©︎Steve Gullick

UKのロックバンド、Feeder(グラント・ニコラスと、デビュー前に中日新聞のロンドン支局に勤務していたタカ・ヒロセ)昨年の『Torpedo』に続く "三部作 "を完成させる新作2枚組アルバム『Black / Red』を発表した。アルバムは、タウンゼント・ミュージック/アブソリュート・レーベル・サービス経由でビッグ・ティース・ミュージックから2024年4月5日に発売される。


『Black / Red』は、2022年のUKトップ5アルバム『Torpedo』に続くアルバム3部作を完成させる。この発表を記念し、「Playing With Fire」と「ELF」を収録した両A面シングルがリリースされる。


リード・シンガーでギタリストのグラント・ニコラスが "武器への呼びかけ "と表現する「ELF」と、"ジェットコースターに乗っているような自己発見 "の「Playing With Fire」は、中毒性のあるメロディーとスパークするリフに対するバンドの才能を再確認させてくれる。



「コンセプトというより、まとまりとつながりがある」Black / Redは、Torpedoの会話の続きであると同時に、バンドにとって多作な作曲期間に終止符を打つ作品である。



ニコラスは、「このアルバムは、リスナーにとってCD1とCD2、黒と赤の2つのパートに分かれたものにしたかったんだ」と説明する。「このアルバムの制作は、作家としてとてもクリエイティブな時間であり、本当に愛の労働だった。個人的にブラック/レッドのアルバム制作は音楽的な巡礼の旅であり、最終的な結果は紛れもないフィーダーだと感じている。



Feederは、2024年にイギリス全土でこのアルバムのツアーを行う予定。

 

「Playing With Fire」
 

「ELF」



AIが生成するのは、バーチャルな人物やイラスト、映画の脚本、アート作品にとどまらない。その流れは音楽や人工音声にまで及び、プロのミュージシャンにも刺激を与えている。特に、歌声合成の話題はここ数カ月大きなニュースになっている。YouTubeが関与している以上、近い将来、何らかの結論が出るかもしれない。


さらに人工知能が有名歌手の歌声をモデリングすることも、今年大きな話題にのぼった。これは、匿名プロデューサーのGhostwriterが、ドレイクとザ・ウィークエンドのAI音声モデルをフィーチャーした楽曲『Heart On My Sleeve』をアップロードしたのが発端だった。その後、この曲は、アーティストのレコード会社が関知した後、すべての主要プラットフォームから削除された。


リアム・ギャラガーは、イギリスのバンド、ブリーザーが自分の声のモデルを使って作ったオアシスのような曲を聴いて、少し面食らった。彼は、その曲のひとつを典型的なファッションで、"mad as fuck "と表現したが、"I sound mega "だった。さらに、グライムスは、AIが自分のヴォーカルをモデルリングされることに興味を示し、ロイヤリティを折半するのであれば良いと述べた。ホリー・ハーンダン(Tower Records)もAIに対し先手を打っており、彼女自身の声のモデル「ホリー+」を提供し、ドリー・パートンの「ジョリーン」をカバーすることを課している。


そのため、各方面でさまざまな意見が飛び交っている。未来がどうなるのか。そして有名人の声がどこでも簡単にモデル化されるようなフリーフォーオールに終わるのかどうか。それは誰にもわからない。さながらすべてを決定するひとつの大きな審判の時を待っているかのようだが、ユーチューブがその土俵に上がったことで、まさに進化が起ころうとしているのかもしれない。


ビルボードによると、ユーチューブは、ユーザーが有名な歌手のような声を出力できるようにAIを搭載したツールを現在開発中であるという。世界最大のメディア・プラットフォームの1つとして、YouTubeはあらゆるレコード会社に対して、AIについて働きかけを行う可能性もある。開発が成功すれば、音楽産業に影響を及ぼすことも考えられる。


ユーチューブは、AI戦略へのアーティストの参加を歓迎するなど、アーティストとレコード会社の両方に対して、前向きな姿勢を見せているが、ソニーやユニバーサル・ミュージックを含む大手メジャーのいずれも契約には至っておらず、慎重な姿勢を見せている。その一方、新しいプラットフォームは、ナレーションや歌唱のため、AIが作成した人工音声を提供している。しかし前例がないことであるため、収入によるマージンをどう分配するのか、あるいはそのようなライセンス契約が予定されているのかについての言及はほとんど行われていないのが現状だ。


YouTubeとメジャーの契約は、それが実現した場合、他のプラットフォームがAIボーカルをどのように扱うべきかの先行事例になるかもしれない。そして、彼らがどのような契約を結ぼうとも、それを実際にどのように実行に移すことができるかは、かなりの熟考が必要であることは間違いない。もっとも、そのうちロボットやAIが人間が考えていることのすべてをやってのける。いずれにせよAIの人工知能が人間を凌駕する時代はもうすぐそこまで来ているのかもしれない。

 Me Rex 「Giant Elk」


 

Label: Big Scary Monsters

Release: 2023/10/20

 

 

Review

 

Me Rexは、2021年に『Magabear』でデビューを飾った。ロンドンをベースにするトリオ編成のバンドで、ここ数年、個性的なリリースを行っている。


2015年に結成後、恐竜や先史時代の哺乳類の名に因んだEPを連続して発表した。バンドの中心人物、マッケイブは、Freshというバンドで活動していたKatherine Woods(キャサリン・ウッズ: 現在は脱退)、Rich Mandel(リッチ・マンデル)、Happy Accidents,Cheerbleederzとして活動していた、Phoebe Cross(フィービー・クロス)を加えてトリオで活動している。(以前、Cheerbleederzの『Even In Jest』のレビューを行っている)

 

今回も、バンドのコンセプトに大きな変更はない。ノルウェーの山岳地帯ににいそうなシカのデザインをあしらった高級感のあるアートワーク。一方、バンド・サウンドはギター・ポップ、インディーロック、コンテンポラリー・フォーク、ブリット・ポップを集約した親しみやすい内容。

 

本作のサウンドを大まかに紐解くと、Built To Spill,Guided By VoicesのようなUSオルタナティヴロックがあるかと思えば、The Pastelsのようなネオ・アコースティックもあり、The Stone Rosesのような若々しいコーラスワークもある。そして、Wedding PresentsのようなUKロックらしい渋さもある。Me Rexの音楽性はそれほど画期的なものではないが、90年代や00年代の懐古的なサウンドの旨味を抽出した上で、それを現代的なオルタナティヴロックサウンドとして仕上げようとしている。そして、Cheerbleederzと同じく、不器用さのなかに清々しい感じがある。また、ロック/フォーク・サウンドの中にコンセプト・アルバムのような狙いを読み取ることも出来なくもない。ロンドンのバンドの中には、先鋭的な音楽を追求するグループとは別に、ビンテージ感のあるサウンドを追求する一派もいる。おそらく、Me Rexは後者に属しており、それはそのままロンドンの街の文化のヴァラエティーを象徴していると言えるのではないだろうか。

 

このアルバムは、学術的な調査のためにやって来た若き探検家の眼の前に突如、(数世紀前に絶滅したと思われていた)古代のシカが、大自然の向こうにその姿を幻想的に現すかのように、シンセサイザーのシークエンスを足がかりにし、深遠な靄の向こうからフォーク・ミュージックがかすかに立ち上ってくる。Me Rexが志向するのは、ジョージ・ハリソンのソロアルバムのポピュラーなフォークにはあらず、よれた感じのヴィンテージ感のあるフォークであり、アリゾナのMeat Puppetsの『Meat Puppets Ⅱ』、シカゴのCap n' Jazzの「Ooh Do I Love You」のようなアメリカーナの影響を絡めたサウンドがアルバムのインタリュード代わりになっている。

 

暗黙のルールとして、アルバムの曲間には、短いタイムラグが設けられているのが通例であるが、ここではそのタイムラグを作らず、すぐに二曲目の「Infinity Warm」に移行する。 ボーカルラインは贔屓目なしに見ても、オアシスのリアム・ギャラガーの系譜にある。しかし、そのブリット・ポップ風のボーカルラインに個性的な印象を付加しているのが、トゥインクル・エモの高速アルペジオを駆使したギターの影響下にあるオルタナティヴロックサウンドだ。メロからサビへと移行したとたん、その印象はWedding Presentの渋いロックサウンド、そしてDavid Louis Gedgeを彷彿とさせるボーカル・ラインへと変わっていく。90年代から00年代に時代を進めていくというよりも、むしろ、それ以前のザ・スミスの時代へ遡っていく。さらに、マッケイブの歌うサビはアンセミックな響きを帯び、同地のSHAMEの最新作のような掴みやすさもある。


