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Anat Moskovski


Anat Moskovskiはイスラエル/テルアビブを拠点に活動するミュージシャンです。アラビア語とフランス語を駆使し、ミステリアスな音響世界を作り出します。


Anat Moskovskiは ヴォーカリスト、作曲家、ピアノとクラリネットを演奏する。彼女のデビューEP "Happy as a Dog "は2017年にリリースされました。セカンドEP「Loud & Clear」は2019年にリリースされ、両EP-sはShuzinがプロデュースを行った。

 

フランス語でリリースした最初の作品「La Petite Fille La Plus Jolie Du Monde」はイスラエルで大成功を収め、2020年12月に最もシャザームされた曲となり、Spotifyの数千のプレイリストに追加されました。


近年では、Yoni Rechter、Nurit Hirsh、Shlomi Shabanと共演し、The Hazelnutsと世界ツアーを行うなど、活躍の場を広げています。現在、3枚目のアルバムを制作中です。(アラビア語で宣伝が記載されているので、定かではありませんが、アルバムが完成し、発売間近との情報もあり)

 

©Ascaf Avraham

Yehezkel Raz(1980年生まれ)は、作曲家、ピアニスト、サウンドアーティストです。彼のソロ・デビュー・アルバム「för Nils」は、シンプルな美しさ、親密なピアノ演奏、ミニマリズム、音と沈黙に対する彼の情熱が反映されています。


5歳から音楽教育を受け、バイオリン、ギター、ピアノを弾く。2003年、テルアビブのイスラエル音楽アカデミーを優秀な成績で卒業し、電子音楽への情熱を見出した。2005年と2006年にヴィルクローズ音楽院(フランス)の作曲家賞を受賞し、現在、イスラエルで最も優れた教育者の一人です。またAbeletonで教育プログラムを担当しており、プロデューサーとしても活躍しています。


Yehezkel Razの作品は、映画、演劇、ダンスのための音楽だけにとどまらず、エレクトロニクスやシンセサイザーを使ったライブパフォーマンスも行っています。

 

今回、AnatはYhezkelと組んで、「J'Oublie(Remake)」というタイトルのニューシングルをリリースしました。


ニューシングルは、Yehezkel Razが原曲を制作し、Anat Moskovskiによる編曲がなされ、彼女がピアノに合わせてフランス語で歌っています。フレンチポップとポスト・クラシカルを融合させた上品なナンバーです。

 

この短調の曲には、ピアノの分散和音とがもたらす哀愁とそれと相反する低音の和音の凛とした気品が全体に漂っています。ECMのエキゾチック・ジャズに代表されるアラビアの雰囲気もわずかに内在しています。


Anat Moskovskiの作曲/編曲は、ギリシアの国民的な女流作曲家、Eleni Karaidrouの方向性に近く、映画のような視覚的な効果を与えています。シングルと同時に公開された映像も公開されています。下記よりご覧下さい。 

 


「J'Oublie(Remake)」


 

©Shervin Lainez


弦楽奏者や編曲家、指揮者として活躍するRob Moose(ロブ・ムーズ)がPhoebe Bridgers(フィービー・ブリジャーズ)と組み、ニューシングル「Wasted」を制作しました。

 

この曲はRob Mooseの近日発売予定のEP『Inflorescence』に収録。他にも先行リリースされたAlabama Shakes(アラバマ・シェイクス)のBrittany Howard(ブリタニー・ハワード)とのコラボ曲「I Bend But Never Break」が収録されています。両シングルとも下記よりご視聴ください。

 

両者は、フィービー・ブリジャーズのアルバム「Punisher」や「Stranger in the Alps」、「Copycat EP」でコラボしたことがある。Bon IverのJustin Vernon、Sara Bareilles、Emily Kingが参加した『Inflorescence』は、Sony Master worksから8月11日にリリースされる。

 

 

 

 Josiah Steinbrick 『For Anyone That Knows You』

 

 

Label: Unseen Words/Classic Anecdote

Release: 2023/4/21

 

 

Review


残念なことに、先日、坂本龍一さんがこの世を去ってしまったが、彼の音楽の系譜を引き継ぐようなアーティストが今後出てこないとも限らない。彼のファンとしてはそのことを一番に期待してきたいところなのだ。

 

さて、これまでJosiah Steinbrickという音楽家については、一度もその音楽を聴いたことがなく、また前情報もほとんどないのだが、奇異なことに、その音楽性は少しだけ坂本龍一さんが志向するところに近いように思える。 現在、ジョサイア・スタインブリックはカルフォルニアを拠点に活動しているようだ。またスタインブリックはこれまでに三作のアルバムを発表している。

 

ジョサイア・スタインブリックのピアノソロを中心としたアルバム『For Anyone That Knows You』の収録曲にはサム・ゲンデルが参加している。基本的には、ポスト・クラシカル/モダンクラシカルに属する作品ではあるが、スタインブリックのピアノ音楽は、モダンジャズの影響を多分に受けている。細やかなアーティスト自身のピアノのプレイに加え、ゲンデルのサックスは、簡素なポスト・クラシカルの爽やかな雰囲気にジャジーで大人びた要素を付け加えている。

 

スタインブリックのピアノは終始淡々としているが、これらの演奏は単なる旋律の良さだけを引き出そうというのではなく、内的に豊かな感情をムードたっぷりの上品なピアノ曲として仕立てようというのである。ジャズのアンサンブルのようにそつなく加わるゲンデルのサックスもシンプルな演奏で、ピアノの爽やかなフレーズにそっと華を添えている。それほどかしこまらずに、インテリアのように聞けるアルバムで、またBGMとしてもおしゃれな雰囲気を醸し出すのではないだろうか。

 

ただ、これらの心地よいBGMのように緩やかに流れていくポスト・クラシカル/モダン・ジャズの最中にあって、いくつかの収録曲では、ジョサイア・スタインブリックの音楽家としてのペダンチックな興味がしめされている。二曲目の「Green Glass」では、ケチュア族の民族音楽家、レアンドロ・アパザ・ロマス/ベンジャミン・クララ・キスペによる無題の録音の再解釈が行われている。これらの音楽家の名を聴いたことがなく、ケチュア族がどの地域の民族なのかも寡聞にして知らないが、スタインブリックはここで、ポーランドのポルカのようなスタイルの舞踏音楽をジャズ風の音楽としてセンスよくアレンジしているのに着目したい。

 

