映画、アニメ、CMの作曲家として多方面で活躍する、Rayonsがニューシングル「Aqua Spirit」をFLAUよりリリースしました。


「Luminescence」「A Fragment Of Summer」に続くシングルとなります。アートワーク、試聴、及び、配信リンクは以下より。

 

大ヒット映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」や河野裕原作のTVアニメ「サクラダリセット」、新田真剣佑×北村匠海W主演が話題となった映画「サヨナラまでの30分」など話題作のサウンドトラックを手がける日本人作曲家、Rayons。

 

今年最後となるシングル・シリーズの第3弾「Aqua Spirit」は、ポスト・クラシカルの世界に日本の美意識の繊細さと情緒的な深みを吹き込む感動的な楽曲。ピアノのミニマルなモチーフに、ストリングスの壮大さが融合したこの楽曲は、リスナーに水の満ち引きのような感情の波を呼び起こします。作曲の流動性と深みを連想させるタイトル通り、ピアノが広大な音楽の海の静謐な表層となり、弦楽器は感情の複雑さを何層にも重ね、深遠な感覚を生み出しています。



Rayons 「Aqua Spirit」‐ New Single



タイトル:Aqua Spirit
アーティスト:Rayons
アルバム発売日:2023年10月6日
フォーマット:DIGITAL
レーベル:FLAU

 

 

試聴リンク:

https://rayons.lnk.to/AquaSpirit 


配信リンク:

https://rayons.lnk.to/AquaSpirit


 

 

Rayons(レイヨン)

 
音楽家・中井雅子のソロプロジェクト。音大にて、クラシック、管弦楽法、ポップス、スタジオワークなどを学び、卒業後、音源制作を中心に据えた活動を開始。作曲、ストリングスアレンジ、ピアノ演奏等を行う。彼女が紡ぎ織りなす世界は、ファンタジーとダークネスな感情が重なり共鳴し特有の美しさとノイズを生み出している。

 

デビューミニアルバム『After the noise is gone』、Predawnをゲストに迎えたファーストアルバム『The World Left Behind』(2015)をリリース。映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」「サヨナラまでの30分」、TVアニメ「サクラダリセット」の音楽を手がける他、ゴンチチ、ももいろクローバーZ、小山田壮平、majikoらの作品に参加している。Rayonsとは、フランス語で「光線」「半径」の意。



 

米国のシンガーソングライター、M.ウォードは6月にANTI-から最新作『Supernatural Thing』をリリースしました。このアルバムはWeekly Music Featureとしてご紹介しています。


今回、ウォードは、1990年代の任天堂のビデオゲームにインスパイアされたアルバム収録曲「Engine 5」のビデオを公開しました。この曲には、スウェーデンの姉妹デュオ、ファースト・エイド・キット(クララとヨハンナ・セーデルベリ)が参加しています。ビデオはアンバー・マッコールが監督とアニメーションを手がけた。


 


ファースト・エイド・キットはストックホルム出身の姉妹で、彼女たちが口を開くと何かすごいことが起こるんだ。ストックホルムに行き、そこで数曲レコーディングするのはとてもスリリングだったよ。
エヴァリー・ブラザーズ、デルモアズ、ルーヴィンズ、カーターズ、セーデルベルグなど、血のつながったハーモニー・シンガーのヴォーカルは、どれも同じようなフィーリングを持っているんだ。


最新アルバム「Supernatural Thing」には他にも、Jim James、Neko Case、Shovels & Rope、Kelly Prattも参加している。


アルバムには、ウォードのオリジナル曲に加えて、2曲のカヴァーが収録。デヴィッド・ボウイの最後のアルバム『Blackstar』の「I Can't Give Everything Away」と、クローズ曲として収録されているダニエル・ジョンストンの「Story of an Artist」のライブ演奏である。ウォードはサード・アルバム『Transfiguration of Vincent』(2003年)でボウイの「Let's Dance」をカヴァーしている。


ロンドンを拠点に活動するドリーム・ポップ・デュオ、dearyのセルフタイトルのデビューEPがソニック・カセドラルから11月17日にリリースされます。6曲入りのこの作品は、数種類のヴァイナル盤と、5曲のボーナストラックとリミックスが追加されたCDの2バージョンが発売される。


1月末にリリースされたデビュー・シングル「Fairground」は、即座にクラシックとなった。シューゲイザーの美しさとトリップホップのビートがミックスされている。世界中でオンエアされ、サン・テティエンヌによるリミックス、オフィシャル・チャートのレコード・シングル・チャートで1位を獲得するなど、リアルタイムで多くの人々がこの曲に夢中になっています。


EPには、ダークな「Beauty In All Blue Satin」、ニューシングル「Sleepsong」、その他3曲の新曲が収録されており、ロンドンのトロクシーでのスローダイヴのサポート・スロットに続いてのリリースとなる。



 



deary 『deary』 EP




Tracklist:


1. Heaven

2. Only Need

3. Fairground

4. Want You

5. Sleepsong

6. Beauty In All Blue Satin


CD-only bonus tracks:

7. 2000 Miles

8. Fairground (Hide In Glass Mix)

9. Fairground (Saint Etienne Meet Augustin Bousfield At The Top Of Town Mix)

10. Fairground (Extended Mix)

11. Fairground (Live)



Pre-oder:


https://linktr.ee/dearyband




 細野晴臣 『Undercurrent』EP

 

 

 

 

Label: カクバリズム

Release: 2023/10/4




Review


映画『アンダーカレント』は、フランスのアングレーム国際漫画祭にてオフィシャル・セレクションに選出され、国内外から高評価を受ける一作。


豊田徹也の長編映画『アンダーカレント」の実写化作品。真木よう子、リリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこ等、実力派俳優が終結し、今泉力哉が監督を務めた。今回、この映像作品のための音源を細野晴臣は制作しました。EP『Undercurrent」は、来年1月にアナログ盤としても発売予定。

 

