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 Hanakiv 『Goodbyes』


 


Label: Gondwana Records

Release Date: 2022年3月10日



Review


エストニア出身、現在、ロンドンを拠点に活動するピアニスト/作編曲家、ハナキフの鮮烈なデビューアルバム。マンチェスターの本拠を置くGondwana Recordsは、同国のErased Tapesとならんで注目しておきたレーベルです。最近では、Olafur Arnolds、Hania Raniらの作品をリリースし、ヨーロッパのポスト・クラシカル/モダンクラシカルシーンにスポットライトを当てています。

 

ハナキフの記念すべきデビューアルバム『Goodbyes』は一見すると、ポスト・クラシカルを基調においた作風という点では、現代の著名なアーティストとそれほど大きな差異はないように思えます。多くのリスナーは、このアルバムの音楽を聴くと、アイスランドのオーラヴル・アーノルズ、ポーランドのハニア・ラニ、もしくは米国のキース・ケニフを始めとする音楽を思いかべるかもしれません。しかし、現在、停滞しがちな印象も見受けられるこの音楽シーンの中に、ハニキフは明らかに鮮烈な息吹をもたらそうとしているのです。

 

ハナキフの音楽は、アイスランドのヨハン・ヨハンソンのように映画音楽のサウンドトラックのような趣を持つ。ピアノのシンプルな演奏を中心に、クラシック、ニュージャズ、エレクトロニカ、これらの多様な音楽がその周囲を衛星のように取り巻き、常に音楽の主要な印象を曲ごとに変えつつ、非常に奥深い音楽の世界を緻密な構成力によって組み上げていきます。特筆すべきは、深いオーケストレーションの知識に裏打ちされた弦楽器のパッセージの重厚な連なりは、微細なトレモロやレガートの強弱のアクセントの変容によって強くなったり、弱められたりする。これらがこのアルバムを単なるポストクラシカルというジャンルにとどめておかない理由でもある。

 

アーティストはそもそも、エストニアが生んだ史上最高の作曲家、アルヴォ・ペルト、他にもジョン・ケージのプリペイドピアノ、ビョークのアートポップ、エイフェックス・ツインの実験的なエレクトロニック、他にもカナダのティム・ヘッカーのノイズ・アンビエント等、かなり多くの音楽を聴き込んでいる。それらの音楽への深い理解、そして卓越した作曲/編曲の技術がこのデビュー作ではいかんなく発揮されている。このアルバムには、現代音楽、ニュージャズ、エレクトロニカ、アンビエントと一概にこのジャンルと決めつけがたいクロスオーバー性が内包されているのです。

 

オープニング「Godbyes」において、ハナキフはみずからの音楽がどのようなものであるのかを理想的な形で提示している。ミニマルなピアノを根底におき、ポリリズムを用いながら、リズムを複雑化させ、リズムの概念を徐々に希薄化させていく。最初のモチーフを受けて、ハナキフは見事なバリエーションを用いている。最初のプリペイドピアノのフレーズをとっかかりにして、エレクトロのリズムを用い、協和音と不協和音をダイナミックに織り交ぜながら、曲のクライマックスにかけて最初のイメージとはかけ離れた異質な展開へと導く。モダンクラシカルとニュージャズを融合させた特異な音楽性を最初の楽曲で生み出している。曲のクライマックスではピアノの不協和音のフレーズが最初のイメージとはまったく別のものであることに気がつく。

 

続く二曲目の「Mediation Ⅲ」は、ジョン・ケージのプリペイド・ピアノの技法を用いている。ポピュラーな例では、エイフェックス・ツイン(リチャード・D・ジェイムス)の実験的なピアノ曲を思い浮かべる場合もあるでしょう。そもそもプリペイド・ピアノというのは、ピアノの弦に、例えば、ゴム等を挟むことで実際の音響性を変化させるわけなんですが、演奏家の活用法としては、必ずしもすべての音階に適用されるわけでありません。その特性を上手く利用しつつ、ハナキフは高音部の部分だけトーンを変化させ、リズムの部分はそのままにしておいて、アンビバレンスな音楽として組み上げています。特に、ケージはピアノという楽器を別の楽器のように見立てたかったわけで、その点をハニキフは認識しており、高音部をあえて強く弾くことで、別の楽器のように見立てようとしているのです。その試みは成功し、伴奏に合わせて紡がれる高音部は、曲の途中でエレクトロニカのサウンド処理により、ガラスのぶつかるような音や、琴のような音というように絶えず変化をし、イントロとは異なる印象のある曲として導かれていくのです。

 

3曲目の「And It Felt So Nice」は芳醇なホーンの音色を生かした一曲です。前の2曲と同様、ピアノを基調にしたトラックであり、ECMのニュージャズのような趣を持った面白い楽曲です。ピアノの演奏はポスト・クラシカルに属するものの、複雑なディレイ処理を管楽器に加えることでサイケデリックな響きをもたらしている。ピアノの叙情的な伴奏やアレンジをもとに、John Husselのような前衛的な管楽器のアプローチを踏襲しています。ここでも前曲と同じように、電子音楽で頻繁に用いられるエフェクトを活用しながら管楽器の未知の可能性を探求している。


4曲目の「Lies」では、二曲目と同じプリペイドピアノ技法に舞い戻る。一見して同じような曲のようにも思えますが、エストニアのアルヴォ・ペルトの名曲「Alina」のように、低音部の音響を駆使することにより、ピアノそのものでオーケストラレーションのような大掛かりな音楽へと導いていきます。前曲とミニマリズムという点では同様ですが、印象派の音楽として全曲とは異なる趣を楽しめるはずです。特に、ミニマルの次のポストミニマルとも称すべき技法が取り入れられている。ここで、ハナキフはプリペイドピアノの短いフレーズをより細分化することによって、アコースティックの楽器を通じてエレクトロニカの音楽へと接近しているわけです。

 

5曲目の「No Words Left」は、Alabaster De Plumeをゲストに迎えて制作されたミニマルミュージックとニュージャズの要素を絡ませた面白い楽曲です。ハナキフはジャズとクラシックの間で揺らめきつつ抽象的な構成を組み上げている。特に、「Goodbyes」と同様、モチーフのバリエーションの卓越性がきらりと光る一曲であり、時にその中に予期できないような不協和音を織り交ぜることにより、奇妙な音階を構成していきます。 時には、ホーンの演奏を休符のように取り入れて変化をつけ、そのフレーズを起点に曲の構成と拍子を変容させ、映像技術のように、印象の異なるフレーズを組み上げています。これが、比較的、ミニマル・ミュージックの要素が強い音楽ではありながら、常に聞き手の興味を損なわない理由でもあるのです。

 

6曲目の「Mediation Ⅱ」はおそらく二曲目と変奏曲のような関係に当たるものであると思いますが、ダイナミックなリズムを取り入れることにより、二曲目とはまったくその印象を変え、 作曲家/編曲家としての変奏力の卓越性を示している。時には、弦楽器のピチカートらしきフレーズを織り交ぜ、シンコペーションを駆使しながら、本来は強拍でない拍を強調している。そこにプリペイドピアノの低音を意図せぬ形で導入し、聞き手に意外な印象を与える。ある意味、バッハの鏡式対位法のように、図形的な作曲技法が取り入れられ、カンディンスキーの絵画のようにスタイリッシュでありながら、数学的な興味を駆り立てるようなトラックに昇華されている。

 

7曲目の「Home Ⅱ」は、このデビュー・アルバムでは最も映画のサウンドトラックのような雰囲気のある一曲で、アイスランドのヨハン・ヨハンソンやポーランドのハニア・ラニの音楽性に近いものを多くの聞き手は発見することでしょう。ピアノの演奏はすごくシンプルで簡潔なんですが、対比となるオーケストラレーションが叙情性を前面に押し出している。特に弦楽器の微細なパッセージの変化がまるでピアノ演奏と呼応するかのように変化する様子に注目です。

 

8曲目の「Home I」は、ポスト・クラシカルの曲としては王道にあるような一曲。日本の小瀬村晶の曲を彷彿とさせる。繊細でありながらダイナミックス性を失わず、ハナキフはこの曲をさらりと弾いていますが、その中にも他の曲にはないちょっとした遊び心が実際の鍵盤のタッチから感じ取ることが出来ます。フランスの近代の印象派の作曲家の作風に属するような曲ですが、それはやはり、近年のポスト・クラシカル派の楽曲のようにポピュラー・ミュージックのような形式として落とし込まれている。演奏の途中からハナキフはかなり乗ってきて、演奏そのものに迫力が増していく。特に、終盤にかけては演奏時における熱狂性すら感じ取ることが出来るでしょう。

 

近年、 ポストクラシカルシーンは似通ったものばかりで、少し停滞しているような印象を覚えていましたが、先日のポーランドのハニア・ラニとエストニアのハナキフを聴くかぎりでは、どうやら見当違いだったようです。特に、ハナキフはこのシーンの中に、ニュージャズと現代音楽という要素を取り入れることで、このデビュー作において前衛的な作風を確立している。MVを見ると、前衛的なバレエ音楽として制作されたデビューアルバムという印象もある。

 

エストニア出身のハナキフは、作曲家/編曲家として卓越した才覚を持ち合わせています。今後、映画のスコアの仕事も増えるかもしれません。活躍を楽しみにしたいアーティストです。

 

 

90/100

 


 



ドイツ/ハンブルクのポストクラシカルシーンに属する作曲家、Niklas Paschburg(ニクラス・パシュブルグ)が3rdアルバム『Panta Rhei』の最新シングル「Delphi Waltz」を公開しました。このシングルは先月公開されたシングル「Darkside of the Hill」に続く作品となる。新作アルバムは2023年3月17日に7K!からリリースされます。


タイトルと音楽は、ヘラクレイトスの「すべては流れる」というギリシャ哲学からインスピレーションを得ており、ハンブルク出身のアーティストが自身の奥底から引き出された電子音楽とポストクラシック音楽の無制限の世界を探求している。


現在ベルリンを拠点とするパシュブルグは、過去2枚のアルバムを通じて、バルト海の動き(2018年『Oceanic』)と北欧の冬の闇(2020年『Svalbard』)に魅了されてきた。パンデミック時に旅を断念した結果、この最新アルバムでは彼自身の心の内側を見つめることになった。「それは音楽で表現された内省であり、また一方ではポジティブな感情、他方ではダークな感情という2つの異なる顔を見せることになった」



