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日本のオルタナティブロックバンド、Mass Of The Fermentinfg Dregs、通称、MOTFGが今年の8月7日に「新代田FEVER」にてワンマン企画を開催する。この企画は、今回で13回目の開催となる。

 

2010年代から日本のインディーシーンで強い存在感を示し、第一線を牽引してきたMass Of The Fermentinfg Dregsは、2018年にフルアルバム「No New World」をリリースし、その後、シングル「You/歌をうたえば」を発表している。本公演のライブチケットは、150名限定とのことなので、参加者は一刻も早く予約を急ぐべし!!!!

 

バンドのフロントマン、ベーシスト/ボーカルを務める宮本菜津子からのメッセージは下記の通り。 

 

 

 

 

 

 


2022年8月7日(日) at 新代田FEVER 

 

「デイドリームなんかじゃない vol.13」 

 

出演:  MASS OF THE FERMENTING DREGS 

 

12:00/13:00 ¥3500+ワンドリンク  *150名限定  

 

 

チケット予約 :

 

motfd0807yoyaku@gmail.com  お名前ご連絡先を上記アドレスまでお送り下さい、とのことです。

 

 

新代田FEVER オフィシャルサイト:

 

https://www.fever-popo.com/schedule/2022/08/07/ 



 

Humbert Humbert


日本のデュオ、ハンバート ハンバートが2年振り11枚目となるオリジナルアルバム『丈夫な私たち』をリリースします。さらに先行デジタルシングル「岬」は7月6日配信リリースされます。


収録曲はPanasonic IoT家電CMソングとなっている『君の味方』、テレビ東京ドラマ「僕の姉ちゃん」のオープニングテーマとなっている『恋の顛末』、ジャルジャル主演配信コメディ演劇「夢路空港」の主題歌『夢の中の空』などのタイアップ楽曲に加え、楽曲提供したアニメ「プリンセスコネクト!Re:Dive Season2」エンディングテーマ『旅立ちの季節』のセルフカバーも含めた全12曲が収録される。


さらに、アルバム収録曲の『岬』がデジタルシングルとして7月6日にリリースされる。


本日から『岬』の先行予約Pre-add / Presaveが可能。ハンバート・ハンバートはこの新作について完結なコメントを添えています。


2022年も丈夫な私たちがしぶとく歌っていきます。
ツアーもアルバムも、ぜひお楽しみに!






Humbert Humbert 『岬』








【収録曲】


01.うちのお母さん
02.もうくよくよしない
03.ふたつの星
04.君の味方
05.恋の顛末
06.朝なんて来なければいい
07.黄金のふたり
08.私のマサラ
09.岬
10.旅立ちの季節
11.返事を書こう
12.夢の中の空


【初回限定盤】


<CD+Blu-ray>

品番:DDCB-94032 価格:税込¥5,500 税抜¥5,000

*Blu-rayには2021年9月22日Bunkamuraオーチャードホールで開催した『THIS IS FOLK』公演のライブ映像をフル収録予定


【通常盤】


<CD>

品番:DDCB-14079 価格:税込¥3,300 税抜¥3,000


【購入者特典】



[タワーレコード] オリジナルコースター
[HMV] オリジナルステッカー
[楽天ブックス] オリジナルクリアファイル
[ディスクユニオン]お絵かき帳
[拠点特典] ステッカー(5枚以上店舗)


*拠点店舗に関しては後日詳細発表
*特典には数に限りがあります 



【先行シングル予約】


7月6日Release「岬」


 坂本慎太郎 「物語のように」 



Label: Zelone Records

Release Date: 2022年6月3日、(国内レコード盤は、9月30日から発売)

 

やはり、日本のインディー界の大御所のリリースがあると、不思議とワクワクするものがある。坂本慎太郎の六年ぶりの新作「物語のように」は、パンデミックを通じて、このアーティストの人生観のようなものを社会情勢を俯瞰して見つめなおすことによって生みだされた作品であるように思える。

 

坂本さんは、tokionのインタビューで「明るく、フレッシュ、抜けが良い感じにしたかった」と話している通り、アルバムにはそこまで時代背景を象徴したような暗鬱な閉塞感のようなものは見受けられない。ゆら帝時代から一貫しているように、シニカルで、本気なのかどうか定かではないユニークさを交え、坂本慎太郎の一貫した世界がアルバムの底流には通じている。MTRでのデモテープづくりという古いスタイルも、このアルバムのノスタルジアあふれる雰囲気をいや増している。時代観とは距離を置いたまろやかなノスタルジア、それこそが坂本慎太郎さんの魅力であり、その「まったり感」を楽しむための一作であると言えるかもしれない。そして、このアーティストらしい歌詞の独特なニュアンスも健在で、それらは「物語のように」、「それは違法です」、「君には時間がある」といった楽曲に表れている。このシニカルで、ちょっと斜め上を行くかのような、坂本さんの言葉の持つ力が随所にきらりときらめいている。

 

既に、海外でも豊富なライブ経験、リリース経験がある坂本さんではあるものの、そういった国際意識とは裏腹に、やはり、「英語で歌うという概念は頭になかった」ようです。なぜなら、彼は誰よりも日本語を愛し、その響きを愛する人物だからである。上記のインタビューで話している通り、海外の人にも、音楽性が通じれば、言葉がつながらないという要素は、むしろプラスに転ずると坂本さんは考える。もちろん、それは細野晴臣さんがLAのライブで受け入れられ、既に「ハネムーン」の歌詞が世界の共通語となっていることからもよく分かることかもしれない。

 

アルバムの音楽性としては、具体的に、このアーティストと指摘するほどの知見を持ち合わせていないものの、 70年代の邦楽ロックに加えて、海外のアーティストの影響を受けて生み出された作品というように見受けられる。それは、ポップス、ハワイアン、サーフ、アフロビート、ファンク、サイケデリック、と、無類の音楽フリークとしての表情を併せ持つ坂本さんらしいサウンドの妙味と相まって、温かく、力みの抜けたグルーヴが作品全体に滲んでいる。これらのサウンドには、音楽を演奏することの喜びにあふれているだけでなく、時代の閉塞感を打破する力が込められている。そして、人生や音楽をより心から楽しむためには、ちょっとした「遊び心」が必要だと教えてくれており、さらに、ときには、人生をこれまでと違った角度から眺めてみることの重要性を教えてくれる。「物語のように」は、日本の正真正銘のインディー・アーティストのキャリアの分岐点であるとともに、彼の最良のアルバムとして挙げても良いのではないか。

 

 

Critical Rating:

78/100

 

 

 

 


・Amazon Link

 

 

宇宙ネコ子(Ucyu Nekoko)

 

 

宇宙ネコ子は、2012年に結成されたオルタナティヴロック・ユニット。羊文学、揺らぎとともに日本のシューゲイザーシーンの注目株。

 

初期メンバーは、ネムコ(Vo)とタナベコウヘイ(Ba)の二名。2014年に、ゲストボーカルに”ラブリーサマーちゃん”を迎え入れ、「宇宙ネコ子とラブリーサマーちゃん」を自主制作する。


2016年、再びラブリーサマーちゃん、入江陽、itoken(相対性理論)をゲストとして迎え、ファーストアルバム「日々のあわ」を制作し、P-Vine Redcordsからデビューを果たしている。 


2017年には初期メンバーであったタナベコウヘイが脱退している。アルバムのアートワークに関しては、すべて大島智子が手掛けている。アニメーション色の強いアートワークは宇宙ネコ子の魅力的な世界観の一貫とも言える。

 

 

 

「日の当たる場所にきてよ」(Hi No Ataru Basyo Ni Kiteyo) Loom

 

 


 

 

 

scoring

 

 

 

 

tracklisting

 

1.日の当たる場所にきてよ

2.Skirt

3.部屋

4.スロウ

5.Rebirth

6.9

7.hikage

 




 

 

ディスクユニオンが設立したインディーズレーベル「Loom」からこれまで宇宙ネコ子はアルバム、及びEP作品をリリースしている。

 

宇宙ネコ子の音楽性の魅力を端的に述べるとするなら、なんといっても、正統派のシューゲイザーサウンドの継承、そして、相対性理論の”やくしまるえつこ”に近い独特な声質にあるといっても過言ではない。もちろん、音楽として導き出される作風も、アルバムジャケットに描かれるような切ない青春、または、なんとなくノストルジアを感じさせる雰囲気に込められている。

 

1月19日にリリースされた「日の当たる場所にきてよ」でも、これまでの宇宙ネコ子らしいシューゲイザー/ドリーム・ポップサウンドは全面的に展開され、ファンの期待を裏切らない素晴らしい作品となっている。


特に、表題曲の「日の当たる場所にきてよ」、二曲目の「部屋」という楽曲がアルバムの中では白眉の出来栄えと言え、ドリーム・ポップの色合いは、既存作品より一層強固になったというような印象を受ける。 もちろん、言うまでもなく、歌詞についても同じように、その印象は以前よりも強められ、このアーティスト、宇宙ネコ子にしか紡ぎ得ない揺るぎないノスタルジアが日本語詞として「歪んだディストーションサウンド」に、心地よくふんわり乗せられている。