アルバムの冒頭の二曲で、初見のリスナーに掴み所を用意した後、Me Rexはゆるやかなフォーク・ミュージックを展開させていく。


「Eutherians(Ultramarine)」では、ニール・ヤング調の渋いフォーク・ミュージックをもとにしているが、ボーカルラインはきわめて個性的だ。シカゴのミッドウェスト・エモの系譜にあるようにも思えるし、アメリカーナやネイティヴアメリカンの歌でもよく見られる、わざとピッチをずらした感じの歌い方をもとにしているようにも思える。


そして、これらのアメリカーナのサウンドの中に、Led Zeppelinがハードロックの音楽に取り入れていたインドのカシミール地方の民族音楽の笛の演奏を加味し、多彩なサウンドを作り上げる。演奏自体は、変拍子を交えたプログレッシヴ・ロックのように難解になることはないけれども、むしろそのシンプルなビートの運びの中に、一定の共感性を見出すこともできる。


一転して、スペーシーなシンセを主体にした 「Giant Giant Giant」は、ロンドンやブライトンの現行のポスト・パンクに近い印象だ。一方で、やはりフロントマンのマッケイブのボーカルラインは、米国のポストエモのサウンドに焦点が絞られており、Perspective,a lovely Hand to Hold、sport.及び、既に解散したフランスの伝説”Sport”を始めとする現代のエモシーンのパンキッシュなノリを追加している。ただ、Me Rexのバンドサウンドは、エモーショナル・ハードコアとまではいかないで、比較的ポピュラーなパンクサウンドの範疇に収まっている。しかし、彼らはパンク性をサウンドの内に秘めながらも、表側にはひけらかすことはない。ただ、よく知る人にとっては、曲の中にパンク性を見出すことはそれほど難しいことではないように思える。


その後、アルバムの雰囲気はガラリと一変する。「Halley」では、Big Thiefのギタリスト、Buck Meekに象徴されるヴィンテージ感のあるフォークサウンドを、実験的なシンセサウンドで包み込む。ロンドンのバンドからのアメリカへの弛まぬ愛情が示され、南部的な憧れの中に可愛らしいシンセが絵本の挿絵のような印象を加えている。この曲は、まるでロンドンからテキサスにひとっ飛びしたと思わせるような感覚に充ちている。その米国的なイメージが果たしてアリゾナの砂漠までたどり着くのか。それは聞き手次第となりそうだが、音像に集中していると、タイトルにあるように、アリゾナの砂漠の夜空の神秘的な彗星が浮かび上がってきそうな気がする。

 

捻りのある変拍子のリズムをポリリズムとして組み込んだ「Oliver」が、『JFK』や『スノーデン』で知られるNYのドキュメンタリーの巨匠、オリヴァー・ストーンに依るのかは定かではない。ただ、少なくとも、このサウンドの中には、ロンドンのポスト・パンクらしいリズムへの弛まぬ探求心を見出せるし、また、映画のサウンドトラックの映像の中で、ポピュラーなボーカルトラックとして響くような象徴的なテーマも垣間見える。90、00年代の簡素なバラードにオルタネイト性を付加し、彼らはこの形式に未知の可能性が秘められていることを示唆している。

 

続く「Spiders」もシネマのサントラで聞こえるようなポピュラー・ソングだ。例えばハートウォーミングなワンシーンを彩るような柔らかさがある。


遅いテンポのシンセのアルペジエーターを元に、「Halley」のアメリカーナの要素をまぶし、それらを温和な空気感で包み込む。さらに、1分50秒ごろから、背後のバンドサウンドに支えられるようにし、激したボーカルに変化し、エド・シーランが書くようなポップネスに比する温和的な感覚と上昇するような感覚を兼ね備えたバラードに変身してゆく。


ミニマルなループサウンドという面では、現在の主流のインディーロックと大きな相違点はないものの、曲の終盤では、アンセミックな瞬間を呼び起こそうとしている。さらに驚くべきことに、Wilcoの「Infinity Surprise」にも似た超次元的な至福の感覚が表現される。これらの変化は、土の中にあった種子が長い時間を経、草木に成長していき、やがて心をうっとりさせるような花を咲かせる。その過程を見るかのような微笑ましさがある。

 

「Jawbone」は、再びパンク的なサウンドに立ち戻る。”Jaw”といえば、パンク・ファンとしては、JawbreakerとJawboxを真っ先に思い浮かべてしまうが、この曲に、上記の二つのバンドと直接的な関連性を見出すのは強引となるかもしれない。しかしながら、シンセサイザーとパンクの融合という点では、シアトルのSub Popに所属するKiwi Jr.のサウンドを彷彿とさせるものがある。その中には、US的なオルトロックに対する愛着すら滲んでいる。ただ、彼らは、ロンドンにいることを忘れたというわけではない。USパンクやオルタナティヴ・サウンドを基礎にしつつも、やはり、Wedding Presentsの英国の直情的なインディーロックの核心を踏まえているのだ。


アルバムの終盤に差し掛かっても、Me Rexのバンドサウンド、またメンバーの人柄を感じさせる温和さは重要なポイントを形成している。「Pythons」では、再びアメリカーナをシンセサウンドというモダンなアプローチと結びつけているが、彼らは完成度の高いサウンドを避け、余白のあるサウンドを提示している。それがそのまま、ローファイ的な旨味を抽出している。シンセの演奏は遊び心があり、聴いていると、ほんわかして、やさしい気持ちになれる。


セカンド・アルバムに見受けられる温和さ、また、表向きには見えづらい形で潜む慈しみは、ヴィンテージな感覚を持つフォーク・ミュージックの最深部へと接近する。アルバムの最後に差し掛かった時、オープニングから続く幻想的な空気感は最高潮に達する。


「Strangeweed」を通じて、ベトナム戦争時代のボブ・ディランにとどまらず、それよりもさらに古い、アパラチア・フォークの米国のカルチャーの最深部に迫っている。アルバムは、「Summer Brevis」で終わる。バンドは、背後に過ぎ去った遠い夏に別れを告げるかのように、爽やかな印象を携えながら、このアルバムを通じて繰り広げられた一連の旅を締めくくっている。

 

 

85/100

 

 

Pool Side © Ninja Tune


サンゼルスを拠点に活動するプロデューサー、ソングライター、マルチ・インストゥルメンタリスト、ジェフリー・パラダイスのレコーディング・プロジェクト、プールサイドがスタジオ・アルバム『Blame It All On Love』(Ninja Tuneのサブレーベル、Counter Records)のリリースする。このレトロなローファイ・トラックは、プールサイドがミネソタ州のオルタナティヴ/インディー・ドリーム・ポップ・アクト、ヴァンシアと組んで制作された。


「Float Away」は、VansireのJosh Augustinをボーカルに迎えたドリーミーなサウンドスケープ。古典的なポップ・ソングライティングの構成、フック、グルーヴは、プールサイドが最も得意とする古典的な「デイタイム・ディスコ」サウンドに適している。


「僕は15年間、"ルールなんてクソ食らえ "という感じで過ごしてきた。だからこのアルバムにとても興奮しているよ」 プールサイドの4枚目のスタジオ・アルバム『Blame It All On Love』で、パラダイスは浅瀬を離れ、彼自身の創造的な声の深みに入った。その11曲はファンキーでソウルフル、レイドバックしたフックに溢れ、プールサイドのサウンドを痛烈なポップへと昇華させている。


エレクトロニックな筋肉を鍛えるのではなく、彼のライブ・ミュージックのルーツに立ち返ったプロダクションは、シンプルで輝きのあるサウンドのレイヤーに安らぎを見出し、夢が叶うという複雑な現実に直面する。


