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俳優のライアン・ゴズリング(Ryan Gosling)が、バービーのサウンドトラックのヒット曲「I'm Just Ken」の3つの新バージョンを収録した「Ken EP」をリリースした。
オリジナルに加え、「In My Feelings Acoustic」、「Purple Disco Machine Remix」、そしてゴズリング、マーク・ロンソン、アンドリュー・ワイアットがスタジオで撮影した映像を使用したミュージック・ビデオ付きの「Merry Kristmas Barbie」が収録されている。以下からチェックしてほしい。
「I'm Just Ken」は、2024年グラミー賞の映像メディア部門最優秀楽曲賞にノミネートされている。バービー・サウンドトラックからの他の2曲、デュア・リパの「Dance the Night」とビリー・アイリッシュの「What Was I Made For?'」も同賞にノミネートされている。
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トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンが、NPRのフレッシュ・エア・シリーズのためにキュレーションしたクリスマス・プレイリストでホリデー・シーズンを祝っている。ザ・ポーグスやポール・サイモンのクラシックから、フィービー・ブリジャーズや100ジェックスといった現代的なキャロルまで、19曲のコレクションを選んだ。
トーキング・ヘッズは、ホリデーソングには無縁だった。「ピンと来なければ、この恥ずかしいものを手に入れるだけだよ」とフロントマンはNPRに説明している。「この曲は、彼がサンタクロースを文字通りに解釈した。ここにいるのは、基本的にあなたの家に忍び込み、プレゼントを置いていく見知らぬ男で、かなり奇妙な格好をしている。これを書いみたら?」
バーンのプレイリストには、ポール・サイモンの「Getting Ready for Christmas Day」、ジェームス・ブラウンの「Santa Claus Go Straight to the Ghetto」、LCDサウンドシステムの「Christmas Will Break Your Heart」、ティエラ・ワックの「feel good」など、彼の優れた幅広いセンスをさらに証明するような選曲が並んでいる。
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GhettsがSkrapzをフィーチャーした新曲 「Twin Sisters」をリリースした。
このトラックは、Ghettsと頻繁にコラボレーションしているTenBillion Dreamsがプロデュースし、オランダ人監督、Geerten Harmens(A$AP Rocky、Lil Wayne、Gunna)がビジュアルを制作した。
「Twin Sisters」は、ムーンチャイルド・サネリーをフィーチャーした前シングル 「Laps」に続く。ゲッツにしては珍しく、「Laps」はビデオなしでリリースされた。
何か意義のあることをして地元コミュニティに恩返しをしたいという願望に突き動かされたゲッツは、このユニークなパートナーシップにより、150人の若者の年会費を負担することになった。
ゲッツは、2021年に発表した『Conflict Of Interest』がUKオフィシャル・アルバム・チャートで1位を獲得し、MOBO賞、マーキュリー・ミュージック・プライズ、ブリット・アワードにノミネートされたのに続き、アルバム『On Purpose, With Purpose』をワーナーから2月2日にリリースする。
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リアム・ギャラガーとジョン・スクワイアが、以前から予告されていた極秘のコラボレーションを発表し、デュオとして全アルバムをレコーディングしたことをガーディアン誌に明らかにした。
元オアシスのフロントマンと元ストーン・ローゼズのギタリスト、マンチェスター出身で最も成功した2人のミュージシャンには、長年の交流がある。スクワイアはオアシス、そして後にギャラガーと壮大なサイケデリック・バラード『Champagne Supernova』のライヴで共演し、1997年にはギャラガーがスクワイアと共作した『Love Me and Leave Me』という曲が、オアシスのツアーをサポートしていたスクワイアのバンド、シーホースによってレコーディングされた。しかし、2人がデュオとして音楽をレコーディングするのは、この新しいプロジェクトが初めてである。
アルバムのタイトルと発売日はまだ完全に発表されていない。同誌によると、フル・アルバムになる予定だという。
ガーディアン紙はニューアルバムについて以下のように評している。「魅力的で生々しく、クランチングで即効性のあるプロダクション・サウンドで、エネルギーに満ちた曲は、ストンプするリズム、骨太なリフ、痛々しく明るいメロディアスなトップ・ラインなど、ブリットポップのヘビー・エンドに位置する」「ブルース、ガレージ、サイケ・ロックも主要な構成要素であり、意外にもビートルズが試金石となっている」
10月にXからリリースされると噂されるデュオのアルバムについて尋ねられたギャラガーは、はっきりと肯定することなく、典型的な威勢の良さでこう答えた。「リヴォルヴァー以来のベスト・アルバムだ」
もうひとつの曲のタイトルは、アメリカのジャーナリストで小説家のトム・ウルフの自由奔放な物語を引用したもので、スクワイアが書いた歌詞は時にかなり棘がある。「自分の好きなように作り上げろ/誰もあなた以上のことはわからない......。あなたの思いと祈りに感謝し、くたばれとギャラガーが歌う場面もある。
最初のシングル『Just Another Rainbow』は、ストーン・ローゼズの『Waterfall』を彷彿とさせ、スクワイアのファンキーで元気なソロが印象的な曲で、1月5日にリリースされる。スクワイアは、この曲は「失望について歌ったもので、本当に欲しいものは決して手に入らないという感情だ。でも、僕は曲を説明するのが好きじゃなくて、それはリスナーの特権だと思うんだ」と語る。
両者は当初、リモートで共同作業を行い、スクワイアがギャラガーに曲のアイディアを送ったり、ジミ・ヘンドリックス、セックス・ピストルズ、フェイセズ、ボブ・マーリー、ビージーズなどを参考にしたと言われている。
ロサンゼルスでのフル・セッションの前に、スクワイアのマックルズフィールド・スタジオでデモが作られた。スーパー・プロデューサーでポップ・ソングライターのグレッグ・カースティンがベースを弾き、ジョーイ・ワロンカーがドラムを叩いた。ワロンカーは、REMやベックと共演するだけでなく、トム・ヨークやフリーらとアトムス・フォー・ピースで演奏したこともあるスーパーグループのベテランだ。
シーホースがアルバム『ドゥ・イット・ユアセルフ』で全英2位を獲得し、ヒット・シングル『ラヴ・イズ・ザ・ロウ』を引っさげて成功を収めたのに対し、スクワイアはストーン・ローゼズで最もよく知られている。
インディー・ポップ、サイケデリック・ロック、ダンス・ミュージックを融合させた彼らは、90年代初期のマッドチェスター・シーンを代表するバンドとなった。しかし、このバンドはわずか2枚のアルバムで解散し、シーホースは1枚しかレコーディングしていない。それ以来、スクワイアの音楽活動は断続的になり、近年はビジュアル・アートに専念している(『Just Another Rainbow』のスリーブ・アートでコラボレーションしている)。
2009年にストーン・ローゼズの再結成は「絶対にない」と言っていたにもかかわらず、バンドは2年後に再結成を果たした。再びライヴを行うのみならず、バンドは2016年にも『All for One』と『Beautiful Thing』の2曲をレコーディングした。スクワイアはまた、2002年と2004年に2枚のソロ・アルバムをリリースしている。
Elephant Gym 『World』
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Label: World Recording
Release: 2023/12/14
Review
台湾/高雄のポストロックバンド、Elephant Gym(大象体操)は、KT Chang/Tell Changの兄妹を中心にテクニカルなアンサンブルを強みとして、同地のミュージック・シーンに名乗りを挙げた。大象体操は台湾の大型フェスティバルに多数出演を果たし、同国の象徴的なロックバンドといっても過言ではない。
大象体操の最大の特性は、KT Changのスラップ奏法、そして彼女の涼しげなボーカルラインにある。これが変拍子の多い目眩くような曲構成の中でファンクやジャズ、フュージョン、ラウンジの要素と合致を果たすことで、しなやかなサウンドが生み出される。シカゴやルイヴィルのポスト・ロック/マス・ロックのサウンドとは異なり、日本のLITE、Mouse On The Keysに近いポピュラーミュージックの影響を交えたアーバンなスタイルが大象体操の醍醐味となっている。
前作『Dreams』は、リリース情報がイギリスのNMEでも取り上げられていたが、バンドにとって分岐点となるようなアルバムであったことは確かだ。従来のポストロックサウンドと併行し、近未来的な音楽性を付け加え、ポップ音楽の要素に加えてプログレッシヴ・ロックの最前線の音楽を示唆していた。『World』では、デビュー当時の音楽性ーー台湾のポップス、日本のポップス、 フュージョン、ラウンジ、ポストロック/マスロック・サウンドーーを織り交ぜている。ここに、アジア、そして世界の文化を一つに繋げようという、バンドのイデアを見てとってもそれはあながち思い違いとは言えない。これまでエレファント・ジムがクロスオーバーをしなかったことは一度もないが、旧来のアルバムの中でも最も多彩なジャンルが織り交ぜられている。
アルバムのオープナー「Feather」は、エレクトロニックの要素を前面に押し出したイントロの後、お馴染みのエレファント・ジムのサウンドが始まる。ラウンジとフュージョンの要素を交えたオシャレな雰囲気のあるサウンドは、東京の都心部の夜の情景を思わせ、Band Apart、Riddim Saunterのアーバンロックサウンドをはっきりと思い起こさせる。しかし、その後に続くサウンドは、紛れもなく大象体操のオリジナル・サウンド。ジャズの影響を絡めたフュージョンに近い展開が続く。演奏の自由度が高く、大きな枠組みを決定しておいてから、そのセクションの中で即興演奏を行っている。 ただし、アンサンブルの演奏が重視されたからと言っても、大象体操のサウンドに精細感やポピュラー性が失われることはほとんどない。新たに加わったブラス・アンサンブルも曲のジャジーな雰囲気を引き立てている。