 

これまで、シューゲイザー/ドリーム・ポップ一直線の音楽性であった印象もある宇宙ネコ子のサウンドは、最新作においてかなりの進化を遂げたと断言出来る。それは、五曲目の「Rebirth」という一曲に顕著に表れていて、宇宙ネコ子は、ドリームポップの向こう側にあるアンビエントに近い質感を持った楽曲を生み出している。こういった穏やかで癒やしの質感を持った楽曲は、このアーティストが既存作品には見られなかった新境地を切り開いた瞬間ともいえる。


その他にも、ラストトラック「hikage」では良質なJ-POPサウンドを生み出していることにも注目である。

 

 日本のシューゲイザー/ ドリーム・ポップシーンにおいて、商業主義とは一線を画しながらも、良質なメロディー、そして、淡いノスタルジアの込められた日本のアーティストらしい雰囲気のある楽曲を生み出し続けている宇宙ネコ子。今後、どういった良質な作品を日本のインディーロックシーンにもたらしてくれるのだろうか、一ファンとしてはワクワクしながら心待ちにしたい。

 グソクムズ

 

グソクムズは、東京、吉祥寺を拠点に活動する四人組のシティ・フォークバンドで、2014年に、たなかえいぞを(Vo.Gt)、加藤佑樹(Gt)中心に結成されました。

 

活動当初は、現在とは全く異なるプロジェクト名を冠して、フォークデュオの形態でゆるく活動を行っていたようではありますが、2016年、堀部祐介(Ba)が加入、さらに2018年に中島雄士(Dr)が加入し、現在のバンド体制が整う。グソクムズの音楽的な背景は、往年の日本の名バンド、はっぴいえんど、高田渡、シュガー・ベイブスなどのフォーク音楽にあり、これらのバンドの音楽に強い影響を受けている。


彼らのバンドサウンドは「ネオ風街」と称されるように、細野晴臣直系のフォークサウンドを継承する現代のバンドです。グソクムズは、森は生きている、Predawnの次の世代を行くリバイバル・フォークサウンドを2020年代に推し進めようとしています。

 

またバンドとしてはメディアへの出演経験があり、2020年に雑誌「POPEYE」に掲載されている。同年8月には、TBSラジオにて冠番組「グソクムズのベリハピラジオ」が放送されている。 

 

グソクムズは、これまで自主レーベルから「泡沫の音」をはじめ、二枚のシングルとミニアルバム「グソクムズ系」をリリース。2021年には、電子音楽やポストロック系音楽を中心にリリースするご存知P-VINEと契約を結び、7インチシングル「すべからく通り雨」を発表、タワーレコードをはじめ、東京のインディーズシーンで大きな話題を呼んでいます。

 

グソクムズのサウンドは、ここ十年来の吉祥寺のスタジオペンタ系列のライブハウスのロックバンドの系譜にあり、ゆるく、まったりと、おおらかなオルタナティヴの気風に彩られている。

 

こういった音楽は、ここ十年来、吉祥寺のライブハウスにありふれたものでありながら、誰も彼もが明確な形として昇華しきれないもどかしさを覚えていました。それは、それぞれが、渋谷、下北沢とは異なる吉祥寺独自の音楽を不器用に貪欲に探しもとめていたということでもあるのです。

 

グソクムズのサウンドには、先を行った数多くのミュージシャンの熱い想いが宿っていて、ここ十年来の吉祥寺の数多くのバンドが引き継いできた音楽に対する愛情と気風を感じざるをえません。ここ十年、駅前で複数のライブハウスが協賛して、音楽フェス等を開催し、「音楽の町」として盛り上げようと苦心惨憺を重ねてきた東京吉祥寺が、満を持して日本のミュージックシーンに送り込んだインディー・フォークバンドです。 

 

 

 

 

「グソクムズ」 P-Vine  2021 

 



 

1.街に溶けて

2. すべからく通り雨

3. 迎えのタクシー

4. 駆け出したら夢の中

5.   そんなもんさ

6. 夢が覚めたら

7. 濡らした靴にイカす通り

8.   グッドナイト

9.   朝に染まる  

 

 

 

 

 

 

さて、今週の一枚として紹介させていただくのは、グソクムズのデビューアルバム「グソクムズ」となります。このアルバムはデビュー・アルバムとは思えないほどの完成度の高さ、十年以上メジャーで活動を行ってきたような貫禄を感じさせる作品です。

 

バンドの中心人物の”たなかえいぞを”は、若い時代から両親の影響で、カーペンターズやサイモン&ガーファンクルといった往年のアメリカンフォーク、ポップスを聴いてきたようです。それに加え、日本のシティ・ポップサウンドの源流をなすシュガーベイブス、はっぴいえんど、といったバンドの音楽からの影響を公言しています。

 

日本のシーンには、こういったバンドに影響を受けたミュージシャンが、他にも、スカート、トクマルシューゴをはじめ多く見受けられますが、グソクムズは、それらの日本のインディー・シーンの系譜にあたり、LAのリバイバルムーブメントとは異なる日本独自のリバイバルシーンの台頭を予見するかのような淡いサウンドの魅力によって彩ってみせています。


このアルバムで展開されていく音楽は、誰もが一度くらいはラジオなどを通して聴いたような懐メロ寄りのサウンド。メロディーやコードの構成にせよ、リズムの独特な運び方にせよ、そういったシティポップサウンドを踏襲していることはたしかですが、そこに現代的な要素を加え、おしゃれで洗練されたサウンドに仕上げているのは、ロサンゼルスやニューヨークのリバイバルバンドの動きと通じているような印象を受けます。

 

 

そして、このバンドの最大の魅力というのは、良質なメロディ、強かな演奏力に裏打ちされた、誰が聴いても何となく良さが分かるポピュラー性にあります。それはフロントマンの”たなかえいぞを”の細野晴臣を彷彿とさせる温かく包み込むようなヴォーカルの声質がバンドサウンドに深みをもたらしているからこそ。LAでは、今まさに、日本のシティ・ポップの人気が高まってきているようですが、それに比する、いや、いや、以上の資質をそなえたシティ・フォークサウンドが、今作において味わい深く展開されています。

 

グソクムズのデビューアルバムの中では、先行の7インチ・シングル「すべからく雨の中」「グッドナイト」の出来が際立っているように思われます。


特に、リードトラックの「街に溶けて」のネオアコサウンド風に心惹かれるものがあります。ノスタルジックでありつつ、現代性も失っていない。そして、過去と現代の間で、センチメンタルに揺れ動く切なさ、淡いエモーションが日本語フォークとして体現されていて、近年のJ-POPの中でも、屈指の名曲と言っても良いでしょう。

 

そして、「街に溶けて」のメロウでゆったりした名バラードにこそ、吉祥寺サウンドの本来の魅力が詰め込まれている。それは、先にも述べたとおり、この十年来において、ストリートサウンドとして数々のバンドが真摯に追究してきた音楽性でもあります。

 

かつて、ある吉祥寺のライブハウスの店長が、「吉祥寺のロックバンドの持つ音楽性には、他の町とは異なり、流行に流されない普遍性がある。それは、新宿とも八王子とも異なるんだ。そういった音楽シーンをこの町に作っていきたい」と話していましたが、彼が既に現場のスタッフではなくなった後、その切望が実現したというのは少し寂しくもあります.....。

 

それでも、グソクムズの日本のインディーシーンへの台頭、彼らの素晴らしいデビュー作は、全国区の「吉祥寺サウンド」が完成したことの証明にもなる。今作は、ローファイサウンドの盛んなLAあたりで結構人気の出そうな作品です。いずれにしても、P-Vineの素晴らしい新人発掘力、目の付け所の鋭さには感嘆するよりほかなし。

 

Haruka Nakamura



ハルカ・ナカムラは1982年生まれ、青森県出身のアーティスト。

 

幼い時代から母親の影響によってピアノの演奏をはじめ、その他にもギターを独学で学んでいます。2006年からミュージシャンとしての活動を開始し、2007年、2つのコンピレーション作品に参加、多様な音楽性を持った演奏を集め、「nica」を立ち上げる。2008年に小瀬村晶の主催するスコールから「Grace」でソロデビューを飾る。

 

その後、ソロアーティストとしての作品発表、Nujabesとのコラボ作品のリリースで日本のミュージックシーンで話題を呼ぶ。また、東京カテドラル聖マリア大聖堂、広島、世界平和記念聖堂、野崎島、野首天主堂等をはじめとする多くの重要文化財にて演奏会を開催しています。


近年の仕事で著名なところでは、杉本博司「江之浦観測所」のオープニング特別映像、国立新美術館「カルティエ 時の結晶」、安藤忠雄「次世代へ次ぐ」、NHKの土曜ドラマ「ひきこもり先生」の音楽を担当。

 

