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Weekly Recommendation

 

Smut 『How The Light Felt』



 Label: Bayonet

 Release: 2022年11月11日


 

 


Review


 オハイオ州、シンシナティで2017年に活動を開始した5人組のインディーロックバンド、Smutは、Tay Roebuck,Bell Conower、Andrew Mins、Sum Ruschman、Aidan O' Connerからなる。Smutは、2017年の結成以来、Bully、Swirlies、Nothing、WAVVESとともに全国ツアーを制覇して来た。

 

 2020年にリリースされた『Power Fantasy』EPは、どちらかというと実験的な内容だったが、シンガーTay Roebuck(テイ・ローバック)を中心としたバンドは、現在、90年代の影響を受けた巨大なプールに真っ先に飛び込み、その過程でサウンドを刺激的な高みへと持ち上げている。

 

最新アルバム『How The Light Felt」では、OASISの作曲センスとCOCTEAU TWINSのボーカル、GORILLAZのパーカッシブなグルーヴとMASSIVE ATTACKの官能性を融合させている。


2017年に妹を亡くした後、ボーカルのテイ・ローバックは執筆活動に専心した。"このアルバムは、2017年に高校卒業の数週間前に自殺した妹の死について非常によく描かれている。 私の人生が永久に破壊された瞬間で、それは準備できないものだ "と。

 

こういった悲惨な状況にもかかわらず、ローバックは「How the Light Felt」で前を向き、痛みをほろ苦いカタルシスに変える厳格な誠実さを示している。最初のリードシングル「After Silver Leaves」は、たまらなく耳に残る曲で、他のアルバムと同様、"私たちを支えてくれる人たちへのラブレター "である。現在、バンドはオハイオからシカゴを拠点に移して活動している。

 

Smut


 シカゴのインディー・ロックバンド、Smutの新作『How The Light Felt』は、Beach Fossilsのダスティン・ペイザーが(当時のガールフレンドであり現在の妻)ケイシー・ガルシアとともに立ち上げた、ブルックリンのインディペンデント・レーベル、Bayonet Recordsからリリースされている。


元来、Smutは、シューゲイズの要素を強いギターロックをバンドの音楽性の主なバックボーンとしていたが、徐々にポップスの要素を突き出しいき、2020年のEP『Power Fantasy』ではドリーム・ポップ/オルト・ポップの心地よい音楽性に舵取りを進めた。セカンドアルバムとなる『How The Light Felt』は前作の延長線上にある作品で、ドリーミーでファンシーな雰囲気が満ちている。


バンドは、オルタナティヴ・ロック/シューゲイザーに留まらず、90年代のヒップホップやトリップ・ホップに影響を受けていると公言する。それらはリズムのトラックメイクの面で何らかの形で反映されている。このバンドの主要な音楽的なキャラクターは、コクトー・ツインズを彷彿とさせる暗鬱さ、恍惚に充ちたドリーム・ポップ性にある。そもそも、コクトー・ツインズもマンチェスターのクラブムーブメントの後にシーンに登場したバンドで、表向きには、掴みやすいメロディーを打ち出したドリーム・ポップが音楽性のメインではあるものの、少なからずダンサンブルな要素、強いグルーブ感を擁していた。Smutも同じように、ドリーム・ポップ/オルトポップの王道にある楽曲を提示しつつ、時折、エレクトロの要素、トリップ・ホップの要素を織り交ぜて実験的な作風を確立している。ハイエンドのポップスかと思いきや、重低音のグルーブがバンドの骨格を形成するのである。

 

 セカンド・アルバム『How The Light Felt』は、表向きには、聞きやすいドリーム・ポップであると思われるが、一方で、一度聴いただけで、その作品の全貌を解き明かすことは困難である。それは、ソングライターを務めるテイ・ローバックの妹の自殺をきっかけにして、これらの曲を書いていったというが、その都度、自分の感情にしっかりと向き合い、それを音楽、あるいは感覚的な詩として紡ぎ出している。


論理よりも感覚の方が明らかに理解するのに時間を必要とする。それらは目に見えず、明確な言葉にするわけにもいかず、そして、曰く言いがたい、よく分からない何かであるのだ。それでも、音楽は、常に、言葉に出来ない内的な思いから生ずる。そして、テイ・ローバックは、妹の死を、どのように受け止めるべきか、作曲や詩を書く行為を通じて、探求していったように思える。

 

このレビューをするに際して、最初は「明るいイメージに彩られている」と書こうとしたが、肉親の死をどのような感覚で捉えるのか。それは明るいだとか暗いだとか、二元的な概念だけでこの作品を定義づけるのは、甚だこのアーティストや故人に対し、礼を失しているかもしれないと考えた。


死は、常に、明るい面と暗い面を持ち合わせており、そのほか様々な感慨をこの世に残された人に与えるものだ。作品を生み出しても結果や結論は出るとは限らない。気持ちに区切りがつくかどうさえわからない。それでも、このアルバム制作の夢迷の音楽の旅において、このアーティストは、Smutのメンバーと足並みを揃えて、うやむやだった感情の落とし所を見つけるために、その時々の感情や自分の思いとしっかりと向き合い、故人との記憶、出来事といった感覚を探っていこうとしたのだ。

 

勿論、これらの音楽は必ずしも一通りの形で繰り広げられるというわけではない。もし、そうだとするなら、何も音楽という複雑で難しい表現を選ぶ必要がない。まるで、これらの複数の楽曲は、ある人物の人生の側面を、音楽表現として刻印したものであるかのように、明るい感覚や暗い感覚、両側面を持ち合わせた楽曲が展開されていくのだ。


「Soft Engine」では、比較的エネルギーの強いエレクトロポップのアプローチを取り、ダンサンブルなビートとオルト・ロックの熱量を掛け合わせ、そこにコクトー・ツインズのように清涼感のあるボーカル、そしてアクの強いファンキーなビートを加味している。

 

「After Silver Leaves」では、Pavement、Guided By Voicesを始めとする90年代のUSオルト・ロックに根差した乾いた感覚を追求する。そして、次の「Let Me Hate」では、いくらかの自責の念を交え、モチーフである妹の死の意味を探し求めようとしているが、そこには、暗さもあるが、温かな優しさが充ちている。夢の狭間を漂うようなボーカルや曲調は、このボーカリストの人生に起きた未だ信じがたいような出来事を暗示しているとも言える。曲の終盤には、ボーカルの間に導入される語りについても、それらの悲しみに満ちた自分にやさしく、勇ましく語りかけるようにも思える。