他にも、今作には新たなバンドの試みをいくつも見出すことが出来る。「Adventure」では、AOR/ソフト・ロックの音楽的な性質に、細かなマスロックの数学的なギターロックの要素を付与している。その中にフュージョン・ジャズの影響を交え、ベースの対旋律的なフレーズを散りばめて、涼やかなギターサウンドを披露している。その中にはわずかに、アフリカのジャズであるアフロビートの影響も見受けられ、そして、これが旧来にはなかったようなエキゾチックなロックの印象性を生み出している。全体的な楽曲構造の枠組みで見るかぎり、明らかにマス・ロックの系譜にあるトラックだが、その中にジャズの影響を反映させることにより、清新な音楽を生み出そうとしている。着目したいのは、イントロから中盤にかけての静謐な展開から、ギターのフレーズとドラムの微細なテンションの一瞬の跳ね上がりにより、ダイナミックなウェイブをもたらし、アグレッシヴな展開へ引き継がれていくポイントにある。続いて、曲の後半部では、トリオのバンドのセッション的な意味合いが一層強まり、裏拍を埋めるようなドラムにより、このバンドの象徴的なダイナミックなポストロック・サウンドへと直結していく。
「Flowers」は、平成時代のFlippers Guitarの渋谷系を彷彿とさせる小野リサのボサノヴァ、フレンチ・ポップ、ジャズ、日本のポップスを掛け合わせたトラックを背に、KT Changの涼し気なボーカルで始まる。しかし、その後に続くのは実験的な音楽で、主旋律的なベースラインとパーカッションである。この曲は、ベースがメインのメロディーを形成し、ビートを意識した器楽的なチャンのボーカルとパーカッションが装飾的な役割を果たしている。さらに、その後に続く「Name」では、Mouse On The Keysのシンセサイザーの演奏を交えたポスト・ロックの影響下にあるサウンドを繰り広げる。東アジアの都会の夜景を思わせるアーバンな空気感を持つサウンドという側面では、Mouse On The Keysとほとんど同じであるが、この曲における大象体操のサウンドは、さらにラウンジとフュージョン、ファンク寄りである。そして、以前よりも静と動に重点を起き、楽曲の中盤では静謐なピアノのシンプルなフレーズが夜空に輝くかのようだ。
今回、もう一つ、大象体操はより高度な試みを行っている。それがオーケストレーションとロックの融合である。この手法は、すでにオーストラリアのDirty Three、カナダのGod Speed You Emperror!、それからアイスランドの Sigur Ros、スコットランドのMOGWAIが示してきたものだが、大象体操が志すのは、キャッチーで掴みやすいサウンドだ。木管楽器のミリマリズムの範疇にある演奏を配し、ボサノヴァのようなスタイリッシュな空気感を生み出し、それらを旧来のバンドのポストロック/マスロックの技法と結びつけようとしている。しかし、時折、カラオケに近いサウンドになるのが欠点であり、これはおそらく別録りをしているらしいという点に問題がある。もしかすると、オーケストラと同時に演奏すれば、さらにリアルなサウンドになったかもしれない。続く「Light」も同じように、ジョン・アダムスやライヒのミニマル・ミュージックの要素を継承し、それをポピュラリティの範疇にあるポスト・ロックサウンドに仕上げている。特に、中盤のボーカルのコーラスの部分に、バンドとしてのユニークさ、演奏における楽しみを感じることが出来る。こういった温和な雰囲気に充ちたサウンドは前作には見られなかったものである。あらためてバンドが良い方向に向けて歩みを進めていることが分かる。
アルバムの収録曲のなかで、最も心を惹かれるのが、洪申豪がゲスト参加した「Ocean In The Night」のオーケストラバージョンだ。この曲は再録により旧来の楽曲が新しく生まれ変わっている。エモに近いギターラインにマリンバの音を掛け合せて、そこにモダンジャズの雰囲気を添え、精妙なサウンドを生み出している。中国語のボーカルも良い雰囲気を生み出し、曲の途中では、このアルバムで最も白熱した瞬間が到来する。このバンドの最大の長所である素朴さと情熱を活かしつつ、最終的にローファイな感じのあるロックサウンドという形に昇華される。
アルバムのクローズ曲については割愛するが、「Happy Prince」でも新しいサウンドに挑戦しており、KT Changの歌手としての弛まぬ前進が示される。Don Cabarelloのサウンドに比する分厚いベースラインとチャンの涼やかでポップなボーカルが絶妙な合致を果たしている。バンドが今後どのようなサウンドを理想としているのかまでは分からない。けれども、大象体操はいつも新しいことに挑戦するバンドでもある。無論、そのチャレンジを今後も続けてほしいと思います。
80/100
Best Track 「Ocean In The Night」(feat. 洪申豪) -Orchestra Version
アルバムのご購入はこちら(日本):
https://wordsrecordings.stores.jp/items/656443b1bfb5fa0034eef0f2
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現代音楽としてはドローン・ミュージックがスウェーデンを中心に活発な動向をみせている。最も注目したいのが商業音楽とはまったく異なる領域の前衛性を表現するグループが北欧を中心に登場しはじめている。
そんな中、実際のオーケストレーションをレコーディングの中で再現させて、古典音楽との融合にチャレンジしたのがカルフォルニアのSarah Davachiだった。その他にも、トルコ/イスタンブールのEkin Filは、Grouperに触発されたテクノ、アンビエント、フォークの中間域にある音楽を制作し、オリジナリティー溢れる作風を確立した。アジアでも実験音楽は盛んであり、韓国のデュオ、Salamandaは一定のジャンルに規定しえない実験的な電子音楽の作風で異彩を放っている。
Ekin Fil 『Rosewood Untitled』
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Label: re:st
Release:2023/1/13
『Rosewood Untitled』は2021年のギリシャ/地中海沿岸地方の大規模火災をモチーフに書かれた電子音楽である。
当時、地中海地域の最高気温は、47.1度を記録。記録的な熱波、及び、乾燥した大気によって、最初に発生した山火事は、二つの国のリゾート地全体に広がり、数カ月間、火は燃え広がり、収束を見ることはなかった。2021年のロイター通信の8月4日付の記事には、こう書かれている。
「ミラス(トルコ)4日 トルコのエルドアン大統領は、4日、南部沿岸地域で一週間続いている山火事について、『同国史上最悪規模の規模』であると述べた。4日には、南西部にある発電所にも火が燃え移った。高温と乾燥した強風に煽られ、火災が広がる中、先週以降8人が死亡。エーゲ海や地中海沿岸では、地元住民や外国観光客らが自宅やホテルから避難を余儀なくされた」。この大規模な山火事については同国の通信社”アナトリア通信”も取り上げた。数カ月間の火事は人間だけでなく、動物たちをも烟火の中に飲み込んでしまった」
このギリシャとトルコの両地域のリゾート地を中心に発生した長期間に及ぶ山火事に触発されたアンビエントという形で制作されたのが、イスタンブールの電子音楽家、エキン・フィルの最新アルバム『 Rosewood Untitled』。多作な音楽家で、2011年のデビューアルバム『Language』から、昨年までに14作をコンスタントに発表。
エキン・フィルは、基本的にはアンビエント/ドローンを音楽性の主な領域に置いている。今作『Rosewood Untitled』において、画期的なアンビエントやテクノを制作している。昨年に発表した『Dora Agora』は、以前の作風とは少しだけ異なり、ドリーム・ポップ/シューゲイザーとアンビエントを融合させ、画期的な手法を確立している。Music Tribuneはトルコの地震直後に安否確認を行ったが、その三ヶ月後、アーティスト自身の連絡により無事を確認している。
marine eyes 『idyll』- Expanded
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Label: Stereoscenic
Release: 2023/3/27
ロサンゼルスのアンビエント・プロデューサー、Marine Eyes(マリン・アイズ)の昨日発売された最新作『Idyll』の拡張版は、我々が待ち望んでいた癒やし系のアンビエントの快作である。2021年にリリースされたオリジナル・バージョンに複数のリミックスを追加している。
Marine Eyesは、アンビエントのシークエンスにギターの録音を加え、心地よい音響空間をもたらしている。作品のテーマとしては、海と空を思わせる広々としたサウンドスケープが特徴。オリジナル作と同じように、拡張版も、ヒーリング・ミュージックとアンビエントの中間にある和らいだ抽象的な音楽を楽しむことが出来る。日頃、私達は言葉が過剰な世の中に生きているが、現行の多くのインストゥルメンタリスト、及び、アンビエント・プロデューサーと同じように、このアルバムでは言葉を極限まで薄れさせ、情感を大切にすることにポイントが絞られている。
タイトル・トラック「Idyll」に象徴されるシンセサイザーのパッドを使用した奥行きのあるアブストラクトなアンビエントは、それほど現行のアンビエントシーンにおいて特異な内容とはいえないが、過去のニューエイジのミュージックや、エンヤの全盛期のような清涼感溢れる雰囲気を醸し出す。それは具体的な事物を表現したいというのではなく、日常に溢れる安らいだ空気感を、大きな音のキャンバスへと落とし込んだとも称せる。制作者の音楽は、情報や刺激が過剰な現代社会に生きる私達の心に、ちょっとした余白や空白を設け、癒やしを与えてくれる。
Tim Hecker 『No Highs』
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Label: kranky
Release: 2023/4/7
シカゴのKrankyからリリースされた『No Highs』』は、前述の2枚のレコードのジャケットのうち、2枚目のジャケットの白とグレーを採用し、濃い霧(またはスモッグ)に包まれた逆さまの都市を表現しています。
このアルバムは、カナダ出身のプロデューサーの新しい道を示す役目を担った。Ben Frostのプロジェクトと並行しているためなのか、リリース時のアーティスト写真に象徴されるように、北極圏と音響の要素に彩られていますが、基本的には落ち着いたアルペジエーターによって盛り上げられるアンビエント/ダウンテンポの作品となっています。ノート(音符)の進行はしばしば水平に配置され、サウンドスケープは映画的で、ビートはパルス状のモールス信号のように一定に均されており、緊張、中断、静止の間に構築されたアンビエントが探求されている。特に『Monotony II』では、コリン・ステットソンのモードサックスが登場するのに注目です。