2016年のデビューEP『Tuur mang Welten』で注目を浴びて以来、Paschburgはその独創的な作曲スタイルで人々を魅了してきた。


これまでのキャリアを通じて、アンビエント、ポップ、クラシック、エレクトロニック・ミュージックを現代的に融合させてきた彼は、今回、中心的な楽器であるピアノを通して深い感情を伝えようとしている。RY X、Hania Rani、Robert Lippok、Ah! Kosmosとのコラボ、2021年のフランス映画「Presque」(「Beautiful Minds」)のサウンドトラックを作曲している。新作では、エレクトロニック・デュオ、ÂmeのFrank Wiedemann、Jóhann JóhannssonからThom Yorkeの作品までを手がけた敏腕サウンドエンジニア、Francesco Donadello(フランチェスコ・ドナデッロ)と共に制作した1曲が収録されているのに注目したい。


『Panta Rhei』は、ニクラスが概念的な境界を取り払い、直感に従ったサウンドである。彼はまずピアノでそれぞれの曲を書き、ドラマー、サックス、シンガー、アコーディオンを加え、さらにエレクトロニクスによってユニークな質感を加えている。


「これらの新曲は、私が自分の中で訪れた場所、私が持っているもの、または他の人の中で観察したものを描写しています。ヘラクレイトスのPanta rheiの理論にあるように、同じ川に2度入ることはできないという事実を念頭に置きながら、すべてを含む1つの川につながれたさまざまな音楽の場所や雰囲気を探求することが目的だった」


ニクラスの個人的な旅は、彼のメランコリックで繊細なピアニズムとシンセや電子ビート、示唆に富むアンビエント、ドイツ人シンガー、lùisa、スペイン人、Bianca Steck、アイスランド人ポストパンクバンドFufanuのフロントマン、Kaktus Einarssonの喚起的な声が融合した魅惑的でカラフルな音楽の旅であり、親密で瞑想的でありながら、ポジティブで高揚したヴァイブスを持つアンビエント・ポップへの移行でもある。

 

Masakatsu Takagi

ピアニスト、作曲家、プロデューサーとして活躍する高木正勝がピアノの演奏を基調としたささやかなボーカルトラックを発売しました。「Marginalia #122」は木々のせせらぎや鳥のさえずりのコラージュが施されており、このアーティストならではのナチュラルかつ癒しあふれる一曲となっている。


2017年の第一弾プロジェクトから122作目となるニューシングルについて、アーティストは以下のようにプレスリリースで説明しています。


兵庫県の山々に囲まれた私のプライベート・スタジオで録音された、日々のピアノ・レコーディング。窓を開け放ち、自然の音を聞きながら、オーバーダビング、作曲、編集、修正など、何の準備もなく、ありのままにピアノを弾きました。


今、みなさんが聴いているのは、自然の音と音楽が織りなす生の即興ピアノ録音です。自然の音と音符が同時に録音され、何の差別もなくハーモニーを奏でています。自然も私のピアノを聴いているかもしれないと思うのが好きなんです。自然がメロディーで、ピアノはハーモニー。

 Weekly Recommendation  


Hania Rani 『On Giacometti』

 



Label: Gondwana Records


Release: 2023年2月17日



ハニャ・ラニの言葉 

 

 "ジャコメッティについて" 


 ジャコメッティの家族についての映画のサウンドトラックを依頼されたとき、私は考えもしなかった。


 アルベルト・ジャコメッティはスイスの芸術家で、主に画家と彫刻家として活動し、長い間、私のお気に入りの芸術家の一人だった。彼のスタイル、美学、創作活動の特徴には、今でも様々な面で魅了されています。ですから、彼の世界にさらに深く入り込み、彼だけでなく彼の家族も知ることができるのは、私にとって見逃せない機会でした。


 この「イエス」という言葉が、私を精神的、創造的なレベルだけでなく、肉体的にもどこまで導いてくれるかは、まだ分かっていませんでした。ドキュメンタリーの監督であるスザンナ・ファンツーンのおかげで、そして幸運といくつかの追加質問のおかげで、私はジャコメッティが生まれ、彼が住んでいなかったにもかかわらず故郷と呼んでいた場所からそう遠くないスイスの山々に数ヶ月間移り住むことにした

 

。スザンナは、彼女の故郷の近くに、スタジオを借りてサウンドトラックだけでなく、他のプロジェクトもできる場所を教えてくれた。その日は真冬で、辺りは氷と雪で覆われていて、山の中ならではの光景でした。レジデンスハウスは高い山に囲まれた谷間にあり、冬の季節の太陽は日中あまり長く昇ってきませんでした。彼女はそのことを私に話し、「そこでみんなが元気になっているわけではないけれど、元気になってほしい」と付け加えたのを覚えています。もちろん私はそうするつもりでした。


 現実からほとんど切り離されて、街や娯楽、急ぐ人々、普段私の注意を引くあらゆるものから、私は音楽やサウンドトラックに完全に集中し、一日の大半を自分の考えで過ごし、創造的なプロセスで実験し自由になるための十分なスペースを持つことができた。このサウンドトラックは、私が普段生活している場所で作曲したら、おそらく全く違うものになったでしょう。私はこれを、作曲家として、また人間としての自分について、何か新しいことを探求するチャンスと捉え、普段の自分とは逆の方向を選び取りました。


 アルバム「ジャコメッティについて」には、サウンドトラックからの抜粋、代表的な曲、声そのものが強くなった曲などが収録されています。即興的なメロディー、シンプルなハーモニー、構造、そして静寂をベースにしたこのアルバムは、私のデビューアルバム「Esja」を思い起こさせるものです。精神的にも肉体的にも、これらの要素が私を主要な楽器であるピアノへと導き、私は自分が作業している空間の言語を用いて再び定義しようとしました。空間は通常、プロジェクトの配置や性格について私に答えを与えてくれる重要な要素です。空間は最初に現れるようで、音楽はその天使を変化させる目に見えない力なのです。


 かつてアルベルト・ジャコメッティが手紙の中で書いた有名な言葉があるように、山に囲まれて生活していると、視点やスケール感の捉え方が変わってくる。


 山のように遠くにあるものが近くに感じられ、人間のようにそれほど遠くないものが、遠くから見ていると小さく感じられるようになるのだ。


 指で山の頂上を触るのが、鼻先に触れるくらい簡単なことのように感じられる。


 雪が積もっているためか、音は静かに地面に落ち、計り知れない空間の響きを伴っている。ひっかき傷やささやき声のひとつひとつが自律した存在となり、幽霊や迷子の世界への入り口を開いている。一見、何も動いていない、何も変わっていないように見えるが、そこには時間が止まっているように見える。


 しかし、氷と雪は時間の流れを明らかにし、凍りついた水路は、一日、一時間、一秒ごとに荒々しい水の流れに姿を変える。溶けては消え、白い粉やノイズに覆われた空間がクリアになる。一晩の旅行者には見えないが、長く滞在する人にとっては痛いほどリアルなプロセスなのだ。


 時間は、川を流れる音の新しい波とともに流れ、私たちが限りなく繰り返されるサイクルの一部であることを思い起こさせる。私は春の息吹とともにこの谷を後にした。


プレスリリースより。


Hania Rani

 

  大胆な細いフォルムを採用することで知られるスイスの造形作家、アルベルト・ジャコメッティの映画のサウンドトラックのために制作された全13曲に及ぶ、ピアノ、オーケストラレーション、エレクトロニカのコラージュ、アンビエントのようなディレイ効果、様々な観点から組み上げられたポーランドのハニャ・ラニの『On Giacometi』は、ポスト・クラシカルの快作のひとつで、作者自身が語っている通り、制作者が置かれる環境により実際に生み出される作風は著しく変化することを端的に表しています。

 

アイスランドのピアニスト/作曲家Olafur Arnoldsのピアノ作品の再構築『some kind of piece-piano reworks』(2022)にも参加しているハニャ・ラニは、今作で視覚的な音響空間を生み出していて、アルバムの収録曲は細やかなピアノの演奏に加えて、空間にディレイを施したアンビエント効果、さらに作曲家の管弦楽法の巧みさが絶妙な合致を果たすことで、静謐に富み、そして内的な対話のような奥深い世界観がかなり綿密に組み上げられている。

 

 ハニャ・ラニは、具体的な場所こそは不明であるが、友人の所有するスイスの山間部にあるスタジオに滞在し、これらの映画のサウンドトラックとして最適なピアノとオーケストラにまつわる壮大なアルバムを製作することになった。そして実際に、この作品を聴くと分かる通り、 作曲家の紡ぎ出す音楽は、さながらこの山間部の冬の季節における変化、それと反対に山脈の向こう側から日が昇り、そして夕暮れをすぎて夜がふけていき、まさに風の音しか聴こえないようになる非常に孤独ではあるが潤沢な1日という短い時間を、ピアノ/オーケストラという観点から丹念にスケッチしているように思える。ジャコメッティと同じような内的に豊かな時間を過ごすことを選択し、芸術家が彫刻刀により造形のための材質をひとつひとつ繊細に削り取っていったのと同じように、ハニャ・ラニもまたピアノのノートを丹念に紡ぎ出していきます。制作者はその録音スタジオの外側の世界にある様々な自然現象、山岳に降り積もる雪や風の音や雨音、急に晴れ間がのぞく様子など、外側の天候の変化をくまなく鋭い感性により捉えることで、それらを内省的な音響空間として組み上げていくのである。

 

 サウンドトラックの大部分を占めるピアノ音楽は、抽象的なフレーズや、もしくはニルス・フラームのような深い哀感に富んだミニマル・ミュージック、それに加え、上記のアーノルズのような叙情的なフレーズが中心となっている。だが、そこには時にブラームスの音楽にあるロマン派に対する親和性のような感慨が滲んでいる。アルバムの序盤こそ、近年のポストクラシカル/モダンクラシカルの作曲家/演奏家の作風とそれほど大きな差異はないように思えるけれど、中盤のアンビエントに近い先鋭的な空間処理が実際のピアノ演奏の情感を際立たせているため、さらりと聴き通すことが出来ない部分もある。それはスイスの巨匠の創作の際の苦悩に寄り添うかのような深く悩ましい感慨が、さほど技巧を衒うことのないシンプルな演奏の中に見いだされる。これがサウンドトラックとして、どのような効果を発揮するのかまでは不透明ではあるが、単体の音楽作品として接した際、音響に奥行きと深みをもたらしている。映画音楽のサウンドトラックとして、その映像の効果を引き出すにとどまらず、その映像の中にあるテーマともいうべき内容を印象深くするための仕掛けが本作にはいくつか取り入れられているようにも思える。

