ベルギー/ゲントを拠点に活動するプロデューサー、シンガーソングライターのBolis Pupul(ボリス・ププル)が、リードシングル「Completely Half」の公開と併せてデビューアルバム『Letter To Yu』の詳細を発表した。新作アルバムは3月8日にDEEWEE/Becauseから発売される。

 

シンガーソングライターというのは、単に良い曲を歌いたいがために存在するわけではない。彼らは時に、おのが心にあるモヤモヤと折り合いをつけるため歌をうたう。Bolis Pupulの『Letter To Yu』は、2008年に交通事故で他界したボリスの亡き母へのラブレターでもある。ベルギー人の父と中国人の母の間に生まれ、ゲントで育ったボリスは、母が香港生まれであったこともあり、自身のルーツの中国を否定していたわけではなかったにせよ、それを受け入れていたわけでもなかった。しかし、母親の死をきっかけに、彼は自分の血統と折り合いをつけ始めたのだ。


「自分のルーツについて考えるようになったとき、それを恥じるのではなくて、むしろ受け入れるようになりました。そして、自分のルーツに触れることがますます重要になった。私はベルギーの夜間学校に通い、中国語を学び始めたんです。それを4年間続けた。それが最初の一歩でした」


アルバムのファースト・シングル/ビデオ「Completely Half」(香港の地下鉄でのフィールド・レコーディングをもとに作られた)は、マグナム・フォトグラファーのビーケ・デポルターが香港の中心部で撮影したアートハウス風の美しいビデオで、ボリスが亡き母を探して香港の街や建物を探索する姿を追った。ビデオに登場する女性たちは、ビーケを彼女たちの家や日常に迎え入れ、ボリスが亡き母の魂を探し求める日常を、複雑な構図を持つタブローで撮影させた。


『Letter To Yu』の制作は、ボリスにとって重要で解放的な体験となった。「この旅はとても感情的で、時には悲しいこともあったけど、本当に幸せな時間を過ごすこともできた。その結果、自分の人生をどうにかできると思えるような、とても高揚感のあるメロディーが生まれました」

 

 

 「Completely Half」

 




Bolis Pupul 『Letter To Yu』



Label: DEEWEE/Because

Release: 2024/3/8

 

Tracklist:


Letter To Yu

Completely Half

Goodnight Mr Yi

Frogs

Doctor Says

Spicy Crab

Ma Tau Wai Road

Causeway Bae

Cantonese

Kowloon

Cosmic Rendez-Vous

 


ジェイソン・ライトル率いる米国のインディー・ロック・バンド、Grandaddyが、近日発売のアルバム『Blu Wav』のニューシングル「Cabin in My Mind」を公開した。『Blu Wav』は2024年2月16日にDangerbird Recordsよりリリースされる。ニューアルバムの予約はこちら


ジェイソン・ライトルは次のように説明する。「しばらく前、友人と一緒に旅をしていて、ライヴをしながらただリフを弾いていたら、彼がこのフレーズを思いついた。


「私にとってとても意味のある言葉だったし、タイトル自体にたくさんの意味が込められていた。文字通り、心の中の小屋を想像するのは楽しいよ。玄関に入ってドアを閉め、しばらく姿を消すんだ。タイトルがすべてを物語っている古いカントリー・ソングのように完璧だった。私はこのフレーズを覚えていたし、それを拾い上げて仕事にするのは簡単だった」


近日発売予定のアルバム『Blu Wav』は、グランダディの巨匠、ジェイソン・ライトルがネバダ州の砂漠をドライブ中に、ラジオのクラシック・カントリー・ステーションから流れてきたパティ・ペイジの「Tennessee Waltz」を聴いて思いついた。このアルバムには、グランダディが得意とするローファイな瑞々しさと、時にサイケデリックなオーケストレーションが、ライトルが初めて本格的なカントリー・ミュージックに挑戦した作品として組み込まれている。全13曲中7曲がワルツで、「ペダル・スティールを使用した曲が非常に多い」とライトルは書いている。


Grandaddyは最近、Sumday Twunnyのボックス・セットを含む一連の20周年記念リイシューを行っている。ライトルはまた、友人でありサイケデリック・ポップの作家であるマーク・リンカスの遺族の要望により、スパークル・ホースの遺作アルバムにヴォーカルで参加している。



 


WishyはデビューEP『Paradise』を来週リリースする。彼らはこの EPの最終シングルを発表した。シンガー・ソングライターのニーナ・ピッチカイツと元フープスのフロントマン、ケヴィン・クラウターが率いるインディアナ州のバンド。EPのリリース前にチェックしてみよう。


「Spinning」はキラキラしたドリーム・ポップ・ジャムで、推進力のあるブレイクビーツと、この曲の作曲者でもあるNina Pitchkitesのリバーブの効いたヴォーカルによってリードされる。


プレスリリースの中でニーナ・ピッチカイツは次のように述べている。「この曲は、純粋に自分自身を発見すること、そして不安の中でも自分を楽しませることについて歌ってます。この曲は、20代前半の混乱期に書いたんです。サンデーズのジャングル・ポップにとてもインスパイアされました。"サンデーズは、私の曲作りに多くのインスピレーションを与えてくれるバンド」


 

 

Label: Peter Gabriel Ltd.

Release: 2023/12/1



Review

 

満月の日に合わせて、『i/o』の先行シングルを順次公開していたピーター・ガブリエル。まだアルバム発売前には、アルバム・ジャケットの印象も相まって、ダークな作品をイメージしていたが、実際の音楽は、必ずしもそうとばかりは言いきれない。 アルバムの収録曲の中には、母親の死を取り扱った曲も収録されているというが、全体的には、潤沢な経験を持つ音楽家として聞きやすいポピュラーアルバムとなっている。アルバムは二枚組で構成され、一方はブライト・サイド、もう一方は、ダークサイドのミックスを収録している。いわば、先行シングルの予告については、月の満ち欠けを表そうという制作のコンセプトが込められていたことが分かる。

 