『No Highs』は「コーポレート・アンビエント」に対する防波堤として、また「エスカピズム」からの脱出として発表された。この作品は、作者がこれほど注意深くインスピレーションを持って扱う方法を知っている人物(同国のロスシルを除いて)はいないことを再確認させてくれる。
以前、音響学(都市の騒音)を専門的に研究していたこともあってか、これまで難解なアンビエント/ドローンを制作するイメージもあったティム・ヘッカーではありますが、『No Highs』は改めて音響学の見識を活かしながら、それらを前衛的なパルスという形式を通してリスナーに捉えやすい形式で提示するべく趣向を凝らしている。ティム・ヘッカーは、アルバムを通じて、音響学という範疇を超越し、卓越したノイズ・アンビエントを展開させている。それは”Post-Drone”、"Pulse-Ambient"と称するべき未曾有の形式であり、ノルウェーの前衛的なサックス奏者Jan Garbarek(ヤン・ガルバレク)の傑作「Rites」に近いスリリングな響きすら持ち合わせている。
Ellen Arkbro 『Sounds While Waiting』
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Label: W.25TH
Release: 2023/10/13
スウェーデンの現代音楽家/実験音楽家、エレン・アルクブロ(Ellen Arkbro)は2019年に、パイプオルガンの音色を用いたシンセサイザーとギターのドローン音による和声法を対比的に構築した2015年のアルバム『CHORD』で同地のミュージック・シーンに台頭し、続く、2017年の2ndアルバムでは本格派の実験音楽に取り組むようになり、パイプオルガンとブラスを用いた「For Organ and Brass」を発表。スウェーデンにはドローン音を制作する現代音楽家が多い印象があるが、気鋭のドローン制作者として注目しておきたいアーティストである。
本作はスウェーデンのアーティストにとって三作目の作品となり、Kali Maloneの作風に象徴されるパイプオルガンを使用したドローン音楽に挑戦している。
ポリフォニーの旋律を主体としているのは上記のアーティストとほとんど同様であるが、Ellen Arkbroの音楽はどちらかといえば「パターン芸術」に近いものがある。音の出力とそれが消失する瞬間をスイッチのように入れ替えながら、 減退音(ディケイ)のトーンがいかなる変遷を辿るのかに焦点が絞られている。また、音響学の観点から見て、音の発生と減退がどのように製作者の抑制により展開されるのかに着目したい。
Duenn & Satomimagae 『境界 Kyoukai』
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Label: Rohs! Records
Release: 2023/6/21
イタリアのレーベルから発売された『境界 Kyoukai』は、レビューをしなかったので改めて紹介しておきたい作品。限定販売ですでにソールドアウトとなっている。
今作は福岡を拠点にする実験音楽家、Duenn(インタビューを読む)、東京の音楽家/シンガーソングライター/アーティスト、Satomimagae(インタビューを読む)によるコラボ作。Duennによるミニマル/グリッチ的な緻密なプロダクション、シュトゥックハウゼンの系譜にあるクラスターなど、電子音楽の引き出しに関しては、海外の著名な実験音楽家に匹敵するものがある。それらの実験音楽の領域にあるトラックの要素に特異なアトモスフィアを付加しているのが、ニューヨークのRVNGに所属するSatomimagaeさんのボーカル。作品制作のインスピレーションとなったのは、Duennさんが通勤中に見た看板で、その時、アーティストはその現実の中にある一風景に現実と非現実の狭間のような概念を捉えた。シンセの音作りに関してはロンドンのMarmoあたりの方向性に近いものが感じられた。
アルバムの序盤は実験的な音楽性を擁する曲が多いが、中盤から終盤にかけてチェレスタの音色を用い、ロマンティックな雰囲気を漂わせる場合もある。他にも、プロデューサーとしての引き出しの多さが感じられ、「gray」ではシンプルなアンビエントを楽しむことが出来る。さらに、クローズ曲「blue」では、エクスペリメンタルポップの作風に挑戦している。おそらくこれまで両者がそれほど多くは取り組んで来なかったタイプの曲といえるかもしれない。独立した2つの才能がバッチリ合致し、コラボレーションの醍醐味とも言えるような作風が誕生した。しかし、プロデューサーでもない私がアルバムのマスター音源を所有しているのはなぜ・・・??
Salamanda 「In Parallel』
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Label: Wisdom Teeth
Release: 2023/11/3
Salamanda(サラマンダ)は、韓国のDJ、Peggy Gou(ペギー・グー)が主宰するレーベルから作品をリリースしている。サウスコリアの注目すべき実験音楽のデュオ。昨年、FRAUの主宰するイベントにDeerhoofとともに出演していた覚えがある。デュオの音楽は、最初はアンビエントかと思ったが、必ずしもそうではなく、アヴァンギャルドという枠組みではありながら、ジャンルレスな音楽性に取り組んでいる。従来の作品を聴く限り、輝かしい才能に満ちあふれている。
「In Parallel』 ではエレクトロニカ/EDM寄りのアプローチを図ったと思えば、K-POPを絡めたのエレクトロニックにも挑戦している。また、環境音などを絡めつつ、オリジナリティーを付加している。アヴァンギャルドという範疇に収まりきらないポピュラー性がデュオの音楽の魅力。音楽的にはアイスランドのMumに近く、北欧のエレクトロニカが好きなリスナーはぜひチェックしてもらいたい。あまり一つの音楽を規定したりすることなく、今後も頑張ってほしい。
Chihei Hatakeyama 『Hachirougata Lake』
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『Hachirougata Lake』は畠山地平さん(インタビューを読む)が現地に向い、フィールド・レコーディングを取り入れながら従来のアンビエント/ドローン音楽とは別の実録的な作風に挑んだ作品。水の音をモチーフ的に使用し、八郎潟の風景が持続的に変遷する情景をアンビエントというアーティストが最も特異とする手法により描写しようとしている。アルバムには朝の八郎潟を思わせるサウンドスケープから夕景と夜を想起させるものへと変化していく。ドキュメンタリー的な作品と言える。
ウィリアム・バシンスキーの「Water Music」のループ/ミニマルの楽曲構造やブライアン・イーノの『An Ending』のシンセの音色を受け継いだ楽曲も収録されている。従来、アーティストは、いわゆるメインストリームのアンビエントの制作することを直接的には控えてきた印象もあったが、この最新作ではイーノを始めとするアンビエントの原初的な作風にも挑んでいる。
Oneohtrix Pointnever 『Again』
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Label: Warp
Release: 2023/9/29
2020年の『マジック・ワンオトリックス・ポイント・ネヴァー』に続く『アゲイン』は、プレスリリースで "思弁的な自伝 "であり、"記憶と空想が全く新しいものを形成するために収束する「非論理的な時代劇」"と説明されている。ジャケットのアートワークは、マティアス・ファルドバッケンがロパティンとともにコンセプトを練った。ヴェガール・クレーヴェンがMVを撮影した。
このアルバムはエレクトロニックによる超大な交響曲とも称すべき壮大な作風に挑んでいる。実際に、交響曲と称する必要があるのは、すべてではないにせよ、ストリングの重厚な演奏を取り入れ、電子音楽とオーケストラの融合を図っている曲が複数収録されているから。また、旧来の作品と同様、ボーカルのコラージュ(時には、YAMAHAのボーカロイドのようなボーカルの録音)を多角的に配し、武満徹と湯浅譲二が「実験工房」で制作していたテープ音楽「愛」「空」「鳥」等の実験音楽群の前衛性に接近したり、さらに、スティーヴ・ライヒの『Different Trains/ Electric Counterpoint』の作品に見受けられる語りのサンプリングを導入したりと、コラージュの手法を介して、電子音楽の構成の中にミニマリズムとして取り入れる場合もある。
さらに、ジョン・ケージの「Chance Operation」やイーノ/ボウイの「Oblique Strategy」における偶然性を取り入れた音楽の手法を取る場合もある。Kraftwerkの「Autobahn」の時代のジャーマン・テクノに近い深遠な電子音楽があるかと思えば、Jimi Hendrix、Led Zeppelinのようなワイト島のフェスティヴァルで鳴り響いた長大なストーリー性を持つハードロックを電子音楽という形で再構成した曲まで、ジャンルレスで無数の音楽の記憶が組み込まれている。そう、これはまさしく、ダニエル・ロパティンによる個人的な思索であるとともに、音楽そのものの記憶なのかもしれない。
Sarah Davachi 『Long Gradus』
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Label: Late Music
Release: 2023/11/3
スウェーデンではドローン音楽がアンダーグラウンドで盛り上がりつつある。しかしロサンゼルスも負けていない。Laurel Halo,Sara Davachiを筆頭に、このジャンルが存在感をみせている印象がある。
従来までは、シンセやパイプオルガンを使用し、ドローン音楽やアンビエントを中心に制作してきたアーティストはこの作品、及び続編となる『Arrengements』でオーケストラとの共演をし、既存作品のレベルアップを図った。
デビュー当初、テクノ/エレクトロニックの領域の音楽を制作してきたアーティストではあるが、近年、クラシカルへの傾倒をみせ、古楽をベースにした作風にも挑戦している。「Long Gradus』ではオーケストラのストリングスの合奏を交え、ドローン音楽の創始者の実験音楽家、Yoshi Wadaのバグパイプにも似たポリフォニーによる特異な音響を発生させている。ストリングスの通奏低音の重なりは、清新な気風に充ち、笙の響きのような瑞々しさにあふれている。
Peter Broderick & Ensenble O 『Give It To The Sky: Arthur Russell's Tower of Meaning Expanded』
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Label: Erased Tapes
Release: 2023/10/6