この曲は、彼がこれまで歩んできた場所と、戦うことも証明することも何もないこの瞬間にたどり着くまでの曲がりくねった旅路の産物であり、以前リリースされた、メイジーをフィーチャーしたシングル "Each Night "やパナマとのシングル "Back To Life "で聴けるような完璧なグルーヴだけがある。


この "Float Away "は、"Each Night "のビデオを手がけ、レミ・ウルフ、ジャクソン・ワン、Surf Curseなどの作品を手がける新鋭アーティスト、ネイサン・キャスティエル(nathancastiel.com)が監督を務めた、ダークでコミカルなエッジを効かせた爽やかでチャーミングなパフォーマンス・ビデオとともにリリースされる。


マリブの丘にあるサイケデリックな家で撮影されたParadiseは、VansireのJosh AugustinとSam Winemiller、PoolsideのギタリストAlton Allen、アーティストのTaylor Olinと共に、Poolsideが率いるカルト集団のメンバーを演じている。ストーリーはゆるやかで、家のさまざまな場所でカルト的なニュアンスをほのめかす小話を見せながら、風変わりで、楽しく、ゆるやかな雰囲気を保っている。


『Float Away』は、プールサイドのヨット・ロックへのラブレター。このジャンルは、長い間とてもクールではなかったが、今では正当な評価を得ている。いつもこのサウンドに足を踏み入れていたが、「Float Away」で完全に飛び込み、このジャンルのあらゆる決まり文句を受け入れることにした。


この曲は、(自分で言うのもなんだけど)信じられないほど巧みなプロダクション、ヴァンサイアの提供による大量のヴォーカル・ハーモニー、スティーヴ・シルツの提供によるアフロ・ハーモナイズド・ギターで構成されている。

 

この曲は、もっとストレートなアコースティック・ソングとして始まったんだけど、ヴァンザイアが彼らのパートを送ってくれた途端にガラッと変わったんだ。彼らはフック・マシーンで、マキシマリストのヨット・ロック・ソングを作ろうとするときにまさに必要なんだ! 

 

彼らが送ってくれたヴォーカル・パートには、彼らの様々なパートを入れるスペースを作るために、曲を完全にアレンジし直さなければならないほど、たくさんの要素が含まれていた。プールサイドの曲の中で一番好きかもしれないね。


ジェフリーが送ってきたオリジナルのデモは "yacht luv "という曲だったので、海のイメージにこだわって、自分の人生の選択を後悔し、ボートに取り残された裕福なバツイチのイメージで書いて歌いました。


ヴァンサイアのジョシュ・オーガスティンは語っている。

 

ヴォーカルは、ニューヨークにスタジオを構える前に、自分のアパートの小さな奥の部屋でレコーディングしたんだけど、なぜか借りたギター・マイクと短いXLRコードしかなくて、歌うときはかなり前傾姿勢にならざるを得なかった。そのような環境から、マリブで撮影した素敵なミュージックビデオになるなんて、ちょっと愉快だ!!



Poolside 『Blame It All On Love』 Ninja Tune / Counter Records

 

 


サンゼルスのジェフリー・パラダイスは、Poolside名義のバンドとしても活動しているが、地元のロサンゼルスでは名の通ったソロ・プロデューサーとして知られている。今年、地元のフェスティバル、”Outside Lands”に出演し、Lil Yachtyの前に出演した。また、アーティストは、同じイベントに出演したコンプトンのメガスター、ケンドリック・ラマーのステージを見たかったというが、出演時間の関係でその念願が叶わなかったという。ジェフリーによるバンド、Poolsideというのは、文字通り、庭のプールサイドでのパーティーやささやかな楽しみのために結成されたジャム・セッションの延長線上にある遊び心満載のライブ・バンド。2010年代初頭からアルバムを発表し、Miami Horrorと同じようにヨット・ロック、ディスコ、ローファイを融合させ、 地元ロサンゼルスのローファイ・シーンに根ざしたインディーロックを制作している。

 

アーティストの音楽のルーツを辿ると、オールドスクールのヒップホップがその根底にあり、De La Soulを始めとするサンプリング/チョップの技術をDJとして吸収しながら音楽観を形成していった。しかし、ジェフリーの音楽のキャリアは意外にも、ギタリストとして始まった。最初はボブ・ディランの曲を聴いて「音楽は音楽以上の意味を持つ」ことを悟る。これが、イビサ島のバレアリックのダンスビートの中に、 Bee Geesの系譜にあるウェスト・コーストサウンドを見出せる理由だ。もちろん、ヨット・ロックのレイド・バックな感覚にも溢れている。Poolsideのサウンドはビーチサイドのトロピカルな感覚に彩られ、ルヴァン・ニールソン率いるUnknown Mortal Orchestraにも近いローファイの影響下にある和らいだロックソングが生み出された。

 

ジェフリー・パラダイスは、近年、カルフォルニアの海沿いの高級住宅街にあるマリブへと転居した。ビーチにほど近い丘。つまり、Poolsideは自然で素朴な環境にあって、ギターを取り上げて、曲を書き始めた。そして、友達と人生を謳歌しながら今作の制作に取り掛かった。従来は、ソングライターとして曲を書いてきたというが、今回だけは、ちょっとだけ趣旨が異なるようだ。たくさんのアイディアが彼の頭脳には溢れ、サンフランシスコ州立大学の寮で出会ったドラマー、ヴィトを中心にライブセッションの性質が色濃く反映された11曲が制作された。このアルバムにはマリブの海岸への慈しみの眼差しを浮かべるアーティストの姿が目に浮かぶようだ。また、ジェフリーはダンストラックではなく明確な歌ものを作り上げようとした。「すべての曲は、愛、ロマンチック、その他の不合理な選択について書かれた」とUCLA Radioに語っている。このアルバムの音楽から立ち上る温かみは、他の何者にも例えがたいものがある。

 

ルバムの冒頭「Ride With You』から、Bee Geesやヨット・ロック、ディスコ・サウンドをクロスオーバーした爽快なトラックで、リスナーをトロピカルな境地へと導く。バレアリックのベタなダンスビートを背後に、バンド及び、Ben Browingのグルーヴィーなロックが繰り広げられる。ヨット・ロックを基調としたサウンドは、確かに時代の最先端を行くものではないかもしれないが、現代のシリアスなロックサウンドの渦中にあって、驚くほど爽やかな気風に彩られている。これらのスタイリッシュな感覚は、ジェフリーがファッションデザイナーを昔目指していたことによるものなのか。それは定かではないが、アルバム全編を通じてタイトなロックサウンドが展開される。レイド・バックに次ぐレイド・バックの応酬。そのサウンドを波乗りのように、スイスイと掻き分けていくと、やはりそこにはレイド・バックが存在する。柔らかいクッションみたいに柔らかいシンセはAORやニューロマンティック以上にチープだが、その安っぽさにやられてしまう。ここにはどのような険しい表情もほころばせてしまう何かがある。

 

続いて、Poolsideは「Float Away」を通じて、ヨット・ロックへの弛まぬ愛の賛歌を捧げる。暫定のタイトルを見ても、Lil Yachtyへのリスペクトが捧げられた一曲なのだろうか。この曲ではJack Jacksonさながらに安らいだフォークとトロピカル・サウンドの融合し、魅惑的なサウンドを生み出す。バンドアンサンブルの軽やかなカッティング・ギターを織り交ぜたAOR/ソフト・ロックサウンドは、この曲にロマンティックでスタイリッシュな感覚を及ぼす。ボーカルトラックには、イタロのバレアリック・サウンドに象徴されるボコーダーのようなエフェクトを加え、レイドバックの感覚を入念に引き出そうとしている。こういった軽やかなディスコサウンドとヨットロックの中間にある音楽性がこのアルバムの序盤のリゾート感覚をリードしている。

 

フレーズのボーカルの逆再生で始まる三曲目の「Back To Life」は、イントロから中盤にかけてミラーボール・ディスコを反映させたアンセミックな曲調に変遷を辿っていく。ソフトなボーカルとバンドセッションは、Bee GeesーMiami Horrowのサウンドの間を変幻自在に行き来する。ビートは波のような畝りの中を揺らめきながら、徹底して心地良さを重視したライブ・サウンドが展開される。ここには、彼らが呼び習わす「Daytime Disco」の真骨頂が現れ、昼のプールサイドのパーティーで流すのに最適なパブリーなサウンドの妙味が生み出されている。ただ、パブリーさやキャッチーさばかりが売りというわけではない。ジェフリーによる内省的な感覚が、これらの外交的なダンスビートの中に漂い、このトラックの骨格を強固なものとしている。 