その他、京都・清水寺成就院よりピアノ演奏をライブ配信、東京スカイツリー、池袋サンシャインなどのプラネタリウム音楽も担当し、画期的なライブ活動を行っています。  早稲田大学交響楽団と大隈記念講堂にて、自作曲のオーケストラ共演も行っています。

 

 

 

 

「Nujabes Pray Reflection」 Hydeout Productions 2021 

 

 

 

 

12月4日にHydeout Productionsから発売されたハルカ・ナカムラの新作は、アルバム・タイトルの「Nujabes Pray Reflection」にもはっきり見えるように、日本の伝説的なDJ、故Nujabesに捧げられた作品です。かつて、Nujabesが作品をリリースしていたレーベルからの作品発表というのも並々ならぬ決意のようなものを感じます。

 

11月5日に発表された「新しき光」においても、nujabesに対する深い敬愛を示していたハルカ・ナカムラは、この作品でさらにそのリスペクトを深め、そしてこのDJが何を探し求めていたのか、その真理にいよいよ近づいたといえるでしょう。そもそも、このハルカ・ナカムラの新作「Nujanes Pray Reflection」は、Nujabesの生前の作品からインスピレーションを得て、それを新たに、ポスト・クラシカル/ネオ・クラシカル、あるいはまた、フュージョンジャズという側面から組み換え、Nujabesの芸術性をさらに一歩先に推し進めていこうという意図も伺えます。

 

これは、これまでの作品のように故人を偲ぶ作品ではなく、故人の意思を今生きる人間として受け継いだ重要な作品ともいえるかもしれません。

 

そもそも、ローファイヒップホップ/チルアウトの世界水準のアーティストとして日本のシーンに登場したDJのNujabesは、例えば、レイ・ハラカミと同じように、外国人から見た日本の文化性ではなくて、日本からみた日本文化の叙情性、エモーションを主な音楽性の特徴としていた稀有なアーティストでした。

 

それは、いうなれば、西洋人には見えづらい日本の内面性ともいうべき情感、禅文化の「侘び、寂び」にも似た幽玄な雰囲気を、現代的なローファヒップホップという音楽に込めたアーティストだったとも換言できなくはないでしょう。


今作が生み出される契機となったのは、Hydeout Productionsからハルカ・ナカムラに以下のような依頼があったことに始まります。「時が止まったままの十年を進めて欲しい」

 

これはレーベル側としても、Nujabesの盟友ともいえるハルカ・ナカムラとしてもNujabesの不意の出来事に関して、長年にわたって、どのように捉えるべきか苦悩していたと思われます。あらためて、Hydeout Productions側からの、今回、ひとつの区切りを設けて、新たに時計の針を進めてもらいたい、という提案を契機として、ハルカ・ナカムラも同じような意図で作品の制作に真摯に取り組んだものと思われます。 そして、ハルカ・ナカムラはレーベルからの依頼を受け、これまでのNujabesの生前の音楽を縁として、それをなんとか新たしい音楽として昇華し、現在まで後ろ向きであった思いを、故人のためにも前向きな思いに変えていこうと試みたのかもしれません。

 

今作「Nujabes Pray Reflection」には、生前のNujabesの独特な淑やかな情感とも呼ぶべきものが「Walts of Reflection Eternal」「World' end Rhapsody」といった秀逸で非常に聞きやすさのある楽曲の木管楽器の使用、旋律の運び方に受け継がれています。また、それは、以前のような後ろ向きな形でなくて、前向きで明るい形の表現に変化したと形容すべきでしょう。これは、ハルカ・ナカムラが長年の間、Nujebesの出来事について、暗い気持ちを抱えていたのだけれど、ついにそれを振り払い、ようやく肯定的に捉えなおすことが出来たというべきかもしれません。

 

そして、この作品は、見方を変えてみれば、トリビュートというより、故人Nujabesとハルカ・ナカムラの目には見えない形で繋がった作品。それが作品全体に非常に温かみある感慨が満ち溢れている要因といえるかもしれません。

 

ここ数年、どことなく暗鬱な印象の楽曲を中心に書いてきたように思えるハルカ・ナカムラは、この新作において新しく生まれ変わり、未来に明るい希望を見出しつつあるように思えます。それこそが、ハルカ・ナカムラのファンとしては、最も、嬉しく、喜ばしい出来事に違いありません。



haruka nakamura


 

ハルカ・ナカムラは1982年生まれ、青森県出身のアーティスト。幼い時代から母親の影響によってピアノの演奏をはじめ、その他にもギターを独学で学んでいます。2006年からミュージシャンとしての活動を開始し、2007年、2つのコンピレーション作品に参加、多様な音楽性を持った演奏を集め、「nica」を立ち上げる。2008年に小瀬村晶の主催するスコールから「Grace」でソロデビューを飾る。

 

その後、ソロアーティストとしての作品発表、Nujabesとのコラボ作品のリリースで日本のミュージックシーンで話題を呼ぶ。また、東京カテドラル聖マリア大聖堂、広島、世界平和記念聖堂、野崎島、野首天主堂等をはじめとする多くの重要文化財にて演奏会を開催しています。


近年の仕事で著名なところでは、杉本博司「江之浦観測所」のオープニング特別映像、国立新美術館「カルティエ 時の結晶」、安藤忠雄「次世代へ次ぐ」、NHKの土曜ドラマ「ひきこもり先生」の音楽を担当。

 

その他、京都・清水寺成就院よりピアノ演奏をライブ配信、東京スカイツリー、池袋サンシャインなどのプラネタリウム音楽も担当し、画期的なライブ活動を行っています。  早稲田大学交響楽団と大隈記念講堂にて、自作曲のオーケストラ共演も行っています。





 

「新しい光」EP KITCHEN LABEL 2021 

 


 

 

 

 11月5日にKITCHEN LABELからリリース「新しき光」は、2010年にリリースされた「twilight」の表題曲を新たに収録しています。今作のレコーディングには、ゲストミュージシャンとして、Vocal/April Lee,Violin/Rie Nemoto、Ayako Sato、Cello・Yuakari Haraが参加しています。 また、ハルカ・ナカムラというアーティストの代名詞といえる名曲「光」の新しいヴァージョンも併録。

 

今作には、2011年の東京早稲田のスコットホールで初演を行った際のストリングスの録音を取り入れた「未来」「新しき光」という未発表ヴァージョンも収録されています。さらに、ピアノ・ソロ曲「ひとつ」が「光」と「twilight」のオリジナルヴァージョンと併録されています。

 

今作「新しき光」は、これまでのハルカ・ナカムラの作風と同様に、アンビエント、オーケストラ、そして電子音楽という主要な要素を踏襲した、ハルカ・ナカムラらしい清涼感に彩られた作品。

 

ゲストボーカルとして参加したApril Leeのヴォーカルの麗しさとともに、ハルカ・ナカムラの繊細で、心あたたまるようなアコースティックギターの演奏が合わさり、美麗なハーモニクスが生み出されています。再録の楽曲も収録されてはいるものの、アコースティックギターの繊細性、おおらかな奥行きのある新鮮味あふれる楽曲を堪能出来る作品です。

 

2010年の通算二作目「twilight」をリリースした後、盟友Nujabesの死によって心を痛めていたハルカ・ナカムラさん。

 

今回、「新しい光」のリリースに際して、「光」という彼の代名詞ともいうべき楽曲が誕生した際の印象深いエピソードについて御本人はあらためてこのように記しています。

 

 

 "

トワイライトを発表してから程なくしてその頃、共に音楽制作していた友人であり師であるアーティスト・Nujabesが亡くなった。それからしばらくの間、僕は自己を大きく損なった生活を送った。


部屋にひきこもり、痩せて、とても音楽を作れるような精神ではなかった。

 

出口のない真夜中に棲んでいた。

 

そんな時、 シンガポールから手紙のようなメールをくれたのが、twilightで歌ってくれているASPRIDISTRAFLYのAprilだった。(彼女とパートナーのRicksは、トワイライトをリリースしてくれたKITCHENLABELを運営している。僕らは長い間の友である。)

 

彼女は友人として心配して、遠い海から励ましてくれた。 その温かな優しさに気力を貰い、僕は久しぶりに音楽に触れることが出来た。

 

まず、なんとなくtwailightを逆再生してみた。日が暮れる情景の音楽を逆再生することで、夜明けのきっかけが掴めるのではないか、そんな想いがあったのかもしれない。とにかく、未だそれくらいのことしか出来なかったのだ。

 

ところが逆再生した音には、思いもよらない新たな輝きが溢れていた。あの時の感動は忘れられない。音楽の道がまた開けたような気がした。一度は閉ざされた扉が開いた。そう思った。今度は一人で進まなければならない。

 

そうして光は生まれた。"

  

 harukanakamura.com

 

 

 