ここ数年、ボーカルトラックやジャズ等を発表してきた細野晴臣としては珍しく完全な実験音楽に挑戦した一作。リリースに関して、アーティストは、「映画用に、音の断片をシンプルにすっぴんに近い形で作りました」と説明しています。映像のイメージの換気力は十分で、多数のサンプリングやフィールド・レコーディングの手法を用いた前衛的なコラージュを散りばめている。


一例では、映画評論家であるジェイムス・モナコは、映像のサウンドトラックという形式に関して、「サウンドトラックは映像の付加物として生まれたが、その中には実際の映像を上回る意義深い作品も存在する」と著作において指摘していますが、「Undercurrent」はそういった類のEPであるようです。


無論、映像効果的な手法、コラージュにより構築される効果音としての性質を反映させた六曲は、映像のワンシーンやカットのイメージを引き出すための装置として機能する。一方で、単体の音楽作品としても聴きごたえがあり、陰影やコントラストを生かしたイメージを、流麗な音の調べを介して聞き手の脳裏に呼び起こす。かつて、吉祥寺の映画館「バウス・シアター」の閉館時のイベントに出演した細野氏ではありますが、この音源にはキネマに対する普遍的な愛情に加え、音楽制作者としての鋭い洞察力が音の片々に滲み出ています。


「Bath & Frog」は、ミステリアスであるとともに、また、いささか不気味な印象を持つ抽象的なドローン/アンビエントで始まります。


「風呂と蛙」という、日常によく見られる現実的な事物を題材に取りながらも、実際の音楽はどことなく非現実的であり、また、シュトックハウゼンに象徴されるクラスター音の技法を取り入れながら、アヴァンギャルドな空気感を生み出す。その中に、さらにアナログのシンセを用い、ノイズの歪みをもたらし、さながら空間の中に軋轢をもたらすかのようです。


一連のドローン風のシークエンスの流れは、やがて、太鼓のようなパーカッシヴな効果音を取り入れ、現実感と非現実感の間にある抽象的な音像空間を生み出す。制作法に関しては西洋的な観念をもとにしていると思われますが、しかし、それと相対する形で導入される日本の太鼓のような効果音は、松尾芭蕉の俳句の世界を連想とさせる。つまり、鈴木大拙が指摘するように、「古池や〜」の句は、蛙が水の中に飛び込むことにより、それまで自分の周りにあった静けさーーサイレンスの正体ーーをあらためて知覚し、森羅万象がその光景に含まれていることに思い至る。

 

「Underwater」は、一曲目とは対象的に、モダン・クラシカルや、ポスト・クラシカルを基調とした楽曲である。


ピアノのミニマルな演奏は神秘的なイメージの換気力を呼び起こす。ピアノは、ギャヴィン・ブライヤーズの『The Sinking Of The Titanic』や、ウィリアム・バシンスキーの『Watermusic」で好んで用いられた音像を曇らせるリバーヴ効果が取り入れられています。


しかし、これらのミステリアスな印象は、その後のシンセサイザーの導入によって、全く別の印象性を帯びるようになる。効果音的なマテリアルを配したかと思えば、その音の背後には、安らいだ感じのあるシンセの音像がその空間性を増していき、音像全体を柔らかく包み込む。


イントロの段階では、モダン・クラシカルの手法であったものが、中盤にかけてアンビエントへと緩やかに変遷を辿る様子が示されています。その後、それらの抽象的な音像は、音の解像度を敢えて落とすことにより、ドローンに近い音楽へと変化していきます。


 「Memory」では、人間の観念の中にあるきわめて得難い何かを表現しているように思えます。


前曲のある種清らかな印象を要するイントロの後に、複雑怪奇なシークエンスが連なっています。時にそれは、パンフルートを用いた効果音によって、ノイズや歪みという表現によって、また、モジュラー・シンセのフレーズによって、様々な形而下の世界が描出されている。


インダストリアル・ノイズのような硬質な印象を持つ電子音楽は、坂本龍一が遺作で鋭く描き出した人智では計り知れない無限性を解釈したような、神秘性/表現性へと繋がっていく。これまでの細野作品の中で、最も前衛的であり、また、画期的な楽曲とも言えるでしょうか。

 

「Lake」は同じように、前曲の神秘性を受け継いだイントロで始まる。ピアノの安らいだ演奏に加え、ウィンドチャイムのような音色がそれらのミステリアスな雰囲気を引き立てています。


やがてこの曲は、このアルバム全体の主要なイメージを形成しているアンビエント/ドローンのような抽象的な音像の中に縁取られていく。デチューン/リバーブ/ディレイを効果的の用いたピアノの明るさがそれらの音全体に働きかけ、水辺に満ちる清涼なアトモスフィアや空気感を綿密に作り上げる。


そして、ピアノの演奏は、背後に満ちるシンセのシークエンスに支えられるようにし、癒やし溢れる結末に導かれます。


多数の音源や楽器が使用されているとは思えないものの、音の特性や音響性を上手に活用し、美麗な印象を作り出す。この曲には、アーティストにとっての美的な感覚とは何を示唆するのかをうかがい知ることが出来るでしょう。

 

タイトル曲「Undercurrent」でもそういった美麗な感覚が維持される。


ピアノのシンプルな演奏がシンセサイザーのパーカッシヴな音色とかけ合わさることで、安らいだ水の中にある宇宙的な観念を生み出しています。ミニマリズムに根ざした親しみ易いピアノのフレーズは、クローズ曲「Reverberation」の呼び水の役割を持ち、ある種ロマンティックなイメージを擁しています。曲の中盤では、シンセサイザーの演奏の中に遊び心を取り入れ、ピアノの通奏低音のベースとなる音を基軸にしながら、物語性に富んだ音楽へと結実させています。

 

最後の曲「Reververation」ではグリッチに近い音色を取り入れて、 アルバムの序盤のミステリアスなイメージへと回帰します。


作品には仏教的な円環の考えが取り入れられ、全体の構造を強固に支えています。クローズ曲に充ちる、非現実的な印象性は、これまで細野氏があまり書いてこなかった作風であるように感じられます。


