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 Chihei Hatakeyama  『Hachirogata Lake』

 


Label: Field Records

Release: 2023/9/1



Review



畠山地平の『Hachirogata Lake』は映画のサウンドトラック『Life Is Climbing」に続く作品となる。ライフワークとも称すべき『Void』シリーズでは、グリッチを主体とするアンビエントに取り組んだ制作者ですが、今作ではフィールド・レコーディングとアンビエントの融合に着手しています。

 

音楽の舞台は、秋田の男鹿半島に位置する八郎潟。今作は、湖付近のフィールド・レコーディングをもとに制作されたという。八郎潟という場所は、諫早湾と同様、以前から様々な社会的な関心を集めて来た経緯がある。以前は、琵琶湖に次ぐ面積を誇る湖であったが、現在は干拓事業により、その多くが埋め立てられ、調整池となった。陸地の部分は、大潟村と呼ばれ、市民が暮らす。昔は大きな湖であったが、現在、沼沢地とも称すべき地帯になっている。


『Hachirogata Lake』は、アーティストとしては珍しく、フィールド・レコーディングを主体とする作品である。アルバムの冒頭から湖の付近のフィールド・レコーディングで始まり、水の流れ、泥濘を長靴で踏みしめる音、また、草むらの水棲生物の声がサンプリングとして取り入れられている。

 

オープナー「By The Pond」は、アルバムの一連のサウンドスケープのストーリーの序章のような感じではじまる。そして、面白いことに、このフィールド・レコーディングは、どうやら八郎潟という地域の早朝から夜までを描いた「実録的なアンビエント」となっているようです。つまり、収録曲が移り変わる毎に、八郎潟の時刻ごとの別の風景が描写されています。記録的なフィールドレコーディング作品という面では、ロンドンを拠点に活動するHatis Noitのデビュー作の福島の海の録音に触発されたとも解せる。ロンドンのライブで、アーティストは、ロスシル(Loscil)と同じ日に出演した際に、Hatis Noitと少しおしゃべりをしたということです。

 

#2「Water and Birds」では、最初は気づかなかった八郎潟の無数の生き物の息吹が間近に感じ取られる。鳥類の声や水が陸地に淀みながら寄せては返す録音の後、アーティストの代名詞であるアンビエントの抽象的なテクスチャが出現する。従来、畠山地平は、グリッチに近いアンビエントにも取り組んで来た経緯があるが、ここでは、シンプルなシークエンスを取り入れて、空間性を押し広げていこうとする。当初は、波際の一部分の小さな光景であった印象が、カメラのズーム・アウトのような技法を駆使することで、被写体の姿がだんだん小さくなっていき、それにつれて遠景が視界全体に充ち広がっていく。私の知る限りでは、ここまで制作者がサウンドスケープを細部に至るまで描写しようとしたケースは、ほとんどなかった。


畠山地平さんは、ベテランのカメラマンや、映像制作者のように、半島の風景の隅々にいたるまで詳細かつ克明に記録しようと試みる。アーティストが表現しようとするのは目に映るもの、つまり、生物の気配だけにとどまらない。風の音、空の景色、その場にしか存在しないアトモスフィア、つまり「気」のような得難い繊細な感覚まで、五感で感じ取られるすべてのものをアンビエントとして克明に表現しようとしている。八郎潟の無数の生物と無生物が多角的に描き出されることによって、宇宙の無辺に顕在する万物の流転のような奥深い瞬間を形作っている。


#3「Lakeside」で風景は様変わりし、八郎潟の水が橋桁を舐めるような音、遠くの方で木製の小舟が浮かびながら波間に揺らめくような音のサンプリングが、イントロにフィールド録音という形で配置されている。それらの環境音を合間を縫うようにして、ギターの演奏がはじまる。


旋律はロマンティックで、オーストリアのFennesz(フェネス)が志向していた甘美的なギターラインを彷彿とさせる。また、抽象性は、心地よさという感覚に重点が置かれている。セリエリズムに近いフレーズであるものの、船で波間を漂うような快適さ。基調とする調性が明確ではないにも関わらず、不思議と調和的な響きが含まれている。これは、オリヴィエ・メシアン、アルフレッド・シュニトケ、武満徹の作曲の中に頻繁に見受けられる「不調和の中の調和」を感じさせる。やがて、アンビエントのテクスチャーが強調されると、自然はやさしげな表情を帯びる。この曲には、制作者が体感した八郎潟の美しい真実性が留められていると言えるでしょう。

  

またまた風景は変化し、#4「Distant View」では、空の遠景の風景が描出される。それと同時に、午前の風景が変化し、午後のサウンドスケートが呼び覚まされる。ここでは、Loscil,Tim Heckerが好むようなドローン風のテクスチャーを駆使し、男鹿半島に満ちる独特な空気感のようなものを表現しようとしている。


たとえば、開けた場所に行くと、そよ風が頬を柔らかく撫でることがあるように、視覚性とは別の感覚を表現しようとしている。ここには、アーティストの画家としての一面性が表れ、抽象的な音楽の中には色彩的な音響性が含まれる。アンビエントのテクスチャーは奥行きや空間性を増していき、宇宙的な何かに繋がっていく。表面的には、抽象的な音が建築物のように組み上げられていくが、音の核心に踏み入れていくと、その中に奇妙な和音を掴み取ることが出来る。以前、武満徹は、「そこにすでにある音を捉える」と話していましたが、それに近い感覚です。

 

#5「Pier」では、再び、波打ち際の水の音のフィールド・レコーディングに立ち返っている。アーティストは「最近まで、ブライアン・イーノを聞くことを避けてきた部分があった」と話しているが、ここではアンビエントの原初的な音楽性に立ち返り、ブライアン・イーノ/ハロルド・バッドのアンビエント・シリーズの音作りに類する音楽に取り組んでいる。 


このアンビエント・シリーズの最大の特徴は、内向きのエネルギーにあり、それが無限に内側に向かっていくような不可思議な感じにありました。それこそがアンビエントの音楽性の主な特徴を形成していたのだったけれど、この曲では、それらに類する内省的なシンセのテクスチャーが組み込まれている。そして、それはやがて、ある種の悲しみやノスタルジアという形に結びつく。

 

#6「Twilight」では、八郎潟の風景が徐々に夕景に移ろっていく。この曲も同様、ブライアン・イーノの「Apollo」の作風を継承している。ここでも、パン・フルートをベースにしたシンプルなシンセの音色を使用し、懐古的なサウンドと内省的なサウンドの中間域を探る。正直なところ、これまで書かれて来た曲の中で最高傑作だと思う。多分、複雑化されたサウンドの無駄な部分を削ぎ落とし、シンプルなものにすることほど難しいことはないけれど、実際、制作者は難なくやり遂げているのが凄い。というか、これは旧来のアンビエントという印象が覆されるような画期的な一曲であり、NYのアンビエントの大家、William Basinskyに比するクオリティがある。


#7「Fish Flying In The River」は、Fennesz/Sakamotoの「Cendre」のようなノイズ/グリッチを主体としたドローンが自然味溢れる感性と上手く溶け込んでいる。それほど真新しさのある作風ではないものの、モダン・アンビエントの王道を行くような楽曲として楽しめる。しかし、最も刮目すべきは、イントロのドローンに続いて、曲の中盤にかけてのドローンがより深遠な領域へ差し掛かる箇所である。アンビエントのシークエンスの中には、水音もかすかに聞き取れるが、#2「Water and Birds」と同じように、宇宙の万物が内包されているようにも感じられる。これらの深淵かつ深甚な感覚は、刻々と移ろっていき、4分20秒ごろから、ノイズが取り払われ、音像がクリアになる。雲や霧で覆われていた情景が風の中に途絶え、突如、視界が明るくなってくるような感覚である。断続的なテクスチャーは、控えめにフェードアウトしていく。


 #8「Lake Swaying In The Wind」は、明確な時刻こそ不明であるが、夕暮れの名残りの雰囲気に満ちている。夜の間近の湖や海の風景は、考えられるかぎりにおいて最も美しい刻限である。なぜなら、水面に夕日が映し出された時、この世界が形も際限もなく、果てない空間であることを直感させるから。水音のサンプリングが取り入れられているのは同様であるが、シークエンスの雰囲気は他の曲と少しだけ異なっている。トラックの中盤では、枯れたパンフルートの音色を追加して、夕闇の淡い情景を見事な形で描出している。さらに終盤では、イギリスの画家のウィリアム・ターナーが後期において描いた自然における崇高性を感じさせる瞬間もある。


全般を見ると、このアルバムがフィールド・レコーディングのバリエーションとなっているのがわかる。本作の一番の面白さは、ミクロとマクロの視点を交えながら、八郎潟の風景が朝から夜にかけて刻々と変化するサウンドスケープを緻密に描き出している点に尽きる。また、その瞬間にしか捉えられない偶然性を捉えようとしている点に、音源としての価値があると考えられます。

 

クローズ「Insects Chirping at Night」は、オープニングの「By The Pond」と呼応していて、プロローグとエピローグの対の形式となっている。しかし、虫の声や水棲生物の息吹の様相がアルバムの序盤とは若干変化している。つまり、八郎潟の水辺の情景は、夜の雰囲気に飲み込まれ、作品全体を通じて長い時間が経過したことが分かる。アンビエントの作曲家としてもマスタークラスの域に達しつつあり、プロのカメラマンのような鋭い観察眼にも驚かされる。さらに、秋田の八郎潟の実録的な音楽としても、文化的な価値のあるアルバムと称せるのではないでしょうか。


以前、畠山地平さんのロング・インタビューをご紹介しております。こちらも合わせてお読み下さい。


アンビエントとはどんな音楽なのかよく知りたい方は、ぜひこちらの名盤ガイドを参照してみて下さい。

 

 

90/100

 



 

 

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(Oneohtrix Point Never)が9月29日にWARPからリリースするアルバム『Again』の詳細を明らかにした。


声明の中で、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーこと、ダニエル・ロパティンは、このプロジェクトを「思索的な自伝」と説明している。このプロジェクトは、ロパティンが異なる音楽的決断を下していたらどうなっていたかを考えるうち、「非論理的な時代劇」へとたどり着いた。


アルバムのアートワークについては、マティアス・ファルクバッケンのオリジナル彫刻(ロパティンがコンセプト作りに参加)とヴェガール・クレーヴェンの撮影によるもの。このプロジェクトのニュースに合わせて、ダニエル・ロパティンは、無作為の人々に宛て、Oneohtrix Point Neverの発音についてクイズを出すトレイラー映像を公開した。以下よりご覧ください。

 

 

 「Again」ーTrailer

 



先週、ダニエル・ロパティンは、ワンオトリックス・ポイント・ネヴァーのニュー・アルバム『Again』をWarpから9月29日にリリースすることを発表した。

 

本日、アルバムのトレイラー映像に続いて、彼はファースト・シングル「A Barely Lit Path」を公開した。この曲は、NOMADアンサンブルとロバート・エイムズ指揮・編曲のオーケストラと共にレコーディングされた。アムネシア・スキャナーやエイフェックス・ツインとの仕事で知られるエクスペリメンタル・アーティスト、フリーカ・テットがこの曲の付属ビデオを監督した。


2020年の『マジック・ワンオトリックス・ポイント・ネヴァー』に続く『アゲイン』は、プレスリリースで "思弁的な自伝 "であり、"記憶と空想が全く新しいものを形成するために収束する「非論理的な時代劇」"と説明されている。ジャケットのアートワークは、マティアス・ファルドバッケンがロパティンとともにコンセプトを練り、ヴェガール・クレーヴェンがMVを撮影した。

 


「A Barely Bit Path」


Oneohtrix Point Never 『Again』

Label: WARP

Release: 2023/9/29



Tracklist:

 

1. Elseware 

2. Again 

3. World Outside 

4. Krumville 

5. Locrian Midwest 

6. Plastic Antique 

7. Gray Subviolet 

8. The Body Trail 

9. Nightmare Paint 

10. Memories of Music 

11. On an Axis 

12. Ubiquity Road 

13. A Barely Lit Path




米国のプロデューサー、Laurel Halo(ローレル・ヘイロー)が、近日発売予定の新作アルバムからのタイトル曲「Atlas」をリリースました。先行リリースされたシングル「Belleville」に続く曲です。

 

ディケイを最大限に活かしたこのトラックでは、ボーカルのサンプリングを器楽的に処理され、クライマックスでは、ピアノ、ストリングスを加工した幻想的なサウンド・スケープが描かれ、はてなきアンビエントの迷宮へと続いている。旧来のローレル・ヘイローの作品と同様、アブストラクト・アンビエントの最高峰に位置する画期的なシングルです。今週のベスト・トラックとしてご紹介します。このニューシングルは以下にてチェックしてみましょう。


2018年の『Raw Silk Uncut Wood』以来となる『Atlas』は、ローレル・ヘイロー自身のインプリント、Aweから9月22日にリリースされる。サックス奏者のベンディク・ギスク、ヴァイオリニストのジェームス・アンダーウッド、チェリストのルーシー・レイルトン、ヴォーカリストのコビー・セイらが参加している。


「Atlas」

 Tomasz Bednarcsyk   『After Midnight』

 

Label: Somewhere Nowhere

Release: 2023/6/39



Review


ポーランド/ヴロツワフのトマス・ベドナルチク(Tomasz Bednarcsyk)は、これまで、12k、Room40など、主要なアンビエント・レーベルから複数のリリースを行っている。2004年以来、前衛的なアンビエントサウンドの解釈を通して、新鮮で親しみやすい性質を持った楽曲を数多く生み出して来た。

 

ベドナルチクは、アコースティック・ループ、そして、スマートフォンで録音したフィールド・レコーディングをトラックとして緻密かつ入念に重ね合わせていき、奥行きがあり、時に暗鬱で、時に温かな、叙情性あふれるデザイン性の高いアンビエント音楽を数多く作り出している。

 

近年では、風景にまつわるサウンドスケープを主体にした作品『Windy Weater~』をリリースしており、 抽象的なアンビエントではあるものの、質の高い作品を発表しつづけている。三作のアルバムを挟んで発表された『After Midnight』は、一例では、Brian Enoのアナログシンセの音作りに近いものがあり、1983年の名作『Apollo』の音楽性をはっきりと想起させる。また、ニューヨークのWiiilam Basinskyの最初期のミニマリズムや、ループを多用した音楽性にも近い。