ハルカ・ナカムラが記しているとおり、自分自身がひとりで進むために生み出された楽曲が「光」であり、この新しく収録された「新しき光」、「光」、それに加えて、いくつかのアンビエントやネオクラシカル、聞きやすく、それでいて美しさと力に満ち溢れた5つの楽曲群は、かつてのハルカ・ナカムラがそうであったように、落胆している人、傷ついている人に立ち直るきっかけや励ましを与え、そして、なにより大切なのは、一人で歩き出すための力、新しき光を与えてくれるミニアルバムとなるでしょう。

 

日本の今年のミュージックシーンのリリースの中でも、本当の音楽として重要な意味合いを持つ作品です。

荒内佑

 

 

荒内佑さんは、ceroの活動で、キーボード/ピアノを演奏、それに加え、作曲、作詞を担当しているミュージシャンです。

 

これまでセロの活動内では、J-Pop,ヒップホップ、またその他にもクラブミュージックの要素を交え、日本語歌詞の新たな語感を追求し、これまでになかったタイプの新鮮味あるJ-Popを生み出しています。

 

ceroは活動最初期には、「大停電の夜に」に象徴されるように、インディー・ロック、あるいはオルタナティヴ・ロックの方向性を持ったロックバンドでしたが、徐々に、ラップやクラブミュージックの要素を実験的に取り入れ、様々な音楽性を交え、JPopの先にある音楽を生み出しています。

 

そして、ceroではキーボード奏者としてこのバンドサウンドを支えている荒内さんは、フロントマン、ヴォーカリストの高城晶さんと共に、ceroの音楽性に漂う主要なアトモスフェールを形作っており、このバンドになくてはならない不可欠な存在といえるでしょう。

 

ceroは元々、バンドサウンドとして三者のミュージシャンが集ったというよりかは、三者の独立したミュージシャンが集い、新たに個性的なサウンドを生み出すという、普通のロックバンドとは少し異なるスタイルで今日までの活動を行ってきているバンドであるため、バンド活動だけに執着するのではなく、時々、バンド形式での活動の合間に、独立したアーティストとしてのソロ名義作品をリリースし、柔軟性を持った活動領域、バンド活動の外側にも自分たちの音楽性を発揮する空間を設けています。

 

荒内佑さんは、音楽の探求者ともいうべきミュージシャンであり、なおかつ今日流行の音楽だけではなく、ライブラリー音楽にも通暁しているアーティスト。音楽的興味は、きわめて幅広く、ポップス、ヒップホップ、クラブミュージックといった現代の音楽にとどまらず、ライヒ、グラス、テリー・ライリーといったミニマル・ミュージックをはじめとする現代音楽、その他にもドビュッシーやメシアンといったフランスの近代音楽にも親しんできているアーティスト。ご本人は、自分はプレイヤーではなく、コンポーザーであるとおっしゃってますけれども、彼の生み出す音楽は、実験性、創造性、芸術性、美的感覚、どれをとっても、並外れた才覚をもった秀逸な楽曲ばかりです。

 

現在の日本のアーティストの中でも、非凡な才覚を有し、なにより、音楽に対する深い求道心を持った真摯なアーティストとして、注目しておきたいミュージシャンのひとりです。




「Sisei」 2021 カクバリズム

 




Tracklisting


1.Two Shadows

2.Arashi no mae ni tori wa

3.Petrichor

4.Whirlpool

5.Lovers

6.Clouds

7.Understory

8.Protector

9.Sisei(of Taipei 1986)

 


 

 

今年八月にリリースされた「Sisei」は、文豪、谷崎潤一郎の最初期の耽美主義の作品「刺青」という傑作に因んで名付けられた作品。今年の日本のリリースの中でも屈指の名作のひとつに挙げられるでしょう。

 

この作品「Sisei」は、アート性の高いアルバムジャケットからして、キュピズム、フォービズムをはじめとする絵画芸術を思わせるニュアンスが込められていますが、ナイジェリア出身、現在LAを拠点に活動している画家、ジデカ・アクニーリ・クロスビーの作品にインスピレーションを受けて制作されたスタジオ・アルバム。

 

アルバムジャケットとして使用されているデジカ・アクリー二・クロスビーの絵画は、写真や雑誌を切り抜いてのコラージュ作品を主な作風としているアーティストで、タイトルについても、横たわる女性の腕にタトゥーが入っているように見えたことに因む。ただ、このタイトルには刺青の本義の他にも、姿勢、それから死生という様々な複数のニュアンスが込められているようです。その絵画芸術としてのコラージュ法に影響を受け、サンプリングとしての音楽性を追求しようという意図で作られています。

 

この作品では、共同プロデューサーとしてベーシストの千葉広樹、ドラマーの渡健人、ヴィブラフォン奏者、角銅真美をはじめとする、これまでceroのリリース作品に参加してきた管弦楽器プレイヤーが参加しています。

 

その他にも、Julia Shortreed、Corey Kingがゲストとして参加し、今作の実験音楽色の強い風味に寛ぎと和らいだ雰囲気を付け加えています。

 

今作のチェンバーポップ色を表向きの特徴とする作品は、様々な彩が織りなされ、独特な色を生み出しています。

 

ceroでの作品はどちらかといえば、種々雑多な音楽性を交えながらもヴォーカル曲として意味合いが強い作品が多いですが、Arauchi Yuとしてのソロ作品はceroの音楽的なアプローチとが異なり、現代的な雰囲気を漂わせ、そこに現代音楽、とりわけライヒ、グラス、ライリーといったミニマルミュージックの巨匠の音楽性、それに加え、モダンジャズやクロスオーバージャズの雰囲気が付け加えられ、独特な楽曲性を感ずることができます。ここで展開されるのは、ストリングス、クラリネットをはじめとするホーンによるモダン・ジャズの延長線上を行くものであり、またそこはかとなくアシッド・ジャズのような音楽性からの影響もなんとなく感じられる。また、そこに、日本のアーティストらしい叙情性が表されていることに着目しておきたいところです。

 

もちろん、英語の歌詞といい、現代の海外のクラブアーティストのようなグルーヴを打ち出し、海外の音楽のように一見聞こえますけれど、また、そこに、「和モダン」とも喩えるべき日本のアーティストらしい精神性がこの作品を魅惑あふれるものにし、説得力溢れるものにしています。

 

ミニマル・ミュージック、フランスの近代作曲家の音楽性を踏襲した上、そこにモダン・ジャズという立体的な構造を与えることにより、表題曲「sisei(of Taipei 1986)をはじめとする楽曲に代表されるように、落ち着いて、おだやかで、叙情性があり、耳に馴染みやすいファッショナブルな音楽として完成させている。

 

おそらく、これは、長年培ってきた荒内佑さんの多岐にわたる音楽の広範な知識を活かし、それをどのように、コンポーザーとして駆使するのか、そして、また、どのように、アート音楽として「デザイン」するのか。これまでのceroの鍵盤奏者としての活動において、数えきれないほどの試行錯誤を繰り返してきたからこそ、ここで、芸術音楽家としての到達点が今作において見いだされたと言えます。ceroとは一味違った気鋭のアート・ミュージック・コンポーザー、荒内佑さんの類まれなる才覚、前衛性が体感できる素晴らしい傑作として、今回紹介させていただきます。


 

 

作品「Shisei」の詳細につきましては以下、公式HPをご参照ください。

 

Arauchi Yu Official 

 https://arauchiyu.com/

 

 

 

References 


arauchiyu.com

https://arauchiyu.com/

mikiki.co.jp

 

 

 日本のシューゲイズシーンについて



日本のシューゲイザーシーンの注目アーティスト、揺らぎ


2010年代辺りから、魅力的なシューゲイズ・リバイバルシーンが、米国、NYを中心にして活発なインディーズシーンが形成されるようになった。ここ日本でも、同じく、ここ数年、アメリカのシーンと連動するような形で、魅力的なシューゲイザーバンドが台頭している。


そして、80-90’sの英国のインディーミュージック・シーンで発生したこのシューゲイズというジャンルが、日本でも一定の人気を獲得、多くのコアな音楽ファンを魅了しているのは事実である。これは、意外なことに思えるものの、実は、元々、日本のインディーズシーンでは、このジャンルに似たバンドが数多く活躍してきた。 


その始まりというのは、相当マニアックな伝説的な存在、”裸のラリーズ”。このバンドは実に、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインに先駆けて、同じような雰囲気を持つ轟音サウンドをバンドの特質の中に取り入れていた。 


以後、メインストリームに近い存在として例を挙げると、例えば、90年代のスーパーカーは、最初期にパワーポップとシューゲイザーを見事に融合したJ-Pop/Rockを炸裂させていた。それは、彼らのデビューアルバム「Three Out Change」を聞けば理解していただけると思います。また、その後、凛として時雨は、オルタナティヴというより、シューゲイザーに近い苛烈なディストーションサウンドをクールに炸裂させてオーバーグラウンドのシーンで人気を博した。  


