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ポスト・パンクは、現在も英国のロンドン、リーズ、ブライトン等を中心に根強い人気を誇るジャンルの一つです。

 

これらの先駆者たちは、1970年代に英国、ロンドンを中心に、セックス・ピストルズ、ダムド、ザ・クラッシュといった偉大なロンドンパンクのあとを引き継いで登場したため、この一連のムーブメントのこと「Post-Punk(次世代のパンク)」と呼ぶようになった。最初のロンドンパンク勢が、EMIを始めとするメジャーレーベルと次々と契約し、最初のパンクバンドとしての勢いを失っていく中で、この次の世代に登場したポストパンクバンドGOFを始めとするバンドは、ハードコアムーブメントと連動しながら、旧態依然としたパンクに一石を投じていました。

 

このポスト・パンクムーブメントは、やがて、ロンドン、英国全体に波及し、海を越えてアメリカ、日本にも及んでいく。これらのポスト・パンク勢は、ロック、そのものの要素に加え、ダンスミュージック、SFの要素、また、その他にも様々なジャンルを取り入れ、新鮮なロックンロールを提示した。その影響は、ワシントンDCのハードコアシーン、オーバーグラウンドでは、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、また、ルイビル、シカゴのポストロックシーンにとどまらず、2020年代のの英国のポストパンク勢が力強い存在感を放つ世代に引き継がれている。

 

今回の久しぶりの特集は、英国をはじめとする魅力的なオリジナル世代のポストパンクバンドの名盤を以下にご紹介します。

 

 

 

 NEU 「NEU ’75」

 


 

NEU!は、クラフトワークから枝分かれした、旧西ドイツの実験音楽集団です。いわゆる最初期のロンドンパンクは、このバンドがいなければ存在しなかったかもしれない。それくらいパンクカルチャーを語る上で欠かせないバンドです。音楽的にはパンクの祖でもあり、またポストパンクバンドに近い音楽性を併せ持つ。ジョン・ライドンのシニカルな歌唱法は、このアルバムの「Heros」のドイツ語的な固い響きに依拠しており、また、ファースト・アルバムの「NEU」では、アナログのテープの逆回転を通して前衛的な電子音楽を生み出したりもしています。

 

ノイ!の通算三作目のアルバム「’75」は、これらの前衛性とポピュラー性が絶妙に合致した傑作です。テクノ・ムーブメントの幕開けを告げる前衛的な手法を世界に提示した「ISI」、イーノのアンビエントの手法に近い、海のさざ波のSEを取り入れた美しい「Seeland」。ロンドンパンクの誕生を予感させる「Hero」が収録。このアルバム「’75」が、以後の世代のアーティストに与えた影響ははかりしれない。トム・ヨークの音楽観に強い影響を与えただけでなく、ピクシーズと共に1990年代の「オルタナティヴロック」の根幹をなす重要な要素を形作った。パンク、オルタナ、ノイズ、アバンギャルドという概念を語る上で欠かすことが出来ないグループです。  

 

 

 

 

 

Gang Of Four「Entertainment!」 1979

 

 

 

例えばの話、レッド・ホット・チリペッパーズのフリーのスラップ奏法が好きなリスナーがいたとして、その人が、この中国の文化大革命に因んで名付けられた英国のバンド、Gang Of Fourの「entertainment」を聴いたことがないとしたらとても惜しいことです。なぜなら、フリーのベースの奏法、また、最初期のレッチリの音楽性に強い影響を及ぼしたのがGang Of Fourだからです。

 

もちろん、Gang Of Fourの魅力は、ロック音楽に最初に強いジェイムス・ブラウンのファンクの要素を取り入れたという功績だけにはとどまりません。アンディ・ギルのソリッドなジャキジャキとした鋭さのあるギタープレイは、ソニック・ユースに代表されるオルタナティヴを予見したものである。ボーカルは、ファンクだけではなく、ヒップホップ的な役割を演奏の中で果たしている。デビュー作「Entertainment!」は、きわめて痛烈なインパクトを英国内外のシーンにもたらしたニューウェイヴ/ポストパンクの音楽性を象徴づける伝説的な名盤に挙げられる。 

 

 

 

 Public Image Limited 「Public Image」 1978

 

 

 

ジョニー・ロットンがピストルズの解散のあとに結成したPILは、パンク的でありながら、アヴァンギャルドの色合いを持ち合わせています。

 

以前の活動とは裏腹に、ジョニー・ロットンの意外な本来の芸術家、あるいは思想家としての表情が垣間見えるバンド。デビューアルバム「Public Image」は、セックス・ピストルズの音楽性を引き継いだ上、そこに、ドラムのビートマシンを導入したり、「Religion」では以前にはなかったジョニー・ロットンのインテリジェンスが表されている。その他にも、ルー・リードの英国版ともいうべきスポークンワードに近い語り口にも挑戦し、英国スタイルのヒップホップがここにクールに誕生している。表題曲「Public Image」はピストルズから引き継がれたポピュラー性が込められていて、歌い方については、ジョニー・ロットンらしさが引き出された一枚です。 

 


 

 

Stranglers  「Black and White」 1978


 

 

当時の人気とは反比例して、時を経るごとに徐々に一般的な知名度がなくなりつつある感のあるザ・ストラングラーズ。このバンドの魅力はパンク・ロックというよりパブロックに近い渋みのあるロックサウンド、それにシンセサイザーを加えたプログレッシブ・ロックに近いアプローチにあった。1970年代としてはこのサウンドは相当奇抜なものに聴こえたように思えます。

 

他のパンクロック、ポスト・パンクバンド勢のようなガツンとしたスパイスこそないように思えるが、ザ・ストラングラーズの代表作「Black And White」は、シンセサイザーとパンクが見事な融合を果たした当時としては前衛的な作品で、YMOに近いサウンドを導入した面白さのある楽曲も幾つか収録されている。本作は、ポスト・パンクという音楽が何かを説明する上で理解しやすい一枚であることに疑いはありません。1978年の「No mOre Heros」も佳作としておすすめです。実は、ザ・ストラングラーズは2022年現在も活動中のロックバンドです。 

 

 

 

 

Wire 「Pink Flag」 1977


 

 

オリジナル世代のポスト・パンクシーンの中でも屈指の名盤に挙げられるのが「Pink Wire」です。Wireは、後にメジャーレーベルと契約を結んだバンドであり、およそパンクバンドというのが惜しいくらいで、王道のロックバンドとして見なしても良いかもしれません。ミドルテンポのゆったりした迫力あるアートロックソングから、性急なパンクビートに至るまで、すべてパンクという側面をほとんどスリーコードだけでこの代表的な名盤において追求しつくしているのが驚きです。

 

特に、アルバムの最後に収録されている「12xu」は、ワシントンDCのマイナー・スレットにもカバーされたのは有名、その後のUSハードコアの源流がこのアルバム「Pink Wire」に求められます。

 

 

 

 

Killing Joke 「Killing Joke」1980

 

 

キリング・ジョークは、1978年にロンドンのノッティング・ヒルで結成されたポストパンクバンド。

 

パンクの色合いに加え、メタル、インダストリアル系に近い質感を持った独特なロックバンドで、後の1990年代のUSオルタナティヴ、HelmetやNine Inch Nailsの源流をなす元祖ミクスチャーサウンドといっても良いのではないでしょうか。Killing Jokeの記念すべきデビュー作は、1980年代のUKハードコアを予見するようなアルバムアートワークの印象に加え、どことなく金属的(メタリック)な響きを持つスタンダードなロックナンバーがずらりと並んでいる。「Change」では、時代に先んじてロックサウンドにダブの実験性を取り入れているのにも注目したい。よくハードコア、オルタナティヴ、インダストリアルバンドとしても紹介されるが、このデビュー作「Killing Joke」はスタンダードなロックンロールとしても十分に楽しめるはずです。