ミニアルバムという形式、さらにインストゥルメンタルという形態をとる、旧来の細野晴臣の作品で最も手強い楽曲集です。何度か繰り返して聴くと、未知の発見があるかもしれません。また、このアーティストの表向きのイメージを一変させてしまうようなアルバムです。


音楽を楽しみつつ映像作品に触れると、映画としての良さがより伝わるかもしれません。『Undercurrent』は10月6日公開予定です。シネマの予告編はこちらよりご覧下さい。 


86/100

©Ethan Hickerson

 

ワイルド・ナッシングが、近日リリース予定のフルアルバム『Hold』からのニューシングル「Dial Tone」を公開しました。このシングルは、先にリリースされたハッチーをフィーチャーした「Suburban Solutions」「Headlights On」に続く作品。Min Soo Park監督によるビジュアルは以下よりご覧下さい。


Wild Nothingのニュー・アルバム『Hold』は10月27日にCaptured Tracksからリリースされる。


「Dial Tone」



ボーイジーニアスは、火曜日の夜、The Late  Showの復活を祝うためにステージに上がり、「Cool About It」を披露した。


ジュリアン・ベイカー、フィービー・ブリジャーズ、ルーシー・デイカスのトリオは、1本のマイクを囲むように位置し、落ち着いたバラードを歌った。パフォーマンスは、3人のミュージシャンがキスのために身を乗り出すところで最高潮に達した。


今月末、boygeniusは、3月にリリースされたレコードに収録されなかった曲を集めた4曲入りEP『rest』をリリースする。ベイカー、ブリッジャーズ、デイカスのスーパーグループは、ここ数ヶ月でインディーズ界に旋風を巻き起こし、2023年のベストソングのひとつをリリースし、バラク・オバマの2023年夏のプレイリストに登場した。




カルフォルニアのエレクトロニックプロデューサー、Marina Eyesがニューシングルをリリースしました。前作アルバムでは西海岸の海岸の風景をモチーフにした安らいだアンビエントを制作しています。


今回のニューシングル「Half Dreaming」は現実の光景にある幻想性に焦点を絞ったとプレスリリースには書かれている。「私は先月、カリフォルニア南部に大雨が降ったときに『半分夢を見ている』と書いた。この一度きりのシングルは、私の声の小さなうねり、オスモーズ・シンセ、フィールド・レコーディングだけを使った、私にとってちょっと新しい静かな方向性の曲だ」


「そして、この曲を彼の最近のディープ・ブレックファスト・ミックスでシェアしてくれた夫のジェイムズにも感謝します。そして、今後数ヶ月のうちに、さらに多くの音楽がリリースされる予定です(Marine Eyes #3を含む)! 愛を込めて、シンシア」






アンビエントの名盤ガイドもあわせてお読みください:


アンビエントの名盤 黎明期から現代まで

 


スピリチュアライズド(別名ジェイソン・ピアースとバックバンド)は、2003年のアルバム『アメイジング・グレイス』の20周年記念盤の再発を発表し、アルバムの "Rated X "の未発表ビデオを公開しました。アメイジング・グレイス(20周年記念盤)』はファット・ポッサムから2024年1月19日発売予定。再発盤のトラックリストとジャケット・アートワークは以下の通り。


エンジニアのマット・コルトンがロンドンで『アメイジング・グレイス』をヴァイナル用にリマスタリングし、180グラムのアルバムにはメトロポリス・マスタリングによるラッカー・カットが施されている。リイシュー盤は、マーク・ファローがデザインしたゲートフォールド・ジャケットに収められ、通常のブラック・ヴァイナル・プレスのほか、限定盤のドーヴ・グレー・ヴァイナルも発売される。


『Amazing Grace』は、スピリチュアライズドの前2作、1997年の『レディース・アンド・ジェントルメン ウィ・アー・フローティング・イン・スペース』と2001年の『レット・イット・カム・ダウン』の壮大な展開と比べると、よりガレージ・ロック的なサウンドを取り入れた。このアルバムはウェールズのロックフィールド・スタジオでわずか3週間でレコーディングされ、中心メンバーはピアース、ジョン・コクソン、トニー・フォスター、ティム・ルイスだった。


「このアルバムに先立つ2枚のアルバムでやっていたこととは、ほとんど正反対だった」と、ピアースはプレス・リリースに収録されたアルバムについて語っている。「私たちは『Ladies and Gentlemen We Are Floating in Space』と『Let it Come Down』をレコーディングし、物事をできる限り押し進めた。そして、もう少しスペースがあるレコードを作りたかったんだ」


バンドの他のメンバーは、新鮮さを保つために、それぞれの曲がレコーディングされる朝まで曲やデモを聴いていなかった。


「曲のアイデアは、永遠に追い続けるつもりはないということだった」とピアースは言う。「これは、前の2枚のアルバムでやっていたこととほとんど正反対なんだ。


「というのも、このアルバムは成功しているようで成功していない。静かな曲は本当に特別なんだ。「Oh Baby」や「Rated X」のように、時間の中で奇妙な位置を占めている。これらのレコーディングでは、非常にユニークなものを捉えた。即座に捉えられるものもあるし、それ以上のものはない」


「ヘヴィーな曲は、レコードに収録されているのと同じように、速くレコーディングするのが簡単だと思っていたけれど、実際には、より長い時間をかけて練り上げることができたから、結果的に良かったんだ」


『アメイジング・グレイス』というタイトルのアルバムだが、スピリチュアライズドはこのゴスペル・スタンダードを実際にはカバーしていない。


ピアースはこう説明する。「”Hold On”のトップは、僕らが作った "Amazing Grace "のライヴ・レコーディングの一部だったんだ。だから、あの曲にはこのアルバムのための根回しみたいなものがあったんだと思う。私たちはアメリカをツアーしていて、アメリカの音楽の多くがアイルランドやスコットランドのルーツから生まれたこと(『アメイジング・グレイス』は1773年にドニゴールで書かれた)、そしてアメリカの音楽のるつぼに入った他のすべてのものについて話していた。この曲で遊んでいた時期もあったんだけど、アルバムには入れなかったんだ。必要ないと思った」

