現代音楽としてはドローン・ミュージックがスウェーデンを中心に活発な動向をみせている。最も注目したいのが商業音楽とはまったく異なる領域の前衛性を表現するグループが北欧を中心に登場しはじめている。


そんな中、実際のオーケストレーションをレコーディングの中で再現させて、古典音楽との融合にチャレンジしたのがカルフォルニアのSarah Davachiだった。その他にも、トルコ/イスタンブールのEkin Filは、Grouperに触発されたテクノ、アンビエント、フォークの中間域にある音楽を制作し、オリジナリティー溢れる作風を確立した。アジアでも実験音楽は盛んであり、韓国のデュオ、Salamandaは一定のジャンルに規定しえない実験的な電子音楽の作風で異彩を放っている。

 

 

 

Ekin Fil  『Rosewood Untitled』  

 


Label: re:st

Release:2023/1/13


『Rosewood Untitled』は2021年のギリシャ/地中海沿岸地方の大規模火災をモチーフに書かれた電子音楽である。

 

当時、地中海地域の最高気温は、47.1度を記録。記録的な熱波、及び、乾燥した大気によって、最初に発生した山火事は、二つの国のリゾート地全体に広がり、数カ月間、火は燃え広がり、収束を見ることはなかった。2021年のロイター通信の8月4日付の記事には、こう書かれている。


「ミラス(トルコ)4日 トルコのエルドアン大統領は、4日、南部沿岸地域で一週間続いている山火事について、『同国史上最悪規模の規模』であると述べた。4日には、南西部にある発電所にも火が燃え移った。高温と乾燥した強風に煽られ、火災が広がる中、先週以降8人が死亡。エーゲ海や地中海沿岸では、地元住民や外国観光客らが自宅やホテルから避難を余儀なくされた」。この大規模な山火事については同国の通信社”アナトリア通信”も取り上げた。数カ月間の火事は人間だけでなく、動物たちをも烟火の中に飲み込んでしまった」


このギリシャとトルコの両地域のリゾート地を中心に発生した長期間に及ぶ山火事に触発されたアンビエントという形で制作されたのが、イスタンブールの電子音楽家、エキン・フィルの最新アルバム『 Rosewood Untitled』。多作な音楽家で、2011年のデビューアルバム『Language』から、昨年までに14作をコンスタントに発表。

 

エキン・フィルは、基本的にはアンビエント/ドローンを音楽性の主な領域に置いている。今作『Rosewood Untitled』において、画期的なアンビエントやテクノを制作している。昨年に発表した『Dora Agora』は、以前の作風とは少しだけ異なり、ドリーム・ポップ/シューゲイザーとアンビエントを融合させ、画期的な手法を確立している。Music Tribuneはトルコの地震直後に安否確認を行ったが、その三ヶ月後、アーティスト自身の連絡により無事を確認している。

 


 

 


marine eyes  『idyll』- Expanded

 



Label: Stereoscenic

Release: 2023/3/27


 

ロサンゼルスのアンビエント・プロデューサー、Marine Eyes(マリン・アイズ)の昨日発売された最新作『Idyll』の拡張版は、我々が待ち望んでいた癒やし系のアンビエントの快作である。2021年にリリースされたオリジナル・バージョンに複数のリミックスを追加している。

 

Marine Eyesは、アンビエントのシークエンスにギターの録音を加え、心地よい音響空間をもたらしている。作品のテーマとしては、海と空を思わせる広々としたサウンドスケープが特徴。オリジナル作と同じように、拡張版も、ヒーリング・ミュージックとアンビエントの中間にある和らいだ抽象的な音楽を楽しむことが出来る。日頃、私達は言葉が過剰な世の中に生きているが、現行の多くのインストゥルメンタリスト、及び、アンビエント・プロデューサーと同じように、このアルバムでは言葉を極限まで薄れさせ、情感を大切にすることにポイントが絞られている。


タイトル・トラック「Idyll」に象徴されるシンセサイザーのパッドを使用した奥行きのあるアブストラクトなアンビエントは、それほど現行のアンビエントシーンにおいて特異な内容とはいえないが、過去のニューエイジのミュージックや、エンヤの全盛期のような清涼感溢れる雰囲気を醸し出す。それは具体的な事物を表現したいというのではなく、日常に溢れる安らいだ空気感を、大きな音のキャンバスへと落とし込んだとも称せる。制作者の音楽は、情報や刺激が過剰な現代社会に生きる私達の心に、ちょっとした余白や空白を設け、癒やしを与えてくれる。

 

 

 

 

 

Tim Hecker 『No Highs』

 



 Label: kranky

Release: 2023/4/7


シカゴのKrankyからリリースされた『No Highs』』は、前述の2枚のレコードのジャケットのうち、2枚目のジャケットの白とグレーを採用し、濃い霧(またはスモッグ)に包まれた逆さまの都市を表現しています。


このアルバムは、カナダ出身のプロデューサーの新しい道を示す役目を担った。Ben Frostのプロジェクトと並行しているためなのか、リリース時のアーティスト写真に象徴されるように、北極圏と音響の要素に彩られていますが、基本的には落ち着いたアルペジエーターによって盛り上げられるアンビエント/ダウンテンポの作品となっています。ノート(音符)の進行はしばしば水平に配置され、サウンドスケープは映画的で、ビートはパルス状のモールス信号のように一定に均されており、緊張、中断、静止の間に構築されたアンビエントが探求されている。特に『Monotony II』では、コリン・ステットソンのモードサックスが登場するのに注目です。


『No Highs』は「コーポレート・アンビエント」に対する防波堤として、また「エスカピズム」からの脱出として発表された。この作品は、作者がこれほど注意深くインスピレーションを持って扱う方法を知っている人物(同国のロスシルを除いて)はいないことを再確認させてくれる。


以前、音響学(都市の騒音)を専門的に研究していたこともあってか、これまで難解なアンビエント/ドローンを制作するイメージもあったティム・ヘッカーではありますが、『No Highs』は改めて音響学の見識を活かしながら、それらを前衛的なパルスという形式を通してリスナーに捉えやすい形式で提示するべく趣向を凝らしている。ティム・ヘッカーは、アルバムを通じて、音響学という範疇を超越し、卓越したノイズ・アンビエントを展開させている。それは”Post-Drone”、"Pulse-Ambient"と称するべき未曾有の形式であり、ノルウェーの前衛的なサックス奏者Jan Garbarek(ヤン・ガルバレク)の傑作「Rites」に近いスリリングな響きすら持ち合わせている。

 

 

 

 

 

 

Ellen Arkbro 『Sounds While Waiting』

 

 


Label: W.25TH

Release: 2023/10/13


スウェーデンの現代音楽家/実験音楽家、エレン・アルクブロ(Ellen Arkbro)は2019年に、パイプオルガンの音色を用いたシンセサイザーとギターのドローン音による和声法を対比的に構築した2015年のアルバム『CHORD』で同地のミュージック・シーンに台頭し、続く、2017年の2ndアルバムでは本格派の実験音楽に取り組むようになり、パイプオルガンとブラスを用いた「For Organ and Brass」を発表。スウェーデンにはドローン音を制作する現代音楽家が多い印象があるが、気鋭のドローン制作者として注目しておきたいアーティストである。

 

本作はスウェーデンのアーティストにとって三作目の作品となり、Kali Maloneの作風に象徴されるパイプオルガンを使用したドローン音楽に挑戦している。

 

ポリフォニーの旋律を主体としているのは上記のアーティストとほとんど同様であるが、Ellen Arkbroの音楽はどちらかといえば「パターン芸術」に近いものがある。音の出力とそれが消失する瞬間をスイッチのように入れ替えながら、 減退音(ディケイ)のトーンがいかなる変遷を辿るのかに焦点が絞られている。また、音響学の観点から見て、音の発生と減退がどのように製作者の抑制により展開されるのかに着目したい。



 

 

 

 

 

 Duenn & Satomimagae 『境界 Kyoukai』

 


 

Label: Rohs! Records

Release: 2023/6/21



イタリアのレーベルから発売された『境界 Kyoukai』は、レビューをしなかったので改めて紹介しておきたい作品。限定販売ですでにソールドアウトとなっている。

 

今作は福岡を拠点にする実験音楽家、Duenn(インタビューを読む)、東京の音楽家/シンガーソングライター/アーティスト、Satomimagae(インタビューを読む)によるコラボ作。Duennによるミニマル/グリッチ的な緻密なプロダクション、シュトゥックハウゼンの系譜にあるクラスターなど、電子音楽の引き出しに関しては、海外の著名な実験音楽家に匹敵するものがある。それらの実験音楽の領域にあるトラックの要素に特異なアトモスフィアを付加しているのが、ニューヨークのRVNGに所属するSatomimagaeさんのボーカル。作品制作のインスピレーションとなったのは、Duennさんが通勤中に見た看板で、その時、アーティストはその現実の中にある一風景に現実と非現実の狭間のような概念を捉えた。シンセの音作りに関してはロンドンのMarmoあたりの方向性に近いものが感じられた。

 

アルバムの序盤は実験的な音楽性を擁する曲が多いが、中盤から終盤にかけてチェレスタの音色を用い、ロマンティックな雰囲気を漂わせる場合もある。他にも、プロデューサーとしての引き出しの多さが感じられ、「gray」ではシンプルなアンビエントを楽しむことが出来る。さらに、クローズ曲「blue」では、エクスペリメンタルポップの作風に挑戦している。おそらくこれまで両者がそれほど多くは取り組んで来なかったタイプの曲といえるかもしれない。独立した2つの才能がバッチリ合致し、コラボレーションの醍醐味とも言えるような作風が誕生した。しかし、プロデューサーでもない私がアルバムのマスター音源を所有しているのはなぜ・・・??