 

 アルバムに収録された曲が進むたびに、まさに、作曲家が滞在した山間部の冬の間に景色が春に向けて少しずつ移ろい変わっていく様子を連想させる。山間部に滞在すると、見えるものが明らかに変化すると作者が語っているが、その言葉が音楽そのものに乗り移ったかのようでもある。実にシンプルなフレーズであろうとも、短い楽節のレンズを通して組み上げられていく音の連続性は、この作曲家が自らの目で見た景色、憂いある様子、喜ばしい様子、人智を越えた神秘的な様子、それら多彩な自然的な現象がアンビエンスとして緻密に処理され、それがピアノ演奏と合わせて刻々と移ろい変わっていくかのようである。言い換えれば、都会に住んでいると、誰も目にとめないような天候の細やかな変化、それがもたらす淡い抒情性について、印象派の音楽という形で緩やかに紡がれていきます。それはまた、美術家であるアルベルト・ジャコメッティが彼自身の目で物体に隠れた細いフォルムを発見したということに非常に近い意味合いが込められているように思える。そして、これとまったく同じように、隠された本質的な万物に潜んでいる美しさを、ハニャ・ラニはこのピアノとオーケストラ音楽を通じて発見していくのである。


 もしかすると、音楽も造形芸術とその本質は同じかもしれません。制作過程の始めこそ、自分の目に映る美しさの正体を見定めることは困難を極めるけれど、ひとつずつ作業を進めていくうち、そして作者自らの生み出すものをしっかりと見定めつつ、その核心にあるものを探し求めるうち、その作業に真摯なものが伴うのであれば、優れた芸術家はどうあろうとも美しさの本質に突きあたらずにはいられないのである。


 『On Giacometti』は、音楽作品として高水準に位置づけられており、美術家ジャコメッティのミニマルな生活とスタイリッシュさをモダン・クラシカルという形で見事に再現しています。特に音楽としては、アルバムのラストに注目しておきたいところでしょう。ベートーベンやブラームス、シューベルトのドイツ・ロマン派の作風の余韻を残した凛として高級感溢れるピアノ曲は、作品の終わりに近づけば近づくほど迫力を増していき、聞き手を圧倒するものがある。ハニア・ラニのピアノ曲は、映画音楽にありがちな大掛かりなまやかしにより驚かせるという手法ではなく、内的な静かな思索の深みと奥深さによって聞き手にじんわりとした感銘を与える。もちろん、映画から音楽を抜粋する形で発表されたアルバムであるため、必ずしも、トラックリストの順序通りに曲が制作されたわけではないと思われますが、「Anette」、「Alberto」において、アルベルト・ジャコメッティの彫刻における美学と同じように、それまで見出すことが叶わなかった本質的な美しさの真髄をハニャ・ラニもきっと見出したに違いない。

 

 

94/100

 

 

Weekend Featured Track #12「Anette」 

 

 

 

 

Hania Raniの新作アルバム『On Giacometti』は2月17日にGondawana Recordsより発売。

 

 

Hania Rani


 1990年、ポーランド音楽シーンの重要人物を多数輩出した北部のバルト海に面した湾都市グダンスク生まれ。

 

ピアニスト、作曲・編曲家。基本的にはクラシック畑の奏者だがそのキャパシティは広く、ポスト・クラシカルからチェンバー・ジャズ、アンビエント、フォーク他を幅広いヴィジョンで捉えている。


現在はワルシャワとベルリンをベースに活動。学生時代はショパン音楽アカデミーで学び、2015年に同世代のチェロ奏者ドブラヴァ・チョヘル(1991年生まれ)と共に、ポーランドのカリスマ的ロック・ミュージシャンであるグジェゴシュ・チェホフスキのメモリアル・フェスティヴァルに出演、チェホフスキのナンバーを斬新に解釈した演奏がもとで、2015年『ビャワ・フラガ(白い旗)』を発表し一躍注目を集める。


その後は2018年に女性ヴォーカリストのヨアンナ・ロンギチと組んだユニット、テンスクノによる『m』を発表、コンテンポラリーな要素を持つ室内楽サウンドでジャンルを越えたその才能がさらに開花する。2019年には、ゴーゴー・ペンギン他を輩出したUKマンチェスターの先鋭的レーベル"Gondwana Records"から初のソロ・アルバム『エーシャ(Esja)』を発表する。同年50ケ所以上のヨーロッパ・ツアーを重ねながらワールドワイドな知名度となりつつあり、2019年12月には東京で開催された「ザ・ピアノ・エラ2019」に出演し大反響を呼んだ。


スワヴェク・ヤスクウケのピアノソロにも通じる美しい音楽世界は官能的で繊細、リズミカルで独特の空気感を纏わせ、Z世代に近いミレニアル世代らしい新しさに満ちた活動を続けている。ピアニスト、コンポーザー、アレンジャーという枠も越えた「アーティスト」として認知されている。

 

Anna Maggý 


ポストクラシカルシーンの新星、アイスランドのピアニスト兼作曲家のEydis Evensen(アイディス・イーヴェンセン)がセカンドアルバム「The Light」を発表し、そのリード曲としてニューシングル「Tephra Horizon」をリリースしました。


「Tephra Horizon」は、昨年10月にリリースされたÓlafur Arnaldsの 「Loom」をピアノでリワークして以来の新作で、Einar Egils監督によるビデオも公開されています。


E・はこのニューシングルについて、「2021年の火山噴火を経験したとき、私は噴火に大量に引き寄せられるように感じたの。ここアイスランドで経験した過去のすべての噴火と、今見ているこの新鮮なイメージとのつながりを考えるために、『Tephra Horizon』を書いたんだ。噴火の体験は、別世界のようなものです。生命の源、地球の源を見つめているような感覚、そして私たちがいかに小さな存在であるかということを、言葉で言い表すことはできません。この美しい国の気象条件や、何百年もかけて噴火してできた素晴らしい景観にとても刺激を受けています」と説明している。


ニューシングルのストリーミングはこちら。Eydis Evensenは昨年にフルアルバム『The Light I』、続いて『Frost』を発表しています。


「Tephra Horizon」




Edis Evensen 『The Light』




Label:  XXIM Records

Release 2023年5月26日



Tracklist:

Anna’s Theme
The Light II
17.3.22
Tranquillant
Disturbance
Transcending
Tephra Horizon
Fragility
Near Ending
Full Circle
Dreaming of Light
Resolution

 

©Kim Jacobson


Patrick Wolfが、近日発売予定のEP『The Night Safari』からニューシングルを公開しました。10年ぶりの新曲となった「Enter the Day」に続き、「Nowhere Game」はJoseph Wilsonが監督を務めたビデオ付きでリリースされます。ミュージックビデオは下記よりご覧ください。


パトリック・ウルフはこの新曲について次のように語っています。


クリミアの黒海に面したステージでのコンサートの帰り道、私はラップトップにメロディーを録音し、帰りの飛行機の中でプログラミングを始めました。
それから何年も経って、The Night Safari E.P.を完成させようとしていた時に、その未完成のプロジェクトと、私が「nowhere game」と名付けた人生の一時期の新しいストリングスセクションや歌詞を発見しました。
最終的にこの曲は、悪循環に陥っていることにゆっくりと気づき、助けを求める方法を知るにはまだ長い道のりがあることを教えてくれるものです。Nowhere Gameとe.p.のヴィオラとヴァイオリンのパートは、最初の2枚のアルバム以来、初めて自分で演奏したもので、最終的に自分自身の悪循環を断ち切り、自分の技術に戻ったという証拠です。


このビデオについて、Wolfは次のようにコメントしています。


このビデオは、The Night Safari E.P.の最初の2曲を通して旅をするJoseph Wilson監督によるフィルムの第2部で、この第2部は、私が前曲の黒い凍った川を漕いで下り、Josephと私がお互いのどこでもない経験から着想した「Nowhere Game」へと入っていくところから始まる。
ビデオに登場する私自身の服や衣装、そしてどこにもいない生き物たちも、私と空想家マルコ・トゥリオ・シヴィリアの手によるもので、ビデオに関わったすべてのクリエイターとダンサーとのコラボレーションは、偶然にも感動的でありながら、魔法のようなものになったのです。真夜中の12時を過ぎると、2022年の最も寒い夜にビーコンヒルの廃墟で撮影した連帯感のある行為のように感じられるようになりました。


『The Night Safari EP』は、Wolfの自主レーベル”Apport”から4月14日にリリースされる予定です。


 



本日、ロンドンを拠点とするアーティスト、Lucinda Chua(ルシンダ・チュア)は、新曲「Echo」とそれに付随するショートフィルムを公開し、さらに3月24日に4ADからリリースするソロ・デビュー・アルバム『YIAN』を発表しました。また、ルシンダは5月9日にロンドンのICAで、これまでで最大のヘッドライン・ショーを行うことも発表しています。


2022年にリリースされた『Golden』が、若き日の自分自身の視点から書かれた曲で、『YIAN』の世界への瞑想的な前奏曲であるとすれば、彼女のニューシングル『Echo』は、その第1章にしっかりと位置づけられるはずだ。先祖代々のトラウマを歌ったポップソング「Echo」は、過去への敬意と新しい未来を切り開く自由との境界線を歩く、アンチヒーローの旅路でもある。(私はあなたの恥を背負わない/二度とあなたのエコーにはならない...私は他の誰にもなれない/あなたを見て、自分を見る」)。この曲では、官能的なエコーのハーモニーと繊細なソウルを感じさせるピアノが、彼女独特の親密でありながら別世界のようなサウンドを生み出している。


「Echo」

 


中国舞踊を徹底的に学んだルシンダ・チュアは、映画監督のジェイド・アン・ジャックマン、ムーブメントディレクターのチャンテル・フーとともに、振り付けを施したポップなMV「Echo」のビジュアルを制作しました。このショートフィルムは、中国のファンダンスと武術へのオマージュであり、移り変わる感情の季節を旅するような、感動的で革新的な作品となっています。ストーンサークルを土台に、手作りの中国製シルクの扇子を使って、茨のバラ園から吹雪へと移り変わるムードの中で、Chuaはダンスを披露している。「私たちは皆、雪の中の足跡に過ぎないのだと思うことがあります」とルシンダ・チュアは言います。