アルバムには、先行シングルでの制作者のコメントを見ても分かる通りで、どうやら世界情勢や平和についての考えも取り入れられているようである。それをガブリエル自身は、許すことの重要性を表明しようとしている。他にも、現代の監視社会への提言も含まれているという気がしてならない。例えばオープナー「Panopticon」は、フランスの思想家であるミシェル・フーコーが提唱した中央集権的な監獄の概念を「パノプティコン」と呼び、彼の著作の中でこの考えを問題視したが、それはガブリエルにとっては現代社会が乗り越えるべき問題であるのかもれない。

 

こう考えると、難解なアルバムのように思えるかもしれない。しかし、実際は、聞きやすさと円熟味を兼ね備えた深みのあるポピュラーアルバムである。ピーター・ガブリエルは何度もスタジオでサウンドチェックを入念に行い、現代の商業音楽がどうあるべきか、そういった模範を示そうとしたのかもしれない。オープニング「Panopticon」はイントロこそ鈍重な感じの立ち上がりだが、意外にも、その後、ソフト・ロックやAOR寄りの軽快な曲風に様変わりするのが興味深い。こういった作風に関してはDon Henlyあたりの音楽性を思わせて懐かしさがある。そういったノスタルジックな音楽を展開させながら、最近のシンセ・ポップやスポークンワードのような要素を取り入れたり、苦心しているのが分かる。ガブリエルのスポークンワード風のボーカルはかなり新鮮で、シリアスなイメージとは別のユニークな印象が立ち上る瞬間がある。

 

その他にも安心感のあるソングライターの実力が「Playing For Time」にうかがえる。ピアノやストリングス、ベースを中心とするバラードのような楽曲で、音のクリアさに関しては澄明ともいうべき水準に達している。これはソングライター/プロデュースの双方で潤沢な経験を持つガブリエルさんの実力が現れたと言える。曲の立ち上がりは、R&B/ブルースの雰囲気のあるエリック・クラプトンが書くような渋いバラードのように思えるが、後半にハイライトとも称すべき瞬間が現れる。この曲では予めのダークなイメージが覆され、それと立ち代わりに清涼な音楽のイメージが立ち現れる。渋さのあるバラードから曲は少しロック寄りに移行し、最終的には、ビリー・ジョエルのような黄金期のポピュラー・ソングに変化していく。

 

一方、タイトル曲「i/o」は、ガブリエルがピアノを背後に感情たっぷりに歌う良曲である。しかし、この曲がそれほどしんみりとしないのは、やはりオープニングと同様に、AOR/ソフト・ロックへの親和性があり、静かな印象のある立ち上がりから軽快なポップアンセムに変貌する構成に理由がある。曲は、その後、フィル・コリンズの音楽性を彷彿とさせる軽妙なロックソングへと変遷し、渋さのあるガブリエルのボーカルと、サビにおける跳ね上がるような感覚を組み合わせ、メリハリのある曲展開を構築する。作曲や構成の隅々に至るまで、細やかな配慮がなされているため、こういった緻密なポップソングが生み出される契機となったのかもしれない。


「Four KInd of Horses」では、現代のシンセポップの音楽性の中で、ガブリエルは自分自身のボーカルがどのように活きるのかというような試作を行っている。最近のイギリスのポピュラー音楽を踏襲し、それをMTVの時代のシンセ・ポップと掛け合せたかのような一曲である。この試みが成功したかは別として、この曲にはピーター・ガブリエルの野心がはっきりと表れ出ている。

 

 

このアルバムの音楽の中にはユニーク性というべきか、あまりシリアスになりすぎないで、その直前で留めておくというような制作者の思いが込められているような気がする。それはユニークな観点がそれが束の間であるとしても心の平穏をもたらすことを彼は知っているからであるのだ。「Road To Joy」は、ザ・スミスの名曲「How Soon Is Now?」のオマージュだと思うが、ここに、何らかの音楽の本来の面白さやユニークさがある。そして、その後、スミスの曲と思えた曲が、レトロなテクノに移行していく点に、この曲のいちばんの醍醐味がある。ループ構造を持つ展開をどのように変化させていくのか、制作のプロセスの全容が示されていると思う。


そのあと、再び神妙な雰囲気のある「So Much」へ移行していく。この曲では序盤のボーカルとは異なり、清涼感のあるガブリエルのボーカルが印象的。それはもっと言えば、よりソフトで親しみやすい音楽とは何かというテーマをとことん突き詰めていった結果でもあるのかもしれない。実際のところ、それほど派手な起伏が設けられているわけではないけれども、ガブリエルのハミングとボーカルの双方の歌唱と憂いのあるピアノが上手く合致を果たし、美麗な瞬間を作り出している。これはポップスのバラードの理想形をアーティストが示した瞬間でもある。

 

アルバムはミックス面でのブライトサイド/ダークサイドという重要なコンセプトに加えて、曲の収録順に関しても、明るい感覚と暗い感覚が交互に立ち現れるような摩訶不思議な感覚がある。そして、全体の収録曲を通じて流れのようなものが構築されている。例えば、「Oliver Tree」は映画のサウンドトラックを思わせるような軽快な曲として楽しめるだろうし、続く「Love Can Heal」では80年代のポピュラーミュージックにあったようなダークな曲調へと転じている。その後、「This Is Home」では、再び現代的なシンセポップの音楽性へと移行し、「And Still」では、母親の死が歌われており、アーティストはそれを温かな想いで包み込もうとしている。クローズ曲でも才気煥発な音楽性を発揮し、「Live and Let Live」では前の曲とは異なるアグレッシブなポップスへ転じ、より明るい方へと進んでいこうとしていることが分かる。

 

ダークサイドのミックスバージョンに関しては今回のレビューでは割愛させていただきたいが、これらの12曲には、音楽を誰よりも愛するアーティストの深い知見と見識が示されている。そして、人生における明部と暗部という二つのコントラストを交えつつ、光が当てられる部分と、それと対比をなす光の当たらない部分をアーティストが持ちうる音楽のスタイルで表現している。今作は、著名なプログレッシブロックバンドのボーカリストとしてのキャリアを持つピーター・ガブリエルの意外な魅力に触れるまたとないチャンスともなりえるかもしれない。

 

 

74/100 

 

 


BBC Radio 1の「Sound Of 2024」のロングリストが発表された。Sound Of...の投票では、10組の新人アーティストが来年成功するためのヒントを得ている。


