定づけたとしても……。原初的な男と女という2つの性はやがて、それらの境界線を失い、ユニセックスな存在として現代の人々の観念の中にひっそりと潜んでいる。


「ノンバイナリー、または、フィジカル的に認識されないことを好みます」とYeuleは話す。「シンガポールに住んでいた頃、画家として出発し、10代の時代の多くを引きこもりとして過ごしました」Yeuleは語った。「これが私の自己観や仮想現実への繋がりに深い影響を及ぼしました」


テクノロジー最盛期、特にバーチャル空間と最も近い場所にいたYeuleがこれらの2000年以降の急速なテクノロジー改革の影響を受けて、それらの仮想現実を通じてアーティストがアイデンディディを獲得していったことは、それほど想像に難くない。

 


・『新世紀エヴァンゲリオン』からの影響

 

Yeuleの音楽的な背景を見るかぎり、日本のカルチャーからの影響が深いことが分かる。平成時代、一世を風靡し、現在はゴジラ・シリーズ等を手掛けるアニメーションの巨匠、庵野監督がジブリの後の時代に制作した『新世紀エヴァンゲリオン』のオリジナル・シリーズと劇場版からの影響だ。

 

「初めてエヴァンゲリオンを見たのは、12歳の頃だったと思います。当時はよく作品に関して理解できなかったため、16、17歳くらいのとき、シリーズ全体と3つの映画を見ました。とても素晴らしい芸術作品です。今では、毎年繰り返し見ています。それでも、そのコンセプトがあまりに美化されすぎているので、実際の深さそのものが空洞みたいに見なされていると思う。NGEは子供の頃の私のアイデンティティを形成したし、聖書のイメージを通した神との関係、及び実存的な(現実に対する)風刺がどのように繋がったのかを描写することによって、心理的なトラウマを解消するのに役立ったのです」

 

©︎Neil Krug

 

・自分の音楽をどのように捉えているのか

 

実際の音楽観念についてはどうだろう。 ドリーム・ポップともシューゲイズともノイズ・ポップとも解釈出来る音楽。少なくとも、Yeuleは自らの認識と同じように自分のプロジェクトの音楽を直感的に捉えている。


「私がこれまでに感動してきた音楽は、自分が作った作品に非常に近いと思います。ノイズやディストーション等、慣れ親しんだサウンドを選んでます」それに加えて、Yeuleにとって音楽は、現実空間に鳴り響くバーチャルな媒体ではなく、それは仮想的なものと現実的なものをすり合わせる意味がある。「それは頭の中で鳴る音のように、その空間を揺るがし、そしてそのウェイブが壁のようなものを破るとき、私の頭の鳴っているものがピタッと止まる。美しいサウンドを具えたその曲は、別次元の音の絵画のようであり、その周波数に関しても耳に届いて来る。割れないガラスは正弦波として薄紫の色に輝く。私が表現しようというもの、それは青空が地面に崩れ落ち、そして私とあなたたちの上に崩れ落ちるその寸前の何かを捉えているのかもしれない」

 

これまで2作のフルアルバムを発表しているYeule。しかし、今回は特に意図するところが明らかになり、そして、そのサウンドが持つ魅力がシンプルに伝わってくるような気がする。それはひとつ理由があり、パンデミックでの経験が音楽に対するアプローチ、あるいは音楽にたいする観念を変えたのだ。


「沈黙がいつもあることや、私が経験していることを目撃する人がいない場合、孤独が私を蝕むことに気がついた。例えば、多くのファンが私のことを目撃できれば、『FF Ⅶ』のリメイクのゲームプレイ全体を通じて、私の姿を追いかけられるはずだし、Minecraftで一大的な世界を築きあげることができれば、私とおんなじように多くの人が救われると思う。こういった行為には仲間意識のようなものがありますよね。だから、そういった人たちと一緒に思い出のようなものを作っていければ、と思っているんです」

 

 

・SNS、コミニケーションチャットでの交流

 

現代の多くのアーティストと同じように、Yeuleは、SNSやコミニケーションチャットを有効活用している。


現代のテクノロジーの変革を敏感に捉え、そのウェイブを活かすことによって、自らの考えを純粋に多くのファンに対して広め、交流を深めている。このことに関して当のアーティストはどのように考えているのか。