今回のリリースは、ロンドンのパーセルルームでのソールドアウト公演と、昨年のウィリアム・バシンスキーのオープニングを飾ったピッチフォーク・ロンドンへの出演に続いて発表されました。


Lucinda Chua 『YIAN』


 


Label: 4AD

Release: 2023年3月24日


Tracklist:

1. Golden 
2. Meditations On A Place 
3. I Promise 
4. You 
5. An Ocean 
6. Autumn Leaves Don't Come 
7. Echo 
8. Do You Know You Know 
9. Grief Piece 
10. Something Other Than Years 


 

©Ash Dye


近年、Makaya McCraven, Whitney, Circuit des Yeux, Claire Rousay等と仕事をしているシカゴのチェリスト兼作曲家のLia Kohl(リア・コール)が、2枚目のアルバム制作完了を発表した。


『The Ceiling Reposes』は、2023年3月10日にAmerican Dreams Recordsから発売される。さらに、この告知と併行して新曲「sit on the floor and wait for storms」が発表されました。この曲は、コールによると「天気予報の断片が含まれており、それを書き起こすと、素敵で奇妙な小さな詩の骨格になる」という。

 

『The Ceiling Reposes』のレコーディングは、主にワシントン州のヴァション島で録音されたラジオの生サンプルから構成されています。Koh(コール)は、これらのサンプルを「found lyrics」として捉え、Kurt Chiang, Alyssa Martinez, Elizabeth Metzger, Corey Smith, Macie Stewart, Marvin Tate, Karima Walkerといった詩人や作詞家を招いて、その内容を練り上げていきました。出来上がった詩は、アルバムと共に、オンラインやジンとしてリリースされる予定です。


「sit on the floor and wait for storms」

  

 

Lia Kohl 『The Ceiling Reposes』 

 

 

Label: American Dreams Records

Release: 2023年3月10日

 

Tracklist:


1. in a specific room

2. sit on the floor and wait for storms

3. when glass is there, and water,

4. or things maybe dropping

5. the moment a zipper

6. became daily today

7. like time (pretending it had a human body) 

 



ドイツの音楽家、Niklas Paschburgのサードアルバム『Panta Rhei』を発表しました。2023年3月17日に7K!からリリースされます。


タイトルと音楽は、ヘラクレイトスの「すべては流れる」というギリシャ哲学からインスピレーションを得ており、ハンブルク出身のアーティストが、自身の奥底から引き出された電子音楽とポストクラシック音楽の無制限の世界を探求していることがわかります。


現在ベルリンを拠点とするパシュブルグは、過去2枚のアルバムを通じて、バルト海の動き(2018年『Oceanic』)と北欧の冬の闇(2020年『Svalbard』)に魅了されてきた。パンデミック時に旅行ができなかった結果、この最新アルバムでは彼自身の心の内側を見つめることになった。"それは音楽で表現された内省で、一方では暖かくポジティブな感情、他方ではダークな感情という2つの異なる顔を見せることになった。"


2016年のデビューEP『Tuur mang Welten』で初めて注目を浴びて以来、Paschburgはその独創的な作曲スタイルで人々を惑わせ魅了してきた。


アンビエント、ポップ、クラシック、エレクトロニック・ミュージックを現代的に融合させた彼は、中心的な楽器であるピアノを通して深い感情を伝えていることがわかる。RY X、Hania Rani、Robert Lippok、Ah! Kosmosらとのコラボレーションや、2021年のフランス映画「Presque」(「Beautiful Minds」)のサウンドトラックを作曲している。この新作では、高い評価を得ているエレクトロニック・デュオÂmeの片割れFrank Wiedemannと、Jóhann JóhannssonからThom Yorkeまでを手がける受賞歴のあるサウンドエンジニアFrancesco Donadelloと共に制作した1曲が収録されています。


Panta Rheiは、ニクラスが概念的な境界を取り払い、直感に従ったサウンドである。彼はまずピアノでそれぞれの曲を書き、それにドラマー、サックス、シンガー、アコーディオンを加え、エレクトロニクスがレコードの音を導き、ユニークにしています。「これらの新曲は、私が自分の中で訪れた場所、私が持っているもの、または他の人の中で観察したものを描写しています。ヘラクレイトスのPanta rheiの理論にあるように、同じ川に2度入ることはできないという事実を念頭に置きながら、すべてを含む1つの川につながれたさまざまな音楽の場所や雰囲気を探求することが目的だった」


ニクラスの個人的な旅は、彼のメランコリックで繊細なピアニズムとシンセや電子ビート、示唆に富むアンビエント、ドイツ人シンガーlùisa、スペイン人Bianca Steck、アイスランド人ポストパンクバンドFufanuのフロントマンKaktus Einarssonの喚起的な声が融合した魅惑的でカラフルな音楽の旅となるのである。親密で瞑想的でありながら、ポジティブで高揚したヴァイブスを持つアンビエントポップへの移行である。



 



Niklas Paschburg『Panta Rhei』



Label: 7k

Release: 2023年3月17日


1. Sunrise

2. Zimt

3. Flâneur

4. Interlude 1

5. Darkside Of the Hill feat. lùisa

6. Delphi Waltz

7. Serafico

8. Lunatic Circus

9. Istria

10. 21st Of June

11. All The Secrets Left Untold feat. Bianca Steck

12. Interlude 2

13. Every Morning (Night 6) feat. Kaktus Einarsson 



 Weekly Recommendation

 

Cicada 『棲居在溪源之上 (Seeking the Sources of Stream)』 

 


  

Label: FLAU  

Genre: Post Classical/Modern Classical

Release Date: 2023年1月6日   


 



 

 

Featured Review

 


台湾/台北市の室内楽グループ、Cicada(シカーダ)は、2009年に結成され、翌年、デビューを果たしています。 当初、五人組の室内楽のバンドとして出発し、インスタントな活動を計画していたといいますが、結果的には10年以上活動を行っており、台湾国内ではメジャー・レーベルのアーティストに匹敵する人気を獲得しています。

 

現在のCicadaは、ピアノのJesy Chiang、アコースティック・ギターのHsieh Wei-Lun、チェロのYang Ting-Chen、バイオリンのHsu Kang-Kaiというラインアップとなっています。メンバーの多くは芸術大学で音楽を体系的に習得した本式の演奏者が多いそうです。

 

2013年にリリースされた『Costland』以来、Cicadaは、台湾という土地をテーマに取り上げ、本島を取り巻く海の想いや人々の温かな関係性を演奏に託した楽曲スタイルを確立し、実際の風景をもとにオーケストラレーションを制作している。シカーダのメインメンバー、メインメンバー、作曲者である、Jesy Chiangは、スキューバ・ダイビングと登山をライフワークとしており、『Coastland』では、台湾西岸部へ、さらに、その続編となる『Light Shining Through the Sea』で、台湾の東岸に足を運んで、海や山を始めとする風景の中から物語性を読み解き、その風景にまつわるイメージを音楽という形で捉え直しています。台湾の穏やかな自然、また、それとは対象的な荘厳な自然までが室内楽という形で表現される。さらに、2017年の『White Forest』では、町に住む猫たちや林に棲まう鳥など、Cicadaの表現する世界観は作品ごとに広がりを増しています。


その後、2019年のアルバム『Hiking in The Mist』では、Jesy Chiangみずから山に赴いて、小川のせせらぎや木々の間を風が通り抜ける様子などをインスピレーションとし、室内楽として組み上げていきました。とりわけ、”北大武山”での夕日の落ちる瞬間、”奇來山”と呼ばれる山岳地帯の落日に当てられて黄金色に輝く草地に心を突き動かされたという。言わば、そういった実際の台湾の神秘的な風景を想起させる起伏に富んだオーケストラレーションがCicadaの最大の魅力です。

 

さらに追記として、2022年、Cicadaは、日本の文学者、平野啓一郎の『ある男』の映画版のサウンド・トラックも手掛けています。

 

 

Cicada
 

 

東京のレーベル、FLAUから1月6日に発売されたばかりの新作アルバム『Seeking the Sources of Streams』においても、アンサンブルの主宰者、作曲者、ピアノを演奏するJesy Chaingは、台湾の自然の中に育まれる神々しさを再訪し、それを室内楽という形式で捉えようとしています。

 

このアルバムについて、Jesy Chaingは次のようにバンドの公式ホームページを通じて説明しています。

 

「2年ほど前、私達、Chicadaは、前のアルバム『Hiking In The Mist』を完成させた。そして次は何をしようかと考えはじめた。やはり、山について書きたい。だが、前作とはちょっと違う観点を探してみたい。

 

迷ううちに、ずいぶんと長い時間が過ぎた。2020年10月、私は中央山脈の何段三と呼ばれるトレイルを10日かけて歩いた。登ったり降りたりが延々と続く長い山道を、毎日ゆうに10時間は歩き続けた。ついに中央山脈の心臓部にたどり着き、果てしなく広がる丹大源流域と呼ばれる谷地(やち)を目にした時の感動は筆舌に尽くしがたい。そして、そのとき、ふと悟ったのだ。ここが私達の次の作品のインスピレーションを与えてくれる場所なのだということを・・・」

 

 

Cicadaの音楽は、ピアノを基調とした、チェロ、バイオリン、ギターによる室内楽であり、映画のサウンドトラックのような趣があります。彼らは、坂本龍一、高木正勝の音楽に影響されていると公言していますが、実際のバンド・アンサンブルは、さらに言えば、久石譲の気品溢れる誠実なモダン・クラシカルや映画音楽にもなぞらえられるかもしれない。「源流を訪ねもとめて」と題された新作アルバムのオープニングを飾る「Departing In The Morning In The Rain」は、一連の物語の序章のような形で始まる。これは、『Hiking~』の流れを受け継いだ音楽性であり、親しみやすく穏やかな世界観を提示している。さらにピアノの演奏とギターの音色は、聞き手の心を落ち着かせ、そして、作品の持つ奥深い世界へ引き入れる力も兼ね備えています。

 