 

 

 

 

 Salamanda 「In Parallel』

 



Label: Wisdom Teeth

Release: 2023/11/3

 

 

Salamanda(サラマンダ)は、韓国のDJ、Peggy Gou(ペギー・グー)が主宰するレーベルから作品をリリースしている。サウスコリアの注目すべき実験音楽のデュオ。昨年、FRAUの主宰するイベントにDeerhoofとともに出演していた覚えがある。デュオの音楽は、最初はアンビエントかと思ったが、必ずしもそうではなく、アヴァンギャルドという枠組みではありながら、ジャンルレスな音楽性に取り組んでいる。従来の作品を聴く限り、輝かしい才能に満ちあふれている。


「In Parallel』 ではエレクトロニカ/EDM寄りのアプローチを図ったと思えば、K-POPを絡めたのエレクトロニックにも挑戦している。また、環境音などを絡めつつ、オリジナリティーを付加している。アヴァンギャルドという範疇に収まりきらないポピュラー性がデュオの音楽の魅力。音楽的にはアイスランドのMumに近く、北欧のエレクトロニカが好きなリスナーはぜひチェックしてもらいたい。あまり一つの音楽を規定したりすることなく、今後も頑張ってほしい。

 


 

 

 

 

Chihei Hatakeyama 『Hachirougata Lake』

 



 

『Hachirougata Lake』は畠山地平さん(インタビューを読む)が現地に向い、フィールド・レコーディングを取り入れながら従来のアンビエント/ドローン音楽とは別の実録的な作風に挑んだ作品。水の音をモチーフ的に使用し、八郎潟の風景が持続的に変遷する情景をアンビエントというアーティストが最も特異とする手法により描写しようとしている。アルバムには朝の八郎潟を思わせるサウンドスケープから夕景と夜を想起させるものへと変化していく。ドキュメンタリー的な作品と言える。

 

ウィリアム・バシンスキーの「Water Music」のループ/ミニマルの楽曲構造やブライアン・イーノの『An Ending』のシンセの音色を受け継いだ楽曲も収録されている。従来、アーティストは、いわゆるメインストリームのアンビエントの制作することを直接的には控えてきた印象もあったが、この最新作ではイーノを始めとするアンビエントの原初的な作風にも挑んでいる。



 

 

Oneohtrix Pointnever 『Again』

 


Label: Warp

Release: 2023/9/29


2020年の『マジック・ワンオトリックス・ポイント・ネヴァー』に続く『アゲイン』は、プレスリリースで "思弁的な自伝 "であり、"記憶と空想が全く新しいものを形成するために収束する「非論理的な時代劇」"と説明されている。ジャケットのアートワークは、マティアス・ファルドバッケンがロパティンとともにコンセプトを練った。ヴェガール・クレーヴェンがMVを撮影した。


このアルバムはエレクトロニックによる超大な交響曲とも称すべき壮大な作風に挑んでいる。実際に、交響曲と称する必要があるのは、すべてではないにせよ、ストリングの重厚な演奏を取り入れ、電子音楽とオーケストラの融合を図っている曲が複数収録されているから。また、旧来の作品と同様、ボーカルのコラージュ(時には、YAMAHAのボーカロイドのようなボーカルの録音)を多角的に配し、武満徹と湯浅譲二が「実験工房」で制作していたテープ音楽「愛」「空」「鳥」等の実験音楽群の前衛性に接近したり、さらに、スティーヴ・ライヒの『Different Trains/ Electric Counterpoint』の作品に見受けられる語りのサンプリングを導入したりと、コラージュの手法を介して、電子音楽の構成の中にミニマリズムとして取り入れる場合もある。


さらに、ジョン・ケージの「Chance Operation」やイーノ/ボウイの「Oblique Strategy」における偶然性を取り入れた音楽の手法を取る場合もある。Kraftwerkの「Autobahn」の時代のジャーマン・テクノに近い深遠な電子音楽があるかと思えば、Jimi Hendrix、Led Zeppelinのようなワイト島のフェスティヴァルで鳴り響いた長大なストーリー性を持つハードロックを電子音楽という形で再構成した曲まで、ジャンルレスで無数の音楽の記憶が組み込まれている。そう、これはまさしく、ダニエル・ロパティンによる個人的な思索であるとともに、音楽そのものの記憶なのかもしれない。


 

 

 

Sarah Davachi 『Long Gradus』

 

 



Label: Late Music

Release: 2023/11/3

 

 

スウェーデンではドローン音楽がアンダーグラウンドで盛り上がりつつある。しかしロサンゼルスも負けていない。Laurel Halo,Sara Davachiを筆頭に、このジャンルが存在感をみせている印象がある。

 

従来までは、シンセやパイプオルガンを使用し、ドローン音楽やアンビエントを中心に制作してきたアーティストはこの作品、及び続編となる『Arrengements』でオーケストラとの共演をし、既存作品のレベルアップを図った。

 

デビュー当初、テクノ/エレクトロニックの領域の音楽を制作してきたアーティストではあるが、近年、クラシカルへの傾倒をみせ、古楽をベースにした作風にも挑戦している。「Long Gradus』ではオーケストラのストリングスの合奏を交え、ドローン音楽の創始者の実験音楽家、Yoshi Wadaのバグパイプにも似たポリフォニーによる特異な音響を発生させている。ストリングスの通奏低音の重なりは、清新な気風に充ち、笙の響きのような瑞々しさにあふれている。



 

 

 

Peter Broderick & Ensenble O 『Give It To The Sky: Arthur Russell's Tower of Meaning Expanded』

 


 

Label: Erased Tapes

Release: 2023/10/6

 

米国のコンテンポラリー・クラシカルの象徴的な存在、Peter Broderick(ピーター・ブロデリック)による最新作。ブリデリックは、これまでのバックカタログで、ピアノを主体とするポスト・クラシカルや、インディー・フォーク、はては自身によるボーカル・トラック、いわゆる歌ものまで多岐にわたる音楽に挑戦している。



ピーター・ブロデリックは、ロンドンのErased Tapesの看板アーティストである。特に「Eyes Closed and Traveling」は、ポスト・クラシカルの稀代の名曲である。今回、プロデリックはフランスのアンサンブル”Ensemble O”と組み、リアルなオーケストラ録音に着手した。

 

この度、ブロデリックは、アイオワのチェロ奏者、アーサー・ラッセルの隠れた録音に着目している。ラッセルは、チェリスト/作曲家として活躍し、複数の録音を残している。ブロデリックとラッセルには共通点があり、両者ともジャンルや形態を問わず、音楽をある種の表現の手段の一つとして考え、それをレコーディングに収めてきた経緯がある。ブロデリックは、ラッセルの一般的には知られていない録音に脚光を当て、当該録音の一般的な普及をさせることに加えて、それらを洗練されたコンテンポラリー・クラシックとして再構成するべく試みている。


アーサー・ラッセルのオリジナルスコアの中には、いかなる魅力が隠されていたのか? 考えるだけでワクワクするものがあるが、彼は、実際にスコアを元にし、ピアノ/木管楽器を中心としたフランスのアンサンブルと二人三脚で制作に取り組んだ。Peter Broderick & Ensemble 0による『Give It To The Sky』は、純正なクラシカルや現代音楽に真っ向から勝負を挑んだ作品と称せる。

 





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DANCE & ELECTRONIC 2023:  今年のエレクトロニック、ダンスミュージックの注目作をピックアップ

ジャック・アントノフは、先日リリースされた『1989(テイラーズ・ヴァージョン)』のために、テイラー・スウィフトの2014年のアルバム『1989』の楽曲を再レコーディングする際の挑戦について、興味深い詳細を明かした。

 

ジャック・アントノフはスウィフトの最も親しいクリエイティブ・パートナーであり、過去10年間に彼女がレコーディングした全てのアルバムにソングライティングとプロデュースを提供してきた。2人の最初のコラボレーションは、2013年の映画『ワン・チャンス』に収録された楽曲『スウィーター・ザン・フィクション』だったが、アントノフが初めて手がけたスウィフトのアルバムは、2014年のオリジナル版『1989』。楽曲『アウト・オブ・ザ・ウッズ』、『アイ・ウィッシュ・ユー・ウィズ』、『ユー・アー・イン・ラヴ』をプロデュースしている。


スウィフトの前レーベルであるビッグ・マシーン・レコードが、彼女の最初の6枚のアルバムのマスター・レコーディングの権利をプライベート・エクイティ会社に売却した後、スウィフトは6枚のアルバムすべてを、今度は彼女の管理下でマスターを再レコーディングすることを決めた。


アントノフは『Fearless』、『Red』、『Speak Now』の新ヴァージョンには参加しているが、アントノフがスウィフトと元々一緒に制作していたアルバムの新ヴァージョンのプロデュースを任されたのは、今回の再録音までなかった。


プロデューサーである彼は、Vultureとのインタビューに応じ、自身の作品を再現することの難しさについて明かした。パッチ・メモリー・ストレージを持たないMoog Model D、Roland Juno-6のようなクラシックなアナログ・シンセを使用していたため、レコードで使用されたシンセ・パッチを即座にダイヤルすることができなかったことを回想した。


「ソフト・シンセは一切使っていないので、すべてがその部屋で作られた音なんだ」とアントノフは語った。「面白いのは、音を思い出せないことだよ。だからブリーチャーズのみんなは、そういうことですごく助けてくれた。僕とバンドにとって本当に楽しいプロジェクトになった」


「部屋から聞こえてくる音だけのトラックを何曲か作るんだ。インターネットでは、『Is It Over Now?』 私たちが知っていて大好きなアナログ楽器ばかりだったから、本当に楽しかった:ムーグ・モデルDやジュノ6などだね」


ジャック・アントノフはさらに、昔のレコーディングを再訪するプロセスを、長い間行方不明になっていた日記を発見することに喩えている。これらのセッションには、「ああ、この変人めと思うようなものがたくさんある。レイヤーを重ねることで、段階を経ることができるんだ」


「つまり、『Out of the Woods』はまさにキッチンの流しのような曲なんだ。それが栄光なんだ。プロデューサーとして成功したわけでもない私が、あんなことを積み重ねる理由はない。そして、この奇妙で雑然としたシンフォニーを作り上げたんだ」



 



先日、約12年ぶりとなる待望のニューアルバム『らんど』をMaturi Studioからリリースする事を発表したZAZEN BOYS。

 

本日突如、先行配信SG「永遠少女」を各音楽配信サイトでリリース。同時にApple Music、Spotify、amazon music、YouTube musicではアルバム「らんど」の事前予約もスタート。併せてチェックしてほしい。ニューシングルは、向井秀徳の代名詞となるコアなカッティングギター、狂気と正気の狭間をさまよう生々しいリリック、圧倒的なバンドアンサンブルにより、どのような曲の結末を迎えるのかに着目してもらいたい。今週のBest New Tracksに認定。



更に現在、開催中の「ZAZEN BOYS TOUR MATSURI SESSION 2024」の追加日程も発表された。ツアーは4月5日に新潟で始まり、向井秀徳にとって思い入れの深い札幌Penny Lane 24の公演で幕を閉じる。約12年ぶりのアルバムリリースに向け、精力的に活動するZAZEN BOYSに注目して頂きたい。 

 

 

 「永遠少女」

 

 

 

 

リリース詳細

・先行配信シングル
アーティスト ZAZEN BOYS
タイトル   永遠少女
Label          MATSURI STUDIO
配信日    2023年12月20日


*各音楽配信サイトにて
ZAZEN BOYS「永遠少女」「らんど」

 

配信リンク:


https://ssm.lnk.to/Rando




Zazen Boys 『らんど』 NEW ALBUM




Label          MATSURI STUDIO
発売日    2024年1月24日(水)
価格     3000円+税(CD)
品番     PECF-3287
POS     4544163469411
形態     CD、Digital

 


Tracklist(収録曲):

 

1 DANBIRA
2 バラクーダ
3 八方美人
4 チャイコフスキーでよろしく
5 ブルーサンダー
6 杉並の少年
7 黄泉の国
8 公園には誰もいない
9 ブッカツ帰りのハイスクールボーイ
10 永遠少女
11 YAKIIMO
12 乱土
13 胸焼けうどんの作り方

 

 

・ツアー詳細 ZAZEN BOYS TOUR MATSURI SESSION 2024

 

ZAZEN BOYS オフィシャル先行


受付URL:https://ticket-frog.com/e/zbtms202404-06

 
受付期間:2023年12月20日(水)20:00〜2024年1月8日(月・祝)23:59

 