その他にも、 「Elyne Road」では、マリアン・コラ(Kora: 西アフリカのリュート楽器)の巨匠であるトゥマニ・ドゥアバテの原曲の再構成を行い、ソロピアノではありながら、民謡/フォークソングのような面白い編曲に取り組んでいる。加えて、終盤に収録されている「Lullaby」では、ハイチ系アメリカ人であるフランツ・カセウスという人物が1954年に記録したクレオールの伝統歌を編曲している。ララバイというのは、ケルト民謡が発祥の形式だったかと思うが、もしかすると、スコットランド近辺からフランスのクレオール諸島に、この音楽形式が伝播したのではないかとも推測出来る。つまり、これらの作曲家による再編成は音楽史のロマンが多分に含まれているため、そういった音楽史のミステリーを楽しむという聞き方もできそうである。

 

もうひとつ面白いなと思うのが、アルバムのラストトラック「Lullaby」において、ジェサイア・スタインブリックはクロード・ドビュッシーを彷彿とさせるフランス近代和声の色彩的な分散和音を、ジャズのように少し崩して、ピアノの音階の中に導入していることだろう。この曲は、部分的に見ると、民謡とジャズとクラシックを融合させた作品であると解釈することが出来る。

 

『For Anyone That Knows You』は、人気演奏家のサム・ゲンデルの参加により一定の評判を呼びそうである。また、追記として、スタインブリックは、作曲家/編曲家/ピアニストとしても現代の音楽家として素晴らしい才覚を感じさせる。今作については、その印象は少しだけ曇りがちではあるけれど、今後、どういった作品をリリースするのかに注目していきたいところでしょう。

 

Josiah Steinbrick 『For Anyone That Knows You』は4月21日より発売。また、ディスクユニオンNewton RecordsTobira Recordsで販売中です。

 

 82/100

 

 

Sufjan Stevens


作曲家、マルチ・インストゥルメンタリスト、オルタナティヴフォークシンガーのSufjan Stevens(スフィアン・スティーヴンス)が、振付家のJustin Peckによるバレエのためのオリジナルスコアをスタジオ録音したアルバム「Reflections」のリリースを発表しました。

 

アルバムの第1弾シングルとなる「Ekstasis」は、ティモ・アンドレスとコナー・ハニックを起用したミュージックビデオと同時にリリースされました。スフィアン・スティーヴンスは、ブライアン・パッチョーネの指揮のもと、この曲をライブで演奏しています。以下よりMVをご覧ください。

 

『Reflections』は11人のダンサーのためにスティーブンスが作曲し、ティモ・アンドレスとコナー・ハニックが演奏している、ヒューストン・バレエ団がペックの振付に合わせて委嘱した。これまでにスティーヴンスは、『Year of the Rabbit』(2012)、『Everywhere We Go』(2014)、『In the Countenance of Kings』(2016)、『The Decalogue』(2017)、『Principia』(2019)を発表している。

 

『Reflections』のスタジオ録音は、Oktaven StudiosのRyan Streberが、エンジニア、ミックス、マスタリングを担当。スティーブンスにとって、2019年の『デカローグ』に続く、ピアノのための作曲の2度目の録音リリースで、2台のピアノのために書かれた最初の作品となります。

 

 

 「Ekstasis」

 

 

 

Sufjan Stevens  『Reflections』

 


 
Label: American Kitty Records
 
Release: 2023/5/19
 

Tracklist:


1. Ekstasis


2. Revanche


3. Euphoros


4. Mnemosyne


5. Rodinia


6. Reflexion


Jenny Owen Youngs
 

ニュージャージー出身の音楽家であるJenny Owen Youngsは、新作アルバム「from the forest floor」を発表しました。この12曲入りアルバムは5月5日にOFFAIR Recordsからリリースされます。

 

ニュージャージー州北部の森で育ったジェニー・オーウェン・ヤングスは、現在メイン州の沿岸部に住んでおり、他のアーティストと共同で執筆したり、ポッドキャストを作ったり、次のレコードの制作に多くの時間を費やしています。彼女の曲はBojack Horseman、Weeds、Suburgatory、Switched at Birthなどに登場する。

 

現在、アルバムの収録曲のみが公開となっています。リリースの発表と併せてジェニー・ヤングスはモダンクラシカル/ピアノアンビエントの系譜にある涼やかで自然味溢れる「sunrise mtn」を公開しました。(ストリーミングはこちら

 

「この曲は、北ジャージーのキタティニー山脈にある、アパラチアン・トレイル沿いのストークス州立森林公園にあるピークの名前です」と、ジェニー・ヤングスは声明で説明している。

 

頂上に立つと、ニュージャージー、ペンシルバニア、ニューヨークが眼下に広がり、太陽が昇るのを見るのによく使われる場所です。

 

この作品は、水平線の向こうからやってくる新しい明日に向かって、顔を上げ、外を見るように誘っているのです。ジョン・マーク・ネルソンとこの作品(そしてアルバム全体)で一緒に仕事ができたことは、多くの理由からとても嬉しいことでした。


「sunrise mtn」


 

 

『from the forest floor』

 

Tracklist:


1. sunrise mtn [feat. John Mark Nelson]


2. dove island [feat. John Mark Nelson]


3. skylands [feat. John Mark Nelson]


4. tannery falls [feat. John Mark Nelson]


5. ambrosia [feat. John Mark Nelson & Hrishikesh Hirway]


6. hemlock shade [feat. John Mark Nelson]


7. dusk [feat. John Mark Nelson & Tancred]


8. night-blooming [feat. John Mark Nelson]


9. forager in the fern grove [feat. John Mark Nelson & Tancred]


10. moon moth [feat. John Mark Nelson & Tancred]


11. echolocation [feat. John Mark Nelson]


12. blue hour [feat. John Mark Nelson]

 


ロンドンを拠点とするチェロ奏者/ボーカリストのLucinda Chua(ルシンダ・チュア)が明日(3月24日)発売されるデビューアルバム『YIAN』の最終シングル「Something Other Than Years」を公開しました。yeule(シンガポールのソングライターであるNatĆmielのソロプロジェクト)をフィーチャーしている。

 

「Something Other Than Years」は「Echo」「Golden」に続く、彼女のデビューアルバム「YIAN」の最後の試聴音源となります。


プレスリリースによると、”YIAN”は「中国語でツバメを意味し、"Siew Yian "の一部であり、Chuaが中国の伝統とのつながりを保つために両親から与えられた名前」だという。Chuaのデビューアルバムに収録されている10曲のうち8曲は、Chuaがプロデュースとエンジニアリングを担当している。


『YIAN』は、今週3月24日(金)に4ADから発売される予定です。彼女は5月9日にロンドンのInstitute of Contemporary Arts (ICA)で公演を行います。チケットはlucindachua.comで発売中です。

 

「Something Other Than Years」

 Hanakiv 『Goodbyes』


 