 

「She Kissed Me」


「Cheapstar」

 

 

「Rated X」

   

 



Spritualized 『Amazing Grace (20 Year Anniversary Edition)』

Label: Fat Possum

Release: 2023/1/19


Tracklist:


1. This Little Life of Mine 

2. She Kissed Me (It Felt Like a Hit)

3. Hold On

4. Oh Baby

5. Never Goin’ Back

6. The Power and the Glory

7. Lord Let It Rain On Me

8. The Ballad of Richie Lee

9. Cheapster

10. Rated X

11. Lay It Down Slow

©Ebru Yildiz

ブルックリンを拠点とするシンガーソングライター、TORRES(別名 マッケンジー・スコット)がニューアルバム『What an enormous room』を発表しました。この発表と同時にファーストシングル「Collect」が配信されています。


『What an enormous room』はMergeより2024年1月24日リリース予定。Collect」のビデオはダニ・オコンが監督。アルバムのトラックリストとジャケット・アートワークは以下の通り。


「この曲は正義が果たされることを歌っている。何年も書こうとしていた怒りの曲だ!」とスコットはプレスリリースで語っている。


スコットはサラ・ジャッフェと共にアルバムをプロデュースし、昨年秋にノースカロライナ州ダーラムのスタジアム・ハイツ・サウンドでレコーディングした。ライアン・ピケットがエンジニアを務め、TJ・アレンが海外のブリストルでミックス、ヘバ・カドリーがマスタリングを担当した。


アルバムのバイオグラフィーを書いたボーイ・ジーニアスのジュリアン・ベイカーは、次のように語っている。「TORRESについて言えることは、この音楽は確信に満ちたところから生まれているということだ...。そして、聴いていて信じられないほど良い音楽だと思う」

 

 

「Collect」



「I got the fear」



TORRESはアルバムからのファースト・シングル「Collect」を発表しているが、今日はそれに続く新曲「I got the fear」を公開した。以下よりご試聴下さい。


マッケンジー・スコットはこの曲について、次のように説明している。「集団的な恐怖が高まっている。戦争、気候の大災害、パンデミック、世界的な人権の後退、政治的な地獄絵図...。希望を取り戻す方法を見つけることが本当に重要だと思う。私はここで、できることなら道を照らすような手助けをしたいと思っている。ほとんどの日、私は人類が道を見つけると本当に信じている。しかし、もしかしたらそうならないかもしれないという不安がつきまとう。絶望的だと信じる種が自らを破滅させるというのは、自己成就的予言なのだろうかと思わざるを得ない」




 ・「Wake to flowers」



TORRES(別名: マッケンジー・スコット)は、近日発売予定のアルバムの最新曲「Wake to flowers」をMergeからリリースした。

 

シンセ・ポップとエクスペリメンタル・ポップの中間域を漂うかのようなアプローチを取るマッケンジー・スコットであるが、最新シングルではクランチなギターとベッカ・マンカリやニューヨークのシンセポップグループの性格を思わせる清涼感のあるインディーポップサウンドが魅力だ。

 

シングルと同時公開された「Wake to flowers」のMVは前二作のミュージックビデオを制作した、スコットのコラボレーターであるダニ・オコンが監督。マッケンジー・スコットは次のように説明している。


「"希望 "の後に "失望 "が訪れることはよくある。人は恐ろしいほど回復力がある。私たちは日頃から楽観的で、何かが欲しくて打ち砕かれることが多い。もしかしたら、私たちの全力とエネルギーを費やして、それでも実現しないことがあるかもしれない。それでも、物事が自分の望んだ通りにならないと不安になったり、あまり楽観的でなかったかもしれないのに、望みをすべて叶えてしまったことはないだろうか? これはよくあることのような気がするけど、それを認める声はあまり聞かない。この曲は、そのことを常に意識しておくための私の方法なんだ」

 

 




アルバムのレビューはこちらよりお読み下さい。


 

Torres 『What an enormous room』



Label: Merge

Release:  2024/1/24

 

 

Tracklist:


1. Happy man’s shoes 

2. Life as we don’t know it

3. I got the fear

4. Wake to flowers

5. Ugly mystery

6. Collect

7. Artificial limits

8. Jerk into joy

9. Forever home

10. Songbird forever


 Wilco 『Cousin』

Label: dBpm

Release :2023/9/29/


Review



ジェフ・トゥイーディー要するシカゴの6人組、Wilco(ウィルコ)の新作アルバム『Cousin』は、フロントマンが「この世界を従兄弟のようであると考える」と述べるように、世界に対する親しみや愛情が凝縮された一作。酷いことばかり起こると考えることもできれば、それとは反対にジェフ・トゥイーディーのように、素晴らしきものと考える事もできる。トゥイーディーの考えは、かつての偉大なフォーク・シンガーの巨人と同じように、偏った見方を本来のフラットな考えへと戻してくれる。悪い面に焦点を当てることもできれば、それとは別の良い面に目を向ける事もできる。米国南部では、先月辺りから不法移民問題が抜き差しならぬ問題となっているらしいものの、別の良い側面は、実のところ、すぐ目の前に転がっているということなのです。

 

少なくとも、2000年代から良質なインディーロックの継承者として活躍してきたWilcoは少なくとも後者の良い側面に目を向けるバンドであるようです。


昨年の二枚組のアルバム『The Cruel Country』(レビュー)では古典的なフォーク/カントリーの音楽性に転じたWilcoは、この最新アルバムで、それらの音楽性を踏襲しつつ、2000年代の傑作『Yankee Hotel Foxtorot』に見受けられる実験的なインディーロックのアプローチを取り入れている。