・4月5日(金)新潟CLUB RIVERST

 
開場18:30/開演19:00
(問)FOB新潟 025-229-5000 <平日:11:00〜17:00>



・4月6日(土)郡山HIPSHOT JAPAN

 
開場17:30/開演18:00
(問)GIP https://www.gip-web.co.jp/t/info



・4月12日(金)水戸ライトハウス

 
開場18:30/開演19:00
(問)ADN STATE 050-3532-5600 <平日12:00-17:00>



・4月14日(日)盛岡CLUB CHANGE WAVE

 
開場17:30/開演18:00
(問)GIP https://www.gip-web.co.jp/t/info



・4月20日(土)那覇桜坂セントラル

 
開場17:30/開演18:00
(問)PM AGENCY 098-898-1331 <平日11:00〜15:00>



・5月9日(木)京都磔磔

 
開場18:00/開演18:30
(問)YUMEBANCHI(大阪) 06-6341-3525<平日12:00~17:00>



・5月10日(金)福井CHOP

 
開場18:30/開演19:00
(問)FOB金沢 076-232-2424 <平日:11:00〜17:00>



・5月18日(土)鹿児島CAPARVO HALL

 
開場17:00/開演18:00
(問)BEA 092-712-4221<平日12:00〜16:00>


・6月8日(土)札幌PENNY LANE24

 
開場17:00/開演18:00
(問)WESS info@wess.co.jp 


ダーク・ミュージックのレコード・レーベル、The FlenzerがLowのトリビュート・アルバム『Your Voice Not  Enough』を2024年にリリースすると発表した。発表文にはこうある。


『Your Voice is Not Enough』は、Planning For BurialのThom WasluckとThe Flenserとの会話から生まれたプロジェクトであり、Lowへの心からのトリビュートである。ローのディスコグラフィーのニュアンスに富んだ美しさに触発され、好きなアルバムのランキングを話し合うことから始まったこのプロジェクトは、私たちFlenserの緊密なアーティスト・グループと友人を集めた共同作業へと花開いた。


惜しむらくは、このコンピレーションがミミ・パーカーの悲劇的な逝去の前に形になったことだ。彼女の遺産に敬意を表し、このアルバムを彼女の思い出に捧げ、彼女が音楽界に残した深い影響を讃えたい。


このトリビュート・アルバムには、Cremation Lily、Holy Water、Midwife and Amulets、Drowse featuring Lula Asplund、Kathryn Mohr、Planning for Burial、Have A Nice Life、Allison Lorenzenなど、フレンザーのアーティストや友人たちによる8曲のカバーが収録されている。


公開された最初の曲は、アリソン・ロレンツェンによる、ローの1994年のデビュー・アルバム『I Could Live In Hope』の象徴的なオープニング曲「Words」の心を揺さぶる素晴らしいカバーだ。試聴は以下から。


ローのミミ・パーカーは2022年にガンで他界したが、それ以来カヴァーやトリビュートが続々と発表されている。彼女の夫でバンドメイトのアラン・スパーホークは、2月にニューヨークでゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーのオープニングを務める。





Your Voice Is Not Enough:


1. Cremation Lily  -''Weight of Water"

2. Holy Water - "Sunflower"

3. Midwife, Amulets - "Do You Know How to Waltz"

4. Drowse - "Hey Chicago (feat. Lula Asplund)"

5. Kathryn Mohr - "Cut"

6. Allison Lorenzen - "Words"

7. Planning for Burial - "Murderer"

8. Have a Nice Life - "When I Go Deaf"


boygenius(ボーイ・ジーニアス)がBBC Radio 1でシャナイア・トゥエインの「You're Still the One」のカヴァーを披露した。下記よりご覧ください。


3月、boygeniusはデビュー・アルバム『the record』をリリースし、その後『rest EP』をリリースした。トリオは最近、シネイド・オコナーの「The Parting Glass」をチャリティ・シングルとして提供した。


今年初め、シャナイア・トゥエインは6枚目のアルバム『Queen of Me』で復帰した。




ヴェロニカが10月のカムバック・シングル『Perfect』に続き、新たなバンガーを発表した。このオージー・デュオの最新曲は『Detox』で、2曲とも3月にBig Noiseからリリースされるアルバム『Gothic Summer』からのシングル。



元オーストラリアのプロBMXライダーであるパット・フレイン監督と制作した『Detox』のビデオについて、ヴェロニカはこう説明している。「ワイド・ショットと極端なクローズ・アップを対比させ、ダンス・シーンを意図的に即興で作ることで、その瞬間の身体的・感情的なミラーリングを促したんだ」



  

Music Tribune Presents ”Album Of The Year 2023” 

 

 



Part.3 ーマイナスをプラスに変える力 海外の日本勢の台頭ー

 

2023年度のアルバムのプレスリリース情報やアーティストのコメントなどを見ていて、気になったことがあり、それは人生に降りかかる困難を音楽のクリエイティブな方面でプラスに変えるというアーティストやバンドが多かったという点です。


例えば、Slow Pulpのボーカリストのマッシーは、親の交通事故の後、病院で介抱をしながら劇的なアルバムの制作を行い、音楽に尽くせぬ苦悩をインディーロックという形に織りまぜていました。また、Polyvinyleに所属するSquirrel Flowerもツアーの合間に副業をしつつ、新作アルバムを発表している。すべてのアーティストがテイラー・スウィフトのような巨額の富を築き上げられるわけではないのは事実であり、商業的な側面と表現の一貫としての音楽の折り合いをどうつけるのかに苦心しているバンドやアーティストが数多く見られました。

 

一方、ラップ・シーンのアーティストでは、そのことが顕著に表れていた。たとえば、デトロイトの英雄、ダニー・ブラウンはThe Gurdianのインタビューで語ったように、断酒治療のリハビリに取り組みながら、その苦悩をJPEGMAFIAとのコラボ・アルバムや「Quaranta」の中に織り交ぜていました。特に、前者では、内的な悪魔的ななにかとの格闘を描いている。さらにジャズやソウルの織り交ぜたシカゴのオルタナティヴ・ヒップホップの最重要人物であるミック・ジェンキンスもまた、10年にわたって大きなビジョンを抱えつつも、ドイツのメジャーレーベル、BGMと契約を結ぶまでは、制作費の側面でなかなか思うように事態が好転しなかったと話しています。それが「Patience」というタイトルにも反映されている。ジェンキンスのフラストレーションの奔流は、凄まじいアジテーションを擁しており、リスナーの心を掻きむしる。

 

そしてもうひとつ、贔屓目抜きにしても、近年、海外で活躍する日本人アーティストが増えているのにも着目したいところです。特に、なぜか、ロンドンで活躍する女性アーティストが増加しており、昨年のSawayamaのブレイクに続いて、Hatis Noit、Hinako Omoriなど、ロンドンの実験音楽やエレクトロニックのフィールドで存在感を示している事例が増加しています。米国のChaiはもちろん、高校卒業後、心機一転、米国に向かったSen Morimotoにも注目で、現地のモダン・ジャズの影響を取り入れながら、CIty Slangのチームと協力し、シカゴに新しい風を呼び込もうとしています。つい十年くらい前までは、東南アジアを除けば、日本人が海外で活躍するというのは夢のような話でしたが、今やそれは単なる絵空事ではなくなったようです。


来年はどのようなアーティストやアルバムが登場するのでしょうか。結局、レーベルやメディア、商業誌に携わる人々のほとんどは、良い音楽やアーティスト、バンドが到来することを心から期待しており、それ以外の楽しみやプロモーションは副次的なものに過ぎないと思いたいです。


とりあえずメインのピックアップはこれで終了です。2024年の最初の注目作は、トム・ヨーク、ジョニー・グリーンウッド、トム・スキナーによるSmileのセカンド・アルバム。彼らはきっと音楽の未知なる魅力を示してくれるでしょう。



Part.3  ーThe Power to Turn Minus into Positive:  The Rise of Overseas Japanese Artistsー


One thing that caught my attention when I looked at the press release information and artists' comments for the 2023 albums was that many of the artists and bands were turning the difficulties that befell their lives into something positive through the creative aspect of their music. For example, Slow Pulp vocalist Massey, who released a dramatic album while caring for his parents after their car accident, weaves his endless anguish into the form of indie rock. From other interviews I've read, the artist must have had a truly accomplished and emotionally exhausting year. Squirrel Flower, who is also a member of Polyvinyle, is also working on the sidelines between tours and releasing a new album. It is true that not all artists can amass such a huge fortune as Taylor Swift, and we saw many bands and artists struggling to come to terms with the commercial aspect and music as a consistent form of expression.



This, on the other hand, was evident among artists in the rap scene. For example, as Detroit hero Danny Brown told The Gurdian, he wove his struggles into his collaborative album with JPEGMAFIA and "Quaranta" while working on his sobriety rehab. The former, in particular, depicts a struggle with something demonic within. Mick Jenkins, another Chicago alternative hip-hop darling who also weaves jazz and soul into his work, says that while he had a big vision for a decade, things didn't turn out as well as he would have liked in terms of production costs until he signed with BGM, a major German label. He says the production cost side of things didn't turn out as well as he would have liked. This is reflected in the title "Patience''.  Jenkins' torrent of frustration holds tremendous agitation and scratches the listener's heart.



Another thing to note, even without any prejudice, is the increasing number of Japanese artists who have been active overseas in recent years. In particular, for some reason, there has been an increase in the number of female artists active in London. Following the breakthrough of Sawayama last year, we are seeing more and more examples such as Hatis Noit and Hinako Omori, who are making their presence felt in the experimental music and electronic fields in London. Look out for Chai in the U.S., of course, and Sen Morimoto, who headed to the U.S. for a fresh start after high school graduation, incorporating local modern jazz influences and working with the CIty Slang team to bring a new breeze to Chicago. Just a decade or so ago, it was a dream come true for a Japanese artist to be active overseas, except in Southeast Asia, but now it seems to be more than just a pipe dream.


What kind of artists and albums will we see in the coming year?  In the end, I'd like to think that most people involved with labels, media, and commercial magazines are really looking forward to the arrival of good music, artists, and bands, and that all other fun and promotion is just a side effect.