 


 

 

X Ray Spex 「Germ From Adolescents」1978

 

 

 

The Slitsとほぼ同年代に登場したX Ray Spexは、女性ヴォーカリストを擁するロンドンのパンクバンド。

 

ソリッドなロックンロールに加え、サックスフォンのきらびやかな響きが融合を果たし、独特なキャラクター性を持つ。五枚のシングルに加え、上記のアルバムのリリースだけで解散してしまったのが悔やまれる。Kim Gordon,Yeah Yeah Yeahsを始めとするライオットガールの先駆的なポスト・パンクバンド。「Germ From Adolescents」は、ジョン・ライドンに近いヴォーカル、そしてスムーズで華やかな雰囲気を持つ魅力的なロックナンバーが多数収録されています。

 

 

 


The Boys 「The Boys」 1977

 

 

 

ニューウェイヴ・ポスト・パンクのオルタナティヴなバンドが目立つ中で、ド直球の痛快なガレージロック/ロックンロールをぶちかましているのが、ザ・ボーイズです。エッジの効いた通好みのギターリフに、程よいスピードチューンが満載のアルバム。まるで、オープンクラシックカーに乗り、街中を走り回るような爽快さ。ニューヨークのデッド・ボーイズや日本のギターウルフにも近い豪快なロックバンドで、UKポップス、アイルランドのUndertonesのような青春の雰囲気が漂っている。2003年に人気絶頂のさなか惜しくも解散した日本の伝説的なガレージ・ロックバンド、Thee Michelle Gun Elephantの音楽性に影響を与えた。日本の伝説的なギタープレイヤー、故アベ・フトシのセンス抜群のギターブレイの源流がこのアルバムの随所に見いだせる。

 

 

 

Crass「The Feeling Of The 5000」1978

 

 


クラスの最初期のアルバム「The Feeling Of The 5000」は、1977年から1984年にかけて活躍したニューウェイブ/ポスト・パンクの流れを汲んで登場したアート・ロッグ・ループの初期作品です。

 

クラスの最初期の名盤として、「The Station Of Crass」「Penis Envy」と併せて取り上げられる印象があるこのアルバムは、アバギャルド、Oi-Punk、スポークンワード、その他にも、Dischargeにも比する無骨なハードコアの源流をなすヴァリエーションに富んだ楽曲が収録されています。以後のアルバムに比べると、パンキッシュな味わいが感じられる作品です。また、グループは、ラブ・アンド・ピースの概念をはじめとするコンセプトを掲げて活動を行っていた。 


 

 

 

Chrome 「Half Machine Lip Moves」1979


 

1970年代のポスト・パンク/ニューウェイブシーンに欠かすことが出来ないクローム。1976年にロサンゼルスで結成されたバンド。

 

アメリカ西海岸のヒッピー/サイケデリックムーブメントのさなか、ザ・レジデンツとほぼ同時期に登場している。ジャンク、ローファイ、インダストリアル、ガレージ、ハードコア、ノイズ、ほかにもヒップホップなどを飲み込んだUSオルタナティヴの原型を作った最重要バンドです。

 

彼らの最初期のアルバム「Half Machine Lip Moves」は、シカゴのタッチ・アンド・ゴーからオリジナル盤がリリースされている。改めて聴くと、黒板を爪でひっかくような不快なノイズ性、パプロックに近い渋さのあるロックンロール、さらに、ニルヴァーナのサブ・ポップ時代のようなグランジ性も滲んでいる。おそらしいことに、この異質なアルバムは、ソニック・ユースもグランジもオルタナティヴ、そんな概念が全く存在しなかった1979年に生み出されたことです。

 

 

 

 

This Heat 「This Heat」1978

 

 


英国カンタベリー系のクワイエットサンのドラマーチャールズ・ヘイワードが、76年に結成したトリオ、The Heatの痛烈なデビュー作は、以前、以後のどのバンドの音楽にも似ていない。喩えるなら孤絶した突然変異的なアルバムです。メロディーのようなものがあるのかはもほとんど判別できない。何か、精神的な発露を音楽として刻印したように思え、アバンギャルド、ノイズ、アート、これらの3つの領域を絶え間なくさまよう、聞いていると不安になる音楽です。

 

The Fugsの詩的なフォーク、ガスター・デル・ソルのアバンギャルド・フォーク、「No New York」のようなアート・ロックにも聴こえ、ジョン・ゾーンのアバギャルド・ジャズにも聴こえ、クラウト・ロックやインダストリアル・ロックにも聴こえなくもない。しかし、ミッシング・ファンデーションのように悪趣味を衒うわけでもない、どのジャンルにも属さない特異なアルバムです。 

 

 

 

Talking Heads 「Remain In Light」



今や、ニューヨークインディーロックの象徴的な存在ともいえるデイヴィッド・バーン擁するトーキング・ヘッズはニューウェイブの代表格である。77年のデビューアルバム「Talking Heafs '77」も欠かせないが、傑作としては「Remain In Light」の方に軍配が上がるか。このアルバムだけ80年発表ではあるが、ポストパンクの大名盤であるため、例外として皆様にはお許し願いたい。ブライアン・イーノをエンジニアに招き、ポスト・パンクのアプローチに加え、テクノ、ミニマル、ダブ的な前衛性を取り入れた画期的な作風である。「Born Under Punches(The Heat Goes On)「Once in  a Lifetime」を中心にポスト・パンクの代名詞的なトラックが目白押しとなっている。

 

Rolling Stoneが選ぶ「オールタイム・グレイテスト・ヒットアルバム500」の39位にランクインを果たしているが、2022年の現在聴いてもなお色褪せない斬新さが見受けられるアルバムです。 

 

 

 

 

Devo 「Q Are You Not Men? A:We Are Devo!」1978

 

 

 

 

一般的に、テクノなのか、ポストパンクなのか意見が分かれるバンドが、オハイオの四人組DEVOです。

 

ザ・ローリング・ストーンズのカバー「satisfaction」のテクノ寄りのカバーも最高なのは言うまでもないことで、オープニングトラックを飾る「uncontrollable Urge」は、ポスト・パンクシーンきっての名曲です。その他にも、エキセントリックでスペーシーな楽曲「Space Junk」といったディーヴォの代名詞的なトラックが多数収録。ネバタ州のハードコアバンド、7Secondsが、DEVOのファンであったのは偶然ではありません。ディーヴォは正真正銘のパンクロックバンドだった。「Q Are You Not Men? A:We Are Devo!」の奇妙でエキセントリックな概念は、ピッツバーグのドン・キャバレロの実験性に引き継がれていったのかもしれません。 

 

 

 

 

 

Suicide 「Suicide」 1977

 

 

アラン・ヴェガ擁するNYのアンダーグラウンドシーンの象徴的かつ伝説的なデュオ、Sucide。

 

狂気とヒステリーを象徴したようなサウンドは、ほとんどアナログシンセサイザーとドラムマシンのみで生み出されている。デビュー・アルバム「Suicide」は、明らかにイギー・ポップの狂気性を引き継いでおり、Siver Applesの電子音楽の品の良いアバンギャルド性を取り入れている。冷徹な4つ打ちのシンプルなマシンビートに加え、アラン・ヴェガの鋭さのあるヴォーカルが魅力。その他にも奇妙な癒やしを感じさせる「Cheree」が収録されている。ノーウェイヴを代表するSwansの傑作群とともに、ニューヨークのアンダーグラウンドシーンを象徴する伝説的傑作で、また、ギター、ベースがなくても、ロックンロールは出来ることを世界に証明してみせた歴史的なアルバム。また、スイサイドのヴォーカル、アラン・ヴェガは、2016年の6月23日に死去している。この訃報の際には多くの著名ミュージシャンによってヴェガの死が悼まれました。 