 

これらの序盤で、暗い感情や明るい感情の狭間をさまよいながら、「Believe You Me」ではよりセンチメンタルな感覚に向き合おうとしている。それらはドリーミーな感覚ではあるが、現実的な感覚に根ざしている。ギターのアルペジオとブレイクコアの要素を交えたベースラインがそれらの浮遊感のあるボーカルの基盤を築き上げ、そのボーカルの持つ情感を引き上げていく。


「Believe You Me」


 



 しかし、必ずしも、感情に惑溺するかぎりではないのは、アウトロのブレイクコアのようにタイトな幕引きを見れば理解出来、この曲では、感覚的な要素と理知的な要素のバランスが図られているのである。1990年代のギターロックを彷彿とさせる「お約束」ともいえる定型フレーズからパワフルなポップスへと劇的な変化を見せる「Supersolar」は、このアルバムの中で最も叙情性あふれるカラフルな質感を持った一曲となっている。しかし、それは、夕景の微細な色彩の変化のように、ボーカルとともに予測しがたい変化をしていき、現代的な雰囲気と、懐古的な雰囲気の間を常に彷徨うかのようである。新しくもあり、古めかしくもある、このアンビバレントな曲が、近年、稀に見る素晴らしい出来映えのポップスであることは間違いない。これは、メロディーやコード、理知的な楽曲進行に重点を置き過ぎず、その瞬間にしか存在しえない内的な微細な感覚を捉え、それを秀逸でダンサンブルなポピュラー・ミュージックとして完成させているからなのである。

 

その後は、このバンドらしいシューゲイズ/ドリーム・ポップ/オルト・フォークの方向性へと転じていく。「Janeway」ではシューゲイズに近いエッジの聴いたギターとこれまでと同様に夢見がちなボーカルを楽しむことが出来る。これらは、序盤から中盤にかけてのパワフルな楽曲とは正反対の内向的な雰囲気を持ったトラックである。この後のタイトルトラック「How The Light Felt」に訪れる一種の沈静は、内的な虚しさや悲しさと向き合い、それらを清涼感のあるオルト・ポップとして昇華している。その他、Joy Divisionのようなインダストリアル・テクノの雰囲気を漂わせる「Morningstar」やブレイクコアをオルタナティヴ・フォークのほどよい心地よさで彩った「Unbroken Thought」と、アルバムのクライマックスまで良曲が途切れることはない。

 

このアルバムは、人間の感覚がいかに多彩な色合いを持つのかが表されている。悲しみや明るさ、昂じた面や落ち着いた面、そのほか様々な感情が刻み込まれている。そして、本作が、ニッチなジャンルでありながら、聴き応えがあり、長く聴けるような作品となったのは、きっとバンドメンバー全員が自分たちの感情を大切にし、それを飾らない形で表現しようとしたからなのだろうか?

 

日頃、私達は、自分の感情をないがしろにしてしまうことはよくある。けれども、その内的な得難い感覚をじっくり見つめ直す機会を蔑ろにしてはならない。そして、それこそアーティストが良作を生み出す上で欠かせない要素でもある。Smutの最新作『How The Light Felt』は、きっと、人生について漠然と悩んでいる人や、悲しみに暮れている人に、前進のきっかけを与えてくれるような意義深い作品になるかもしれない。

 

 

90/100

 

 

Weekend  Featured Track「Supersolar」


 


ヒューストンを拠点に活動するバンド、Narrow Headが、ニュー・アルバム『Moments of Clarity』を発表し、タイトルトラックのビデオを公開しました。本作は、Run for Coverから2月12日に発売予される。


Katayoon Yousefbiglooが監督した「Moments of Clarity」のヴィジュアルは以下からご試聴下さい。


新作は、Sonny DiPerri (NIN, Protomartyr, My Bloody Valentine) がレコーディング、プロデュース、ミックスを担当している。『Moments of Clarity』というタイトルを振り返り、フロントマンのJacob Duarte(ヤコブ・デュアルテ)はプレスリリースで次のように語っている。

 

"このフレーズは、僕自身の人生を振り返るスペースを作ってくれた。前作のレコード以来、そういう気づきの瞬間がたくさんあったよ。友達が死んでいくのを経験すると、人生をちょっと違った風に見ざるを得ないんだ。"

 

 

 

Narrow Head 『Moments of Clarity』

 


Label: Run For Cover Records

Release:2023年2月12日

 

Tracklist:

 

1- The Real
2 – Moments of Clarity
3 – Sunday
4 – Trepanation
5 – Breakup Song
6 – Fine Day
7 – Caroline
8 – The World
9 – Gearhead
10 – Flesh & Solitude
11 – The Comedown
12 – Soft To Touch


 

Molly ©︎Niko Havnarek


オーストリアのシューゲイザー・デュオ、MOLLYが2ndアルバム『Picturesque』のリリースを発表した。

 

『Picturesque』は、Sonic Cathedralから2023年1月13日にリリースされる。リード・シングル「The Golden Age」は本日リリースされており、以下からチェックできます。


アルバムのインスピレーションについて、バンドのシンガー/ギタリストであるラーズ・アンダーソンはプレス・リリースで次のように語っている。

 

「美術館に行って、ロマン主義の時代を通り過ぎようとするたびに、畏敬の念で立ち止まるんだ。物語、絵画、音楽など、それが何であれ、私の心の奥底にある何か、深い人間的なものを引き起こしてくれるのです。本当に神経を逆なでされ、身動きが取れなくなるほど没頭してしまうのです」


"「More is more」は、このレコードを作るときの信条であることは間違いない"とAnderssonは付け加えた。

 

「大きなインスピレーションを受けたのはPondのようなバンドで、彼らが曲の中に最大限のものを詰め込んでいく方法だ。僕はリスナーが呼吸できるような場所を提供しようとしたし、古き良きポストロックの流儀で、盛り上がったり崩れたりする一方で、フィーリングを運ぶための騒々しい実験とは対照的に、シンプルなメロディーとハーモニーにずっと頼っているんだ」




MOLLY 『Picturesque』

 

 

Label: Sonic Cathedral

Release: 2023年1月13日

 

 

Tracklist:


