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Drop Nineteens

ボストンのシューゲイザーの大御所、日本人ギタリストを擁するDrop Nineteens(ドロップ・ナインティーンズ)が昨年、ニュー・アルバム制作のために再結成すると発表していたが、その旨が今年8月に正式に発表されました。もちろん、30年ぶりのニューアルバムというプレゼントを引っ提げて。今回、ドロップ・ナインティーンズは、この待望の復帰作からセカンド・シングル「A Hitch」を公開している。リード・カット「Scapa Flow」に続くシングルだ。


「”A Hitch"はバンドが再結成して最初に書いた曲なんだよ。この曲は、新しいドロップ・ナインテンスの曲がどのようなサウンドになり得るか、アルバムの残りの曲調を決めていったんだ」

 

 

新作アルバム『Hard Light』は、Wharf Cat Recordsから11月3日にリリースされます。このアルバムには、バンド・リーダーのグレッグ・アッケル、スティーヴ・ジマーマン、ポーラ・ケリー、モトヒロ・ヤスエ、ピーター・ケプリンのオリジナル・メンバー全員が参加しています。 Drop Nineteensの新作アルバム『Hard Light』はWharf Catより11月3日発売される。

 

「A Hitch」

©Ingrid Po


Slowdiveは、ニューアルバム『everything is alive』からの最終シングル「alife」を公開した。このシングルは、前作「the slab」「kisses」「skin in the game」に続くものである。以下のミュージック・ビデオをチェック。




「alife」は、このアルバムのために完成させた最初の曲のひとつだ。「ショーン・エヴァレットがミックスで本当にいい仕事をしてくれた。ショーン・エヴァレットがミックスを担当してくれたんだ。もし彼がこのミックスをこなせるなら、きっと全曲をこなせると思ったんだ。友人のジェイク・ネルソンは、この曲のためにとても素晴らしいアニメーションを作ってくれた。

 

ファン待望のニューアルバム『everything is alive』は、明日、9月1日にDead Oceansよりリリースされる。先行予約はこちら。Tower Records/HMV/Ultra Shibuyaでも予約受付中。 



「alife」



 


Hotline TNT(ウィル・アンダーソンのプロジェクト)はサード・マン・レコードと契約を交わしたと発表しました。

 

同レーベルからの初リリースは剣を振り下ろすことについて歌ったシューゲイザー・ノイズ・ポップ・ソング 「Protocol」です。「関係性を守ることに専念するのは非難を受けるに値することなんだ」

 

この曲には、フィオナ・ケインが監督したミュージック・ビデオが付属しており、彼は「夏のためのロックンロール・プッシュ&プル・サイレント・コメディです。ぜひ以下よりチェックしてみて下さい。

 

©Ingrid Pop


Slowdive(スロウダイヴ)が新曲「skin in the game」を発表した。これは、先月リリースされた「kisses」に続く、アルバム『everything is alive』からのセカンド・シングルである。以下よりチェックしてほしい。


スローダイヴの6年ぶりとなるアルバム『everything is alive』は、9月1日にDead Oceansからリリースされる。

 

「skin in the game」

 



4ADは、イギリスの幻のシューゲイザー/ドリームポップバンド、Lushの3作のスタジオ・アルバム『Spooky』、『Split』、『Lovelife』を8月11日に再発する。

 

バンドのフロントパーソン/ヴォーカリスト、ミキ・ベレーニは、ハンガリーと日本人のハーフ。彼女はバンドを結成する以前、ロンドンの大学で英文学を専攻していた。バンドはRIDEとともにUKのオルトロックシーンの一角として90年代に活躍した。バンドはこの数年間で、『Gale』(90年)、『Spooky』(92年)、『Spilit』{94年)、『Lovelife』{96年)、『Topolino』{96年)の4作のアルバムを発表した。96年、メンバーのクリスが自殺をし、翌年、Lushは解散することになった。その後、ミキ・ベレーニは元ウィーザーのマット・シャープのレンタルズの作品に参加している。バンドは2015年に再結成し最終ライブを行った。

 

2023年現在の4ADの幅広いレーベルのラインナップからは想像できないが、当初このレーベルには、Cocteau Twins、Pale Saints、LUSHを含め、秀逸なドリーム・ポップ/シューゲイズバンドが活躍し、インディーズシーンを牽引した。無論、オルタナティヴロックバンドとしては米国/ニューポートのThrowing Musesもレーベルの歴史を作った最重要バンドの一つに挙げられる。

 

90年代以来、入手不可能だったLUSHの再プレス盤は、レーベルのドリーム・ポップ/シューゲイズの音楽性に再度脚光を当てる内容と言っても差し支えないだろう。エンジニア兼プロデューサーのケヴィン・ヴァンバーゲンのオリジナル・テープからリマスターされて発売が決定した。

 

『Spooky』と『Split』はオリジナル・アートワークをそのままに、『Lovelife』は2016年のボックスセットのアートを使用し、1996年のオリジナル・プレス専用の印象的な集合トレーシング・ペーパー・スリーブをそのまま残して発売される。

 


「Hypocrite」

 

 


Spooky


 



 

A1. Stray


A2. Nothing Natural


A3. Tiny Smiles


A4. Covert


A5. Ocean


A6. For Love


B1. Superblast!


B2. Untogether


B3. Fantasy


B4. Take


B5. Laura


B6. Monochrome

 

Pre-order:  here

 


『Split
』

 



 

A1. Light From A Dead Star


A2. Kiss Chase


A3. Blackout


A4. Hypocrite


A5. Lovelife


A6. Desire Lines


A7. The Invisible Man
B1. Undertow


B2. Never-Never


B3. Lit Up
B4. Starlust


B5. When I Die

 

Pre-order: here 



『Lovelife
』



 

A1. Ladykillers


A2. Heavenly Nobodies


A3. 500
A4. I’ve Been Here Before


A5. Papasan


A6. Single Girl


A7. Ciao!


B1. Tralala


B2. Last Night


B3. Runaway


B4. The Childcatcher


B5. Olympia


Pre-order: here





Lush  Biography(Wikipediaより)
 
 
 イングランドのクイーンズカレッジで、14歳だったハンガリー人と日本人のハーフであるミキ・ベレーニと、エマ・アンダーソンが知り合う。
 

1988年にロンドンのPolytechnic Universityで英文学を勉強していたミキは、そこでクリス・アクランドとスティーヴ・リッポン、メリエル・バーハムと知り合い、エマと一緒に「The Baby Machines」というバンドを結成する。



 

エマの友人であるケヴィン・ピカリング (Kevin Pickering)がバンドを「ラッシュ (Lush)」と命名する。1988年の3月に最初のライブを行い、プレスから好意的な評価を受けた。しかし、当時ボーカルだったメリエルが脱退してペイル・セインツに加入したため、代わりにミキがボーカルを取ることになる。
 

1989年に4ADと契約して、ジョン・フライアー (John Fryer)のプロデュースで6曲入りミニアルバム『Scar』をリリースする。翌1990年、コクトー・ツインズのロビン・ガスリーによるプロデュースでシングル「Mad Love」をリリースし、続けてティム・フリーズ・グリーンのプロデュースで「Sweetness and Light」をリリースする。また、これまでの3つのリリースの曲をまとめた編集盤『ガラ』がアメリカでリリースされる。このタイトルは、画家のサルバドール・ダリの妻ガラ・エリュアールの名前から取っている。 
 