「2019年に、サイバー・ディメンション、Discordのアカウントを作りましたが、誰もが安全で受けれられ、孤独を感じないための仮想空間を作成したのは、2020年11月のこと。そして、それは私の音楽を通して、人々が繋がれるようにするためでした。それまで他人でしかなかった人たちが、私の音楽を通じて知り合い、そして彼らが友情を築きあげていくのを見るのは、本当に感動的でした」とYeuleは語った。「同じユーザーの名がポップアップに表示されるのを見て、多くのユーザーの存在が認識できたし、またそれは私にとっても自分が愛されていることを再確認することが出来ました」

 


・カバーについて、今後希望するアーティストとのコラボレーション

 

こういった全般的な音楽と関連する媒体との連携に加えて、もう一つ、Yeuleの現在の音楽を核心を形成しているのが、複数のアーティストのカバーである。


「”These Days”というナンバーの原曲は、ジャクソン・ブラウンによるものですが、私は14歳のとき、Nicoのカバーを聴いたんです。言葉に含まれる詩、そして、メッセージの伝え方に感動して、以来、私のお気に入りの曲の一つになりました。私は外を歩いていた/最近はあまり話さない/私の失敗を私に突きつけないで/私はそれを忘れていたのに。こういったフレーズを再生するたび、感動して涙がでてきました」しかし、アーティストは、この曲をあまりヘヴィー・ローテーションすることができないという。でないと、ベッドでまるくなって、食事を忘れてしまうくらいになるのだから。


アーティストは『Softcars』をリリースしたばかりであるが、多くのコラボレーションを夢見ている。


「Grimes,Bjork、Adrian Lenker,Alex Gといったアーティストを私は尊敬してやみません」とYeuleは語った。「彼らの作品は、私の魂の一部を変えたし、また、私の心を引き裂くくらいの力があった。良い意味で、心が真っ二つになっちゃうんです。特に、エイドリアン・レンカーは素晴らしいですよね。この世代の心を痛めるようなソングランターの一人でしょうし。また、Alex Gも尊敬していますね。彼のソングライティングをなんとか上手く吸収していければ、と考えているんです。また、ファンタジーではあるものの、いつか、Arcaと一緒に仕事をしてみたいなと思っています。彼女が生み出すサウンドに対する意図を高く評価しています。私は、プロデューサー、アーティストとしての彼女の仕事に本当に共感していて、また、とても尊敬しています」

 

 



ヴォックストロット(Voxtrot)が14年ぶりのニューシングル「Another Fire」で帰ってきた。ラメッシュ・スリヴァスタヴァ、ジェイソン・クロニス、マット・サイモン、ミッチ・カルヴァート、ジャレッド・ヴァン・フリートという5人のオリジナル・メンバーをフィーチャーしたこのトラックは、スリヴァスタヴァが監督したビデオとともに到着した。以下よりご覧ください。


「アナザー・ファイヤー』は、個人的で普遍的な再生について歌っています。「バンドメンバーの貢献によってこの曲に命が吹き込まれるのを聴くのはスリリングだった。



 

©︎Luca Bailey

ロンドンを拠点に活動する大森日向子が、次作アルバム『stillness, softness...』からニューアルバム「ember」をリリースしました。「foundation」「in full bloom」「cyanotype memories」に続く新曲。ぜひ下記よりチェックしてみてください。


「”ember"の背景にあるアイデアは、過去への執着が状況の認識を曇らせることに気づくこと、そして、自分自身と他者とのより健康的で思いやりのある関係を築くために、自分自身に課しているこれらの障壁を打ち破ることの重要性についてです」と大森はプレスリリースで説明しています。


『stillness,softness...』は、『2022's a journey...』の続編で、10月27日にHoundstoothからリリースされる。


『Nevermind』の成功の後にコバーンは何を求めたのか




「より大衆に嫌われるレコードを作ろうと思ったんだ」カート・コバーンは、『Nevermind』の次の作品『In Utero』のリリースに関して率直に語っている。そもそも、Melvinsのオーディションを受けたシアトルのシーンに関わっていた高校生時代からコバーンの志すサウンドは、若干の変更はあるが、それほど大きく変わってはいない。『Nevermind』で大きな成功を手中に収めた後、新しい作品の制作に着手しないニルヴァーナにゲフィン・レコードは業を煮やし、コンピレーション・アルバム『Incesticide』でなんとか空白期間を埋めようとした。その中で、「Dive」「Aero Zeppelin」といったバンドの隠れた代表作もギリギリのところで世に送り出している。