これまで抽象的ではありながら何らかの風景をモチーフにしたアンビエント作品を発表してきたベドナルチクは、今作においてさらに抽象的な領域へと作風を転じている。『真夜中の後に」というタイトルは、夢想的であるとも解釈できるし、夢の前に訪れる形而下の瞬間を捉えたとも考えられる。いくつかの時間やその中の特徴的な情景が曲のタイトルには冠されているため、これらの特定の情景をアンビエントという観点からデザインしたとも解釈できる。また仮にそうではないとしても、この音楽はテーマを聞き手に押し付けるものではなく、聞き手が自主的にテーマを音楽に発見し、その音の果てない深層の領域を訪ね求めていく、そんな形容がふさわしいかもしれない。トマス・ベドナルチクのアンビエントは、ブライアン・イーノ、さらに、その前の時代のサティの掲げる、原初的な「家具の音楽」の位置づけにあり、聞き手側のいる空間を尊重し、アトモスフィアを妨げたり、その空気を一変させることはない。しかしながら、それは、電子音楽というマテリアルを介し、聞き手のいる空間とのリンクを設けることにより、それまで関連性のなかった聞き手と音楽という2つの空間を見事に直結させている。

 

アルバムはイーノよりもさらに抽象的で、またバシンスキーの最初期のように一つの連なりのような構成が徹頭徹尾貫かれている。それは音が鳴り始めたとたん、別の領域がわたしたちのいる領域とは別の領域に出現する。音楽の余韻が続く限り、奇妙な空間がわたしたちの眼前から消えやることはない。それは目の前にある微かな残像を拭い去ろうとも、なかなか消えやらない瞬間にも似ている。今作において、トマス・ベドナルチクは主張性を極限まで抑えることで、直近のリリース中では鮮烈な印象を聞き手に与える。聞き手の入り込む余地が存在しえない存在感の強い音楽は、たしかにその方法論が優れている場合も稀にあるのだが、その聞き手不在の音楽は、その音楽が終わってから、需要者に虚しさや疲労をおぼえさせる場合も少なくない。それは自らの不在を音楽によって証明づけられているがゆえ。つまり、実存の否定である。


他方、トマス・ベドナルチクの新作はその限りではない。アンビエントの魅力である奥行きのある空間性とシンメトリーな構成力は聞き手に休息を与え、安らいだ空間へと導く。一つのシンセの音色から構成されるシンプルなシークエンスは、ウィリアム・バシンスキーの『Watermusic』にように、とりとめもない、果てしない無限の夢遊の空間へと続いている。アンビエントを制作する上では、リバーブ効果をトラック全体にどのような形で及ぼすのか、つまり空間性というのを念頭に置く必要があるけれど、今作におけるスペースは近年のある一定の場所を規定したアンビエントよりも深い奥行きがあり、幽玄さもある。言ってみれば、空間性の無限に焦点を絞った音楽とも解釈出来る。アルバムは一貫して、宇宙的なロマンがあり、その神秘的なロマンに憧憬を馳せたくなるものが内包されている。これはブライアン・イーノが『Apollo』で追求していた宇宙やSFへのロマンチズムを今作において復元してみせたと言える。


アルバムの曲が始まったと思ったら、いつの間にか音楽が鳴り止んでいる。それは構成としてみれば、すべての収録曲が連曲となっていることが理由に挙げられるが、ここではエクリチュールによる解釈は大きな意味をなさない。聞き手が音楽に追いつかなかったのか、それとも音楽が聞き手の先を行っていたのか。そこまではわからない。けれど、少なくとも、音楽の実存を捉えようとした瞬間、音楽はいつの間にか終わってしまっている。情報量が過多になりがちな現代において、さらに喧騒の多い印象のある東欧において、リアリズムと距離を置いた音楽を制作することは、決して簡単ではないと思う。それは、ある意味では、制作者は現実的な価値とは別に「大切にすべき何か」を知っていると言える。しかし、翻ってみれば、現実的に喧騒が多い東欧の地域だからこそ、こういった静謐な音楽が生み出される余地があるとも言える。


 85/100

 

Interview 畠山地平(Chihei Hatakeyama)

  

Chihei Hatakeyama-Courtesy of The Artist


日本のアンビエント・プロデューサー、畠山地平さんは、2000年代から多作なミュージシャンとして活躍してきました。2006年には、米国、シカゴのレーベル、Kranky Recordsと契約を結び、デビュー・アルバム『Minima Moralia』をリリースしました。グリッチとアンビエントを融合させた画期的な音楽性で、多くのエレクトロニックファンを魅了するようになりました。

 

以後、独立レーベル”White Paddy Mountain”(Shopはこちら)を主宰し、リリースを行うようになった。その後、アーティストにとってのライフワークとも称せる三国志を題材にしたアンビエント作品『Void』を中心に現在も継続的にリリースを行っています。先日には、サウンドトラックとして発表された『Life Is Climbing』をリリースし、ライブやラジオ出演など、多岐にわたる活動を行っています。

 

5月12日より公開中の「ライフ・イズ・クライミング」の映画公式サイトはこちらからご覧下さい。

 

今回、改めて、Music Tribuneのインタビューでは、デビューからおよそ17年目を迎えるに際して、アーティストの人生、音楽との出会い、アンビエント制作を開始するようになったきっかけ、自主レーベルを主宰するようになった時のエピソード、昨年のUK,USのツアーに至るまで、網羅的にお話を伺っています。そこには笑いあり、涙ありの素晴らしいアーティストの人物像を伺うことが出来るはずです。ロング・インタビューの全容を読者の皆様にご紹介いたします。

 

 

Q1.


畠山さんは、ティム・ヘッカーが所属する名門レーベル、シカゴのKranky Recordsから2006年にデビューなさっています。これは、どういった経緯でデビューすることになったのか教えて下さい。また、現地のレーベルとのやりとりなどで、苦労したことなどはありましたか?


2001年か2002年に最初のノート型のmacを購入して、DTMを始めました。それまではDTMや打ち込みはそれほど経験がなく、(少しはシーケンサーなどでは遊んでいました)ほぼ手探り状態で作曲していました。当時はトリップホップという言葉もあって、Massive AttackとかBoards of CanadaやAutechreのような曲を作っていたんですね。その当時はビートも作ってました。


それがある時、ビートがあると、どうしても小節や拍に捉われてしまうので、もっと自由に曲が作りたいなと思って、ビートを無しにして作曲を初めて見たら、すごくしっくりきたんですね。それもあって今のような静かな曲を作るスタイルに変化していきました。

 

その後、ヴァリューシカというユニットを伊達伯欣と吉岡渉と3人で始めて、(これも今でいうとアンビエントにくくれるかもしれません。)ライブ活動や楽曲制作をしてました。同時にsoloでも作曲活動は続けていて、2006年くらいにはクランキーからリリースすることになる『Milimal Moraia』も完成していました。

 

それで、当時はとにかく海外からリリースしたいという気持ちが強かったので、いくつかのレーベルにdemoのCDRを送りました。その結果、クランキー(Kranky Records: シカゴに本拠を置くレーベル。クラブ・ミュージックからポスト・ロックまで幅広いカタログを有する)から返事があって、「ぜひリリースしましょう」とそういう流れだったんですね。

 

正直、英語は現在でもあまり得意ではないのですが、そのクランキーにdemoを送る時は、英語のすごくできる友人に協力してもらって、それは今考えると凄くありがたかったです。その友人もすぐに海外に引っ越してしまったので、運も良かったですね。


Q2.


アンビエント/ドローンというジャンルは、日本ではそれほど一般的なジャンルではないわけですが、このジャンルに興味をお持ちになったきっかけについて教えて下さい。

 

1997年に大学に入学して東京の大学に通うようになるのですが、当時はとにかく音楽バブルというか、下北沢のレコファンとかディスクユニオンとか、渋谷とか、新宿のレコ屋に今じゃ考えられないくらい人が沢山いて、自分もバイト代が入るとすぐCDとかレコードに突っ込んでしまうので、本当に金がなかったですね。借金してまでCDとかレコードとか買ってましたから。。。

 

それが今じゃ980円でネットで聞きたい放題ですからね。信じられません!! 話が外れてしまいましたが、それで色々と漁っているうちにジャーマンロック、CAN 、NEU!とかに出会って「これだ!」と思って、すぐに似たようなバンドを結成しました。

 

これは、OUI というバンド名で、NEU!にかなり影響受けてます。まあでも若かったので色々あって、中心メンバーだったはずの自分が抜けて、その後もOUI 自体は活動を続けていたようです。

 

しかし、こういう若い時のバンド活動のせいで、かなり人間不信に陥りました・・・。その前のバンドは新興宗教にハマるメンバーもいて、気付いたら自分だけが信者じゃなかったとか・・・、とにかく今考えるとバンド運なかったのか、性格が向いてなかったのか。。それで、当時も今なんですが、自分ではアンビエント/ドローンというジャンルではなくて、Rockの一形態としてアンビエント/ドローンというものを捉えていて、少しはRockミュージックでありたいとは自分では思っているのですが、リスナーがどう捉えてもそれは自由です。

 

アンビエント/ドローンに興味を持ったキッカケですが、90年は誰もアンビエントとは呼んでなくて、「チルアウト」と呼んでいたような気がします。もちろんアンビエントという言葉や、環境音楽という言葉については知っていたのですが、その当時はちょっと80年代はダサい雰囲気だったんです。
 

90年代の末に大学在学中に色々とアルバイトをしてたのですが、その一つに新大久保の”コンシャス・ドリームス”という凄く怪しいお香とか、何を売ってるんだがよくわからない店がありました。そこでは他のアルバイトのメンバーもほとんどみんな音楽をやっていて、インディーロックからラッパーまで色々いました。

 

そのお店の店長がトランス系のDJをやってたんですが、チルアウトのDJもやっていて店では90年代チルアウトを流していたんです。テクノの流れのサイケデリックなジャケットのものですね。それで、チルアウトもいいなぁということになって、よくイベントなど行くようになりました。

 

当時はまだ細野晴臣さんもアンビエントやってたのかどうか、定かではないのですが、細野晴臣さん絡みのイベントでMixmaster MorrisがDJをするイベントに遊びに行きました。そしたら凄い人が来ていて、音楽も素晴らしいし、感激しました。それがアンビエントとの最初の出会いかもしれませんね。

 

その後色々あったと思うのですが、最初にラップトップを買ったあたりで下北沢にONSA(編注: 2011年に実店舗は閉店したものの、現在はwebで営業中のようです)というレコード屋がオープンして、この店のセレクションがとても素晴らしくて、多分シスコで働いていたバイヤーの人が始めた店だと思うのですが、その店はエレクトロニカ、今で言うとアンビエントものが多くて、それでアンビエントの方に一気に流れた感じです。当時はフェネスとJim O’Rourkeが私のアイドルでした。そのお店で結局色々と買っているうちに、自分はビートのない静かな音楽が好きなんだなということに気付いて、どんどんハマって行ったという流れですね。


Q3.


また、高校時代にはメタリカ、スレイヤーなどスラッシュ・メタルに親しんでいたとのことですが、バンド時代のエピソードなどがあれば教えて下さい!!

 

中学生の時はサッカー部で、部活が終わるとテレビゲーム三昧でした。ドラクエ、三国志、信長の野望、ストリートファイターと、部活の休みの月曜日はゲームセンターとテレビゲーム黄金時代で、サッカーとテレビゲームの日々だったため、音楽はほとんど興味なくて、それでもテスト勉強用のBGMに何か聞きたいなぁ・・・と。

 

当時はBzとかZARDの全盛期だったんですが、音楽の明るさに全くついていけなくて、そんな時に小田和正のドラマの曲「ラブストーリーは突然に」を聞いて、「これだ!」と思って、それで小田和正のバンドのオフコースにハマってしまって、中学三年間はオフコースしか聞きませんでした。

 

今考えると、小田和正は70年代当時ライブでシンセに囲まれて歌っていて、プロフェットとか、ムーグとか、凄い良いシンセを使ってるんですね、楽曲も割と静かですし、その自分の原体験が現在のアンビエントに通じるものがあるのかもしれません。

 

それで高校に入学した時はサッカー部に最初入ろうと思ったのですが、どうも練習のレベルが中学生の時のレベルではないなぁ・・・と。かなりみんな本気で取り組んでましたので、二の足を踏んでしまって。。でも、これが運命の分かれ道だった。そんな時、クラスメートに「バンドやるから一緒にやらない?」って誘われて、ギターも持ってないし、どうしようと思ったんですが、特に他にやることも無いしと、バンドを始めました。最初は全くの消極的な理由なんです。


最初の1年間は他のメンバーの言うことを聞いて、BOØWYとかブルーハーツとかをコピーしてました。実はそんなに思い入れがなかったんですが…。でも、その軽音楽同好会に一人めちゃくちゃ凄い先輩がいて、その人はその後、山嵐(日本の伝説的なミクスチャーロックバンド。詳細はこちらより)というミクスチャーバンドでデビューして、中心メンバーとして今も活動してます。

 

その人は、洋楽に凄く詳しかったので、その影響で、メタリカとかのスラッシュ・メタルを聴くようになったんです。ギターの方は、ラーメン屋で半年くらいバイトして、なんとかお金をためて、今でも使ってるフライングVを10万円くらいで購入しました。そこのギター屋のマスターがレッド・ツェッペリンが大好きで、コピーバンドをやっていて。太ったジミー・ペイジのようなルックスのおじさんで面白かったんですが、その人の進めるままにフライングVを買ってしまったんです。が、これが大失敗だった..。なぜならフライングVは座って練習できないんです。

 

なので、2本持ってる人とかは、座って別のギターで練習して、ライブとか練習で、フライングVを弾けば良かったんですが、自分の場合はフライングVしかなかったので、ずっと立って練習していました..。でも、高校生の2年生の夏休みだけ、バイトもやめて、ひたすら朝起きで夜まで立って早弾きの練習をしていたら、それなりに弾けるようになったんです。今、考えると凄い。それでバンドメンバーに「もう邦楽はやめて、スラッシュ・メタルをやろう」と提案して、スラッシュ・メタルを演奏するようになりました。バンドメンバー全員で、パンテラのライブに行けたのが、最高の思い出です。会場は幕張メッセだったんですが、ギターとドラムの音がやたら大きくて、ヴォーカルの声がぜんぜん聞こえない。それでも会場は沸騰したヤカンみたいになっていて、音のバランスなんでどうでもいいんだと変なことを学んでしまいました。。


Q4.