1. Ballerina

2. Metamorphosis

3. The Golden Age

4. Sunday Kid

5. So To Speak

6. The Lot



 


Hannah Van Loon(ハンナ・ヴァン・ルーン)のシューゲイザー・ソロプロジェクト、Tanukicyan(タヌキチャン)は、10月20日、ニュー・シングル「Make Believe」を発表した。

 

トロ・イ・モアの主宰する”Company Records”からリリースされたこの新曲は、タヌキチャンにとって、2018年のデビュー作「Sundays」以来の新曲となる。以下よりお聴きください。

 


 

 

 

Tanukicyan 

 

タヌキチャン(Tanukichan)は、米オークランドを拠点に活動するインディー・ロック・バンド、トレイル・アンド・ウェイズのハンナ・ヴァン・ルーンによるソロ・プロジェクト。

 

幼少期からバイオリン奏者として音楽に慣れ親しんできた。2016年、バンド活動を経てトロ・イ・モワことチャズ・ベアーが主宰するレーベル<Company Records>からソロ・デビューEP『レディオラヴ』を発表。2018年7月にデビュー・アルバム『サンデイズ』をリリースしている。


Sofcult
 

カナダのSoftcult(Mercedes/ Phoenix)がニューシングル「One Of A Million」で戻ってきました。


「元々、私はフラストレーションの観点から書いていて、自分たちは例外だと考え、その過程で誰を傷つけても自分勝手な行動を繰り返す社会の人々に対する私の気持ちを表現していました」とMercedesは説明している。


「しかし、この曲について考え、書けば書くほど、私たちが人間としていかに似ているかを受け入れることは、重要なことではないにしても、慰めになる感情であることに気づいた。

 

私たちが互いに関わり合い、共通点を認めれば認めるほど、互いへの共感と思いやりが生まれる。私たちが分断されればされるほど、これらの問題は解決されるどころか、長引くことになる。私たちの多様性と独自性を祝うだけでなく、非常に基本的なレベルでは、私たちは皆、異なるよりも同じであることを思い出すことが重要なのです」



「One Of A Million」

 

©︎Ashley Rommelrath

4ADに所属するシューゲイザー/ノイズポップバンド、ザ・ビッグ・ピンクが「Safe and Sound」と題したニュー・シングルを公開した。


ロビー・ファーズ率いるザ・ビック・ピンクは、今月末(9月30日)に2012年の『Future This』以来となるニューアルバム『The Love That's Ours』をリリースする予定となっている。


先月、ファースト・シングル「Rage」を発表したバンドは、今回、2枚目のティーザーを公開した。このシングルについて、ロビー・ファーズは次のように語っている。


「私の逃亡アパートでこのハゲタカたちと踊っている。翼を切り取られた天使たちが、私たちの愛に銃を突きつけている」


「これらの曲に登場する歌詞は、このレコードを完璧に要約している。私は自分のレコードを見つけるためにL.A.に移動し、私はそれを見つけたが、そのための代償を払った。私は人類が知る限りのあらゆる誘惑に追いかけられた。愛を約束された。富を約束された。世界を約束された 麻薬、女、スターダム......。あらゆるものが私を追いかけたが、踵を返した。私はそれに巻き込まれた。そして、迷子になった。でも、今なら両手を上げてそのことを認めることができる」


「しばらく、私は妻を失いました。家族も友人も失ったが、ほとんどは自分の心を失っていたんだ」

 

 The Big Pink  Credit: Emma Ledwith

 

 2012年のアルバム『Future This』のリリースから10年を経て、ロンドンのインディーロックバンドーーThe Big Pinkは、3rdアルバム『The Love That's Ours』を9月30日にリリースすることを発表しました。

 

この新作は、トニー・ホッファー(Air、Beck、Phoenix)がプロデュースし、Yeah Yeah Yeahsのギタリスト、Nick Zinner(ニック・ジナー)、The KillsのJamie Hince(ジェイミー・ヒンス)、Wolf AliceのJamie T(ジェーミー・T), Ed Harcourt(エド・ハーコート), Mary Charteris(メアリー・チャータリス)、ミュージシャン/ソングライターRyn Weaver(リン・ウェーバー、The Big PinkのRobbie Furzeと共同で「Rage」を作曲)がレコーディングに参加したものである。


 「どうにかしてここにたどり着いた!!」The Big Pink のフロントマンのRobbie Furze(ロビー・ファーズ)はプレスリリースを通じて述べている。「ついに僕らのレコードがリリースされる。本当にありがとうございます。この時点に至るまで、私の人生の中で最もクレイジーな旅の一つだった」

 

本当にこの日が来ることはないと思っていた。私はとても迷い、とても混乱し、落とし穴に入り、時には完全に盲目になり、私にとって重要だったもの、今まで本当に愛していたもの全てを失いかけました。


このレコードは多くのことを象徴しており、頂上に立つ私の旗のようなものです。何が本当に大切なのか、ようやく理解できたということを表している。このレコードは、私がここにたどり着くまでの旅のサウンドトラックです。恐ろしくもあり、美しくもあり、楽しくもあり、恐怖と悲しみに満ちた旅でした。


結果、そのすべてから生まれたこの作品を、私はとても誇りに思っています。今まで書いた曲の中で、一番正直な曲かもしれません。このアルバムに関わったすべての人に感謝したい。彼らなしでは、ここまで来ることはできなかっただろうし、もしかしたら私はここにいなかったかもしれない。ありがとうございました。Rx"


 このニュースと共にニューシングル「Rage」を公開したフロントマンのロビー・ファーズは、「これは素晴らしいリン・ウィーバーと一緒に書いた最初の曲なんだ」と付け加えている。


ある夜、ロサンゼルスでRynに会ったんだ。バカげたパーティーでお互いにロックオンして、本当に恋に落ちたんだと思う。性的な意味ではなく、兄妹のような感じで。一晩中音楽の話をして、お互いのアイデアを出し合いました。


お互いに理解し合え、魔法にかかったようでした。Rynは、私がこれまで一緒に仕事をした中で、おそらく最も才能のある人物です。彼女は簡単に美しいメロディーを思いつくし、それはただ彼女の中からこぼれ落ちたもので、彼女の作詞はこの世のものとは思えないものでした。私はただ座って、この創造性の渦についていけるかどうか考えていました。

 