 

ある人は、『In Utero』に関して、ニルヴァーナの『Bleach』時代の原始的なシアトル・サウンドを最も表現したアルバムと考えるかもしれない。また、ある人は、『Nevermind』のような芸術的な高みに達することができず、制作上の困難から苦境に立たされた賛否両論のアルバムだったと考える人もいるだろう。しかしながら、このアルバムは、グランジというジャンルの決定的な音楽性を内包させており、その中にはダークなポップ性もある。シングル曲のMVを見ても分かる通り、カート・コバーンの内面が赤裸々に重々しい音楽としてアウトプットされたアルバムと称せるかもしれない。





三作目のアルバムが発売されたのは1993年9月のこと、カート・コバーンは翌年4月に自ら命を絶った。そのため、このアルバムは、しばしばコバーンの自殺に関連して様々な形で解釈され、説明されてきたことは多くの人に知られている。


『In Utero』は彼らが間違いなく最高のバンドであった時期にレコーディングされた。前作『Nevermind』のラジオ・フレンドリーなヒットは、バンドにメインストリームでの大きな成功をもたらし、ビルボード200チャートで首位を獲得し、グランジをアンダーグラウンドから一般大衆の意識へと押し上げた。もちろん、彼らは当時の大スター、マイケル・ジャクソンを押しのけてトップの座に上り詰めたのだった。


DIY、反企業、本物志向のパンク・ムーブメント、Melvins、Green River、Mother Love Boneを始めとするシアトル・シーンに根ざして活動してきたバンドにとって、この報酬はむしろ足かせとなった。コバーンは、心の内面に満ちる芸術的誠実さと商業的成功の合間で葛藤を抱えることになった。巨大な名声を嫌悪し、私生活へのメディアの介入に激怒したカートは、あらゆる方面からプレッシャーをかけられて、逃げ場がないような状況に陥ったのだ。


アバディーンで歯科助手を務めていた時代、その給料から制作費をひねり出した実質的なデビュー・アルバム『Bleach』の時代から、カート・コバーンはDIYの活動スタイルを堅持し、また、そのことを誇りに考えてきた経緯があったが、メジャー・レーベルとの契約、そして、『Nevermind』のヒットの後、彼は実際のところ、シアトルのインディー・シーンのバンドに対し、決まりの悪さを感じていたという逸話もある。期せずして一夜にしてメインストリームに押し上げられたため、それらのインディーズ・バンドとの良好な関係を以後、綿密に構築していくことができなくなっていた。

 

それまではDIYの急進的なバンドとしてアバディーンを中心とするシーンで活躍してきたコバーンは、多分、売れることに関して戸惑いを覚えたのではなかった。自分の立場が変わり、親密なグランジ・シーンを築き上げてきた地元のバンドとの関係が立ち行かなくなったことが、どうにも収まりがつかなかった。それがつまり、94年の決定的な破綻をもたらし、「ロックスターの教科書があればよかった」という言葉を残す原因となったのである。彼は、音楽性と商業性の狭間で思い悩み、答えを導きだすことが出来ずにいたのだ。

 

『In Utero』を『Nevermind』の成功の延長線上にあると考えることは不可欠である。コバーンは、バンドのセカンド・アルバムがあまりにも商業的すぎると感じ、「キャンディ・アス」とさえ表現し、アクセシビリティと、ネヴァー・マインドのラジオでの大々的なプレイをきっかけに制作に着手しはじめた。当時、カート・コバーンは、「ジョック、人種差別主義者、同性愛嫌悪者に憤慨していた」と語っている。だから、歌詞の中には「神様はゲイ」という赤裸々でエクストリームな表現も登場することになった。サード・アルバムで、前作の成功の事例を繰り返すことをコバーンは良しとせず、バンドのデビュー作『Bleach』におけるアグレッシヴなサウンドに立ち返りたかったとも考えられる。その証拠として、アルバムに収録されている『Tourette's』には、『Nagative Creep』時代のメタルとパンクの融合に加え、スラッシュ・メタルのようなソリッドなリフを突き出したスピーディーなチューンが生み出された。


カート・コバーンは、内面のダークでサイケデリックな側面を赤裸々に表現し、芸術的な信憑性を求めようとした。以前よりもソリッドなギターのプロダクションを求めていたのかもしれない。そこで、以前、Big Blackのフェアウェル・ツアーで一緒に共演したUSインディーのプロデューサーの大御所、スティーヴ・アルビニに白羽の矢を立てた。