Label: Gondwana Records

Release Date: 2022年3月10日



Review


エストニア出身、現在、ロンドンを拠点に活動するピアニスト/作編曲家、ハナキフの鮮烈なデビューアルバム。マンチェスターの本拠を置くGondwana Recordsは、同国のErased Tapesとならんで注目しておきたレーベルです。最近では、Olafur Arnolds、Hania Raniらの作品をリリースし、ヨーロッパのポスト・クラシカル/モダンクラシカルシーンにスポットライトを当てています。

 

ハナキフの記念すべきデビューアルバム『Goodbyes』は一見すると、ポスト・クラシカルを基調においた作風という点では、現代の著名なアーティストとそれほど大きな差異はないように思えます。多くのリスナーは、このアルバムの音楽を聴くと、アイスランドのオーラヴル・アーノルズ、ポーランドのハニア・ラニ、もしくは米国のキース・ケニフを始めとする音楽を思いかべるかもしれません。しかし、現在、停滞しがちな印象も見受けられるこの音楽シーンの中に、ハニキフは明らかに鮮烈な息吹をもたらそうとしているのです。

 

ハナキフの音楽は、アイスランドのヨハン・ヨハンソンのように映画音楽のサウンドトラックのような趣を持つ。ピアノのシンプルな演奏を中心に、クラシック、ニュージャズ、エレクトロニカ、これらの多様な音楽がその周囲を衛星のように取り巻き、常に音楽の主要な印象を曲ごとに変えつつ、非常に奥深い音楽の世界を緻密な構成力によって組み上げていきます。特筆すべきは、深いオーケストレーションの知識に裏打ちされた弦楽器のパッセージの重厚な連なりは、微細なトレモロやレガートの強弱のアクセントの変容によって強くなったり、弱められたりする。これらがこのアルバムを単なるポストクラシカルというジャンルにとどめておかない理由でもある。

 

アーティストはそもそも、エストニアが生んだ史上最高の作曲家、アルヴォ・ペルト、他にもジョン・ケージのプリペイドピアノ、ビョークのアートポップ、エイフェックス・ツインの実験的なエレクトロニック、他にもカナダのティム・ヘッカーのノイズ・アンビエント等、かなり多くの音楽を聴き込んでいる。それらの音楽への深い理解、そして卓越した作曲/編曲の技術がこのデビュー作ではいかんなく発揮されている。このアルバムには、現代音楽、ニュージャズ、エレクトロニカ、アンビエントと一概にこのジャンルと決めつけがたいクロスオーバー性が内包されているのです。

 

オープニング「Godbyes」において、ハナキフはみずからの音楽がどのようなものであるのかを理想的な形で提示している。ミニマルなピアノを根底におき、ポリリズムを用いながら、リズムを複雑化させ、リズムの概念を徐々に希薄化させていく。最初のモチーフを受けて、ハナキフは見事なバリエーションを用いている。最初のプリペイドピアノのフレーズをとっかかりにして、エレクトロのリズムを用い、協和音と不協和音をダイナミックに織り交ぜながら、曲のクライマックスにかけて最初のイメージとはかけ離れた異質な展開へと導く。モダンクラシカルとニュージャズを融合させた特異な音楽性を最初の楽曲で生み出している。曲のクライマックスではピアノの不協和音のフレーズが最初のイメージとはまったく別のものであることに気がつく。

 

続く二曲目の「Mediation Ⅲ」は、ジョン・ケージのプリペイド・ピアノの技法を用いている。ポピュラーな例では、エイフェックス・ツイン(リチャード・D・ジェイムス)の実験的なピアノ曲を思い浮かべる場合もあるでしょう。そもそもプリペイド・ピアノというのは、ピアノの弦に、例えば、ゴム等を挟むことで実際の音響性を変化させるわけなんですが、演奏家の活用法としては、必ずしもすべての音階に適用されるわけでありません。その特性を上手く利用しつつ、ハナキフは高音部の部分だけトーンを変化させ、リズムの部分はそのままにしておいて、アンビバレンスな音楽として組み上げています。特に、ケージはピアノという楽器を別の楽器のように見立てたかったわけで、その点をハニキフは認識しており、高音部をあえて強く弾くことで、別の楽器のように見立てようとしているのです。その試みは成功し、伴奏に合わせて紡がれる高音部は、曲の途中でエレクトロニカのサウンド処理により、ガラスのぶつかるような音や、琴のような音というように絶えず変化をし、イントロとは異なる印象のある曲として導かれていくのです。

 

3曲目の「And It Felt So Nice」は芳醇なホーンの音色を生かした一曲です。前の2曲と同様、ピアノを基調にしたトラックであり、ECMのニュージャズのような趣を持った面白い楽曲です。ピアノの演奏はポスト・クラシカルに属するものの、複雑なディレイ処理を管楽器に加えることでサイケデリックな響きをもたらしている。ピアノの叙情的な伴奏やアレンジをもとに、John Husselのような前衛的な管楽器のアプローチを踏襲しています。ここでも前曲と同じように、電子音楽で頻繁に用いられるエフェクトを活用しながら管楽器の未知の可能性を探求している。


4曲目の「Lies」では、二曲目と同じプリペイドピアノ技法に舞い戻る。一見して同じような曲のようにも思えますが、エストニアのアルヴォ・ペルトの名曲「Alina」のように、低音部の音響を駆使することにより、ピアノそのものでオーケストラレーションのような大掛かりな音楽へと導いていきます。前曲とミニマリズムという点では同様ですが、印象派の音楽として全曲とは異なる趣を楽しめるはずです。特に、ミニマルの次のポストミニマルとも称すべき技法が取り入れられている。ここで、ハナキフはプリペイドピアノの短いフレーズをより細分化することによって、アコースティックの楽器を通じてエレクトロニカの音楽へと接近しているわけです。

 

5曲目の「No Words Left」は、Alabaster De Plumeをゲストに迎えて制作されたミニマルミュージックとニュージャズの要素を絡ませた面白い楽曲です。ハナキフはジャズとクラシックの間で揺らめきつつ抽象的な構成を組み上げている。特に、「Goodbyes」と同様、モチーフのバリエーションの卓越性がきらりと光る一曲であり、時にその中に予期できないような不協和音を織り交ぜることにより、奇妙な音階を構成していきます。 時には、ホーンの演奏を休符のように取り入れて変化をつけ、そのフレーズを起点に曲の構成と拍子を変容させ、映像技術のように、印象の異なるフレーズを組み上げています。これが、比較的、ミニマル・ミュージックの要素が強い音楽ではありながら、常に聞き手の興味を損なわない理由でもあるのです。

 