私たちは長い間、時には12時間から18時間のセッションを行いましたが、彼女はトラックが完成するまで私たちを止めることはありませんでした。「Rage」はそのようなセッションのひとつから生まれました。私たちは、自分たちの人生のどこにいるのか、世界がどれほど混乱しているのかについて、じっくりと話をしました。当時、私たち2人は愛と人生に苦しんでいて、この感情に対してRAGEしよう、力を取り戻そう、と思ったんです。この曲は私達がアルバムの中で一番好きな曲の一つだよ。


「Rage」


 





The Big Pink 「The Love That’s Ours」

 


 

Tracklisting:

 
1. How Far We’ve Come
2. No Angels
3. Love Spins On Its Axis
4. Rage
5. Outside In
6. I’m Not Away To Stay Away 
7. Safe and Sound
8. Murder
9. Back To My Arms
10. Even If I Wanted To
11. Lucky One


 Tallies    『Patina」

 

 

Label: Bella Union

Release: 2022年7月29日 

 

Listen/Stream

 

カナダ・トロントの5人組インディーロックバンド、タリーズのセカンド・アルバム『Patina』は、バンドが敬愛してやまないコクトー・ツインズのベーシスト、サイモン・レイモンド氏の主宰するUKのインディペンデントレーベル、Bella Unionと契約を結んで最初のリリースとなります。

 

ファースト・アルバムと同様、この新作で繰り広げられるのは、ディレイ、リバーブ、フェーザー満載のギターロックサウンドです。それらの抽象的なサウンドをタイトでシンプルなドラムビートとベースが支えています。アルバムは、ドリーム・ポップの代名詞ともいえるような夢見がちなサウンドに彩られており、そこには、チルアウトのような涼し気な質感と、ベッドルームポップのような可愛らしいキャラクターも深奥に見え隠れしています。全9曲の収録楽曲の中には、ポスト・シューゲイズ寄りのディストーションソング「Wound Up Tight」も収録されていますが、先行シングル「Heart Underground」「Special」に見られるように、コクトー・ツインズやジーザス&メリーチェイン、アメリカのAllison's Haloを彷彿とさせる王道のインディーポップ/ドリーム・ポップソングがこのレコードには貫流しています。それに加え、スコットランドのネオ・アコースティック/ギター・ポップの爽快な雰囲気も仄かに漂っています。

 

タリーズは、このアルバムで、「光と闇」という大掛かりなテーマを掲げながら、それほど高い位置に立つのではなく、聞き手と同じ位置からこういったテーマを掘り下げているように感じられます。これらの楽曲の歌詞についてはおおよそが個人の人生や人間関係を歌い上げており、その点はリスナーに少なからず親近感を与えると思われます。そして、楽曲にカナダの若者のカルチャーの何らかの反映を込めようという意図も見受けられる。バンドサウンドとしても、メンバー全員が同じ方向を向き、真摯に自分たちの音楽を追求しているように思えます。

 

5人という編成でありながら、バンドサウンドは常に核心を取り巻くようにして、多彩な音楽性を持つ魅力的な曲が展開されています。

 

もちろん、その核心にある感性のようなものが、コクトー・ツインズのように明瞭となっているとまでは言いがたいものの、後のバンドの可能性の萌芽もここに顕著に見て取れるのも事実です。フロントマン、シンガーのサラ・コーガンの歌い上げる美麗なメロディーラインは、バンドの音楽にドリーミーでロマンティックな感覚を与え、フランクランドのリバーブ満載のギターライン、そして、シアン・オニールのシンプルなドラミングが緻密に折り重なることにより、タイトでエッジの効いたバンドサウンドが提示されています。


このアルバムでは、オープニングトラックとして収録されている「No Dreams of Fayes」を始めとする、2020年代のドリーム・ポップのクラシックとなりそうな曲が収録されており、さらに、ジョニー・マーの生み出すスミス・サウンドの影響が色濃く反映された「Am I The Man」「When Your Life Is Not Over」の二曲では、マッドチェスター・サウンドへの傾倒も見せています。ここでは、1980年代のマンチェスター・サウンドのオリジナルのダンサンブルな要素を極力排し、このバンドの音感、感性の良さをこの作品で継承しているように感じられます。

 

二作目の「Patina」は、シューゲイズ、ドリームポップを起点とし、ネオ・アコースティック、マッドチェスターサウンド、バンドの幅広いバックグランドを感じさせる作風となっており、近年のドリーム・ポップシーンの中で、個性的な雰囲気が感じられる作品です。少なくとも、デビュー・アルバム後の三年間で、タリーズは大きな成長を見せており、この作品で何らかの手応えを掴むことに成功している。それは言い換えれば、ソングランディングにおけるメロディーセンス、バンドの演奏力がより洗練され、磨きがかけられたということにもなるはずです。

 

 

Rating:  74/100

 


 「No Dreams of Fayres」

 

 

Pia Fraus


ピア・フラウスは、エストニアの首都タリンで、美術学校の生徒、Kart Ojavee、Kristel Loide、Rein Fuks、Tonis Kenkma、Rejio TagapereJoosep Volkの六名によって1999年に結成され、現在までメンバーチェンジを経ながら長い活動を続けているインディーロックバンドです。

 

1999年の春に、ピア・フラウスの面々は、いくつかのギグをこなし、その後時を経ずにレコーディング作業に入る。

 

2001年に自主制作盤「Wonder What It’s Like」をリリース後、2002年の夏、セカンド・アルバム「In Solarium」をアメリカ、サクラメントのレーベル「Claire Records」からリリースする。このアルバムのレコード盤は、2004年、ボーナス・トラック付きで日本でも発売された。

 

ピア・フラウスの音楽性は、MBVの後のセカンドウェイブの時代に代表されるようなフィードバックノイズを活かし捻りのない正道を行くシューゲイズ、ドリームポップ。奇妙な捻りを効かせて色気を出すバンドでなく、純粋に音の質感や楽曲の良さだけで勝負する硬派のロックバンドです。

 

特に、この二作目のスタジオ・アルバム「In Solarium」は、隠れたドリームポップの名盤であり、シンセサイザーの甘い旋律、断続的な轟音ノイズ、男女の陶酔的な混声ヴォーカルといった基本的にな要素に加え、楽曲のメロディ、洗練度は、大御所、MBV(My Bloody Valentine)に匹敵すると言っても誇張にはならないはず。

 

このピア・フラウスというバンドは、再注目に値するロックバンドでしょう。MBVを始めとするシューゲイズファン、ワイルド・ナッシング、リンゴデススターを始めとするシューゲイズ・リバイバルファン、ポスト・ロックファンにもストライクであると思われるので、要チェックです!!