 

それ以前には、Slintのアルバム『Tweedz』のエンジニアとして知られ、後にロバート・プラントのアルバムのプロデューサーとして名を馳せるスティーヴ・アルビニは、1990年代中頃、アメリカのオルタナティブ・シーンの寵児として見なされていた。当時、彼は、過激でアグレッシヴなサウンドを作り出すことで知られ、インディー・ロックの最高峰のレコードを作り出すための資質を持っていた。この時、彼は別名でミネアポリスのスタジオを予約したという。その中には、メディアにアルバム制作の噂を嗅ぎつけられないように工夫を凝らす必要があった。

 



・スティーヴ・アルビニとの協力 ミネアポリスでの録音




「噂が広まらないようにする必要があった」とスティーヴ・アルビニは、NMEのインタビューで語った。


「インディペンデントなレコーディング・スタジオで、そこで働いている人は少人数だった。彼らに秘密を託したくなかったから、自分の名義で"サイモン・リッチー・バンド"という偽名でスタジオを予約することにした」「実は、サイモン・リッチーというのは、シド・ヴィシャスの本名なんだ。もちろん、スタジオのオーナーでさえ、ニルヴァーナが来るとは知らなかったのさ」

 

しかし、当時のバンドの知名度とは裏腹に、プロデューサーはセッションは比較的スタンダードなものだったと主張した。「セッションには変わった点は何もなかった」と彼は付け加えた。


「つまり、彼らが非常に有名であることを除けば……。そしてファンで溢れかえらないように、できる限り隠しておく必要があった。それが唯一、奇妙なことだったんだよ」


「”In Utero”のセッションのかなり前に、Big Blackがお別れツアーを行った時、最終公演はシアトルの工業地帯で行われた」とアルビニは回想している。「奇妙な建物で、その場しのぎのステージでしかなかった。でも、クールなライブで、最後に機材を全部壊した。その後、ある青年がステージからギターの一部を取っていい、と聞いてきて、私が『良いよ、もうゴミなんだし』と言ったのをよく覚えているんだ。その先、どうなったかは想像がつきますよね...」


アルビニは自らスタジオを選び、Nirvanaをミネソタ/ミネアポリスのパチダーム・スタジオに連れ出すことに決めた。音楽ビジネスに対する実直なアプローチで知られる彼は、バンドの印税を軽減することを拒否し、ビジネスの慣習を "倫理的に容認できない"と表現した。その代わり、彼は一律100,000ポンドで仕事を受けた。当初、バンドとアルビニはアルバムを完成させる期限を2週間に設定したが、全レコーディングは6日以内に終了、最初のミックスはわずか5日で完了した。


アルバムをめぐる最大の議論の一つは、セカンドアルバムとは似ても似つかないプロダクションの方向性である。アルビニが好んだレコーディング・スタイルは、可能な限り多くのバンドを一緒にライブ演奏させ、時折、ドラムを別録りしたり、ボーカルやギターのトラックを追加することだった。

 

これによって2つの画期的なサウンドが生み出されることになった。第一点は、コバーンのヴォーカルを楽器の上に置くのではなしに、ミックスの中に没入させたこと。第二点は、デイヴ・グロールのアグレッシブなドラムがさらにパワフルになったことである。これは、アルビニがグロールのドラム・キットを30本以上のマイクで囲み、スタジオのキッチンでドラムを録音し自然なリバーブをかけたことや、グロールの見事なドラムの演奏の貢献によるところが大きかった。コバーンの歌詞が『イン・ユーテロ』分析の焦点になることが多い一方、グロールのドラミングは見落とされがちだが、この10年間で最も優れた演奏のひとつに数えられるかもしれない。


録音を終えた後、カート・コバーンは完成したアルバムをDGCレーベルの重役に聴かせた。『ネヴァーマインド』的なヒット曲を渇望していた会社幹部は、失望の色を露わにした。同時に、その反応は、アルバムの成功に思いを巡らせながら、自分の理想を堅持し続け、自分たちの信じる音楽をリリースすることを想定していたカート・コバーンに大きな葛藤を抱えさせる要因となった。

 