1991年にはライドと共にアメリカ・ツアーを行う。同年末にスティーヴが小説を書くことに専念するために脱退し、代わりに元『NME』誌の記者であるフィル・キングが加入する。1992年、ロビン・ガスリーのプロデュースでファースト・アルバム『スプーキー』をリリースし、全英アルバムチャートで7位に入るヒットとなる。
 

1994年、マイク・ヘッジ (Mike Hedges)のプロデュースとアラン・モウルダーのミックスによるセカンド・アルバム『スプリット』をリリース。また、同時に『Hypocrite』と『Desire Lines』の2枚のEPをリリースする。
 

1996年、最後のアルバムとなる『ラヴライフ』をリリースする。シューゲイザー的なサウンドは薄れ、パルプのフロントマンであるジャーヴィス・コッカーが参加するなど、当時流行していたブリットポップの影響を受けた作風に変化し、全英アルバムチャートで8位に入っている。



同年10月、クリスが実家で首を吊って自殺。残されたメンバーは長い間悲嘆に暮れ、翌1997年2月に解散(公式に解散が宣言されたのは翌年2月)

 


解散後、ミキは、レンタルズのアルバム『セヴン・モア・ミニッツ』や、コクトー・ツインズのサポートメンバーだったタテ・ミツヲのソロユニットFlat7の『Lost in Blue』にゲストとして参加している。エマは、リサ・オニール (Lisa O'Neil)とSing-Singを結成する。フィルは、ジーザス&メリーチェインに参加している。
 

2015年、20年ぶりに再結成を発表。翌年5月6日にロンドンのラウンドハウスにて、再結成後初ライブを行った。ドラマーには元エラスティカのジャスティン・ウェルチが参加した。10月18日にベースのフィル・キングが抜け、モダン・イングリッシュのマイケル・コンロイのベース演奏による最終ライブを11月25日にマンチェスター・アカデミーで行った。


©︎Parri  Thomas


今年、フジロックで来日公演を行う、Slowdiveがニューアルバムを発表しました。9月1日、Dead Oceansから『everything is alive』をリリースします。彼らが公開した最初のシングルは「kisses」という曲で、以下よりミュージックビデオをご覧ください。


ニール・ハルステッドは声明の中で、「今、本当に暗いレコードを作るのはしっくりこないだろう」と語っている。「このアルバムは感情的にかなり折衷的なものだが、希望を感じることができる」

 

「kisses」



Slowdive 『everything is alive』





Tracklist:

 

1. shanty
2. prayer remembered
3. alife
4. andalucia plays
5. kisses
6. skin in the game
7. chained to a cloud
8. the slab




Tour Date:


July 26 – Auckland, NZ @ Powerstation
July 29 – Niigata Prefecture, JP @ Fuji Rock Festival (フジロック公演)
Aug. 5 – Mysłowice, PL @ Off Festival
Aug. 11 – Sicily, IT @ Ypsigrock Festival
Aug. 18 – Brecon Beacon, GB @ Green Man Festival
Sep. 23 – Toronto, CA @ Queen Elizabeth Theatre
Sep. 25 – Boston, MA @ House of Blues
Sep. 27 – New York, NY @ Webster Hall
Sep. 28 – New York, NY @ Webster Hall
Sep. 29 – Philadelphia, PA @ Union Transfer
Sep. 30 – Washington, DC @ 9:30 Club
Oct. 2 – Cleveland, OH @ The Roxy
Oct. 3 – Chicago, IL @ Riviera Theatre
Oct. 4 – St. Paul, MN @ Palace Theatre
Oct. 6 – Denver, CO @ Cervantes Masterpiece Ballroom
Oct. 7 – Salt Lake City, UT @ The Union Event Center
Oct. 9 – Portland, OR @ Crystal Ballroom
Oct. 10 – Seattle, WA @ Showbox Sodo
Oct. 12 – San Francisco, CA @ Warfield Theatre
Oct. 14 – Los Angeles, CA @ The Bellwether
Oct. 30 – Glasgow, UK @ QMU
Oct. 31 – Manchester, UK @ Ritz
Nov. 1 – Bristol, UK @ SWX
Nov. 3 – London, UK @ Troxy
Nov. 5 – Belfast, UK @ Mandela Hall
Nov. 6 – Dublin, IR @ National Stadium

Weekly Music Feature 

 

Bodywash 






モントリオールのデュオ Bodywashが見据える未来の音


モントリオールのデュオ、ボディウォッシュのセカンドアルバム『I Held the Shape While I Could』では、"故郷"とは移ろいやすいもので、完全にそうでなくなるまで心に長く留められている場所であるということが示されている。ボディウォッシュのメンバーであるChris Steward(クリス・スチュワード)とRosie Long Decter(ロージー・ロング・デクター)は、アルバムの12曲を通して、場所の感覚を失ったという、別々の、そして共通の経験、一度固まったものが指の間をすり抜けてしまう過程、そして、その落差から新しい何かを築こうとする試みについて考察しています。

クリス・スチュワードとロング・デクターの二人は、2014年に大学で出会いましたが、すぐに音楽言語を共有したというわけではなかった。クリスはロンドンでブリティッシュ・ドリーム・ポップとクラシックなシューゲイザー、ロージーはトロントでフォークとカナディアンを聴いて育った。彼らが最初に出会ったのは、カナディアン・フォークの血統を持つドリーム・ポップ・バンド、Alvvays(オールウェイズ)だった。風通しの良いボーカル、複雑なギターワーク、雰囲気のあるシンセサイザーという独自のブレンドを目指して、2016年にBodywashとしてデビューEPを発表、さらに2019年に初のフルレングスとなる『Comforter』をリリースしました。

『Comforter』の制作段階において、ロング・デクターとスチュワードともに私生活で疎外感のある変化を経験し、お互いにズレたような感覚を持つようになりました。彼らは、『Comforter』の心地よいドリーム・ポップよりも、よりダークで実験的で爽快な新曲を書き始めた。2021年、これらの曲をスタジオに持ち込み、ドラマーのライアン・ホワイト、レコーディングエンジニアのジェイス・ラセック(Besnard Lakes)と共有した。

最初の先行シングル「Massif Central 」では、”官僚的な煉獄”の経験(政府からの手紙のタイプミスにより、スチュワードは一時、カナダでの合法的な労働資格を失った)を語るStewardのささやくようなボーカルに、荒々しいギターと執拗なドラムのビートが寄り添っている。

「Perfect Blue」は、スチュワードの日本人とイギリス人の文化的アイデンティティをサイケデリックに探究しています。

日本のアニメイター、今敏(こん さとし)監督の1997年の『パーフェクト・ブルー』がプリズムのような役割を果たし、スチュワードは自分の混血を二面性に投影し、複雑に屈折させている。波打つシンセのモチーフは、スチュワードの歌声に合わせて弧を描き、内側に渦巻くかのように複雑に折り重なっていきます。ここで「半分であることは、全体でないこと」と、スチュワードは英国と日本という自分のルーツについて歌っている。