二曲目の「Birds-」からは、上記の楽器の他、オーボエ/フルートといった木管楽器が合奏に加わり、まさにジブリ・ファンが期待するような幻想的なサウンドスケープが展開される。演奏が始まる瞬間には、どのような音楽が出来上がるのか、演奏者の間で共有されているため、四人が紡ぎ出す音楽は、清流の中にある水のように自然かつ円滑に流れ、作品の持つ現実的な風景と神秘的なファンタジーの合間にある平らかな世界観が組み上げられていく。そして、前二曲の前奏曲の流れを継いで、三曲目の「On The Way to the Glacial Cirque」では、それらのストーリーが目に見えるような形で繰り広げられる。ピアノとギターに、チェロとバイオリンが加わり、4つの楽器により幅広い音域をカバーすることで、楽曲そのものに深みが加えられています。

 

特に、注目したいのは、ジブリの劇伴音楽を彷彿とさせる神秘性や幻想性はもちろん、チェロとバイオリンの微細なパッセージの絶妙な変化、クレッシェンド/デクレッシェンドの抑揚により、楽曲は情感が加わり、琴線に触れるような感慨がもたらされること。弦楽器の和音のハーモニーと併行する形で、楽曲の持つ世界感を押し広げているのがJesy Chiangの情感豊かなピアノの演奏であり、 そしてまた、Hsieh Wei-Luの繊細なアコースティック・ギターの演奏なのです。

 

アルバムの中に内包されている世界観は、どのように形容されるべきなのか。少なくとも、これらのオーケストラは現実的であるとともに幻想的でもある。台湾の山間部の神々しく神秘的な風景と同じように、時間とともに、その対象物の観察者しかわからないような、きわめて微細な形で、序盤の音楽は変化していきます。音楽として、急激な展開を避けることにより、その瞬間の真実性に重点が置かれていますが、それは生きているという感を与え、また、聞き手に大きく呼吸する空間性を与える。続く、四曲目の「Foggy Rain」では、華やかな前曲の雰囲気とは打って変わって、それと別の側面を提示しており、ピアノと弦楽器を基調にした淑やかなポスト・クラシカルの領域に踏み入れる。上品な弦楽のトレモロを始めとする卓越した演奏力は言わずもがな、木琴(マリンバ)、鉄琴(グロッケンシュピール)の音色は、お伽話のような可愛らしい印象を楽曲に付加するにとどまらず、アイスランドのフォークトロニカの幻想的な空気感に溢れている。それはまた、山間の夕暮れの烟る靄の中に降り注ぐ小雨さながらに、繊細で甘美な興趣を持ち合わせている。これらの瑞々しい情緒は他の音楽では得難いものなのです。

 

続く、五曲目のタイトル・トラックは、このアルバムの中での大きなハイライトでもあり、山場ともいえ、11分以上にも及ぶ大作となっています。ここでは、坂本龍一、久石譲の系譜にある柔らかな表情を持った繊細なピアノ曲が展開されますが、室内楽のアンブルやギターのソロにより、中盤部に起伏のある展開が設けられています。その後、中盤での大きなダイナミクスの頂点を設けた後に訪れるピアノの静謐でありながら伸びやかな演奏は、彼らの創造性の高さを明確に象徴づけているように思えます。この曲は、Jesy Chaingが台湾の山間部を歩いた際の風景をありありと想起させ、聞き手は心地よい癒やしの空間に導かれていきますが、それは、果てしない神秘的な空間に直結しているかのよう。まさに、ここで、表題の『Seeking the Sources of Streams』に銘打たれている通り、Cicadaはアンサンブルの妙味を介して、台湾という土地の源流を訪ね求め、さらに、その核心にある「何か」を捉えようと試みているのかもしれません。

 

そして、今作の多くの山の中にあって、谷地のように窪んだ形で不意に訪れるのが、六曲目の「Encounter at the Puddle」となります。これは、前半部のテーマの提起を受け、その後に訪れる束の間の休息、または間奏曲のような位置づけとして楽しむことができるはずです。この曲もまた、前曲と同様、オリヴィエ・メシアン等の近代フランス和声を基調にした坂本龍一の繊細なピアノ曲を彷彿とさせ、とても細やかで、驚くほど切なげであり、なおかつ、儚いような響きに彩られている。とても短い曲ではありながら、このアルバムの中にあって強いアクセントをもたらす。なにかしら深い落ち着きと平らかさが、聞き手の心に共鳴するような佳曲となっています。

 

アルバムの後半部に差し掛かると、楽曲は、精細感を増し、物語性をよりいっそう強めていきます。聞き手は、神秘的な山間の最深部に足を踏み入れ、そして、きっと、その自然の中にある何がしかの神秘性を目の当たりにすることでしょう。「Raining On Tent」は、マリンバとチェロを主体に組み上げられた一曲であり、その後にバイオリンやピアノが最初のモチーフを変奏させていく。そして、それは確かに、山間部の天候の急な変化と同じように、上空を雲がたえず流れていく際の景色の表情が、時間とともに刻々と移ろう様子が音楽として克明に捉えられている。


さらに、それに続く、8曲目の「Remains of Ancient Tree」は、スペイン音楽、ジプシー音楽の影響をほのかに感じさせ、Hsieh Wei-Lunのアコースティック・ソロと称しても違和感がないような一曲となっている。ガット・ギターのミュート奏法を介して繰り広げられる華麗な演奏は、聴き応えがあるため、かなりの満足感を与えると思われますが、このギターの卓越した演奏を中心にし、ピアノやバイオリン、チェロのフレーズが、調和的に重なり合うことによって、曲そのものの物語性やドラマ性がより強化されていきます。もちろん、それはまた、表題曲とまったく同じように、台湾の自然の源流の神秘性に接近しながら、自然の奥底にある神々しさに人間が触れる瞬間の大いなる感動とも称せるかもしれない。特に、クライマックスにかけてのチェロの豊潤な響きは、この音楽が途切れずに延々と続いてほしいと思わせるものがあるはずです。

 

これらの8つの神秘的な旅を終えて、最後の曲「Forest Trail to the Home Away Home」によって、物語は、ゆっくり、静かに幕引きを迎えます。この最後の曲は、アルバムのオープニングと呼応する形のささやかなピアノを中心とする弦楽アンサンブルとなっていますが、この段階に来て、聞き手はようやく神秘的な旅から名残惜しく離れていき、それぞれの住み慣れた家に帰っていく。しかし、実のところ、不思議なことに、Cicadaの最新作で織りなされる幻想的な感覚に触れる以前と以後に見えるものは、その意味が明らかに異なっていることに気がつくはずなのです。


 

92/100


 


 amiina 『Yule』

 

 

Label: Aamiinauik Ehf

Release: 2022年12月9日


Listen/Buy



Review 


 

mumの後に続き、アイスランドのフォークトロニカ・シーンに台頭した、国内の音楽大学で結成された室内楽団、amiina(アミーナ)。

 

基本的に、室内楽の多重奏の形式をとるが、首都レイキャビクのfolktronica(フォークトロニカ)のシーンの気風をその音楽性の中に力強く反映しており、もはや、このジャンルのファンにとって、2007年の「Kurr」、2013年の「The Lightning Project」といった作品はマスター・ピースと化している。ロシアの発明家が考案した高周波振動機の間に手をかざすことで音を発生させるテルミン等のオーケストラ発祥の楽器を使用し、既存の作品中で、子供むけの絵本にあるような幻想的な世界観を確立している。上記のmum、シガー・ロスとの共通点は見いだされるものの、体系的な音楽教育に培われたオーケストラ寄りの音楽性がamiina(アミーナ)の特徴と言えるだろう。

 

近年、レイキャビクでは、レイキャビク・オーケストラを始め、国家全体としてオーケストラ音楽を独自文化として支援していこうという動きがあるが、オーラブル・アルナルズやビョークを始め、どのような音楽形式を選んだとしても、古典音楽や現代音楽の要素はアイスランドのアーティストにとって今や不可欠なものとなりつつある。他の地域に比べると、ポピュラー・ミュージックとオーケストラの区別がなく、双方の長所を引き出していこうというのが近年のアイスランドの音楽の本質である。そして、もちろん、アミーナはもまた同じように、古典音楽に慣れ親しんで来たグループだ。近年、エレクトロニカと弦楽器の融合にメインテーマを置いていたアミーナではあるものの、この12月9日に自主レーベルから発売された最新EPでは、電子音楽の要素を排して、チェロ、ビオラ、バイオリンをはじめとする室内楽の美しい響きを探究している。このリリースに際し、アミーナは、クリスマスの楽しみのために、これらの細やかな室内楽を提供する、というコメントを出しているが、その言葉に違わず、クリスマスで家庭内で歌われる賛美歌に主題をとった聞きやすい弦楽の多重奏がこのEPで提示されている。

 

アルバムの全7曲は細やかな弦楽重奏の小品集と称するべきものだろう。厳格な楽譜/オーケストラ譜を書いてそれを演奏するというよりも、弦楽を楽しみとする演奏者が1つの空間に集い、心地よい調和を探るという意味合いがぴったりで、それほど和音や対旋律として難しい技法が使われているわけではないと思われるが、長く室内楽を一緒に演奏してきたamiinaのメンバー、そしてコラボレーターは、息の取れた心温まるような弦楽器のパッセージにより美麗な調和を生み出している。それらは賛美歌のように調和を重んじ、amiinaのメンバーは表現豊かな弦のパッセージの運びを介し、独立した声部の融合を試みている。これらの楽曲はほとんど3分にも満たない小曲ではあるけれど、クリスマスの穏やかで心温まるような雰囲気を見事に演出している。

 

連曲としての意味合いをもつ六曲は、流麗な演奏が繰り広げられ、クリスマスの教会で歌われるようなミサの賛美歌の雰囲気に充ち、何かしら心ほだされるものがある。演奏というものの本質は、演奏者の心の交流で、彼らの温和な関係がこういった穏やかな響きを生み出したと推察される。


それに対して、最後の一曲だけは曲調が一変し、旧い教会音楽やグレゴリオ、さらにケルト音楽に根ざした精妙な弦楽のパッセージが展開される。全6曲は、弦楽のハーモニーの妙味や流れに重点が置かれているが、他方、最終曲だけは、澄んだ弦楽の単旋律のユニゾンがこれらの調和的な響きとコントラストを成している。もし、前6曲が細やかな弦楽の賛美歌と解釈するなら、最終曲は古楽や原初の教会音楽に挑戦しており、この室内楽団のキャリアの中では珍しい試みと言える。

 

音楽は単一旋法がその原点にある。原初的なユニゾンの響きにあらためて着目するラスト・トラックは、複雑化し、枝分かれした現代の無数の音楽の混沌の中にあって、逆に、新鮮に聴こえるかもしれない。『Yule』は、浄夜のムード作りにうってつけの作品と言えるのではないだろうか??