 

 

 

 

「Now You Know It Still Feels the Same」2021 

 

 

そして、2021年9月1日にデビューから二十周年を記念してリリースされたスタジオ・アルバム「Now You Know It Still Feels the Same」は、ピア・フラウスの1st自主制作アルバム「Wonder What It’s Like」の再録盤にレアトラックを追加したコンピレーション・アルバムとなっています。

 

 

 

既に、音源としてのリイシューアルバム「Wonder What It’s Like」は、2016年にリリースされてはいるものの、どちらかと言えば、クラブミュージックよりのリミックスを収録していた五年前の再編集盤とは明確な違いがあり、新たに再録されたという点と、音のアプローチが異なるため、全く別の作品として生まれ変わったと言っていいでしょう。


今作に収録されている「How Fast Can I Love」をはじめとするポア・フラウスの初期の名曲には、現代のシューゲイズリバイバルシーンの音楽性にも通じる現代性が込められています。およそ二十年前に作られた楽曲とは思えない雰囲気がある。音の荒かった2016年の再編集盤と比べると、今作では、より洗練された音として磨き上げられ、クールな質感が宿っているように思える。

 

また、八曲目には、最初のデモテープとしてリリースされた幻の楽曲「Bia」(Morning Hue」が収録されている。このあたりもシューゲイズマニアとしては聞き逃せないはず。

 

この作品において全力展開されるシューゲイズ/ドリーム・ポップサウンドは、そのほとんどがピア・フラウスの中心的なメンバーが美術学校に在籍していた十代の頃に書かれ、また、結成当初は、殆どシューゲイズ風のサウンド作りに関して素人であったというのに、実際の作品上での技術面での若々しさ、初々しさのような未熟性は感じられず、彼らのみずみずしさのある芸術性が感じられる作品となっています。もちろん、再録音という要素を差し引いたとしても、楽曲の良さについては原型が良いからこそ、レコーディングし直した際に映えるものがあるように感じられます。

 

このスタジオアルバムの音楽性は、ごく単純にいえば、ストレートなシューゲイズサウンドによって彩られている。MBVに代表されるようなアナログシンセサイザーのレトロな雰囲気もあり、また、彼らが若い頃に影響を受けたとされるソニック・ユース、ステレオラブ、ウェディング・プレゼンツといった名インディーロックバンドの旨みを良いとこ取りしたような絶妙なサウンドとなっています。しかもそれが焼きましというより、新たなサウンドとして見事に表現されている。

 

それは、美術学校で培われたセンスというのも、音楽の作曲、演奏面において現れ出ているという気がします。こういったシューゲイズサウンドはケヴィン・シールズがそうであるようにサウンドデザイナー的な才覚がものをいうのかもしれません。そういった面で、ピア・フラウスは、ソニック・ユースをはじめとするインディー・ロックバンドの持つプリミティブな質感を引き継いだ上で、音のデザイン的な要素として捉え、甘美な雰囲気、陶酔感のあるフレーズ、男女混声のヴォーカル、というシューゲイズの主要な要素を加え、洗練された楽曲として見事に仕上げている。

 

もちろん、あらためて二十周年を記念して再録された作品であるという条件を差し引いたとしても、良質なリューゲイズ/ドリーム・ポップサウンドであることに変わりはなし。現在でも、楽曲に古臭さは感じられず、2021年に生み出された新作アルバムとして聴いても全然違和感がない傑作。むしろ、完全な新作として捉えてみたいのは、この作品が現代的インディー・ロックとして楽曲がリライトされ、ピア・フラウスのバンドサウンドの魅力が存分に引き出されているから。

 

これは、ピア・フラウスの長年の活動によって、最初期の名曲の良さを再認識したからこそ生み出された絶妙な玄人的な質感と若人的な質感が合体した珍しいサウンドといえ、2016年のリイシューアルバムよりも美しい輝きを放っているように思えます。換言するなら、これまでのドリームポップ一辺倒であったサウンドにいかにも通好みなインディーロック性を交えて、ファーストアルバムを新たに捉えなおした作品ともいえます。また、楽曲の中には、ベル・アンド・セバスチャンふうのホーンアレンジメントも追加され、音楽としてもより華やかになり、明るくなったような印象が見受けられます。このあたりのオーケストラ楽器の導入というのも、これからのピア・フラウスの次の音楽性の布石になっていくかもしれないので、とても楽しみにしたいところです。 

シューゲイズ・ドリーム・ポップシーンはどのように変遷してきたのか?

 

1980年代のイギリスからはじまったシューゲイズムーブメント。Jesus And Mary Chain、Chapterhouse,My Bloody Valentine、RIDE、Slowdiveという際立ったロックバンドの台頭、またはミュージックシーンでの彼等の華々しい活躍によって、シューゲイザーというジャンルは今日まで多くのリスナー、ミュージシャンを魅了してきました。

近年、十年代のアメリカのインディーズシーンで一時的な盛り上がりを見せていたこのリバイバルの動きが活発になってきています。

2010年代から、ニューヨークには、Wild Nothingというバンドがこのジャンルを掲げて活動してきましたが、あくまで近年までは、一部のコアなファンを対象にしたディレッタンティズムのような見方をされていたように思えます。

ところが、さらに20年代に入ると、どうもミュージック・シーンの風向きが変わってきて、テキサスのリンゴ・デススターをはじめとする、ビルボードチャートの常連になりそうなアーティストが数多く出てきてます。どうやら、この動きは、”Nu Gaze”というふうに海外で称されてるらしい。

ここ、日本では、はっきりとしたムーブメントはなかったように思えるものの、ドリーム・ポップ寄りの音楽というのは、これまでに結構あって、元々は、スーパーカー、サニーデイ・サービスも日本語歌詞でこそあるけれど、このあたりの音楽に影響を色濃く受けたロック/ポップ音楽をやってました。

ここ数年、日本でも、”羊文学”や”揺らぎ”といったロックバンドをはじめ、シューゲイザー寄りの音楽を奏でるバンドが多くなって来ているような印象をうけます。

これから、インディーズだけでなく、メジャーシーンでも、シューゲイザー、ドリームポップのジャンルに属する有名なアーティストの台頭、リバイバル・ムーブメントが日本でも到来しそうな予感があります。今回、このシューゲイザー、ドリームポップというジャンルについて、簡単におさらいしておきたいと思います。

 

1.シューゲイズとは? 