また、先行シングルのプレスリリースでは、スチュワードが体験した重要な出来事が語られています。このときに彼が感じざるをえなかった疎外感や孤独が今作のテーマを紐解く上では必要性不可欠なものとなっている。

「カナダに8年間住んでいた後、2021年の春に、政府の事務的なミスにより、私はここでの法的な地位を失うことになりました」

 

実は、英国人として、私は労働ビザの権利を失ってしまったんです。しばらくアパートの隅を歩き回ることしかできない月日が続いて、私の貯金はついに底をついてしまった。
独力で築き上げようと思っていた人生が、一瞬にして奈落の底に消えていくような気がしたため、私は、すぐに荷物をまとめて出て行く覚悟を決めました......。「Massif」は、たとえ、底なしの崖の底に向かって泣き叫んでも、反響が聞こえるかどうか定かではないような茫漠とした寂しい音なんです。
この曲は、私のベッドの後ろの壁に閉じ込められて、救いを求めて爪を立てていたリスを目にした時、インスピレーションを受けました。
友人、家族、音楽、そして、数人の移民弁護士(と残りの貯金)の助けを借り、私は幸いにも、今、この国(カナダ)の永住権を持っています。しかし、この曲は、その出来事とともに私が搾取的な国家制度に遭遇したことの証立てとして、今も深く心に残りつづけているのです。

 


 「I Held The Shape I Could」 Light Organ



 
 
2019年のデビューアルバムからそうであったように、Bodywashが掲げる音楽は、基本的にはドリーム・ポップ/シューゲイズに属している。もしくは、現在のミュージックシーンのコンテクストを踏まえて述べるなら、Nu-Gazeと称するのがふさわしいかもしれません。しかし、このジャンルは、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ジーザス・アンド・ザ・メリーチェイン、コクトー・ツインズ、チャプター・ハウス、ライドといった草分け的なバンドがそうであったように、(全てが現実を反映したものでないわけではないものの)いわゆる”夢見るような”と称される現実逃避的な雰囲気やアトモスフィアに音楽性の基盤が支えられていました。
 
以後の時代になると、2010年を通じて、日本人ボーカル擁する米国のドリーム・ポップバンド、Asobi Seksuや、Captured Tracksに所属するWild Nothing,DIIV,Beach Fossilsが米国のミュージックシーンに"リバイバル"という形で、このシューゲイズという音楽を復刻させ、そしてその後ほバンドがShoegazeのポスト・ジェネレーションに当たる”Nu-Gaze”という言葉をもたらした時でさえ、また、いささか古臭く時代遅れと思われていた音楽に復権をもたらした時でさえ、その音楽の持つ意義はほとんど変わることはなかった。いや、どころか、音楽の持つ現実逃避的な意味合いはさらに強まり、より現代的に洗練された感じや、スタイリッシュな感じが加わり、現実から乖離した音楽という形で、このジャンルは反映されていくようになったのでした。

しかし、カナダのドリーム・ポップ/シューゲイズディオ、bodywashはその限りではありません。現実における深刻な体験を咀嚼し、爽快なオルタナティヴ・ロックとして体現しようとしている。それは2010年以降何らかの音楽のイミテーションにとどまっていたシューゲイズというジャンルの表現性を、スチュワードとデクターは未来にむけて自由な形で解放しようとしているのです。

ボディウォッシュは新作を制作するに際し、19年のデビュー作よりも”暗鬱で実験的でありながら、痛快な音楽を制作しようとした”と述べています。例えば、ロンドンのJockstrapのように、エレクトロの影響を織り交ぜた前衛的なポップ、アヴァンギャルド・ポップという形で二作目の全体的な主題として還元されていますが、これらの暗澹とした音の奥底には、日本の今敏監督の筒井康隆原作のアニメーション『パプリカ』のように全般的には近未来に対する憧れが貫流しているのです。
 
アルバムのオープニングを飾る「Is As Far」は、その近未来に対する希望を記した彼らの声明代わりとなるナンバーです。アヴァン・ポップという側面から解釈したエレクトロとダイナミックなシューゲイズの融合は、このジャンルの先駆者、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインが到達しえなかった未知の領域へ踏み入れたことの証立てともなっている。リラックスして落ち着いたイントロから、ドライブ感のある新旧のクラブミュージックの影響を織り交ぜたエネルギーに満ちたエレクトロへの移行は、ボディウォッシュが飛躍を遂げたことを実際の音楽によって分かりやすい形で示しています。
 
それに続く、「Picture Of」は、Bodywashが2010年代のWild Nothingとは別軸にある存在ではなく、ニューゲイズの系譜にある存在であることを示唆しています。ここで彼らは、90年代、さらに古い80年代へのノスタルジアを交え、甘美なオルタナティヴロック/インディーロックの世界観を組み上げていきます。彼らの重要なバックボーンである80年代のディスコポップやエレクトロの融合は、ロング・デクターの甘美なメロディーを擁するボーカル、彼女自身のコーラスワークにより、聞き手の聴覚にせつなげな余韻を残してくれるのです。

夢想的なドリーム・ポップとアヴァン・ポップの中間にあるサウンドの渦中にあって、現実的な視点を交えて書かれた曲が、「Massif Central」となる。前の2曲とは少し異なり、クリス・スチュワードがメインボーカルを取っていますが、彼はWild Nothingに代表されるスタイリッシュなシューゲイズサウンドの中にポスト・トゥルース派としての現実的な夢想性をもたらしています。さらに、この曲では、デュオが共有してきた孤立した感覚、居場所を見出すことができないというズレた感覚、そういった寂しさを複雑に絡めながら、そして、今敏監督のアニメーション作品のような近未来的な憧憬を緻密に織り交ぜることによって、オリジナルのシューゲイズとも、その後のリバイバル・サウンドとも相異なる奇妙な音楽を組み上げようとしているのです。

こういった、これまでのどの音楽にも似ていない特異な感覚に彩られたロックサウンドがなぜ生み出されることになったのかと言えば、スチュワードが日本にルーツを持つことと、彼自身がアルベルト・カミュの作品のような”異邦人”としての寂しさを、就労ビザの失効という体験を通じて表現していることに尽きる。彼の住んでいる自宅で起こったと思われる出来事ーーベッドの後ろの壁に押し込められたリスが壁に爪を立てている様子ーー、それは普通であれば考えづらいことなのですが、スチュワードは、この時、小さな動物に深い共感を示し、そして、その小さな存在に対して、自己投影をし、深い憐れみと哀しみを見出すことになった。カナダの入国管理局の書類のタイプミスという見過ごしがたい手違いによって起きた出来事は翻ってみると、政府が市民を軽視しすぎているという事実を、彼の心の深くにはっきりと刻むことにも繋がったのです。
 