 

 



INU 「メシ喰うな! (Meshi- Kuuna!)」1981 

 


 

東京のパンクシーン「東京ロッカーズ」と同時期に生まれたのが「関西ノーウェイヴ」という魅力的なシーンでした。

 

その最深部、正真正銘のアンダーグラウンドシーンから台頭したのが、町田町蔵擁するINU。現在、日本国内で著名な作家として知られる町田氏の鋭さを持った現代詩の感覚を十二分に堪能出来るデビュー・アルバムです。

 

1981年にリリースされた「メシ喰うな!」は、フリクション、GAUZEの最初期の傑作と並んで、日本の初期パンクロック/ハードコアシーンの大名盤。北田昌宏の鋭いUKポストパンクの流れを汲んだアーティスティックなギタープレイに加え、西川成子のシンプルなベースライン、ジョン・ライドン、イギー・ポップに比するユニークさのある町田町蔵のヴォーカルがバンドサウンドとして見事な合致を果たしている。「メシ喰うな!」「つるつるの壺」、NO NEW YORKのアバンギャルドノイズに迫った「ダムダム弾」等、世界水準のパンク・ロックソングが多数収録されている。 

 

 

 

 

The Saints「Eternally Yours」1978

 

 


ザ・セインツは、Radio Birdmanと並んで、オーストラリアの初期のパンクロックシーンを牽引した伝説的なロックバンドであり、1973年にブリズベンで結成された。パンクロックという概念が誕生する以前に、ガレージロックを下地にしたパンキッシュな音楽を奏でていた特異な六人組である。

 

ザ・セインツの音楽が特異なのは、荒削りでカラフルなロックンロールの性質に加え、サックスフォーンをあろうことか1973年にバンドサウンドに時代に先んじて取り入れていたことである。その他、彼らの代表作「Eternally Yours」には、Johnny Thundersにも近いラフなロックンロールナンバーが多数収録されている。

 

彼らの最高の楽曲は「Know Your Product」に尽きるか。既に1970年初頭に、英国のニューウェイブ/ポスト・パンクに近い音楽を演奏していた、驚愕すべきバンドの決定版として、ベスト盤の「Know Your Product」と一緒におすすめしておきたい。また、追記として、Rolling Stoneが報じた通り、ヴォーカルのChris Bailey(クリス・ベイリー)は、今年の4月11日に死去している。ナルシスティックでありながら世界で最もクールなヴォーカリストだった。



 

 

 

 

・ニューウェイブシーンに台頭したBauhausのアルバムは今回扱いませんでしたが、また日を改めて、ゴシックのカテゴリーで取り上げる予定です。



・Patricia Wolf 

 

「I'm Looking For You In Others」

 



パトリシア・ウルフは、純粋な電子音楽家というより、シンガーソングライターとして知られるイギリス・サウスロンドンのミュージシャンです。一般的な楽器として、ウクレレ、ピアノ、ビオラを演奏しますが、電子音楽のサンプリングとクラシックを融合した独特な作風を擁するアーティストです。

 

最新アルバムにおいて、パトリシア・ウルフは、モダンアンビエントの領域を開拓しています。タイトル「あなたの中に他者を探す」という哲学的な主題が掲げられており、清涼感のあるアンビエントから暗鬱なサウンドまで、このアーティストの内面世界が電子音楽、シンセサイザーのシークエンスによって多彩に展開されていく。聞きやすいアンビエント作品としておすすめです。



 

・Suso Suiz 

 

「Just Before Silence」

 



スペイン・カディスのミニマル/アンビエントミュージシャンのSuso Suiz(スーソ・サイス)の大御所の最新作は、アンビエントの名盤として挙げても差し支えないかもしれません。クラシックという分野を、ボーカル芸術、電子音楽の切り口から開拓してみせた斬新な雰囲気を持つ作品です。

 

アンビエント音楽として抽象的な作風ではあるものの、背後に展開されるシンセサイザーのシークセンスは独特な和音を有している。奥行きを感じさせるアンビエントは、時に宇宙的な広がりを持ち、霊的な雰囲気も持ち合わせています。今年65歳になる電子音楽家が挑んだヴォーカル芸術と電子音楽の融合の極限。問答無用の大傑作です。 

 


・Alejandro Morse 

 

「Adversalial Policies」

 

 


 

アレジャンドロ・モースは、メキシコを活動拠点とするドローンアンビエント・アーティストです。

 

アレジャンドロ・モースは、昨今の平板なアンビエントとは異なり、迫力のあるアンビエントを生み出す演奏家です。表現性については、アブストラクトな色合いを持つものの、独特な低音の響きがこの作品の世界観をミステリアスなものとしています。低音域の出音、それに対比的に組み込まれる高音域のシンセサイザーのフレーズが何か聞き手に高らかな祝福のような感慨を授けてくれる作品。自然を感じさせるような楽曲から、時にはインダストリアルな雰囲気を持つ楽曲にいたるまで、幅広いアンビエントの表現がこの作品では探求されています。

 

 

 

・Messeage to Bears(Worridaboustsatan Rework)

 

「Folding Leaves」

 



Messeage to Bearsの最新作「Folding Leaves」は、荘厳なゴシック建築のような趣を持つピアノとシンセサイザーを融合した既存のアンビエントから見ると、画期的な作風です。このアルバムのオープニングを飾る「Daylight Goodbye」は、ピアノの旋律を活かすのではなく、ピアノやアコースティックギターを音響的に解釈し、それを空間的な広がりとして表現しているのが見事です。

さらにそこに、電子音楽家メッセージ・トゥ・ベアーズは、ブリストルサウンドというべきか、ブリストルのクールなダンスミュージックのグルーブ感を加味しています。また、純粋なアンビエントトラックの他にも、テクノ寄りのアプローチがあったり、さらに、フォーク寄りのサウンドを持つ秀逸なボーカルトラックがあったり、かなり幅広い柔軟な音楽性が味わえる作品です。                
 
 

 

 

・Francis Harris 

 

「Thresholds」



 

NY、ブルックリンを拠点に活動する電子音楽家、フランシス・ハリスの最新アルバム「Thresholds」は、アバンギャルドの雰囲気も持ちつつ、多種多様な電子音楽が展開されています。

 

時に、会話のサンプリングが取り入れられたり、ピアノのフレーズがアレンジに取り入れられたり、さらには、グリッチノイズをリズム代わりに表側に押し出したりと、Caribouのような実験的あるいは数学的な試みが行われています。また、ヴォーカルをダブ的に解釈を行った楽曲もあり。そういった電子音楽寄りの楽曲の合間を縫って、緩やかで穏やかな雰囲気を持つアンビエントが作品全体の強度を持ち上げています。暗鬱でぼんやりとしたドローンアンビエント、それと対比的な色合いを持つモダンテクノの風味が掛け合わされた特異な作品です。 

 

 

 

・Pan American 

 

「The Patience Fader」




Pan−Americanの他にも、ギターアンビエントに旧来から取り組んでいるアーティストとしては、坂本龍一ともコラボレーションを行っているオーストリアのFenneszが挙げられますが、パン・アメリカンの新作は、クリスティアン・フェネスほどは、実験音楽、電子音楽の色合いは薄く、心休まるような雰囲気を持っています。