しかし、この日本で、イギリスやアメリカのように、大々的なシューゲイズシーンが形成されていたような記憶はあまりない。


近年までは、ロキノン系のロックバンドの台頭の影響を受けて、東京の、新宿、渋谷、下北沢においては、特に、歌物のオルタナティブ・ロック、また、メロディック・パンクというジャンルがミュージシャンの間で盛んで、その辺りのバンドにそれらしい雰囲気のあるバンドは数多く活躍していたが、シューゲイズというジャンルを旗印に掲げるバンドはそれほど多くは見当たらなかった。


ということは、シューゲイズというジャンルは、これまでメインカルチャーでもカウンターカルチャー界隈でも、リスナーの間ではそれなりに知られているけれど、ミュージシャンとしては演奏する人があまりいなかった印象を受ける。


それはひとつ、MBVという伝説的存在のせいなのか、演奏するにあたって敷居が高い、つまり、あまりお手軽さがないというのが一因としてあって、パンクロックがレスポール一本で音を組み立てられ、フォークではアコースティックギター一本で、音を組みたてられる一方で、このシューゲイズというジャンルは、バンド形態を取らないと再現させるのが難しいジャンルで、ギター・マガジンを毎回読み耽るくらいの音作りマニアでないと、説得力のある音楽として確立しえなかったんじゃないかと思う。


つまり、ギターの音作りをバンドサウンドとして組み立てる面で、コアな知識を必要とするため、バンドとして演奏するのに、ちょっとなあと戸惑うような難しい音楽だったのだ。

 

このジャンルは、これまでオルタナから枝分かれした音楽として日本の音楽シーンに存在していたものの、その音楽性が取り入れられるといっても、音楽マニアにしかわからないような風味の形でしか取り入れられなかった。そして、一部の音楽ファンの間でひそかに愛されるインディージャンルとして、これまでの日本の地下音楽シーンで生きながられてきたという印象を受ける。


ところが、アメリカのシーンの流れを受けてか、日本でもシューゲイズに色濃い影響を受けたロックバンドが、メジャー/インディーズに関わらず登場して来ている。有名所では、羊文学がシューゲイズ寄りのアプローチをJpopの中に取り入れている。そして、近年、音作りの面でメーカーのエフェクターが徐々に進化してきているかもしれず、また、サウンド面でもリマスタリングの段階で、シューゲイズらしい音が作りやすくなっている。その辺のミュージシャン事情が、以前より遥かに音作りの面でハードルが下がり、日本でも、オリジナルシューゲイズの轟音性を再現する、魅惑的なロックバンドが数多く台頭してきた要因なのだ。


このジャンルは、ポストロックの後の日本のインディーシーンのトレンドとなりそうな予感もあり。ここは業界の人がガンガン宣伝していくかどうかにかかっているでしょう。そして、インディーシーンの音楽これらのロックバンドの音楽性の意図には、このシューゲイズというジャンルに、今一度、華々しいスポットライトを浴びせよう、というリバイバルの狙いが込められているのが頼もしく感じられる。これはもちろんニューヨークのインディーシーンと同じだ。 


もちろん、シューゲイズは、それほど一般的には有名でこそないニッチな音楽ジャンルといえるものの、現在、オーバーグラウンドからアンダーグラウンド界隈のアーティストまで、幅広い分布を見せているジャンルであり、十年前くらいから、個性的なロックバンドが続々登場してきている。スター不在のまま他の人はあれをやっているが、俺だけはこれをやる、私だけはこれをやる、というように、個性的なロックバンドが日本の地下シーンを賑わせつづけている。


これが実は、文化というものの始まりで、最後になって、大きな渦を巻き起こすような華々しいムーブメントに成長していくのは、往年のシカゴ界隈とか、ニューヨークのシーンを見てもおわかりの通り。大体のミュージシャンたちが、結成当初、きわめてコアな存在としてシーンに台頭してきたバンドが多いが、徐々にその数と裾野を広げつつある。


あまり大それたことはいいたくありませんが、もしかすると、このあたりのシーンから明日のビックアーティストが、一つか二つ出て来そうな予感もあり、俄然ロックファンとしては目を離すことが出来ませんよ。


今回は、この日本の現代シューゲイズシーンの魅力的なロックバンドの名盤を紹介していこうと思ってます。

 

1.揺らぎ(Yuragi) 「Nightlife」EP 2016


 


揺らぎは、Vo. Gu,Mirako Gt.Synth Kntr Dr. Sampler.Yuseの三人によって、2015年に滋賀で結成。


大阪、名古屋といった関西圏を中心にライブ活動を行っていて、今、現在の日本のインディーズシーンで最も勢いのあるバンド。


これまで四作のシングル、EPをリリースし、そして今年、1st Album「For You,Adroit It but soft」をリリースし、俄然、注目度が高まっているアーティストで、アメリカのワイルド・ナッシングに匹敵する、いや、それ以上の可能性に満ちたロックバンドと言っておきたい。


ここでは、シューゲイズという括りで紹介させていただくものの、幅広いサウンド面での特徴を持つバンドで、デビューEP「Nghtlife」2016では、Soonという楽曲で、アメリカのニューヨークのニューゲイズシーンにいち早く呼応するような現代的なシューゲイズ音楽を前面展開している。

             

また、他のシューゲイズバンドと異なるのは、シューゲイズだけではなく、多くの音楽性を吸収していることである。サンプラー、シンセといったDTMを駆使し、エレクトロニカサウンド、ハウス、あるいはポストロックに対する接近も見られ、とにかく、幅広い音楽性が揺らぎの魅力である。


轟音性だけではなく、それと対極にある落ち着いた静かなエレクトロニカ寄りの楽曲も揺らぎの持ち味で、その醍醐味は「Still Dreaming,Still Deafening」のリミックスで味わう事ができる。マイ・ブラッディ・バレンタインというより、最近のNYのキャプチャード・トラックスのバンドの音楽性とMumの電子音楽性をかけ合わせたかのようなセンスの良さである。


そして、最新作のスタジオ・アルバム「For You,Adroit It but soft」が現時点の揺らぎの最高傑作であることは間違い無しで、ここでは、ポストロック、エレクトロニカ、そして、ニューゲイズを融合させた見事な音楽を体現させている。ときに、モグワイのような静謐な轟音の領域に踏み込んでいくのが最近の揺らぎのサウンドの特徴である。


しかし、現代日本のシューゲイズとしての名盤を挙げるなら、間違いなく、彼らのデビュー作「Nightlife」一択といえるでしょう。このアルバムの中では特に、「soon」「nightlife」の二曲の出来がすんごく際立っている。 ここでは、往年のリアルタイムのシューゲイズを日本のオルタナとして解釈しなおしたような雰囲気があって素晴らしい。


ここでは、まだ、バンドとしては荒削りでな完成度ではあるものの、反面で、その短所が長所に転じ、デビューアルバムらしいプリミティヴな質感が病みつきになりそうな見事のシューゲイズ/ドリーム・ポップサウンドが展開されている。このなんともドリーミー雰囲気に満ちた世界観も抜群の良さ、文句なし。フロントマンのミラコのアンニュイなボーカルも◎、そして、どことなく息のわずかに漏れるようなボーカルスタイルが、他のバンドとはちょっと異なる”揺らぎ”らしいワイアードな魅力である。



2.Burrrn 「Blaze Down His Way Like The Space Show」2011


 


バーンは、2005年に東京で結成された三人組編成のシューゲイズロック・バンド。2007年のミニアルバム「song without Words」でデビューを飾る。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインとソニック・ユースにかなり影響を受けているらしく、実験的なシューゲイズバンドというように言える。


シューゲイズのギターのグワングワン、ボワンボワンな轟音の特徴というのはもちろん引き継いでおり、そこにさらに、ドラムのタムに独特なエフェクトがかかっていて、バンドサウンドに巧緻にとりいれられているあたりが面白い。また、さらに、Trii Hitomiのボーカルというのもアンニュイがあって、センスの良さが感じられる。


正直、彼らはこれまで三作品のリリースがありますが、全作品入手が困難です。唯一入手しやすく、またサブスクでも聴けるるのが、このスタジオ・アルバム「Braze Down His Way Like The Space Show」です。


このアルバム中では、独特なドリーム・ポップの旨みがとことん味わえいつくせる、六曲目「Picture Story Show」、最終曲の「Shut My Eyes」が傑出しています。アルバム全体としても、アメリカのニューヨークのワイルド・ナッシングにも似た質感がある。


もちろん、ソニック・ユースから影響を受けているということで、都会的なクールさのある音楽性もスンバラシイ。表向きには、「これでもか!!」というくらい、ド直球のシューゲイズを放り込んできているのが好ましい。しかし、ときに、それよりも音楽性が深度を増していき、ローファイ/ポストロックの轟音性の領域にたどり着いちゃうあたりは、通を唸らせること間違いなし!! 