アルバムのハイライトである「Massif Central」に続く「Bas Relief」で、他では得難い特異な世界観はより深みを増していきます。それ以前のドリーム・ポップ/シューゲイズサウンドとは一転して、デュオはアンビエント/ドローンに類する前衛的なエレクトロ・サウンドを前半部の最後に配置することによって、作品全体に強いアクセントをもたらしています。「Bas Relief」において、前曲の雰囲気がそれとは別の形で地続きになっているような感を覚えるのは、かれらが前曲の孤立感をより抽象的な領域から描出しようと試みているがゆえ。これはまた、かれらがアヴァン・ポップと同時に現代的で実験的なエレクトロニカに挑戦している証でもあり、先週のティム・ヘッカーの『No Highs』の音楽性にも比する表現性を見出すことが出来る。つまり、ここで、ボディウォッシュは、現実という名の煉獄に根を張りつつ、 ディストピアとは正反対にある理想性を真摯に描出しようとしているようにも思えるのです。
 
さらに、それに続く「Perfect Blue」において、デュオは、イギリスのUnderworldの全盛期の音楽性を踏襲した上で、アヴァンギャルド・ポップとシューゲイズサウンドの融合に取り組み、清新な領域を開拓しようとしています。

スチュワードのボーカルは、この曲にケヴィン・シールズに比する凛とした響きをもたらしていますが、その根底にあるのものは、単なるノスタルジアではなく、近未来的への希望に満ちた艶やかなサウンドです。ここには三曲目において深い絶望を噛み締めた後に訪れる未来への憧憬や期待に満ちた感覚がほのかに滲んでいますが、これは後に、スチュワードがカナダ国内での永住権を得たことによる安心感や、冷厳な現実中にも癒やしの瞬間を見い出したことへの安堵とも解釈出来る。そしてデュオは、暗黒の世界にとどまることを良しとせず、その先にある光へと手を伸ばそうとするのです。


「Perfect  Blue」




その後、アルバムの中盤部においては「Kind of Light」「One Day Clear」と、アルバムの暗鬱とした雰囲気から一転して、爽やかなシンセ・ポップが展開されてゆく。

この2曲では、クリス・スチュワードからメインボーカルがロング・デクターへと切り替わりますが、これが煉獄に閉じ込められたような緊迫した感覚をインディーロックとして表現しようとするスチュワード、さらに、それとは対象的に、開放的な天上に至るような感覚を自身のルーツであるカナダのフォーク・ミュージックとシンセポップを織り交ぜて表現しようとするデスター、この両者の性質が交互に現れることによって、作品全体に見事なコントラストが生み出されています。

そして、一方のデクターのボーカルは、単なる歌にとどまらず、ラップやポエトリー・リーディングの影響をわずかに留めている。スチュワードと同様、ドリーム・ポップの甘いメロディーの雰囲気を擁しながらも、Jockstrapに比する前衛的で先鋭的な感覚をかなり際どく内在させている。この奇妙な感覚の融合がより理解しやすい形で表されているのが、後者の「One Day Clear」となるでしょう。デスターはスポークンワードを交え、アンビエントポップとポストパンクの影響を融合させた”未来の音”を生み出そうとしている。これは同国のハードコアバンド、Fucked Upと同様、表向きには相容れないであろうアンビバレントなサウンドをあえて融合させることで、固定化されたジャンルの既存の概念を打ち破ろうとしているようにも思えるのです。
 
さらに続く、「sterilizer」は、どちらかといえば、二曲目の「Picture Of」に近いナンバーであり、懐かしさ満点の麗しいシューゲイズサウンドが繰り広げられている。この段階に来てはじめて、デュオはデュエットの形を取り、自分たちがマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの系譜にあるバンドであることを高らかに宣言している。アンニュイな感覚という形で複雑に混ざり合う二人の雰囲気たっぷりのボーカルの掛け合いは、ブリストルのトリップ・ホップの暗鬱で繊細な感覚に縁取られており、聞き手を『Loveless』に見受けられるような甘い陶酔へといざなってゆく。そして、マッドチェスター・サウンドを反映したRIDE、slowdiveと同じように、この曲のサウンドの奥底には、80年代のフロアに溢れていたクラブミュージックのロマンチズムが揺曳している。いいかえれば、80年代-90年代のミュージシャンや、その時代に生きていた音楽への憧憬が、この曲の中にはわずかながら留められているというわけです。
 
三曲目の「Bas Releif」と並んで、アルバムのもう一つのハイライトとなりえるのが、終盤に収録されている「Acents」です。

ここでは、ロング・デスターが単なるデュオの片割れではなく、シンガーとして傑出した存在であることを示してみせています。アルバムの中で最もアヴァン・ポップの要素が強い一曲ですが、この段階に来て、1stアルバムのドリーム・ポップ/シューゲイザーバンドとしてのイメージをデスターは打ち破り、まだ見ぬ領域へ歩みを進めはじめたことを示唆しています。この曲はまた、「Dessents」の連曲という形で繰り広げられ、アンビエント/ドローンを、ポップスの観点からどのように再解釈するかを探求しています。彼らの試みは功を奏しており、四年前のデビュー作には存在しえなかった次世代のポピュラーミュージックが生み出されています。この曲を聴いていてなぜか爽快な気分を覚えるのは、デュオの音楽が単なるアナクロニズムに陥ることなく、未来への希望や憧憬をボディウォッシュらしい甘美的なサウンドを通じて表現しようとしているからなのです。
 
これらの強固な世界観は、まるで果てなく終わりがないように思えますが、クライマックスにも、ふと何かを考えさせるような曲が収録されており、きわめて鮮烈な印象を放ち、私たちの心を作品の中に一時でも長く止めておこうとする。新作発売前に最後のシングルとして公開された「No Repair」において、ロング・デスターは、内面の痛みを淡々と歌いながら、何らかの形で過去の自己をいたわるようにし、また、その内なる痛みをやさしく包み込むように認めようとしているのです。
 
 
 
90/100
 
 

 Weekend Featured Track 「Massif Central」
 

 
 
 
Bodywashの新作アルバム『I Held the Shape While I Could』は、バンクーバーのレーベル、Light Organ Recordsより発売中です。
 

 

puleflor

シューゲイザー/ポストロックトリオ、puleflorが、1月22日(日)にニューシングル「余熱」を発表しました。今回のニューシングルは自主制作盤として発売された。

 

puleflorは群馬で2021年に結成。9月に、茜音(Vo.g)、山口(g)、久保(ds)の現ラインナップとなっている。2021年の11月には、早くもデビューEP『timeless」をリリースして話題を呼んだ。また翌年には、三曲収録のシングル「Fragment」をリリースしている。

 

ベース無しの編成とは思えないサウンドの重厚さはもちろん、ドリーム・ポップのような浮遊感あるボーカル、そして、トレモロアームを駆使したギターサウンド、それを支えるタイトなドラムが魅力のバンドである。彼らは、羊文学の次世代のオルタナティヴ・サウンドを担うような存在だ。最新シングル「余熱」では、近未来のJ-Popサウンドを予見させる音楽性を生み出しており、ツイン・リードのギターの叙情的な調和と美麗なボーカルが絶妙な合致を果たしている。

 

今回のニュー・シングルについて、puleflorのボーカル/ギターを務める茜音は次のようなコメントを寄せてくれました。

 