The best albums list will continue, but for now, this is the end of our main picks: the first notable album of 2024 is the second Smile album by Thom Yorke, Jonny Greenwood, and Tom Skinner. They will surely show us the unknown fascination of music. (MT-D)


 

 


Laurel Halo  『Atlas』   -Album Of The Year



Label: Awe

Release: 2023/9/22

Genre: Experimental Music/ Modern Classical/Ambient



ロサンゼルスを拠点に活動するLaurel Halo(ローレル・ヘイロー)のインプリント”Awe”から発売された『Atlas』は、2023年の実験音楽/アンビエントの最高傑作である。アーティストからの告知によると、アルバムの発売後、NPRのインタビューが行われた他、Washington Postでレビューが掲載されました。米国の実験音楽の歴史を変える画期的な作品と見ても違和感がありません。

 

2018年頃の「Raw Silk Uncut Wood」の発表の時期には、モダンなエレクトロニックの作風を通じて実験的な音楽を追求してきたローレル・ヘイロー。彼女は、最新作でミュージック・コンクレートの技法を用い、ストリングス、ボーカル、ピアノの録音を通じて刺激的な作風を確立している。


『Atlas』の音楽的な構想には、イギリスの偉大なコントラバス奏者、Gavin Bryers(ギャヴィン・ブライヤーズ)の傑作『The Sinking Of The Titanic』があるかもしれないという印象を抱いた。

 

それは、音響工学の革新性の追求を意味し、モダン・アートの技法であるコラージュの手法を用い、ドローン・ミュージックの範疇にある稀有な音楽構造を生み出すということを意味する。元ある素材を別のものに組み替えるという、ミュージック・コンクレート等の難解な技法を差し置いたとしても、作品全体には、甘いロマンチシズムが魅惑的に漂う。制作時期を見ても、パンデミックの非現実な感覚を前衛音楽の技法を介して表現しようと試みたと考えられる。

 

アルバムの中では、「Last Night Drive」、「Sick Eros」の2曲の出来が際立っている。ドローン・ミュージックやエレクトロニックを始めとする現代音楽の手法を、グスタフ・マーラー、ウェーベルンといった新ウィーン学派の範疇にあるクラシックの管弦楽法に置き換えた手腕には最大限の敬意を表します。もちろん、アルバムの醍醐味は、「Belleville」に見受けられる通り、コクトー・ツインズやブライアン・イーノとのコラボレーションでお馴染みのHarold Budd(ハロルド・バッド)のソロ・ピアノを思わせる柔らかな響きを持つ曲にも求められる。

 

表向きに前衛性ばかりが際立つアルバムに思えますが、本作の魅力はそれだけにとどまりません。音楽全体に、優しげなエモーションと穏やかなサウンドが漂うのにも注目したい。

 

昨日(12月18日)、ローレル・ヘイローは来日公演を行い、ロンドンのイベンター「Mode」が開催する淀橋教会のレジデンスに出演した。ドローン・ミュージックの先駆者、Yoshi Wadaの息子で、彼の共同制作者でもある電子音楽家、Tashi Wadaと共演を果たした。

 


Best Track 「Last Night Drive」

 

 

 

 

Slow Pulp 『Yard』

 



 Label: ANTI

Release: 2023/9/29

Genre: Alternative Rock


ウィスコンシンにルーツを持ち、シカゴで活動するエミリー・マッシー(ヴォーカル/ギター)、ヘンリー・ストーア(ギター/プロデューサー)、テディ・マシューズ(ドラムス)、アレックス・リーズ(ベース)は、『Yard』で新しいサウンドの高みに到達し、劇的な化学反応を起こしている。

 

Slow Pulpの初期の曲に見られたフックとドリーミーなロックをベースにして、よりダイナミックなサウンドを作り上げた。落ち着いたギター、エモに近い泣きのアメリカーナ、骨太のピアノ・バラード、ポップ・パンクを通して、彼らは孤独というテーマと自分自身と心地よく付き合うことを学ぶ過程、そして他者を信頼し、愛し、寄り添うことを学ぶ重要性に向き合っている。


アルバムの制作時には、ボーカリストの病、両親の事故など不運に見舞われましたが、この作品を通じて、スロウパルプは昔から親しいバンドメンバーと協力しあい、それらの悲しみを乗り越えようとしています。

 

全体には、ポップパンク、アメリカーナ、そしてフィービー・ブリジャーズの作曲性に根ざした軽快なインディーロックソングが際立つ。最も聞きやすいのは「Doubt」。他方、アルバムの終盤に収録されている「Mud」にもバンドとしての前進や真骨頂が表れ出ているように思える。

 

 

Best Track 「Mud」




 

 

 Squirrel Flower 『Tommorow’s Fire』


 

Label: Polyvinyle

Release:2023/10/13

Genre: Indie Rock/Punk

 

 

Squirrel Flowerの最新作Tomorrow’s Fireの制作は、2015年に開始され、八年越しに完成へと導かれた。エラ・ウィリアムズは新作アルバムのいくつかの新曲をステージプレイしながら、曲をじっくり煮詰めていくことになった。「私の歴史と、現在の音楽的な自分と過去の音楽的な自分を肯定するために、曲は複雑に絡み合っていて、曲自体と対話を重ねることにした。それ以外の方法でこのアルバムを始めることは正当なこととは思えなかった」という。

 

アーティストはアイオワ大学でスタジオアートとジェンダー研究に取り組んだ後、ソロミュージシャンとして活動するようになった。もし自分の曲が多くの人にとどかなければ、他の仕事をしようという心づもりでやっていた。ツアーを終えた後、ウィリアムズは結婚式のケータリングの仕事に戻るケースもあるという。『Tommorow’s Fire』は、ソロアーティストでありながら、バンド形式で録音されたもので、エラ・ウィリアムズは、アッシュヴィルのドロップ・オブ・サン・スタジオで、著名なエンジニア、アレックス・ファーラー(『Wednesday』、『Indigo de Souza』、『Snail Mail』)と共に『Tomorrow's Fire』を指揮した。

 

このアルバムはスロウコア/サッドコアのような悲哀に充ちたメロディーが満載となっているが、一方でその中には強く心を揺らぶられるものがある。 

 

オープニング曲「i don't use a trash can」での綺羅びやかなギターラインとヒーリング音楽を思わせる透明なウィリアムズの歌声は本作の印象を掴むのに最適である。一方、インフレーションのため仕方なくフルタイムの仕事に就かなければならない思いをインディーロックという形に収めた「Full Time Job」は、一般的なものとは違った味がある。Snail Mail(スネイル・メイル)の作風にJ Mascisのヘヴィネスを加えた「Stick」もグラヴィティーがあり、耳の肥えたリスナーの心を捉えるものと思われる。その他にも、ポップ・パンクの影響を絡めた「intheslatepark」もハイライトになりえる。さらに「Finally Rain」では、シャロン・ヴァン・エッテンに匹敵するシンガーソングライターとしての圧倒的な存在感を見せる瞬間もある。

 

このアルバムは、Palehound、Ian Sweetといった魅力的なソングライターの作品を今年輩出したPolyvinyleの渾身の一作。オルタナティヴロック・ファンとしては、今作をスルーするのは出来かねる。「私が書く曲は必ずしも自伝的なものばかりではないけれど、常に真実なんだ」というウィリアムズ。その言葉に違わず、このアルバムにはリアルな音楽が凝縮されている。

 

 

 

Best Track 「intheskatepark」

 

 

 

Sampha 『Lahai』


 

Label: Young

Release: 2023/10/20

Genre: R&B/Hip Hop

 

 

アルバムの終盤部に収録されている「Time Piece」のフランス語のリリック、スポークンワードは、今作の持つ意味をよりグローバルな内容にし、映画のサウンドトラックのような意味合いを付与している。

 

2017年のマーキュリー賞受賞作「Process」から6年が経ち、サンファは、その活動の幅をさらに広げようとしている。ケンドリック・ラマー、ストームジー、ドレイク、ソランジュ、フランク・オーシャン、アリシア・キーズ、そしてアンダーグラウンドのトップ・アーティストたちとの共演している。ファッション・デザイナーのグレース・ウェールズ・ボナーや映画監督のカーリル・ジョセフらとクリエイティブなパートナーシップなどはほんの一例に過ぎない。

 

Lahaiは、ネオソウル、ラップ、エレクトロニックを網羅するアルバムとなっている。特に、ミニマル・ミュージックへの傾倒が伺える。それは「Dancing Circle」に現れ、ピアノの断片を反復し、ビート化し、その上にピアノの主旋律を交え、多重的な構造性を生み出す。しかし、やはりというべきか、その上に歌われるサンファのボーカルは、さらりとした質感を持つネオソウルとップホップの中間に位置する。サンファのボーカルとスポークンワードのスタイルを変幻自在に駆使する歌声は、大げさな抑揚のあるわけではないにも関わらず、ほんのりとしたペーソスや哀愁を誘う瞬間もある。アルバムの終盤に収録されている「Can't Go Back」に象徴されるように、聞いていると、ほんのりクリアで爽やかな気分になる一作である。

 

 

「Can't Go Back」

 

 


 

 

 

 

 Hinako Omori 「Stillness,  Softness...」-Album Of The Year

 




Label: Houndstooth

Release:2023/10/27

Genre:Experimental Pop/Electronic


 

横浜出身で、現在、ロンドンを拠点に活動するエレクトロニック・プロデューサー、Hinako Omori(大森日向子)は、ローランドのインタビューでも紹介され、ピッチフォーク・ロンドン・フェスティバルにも出演した。アーティストは自らの得意とするシンセサイザーとボーカルを駆使し、未曾有のエクスペリメンタル・ポップの領域を切り開いた。

 

Stillness,  Softness...のオープニング「both directions?」はシンセサイザーのインストゥルメンタルで始まるが、以後、コンセプト・アルバムのような連続的なストーリー性を生かしたインターバルなしの圧巻の12曲が続いている。

 

発売当初のレビューでは、「ゴシック的」とも記しましたが、これは正しくなかったかもしれない。どちらかといえば、その感覚は、ノクターンや夜想曲の神秘的な雰囲気に近いものがある。アーティストは、ポップ、エレクトロニック、ミニマリズム、ジャズ、ネオソウルに根ざした実験音楽を制作している。リリース元は、Houndstoothではあるものの、詳しいリスナーであれば、マンチェスターのレーベル、Modern Loversの所属アーティストに近い音の質感を感じとってもらえると思う。

 

アルバムは、インスト曲、ボーカル曲、シンセのオーケストラとも称すべき制作者の壮大な音楽観が反映されている。音楽的なアプローチは、東洋的なテイストに傾いたかと思えば、バッハの「インベンション」や「平均律」のようなクラシックに、さらに、ロンドンのモダンなポップスに向かう場合も。考え方によっては、ロンドンの多彩な文化性を反映したとも解釈出来る。そこにモノクロ写真への興味を始めとするゴシック的な感覚が散りばめられている。

 

アーティストは、「Stillness, Softness...」において、Terry Riley(テリー・ライリー)やFloating Points(フローティング・ポインツ)のミニマリズムを踏襲し、「エレクトロニックのミクロコスモス」とも称すべき作風を生み出した。ただ、基本的には実験的な作風ではありながら、アルバムには比較的聞きやすい曲も収録されている。「cyanotaype memories」、「foundation」は、モダンなエクスペリメンタル・ポップとして聴き込むことができる。その一方、エレクトロニック/ミニマルミュージックの名曲「in limbo」、「a structure」、さらにミニマリズムをモダン・ポップとして昇華した「in full bloom」等、アルバムの全体を通じて良曲に事欠くことはない。

 

アルバムの終盤に収録されている「epilogue」、タイトル曲「Stillness, Softness...」の流れは驚異的で、ポピュラー・ミュージックの未来形を示したとも言える。曲の構成力、そして、それを集中力を切らすことなく最初から最後まで繋げたこと、モチーフの変奏の巧みさ、ボーカリスト、シンセ奏者としての類まれな才覚……。どれをとってもほんとうに素晴らしい。メロディーの運びの美麗さはもちろん、ミステリアスで壮大な音楽観に圧倒されてしまった。(リリースの記事紹介時に、お礼を言っていただき本当に感動しました。ありがとうございました!!)