この最新作におけるパン・アメリカンのエレクトリック・ギターの演奏は、スティール・ギター、ウクレレのような純朴さ、穏やかさがあり、それをこのアーティストは温かなフレージングによって紡がれてゆく。ギターによって語りかけるような情感が込められ、南国のリゾート地にやってきたような開放感にあふれる極上の作品です。 

 

 

 

・Andrew Tasselmyer


「Limits」

 

 

現行ドローンアンビエント音楽の中でも屈指の人気を誇るメリーランド州ボルチモア出身のアンドリュー・タセルマイヤーは、アンビエントだけではなくポスト・クラシカルの領域でも活躍する音楽家です。

 

このアルバムにおいて、アンドリュー・タセルマイヤーは、ロスシルや畠山地平に近いアプローチを図り、風の揺らぎのようなニュアンスをシンセサイザーのシークエンスにより探求しています。さらに、トラック全体に深いディレイエフェクトを施すことにより、プリペイドピアノのとうな音色を作ったりと、実験音楽の要素も多分に取り入れられています。作品全体には、機械的な作風であるのにも関わらず、大自然の中で呼吸するかのような安らぎが込められています。 

 

 

 

・Recent Arts、Tobias Freund&Valentina Berthelon

 

 「Hypertext」 

 


 

2022年現時点までにリリースされたアンビエント作品の中で、スペインの大御所・スーソ・サイスの「Just Before Silence」と共に注目すべき作品として挙げられるのが、Recents Artsを中心に、三者の電子音楽家がコラボレーションを行った「Hypertext」です。アルバムでは、アンビエントの先のあるSFに近い作風が取り入れられており、「SF-Ambient」とも称するべき前衛的なサウンドアプローチが生み出されています。

 

その他にも多彩な表現性が込められており、グリッチテクノに近いアプローチがあったかと思えば、モダンアヴァンギャルドの領域に踏み入れていく場合もあり、ヒップホップのサンプリングに近い雰囲気も取り入れられています。もしかすると、今後、こういった近未来を象徴するような斬新なSFアンビエントサウンドが数多く生み出されていくのではないか、そんなふうに期待させてくれる作品です。お世辞にも、聴きやすいアンビエント音楽とはいえないものの、今年までは存在しなかった音楽性が提示された、前衛的な電子音楽として、最後に挙げておきます。

 

*Ambient Music Selection 2022 2nd Halfはもし余裕があったらやります。あまり期待せずお待ち下さい。 

ポピュラー音楽におけるサイケデリックという要素は、御存知の通り、1960年代後半のアメリカの西海岸の地域、カルフォルニアやサンフランシスコを中心に花開いたカルチャーです。若者のドラッグ文化、及びヒッピームーブメントは、ロックと密接な関わりを持ちながら、メインカルチャーとして形成されていくようになりました。

 

このカルチャーの流れを汲んで、アルバムジャケットのアートワークの中にもサイケのコンセプトがアートとして取り入れられるようになりました。これらのロック・バンドとして代表的であるのが、グレイトフル・デッド、ニューウェイブシーンのバンドとして登場したザ・レジデンツ、13th Floor Elevatorといったサイケデリックの象徴的なバンド群です。グレイトフル・デッドはどちらかといえば、ジミ・ヘンドリックスに近いロックで、13th FloorElevatorは、ひときわサイケデリックの色合いが強い、このジャンルを象徴する名盤「The Psychedelic of~」の中において、サーフロックをよりマニアック音楽として提示しています。1970年代までは、サイケデリック・ロックムーブメントは、アメリカのピッピー文化を謳歌する若者を中心に盛り上がりを見せていましたが、この年代以降、1980年代からはLAのロックシーンを見ても分かる通り、商業ロックが優勢になっていったため、徐々に、このサイケデリックの旗色を掲げるバンドは少なくなり、このカルチャー自体も衰退へ向かっていくようになりました。

 

ところが、2000年代に入ってからというもの、特に、2010年代からアメリカの西海岸、カルフォルニアを中心に、これらのサイケデリックを聞きやすいポピュラー音楽として再定義するバンド、あるいはホームレコーディングのアーティストが徐々にインディーシーンに台頭してくるようになりました。この地域では、特に、マック・デマルコに象徴されるように、ダンスミュージックとサイケの概念を絶妙に融合した魅力的なアーティストが数多く活躍しています。また、これらのバンドは、既に、古びてしまったように思えるサイケの概念の文脈をより親しみやすいものに変え、新たにポピュラー音楽として提示する。

 

その中には、往年のサイケデリックロックに加え、ディスコサウンド、ヒップホップのサンプリングカルチャーの中に見られるローファイという概念を取り入れたり、あるいはアシッド・ハウスに見られるような蠱惑的な電子音楽の雰囲気を取り入れ、現代的な質感をレコーディングやDTMにおいて追求し、スタイリッシュなサウンドをこれらのバンドは提示することに成功しています。

 

今回、かなり久しぶりになってしまい恐縮ですが、近年のアメリカ西海岸のバンド、アーティストを中心に、世界の魅力的なサイケデリック・ローファイの名盤を以下に取り上げていきます!!

 

 

Connan Mochasin 「Jassbusters Two」





コナン・モカシンはメキシコのソロアーティスト・コナン・ハスフォードのソロプロジェクトで、サイケデリックシーンの鬼才ともいうべきミュージシャン/ギタリストです。このアーティストの楽曲は独特で、デチューンのエフェクターを用いギターのトーンを揺らすことにより、音調を敢えてずらすという試みを行っています。

 

2018年の代表作「Jassbusters」の連作のニュアンスを持つこのアルバム「Jassbusters Two」では、往年のエリック・クラプトンに近いギター演奏のアプローチを試み、サイケ色溢れる作風を提示しています。

 

コテコテのサイケデリックロックではなく、エレアコサウンドに近い落ち着きのある内的な心理の揺らぎとよぶべき繊細な感覚を、コナン・モカシンはこの作品において表現しています。特に、4曲目の「In Tune 」はサイケでありながら、奇妙な癒やしの質感に彩られた通好みのギターロックです。


 




Ariel Pink 「Dedicated to Bobby Jameson」




 

 アリエル・ピンクは、LAを拠点にするアーティストで、西海岸のサイケデリック/ローファイシーンを牽引してきた存在で、アニマル・コレクティヴとも深いかかわりを持ってきているようです。アイエル・ピンクのサウンドはホームレコーディングによって生み出されるジャンクな雰囲気が漂う。

 

「Dedicated to Bobby Jameson」では独特なシンセポップをホームレコーディングによって生み出しています。印象としてはシドバレット在籍時のピンクフロイドにも似ているかもしれません。基本的にはダサいんだけれど、なんだか妙にカッコいいという、いかにもサイケの二元性を象徴するような作品で、宅録ソロアーティストとして活躍するパート・タイムにも近い音楽性を持つ。70年代のフォーク、ポップ、ロックの音楽へのノスタルジアを感じさせるシンセ・ポップは、ニューヨークの「ソロ・ニュー・オーダー」と称されるソロアーティスト、ブラック・マーブルとも親和性が高いようです。このあたりのマニアックな感じに共鳴するかが、このアーティストの作品と相性が合うかのスレスレの境目となるでしょう。


 


Part Time 「P.D.A」

 


上記のアリエル・ピンクとパートタイムが異なるのは、ロック性が滲んでいるかどうか。特に、サンフランシスコのパートタイムは自身のメロディーセンスを生かして、ジャンク感あふれるシンセポップに取り組んでいます。時に、そのメロディーの雰囲気はザ・スミスに近い哀愁も漂う場合もある。 