”余熱”のデモが出来たのは昨年のあまり暑くない日のことで、環境が変わっていく中でも心にはずっと残っていてほしい温度について書きました。

 

puleflorは、昨年末に東京/横浜でのライブ・ツアーを敢行し、横浜のB.B. Street、新宿Nine Spice、下北沢Club Que、渋谷La.Mamaで公演を行った。下北沢の公演では、同日、対バンしたFall of Tearsのゲストとして春ねむりが出演している。さらに、バンドは2023年、三公演を予定しており、その中には東京公演も含まれている。

 

彼らのライブ・スケジュールの詳細は下記の通り。

 

 

・puleflor  -Live Schdule- 

 

2023年

 

・1月28日 横浜 B.B. Street

・2月4日 中野 Moonstep

・2月11日 Gunma Sunburst

 

チケットの詳細はこちら

 


puleflor 「余熱」 New Single


 

Label: puleflor

Release: 2023年1月22日


Tracklist: 

 

1.余熱


楽曲の購入/ストリーミング:

 

 https://linkco.re/4Td2Rczd


 

韓国のシューゲイザー・プロジェクト、파란노을(Parannoul)が、フルレングス『After the Magic』を発表しました。この新作アルバムは1月28日にTopshelf Recordsからパッケージ版で発売されます。


パラノウルは、ニュー・アルバムについて、「このアルバムは、あなたが期待するものではなく、私がいつも望んでいたものです」と語っています。


パラノウルは2021年に彗星の如く登場したプロデューサーで、現在、インターネット上でカルト的な人気を獲得しています。リリース形態は、デジタルストリーミング、フィジカルほか、アナログ・カセット・テープでも展開している。


ソロの最新作は、2021年の『White Ceiling/Black Dots Wandering Around EP』。また、昨年には同郷のアジアン・グロウとコラボレーションEP『Paraglow』を発表している。

 

 

 

Parannoul 『After the Magic』 

 




 

©︎Zachery Chick


ノースカロライナ州、アッシュビルのシューゲイザー・バンド、Wednesdayがニューアルバムの制作完了を発表しました。『Rat Saw God』は、Dead Oceansから4月7日に発売されます。

 

この発表と同時に、リード・シングル「Chosen to Deserve」が公開された。(ストリーミングはこちら)スペンサー・ケリー監督によるミュージック・ビデオも公開されています。また、アルバムのカバーアート、トラックリストについては、下記をご覧ください。


「Chosen to Deserve」は、Drive-By Truckersの代表曲「Let There Be Rock」を再現するために、自分自身に課した作曲の練習でもある。

 

「スペンサー・ケリーが監督したビデオでは、自分の生い立ちとおふざけの舞台であるノースカロライナ州グリーンズボロの両親の近所とレイク・マイヤーズRVリゾートが映し出されている」


『Rat Saw God』には既発シングル「Bull Believer」が収録される。10曲入りのLPは、2021年のレコード『Twin Plagues』が完成した直後の数ヶ月間に書かれ、アッシュヴィルのDrop of Sunスタジオで1週間で寝かされた。「"Twin Plagues "では、繊細であることについて全く心配していなかったハードルを本当に飛び越えたんだ--、やっとそれに心地よくなれたし、本当にそのゾーンに居続けたいんだ」とハーツマンは、リリックのアプローチについて語っている。


"誰の物語も価値がある "と彼女は付け加えた。「文字通り、すべての人生のストーリーは書き留める価値がある、なぜなら人はとても魅力的だから」と。


「Chosen to Deserve」

 



Wednesday 『Rat Saw God』

 

 
Label: Dead Oceans

Release Date: 2023年4月7日


Tracklist:

1. Hot Grass Smell
2. Bull Believer
3. Got Shocked
4. Formula One
5. Chosen To Deserve
6. Bath County
7. Quarry
8. Turkey Vultures
9. What’s So Funny
10. TV in the Gas Pump


Pre-order:

 

https://wednesday.deadoc.co/rat-saw-god

 



カナダのインディーバンドSoftcultは、MercedesとPhoenix Arn-Hornの双子の兄弟によるプロジェクトです。

 

シューゲイザー、ドリームポップ、パンクなどのグランジテイストを持ち、90年代のオルタナティブな美学への愛とDIY精神にあふれたバンドです。Phoenixはプロダクションとエンジニアリングを担当し、Mercedesは若さ、女性らしさ、そして世界が崩壊していく中で成長していくことを反映したハードなリリックを提供しています。


バンドは今年初めに最新EP『Year of the Snake』を発表し、最新作の「Drain」を含む一連のシングルを発表しています。そして本日、新曲「Someone2Me」と、それに付随するビデオを初公開しています。


リバーブのかかったギター、夢のようなハーモニー、そして歪みのあるサウンドに包まれたこの曲は、バンドのレイヤーで刺激的なスタイルを表しています。2人は90年代のシューゲイザー全盛期を丹念に再現し、軽やかな絹のようなメロディーと暗く砕けたノイズのレイヤーを混ぜ合わせる。この組み合わせは、バンドにとって常に成功をもたらすものであり、特に、より内省的なコア・サウンドと組み合わせたときに、その効果が発揮されます。


バンドはこの曲について、次のように説明しています。

 

「女性として、私たちはしばしば有害な行動を我慢して、ただそれを払いのけたり、無視したりするように教えられてきたわ。でも、私は無視することに嫌気がさしたんです。ハラスメントは決して許されるものではないし、暴力の脅威があるほど深刻に受け止めるべきものでもない。


この曲は私たちの経験についてだけではありません。怒りとフラストレーションの対処法としてインセルのイデオロギーを取り入れた男性からのハラスメントや虐待に対処しなければならない無数の女性についての歌なんだ」



曲とビデオは以下からチェック。Softcultの新作EP『see you in the dark』はEasy Life Recordsより3月24日発売予定です。


cruush 


 マンチェスターのシューゲイザーバンド、cruushがニューシングル「Sombre By The Weekend」を発表しました。楽曲のストリーミングはこちらから。

 

バンドは2019年から数作のシングルを発表している。今回のリリースにあたって、Heist Or Hitと契約を結んでいる。プロデューサーには、bdrmmやWorking Men's Clubで知られるAlex Greavesを迎え、来年早々には新作アルバムの全貌を明らかにする予定だという。

 

11月23日に発表されたニューシングル「Sombre By The Weekend」は、SwervedriverやRideを彷彿とさせる暗鬱なシューゲイザーな作品です。ギターのエフェクトを上げ、エネルギーを注入したcruushは、高らかなハーモニーを奏でながら、喧騒に塗れたライブサウンドを維持している。

 

NewDad、bdrmm、The Lounge Society、Ian Sweetなどのサポートを務めたばかりのcruushは、まだまだこれからが楽しみなバンド。

 

 

DIIV


 DIIVが新しいライブ・アルバム『Live at Murmrr Theatre』をリリースした。本作は、2017年にニューヨーク・ブルックリンのMurmrrで行われた公演のライブ音源を収録している。本作は、キャプチャード・トラックスに象徴される2010年代のニューヨークのアンダーグランドのミュージックシーンの息吹が感じられる快作となっている。