 


 Best Track 「Stillness,  Softness...」

 

 

 

 

Sen Morimoto 『Diagnosis』

 



Label: City Slang

Release: 2023/11/3


さて、今年は、贔屓目なしに見ても、日本人アーティストあるいは、日本にルーツを持つミュージシャンが数多く活躍した。2022年、City Slangと契約を交わし、レーベルから第一作を発表したセン・モリモトもそのひとり。京都出身のアーティストは、高校卒業後、アメリカに渡り、シカゴのジャズシーンと関わりを持ちながら、オリジナリティーの高い音楽を確立した。

 

Diagnosisでは、ジャズ、ヒップホップ、ファンク、ソウルをシームレスにクロスオーバーし、ブレイクビーツを主体に画期的な作風を生み出した。

 

もちろん、アンサンブルの方法論を抜きにしても、親しみやすく、そして何より、乗りやすい曲が満載となっている。音楽そのもののエンターテインメント性を追求したアルバム。もちろん、楽しさだけにとどまらず、ふと考えさせられるような曲も収録されている。特に、先行シングルとして公開された「Bad State」は、アーティストのことをよりよく知るためには最適。先行シングルでミュージック・ビデオを撮影した弟の裕也さんとともに頑張ってもらいたいです。

 

 

 Best Track 「Bad State」

 


 

 

 

PinkPantheress 『Heaven Knows』


Label: Warner

Release: 2023/11/10

Genre: Indie Pop/Dance Pop


ピンクパンサレスは元々、イギリスのエモ・カルチャーに親しみ、その後、TikTokで楽曲をアップロードし、人気を着実に獲得した。シンガーソングライターの表情を持つ傍ら、DJセットでのライブも行っている。ワーナーから発売されたHeaven Knowsはポップス、ダンス・ミュージック、R&B等をクロスオーバーし、UKの新たなトレンドミュージックのスタイルを示した。

 

 Pinkpanthressは、単なるポップ・シンガーと呼ぶには惜しいほど多彩な才能を擁している。DJセットでのライブパフォーマンスにも定評がある。ポップというくくりではありながら、ダンスミュージックを反映させたドライブ感のあるサウンドを特徴としている。ドラムンベースやガラージを主体としたリズムに、グリッチやブレイクビーツが刺激的に搭載される。これがトラック全般に独特なハネを与え、グルーヴィーなリズムを生み出す。ビートに散りばめられるキャッチーで乗りやすいフレーズは、Nilfur Yanyaのアルバム『PAINLESS』に近い印象を思わせる。

 

Tiktok発の圧縮されたモダンなポピュラー音楽は、それほど熱心ではない音楽ファンの入り口ともなりえるし、その後、じっくりと音楽に浸るためのきっかけとなるはず。ライトな層の要請に応えるべく、UKのシンガーソングライター、Pinkpanthressは、このデビュー作で数秒間で音楽の良さを把握することが出来るポップスを作り出した手腕には最大限の敬意を評しておきたい。

 

ポピュラーミュージックのトレンドが今後どのように推移していくかは誰にも分からないことではあるけれど、Pinkpanthressのデビュー作には、アーティストの未知の可能性や潜在的な音楽の布石が十分に示されていると思う。ベスト・アルバムでも良いと思うが、二作目も良い作品が出そうなので保留中。

 

 


Best Track 「Blue」

 

 

 

Danny Brown 『Quaranta』 -Album Of The Year

 


 

Label: Warp

Release: 2023/11/17

Genre: Abstract Hip-Hop

 


デトロイト出身、現在はテキサスに引っ越したというラッパー、ダニー・ブラウンほど今年のベストリストにふさわしい人物はいない。

 

2010年代は、人物的なユニークな性質ばかりをフィーチャーされるような印象もありました。しかしながら、このアルバムを聴くと分かる通り、そう考えるのは無粋というものだろう。JPEGMAFIAとのコラボレーションを経て、ブラウンは唯一無二のヒップホップの良盤を生み出した。

 

イタリア語で「40」を意味するアルバムQuarantaの制作の直前、断酒のリハビリ治療に取り組んでいたというブラウンですが、このアルバムには、彼の人生における苦悩、それをいかに乗り越えようとするのかを徹底的に模索した、「苦悩のヒップホップ」が収録されている。

 

確かに、ブラウンのヒップホップやトラック制作やコンテクストの中には、JPEGMAFIAと同様にアブストラクトな性質が含まれる。リリック、ライムに関しては、親しみやすいとはいいがたいものがある。しかし、その分、スパゲッティ・ウエスタン、ロック、ファンク、ジャズ、チル・ウェイヴ等、多彩な音楽性を飛び越えて、傑出したラップを披露し、素晴らしい作品を生み出した。結局、ブラウンの音楽の長所は、彼の短所を補って余りあるものだった。

 

アルバムの冒頭を飾る「Quaranta」のシネマティックなヒップホップも凄まじい気迫が感じられ、アブストラクト・ヒップホップの最新鋭を示した「Dark Sword Angel」も中盤のハイライトとなりえる。その他、前曲からインターバルなしで続く、ファンクの要素を押し出した「Y.B.P」もクール。さらに、同レーベルの新人、Kassa Overallがドラムで参加した「Jenn's Terrific Vacation」についてもリズムの革新性があり、哀愁溢れるヒップホップとして楽しめる。アルバムの序盤はエグい展開でありながら、終盤では和らいだトラックが収録されている。

 

「Hanami」は、従来までアーティストが表現しえなかったヒップホップの穏やかな魅力を示しており、これはキラー・マイクの音楽の方向性と足並みを揃えた結果とも称せるだろう。ダニー・ブラウンは、『Quaranta』の制作に関して、「コンセプチュアルなアルバムを好む」と説明しているが、まさしく彼の人生もそれと同様に、何らかのテーマに則っているのかもしれない。

 

 

Best Track 「Quaranta」

 

 

 

 

Cat Power 『Cat Power Sings Bob Dylan:The 1966 Royal Albert Hall Concert』

 



 

Label:Domino

Release: 2023/11/10

Genre: Rock/Folk

 

2022年にドミノから発売された「Covers」では、フランク・オーシャン、ザ・リプレイスメンツ、ザ・ポーグスのカバーを行っていることからも分かる通り、キャット・パワーは無類の音楽通としても知られている。エンジェル・オルセン、ラナ・デル・レイ等、彼女にリスペクトを捧げるミュージシャンは少なくない。

 

「ロイヤル・アルバートホール」でのキャット・パワーの公演を収録したCat Power Sings Bob Dylanは、ボブ・ディランの1966年5月17日の公演を再現した内容。このライブはディランのキャリアの変革期に当たり、マンチェスターのフリー・トレード・ホールで行われたディランのライブ公演を示す。

 

このライブ・アルバムは、これまで数多くのカバーをこなしてきたチャン・マーシャルのシンガーとしての最高の瞬間を捉えている。アルバムの序盤では、アーティストのただならぬ緊張感を象徴するかのように厳粛な雰囲気で始まりますが、中盤にかけてはフォーク・ロックやヴィンテージ・ロック風のエンターテインメント性の高い音楽へと転じていく。そして、圧巻の瞬間は、ライブアルバムの終盤に訪れ、ディランのオリジナルコンサートを忠実に再現させる「ユダ」「ジーザス」というキャット・パワーと観客とのやりとりにある。ライブアルバムの空気感のリアリティーはもちろん、音源としての完成度の素晴らしさをぜひ体験してもらいたいです。

 

Best Track 「Mr. Tambourine Man」

 


 

 

 

・+ 5 Album

 

 

Wilco 『Cousin』

 


Label: dBpm Records

Release: 2023/9/29

Genre: Indie Rock/Indie Folk

 

ジェフ・トゥイーディー率いるシカゴのロックバンド、Wilcoは前作『Cruel Country』では、クラシカルなアメリカーナ(フォーク/カントリー)に回帰し、米国の音楽の古典的なルーツに迫った。

 

ニューアルバム『Cousin』では、アメリカーナの音楽性を踏襲した上で、2000年代のアート・ロックを結びつけた作風を体現させている。ウィルコのジェフ・トゥイーディーは、「世界をいとこのように考える」という思いをこの最新アルバムの中に込めている。本作には、インディーフォークバンドとしての貫禄すら感じさせる「Ten Dead」、「Evicted」、及び、『Yankee Hotel  Foxtrot』の時代の作風へと回帰を果たした「Infinite Surprise」が収録されている。

 

また、今週の12月22日、小林克也さんが司会を務める「ベスト・ヒット USA」にジェフ・トゥイーディーがリモートで出演予定です。

 

 

Best Track 「Infinite Surprise」

 

 

 

 Nation Of Language 『Strange Disciple』

 



Label: [PIAS]

Release: 2023/9/15

Genre: Indie Pop/New Romantic

 

ニューヨークの新世代のインディーポップトリオ、Nation Of Language(ネイション・オブ・ランゲージ)は清涼感のあるボーカルに、Human League,Japan、Duran Duranといったニューロマンティックの性質を加えた音楽性を3rdアルバム『Strange Disciple』で確立している。

 

ライブは、ロック・バンド寄りのアグレッシヴな感覚を伴うが、少なくとも、このアルバムに関していうと、イアン・カーティスのようなボーカルの落ち着きとクールさに象徴づけられている。ラフ・トレードは、このアルバムをナンバー・ワンとして紹介していますが、それも納得の出来栄え。シンセ・ポップの次世代を行く「Weak In Your Light」、さらに、The Policeの主要曲のような精細感のあるポピュラー・ミュージック「Sightseer」も聞き逃すことが出来ません。



Best Track 「Sightseer」

 


 

 

Arlo Parks 『My Soft Machine』



 

Label: Transgressive

Release: 2023/5/26

Genre: Indie Pop

 

ロンドンからロサンゼルスに活動の拠点を移したArlo Parks(アーロ・パークス)。インディーポップにネオソウル、ヒップホップの雰囲気を加味した親しみやすい作風で知られている。

 

ニューアルバム『My Soft Machine』には、アーティストの様々な人生が反映されている。ロサンゼルスをぶらぶら散策したり、海を見に行く。そんな日常を送りながら、穏やかなインディーポップへと歩みを進めている。これまでの少し甘い感じのインディーポップソングを中心に、現地のローファイやチルウェイブの音楽性を新たに追加し、新鮮味溢れる作風を確立している。

 

とくに、フィービー・ブリジャーズが参加した「Pegasus」はエレクトロニックとインディーポップを融合し、新鮮なポピュラーミュージックのスタイルを確立させている。「Puppy」のキュートな感じもアーティストの新たな魅力が現れた瞬間と称せるか。

 

 

Best Track 「Puppy」

 

 

 

 

Antoine Loyer 『Talamanca』

 


 