そして、もうひとつ、ベッドルームポップやAlex Gのように、モダンなインディー・ロックのアプローチをウィルコ・サウンドの中に取り入れ、旧来のアルバムの中でも魅力的な一作を生み出した。その新鮮なサウンドを構築するために一役買ったのが、ウェールズ出身のシンガーソングライター、ケイト・ル・ボン。ルボンのマスター/ミックスはWilcoの良質なメロディーセンスを上手く引き出している。

 

前作では、現実的な感覚に根ざした音楽に取り組んだウィルコ。『Cousin』では、夢想的な雰囲気が全体に立ち込めている。


果たして、ケイト・ル・ボンのプロダクションによる賜物なのか、ウィルコの甘いメロディーがそうさせているのか、そこまでは定かではないものの、オープニング「Infinite Surprise」から、ボン・イヴェールのごときサウンド・プロダクション(ギターやベース、ドラムのミクロな要素を重ね合わせたトラック)に、トゥイーディーのフォーク/カントリーに触発された穏やかでほんわかしたボーカルが乗せられる。


イントロから中盤に掛けて、曲そのものが盛り上がりを見せると、サウンド・プロダクションも複雑になり、フィルターを掛けたホーン・セクションにディレイの効果を与え、バンドサウンドやボーカルの雰囲気を絶妙に引き出す。途中からトゥイーディーのボーカルがアンセミックな響きを帯びると共に、ネルス・クラインのサイケデリックなギターがコラージュのように散りばめられていく。


何より、手法論に終始していた印象もあった前作に比べると、トゥイーディーのボーカルにはビートルズのような親しみがあり、また前作には求めがたかった感情的な温かさに充ちている。幻想的な雰囲気は曲のアウトロにかけてより顕著になる。「Infinite Surprise」のリバーブを交えたコーラスが夢想的なイメージを携えてフェードアウトする。最後は、アルバムのアートワークに表される、花火をかたどった前衛的なノイズで印象的なオープニングを飾っている。


昨年、ジェフ・トゥイーディーは、フォーク/カントリーのカバーを個人的な録音やアーカイブとして発表していたが、前作のフルレングスに続いて、それらのフォーク/カントリーへの愛着が「Ten Dead」に示唆されている。CSN&Y、Niel Youngの黄金期を彷彿とさせる芳醇なギターのアルペジオの後、ディランのように渋いトゥイーディーのボーカルが加わり、ワイルドな印象を生み出す。これらの堅実なフォーク/カントリーのアプローチは、バロック・ポップのような意外性のある移調を巧みに織り交ぜながら、当初のモチーフへと回帰していく。ペダル・スティールは使用されていないけれど、それをあえてエレクトリックギターで表現しようとしているのが何ともウィルコらしいといえる。やがて、呟くような内省的なトゥイーディーの声は、サイケデリックなギターラインと掛け合わされて、オープニングと同じように夢想的な雰囲気でアウトロに向かってゆく。

 

ウィルコは今作の制作に関して、00、10年代前後のインディーロックバンドに触発を受けているという印象もある。「Leeve」では、Real Estate(バンドのメンバーであるMartin Courtneyは、良質なソロ・アルバム『Magic Sign』をDominoから発表)がデビュー作で試行したレトロな感覚とオルトロックの融合に近い質感を持ったスタイルに取り組んでいる。そして、フォーク/カントリーの範疇にあった前の2曲とは対象的に、トゥイーディーのボーカルは、ルー・リードのようなポエトリー・リーディングの影響を加味したようなスタイルへと変化する。ここに、ウィルコというバンドのオルタネイトな性質を読みとることが出来るが、それをセンス溢れるクールな楽曲として昇華させているのは、バンドの長い経験とキャリアによる賜物であるとも言える。


「Evicted」では、前作のフォーク/カントリーのルーツへの探求をより親しみやすい形で昇華している。フォーク・ソングのスタイルとしてはニール・ヤングや、サザン・ロックの影響を思わせるものがあるが、やはりジェフ・トゥイーディーのボーカルのメロディーは徹底して分かりやすく伝わりやすいようにシンプルさを重視している。ウィルコが古典的なアプローチを取り入れようとも、それは決して古びた感じにはならず、比較的、スタイリッシュな印象のあるモダンな曲としてアウトプットされている。「Never Gonna See You Again」といった、少しセンチメンタルで湿っぽいリリックを散りばめながら、情感豊かなフォークソングのアンセムを作り上げている。

 

「Sunlight Ends」では、ケイト・ル・ボンのプロデュースの性格が色濃く反映されている。The Nationalの最新作のようなモダンなサウンドであるが、これはまた2000年代のフォーク/カントリーバンドとは別の実験的なロックバンドとしての性質が立ち現れた一曲となっている。それは間奏曲のような意味もあり、またアルバムの中に流れをもたらすような役割を果たしている。


続く「A Bowl and A Pudding」は、新旧のフォークの音楽性が取り入れられる。アコースティクギターの滑らかな三拍子のアルペジオを基調にした良曲である。特に、中盤にかけてトゥイーディーのボーカルはバラードに近い性質を帯びる。哀愁を備えたメロディーラインは、しなやかなグレン・コッチェのドラミングと合わさり、ジョージ・ハリソンのソロアルバムのような清廉な感覚を持つ曲調へと変遷してゆく。この曲にウィルコの真骨頂が表れているというべきか、または、彼らが2000年代から多くのファンの支持を獲得してきたのか、その理由の一端が示されているという気がする。


アルバムのタイトル曲「Cousin」では、マージー・ビートやモッズ・ロックに代表される70年代のロックのプリミティヴな感覚を復刻させている。


ギターラインに関しては、The Whoのピート・タウンゼントのシンプルではあるがロックンロールの核心を捉えたサウンドに近い玄人好みの感覚が引き出されている。そのバンドサウンドに呼応し、ジェフ・トゥイーディーのボーカルも他の曲に比べると、ロックシンガーのようなクランチな性質を帯びている。これらのサウンドは、ケイト・ル・ボンのモダンなサウンドプロデュースと綿密な連携が図られることによって、懐古的ではありながら、精細感のあるグルーヴ感を生み出すことに成功している。さらに、この曲では、フォーク・カントリー、オルト・ロックとは別のスタンダードなロックンロール・バンドとしての意外な一面を見出すことが出来るはずである。