今年の長者番付は、オリヴィア・ロドリゴ、デクラン・マッケンナ、チェイス&ステイタス、マヘリアなど、140人以上の業界専門家やアーティストからなるパネルによって選ばれた。


 BBC Radio 1 Sound Of 2024のアーティストは以下の通り。


• Ayra Starr


• Caity Baser


• CMAT


• Elmiene


• Kenya Grace


• The Last Dinner Party


• Olivia Dean


• Peggy Gou


• Sekou


• Tyla


ケイティ・ベイザー、ザ・ラスト・ディナー・パーティ、セクウはすでに2024年のBRITsライジング・スター賞にノミネートされている。


FLOは、Fred Again...、Asake、Dylan、Cat Burnsらを擁するロングリストを抑えて、2023年のBBC Sound Of...の受賞者に輝いた。FLOは1年前にもBRITsライジング・スター賞を受賞している。


過去には、ストームジー、アデル、レディー・ガガ、ディジー・ラスカル、ザ・ウィークエンド、デュア・リパ、ビリー・エイリッシュ、ルイス・カパルディらが選ばれている。


トップ5のカウントダウンは、2024年1月1日(月)にラジオ1でスタートする。優勝者は2024年1月5日(金)にラジオ1で発表される。


また、ラジオ1では、1月8日(月)にマイダ・ヴェールでスペシャル・イベント「BBC Radio 1 Sound of 2024 Live」を開催し、ロングリストに選ばれたアーティストのパフォーマンスを披露する。


ラジオ1の音楽担当クリス・プライスはこう語った。「今年の『Sound Of...』リストには多くの女性アーティストが名を連ねており、次世代のフェスティバルのヘッドライナーとして本当に心強い。BBCラジオ1のジャンルにとらわれない性質が反映され、長者番付の出演者全員をサポートしています。2024年はニューミュージックにとって素晴らしい年になることを約束します!」


このリストは、アーティスト、DJ、ラジオやテレビのプロデューサー、ジャーナリスト、ストリーミングの専門家、フェスティバルのブッキング担当者など、149人の音楽専門家からの推薦をもとに作成された。また、契約しているか否かに関わらず、国やジャンルを問わず、お気に入りの新人アーティスト3組が挙げられている。


その基準は、2023年10月12日以前に全英No.1またはNo.2のアルバム、もしくは2枚以上の全英トップ10シングルのリード・アーティストになっていないこと。また、例えばソロ活動で成功を収めているアーティストや、過去にSound Of...リストに登場したことがあるなど、すでに英国の一般大衆に広く知られているアーティストは対象外となる。



ロンドンの謎に包まれた音楽グループ、Saultが、デビューライブを予告した。この予告は先週(11月25日)、集団がインスタグラムに投稿したところから始まった。"サウル・ライヴ、ロンドン、2023年"。


それ以上の詳細はまだ明かされていないが、2つ目の投稿では、未発表アルバムの収録曲を「最初で最後の」ライブで披露することが明らかにされた。昨年リリースされた5枚のアルバムと2021年の『NINE』(99日間限定)に続き、コメント欄のファンは、このアルバムが発表される日を推測している。去年の11/11に全てのレコードを手に入れ、10/10にXをドロップしたように。


Saultの正体は常に謎に包まれているが、ヴォーカリストのクレオ・ソルとキッド・シスター、プロデューサーのインフロ、そしてリトル・シムズ、マイケル・キワヌカなど幅広いコラボレーターで構成されていると広く考えられている。


今年初めに開催されたアイヴォア・ノヴェロ賞では、『11』が最優秀アルバム賞を受賞し、受賞者にはインフロ、クレオ・ソル、クロニクス、そしてジャック・ペニャーテの名前が挙がっている。




スフィアン・スティーヴンスほどクリスマス・ソングのカタログが豊富な人物はいない。2006年の『Songs for Christmas』と2012年の『Silver & Gold』でリリースされたホリデーをテーマにした曲はなんと100曲以上にものぼる。

二日前に公開されたスフィアン・スティーヴンスによる公式ユール・ログの間にツリーを飾ったり、お菓子作りをしたり、愛する人に電話をかけたり、ホットココアを楽しんだりしてもOK。なんと驚くべきことに5時間のホリデーソングが収録されている。

ミュージックビデオはブライアン・パッチョーネが監督を務め、音楽はスフィアン自身のカタログから抜粋されている。安眠用にも最適。


 CLARK 『Cave Dog』

 

Label: Throttle Records

Release: 2023/12/1

 

Review

 


90年代からテクノシーンを牽引してきたCLARKによる『Sus Dog』に続く最新アルバムが到着。最近、トム・ヨークにボーカル指導を仰いでいるというクラーク。前作では珍しくボーカルにも挑戦。ベテラン・テクノプロデューサーによる飽くなき挑戦はまだまだ終わる気配がない。


正直、前作『Sus Dog』は、制作者のプランが完全に形になったとは言い難かったが、『Cave Dog』はプロデューサーの構想が徐々ではあるが明瞭に見えてくるようになった。テクノ/テックハウスのスタイルとしては、クラーク作品の原点回帰の意義があり、その作風は最近リイシューを行った「Boddy Riddle」に近い。さらに着目すべきは、アルバムのオープナー「Vardo」を見ると分かるように、90年代の活動当初のテクノ/ハウスの熱狂性を取り戻していることに尽きる。


シンプルな4ビートのテックハウスを下地に、ブレイクを挟み、レトロなテクノの音色を駆使することにより、堅固なグルーブをもたらしている。テック・ハウスは、極論を言えば、John Tejadaの最新アルバム『Resound』を聴くと分かる通り、強いビート感でリードし、オーディオ・リスナーやフロアの観客の体を揺らせるまで辿り着くかが良作と駄作を分ける重要なポイントとなりえる。


特に今作『Cave Dog』のオープニングを飾る「Vardo」では、従来のクラークの複数作品よりもはるかに強いキックが出ており、そこに新たに複数のボーカルが加わることで、ユーロビートのような乗りやすさ、つまりコアなグルーブを付与している。アウトロの静謐なピアノも余韻十分で、「Playground In a Lake」でのモダン・クラシカルへの挑戦が次の展開に繋がったとも解せる。 

 

 