6曲目の「Mediation Ⅱ」はおそらく二曲目と変奏曲のような関係に当たるものであると思いますが、ダイナミックなリズムを取り入れることにより、二曲目とはまったくその印象を変え、 作曲家/編曲家としての変奏力の卓越性を示している。時には、弦楽器のピチカートらしきフレーズを織り交ぜ、シンコペーションを駆使しながら、本来は強拍でない拍を強調している。そこにプリペイドピアノの低音を意図せぬ形で導入し、聞き手に意外な印象を与える。ある意味、バッハの鏡式対位法のように、図形的な作曲技法が取り入れられ、カンディンスキーの絵画のようにスタイリッシュでありながら、数学的な興味を駆り立てるようなトラックに昇華されている。

 

7曲目の「Home Ⅱ」は、このデビュー・アルバムでは最も映画のサウンドトラックのような雰囲気のある一曲で、アイスランドのヨハン・ヨハンソンやポーランドのハニア・ラニの音楽性に近いものを多くの聞き手は発見することでしょう。ピアノの演奏はすごくシンプルで簡潔なんですが、対比となるオーケストラレーションが叙情性を前面に押し出している。特に弦楽器の微細なパッセージの変化がまるでピアノ演奏と呼応するかのように変化する様子に注目です。

 

8曲目の「Home I」は、ポスト・クラシカルの曲としては王道にあるような一曲。日本の小瀬村晶の曲を彷彿とさせる。繊細でありながらダイナミックス性を失わず、ハナキフはこの曲をさらりと弾いていますが、その中にも他の曲にはないちょっとした遊び心が実際の鍵盤のタッチから感じ取ることが出来ます。フランスの近代の印象派の作曲家の作風に属するような曲ですが、それはやはり、近年のポスト・クラシカル派の楽曲のようにポピュラー・ミュージックのような形式として落とし込まれている。演奏の途中からハナキフはかなり乗ってきて、演奏そのものに迫力が増していく。特に、終盤にかけては演奏時における熱狂性すら感じ取ることが出来るでしょう。

 

近年、 ポストクラシカルシーンは似通ったものばかりで、少し停滞しているような印象を覚えていましたが、先日のポーランドのハニア・ラニとエストニアのハナキフを聴くかぎりでは、どうやら見当違いだったようです。特に、ハナキフはこのシーンの中に、ニュージャズと現代音楽という要素を取り入れることで、このデビュー作において前衛的な作風を確立している。MVを見ると、前衛的なバレエ音楽として制作されたデビューアルバムという印象もある。

 

エストニア出身のハナキフは、作曲家/編曲家として卓越した才覚を持ち合わせています。今後、映画のスコアの仕事も増えるかもしれません。活躍を楽しみにしたいアーティストです。

 

 

90/100

 


 


Mogwaiのスチュアート・ブレイスウェイト、エリザベス・エレクトラを擁する新集団、Silver Mothが、デビュー・アルバム『Black Bay』のプレビュー第2弾として「The Eternal」を公開しました。


「The Eternal」は、1月の「Mother Tongue 」以来となるグループのリリースで、Elisabeth ElektraとStuart Braithwaiteの親友Alannaへのトリビュートとして書かれた作品です。


Silver Mothは、Braithwaiteのほか、Elisabeth Elektra、Evi Vine、Steven Hill、Abrasive Treesのギタリスト/ソングライター、Matthew Rochford、Nick Hudson、ドラマー、Ash Babb、チェリスト、Ben Robertsが参加しています。Twitterでのやりとりをきっかけに、Zoomでミーティングを重ね、最終的にスコットランドのルイス島にあるBlack Bay Studiosで、プロデューサーのPete Fletcherとレコーディングを行ったのが、このプロジェクトの始まりでした。


「Black Bayに行くまではお互いのことを知らなかったから、スタジオに着いた途端、すごくクリエイティブなモードになった」と、Elisabeth Elektra(エリザベス・エレクトラ)は述べています。「私たちはバブルの中にいて、集団的な悲しみが続いてたから圧力釜のようなものだった。でも、そこから真の美しさが生まれたんだと思う」


Evi Vine(エヴィ・ヴァイン)は、「私たちは一度も会ったことがないのに、パワフルで美しく、天を衝くようなものを作ることができると、心の中ではわかっていました」と言う。「私たちは、確かなものに囲まれて、繰り返しの中で人生を過ごしています。理解したと思っていることを脇に押しやることも時には重要です。予期せぬ時に変化が訪れ、私たちは迷うのですからね」

 

Silver Mothのデビュー・アルバム『Black Bay』は元コクトー・ツインズのサイモン・レイモンド氏の主宰するBella Unionから4月21日に発売されます。



「The Eternal」

 


Arcade FireのメンバーであったRichard Parry、Sarah Neufeldを擁するモントリオールのBell Orchestreが昨年12月に発売された『Recording a Tape the Colour of the Light』に続いて、4月28日にセカンドアルバム『As Seen Through Windows』のリイシューをリリースします。


このリイシューと合わせて、バンドの友人でサックス奏者のColin Stetsonが参加した未発表のボーナストラック3曲を含むデジタルスペシャルエディション版も発売される。Recording a Tape the Colour of the Lightにより築きあげた土台をさらに発展させ、この傑作ではサウンドに磨きをかけ、引き締まったものに。ダイナミックなリード・シングル「Open Organ」は、これまで聴くことのできなかった作品のひとつ。


「"Open Organ "は、僕とピエトロのロフト "The Bread Factory "で、Bell Orchestreのショーやパーティーをやっていた時に思いついたことから始まった」とリチャード・リード・パリーは説明している。

 

「ドラムロールやウッドブロックを録音するためにテープマシンを速くしたり遅くしたり、ピッチを上下に曲げたりして実験したんだ。そして後半は、シカゴのソーマでジョン・マッケンタイアと録音しました。コリン・ステットソンとアンディ・キングが加わって、トランペットの火力が増したんだ」



Bell Orchestreは、アルバータ州の岩山にあるBanff Centreに滞在し、デビューアルバムの続編を書きあげた。タイトルの『As Seen Through Windows』は、この曲が書かれたリハーサルスペースからインスピレーションを得ている。その部屋は外壁2面がすべて窓になっており、映画のような山々の景色を眺めながら、時折エルクやディアの群れが通り過ぎるのが見えたそうです。


アルバムのプロデュースは、シカゴの伝説的ポストロックバンド「トータス」のドラマー兼プロデューサー、ジョン・マッケンタイア(Stereolab、Jeff Parker)。グループにとって憧れのプロデューサーとして仕事をすることになった。


バイオリニストのサラ・ノイフェルドは、「ジョン・マッケンタイアの前では、誰よりもスターウォーズしていたと思う」と言う。マッケンタイアは、スタジオでどんなことにも挑戦し、バンドに限りないインスピレーションを与えてくれました。


ラップスティール・ギタリストのマイケル・フォイアスタックは、レコーディング・セッションを振り返って、「私たちの絆や音楽制作の方法がユニークであることにどれだけ気づいていたかはわからないが、このレコーディングにはそれがはっきりと表れている」と語っている。