以前、他のインタビューでエリック・サティについて言及しているのを読んだ記憶があるんですが、特にアンビエントに関して、影響を受けたアーティストを教えて下さい。ジャンルは電子音楽ではなくても構いません。また、そのミュージシャンのどういった点に触発されたり、影響を受けたのかについてもお伺いしたいです。

 

クリスティアン・フェネスやジム・オルークにも影響を受けたんですが、今回はブライアン ・イーノからの影響を考えてみます。

 

2010年前後から、アンビエント/ドローンというジャンルを意識するようになりました。それまでは、先ほど申し上げたようにあえて、Rockミュージックの一形態、もしくはエレクトロニカ、ポストロックの一形態ということで、自分の音楽を捉えていたのですが、2000年代後半くらいから、アンビエントやドローンというキーワードが浮上してきたように思います。

 

それまではあえてブライアン ・イーノを聴くことを避けて来ました、それはあまり有名すぎて、強烈なので、真似してしまうんじゃないかと不安だったからです。それでもちゃんと一回向き合おうと思って、ほとんど全作品を一度に購入して、聞きました。

 

その結果、一番好きなアルバムは『アポロ』ということが分かりました。その作品からの1番の影響はストーリー性かもしれません。アルバム1枚の流れの美しさというか、アンビエントでも曲調が豊富で、楽器の数も多い。アンビエント・シリーズ(編注: ブライアン・イーノとハロルド・バットとの共作のこと)だとミニマルなものが多かったので、とても斬新でした。あと、シンセの使い方ですね。音色の使い方から、レイヤーの方法など、具体的なこともブライアンから研究しました。そのあたりの影響が自分の作品では『Forgotten Hill』に出ていると思います。




Q5.


畠山地平さんは非常に多作な作曲家だと思っています。2006年からほとんど大きなブランクもなく、作品をリリースしつづけています。これはほとんど驚異的なことのようにも思えます。畠山地平さんにとってクリエイティビティの源はどこにあるんでしょうか?

 

これまた中学生の時のエピソードに戻ってしまって申し訳ないのですが、その当時テレビ番組で、関口宏の『知ってるつもり』(日本テレビ系列で1989年から2002年まで放映されていた教養番組。関口宏がホスト役を務めた)というものがありまして、好きで、よく見ていたんです。ある回で、種田山頭火のことが取り上げられたんです。それで、種田山頭火(大正、昭和初期の俳人。季語や5・7・5の定型句を無視した前衛的な作風で知られる)の芸術に対する生き方というのものに衝撃を受けて、「これだ!」と思ったんですね。それで自分も旅をしながら詩を書いて生きようと思ったんですが。。言葉が出てこない。。でも、そういう生き方もあるんだなと勉強になりました。それでもミュージシャンなら、ツアーしながら、生活もできるので、似たようなポジションかなと思って..今も続けてるという面もありますが。。


また、別の側面から行くと、とにかく曲を作るのが楽しいというのが一番最初にあります。特に自分の場合はインプロヴィゼーションで、ガーと一気に録音するんですが、その時が一番楽しい。

 

ポストプロダクションやミックスは最近飽きてしまってる面もあるというか、少し辛くもあるんです。でも作曲の最初の段階、インプロヴィーションの段階は自由ですから、今日はどんな曲が出来てくるのかなと自分でもワクワクするっていうか、そういう面もあります。常にスタジオでギターを持って、音を出せば未知のものが出てくるので、そりゃ楽しいよなと、そういう感じなんです。

 

で、最初の話に繋げると、その日の気分で、詩を書くように音楽をやっているそういう感じなんですね。


Q6.


畠山さんは東京と藤沢にルーツを持つようです。幼少期はどういった人物でしたか? また以後、長く音楽に親しむようになった思い出がありましたら教えて下さい。

 

小学生の時は外で遊ぶのが大好きでした、ほとんど野外ですね。藤沢でも六会日大前という駅名なのですが、日大がありまして、それが農業系の学部があったんです。その関係で、ほとんどが日大の土地なんですが、未開の森とかも残されていて、本当に面白かったです。

 

森への冒険は人が誰もいないので、もちろん入ったら、大人に怒られるんです。なので、友達を誘っても一緒に来てくれなかった。なので、一人で森の奥まで冒険に行ってました。。今考えると恐ろしく危険でした。手付かずの川も流れてるし、かなりヤバイです。あと線路の上で遊びたくなっちゃって、線路の上で遊んでいたら、警察官に補導されたんです。今考えると尋常じゃなかった。

 

あとは日大の土地に秘密基地を作っていたんですが、小学生も高学年になると物凄い高度な基地になってしまい、家具とかもゴミの日に全部拾ってきて、家みたいになっちゃって。そういう基地を2個か3個作ったんですね。友人というか手の器用なやつを集めて。。

 

そしたら、だんだん噂になって来て、その基地の奪い合いの喧嘩騒動に発展してしまったり。後は最初は基地は木を利用して作っていたんですが、目立つので、地下に作ろうと思って、物凄く大きな穴を掘って基地を作ったんです。それが何故か大人に見つかって、泣く泣く埋め戻しました。

 

幼少期はほとんど音楽に触れる機会はなくて、楽器を始めたのは、高校生になってからでした。ですが、現在に繋がるという視点で行くと物作りと一緒なんです。創造的なエネルギーというか、とにかく基地を作るということに全力投球でしたね。




Q7. 

 

昨年のUSツアーに関してご質問致します。3月、4月に、シアトル、ニューヨーク、クリーブランド、デンバー、ポートランド、また、一度帰国してから、5月に、ロサンゼルス、シカゴ、ミネアポリスでツアーを開催なさっています。


ほとんど全米ツアーに近い大規模なライブスケジュールを組まれたわけですが、これはどういった経緯でツアーが実現したのでしょう? USツアー時、特に印象深かった土地や出来事等はありましたか? また、畠山さんの音楽に対する現地のファンの反応はいかがだったでしょう?

 

 

2019年頃に今のツアーマネジャーと契約して、彼はアメリカ人なのですが、本当は2020年にUSツアーや、ヨーロッパツアーをするつもりだったんですが、コロナのパンデミックで全てキャンセルになりました。それで、改めて去年アメリカツアーを開催すること出来ました。

 

アメリカで”Ambient Church(アンビエント・チャーチ)”という教会でアンビエントのライブをするイベントがあるのですが、それがメインでした。ニューヨークでは、1000人くらい入る教会だったような気がします。現地のファンは静かに聞いてくれます。それが1番有難かったです。やはり静かな音楽なので..、反応とかは分からないんです。

 

ただアメリカは物販は物凄く動くので、お金の使い方は派手です。初回のコンサートの本番前に日本から持っていたレコードが売り切れて、驚きました。CDは手元に残りましたが..。それで、現地のディストリュビューターやレーベルに協力してもらい、急遽レコードを掻き集めて、ライブ会場に直接送ったりしてなんとかしました。

 

初めて海外旅行に行った街がニューヨークだったので、それが一番感慨深かったというか、24年振りだったので、全部の印象が変わっていたという感じでした。。でも、いつかこの街でライブをしたいな、とその当時思ったので、その夢が叶うのに24年もかかりました。でも、24年待った甲斐があったというか、凄く複雑な感情でした、時が逆再生されているような感覚というか。。またロサンゼルスは初めて行ったのですが、気候も凄くいいし、今にも折れそうな椰子の木が街中に植えてあって、景観も最高でした。




Q8.


続きまして、先日のイギリスツアーに関してご質問します。ロンドンなど、現地の観客の畠山さんの音楽に対する反応は、昨年のアメリカ・ツアーと比べていかがでしたか? またライブ開催時に現地のファンとの交流において印象深かった出来事などありましたら教えて下さい。

 

イギリスの観客も静かに熱心に聞いてくれるので、とても有難いです。今回の会場は多分400人くらいの規模だったと思うのですが、ステージも含めて、電気の関係なのか、暖房設備がなくて、とても寒かったです。そのため、仕方なくコートを着てライブをしました。60分の演奏予定だったのですが、実際は75分くらい演奏してしまって..。スタートの時間を勘違いしていたんです。自分でもなんか長いかな、と思ってたんですが…。最近、このパターンが多いんです。物販はアメリカに比べるとそこまで動かないです。イギリスとアメリカでここまで違うのかと、かなり興味深いですね。




Q9.


また、イギリスのツアーの際、物価の高騰に関して、ツイッターでつぶやかれていました。これに関して日本とイギリスの生活スタイルの相違など驚いたことがありましたら教えて下さい。

 

元々、失われた20年のなかで日本だけが、デフレ傾向だったところに円安が加わってどうにも信じられないくらい物価高いというイメージです。

 

基本的には、ラーメン一杯3000円くらいで、チップとかまともに払ったら、もっと行くでしょう。世話になった人に気軽にラーメンを奢って、ビールを一杯飲んだだけなのですが、あとでクレジットカードの明細見たら一万円超えになっていたので、これではマトモに機能しないな、と。

 

また、アメリカで泊めてくれた友人に家賃を聞いたら「6000ドルだ」と言ってまして…、日本円にしたら80万くらいですか…。でも、その人も夫婦共働きで暮らしていて、給料もお互い6000ドルくらいな感じのことを言ってましたが…。イギリスのツアーは結局、自分も派手に飲んだり食べたり、遊んでしまったので、大分赤字でした。ギャラは結構好条件だったんですが…。


でも、もうツアー行ったら思いっきり楽しんじゃった方がいいかなと、人生も半分終わってしまったので、ギリギリツアーは、肉体的にも精神的にも辛い。若い頃はそれでオーケーだと思うんですが、機材も重いし、ダニに噛まれながら、ボロボロのゲストハウスで、出稼ぎの人の騒ぎ声で夜も眠れないツアーはかなり厳しいです。それも今では良い思い出となっているんですが…。



Q10.


よく知人などから、外国にいくと、日本食が恋しくなるという話を聞くんですが、その点、いかがでしたか?

 

そうですね、自分の場合はラーメンも含めて中華料理が恋しくなってしまうんです。チャーハンとか焼きそばとか、でも中華料理は今のところどこの国も大体クオリティが良くて安い。なので、結構良さそうな中華料理屋を探します。あとは毎回外食だとこれまた金が持たないので、カップラーメンとかツアーに持って行くといいです。ペヤングを向こうのホテルで食べると半分は懐くしくて感動しますが、半分は虚しさも残ります。その複雑な感情がなんともいいんですね。

 

シカゴで暇だった日にカップラーメンを探す散歩に出かけたのですが、なかなか美味しそうなものが見つからなくて、それで半日くらい費やしましたが、贅沢な時間だったなと、日本にいたら仕事に追われて、半日も無駄に出来ませんから。

 

日本食という寿司かなとも思うんですが、寿司は高級なので、食べれませんね。。イギリスでは''wasabi''という日本食のファストフードみたいな店があって、そこの寿司巻物は何回か食べました。



Q11.


以前からプレミアリーグのファンであると伺っています。いつくらいからプレミアに興味を持つようになったんでしょうか? またお気に入りのチーム、選手、またフットボールなどについて教えてください。

 

プレミアリーグだけでなく、ラ・リーガやセリエA、CLもチェックしています。現在はかなりのサッカーフリークになってしまっていて….プレミアリーグはアーセナルのファンです。2003-04の無敗優勝の前のシーズンから少しずつ観るようになって、当時のアーセナルのサッカーは美ししすぎて、本当に衝撃でした。。以来、アーセナルを追ってます。セリエAではインテルが好きなんですが。。

 

こちらは元会長のモラッティさんのファンという形で今も試合を追ってますね。アーセナルはでも無敗優勝以来優勝できてなくて、プレミアにはモウリーニョから始まって、ペップ、クロップなど、どんどん素晴らしい監督が集まってきて、それでもヴェンゲルさんのサッカーは最後までブレずに見ていて楽しい試合が多かったです。勝ち負けはともかく。。激動は18-19シーズンのエメリ監督就任からですかね。。全然勝てないし、サッカーも面白くないと、まずいまずいと思ってるうちに、どんどん不味くなっていて。。こっちの気分も最悪に落ち込みました。

 

ヴェンゲルさんの時はそれでもサッカーが面白かったんで。。それでアルテタ監督がやってきたのですが、21-22シーズンからやっと少し上昇気流で、今シーズンも大半の時期は首位だったんですが、最後にシティに抜かれて。またこれかと、アーセナルを応援しているとどうしてもネガティブな予想をしてしまうんですが、ぬか喜びしないために・・・。

 

今シーズンもまさにその展開でした。でも昨シーズンは5位だったわけで今シーズンは2位ですから、そんなにうまく行くはずないとは思いながらも来シーズンは優勝の期待大と思いたいです。

 

サッカーと音楽の共通点があるとすれば、感覚とロジックの鬩ぎ合いだと思っています。どちらも音楽理論や戦術など、ロジックな要素をベースにしつつも、最後は感覚の問題なんですね。瞬間に何が出来るか、時の流れの早さが変わります。その時の流れが通常の速さからゆっくりした流れに変わった瞬間をどう捉えるのか。サッカーをプレイするのと、楽器を演奏するのは共通点が多い気がします。なので、サッカーを観ながら、いつも音楽の作曲の参考にしてます。

 

その観点から行くとペップ・グアルディオラには本当に感銘を受けます。この10年間くらいのサッカーの戦術の流行の源流は間違いなく彼が作っていますから、日本を含め世界中で真似されています。それでも今シーズンも偽センターバックなど、新しい戦術を開発してしまって脱帽です。




Q12.


畠山さんのリリースの中で連作『Void』があります。この作品はある意味、ご自身のライフワークのような作品に位置づけられるように思えます。この作品を制作を思い立ったきっかけなどについて教えて下さい。また、この連作は現在「ⅩⅩⅤ」まで続いていますが、どれくらいまで続けるか想定していますか?

 

 
『Void』シリーズは最初はBandcampを始めるあたって、ライブの録音や未発表曲を纏めたものをリリースしていました。当初からデジタル・オンリーという位置づけでした。フィジカルを想定したものだと、こちらもかなり力が入ってしまうため、そうではないものが、いい意味で力の抜けたものがあってもいいかな、と。それと作り手の私の主観で素晴らしいと思ってもリスナーにとってはそうでもないというケースや逆のケースもあることに、このシリーズで気付きました。

 

そうやって何作品かリリースしているうちに、このシリーズの人気が出てきて、だんだんと新作の発表の場に変化していき、『Void 22』は勢い余ってCDでもリリースしてしまいました。。『23』からはまたデジタルに戻る予定ですが..。ちょっとブレてしまった。。今も『26』を準備しているところです。30くらいまで続けたいなと思ってるんですが、最近はペースが落ちていますね。。



Q13.