3.Oeil 「Urban Twilght」remaster  2017

 

 

 

ウイユは、日比野隆史とほしのみつこによって、2007年に結成された東京発のシューゲイザーユニット。 


Bandcampを中心として活動していたバンドで、これまでにアルバムはリリースしておらず、シングルとEPを三作発表しています。もしかすると、幻のシューゲイズバンドと言えるかもしれません。 

 

音楽性としては、イギリスのリアルタイムのシューゲイズムーブメントに触発された音であり、Chapterhouse,Jesus and Mary chain,My Bloody Valentine直系のド直球のシューゲイズを奏でている。音がかなりグワングワンしており、往年のシューゲイズバンド以上のドラッギーな轟音感を持つ。                


「Urban Twilight」は、彼らのデビューEPとしてSubmarineからのリリース。2016年にリマスター盤が再発されている。


おそらく一般受けはしないであろうものの、シューゲイズのビックバンドが不在の合間を縫って登場したというべきか、マイブラ好きには堪らないギターのトレモロによる音の揺らぎを見事に再現。シンセサイザーとギターの絶妙な絡み、そしてほしのみつこのぽわんとしたドリーミーなボーカル、陶然とした雰囲気のあるボーカルを聴くかぎりは、マイブラ寄りのロックバンドといえる。。


このアルバム「Urban Twilight」の中では、一曲目の「Strawberry Cream」の出来が抜きん出ている。往年のシューゲイズファンにはたまらない、涎のたれそうな名シューゲイズです。二曲目の「White」もMBVのラブレスを彷彿とさせるサウンド。


このギターのうねり揺らぎのニュアンスは、ケヴィン・シールズのギターサウンドを巧みに研究していると感心してしまいます。シューゲイズーニューゲイズの中間を行く抜群のセンスの良さに脱帽するよりほかなし。 



4.CQ 「Communication,Cultual,Curiosity,Quatient」2016


CQというバンドの前進、東京酒吐座というバンドを知っている人は、正直、あまりいないでしょう。もし知っていたとしたら、重度のシューゲイズ中毒者かもしれません。


しかし、これはくだらない冗談としても、この東京酒吐座(トウキョウシューゲーザ)というダジャレみたいな名を冠するグループというのは、東京の伝説的なオルタナティヴロックバンドであり、一部界隈に限定されるものの、2010年代近辺にカルト的な人気を誇っていたインディー・ロックバンドである。            


    

その東京酒吐座のメンバーが解散後に組んだバンドがこのCQ。しかし、そういった要素抜きにしても、日本語で歌うシューゲイズバンドとしてここではぜひとも取り上げておきたい。


2010年代の東京のオルタナシーンを牽引していたという自負があるからか、他のシューゲイズバンドと比べ、本格的なロック色が強く、そして、音自体もプリミティヴな輝きを持っている。


そして、日本語の歌詞を歌うことをむしろ誇らしげにし、轟音サウンドを掲げているあたりがかっこいい。アメリカのダイナソーJr.のJ Mascisのような轟音ギターと聞きやすい日本語歌詞が雰囲気が絶妙にマッチしたサウンドで、 独特な清涼感が感じられる。                      

          

既に解散しているCQの作品は、Burrrnと同じく入手困難。唯一、サブスクで聴くことが出来る「Communication,Cultual,Curiosity,Quatient」が、そのあたりの心残りを埋め合わせてくれるはず。 


CQは、オルタナサウンドの直系にあたる音楽性で、最近流行のニューゲイズからは距離をおいているように思えますが、時代逆行感が良い味を出している。


海外には海外のロックがあるが、ここ日本には日本のロックがある、ということを高らかに宣言しているのが素晴らしい。また、純粋に、「日本語で歌うロックって、こんなにもかっこいいんだ」ということを教えてくれる希少なバンドといえる。


札幌のインディーシーンの伝説”naht”、Bloodthirsty Butchersのギタープレイを彷彿とさせ、激烈で苛烈な日本インディーロックサウンドらしい音の質感。誇張抜きにして、ギターの轟音のウネリ具合、キレキレ感、バリバリにエッジの効いたサウンドは世界水準。


また、そこに、日本の歌謡曲の世界観が、風味としてそっと添えられているのがかっこいい。知られざる日本のオルタナロックの名バンド。 



  5.宇宙ネコ子 「君のように生きられたら」 2019

  

 


この宇宙ネコ子というのは、バイオグラフィにしても、また、詳細なプロフィールにしても謎に包まれている。


おそらくこれからも、この謎が完全解明されることはないでしょう。ここで紹介できる記述は、神奈川県のインディーロックバンドであるということ、メンバー構成も常に流動的であり、まるで、サッカーのフォーメーションのような柔軟性。常に何人で、というこだわりがなく、三人であったか思うと、五人まで膨れ上がり、かと思うと、現在は二人のユニット構成となっている。               

 

作品中のコラボレーションの相手も慎重に選んでおり、慈恵医大出身という異色の経歴を持つ宅録ミュージシャン、入江陽、あるいは、ラブリーサマーちゃん、度肝を抜かれるようなアーティスト名がずらりと並んでおり、正直面食らいます。しかし、何故か、妙に心惹かれるものがある。そして、あまり表側に出てこないバンドプロフィール情報というのも、この膨大な情報化社会の中にひとつくらいあってはいいかなと思うのは、多分、B'zのマーケティングの前例があるから。ツイートにしても、基本的に謎めいたワードを中心に構成されているのはニンマリするしかなく、これは、狙いなのか、天然なのか、いよいよ「謎」だけが深まっていく。 


しかし、こういった謎めいた要素を先入観として、この宇宙ネコ子のサウンドを聴くと、その意外性に驚くはず。表向きのイメージとは異なり、本格派のミュージシャンであるのが、このアーティストである。 


しかも、ポップセンスというのが際立っており、往年の平成のJ-pop、もしくはそれより古い懐メロを踏襲している感じもある。そして、Perfumeであるとか、やくしまるえつこのようなテクノポップ、シティポップからの影響も感じられる、奇妙でワイアードなサウンドが魅力。


そして、どうやら、宇宙ネコ子は、DIIVを始めとする、NYのキャプチャードトラックのサウンドにも影響を受けているらしく、相当な濃いシューゲイズフリークであることは確かのようです。そして、どことなく、JーPopとしても聴ける音楽性、青春の甘酸っぱさを余すことなく体現したような歌詞、切ない甘酸っぱいサウンドが、宇宙ネコ子の最大の魅力といえる。


宇宙ネコ子は、これまで、”P-Vine”というポストロックを中心にリリースするレーベルからアルバムを二作品発表している。


「日々のあわ」も、良質なポップソングが満載の作品ではありますが、最新作「君のように生きられたら」で、宇宙ネコ子はさらなる先の領域に進んだといえる。


一曲目の「Virgin Suscide」は、日本のシューゲイズの台頭を世界に対して完全に告げ知らせている。ここでは、他に比肩するところのない甘酸っぱい青春ソングを追究しており、そこに、シューゲイズの轟音サウンドが、センスよく付加される。歌詞の言葉選びも秀逸で、手の届かない青春の輝きに照準が絞られており、この微妙な切なさ、甘酸っぱさは世界的に見ても群をぬいている。 


ニューヨークのシューゲイズリバイバルシーンに対し、J-Popとしていち早く呼応した現代風のサウンド。ジャケットのアニメイラストの可愛らしさもこのユニットの最大の醍醐味といえる。 

 

6.Pasteboard 「Glitter」

 

 

 

現在の活動状況がどうなっているのかまではわからないものの、オリジナルシューゲイズの本来のサウンドを踏襲しつつ、現代的なサウンドを追求する埼玉県にて結成された”Pasteboard”というロックバンドである。


このPasteboardは、近年アメリカで流行りのクラブミュージックとシューゲイズを融合させたニューゲイズサウンドに近いアプローチをとっているグループ。そして、渋谷系サウンド、小沢健二、フリッパーズ・ギター 、コーネリアスの系譜にあるおしゃれなサウンドを継承している面白いバンドです。 


この渋谷系(Sibuya-kei)というのは、英語ジャンルとしても確立されている日本独自のジャンルで、シティポップと共に、アメリカでもひっそりと人気のある日本のポップスジャンルで、他の海外の音楽シーンにはない独特なおしゃれな音の質感が魅力だ。


Pasteboardは、日本語歌詞の曖昧さとシューゲイズの轟音性の甘美さを上手く掛け合わせ、日本語の淡いアンニュイさのある男女ボーカルの甘美な雰囲気を生み出すという点で、どことなくSupercarの初期のサウンドを彷彿とさせる。


シングル盤が一、二作品。コンピレーションが一作、アルバムがこの一作と、寡作なバンドでありますが、特にこの「Glitter」という唯一のスタジオ・アルバムは渋谷系のような雰囲気を持つ独特な魅力のある日本シューゲイズシーンの隠れた名盤として挙げられる。

 

 7.LuminousOrange 「luminousorangesuperplastic」 1999 


 

 