 


78/100


 


ウクライナのピアノ奏者、映画音楽などを中心に活躍する、Natalia Tsupryk(ナタリア・ツプニク)がLeiterから二作目のEPを発売した。アルバムの購入/全曲ストリーミングはこちらから。試聴は下記より。

 

ナタリア・ツプニクは、ポスト・クラシカル/モダン・クラシカルシーンの新進気鋭のアーティストで、ミニマル派のピアノ・ミュージックを特徴とする。本作は、このアーティストが直面したウクライナ侵攻の事実を元に、それらを思索的なピアノ・ミュージックとして組み上げた作品となっている。

 

「When We Return To The Sun」は、Natalia Tsupryk(ナタリア・ツプニク)による最新の音楽集で、今年初めに発表されたコンピレーション「Piano Day」に続き、LEITER(ニルス・フラームが主宰するベルリンのレーベル)での2作目のリリースとなる。このEPの4つのトラックを通じて、ロンドンを拠点に活動するウクライナ人作曲家は、故郷の戦争を遠くから目撃し、突然に、そして痛ましいほどに変化した現実を処理し、対処するという非常に個人的な経験を共有している。


LEITERのベルリンのスタジオで録音されたEPは、12月9日からすべてのストリーミング・プラットフォームでダウンロードが可能。すでに「Mariupol」と「Son Kolo Vikon」の2曲がリリースされています。


「When We Return To The Sun」は、クラシックな楽器とエレクトロ・メカニカルな要素を組み合わせた、瞑想的で親しみやすい美しいセットとなっている。「Son KolVikon」や「The Sun Was Low」といったピアノを中心とした室内楽から、「We Are Born」や「Mariupol」の深く暗いシンセサイザーまで、ツプリクの悲しみと絶望の感情を呼び起こす。戦争の時代における意志と愛の力について考察している。


弦楽器とピアノの独特な使い方が特徴的なNatalia Tsuprykの音楽は、クラシックのバックグラウンドを生かし、フォーク、エレクトロニカ、クラシック音楽の要素を融合させている。ローン・バルフ、ジェシカ・ジョーンズ、アンガス・マクレーなどのアーティストや作曲家と仕事をし、2020年にソロ・アルバム「Choven」、2021年にEP「Vaara」をリリースした。また、合唱団や劇場のために作曲し、フィクション、ドキュメンタリー、アニメを問わず、複数の映画祭で国際的に上映され、BAFTAの最終選考にも残った受賞作の音楽を担当しています。更に、ヴァイオリニストとしても、ソロ、室内楽団やオーケストラのメンバーとして、世界中で演奏している。

 

この新作についてナタリア・ツプニクはプレスリリースを介して次のように説明する。


「ある朝、ウクライナの人々は、爆発音と戦車の光景で目を覚ましました。家族や多くの大切な友人が母国にいるため、最初の数時間、数日間、その場にいられないのは苦痛でした。

 

首都であり、故郷であり、私が生まれて初めて歩いた街であるキエフが、3日以内に陥落するという世界のメディアの報道を見ることは、私の人生で最も辛い経験でした。もう二度と自分の家を見ることができないかもしれない、家などないのかもしれない、もう戻れないかもしれない、と思うと、この上なく悲しくなった。あの日、私が一番後悔したのは、遠くに行ってしまったことです。この先も、このことが最大の後悔であり続けることを願っている。


あれから、いろいろなことが変わりました。私は2度ウクライナに行き、自分の目で現実を見た。要するに、私たちにとっては何も変わっていないのです。私たちはまだ2月24日の生活を続けている。食べること、寝ることに罪悪感を感じている。侵略者とまだ戦っている。外国人と話すたびに、自分たちのことを説明したり、正当化したりしなければならない。朝一番にニュースをチェックし、愛する人に生きているかどうかを尋ねます。予定も立てない。時には会話もままならない。


この数ヶ月間、言葉で伝えることができなかったことを、この音楽で伝えることができたことを、LEITERとそのチームにとても感謝しています。嫌なことがあると、脳が麻痺して、涙ひとつ流せなくなることがあります。これを共有できるのは幸せなことです。おそらく、今までで一番もろい音楽を発表する機会に恵まれたと思います。


 この文章を書いている時点では、戦争がどのように終わるかはわからない。しかし、最悪の事態はすでに過ぎていることを強く願っています。"


-Natalia Tsupryk(ナタリア・ツプリク)-

 

 



 

 

 

Natalia Tsupryk(ナタリア・ツプニク

 

弦楽器とヴォーカルを用いた独特な音楽が特徴的なナタリア・ツプニクの音楽は、クラシックのバックグラウンドを生かし、フォーク、エレクトロニクス、クラシックの要素を融合させている。最近のソロ作品「Elegy for Spring」は、ニルス・フラームのレーベルLeiterからリリースされた「Piano Day Vol.1 Compilation」の一部である。   


ナタリア・ツプニクは、フィクション、ドキュメンタリー、アニメーションの各映画のスコアを担当し、Palm Springs、Indy Shorts、PÖFFなどの映画祭で国際的に上映され、BAFTAの最終選考に残った。2017年以降、ナタリアは、キエフ国立アカデミック・モロディ劇場とコラボレーション、「The Master Builder」や「Ostriv Lyubovi」など、いくつかの劇のスコアを担当しています。


ヴァイオリニストとしてのナタリアは、ウィーン楽友協会、ウィーン・コンツェルトハウス、ORF、RadioKulturhaus、Synchron Stage Vienna、ウクライナ国立交響楽団などの会場で、ソロ、室内楽団やオーケストラのメンバーとして世界各地で演奏している。


また、作曲家ローン・バルフ、オーリ・ジュリアン、ジェシカ・ジョーンズ、アレックス・バラノウスキーらとセッションバイオリン奏者、ヴィオリストとして活動、「The Wheel of Time」(2021~)「Dopesick」(2021~)「The Tinder Swindler」(2022)といったプロジェクトに参加している。


ナタリアは、キエフのリセンコ音楽学校を卒業後、ウィーン市立音楽芸術大学でクラシックの教育を受ける。その後、国立映画テレビ学校で映画とテレビのための作曲の修士号を取得し、ダリオ・マリアネッリの指導を受けた。レコーディング・アーティストとして、ナタリアは2020年にデビューLP『Choven』を、2021年にEP『Vaara』をリリースした。また、アンガス・マクレーと2枚のEP「Silent Fall」(2021年)、「II」(2021年)でコラボレーションしている。

 


 先々週の10月28日、アイスランドのモダンクラシカルシーンの代表格、Ólafur Arnalds(オラファー・アルナルズ)は、2020年にスタジオ・アルバム「some kind of peace」をピアノ編曲により再構築した「some kind of peace-piano reworks」を発表しました。

 

この作品は、 Alfa Mist、Yiruma、Dustin O'Halloran、tstewart (Machinedrum)のが、原曲をピアノで再演した模様が収録されています。それぞれのミュージシャンはピアノを使用しており、多彩な演奏が楽しむことが出来ます。

 

クラシック音楽では、よく再構築という試みが行われますが、今回の作品もリミックス作というよりも、この再構築という形容がぴったり当てはまります。Ólafur Arnaldsは、オリジナル作品をリワークした動機について、次のように語っています。「曲というのは、決して完成しないんだ。曲はどんな形にもなり、演奏する人によって進化し、呼吸する。曲の心は演奏者の中にあるんだ」

 

このリワークの発表に続いて、オラファー・アーナルズは、先週、お気に入りの特製ピアノを探求する様子を収めた新しい映像「Piano Portrait」を公開しています。同じメーカーのピアノでも生産が自動なのか、それとも手作りなのかで、ピアノはまったく違う音色になります。オーナルズもまたライブセッション等で特注のピアノを使用することで知られ、また自身が演奏などで使用するピアノに一方ならぬこだわりを持っています。この映像では、彼の音楽制作の過程を垣間見ることができ、美しく撮影された細やかなパフォーマンスと会話が楽しめる映像でもあります。

 

「私のお気に入りのピアノを紹介しましょう」とアーナルズは話しています。「デンマークからDHLで発送した小さなピアネッタです(実際は1つのパレットに2台)。このピアノの可愛くて大胆な個性に惚れ込んでしまいました。決して完璧ではないけれど、ちょっと気にならない程度の欠点はありますね」

 

 Olafur Alnorlds 『some kind of peace - piano reworks』

 


 

 Label:  Mercury xx/Universal Music

 Release:  2022年10月28日

 




Review   


 

 今週、皆様にご紹介するMercury xxから今週金曜日に発売された『some kind of peace - piano reworks』は、2020年にオーラブル・アルナルズが発表したオリジナルアルバムのピアノのリワーク作品/再構築である。このオリジナル作品は、2020年以前にレイキャビクのハーバースタジオで制作されたが、今作はパンデミックの最初期にリリースされた。発表当時は世界中でロックダウンが敷かれ、およそアイスランドも同じような状況にあったものと思われる。

 

オーラブル・アルナルズは、タイトルに表されている通り、アルバムのコンセプトに「ある種の平和を見出す」という主題を置いている。

 

2020年のリリース時、オーラブル・アルナルズは、Apple Musicのインタビューで、「パンデミックは、私達にコミュニティの重要性を思い出させます、そして、それは私たちの毎日の伝統的かつ宗教的な儀式と、私達の相互の重要性を思い出させる、それが私がここで探求していることです」とコメントしている。2020年代の世界的な状況を鑑み、結束力を取り戻すことの大切さについて述べている。ロックダウンや隔離は、世界の人々の間に一種の分離状態を惹起させた。しかし、当時、オーラヴル・アルナルズは、その状況に反し、今一度、人々がコミュニティの重要性に気が付き、そして、今一度、結束力を取り戻すことを呼びかけていたのだ。

 