さらに、「Pittsburgh」では、バラードに近い静かな印象に充ちた涼やかなフォークと、彼らの代名詞である実験的な音楽性を綿密に融合させ、ウィルコ・サウンドの真骨頂を示そうとしている。繊細なサウンドとダイナミックなサウンドが絶えず立ち代わりに出現した後、トゥイーディーの情感たっぷりのボーカルが、その後の展開を先導していく。ボーカルの渋さは細野晴臣の声の性質に近いものがあり、もちろんそれは良いメロディーとリズムという要素を重視しているから発じる。そして、ル・ボンのイヴェールに近い志向を持つしなやかなプロダクションは、ボーカルの声の渋さを引き出し、ある種の郷土的な愛着のような感覚をボーカルや言葉からリアルに立ち上らせる。


それらの感覚的なものは、フォークを基調にした、静かで落ち着いたサウンド、ディストーション・ギター、グレン・コッチェのノイジーなドラムを生かしたダイナミックなサウンドと交差するようにし、なだらかな起伏を全体に描いている。そして、それらの抑揚を支えているのは、やはり、マルチインストゥルメンタリスト、マイケルとパット、そしてネルス・クラインによって織りなされる緻密なプロダクション、リズムを強調したバンドサウンド、ボーカルの3つである。この曲は、ウィルコが新しいサウンドを生み出したことの証になるかもしれない。

 

「Soldier Child」では現行のインディーフォークと親和性のあるアプローチを示し、アルバムを締めくくると思いきや、クローズ「Meant to be」では、ウィルコのバンドとしての潜在的な可能性が示唆されている。アルバムの冒頭の2曲と同じように、夢想的な感覚とともに、明るい感じでこの作品を締めくくる。こういった晴れやかな感覚は、実は前作にはそれほどなかった。とすれば、ウィルコは今後もいくつか良いアルバムを作り出す可能性が高いかもしれない。

 

 


85/100


 

Best Track-「Infinite Surprise」

 

©Walker Bankson

Truth Clubは、10月6日(金)に発売されるアルバム『Running From the Chase』からの新曲「Siphon」を公開しました。「Exit Cycle」「Uh Oh」に続くニューシングル。以下からチェック。


『”Siphon”に命を吹き込む過程はエキサイティングだった」とドラマーのエリス・ジャッフェは声明で説明しています。「トラヴィス、イヴォンヌ、そして私が曲の核となる構成を組み立てている間、カムは練習の度に新しいクレイジーなギター・ラインを持って来て、曲全体の雰囲気をがらりと変えてくれた。『Siphon』の共同作業という性質は、私たち全員にとってとても新鮮に感じられたし、バンドとして一緒に音楽を作ることのやりがいを強く感じさせてくれた」


「Siphon」


スリーター・キニーがニューアルバム「Little Rope」を1月19日にリリースすることを発表しました。


2019年の「The Center Won't Hold」では軋轢が前面に出るようになった。ドラムのジャネット・ワイスは直後に脱退し、キャリー・ブラウンスタインとコリン・タッカーという中心コンビは2021年の「Path of Wellness」を共に作り上げた。

 

昨年、キャリー・ブラウンスタインは、イタリアでの休暇中、母親と義理の父親が交通事故に遭い、2人とも亡くなったという知らせを受けた。悲しみに打ちひしがれた彼女は音楽制作に戻り、コーリン・タッカーと新曲を作り上げた。


ニュー・アルバム「Little Rope」には10曲が収録。1月19日にLoma Vista Recordingsからリリースされる。このアルバムは、オレゴン州ポートランドのFlora Recording and Playbackで、グラミー賞受賞プロデューサーのジョン・コングルトンとともにレコーディングされた。


アシュリー・コナー監督、ミランダ・ジュリー主演の「Hell」のビデオは現在オンライン公開中です。

 

「Hell」


アルバムのリリース発表後、「Say It Like You Mean It」「Untidy Creature」の二作の先行シングルが公開されている。こちらもあわせてチェックしてみてください。



 Sleater Kinny 『Little Rope』


Label: Loma Vista

Release: 2024/1/14


Tracklist:

 

1. Hell

2. Needlessly Wild

3. Say It Like You Mean It

4. Hunt You Down

5. Small Finds

6. Don’t Feel Right

7. Six Mistakes

8. Crusader

9. Dress Yourself

10. Untidy Creature

 

 

Pre-order:

 

https://i.sleater-kinney.com/LittleRope-1 



今週金曜日にリリースされるニュー・アルバム『Javelin』に先駆け、スーファン・スティーヴンスがシングル「A Running Start」を公開しました。ハンナ・コーエン、ミーガン・ルイ、ネデル・トリッシのヴォーカルをフィーチャー。この曲は、前作「Will Anyone Ever Love Me?」「So Tired」に続くシングルです。


先月、スティーヴンスはギラン・バレー症候群の合併症で入院していたことを明らかにしました。現在は歩行訓練のため、集中的な理学療法を受けています。一刻も早い恢復を心よりお祈りいたします。

 

「A Running Start」

©Maclay Heriot

キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードは、最新アルバム『The Silver Cord』を10月27日にリリースすると発表しました。


アルバムの冒頭を飾る組曲「Theia」、「The Silver Cord」、「Set」は、付属ビデオと共に本日公開された。


6月の『PetroDragonic Apocalypse; or, Dawn of Eternal Night(惑星地球の消滅と無慈悲な天罰の始まり)』に続く新作アルバムは、2つのバージョンで発売される。「最初のバージョンは、本当に凝縮されたもので、脂肪分をすべてカットしている」とフロントマンのステュー・マッケンジーはプレスリリースで説明している。