米国のコンテンポラリー・クラシカルの象徴的な存在、Peter Broderick(ピーター・ブロデリック)による最新作。ブリデリックは、これまでのバックカタログで、ピアノを主体とするポスト・クラシカルや、インディー・フォーク、はては自身によるボーカル・トラック、いわゆる歌ものまで多岐にわたる音楽に挑戦している。
ピーター・ブロデリックは、ロンドンのErased Tapesの看板アーティストである。特に「Eyes Closed and Traveling」は、ポスト・クラシカルの稀代の名曲である。今回、プロデリックはフランスのアンサンブル”Ensemble O”と組み、リアルなオーケストラ録音に着手した。
この度、ブロデリックは、アイオワのチェロ奏者、アーサー・ラッセルの隠れた録音に着目している。ラッセルは、チェリスト/作曲家として活躍し、複数の録音を残している。ブロデリックとラッセルには共通点があり、両者ともジャンルや形態を問わず、音楽をある種の表現の手段の一つとして考え、それをレコーディングに収めてきた経緯がある。ブロデリックは、ラッセルの一般的には知られていない録音に脚光を当て、当該録音の一般的な普及をさせることに加えて、それらを洗練されたコンテンポラリー・クラシックとして再構成するべく試みている。
アーサー・ラッセルのオリジナルスコアの中には、いかなる魅力が隠されていたのか? 考えるだけでワクワクするものがあるが、彼は、実際にスコアを元にし、ピアノ/木管楽器を中心としたフランスのアンサンブルと二人三脚で制作に取り組んだ。Peter Broderick & Ensemble 0による『Give It To The Sky』は、純正なクラシカルや現代音楽に真っ向から勝負を挑んだ作品と称せる。
ジャック・アントノフは、先日リリースされた『1989(テイラーズ・ヴァージョン)』のために、テイラー・スウィフトの2014年のアルバム『1989』の楽曲を再レコーディングする際の挑戦について、興味深い詳細を明かした。
ジャック・アントノフはスウィフトの最も親しいクリエイティブ・パートナーであり、過去10年間に彼女がレコーディングした全てのアルバムにソングライティングとプロデュースを提供してきた。2人の最初のコラボレーションは、2013年の映画『ワン・チャンス』に収録された楽曲『スウィーター・ザン・フィクション』だったが、アントノフが初めて手がけたスウィフトのアルバムは、2014年のオリジナル版『1989』。楽曲『アウト・オブ・ザ・ウッズ』、『アイ・ウィッシュ・ユー・ウィズ』、『ユー・アー・イン・ラヴ』をプロデュースしている。
スウィフトの前レーベルであるビッグ・マシーン・レコードが、彼女の最初の6枚のアルバムのマスター・レコーディングの権利をプライベート・エクイティ会社に売却した後、スウィフトは6枚のアルバムすべてを、今度は彼女の管理下でマスターを再レコーディングすることを決めた。
アントノフは『Fearless』、『Red』、『Speak Now』の新ヴァージョンには参加しているが、アントノフがスウィフトと元々一緒に制作していたアルバムの新ヴァージョンのプロデュースを任されたのは、今回の再録音までなかった。
プロデューサーである彼は、Vultureとのインタビューに応じ、自身の作品を再現することの難しさについて明かした。パッチ・メモリー・ストレージを持たないMoog Model D、Roland Juno-6のようなクラシックなアナログ・シンセを使用していたため、レコードで使用されたシンセ・パッチを即座にダイヤルすることができなかったことを回想した。
「ソフト・シンセは一切使っていないので、すべてがその部屋で作られた音なんだ」とアントノフは語った。「面白いのは、音を思い出せないことだよ。だからブリーチャーズのみんなは、そういうことですごく助けてくれた。僕とバンドにとって本当に楽しいプロジェクトになった」
「部屋から聞こえてくる音だけのトラックを何曲か作るんだ。インターネットでは、『Is It Over Now?』 私たちが知っていて大好きなアナログ楽器ばかりだったから、本当に楽しかった:ムーグ・モデルDやジュノ6などだね」
ジャック・アントノフはさらに、昔のレコーディングを再訪するプロセスを、長い間行方不明になっていた日記を発見することに喩えている。これらのセッションには、「ああ、この変人めと思うようなものがたくさんある。レイヤーを重ねることで、段階を経ることができるんだ」
「つまり、『Out of the Woods』はまさにキッチンの流しのような曲なんだ。それが栄光なんだ。プロデューサーとして成功したわけでもない私が、あんなことを積み重ねる理由はない。そして、この奇妙で雑然としたシンフォニーを作り上げたんだ」
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先日、約12年ぶりとなる待望のニューアルバム『らんど』をMaturi Studioからリリースする事を発表したZAZEN BOYS。
本日突如、先行配信SG「永遠少女」を各音楽配信サイトでリリース。同時にApple Music、Spotify、amazon music、YouTube musicではアルバム「らんど」の事前予約もスタート。併せてチェックしてほしい。ニューシングルは、向井秀徳の代名詞となるコアなカッティングギター、狂気と正気の狭間をさまよう生々しいリリック、圧倒的なバンドアンサンブルにより、どのような曲の結末を迎えるのかに着目してもらいたい。今週のBest New Tracksに認定。
更に現在、開催中の「ZAZEN BOYS TOUR MATSURI SESSION 2024」の追加日程も発表された。ツアーは4月5日に新潟で始まり、向井秀徳にとって思い入れの深い札幌Penny Lane 24の公演で幕を閉じる。約12年ぶりのアルバムリリースに向け、精力的に活動するZAZEN BOYSに注目して頂きたい。
「永遠少女」
リリース詳細
・先行配信シングル
アーティスト ZAZEN BOYS
タイトル 永遠少女
Label MATSURI STUDIO
配信日 2023年12月20日
*各音楽配信サイトにて
ZAZEN BOYS「永遠少女」「らんど」
配信リンク:
Zazen Boys 『らんど』 NEW ALBUM
Label MATSURI STUDIO
発売日 2024年1月24日(水)
価格 3000円+税(CD)
品番 PECF-3287
POS 4544163469411
形態 CD、Digital
Tracklist(収録曲):
1 DANBIRA
2 バラクーダ
3 八方美人
4 チャイコフスキーでよろしく
5 ブルーサンダー
6 杉並の少年
7 黄泉の国
8 公園には誰もいない
9 ブッカツ帰りのハイスクールボーイ
10 永遠少女
11 YAKIIMO
12 乱土
13 胸焼けうどんの作り方
・ツアー詳細 ZAZEN BOYS TOUR MATSURI SESSION 2024
ZAZEN BOYS オフィシャル先行
受付URL:https://ticket-frog.com/e/zbtms202404-06
受付期間:2023年12月20日(水)20:00〜2024年1月8日(月・祝)23:59
・4月5日(金)新潟CLUB RIVERST
開場18:30/開演19:00
(問)FOB新潟 025-229-5000 <平日:11:00〜17:00>
・4月6日(土)郡山HIPSHOT JAPAN
開場17:30/開演18:00
(問)GIP https://www.gip-web.co.jp/t/info
・4月12日(金)水戸ライトハウス
開場18:30/開演19:00
(問)ADN STATE 050-3532-5600 <平日12:00-17:00>
・4月14日(日)盛岡CLUB CHANGE WAVE
開場17:30/開演18:00
(問)GIP https://www.gip-web.co.jp/t/info
・4月20日(土)那覇桜坂セントラル
開場17:30/開演18:00
(問)PM AGENCY 098-898-1331 <平日11:00〜15:00>
・5月9日(木)京都磔磔
開場18:00/開演18:30
(問)YUMEBANCHI(大阪) 06-6341-3525<平日12:00~17:00>
・5月10日(金)福井CHOP
開場18:30/開演19:00
(問)FOB金沢 076-232-2424 <平日:11:00〜17:00>
・5月18日(土)鹿児島CAPARVO HALL
開場17:00/開演18:00
(問)BEA 092-712-4221<平日12:00〜16:00>
・6月8日(土)札幌PENNY LANE24
開場17:00/開演18:00
(問)WESS info@wess.co.jp
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ダーク・ミュージックのレコード・レーベル、The FlenzerがLowのトリビュート・アルバム『Your Voice Not Enough』を2024年にリリースすると発表した。発表文にはこうある。
『Your Voice is Not Enough』は、Planning For BurialのThom WasluckとThe Flenserとの会話から生まれたプロジェクトであり、Lowへの心からのトリビュートである。ローのディスコグラフィーのニュアンスに富んだ美しさに触発され、好きなアルバムのランキングを話し合うことから始まったこのプロジェクトは、私たちFlenserの緊密なアーティスト・グループと友人を集めた共同作業へと花開いた。
惜しむらくは、このコンピレーションがミミ・パーカーの悲劇的な逝去の前に形になったことだ。彼女の遺産に敬意を表し、このアルバムを彼女の思い出に捧げ、彼女が音楽界に残した深い影響を讃えたい。
このトリビュート・アルバムには、Cremation Lily、Holy Water、Midwife and Amulets、Drowse featuring Lula Asplund、Kathryn Mohr、Planning for Burial、Have A Nice Life、Allison Lorenzenなど、フレンザーのアーティストや友人たちによる8曲のカバーが収録されている。
公開された最初の曲は、アリソン・ロレンツェンによる、ローの1994年のデビュー・アルバム『I Could Live In Hope』の象徴的なオープニング曲「Words」の心を揺さぶる素晴らしいカバーだ。試聴は以下から。
ローのミミ・パーカーは2022年にガンで他界したが、それ以来カヴァーやトリビュートが続々と発表されている。彼女の夫でバンドメイトのアラン・スパーホークは、2月にニューヨークでゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーのオープニングを務める。
Your Voice Is Not Enough:
1. Cremation Lily -''Weight of Water"