パートタイムの名盤は、他にも「It's Elizabeth」が収録された「Virgo's Maze」も捨てがたくあるものの、ここでは、シンセポップのアンセムソング「Night Drive」が収録された「P.D.A」を取り上げておきます。トーンを意図的にずらしたシンセの音色、よくも悪くも気の抜けたようなデビット・ブラウンのボーカルもマニア心をくすぐるものがある。特に、このアーティストは、ビニール盤でそのローファイの真価を味わえるアーティストとして御紹介します。


 



Deerhunter 「Microcastle」




ディア・ハンターは現代的なロックの文脈において、サイケデリック/ローファイというジャンルを再定義しようと試みるバンド。アリエル・ピンクとともにこの辺りのシーンの象徴的なバンドに挙げられるでしょう。

 

2008年にリリースされた「Macrocastle」はストロークスのような、まったりとした雰囲気を持つローファイサウンドが魅力です。このジャンルに馴染みのないリスナーにとってもとっつきやすさのあるサウンド。1970年代のポピュラー・ミュージックの良いとこ取りをしたような作風で、ディスコサウンドに対する傾倒が見られるノスタルジアに塗れたインディーロック作品です。 


 


Mild High Club 「Skiptracing」

 


カルフォルニアを拠点に活動するマイルド・ハイ・クラブが他のバンドやアーティストと異なるのは、R&Bという文脈からこのサイケデリック/ローファイというジャンルに脚光を当てようとしている点にあります。

 

このバンドは、特に、ディスコサウンドや古典的なR&Bに強い自負心を持っており、レコードから流れてくるサウンドをレコーディングやライブにおいてどこまでそれを現代的な感性で再現し、新たなサウンドとして再定義するかという意図を持って作品制作を行っているように思えます。いわば、レコード通としての矜持のようなものを掲げてソングライティングやレコーディグを行うバンドです。

 

King Gizzard&The Lizard Wizardとの共作「Sketch of Brunswick East」も代表作としてあげておきたいところですが、ここでは2016年の「Skiptracing」を取り上げておきます。このアルバムでは、近年のカルフォルニアのサイケ/ローファイらしいサウンドが掲げられ、R&B,シンセ・ポップ、オルタナ・ポップを自由自在に往来し、独特なマニア向けのサウンドが展開されていますよ。


 

 


坂本慎太郎 「できれば愛を」





ゆらゆら帝国からサイケデリック・ロックの質感を自身の重要な音楽性のひとつに掲げてきた坂本慎太郎。最早、多くの説明は不要、実は、アメリカのインディレーベルからも作品をリリースしたことがあります。

 

親しみやすさのある音楽性、それと裏腹にドキリとするような社会への風刺を込めるのがこのアーティストの魅力で、そこに肩肘をはらない等身大の姿、ありのままの音楽家としての姿をこれまで音楽を通して見せてくれています。

 

長らくサイケデリック音楽を追求してきた坂本慎太郎にとって、ひとつの到達点ともいえるのが、2016年の「できれば愛を」です。

 

「ラメのパンタロン」時代からの、舌っ足らずで、もったいぶったような歌いぶりは今なお健在。昨今ではさらにその歌いぶりに磨きがかかっている。アメリカのインディーレーベルとも関わりを持ちながら、英語で歌おうという概念はこのアーティストには全く存在しないのが頼もしい。日本語歌詞の独特の五感を活かし、それを、いかにクラシカルでメロウなロック、サイケサウンドを結びつけるか。その一つの解答がこの作品「できれば愛を」で顕著に提示されています。


 

 



Kikagaku Moyo 「Masaba Temple」





幾何学模様は、東京出身のサイケデリック・ロックバンド。


ポルトガルのジャズミュージシャン Bruno Pernadas をプロデューサーに迎えて制作された最新作『マサナ寺院群』は「Discogs で最も集められた日本産レコード 2018/2019前半」の首位を獲得。2019年には、アメリカ最大級の音楽フェスティバル「Bonnaroo」、ヨーロッパ3大フェスの1つ「Roskilde」の出演に加え、Gucciとのビジュアルコラボレーションも行うなど、ジャンルを超えた活動のスケールは拡大を続けている。 

 

幾何学模様のサウンドは、表向きにはサイケデリアの色彩を感じさせながらも、そこにジャズ、民族音楽の要素を織り交ぜています。特に、日本の古い民謡、童謡、歌謡曲の個性を引き継いで、そこに、現代的でスタイリッシュな質感を追求しています。その世界観は、トクマルシューゴに近い日本のフォークロアの雰囲気によって彩られている。


2018年にリリースされた「Masana Templle」はアジアンテイスト溢れるサイケデリックサウンドが展開されており、このバンドの魅力が引き出された一枚です。サンフランシスコ、LAとは異なるアジアのサイケデリックロックを体現した個性的な雰囲気にあふれる良盤として挙げておきたい作品です。


 

 Dischord Records

 

ディスコードレコードは、ワシントンDCの伝説的なパンクロックを専門とするレーベルである。1980年、Minor Threatのイアン・マッケイがTeen Idlesのジェフ・ネルソンとともに設立した。

 

 
 

Dischord Recordsの代名詞ともいえるMinor Threat、レーベルオーナーのイアン・マッケイ氏(前列)


 

レーベル設立当初は、DCハードコアシーンの元祖、ティーン・アイドルズのレコードの収益を元に、ワシントンDCのハードコアパンクのリリースを行うために立ち上げられたレーベルであるが、後に、Dischordは、USハードコアシーンの担い手となったのみならず、DIYの精神を掲げ1980年から長きに渡って運営されているインディーズレーベルでもある。ワシントンDCの知り合いのバンドのみをリリースするというスタイルは、今日まで貫かれているレーベルコンセプトでもある。

 

今回は、この1980年代からUSハードコアの最重要拠点となったディスコード関連の10の名盤をご紹介致します。

 

 

 

 

 1.Teen Idles

 

「Minor Distubance EP」

 

 

 

USハードコアシーンの祖、ティーン・アイドルズなくして、USハードコアを語ることは許されません。

 

イアン・マッケイ、ジェフ・ネルソンを中心にワシントンDCで結成。1980年代初頭、アメリカでドラックや暴飲といった退廃的な風潮が蔓延する中、それとは正反対の禁欲的な思想の一つ、「No Sex,No Drink,No Drug」を主張した最初のDCハードコアバンドであり、ストレイトエッジという概念を最初に生み出した伝説的ロックバンドでもある。「Minor Distubance EP」は性急なビートを打ち出した傑作で、イギリスの”Oi Punk”に近い硬派のパンクアルバムです。 

 

 

 

 

 

2.Minor Threat 

 

「Complete Discography」

 

 

 

イアン・マッケイ率いるMinor Threatの活動期の全音源が聴けてしまうという伝説的な名盤。初期のマッケイの激烈なテンションから、後期には、Fugaziを彷彿とさせる落ち着いたポストロック寄りのアプローチにバンドサウンドが徐々に変化していく様子が克明におさめられています。

 

マイナー・スレットという存在、このアルバムの影響力は凄まじいもの。後のSxE、ストレイトエッジ・シーンの先駆けとなり、このハードコアムーブメントは、ボストンやNYにも及んだ。「Filler」、「Minor Threat」「Straight Edge」を始め、USハードコアの伝説的な名曲が数多く収録されている。 







3.Void:Faith 

 

「Spilit」 

 

 

 

イアン・マッケイの実弟のアレックがヴォーカルを務めるFaith、そして、ワシントンDCでも最強のハードコアバンドであるVoidの痛快なスピリット作品。

 

Faithの方もシンプルなハードコアサウンドでかっこいいですが、なんと言っても注目なのはVoidです。この前のめりなヴォーカルスタイル、すさまじい勢いは歴代のハードコア・パンクの中でも随一の切れ味を持つヤバさ。USハードコアシーンの最初期の名スピリットとして挙げておきます。