「Vardo」

 

 

今一つ着目すべき点は、クラークがシンセサイザーの音色の聴覚的なユニークさをトラックの中に音階的に組み込んでいること。二曲目「Silver Pet Crank」では、ミニマル・テクノの中に音階構造をもたらし、その中にトム・ヨークのボーカル・トラックを組み込んでいる。わけても興味を惹かれるのは、ヨークのメインプロジェクト、The Smile、Radioheadでは、彼の声はどうしてもシリアスに聞こえてしまうが、CLARKの作品の中に組み込まれると、意外にもユニークな印象に変化する。これは旧来のトム・ヨークのファンにとって「目から鱗」とも称すべき現象だ。

 

この曲は展開の発想力も素晴らしくて、いわゆる「音の抜き差し」を駆使し、変幻自在に独自のテックハウスの作風を確立している。ビートは一定に続いているが、強迫と弱拍の変化(ずらし方)に重点が置かれており、曲を飽きさせないように工夫が凝らされている。さらにもうひとつ画期的な点を挙げると、ブラジル音楽のサンバに見られるワールドミュージックのリズムの影響を取り入れようとしている。これはプロデューサーのしたたかなチャレンジ精神が伺える。

 

三曲目「Medicine Doves」では、2000年代にApparat(ドイツのSasha Ring)が好んで使用していた、ピアノとシンセサイザーを組み合わせた音色を使用し、デトロイトの原始的なハウス・ミュージックと00年代のジャーマン・テクノを掛け合せている。そこにボーカロイドのような人工的なボーカルをスタイリッシュに配することで、クールで新鮮味のある曲に仕上げている。 


しかし、リバイバルに近い意義が込められているとはいえ、ベースラインの強固さについては独創的なテックハウスと呼べる。軽いシンセの音色とヘヴィーなビートが対比的な構造を形成している。特に前曲と同様、音の抜き差しに工夫が凝らされ、熱狂的な展開の後に突如立ち現れる和風のピアノの旋律による侘び寂びに近い感覚、そして、その後に続く、抽象的なダウンテンポに近い独創的な展開については「圧巻!」としか言いようがない。特に、ミニマルなフレーズを組み合わせながら大掛かりな音響性を綿密に作り上げていく曲のクライマックスに注目したい。

 

「Domes of Pearl」については、レトロな音色を使用し、エレクトロニックのビートの未知の魅力に焦点を当てようとしている。テック・ハウスをベースにして、その上にチップ・チューンの影響を交え、ファミリー・コンピューターのゲーム音楽のようなユニークさを追求している。Aphex Twinが使用するような音色を駆使し、ベースラインのような変則的なビートを作り上げていく。この曲は「Ted」をレトロにした感じで、プロデューサーの遊び心が凝縮されている。


続く、「Doamz Ov Pirl」は、クラークの代名詞的なサウンド、アシッド・ハウスの作風をもとにして、そこにボーカル・トラックを加えることで、どのような音楽上のイノベーションがもたらせるかという試行錯誤でもある。実際、前作アルバム『Sus Dog』よりもボーカル曲として洗練されたような印象を受ける。前曲と同じように、別のジャンルの音楽からの影響があり、それはアシッド・ジャズからラップのドリルに至るまで、新奇なリズムを追求していることが分かる。ボーカルやコーラスの部分に関しては、ブラジル音楽からの影響があるように思える。これが奇妙な清涼感をもたらしている。何より聴いていると、気分が爽やかになる一曲だ。

  

「Dismised」も同じように、根底にある音楽はイタロ・ディスコのようなポピュラーなダンスミュージックであるように感じられるが、その中に民族音楽の要素を付加し、クラークの作品としては稀有な作風を構築している。ビートやリズムに関しては、ステレオタイプに属するとも言えるのに、構成の中にエスニックな音響性を付与することで、意外な作風に仕上げている。ボーカルに関しては、アフリカ音楽や儀式音楽に近い独特な雰囲気にあふれているが、これは現在のUKのポピュラー音楽に見受けられるように、ワールド・ミュージックとアーティストが得意とするダンスミュージックの要素を掛け合わせようという試みであるように感じられる。

 

「Reformed Bully」は、連曲のような感じで、多次元的とも言える複雑な構造性を交えたブレイクビーツに導かれるようにし、ポピュラー・ミュージックの範疇にあるボーカルが展開される。この曲でも、トム・ヨークらしき人物のボーカルが途中で登場するが、その声の印象はやはり、The Smileとは全然別人のようである。ここにも彼のユニークな人柄をうかがい知ることが出来る。

 

ここまでをアルバムの前半部としておくと、後半部の導入となる「Unladder」は、『Playground In A Lake』における映画音楽やモダン・クラシカルへの挑戦が次なる形になった瞬間と呼べるだろう。ピアノの演奏をモチーフにした「Unladder」は骨休みのような意味があり、重要なポイントを形成している。ピアノ曲という側面では、Aphex Twinの「April 15th」を彷彿とさせるが、この曲はエレクトロニックの範疇にあるというよりも、ポスト・クラシカルに属している。エレクトロニックの高揚感や多幸感とは対極にあるサイレンスの美しさを凝縮した曲である。制作者は、現行のポスト・クラシカルの曲と同様、ハンマーに深いリバーブを掛け、叙情的な空気感を生み出す。中盤からアウトロにかけての余韻については静かに耳を傾けたくなる。

 

続く、「Oblivious/Portal」に関しては、『Playground In A Lake』を制作しなければ作り得なかった形式と言える。オーケストラ・ストリングスをドローン音楽として処理し、前衛的な作風を確立している。壮大なハリウッド映画のようなシネマティックな音像はもちろん、作曲家としての傑出した才覚を窺い知れる曲である。アンビエント/ドローンという二つの音楽技法を通して、ベテラン・プロデューサーは音楽により、見事なサウンドスケープの変遷を描いている。中盤からクライマックスにかけての鋭い音像の変化がどのような結末を迎えるのかに注目したい。

 