 

 「Back To Life」

 

 

 

アルバムの序盤は、一貫してパブリーな感覚に浸されているが、大きな音楽性の変更を経ずに、Poolsideは、徐々に音楽に内包される世界観を様変わりさせていく。「Moonlight」はイントロのテクノ/ハウスを足掛かりにした後、 メインストリームのディスコ・ロックへと移行する。 

 

サウンドの中には、Jackson 5、ダイアナ・ロス以降の70年代のカルチャー、及び、その後の80年代の商業主義的なMTVのディスコ・ロックの系譜をなぞらえる感覚もある。デトロイト・テクノを踏襲した原始的な4つ打ちのビートが曲の中核を担うが、シンコペーションを多用したファンク色の強いバンドサウンドがトラックに強烈なフックとグルーブ感をもたらしている。パーラメント/ファンカデリックのファンクロックほどにはアクが強くないが、むしろそれを希釈したかのようなサウンドが昔日への哀愁と懐古感を漂わせている。歌ものとしても楽しめるし、コーラスワークにはアルバムの重要なコンセプトであるロマンチックな感覚が漂う。


Poolsideのディスコ/ヨットロックの音の方向性にバリエーションをもたらしているのが、女性ボーカルのゲスト参加。その一曲目「Where Is The Thunder?」では、ループサウンドを元にしてAOR、果ては現代のディスコ・ポップにも近いトラックに昇華している。スペインのエレクトロ・トリオ、Ora The Moleculeのゲスト参加は、爽やかな雰囲気を与え、曲自体を聞きやすくしている。例えば、Wet Legのデビュー・アルバムの収録曲にようにメインストリームに対するアンチテーゼをこの曲に見出したとしても不思議ではない。トロピカルな音楽性とリゾート的な安らぎが反映され、「レイド・バック・ロック」と称すべきソフト・ロックの進化系が生み出されている。


続いて、逆再生のループをベースにした「Each Night」は、リゾート的な感覚を超越し、天国的な雰囲気を感じさせる。イタロ・ディスコのバレアリック・サウンドを基調としながらも、それをソフト・ロックとしての語法に組み換えて、フレーズの節々に切ない感覚を織り交ぜる。この曲には、ジェフリー・パラダイスのソングライティングの才覚が鮮烈にほとばしる瞬間を見いだせる。サウンドスケープとしての効果もあり、マリブの海岸線がロマンティックに夕景の中に沈みゆく情景を思い浮かべることも、それほど困難なことではない。また、表向きなトラックとしてアウトプットされる形こそ違えど、旋律の運びにはニール・ヤングやBeach Boysのブライアン・ウィルソンのような伝説的なソングライターへの敬意も感じ取ることが出来る。

 

 

 「Each Night」

 

 

 

アルバムの終盤の最初のトラック「We Could Be Falling In Love」では、DJとしてのジェフリー・パラダイスの矜持をうかがい知ることが出来る。トロピカル・サウンドのフレーズとアッパーなディスコサウンドの融合は、カルフォルニアの2020年代の象徴的なサウンドが作り出された証ともなる。80年代のミラーボール・ディスコの軽快なコーラスワークを織り交ぜながら、コーチェラを始めとする大舞台でDJとして鳴らしたコアなループサウンド、及びコラージュ的なサウンドの混在は、ケンドリック・ラマーの最新アルバムのラップとは異なる、レイドバック感満載のクラブミュージックなるスタイルを継承している。そして、この曲に渋さを与えているのが、裏拍を強調したしなやかなドラム、ギター、ベースの三位一体のバンドサウンド。ここにはジェフリー・パラダイスのこよなく愛するカーティス・メイフィールド、ウィリアム・コリンズから受け継いだレトロなファンク、Pファンクの影響を捉えられなくもない。

 

 

アーシー・ソウルの影響を感じさせる「Ventura Highway Blues」 も今作の象徴的なトラックと言えるのでは。1970年代に活躍した同名のバンドにリスペクトを捧げたこの曲は懐古的な気分に浸らせるとともに、現代的なネオソウルの語法を受け継いで、ロンドンのJUNGLEのようなコアなダンス・ソウルとして楽しめる。しかし、そこにはカルフォルニアらしい開けた感覚が満ちていて、「Each Night」と同じように、夕暮れ時の淡いエモーションを漂わせている。アーティストは犬と散歩したり、食事を作ったりするのが何よりも好きだというが、そういったリラックスした感覚に浸されている。さらに、オールドスクール・ヒップホップのチョップ/サンプリングの技法が組み合わされ、ミドルテンポのチルウェイブに近い佳曲が生み出されている。

 

続く、「Hold On You」でもディスコ・ソウルをポップにした軽快なサウンドで前の曲の雰囲気を高めている。ここでも、バレアリックサウンドの軽快なビートを取り入れつつ、ソウルとしての落とし所を探っている。


ゲストとして参加したslenderboiedは、コロンビアのKali Uchisのように南米的な気風を与えている。曲の終盤では、二つの音楽性が化学反応を起こし、アンセミックな瞬間を生み出している。驚くべきは、音楽性に若干の変化が訪れようとも、海岸のリゾート気分やレイドバック感は途切れることはない。終盤に至ってもなお安らいだ心地良い、ふかふかな感覚に満たされている。これらのアルバムのテーマである、ロマンティックな感覚が通奏低音のように響きわたる。

 

AOR/ニューロマンティックの象徴的なグループ、Human Leagueを思わせるチープなシンセ・ポップ・ソング「Sea Of Dreams」は、人生には、辛さやほろ苦さとともに、それらを痛快に笑い飛ばす軽やかさと爽やかさが必要になってくることを教えてくれる。そして、その軽やかさと爽やかさは、人生を生きる上で欠かさざるロマンティックと愛という概念を体現している。アルバムのクロージング・トラック「Lonely Night」は、MUNYAがゲストで参加し、一連のヨットロック、AOR/ソフト・ロック、ディスコ・ソウルの世界から離れ、名残り惜しく別れを告げる。

 

MUNYAの”やくしまるえつこ”を彷彿とさせるボーカルについては、説明を控えておきたい。しかし、なぜか、アルバムの最後の曲に行き着いた時、ある意味では、これらの収録曲に飽食気味に陥りながらも、ウェストコースト・サウンドを反映させたこのアルバムを聴き終えたくない、という感覚に浸される。サマー・バケーションで、海外の見知らぬ土地へ旅した滞在最終日のような感じで、この安らいだ場所から離れたくない。そんな不思議な余韻をもたらすのだ。

 

 

 

85/100 

 

 

 

Weekend Featured Track- 「Lonely Night」

The Rolling Stones  『Hackney Diamonds』



Label: Polydor

Release:2023/10/20


Review 


''Huckney''というのはファッション・ブランドもあるが、一般的にロンドンにほど近い(イギリス人にしか知られていない)隠れた魅力がある行政区のことを指す。 また、英語の原義としては、「使い古された」という意味もあるようだ。「隠れた魅力」、「使い古された」、これらの二重の意味をダイアモンドなる言葉と繋げ、ビンテージ的な意味合いを持つ作品に仕上げようというのが、ミック・ジャガー、リチャーズの思惑だったのではないだろうか。実際、アルバムはストーンズらしいリフが満載である。そして、長きにわたりバンドサウンドの重要な骨組みを支えて来たチャーリー・ワッツはいないけれど、ローリング・ストーンズらしいアルバムであり、予想以上に聴きごたえがある。もちろん、過去のいかなるアルバムよりも友情と愛を重視している。マッカートニー、ガガ、エルトン・ジョン、スティーヴィー・ワンダーの参加は、ジャクソンやライオネル・リッチーの時代の”We Are The World”のロックバージョンを復刻するかのようである。

 