 

そもそも、このシューゲイズ、シューゲイザーというジャンルは、80年代終わりのイギリスで発生したロック音楽のジャンルです。

一般に聞き慣れないこの語「シューゲイズ」の由来は、当時、上記のロックバンド、Jesus And Mary Chain、Chapterhouse,My Bloody Valentine、RIDE、Slowdiveが、きわめて内省的なステージングを行っており、基本的には、ミュージシャンが客席の方に視線を目を向けず、”ステージ上でうつむいて、自分の靴を見つめて演奏する”スタイルから、こんなふうに呼ばれるに至ったようです。

シューゲイズの音楽性としては、ギターの出音という側面において、他のジャンルとは明らかに異なる特徴が見受けられる。

ディストーションエフェクトを深く掛け、そして、その上に、アナログ/デジタルディレイのエフェクトを掛ける。そして、ディストーション・ギターの音を切れ目なく持続させることにより、音像をぼんやりさせる。そして、ギターのピックアップという部位に付属している”トレモロアーム”を活用し、音調(トーン)にうねりを生み、音の揺らぎのニュアンスを最大限に引き出す前衛的な手法を採ったわけです。以前は、ジミ・ヘンドリックスやジェフ・ベックというアーティストが、このトレモロアームを頻繁に活用し、魅力的な音楽を生み出してましたが、演奏時に邪魔になるため、以前ほどは使われなくなり、八十年代のロック・ミュージックシーンで使用するミュージシャンはほぼ皆無でした。近年、このトレモロアームを使用するミュージシャンが徐々に増えてきているように思われます) 

 

つまり、この”シューゲイズ”というジャンルは、激しいディストーションによる轟音性というのが主な音楽性の特徴であって、時に、それは”レイヴミュージック”や”ユーロビート”のようなドラッギーな効果をもたらす音楽であるというように一般的には言われています。 

他のスタンダードなロック音楽よりもはるかにリズム性が希薄という面で、クラブ・ミュージック、取り分けアンビエントの雰囲気に近い。また、その轟音性という特徴において、”アンビエント・ドローン”の先駆けといえるかもしれません。この音楽は、当時、相当、前衛的だったといえ、八十年代のマンチェスターで流行したダンス・ロックムーブメントに飽きてきていた当時のイギリスの音楽愛好家達を魅了したことでしょう。そして、もう一つ、このジャンルの主要な特徴は、轟音フィードバックノイズの中に、甘く切ない陶酔感のあるメロディーがちりばめられていること。

この”甘く切ない旋律”というのが、シューゲイザー・オリジナルムーブメントを牽引したロックバンド、Jesus And Mary Chain、Chapterhouse,Slowdive、Ride、My Bloody Valentineの音楽性の主要要素でした。

そして、このシューゲイズの骨格をなす轟音フィードバックノイズの要素を取り払うと、聞きやすくて、シンプルで、親しみやすい、現在、アメリカのインディーズシーンで流行しているような気配が伺える”ドリーム・ポップ”という、ニューロマンティックに近い雰囲気の音楽が残るわけです。

この”シューゲイザー”というジャンルの中で有名なアルバムは、言うまでもなく、MY Bloody Valentineの「Loveless」1991でしょう。              


My Bloody Valentine 「Loveless」1991

この「Lovelless」という名作は、それまでのマンチェスターシーンのダンスロックを引き継いで、より現代的なアプローチを試みたという点で、非常に画期的な作品でした。長期的な視点でみたセールスとしては大成功を収めたけれども、どちらかと言うなら、瞬時にメガヒットを生み出したというよりか、徐々に、じわじわと、このバンドの作品の本質的な良さが広まっていった現象であったかと思える。そして、このアルバム、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインは、イギリスだけにとどまらず、世界のロックシーンの代名詞的存在として一般的に認知されるようになっていく。  

 惜しむらくは、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインは、この「Loveless」という作品をリリースした後に、長らくシーンから遠ざかり、表舞台から完全に姿を消してしまった。そして、実に、二十二年という長年月の沈黙を破り、2013年の「mbv」で、華々しく復活を遂げるまで、長期間、このシューゲイズ・ムーブメントで最も欠かさざるピース、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインという存在を欠いたまま、イギリスのミュージック・シーンは、空転したような状態で後代に流れていく。

そして、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインは、実に、謎に包まれたような神秘的な存在となり、コアなロックファンによって、年代を経るごとに神格化されていった感がある。このあたりに、このシューゲイズという音楽に対して渇望を覚えていたロックファン、後発のミュージシャンに、このシューゲイズという”ジャンル”に対する心残りのような感慨を与えたのでしょう。

つまり、心ゆくまで、このジャンルを味わい尽くせなかった心残りのようなものが、それぞれの、当時の音楽ファン、そして、ミュージシャンにはあったようです。つまり、このシューゲイズというジャンルは、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの「Loveless」以外においては、完璧といえる作品が出てくることがそれほどなかった。つまり、このジャンル自体が謎に包まれたまま、よくわからないままで、00年のミュージックシーンに突入していってしまったというわけです。


2.マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの後の世代

 

そして、オーバーグラウンド、もしくは、メインストリームの音楽の流行という側面において、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、通称”マイブラ”の長い不在は、このジャンルの一般的な拡がりを抑制したといえるかもしれません。

その後、”Ride”と”Slowdive”というシューゲイズを代表するロックバンドが、マイブラが表舞台に姿を見せないでいる間、イギリスの音楽シーンで気炎をあげるというような状態でした。

しかし、この2つのバンドも、リアルタイムでは、一時的なシューゲイズムーブメントが落ちついてから、Rideは、96年に、Slowdiveは、95年のアルバムリリース後に、実質的な活動休止状態に至る。また、メンバーを入れ替えながら苦心して活動を続けていた”Pale Saints”というドリーム・ポップ寄りのロックバンドも、94年のリリース後、解散状態となる。これらの事実からみると、一度目のシューゲイズ・ムーブメントは、”1995年前後””で一度衰退したという見方が妥当かもしれません。