2. Holy Water - "Sunflower"
3. Midwife, Amulets - "Do You Know How to Waltz"
4. Drowse - "Hey Chicago (feat. Lula Asplund)"
5. Kathryn Mohr - "Cut"
6. Allison Lorenzen - "Words"
7. Planning for Burial - "Murderer"
8. Have a Nice Life - "When I Go Deaf"
Music Tribune Presents ”Album Of The Year 2023”
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Part.3 ーマイナスをプラスに変える力 海外の日本勢の台頭ー
2023年度のアルバムのプレスリリース情報やアーティストのコメントなどを見ていて、気になったことがあり、それは人生に降りかかる困難を音楽のクリエイティブな方面でプラスに変えるというアーティストやバンドが多かったという点です。
例えば、Slow Pulpのボーカリストのマッシーは、親の交通事故の後、病院で介抱をしながら劇的なアルバムの制作を行い、音楽に尽くせぬ苦悩をインディーロックという形に織りまぜていました。また、Polyvinyleに所属するSquirrel Flowerもツアーの合間に副業をしつつ、新作アルバムを発表している。すべてのアーティストがテイラー・スウィフトのような巨額の富を築き上げられるわけではないのは事実であり、商業的な側面と表現の一貫としての音楽の折り合いをどうつけるのかに苦心しているバンドやアーティストが数多く見られました。
一方、ラップ・シーンのアーティストでは、そのことが顕著に表れていた。たとえば、デトロイトの英雄、ダニー・ブラウンはThe Gurdianのインタビューで語ったように、断酒治療のリハビリに取り組みながら、その苦悩をJPEGMAFIAとのコラボ・アルバムや「Quaranta」の中に織り交ぜていました。特に、前者では、内的な悪魔的ななにかとの格闘を描いている。さらにジャズやソウルの織り交ぜたシカゴのオルタナティヴ・ヒップホップの最重要人物であるミック・ジェンキンスもまた、10年にわたって大きなビジョンを抱えつつも、ドイツのメジャーレーベル、BGMと契約を結ぶまでは、制作費の側面でなかなか思うように事態が好転しなかったと話しています。それが「Patience」というタイトルにも反映されている。ジェンキンスのフラストレーションの奔流は、凄まじいアジテーションを擁しており、リスナーの心を掻きむしる。
そしてもうひとつ、贔屓目抜きにしても、近年、海外で活躍する日本人アーティストが増えているのにも着目したいところです。特に、なぜか、ロンドンで活躍する女性アーティストが増加しており、昨年のSawayamaのブレイクに続いて、Hatis Noit、Hinako Omoriなど、ロンドンの実験音楽やエレクトロニックのフィールドで存在感を示している事例が増加しています。米国のChaiはもちろん、高校卒業後、心機一転、米国に向かったSen Morimotoにも注目で、現地のモダン・ジャズの影響を取り入れながら、CIty Slangのチームと協力し、シカゴに新しい風を呼び込もうとしています。つい十年くらい前までは、東南アジアを除けば、日本人が海外で活躍するというのは夢のような話でしたが、今やそれは単なる絵空事ではなくなったようです。
来年はどのようなアーティストやアルバムが登場するのでしょうか。結局、レーベルやメディア、商業誌に携わる人々のほとんどは、良い音楽やアーティスト、バンドが到来することを心から期待しており、それ以外の楽しみやプロモーションは副次的なものに過ぎないと思いたいです。
とりあえずメインのピックアップはこれで終了です。2024年の最初の注目作は、トム・ヨーク、ジョニー・グリーンウッド、トム・スキナーによるSmileのセカンド・アルバム。彼らはきっと音楽の未知なる魅力を示してくれるでしょう。
Part.3 ーThe Power to Turn Minus into Positive: The Rise of Overseas Japanese Artistsー
One thing that caught my attention when I looked at the press release information and artists' comments for the 2023 albums was that many of the artists and bands were turning the difficulties that befell their lives into something positive through the creative aspect of their music. For example, Slow Pulp vocalist Massey, who released a dramatic album while caring for his parents after their car accident, weaves his endless anguish into the form of indie rock. From other interviews I've read, the artist must have had a truly accomplished and emotionally exhausting year. Squirrel Flower, who is also a member of Polyvinyle, is also working on the sidelines between tours and releasing a new album. It is true that not all artists can amass such a huge fortune as Taylor Swift, and we saw many bands and artists struggling to come to terms with the commercial aspect and music as a consistent form of expression.
This, on the other hand, was evident among artists in the rap scene. For example, as Detroit hero Danny Brown told The Gurdian, he wove his struggles into his collaborative album with JPEGMAFIA and "Quaranta" while working on his sobriety rehab. The former, in particular, depicts a struggle with something demonic within. Mick Jenkins, another Chicago alternative hip-hop darling who also weaves jazz and soul into his work, says that while he had a big vision for a decade, things didn't turn out as well as he would have liked in terms of production costs until he signed with BGM, a major German label. He says the production cost side of things didn't turn out as well as he would have liked. This is reflected in the title "Patience''. Jenkins' torrent of frustration holds tremendous agitation and scratches the listener's heart.
Another thing to note, even without any prejudice, is the increasing number of Japanese artists who have been active overseas in recent years. In particular, for some reason, there has been an increase in the number of female artists active in London. Following the breakthrough of Sawayama last year, we are seeing more and more examples such as Hatis Noit and Hinako Omori, who are making their presence felt in the experimental music and electronic fields in London. Look out for Chai in the U.S., of course, and Sen Morimoto, who headed to the U.S. for a fresh start after high school graduation, incorporating local modern jazz influences and working with the CIty Slang team to bring a new breeze to Chicago. Just a decade or so ago, it was a dream come true for a Japanese artist to be active overseas, except in Southeast Asia, but now it seems to be more than just a pipe dream.
What kind of artists and albums will we see in the coming year? In the end, I'd like to think that most people involved with labels, media, and commercial magazines are really looking forward to the arrival of good music, artists, and bands, and that all other fun and promotion is just a side effect.