2020年発表のオリジナル盤『some kind of peace」は、Bonobo(サイモン・グリーン)を始め、秀逸なエレクトロニックプロデューサーがコラボレーターとして参加し、ポスト・クラシカル寄りの作品でありながら、モダンなエレクトロの雰囲気も併せ持つ快作であったが、今回、発表されたリワーク作品は、全く同じ楽曲構成であるものの、全曲がピアノのみで構成され、原曲の持つ抽象的な情感が前作よりも引き出されている。今回の再構築時に曲の順序が入れ替わったことも、音楽を聴くに際してオリジナルとは異なる印象をおぼえることになるだろう。

 

リワークに参加したコラボレーターも豪華である。同じくアイスランド、レイキャビクのポスト・クラシカルシーンの旗手で、音楽家になる以前、NYでファッションモデルを務めていたEydis Evensen、ポーランドのピアニスト、Hania Rani、アイスランドのシンガーソングライター、JFDR(ヨフリヅル・アウカドゥッティル,オーストラリアのシンガーソングライター、Sophie Hutchingsと、アイスランド国内のアーティストを中心に、世界の個性的なアーティストがこの作品に参加しており、オーラブル・アルナルズのピアノ演奏に深い情感を付け加えている。

 

原曲はBonoboとのコラボレーションでエレクトロの雰囲気を擁する「Loom」を始め、アルバムにゲスト参加したアーティストを中心に、ピアノのみで原曲の意外なリワークがなされている。これらは、アルナルズのピアノ演奏を始め、他のコラボレーターのアレンジや演奏によって、その魅力がわかりやすく示されており、繊細なメロディーの運びにより、豊かな詩情が丹念に引き出されている。それは、やはり、彼の故郷であるアイスランド・レイキャビクの海沿いの風景や、豊かな自然をありありと想起させるものがある。

 

本作の中で、ボーカル・トラックは、ピアニストとしてポーランド国内で活躍するハニヤ・ラニのハミングを収録した「Woven Song」、同郷アイスランドのシンガーソングライター、JFDRの伸びやかで清涼感に満ちたボーカルが収録された「The Bottom Line」の二曲となる。ポスト・クラシカルとして王道ーー静謐であり内省的な質感を持った美麗な楽曲ーーの中にあって、これらの二曲は、アルバム全体の印象に変化と抑揚をつけるものであるとともに、よりドラマティックな雰囲気を擁する。全体的に、エレクトロニックなエフェクトが施された楽曲群の中で、これらのボーカルトラックは、聞き手に癒やしをもたらしてくれるものと思われる。

 

 「Woven Song-piano reworks」 

 

 

 

そのほかにも、抽象主義の近代フランスの作曲家、クロード・ドビュシーの晩年の作品を思わせる「Undone」も、静謐かつ色彩的な音の運びがあり、澄明な響きが感じられる秀逸な一曲であるが、やはり、このアルバムで傑出しているのは、#9「We Contain Multitudes」とになるだろう。

 

今回の再構築では、原曲の印象的な部分を形成していたイントロの朗らかな対話のサンプリングを排していることに注目したい。オーラヴル・アルナルズは、楽曲の構成自体を完全に組み替えただけでなく、この静謐で繊細な性質を擁するピアノ曲に、以前のバージョンに比べ、よりゆったりとしたテンポを与え、さらに調性まで変え、この曲の持つ自然味と純粋かつ豊かな情感を引き出そうと努める。さながら、ひとつひとつ心の中で音をじっくり噛みしめるかのようなオーラブル・アルナルズの演奏は、同年代のポスト・クラシカルシーンのアーティストをはるかに凌駕している。

 

ここで、オーラヴル・アルナルズは、コラボレーターである韓国のミュージシャン、Yirumaの助力を得ることにより、アイスランド/レイキャビクの海岸近くのコンサートホールで録音された「Sunrise Session」の時と同様、ピアノの蓋を外し、ハンマーの軋む音を活かしたプロダクションを志向しているものと思われるが、しかし、ほとんど信じがたいことに、アルナルズは、時にはこのジャンルの欠点となる窮屈な表現、萎縮した感覚をここで軽やかに乗り越え、この原曲を伸びやかさのある藝術の領域に引き上げている点が見事というよりほかない。


全般的に、この作品はただ美しい旋律を紡ごうという意図が込められているだけにとどまらず、オーケストラの再構築のように、曲の持ち味をより繊細な形で表現しようとしている。そして、これらの曲の雰囲気は細やかなものであるからこそ心にじんわり響くのである。そのため、何度も聴く返したくなるような深みを持つ。そして、今回、クラシック音楽のcodaのように、このリワーク作品になんらかの言い残したメッセージを付け加えたかったようにも思える。

 

総じて、Olafur Alnorlds(オーラヴル・アルナルズ)は、このピアノによるリワーク・アルバムを通じ、オリジナルアルバムとは異なる鮮やかな命を吹き込んでみせた。さらに、2020年のパンデミック期と同様、戦争やエネルギー供給、物価高騰問題により真っ二つに離反するにとどまらず、俄に剣呑な雰囲気になりつつある現今の世界情勢に蔓延する憂いに際し、それとは対極にある価値観、「人間として結束すること」の大切さと「ある種の平和の見出すこと」の尊さをより大衆に理解しやすいかたちで再提示したかったのかもしれない。仮に、もし、そうであるとするなら、今作は、現代のミュージックシーンの中においてきわめて重要な意義を持つと言える。

 

 

97/100

 

 

Weekend Featured Track 「We Contain Multitudes - piano reworks」

 



 
*現在、本作は、日本国内で、Tower Recordsにて海外盤がお買い求めいただくことが出来ます。

 

Lucinda Chua

 UK、ロンドンのモダンクラシカル/ポスト・クラシカルシーンを象徴する音楽家、Lucinda Chua(ルシンダ・チュア)がニューシングル「Golden」を4ADから発表しました。(各種ストリーミングがこちらから)

 

ルシンダ・チュアは中国人としてのルーツを持つ。元々は写真家として活動していたが、その後、2010年代に音楽家に転身を果たす。この転向について、写真では対応しきれない多彩な表現性を音楽に求めたと語っている。

 

「才媛」と称されることからも分かる通り、ルチンダ・チュアは若い時代からスズキ・メソッドで培ったピアノ、そして、チェロを始めとする複数の楽器を自在に弾きこなす。近年ではアンビエント・プロデューサー、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーのツアーにチェロ奏者として参加し、知名度を高めていった。

 

昨年には、イギリスの名門レーベル”4AD”と契約を交わしたのち、2019年のEP『Antidotes』の続編『Antidotes-2』を5月に発表する。ピアノ、チェロを活かしたモダンクラシカルな楽曲にとどまらず、ポピュラー・ミュージックに近いヴォーカル・トラックにも取り組んでいる。この作品で、ルシンダ・チュアは、ヨーロッパのモダンクラシカルシーンに新風を吹き込んでみせた。

 

5月の「Another Day」に続くニューシングル「Golden」は、このアーティストらしい、内省的かつダイナミックなトラックとなっている。エレクトリック・ピアノとシンセサイザーの幽玄なシークエンスにより、ルシンダ・チュアのR&B調のソウルフルなボーカルが絶妙に引き立てられ、ゴスペルのように清涼感のあるコーラスワークがドラマティックな雰囲気を演出している。

 

10月19日に発表されたニューシングル「Golden」について、ルシンダ・チュアは以下のように説明している。


「Golden」は、ロールモデルがいない中、自分らしさを追求する、若き日の自分の目線で書いた曲です。この曲をリリースすることで、若き日の自分を誇りに思うことができればなと思います。

 

 

 

Lucinda Chua(ルシンダ・チュア)は、 2021年の5月に前作EP『Antidotes-2』を4ADから発表している。MUSIC TRIBUNEはWeekly Recommendationに選出しています。レビューはこちらからお読み下さい。


Sylvain Chauveau「I'effet  rebound(version silisium/version iridium)

 

 


 

 

Label: Sub Rosa

Release: 2022年10月14日

 

 

 

 Sylvain Chauveauは、フランス出身、現在、ベルギー在住の音楽家で、アンビエントやポスト・クラシカルのジャンルにおいては中心的な役割を担う人物です。2000年代から活動を行っており、その音楽性は、実験音楽から、ポスト・クラシカル、また、アンビエントに近い電子音楽のアプローチにいたるまでそのアプローチは幅広い。ピアノ作品としての傑作としては、2003年の「Un Autre Decembre」がある。その他にも、アイスランドのヨハン・ヨハンソンと同時期にモダンクラシカルの領域を追求した2004年の「Des Plumes Dans La Tete」といった傑作も残しています。

 


先週の10月14日、お馴染みのベルギー/ブリュッセルのレコードレーベル”Sub Rosa”から発売となった最新アルバム「I'effet  rebound(version silisium)」は、12曲入りのアルバム、と24曲入りのアルバム、2つのバージョンでリリースされています。今回、主にレビューを行ったのは、12曲入りのストリーミングバージョンversion silisiumで、24曲入りのバージョンversion iridiumはより、モダンクラシカル/アバンギャルドミュージックの色合いを持つアルバムとしてお楽しみいただけます。

 

 

「I'effet  rebound」は日本語に訳すと、「リバウンド効果」。本作は、2012年に発表されたニルス・フラームの「Screws」に近い、連曲形式で書かれた作品ですが、今回、シルヴァン・ソヴォは、同じくポストクラシカル/モダンクラシカルのシーンで象徴的なアーティスト、Peter Broderick(ピーター・ブロデリック)ほか二人の音楽家をゲストに招き、ポスト・クラシカル/モダン・クラシカルのアプローチを探求する。

 

 Sylvain Chauveauは、これまでの二十年のキャリアの蓄積を踏まえつつ、アコースティックギター、ピアノ、そして、シンセサイザーのシークエンスを中心に作品の全体構造を組み上げていきます。アルバムの収録曲は、オープニングの17分にも及ぶ「SCG」を除いて、一分以内のトラックで構成されていますが、それらはデモトラックのようであり、また、新たな形式の変奏曲のようでもある。

 