 



 

 

4.Dag Nasty

 

「Can I Say」

 

 

  

1986年発売のダグ・ナスティーのデビュー作にして歴史的傑作。どちらかと言えば、ハードコアというより、メロディックパンクの枠組みで語られるべきバンドで、LifetimeやHusker Duに近い雰囲気を持つ。

 

デビュー作「Can I Say」には、スタジオ録音に加え、四曲のライブパフォーマンスが収録されています。スタジオの録音トラックもかっこ良いが、必聴なのは、「Circles」、そして追加収録のライブの楽曲「Trying」。速い、かっこいい、エモーショナル。後の1990年代のオレンジカウンティのメロディック・パンクシーン、スケートパンクシーンの音楽性の礎となった作品です。 

 

 

 

 

 

5.Rites Of Spring

 

「End On End」 

 

 

 

 

後に、One Last Wish、Fugaziをイアン・マッケイとともに結成するガイ・ピチョトーのバンド。


激烈な叙情を突き出したサウンドは、ニュースクールハードコアの祖であるだけではなく、エモーショナル・ハードコアの元祖でもある。作品のプロデュースはイアン・マッケイが担当。  

 

 

 

 

 

6.One Lat Wish

 「1986」 

 

 


 

Rite Of Springの3人のメンバーとEmbaraceのMichael Hamptonによって結成されたが、わずか活動数週間に終わった幻のバンド。

 

いわゆるエモサウンドとは一線を隠すエモーショナルハードコアサウンドを特徴とする。このアルバムは十数年間お蔵入りしていたというが、1980年代のエモサウンドを一早く体現した伝説的なアルバム。エモというジャンルがハードコアパンクを始祖としていることが良く理解出来るような作品。「Three Unkind Of Silence」「Sleep Of The Stage」、表題曲「One Last Wish」と、伝説的なエモーショナルハードコアサウンドがずらりと並ぶ様はもはや圧巻です。

 

 

 

 

 

7.Fugazi

 

「13 Songs」

 

 

 

 

イアン・マッケイがマイナー・スレットを解散させた後、ガイ・ピチョトーと始動させたパンクロックバンド。

 

表向きにはパンクロックバンドとはいえども、どちらかといえば、ポストロックバンドのようなミクスチャーサウンドを志向していた。大学の構内でライブをおこなったり、手作りのバンドフライヤーを作成したりと、DIYの活動スタイルに拘りつづけた。このデビュー作の魅力はなんと言っても、「Waiting Room」のかっこよさに尽きます。パンク、レゲエ、スカ、ポップス、あらゆるジャンルを飲み込んだ扇動的なダンスロック。この後、フガジは「In On the Kill Taker」「Red Maschine」といった、ポストロック寄りのアプローチを選んでいくようになる。

 

 

 

 

 

8. Jawbox

 

「My Scrapbook Of Fatal Accidents」 


 

 

上記のDiscordのハードコア・パンクのバンドとは違い、オルタナティヴロックの要素の強いJawbox。Jay Robbins(Goverment Issue,Burning Airlines)を中心に結成。1980年代の伝説的なインディー・ロックバンドです。

 

グループ内で紅一点の女性ベーシストを擁することから、The Pixiesに近い音楽の方向性を持っている。他にも、パンクの尖り具合も持ち合わせながら、ポップスの要素の強い音楽性という面で、Jawbreakerに近い雰囲気を持つ。アルバム「My Scrapbook Of Fatal Accidents」 はDiscordの関連レーベルからリリースされたベスト・アルバムに比する編集盤。

 

「68」や「The Shave」は、アメリカのバンドの中でピクシーズのオルタナ性にいち早く肉薄した隠れたインディーロックの名曲。その他、1990年代のオルタナティヴロックを予見した「Sound On Sound」といった落ち着いたエモーショナルな名曲は、現在も特異な輝きを放ち続ける。  




 

9.Q And Not U

 

「Power」 

 

 

 

既に2005年に解散しているQ And Not You.並み居るDiscordサウンドの中にあって、上記のJawboxやMedicationsとともに異彩を放つロックバンド。どちらかといえば、ワシントンというより、シカゴのTouch And Go、傘下のQuartersticksに所属するバンドに近い雰囲気を持つ。

 

強いて言えば、Dismemberament Planのサウンドアプローチに近い。この作品「Power」で展開されるのは、ディスコパンク、ニューウェイヴサウンドの色合いの強いダンスロックであるが、2000年代に埋もれてしまったアルバムです。 今、聴くと、それほど悪くはない。名盤とはいえないかもしれないが、現代的なロックサウンドの雰囲気を持つ面白さのある作品です。

 

 

 

10.Slant 6

 

「Soda Pop Rip Off」 

 


 

 

Discordの中でもとびきり異彩を放つガールズ3ピースのロックバンド。Christina Billlotteを中心に結成。

 

ハードコアパンクというよりか、The Yeah Yeah Yaehsのようなライオット・ガールのロックサウンド、ガレージロック色の強いバンド。男顔負けの力強さのあるヴォーカルは、上記のハードコアの猛者に比べ遜色のないパワフルさを持つ。この作品「Soda Pop Rip Off」は、英国のニューウェイブのX-ray Specsのようなキラキラしたサウンドの雰囲気を感じさせる。演奏がもたもたしているのは、ドラマーが元ピアニストで、ドラムの初心者であったからというのはご愛嬌。

・フォークトロニカ、トイトロニカ おとぎ話のような幻想世界 (2024 Edit Version)

mum

フォークトロニカ、トイトロニカ、これらの2つのジャンルは、エレクトロニカのサブジャンルに属し、2000年代にアイスランド、ノルウェーといった北欧を中心として広がりを見せていったジャンルです。  

 

一時期、2010年前後、日本でもコアな音楽ファンがこのジャンルに熱中し、日本国内の音楽ファンの間でも一般的にエレクトロニカという愛称で親しまれたことは記憶に新しい。

 

このジャンルブームの火付け役となったのは、アイスランドの首都レイキャビクのアーティスト、Mum。フォーク、クラシック音楽の要素に加え、電子音楽、中でもグリッチ(ヒスノイズを楽曲の中に意図的に組みいれ、規則的なリズム性を生み出す手法を時代に先んじて取り入れていました。  

 

これはすでにこのエレクトロニカというジャンルが発生する前から存在していたグリッチ、クリック要素の強い音楽性に、本来オーケストラで使われる楽器、ストリングス、ホーンを楽曲のアレンジとして施し、ゲーム音楽、RPGのサウンドトラックのような世界観を生み出し、一世を風靡しました。


この後、このジャンルは、ファミリーコンピューターからMIDI音源を取り込んだ「チップチューン」という独特な電子音楽として細分化されていく。8ビットの他では得られない「ピコピコ」という特異な音響性に海外の電子音楽の領域で活躍するアーティストが、他では得られない魅力を見出した好例です。 

 

フォークトロニカ、トイトロニカという2つの音楽は、つまり、 1990年代から始まったシカゴ音響派、ポスト・ロック音楽ジャンルのクロスオーバーの延長線上に勃興したジャンルといえなくもなく、ポスト・クラシカル、ヒップホップ・ジャズと並び、今でも現代的な性格を持つ音楽のひとつに挙げられます。

 

しかし、このフォークトロニカ、トイトロニカという音楽性の中には、北欧神話的な概念、日本のゲーム会社のRPG制作時の重要な主題となった様々な北欧神話を主題にとった物語性、神話性を、文学性ではなく、音楽という切り口から現代的なニュアンスで表現しようという、北欧アーティストたちの芸術性も少なからず込められていました。