年を経た時にどのような音楽が作れるのか、そういったことに思いを馳せることは、若い頃に、どんな可能性のある音楽が作れるのかを構想するのよりも遥かに重要である。例えば、ココ・シャネルがいうように、「じぶんの顔に責任を持ちなさい」という言葉がある。つまり二十代までは遺伝的なものが強く、個人的には顔つきや風貌はどうしようもないが、40代、50代、また、それ以降になると、その人の考えや人生観がその顔つきに反映されるようになってくる。ポップ・パンクの伝説のBlink 182のトリオを見ればよく分かるが、 彼らもまた悪童の頃のおもかげを留めながらも、素晴らしい顔つきをしている。その表情には、自分の人生を生きてきたという満足感が宿っている。他人に振り回されず、世間の情勢にも流されない。そして自分が信ずることのみをとことん追求していく。60、70年代頃の全盛期には麻薬問題で空港で逮捕されたこともあったリチャーズ。彼は、その後に裁判所に出頭し、弁論供述を行った。しかし、ジャガーとともに、その表情には自分の人生を一生懸命に生きてきたことに対する自負が現れている。パンデミックが起ころうが、世界各地で紛争が起きようが、ストーンズはストーンズであることをやめたりしない。また、みずからの人生や音楽観に非常に忠実であるのだ。そのことはアルバム『Huckeney Diamonds』が何よりも雄弁に物語っているではないか。

 

アルバムのサウンド・プロダクションの重要な指針となったと推測されるのが、彼らの盟友ともいうべきThe Whoの作品だ。ロジャー・ダルトリー率いるバンドは、実は、密かに2020年のアルバム『The Who(Live at Kingston)』で実験的なロックサウンドを確立していた。このアルバムでは、旧来のモッズ・ロック時代の若い時代のフーの姿と、また、年を重ねて円熟味すら漂わせるフーの姿をサウンドの中に織り交ぜ、革新的なロック/フォークサウンドに挑んだ。今回、ローリング・ストーンズは、ザ・フーの例に習い、同じように若い時代の自己と現在の自己の姿を重ね合わせるような画期的なロック・ミュージックを作り上げている。これらの懐古的なものと現代的なものを兼ね備えたロックサウンドは、ある意味ではミドルエイジ以上のロックバンドにとって、未だ発掘されていないダイアモンドの鉱脈が隠されていることを示唆している。


しかし、ローリング・ストーンズはザ・フーと同じく、自分たちが年を重ねたことを認めているし、若作りをしたりしない。また、年を重ねてきたことを誇りに思っている。それは自分の人生に責任を持っているからだ。しかし、同時に彼らがデビュー当時や、『Let It Bleed』の時代のバラのような華麗さや鋭さのある棘を失ったというわけでもない。もちろん、いうまでもなく、青春を忘れたというわけでもない。彼らは年代ごとに何かを失うかわりに常に何かを掴んで来たのだ。

 

アルバムのオープニングを飾る「Angry」は、全盛期にも劣らぬアグレッシヴかつ鮮明なロックンロール・サウンドで旧来のファンを驚かせる。同じくらいの年代の人はストーンズの勇姿を見て、「老け込んではいられない」と思うかもしれないし、それとは対照的に彼らより20歳も30歳も若いリスナーが、自分よりも若く鮮烈な感性を持っているジャガーやリチャーズの姿を見出すこともあるかもしれない。 少なくとも、AC/DCもそうなのだが、この年代でロックンロール(ロックにはあらず)をプレイするということ自体が、アンビリーバブルであり、エクセレントであり、ファンタスティックでもあるのだ。続く「Get Close」では、80年代のダンス・ミュージックに触発された時代のアプローチをダイナミックに呼び覚ます。シャリシャリとしたストーンズ・サウンドの真骨頂をリアルタイムで味わえることは非常に光栄なことだ。

 

ピーター・ガブリエルのリリース情報の際にも書いたが、ミック・ジャガーというシンガーは、稀代のロックミュージシャンであるとともに、ボウイ、マーレー、レノン、マッカートニーといった伝説と同じように、メッセンジャーとしての役割を持っている。全盛期は、黒人の音楽と白人の音楽をひとつに繋げる役割を果たしてきたが、「Depending On You」は、「己を倚みとせよ」というシンプルなメッセージがファンに捧げられている。つまり、ミック・ジャガーが言わんとするのは、他に左右されることなく、己の感覚を信じなさいということなのかもしれない。それは名宰ウィストン・チャーチルの名言にも似たニュアンスがある。運命に屈するな、ということである。歴代のストーンズのヒットナンバーの横に並べても遜色がない。ストーンズは、「寄せ集めのようなアルバムにしたくなかった」とプレスリリースで話していたが、新しいフォーク・ロックを生み出すため、ストーンズは再び制作に取り組んだのである。

 

 

「Depending On You」

 

 

 

 以後、ローリング・ストーンズはポール・マッカートニーが参加した「Bite My Head」では、アグレッシヴなロックサウンドで多くのリスナーを魅了する。マッカートニーはコーラスのいち部分に参加しているに過ぎないが、これはかつてのストーンズとビートルズの不仲の噂を一蹴するものである。そして、意外にも、ジャガーとマッカートニーのボーカルの掛け合いは相性が良く、上手くシンプルなロックンロールサウンドの中に溶け込んでいることがわかる。80年代のハードロックを彷彿とさせる軽やかさとパワフルさを兼ね備えたナンバーである。

 

 

前曲と同じようにローリング・ストーンズは、英国のTop Of The PopsやMTVの全盛期の時代のロックを現代の中に復刻させている。こういったサウンドはその後のインディーロックファンから産業ロックとして嫌厭されてきた印象もあるのだが、実際、聴いてみると分かる通り、まだこの年代のサウンドには何かしら隠れた魅力が潜んでいるのかもしれない。ストーンズ・サウンドの立役者であるリチャーズが若い時代、モータウン・レコードやブルースの音楽に親しかったこともあり、ブギーやブルースを基調にした渋いロックサウンドがバンドの音楽性の中核を担ってきたが、続く、ストーンズは、「Whole Wide World」では珍しく、メロディアスなサウンドを織り交ぜたギターロックサウンドに挑んでいる。

 

こういったベタとも言える叙情的なハードロックは、全盛期の時代にあまり多くは見られなかった作風であり、ストーンズはあえてこのスタイルを避けてきた印象がある。チューブ・アンプの音響の特性を生かしたギターソロはギタリストの心技体の真骨頂を表しており、一聴に値する。さらい、ダイナミックな8ビートのロックサウンドを下地に歌われるミックの歌声はこれまでにないほど軽快である。同時に、彼は、センチメンタルであることを恐れることはない。続く「Dream Skies」は、ブルース/ブギーとは別のストーンズの代名詞的なスタイルである「アメリカーナ(カントリー/ウェスタン)」の系譜に属するサウンドに転回する。アコースティックによるスライド・ギターはリスナーを『悪魔を憐れむ歌』の時代へと誘い、その幻惑の中に留める。ストーンズはデビュー当時から英国のバンドではありながら、アメリカの音楽に親しみを示してきた。それは「Salt On The Earth」で黒人霊歌という形で最高の瞬間を生み出した。ある意味では、そういったストーンズの歴史をあらためて踏まえて、彼らのアメリカへに対する愛着がこういった巧みなカントリー/ウェスタンという形で昇華されたとも解釈出来る。


明確な年代こそ不明であるが、ストーンズはダンスロックというジャンルも既に00年代以前に挑戦してきた。もちろん、「(I Can’t Get No)Satisfaction」の時代からミック・ジャガーはダンスミュージックとロックンロールの融合の可能性を探ってきたのだったが、そういったダンス・ミュージックに対する愛情も「Mess It Up」において暗に示唆されていると思われる。むしろ経験のあるバンドとして重厚感を出すのではなく、MTVのサウンドよりもはるかにポップなアプローチでリスナーを拍子抜けさせる。ここにはジャガーの生来のエンターティナーとしての姿がうかがえる。もちろん、どのバンドよりも親しみやすいサウンドというおまけつきなのだ。

 

もう一つ、ザ・フーの『The Who』と同じように、スタジオレコーディングとライブレコーディングの融合や一体化というのがコンセプトとなっている。その概念を力強くささえているのはエルトン・ジョン。「Live By The Sword」では、やはり米国のブルース文化へのリスペクトが示されており、両ミュージシャンの温かな友情を感じ取ることが出来る。そして、コーラスで参加したエルトンは、ストーンズのお馴染みの激渋のブギースタイルのロックンロールを背後に、プロデューサーらしい音楽的な華やかさを添えているのにも驚きを覚える。曲調はエルトンのボーカルを楔にし、最終的にライブサウンドを反映させたブルースへと変化していく。ここには、モータウンの前の時代のブルースマンのライブとはかくなるものかと思わせる何かがある。