2010年からご自身のレーベル”White Paddy Mountain”を主宰なさっています。このレーベルを立ち上げた理由をお聞かせ下さい。さらに、どういったコンセプトを持ってレーベル運営をなさっているんでしょうか? またオススメのアーティストがいましたら教えて下さい

 

2010年くらいまでは会社員だったんです。実に自由な会社で、働き手にとっては素晴らしい会社でした。

 

給料は安かったんですが…、創作活動と並行して会社員を続けることが出来たんです。でもだんだん在籍していても、何の成果もないので、だんだんと場所が窓際に近づいて行くのを感じてました。。

 

業務としては社長の個人的な音楽レーベルのスタッフという位置付けで、社長の決めたリリースの営業やら広報を担当するという内容でした。入社した時から若干怪しいなと思ったんですが、社長のリリースする作品が全然売れないんです。

 

その当時はまだCDの全盛期で、他のCDは結構売れてました。それで、社長も他の業種に目がいったのか、遂に映画製作などにも手を出してしまい、自分はその映画の広告担当になったんです。でも映画の広告なんて経験もないしうまく行くはずもなく、壮大にコケました。あの一年は本当に全員狂った季節でした。会社として大金を投資したので、公開2日目に映画館に視察に行ったらお客さんが一人(!!)という始末でした。あの時の気持ちは生涯忘れられません。情けなさと怒りと、とにかく感情が渦巻いていました。

 

新宿の空に真っ黒な雲が垂れ下がっていて、歌舞伎町の風が冷たかったです。切腹ものでしたね。。そんな感じで最後は責任取らされるじゃないですけど、社長も冷たい塩対応になってしまって…。その時30代の半ばぐらいだったかな。。このままじゃまずいぞと思って、独立して自分レーベルやってみようと、そんな感じで始めました。しかし最初の一年は大赤字で貯金が全部吹っ飛びました。気持ちいいくらいに。


シュゲイザーやインディーロックなどをリリースしつつ、アンビエントもリリースするというスタンスでスタートしたのですが、シュゲイザーやインディーロックはそこそこ売れたんですが、アンビエントやエクスペリメンタルが全然うれなくて、回ってないと実感していたんですが..、最後は野外イベントで壮大に大金を飲み代に使って、持ち金をゼロにして、背水の陣で反転攻勢に転じました。

 

そこからはう少しはまく回り始めたんですよね。まあ、とにかくその当時はレーベル業務に全力投入という感じで、プチビジネスマンでした。新人発掘も大変でした。良いアーティストの噂を聞いてはライブハウスに見にいって声かけたりと、凄いエネルギーでした。そんな時、satomimagaeさんに出会って、この子は本物だと思い、素晴らしい未来が見えました。satomimagaeさんはWPMに2本の作品を残してくれて、今はアメリカのRVNG所属のアーティストになっています。

 

satomimagae、Shelling、family Basikなどがオススメです。アンビエント系は自分がセレクトしたので、良いはずです。。そうしてるうちに、パンデミックがやってきて、少しレーベルを休んでいたら、自分のスタンスも変わってきて、今は自分の作品を出しているだけという状態になってます。しかしパンデミックも終わったので、またリリース活動を再開したいとは思ってますね。


Q14.


もちろん、畠山地平さんの作品は必ずしもアンビエント/ドローンだけでは一括出来ないように思います。ジャズに関してもお詳しいと聞きます。しかし、2007年からこのジャンルにこだわりを持ってきたのは理由があるのでしょうか? また、電子音楽やアンビエントを作っていて良かったと思うような瞬間があったら教えて下さい。
 

自分の中ではこだわりを持ってきたというよりは時の流れが早すぎて、自分の聞きたい音楽を作っていたら時間が経過していた、みたいな気持ちなんですね。この電子音楽やアンビエントというのも自由なジャンルなんで、アイデアは次から次へと出てくると、そういう感じなんです。

 

一つ父親からの忠告かアドヴァイスか、分からないですが、『芸術家は山師と同じだ、一度そこ場所を掘ると決めたら、宝が出てくるまで掘り続けなければならない』そういう事を言われまして、とにかく一度アンビエントを始めた以上最後まで掘り続けようという気持ちでここまで来ました。

 

ただ2008年〜2011年の間には「Luis Nanook」という歌物のユニットで活動しておりまして、私は作曲とかミックス、ギターなどをやって、もう一人ヴォーカル、作曲、ギター担当の二人で活動していました。

 

でも!レーベルからCDをリリースするようになったら、そのヴォーカルが変わってしまって、凄い良い性格の人だったんですが、多分売れないといけないというプレッシャーが強すぎたんでしょう。1枚目はアンビエントだったんですが、2枚目でビートルズみたいな曲を作ってきたので、ビックリしました。色々あって活動停止しました。そういう経験もあって、ブレずに電子音楽やアンビエントを続けようと思った。それでも今はまた、静かな歌物を作りたい気持ちはあります。

 

電子音楽やアンビエントを作っていて良かったのはファンレターで、「すごく寝れるようになった」というメールが多いんです。そういう時は本当に人の役に立ったなと。自分も不眠症で寝れない辛さは本当によく分かりますから。



Q15.

 
畠山さんは、ギター、エフェクター、録音機材など、かなり多数の機材をお持ちのようですね。例えば、同じようなギターを主体にしたアンビエントのプロデューサーにはクリスティアン・フェネスなどがいますが、正直、畠山さんのサウンドは他にないような独特なものであるように感じます。ギターや作品のサウンドの作り込みに関して、独自のこだわりがありましたら教えて下さい。また、実際の音源制作に際して、試行錯誤する点などがありましたら教えて下さい。

 
 

機材は好きで集めてるうちにだんだんと自然に溜まってきたという感じです。作曲というか楽曲制作のこだわりは、常にスタジオで、電源を入れたら音が出るような状態をキープする事ですね。思いついた時にすぐに音を出せるのが一番いいです。

 

また、作曲をする時間帯ですね。朝は夜が明けるまでの4時から7時くらい、夕方も4時から8時くらいまで、この昼と夜の変化する時間帯、つまり、この時間に作曲された曲がいいのが多いです。この時間帯に創作意欲が湧くんです。サッカーは夜遅くとか不便な時間に行われるので、自分も全く不規則な生活になってしまって、それでも、朝の4時から7時というのは、そんなに出来ないです。ごくたまに朝方になる時があって、そういう時はその時間帯がいいですね。

 

ほとんどの曲はボツになって永遠に日の目を見ないと思うのですが、良い曲に関しては共通項があって、ほとんどその曲にまつわる記憶がないというのがあります。どういった状況で作ったのか、どうしてそのアイデアに行き着いたのか等、そういう曲についても本来覚えているはずの情報や記憶が全くない曲が、たまに紛れてしまっているんです。そういう曲はすごく良かったりします。



Q16.



デビュー作『Milimal Moraia』のリリースからおよそ17年が経ちました。あらためてご自身のキャリアを最初期を振り返ってみて、2006年と2023年、ご自身の制作に関して、あるいは、ミュージシャンとしての心境の変化はありましたか?

 

2006年当時は右も左も分からずにガムシャラに暗闇に突っ込んでる感覚でしたが、最近は一応道が分かりつつ、懐中電灯を持って歩いているくらいの感覚でしょうか。それでも少し先しか見えないです。相変わらず暗闇の中を歩いている感じはある。今後はこれまでのアンビエントのベースを活かしつつ、コラボレーションなどを通じて、音楽の幅を広げたいという心境になりました。



最後の質問です。




Q17.



まだイギリスツアーから帰国したばかりですが、今後の新作のリリース、公演の予定などがありましたら、可能な限りで構いませんので教えて下さい。

 

5/12からサウンドトラックを手掛けた映画『ライフ・イズ・クライミング!』が公開されています。CDも発売されました。また今年の11月にはポーランドでフェスに出演しますので、そのタイミングで小規模なツアーが出来ればと思っております。


インタビューにお答えいただき、本当にありがとうございました。




大森日向子がニューシングル「in full bloom」をリリースしました。ロンドンを拠点に活動する彼女にとって、昨年のデビューアルバム『a journey...』のリリース以来、初の新曲となります。下記よりお聴きください。


「"in full bloom "は、自分自身を愛し、慈しむことを忘れないための内省の歌です」と大森は説明します。

 

「ピッチフォークが昨年のピッチフォーク・ロンドン・フェスティバルの前にセッションをアレンジしてくれて、その日を利用して何かに取り組むことができました。私が家で作っていたデモを持ち込んで、ボーカル、ピアノ、追加のシンセサイザーを録音しました。そこでトラックを仕上げることができたのは、とても良い機会でした」


Gia Margaret

 

シカゴ出身のピアニスト/アーティスト、ジア・マーガレットは、2018年に発表した素晴らしいデビュー作『There's Always Glimmer』に続いて、ちょっと意外な作品をjagujaguwarから発表した。


これは『Glimmer』のリリースとその後の成功後、ジアの人生における試練の時期から生まれた美しく瞑想的で癒しのアンビエント・アルバムです。病気で1年近く歌えなくなり、ツアーもキャンセルせざるを得なくなったジア・マーガレットは、シンセとピアノを中心とする、さまざまなファウンドサウンドやフィールドレコーディングを加えたインストゥルメンタル曲を、セラピーとしての音楽実験のような形で作り始めた。


「これらの作曲は、音楽制作者としてのアイデンティティを保つのに役立ちました」とジアは説明している。「時にはこの音楽は、セラピーや他の何かよりも、私の不安を和らげてくれた...。私は希望が持てるようなものを作りたかったんだけど、このプロセス全体において私は本質的に絶望感を感じていたからちょっと皮肉ね。私は自己鎮静のために音楽を作っていたのです」


その結果、光り輝く、温かく感情的で、穏やかなカタルシスをもたらす曲のコレクションは、ジア自身の自己治癒の旅を楽にしてくれ、私たちがこの怖い不確かな時代を乗り切ろうとするとき、新たなレベルの親近感と重みを帯びてくる。「私の人生の中で、完全に忘れてしまいたいような、本当に奇妙な時期の感覚をとらえたかったのです」と彼女は言った。「このプロセスは、私自身について何かをより深く理解するのに役立ちました」これは「悪夢の追体験のようだった」と回想する数年前の出来事から完全に立ち直るためには是非とも必要な事だったのだ。


「ロマンティック・ピアノ」は、エリック・サティ、エマホイ・ツェゲ・マリアム・ゲブロウ、高木正勝の「Marginalia」などに通じるものがあると説明されている。「ロマンティック」はドイツの古典的な意味を示唆し、その構成は、ロマン派の詩人たちの崇高なテーマ、自然の中での孤独、自然がもたらす癒しや教え、満足感に満ちたメランコリーなどを想起させるものがある。


「結局は、人の役に立つ音楽を作りたかったのです」とマーガレットは言い、このレコードの魅力を表現している。「ロマンティック・ピアノ」は好奇心旺盛で、落ち着きがあり、忍耐強く、信じられないほど感動的である。しかし、1秒たりとも曲を長引かせ、冗長に陥らせることはない。


デビュー作「There's Always Glimmer」もまた叙情的で素晴らしい内容だったが、ツアー中の病気で歌えなくなり、アンビエントアルバム「Mia Gargaret」を制作したところ、「There's Always Glimmer」の叙情的な曲では発揮しきれなかったアレンジや作曲に対する鋭い直感が現れた。


同様に「Romantic Piano」もほとんど言葉がない。「インストゥルメンタル・ミュージックの作曲は、一般的に、叙情的な曲作りよりもずっと楽しいプロセスです」と、彼女は言う。「そのプロセスが最終的に私の曲作りに影響を与える」そして、マーガレットにはもっとソングライター的な作品がある一方で、「Romantic Piano」は彼女を作曲家として確固たるものにしている。


幼少期からピアノを演奏しており、当初は作曲の学位を取得しようとしていたマーガレットだったが、音楽学校を途中で退学する。この時期について、「オーケストラで演奏するのが嫌で、映画音楽を書きたかった。そして、ソングライターになることに集中するようになった」と語っている。その後、ジア・マーガレットは録音を行い、youtubeを通じて自分のボーカルを公開するようになる。当初はbandcampで作品の発表していたが、その成果は「Dark & Joy」で実を結んだ。以後の「There's Always Glimmer」からは自らの性質を見据え、本格的な作品制作に取り掛かるようになる。近年は、より静謐で没入感のあるアンビエントに近い作風に転じている。

 

 

『Romantic Piano』jagujaguwar

 

ツアー中の病により、治癒の経過とともに発表された前作アルバム『Mia Margaret』は、オープナーのバッハへの『平均律クラヴィーア』の最初の前奏曲のオマージュを見ても分かる通り、シンセを通じたクラシカルミュージックへのアプローチや、フィールド・レコーディング、ボーカルのサンプリングを織り交ぜたエレクトロニカ作品に彼女は取り組むことになった。制作者は、この音楽について、”スリープ・ロック”と称しているというが、電子音楽を用いたスロウコア/サッドコアや、オルタナティブ・フォーク、ポピュラーミュージックの範疇に属していた。

 

そして、今回のアルバムでも、そのアプローチが継続しているが、今作は、アコースティクピアノという楽器とその演奏が主役にあり、その要素がないわけではないにしても、シンセ、アコースティックギター、(他者のボーカルのサンプリング)が補佐的な役割を果たしている。そして前作アルバムと同じように、制作者自身のボーカルが一曲だけ控えめに収録されている。

 

このアルバム全体には、鳥の声、雨、風、木の音といった、人間と自然との調和に焦点を絞ったフィールド・レコーディングが全体に視覚的な効果を交え、音楽の持つ安らいだムードを上手に引き立てている。アルバムの制作段階で、制作者はピアノを用い、(まずはじめに楽譜を書いて)、その計画に沿って演奏するという形でレコーディングが行われた。前作のアルバムは、最初にボーカリストとしてのキャリアを始めた彼女が立ち直るために制作されたと推測出来る。しかし、二作目で既にその遅れを取り戻すというような考えは立ち消え、より建設的な音楽としてアルバムは組み上げられた。それは制作者が語るように、「人の役に立つ」という明確な目的により、緻密に構築されていった作品である。それはもちろん、制作者自身にとっても有益であるばかりか、この音楽に触れる人々にも小さな喜びを授けることになるだろう。言い換えれば、氾濫しすぎたせいで見えづらくなった音楽の本当の魅力に迫った一作なのである。

 