 

もし、このフォークトロニカ、トイトロニカという2つのジャンルの他のクラブ・ミュージックとは異なる特長を見出すとするなら、グリッチのような数学的な拍動を生み出し、シンセサイザーのフレーズを楽曲中で効果的に取り入れ、2000年代以前の電子音楽の歴史を受け継ぎ、ダンスフロアで踊るための音楽ではなく、屋内でまったり聴くために生み出された音楽です。いってみれば、オーケストラの室内楽のような趣きなのです。

 

こういったダンスフロア向けではない、内省的なインストゥルメンタル色の色濃い電子音楽は、穏やかで落ち着いた雰囲気を持ち、北欧の音楽シーンであり、アイスランド、ノルウェー、イギリスのアーティストを中心として発展していったジャンルです。

 

もちろん、ここ、日本にも、トクマルシューゴというアーティストがこのジャンルに属していること、特に、活動最初期はフォークトロニカの影響性が極めて強かったことをご存知の音楽ファンは多いかも知れません。一般的に、この電子音楽ーーフォーク、クラシック、ジャズーーと密に結びついた独特なクロスオーバージャンルは、総じて、エレクトロニックに属するカテゴライズ、IDM(Intelligense Dance Music)という名称で海外のファンの間では親しまれています。

 

2000年代にアイスランドのムームが開拓した幻想的な世界観を表した電子音楽という領域は、以後の2010年代において、北ヨーロッパの電子音楽シーンを中心として、フロアミュージックとは対極に位置するIDMシーンが次第に形づくられていくようになりました。

 

このフォークトロニカ、トイトロニカのムーブメントの流れを受けて、2010年代後半からの現代的な音楽、宅録のポップ・ミュージック「ベッドルーム・ポップ」が、カナダのモントリオール、アメリカのニューヨーク、ノルウェーのオスロを中心に、大衆性の強いポップ/ロック音楽として盛んになっていったのも、以前のこの電子音楽のひそかなムーブメントの流れから分析すると、不思議な話ではなかったかもしれません。

 

 

・エレクトロニカ、フォークトロニカ、トイトロニカのアーティスト、名盤ガイド


  

・Mum

「Finally We Are No One」2002




 

アイスランドの首都レイキャビクにて、ギーザ・アンナ、クリスティン・アンナと双子の姉妹を中心に、1997年に結成されたムーム。 日本でのエレクトロニカブームの立役者ともなった偉大なグループです。 

 

2002年に、ギーザ、2006年にはクリスティンが脱退し、このバンドの主要なキャラクター性が残念ながら失われてしまったが、現在も方向性を変え、独特なムーム節ともいうべき素晴らしい音楽を探求し続けています。

 

ムームの名盤、入門編としては、双子のアンナ姉妹の脱退する以前の作品「Finally We Are Not One」が最適です。

 

ムームの音楽的には、アクの強いグリッチ色が感じられる作品ですが、そこに、この双子のアンナ姉妹のまったりしたヴォーカル、穏やかな性格がマニアックな電子音楽を融合させている。

 

一般的に、アンナ姉妹のヴォーカルというのは、様々な、レビュー、クリティカルにおいてアニメ的と称され、このボーカリストとしての性質が一般的に「お伽噺の世界のよう」と形容される由縁かもしれません。 

 

特に、このムームの音楽性は、北欧神話のような物語性により緻密に構築されており、チップチューンに近いゲームのサントラのような音楽性に奥深さを与える。表面上は、チープさのある音のように思えるものの、その音楽性の内奥には物語性、深みのあるコンセプトが宿っています。

 

実際の土地は異なるものの、ムームの音楽性の中には、スコットランド発祥のケルト音楽「Celtic」に近い伝統性が感じられ、それを明確に往古のアイスランド民謡と直接に結びつけるのは短絡的かもしれませんが、シガー・ロスと同じように、このレイキャビク古来の伝統音楽を現代の新たな象徴として継承しているという印象を受けます。

 

次の作品「Summer Make Good」もエレクトロニカ名作との呼び声高い作品ではあるものの、より、音の整合性、纏まりが感じられるのは、本作「Finally We Are No One」でしょう。  

 

 

 

・Amiina

「Kurr」2007

 


 

アイスランドのレイキャビク出身の室内合奏団、amiina(アミーナ)。電子音楽、IDM性の色濃いムームと比べ、ストリングスの重厚なハーモニーを重視したクラシックの室内楽団に近い上品な性格を持った四人組のグループ。 

 

amiinaの音楽は、インストゥルメンタル性の強い弦楽器のたしかな経験により裏打ちされた演奏力、そして弦楽の重奏が生み出す上質さが最大の魅力。ムームと同じように、「お伽噺のような音楽」「ファンタジックな音楽」とよく批評において表現されるアミナの音楽。

 

しかし、その中にも、新奇性、実験音楽としての強みを失わず、楽曲の中に、テルミンという一般的に使われない楽器を導入することにより、他のアーティストとはことなる独特な音楽を紡ぎ出している。一般的に、名作として名高いのは、2007年の「Kurr」が挙げられます。

 

ここでは、グロッケンシュピールのかわいらしい音色が楽曲の中に取り入れられ、弦楽器の合奏にによるハーモニクスの美麗さに加え、テルミンという手を受信機のようにかざすだけで演奏する珍しい楽器が生み出す、ファンタジー色溢れる作品となっており、ほんわかとした世界観を味わうのに相応しい。

 

アイスランド、レイキャビクのエレクトロ音楽の雰囲気、フォークトロニカという音楽性を掴むのに適したアルバムのひとつとなっています。室内楽とフォーク音楽の融合という点では、個人的には、トクマルシューゴの生み出す音楽的概念に近いものを感じます。  




・Hanne Hukkelberg

「Little Things」2008





Hanne Hukkelberg(ハンネ・ヒュッケルバーグ)は、ノルウェー、コングスベルグ出身のシンガーソングライター。活動中期から存在感のある女性シンガーとして頭角を現し、ノルウェーミュージックシーンでの活躍目覚ましいアーティストです。

 

ハンネ・ヒュッケルバーグの初期の音楽性は、ジャズ音楽からの強い影響を交えた実験音楽で、フォークトロニカ、トイトロニカ寄りのアプローチを図っていることに注目。

 

このあたりは、ハンネ・ヒュッケルバーグはノルウェー音楽アカデミーで体系的な音楽教育を受けながら、学生時代に、ドゥームメタルバンドを組んでいたという実に意外なバイオグラフィーに関係性が見いだされます。

 

クラシック、ジャズ、ロック、メタル音楽、多岐にわたる音楽を吸収したがゆえの間口の広い音楽性をハンネ・ヒュッケルバーグは、これまでのキャリアで生み出しています。

 

特に初期三部作ともいえる「Little things」「Rykestrase 93」「Bloodstone」は、ジャズと電子音楽の融合に近い音楽性を持ち、そこにシンガーソングライターらしいフォーク色が幹事される傑作として挙げられます。

 

サンプリングを駆使し、水の音をパーカッションのように導入したり、クロテイルや、オーボエ、ファゴットを導入したジャズとポップソングの中間に位置づけられるような面白みのある音楽性、加えて文学的な歌詞もこのアーティストの最大の魅力です。

 

特に、上記の初期三部作には、可愛らしい雰囲気を持ったヒュッケルバーグらしいユニークな実験音楽の要素が感じられ、聴いていてもたのしく可笑しみあふれるフォークトロニカきっての傑作として挙げられます。 

 

* アーティスト名のスペルに誤りがありました。訂正とお詫び申し上げます。(2024・2・25)