もちろん、チャーリー・ワットは、この作品には参加していない。しかし、アルバムのどこかで、彼のスピリットがドラムのプレイを彼の演奏のように響かせていたとしても不思議ではない。Foo Fightersのテイラー・ホーキンスのような形のレクイエムは捧げされていない。しかしもし、チャーリー・ワットというジャズの系譜にある伝説的なドラム奏者に対する敬意が「Driving Me Too Hard」に見出せる。ここに、わずかながらその追悼が示されている。ただストーンズの追悼やレクイエムというのは湿っぽくなったりしないし、また、暗鬱になったりすることもない。死者を弔い、そして天国に行った魂を弔うためには悲嘆にくれることは最善ではない。むしろ、自らが輝き、最も理想とするロックンロールを奏でて、生きていることを示すことが死者への弔いとなる。ストーンズはそのことを示すかのように、全盛期に劣らぬ魂を失っていないことを、天国にいるはずのチャーリー・ワットの魂に対して示して見せているのだ。

 

 「Tell Me Straight」では、『The Who』におけるロジャー・ダルトリーのボーカルを思わせるような渋いポップスを示している。近年の作品では珍しくかなりセンチメンタルなバラードでアルバムの後半部の主要なイメージを形成していく。 

 

  「Tell Me Straight」

 

 

 

このバラード・ソングは、『Aftermath』(UK Version)に収録されているローリング・ストーンズの最初期の名曲「Out Of Time」とははっきりとタイプが異なっているが、むしろ、しずかに囁きかけるようなミック・ジャガーのボーカルは、若い時代のバラードよりも胸に迫る瞬間もあるかもしれない。ここに、年を経たからこその円熟味や言葉の重さ、そして、思索の深さをリリックの節々に感じ取ったとしても不思議ではない。「使い古されたダイヤモンド」、あるいは、「隠されたダイヤモンド」の世界は濃密な感覚を増しながら、いよいよクライマックスへと向かっていく。レディー・ガガとスティーヴィー・ワンダーが参加した「Sweet Sounds of Heaven」は、新しい時代の「Salt Of The Earth」なのであり、ローリング・ストーンズのライフワークである黒人文化と白人文化をひとつに繋げるという目的を示唆している。もちろんそれは、ブルースとバラードという、これまでバンドが最も得意としてきた形でアウトプットされる。そして、この7年ぶりのローリング・ストーンズのアルバムは最後、最も渋さのあるブルース・ミュージックで終わりを迎える。  

 

「The Rolling Stones Blues」は、Blind Lemon JeffersonRobert Johnson、Charlie Pattonを始めとする、テキサスやミシシッピのデルタを始めとする最初期の米国南部の黒人の音楽文化を担ってきたブルースのオリジネーターに対するローリング・ストーンズの魂の賛歌である。これらのブルース音楽は、ほとんど盲目のミュージシャンにより、それらのカルチャーの基礎が積み上げられ、その後のブラック・カルチャーの中核を担って来た。それはある時は、ゴスペルに変わり、ある時はジャズに変わり、そして、ソウルに変わり、ロックンロールに変わり、以後のディスコやダンスミュージックを経て、現代のヒップホップへと受け継がれていったのである。



90/100



 

一年前、Blink 182は『One More Time...』(コロムビア)のためにクラシック・ラインナップを再結成した。2022年10月、ポップ・パンクの伝説は、2023年の世界ツアーとシングル「EDGING」のリリースのために、元シンガー/ギタリストのトム・デロンゲとの再結成を発表した。


2005年と2014年に2度バンドを脱退したトム・デロンゲが、シンガー/ベーシストのマーク・ホッパス、ドラマーのトラヴィス・バーカーとともにラインナップに復帰した『ワン・モア・タイム...』は、午前0時ちょうどにリリースされた。『ワン・モア・タイム...』はトリオの9作目のスタジオ作品で、「エッジング」と以前リリースされたタイトル・トラックが収録されている。


トラヴィス・バーカーのプロデュースによるこのアルバムには、17曲の新曲が収録されており、悲劇、勝利、そして最も重要な兄弟愛というテーマを重ね合わせながら、バンドの絶頂期を捉えている。このアルバムを聞けば、まだポップパンクは死せずということが理解出来るはずだ。

 

2021年に癌の診断を受け、治療を経て2022年に全快したホッパスは、この新作は間違いなく "これまでで最高のアルバムのひとつ "だと語っている。プレス・リリースによると、『One More Time...』はライブ・ネイションが推進する2023年の再結成ツアー中にレコーディングされ、、4月のコーチェラ・フェスティバルのラインナップに土壇場でサプライズ追加されたことで幕を開けた。


『ワン・モア・タイム...』は2019年の『ナイン』に続くアルバムで、デロンゲが抜けたギタリスト/ヴォーカリストの座にアルカライン・トリオのマット・スキバを起用したグループにとって2作目にして最後のアルバムとなる。ブリンク182は、『Take Off Your Pants And Jacket』(2001年)と『California』(2016年)で1位を獲得したのを含め、ビルボード200チャートで8曲のトップ10ヒットを記録している。


バンドは今週末、ラスベガスで開催される「When We Were Young」フェスティバルでアメリカでの日程を終え、来年2月と3月にはオーストラリアとニュージーランドでアリーナ公演を行い、その後ペルーとメキシコでも公演を行う。アルバムのストリーミング試聴は下記より。

 

 

 


 


CHVRCHESがデビュー10周年記念リイシューをリリースした。10月20日にリリースされた「The Bones Of What You Believe」のエクステンデッド・エディションは、1xLPクリア・ヴァイナル、2xLPブラック・ヴァイナル(ダイカット・スリーブ付)、2xCD、デジタル・フォーマットで発売される。以下でストリーミング試聴をした後、レコード・ショップへお急ぎ下さい。


それから早10年、シュヴァーチェスは4枚のスタジオ・アルバムをリリースし、ザ・ナショナルやザ・キュアらとコラボレーションしてきた。今週、彼らは2013年のデビュー作『The Bones of What You Believe』のアニバーサリーを記念し、未発表曲4曲とリリース当時にレコーディングされたライブ・トラック5曲を収録したスペシャル・リイシューをリリースする。

 

「BONESが10年近く前の作品というのは、とても不思議な感じがします」とローレン・メイベリーは言う。「ある意味、起こったばかりのようでもあるし、あの時代が一昔前のようでもある。あのアルバムに特別な想いを寄せてくれて、今も私たちに親切にしてくれるファンのみんなにとても感謝している」

 

 



豪華コラボレーションが実現。イギリスのインディーズ・アイコン、フィリピン/イロイロ出身のシンガー、beabadoobeeと、ロサンゼルスのシンガーソングライター、Laufeyがコラボレーション・シングル「A Night To Remember」でチームを組んだ。

 

このコラボレーションについて、Beaこと、ビーバドビーは次のように説明している。「最近、いろいろなリズムで曲を書いていて、ストリングスやクラシカルなサウンドも取り入れているんだ。ラウフェイは、このサウンドにぴったりで、私たちはロンドンでつるむようになったから、一緒にスタジオに入って音楽を作ったり、私のプロデューサーのジェイコブ・バグデンとアイデアを試したりしたんだ。ツアーでNYにも行ったし、より親しい友人になったってわけ」


「Beaは以前から大好きなミュージシャンの一人だったから、彼女と一緒に曲を書いたり歌ったりできるなんて夢のようだった。このプロジェクトでは、もう少しセクシーな曲を書きたいと2人で合意して、"A Night To Remember "が生まれたんだ」と、Laufeyは付け加えた。「女性として拒絶されることを歌った曲はたくさんあるけれど、この曲はその逆の立場を歌っているんだ。物語を取り戻すこと! この曲は、ボーのプロデューサーのジェイコブとロンドンでレコーディングし、私のプロデューサーのスペンサー・スチュワートと一緒にLAで仕上げをした」



beabadoobee x Laufey - 「A Night To Remember」

 