結局、レーベルとバンドの議論の末、折衷案が出される。アルバムのシングルは、カレッジ・ロックの雄、R.E.Mのプロデューサー、スコット・リットに渡され、ラジオ向きのスタイルにリミックスされた。スティーヴ・アルビニは当初、マスターをレーベル側に渡すことを拒否していたのだった。



・『In Utero』の発売後 アルバムの歌詞をめぐるスキャンダラスな論争

 


 

諸般の問題が立ちはだかった末、リリースされた『In Utero』は、思いのほか、多くのファンに温かく迎えられることになった。しかし、このアルバムに収録された「Rape Me」を巡ってセンセーショナルな論争が沸き起こった。この曲について、カート・コバーンは、SPINに「明確な反レイプ・ソングである」と語っていて、後にニルヴァーナの伝記を記したマイケル・アゼラット氏は、「コバーンのメディアに対する嫌悪感が示されている」と指摘している。しかしながら、世間の反応と視線は、表向きの過激さやセンセーション性に向けられた。その結果、ウォルマート、Kマートは、曲名を変更するまで販売の拒否を表明した。にもかかわらず、このアルバムは飛ぶように売れた。

 

翌年の4月8日、コバーンがシアトルの自宅で死亡しているのが発見された。警察当局は、ガン・ショットによる自殺と断定したことは周知の通りである。このことは、アルバムの解釈の仕方を決定的に変えたのである。多くのファンや批評家は、アルバムの歌詞やテーマは、コバーンの死の予兆だったのではないかと表立って主張するようになった。このアルバムは、混乱し窮地に立たされた彼の内面の反映であり、以後のドラッグ常習における破滅的な彼の人生の結末の予兆ともなっている。

 

しかし、別の側面から見ると、「死の影に満ちたアルバム」という考えは、単なる後付けでしかなく、歴史修正主義、あるいは印象の補正に過ぎない事を示唆している。憂鬱と死に焦点を当てた『Pennyroyal Tea』の歌詞は、『In Utero』リリースの3年前、1990年の時点で書かれていたし、同様に、ニルヴァーナ・ファンのお気に入りの曲のひとつであり、来るべき自死の予兆であったとされる『All Apologies』も1990年に書かれていたのだ。


ただ、ニルヴァーナの最後のアルバムがレコーディング中のカート・コバーンの精神的、感情的な状態を語っていないとか、コバーンが自ら命を絶つ兆候を全く含んでいないと言えば嘘偽りとなるだろう。しかし、それと同時に、『In Utero』をフロントマンの自殺だけに関連したものとして読み解くことは、その煩瑣性を見誤ることになる。


このレコードは、スターとしての重圧、新しい家族との関係、メインストリームでの成功と芸術的誠実さの間の精神的な苦闘について、あるいは、彼の幼少期の親戚の間でのたらい回しから生じた、うつ病や死の観念について、アーカイブで表向きに語られる事以上に、彼の生におけるリアリティが織り交ぜられている。



以下の記事もあわせてご一読下さい:



グランジロックの再考  NIRVANAとMEAT PUPPETSの親密な関係

 

UKのデュオ、Wings Of Desire(ウィングス・オブ・デザイア)が、デビュー・アンソロジー・アルバム『Life Is Infinite』と2枚のニュー・シングル「A Gun In Every Home」、「001 [Tame The War, Feed The Fire]」を発表した。アルバムは12月8日にリリースされる。


『ライフ・イズ・インフィニット』は、彼らのオープニング時代の形成的な楽曲を集め、欲望の翼を次の章へと導く。


「自分自身に身を委ねることは、最も難しいことのひとつである。私たちには、ただ "在る "ことを許すことを阻む、たくさんの精神的なプログラムやブロックがある」と、バンドは最新シングルについて語る。『A gun in every home』は、向こう側へ突破するために自分の影を振り返るというアイデアを探求している。魂の闇夜は、痛みを伴うが、この転生において成長と拡大を経験するために通過しなければならない必要な嵐だ」

 

 「A Gun In Every Home」ーLive



「001 [Tame The War, Feed The Fire]」



Wings Of Desire 『Life Is Infinite』




Tracklist:


Runnin'

Be Here Now

Choose A Life

A Gun In Every Home

Better Late Than Never

Perfect World

Chance Of A Lifetime

Will Try MyBest

A Million Other Suns

001 [Tame The War, Feed The Fire]

Made Of Love

Angels

[The Knife]