 


・Silje Nes

 「Ames Room」2007



 

ドイツ、ベルリンを拠点に活動するノルウェー出身のミュージシャン、セリア・ネスは、歌手としてではなく、マルチ楽器奏者として知られています。

 

北欧出身でありながら、世界水準で活動するアーティストと言えるでしょう。イギリスのレーベルFat Cat Recordから2007年に「Ames Room」をリリースしてデビューを飾っています。

 

特に、このデビュー作の「Ames Room」は親しみやすいポップソングを中心に構成されている作品であるとともに、サンプリングの音を楽曲の中に取り入れている前衛性の高いスタジオアルバム。

 

現在のベッドルームポップのような宅音のポップスがこのアーティストの音楽性の最大の魅力でまた、特に、本来は楽器ではない素材、楽器ではなく玩具のような音をサンプリングとして楽曲中に取り入れ、旧いおとぎ話を音楽という側面から再現したかのような幻想的な世界観演出するという面では、ムーム、トクマルシューゴといったアイスランド勢とも共通点が見いだされます。

 

セリア・ネスのデビュー作「Ames Room」は、フォークトロニカ、トイトロニカという一般的に馴染みのないジャンルを定義づけるような傑作。このジャンルを理解するための重要な手立てとなりえるでしょう。

 



・Lars Horntveth

「Pooka」2004 



ノルウェーを拠点に活動する大所帯のジャズバンド、Jaga Jazzistは同地のジャズ・トランペット界の最高峰をアルヴェ・ヘンリクセンと形成する"マシアス・エイク"が在籍していたことで有名です。

 

そして、また、このJaga Jazzistの中心メンバーとして活躍するラーシュ・ホーントヴェットも、またクラリネットのジャズ奏者として評価の高い素晴らしい演奏者として挙げられる。

 

もちろん、ジャガ・ジャジストとしての活動で、電子音楽、あるいは、プログレッシブ要素のあるロック音楽の中にジャズ的な要素をもたらしているのがこの秀逸なクラリネット奏者ですが、ホーントヴェットはソロ作品でも素晴らしい実験音楽をうみだしていることをけして忘れてはいけないでしょう。

 

特に、ラーシュ・ホーントヴェットはマルチプレイヤー、様々な楽器を巧緻にプレイすることで知られており、かれの才気がメイン活動のジャガ・ジャジストより色濃く現れた作品がデビュー作「Pooka」です。

 

このソロ名義でリリースされた作品「Pooka」では、ジャガ・ジャジストを上回るフォーク色の強い前衛的な音楽性が生み出され、そこに、弦楽器が加わり、これまで存在し得なかった前衛音楽が生み出されます。先鋭的なアプローチが図られている一方、全体的な曲調は、牧歌的で温和な雰囲気に彩られています。

 

このノルウェー、オスロが生んだ類まれなるクラリネット奏者、ラーシュ・ホーントヴェットは、クラリネット奏者としても作曲者としても本物の天才と言える。ジャズ、フォーク、プログレッシヴ、電子音楽、多様な音楽の要素を融合させた現代的な音楽性は、同年代の他のアーティストのクリエイティヴィティと比べて秀抜しています。

 

リリース当時としても最新鋭な音楽性であり、この作品の新奇性は未だに失われていません。フォーク、エレクトロニック、そしてクラシックをクロスオーバーした隠れた名作のひとつとして、レコメンドしておきます。 



・Psapp

 「Tiger,My Friend」2004

 


Psapp(サップ)は、カリム・クラスマン、ガリア・ドゥラントからなる英国の実験的エレクトロニカユニットです。 

 

デュオの男女の生み出す実験音楽は、トイトロニカというジャンルを知るのに最適です。この音楽の先駆者として挙げられ、おもちゃの猫を客席に投げ込むユニークなライブパフォーマンスで知られています。

 

サップは、電子音楽をバックボーンとしつつ、子ども用のトランペットを始め、おもちゃの音を楽曲の中に積極的に取り入れると言う面においては、他のエレクトロニカ勢との共通点が少なからず見いだされる。

 

その他、この二人の生み出すサウンドに興味深い特徴があるとするなら、猫や鳥の鳴き声や、シロフォン(木琴)等、ユニークなサンプリング音を用い、様々な楽器を楽曲の中に取り入れていることでしょう。

 

このユニークな発想を持つ二人のミュージシャンの生み出すサウンドは、J.K.ローリングの文学性に大きな影響を与えたジョージ・オーソン・ウェルズの魔法を題材にした児童文学の作品群のような、ファンタジックで独創的な雰囲気によって彩られています。

 

サップの生み出す音楽には、子供のような遊び心、創造性に溢れており、音楽の持つ可能性が込められており、それは生きていくうちに定着した固定観念を振りほどいてくれるかもしれません。

 

二人の生み出す音楽は、音楽の本質のひとつ、音を純粋に演奏し楽しむということを充分に感じさせてくれる素晴らしい作品ばかりです。

 

「トイトロニカ」というジャンルの最初のオリジナル発明品として、2004年にリリースされた「Tigers,My Friend」は今なお燦然とした輝きを放ちつづける。この他にも、ユニークな音楽性が感じられる「The Camel's Back」もエレクトロニカの名盤に挙げられます。

 

 


・Syugo Tokumaru(トクマルシューゴ)

 「EXIT」2007

 

 


Newsweekの表紙を飾り、NHKのテレビ出演、明和電機とのコラボ、また、漫画家”楳図かずお”との「Elevator」のMVにおけるコラボなど、多方面での活躍目覚ましい日本の音楽家トクマルシューゴは、最初は日本でデビューを飾ったアーティストでなく、アメリカ、NYのインディーレーベルからデビューしたミュージシャンである。

 

アメリカ旅行後、音楽制作をはじめたトクマルさんは、最初の作品「Night Piece」を”Music Related”からリリースし、ローリング・ストーンやWire誌、そしてPitchforkで、この作品が大絶賛を受けたというエピソードがある。

 

トクマルシューゴの音楽性は、フォーク、ジャズ、ポップスを素地とし、実験的にアプローチを図っている。特に、日本で活躍するようになると、ポップス性、楽曲のわかり易さを重視するようになったが、最初期は極めてマニアックな音楽性で、音楽の実験とも呼ぶべきチャレンジ精神あふれる楽曲を生み出す。

 

ピアニカ、おもちゃの音、世界中から珍しい楽器を集め、それを独特な「トクマル節」と称するべき、往時の日本ポップス、そしてアメリカンフォークをかけ合わせた新鮮味あふれる音楽性に落とし込んでいくという側面においては、唯一無比の音楽家といえる。上記の英国のサップと同じ年代に、「トイトロニカ」としての元祖としてデビューしたのもあながち偶然とはいえない。

 

デビュー作「Night Piece」、二作目「L.S.T」では、サイケデリックフォークに近いアプローチを図り、この頃、既に海外の慧眼を持つ音楽評論家たちを唸らせたトクマルシューゴは、三作目「EXIT」において新境地を見出している。フォークトロニカ、トイトロニカの先に見える「Toy-Pop」、「Toy-Folk」と称するべき世界ではじめて独自のジャンルを生み出すに至った。

 

三作目のスタジオアルバム「EXIT」に収録されている楽曲、「Parachute」「Rum Hee」は、その後の「Color」「Lift」と共に、トクマルシューゴのキャリアの中での最高の一曲といえる。実際、「ラジオスターの悲劇」のカバーもしていることからも、Bugglesにも比するユニークなポップセンスを持ち合わせた世界水準の偉大なミュージシャン。今後の活躍にも注目したい、日本が誇る素晴らしいアーティストです。



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