The best albums list will continue, but for now, this is the end of our main picks: the first notable album of 2024 is the second Smile album by Thom Yorke, Jonny Greenwood, and Tom Skinner. They will surely show us the unknown fascination of music. (MT-D)
Laurel Halo 『Atlas』 -Album Of The Year
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Label: Awe
Release: 2023/9/22
Genre: Experimental Music/ Modern Classical/Ambient
ロサンゼルスを拠点に活動するLaurel Halo(ローレル・ヘイロー)のインプリント”Awe”から発売された『Atlas』は、2023年の実験音楽/アンビエントの最高傑作である。アーティストからの告知によると、アルバムの発売後、NPRのインタビューが行われた他、Washington Postでレビューが掲載されました。米国の実験音楽の歴史を変える画期的な作品と見ても違和感がありません。
2018年頃の「Raw Silk Uncut Wood」の発表の時期には、モダンなエレクトロニックの作風を通じて実験的な音楽を追求してきたローレル・ヘイロー。彼女は、最新作でミュージック・コンクレートの技法を用い、ストリングス、ボーカル、ピアノの録音を通じて刺激的な作風を確立している。
『Atlas』の音楽的な構想には、イギリスの偉大なコントラバス奏者、Gavin Bryers(ギャヴィン・ブライヤーズ)の傑作『The Sinking Of The Titanic』があるかもしれないという印象を抱いた。
それは、音響工学の革新性の追求を意味し、モダン・アートの技法であるコラージュの手法を用い、ドローン・ミュージックの範疇にある稀有な音楽構造を生み出すということを意味する。元ある素材を別のものに組み替えるという、ミュージック・コンクレート等の難解な技法を差し置いたとしても、作品全体には、甘いロマンチシズムが魅惑的に漂う。制作時期を見ても、パンデミックの非現実な感覚を前衛音楽の技法を介して表現しようと試みたと考えられる。
アルバムの中では、「Last Night Drive」、「Sick Eros」の2曲の出来が際立っている。ドローン・ミュージックやエレクトロニックを始めとする現代音楽の手法を、グスタフ・マーラー、ウェーベルンといった新ウィーン学派の範疇にあるクラシックの管弦楽法に置き換えた手腕には最大限の敬意を表します。もちろん、アルバムの醍醐味は、「Belleville」に見受けられる通り、コクトー・ツインズやブライアン・イーノとのコラボレーションでお馴染みのHarold Budd(ハロルド・バッド)のソロ・ピアノを思わせる柔らかな響きを持つ曲にも求められる。
表向きに前衛性ばかりが際立つアルバムに思えますが、本作の魅力はそれだけにとどまりません。音楽全体に、優しげなエモーションと穏やかなサウンドが漂うのにも注目したい。
昨日(12月18日)、ローレル・ヘイローは来日公演を行い、ロンドンのイベンター「Mode」が開催する淀橋教会のレジデンスに出演した。ドローン・ミュージックの先駆者、Yoshi Wadaの息子で、彼の共同制作者でもある電子音楽家、Tashi Wadaと共演を果たした。
Best Track 「Last Night Drive」
Slow Pulp 『Yard』
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Label: ANTI
Release: 2023/9/29
Genre: Alternative Rock
ウィスコンシンにルーツを持ち、シカゴで活動するエミリー・マッシー(ヴォーカル/ギター)、ヘンリー・ストーア(ギター/プロデューサー)、テディ・マシューズ(ドラムス)、アレックス・リーズ(ベース)は、『Yard』で新しいサウンドの高みに到達し、劇的な化学反応を起こしている。
Slow Pulpの初期の曲に見られたフックとドリーミーなロックをベースにして、よりダイナミックなサウンドを作り上げた。落ち着いたギター、エモに近い泣きのアメリカーナ、骨太のピアノ・バラード、ポップ・パンクを通して、彼らは孤独というテーマと自分自身と心地よく付き合うことを学ぶ過程、そして他者を信頼し、愛し、寄り添うことを学ぶ重要性に向き合っている。
アルバムの制作時には、ボーカリストの病、両親の事故など不運に見舞われましたが、この作品を通じて、スロウパルプは昔から親しいバンドメンバーと協力しあい、それらの悲しみを乗り越えようとしています。
全体には、ポップパンク、アメリカーナ、そしてフィービー・ブリジャーズの作曲性に根ざした軽快なインディーロックソングが際立つ。最も聞きやすいのは「Doubt」。他方、アルバムの終盤に収録されている「Mud」にもバンドとしての前進や真骨頂が表れ出ているように思える。
Best Track 「Mud」
Squirrel Flower 『Tommorow’s Fire』
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Label: Polyvinyle
Release:2023/10/13
Genre: Indie Rock/Punk
Squirrel Flowerの最新作『Tomorrow’s Fire』の制作は、2015年に開始され、八年越しに完成へと導かれた。エラ・ウィリアムズは新作アルバムのいくつかの新曲をステージプレイしながら、曲をじっくり煮詰めていくことになった。「私の歴史と、現在の音楽的な自分と過去の音楽的な自分を肯定するために、曲は複雑に絡み合っていて、曲自体と対話を重ねることにした。それ以外の方法でこのアルバムを始めることは正当なこととは思えなかった」という。
アーティストはアイオワ大学でスタジオアートとジェンダー研究に取り組んだ後、ソロミュージシャンとして活動するようになった。もし自分の曲が多くの人にとどかなければ、他の仕事をしようという心づもりでやっていた。ツアーを終えた後、ウィリアムズは結婚式のケータリングの仕事に戻るケースもあるという。『Tommorow’s Fire』は、ソロアーティストでありながら、バンド形式で録音されたもので、エラ・ウィリアムズは、アッシュヴィルのドロップ・オブ・サン・スタジオで、著名なエンジニア、アレックス・ファーラー(『Wednesday』、『Indigo de Souza』、『Snail Mail』)と共に『Tomorrow's Fire』を指揮した。
このアルバムはスロウコア/サッドコアのような悲哀に充ちたメロディーが満載となっているが、一方でその中には強く心を揺らぶられるものがある。
オープニング曲「i don't use a trash can」での綺羅びやかなギターラインとヒーリング音楽を思わせる透明なウィリアムズの歌声は本作の印象を掴むのに最適である。一方、インフレーションのため仕方なくフルタイムの仕事に就かなければならない思いをインディーロックという形に収めた「Full Time Job」は、一般的なものとは違った味がある。Snail Mail(スネイル・メイル)の作風にJ Mascisのヘヴィネスを加えた「Stick」もグラヴィティーがあり、耳の肥えたリスナーの心を捉えるものと思われる。その他にも、ポップ・パンクの影響を絡めた「intheslatepark」もハイライトになりえる。さらに「Finally Rain」では、シャロン・ヴァン・エッテンに匹敵するシンガーソングライターとしての圧倒的な存在感を見せる瞬間もある。
このアルバムは、Palehound、Ian Sweetといった魅力的なソングライターの作品を今年輩出したPolyvinyleの渾身の一作。オルタナティヴロック・ファンとしては、今作をスルーするのは出来かねる。「私が書く曲は必ずしも自伝的なものばかりではないけれど、常に真実なんだ」というウィリアムズ。その言葉に違わず、このアルバムにはリアルな音楽が凝縮されている。
Best Track 「intheskatepark」
Sampha 『Lahai』
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Label: Young
Release: 2023/10/20
Genre: R&B/Hip Hop
アルバムの終盤部に収録されている「Time Piece」のフランス語のリリック、スポークンワードは、今作の持つ意味をよりグローバルな内容にし、映画のサウンドトラックのような意味合いを付与している。
2017年のマーキュリー賞受賞作「Process」から6年が経ち、サンファは、その活動の幅をさらに広げようとしている。ケンドリック・ラマー、ストームジー、ドレイク、ソランジュ、フランク・オーシャン、アリシア・キーズ、そしてアンダーグラウンドのトップ・アーティストたちとの共演している。ファッション・デザイナーのグレース・ウェールズ・ボナーや映画監督のカーリル・ジョセフらとクリエイティブなパートナーシップなどはほんの一例に過ぎない。
『Lahai』は、ネオソウル、ラップ、エレクトロニックを網羅するアルバムとなっている。特に、ミニマル・ミュージックへの傾倒が伺える。それは「Dancing Circle」に現れ、ピアノの断片を反復し、ビート化し、その上にピアノの主旋律を交え、多重的な構造性を生み出す。しかし、やはりというべきか、その上に歌われるサンファのボーカルは、さらりとした質感を持つネオソウルとップホップの中間に位置する。サンファのボーカルとスポークンワードのスタイルを変幻自在に駆使する歌声は、大げさな抑揚のあるわけではないにも関わらず、ほんのりとしたペーソスや哀愁を誘う瞬間もある。アルバムの終盤に収録されている「Can't Go Back」に象徴されるように、聞いていると、ほんのりクリアで爽やかな気分になる一作である。
「Can't Go Back」
Hinako Omori 「Stillness, Softness...」-Album Of The Year
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Label: Houndstooth