これまでの Sylvain Chauveauの作品と同様、今作においても緩やかな音楽観や抒情性は健在で、それらが美麗な自然を思わせるインストゥルメンタルとして昇華されている。基本的には、ミニマルミュージックの構造を持つイージーリスニングのように癒やしを目的として制作された作品のようにも感じられますが、一方で、このアーティストらしい実験的なアプローチの才覚の輝きも随所に迸っている。Machinefabriekをゲストに招いた壮大なオープニング「SCG」では、アコースティックとピアノのみで楽曲のクライマックスまで引っ張っていきますが、およそ一小節にも満たない反復構造のアコースティックは心地よいもので、昼下がりの太陽の光を反映する木の葉のきらめきのごとく伸びやかであるとともに、渓流の水のように清冽な雰囲気に満ちている。

 

その他、残りの連曲では、電子音楽、ポスト・クラシカル、ジム・オルークのGaster Del Solが1996年に発表した「Upgrade & Ufterlife」の作風を彷彿とさせるアヴァンギャルド・フォークに至るまで、幅広いアプローチが取り入れられている。器楽的な楽曲の他にもボーカルトラックが収録されていて、さらに、 Sylvain Chauveauは、#6「MB」において日本語のボーカルに挑んでいる。

 

ここで、シルヴァン・ソヴォは、日本の俳句や短歌のような言語的な実験を行いたかったものと思われますが、日本人から見ると、その試みは、少し言語的な誤解があるため、残念ながら不発に終わったという印象です。これらの実験的なアプローチの合間を縫って、実験的なピアノ曲「IA」のような楽曲と、Jim O'Rourkeのアヴァンギャルドフォークの色合いを持つ「LN」、「JG」といった楽曲を織り交ぜつつ、おぼろげだった音楽観が中盤に差し掛かると徐々に明瞭となっていく。

 

「I'effet  rebound(version silisium)」に収録される曲は、ひとつずつ再生するごとに、その向こうがわにある定かならぬ世界を、一つずつ恐る恐るどんなものだろうと垣間見るかのようではあるが、それらはカメラのフラッシュのように一瞬で終わり、また、次の世界は矢継ぎ早に立ち現れてくる。 Sylvain Chauveauは、ボーカルのつぶやきをふいに楽曲の中に取り入れていますが、それらは最終的に、クラシカル/エレクトロニックのバックトラックの中に溶け込むようにしてすぐに消え果てる。それは主張性を表現するためでなく、没主張性をこれらのトラックの中に込める。それは何かこの世の儚さというのをこれらの音楽で表現しているようにも見受けられる。

 

瞬間的ではあるが、断続的でもある不可思議な世界。これらの螺旋状の多次元的な構造を、アヴァンギャルド/ポスト・クラシカルという、このアーティストの長年の符牒を通して、リスナーにスライドショーのように提示していく。 Sylvain Chauveauの描出しようとする音響世界は、抽象的であり、それは時に、絵画芸術でいえば、シュルレアリスムに近い意義を有している。これらの表現は、さながら、シュルレアリスムのアンドレ・ブルトンの自動筆記による小説のように、即興の演奏を組み合わせたような趣がある。ひとつの側面から音楽をじっと見ると、その裏側にもそれとまったく異なる印象を持つ音楽が存在することを明示しており、したたかな経験を持つ音楽家だからこそ生み出し得る秀逸な表現をこのアルバムに見出すことができる。

 

2つのバージョン共に、オーケストラのバレエ音楽の組曲のような手法で書かれた作品であり、それは、現代的なバレエの振り付けの音楽のような意図が込められているように思える。そして、もうひとつ、指摘しておくべき点は、この作品に触れるにつけ、これまでとは異なる音楽の聴き方を発見できることでしょう。造形的なモダンアートや舞台芸術を音楽という切り口から解釈しているようにも感じられますが、これは、一見、奇をてらっているようにも思えて、よく聴くと、単なるスノビズムに堕しているわけではありません。それは、このフランス/ベルギーのアーティストが、現代社会というレンズを介し、何かを大衆に深く問いただしているようにも感じられるのです。


しかし、製作者として、問いこそ提示するが、答えは出さないという、きわめて曖昧な手法をシルヴァン・ショボーは選んでいるため、最後の答えはリスナーの手に委ねられる。そして、「リバウンド効果」という意味や正体はミステリアスな雰囲気に包まれたまま、 Sylvain Chauveauがこのアルバムで何を表現しようとしたのか、それは一聴しただけではわからないだろうと思われます。 


 

89/100

 

 

 

 

 

 

 

 

Sylvain Chauveau  Profile

 


 Sylvain Chauveauは、FatCat, Sub Rosa, Type, Les Disques du Soleil et de l'Acier, Brocoli などのレーベルからソロ作品を発表している。



フィリップ・グラス、マックス・リヒター、ギャビン・ブライヤーズ、坂本龍一&アルヴァ・ノト、ハウシュカなどとともに、コンピレーション『XVI Reflections on Classical Music』(デッカ/ユニバーサル)に作品が収録されている。



彼の音楽はBBCのジョン・ピールの番組で演奏され、The Wire, Pitchfork, Mojo, The Washington Post, Les Inrockuptibles, Libérationなどの雑誌で批評された。


ヨーロッパ、カナダ、アメリカ(ニューヨークのLe Poisson RougeとKnitting Factory、シアトルのDecibel festival、シカゴのThe Wire festival)、ロシア(モスクワ)、アジア(日本、台湾、シンガポール)でライブを行う。



彼は、2012年6月1日から2019年5月31日の間にインターネット上で配信された、ほとんど沈黙に満ちた「You Will Leave No Mark on the Winter Snow」というタイトルの7年間の作品を作曲しているほか、長編映画やダンスショーのサウンドトラックの制作を手掛ける。

シルヴァン・ショーヴォーは、アンサンブル0(ステファン・ガラン、ジョエル・メラらと共演)、アルカ(ジョアン・カンボンとの共演)の一員でもある。1971年、バイヨンヌ(フランス)生まれ、ブリュッセル(ベルギー)在住。


ロサンゼルスを拠点とするハープ奏者、メアリー・ラティモアはニューシングル「The Last Roses」をBandcamp限定で発表しました。「予測できるツアー後のカムダウン感と戦うために新しいものを作った」とInstagramに書いている。16分のトラックを以下で聴くことができます。


ラティモアは今年初め、ポール・スキーナとのコラボレーション・アルバム『West Kensington』をリリースしている。彼女はヨーロッパと北米でのツアーを終えたばかりです。



 

Nils Frahmが、アルバム『Music For Animals』のプレビュー第3弾として、27分に及ぶニューシングル 「Briefly」を配信で公開しました。


『Music For Animals』は、2019年の『All Encores』と2018年の『All Melody』以来となるフラームの全新曲によるレコードとなり、ベルリンの複合施設Funkhausにある彼のスタジオで過去2年間にわたりレコーディングされたものである。


フラームは今度のアルバムについて、「私の不変のインスピレーションは、素晴らしい滝や嵐の中の木の葉を見るような魅惑的なものだった。シンフォニーや音楽に展開があるのは良いことだが、滝には第1幕、第2幕、第3幕、そして結末は必要ないし、嵐の中の木の葉にも必要ない。葉っぱが揺れたり、枝が動いたりするのを見るのが好きな人たちもいる。このレコードはそんな人たちのためのものだ」


「私の考えでは、最近の多くの音楽はクリスマスツリーの飾りのように装飾されすぎている」とフラームは続けた。


「僕はただツリーが欲しい。なぜ、毎年ツリーの飾りが増えるのか、なぜ、曲がもう少しコンパクトで濃く、消化されないのかがよくわからない。これが、私には、ますます不自然に感じられる点です。私は、リスナーが自分の頭の中で作曲を始めるように、そこにあるはずのものがないことを示す方が良いと思う。リスナーが音楽の中に自分自身を見出すこと、それが私の音楽の核心的な要素です。このアルバムでは、特に大きな空間が残されていて、そこはきつすぎず、圧迫されていないんだ」


 


 

アイルランドの作曲家Paddy Mulcahy(パディー・マルケイ)が、新曲「Angel's Share」を公開しました。

 

この曲は、8月12日発売予定のアルバム『Angel's Share』のタイトルトラックとして公開された。モダンクラシックとエレクトロニックミュージックの境界線をさらに曖昧にするプロジェクトです。Nils Paddyの音楽には,、生来のアイルランドらしさがあり、個人的なメッセージも含まれています。

 

Paddy Mulcahyが最近父親を亡くした悲しみから生まれたこのアルバムは、「世界的な大流行の中でキャリアを積みながら、失った後の18ヶ月に対処し、正常な段階に戻ろうとする私の方法」を表しています。「Angel's Share」は、ケルトの華やかさ、(ドローン、ブリキの笛を思わせるメロディー)で縁取られ、Myles O'Callaghanのパーカッションで特徴づけられています。

 

この曲について、Paddy Mulcahyは次のようにコメントを添えています。「このフレーズはとても印象的です。私の文化や歴史、そして、父が持っていたレッドブレストウィスキーのボトルにちなんでいるんだ」

 




Paddy Mulcahy 『Angel’s Share』

 


Label :XXIM Records

Release :  2022年8月12日



Pre-save  Official:   

 

https://paddymulcahy.lnk.to/angelsshare 





 


 

ドイツのピアニスト、モダンクラシカルシーンで活躍するNils Frahmは、先月下旬ニューアルバム『Music For Animals』を9月23日に自身が主催するLeiter-Verlagからリリースすると発表しました。

 

今週終わりに、フラームは先だって公開されたシングル「Right Right Right」に続く2ndシングル「Lemon Day」を発表しています。このニューシングルはエレクトロニック寄りのアプローチが図られている。 

 

 

 

9月下旬に発売が予定されているオリジナル・アルバム『Music For Animals』は、エリック・サティが「家具の音楽」と呼んだように、リスナーが音の空間に自由に出入りできるように設計されています。ニルス・フラームはこの新作アルバムについて以下のように説明する。

 

「私が常にインスピレーションを受けていたのは、大きな滝や嵐の中の木の葉を見るような魅惑的なものだった。葉のざわめきや枝の動きをじっと見るのが好きな人もいる。このレコードは、そんな人たちのためのものなんだ」

 

 

 

Nils Frahm 「Music For Animals」



 

Label: Leiter-Verlag

Release: 2022年9月23日



Tracklist:

1. The Dog With 1000 Faces
2. Mussel Memory
3. Seagull Scene
4. Sheep In Black And White
5. Stepping Stone
6. Briefly
7. Right Right Right
8. World Of Squares
9. Lemon Day
10. Do Dream