「Pumpkin」では、 クラシカルの影響を元にして、それをミニマル・テクノとして置き換えている。シンセサイザーとピアノを組み合わせて、格調高い音楽を生み出している。曲の構造性の中にはバッハのインベンションからの影響を感じる人もいるかもしれないし、テリー・ライリーのモダンなミニマル・ミュージックの要素を見つける人もいるかもしれない。いずれにせよ、CLARKはシンセとピアノの融合により、ミクロコスモス的な世界観を生み出し、聞き手の集中を2分強の音の中に惹きつける。制作者の生み出す音楽的なベクトルは、外側に向かうのではなく、内側に進む。そのベクトルは極小な要素により構築されているにもかかわらず、驚くべきことに、極大なコスモス(宇宙)を内包させている。曲の終盤では、ピアノの柔らかい音色が癒やしの感覚をもたらす。こういった超大な作風は、Oneohtrix Pointneveの『Again』に近い。

 

アルバムの中盤に向かうと、序盤よりも神秘性や宇宙的な概念性が立ち現れる。「Meadow Alien」ではついに地球を離れ、宇宙に接近しはじめる。まさしくタイトルに見えるように、エイリアンとの邂逅を描いたものなのか……。はっきりとした事はわからないが、少なくともスペースシップの船内に浮遊するような得難い感覚をアンビバレントな電子音楽として構築している。そのサウンドスケープは、意外にもアンビエントという形をとり現れる。クラークはその中に映画音楽で使用されるマテリアルを配し、短い効果音のような演出的な音楽を作り上げている。

 

いよいよ、クラークはミクロコスモスともマクロコスモスともつかない電子音楽によるミステリアスな空間を「Alyosya Lying」で敷衍させ、近年、トム・ヨークの指導を仰ぎながら取り組んできたボーカル曲としての集大成を形作る。以後、アルバムの最終盤でも、ジャンルレスな音楽性が展開される。


例えば、近年のギリシャ/トルコをはじめとする世界の大規模な森林火災をモチーフを選んだとも解釈出来る「Disappeared Forest」では、電子音楽にソウル/ゴスペルのコーラスを組み合わせ、これまで誰も到達し得なかった前人未到の地点に到達する。クラークが今後どのような音楽を構築していくのか。尤もそれは誰にも分からないことだし、予測不可能でもある。アルバムの最後の曲「Secular Holding Pattern」では、Tim Heckerの音楽性をわずかに思わせる抽象的なアンビエント/ドローンの極北へと辿り着く。クローズ曲では、オーケストラで繰り広げられるドローン・ミュージックとは別軸にある電子音楽におけるこのジャンルの未来が示唆されている。

 

 

 

92/100




Spotifyの2023年の音楽界に関する統計やデータが多数公開された。テイラー・スウィフトは、同プラットフォームで今年最もストリーミングされたアーティストであり、1億ドル以上を稼ぐ偉業を成し遂げた。


11月29日水曜日、スポティファイは、テイラー・スウィフトが2022年のアルバム『Midnights』、2023年の再リリース『Speak Now (Taylor's Version)』と『1989 (Taylor's Version)』、そして現在進行中の "Eras Tour "のリリースの影響もあってか、1年間で261億ストリーミングを記録したと発表した。2022年、バッド・バニーがそれまでの年間最多ストリーミング記録を塗り替えたが、彼のストリーミング数は約185億に過ぎなかった。


ビルボードによると、テイラー・スウィフトがすでに計上できているストリームは、約9,700万ドルをもたらす見込みである。12月に彼女が得るストリームを加えると、この数字は約1億100万ドルに増え、出版収入を考慮すると、1億3,000万ドルの大台に乗るのは時間の問題だ。


現在、テイラー・スウィフトはラテン・アメリカ公演を終えたばかりで、「The Eras Tour」の合間を楽しんでいる。ブラジルでは、スウィフトはキリストの特別投影(ホログラム)で迎えられたが、リオデジャネイロでのコンサートでファンが死亡するという悲劇が起きている。それ以来、スウィフトはそのファンを称え、彼女の家族とも面会している。


AIやメタバースのイノベーションはついにリアルなライブ空間にまで影響を及ぼし始めている。その先駆者となったのが、驚くべきことにデトロイト・ロック・シティで知られるKISSだ。

 

デトロイトの伝説、KISSは土曜日の夜、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで "史上最後のショー "と言われる公演を行った際、KISSはデジタル・アバターをステージで紹介した。ポール・スタンレー、ジーン・シモンズ、トミー・セイヤー、エリック・シンガーという現在のラインナップが最後にステージを去ると、彼らの代わりにホログラム・バージョンが登場した。これは彼らの後にデジタル・アバターがKISSとしてライブツアーを行うという予告代わりでもある。

 

Pop House Entertainmentの最高責任者、Per Sundin(パー・スンディン)は、デジタルKISSの可能性は無限大」とFast Companyに語った。

 

「ツアーが終わってから考えるつもりだ。未来のKISSコンサート? ロック・オペラ? ミュージカル? 物語、冒険? この4人はすでにスーパーパワーを持っているんだ。私たちはできるだけオープンでありたい」「我々が成し遂げてきたことは素晴らしいが、それだけでは十分ではない。バンドは生き続ける価値がある。次のステップに進み、キッスが不滅になるのを見るのは、僕らにとってエキサイティングなことだよ」


KISSのベーシスト、ジーン・シモンズは次のように付け加えた。「これまで夢見たこともないような場所に連れて行ってくれることで、僕らは永遠に若く、永遠に象徴的でいられる。テクノロジーは、ポールを今までより高くジャンプさせるだろう......。未来はとてもエキサイティングだ。僕らを追い出そうと思っているのなら、残念ながらそうはならないだろう」


 

米国のシンガーソングライター、Noah Kahan(ノラ・カハン)は昨夜(12月2日)、サタデー・ナイト・ライブに出演し、サード・アルバム『Stick Season (We'll All Be Here Forever)』から「Dial Drunk」と「Stick Season」を披露した。パフォーマンスのリプレイは以下から。


2017年1月にシングル「ヤング・ブラッド」でデビューを果たす。その後、「ハート・サムバディ」をリリースし、追ってその楽曲は2018年第60回グラミー賞最優秀新人賞にノミネートされたジュリア・マイケルズをフィーチャリングしたバージョンをリリースし、世界中から注目を浴びるようになった。


 

 