最後に御紹介するのは、日本のシューゲイズシーンのドンともいえるルミナスオレンジしかないでしょう。


ルミナスオレンジは、1992年から横浜を中心に活動していますが、最も早い日本のシューゲイズバンドとして、この周辺のシーンを牽引してきた伝説的存在。イギリスのChapterhouse,Jesus and Mary Chain,といったシューゲイズバンドの台頭にいち早く呼応してみせたロックバンドであり、女性中心の四人組というメンバー構成というのも目を惹く特徴です。  

1999年の「luminousorangesuperplastic」は、今や日本シューゲイズの伝説的な名盤といえ、非常にクールな質感に彩られた名作でもある。ここで、展開されるのは、マイ・ブラッディ・バレンタイン直系のジャズマスターのジャキジャキ感満載のプリミティヴなサウンドであり、今、聞いても尖りまくっており、しかも、現代的の耳にも心地よい洗練された雰囲気に満ちている。 


ツインギターの轟音のハーモニーの熱さというのはメタルバンドの様式美にもなぞらえられ、硬派なロックバンドだからこそ紡ぎ得る。また、そこに、疾走感のあるドラミング、小刻みなギターフレーズのタイトさ、ベースの分厚い強かなフレージング、これは、シューゲイズの目くるめく大スペクタルともいえ、あるいは、コード進行の不協和音も、ポストロックが日本で流行らない時代において、当時の最新鋭をいっている。 


さらに、そこに竹内のボーカルというのも、クールな質感を持つ。アナログシンセのフレージングというのもオシャレ感がある。また、ルミナスオレンジのサウンドの最大の特質は、変拍子により、曲の表情がくるくると様変わりし、楽曲の立体的な構成を形作っていくことである。このあたりの近年の日本のポストロックに先駆ける前衛性は、他のバンドとまったく異なるルミナスオレンジの最大の魅力である。表向きの音楽は苛烈で前衛的ではあるものの、メロディーの良さを追求しているあたりは、ソニック・ユースとマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの性質を巧みにかけ合わせたといえる。


おそらく、世界的に見ても、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(MBV)に対抗し得る日本の唯一モンスター・ロックバンドであることは疑いなし。


MBVに全然引けを取らないどころか、そのポップセンスの秀逸さという面でまさっている。付け焼き刃ではない轟音感と甘美なメロディー、硬派なロックバンドならではのクールさを併せ持つシューゲイズサウンドは、シューゲイズ界隈が賑わいを見せている現在だから再評価されるべきである。



 

MASS OF THE FERMENTING DREGS

 

 

 

MASS OF THE FERMENTING DREGSは、2002年、兵庫県神戸で結成された女性三人組のオルタナティヴロック・バンド。

 

2010年のアルバムリリースの後、メンバーが大幅に入れ替わる際、期間活動休止を余儀なくされた。

 

しかし、2015年になって、新しいサポートメンバーを招いて、マスドレは再始動する。

 

結果としては、このバンドの中心人物、ベース・ボーカルの宮本菜津子さんだけがオリジナルメンバーとしてバンドに残り、MASS OF THE FERMENTING DREGS、通称"マスドレ"を現在まで頼もしく率いています。 

 

 

Mass Of The Fermenting Dregs"Mass Of The Fermenting Dregs" by Steve Leggat is licensed under CC BY-NC 2.0

 

 

 

女性ベース・ボーカルの日本のロックバンドとしては、凛として時雨、Base Ball Bearが思い浮かべられる。しかし、日本の女性のみのスリーピースのオルタナロック・バンドというのは寡聞にして知りません。上記2つのアーティストと異なる雰囲気のある本格派ロックバンドといえる。個人的な意見としてはどちらかというと、日本より海外で人気の出そうなオルタナティヴロックバンドです。

 

このマスドレというバンドを知ったのは、今から十数年前に遡る。これは仕様もない胡散臭い昔話と思って聞きながしてほしい。まだこのバンドがレコードデビューをするかしないかという時期、インディーズ系のバンド視聴サイト"auiodleaf"を介してだった。私の友人で、当時、新興サイトでしかなたAudioleafの営業部長を務めていた人物がこのバンドがいいんだと教えてくれた。家に帰って聴いてみたところ、ナンバーガールに近い質感を持ったクールなバンド、まさにあの時の自分が求めていた音でした。

 

音楽性としては、フェンダー・ジャズマスターのギターの歪みを特徴としていて、そこにかなり芯の太いベースライン、そして、タイトなドラミング。親しみやすいポップ性を擁し、現在流行りのドリームポップのような質感、そして、青春の淡い情感もこのバンドのずっと変わらない普遍的な長所だ。つまり、ややもすると、EMIのスカウトの目は、このバンドをナンバーガールの再来というように捉えたのかもしれません。

 

このバンドの音楽には表向きには、グランジロック的な雰囲気もありますが、近年、アメリカの影響を受けて、日本でも隆盛しつつある、ニューゲイズ、ドリームポップの雰囲気がそれとなく漂っている。当時の一部の耳の肥えたロックファンは、明らかにこのバンドに、ただならぬ期待を寄せていただろうと思う。マスドレがいつか、日本のロックを背負って立つ存在になるかもしれない。そして、実際、それから、MASS OF THE FERMENTING DREGSの躍進ぶりというのは、目にも留まらぬ勢いだった。

 

それまでは東京近辺の知る人ぞ知る感じのインディーロック・バンドであったのが、二年間のうちに、Fuji Rockに出演を果たし、見事なシンデレラーストーリーを描いてみせた。つまり、こういった成功例を身近で見てきた人間の意見として、成功するバンド、アーティストというのはなんらかの大きな足がかりをつけさえすれば、スターダムの階段を駆け上るときは一瞬なのでしょう。

 

デビューアルバム「Mass of The Farmating Dreds」2008は、サウンドエンジニアとして世界的な大御所といえるデイヴ・フリードマンをプロデューサーに迎え入れて録音制作される。それからすぐ、バンドとしての勢いが冷めやらぬ中で、翌年、ナンバーガールのベーシスト、ナカケンこと中尾憲太郎をプロデューサに迎え入れ、二作目のスタジオ・アルバム「World is Yours」2009をリリース。そして、一躍、日本で有数のオルタナロック・バンドとして知られるようになりました。 

 

ナンバーガールも再結成を果たしたことから、再評価の機運が上昇している最注目の日本語オルタナティヴ・ロックバンドといえます。

 

 

Mass Of The Fermenting Dregs 推薦作品




1.「World Is Yours」EP  2009



 

 

 

 

 

 

1.このスピードの先へ

2.青い、濃い、橙色の日

3.かくいうもの

4.She is inside,He is Outside

5.なんなん

6.ワールドイズユアーズ

 

 

通称、マスドレの活動休止前の最も勢いのある瞬間を捉えた奇跡的なアルバム。ナンバーガールのベーシスト、中尾憲太郎をプロデューサーとして迎え入れたという面でも話題性に富んだ作品といえるかもしれない。そして、やはり、このアルバムは何度聴いても永久不変の大名盤。

 

宮本菜津子さんのボーカルは先述したように、ハスキーでありながら、意外にも高音の伸びというのが素晴らしい。

 

彼女のボーカルの高音の伸びを聞いていると、なぜだかしれないが切なくもあり、また、さっぱりした気分になることができる。珍しいタイプのシンガー。もちろんバンドとしての音も、結成から七年目にして最高潮を迎えたといえます。

 

ギタリスト、石本知恵美のフェンダーの歪みに歪んだディストーションというのは、全盛期のナンバーガールの田淵ひさ子のギタープレー、The Wedding Presentsの最初期を彷彿とさせるような凄さがある。

 

そこに、宮本菜津子の骨太のベースライン、リズミカルとベースがバンドサウンドを背後から支え、後藤玲子のタイトで尖った激烈な迫力のあるドラムのダイナミクスが加わる。

 

彼女たち三人の七年間の活動の集大成のようなものが、ここに熱いロックンロールとして体現されています。「このスピードの先へ」では、日本人アーティストとしてオルタナ音楽へ一石を投じていて、怒涛の迫力と勢いで、アルバムの最後をかざる名曲「World is Your」まで息つくところなく瞬く間に過ぎ去っていく。

 

ライブを目の前で見ているかのような凄まじい音の迫力は、ナカケンさんの耳の良さ、彼の音楽上の深い経験によって培われた敏腕プロデュースによるもの。まさに”マスドレ”という青春をロックンロールで凝縮した1枚。日本のオルタナを頂点に持っていった、問答無用の大傑作です。

 

 

 

 

2. 「No New World」2018 

 


 

 

 

 

 

 

1.New Order

2.あさひなぐ

3.だったらいいのにな

4.YAH YAH YAH

5.No New World

6.HuHuHu

7.Sugar

8.スローモーションリプレイ


 

 

2012年の活動休止後、新たなメンバーを迎え入れて、新生マスドレとして活動を再開。実に、8年振りとなるスタジオ・アルバムとなる。ここでは前作「ゼロコンマ、色とりどりの世界」からバンドとしても、実際のサウンドとしてより洗練され、そこにさらに強さが加わったように思えます。

 