Label: Le Saule

Release: 2023/6/16

Genre: Avan-Folk/Modern Classical

 

 

フランス/パリのレーベル、”Le Saule”のプロモーションによると、 以前、日本の音楽評論家の高橋健太郎氏が、ベルギーのギタリスト、Antoine Loyer(アントワーヌ・ロワイエ)を絶賛したという。レーベルの資料によると、ミュージック・マガジンでも過去にインタビューが掲載されたことがある。

 

ベルギーのアヴァン・フォークの鬼才、アントワーヌ・ロワイエは、今作では、Megalodons Maladesという名のオーケストラとともに、アヴァン・フォーク、ワールド・ミュージック、現代音楽をシームレスにクロスオーバーした作品を制作している。ソロの作品よりも音楽性に広がりが増し、聞きやすくなったという印象。アルバムのレコーディングは、スペインのカタルーニャ地方の「Talamanca」という村の教会と古民家で行われた。フルート、コントラファゴットを中心とする管楽器に加え、オーケストラ・グループのコーラスがおしゃれな雰囲気を生み出している。

 

「Talamanca」の収録曲の多くは、アントワーヌ・ロワイエのアコースティック・ギターの演奏とボーカルにMegalodons Maladesの複数の管楽器のパート、コーラスが加わるという形で制作された。ブリュッセルの小学生と一緒に作られた曲もある。パンデミックの時期にまったく無縁な生活を送っていたというロワイエですが、そういったおおらかで開放感に溢れた空気感が魅力。

 

「Nos Pieds(Un Animal)」、「Demi-Lune」、「Pierre-Yves Begue」、「Tomate De Mer」等、遊び心のあるアヴァン・フォークの秀作がずらりと並んでいる。アルバムの終盤に収録されている「Jeu de des pipes」では、オーケストレーションのアヴァンギヤルドな作風へと転じている。

 


Best Track 「Nos Pieds(Un Animal)」

 

 

 「Marceli」- Live Version

 

 

 

 

 Mick Jenkins 『The Patience』



Label: BMG

Release:2023/8/18

Genre : Alternative Hip-Hop/Jazz Hip-Hop

 


ラストを飾るのはこの人しかいない!! シカゴのヒップホップシーンの立役者、Mick Jenkins(ミック・ジェンキンス)。以前からジャズやソウルをクロスオーバーしたオルタナティヴ・ヒップホップを制作してきた。日本のラッパー、Daichi Yamamotoとコラボレーションしたこともある。

 

ミック・ジェンキンスは、アルバムの制作費という面でより多くの支援を受けるため、ドイツの大手レーベル、BMGとライセンス契約を結んだ。アルバムのタイトルは、制作期間を示したのではなく、この10年間、ミック・ジェンキンスが抱えてきた苛立ちのようなものを表しているという。彼はリリース当初、そのことに関してバスケットボールの比喩を用いて説明していた。

 

Patience」は旧来の『Elephant In Room』の時代のオルタネイトなヒップホップの方向性と大きな変化はありません。今作はじっくりと煮詰めていった末に完成されたという感じもある。しかし、シカゴのアンダーグランドのヒップホップシーンの性質が最も色濃く反映された作品であることは確かです。

 

ヒップホップ、モダン・ジャズとチル・ウェイブを掛け合せた「Michelin Star」、アトランタのラッパー、JIDがゲストボーカルで参加した「Smoke Break-Dance」の2曲は、アルバムの中で最も聞きやすさがある。


しかし、本作の真価は、中盤から終盤にかけて訪れる。「007」、「2004」といった痛撃なライム、リリックにある。ジェンキンスのラッパーとして最もドープと称するべき瞬間は、「Pasta」に表れる。この曲はおそらく、シカゴのDefceeに対するオマージュのような意味が込められているのかもしれない。さらにきわめつけは、スポークンワードというよりも、つぶやきの形で終わる「Mop」を聴いた時、深く心を揺らぶられるものがありました。

 

 

Best Track  「Michelin Star」



Part.1はこちらからお読み下さい。
 
Part.2はこちら

ケイト・マッキノンが司会を務めた『サタデー・ナイト・ライブ』に、ビリー・エイリッシュが音楽ゲストとして登場した。グレタ・ガーウィグがこのシンガーを紹介するためにサプライズで登場し、彼女のバービー・ソング「What Was I Made For?'」と「Have Yourself a Merry Little Christmas」を披露した。このエピソードのクリップは以下からご覧ください。


What Was I Made For?'のパフォーマンス中、エイリッシュは幼少期のホームムービーのクリップや、エイリッシュとSNLの現・元女性キャストたちの個人的な写真を使って、映画のワンシーンを再現した。彼女はまた、マヤ・ルドルフ、クリステン・ウィグ、ポーラ・ペル、マッキノン、そしてガーウィグと一緒に出演し、マッキノンと一緒に猫の保護シェルターを題材にした寸劇にも出演した。


エイリッシュは、2019年のデビューと2021年の司会と音楽ゲストのダブル出演に続き、今回がコメディ・スケッチ番組への3度目の出演となった。「What Was I Made For?'」は、年間最優秀レコード賞と年間最優秀楽曲賞を含むグラミー賞5部門にノミネートされており、最近ではゴールデングローブ賞にもノミネートされた。



 Music Tribune Presents ”Album Of The Year 2023” 

 

 



・Part 2 ーー移民がもたらす新しい音楽ーー


近年、ジャンルがどんどんと細分化し、さらに先鋭化していく中で、ミュージシャンの方も自分たちがどのジャンルの音楽をやるのかを決定するのはとても難しいことであると思われます。

 

あるグループは、20世紀はじめのブロードウェイのミュージカルやジャズのようなクラシックな音楽を吸収したかと思えば、それとは別に2000年代以降のユース・カルチャーの影響を取り入れる一派もいる。

 

およそ無数の選択肢が用意される中で、Bonoboのサイモン・グリーンも話すように、「どの音を選ぶのかに頭脳を使わなければならない」というのは事実のようです。多様性が深まる中で、移民という外的な存在が、その土地の音楽に新たな息吹やカルチャーをもたらすことがある。最初に紹介するカナダのドリームポップ/シューゲイズの新星、Bodywashのボーカルは実は日本人の血を引いており、彼はカナダでのビザが役所の誤った手続きにより許可されず、住民の権利が認可されなかったという苦悩にまつわる経験を、デビュー・アルバムの中で見事に活かしています。

 

さらに、Matadorから登場したロンドンのトリオ、Bar Italiaのメンバーも公にはしていないものの、同じように移民により構成されると思われ、三者三様のエキゾチズムがローファイなインディーロックの中に個性的に取り入れられています。さらに、ニューヨークのシンガー、Mitskiも日本出身の移民でもある。その土地の固有の音楽ではなく、様々な国の文化を取り入れた音楽、それは今後の世界的なミュージック・シーンの一角を担っていくものと思われます。

 

 

・Part 2  - New Music Brought by Immigrants-



As genres have become more and more fragmented and even more radical in recent years, it can be very difficult for musicians to decide which genre of music they are going to play.

One group may have absorbed classical music such as Broadway musicals and jazz from the early 20th century, while another faction has embraced the influences of youth culture from the 2000s onward.

With approximately countless options available, it seems true that, as Simon Green of Bonobo also speaks, "you have to use your brain to choose which sound to choose". As diversity deepens, the external presence of immigrants can bring new life and culture to local music. The vocalist of the first new Canadian dream-pop/shoegaze star, Bodywash, is actually of Japanese descent, and he makes excellent use of the experience of his anguish over a Canadian work visa whose residents' rights were not approved due to a mishandling by the authorities on his debut album. The album is a great example of the artist's ability to use his own experiences to his advantage.


In addition, the members of Bar Italia, a London trio that appeared on Matador, are also thought to be composed of immigrants as well, although they have not publicly announced it, and the exoticism of all three is uniquely incorporated into their lo-fi indie rock music. Furthermore, New York singer Mitski is also an immigrant from Japan. Music that is not indigenous to a particular region, but incorporates the cultures of various countries, is expected to become a part of the global music scene in the future.(MT- D)



 Bodywash 『I Held The Shape While I Could』



Label: Light Organ

Release: 2023/4/14

Genre: Dream Pop/ Shoegaze /Experimental Pop

 

 

今年、登場したドリーム・ポップ/シューゲイズバンドとして注目したいのが、カナダのデュオ、Bodywash。シンセサイザーと歪んだギター組みあわせ、独創的なアルバム『I Held The Shape While I Could』制作した。デュオは収録曲ごとに、メインボーカルを入れ替え、その役割ごとに作風を変化させている。

 

シューゲイズのアンセムとしては「Massif Central」がクールな雰囲気を擁する。その他にも、アンビエントやエクスペリメンタルポップが収録されている。アルバムの終盤では、「Ascents」や「No Repair」といったオルタナティヴロックの枠組みにとらわれない、新鮮なアプローチを図っている。 

 

 

 Best Track「Massif Central」



Best Track 「No Repair」




Hannah Jadagu 『Aperture』

 

 

Label: Sub Pop

Release: 2023/5/19

Genre: Indie Rock



Hannah Jadagu(ハンナ・ジャダグ)は、テキサス出身、現在はニューヨークに活動拠点を移している。

 

アーティストはパーカッション奏者として学生時代に音楽に没頭するようになった。以後、最初のEPをiphone7を中心にレコーディングしている。今作でレベルアップを図るため、Sub Popと契約を交わし、海外でのレコーディングに挑戦した。Hannha Jadaguは、彼女自身が敬愛するSnail Mail、Clairoを始めとする現行のインディーロックとベッドルームポップの中間にある、軽やかな音楽性をデビューアルバムで体現させている。

 

『Aperture』はマックス・ロベール・ベイビーをプロデューサーに招いて制作された。アルバムを通じてアーティストが表現しようとしたのは、教会というテーマ、そしてハンナ・ジャダグが尊敬する姉のことについてだった。

 

「Say It Now」、「Six Months」、「What You Did It」を中心とするインディーロック・バンガー、正反対にR&Bのメロウな音楽性を反映させた「Warning Sign」に体現されている。アルバムのリリース後、アメリカツアーを敢行した。インディー・ロックのニューライザーに目される。「Say It Now」では、「Ikiteru Shake Your Time」という日本語の歌詞が取り入れられている。

 

 

Best Track  「Say It Now」


 



Bar Italia  『Tracy Denim』

 

 

Label: Matador

Release: 2023/5/22

Genre: Indie Rock



当初、Bar Italiaは、ローファイ、ドリーム・ポップ、シューゲイザーを組み合わせた独特な音楽性で密かに音楽ファンの注目を集めてきた。Matadorから発表された『Tracy Denim』は、ロンドンのトリオの出世作であり、音楽性に関してもバリエーションを増すようになってきている。


現在は、その限りではないものの、当初、Bar Italiaは、「カルト的」とも「秘密主義」とも称されることがあった。『Tracy Denim』はトリオのミステリアスな音楽性の一端に触れることが出来る。最初期のローファイな作風を反映させた「Nurse」、トリオがメインボーカルを入れ替えて歌うパンキッシュな音楽性を押し出した「punkt」、Nirvanaのグランジ性を継承した「Friends」等、いかにもロンドンのカルチャーの多彩さを伺わせる音楽性を楽しむことができる。