ルーシー・ブルーはダブリン出身のアイルランド人シンガー、ソングライター、プロデューサー。17歳の時、音楽を追求するために大学を中退し、2020年にPromised Land Recordingsと契約した。


シングル「See You Later」(2021年)でデビュー、同年末にセカンド・シングル「Your Brother's Friend」(2021年)をリリース。

 

2021年6月18日にファーストEP『FISHBOWL』をリリース。セカンドEP『Suburban Hollywood』は2022年1月21日にリリースされた。 2020年9月、ロンドンを訪れていたルーシーは、この街でインスピレーションを受け、現在もまだロンドンを離れていない。


ルーシー・ブルーは、フランク・オーシャン、PJハーヴェイ、スケートのバイブル『Thrasher Magazine』など、幅広い影響から独自の音楽世界を構築する。映画界のアイドル、ハーモニー・コリン(Harmony Korine)の初期の作品に似ていないこともないが、ルーシーの野心的な青春ポップは、アウトサイダー精神と、ティーンエイジャーが自分の道を見つけることの弱さを楽しんでいる。


ルーシーは非常に視覚的な人物でもある。シンガー、ソングライター、プロデューサーである彼女は、曲を作るたびに、その曲が存在する空間を見ている。ある時は部屋(東京のカラオケ・バー、母親の居間)、ある時は、夜のサイクリング、ある時は水に浮かぶユリの花でいっぱいの不吉な暗い場所さえも。ソフトなダブリン訛りのルーシーは、曲作りの際にこれらのイメージがどのように引き継がれるかを説明する。


「音楽制作にとても役立っている」とルーシーは言う。「聴いているものをイメージと結びつける必要があるの。それが私の脳を助けてくれる」


同年代の仲間たちの感情的なストーリーを受け止め、それをポジティブなものにアレンジする才能を持つルーシー・ブルーは、音楽界にとって欠かせない声であり、また、今後のベッドルームポップ・シーンにおいて象徴的な存在となっても不思議ではない。


 

 

 『Unsent Letters』 Promised Land


Lucy Blue(ルーシー・ブルー)は、21歳のシンガーで、2021年頃、NMEとCLASHが新世代のポップアーティストとして注目し、リリース情報を紹介している。

 

『Unsent Letters』は、アーティストにとって実質的なデビュー作となるようだが、現代の他の駆け出しのミュージシャンの例と違わず、現時点ではフィジカル盤では発売が確認できていない。Spotify、Deezer、Youtube Musicのみの配信となっている。


ルーシー・ブルーのソングライティングはベッドルームポップ志向で、Clairo、Holly Humberstoneのアプローチにも親和性がある。ギターのシンプルな弾き語りに加え、ピアノを演奏する。ときにシンセが入ることもある。ソングライティングの核心には、エド・シーランのように率直さがある。難解なコード進行を用いず、場合によっては、カデンツァのみによって構成されているケースも有る。オルタナのようにトライトーンを用いることはなく、デミニッシュを頻繁に用いることもない。Ⅰ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵといった基礎的な和音しか使用していない。それにも関わらず、驚くべきことに、ルーシー・ブルーの曲は、今年度のポップスの中でも群を抜いて華やか。その軽やかなポピュラー・ミュージックは長く聴いていても、それほど耳が疲れることもない。

 

サウンド・プロダクションに関しては、多少、エド・シーランの楽曲に用いられるようなピッチシフター、ボコーダーが多少掛けられているのかもしれない。しかし、シンプルなアコースティック・ギター(エレアコ)、ピアノの弾き語りを中心とする彼女のアルバムには、現代のポピュラーミュージックの欠点である過剰さ、射幸性というのが内在する余地がない。ただ、歌手自身や同年代の音楽ファンのため、曲を制作し、ただ、その人々のために楽器を演奏し、歌うというだけなのだ。このアルバムには、複雑性がほとんど存在せず、簡素さに焦点が絞られている。シンプルで朴訥であるがゆえに心を打つ。それがルーシー・ブルーの音楽の魅力なのだ。


最新アルバム『Unsent Letters』は、リリース情報として公式に説明されているわけではないが、ホリデー・ソングやクリスマス・ソングにも近い空気感に縁取られているという印象を持った。さらに、タイトルにあるように、これまで振り返ることがなかった過去の人生の地点にある歌手の心情をポップス、フォークという観点を通して描写するというような感覚である。そのことは、アルバムの序盤では分からないけれど、終盤になるにつれてだんだんと明らかになる。

 

オープニングを飾る「Say It and Mean It」は、このポップ・アルバムの壮大な序曲ともいえ、ボレロのような形式で、ひとつずつ各楽器のパートが代わる代わる登場し、アルバム全体の器楽的な種明かしをするかのようである。ルーシー・ブルー自身によるエレアコギターのささやかな弾き語りという形で始まり、シンセの付属的なアルペジエーターが加わる。さらに、その後、ルーシー・ブルーのボーカルが載せられたとたん、曲の雰囲気がガラリと一変するのが分かる。

 

”遠く離れた場所を見る達人”というダブリンのシンガーソングライターは、繊細さと大胆さを兼ね備えた彼女みずからの歌の力量により曲の始まりにいた場所から、予測できないような遠く離れた意外な場所へとリスナーを導いていく。曲の展開を引き伸ばしたり、もったいぶることもなく、イントロから、サビとも解釈出来るアンセミックなフレーズへスムースに移行する。

 

ルーシー・ブルーのボーカルは、深いリバーブの効果も相まってか、天上的な幻想性を帯びるようになる。さらにドラムが入ると、壮大なポップバンガーに変化する。フレーズの合間に導入されるギターラインも叙情的だ。さらに、奥行きのある空間を生かしたプロダクションは、曲の終盤でフィルターを掛けた狭い空間処理を施すことにより、現代のトレンドのベッドルームポップ的な意味合いを帯びるようになる。さながら、ルーシー・ブルーが自認するように、異なる空間を音楽によって自在に移動するかのような完璧なサウンド・プロダクションである。

 

「Say It and Mean It」

 

 