「New Order」は、これぞマスドレという感じの爽やかさ、清らかさ、そして、切なさの感じられる楽曲だ。「あさひなぐ」は、これまでのマスドレの音楽性を引き継いだ上で、それをさらに時代の先に推し進めた名曲。誰にでもわかりやすい共感できる歌詞という特徴は健在。聞いていると、なんだか不思議と元気と勇気に満ちあふれてくる日本語ロックの名曲です。

 

また、バンドとしての前進が感じられる楽曲ーーこのスタジオアルバムのラストに収録されているーー「スローモーションリプレイ」では、新たな新境地を開拓し、”日本語ロック”というジャンルを押し広げようとしている。

 

アルバム全体を通して、以前よりも親しみやすい楽曲が増え、よりバンドサウンドとしての爽やかさと涼やかさが加わった印象を受ける。もちろん、このバンドの最初期からの骨格といえるオルタナティヴ性、歪んだギター、ドラムのダイナミクスという特徴も引き継がれている。多くの人の共感を呼ぶような痛快な作品。マスドレの入門編としてもオススメしたい1枚です。

 

 

 

 

MASS OF THE FERMENTING DREGS 公式HP

 

 

https://www.motfd.com/


 

 

 

参考


Wikipedia-MASS OF THE FERMENTING DREGS 

 

gellers 

 

 

gellersは、現在、ソロ活動として大活躍中のトクマルシューゴさんが、学生時代の同級生と組んだオルタナ/ローファイインディーロックバンドです。一時期、”どついたるねん”と企画を組んでいましたが、シングル「Cumparsita」リリース後、2018年から活動を休止中のようです。この辺りは、トクマルシューゴさんの仕事の忙しさとも関係している部分も少なからずあるかもしれません。

 

 

トクマルシューゴさんの名盤については、そのうちに、あらためて取り上げていくつもりですが、トクマルさんの簡単なバイオグラフィーを記しておくと、彼のデビューアルバム「NIGHT PIECES」2004は、当初、米国のインディーズレコード会社からリリースされ、現地の音楽メディアに称賛されたという面で、デビュー時から、天才性を遺憾なく発揮しつづけている。その後、活動拠点を日本に置きつつ、サポートメンバーを交え、バンド活動を行ってきており、TONOFONというインディーレーベルから作品のリリースを継続しています。このレーベルには、”王舟”という様々な個性的な楽器を演奏する良いバンドがいることも追記しておきたい。

 

 

トクマルシューゴさんは、本来、楽器ではない玩具を、楽器としてインプロヴァイゼーション風に自身の作品の中に取り入れ、Electronicaから派生したToytoronicaを日本で最初に導入したアーティスト。もちろん、ジャンルの括りを差し引いても、音楽においての独創性、クリエイティヴィティにおいて抜群のJポップ・アーティストという事実には変わりないでしょう。

 

 

このGellersは、先にも述べたとおり、メンバー全員が幼馴染で結成され、トクマルシューゴとしてのソロ活動のポピュラー音楽性とは対極にある雰囲気を持ったバンドと言えるでしょう。

 

 

ギター、ベース、ドラムの基本編成に加えて、アート・リンゼイやD.N.Aの実在した「NO NEW YORK」の時代にタイムスリップしたような、耳をつんざくような激烈ノイズを追求するキーボードをバンドサウンドの主な表情づけとし、また、時には、The StoogesやThe Velvet Undergroundの時代の強いタブー性を現代に蘇らせたかのようなアクの強いロックサウンドが特徴でしょう。

 

 

近年では、音楽性が徐々に変わってきて、掴みやすいポップ性を追求したシティポップ風のノスタルジックなサウンドを、最新作「Cumparsita」においては見せています。また、最初期のメンバーで、途中で脱退したミュージシャン、”ハラ・カズトシ”がゲスト・ボーカルに参加、肩の力の抜けた良質なJーインディ・ポップを展開する場合もあって、異質なほどの音楽性の間口の広さがこのバンドには感じられます。

 

 

そして、今回、再発掘する彼等のデビュー・アルバム「Gellers」は、日本の隠れたインディー・ローファイの名盤として、日本の往年のインディーシーンの伝説的ロックバンド”裸のラリーズ”的な意味合いで、ここで取り上げおこうと思います。

 

 

どちらかというと、海外の音楽フリークの間でひそかに人気の出そうな隠れたローファイの名盤のひとつかもしれません。

 

 

 

Gellers 「Gellers」 2007

 

 

 

このジャケットがはっきりと表すように、インディーローファイ、もしくは、サイケデリックロックという音を見事に昇華させた名盤。

 

一応いっておくと、世界的にもこういう音はメルト・バナナ以外では聴いたことがない珍しさもあるかと思います。

 

 

 

 

「9 teeth picabia」のイントロでは、映画の活弁士のようなサンプリングが挿入され、そこから突如、サイケデリックノイズとも、往年のThe Sonicsのようなガレージ・ロックともつかない、まさにゲラーズ・ワールドともいえる世界観を全面展開していく。

 

 

このアルバムとしてのイントロにぶちのめされる理由というのは、やはり、ブライアン・イーノ、プロデュースのニューヨークの前衛ミュージシャンのコンピレーション・アルバム「NO NEW YORK」を初めて聞いた時のような、のけぞってしまうあの直覚的な感じだ。

 

 

耳をつんざくぐしゃっと潰れたようなノイズ、テンポ感をあえてぶち壊すことにより、ザ・レジデンツを思わせるサイケで衝動的で異質なロックを現代のローファイとして再現し、また、出来上がったものを一瞬にしてぶち壊してしまうのもかなり面白い。

 

 

一見、とんでもない滅茶苦茶をやっているようで、バンドとしての演奏は巧緻な部分もある。両極端なアンビバレントな要素を交え、それを、バンドサウンドとしてダイナミックに展開していくのが、このゲラーズです。よくわからないけど、なんだか凄い。つまり、この名盤はパンクをひとっとびに越えて、もしかすると”サイケ・コア”の領域にまで踏み込んでいるんではないでしょうか。

 

 

それはあの底なし沼に踏み込んでいくときのような危なっかしい魅力を放つかのようでもある。彼等Gellersのライブでも、お馴染みの重要なレパートリー、「Buscape」も痛快な曲で、ここでは、楽曲の持つ異質な勢いの魅力もさることながら、日本語歌詞としてのタブー性に果敢に挑戦しているのも素晴らしく、暴力的な衝動性というのが遺憾なく発揮されている。

 

 

川副さんのボーカルは、ロックバンドというよりも、パンク・ハードコアに比する激烈さといえ、凄まじいアジテーションの雰囲気を、このアルバムに収録されている楽曲にもたらしている。このアルバムリリースのあとでも、その基本的なスタンスは変わらず、今日においてタブー視される言語を臆することなく歌詞の中に込め、実際にステージ上で激しさをもって歌い上げるのは、昔ならばいざしらず、近年では、相当な勇気が必要でもあるはず。にもかかわらずなんなくやってのけているのはさすがで、これこそまさにパンク・ロック精神といえるでしょう。

 

 

そして、このバンドイメージに柔らかなニュアンスを添えているのが、トクマルシューゴさんで、「Colorad」「Locomotion」「Sugar」においては、川副さんに代わってマイクをとり、この緊張感のあるサウンドにゆるさのある、癖になるようなインディー・ポップ性を添えることに成功している。

 

 

このあたりは、やはり、トクマルさんのポップセンスの高さというものが伺え、割と多くの人に受け入れられるようなキャッチーさもある。それほど過激さはなくて、万人受けするゆる〜い感じのギターロックの楽曲としてたのしむことが出来るでしょう。

 

 

しかし、このあたりにも、トクマルさんのローファイ趣味が伺え、そこに彼のソロ活動とはまた異なる一面が味わえるといえるかもしれません。

 

 

彼の歌詞性というのもやはり、なんとなく直感的、抽象的な言葉が使われているのが特徴でしょう。そして、彼の際立ったポップセンスが、これらの楽曲をどことなく、ノスタルジックにさせ、往年の古い日本のロック、はっぴいえんどの大滝詠一のような音楽性、渋く古臭い、それでいながら懐かしみのあるサウンドに昇華させているのもお見事。

 

 

また、このバンドの実験的なサウンドを 背後からしっかり支えているのが、大久保さんのベースラインでしょう。シンプルでありながら、リズムというものの深さ、そして対旋律的なメロディーを感じさせてくれる彼の職人気質のテクニックについても、このバンドサウンドの骨組みを強固にしている。

 

 

さらに、そこに、ドラムの轟音性を重視するダイナミクスと、キーボードのノイズが加わることにより、ゲラーズらしいサウンドが、既にデビューアルバムながら完成されているといえるでしょう。これは90年代から長く活動してきたからこそのぴたりと息のあったバンドサウンドといえるでしょう。

 

 

このデビューアルバムは彼等の勢い、そして、痛快なほどのアバンギャルド性を打ち出した日本のインディー・ロックの隠れた名盤として、推薦しておきたいアルバムです。