 

アルバムのプロデューサーには、ビョークの作品等で知られるマルタ・サローニが抜擢。バンドは、Matadorからのデビュー作のリリース後、レーベルの第二作『The Twits』(Review)を立て続けに発表し、さらにエネルギッシュな作風へと転じている。今後の活躍が非常に楽しみなバンド。         

 

 Best Track 「punkt」





Gia Margaret 『Romantic Piano』

 


Label: jagujaguwar

Release: 2023/5/26

Genre: Modern Classical/ Post Calssical/ Pop

 

 

シカゴのピアニスト、マルチ奏者、ボーカリスト、Gia Margaret(ジア・マーガレット)の最新アルバム『Romantic Paino』は、静けさと祈りに充ちたアルバム。ピアノの記譜を元にして、閃きとインスピレーション溢れる12曲を収録。過去のツアーでの声が出なくなった経験を元にし、書かれた前作と異なり、単に治癒の過程を描いたアルバムとは決めつけられないものがある。

 

アルバムの冒頭を飾る「Hinoki Woods」を筆頭に、シンセサイザーとピアノを組みわせ、ミニマリズムに根ざした実験的な作風に挑んでいる。しかしピアノの小品を中心とするこのアルバムには、何らかの癒やしがあるのは事実で、同時に「Juno」に象徴されるように瞑想的な響きを持ち合わせている。

 

「Strech」は、現代のポスト・クラシカル/モダンクラシカルの名曲である。他にもギターの音響をアンビエント的に処理した「Guitar Piece」もロマンチックで、ヨーロピアンな響きを擁する。ボーカル・トラックに挑戦した「City Song」は果たしてシカゴをモチーフにしたものなのか。アンニュイな響きに加え、涙を誘うような哀感に満ちている。静けさと瞑想性、それがこのアルバムの最大の魅力であり、とりもなおさず現在のアーティストの魅力と言えるかもしれない。

 

 

Best Track 「City Song」

 

 


Killer Mike 『MICHAEL』

 

 


Label: Loma Vista

Release:2023/6/16

Genre: Hip Hop / R&B

 

ヒップホップのカルチャーの歴史、現在のこのジャンルの課題を良く知るキラー・マイクにとって、『MICHAEL』の制作に取り掛かることは、音楽を作る事以上の意味があったのかもしれない。つまり、近年、法廷沙汰となっているこのジャンルの芸術性を再確認しようという意図が込められていた。そしてヒップホップに纏わる悪評の世間的な誤解を解こうという切なる思いが込められていた。それはブラック・カルチャーの負の側面を解消しようという試みでもあったのです。

 

キラー・マイクは、結局、かつては友人であった人々が法廷に引っ張られていくのを見過ごすわけにはいかなかった。そこで彼は、ヒップホップそのものが悪であるという先入観をこの作品で取り払おうと努めている。また、キラー・マイクはブラックカルチャーの深層の領域にある音楽をラップに取り入れようとしている。このアルバムを通じて、マイクはゴスペル、R&Bへの弛まぬ敬愛を示しており、ブラック・カルチャーの肯定的な側面をフィーチャーしている。

 

取り分け、このアルバムがベストリストにふさわしいと思うのは、彼が亡くなった親族への哀悼の意を示していること。タイトル曲の録音で、レコーディングのブースに入ろうとするとき、キラー・マイクの目には涙が浮かんでいた。彼はブースに入る直前、様々な母の姿を思い浮かべ、それをラップとして表現しようとした。ヒップホップは必ずしも悪徳なのではなくて、それとは正反対に良い側面も擁している。キラー・マイクの最新作『MICHAEL』はあらためて、そういったことを教えてくれるはず。アーティスト自身が言うように、芸術形態ではないと見做されがちなこのジャンルが、立派なリベラルアーツの一つということもまた事実なのである。

 

 

Best Track  「Motherless」

 

 

 

 

McKinly Dixson 『Beloved!Paradise! Jazz!?』

 

 

Label: City Slang

Release: 2023/6/2

Genre:Hip Hop/ Jazz

 

 

City Slangから発売された『Beloved!Paradise! Jazz!?』の制作は、アトランタ/シカゴのラッパー、マッキンリー・ディクソンが、母の部屋で、トニ・モリスンの小説『Jazz』を発見し、それを読んだことに端を発する。

 

おそらく、トニ・モリスンの小説は、女性の人権、及び、黒人の社会的な地位が低い時代に書かれたため、現在同じことを書くよりも、はるかに勇気を必要とする文学であったのかもしれない。私自身は読んだことはありませんが、内容は過激な部分も含まれている。しかしマッキンリー・ディクソンは、必ずしも、モニスンの文学性から過激さだけを読み取るのではなく、その中に隠された愛を読み取った。もっと言えば、既に愛されていることに気がついたのだった。

 

マッキンリー・ディクソンの評論家顔負けの鋭く深い読みは、実際、このアルバムに重要な骨格を与え、精神的な核心を付加している。

 

音楽的には、ドリル、ジャズ、R&Bという3つの主要な音楽性を基調とし、晴れやかなラップを披露したかと思えば、それとは正反対に、エクストリームな感覚を擁するギャングスタ・ラップをアグレッシブかつエネルギッシュに披露する。アトランタという街の気風によるのでしょうか、ヒスパニック系の音楽文化も反映されており、これが南米的な空気感を付加している。

 

『Beloved!Paradise! Jazz!?』では、若いラップアーティストらしい才気煥発なエネルギーに満ち溢れたトラックが際立っています。新時代のラップのアンセム「Run Run Run」(bluをフィーチャーした別バージョンもあり)のドライブ感も心地よく、「Tylar, Forever」でのアクション映画を思わせるイントロから劇的なドリルへと移行していく瞬間もハイライトとなりえる。ジャズの影響を反映させた曲や、エグみのある曲も収録されているが、救いがあると思うのは、最後の曲で、ジャズやゴスペルの影響を反映させ、晴れやかな雰囲気でアルバムを締めくくっていること。もしかするとこれは、キラー・マイクに対する若いアーティストからの同時的な返答ともいえるのでは。

 

 

Best Track 「Run, Run, Run」

 

 

 

 M.Ward 『Supernatural Thing』 

 

Label: ANTI

Release:2023/6/23

Genre: Rock/Pop/Folk/Jazz

 


シンガーソングライターとして潤沢な経験を持つM.Ward。本作の発表後、ウォードはノラ・ジョーンズとのデュエット曲も発表した。

 

『Supernatural Thing』の制作は、M.Wardがふと疑問に思ったこと、ラジオの無線そのものが別世界に通じているのではないか、というミステリアスな発想に基づいている。実際、パンデミックの時期にM.Wardは、よくラジオを聴いていたそうですが、そういった目まぐるしく移ろう現代の時代背景の中で、人生の普遍的な宝物が何かを探求したアルバムと呼べるかもしれない。

 

アルバムには、アーティストのオリジナル曲とカバーソングが併録されている。音楽的には、Elvis Presleyの時代の古典的なロックンロール、パワー・ポップ、ジャングル・ポップ、コンテンポラリー・フォーク、ブルース・ロック、スタンダード・ジャズを始めとするノスタルジックなアプローチが図られている。しかし、それほど新しい音楽でないにも関わらず、このアルバムを良作たらしめているのは、ひとえにM.Wardのソングライティング能力の高さにあり、それがアーティストの人生を音楽という形を介してリアルに反映されているがゆえ。

 

本作のもう一つの魅力は、スウェーデンの双子のフォーク・デュオ、FIrst Aid Kitの参加にある。実際、アルバムに収録されているデュエット曲「Too Young To Die」、「engine 5」は、M. Wardのブルージーな音楽性に爽やかさや切なさという別の感覚を付与する。その他にも、アーティストが夢の中で、ロックの王様こと「エルヴィス」に出会い、「君はどこへだっていける」とお告げをもらう、ロックンロール・アンセム「Supernatural Thing」も珠玉のトラック。

 


Best Track 「Supernatural Thing」

 

 

Best Track 「engine 5」

   

 

 

 

 Oscar Lang  『Look Now』



Label: Dirty Hit

Release: 2023/7/2

Genre: Pop/Indie Rock/Alternative Rock

 


11歳で作曲を始めた(6歳くらいからピアノで曲を作っていたという説もある)マルチ・インストゥルメンタリストのオスカー・ラングは、2016年頃に楽曲を発表し始めた。高校在学中に、Pig名義で『TeenageHurt』や『Silk』のプロジェクトを発表し、実験的なポップと孤独の青春クロニクルで多数のファンを獲得した。2017年、ベッドルーム・ポップの新鋭、BeabadoobeeとのKaren Oの「The Moon Song」のカヴァーは、バイラル・ヒットとなり、数百万ストリーミングを記録し、2019年までに両アーティストはロンドンのレーベル、Dirty Hitと契約した。

 

『Look Now』は、オスカー・ラングが体験した幼馴染の恋人の別れの経験を元に書かれた。ギターロック色が強かったデビュー作とは対象的に、ビリー・ジョエル等の古典的なポップスから、リチャード・アッシュクロフトのVerveを始めとするブリット・ポップへの傾倒がうかがえる。

 

幼い頃に亡くなった母との記憶について歌われた「On God」の敬虔なるポップスの魅力も当然のことながら、バラードに対するアーティストの敬愛が全編に温かなアトモスフィアを形作り、ソングライターとしての着実な成長が感じられる快作となっている。「Leave Me Alone」、「Take Me Apart」、「One Foot First」等、聴かせるロックソングが多数収録されている。



Best Track「One Foot First」

 

 

 

 

Far Caspian   『The Last Remaining Light』-Album Of The Year 



 

 


 Label: Tiny Library

Release: 2023/7/28

Genre: Alternative Rock/Lo-Fi

 


リーズのJoseph Johnston(ダニエル・ジョンストン)は、デビューEPのリリース後、3年を掛けて最初のフルレングスの制作に取り掛かった。2021年にファースト・アルバム『Ways To Get Out」を発表後、ジョセフ・ジョンストンの持病が一時的に悪化した。このツアーの時期の困難な体験は、日本建築に対する興味を込めた「Pet Architect」に表れている。ジョンストンは、日本の狭い道に多くの建物が立て込んでいるイメージに強く触発を受けたと語る。

 

アルバムの制作中に、ジョセフ・ジョンストンはブライアン・イーノの『Discreet Music』を聴いていた。タイトルはTalking Headsの名作アルバム『Remain In Light』に因むと思われる。

 

『The Last Remaining Light』はオルタナティヴ・ロックの範疇にあるアルバムではありながら、ギターサウンド、ドラムのミックスに、ミュージック・コンクレートの影響が反映されている。本作は一時的な間借りのスタジオで録音され、音源を「タスカム244」の4トラックに送った後、それをテープ・サチュレーションで破壊し、最終的にLogicStudioに落としこんだという。

 