ニューヨークを拠点とするインディー・コレクティヴ、MICHELLEが新作EP「GLOW」を発表した。

 

コレクティブとは、バンドとは異なり、音楽のグループを意味する。三、四人のメンバーにとどまることはほとんどなく、5人以上で活動することがほとんど。他にも、シカゴの森本仙もソロ名義ではありながら、ライブ自体はコレクティヴ形式である。つまり、コレクティヴというのは、音楽という共通の言語を通じて、パフォーマンス的なことを行う集まりのことを指す。現在、最もホットなNYのコレクティヴ、ミシェルの「GLOW」はアルバム「AFTER DINNER WE TALK DREAMS」に続く作品で、Transgressive Recordsから近日リリースされる。

 

今回ご紹介するEPのタイトル・トラック「GLOW」は、バンド・メンバーのジャミー・ロッカードがソフトに歌い上げるナンバーだ。この曲は、弾むような自由な白熱感で部屋を満たす。バンドのベース、シンセ・キーボード、ドラムがゆっくりと加わり、曲はクレッシェンドし、柔らかな輝きのオーラを生み出す。このトラックは、バンドのエマ・リーが振り付けを担当した、6人のメンバーが故郷の街や公園で踊るビジュアルが付随している。「AGNOSTIC」は、アコースティック・ギターの音色を取り入れた曲で、集団のトーンが変化している。この新しいシングルは、彼らの洗練された作曲と音楽スタイルが次のEPに反映されることを予感させる。



生まれも育ちもニューヨーカーのMICHELLEは2018年に結成され、ソフィア・ダンジェロ、ジュリアン・カウフマン、チャーリー・キルゴア、レイラ・クー、エマ・リー、ジャミー・ロッカードで構成されている。POCとクィアが主体のこの集団は、6人の間で脚本と制作グループをミックス&マッチさせている。


「GLOW」

 

 「Agnostic」

 


ザ・ローリング・ストーンズの待望のニュー・アルバム『ハックニー・ダイアモンズ』がついに発売された。このアルバムには豪華ゲストが多数参加している。ポール・マッカートニー、レディ・ガガ、スティーヴィ・ワンダーはもとより、エルトン・ジョンの参加も見逃す事はできない。


イブニング・スタンダード紙によると、10月19日、ストーンズはマンハッタンのRacket NYCでアルバム発売記念のシークレット・ギグを行い、ジャンピン・ジャック・フラッシュやハックニー・ダイアモンズのトラック、アングリー、ホール・ワイド・ワールド、バイト・マイ・ヘッド・オフなどの名曲を含む7曲のセットを披露。また、レディー・ガガも特別出演し、彼女とスティーヴィー・ワンダーが参加したハックニー・ダイアモンズのハイライト曲『Sweet Sounds Of Heaven』のストーンズとのデュエットを初披露した。残念ながら、全曲の映像をお届けすることはできないが、Rolling Stone GermanyのYouTubeチャンネルに投稿されたクリップをご紹介したい。


レディー・ガガのヴォーカルは、テレビのタレント番組でよく言われるように、"オン・ポイント "。ハイライトは27秒のあたりで、ジャガーがガガの至近距離で「オー・イエー!」と渾身の叫びを上げるコールアンドレスポンスのシーンにある。ブルージーな味わいのあるキース・リチャーズのギターリフも世界のロックファンにとって最高の癒しの瞬間となるはず。世界的なロックスター、ミック・ジャガーの伝説がまたひとつ、ファンの心に刻まれることになった。


 

Patricia Wolf/  Cassandra Croft

 

東京のプロデューサー、ausにとって、15年ぶりの復帰作となった新作アルバム『Everis』レビュー)のリミックス集をデジタルで10月27日にリリースすることを発表した。すでにパトリシア・ウルフのリミックスを中心に複数の先行シングルが公開となっている。多数のプロデューサーによるオリジナル曲とは一味異なるリミックスのニューバージョンをチェックしてみましょう。

 

Warp Recordsからトリップ・ホップ〜ポスト・ロックを橋渡しした先進的なバンド・サウンド、Massive Attack、Björk、The Prodigy、De La Soul、The FugeesをサポートしたRed Snapperを筆頭に、Metron Recordsからのリリースで知られる中国出身のサウンドアーティスト、Li Yilei。

 

デトロイト・テクノ第二世代の名プロデューサー、John Beltran、Doves、Peter Hook(Joy Division、New Order)のキーボード・プレイヤーとして活躍するRebelski、現代ジャズとミュージックコンクレートを融合させる”Gondwana Records”に所属する新世代ピアニスト、Hanakiv。


さらには、Depeche Mode、The Boo Radleysへのリミックスを提供した、Mo’ WaxのHeadz 2、Cup Of Teaのコンピレーションへの参加で知られるトリップ・ホップ幻の伝説、”Grantby”など、世代やジャンルを超えた強力なラインナップがausのリミックスに参加した。

 

 

Grantby

 

Li Yilei - Joan Low

 


 

Hanakiv

 

Rebelski

 

 

さらに、Lo Recordingsのオーナーにして、SeahawksのOcean Moon。Gondwana Recordsの人気グループ、Forgivenessのメンバー、JQ。アメリカ・オレゴンのPatricia Wolf。現行のアンビエント/ニューエイジ・シーンで注目を浴びる3組、日本からはデビュー作「In her dream」が各地で絶賛を浴びた”marucoporoporo”が、自身初のリミックスを披露する。


ストリングス、ピアノ、クラリネット、フルート、ドラムなど様々な楽器と声、エレクトロニクス、さらに、大量のフィールド・レコーディング、レコードのサンプルが含まれたオリジナル・アルバムの素材に新しい視点で光を与え、紐解いていく珠玉のリミックス集となっている。 

 

 

 

 

 

Celebrated for encompassing ideas plucked from disparate genres such as classical, spiritual jazz, indie, avant-garde and folk, Yasuhiko Fukuzono founded the internationally renowned FLAU record label in Japan in 2006. He has since gained worldwide attention as aus, through his skillful and delicate sound production, exquisitely combining cinematic strings and electronics with sounds from everyday life.
 
Being born and bred in Tokyo, the city is an indisputable reflection of the loud-and-quiet dynamics that permeate Fukuzono’s sound. With a passion for rediscovering and reinventing the very nature of sounds around him a palette of samples are merged and manipulated into a state of almost nonrecognition, including train station ticket gates; computer keyboards; airport runways; a brass band practising in a schoolyard and many other fragments of everyday life 
 
The original ‘Everis’ album was recorded following a major burglary at his home studio and label HQ, from which he lost his entire catalogue of completed and work-in-progress music. Fukuzono decided to create something away from the precarious confines of his PC and armed with only some basic stems salvaged from an audio/video installation project he had been working on with contemporary artist Karin Zwack, Fukuzono set about combining the long-existent melodies in his head with the video and remaining field recordings on his phone, in order to create musical synapses between memories which had remained unconnected.