人間と自然の調和というのは何なのだろう。そもそも、それは極論を言えば、人間が自然を倣い、自然と同じ生き方をするということだ。ある種の行動にせよ、考えにせよ、また長いライフプランにせよ、背伸びをせず、行動はその時点の状況に沿ったものであり、無理がないものである。例えば、それは木の成長をみれば分かる。木は背伸びをしない。その時々の状況に沿って、着実に成長していく。苗が大木になる日を夢見ることはない。なぜなら他の木と同じように、大きな勇ましい幹を持つ大木に成長することを、彼らは最初から知っているではないか。それと同じように、この回復の途上にある二作目のアルバムの何が素晴らしいのかと言えば、音楽に無理がなく、そして、音の配置の仕方に苦悩がないわけではないというのに、制作者はそれに焦らず、ちっとも背伸びをしようとしていないことなのである。これが端的に言えば、「Romantic Piano」に触れる音楽ファンに安らいだ気持ちを与える理由である。はじめに明確な主題があり、そして計画があり、それに準拠することにより、 ささやかな音楽の主題の芽吹きを通じ、創造という名の植物が健やかに生育していく過程を確認することが出来るのである。


「Hinoki Woods」


自然との調和という形はオープナーである「Hinoki Wood」に明確に表れている。シンセサイザーを用いた神秘的なイントロから音楽が定まっている。制作者は、予め決めていたかのように、緩やかで伸びやか、そして情感を込めたピアノ曲を展開させる。ピアノの音のプロダクションは、レーベルが説明するように日本のモダンクラシカルシーンで名高い高木正勝の音作りにも近似する。加えて、徹底して調和的なアンビエント風のシンセがその音の持つ温もりをより艷やかなものとしている。そして聴き始めるまもなく、あっという間に終了してしまうのである。

 

すべての収録曲が平均二分にも満たない細やかな作品集は、このようにして幕を開ける。そして、なにか得難いものを探しあぐねるかのように、聞き手はこの作品の持つピアノの世界へと注意を引きつけられ、その世界の深層の領域へと足を踏み入れていくことを促されるのである。そして二曲目の「Ways of Seeking」では、より視覚的な効果を交えたロマンティックな世界観が繰り広げられていくことになる。


二曲目では、足元の土や葉を踏みしめる足音のサンプリングが聞き手の興味を駆り立て、前曲と同様、シンセサイザーの連続した音色と合わさるようにして、ロマンティックなピアノが切なげな音の構図を少しずつ組み立てていく。ピアノのフレーズは情感に溢れ、ドビュッシーのような抽象的な響きを持つ。催眠的なシンセは、そのピアノのフレーズの印象を強め、それまでに存在しなかった神秘的な扉を静かに押し開き、フレーズが紡がれるうち、はてしない奥深い世界へと入り込んでいく。また、例えれば、茫漠とした森の中にひとり踏み入れていくかのような不可思議なサウンドスケープが貫かれている。ピアノとシンセの合間には高い音域のシンセの響きが取り入れられ、視覚的な効果を高め、聞き手の情感深くにそれらの音がじっくり染み渡っていくかのようである。

 

その後も素朴で静かなピアノ曲が続く。「Cicadas」では、Peter Broderick(ピーター・ブロデリック)のピアノ曲のように抽象的でありながら穏やかな音の構成を楽しむことが出来る。ピアノの音は凛とした輝きを持ち、建築学の構造学的な興味を駆り立てるような一曲である。もちろん、言わずもがな、ロマン派としての情感は前曲に続いて引き継がれている。イントロに自然の中に潜む虫の音のサンプリングを取り入れ、情景的な構造を呼び覚ます。まるで前の曲と一転して夜の神秘的な森の中をさまようかのように、それらの静かな雰囲気は、ジア・マーガレットの悩まし気なピアノの演奏によって引き上げられていく。そして、ひとつずつ音符を吟味し、その音響性を確認するかのように、それらの音符を縦向きの和音として、あるいはまた横向きの旋律として、細糸を編みこむかのようにやさしく丹念に紡いでいく。そしてそれはボーカルこそないのだが、ピアノを通じて物語を語りかけるような温和さに満ちているのである。

 

その後の2曲は、澄明な輝きと健やかな気風に彩られた静謐なピアノ曲という形で続いていく。「Juno」はアルバムの中で最もアンビエントに近い楽曲であり、自然との調和という感覚が色濃く反映されている。ジア・マーガレットはシンプルでおだやかな伴奏を通じて、「間」を活かし、その休符にある沈黙と音によって静かな対話を繰り返すかのようでもある。そして、禅の間という観念を通じて、自らそれをひとつの[体験]として理解し、その間の構造を介して、一つの緩やかな音のサウンドスケープを構成していく。


曲の後半部では、シンセのサウンドスケープを用いることにより、微笑ましいような情感が呼び覚まされ、聞き手は同じように、その安らいだ感覚に釣り込まれることになるだろう。さらに続く、「A Strech」は、日本の小瀬村晶に近い繊細な質感を持った曲であり、日常の細やかな出来事や思いを親しみやすいピアノ曲に織りこもうとしている。分散和音を基調にしたピアノの演奏の途中から金管/木管楽器の長いレガートを組みあわせることで、ニュージャズに近い前衛的かつ刺激的な展開へと繋がる。


「A Stretch」

 


前作のアルバムと同じように、ボーカル入りのトラック「City Song」が本作には一曲だけ控えめに収録されている。しかし、タイトルにもある通り、アルバムの中では最も都会的な質感を持ち合わせ、そして他にボーカル曲が収録されていないこともあってか、全体を俯瞰してみた際、この曲は力強いインパンクトを放っている。



アルバムの前半部と同様、ピアノの伴奏を通じて、ジア・マーガレット自身がボーカルを取っているが、オルトフォーク/アンビエントフォークのようなアプローチを取り、古びたものをほとんど感じさせない。ジア・マーガレットのボーカルは、Grouperことリズ・ハリスのように内省的で、ほのかな暗鬱さを漂わせる。不思議とその歌声は心に染み渡ってくるが、しっかりと歌声に歌手の感情が乗り移り、それらが完全に一体化しているからこそ、こういったことが起こりうるのだ。当たり前ではあるが、歌を歌う時に言葉とは別のことを考えていたら、聞き手の心を捉えることは不可能である。これはシンガーソングライターとして声を失った経験が、彼女にその言葉の重み、そして、言葉の本当の意義を気づかせるに至ったのではないだろうかと推察される。

 

「Sitting Piano」はアルバムの中で間奏曲のような意味を持ち、米国のモダンクラシカルシーンで活躍するRachel Grime(元Rachel's)のピアノ曲を彷彿とさせる。例えば、20世紀のモノクロ時代の映画のサウンドトラックの要素が取り入れられ、それが製作者の一瞬のひらめきを具現化するような形で現れる。前半部と後半部を連結させる働きを持つが、おしゃれな響きを持ち合わせ、聴いていて、気持ちが沸き立つような一曲となっている。続いて、アルバムの中で唯一、ジア・マーガレットがギターを通してオルトフォークに取り組んだのが「Guitar Piece」である。

 

ここでは、黄昏の憂いのような雰囲気があらわされ、それがふと切ない気持ちを沸き起こらせる。シンプルなアルペジオで始まるアコースティックギターは途中で複雑な和音を経る。英語ではよく”脆弱性”とも称される繊細で切ない感覚は、レイヤーとして導入されるアンビエントのシンセパッドとピアノの装飾的なフレーズにより複雑な情感に導かれる。内省的で瞑想的な雰囲気に満ちているが、その奇妙な感覚は聞き手の心に染み入り、温かな感覚を授けてくれる。


「La langue de l'amitie」では、モダンクラシカルとエレクトロニカの融合が試みられる。基本的には、アルバムの他の収録曲のようにシンプルなピアノ曲ではあるが、トラックの背後にクラブ・ミュージックに代表される強いビートとグルーブ感を加味することで、クラシカルともエレクトロともつかない奇異な音楽が作り出される。


ここではローファイ・ヒップホップのように、薄くフィルターを掛けたリズムトラックが軽快なノリを与え、シンプルで親しみやすいピアノの演奏にグルーブ感を与えている。例えば、日本のNujabesのようなターンテーブル寄りの曲として楽しむことが出来る。ここにはピアノ演奏者でもソングライターでもない、DJやエレクトロニックプロデューサーとしての制作者の一面が反映されている。


アルバムの終盤に到ると、前作の重要なテーマであったスポークンワードのサンプリングという形式が再び現れる。「2017」では、ポスト・クラシカルの形式を選び、多様な人々の声を出現させる。そこには、壮年の人の声から子供の声まで、幅広く、ほんとうの意味での個性的な声のサンプリングが絵画のコラージュさながらに散りばめられ、特異な音響空間を組み上げてゆく。年齢という概念もなければ、人種という概念もない。ピアノの伴奏は、それらのスポークンワードの補佐という形で配置され、様々な人々の声の雰囲気を引き立てるような役割を果たす。

 

「Apriil to April」は、エイフェックス・ツインの「April 14th」に対するオマージュであると推察されるが、ピアノの演奏にエレクトロの要素を重複させ、実験音楽のような音響性を作り出している。Aphex Twinの「aisatosana[102]」と同じように、鳥の声のサンプリングを取り入れ、アンビエントとエレクトロの中間点を探る。この曲は前者の二曲と同様に安らいだ感覚を呼び覚ます。


アルバムの最後に収録されている「Cinnamon」では、雨の音のサンプリングをグリッチ・ノイズの形で取り入れ、このアルバムの最初のテーマであるピアノの演奏に立ち返る。おしゃれな雰囲気に充ちたこの曲は、視覚的なサウンドアプローチにより映画のエンディングのような効果がもたらされている。そして、それはアルバムの序盤と同じように、徹底して制作者自らの感情を包み込むかのような温かさに満ちている。もちろん、それは細やかな小曲という形で、これらの音の世界は一つの終わりを迎え、更に未知なる次作アルバムへの期待感を持たせるのだ。


しかしながら、これらの調和的な音楽が、現代の人々に少なからず癒やしと安心感をもたらすであろうことはそれほど想像に難くない。それは現代人の多くがいかに自分の感覚を蔑ろにしているのかに気づく契機を与えることだろう。このアルバムでピアノを中心とし、制作者が追い求めた概念はきっと自らの魂を優しく抱きしめるということに尽きる。そしてそれは彼女自身が予期したように、多くの心に共鳴し、癒しと潤いの感覚を与えるという有益性をもたらすのだ。

 


88/100

 


Weekend Featured Track 「City Song」



Gia Margaretの新作アルバムはjagujaguwarより発売中です。



 

ジョン・ホプキンスが「Tayos Caves, Ecuador (Meditation Version)」と「Ascending, Dawn Sky (Meditation Version)」をリリースします。

 

この2枚は、2021年のアルバム『Music For Psychedelic Therapy』の収録曲を拡張再加工したもので、特に音の瞑想として使用するために制作されました。"Tayos Caves, Ecuador (Meditation Version)" は、アルバムに収録されている "Tayos Caves, Ecuador" の3つのパートを1つの超越した全体としてまとめています。


ジョン・ホプキンスはこの新曲について次のように語っています。 「Music For Psychedelic Therapyは、瞑想用のアルバムとして書かれたものではありませんが、何かをリリースしたら、自分自身の見方を捨てて、それ自身のものにした方がいいということがわかりました」

 

そこで、中心的な作品のひとつ「エクアドル、タイオス洞窟」を、より瞑想に適したバージョンにしたらどうだろうかと考えました。そのために、フィールドレコーディングをすべて削除し、特定のイメージが思い浮かばないようにしました。このバージョンは、よりニュートラルで、より穏やかなものです。この音楽をもう一度聴くと、とてもインスピレーションが湧くので、「Ascending, Dawn Sky」も同様にシンプルに仕上げました。

 

 

 

 

 


Jenny Owen Youngs
 

ニュージャージー出身の音楽家であるJenny Owen Youngsは、新作アルバム「from the forest floor」を発表しました。この12曲入りアルバムは5月5日にOFFAIR Recordsからリリースされます。

 

ニュージャージー州北部の森で育ったジェニー・オーウェン・ヤングスは、現在メイン州の沿岸部に住んでおり、他のアーティストと共同で執筆したり、ポッドキャストを作ったり、次のレコードの制作に多くの時間を費やしています。彼女の曲はBojack Horseman、Weeds、Suburgatory、Switched at Birthなどに登場する。

 

現在、アルバムの収録曲のみが公開となっています。リリースの発表と併せてジェニー・ヤングスはモダンクラシカル/ピアノアンビエントの系譜にある涼やかで自然味溢れる「sunrise mtn」を公開しました。(ストリーミングはこちら

 

「この曲は、北ジャージーのキタティニー山脈にある、アパラチアン・トレイル沿いのストークス州立森林公園にあるピークの名前です」と、ジェニー・ヤングスは声明で説明している。

 

頂上に立つと、ニュージャージー、ペンシルバニア、ニューヨークが眼下に広がり、太陽が昇るのを見るのによく使われる場所です。

 

この作品は、水平線の向こうからやってくる新しい明日に向かって、顔を上げ、外を見るように誘っているのです。ジョン・マーク・ネルソンとこの作品(そしてアルバム全体)で一緒に仕事ができたことは、多くの理由からとても嬉しいことでした。


「sunrise mtn」


 

 

『from the forest floor』

 

Tracklist:


1. sunrise mtn [feat. John Mark Nelson]


2. dove island [feat. John Mark Nelson]


3. skylands [feat. John Mark Nelson]


4. tannery falls [feat. John Mark Nelson]


5. ambrosia [feat. John Mark Nelson & Hrishikesh Hirway]


6. hemlock shade [feat. John Mark Nelson]


7. dusk [feat. John Mark Nelson & Tancred]


8. night-blooming [feat. John Mark Nelson]


9. forager in the fern grove [feat. John Mark Nelson & Tancred]


10. moon moth [feat. John Mark Nelson & Tancred]


11. echolocation [feat. John Mark Nelson]


12. blue hour [feat. John Mark Nelson]

Weekly Music Feature 



Tim Hecker



 


『Infinity Pool』、『The North Water』シリーズのサウンドトラックのオリジナルスコアを手がけたティム・ヘッカーが、『Konoyo(コノヨ)』『Anoyo(アノヨ)』の後継作の制作のためにスタジオにカムバックを果たしました。


シカゴのKrankyからリリースされた『No High』は、前述の2枚のレコードのジャケットのうち、2枚目のジャケットの白とグレーを採用し、濃い霧(またはスモッグ)に包まれた逆さまの都市を表現しています。