 

 

「Open Organ」(Bonus Track)

 

 「Quintet」(Bonus Track)

 



Bell Orchestre 『As Seen Through Windows』 Reissue


 

Label: Erased Tapes

Release Date: 2023年4月28日

 

Tracklist:

 

1.Stripes

2.Elephants

3.Icicles/Bicycles

4.Water/Light/Shifts

5.Bucephalus Bouncing Ball

6.As Seen Through Windows

7.The Gaze

8.Dark Lights

9.Air Lines / Land Lines

10.Open Organ(Bonus Track)

11.Quintet(Bonus Tack)

12.Icicles (Outdoor Version) (Bonus Track)


 

©Stephane Manel


元Daft Punkのメンバー、Thomas Bangalter(トーマス・バンガルデル)が七分に及ぶオーケストラの新曲「Le Minoutaure」を発表した。今作はバレエのためのオーケストラ・アルバム『Mythologies』の先行シングルです。

 

ニューアルバムは昨年初演された同名のバレエのためにフランスのコンテンポラリー・ダンス振付師であるAngelin Preljocaj(アンジュラン・プレルジョカージュ)が委嘱した。全23曲が収録され、バルガンデルのクラシカルへの最初の挑戦作でもある。

 

トーマス・バルガンデルの90分に及ぶスコアは、"電子音楽のリソースを利用するのではなく、交響曲の大規模な伝統的な力を伴うので、個人的かつ協力的なジェスチャーでオーケストラのバレエ音楽の歴史を受け入れる。"とある。


ダフト・パンクは2021年に解散を発表した。翌年、デビュー・アルバム『Homework』のデジタル・リイシューをリリース。Bangalterは以前、ギャスパー・ノエ監督の『クライマックス』のサウンドトラックに参加している。先週、Daft Punkは、4枚目のアルバム『Random Access Memories』の10周年記念エディションを発表。5月12日にコロンビアから発売される。


Thomas Bangalterのニューアルバム『Mythologies』は4月7日にErato/Warner Classicsからリリースされる予定です。



Lucinda Chuaが3月24日に4ADから発売されるニュー・アルバム『YIAN』から最新シングル「An Ocean」を公開しました。

 

ロンドンを拠点に活動するエクスペリメンタルアーティストLucinda Chuaのソロデビュー作となる本作は、5月9日にICAで開催されるロンドンでの特別公演に併せてリリースされる予定です。


 

 


Label: 灯台

Release: 2023年2月4日




Review  

 

今回、日本のエレクトロニカシーンの代表格、haruka nakamuraが1月13日に発売された前作のSalyuとの共作『星のクズ α』に続いて、コラボレーションの相手に選んだのは、驚くべきことに女優の鶴田真由さんです。鶴田真由はすでにテレビ、ドラマ、CM、映画、舞台と多岐にわたる業界で活躍していますが、ついに今作で音楽家としてのデビューを果たすことになりました。

 

最近、最初期の『Twilight』『Grace』といった時代から見ると、ピアノ曲が少なくなってきたなという印象のあるharuka nakamuraですが、この最新作では再度ピアノを交えたエレクトロニカに挑戦しています。意外にも思えるコラボレーションを行った鶴田真由ですが、この作品において詩の朗読、 ポエトリー・リーディング、またスポークンワードというような形での参加となっている。

 

ピアノのハンマーの音を生かしたポスト・クラシカル寄りのピアノ曲という点を見るかぎりでは、レーベルメイトであった小瀬村晶や、アイスランドのオーラブル・アルナルズの音楽を彷彿とさせる。

 

そして、淡々とこれらのピアノ演奏が展開されていくなかで、女優の鶴田真由の詩の朗読が加わります。鶴田真由の声は静かで落ち着きがあり、haruka nakamuraの流麗なピアノ音楽と上手く合致しています。両者の演奏における関係はどちらかが主役に立つかというのではなく、その役を曲によって臨機応変に変化させ、さながら水のように流動的な関係性を保っている。純粋な音楽としての提示というより、舞台的な枠組みを設け、ピアノと詩の朗読が一連の物語として繰り広げられてゆく。

 

今回、意外に思ったのは、これまで叙情的でピクチャレスクな音楽という側面からポップ、エレクトロ、ローファイ、モダンクラシカルと様々なジャンルの切り口を設けて作品を提示してきたharuka nakamuraですが、以前よりも感情の起伏に富んだ音楽を生み出しているということ。そしてこのアルバムは、日本のポスト・クラシカルシーンの中でメインストリームに位置づけられる叙情性と繊細さを尊重した作風となっているわけですが、同時に、インスト曲として聴くと、近年のアーティストの作品の中で最も明るさと力強さの感じられる内容となっています。

 

さらにまた、ピアノだけではなくて、これまでのharuka nakamuraの音楽の核心にあるアコースティックギターを中心とした楽曲は、福島のpaniyoloにも近い自然を寿ぐかのようなフォーク・ミュージックを思い起こさせる部分もある。そして、このアーティストが得意とするピアノとギターという2つの切り口から綿密に描かれる音楽の中に、さながら子供に童話を語りかけるような語り口で鶴田真由のボーカルが丁寧に乗せられている。そこには謙遜も不遜もなくただ自然な視点と姿勢で言葉が紡がれていく。そして、丹念にひとつずつの発音を大切にして読み上げられる朗読は、確かにその言葉から風景やシーンを換気させる力を持ち合わせているわけです。これは舞台や映画、ドラマをはじめとする豊富な経験を通じて、言葉の持つ力を信じ抜いている証拠でもある。ひとつひとつの言葉は、その内容が語り手により内的に吟味されているため、聞き手のこころ、もしくは頭の中にすっと入ってきて、物語のイメージを発展させていくのです。


『archē』は単なる両者のコラボレーションというには惜しいアルバムです。これは音楽家と舞台女優の織りなす12曲からなる自然な形のストーリーとも言えます。音楽と言葉という2つの要素から引き出されるイマジネーションを深く呼び覚まさせるような作品になっていると思います。

 

 

80/100

 

 Melaine Dalibert  『Magic Square』

 

 

Label: FLAU

Release Date: 2023年1月20日



Review

 

 

現代音楽シーンで注目を浴びるフランスの音楽家、Melaine Dalibert(メレーヌ・ダリベール)は、David Sylvian、Sylvain Cheauveauともコラボレーションを果たしている。ダリベールはパリ音楽院で現代音楽を専攻し、オリジナルのピアノ作品の他、ジェラール・ペソン、ジュリアーノ・ダンジョリーニ、トム・ジョンソン、ピーター・ガーランドなど多くの作品の斬新な解釈を行っている。数学的な観点からピアノの作曲を組み立てる音楽家という紹介がなされている。