 

 

 

 

aus 『Everis』‐ Remix 

 




アルバム発売日:2023年10月27日
フォーマット:DIGITAL
レーベル:Lo Recordings x FLAU

 

 

Tracklist:

 

1 Halsar Weiter
2 Landia (John Beltran Remix)
3 Past From (Rebelski Remix)
4 Steps (Li Yilei Remix)
5 Make Me Me (marucoporoporo Remix)
6 Flo (Red Snapper Rework)
7 Swim (Hanakiv Remix)
8 Memories (JQ Remix)
9 Further (Grantby Remix)
10 Neanic (Patricia Wolf Remix)
 

 

 

Buy(アルバムのご購入):

https://flau.bandcamp.com/album/revise-everis-remixed 

 

 

Streaming/Download(ストリーミング/ダウンロード):

https://aus.lnk.to/Revise 

 

©Hana Tajima

 

ブルックリンのマルチ演奏家、Spancer Zahnは、今年初めにリリースしたピアノを中心に構成したモダンクラシカルのアルバム『Statues I』(レビュー)の続編を発表。二枚組LPとしてリリースされる『Statues I & II』は11月17日にCascineから発売。新曲「High Touch」は本日発売。

 

アルバムのアートワークは、ユニクロ製品等のデザイナーとしても知られるHana Tajimaが手掛けている。


「"High Touch "は、シンガーにぴったりだと思った曲から始まったんだ。「この曲は、祝福と勝利に満ちたラブソングなんだ。アルバム全体と同じような捧げものだよ。フェンダー・ローズでコードを書いて、ヤマハのCP70とCS50でハーモニーを作った。このサウンドがまとまり始めると、ヴォーカリストのための曲というより、ジョン・ハッセルのレコーディングのように感じられたんだ。スペンサー・ルートヴィヒが週末家に滞在していたので、彼にトランペットを吹いてもらうと、すぐにこの曲の正体がわかった。クリス・ブロックのソプラノ・サックス、ブッカー・スタードラムのドラム、そして、タイラー・ギルモアのドラム・プログラミングとプロダクションが加わって、この曲はアルバムの中で最も好きな曲のひとつになった」



スペンサー・ザーンはまた、2枚のアルバムについて次のように語っている。


自分の音楽の個人的な側面について話すのは難しい。インストゥルメンタル・ミュージックの感情的な曖昧さは、私が大好きなもので、私の曲の中に人々が自分自身の意味を見いだせることを願っている。また、なぜ、音楽を分かち合いたいのか、その背景を説明することも重要だと思う。


この音楽を作ったとき、私の人生は愛、創造性、共同作業、そして孤独に満ちていた。しかし、変化は避けられないものであり、思いがけないときに起こるものだ。地盤が変化し、その結果、これらの曲は私の人生を表現するものとしてさらに意味を持つようになった。私はこれらの曲を、近年への感謝の手紙として残したいと思った。


2022年、私はニューヨーク州北部で静かな生活を送っていた。スタジオの静寂を楽しみながら、ピアノで新しい曲を書くことに集中する日々を送っていた。最近、私はドーン・リチャードとのアルバム『Pigments』を完成させたばかりだった。だから、ミニマルなアイデアをスケッチするのが新鮮に感じられた。


毎朝、ピアノで即興演奏をするのが日課になった。気に入った短いスケッチは、さらに発展させていった。やがて2組の音楽ができあがった。最初の音楽は、ピアノ独奏曲として完全に形成されていると感じられる曲だった。私はこれらの曲の中で生きることができた。この曲は、私の北部の生活における貴重な6ヵ月間を凝縮したものだった。控えめで、ミニマルで、孤独な瞬間。


同時に発展したもう1つの音楽は、一連のピアノのスケッチで、未完成な感じがしたが、アンサンブルで取り囲むことで可能性が出てきた。これらのアイデアが発展するにつれて、他のミュージシャンにアレンジの核となる部分を即興で演奏してもらうことで、『Pigments』の制作スタイルを参考にしたいと思うようになった。BlankFor.msことタイラー・ギルモア、スペンサー・ルートヴィヒ、クリス・ブロック、ジャス・ウォルトン、そしてブッカー・スタードラムが、それぞれの深い音楽的個性で楽曲に貢献し、楽曲に形と陰謀と美を吹き込んでくれた。


最後に、この2枚組アルバムのためのHana Tajimaによるアートワークは、彼女の祖父が彫った一連の彫刻である。彼女と私は、彼女が2020年に私のアルバム『Sunday Painter』のデザインを担当して以来、アートと音楽を共に創り上げてきた。彼女のペインティング、デザイン、そして全体的な美学は、長い間私にインスピレーションを与えてくれており、このアルバムはその集大成だ。


この2つのコレクションは『Statues I』と『Statues II』だ。


この音楽にスタンプを押してくれたみんな、ありがとう。


愛を込めて、

SZ



Spencer Zahn 『Statues II』



 Tracklist:


1. Changes in Three Parts

2. Morning

3. High Touch

4. OST

5. Wind Unsung

6. Wave

7. Shadow Setup



 
今年、Geoff Barrowが設立したInvada Recordsからデビューアルバム『Nails』を発表したミドルスブラのアウトフィット、Benefitsが「Council Rust」のJames Adrian Brownによるリミックスを公開した。


Benefitsは結成当初の無骨なポストパンク・サウンドからノイズを追加するようになり、NMEから密かに注目を受けるように。デビュー・アルバム『Nails』では、ノイズコア、インダストリアルノイズ、グラインドコア、ヒップホップ、ポストパンクなど幅広いアプローチを展開し、大きな成長を遂げた。彼らのデビュー作をスティーヴ・アルビニは高く評価し、「Fuckin' Cool」と手放しに絶賛した。Benefitsは、Grastonburyのレフト・フィールドに出演している。以後、地元のミドルスブラ、ブリストル、及び、イギリスの都市圏にとどまらず、ドイツ等でもライブを開催している。イギリスの音楽メディア”CLASH”の主催する教会でのライブも反響を呼んだ。

 

今回のリミックス・バージョンは、過激なアジテーションでリスナーを鼓舞するBenefitsの元来のノイズコアのスタイルとは、明らかに一線を画するものである。原曲については、ノイズ・アンビエントやオーケストラレーションにスポークンワードが乗せられるという前衛的なものだったが、今回のリミックスにより、ダンサンブルかつスタイリッシュなエレクトロに生まれ変わった。Benefitsは、このリミックスバージョンに関して次のように説明している。


「テープ・ループと繊細なビートで僕らのサウンドを粉々にしてくれた。2分20秒の編集だよ。James Adrian Brownに感謝したい」

 



 


サンフランシスコのドリームポップ・プロジェクト、Tanukichanことハンナ・ヴァン・ルーンが、ニュー・シングル「NPC」をCarpark Recordsから発表した。試聴は以下から。


『NPC』(ノン・プレイヤー・キャラクター)は、まさにそのことを歌っている」とヴァン・ルーンは声明で語っている。「百万人に一人のような気分で、人生の平凡さに溶け込み、見物人になる。もしかしたら、何らかの責任を回避しているのかもしれない」


「私はNPCをライブ・バンドと一緒に書いたので、このビデオはとても特別で、曲にぴったりです。何ヶ月もツアーをして、大きな会場で一緒に演奏することができた。この曲をサウンドトラックにしたことで、全てが丸く収まった瞬間よ」と彼女は続けた。


「NPC」

 


デトロイトの伝説的なシューゲイズバンド、Drop Nineteensが、近日リリース予定のフルアルバム『Hard Light』のラスト・プレビュー「The Price Was High」を公開しました。


Drop Nineteensの30年ぶりとなるアルバム『Hard Light』は、Wharf Cat Recordsより11月3日に発売される。すでにシングル「Scapa Flow」「A Hitch」でプレビューされている。

 

 新作アルバム『Hard Light』は、Wharf Cat Recordsから11月3日にリリースされます。バンドにとって30年ぶりとなる新作アルバムには、バンド・リーダーのグレッグ・アッケル、スティーヴ・ジマーマン、ポーラ・ケリー、モトヒロ・ヤスエ、ピーター・ケプリンのオリジナル・メンバー員が参加しています。Drop Nineteensの新作アルバム『Hard Light』はWharf Catより11月3日発売される。

 

「The Price Was High」

 


ワシントン州タコマの多国籍オルト・ロックバンド、Enumclawはデビューアルバム『Save The Baby』(レビュー発表から1周年を迎え、B面曲を収録した3曲入りのEPをドロップしました。また、デビュー・アルバム発表時、バンドはNMEの表紙を飾り、イギリスにもその名を轟かせた。


3曲のレコーディングは、チャズ・ベア(Toro y Moi)がプロデュースとエンジニアリングを担当した。EP全体は、イーナムクローが霞んだインディー・ロックに先進的なスピンを加え、地元のルーツに敬意を払い、同時に新たな境地へと突き進むバンドのサウンドを提示している。


リード・シングル「Fuck Love, I Just Bought a New Truck」について、アラミス・ジョンソンはこう語っている。「失恋したから、店に行って氷のように冷えたシクサーを買って、新品のトラックに乗って、そのことを歌にしたのさ」


EPのリリースに併せて、Enumclawは、イアン・オストロウスキー監督によるSave The Babyの1周年を祝う、騒々しく親密なツアー・ドキュメンタリーを公開しています。

 

 

「Save The Baby Tour Documentary」