 

このMurmrrの公演では、バンドの最初の2枚のアルバム『Oshin』と『Is The Is Are』の楽曲が収録されており、Alex Gの "Hollow "とMy Bloody Valentineの "When You Sleep "のカバーも含まれている。DIIVは、"Dopamine "のライブ・パフォーマンス・ビデオも公開している。Jim Larsonが撮影したビデオの視聴と、アルバムのストリーミングは以下でお願いします。


バンドのZachary Cole Smithはプレス・リリースで次のように述べている。

 

「2017年8月、私は5ヶ月間禁酒しており、DIIVはほぼ1年間ライヴをやっていなかったんだ。友人のRicが地元ブルックリンの劇場で親密なアコースティック・ライヴをセッティングしてくれたんだ。ステージには僕らの家にあるものを飾り、テレビでホームビデオを流したんだ。友人や家族を招待して、最初の2枚のアルバムからの曲と、バンドとして重要だと思われる他のアーティストの曲を演奏しました。ある種のリセットのような感じだった。その番組を録画して、何年も忘れていたんだ。

 

最近になって録音したものを見つけて、みんなに聴いてもらいたいと思ったんだ。これは公式ブートレグのようなものだと思う。友人のジャーヴィスがミックスしてくれて、友人のパーカーとジムがアートを作ってくれたんだ。楽しんでほしい」

 

 

 「Dopamine」 Live at Mumrr Theatre

 

 

 

 

 DIIV 『Live at Murmrr Theatre』

 


Weekly Recommendation

 

Smut 『How The Light Felt』



 Label: Bayonet

 Release: 2022年11月11日


Official-order

 

 


Review


 オハイオ州、シンシナティで2017年に活動を開始した5人組のインディーロックバンド、Smutは、Tay Roebuck,Bell Conower、Andrew Mins、Sum Ruschman、Aidan O' Connerからなる。Smutは、2017年の結成以来、Bully、Swirlies、Nothing、WAVVESとともに全国ツアーを制覇して来た。

 

 2020年にリリースされた『Power Fantasy』EPは、どちらかというと実験的な内容だったが、シンガーTay Roebuck(テイ・ローバック)を中心としたバンドは、現在、90年代の影響を受けた巨大なプールに真っ先に飛び込み、その過程でサウンドを刺激的な高みへと持ち上げている。

 

最新アルバム『How The Light Felt」では、OASISの作曲センスとCOCTEAU TWINSのボーカル、GORILLAZのパーカッシブなグルーヴとMASSIVE ATTACKの官能性を融合させている。


2017年に妹を亡くした後、ボーカルのテイ・ローバックは執筆活動に専心した。"このアルバムは、2017年に高校卒業の数週間前に自殺した妹の死について非常によく描かれている。 私の人生が永久に破壊された瞬間で、それは準備できないものだ "と。

 

こういった悲惨な状況にもかかわらず、ローバックは「How the Light Felt」で前を向き、痛みをほろ苦いカタルシスに変える厳格な誠実さを示している。最初のリードシングル「After Silver Leaves」は、たまらなく耳に残る曲で、他のアルバムと同様、"私たちを支えてくれる人たちへのラブレター "である。現在、バンドはオハイオからシカゴを拠点に移して活動している。

 

Smut


 シカゴのインディー・ロックバンド、Smutの新作『How The Light Felt』は、Beach Fossilsのダスティン・ペイザーが(当時のガールフレンドであり現在の妻)ケイシー・ガルシアとともに立ち上げた、ブルックリンのインディペンデント・レーベル、Bayonet Recordsからリリースされている。


元来、Smutは、シューゲイズの要素を強いギターロックをバンドの音楽性の主なバックボーンとしていたが、徐々にポップスの要素を突き出しいき、2020年のEP『Power Fantasy』ではドリーム・ポップ/オルト・ポップの心地よい音楽性に舵取りを進めた。セカンドアルバムとなる『How The Light Felt』は前作の延長線上にある作品で、ドリーミーでファンシーな雰囲気が満ちている。


バンドは、オルタナティヴ・ロック/シューゲイザーに留まらず、90年代のヒップホップやトリップ・ホップに影響を受けていると公言する。それらはリズムのトラックメイクの面で何らかの形で反映されている。このバンドの主要な音楽的なキャラクターは、コクトー・ツインズを彷彿とさせる暗鬱さ、恍惚に充ちたドリーム・ポップ性にある。そもそも、コクトー・ツインズもマンチェスターのクラブムーブメントの後にシーンに登場したバンドで、表向きには、掴みやすいメロディーを打ち出したドリーム・ポップが音楽性のメインではあるものの、少なからずダンサンブルな要素、強いグルーブ感を擁していた。Smutも同じように、ドリーム・ポップ/オルトポップの王道にある楽曲を提示しつつ、時折、エレクトロの要素、トリップ・ホップの要素を織り交ぜて実験的な作風を確立している。ハイエンドのポップスかと思いきや、重低音のグルーブがバンドの骨格を形成するのである。

 

 セカンド・アルバム『How The Light Felt』は、表向きには、聞きやすいドリーム・ポップであると思われるが、一方で、一度聴いただけで、その作品の全貌を解き明かすことは困難である。それは、ソングライターを務めるテイ・ローバックの妹の自殺をきっかけにして、これらの曲を書いていったというが、その都度、自分の感情にしっかりと向き合い、それを音楽、あるいは感覚的な詩として紡ぎ出している。


論理よりも感覚の方が明らかに理解するのに時間を必要とする。それらは目に見えず、明確な言葉にするわけにもいかず、そして、曰く言いがたい、よく分からない何かであるのだ。それでも、音楽は、常に、言葉に出来ない内的な思いから生ずる。そして、テイ・ローバックは、妹の死を、どのように受け止めるべきか、作曲や詩を書く行為を通じて、探求していったように思える。

 

このレビューをするに際して、最初は「明るいイメージに彩られている」と書こうとしたが、肉親の死をどのような感覚で捉えるのか。それは明るいだとか暗いだとか、二元的な概念だけでこの作品を定義づけるのは、甚だこのアーティストや故人に対し、礼を失しているかもしれないと考えた。


死は、常に、明るい面と暗い面を持ち合わせており、そのほか様々な感慨をこの世に残された人に与えるものだ。作品を生み出しても結果や結論は出るとは限らない。気持ちに区切りがつくかどうさえわからない。それでも、このアルバム制作の夢迷の音楽の旅において、このアーティストは、Smutのメンバーと足並みを揃えて、うやむやだった感情の落とし所を見つけるために、その時々の感情や自分の思いとしっかりと向き合い、故人との記憶、出来事といった感覚を探っていこうとしたのだ。

 

勿論、これらの音楽は必ずしも一通りの形で繰り広げられるというわけではない。もし、そうだとするなら、何も音楽という複雑で難しい表現を選ぶ必要がない。まるで、これらの複数の楽曲は、ある人物の人生の側面を、音楽表現として刻印したものであるかのように、明るい感覚や暗い感覚、両側面を持ち合わせた楽曲が展開されていくのだ。