 

昨年のフルアルバム『Three Extended Pieces for Four Pieces』に続く今作は、ミニマリズムのピアノ音楽に位置づけられる作品と言える。初見として聴いた時の印象として、一番近い作風に挙げられるのが、ドイツの現代音楽シーンで活躍したHans Otte(2007年に死去)のピアノ曲である。ピアニスト、Hans Otteは、稀有な才能に恵まれた作曲家/演奏家ではあったが、舞台音楽の監督や、ラジオ・ブレーメンの音楽監督など大きな国家的な仕事に忙殺されてしまったせいか、結果的に、作曲家としては寡作なアーティストとなってしまった。彼は、Herbert Henrikとのピアノの連弾を行った『Das Buch Der Klange』という作品、『Stundenbuch』の二作を再構築することに作曲家としての後世を費やした。特に、『Das Buch Der Klange』は、現代音楽の最高峰の作品のひとつで、おそらく、以前の日本の駅のプラットフォームで使用されていた環境音は、この中の一曲をモチーフにしていたのではなかったかと思われる。



 


メレーヌ・ダリベールのミニマル学派のピアノ曲は、#4「Perpetuum Mobile」に象徴されるように、Hans Otteの系譜に位置づけられてもおかしくない静謐で情感に富んだ作風となっている。また、それに加えて、これらの音楽は、雨の日に書かれたものが多いように思える。実際の風景から想起されるような哀感とせつなさが、このアルバム全体の音楽には漂っている。演奏の技術的なことはほとんどわからないけれど、きわめて緻密な音の構成がなされていることに注目しておきたい。その一方で、これらの楽曲からは一種のペーソスが醸し出されている。しかし、それほど重苦しくならず、爽やかな情感が全編には感じられるのである。

 

ついで、メレーヌ・ダリベールの楽曲の主要な性質を形成しているのが、ピアノの音が減退した後の凛とした静寂である。

 

これらは、作曲者が作曲時、及び演奏時に細心の注意を払うことによって、持続音の後に不意に訪れる休符から齎される静寂に重点が置かれていることが分かる。たとえば、「Choral」に見られるように、実際に鳴らされるピアノの構成音(縦向きの和音はコラールという形式の基本形を踏襲していると言えるか)と共に、音が途絶えた際に訪れる奇妙な清々しさという形で現れる場合もある。古典的なバッハのコラールでなく、現代的なコラール曲とも称することが出来るだろうか。



 

他にも、坂本龍一へのトリビュートとして制作されたという「A Song」では、エリック・サティのような癒やし溢れる情感を伴うピアノ曲として楽しめる。換言すれば、”ポスト・サカモト”とも称するべき独特な繊細性に富んだこの曲は、坂本龍一氏の作曲の核心を捉え、そのDNAを受け継ぎ、未来型を示唆している。さらに、これらのピアノ曲は、ミニマル学派に属するだけでなく、オリヴィエ・メシアンの代表作のように涼やかな和音に彩られ、レナード・バーンスタインの『5 Anniversary』の収録曲のように、近代和声以降の自由性のある和音の配置ーー徹底して磨き上げられた和声感覚ーーによって構成されていることにも着目しておきたい。

 

タイトル曲「Magic Square」では、モダンなエレクトロニカに近い手法を取り入れ、ピアノの演奏をグリッチ・ノイズの新奇性と融合させている。ダリベールは空間性の演出とそれに対比する形で繰り広げられる詩情溢れるピアノの演奏を繰り広げている。近年フランスのピエール・ブーレーズが設立した国立音楽機関”IRCAM”ではジョン・アダムズのような現代音楽の他、音響学的な前衛性を重きに置いた教育が行われていたと記憶しているが、ここには、ダルベールという人物のフランスの音楽家としての矜持も込められているような気もする。



 

さらに、タイトル曲では、運動している音符と休んでいる音符が連動しつつ、実際のリバーブの効果とあいまって、独特の雰囲気に充ちた奥行きのある空間性ーアンビエンスをもたらしている。これは、Christian Fennezと坂本龍一の2007年のコラボ・アルバム『cendre」で取り入れられた前衛的な技法に近い作風となっている。また、この曲は、アルバムの中で最も力強い存在感を擁するにとどまらず、ダルベールの作風の中心にある癒やしの情感も堪能することが出来るはずだ。 



 

最新作の全8曲は、現代音楽の作曲技法の蓄積により生み出された作品であるのは事実と言えるが、それほどマニアックな作風とはなっておらず、飽くまで一般的なリスナーの心に共鳴するような内容となっている。これはメリーヌ・ダリベールという音楽家が様々な音楽に親しんでいることの証拠ともいえるか。それは、心温まる情感、凛としたしなやかさ、そして、空間性に重点を置いた奥行きのあるピアノ音楽という形で多彩に表現されているのである。また、実際の音楽に触れた後の余韻……、これもまた本作の大きな醍醐味となるに違いない。『Magic Square』は、現代音楽に詳しくない方にも強くおすすめしておきたいアルバムとなる。

 

 

85/100 

 

「A Song」 
 



 

©Stephan Manel

 

Daft PunkのThomas Bangalter(トーマス・バンガルデル)が新しいソロアルバム「Mythologies」を発表しました。

 

このレコードはオーケストラ作品で、Erato/Warnerから4月7日にリリースされる予定です。昨年初演された同名のバレエのために振付師Angelin Preljocajが「Mythologies」を委嘱したそうです。


プレスリリースによると、Bangalterの90分のスコアは、"電子音楽のリソースを利用するのではなく、交響曲の大規模な伝統的な力を伴うので、個人的かつ協力的なジェスチャーでオーケストラのバレエ音楽の歴史を受け入れる。"とある。


ダフト・パンクは2021年に解散を発表した。翌年、デビュー・アルバム『Homework』のデジタル・リイシューをリリース。Bangalterは以前、ギャスパー・ノエ監督の『クライマックス』のサウンドトラックに参加したことがある。






Thomas Bangalter 『Mythologies』
 
 

Label: Erato/Warner
 
Release Date: 2023年4月7日 


Tracklist:

1. Premiers Mouvements
2. Le Catch
3. Thalestris
4. Les Gémeaux I
5. Les Amazones
6. L’Arrivée d’Alexandre
7. Treize Nuits
8. Danae
9. Zeus
10. L’Accouchement
11. Les Gorgones
12. Renaissances
13. Le Minotaure
14. Eden
15. Arès
16. Aphrodite
17. Les Naïades
18. Pas de Deux
19. Circonvolutions
20. Les Gémeaux II
21. Icare
22. Danse Funèbre
23. La Guerre

 