このアルバムは、カナダ出身のプロデューサーの新しい道を示す役目を担いました。Ben Frostのプロジェクトと並行しているためなのか、リリース時のアーティスト写真に象徴されるように、北極圏と音響の要素に彩られていますが、基本的には落ち着いたアルペジエーターによって盛り上げられるアンビエント/ダウンテンポの作品となっています。ノート(音符)の進行はしばしば水平に配置され、サウンドスケープは映画的で、ビートはパルス状のモールス信号のように一定に均されており、緊張、中断、静止の間に構築されたアンビエントが探求されています。特に『Monotony II』では、コリン・ステットソンのモードサックスが登場するのに注目です。


『No High』は「コーポレート・アンビエント」に対する防波堤として、また「エスカピズム」からの脱出として発表されました。この作品は、作者がこれほど注意深くインスピレーションを持って扱う方法を知っている人物(同国のロスシルを除いて)はほとんどいないことを再確認させてくれるでしょう。


最近では、ティム・ヘッカーは映画のサウンドトラックの制作にとどまらず、ヴィジュアルアートの領域にも活動の幅を広げています。”Rewire 2019”では、Konoyo Ensembleと『Konoyo』を演奏するため招待を受ける。さらにRewireの委嘱を受け、Le Lieu Uniqueの共同委嘱により、多分野の領域で活躍するアーティスト、Vincent de Bellevalによるインスタレーション、ステージ、オブジェクトデザインによるユニークなコラボレーション・ショーを開催しています

 

彼の音楽に合わせて調整される特注のLEDライトを使ったショーは、「グリッドを壊す」ための方法を探りながら、光、音、色、コントラスト、質感の間に新しいアートの相互作用を見出そうとしています。

 

 

『No Highs』 kranky




カナダ出身のティム・ヘッカーは、世界的なアンビエントプロデューサーとして活躍しながら、これまでその作風を年代ごとに様変わりさせて来ました。01年の『Haunt Me』での実験的なアンビエント/グリッチ、11年の『Ravedeath,1972』で画期的なノイズ・アンビエント/ドローンの作風を打ち立ててきた。つまり、00年代も10年代もアーティストが志向する作風は微妙に異なっています。そして、ティム・ヘッカーは21年の最新作『The North Water』においてモダンクラシカルの作風へと舵を取っています。これは後の映画のオリジナルスコアの製作時に少なからず有益性をもたらしたはずです。

 

現在までの作風の中で、ティム・ヘッカーは、アルバムの製作時にコンセプチュアルな概念をサウンドの中に留めてきました。それは曲のVariationという形でいくつかのアルバムに見出すことが出来る。この度、お馴染みのシカゴのクランキーから発売された最新作『No Highs』においても、その作風は綿密に維持されており、いくらか遠慮深く、また慎み深い形で体現されている。オープニングトラックとして収録されている「Monotony」、#7「Monotony 2」を見ると分かる通り、これらの曲は、20年以上もアンビエント/ドローン/ノイズという形式に携わってきたアーティストの多様な音楽性の渦中にあって、強烈なインパクトを残し、そしてアルバム全体にエネルギーをその内核から鋭く放射している。これは一昨年のファラオ・サンダースとフローティング・ポインツの共作『Promises』に近い作風とも捉えることも出来るでしょう。

 

DJ/音楽家になる以前は、カナダ政府の政治アナリストとして勤務していた時代もあったヘッカーですが、これまで彼のコンセプチュアルな複数の作品の中には、表向きにはそれほど現実的なテーマが含まれていることは稀でした。とは言え、それはもちろん皮相における話で、暗喩的な形で何らかの現実的なテーマが込められていた場合もある。アートワークを見るかぎり、『The North Water』の続編とも取れる『No Highs』は、彼のキャリアの中では、2016年の「Unhermony In Ultraviolet』と同様に政治的なメタファーが込められているように思えます。今回、アートワークを通じて霧の向こう側に提示された”逆さまの都市”という概念にはーー”我々が眺めている世界は、真実と全く逆のものである”という晦渋なメッセージを読み取る事も出来るのです。


もちろん、これまでのリリース作品の中で、全くこの手法を提示してこなかったわけではありません。しかし、この作品は明らかに、これまでのティム・ヘッカーの作風とは異なるアバンギャルドな音楽のアプローチを捉えることが出来る。本作において重要な楔のような役割を果たす「monotony」を始め、シンセのアルペジエーターの音符の連続性は、既存作品の中では夢想的なイメージすらあった(必ずしも現実的でなかったとは言い難い)ヘッカーのイメージを完全に払拭するとともに、その表向きの幻影を完膚なきまでに打ち砕くものとなるかもしれません。作品全体に響鳴する連続的なシンセのアルペジエーターは、ティム・ヘッカーのおよそ20年以上に及ぶ膨大な音楽的な蓄積を通じて、実に信じがたいような形で展開されていくのです。

 

ニュージャズ/フリージャズ/フューチャージャズのアプローチが内包されている点については既存のファンは驚きをおぼえるかもしれません。知る限りではこれまでのヘッカーの作風にはそれほど多くは見られなかった形式です。今回、ティム・ヘッカーはコラボレーターとして、サックス奏者のCollin Stenson(コリン・ステンソン)を招き、彼のミニマルミュージックに触発された先鋭的な演奏をノイズ・アンビエント/ドローンの中に織り交ぜています。それにより、これまでのヘッカー作品とは異なる前衛的な印象をもたらし、そして、ドローン・ミュージックとアバンギャルドジャズの混交という形で画期的な形式を確立しようとしている。それは一曲目の変奏に当たる「monotony Ⅱ」において聞き手の想像しがたい形で実を結ぶのです。

 

また、「No High」のプレスリリースにも記されています通り、”アルペジエーターによるパルス波”というこのアルバムの欠かさざるテーマの中には、現実性の中にある「煉獄」という概念が内包されています。

 

煉獄とは、何もダンテの幻想文学の話に限ったものではなく、かつてプラトンが洞窟の比喩で述べたように、狭い思考の牢獄の中に止まり続けることに他なりません。たとえば、それはまた何らかの情報に接すると、私達は先入観やバイアスにより一つの見方をすることを余儀なくされ、その他に存在する無数の可能性がまったく目に入らなくなる、いいかえれば存在しないも同然となることを表しています。

 

しかし、私達が見ていると考えている何かは、必ずしも、あるがままの実相が反映されているともかぎりません。ルネ・デカルトの『方法序説』に記されている通り、その存在の可能性が科学的な根拠を介して完全に否定されないかぎり、その事象は実存する可能性を秘めている。そして、私たちは不思議なことに、実相から遠ざかった逆さまの考えを正当なものとし、それ以外の考えを非常識なものとして排斥する場合すらある。(レビューや評論についてもまったく同じ)しかし、一つの観点の他にも無数の観点が存在する……。そういった考え方がティム・ヘッカーの音楽の中には、現実的な視点を介して織り交ぜられているような気がするのです。


さらに、実際の音楽に言及すると、パルス状のアルペジエーター、フリージャズを想起させるサックスの響き、パイプオルガンの音響の変容というように、様々な観点から、それらの煉獄の概念は多次元的に表現されています。これが今作に触れた時、単一の空間を取り巻くようにして、多次元のベクトルが内在するように思える理由なのです。また、その中には、近年、イーノ/池田亮司のようなインスタレーションのアートにも取り組んできたヘッカーらしく、音/空間/映像の融合をサウンドスケープの側面から表現しようという意図も見受けられます。実際、それらの映像的/視覚的なアンビエントのアプローチは、煉獄というテーマや、それとは対極に位置するユートピアの世界をも反映した結果として、複雑な様相を呈するというわけなのです。

 

こうした緊迫感のあるノイズ/ドローン/ダウンテンポは、その他にも「Total Gabage」や「Lotus Light」、さらに、パルスの連続性を最大限に活かした「Pulse Depresion」で結実を果たしている。しかし、本作の魅力はそういった現実的な側面を反映させた曲だけにとどまりません。また他方では、幻想的な雪の風景を現実という側面と摺り合わせた「Snow Cop」も同様、ヘッカーのアンビエントの崇高性を見い出すことができる。ここでは、Aphex Twinの作風を想起させるテクノ/ハウスから解釈したアンビエントの最北を捉えられることが出来るはずです。

 

以前、音響学(都市の騒音)を専門的に研究していたこともあってか、これまで難解なアンビエント/ドローンを制作するイメージもあったティム・ヘッカーですが、『No Highs』は改めて音響学の見識を活かしながら、それらを前衛的なパルスという形式を通してリスナーに捉えやすい形式で提示するべく趣向を凝らしたように感じられます。ティム・ヘッカーは、アルバムを通じて、音響学という範疇を超越し、卓越したノイズ・アンビエントを展開させている。それは”Post-Drone”、"Pulse-Ambient"と称するべき未曾有の形式であり、ノルウェーの前衛的なサックス奏者Jan Garbarekの傑作「Rites」に近いスリリングな響きすら持ち合わせているのです。

 

 

95/100


 

Weekly Featured Music 「monotony」



Tim Hecker


ティム・ヘッカーは、現在、アメリカ・ロサンゼルス、チリを拠点に活動する電子音楽家、サウンドアーティスト。

 

当初、Jetoneという名義でレコーディングを行っていたが、『Harmony in Ultraviolet』(2006年)、『Ravedeath, 1972』(2011年)など、ソロ名義でリリースしたレコーディングで国際的に知られるように。ベン・フロスト、ダニエル・ロパティン、エイダン・ベイカーといったアーティストとのコラボレーションに加え、8枚のアルバムと多数のEPをリリースしている。


バンクーバーで生まれたヘッカーは、2人の美術教師の家庭に生まれ、形成期には音楽への関心を高めていた。1998年にモントリオールに移り、コンコルディア大学で学び、自分の芸術的な興味をさらに追求するようになった。卒業後、音楽以外の職業に就き、カナダ政府で政治アナリストとして働く。


2006年に退職後、マギル大学に入学して博士号を取得、後に都市の騒音に関する論文を2014年に出版した。また、美術史・コミュニケーション学部で音文化の講師を務めた経験もある。当初はDJ(Jetone)、電子音楽家として国際的に活動していた。


初期のキャリアはテクノへの興味で特徴づけられ、Jetoneの名で3枚のアルバムをリリースし、DJセットも行った。2001年までに彼は、Jetoneプロジェクトの音楽的方向性に幻滅するようになる。2001年、ヘッカーはレーベル"Alien8"からソロ名義でアルバム『Haunt Me, Haunt Me Do It Again』をリリース。このアルバムでは、サウンドとコラージュの抽象的な概念を探求した。2006年にはKrankyに移籍し、4枚目のアルバム『Harmony In Ultraviolet』を発表した。


その後、パイプオルガンの音をデジタル処理し、歪ませるという手法で作品を制作している。アルバム『Ravedeath, 1972』のため、ヘッカーはアイスランドを訪れ、ベン・フロストとともに教会でパートを録音した。2010年11月、Alien8はヘッカーのデビュー・アルバムをレコードで再発売した。


ライブでは、オルガンの音を加工し、音量を大きく変化させながら即興演奏を行う場合もある。


2012年、ダニエル・ロパティン(Oneohtrix Point Neverとしてレコーディング)と即興的なプロジェクトを行い、『Instrumental Tourist』(2012)を発表する。2013年の『Virgins』に続き、ヘッカーは再びレイキャビクに集い、2014年から翌年にかけてセッションを行い、『Love Streams』を制作した。共演者には、ベン・フロスト、ヨハン・ヨハンソン、カーラリス・カヴァデール、グリムール・ヘルガソンがおり、ジョスカン・デ・プレの15世紀の合唱作品がアルバムの土台を作り上げた。


2016年2月、ヘッカーが4ADと契約を結び、同年4月に8枚目のアルバムがリリースされた。ヘッカーは、制作中に「Yeezus以降の典礼的な美学」や「オートチューンの時代における超越的な声」といったアイデアについて考えたことを認めている。    


God Speed You! Black EmperorやSigur Rósとのツアー、Fly Pan Amなどとのレコーディングに加え、HeckerはChristof Migone、Martin Tétreault、Aidan Bakerとコラボレーションしている。また、Isisをはじめとする他ジャンルのアーティストにもリミックスを提供している。また、サウンド・インスタレーションを制作することもあり、スタン・ダグラスやチャールズ・スタンキエベックなどのビジュアル・アーティストとコラボレーションしている。


ティム・ヘッカーは、他のミュージシャンであるベン・フロスト、スティーブ・グッドマン(Kode9)、アーティストのピオトル・ヤクボヴィッチ、マルセル・ウェーバー(MFO)、マヌエル・セプルヴェダ(Optigram)と共に、Unsound Festivalの感覚インスタレーション「エフェメラ」に音楽を提供した。また、ヘッカーは、2016年サンダンス映画祭の米国ドラマティック・コンペティション部門に選出された2016年の『The Free World』のスコアを作曲している。

 


サンフランシスコの実験音楽家、ボーカリスト、Lucy Liyou(ルーシー・リヨウ)がニューアルバム『Dog Dreams』のリリースを発表しました。韓国の民俗オペラをテーマに置いた前作「Welfare/Practice」に続く新作アルバムは5月12日にAmerican Dreamsより発売されます。デジタルストリーミングのほか、ヴァイナルでも限定リリースされます。


タイトルは、韓国語の「개꿈」を直訳したもので、空想的な白昼夢から悪夢のような恐怖を意味し、常に無意味、非現実的、あるいは単に愚かであるという考えを示唆している。Lucy Liyouの2枚目のアルバムは、代わりに、ユング、フロイトのような夢分析および深層心理における興味を交え、なぜ、人は夢を見るのか、真面目な現実にはない眠りが何をもたらすのか、体が休まるときにのみ現れる忘れられた欲望は何なのかという疑問を真剣に受け止めている。


すべての夢がそうであるように、Dog Dreamsは個人的であると同時に共同的でもある。私たちの中で、特に奇妙な夢を見たとき、興奮しながら友人と共有したことがない人はいないでしょう。



このアルバムは、Liyouが自身の繰り返し見る夢に基づいて作曲・執筆したものですが、実はミュージシャンのNick Zanca(以前はMister Liesという別名で知られていました)と共同制作しており、最初は非同期に作業を行い、その後、ニューヨークのリッジウッドにあるZancaのスタジオで一緒にアルバムを完成させることになりました。



レコーディングの間、LiyouとZancaは即興で演奏し、Liyouの記憶から呼び起こされたイメージは、白昼夢や空想、束縛のない思索的な気まぐれにまで広がっていきました。2人の生き生きとした相乗効果に支えられ、最後の組曲は35分の緊張感ある音のクレッシェンドとなり、限りなく喚起されるように感じられます。