二曲目の「I Left My Heart」に、シンガーソングライターのダブリンに対する淡い郷愁が込められていたとしてもそれほど驚きはない。この曲はまた、「十代の頃の自分に対する書かれることがなかったラブレター」と称してもそれほど違和感がない。少なくとも、ケルティックのフォーク・ミュージックの音楽性に根ざしたこの曲は、モダンなベッドルーム・ポップのサウンドプロダクションの指向性を選ぶことにより、シンガーと同世代のリスナーの心を見事に捉え、共感性を呼び覚ます。ウィスパーボイスに近いスモーキーな発声を用い、アコースティック・ギターに対するボーカルラインに切なさをもたらす。


アルバムの序盤では、ダブリナーとして故郷に対するほのかな郷愁や愛着が示されているという感があるが、「Love Hate」は、一転して歌手のロンドンのアーバンな生活が断片的に縁取られている。無数の人が行き交うロンドンの2023年の街とはかくなるものなのだろうか? そんなふうに思わせるほど、シンセサイザーの目まぐるしく移ろうフレーズをベースにし、シンガーはモダンな大都市の中に居場所を求めるかのように、軽妙でアップビートな声を披露している。


エレクトロニック、ダンス・ミュージックの範疇にあるダイナミックなシンセに対して、ルーシー・ブルーは、チャーチズ、セイント・ヴィンセントのデビュー時のようなスター性と存在感を併せ持つスタイリッシュなボーカルを披露する。ブルーのボーカルは、ロンドンのカルチャーと、それと対象的なダブリンのカルチャーの間を揺れ動きながら、愛憎せめぎ合う微細な感覚のウェイヴを、軽やかに乗りこなし、上昇していくかのようだ。シンセ・ポップをベースにある楽曲は続いて、ノイジーなハイパー・ポップへと近づくが、イントロから中盤にかけての精妙な感覚が失われることはほとんどない。

 

アルバムでは、前曲のように都会的なアーバンなサウンドスケープも垣間見えるが、一方、曲を聴いていて、海がイメージの中に浮かび上がってくる瞬間もある。続く「Graveyard」は、リスナーの想像力を喚起させ、アルバムの中で唯一、ポスト・クラシカル/モダン・クラシカルのアプローチが図られている。


ルーシー・ブルーは、ロンドンから離れ、アイルランドに近い風景のイメージへと移行する。シンプルなピアノの演奏については、ポーランドの演奏家、マンチェスターの”Gondwana”に所属するHania Rani(ハニャ・ラニ)の品格のあるクラシカルへの傾倒を彷彿とさせる。ピアノのフレーズはすごくシンプルであるのだが、ルーシー・ブルーのボーカルが入ると、音楽の向こうに神妙な風景が浮かび上がってくる。それはまた、幻想的な映画のワンシーンを想起させる。



「Graveyard」

 

 

その後も曲のイメージは緩やかに変化していき、「Do Nothing」では、ベッドルームポップの音楽性に回帰する。このジャンルの最も重要な点をあげるとすれば、それはソロアーティストがホームレコーディングを主体とするプロダクションの中で、キュートさやスマートさを重視していりというポイントにある。その点、ルーシー・ブルーは、ClairoやGirl In Red、Holly Humberstoneといったこのジャンルの主要なアーティストと同じように、2020年代のメインストリームにある音楽性の核心を端的に捉えた上で、それを同年代のそれほど詳しくない音楽ファンや、彼女の年代とは離れた年代にも自らの理想とする音楽をわかりやすく示そうとしている。


この曲に現代のベッドルーム・ポップと明らかな相違があるとすれば、バロック・ポップの作曲の技法が取り入れていること。ビートルズが楽曲の中で好んで取り入れていたメロトロンの音色は、現代的なシンセの音色という形に変わり、2023年のポピュラー・ソングの中に取り入れられている。ジョニ・ミッチェル、ヴァン・モリソンをはじめとするSSWからの影響は、アウトプットされる形こそ違えど、この曲の現代的なポピュラー音楽の中に、したたかに継承されている。


そして、古典的なポピュラー音楽からの強い触発こそが、この曲に聴きごたえをもたらしている。特に若い世代のシンガーに顕著なのは、自分の生きている年代よりも前の世代の音楽に強いリスペクトを示していることである。ご多分に漏れず、ルーシー・ブルーは自分よりも前の時代の音楽をどのような形で現代のポップスとして昇華するのか、その理想形を示唆している。

 

 

12月1日に発表された『Unsent Letters』には、年末の時宜にかなった音楽性も含まれている。これはアーティストによるサプライズの一貫とも考えられ、アルバムの中の重要なハイライトを形成している。「Deserve You」では、古典的なソングライティングとエド・シーランのような現代的なポップスの型を組みわせて、2023年を象徴する珠玉のバラードソングを誕生させている。ピアノの伴奏を元にしたシンプルなバラードソングは、難しいコードやスケールを一切用いず、ポピュラー・ミュージックの王道を行く。ときには繊細でナイーブなストリングのレガートや、ピチカートをピアノとボーカルの合間に取り入れたり、クリスマスの到来を思わせるシンセの音色を取り入れながら、ルーシー・ブルーのポピュラー・ミュージックは中盤から終盤にかけてゆるやかに上昇していき、涙を誘う切ないアウトロに繋がっている。


アルバムの終盤では、アーティストは序盤よりもフォーク・ミュージックに対する傾倒をみせる。「Butterfly」は、上昇の後の余韻でもあり、また、魂の安寧の場の探求でもある。サウンドホールの音響を活かし、それらをケイト・ル・ボンに象徴されるコラージュ的なサウンドプロダクションを加え、止まりかけていた印象のあるベッドルームポップの時計の針を次に推し進めている。ボーカルのキュートさが光るイントロとは対象的に、曲の中盤には賛美歌のような神妙かつ壮大なポピュラー・ワールドに直結している。特に、アコースティックギターの弾き語りというベッドルームポップの主要なスタイルに加え、それとは対比的な壮大なトラックのミックス/マスタリングが施されている。これが、メジャーアーティストともインディーアーティストともつかない、アンビバレントな感覚を付与し、一定のイメージからルーシー・ブルーを脱却させ、現在のジャンル分けや、シーンというラベリングから逃れさせている要因でもある。

 