しかし、このシューゲイズというジャンルは、確かに、大きなブリットポップのようなムーブメントとしては成長しなかったものの、インディーシーンのコアなファン向けのジャンルとしてひっそりと残り、地下に潜り、独自の発展を遂げていく。一般的には、95年から00年代には完全に衰退した、過去の音楽のように見なされていたかもしれない。

 

2000年代から、このシューゲイズ/ドリーム・ポップの再興が起こり、21年現在のアメリカでのムーブメントへの足がかりを着々と形成する。その事の起こりというのは、意外にも、シューゲイズという音楽を生み出した聖地の英国でなく、他のヨーロッパの地域、アメリカだった。

このあたりの年代、つまり、2005年前後から往年のシューゲイズバンド、マイブラ、スローダイブ、ライドに強い影響を受けたロックバンドが世界各地のインディーズ・シーンで台頭してくるようになります。

 

前置きが長くなってしまいましたが、以上が、英国で発生したオリジナル・シューゲイズシーンのあらましです。

 

今回の記事は、一度は完全に衰退したように思えたこの2000年代、シューゲイズというジャンルが見向きもされなかった時代、流行とは全然関係なく、このジャンルを旗印として掲げ、今日のドリーム・ポップ、ベッドルーム・ポップに、音のバトンを引き継いでいった魅力的なロックバンドを紹介しておきます。 

 

 

シューゲイズ・リバイバルの名盤 

The Radio.Dept 「Pet Grief」 2006

 

 

 

1.It's Personal

2.Pet Grief

3.A Window

4.I Wanted You to Feel the Same

5.South Slide

6.The Wost Taste in Music

 

九十年代のシューゲイズブームは終焉した、もうあのような音楽は鳴り響かないであろう、と完全に思わせておいてから、2千年代に入ってから、このジャンルの再興が起こる。つまりこれがリバイバルと呼ぶべきもので、その流れの始まりは、世界的に散逸していて、どの地域から発生したと明確に断定づけることは難しいものの、一番早く、この流れを自分たちの元に見事に呼び込んでみせたのは、スウェーデンのレディオ・デプトというロックバンドだったでしょう。

彼等は、95年以降のマイブラ不在の時代の寂しさを埋め合わすべく台頭した頼もしい存在といえるでしょう。当時、すでに廃れたと思われていたこの音楽を大手を振ってやるのには相当な勇気が必要であったと思え、そういった面でもこのレディオ・デプトには大きな賞賛を送りたい。

シューゲイズリバイバルのお勧めの一枚目に取り上げる「Pet Grief」は、レディオ・デプトの鮮烈なデビュー作です。

ラディオ・デプトの音楽性としては、オリジナルのシューゲイズバンド、とりわけ往年のライドの持つクラブミュージックの要素が込められている。リズムマシーンの規則的なビートに、シューゲイズ的な要素である甘く切ないメロディーを散りばめ、見事にシューゲイズという音楽を復活に導いた作品。

同世代、アメリカ、ニューヨークのザ・ストロークスの後の期待のロックバンドとして華々しくデビューを飾ったニューヨークのIntepolのデビュー作「Turn On The Blight Lights」のような、冷ややかでダンディなクールさも滲んでいるあたりは、インディーミュージックの系譜にあると言えるでしょう。

まさに、このアルバムに展開されるのは、旧時代のシューゲイズとクラブミュージックをよりスタイリッシュ。この2つの要素を見事にクールに融合してみせたという側面で、このレディオ・デプトの方向性には、いかにも00年代のロックの音楽らしい特徴があるといえるはず。また、後のBlack Marbleのような宅録シンセ・ポップの台頭を予感させるような時代に先んじた音楽です。

この後、レディオ・デプトは、次作のスタジオ・アルバム「Climbing to a Shame」で世界的な知名度を得るに至る。この鮮烈なデビュー作「Pet Grief」には、既に、そのヒットの理由がこのアルバムの中に垣間見えるよう。2000年代中盤のシューゲイズ・リバイバルの動きを語る上では絶対欠かすことのできない鮮烈的なマスターピースです。名曲「The Worst Taste in Music」収録。 

 

Amusement Parks on Fire 「Out Of The Angels」 2006

 

 

  

Disc1

1Out Of the Angels

2.A Star Is Born

3.At Last The Night

4.In Flight

5.To the Shade

6.So Mote It be

7.Blackout

8.Await Lightning

9.No Lite No Sound

 

Disc2

1.The Day It Snowed

2.I Think of Nothing

3.City of Light

4.Alafoss Exit

5.Solera la Reina

6.Motown Ritual

7.Back to Flash

  

アミューズメント・パークス・オン・ファイヤーは、2006年にデビューしたイギリスのポストシューゲイズのロックバンドです。

彼等のデビュー作「Out Of The Angels」のアルバムジャケットには、日本語の文章「見かけの大きさの変化」という言葉が、特に、なんの脈絡もなく使われていて、レコード店で購入した時には日本のバンド??と最初勘違いしていましたが、改めていうと、イギリスのロックバンドです。

上記のラディオ・デプト比べると、シンセ・ポップ的な要素はほとんどなく、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン直系のストレートなロック・バンドとして挙げられるでしょう。シューゲイズの欠かさざる要素、歪んだディストーションギター、そして、トレモロアームでのトーンの揺らぎの魅力を限界まで引き出した痛快なロックンロール。

楽曲のポップセンスというのも抜群に秀でており、特に、このアルバムの四曲目に収録されている「In Flight」は、シューゲイズというジャンルきっての名曲と銘打っても何ら差し支えないでしょう。また、このバンドの中心的なメンバー、マイケル・フィーリックの浮遊感のあるボーカルの妙味は、リアルタイムのマイブラ、ライド、スローダイブの音楽を経たからこそ生み出し得るキラキラした質感がある。

意外と上記のラディオ・デプトに比べると知名度としていまいちのように思えますけれども、非常にかっこよい正統派のシューゲイズバンドとして、再評価が待たれる良質なロック・バンドのひとつです。しつこいようですが、あらためて、もう一度だけ言っておくと、イギリスのロックバンドです。

 

Asobi Seksu 「Citrus」2007

 

 

  

1.Everything Is On

2.Red Sea

3.New Years

4.Goodbye

5.Lions And Tigers

6.Nefi + Girly

7.Exotic Animal Paradise

8.Mizu Asobi

9.All Through The Day

10.Strawberries

11.Thursday

12.Strings

13.Pink Cloud Tracing Paper

 