ドイツのマルクス主義哲学者、エルンスト・ブロッホが言うように、夢は目覚めた瞬間に終わるのではない。夢は目覚めた瞬間に終わるのではなく、覚醒した世界の下地に染み込み、未来の可能性をまだ意識していないことへの執拗な憧れの「残像」となる。つまり、この場合は潜在意識にわだかまる残響のような意味に転訛される。そして、それこそが「DOG DREAMS」の正体でもある。私たちの、言葉にならない、あるいは、言葉にならないけれども、もっと欲しいという内なる渇望にあえて音を付与しようとし、内的な継続的な対話からの余韻を記録として止めておこうというのです。


デビュー作『Welfare / Practice』(2022年)では、瑞々しく溶けたようなインストゥルメンタルと、堅苦しい音声合成が融合していたが、ここでは、アーティスト、夢想家、ロマンチストとしてのLiyou自身の声が、彼らの音楽の緻密な実験の質感を破り、まるで愛する人の強い抱擁が我々を宙空に保つように、現在という無数の中の一つの点に密接している瞬間を把捉することが出来る。


アルバムのタイトル曲である「Dog Dreams」は、リヨウの芸術的ビジョンにおける肉体の重要性と、その肉体に宿り、現実空間に繋ぎとめようとすることの難しさや覚束なさを明確に示しています。語り手は、友人に呼びかける前に、「どうして私を頼ってくれないの?/ 舌打ち、唇の開閉、神経質な歯ぎしりしか発声できず、自分が何を求めているのかがまだわからない」


ルーシー・リヨウが織り成す前衛的な音像は、同じく韓国系アメリカ人の詩人、キム・ミョンミが定義する歌詞と似ている。「自分の生きる韻律」-喜びと傷みを等しく体現しようとする歌、「最初と最後の舌の価値観」。


そして、キムの織りなす現代詩のように、リヨウの音楽もまた「下降、沈降、あらゆる方向への支流」の指標となり、すべては、未だ明瞭でないにもかかわらず嘆願する声と、痛ましい傷を労りながらも愛を求め続ける身体に溌剌としたエネルギーを注入する。


この意味で、『DOG DREAMS』は、ポストフェミニズムの小説家であるキャシー・アッカーが言うところの「不思議の空間」に到達するための「開口部」ともなりえるのだ。



Lucy Lyou 『Dog Dreams』



Label: American Dream

Release Date: 2023年5月12日


Tracklist:


1.Dog Dreams

2.April In Paris

3.Fold The Horse


 marine eyes  『Idyll』(Extended Edition)

 

 


 

Label: Stereoscenic

Release Date: 2023/3/27



andrewと私が「idyll」CDのリイシューについて話を始めたとき、これを完全な別アルバムにするつもりはなかった。しかし、私たちが追加で特別なものを作っていることはすぐに明らかになったので、私たちは続け、そうすることができて嬉しく思う。

この小さなプロジェクトに心を注いでくれた、レイシー、アンジェラ、フィービー、ルドヴィッグ、ジェームス、アンドリューに深く感謝します。また、彼女の素晴らしいアートワークを提供してくれたNevia Pavleticにも大感謝です!

そして、B面の「make amends」は、オリジナル・アルバムに収録される寸前で、共有されるタイミングを待っていたものです。

この曲のコレクションを楽しんで、あなた自身の安らぎの場所を見つける手助けになれば幸いです。

 

 

と、このリリースについてメッセージを添えたロサンゼルスのアンビエント・プロデューサー、Marine Eyesの昨日発売された最新作『Idyll』の拡張版は、我々が待ち望んでいた癒やし系のアンビエントの快作である。2021年にリリースされたオリジナル・バージョンに複数のリミックスを追加している。

 

Marine Eyesは、アンビエントのシークエンスにギターの録音を加え、心地よい音響空間をもたらしている。アーティストのテーマとしては、海と空を思わせる広々としたサウンドスケープが特徴となっている。オリジナル作と同じように、今回発売された拡張版も、ヒーリングミュージックとアンビエントの中間にあるような和らいだ抽象的な音楽を楽しむことが出来る。日頃私達は言葉が過剰な世の中に生きているが、現行の多くのインストゥルメンタリスト、及び、アンビエント・プロデューサーと同じように、この作品では言葉を極限まで薄れさせ、情感を大切にすることに焦点が絞られている。


タイトルトラック「Idyll」に象徴されるシンセサイザーのパッドを使用した奥行きのあるアブストラクトなアンビエンスは、それほど現行のアンビエントシーンにおいて特異な内容とはいえないが、過去のニューエイジのミュージックや、エンヤの全盛期のような清涼感溢れる雰囲気を醸し出す。それは具体的な事物を表現したいというのではなく、そこにある安らいだ空気感を単に大きな音のキャンバスへと落とし込んだとも言える。しかし、そのシンセパッドの連続性は、情報や刺激が過剰な現代社会に生きる人々の心にちょっとした空間や余白を設けるものである。

 

二曲目の「cloud collecting」以降のトラックで、アーティストが作り出すアンビエントは風景をどのようにして音響空間として描きだすかに焦点が絞られている。それは日本のアンビエントの創設者である吉村氏が生前語っていたように、 サウンドデザインの領域に属する内容である。Marine Eyesは、例えばカルフォルニアの青々とした空や、開放感溢れる海の風景を音のデザインという形で表現する。そして、現今の過剰な音の世界からリスナーを解き放とうと試みるのである。これは実際に、リスナーもまたこの音楽に相対した際に、都会のコンクリートジャングルや狭小なビルの部屋から魂を開放し、無限の空間へと導かれていくような感覚をおぼえるはずである。

 

サウンドデザインとしての性格の他に、Marine Eyesはホーム・レコーディングのギタリストとしての表情を併せ持つ。ギタリストとしての性質が反映されたのが「shortest day」である。アナログディレイを交えたシークエンスに繊細なインディーロック風のギターが重ねられる。それはアルバム・リーフのようなギターロックとエレクトロニックの中間点にある音楽性を探ろうと言うのである。それらは何かに夢中になっている時のように、リスナーがその核心に迫ろうとすると、すっと通りすぎていき、消えて跡形もなくなる。 続く「first rain」では、情景ががらりと変わり、雨の日の茫漠とした風景がアンビエントを通じて表現される。さながら、窓の外の木々が雨に烟り、視界一面が灰色の世界で満たされていくかのような実に淡い情感を、アーティストはヴォイスパッドを基調としたシークエンスとして表現し、その上に薄く重ねられたギターのフレーズがこれらの抽象性の高い音響空間を徐々に押し広げ、空間性を増幅させていく。まるでポストロックのように曖昧なフレーズの連続はきめ細やかな情感にあふれている。


続く、「roses all alone」はより抽象的な世界へと差し掛かる。アーティストは内面にある孤独にスポットライトを当てるが、ギターロックのミニマルなフレーズの合間に乗せられる器楽的なボーカルは現行の他のアーティストと同じように、ボーカルをアンビエンスとして処理し、陶然とした空間を導出する。しかし、これらはドリーム・ポップと同じように聞き手に甘美な感覚すら与え、うっとりとした空間に居定めることをしばらく促すのである。朝のうるわしい清涼感に満ち溢れたアンビエンスを表現した「on this fresh morning」の後につづく「pink moment」では、かつてのハロルド・バッドが制作したような安らいだアンビエント曲へと移行する。Marine Eyesは、それ以前の楽曲と同じように、ボーカルのサンプリングと短いギターロックのフレーズを交え、ただひたすら製作者自らが心地よいと感じるアンビエンスの世界を押し広げていく。タイトル曲「idyll」と同様に、ここではニューエイジとヒーリングミュージックが展開されるが、この奥行きと余白のある美しい音響性は聞き手に大きなリラックス感を与える。

 

続く「shortest day(reprise)」は3曲目の再構成となるが、ボーカルトラックだけはそのままで、シークエンスのみを組み替えた一曲であると思われる。しかし、ギターのフレーズを組み替え、ゆったりとしたフレーズに変更するだけで、3曲目とはまったくそのニュアンスを一変させるのである。3曲目に見られた至福感が抑制され、シンプルなアンビエント曲として昇華されている。オリジナル盤のエンディング曲に収録されている「you'll find me」も同様に、ギターロックとアンビエントやヒーリングミュージックと融合させた一曲である。シングルコイルのギターのフレーズは一貫してシンプルで繊細だが、この曲だけはベースを強調している。バックトラックの上に乗せられるボーカルは、他の曲と比べると、ポップネスを志向しているように思える。エンディングトラックにふさわしいダイナミックス性と、このアルバムのコンセプトである安らぎが最高潮に達する。ポストロックソングとしても解釈出来るようなコアなエンディングトラックとなっている。


それ以降に未発表曲「make abends」とともに収録されたリミックスバージョンは、そのほとんどが他のアーティストのリミックスとなっている。そして、オリジナルバージョンよりもギターロックの雰囲気が薄れ、アンビエントやアンビエント・ポップに近いリテイクとなっている。マスタートラックにリバーブ/ディレイで空間に奥行きを与え、そして自然味あふれる鳥のさえずりのサンプリング等を導入したことにより、原曲よりさらに癒やし溢れる空間性が提示されている。これらのアンビエントは、オリジナル盤の焼き増しをしようというのではなく、マスタリングの段階で高音部と低音部を強調することで、音楽そのものがドラマティックになっているのがわかる。オリジナル盤はギターロックに近いアプローチだったが、今回、複数のアーティストのリミックスにより、「Idyll」は新鮮味溢れる作品として生まれ変わることになった。

 

 90/100

 




アンビエントの名盤ガイドもあわせてお読みください:


アンビエントの名盤 黎明期から現代まで

 

©Jónatan Grétarsson

Dustin O’Halloran(ダスティン・オホロラン)とAdam Wiltzie(アダム・ウィッツィー)によるアンビエント・デュオ、A Winged Victory for the Sullenが、ニューシングル「All Our Friends Our Vampires」を発表しました。以前、Adam Wiltzieは、Christina VanzouとThe Dead Texanというアンビエント・デュオとして活動を行い、Kranky Recordsから作品を発売しています。

 

 "この作品において、私たちの原点であるシンプルさに回帰する渇望を感じました "と、Dustin O’Halloranはプレスリリースで新曲について述べています。

 

「宇宙の無関心の中で無重力に浮かぶ、私たち自身の宇宙の中の極小の性質の音を見つけるため、ピアノとヴィンテージ・シンセの要素の中で書き、それが弦楽四重奏とギターのドローンになり、それらをすべて録音し、音響空間で時間を捕らえようとしたんだ」

 

A Winged Victory for the Sullenの最新スタジオ・アルバム『The Undivided Five』は、Ninja Tuneから2019年にリリース済み。

 

「All Our Friends Our Vampires」

Interview  


Elijah Knutsen 

 


最初のインタビューは、米国/ポートランドのアンビエント・プロデューサー、Elijah Knutsenさんにお話を伺いました。

 

Elijah Knutsen(エリヤ・クヌッセン)は2021年にデビューしたばかりの新進の音楽家ではありますが、既にフルアルバムを一作、そして複数のシングルを発表しています。特筆すべきは、Elijahさんは大の日本愛好家であり、ファースト・アルバム『Maybe Someday』には、青森の青函トンネルを主題にした「Seikan Undersea Tunnel」が収録されています。また、電子音楽のプロデューサーではありながら、ザ・キュアーを彷彿とさせるオルタナティブロック、さらに美麗なサウンドスケープを想起させる叙情的な環境音楽まで幅広いアプローチを図っています。最近では、Panda Rosaをコラボレーターに迎えて制作された『...I wanted 10 Years Of Pacific Weather...』、そして先日には『Four Love Letters』を発表し、非常に充実した活動を行っています。

 

今回、MUSIC TRIBUNEは、Elijah Knutsenさんにインタビューを申し込んだところ、回答を得ることが出来ました。

 

音楽活動を始めるようになった契機から、プロデューサーとしての制作秘話、影響を受けたアーティスト、ポートランドや日本の魅力、他にも、パンデミック時にドッグトレーナーとして勤務していた時代まで様々なお話を伺っています。読者の皆様に以下のエピソードをご紹介します。

 

 


Music Tribune -12 Questions-

 

 

1. イライジャさんが音楽活動を始めたのはいつ頃ですか? また、音楽活動を始めるきっかけとなった出来事などがあれば教えてください。

 

私が幼い頃、母は学校に向かう車の中でいつもRadioheadのCDを流していました。最初は大嫌いでした。でも、大人になるにつれて、トム・ヨークの孤独な思いに共感するようになったんです。私が初めて楽器に触れたのは12歳頃のことで、ピアノでした。最初はピアノを習っていたのですが、あまりに難しいので、簡単な作曲を耳で覚えるだけでしたし、正式な音楽教育を受けていない今でもそうしています。



19歳のときにひどい別れを経験した後、質屋でギターを買い、長い時間をかけて弾き方を学び、何年もかけて低品質のレコーディングをたくさん作りました。それまでギターを弾いたことがなかったのに、自分はこんなに上手なんだ!と思っていました。でも最初に出したリリースを思い出すと、ゾッとします。



音楽活動を本格的に始めたのは、Covid-19の流行が始まった頃で、「Memory Color」というレコードレーベルを立ち上げたのがきっかけです。




2. 「Seikan Undersea Tunnel」など、日本の土地にまつわる曲も収録されています。日本やその文化に興味を持ったきっかけをお聞かせください。

 

日本は私にとって、いろいろな意味でとても興味深い国です。内向的で繊細な文化は、内気で物静かな私にとって、とても大切なものです。



日本やその文化には、明らかに西洋のローマ字が使われていますが、私が日本に魅了されているのは、それ以上のものだと思います。これほどまでに違う場所に行けば、自分の人生も大きく変わるに違いないと思うところがあるのです。それが本当なのかどうか、確かめたいと思っています。



日本の自動販売機も大好きですよ!(笑)



3. あなたの作品には、フィールドレコーディングが使われていると思います。どのように録音されているのでしょうか?

 

フィールドレコーディングの多くは、"Freesound "というウェブサイトから調達しています。また、ポートランド周辺の新しいエリアを訪れてフィールドレコーディングをするのも好きですが、レコーダーを売ってからはあまりしていません。自分のアルバムがある場所(例えば青森など)にリンクしたフィールドレコーディングは、ここで作るよりも特別なものになると思います。



4. 過去の作品には、ある特定の場所からインスピレーションを受けたものが多くあります。何らかの風景や写真からインスピレーションを得ることはあるのでしょうか? 