 

「そして、2つ目のバージョンでは、1曲目の "Theia "が20分もある。これは "すべて "のバージョンで、最初のバージョンですでに聴いてもらった7曲に、制作中にレコーディングした他の曲を加えたんだ。ギズヘッズ向けだよ」


「私はドナ・サマーのジョルジオ・モロダーとのレコードが大好きだけど、ショート・バージョンは絶対に聴かない。私たちは音楽を聴くということに関して、人々の注意力の限界を試しているのかもしれない」





King Gizzard & The Lizard Wizard 『The Silver Cord』


 

Label: KGLW

Release: 2023/ 10/ 27


Tracklist:

1. Theia

2. The Silver Cord

3. Set

4. Chang’e

5. Gilgamesh

6. Swan Song

7. Extinction

 Oneohtrix Point Never 『Again』

 

 

Label: Warp

Release: 2023/9/29


Review

 

イギリスのOneohtrix Point Neverこと、ダニエル・ロパティンの2年振りのアルバムは、「思索的な自伝」と銘打たれている。


Boards Of Canada、Aphex Twin、Squarepusher、Autechreと並んで、ワープ・レコードの代表的なアーティストで、レーベルの知名度の普及に貢献を果たした。


表向きには、ダニエル・ロパティンはアンビエントのアーティストとして紹介される場合もあるが、印象的には、オウテカのようにノンリズムや無調、ノイズのアプローチを取り入れ、電子音楽という枠組みにとらわれず、前衛音楽の可能性を絶えず追求してきた素晴らしい音楽家である。


今回のアルバム、「よく分からなかった」という一般的な意見も見受けられた。もしかすると、ダニエル・ロパティの『Again』は分かるために聴くという感じでもなく、また、旧来のジャンルに当てはめて聴くという感じでもないかもしれない。ランタイムは、54分以上にも及び、電子音楽による長大な叙事詩、もしくは、エレクトロニックによる交響曲といった壮絶な作品である。


実際に、畑違いにも関わらず、交響曲と称する必要があるのは、すべてではないにせよ、ストリングの重厚な演奏を取り入れ、電子音楽とオーケストラの融合を図っている曲が複数収録されているからだ。また、旧来の作品と同様、ボーカルのコラージュ(時には、YAMAHAのボーカロイドのようなボーカルの録音)を多角的に配し、武満徹と湯浅譲二が「実験工房」で制作していたテープ音楽「愛」「空」「鳥」等の実験音楽群の前衛性に接近したり、さらに、スティーヴ・ライヒの『Different Trains/ Electric Counterpoint』の作品に見受けられる語りのサンプリングを導入したりと、コラージュの手法を介して電子音楽の構成の中にミニマリズムとして取り入れる場合もある。


さらに、ジョン・ケージの「Chance Operation」やイーノ/ボウイの「Oblique Strategy」における偶然性を取り入れた音楽の手法を取る時もある。Kraftwerkの「Autobahn」の時代のジャーマン・テクノに近い深遠な電子音楽があるかと思えば、Jimi Hendrix、Led Zeppelinのようなワイト島のロック・フェスティヴァルで鳴り響いた長大なストーリー性を持つハードロックを電子音楽という形で再構成した曲まで、ジャンルレスで無数の音楽の記憶が本作には組み込まれている。そう、これはアーティストによる個人的な思索であるとともに、音楽そのものの記憶なのかもしれない。

 

一曲の構成についても、一定のビートの中で音のミクロな要素を組み立てていくのではなく、ノンリズムを織り交ぜながら変奏的な展開力を見せる。ビートを内包したミニマル・テクノが現れたかと思えば、それと入れ替わるようにして、リズムという観念が希薄な抽象的なドローン/アンビエントが出現する。そして、聞き手がそのドローンやアンビエントを認識した瞬間、音楽性をすぐに変容させて、一瞬にして、まったく別のアプローチへと移行する。良く言えば、流動的であり、悪く言えば、無節操とも解釈出来る「脱構築の音楽」をロパティンは組み上げようとしている。建築学的に言えば、「ポスト・モダニズムの電子音楽」という見方が妥当なのかもしれない。ロパティンは、構造性や反復性を徹底して排除し、ある一定のスタイルに止まることを作品全体を通じて、忌避し、疎んじてさえいる。それに加えて、曲の中において自己模倣に走ることを自らに禁じている。これは、とてもストイックなアルバムなのだ。

 

平均的な創造性をもとに音源制作を行う制作者にとっては、それほどクリエイティビティを掻き立てられないようなシンプルきわまりないシンセの基礎的な音源も、ダニエル・ロパティンという名工の手に掛かるや否や、驚愕すべきことに、優れた素材に変化してしまう。オーケストラのストリングスの録音とボーカルのコラージュを除けば、ロパティンが使用しているMIDI音源というのは、作曲ソフトやDTMの最初から備わっているシンプルで飾り気のない音源ばかり。

 

しかし、偉大な音の魔術師、ロパティンは、パン・フルート、シンセ・リード、シークエンス、アルペジエーター、エレクトリック・ピアノ、そういった標準的なシンセの音源を駆使して、最終的にはアントニオ・ガウディの建築群さながらに荘厳で、いかなる人も圧倒させる長大な電子音楽のモニュメントを構築してしまう。おそらく、この世の大多数の電子音楽の制作者は、ロパティンと同じ様な音源を所有していたとしても、また、同じ様な制作環境に恵まれたとしても、こういったアルバムを書き上げることは至難の業となるだろう。微細なマテリアルを一つずつ配し、リズムをゼロから独力で作り出し、彼はほとんど手作業で精密模型のような電子音楽を丹念に積み上げていく。そこに近道はない。アルバムの制作には、気の遠くなるような時間が費やされたことが予測出来る。そして驚くべきことに、そういったものはなべて、アーティストの電子音楽に対する情熱のみによって突き動かされ、オープニング「Elsewhere」からクローズ「A Barely Lit Path」に至るまで、その熱情がいっかな途切れることがないのだ。