Asobo Seksi、アソビ・セクスは、ウチダテ・ユキ(Vo.Key)を中心として、ジェイムス・ハンナ(G)、グレン・ウォルドマン(B)、キース・ホプキン(Dr)によって、2001年にニューヨークで結成されたロックバンド。 

2000年代で最も時代に先駆けたシューゲイザー/ドリーム・ポップムーブメントの立役者とも言える存在。十数年前から個人的に作品をチェックし続けていた思い入れのあるロックバンドです。

音楽性においては、シューゲイズという枠組みには囚われない、幅広いジャンルを内包するバンド名からは想像できないような真摯さを持つロックバンドといえるでしょう。

アソビ・セクスのデビュー作「Asobi Sekus」では、轟音性の強い荒々しいシューゲイズ寄りの音を特徴としていた。そして、他のバンドにはない要素、女性ボーカルの独特なポップセンスがこのバンドの強みといえるでしょう。

このデビューアルバムの内ジャケットには、古い日本の時代の街の写真、あるいは、日本人学生の古いアルバム写真が挿入されている。驚きなのは、ライナーノーツの日本語の殴り書きには、ちょっと儚げで危なげな感じの文言が見られること。しかし、この危っかしい感じこそ、ロックになくてはならない要素であるというのは、往年のロックファンの方には理解してもらえるだろうと思います。 

1stアルバムもかなり良い曲が多いです。「Soon」や「Walk on the Moon」といった名曲に代表される、シンセサイザーの音を生かし、そこに、この日本人、内館さんの美麗な高音域の強いボーカルが添えられるあたりが、このバンドの他では味わえない音楽の主な特色といえるでしょう。何かしら切なげで哀感が込められていて、同時に、力強さもまた感じられるのが彼女のボーカルの特質であり、引いてはこのロックバンドの美質でもある。そして、彼女のシンセサイザーの演奏というのも、このバンドのドリームポップ感、夢見がちな世界観を強固にしている。

そして、二作目「Citrus 」は、よりポップパンドとして前進し、より素晴らしく成長したような印象を受ける。ギターのサウンドプロダクションがクリアになったせいで、バンドとしての方向性というのもより理解しやすくなった印象を受けます。

もちろん、シューゲイザーバンドとして、トレモロギターのトーンの揺らぎという要素を踏襲した上で、ユキ・ウチダテの独特なドリームポップワールドがさらに往年のシューゲイズの要素に加わったといえるでしょう。

そこはかとなく、往年の日本のアイドル・ポップに近い音楽性も込められているように感じるのは、おそらく彼女の幼い頃のアメリカへの移住、日本という国に対する淡い慕情があるからかもしれません。

それは、このアルバムに収録されている「Lions And Tigers」や「Thursday」といった珠玉の楽曲によって証明されているはず。

また、「Red Sea 」「Pink Cloud Trasing Paper」といった楽曲は、2000年代の作品ではありながら、シューゲイザーのドン、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの名曲に匹敵するほどの出来映えといえるでしょう。

近年、アコースティック・ライブ作品「Rewolf by Asobi Seksu」2009のリリースによって、アメリカのインディーズ・シーンで大きな注目を集めているバンドです。これからも、ウチダテさんには、シューゲイズシーンの中心的な日本人アーティストとして頑張っていただきたい所です。 

 

The Reveonettes 「Raven In the Grave」2011

 

 

 

1. Recharge & Revolt

2.War In Heaven

3.Forget That You're Young

4.Apparitions

5.Summer Moon

6.Let Me on Out

7.Ignite

8.Evil Seeds

9.My Time's Up


いかにも全部のバンドを知ってますという顔をして、この記事を書き綴っていますが、正直、ここだけの話、この”レヴォネッツ”というバンドだけは長い間知らなくて、つい最近、偶然見つけた素晴らしいシューゲイズ・ロックバンドです。

レヴォネッツは、シャリン・フー、スーン・ローズ・ワグナーによって、デンマーク、コペンハーゲンにて結成され、2002年から作品リリースを続けており、近年まで北欧シューゲイズシーンを牽引しています。

もし、仮に、このレヴォネッツに、他のシューゲイズバンドと異なる特色を見出すとするなら、デュオという最低限の編成である弱点を宅録風ののアレンジ色を突き出すことにより、短所をすっかり長所に代えてしまっているあたりでしょう。そして、今回ご紹介する彼らの名作スタジオ・アルバム「Raven In the Grave」は、通算五作目となるスタジオ・アルバムとなります。

どちらかというなら、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインというより、チャプターハウス、ジーザス・アンド・メリーチェイン寄りのアプローチを感じさせる音楽性で、つまり、どことなくドリーミーでふわふわしたポップセンスが随所に感じられる作品。そして、そこに、スーン・ローズ・ワグナー、シャリン・フーの男女ボーカルがアルバム全体でバランスよく配置されています。

心なしか、往年のニューロマンティック、あるいは、ゴシックロックを思い起こさせるようなノスタルジックな雰囲気があり、もちろん、良い意味で、およそ2000年代のロックバンドとは思えない懐かしさが随所に感じられる。このなんともいえない古臭い感じは、むしろ現代の耳に新しく聞こえるように思えます。この男女のツインボーカル体制のドリーム・ポップバンドとしては、4AD所属のペール・セインツの音楽性を思い起こさせるような懐かしさがある。

思えば、この作品のリリースは、2011年ということで、のちに起こったシューゲイザーリバイバル、あるいは、ニュー・ゲイズ更にその先にあるベッドルーム・ポップの先駆けの音楽をいち早く、しかも、あろうことか、センス抜群に取り入れた驚愕すべき二人組ユニットです。本作品のデラックスバージョンも再発されたことから、再評価の機運が非常に高まっていると言える。いや、世界的にもっと評価されるべきシューゲイズバンドのひとつとして最後に挙げておきます。

 

 

追記 


この後の世代にも、非常に魅力的なシューゲイズ・シーンのロックバンドが数多く活躍しています。

特に、ここ日本でも、近年、さまざまなシューゲイズに影響を受けた素晴らしいバンドが輩出されている。そのあたりのバンド、もしくは名盤についてはまた機会を改めて特集していこうかと思っています。