「When We Return To The Sun」は、Natalia Tsupryk(ナタリア・ツプニク)による最新の音楽集で、今年初めに発表されたコンピレーション「Piano Day」に続き、 LEITER(ニルス・フラームが主宰するベルリンのレーベル)での2作目のリリースとなる。


このEPの4つのトラックを通じて、ロンドンを拠点に活動するウクライナ人作曲家は、故郷の戦争を遠くから目撃し、突然に、そして痛ましいほどに変化した現実を処理し、対処するという非常に個人的な経験を共有している。


LEITERのベルリンのスタジオで録音されたこのEPは、12月9日からすべてのストリーミング・プラットフォームでダウンロードが可能、すでに「Mariupol」と「Son Kolo Vikon」の2曲がリリースされています。


「When We Return To The Sun」は、クラシックな楽器とエレクトロ・メカニカルな要素を組み合わせた、瞑想的で親しみやすい美しいセットとなっている。「Son Kolo Vikon」や「The Sun Was Low」といったピアノを中心とした室内楽曲から、「We Are Born」や「Mariupol」の深く暗いシンセサイザーまで、ツプリクの悲しみと絶望の感情を呼び起こす。長く残酷な戦争の時代における意志と愛の力について考察している。


弦楽器とピアノの独特な使い方が特徴的なNatalia Tsuprykの音楽は、クラシックのバックグラウンドを生かし、フォーク、エレクトロニカ、クラシック音楽の要素を融合させている。ローン・バルフ、ジェシカ・ジョーンズ、アンガス・マクレーなどのアーティストや作曲家と仕事をし、2020年にソロ・アルバム「Choven」、2021年にEP「Vaara」をリリースした。また、合唱団や劇場のために作曲し、フィクション、ドキュメンタリー、アニメーションを問わず、複数の映画祭で国際的に上映され、BAFTAの最終選考にも残った受賞作の音楽を担当しています。更に、ヴァイオリニストとしても、ソロ、室内楽団やオーケストラのメンバーとして、世界中で演奏している。

 

この新作についてナタリア・ツプニクは次のように説明する。


「ある朝、ウクライナの人々は、爆発音と戦車の光景で目を覚ましました。家族や多くの大切な友人が母国にいるため、最初の数時間、数日間、その場にいられないのは苦痛でした。

 

首都であり、故郷であり、私が生まれて初めて歩いた街であるキエフが、3日以内に陥落するという世界のメディアの報道を見ることは、私の人生で最も辛い経験でした。もう二度と自分の家を見ることができないかもしれない、家などないのかもしれない、もう戻れないかもしれない、と思うと、この上なく悲しくなった。あの日、私が一番後悔したのは、遠くに行ってしまったことです。この先も、このことが最大の後悔であり続けることを願っている。


あれから、いろいろなことが変わりました。私は2度ウクライナに行き、自分の目で現実を見た。要するに、私たちにとっては何も変わっていないのです。私たちはまだ2月24日の生活を続けている。食べること、寝ることに罪悪感を感じている。侵略者とまだ戦っている。外国人と話すたびに、自分たちのことを説明したり、正当化したりしなければならない。朝一番にニュースをチェックし、愛する人に生きているかどうかを尋ねます。予定も立てない。時には会話もままならない。


この数ヶ月間、言葉で伝えることができなかったことを、この音楽で伝えることができたことを、LEITERとそのチームにとても感謝しています。嫌なことがあると、脳が麻痺して、涙ひとつ流せなくなることがあります。これを共有できるのは幸せなことです。おそらく、今までで一番もろい音楽を発表する機会に恵まれたと思います。


 この文章を書いている時点では、戦争がどのように終わるかはわからない。しかし、最悪の事態はすでに過ぎていることを強く願っています。"


-Natalia Tsupryk(ナタリア・ツプリク)-

 

 

 





Natalia Tsupryk「When We Return To The Sun」

 



Label: Leiter-Verlag

Release: 2022年12月9日

 

Tracklist:

 

1.Son Kolo Vikon

2.The Sun Was Low

3.We Are Born

4.Marlpol

 




Natalia Tsupryk(ナタリア・ツプニク

 

 

弦楽器とヴォーカルを用いた独特な音楽が特徴的なナタリア・ツプニクの音楽は、クラシックのバックグラウンドを生かし、フォーク、エレクトロニクス、クラシックの要素を融合させている。最近のソロ作品「Elegy for Spring」は、ニルス・フラームのレーベルLeiterからリリースされた「Piano Day Vol.1 Compilation」の一部である。


ナタリア・ツプニクは、フィクション、ドキュメンタリー、アニメーションの各映画のスコアを担当し、Palm Springs、Indy Shorts、PÖFFなどの映画祭で国際的に上映され、BAFTAの最終選考に残った。2017年以降、ナタリアは、キエフ国立アカデミック・モロディ劇場とコラボレーション、「The Master Builder」や「Ostriv Lyubovi」など、いくつかの劇のスコアを担当しています。


ヴァイオリニストとしてのナタリアは、ウィーン楽友協会、ウィーン・コンツェルトハウス、ORF RadioKulturhaus、Synchron Stage Vienna、ウクライナ国立交響楽団などの会場で、ソロ、室内楽団やオーケストラのメンバーとして世界各地で演奏している。


また、作曲家ローン・バルフ、オーリ・ジュリアン、ジェシカ・ジョーンズ、アレックス・バラノウスキーらとセッションバイオリン奏者、ヴィオリストとして活動、「The Wheel of Time」(2021~)「Dopesick」(2021~)「The Tinder Swindler」(2022)といったプロジェクトに参加している。


ナタリアは、キエフのリセンコ音楽学校を卒業後、ウィーン市立音楽芸術大学でクラシックの教育を受ける。その後、国立映画テレビ学校で映画とテレビのための作曲の修士号を取得し、ダリオ・マリアネッリの指導を受けた。レコーディング・アーティストとして、ナタリアは2020年にデビューLP『Choven』を、2021年にEP『Vaara』をリリースした。また、アンガス・マクレーと2枚のEP「Silent Fall」(2021年)、「II」(2021年)でコラボレーションしている。



zakkubalan ©︎Kab Inc.