私は、自分が見た夢から多くのインスピレーションを得ます。私はとても鮮明な夢を見て、周りの環境と相互作用したり、感情を強く感じたりすることができます。以前、文明から遠く離れた南極の街に閉じ込められるという、とても寂しい夢を見たことがあります。その夢は、私のアルバム までのフィーリングを刺激することになりました。



また、日本や東欧など、世界中の場所の風景や写真を見るために、googleを使っています。長い時間をかけて世界の曖昧な場所を探索し、そこに住むとどんな生活になるのだろうと考えています。


曲が生まれる瞬間というのは、ある種の神秘的な瞬間であると思っています。曲を思いつくとき、そして完成させるとき、どのようにするのか、詳しく教えてください。



私の曲の多くは、その瞬間に完成します。技術的に難しい、もの(ドラムなど)でない限り、作曲を始めてから1、2時間以上はかかりません。コードや音符を思いついた後、フィールドレコーディングや、さらに様々な楽器を重ねて、トラックに追加します。



レコーディングよりも、アレンジやミキシング、マスタリングに時間を割くことが多いですね。自分の感情を楽器に託すような、最もシンプルな作品が一番幸せなんです。



5.これまでの作品では、アンビエント、ギターロック、環境音楽など、幅広い方向性を持っていますね。これは今後も続けていくつもりなのでしょうか?

 

私は非常に多くの種類の音楽を聴いているので、すべての音楽からインスピレーションを受けないということは難しいでしょう。新しいジャンルやタイプの音楽を試したりするのが好きなんです。


6. イライジャさんは、アメリカのポートランドにお住まいですよね? ポートランドの魅力、地元の魅力的な音楽、シーンなど、どんなことを知っていますか?



7歳の時にポートランドに引っ越してきて、それ以来ずっと住んでいます! ポートランドは大好きです。川が流れていて、遠くに山が見える、とてもきれいな街です。この街の場所にはたくさんの思い出があります。私のお気に入りの場所は、街を見下ろす大きな丘の上にあるローズガーデンです。とても穏やかで落ち着く場所です。この街にはたくさんのローカルミュージックがあり、小さな会場やフェスティバルもたくさん開催されています。ロックやパンクが多いのですが、私はパンクはあまり好きではありません。


7. あなたがこれまで聴いてきた音楽に最も大きな影響を与えたアーティストは誰ですか? また、それらのアーティストがどのような形で今のあなたに影響を与えていると思いますか?

 

私は "The Cure "の大ファンなんです。ロバート・スミスの文章には、いつもとてつもない感動を覚えます。私はかなりメランコリックな人間なので、彼の作る作品の多くに共感することができます。また、オーストラリアのサイケデリック・ロックバンド、「The Church」も大好きです。私は自分の曲には歌詞を書きませんが、これらのバンドが作る痛快な作品に大きなインスピレーションを感じています。



また、日本のアンビエントミュージシャンである "井上徹"(編注:1990年代〜2000年代に活躍したアンビエント・ミュージックのパイオニア的存在)にも大きなインスピレーションを受けています。彼のアンビエント・ミュージックはとてもユニークで、今まで聴いたことがないようなものばかりです。コクトー・ツインズのハロルド・バッドとロビン・ガスリーも、私のアンビエント作品に大きなインスピレーションを与えてくれています。



8. あなたの最初の音楽体験の記憶についてお聞かせください。また、それはあなたの人生に何らかの形で影響を与え続けていると思いますか?

 

音楽に関する最初の記憶は、幼い頃に祖父母の家でピアノを弾いたことだと思う。アンビエント」という言葉を知る何年も前に、私はかなりアンビエントなサウンドの曲を作っていましたよ。



9. Covid-19のパンデミックやロックダウンのおかげで、アーティストが音楽に集中できるようになったと考える人もいるようです。この点について、イライジャさんはどのようにお考えでしょうか? また、2021年以前と比較して、作りたいものが変わったのでしょうか?

 

パンデミック以前は、ペット用品店でドッグトレーナーとして働いていました。自分や家族が病気になるのが怖くて、有給を全部使ってしまい、結局解雇されました。しかし幸運なことに、何カ月も失業手当をもらうことができ、今までよりも多くのお金を手にすることができました。そのお金でレコード会社を立ち上げ、レコーディング機器や楽器に投資しました。



また、それまでリリースしていたポストロック・プロジェクト "Blårød "ではなく、自分自身の名前で環境音楽を制作するようになりました。そして、自由な時間のすべてを最初の2枚のアルバムの制作につぎ込みました。


 
10 .『Vending Machine Music 1』のリマスター盤が発売されましたね。この作品は、例えばブライアン・イーノの『Music For Airport』のように、これまでの作品の中で最も環境音楽的な要素が強いと思うのですが。改めて、なぜこの作品をリマスターすることになったのでしょうか? その理由を詳しく教えてください。

 

『Vending Machine Music 1』については、私の最高傑作のひとつだと思うので、リマスターすることにしました。この作品を最新の方法で聴衆に紹介したかったのです。このアルバムのマスタリングはあまり良くなかったし、まだミキシングについてあまり知らなかった頃に作ったものだった。また、オリジナル・アルバムでリリースされていない、私が手がけた過去のトラックも収録したかった。




11. あなたにとって、アンビエント・ミュージックとは何ですか? 消費される音楽以上の意味を持つとお考えでしょうか? 

 

私は、ほとんどすべての音楽が同じだけの重要性を持っていると感じています。ロマンチックな気分の時は、安っぽいポップスを聴くこともあるし、一般的に消費される音楽よりも「知的」ではないと思われるものも聴くことがある。しかし、そのような音楽でも、重要なことが書かれていないわけではありません。日本の環境音楽のリリースは、とても「イージーリスニング」でありながら、私にとってはとてもエモーショナルです。



アンビエントというジャンルを定義するのは、とても難しいことです。柔らかい、広い、ミニマル......ランプの音や虫の音のような小さなものがアンビエント・ミュージックになり得るのです。



最後に。


12. 今後の予定があれば教えてください。また、現在取り組んでいる作品があれば教えてください。曲(Four Love Letters)のテーマについて詳しく教えてください。

 

ニューアルバム『Four Love Letters』をリリースしたばかりですが、今は次のプロジェクトのインスピレーションを待ちながら、すねているところです。ここ数ヶ月は、ラーメン屋の仕事を失ったり、友人を亡くしたり、振られたり、腎臓結石になったりと、とても辛い日々でした。



アルバム『Four Love Letters』は、私が経験した辛い別れの後に生まれたもので、この関係に対する私の気持ちを音楽で表現するためのものです。これほど孤独を感じ、落ち込んだことはありません。このプロジェクトには、たくさんの感情、特に悲しみが込められていて、まだ悲しいですが、このアルバムの出来栄えにはとても満足しています。



本当にありがとうございました。- イライジャ・クヌッセン



1. When did you start your music career, Elijah? Also, please tell us about any events that triggered you to start your music career.

 

When I was younger my mother would always play Radiohead CDs in the car, on the way to school. At first I hated them! But as I got older I realized how much I really could relate to the lonely musings of Thom Yorke. I was first introduced to an instrument when I was around 12, the piano. I took piano lessons at first, but found them too difficult, and just learned to make simple compositions by ear, something I still do today, as I have no formal music education.


After a bad breakup at the age of 19, I bought a guitar from a pawn shop, and spent a long time learning how to play, making lots of low quality recordings over the years. I had never played the guitar before, and thought I was so good at it! I shudder when I think of the releases I started out with.


I began taking my music career more seriously at the beginning of the Covid-19 pandemic, when I started my “Memory Color” record label.




2. I think some of your songs are related to Japan, such as the ”Aomori Seikan Tunnel”. Please tell us how you became interested in Japan and its culture.

 

Japan is very interesting to me in many ways. For one, the culture there is much more introverted and subtle, something I have always valued, being a shy and quiet person myself.


There is obviously a bit of western romanization with Japan and its culture, but I find that my fascination with the country is more than that. One part of me must think that if I go somewhere so vastly different, that my life will also become vastly different. I am eager to find out if that’s true or not.


I also love the vending machines in Japan!



3. I believe that field recordings are used in some of your compositions. How are these recordings made? 

 

I source a lot of my field recordings from the website “Freesound.” I also love to visit new areas around Portland and make field recordings, although I haven’t done that much since I sold my recorder. I find that the field recordings linked to places that my albums are about (such as Aomori, Japan,) are more special than the ones I can make here.



4. Many of Elijah's past works have been inspired by a particular place. Do you get inspiration from some kind of landscape or photographic reference? 

 

I get lots of inspiration from dreams I have. I have very vivid dreams where I can interact with the environment around me, and feel emotions strongly. I had a very lonely dream once where I was stuck in a city in Antarctica, far away from all civilization. That dream ended up inspiring the feeling for my album “Maybe Someday.”


I also use google to view scenes and pictures of places from around the world, such as Japan or Eastern Europe. I spend a long time exploring obscure places in the world, and wonder what life would be like living there.




And I also think that the moment a song is born is a kind of mystical moment. Can you tell us(me ) more about when you come up with a song, and how you complete it?



A lot of my tracks are done in the moment, I usually don’t spend more than an hour or two composing a track after I’ve started unless it's something technically difficult (like drums.) After coming up with something like chords or notes, I add field recordings, and various layers of more instruments to the track.

 

Most of my time is spent arranging, and then mixing and mastering the track rather than recording! I find that the work I am happiest with has been the simplest, where it’s just my emotions letting the instruments show how I feel.


5. Throughout your past works, Elijah, you have taken a wide range of directions: ambient, guitar rock, and environmental music. Is this something that you intend to do?

 

I listen to so many different types of music that it would be difficult to not be inspired by all of them. I love experimenting with new genres & types of music. 



6. Elijah, you live in Portland, USA, right? What do you know about Portland, its attractions, its fascinating local music, its scene, etc.!

 

I moved to Portland when I was 7 years old, and have lived here since! I love Portland. It’s a very pretty city with a river running right through it, and mountains in the distance. I have lots of memories attributed to the places here. My favorite place is the Rose Garden, up on a big hill overlooking the city. It’s a very calm and tranquil place. There is a ton of local music here, and lots of smaller venues and festivals that occur. A lot of rock and punk is present here, although I’m not too big a fan of punk music.




7. Which artists have had the greatest influence on the music you have listened to? And in what ways do you think those artists influence you today?

 

I am a huge fan of “The Cure.” I have always felt incredibly moved by Robert Smith's writing. I am quite a melancholic person, and can relate to much of what he’s made. I also really love “The Church,” an Australian psychedelic rock band. Although I don’t write any lyrics for my songs, I find great inspiration in the poignant works these bands produce.


I am also greatly inspired by the Japanese ambient musician “Tetsu Inoue.” His ambient music is so incredibly unique, and unlike anything I had ever heard before. Harold Budd and Robin Guthrie of “Cocteau Twins” are also very big inspirations to my ambient works.



8. Please tell us about your earliest memory of your first musical experience. And do you think it continues to influence your life in some way?

 

I think my first memories of music would have to be when I would play the piano at my grandparents house as a younger child. I made some quite ambient sounding compositions years before I knew what “ambient” was!



9. Some people seem to think that the Covid-19 pandemic, and the lockdown for that matter, has allowed artists to focus on their music. What are your thoughts on this point, Elijah? Also, have you changed what you want to make compared to before 2021?

 

Before the pandemic, I was working at a pet supply store as a dog trainer. I used all of my time off because I was afraid of getting myself and my family sick, and eventually got laid off. Thankfully I was able to get unemployment payments for months, which amounted to more money than I’ve ever had before! I decided I wanted to pursue music as a career instead of just a hobby, and used the money to start my record label, and invest in recording equipment/instruments.


I also began to produce environmental music under my own name, rather than the post rock project I had been releasing under; “Blårød.” I put all of the free time I had into making my first two albums, which turned out to be my most successful releases!



10. Elijah has just released a remastered version of "Vending Machine Music 1”. I think this record, like, for example, Brian Eno's Music For Airport, has the strongest environmental music element of any of your previous works. Once again, why did you decide to remaster this work? Could you elaborate on the reasons?


I decided to remaster Music For Vending Machines because I feel that it is one of my best works. I wanted to re-introduce it to my audience in an updated way. The mastering of the album wasn’t great, and I had done it when I still didn’t know much about mixing. I also wanted to include a previous track I had done, that hadn’t been released with the original album.


11. What does ambient music mean to you? Do you consider it to mean more than music of consumption? 

 

I find mostly all music to hold the same amount of importance. Sometimes when I’m feeling romantic I will listen to cheesy pop records, or something one might view as less “intelligent” than the music I generally consume. Even if it is meant for easy consumption, that doesn’t mean it doesn’t have anything important to say! The Japanese environmental music releases are very “easy listening,” but also still very emotional to me.



Ambient as a genre is very hard to define. Many things to me mean ambient; soft, spacious, minimal… Something as small as a buzzing lamp or the sound of insects can constitute ambient music.



Lastly,


12. What are your future plans, if any? Are there any works that you are currently working on? Can you tell me more about the theme of the song (Four Love Letters)?

I just released my new album “Four Love Letters,” and am currently sulking around, waiting for inspiration for my next project. The past few months have been very hard for me, losing my job at a ramen shop, the loss of a friend, getting dumped, and kidney stones!



The album “Four Love Letters” comes after a hard breakup that I have gone through, and is a way for me to express my feelings about this relationship through music. I have never felt more alone and depressed! A lot of emotion, particularly sadness, has been put into this project, and although I am still sad, I can say I am very happy with how this album turned out. 



Thank you so much! - Elijah Knutsen

 

 

Interviewer: Music Tribune 

 

March 5th.  Cloudy Day.

 

 

また、Elijah Knutsenは先々週の3月4日に四曲収録の新作「Four Love Letters」をリリースしています。ブライアン・イーノの往年の作品を彷彿とさせる連曲です。上記の作品とともにチェックしてみて下さい。Elijah Knutsenのバックカタログはこちらでご視聴/ご購入出来ます。

 


 

このリリースに関して、「アルバムは非常につらい別れの後に作られ、私はこのプロジェクトに多くの悲しみと感情を注ぎ込みました。ロマンチックな喜びよりも、ほろ苦い失われた愛のアルバムです.これほど孤独で落ち込んでいると感じたことはありません」とElijahはコメントしています。