「Soft Engine」では、比較的エネルギーの強いエレクトロポップのアプローチを取り、ダンサンブルなビートとオルト・ロックの熱量を掛け合わせ、そこにコクトー・ツインズのように清涼感のあるボーカル、そしてアクの強いファンキーなビートを加味している。

 

「After Silver Leaves」では、Pavement、Guided By Voicesを始めとする90年代のUSオルト・ロックに根差した乾いた感覚を追求する。そして、次の「Let Me Hate」では、いくらかの自責の念を交え、モチーフである妹の死の意味を探し求めようとしているが、そこには、暗さもあるが、温かな優しさが充ちている。夢の狭間を漂うようなボーカルや曲調は、このボーカリストの人生に起きた未だ信じがたいような出来事を暗示しているとも言える。曲の終盤には、ボーカルの間に導入される語りについても、それらの悲しみに満ちた自分にやさしく、勇ましく語りかけるようにも思える。

 

これらの序盤で、暗い感情や明るい感情の狭間をさまよいながら、「Believe You Me」ではよりセンチメンタルな感覚に向き合おうとしている。それらはドリーミーな感覚ではあるが、現実的な感覚に根ざしている。ギターのアルペジオとブレイクコアの要素を交えたベースラインがそれらの浮遊感のあるボーカルの基盤を築き上げ、そのボーカルの持つ情感を引き上げていく。


「Believe You Me」


 



 しかし、必ずしも、感情に惑溺するかぎりではないのは、アウトロのブレイクコアのようにタイトな幕引きを見れば理解出来、この曲では、感覚的な要素と理知的な要素のバランスが図られているのである。1990年代のギターロックを彷彿とさせる「お約束」ともいえる定型フレーズからパワフルなポップスへと劇的な変化を見せる「Supersolar」は、このアルバムの中で最も叙情性あふれるカラフルな質感を持った一曲となっている。しかし、それは、夕景の微細な色彩の変化のように、ボーカルとともに予測しがたい変化をしていき、現代的な雰囲気と、懐古的な雰囲気の間を常に彷徨うかのようである。新しくもあり、古めかしくもある、このアンビバレントな曲が、近年、稀に見る素晴らしい出来映えのポップスであることは間違いない。これは、メロディーやコード、理知的な楽曲進行に重点を置き過ぎず、その瞬間にしか存在しえない内的な微細な感覚を捉え、それを秀逸でダンサンブルなポピュラー・ミュージックとして完成させているからなのである。

 

その後は、このバンドらしいシューゲイズ/ドリーム・ポップ/オルト・フォークの方向性へと転じていく。「Janeway」ではシューゲイズに近いエッジの聴いたギターとこれまでと同様に夢見がちなボーカルを楽しむことが出来る。これらは、序盤から中盤にかけてのパワフルな楽曲とは正反対の内向的な雰囲気を持ったトラックである。この後のタイトルトラック「How The Light Felt」に訪れる一種の沈静は、内的な虚しさや悲しさと向き合い、それらを清涼感のあるオルト・ポップとして昇華している。その他、Joy Divisionのようなインダストリアル・テクノの雰囲気を漂わせる「Morningstar」やブレイクコアをオルタナティヴ・フォークのほどよい心地よさで彩った「Unbroken Thought」と、アルバムのクライマックスまで良曲が途切れることはない。

 

このアルバムは、人間の感覚がいかに多彩な色合いを持つのかが表されている。悲しみや明るさ、昂じた面や落ち着いた面、そのほか様々な感情が刻み込まれている。そして、本作が、ニッチなジャンルでありながら、聴き応えがあり、長く聴けるような作品となったのは、きっとバンドメンバー全員が自分たちの感情を大切にし、それを飾らない形で表現しようとしたからなのだろうか?

 

日頃、私達は、自分の感情をないがしろにしてしまうことはよくある。けれども、その内的な得難い感覚をじっくり見つめ直す機会を蔑ろにしてはならない。そして、それこそアーティストが良作を生み出す上で欠かせない要素でもある。Smutの最新作『How The Light Felt』は、きっと、人生について漠然と悩んでいる人や、悲しみに暮れている人に、前進のきっかけを与えてくれるような意義深い作品になるかもしれない。

 

 

90/100

 

 

Weekend  Featured Track「Supersolar」


 


ヒューストンを拠点に活動するバンド、Narrow Headが、ニュー・アルバム『Moments of Clarity』を発表し、タイトルトラックのビデオを公開しました。本作は、Run for Coverから2月12日に発売予される。


Katayoon Yousefbiglooが監督した「Moments of Clarity」のヴィジュアルは以下からご試聴下さい。


新作は、Sonny DiPerri (NIN, Protomartyr, My Bloody Valentine) がレコーディング、プロデュース、ミックスを担当している。『Moments of Clarity』というタイトルを振り返り、フロントマンのJacob Duarte(ヤコブ・デュアルテ)はプレスリリースで次のように語っている。

 

"このフレーズは、僕自身の人生を振り返るスペースを作ってくれた。前作のレコード以来、そういう気づきの瞬間がたくさんあったよ。友達が死んでいくのを経験すると、人生をちょっと違った風に見ざるを得ないんだ。"

 

 

 

Narrow Head 『Moments of Clarity』

 


Label: Run For Cover Records

Release:2023年2月12日

 

Tracklist:

 

1- The Real
2 – Moments of Clarity
3 – Sunday
4 – Trepanation
5 – Breakup Song
6 – Fine Day
7 – Caroline
8 – The World
9 – Gearhead
10 – Flesh & Solitude
11 – The Comedown
12 – Soft To Touch


 

Molly ©︎Niko Havnarek


オーストリアのシューゲイザー・デュオ、MOLLYが2ndアルバム『Picturesque』のリリースを発表した。

 

『Picturesque』は、Sonic Cathedralから2023年1月13日にリリースされる。リード・シングル「The Golden Age」は本日リリースされており、以下からチェックできます。


アルバムのインスピレーションについて、バンドのシンガー/ギタリストであるラーズ・アンダーソンはプレス・リリースで次のように語っている。

 

「美術館に行って、ロマン主義の時代を通り過ぎようとするたびに、畏敬の念で立ち止まるんだ。物語、絵画、音楽など、それが何であれ、私の心の奥底にある何か、深い人間的なものを引き起こしてくれるのです。本当に神経を逆なでされ、身動きが取れなくなるほど没頭してしまうのです」


"「More is more」は、このレコードを作るときの信条であることは間違いない"とAnderssonは付け加えた。

 

「大きなインスピレーションを受けたのはPondのようなバンドで、彼らが曲の中に最大限のものを詰め込んでいく方法だ。僕はリスナーが呼吸できるような場所を提供しようとしたし、古き良きポストロックの流儀で、盛り上がったり崩れたりする一方で、フィーリングを運ぶための騒々しい実験とは対照的に、シンプルなメロディーとハーモニーにずっと頼っているんだ」




MOLLY 『Picturesque』

 

 

Label: Sonic Cathedral

Release: 2023年1月13日

 

 

Tracklist:


1. Ballerina

2. Metamorphosis

3. The Golden Age

4. Sunday Kid

5. So To Speak

6. The Lot

 