坂本龍一が「async」」以来、約6年ぶりとなるオリジナルアルバム「12」を発表しました。この新作アルバムは坂本龍一の誕生日に合わせて、2023年1月27日にcommonsから発売されます。また、本作はCD/ヴァイナル/デジタルの三形式で同時発売となる。アートワーク、トラックリストは下記より。




いまだ続く闘病生活の中、日記を書くように制作した音楽のスケッチから、12曲を選び1枚のアルバムにまとめた作品集。アートワークは「もの派」を代表する国際的な美術家、李禹煥(リ・ウファン)氏の描き下ろしとなる。収録曲はすべて坂本氏が曲を書き下ろした日付がタイトルになっている。公式サイトでは順次、commonsのスタッフのインタビューの模様が公開されるようです。




坂本龍一氏のコメントは以下の通り。



2021年3月初旬、大きな手術をして長い入院の末、新しい仮住まいの家に「帰って」きた。少し体が回復してきた月末のこと、ふとシンセサイザーに手を触れてみた。何を作ろうなどという意識はなく、ただ「音」を浴びたかった。それによって体と心のダメージが少し癒される気がしたのだ。

それまでは音を出すどころか音楽を聴く体力もなかったが、その日以降、折々に、何とはなしにシンセサイザーやピアノの鍵盤に触れ、日記を書くようにスケッチを録音していった。


スケッチを選びアルバムとしてみた。何も施さず、あえて生のまま提示してみる。今後も体力が尽きるまで、このような「日記」を続けていくだろう。 



坂本龍一



2022年に入り、坂本龍一は、盟友、アルヴァ・ノトとの共作アルバムのリイシューを行っている。この再編集は、アルヴァ・ノトの主宰するレーベル、Notonから発売され「v.i.r.u.s」リリースプロジェクトとして現在も続いている。


    




Ryuici Sakamoto 「12」





Label: Commons

Release: 2023/1/27



Tracklist:


01 20210310

02 20211130

03 20211201

04 20220123

05 20220202

06 20220207

07 20220214

08 20220302 - sarabande

09 20220302

10 20220307

11 20220404

12 20220304


 

Melaine Dalibert


 フランスの気鋭作曲家/ピアニスト、Melaine Dalibert(メレーヌ・ダルベール)がニューアルバム「Magic Square」を1/20にリリースします。この新作は日本国内のインディペンデントレーベル、FLAUから発売されます。(アルバムの先行予約はこちらから)

 

Melaine Dalibertは、ジェラール・ペソン、トム・ジョンソンなどの現代音楽作品や、同郷フランスのSylvain Chauveu Ensemble 0などのレコーディングで注目を集めており、David Sylvianも賛辞を送るアーティストです。

 

この新作アルバムより、坂本龍一へのトリビュートとして書かれたというファーストシングル「A Song」がリリースされました。

 

同時公開のミュージックビデオは、メロディックでありながら抑制された、暖かく心地よい和音がエリック・サティのプロト・アンビエンスを思い起こさせる。MVは、ビデオ・アーティスト/現代美術家Marcel Dinahet(マルセル・ディナエ)がディレクターを務めています。アートワーク、収録曲、作品紹介と合わせて下記にてご覧下さい。

 

 

「A Song」MV 

 

 

 

 

 

Melaine Dalibert 『Magic Square』 New Album

 


 

Label:FLAU

 

Release:2023年1月20日


Format:LP/DIGITAL

 

 

Tracklist:


1. Prélude
2. Five
3. Choral
4. Perpetuum Mobile
5. Ritornello
6. More or Less
7. A Song
8. Magic Square

 

 

Listen/Buy:

 

https://flau.lnk.to/FLAU99 

 

 

 

作品紹介

 

 現代音楽シーンで注目を浴び、David SylvianやSylvain Cheauveauともコラボレーションを果たす気鋭のピアニストがFLAUよりニューアルバムをリリース。夢想から生まれ、夢想のために設計された叙情的ピアノ組曲。

 

フランスのピアニスト、作曲家メレーヌ・ダリベールの新しいピアノ組曲 Magic Square の中心は「動き」。この場合、動き=移動とは必ずしも物理的なものではありません。実際、ここ数年の世界の歴史を振り返ると、多くの人にとって移動と旅行は遠い夢のようなものでした。


窓から屋根や電線を眺め、遠くに見える雲に覆われた青空を眺めながら漂う想像力。私たちが現実に目を向けず、手の届かないものへの憧れを抱いているとき、この音楽は夢想から生まれ、夢想のために作られました。

 

5分間に渡ってゆったりとした和音がペーソスを豊かに響かせる「Choral」の大胆な優しさから、「Prélude」のシンプルでうねるようなモチーフまで、Magic Square には穏やかで心地よい音楽がちりばめられています。


しかし、躍動感あふれる「Perpetuum Mobile」や、ポップな構成の「Five」など、キネティックな動きを伴う曲もあり、Magic Square の中で最もメロディックな「A Song」は、ノスタルジックな雰囲気に包まれている。


アルバムのタイトルそのものが、同名の数学的ゲームにちなんでおり、数学的概念を用いて音楽を創作してきたダリベールの出自が露わになります。例えば、7拍子の「Ritornello」は、落ち着かない子守唄のような響きです。

 

ダリベール自身が「ファンタジーの旅」と呼ぶように、「魔法の広場」の風景はメランコリーを帯びています。「More or Less」は、遠い未来への希望にしがみつき、その飾り気のない旋律の間の空間は、考えるための時間を提供してくれます。この組曲の最後を飾るタイトル曲は、あまりにも短い間、別世界への入り口であった窓を雨が流れ落ちるように、リスナーを現実の世界に連れ戻すのです。 

 


Melaine Dalibert   -biography-

 


Melaine Dalibertは現代音楽の作曲家として、オリジナルのピアノ作品の他、ジェラール・ペソン、ジュリアーノ・ダンジョリーニ、トム・ジョンソン、ピーター・ガーランドなど多くの作品の斬新な解釈で、注目を集めるフランスの作曲家/ピアニスト。


レンヌでピアニストとしての教育を受けた後、パリ音楽院で現代作曲家の作品のレパートリーを多く学ぶ。幼い頃から実験音楽にも親しみ、数学的な概念を通して作曲する方法を見出したという。

 

ハンガリー生まれのフランス人メディア・アーティスト Véra Molnarの作品に影響を受け、モートン・フェルドマンを思わせる引き伸ばされた時間の概念を含む独自のアルゴリズムによる作曲方法を開発し、フラクタル・シリーズという概念を取り入れたミニマルで内向的な作品を発表している。


彼のピアノ曲はこれまでに7枚のCDに収録されている:2015年に自主制作された「Quatre pièces pour piano」、2017年にAnother Timbreから発売された「Ressac」。2018年からはErstwhile RecordsやGravity Waveを運営するYuko Zama主宰のelsewhereから立て続けに4作品をリリースし、その全てのアートワークをデヴィッド・シルヴィアンが手がけ、「Night Blossoms」ではサウンド面でも協働を果たしている。最新作はIci d’Ailleurs からリリースされた「Shimmering」となる。

 

その他、FLAUからリリースされたSylvain Chauveau「Life Without Machines」やEnsemble 0、ギリシャ人作曲家Anastassis Philippakopoulosなどのアルバムにもピアニストとして参加している。フランス国内外の多くのフェスティバル、美術館、現代アートセンターでの演奏も活発に行っている。