Release:2023/10/27
Genre:Experimental Pop/Electronic
横浜出身で、現在、ロンドンを拠点に活動するエレクトロニック・プロデューサー、Hinako Omori(大森日向子)は、ローランドのインタビューでも紹介され、ピッチフォーク・ロンドン・フェスティバルにも出演した。アーティストは自らの得意とするシンセサイザーとボーカルを駆使し、未曾有のエクスペリメンタル・ポップの領域を切り開いた。
『Stillness, Softness...』のオープニング「both directions?」はシンセサイザーのインストゥルメンタルで始まるが、以後、コンセプト・アルバムのような連続的なストーリー性を生かしたインターバルなしの圧巻の12曲が続いている。
発売当初のレビューでは、「ゴシック的」とも記しましたが、これは正しくなかったかもしれない。どちらかといえば、その感覚は、ノクターンや夜想曲の神秘的な雰囲気に近いものがある。アーティストは、ポップ、エレクトロニック、ミニマリズム、ジャズ、ネオソウルに根ざした実験音楽を制作している。リリース元は、Houndstoothではあるものの、詳しいリスナーであれば、マンチェスターのレーベル、Modern Loversの所属アーティストに近い音の質感を感じとってもらえると思う。
アルバムは、インスト曲、ボーカル曲、シンセのオーケストラとも称すべき制作者の壮大な音楽観が反映されている。音楽的なアプローチは、東洋的なテイストに傾いたかと思えば、バッハの「インベンション」や「平均律」のようなクラシックに、さらに、ロンドンのモダンなポップスに向かう場合も。考え方によっては、ロンドンの多彩な文化性を反映したとも解釈出来る。そこにモノクロ写真への興味を始めとするゴシック的な感覚が散りばめられている。
アーティストは、「Stillness, Softness...」において、Terry Riley(テリー・ライリー)やFloating Points(フローティング・ポインツ)のミニマリズムを踏襲し、「エレクトロニックのミクロコスモス」とも称すべき作風を生み出した。ただ、基本的には実験的な作風ではありながら、アルバムには比較的聞きやすい曲も収録されている。「cyanotaype memories」、「foundation」は、モダンなエクスペリメンタル・ポップとして聴き込むことができる。その一方、エレクトロニック/ミニマルミュージックの名曲「in limbo」、「a structure」、さらにミニマリズムをモダン・ポップとして昇華した「in full bloom」等、アルバムの全体を通じて良曲に事欠くことはない。
アルバムの終盤に収録されている「epilogue」、タイトル曲「Stillness, Softness...」の流れは驚異的で、ポピュラー・ミュージックの未来形を示したとも言える。曲の構成力、そして、それを集中力を切らすことなく最初から最後まで繋げたこと、モチーフの変奏の巧みさ、ボーカリスト、シンセ奏者としての類まれな才覚……。どれをとってもほんとうに素晴らしい。メロディーの運びの美麗さはもちろん、ミステリアスで壮大な音楽観に圧倒されてしまった。(リリースの記事紹介時に、お礼を言っていただき本当に感動しました。ありがとうございました!!)
Best Track 「Stillness, Softness...」
Sen Morimoto 『Diagnosis』
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Label: City Slang
Release: 2023/11/3
さて、今年は、贔屓目なしに見ても、日本人アーティストあるいは、日本にルーツを持つミュージシャンが数多く活躍した。2022年、City Slangと契約を交わし、レーベルから第一作を発表したセン・モリモトもそのひとり。京都出身のアーティストは、高校卒業後、アメリカに渡り、シカゴのジャズシーンと関わりを持ちながら、オリジナリティーの高い音楽を確立した。
『Diagnosis』では、ジャズ、ヒップホップ、ファンク、ソウルをシームレスにクロスオーバーし、ブレイクビーツを主体に画期的な作風を生み出した。
もちろん、アンサンブルの方法論を抜きにしても、親しみやすく、そして何より、乗りやすい曲が満載となっている。音楽そのもののエンターテインメント性を追求したアルバム。もちろん、楽しさだけにとどまらず、ふと考えさせられるような曲も収録されている。特に、先行シングルとして公開された「Bad State」は、アーティストのことをよりよく知るためには最適。先行シングルでミュージック・ビデオを撮影した弟の裕也さんとともに頑張ってもらいたいです。
Best Track 「Bad State」
PinkPantheress 『Heaven Knows』
Label: Warner
Release: 2023/11/10
Genre: Indie Pop/Dance Pop
ピンクパンサレスは元々、イギリスのエモ・カルチャーに親しみ、その後、TikTokで楽曲をアップロードし、人気を着実に獲得した。シンガーソングライターの表情を持つ傍ら、DJセットでのライブも行っている。ワーナーから発売された『Heaven Knows』はポップス、ダンス・ミュージック、R&B等をクロスオーバーし、UKの新たなトレンドミュージックのスタイルを示した。
Pinkpanthressは、単なるポップ・シンガーと呼ぶには惜しいほど多彩な才能を擁している。DJセットでのライブパフォーマンスにも定評がある。ポップというくくりではありながら、ダンスミュージックを反映させたドライブ感のあるサウンドを特徴としている。ドラムンベースやガラージを主体としたリズムに、グリッチやブレイクビーツが刺激的に搭載される。これがトラック全般に独特なハネを与え、グルーヴィーなリズムを生み出す。ビートに散りばめられるキャッチーで乗りやすいフレーズは、Nilfur Yanyaのアルバム『PAINLESS』に近い印象を思わせる。
Tiktok発の圧縮されたモダンなポピュラー音楽は、それほど熱心ではない音楽ファンの入り口ともなりえるし、その後、じっくりと音楽に浸るためのきっかけとなるはず。ライトな層の要請に応えるべく、UKのシンガーソングライター、Pinkpanthressは、このデビュー作で数秒間で音楽の良さを把握することが出来るポップスを作り出した手腕には最大限の敬意を評しておきたい。
ポピュラーミュージックのトレンドが今後どのように推移していくかは誰にも分からないことではあるけれど、Pinkpanthressのデビュー作には、アーティストの未知の可能性や潜在的な音楽の布石が十分に示されていると思う。ベスト・アルバムでも良いと思うが、二作目も良い作品が出そうなので保留中。
Best Track 「Blue」
Danny Brown 『Quaranta』 -Album Of The Year
Label: Warp
Release: 2023/11/17
Genre: Abstract Hip-Hop
デトロイト出身、現在はテキサスに引っ越したというラッパー、ダニー・ブラウンほど今年のベストリストにふさわしい人物はいない。
2010年代は、人物的なユニークな性質ばかりをフィーチャーされるような印象もありました。しかしながら、このアルバムを聴くと分かる通り、そう考えるのは無粋というものだろう。JPEGMAFIAとのコラボレーションを経て、ブラウンは唯一無二のヒップホップの良盤を生み出した。
イタリア語で「40」を意味するアルバム『Quaranta』の制作の直前、断酒のリハビリ治療に取り組んでいたというブラウンですが、このアルバムには、彼の人生における苦悩、それをいかに乗り越えようとするのかを徹底的に模索した、「苦悩のヒップホップ」が収録されている。
確かに、ブラウンのヒップホップやトラック制作やコンテクストの中には、JPEGMAFIAと同様にアブストラクトな性質が含まれる。リリック、ライムに関しては、親しみやすいとはいいがたいものがある。しかし、その分、スパゲッティ・ウエスタン、ロック、ファンク、ジャズ、チル・ウェイヴ等、多彩な音楽性を飛び越えて、傑出したラップを披露し、素晴らしい作品を生み出した。結局、ブラウンの音楽の長所は、彼の短所を補って余りあるものだった。
アルバムの冒頭を飾る「Quaranta」のシネマティックなヒップホップも凄まじい気迫が感じられ、アブストラクト・ヒップホップの最新鋭を示した「Dark Sword Angel」も中盤のハイライトとなりえる。その他、前曲からインターバルなしで続く、ファンクの要素を押し出した「Y.B.P」もクール。さらに、同レーベルの新人、Kassa Overallがドラムで参加した「Jenn's Terrific Vacation」についてもリズムの革新性があり、哀愁溢れるヒップホップとして楽しめる。アルバムの序盤はエグい展開でありながら、終盤では和らいだトラックが収録されている。
「Hanami」は、従来までアーティストが表現しえなかったヒップホップの穏やかな魅力を示しており、これはキラー・マイクの音楽の方向性と足並みを揃えた結果とも称せるだろう。ダニー・ブラウンは、『Quaranta』の制作に関して、「コンセプチュアルなアルバムを好む」と説明しているが、まさしく彼の人生もそれと同様に、何らかのテーマに則っているのかもしれない。
Best Track 「Quaranta」
Cat Power 『Cat Power Sings Bob Dylan:The 1966 Royal Albert Hall Concert』
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Label:Domino
Release: 2023/11/10
Genre: Rock/Folk
2022年にドミノから発売された「Covers」では、フランク・オーシャン、ザ・リプレイスメンツ、ザ・ポーグスのカバーを行っていることからも分かる通り、キャット・パワーは無類の音楽通としても知られている。エンジェル・オルセン、ラナ・デル・レイ等、彼女にリスペクトを捧げるミュージシャンは少なくない。
「ロイヤル・アルバートホール」でのキャット・パワーの公演を収録した『Cat Power Sings Bob Dylan』は、ボブ・ディランの1966年5月17日の公演を再現した内容。このライブはディランのキャリアの変革期に当たり、マンチェスターのフリー・トレード・ホールで行われたディランのライブ公演を示す。