 

Pre-order:

 

https://linktr.ee/mollypicturesque 


 


Hannah Van Loon(ハンナ・ヴァン・ルーン)のシューゲイザー・ソロプロジェクト、Tanukicyan(タヌキチャン)は、10月20日、ニュー・シングル「Make Believe」を発表した。

 

トロ・イ・モアの主宰する”Company Records”からリリースされたこの新曲は、タヌキチャンにとって、2018年のデビュー作「Sundays」以来の新曲となる。以下よりお聴きください。

 


 

 

 

Tanukicyan 

 

タヌキチャン(Tanukichan)は、米オークランドを拠点に活動するインディー・ロック・バンド、トレイル・アンド・ウェイズのハンナ・ヴァン・ルーンによるソロ・プロジェクト。

 

幼少期からバイオリン奏者として音楽に慣れ親しんできた。2016年、バンド活動を経てトロ・イ・モワことチャズ・ベアーが主宰するレーベル<Company Records>からソロ・デビューEP『レディオラヴ』を発表。2018年7月にデビュー・アルバム『サンデイズ』をリリースしている。


 

Sofcult

カナダのSoftcult、別名双子のMercedesとPhoenixがニューシングル「One Of A Million」で戻ってきました。


「元々、私はフラストレーションの観点から書いていて、自分たちは例外だと考え、その過程で誰を傷つけても自分勝手な行動を繰り返す社会の人々に対する私の気持ちを表現していました」とMercedesは説明している。


「しかし、この曲について考え、書けば書くほど、私たちが人間としていかに似ているかを受け入れることは、重要なことではないにしても、慰めになる感情であることに気づいたのです。私たちが互いに関わり合い、共通点を認めれば認めるほど、互いへの共感と思いやりが生まれる。私たちが分断されればされるほど、これらの問題は解決されるどころか、長引くことになるのです。私たちの多様性と独自性を祝うだけでなく、非常に基本的なレベルでは、私たちは皆、異なるよりも同じであることを思い出すことが重要なのです」


 

©︎Ashley Rommelrath

4ADに所属するシューゲイザー/ノイズポップバンド、ザ・ビッグ・ピンクが「Safe and Sound」と題したニュー・シングルを公開した。


ロビー・ファーズ率いるザ・ビック・ピンクは、今月末(9月30日)に2012年の『Future This』以来となるニューアルバム『The Love That's Ours』をリリースする予定となっている。


先月、ファースト・シングル「Rage」を発表したバンドは、今回、2枚目のティーザーを公開した。このシングルについて、ロビー・ファーズは次のように語っている。


「私の逃亡アパートでこのハゲタカたちと踊っている。翼を切り取られた天使たちが、私たちの愛に銃を突きつけている」


「これらの曲に登場する歌詞は、このレコードを完璧に要約している。私は自分のレコードを見つけるためにL.A.に移動し、私はそれを見つけたが、そのための代償を払った。私は人類が知る限りのあらゆる誘惑に追いかけられた。愛を約束された。富を約束された。世界を約束された 麻薬、女、スターダム......。あらゆるものが私を追いかけたが、踵を返した。私はそれに巻き込まれた。そして、迷子になった。でも、今なら両手を上げてそのことを認めることができる」


「しばらく、私は妻を失いました。家族も友人も失ったが、ほとんどは自分の心を失っていたんだ」

 

 The Big Pink  Credit: Emma Ledwith

 

 2012年のアルバム『Future This』のリリースから10年を経て、ロンドンのインディーロックバンドーーThe Big Pinkは、3rdアルバム『The Love That's Ours』を9月30日にリリースすることを発表しました。

 

この新作は、トニー・ホッファー(Air、Beck、Phoenix)がプロデュースし、Yeah Yeah Yeahsのギタリスト、Nick Zinner(ニック・ジナー)、The KillsのJamie Hince(ジェイミー・ヒンス)、Wolf AliceのJamie T(ジェーミー・T), Ed Harcourt(エド・ハーコート), Mary Charteris(メアリー・チャータリス)、ミュージシャン/ソングライターRyn Weaver(リン・ウェーバー、The Big PinkのRobbie Furzeと共同で「Rage」を作曲)がレコーディングに参加したものである。


 「どうにかしてここにたどり着いた!!」The Big Pink のフロントマンのRobbie Furze(ロビー・ファーズ)はプレスリリースを通じて述べている。「ついに僕らのレコードがリリースされる。本当にありがとうございます。この時点に至るまで、私の人生の中で最もクレイジーな旅の一つだった」

 

本当にこの日が来ることはないと思っていた。私はとても迷い、とても混乱し、落とし穴に入り、時には完全に盲目になり、私にとって重要だったもの、今まで本当に愛していたもの全てを失いかけました。


このレコードは多くのことを象徴しており、頂上に立つ私の旗のようなものです。何が本当に大切なのか、ようやく理解できたということを表している。このレコードは、私がここにたどり着くまでの旅のサウンドトラックです。恐ろしくもあり、美しくもあり、楽しくもあり、恐怖と悲しみに満ちた旅でした。


結果、そのすべてから生まれたこの作品を、私はとても誇りに思っています。今まで書いた曲の中で、一番正直な曲かもしれません。このアルバムに関わったすべての人に感謝したい。彼らなしでは、ここまで来ることはできなかっただろうし、もしかしたら私はここにいなかったかもしれない。ありがとうございました。Rx"


 このニュースと共にニューシングル「Rage」を公開したフロントマンのロビー・ファーズは、「これは素晴らしいリン・ウィーバーと一緒に書いた最初の曲なんだ」と付け加えている。


ある夜、ロサンゼルスでRynに会ったんだ。バカげたパーティーでお互いにロックオンして、本当に恋に落ちたんだと思う。性的な意味ではなく、兄妹のような感じで。一晩中音楽の話をして、お互いのアイデアを出し合いました。


お互いに理解し合え、魔法にかかったようでした。Rynは、私がこれまで一緒に仕事をした中で、おそらく最も才能のある人物です。彼女は簡単に美しいメロディーを思いつくし、それはただ彼女の中からこぼれ落ちたもので、彼女の作詞はこの世のものとは思えないものでした。私はただ座って、この創造性の渦についていけるかどうか考えていました。

 

私たちは長い間、時には12時間から18時間のセッションを行いましたが、彼女はトラックが完成するまで私たちを止めることはありませんでした。「Rage」はそのようなセッションのひとつから生まれました。私たちは、自分たちの人生のどこにいるのか、世界がどれほど混乱しているのかについて、じっくりと話をしました。当時、私たち2人は愛と人生に苦しんでいて、この感情に対してRAGEしよう、力を取り戻そう、と思ったんです。この曲は私達がアルバムの中で一番好きな曲の一つだよ。


「Rage」


 





The Big Pink 「The Love That’s Ours」

 


 

Tracklisting:

 
1. How Far We’ve Come
2. No Angels
3. Love Spins On Its Axis
4. Rage
5. Outside In
6. I’m Not Away To Stay Away 
7. Safe and Sound
8. Murder
9. Back To My Arms
10. Even If I Wanted To
11. Lucky One