「デビュー・アルバムのミックスをレーベルに提出した翌日から、すぐ二作目のアルバムの制作に取り組んだ」とジョンストンは説明する。「ファースト・アルバムを完成させるのに精一杯で疲れきっていた。でも、アルバムが完成したとき、次の作品に取りかかり、失敗から学ぼうという気持ちになった。長いデビュー作を作った後、10曲40分のアルバムを書きたいとすぐに思った」

 

アルバム全体には荒削りなローファイの雰囲気が漂う。さらに、Rideへのオマージュを使用したり、American Footballのようなエモ的な質感を追加している。特にドラムの録音とギターの多重録音には、レコーディング技術の革新性が示唆される。本作の音楽性は、懐古的な空気感もあるが、他方、現代的なプロダクションが図られている。オルタナティヴ・ロックの隠れた名盤。

 

 

Best Track「Cyril」

 

 

 

 

 No Name 『Sundial』


Label: AWAL

Release; 2023/8/11

Genre: Hip Hop/R&B

 


シカゴのシンガー、No Nameは実際、良い歌手であることに変わりはないでしょうし、このアルバムも深みがあるかどうかは別としてなかなかの快作。

 

2021年にローリング・ストーン誌に対して解き明かされた新作アルバム『Sundial』の構想や計画をみると、過激なアルバムであるように感じるリスナーもいるかもしれないが、実際は、トロピカルの雰囲気を織り交ぜた取っ付きやすいヒップホップ・アルバムとなっている。多くの収録曲は、イタロのバレアリックで聴かれるリゾート地のパーティーで鳴り響くサマー・チルを基調にしたダンス・ミュージック、サザン・ヒップホップの系譜にあるトラップ、それから、ゴスペルのチョップ/サンプリングを交えた、センス抜群のラップ・ミュージックが展開されている。


少なくとも本作は、モダンなヒップホップを期待して聴くアルバムではないけれど、他方では、ヒップホップの普遍的なエンターテイメント性を提示しようとしているようにも感じられる。良い作品なので、アルバムジャケットを変更し、再発を希望します。

 

 

Best Track 「boomboom(feat. Ayoni」

 

 

 

 

Olivia Rodrigo 『GUTS』

 


Label: Geffen 

Release: 2023/9/15

Genre: Alternative Rock/Punk/Pop



米国の名門レーベル、ゲフィンから発売されたオリヴィア・ロドリゴの『GUTS』は主要誌、Rolling Stone、NMEで五つ星を獲得したものの、独立サイト系は軒並み渋めの評価が下された。


しかし、それもまた一つの指標や価値観に過ぎないだろう。オルタナティヴ・ロックという観点から見ると、少なくとも標準以上のアルバムであることがわかる。オリヴィア・ロドリゴは、アルバムの制作時、ジャック・ホワイトにアドバイスを求め、若いアーティストとして珍しく真摯に自作の音楽に向き合った。「Snail Mail、Sleater-Kinney、Joni Mitchell、Beyoncé、No DoubtのReturn Of Saturn、Sweetなど、お気に入りの曲を記者に列挙しており、「今日は『Ballroom Blitz』を10回も聴いた。なぜかは全然わからない」とNew York Timesに話している。

 

『Guts』では、ベッドルームポップの要素に加え、インディーロック、グランジ、ポップ・パンクの要素を自在に散りばめて、ロックのニュートレンドを開拓している。特に、現在の米国のロックアーティストとしては珍しく、アメリカン・ロックを下地に置いており、ティーンネイジャー的な概念がシンプルに取り入れられていることも、本作の強みのひとつ。ときに商業映画のようにチープさもあるが、一方で、アーティストは、その年代でしかできないことをやっていることがほんとうに素晴らしい。これが本作に、全編に爽快味のようなものを付加している。

 

それほど洋楽ロックに詳しくない若いリスナーにとって、オリヴィア・ロドリゴの『GUTS』は、入門編として最適であり、ロックの魅力の一端を掴むのに最上のアルバムとなるはずだ。このアルバムを聴いて、Green Dayの『Dookie』を聴いてみても良いだろうし、Nirvanaの『Nevermind』を聴いても良いかもしれない。その後には、素晴らしき無限の道のりが続いている!?

 

 

Best Track 「ballad of a homeshooled girl」

 

 

 

 

 Mitski 『The Land Is Inhospitable and So Are We』-Album Of The Year

 

 

Label: Dead Oceans

Release: 2023/9/15

Genre; Pop/Rock/Folk/Country

 

 

三重県出身、ニューヨークのシンガーソングライター、Mitski(ミツキ)の7作目のアルバム『The Land Is Inhospitable and So Are We』は、前作『Laurel Hell』のシンセ・ポップを主体としてアプローチとは対象的に、オーケストラの録音を導入し、シネマティックなポップ・ミュージックへと歩みを進めた。歌手としての成長を表し、たゆまぬ前進の過程を描いた珠玉のアルバム。


「最もアメリカ的なアルバム」とミツキが回想する本作は、フォーク/カントリーを始めとするアメリカーナの影響を取り入れ、それらを歌手のポピュラーセンスと見事に合致させた。オーケストラとの生のレコーディングという形に専念したことは、実際、アルバムにライブレコーディングのような精細感をもたらしている。それを最終的にミックスという形で支えるプロデューサーの手腕も称賛するよりほかなく、ミツキのソングライティングや歌に迫力をもたらしている。

 

現時点では、「My Love Mine All Mine」がストリーミング再生数として好調。この曲は、今は亡き”大瀧詠一(はっぴーえんど)”のソングライティングを想起させるものがある。クリスマスに聞きたくなるラブソングで、ミツキの新しいライブレパートリーの定番が加わった瞬間だ。

 

他にも、全般的にポピュラー・ミュージックとして聴き応えのある曲が目白押し。フォーク、ゴスペルの融合を試みた「Bug Like An Angel」、ミュージカル、映画のようなダイナミックなサウンドスケープを描く「Heaven」、歌手自身が敬愛する”中島みゆき”の切なさ、そして、歌手としての唯一無二の存在感が表れた「Star」等、アルバムの全編に泣ける甘〜いメロディーが満載である。このアルバムの発売後、Clairoが「My Love Mine All Mine」をカバーしていた。


 

Best Track 「My Love Mine All Mine」

 

 

 Best Track「Star」

 

 

Part.3はこちらからお読み下さい。

 

Part.1はこちら



Orivia Rodrigo(オリヴィア・ロドリゴ)は、タイニー・デスク・コンサートに立ち寄った。2枚目のアルバム『GUTS』から「Love is Embarrassing」を歌った後、ロドリゴは初めてタイニーデスクを訪れたのがパンデミックの真っ只中で、空っぽになった陸運局で演奏せざるを得なかったことを明かした。


「ここにいる方がずっとクールだわ」と、彼女は有名なNPRのパフォーマンス・スペースについて語った。「今まで、この部屋でスターになったことがなかったので、とても光栄です」 アーティストはまた、Embarrassing 」の背景を説明し、ベッドに横たわって過ごした夜を描写したと語った。「あなたが今までしてきた恥ずかしいことを再生し、自分自身にうろたえる」 この曲は20〜30分で書いたというが、プロデューサーのダン・ニグロと1ヶ月かけて磨き上げた。


タイニー・デスク・コンサートのピアノの前に座ったロドリゴは、3人の合唱団に加わり、この曲の改編された緩やかなアレンジに乗せて「"How do you lie, how do you lie?」と口ずさみながら元恋人へのキスに終止符を打った。


ロドリゴは、"Lacy "は昨年、USCの詩のクラスで課題曲として書き上げた後に思いついたと説明した。「ソングライターとして楽しい試みで、結果的にアルバムで一番好きな曲になった」と彼女は語り、聖歌隊をバックにラベンダー色のアコースティック・ギターで感動的なバラードを演奏した。


4曲のセットの最後を飾ったのは、ロドリゴがひとりピアノに向かった「Making the Bed」だった。この曲は彼女がニューヨークで書いた曲で、自分の行動に責任を持つというアルバムのテーマのひとつにぴったり。「欲しいから、手に入れたから、もういい/楽しみのためにしていたことを、またひとつ台無しにしてしまった/プラスチックの破片を、またひとつ、捨てることができた/何もいいことのない会話を、またひとつ」と、彼女はしっとりと歌い上げた。



カナダのロックバンド、Alvvaysがタイニー・デスク・コンサートのためにNPRオフィスに立ち寄った。


アルヴェイズの曲を1曲だけ聴いたことがある人でも、このバンドのスタジオ・レコーディングとライヴ・パフォーマンスの両方が、通常、非常に重いリバーブやその他のヴォーカル・エフェクトを使用していることは簡単に理解できる。しかし、タイニーデスクでのコンサートは、通常そのような装飾は嫌われるものだが、そのようなスタイル的な選択は素敵に聞こえるものの、ヴォーカリストのモリー・ランキンは欠点を隠す必要がないことを証明している。


最近初めてグラミー賞にノミネートされた彼らは、4曲のセットの冒頭で「Belinda Says」をあり得ないほど大々的に演奏し、ランキンは感謝の言葉(とさりげない謝罪)を述べた:「私たち、今日まで勇気が出なくて......」と彼女は緊張した面持ちで笑った。


その勇気のなさは、アルヴェイズが "Pressed"、"Very Online Guy"、そして最後に "Tile by Tile "を駆け抜けた時には見破れなかった。ランキンは曲の合間に、引退したばかりのタイニーデスク創設者ボブ・ボイレンの後任になることをジョーク交じりに話した。

 


クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジが今週木曜日の夜、ジミー・キンメル・ライブ!に立ち寄り、"Emotion Sickness "のロックな演奏を披露した。ライブパフォーマンスの模様は以下から。


テレビ番組で披露された「Emotion Sickness」は、バンドの最新アルバム『In Times New Roman...』の9曲目に収録されている 今年5月にシングルとしてリリースされた、ストーナー・ロックの伝説の持ち味を堪能出来る。

 

今回のジミー・キンメルでのパフォーマンスは、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジがツアーに明け暮れる年の瀬に行われた。バンドにとって5年以上ぶりとなる北米公演は、この8月に始まり、今度の土曜日、ロサンゼルスのキア・フォーラムでの最終公演で幕を閉じる。またジョッシュ・オムの病状に関しては、手術が成功し、現時点では心配がないということである。


 


ヒップホップ・デュオ、ラン・ザ・ジュエルズの片割れとして知られるキラー・マイクが、ダミアン・マーリーとのコラボレーションをフィーチャーしたトラック "Run "の新バージョンを公開した。

 

「Run」のオリジナル・バージョンはアルバム『Michael』からのリード・シングルとして2022年7月にリリースされた。忍耐への頌歌であるこの曲は、制度的な逆境に直面する黒人の卓越性と、黒人がアメリカの文化と経済を形成してきた本質的な役割にインスパイアされている。


「Run」の新たな姿は、ボブ・マーリーの息子でレゲエ界の王族であるダミアン・マーリーをフィーチャーし、プロデュースしている。付属のミュージックビデオはマイアミで撮影された。