アルバムのクローズ「Happy Birthday Jesus」ではクリスマスに向けて、神さまへの祝福が示されている。しかし、宗教的にも概念的にもならず、単なるアガペーが歌われており、そして、それが万人に親しめるフォークミュージックという形として表に現れたことに、今作の最大の魅力がある。

 

 

90/100 

 

 

「Deserve You」- Weekend Featured Track

 

 

 

Lucy Blueのニューアルバム『Unsent Letetrs』はPromised Land Recordingsから発売中です。デジタルストリーミングのみ視聴可能。ストリーミングはこちらから。 



def.fo(トム・パウエルによるプロジェクト)が本日ニューシングル「Autumn Leaves」を発表した。ラップ、ファンク、R&B,ポップスをクロスオーバーするプロジェクトによる「Godly」に続く最新シングル。ベル・アンド・セバスチャンのクリス・ゲッデスが鍵盤で参加しているのに注目。


前作のシングル「Godly」とは異なり、def.foが柔らかなギターポップへとドラスティックな転換を図ったニューシングル。今週のベスト・トラックとしてご紹介します。



「Autumn Leaves」は、ソウルフルで爽やかなポップ・フォークの傑作である。この曲は、作り手にも聴き手にも安らぎと安心感を与えてくれる。太陽に照らされた霜のように輝き、内省的な歌詞が暖かな希望の毛布を織りなしているように、私たちはどのような逆境を乗り越えられ、どんなに暗い時でも明るい日がやってくることを教え諭してくれる。朗らかな春は必ずやってくる。さあ、刻々と変化する人生の季節を心を込めて振り返る素晴らしい旅に出てみよう!!



この曲では、トム・パウエル(マイケル・ヘッド・アンド・ザ・レッド・エラスティック・バンド)がヴォーカル、ギター、ベースを担当。彼の隣には、尊敬するミュージシャン、フィル・マーフィー(マイケル・ヘッド・アンド・ザ・レッド・エラスティック・バンド、ビル・ライダー・ジョーンズ)のドラム、クリス・ゲッデス(ベル・アンド・セバスチャン)の鍵盤が並び、全員が曲のダイナミックな深みに貢献している。



プロダクションは、トム・パウエルとスティーヴ・パウエル(ザ・ストランズ、ジョン・パワー、ザ・ステアーズ)のシームレスなコラボレーションで、情緒的で安心感のあるサウンドスケープを実現している。ミックスはロイ・マーチャント(オマー、M.I.A.、イグザンプル)が担当し、マスタリング/エンジニアのハウィー・ワインバーグ(ジェフ・バックリー、PJハーヴェイ、シェリル・クロウ)が魔法のようなタッチで仕上げている。

 

 ニューシングル『Autumn Leaves」は2023年12月1日により発売。def.foのニューアルバム『Eternity』の最終シングルである。新作アルバムのプリオーダーはこちら

 

 

def.fo (a project by Tom Powell) announces its new single "Autumn Leaves". This is the latest single from the artist who crosses over rap, funk, and pop music, following "Godly".

Autumn Leaves" is a soulful, breezy pop-folk masterpiece. Carefully crafted, the song offers comfort and reassurance to both the creator and the listener. Glistening like frost in the sun, the introspective lyrics weave a warm blanket of hope, reminding us that adversity can be overcome and that even in the darkest of times, brighter days will surely come. Spring will always come. Let us embark on a journey to reflect wholeheartedly on the ever-changing seasons of life.

Tom Powell (Michael Head and the Red Elastic Band) provides vocals, guitar, and bass on this song. Alongside him are respected musicians Phil Murphy (Michael Head and the Red Elastic Band, Bill Ryder Jones) on drums and Chris Geddes (Belle and Sebastian) on keys, all contributing to the song's dynamic depth.

Production is a seamless collaboration between Tom Powell and Steve Powell (The Strands, John Power, The Stairs), resulting in an emotional and reassuring soundscape. Mixed by Roy Merchant (Omar, M.I.A., Ixample), mastering engineer Howie Weinberg (Jeff Buckley, PJ Harvey, Sheryl Crow) adds his magical touch.

The new single "Autumn Leaves" is released by December 1, 2023 and is the final single from def.fo's EP "Eternity". Pre-order the album here.




 「Autumn Leaves」


 

Hollu Humberstone(ホリー・ハンバーストーン)がMUNAと組み、「Into Your Room」の新バージョンを発表した。ハンバーストーンは先日、「Elvis Impersonators」のミュージックビデオの撮影のため来日し、東京でカラオケを楽しんだ。彼女の妹は東京に住んでいるという。


オリジナルは10月にリリースされた彼女のデビュー・アルバム『Paint My Bedroom Black』に収録されており、来春にはUKツアーを行う予定。


ホリーはコラボレーションについてこう語っている。「私はMUNAに夢中で、ずっと一緒に仕事をしたいと思ってました。やっと私の曲に魔法をかけてもらえることになり、とても感謝しています」


MUNAは付け加えた。「ホリーはとても才能のあるアーティストで、私たちは長い間、彼女の曲作りと音楽性にとても感銘を受けてきました。イーサンとロブのプロデューサーとしての仕事も大好きだから、セッション・ファイルで演奏できるなんて夢のようだったよ」



 


南アフリカ出身で、現在ロンドンで活動するSSW,Kenya Grace(ケニア・グレース)がニューシングル「Paris」をリリースした。(各種ストリーミングはこちら)ケニア・グレースは2023年のシングル「Strangers」でUKシングルチャート一位を獲得し、人気急上昇中のシンガー。


ニューシングル「Paris」は、Warner/Majarから昨日発売された。「現代のデートに対する痛烈な頌歌」と銘打たれている。彼女が最近リリースした「Only In My Mind」に続くシングル。

 

ロンドンのヴィレッジ・アンダーグラウンドでのヘッドライン・ショーに続き、初の北米ツアーも控えている。

 

 

「Paris」

 


ロンドンのインディーロックバンド、Spector(スペクター)がニューアルバム『Here Come the Early Nights』の収録曲「Not Another Weekend」のMVを公開した。スペクターは現在、UKヘッドライン・ツアーを開催中である。


フレッドとジェドはユニークなミュージックビデオについて、こうコメントしている。「"Not Another Weekend "の新しいビデオに出演してくれる有名人がたくさんいて、とても感動した」