このライブ・アルバムは、これまで数多くのカバーをこなしてきたチャン・マーシャルのシンガーとしての最高の瞬間を捉えている。アルバムの序盤では、アーティストのただならぬ緊張感を象徴するかのように厳粛な雰囲気で始まりますが、中盤にかけてはフォーク・ロックやヴィンテージ・ロック風のエンターテインメント性の高い音楽へと転じていく。そして、圧巻の瞬間は、ライブアルバムの終盤に訪れ、ディランのオリジナルコンサートを忠実に再現させる「ユダ」「ジーザス」というキャット・パワーと観客とのやりとりにある。ライブアルバムの空気感のリアリティーはもちろん、音源としての完成度の素晴らしさをぜひ体験してもらいたいです。
Best Track 「Mr. Tambourine Man」
・+ 5 Album
Wilco 『Cousin』
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Label: dBpm Records
Release: 2023/9/29
Genre: Indie Rock/Indie Folk
ジェフ・トゥイーディー率いるシカゴのロックバンド、Wilcoは前作『Cruel Country』では、クラシカルなアメリカーナ(フォーク/カントリー)に回帰し、米国の音楽の古典的なルーツに迫った。
ニューアルバム『Cousin』では、アメリカーナの音楽性を踏襲した上で、2000年代のアート・ロックを結びつけた作風を体現させている。ウィルコのジェフ・トゥイーディーは、「世界をいとこのように考える」という思いをこの最新アルバムの中に込めている。本作には、インディーフォークバンドとしての貫禄すら感じさせる「Ten Dead」、「Evicted」、及び、『Yankee Hotel Foxtrot』の時代の作風へと回帰を果たした「Infinite Surprise」が収録されている。
また、今週の12月22日、小林克也さんが司会を務める「ベスト・ヒット USA」にジェフ・トゥイーディーがリモートで出演予定です。
Best Track 「Infinite Surprise」
Nation Of Language 『Strange Disciple』
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Label: [PIAS]
Release: 2023/9/15
Genre: Indie Pop/New Romantic
ニューヨークの新世代のインディーポップトリオ、Nation Of Language(ネイション・オブ・ランゲージ)は清涼感のあるボーカルに、Human League,Japan、Duran Duranといったニューロマンティックの性質を加えた音楽性を3rdアルバム『Strange Disciple』で確立している。
ライブは、ロック・バンド寄りのアグレッシヴな感覚を伴うが、少なくとも、このアルバムに関していうと、イアン・カーティスのようなボーカルの落ち着きとクールさに象徴づけられている。ラフ・トレードは、このアルバムをナンバー・ワンとして紹介していますが、それも納得の出来栄え。シンセ・ポップの次世代を行く「Weak In Your Light」、さらに、The Policeの主要曲のような精細感のあるポピュラー・ミュージック「Sightseer」も聞き逃すことが出来ません。
Best Track 「Sightseer」
Arlo Parks 『My Soft Machine』
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Label: Transgressive
Release: 2023/5/26
Genre: Indie Pop
ロンドンからロサンゼルスに活動の拠点を移したArlo Parks(アーロ・パークス)。インディーポップにネオソウル、ヒップホップの雰囲気を加味した親しみやすい作風で知られている。
ニューアルバム『My Soft Machine』には、アーティストの様々な人生が反映されている。ロサンゼルスをぶらぶら散策したり、海を見に行く。そんな日常を送りながら、穏やかなインディーポップへと歩みを進めている。これまでの少し甘い感じのインディーポップソングを中心に、現地のローファイやチルウェイブの音楽性を新たに追加し、新鮮味溢れる作風を確立している。
とくに、フィービー・ブリジャーズが参加した「Pegasus」はエレクトロニックとインディーポップを融合し、新鮮なポピュラーミュージックのスタイルを確立させている。「Puppy」のキュートな感じもアーティストの新たな魅力が現れた瞬間と称せるか。
Best Track 「Puppy」
Antoine Loyer 『Talamanca』
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Label: Le Saule
Release: 2023/6/16
Genre: Avan-Folk/Modern Classical
フランス/パリのレーベル、”Le Saule”のプロモーションによると、 以前、日本の音楽評論家の高橋健太郎氏が、ベルギーのギタリスト、Antoine Loyer(アントワーヌ・ロワイエ)を絶賛したという。レーベルの資料によると、ミュージック・マガジンでも過去にインタビューが掲載されたことがある。
ベルギーのアヴァン・フォークの鬼才、アントワーヌ・ロワイエは、今作では、Megalodons Maladesという名のオーケストラとともに、アヴァン・フォーク、ワールド・ミュージック、現代音楽をシームレスにクロスオーバーした作品を制作している。ソロの作品よりも音楽性に広がりが増し、聞きやすくなったという印象。アルバムのレコーディングは、スペインのカタルーニャ地方の「Talamanca」という村の教会と古民家で行われた。フルート、コントラファゴットを中心とする管楽器に加え、オーケストラ・グループのコーラスがおしゃれな雰囲気を生み出している。
「Talamanca」の収録曲の多くは、アントワーヌ・ロワイエのアコースティック・ギターの演奏とボーカルにMegalodons Maladesの複数の管楽器のパート、コーラスが加わるという形で制作された。ブリュッセルの小学生と一緒に作られた曲もある。パンデミックの時期にまったく無縁な生活を送っていたというロワイエですが、そういったおおらかで開放感に溢れた空気感が魅力。
「Nos Pieds(Un Animal)」、「Demi-Lune」、「Pierre-Yves Begue」、「Tomate De Mer」等、遊び心のあるアヴァン・フォークの秀作がずらりと並んでいる。アルバムの終盤に収録されている「Jeu de des pipes」では、オーケストレーションのアヴァンギヤルドな作風へと転じている。
Best Track 「Nos Pieds(Un Animal)」
「Marceli」- Live Version
Mick Jenkins 『The Patience』
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Label: BMG
Release:2023/8/18
Genre : Alternative Hip-Hop/Jazz Hip-Hop
ラストを飾るのはこの人しかいない!! シカゴのヒップホップシーンの立役者、Mick Jenkins(ミック・ジェンキンス)。以前からジャズやソウルをクロスオーバーしたオルタナティヴ・ヒップホップを制作してきた。日本のラッパー、Daichi Yamamotoとコラボレーションしたこともある。
ミック・ジェンキンスは、アルバムの制作費という面でより多くの支援を受けるため、ドイツの大手レーベル、BMGとライセンス契約を結んだ。アルバムのタイトルは、制作期間を示したのではなく、この10年間、ミック・ジェンキンスが抱えてきた苛立ちのようなものを表しているという。彼はリリース当初、そのことに関してバスケットボールの比喩を用いて説明していた。
「Patience」は旧来の『Elephant In Room』の時代のオルタネイトなヒップホップの方向性と大きな変化はありません。今作はじっくりと煮詰めていった末に完成されたという感じもある。しかし、シカゴのアンダーグランドのヒップホップシーンの性質が最も色濃く反映された作品であることは確かです。
ヒップホップ、モダン・ジャズとチル・ウェイブを掛け合せた「Michelin Star」、アトランタのラッパー、JIDがゲストボーカルで参加した「Smoke Break-Dance」の2曲は、アルバムの中で最も聞きやすさがある。
しかし、本作の真価は、中盤から終盤にかけて訪れる。「007」、「2004」といった痛撃なライム、リリックにある。ジェンキンスのラッパーとして最もドープと称するべき瞬間は、「Pasta」に表れる。この曲はおそらく、シカゴのDefceeに対するオマージュのような意味が込められているのかもしれない。さらにきわめつけは、スポークンワードというよりも、つぶやきの形で終わる「Mop」を聴いた時、深く心を揺らぶられるものがありました。
Best Track 「Michelin Star」
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ケイト・マッキノンが司会を務めた『サタデー・ナイト・ライブ』に、ビリー・エイリッシュが音楽ゲストとして登場した。グレタ・ガーウィグがこのシンガーを紹介するためにサプライズで登場し、彼女のバービー・ソング「What Was I Made For?'」と「Have Yourself a Merry Little Christmas」を披露した。このエピソードのクリップは以下からご覧ください。
What Was I Made For?'のパフォーマンス中、エイリッシュは幼少期のホームムービーのクリップや、エイリッシュとSNLの現・元女性キャストたちの個人的な写真を使って、映画のワンシーンを再現した。彼女はまた、マヤ・ルドルフ、クリステン・ウィグ、ポーラ・ペル、マッキノン、そしてガーウィグと一緒に出演し、マッキノンと一緒に猫の保護シェルターを題材にした寸劇にも出演した。
エイリッシュは、2019年のデビューと2021年の司会と音楽ゲストのダブル出演に続き、今回がコメディ・スケッチ番組への3度目の出演となった。「What Was I Made For?'」は、年間最優秀レコード賞と年間最優秀楽曲賞を含むグラミー賞5部門にノミネートされており、最近ではゴールデングローブ賞にもノミネートされた。