 

このアルバムには、モダン・オーケストラ、ミニマル・ミュージック、プログレッシヴ・テクノ、ノンリズムを織り交ぜた前衛的なテクノ、アンビエント/ドローン、ノイズ、ロック的な性質を持つ曲に至るまで、アーティストが知りうる音楽すべてが示されている。アルバムのオープニングとエンディングを飾る「Elsewhere」、「A Barely Lit Path」は、Clarkが『Playground In A Lake』で示した近年の電子音楽として主流になりつつあるオーケストラとの融合を図っている。

 

これらのアルバムの主要なイメージを形成する曲を通じて、制作者は、従来の音楽的な観念の殻を破り、現代音楽の領域へと果敢に挑戦し、ダンス・ミュージック=電子音楽という固定観念からエレクトロニックを開放させ、IDMの未知の可能性を示している。「World Outside」、「Plastic Antique」では、ノイズ・ミュージックとミニマル・テクノの中間にある難解なアプローチを図っている。他方、比較的、取っ付きやすい曲も収録されている。「Gray Subviolet」では、ゲーム音楽が示した手法ーーレトロな電子音楽とクラシックの融合ーーに焦点を当て、RPGのサントラのような印象を擁する作風に挑む。ゲームミュージック的な手法は、ボーカル・コラージュとチップ・チューンを融合させた「Again」にも見いだせる。彼は、8ビットの電子音を駆使し、レトロとモダンのイメージの中間にある奇妙なイメージを引き出そうとしている。


その他にも、同レーベルに所属する”Biblo”のような叙情的なテクノ・ミュージックを踏襲した曲も聞き逃すことは出来ない。「Krumville」、「Memories of Music」では、電子音楽のAI的な印象とは別のエモーショナルなテクノを制作している。電子音楽というのが必ずしも、人工的な印象のみを打ち出したものではないことを理解していただけるはず。 他にも、ボーカル・アートの領域を追求した「The Body Train」では、スティーヴ・ライヒのミニマリズムとボーカルのコラージュを踏襲し、電子音楽という切り口から現代音楽の可能性に挑んでいる。カール・シュトックハウゼンが夢見た電子音楽の未来に対するロパティンの答えが示されていると言えそうだ。


さらに、ロック・ミュージックをテックハウスから解釈した曲も収録されている。とりわけ、「On An Axis」では、リズム・トラックにギターの演奏を交え、ケミカル・ブラザーズ、プライマル・スクリームが志向したようなダンスとロックのシンプルな融合性が示されている。最終的には、ロパティンの音楽性の一つの要素であるノイズが加味されることで、ポスト・ロックのような展開性を呼び起こす。


他にも、Clarkが『Body Riddle』の時代に試行した、ロックとテクノを融合させ、ある種の熱狂性を呼び起こそうという、90年代のテクノが熱かった時代の手法を「Nightmare Paint」に見いだせすことができる。ここでは、静と動を交え、緩急のあるテクノを作り出している。こういった旧来の手法一つをとっても、曲そのものから只ならぬ熱狂性が感じられるのは、制作者が受け手と同じか、それ以上の熱情を持ってトラックの制作に取り組んでいるからに違いない。つまり、制作者が徹底して熱狂しなければ、潜在的な聞き手を熱狂させることは難しいのである。

 

 

こういった無数の数限りない音楽ジャンルや手法が複雑に絡み合いながら、電子音楽の一大的な構成は、サグラダ・ファミリアの建築物のような神聖な印象を相携えながら、アルバムのサブストーリーを形成している。そして、音楽の印象を絶えず変化させながら、アルバムはクライマックスに至る。


「Memories of Music」は、叙情的なイントロから始まり、ハードロックのような音楽性へと変化する。そして、その中にはシンセのギターリードの演奏を交え、ギター・ヒーロに対するリスペクトが示されている。また、70年代のジャーマン・テクノへの愛着も、長大なストーリー性を持つ電子音楽に副次的に組み込まれている。そして、圧倒的な電子音楽の創造性は、終盤で花開く。アンビエントとテクノの中間点に位置する「Ubiquity Road」では、古典的なアプローチや音色を選び、ストーリー性を擁する電子音楽の理想形を示している。さらに、アルペジエーターを駆使したミニマル・テクノ「A Barely Lit Path」は、わずかに神聖な感覚を宿している。

 

このアルバム『Again』を聞き終えた頃には、プレスリリースに違わず、ダニエル・ロパンティンの長大な個人的な思索を追体験したような気がし、また、同じように、広大な電子音楽の叙事詩を体験したような不思議な達成感を覚えてしまう。少なくとも、難解なリズム、構成、着想を併せ持つ本作ではあるが、これらの音楽には、「未来への希望」という明るいイデアを部分的に感じとることが出来る。希望というのは何なのか。それは、次にやってくる未知なるものに対し、漠然と心湧き立つような期待感を覚えるということ。電子音楽としては、極めて前衛的でありながら、気持ちが晴れやかになってくる稀有な作品の一つだ。これもまた、長きにわたり、ワープ・レコードというダンス・ミュージックの本丸を支えてきたアーティストの矜持にも似た思いが、こういった長大かつ聴き応え十分のアルバムを生み出したのかもしれない。

 

 

88/100

 


「Ubiquity Road」

 



JIDが8月26日にDreamville/Interscopeからリリースされるニューアルバム「The Forever Story」を発表しました。本日、アトランタのラッパーである彼は、Kenny MasonとFoushéeをフィーチャーしたニューシングル「Dance Now」を発表し、そのプレビューを行いました。アルバムのカバーアートワークとともに、下記よりご覧ください。 

 


『The Forever Story』はJIDの2018年の記録『DiCaprio 2』に続く作品となる。トラックリストはまだ公開されていないが、このLPには21 SavageとBaby Tateとの共演で以前シェアされたシングル「Surround Sound」が収録される予定となっている。